(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6105239
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】ATS装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/40 20060101AFI20170316BHJP
B61L 23/14 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
B60L15/40 G
B61L23/14 Z
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-203575(P2012-203575)
(22)【出願日】2012年9月14日
(65)【公開番号】特開2014-60841(P2014-60841A)
(43)【公開日】2014年4月3日
【審査請求日】2015年6月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】590003825
【氏名又は名称】北海道旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】591146893
【氏名又は名称】九州旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100087505
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100078330
【弁理士】
【氏名又は名称】笹島 富二雄
(72)【発明者】
【氏名】和久津 拓也
(72)【発明者】
【氏名】新井 英樹
(72)【発明者】
【氏名】藤田 浩由
(72)【発明者】
【氏名】澤田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】会津 知晃
(72)【発明者】
【氏名】岩木 裕一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭介
【審査官】
笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−178667(JP,A)
【文献】
特開2010−264778(JP,A)
【文献】
特開2005−349945(JP,A)
【文献】
特開2007−068383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00− 3/12
B60L 7/00−13/00
B60L 15/00−15/42
B61L 23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上子からの情報を受信する車上子と、
前記地上子の設置位置データを有すると共に列車の走行位置を検出し、検出した列車位置と前記地上子の地上子設置位置データとに基づいて、信号現示情報送信用の地上子の設置位置通過時に地上子から情報が受信できないときに地上子未検出と判定し、該情報が受信できなかった地上子設置位置からその直後の信号機までの距離に応じて列車上限速度を示す頭打ちパターンを作成し、実際の列車速度が前記列車上限速度を越えたときブレーキ装置を動作させて列車速度を前記列車上限速度以下に制御する車上装置と、
を備えるATS装置。
【請求項2】
前記車上装置は、前記地上子の設置位置データを記録した車上データベースを備え、地上子の情報が受信できなかった地上子設置位置の通過後に、前記車上データベースに記録された次の地上子から情報を受信したとき、前記頭打ちパターンによる列車速度制御を解除する構成とした請求項1に記載のATS装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地上子から車上側に情報に与え、その情報に基づいて車上装置によりブレーキ装置を制御して列車速度を制限するようにしたATS装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道信号において、信号機が停止現示(赤信号)を示しているときにその信号機よりも先の区間に列車が進入すること(信号機冒進)を防ぐ目的で、ATS装置が実用化されている。ATS装置は、線路間に設置した地上子上を列車が通過するとき、車上子を介して地上子から信号機の現示情報を受信し、その受信情報が停止現示の場合、必要に応じて車上装置により警報の鳴動制御やブレーキ装置の制御を行うものである(例えば、特許文献1参照)。このようなATS装置では、例えば、地上子内のコイル断線、地上子の持ち去り、地上装置の制御回路故障等、何らかの理由により、地上側から車上側へ情報を送信できなくなった場合、車上装置による信号機冒進の防止制御ができなくなってしまう。
【0003】
かかる問題を解消するため、車上装置に、地上子の種別データ(信号現示情報送信用、曲線区間や分岐区間における速度制限情報送信用等)や設置位置データを記録した車上データベースを備え、自列車の走行位置と車上データベースの地上子データとから列車が地上子上を通過したことを検出し、通過時に地上子から情報が受信できないとき地上子未検出と判定し、未検出と判定した地上子が信号現示情報送信用の地上子の場合、信号機の現示内容が車上側では不明であるため、ブレーキ装置を動作させ列車を強制的に停止させて信号機冒進を防ぐことが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−312475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、地上子未検出時にブレーキ装置を動作させて列車を停止させることは、信号機冒進を防ぐには有効であるが、地上子未検出の原因が地上側にある場合、地上子未検出地点を通過するすべての列車でブレーキ装置が動作することになり、乗客に対して不快感を与えると共に列車の運行面で問題がある。このため、列車運行センターから後続の列車に対して地上子未検出情報を通知し、通知を受けた後続列車はその地上子未検出地点手前で列車を一旦停止し、例えば車上装置の電源を切ってブレーキ装置を動作させない扱いにすることが考えられるが、車上装置の電源を切った場合、自列車の走行位置情報やそれまで記録保持していた情報がすべて消去されてしまうため、それ以降、車上データベースを利用した制御ができなくなってしまうという問題が生じる。また、すべての列車に対して一旦停止してブレーキ装置を動作させない扱いとすることは、車上装置の電源を切らずにブレーキ装置を動作させる場合と同様に列車の運行面で問題がある。
【0006】
本発明は上記問題点に着目してなされたもので、車上データベースの利用による信号機冒進の防止機能を維持して安全性を確保すると共に、列車の運行面の問題も解決できるATS装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため、本発明は、
地上子からの情報を受信する車上子と、前記地上子の設置位置データを有すると共に列車の走行位置を検出し、検出した列車位置と前記
地上子の地上子設置位置データとに基づいて、信
号現示情報
送信用の地上子の設置位置通過時に地上子から情報が受信できないときに地上子未検出と判定し、
該情報が受信できなかった地上子設置位置からその直後の信号機までの距離に応じて列車上限速度を示す頭打ちパターンを作成し、実際の列車速度が前
記列車上限速度を越えたと
きブレーキ装置を動作させて列車速度を前記列車上限速度以下に制御する
車上装置と、を備えることを特徴とする。
【0008】
かかる構成では、
車上装置は、地上子の設置位置データを有すると共に列車走行中の自列車の位置
を検出する。
そして、車上装置は、
検出した自列車位置情報
と地上子設置位置データとから列車が信
号現示情報送信用
の地上子の設置位置を通過したことを認識し、通過時に地上子から情報が受信できなければ地上子未検出と判定し、
該情報が受信できなかった地上子設置位置からその直後の信号機までの距離に応じて列車上限速度を示す頭打ちパターンを作成し、実際の列車速度と頭打ちパターンの列車上限速度を比較して実際の列車速度が頭打ちパターンの列車上限速度を越えたときはブレーキ装置を動作させて列車速度を列車上限速度以下に制御する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のATS装置によれば、地上子設置位置を通過したにも拘わらず地上子から情報が受信できなかったときに、
情報が受信できなかった地上子設置位置からその直後の信号機までの距離に応じて作成する頭打ちパターンで示す上限速度以下に列車速度を制限するので、列車を一旦停止させる方式に比べて列車運行の遅れを抑制できる。また、車上装置の電源を切らずに車上
のデータベースを利用した制御を継続できるので、信号機冒進の防止機能を維持して安全性も確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係るATS装置の一実施形態を示す概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に、本発明に係るATS装置の一実施形態の概略構成を示す。
図1において、地上側の線路1間には、線路1を走行する列車10に対して、信号機の現示情報や曲線区間や分岐区間における制限速度情報等を送信するための地上子2が設置されている。
【0012】
一方、列車10には、その先端部下方に地上子2からの情報を受信する車上子11と、この車上子11を介して地上子2からの情報を入力する車上装置12とが設けられている。
【0013】
前記車上装置12は、線路1に沿って設置される全ての地上子2の設置位置データ及び各地上子2の種別データ(信号現示情報送信用や速度制限情報送信用等)を記録した車上データベース13と、制御部14とを備えている。
前記制御部14は、例えば車軸に取付けた速度発電機15のパルス出力に基づいて自列車10の走行位置及び列車速度を演算する機能を備える。更に、制御部14は、演算した自列車10の走行位置と車上データベース13の地上子設置位置データとに基づいて地上子設置位置を通過したか否かを判定し、地上子設置位置を通過した時に地上子2から情報が受信できない場合に地上子未検出と判定し、車上データベース13の種別データからその地上子2が信号現示情報送信用であったときには、一定速度の列車上限速度を示す頭打ちパターンを作成し、速度発電機15のパルス出力から演算した実際の列車速度と作成した頭打ちパターンの列車上限速度とを比較し、実際の列車速度が頭打ちパターンの示す列車上限速度を越えたとき、ブレーキ装置16を動作させて列車速度を頭打ちパターンの列車上限速度以下に制御するブレーキ制御機能と、を備える。従って、制御部14が列車位置検出部とブレーキ制御部の機能を備える。
【0014】
次に、本実施形態のATS装置の動作を説明する。
列車10が始発駅(又は運転所)から出発する際に、ATS装置の電源が投入される。電源の投入により制御部14はATS制御動作を開始し、基準位置情報送信用の地上子上を通過すると、速度発電機15のパルス出力のカウントを開始し、基準位置からの走行距離の計測を開始し、次の基準位置情報を受信するまで走行距離を積算する。このように、基準位置からの走行距離を計測することにより、自列車10の位置が検出できる。
【0015】
制御部14は、検出した自列車の位置と車上データベース13に格納されている地上子設置位置データとから、自列車10が地上子設置位置を通過したか否かを判定し、地上子設置位置を通過したにも拘わらず地上子2から情報を受信できない場合は、地上子未検出と判定する。
【0016】
制御部14は、地上子未検出と判定すると、車上データベース13に格納されているその地上子2の種別データから信号機3の現示情報送信用か否かを判定し、現示情報送信用である場合には、
図2に示すような速度一定の列車上限速度(例えば50km/h)を示す頭打ちパターンを作成する。そして、速度発電機15のパルス出力から演算した実際の列車速度と前記頭打ちパターンの示す列車上限速度とを比較し、
図2のように実際の列車速度が頭打ちパターンの示す列車上限速度を越えているときには、ブレーキ装置16により非常ブレーキを動作させて列車10を非常停止させる。頭打ちパターンの示す列車上限速度を、信号機3の手前で確実に停止できる速度に設定することで、信号機冒進を防止できるので、安全性を確保できる。
【0017】
地上子2からの情報が受信できなかった地上子設置位置を最初に検知した列車10側から、例えば列車運行センター等にその地上子設置位置情報を通知し、通知を受けた列車運行センター等から後続の列車に対してその情報を通達し、その地上子設置位置を頭打ちパターンの示す列車上限速度以下の速度で通過するよう指令する。こうすることにより、後続の列車を、停止させることなく
図3に示すように地上子2からの情報が受信できなかった地上子設置位置を頭打ちパターンの示す列車上限速度以下の速度で通過させることができる。
【0018】
これにより、全ての列車を一旦停止させずに済むので、列車の遅れを抑制でき、運行面で優れている。
また、後続列車においてブレーキ装置を動作させないために車上装置の電源を切るという操作をしなくて済むので、その後も車上データベースを利用した制御を継続でき、信号冒進の防止機能を維持して安全性も確保できる。
【0019】
頭打ちパターンによる制御は、その後の地上子設置位置、例えば次の地上子設置位置に設置されている地上子からの情報が受信できた時点で解除する。
また、頭打ちパターンが上記のように解除された場合は、列車運行センター等に通知し、通知を受けた列車運行センター等から後続の列車に対してその情報を通達してもよいし、後続の列車が当該地上子2を通過したときに、当該地上子2からの情報が受信できた時点で解除し、列車運行センター等に通知し、更に後続の列車に通達してもよい。
これにより、単発的な地上子未検出による頭打ちパターンの減速運転を適切に解除でき、列車の運行を阻害せずに済む。更に、後続の列車への影響も抑えることができる。
【0020】
また、頭打ちパターンを示す列車上限速度は、地上子設置位置から信号機までの距離に応じて適切に設定するとよい。即ち、信号機の手前で確実に停止できる速度以下であることを条件に、地上子設置位置から信号機までの距離が長ければ頭打ちパターンの示す列車上限速度を高く設定し、地上子設置位置から信号機までの距離が短ければ頭打ちパターンの示す列車上限速度を低く設定する。これにより、列車を必要以上に低速で走行させずに済み、より一層列車の運行を阻害せずに済む。
尚、制御部14が作成する頭打ちパターンは、2段階に分けて列車上限速度を下げる(例えば、50km/hから25km/h等)ようにしてもよい。これにより、列車を必要以上に低速で走行させずに済み、より一層列車の運行を阻害せずに済む。
【符号の説明】
【0021】
2 地上子
3 信号機
10 列車
11 車上子
12 車上装置
13 車上データベース
14 制御部
15 速度発電機
16 ブレーキ装置