(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6105249
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】建物の設計方法および建物
(51)【国際特許分類】
E04H 1/02 20060101AFI20170316BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
E04H1/02
E04B1/94 A
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-226015(P2012-226015)
(22)【出願日】2012年10月11日
(65)【公開番号】特開2014-77304(P2014-77304A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2015年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】303046244
【氏名又は名称】旭化成ホームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100133307
【弁理士】
【氏名又は名称】西本 博之
(74)【代理人】
【識別番号】100176245
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】工藤 智勇
【審査官】
新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−291501(JP,A)
【文献】
特開2011−111850(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3075538(JP,U)
【文献】
特許第4830692(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/94
E04B 1/00
E06B 5/16
E04D 13/00 − 13/18
G06F 17/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
敷地境界線に近接する側壁と、前記側壁から前記敷地境界線とは反対側に延在し、開口部を有する正面壁と、前記側壁に連続するように前記正面壁から突設された袖壁と、を備えた建物の設計方法であって、
前記袖壁の先端部に所定長さの線分が接した状態を保ちながら、前記線分の一端を前記敷地境界線上で移動させた際の前記線分の移動領域に前記開口部が重ならないように、前記開口部を設けることを特徴とする、建物の設計方法。
【請求項2】
前記袖壁の先端部に所定長さの線分が接した状態を保ちながら、前記線分の一端を前記敷地境界線上で移動させた際の前記線分の移動領域には、防火性の高い別の開口部を設ける、請求項1に記載の建物の設計方法。
【請求項3】
敷地境界線に近接する側壁と、前記側壁から前記敷地境界線とは反対側に延在し、開口部を有する正面壁と、前記側壁に連続するように前記正面壁から突設された袖壁と、を備えた建物の設計方法であって、
前記袖壁の先端部に所定長さの線分が接した状態を保ちながら、前記線分の一端を前記敷地境界線上で移動させた際の前記線分の移動領域に前記正面壁が重ならないように、前記袖壁の突設寸法を設定することを特徴とする、建物の設計方法。
【請求項4】
前記建物は、前記正面壁の上端から突設されて前記袖壁の上端に連続する庇を更に備えており、
前記庇の先端部に前記線分が接した状態を保ちながら、前記線分の一端を敷地境界線上で移動させた際の前記線分の移動領域に前記正面壁が重ならないように、前記庇の突設寸法を設定する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の建物の設計方法。
【請求項5】
前記建物は、前記正面壁の上端から突設されて前記袖壁の上端に連続する庇を更に備えており、
前記庇の先端部に前記線分が接した状態を保ちながら、前記線分の一端を敷地境界線上で移動させた際の前記線分の移動領域に前記開口部が重ならないように、前記庇の突設寸法を設定する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の建物の設計方法。
【請求項6】
敷地境界線に近接する側壁と、前記側壁から前記敷地境界線とは反対側に延在し、開口部を有する正面壁と、前記側壁に連続するように前記正面壁から突設された袖壁と、を備えた建物であって、
前記袖壁の先端部に所定長さの線分が接した状態を保ちながら、前記線分の一端を前記敷地境界線上で移動させた際の前記線分の移動領域に前記開口部が重ならないように、前記開口部が設けられたことを特徴とする、建物。
【請求項7】
前記袖壁の先端部に所定長さの線分が接した状態を保ちながら、前記線分の一端を前記敷地境界線上で移動させた際の前記線分の移動領域には、防火性の高い別の開口部が設けられた、請求項6に記載の建物。
【請求項8】
敷地境界線に近接する側壁と、前記側壁から前記敷地境界線とは反対側に延在し、開口部を有する正面壁と、前記側壁に連続するように前記正面壁から突設された袖壁と、を備えた建物であって、
前記袖壁の先端部に所定長さの線分が接した状態を保ちながら、前記線分の一端を前記敷地境界線上で移動させた際の前記線分の移動領域に前記正面壁が重ならないように、前記袖壁の突設寸法が設定されたことを特徴とする、建物。
【請求項9】
前記正面壁の上端から突設されて前記袖壁の上端に連続する庇を更に備え、
前記庇の先端部に前記線分が接した状態を保ちながら、前記線分の一端を敷地境界線上で移動させた際の前記線分の移動領域に前記正面壁が重ならないように、前記庇の突設寸法が設定された、請求項6〜8のいずれか一項に記載の建物。
【請求項10】
前記正面壁の上端から突設されて前記袖壁の上端に連続する庇を更に備え、
前記庇の先端部に前記線分が接した状態を保ちながら、前記線分の一端を敷地境界線上で移動させた際の前記線分の移動領域に前記開口部が重ならないように、前記庇の突設寸法が設定された、請求項6〜8のいずれか一項に記載の建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、袖壁を有する建物の設計方法および袖壁を有する建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、防火(類焼防止)の目的で、外方に向けて突出する袖壁を外壁に設けた建物が知られている。袖壁を設けることで、火炎が袖壁を越えて広がることが抑制される。このような、袖壁が設けられた建物として、たとえば特許文献1に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−291501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の建物によれば、袖壁を挟んで隣接する建物からの火炎に対し、類焼を抑制できる等の効果を有する。しかしながら、外壁に設けられる開口部の位置や袖壁の突設寸法に関して、充分な検討はなされていない。そのため、設計の指針となるものがなく、防火安全性の高い建物を簡易に設計することは困難であった。
【0005】
本発明は、防火安全性の高い建物を簡易に設計することができる建物の設計方法およびその設計方法によって設計された建物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の建物の設計方法は、敷地境界線に近接する側壁と、側壁から敷地境界線とは反対側に延在し、開口部を有する正面壁と、側壁に連続するように正面壁から突設された袖壁と、を備えた建物の設計方法であって、袖壁の先端部に所定長さの線分が接した状態を保ちながら、線分の一端を敷地境界線上で移動させた際の線分の移動領域に開口部が重ならないように、開口部を設けることを特徴とする。
【0007】
この建物の設計方法によれば、袖壁の先端部に所定長さの線分が接した状態を保ちながら、線分の一端が敷地境界線上で移動させられる。この際の線分の移動領域に開口部が重ならないように、開口部が設けられることにより、建物の防火安全性が確保される。このように、所定長さの線分の移動領域を用いて開口部の位置を決めるため、防火安全性の高い建物を簡易に設計することができる。
【0008】
また、上記設計方法において、袖壁の先端部に所定長さの線分が接した状態を保ちながら、線分の一端を敷地境界線上で移動させた際の線分の移動領域には、防火性の高い開口部を設ける。この設計方法によれば、所定長さの線分の移動領域には防火性の高い開口部が設けられるため、開口部が設けられる位置に応じて、開口部における防火性を簡易に設計することができる。
【0009】
本発明の建物の設計方法は、敷地境界線に近接する側壁と、側壁から敷地境界線とは反対側に延在し、開口部を有する正面壁と、側壁に連続するように正面壁から突設された袖壁と、を備えた建物の設計方法であって、袖壁の先端部に所定長さの線分が接した状態を保ちながら、線分の一端を敷地境界線上で移動させた際の線分の移動領域に正面壁が重ならないように、袖壁の突設寸法を設定することを特徴とする。
【0010】
この建物の設計方法によれば、袖壁の先端部に所定長さの線分が接した状態を保ちながら、線分の一端が敷地境界線上で移動させられる。この際の線分の移動領域に正面壁が重ならないように、袖壁の突設寸法が設定される。これにより、袖壁に対して正面壁の位置が待避させられ、建物の防火安全性が確保される。このように、所定長さの線分の移動領域を用いて袖壁の突設寸法が設定されるため、防火安全性の高い建物を簡易に設計することができる。
【0011】
建物は、正面壁の上端から突設されて袖壁の上端に連続する庇を更に備えており、庇の先端部に線分が接した状態を保ちながら、線分の一端を敷地境界線上で移動させた際の線分の移動領域に正面壁が重ならないように、庇の突設寸法を設定する。この設計方法によれば、庇により防火安全性が向上された建物を簡易に設計することができる。
【0012】
建物は、正面壁の上端から突設されて袖壁の上端に連続する庇を更に備えており、庇の先端部に線分が接した状態を保ちながら、線分の一端を敷地境界線上で移動させた際の線分の移動領域に開口部が重ならないように、庇の突設寸法を設定する。この設計方法によれば、庇により防火安全性が向上された建物を簡易に設計することができる。
【0013】
上記のいずれかの設計方法によって設計された本発明の建物によれば、防火安全性の高い建物を提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、防火安全性の高い建物を簡易に設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る建物を示す斜視図である。
【
図2】敷地境界線を基準とした開口部の位置の設計方法を示す平断面図である。
【
図3】敷地境界線を基準とした袖壁の突設寸法の設計方法を示す平断面図である。
【
図4】3階庇および3階正面壁の設計方法等を示す斜視図である。
【
図5】3階第1袖壁、3階第2袖壁、および3階正面壁の設計方法を示す平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
以下の説明では、建物1の一方側(隣地Y側)に袖壁が設けられる場合について主に説明する。すなわち、
図1に示される1階,3階の外壁および/または開口部の構成について主に説明する。建物1の他方側(隣地Z側)に袖壁が設けられる場合、すなわち
図1に示される2階の外壁および/または開口部の構成も、1階,3階と同様の設計方法によって設計され得る。
【0018】
図1に示されるように、建物1は、敷地Xに建てられた3階建ての建物である。建物1の各階の外周壁は、それぞれ、平面視で略矩形状に形成されている。建物1の各階の外周壁の外面は、たとえば、ALC(軽量気泡コンクリート)等の防火性能を有する部材によって構成される。敷地Xは、道路Rに隣接している。なお、道路R側から建物1を見て、敷地Xの左側に隣地Yが隣接している。隣地Yにも図示しない建物が建てられている。敷地Xと隣地Yの間には、たとえば直線状の敷地境界線Bが延在する。建物1において、道路Rに面する側を建物1の正面とする。
【0019】
図1に示されるように、建物1の1階の1階外周壁10は、隣地Y側且つ道路R側の隅角部が室内側に向けて矩形状に窪んでいる。1階外周壁10は、1階側壁11、1階後退正面壁(正面壁)12、1階後退側壁13、1階正面壁14、および、1階側壁18を含んで構成される。
【0020】
1階側壁11は、隣地Y側に位置し、敷地境界線Bに近接している。1階後退正面壁12は、1階側壁11から敷地境界線Bとは反対側に延在する。1階後退正面壁12は、一端が1階側壁11の一端(道路R側の端部)に接続される。1階後退正面壁12は、1階側壁11に対し平面視で90度の角度で傾斜する。1階後退側壁13は、一端が1階後退正面壁12の他端に接続される。1階後退側壁13は、1階後退正面壁12に対し平面視で90度の角度で傾斜する。
【0021】
1階正面壁14は、一端が1階後退側壁13の他端(道路R側の端部)に接続される。1階正面壁14は、1階後退側壁13に対し平面視で90度の角度で傾斜する。1階側壁11、1階後退正面壁12、1階後退側壁13、および、1階正面壁14により、平面視で略W字状の壁面が形成される。1階側壁18は、1階側壁11と平行に配置され、一端が1階正面壁14の他端に接続される。
【0022】
1階側壁11における道路R側の端部には、道路R側に向けて突出する1階袖壁11aが設けられる。即ち、1階袖壁11aは、平面視で1階側壁11の延在方向に沿って突設され、1階側壁11と1階袖壁11aとは、互いに一直線状に設けられる。さらに言い換えれば、1階袖壁11aは、1階側壁11に連続するようにして、1階後退正面壁12から突設されている。
【0023】
1階後退正面壁12の全面または一部には、建物1に出入りするための玄関(開口部)が設けられる。
【0024】
1階外周壁10の上部には、1階後退正面壁12の上端から道路R側に向かって突出する1階庇15が設けられる。1階庇15は、2階の床や、2階ベランダ26の床によって構成される。1階庇15の軒裏は、防火性能を有する板材により軒天井が形成されている。1階庇15は、1階後退正面壁12の上端から、1階袖壁11aの道路R側の端部の位置まで突出している。1階庇15の隣地Y側の端部は、1階袖壁11aの上端に連続している。
【0025】
建物1の3階の3階外周壁30は、隣地Y側且つ道路R側の隅角部が室内側に向けて矩形状に窪んでいる。3階外周壁30は、3階側壁31、3階後退正面壁(正面壁)32、3階後退側壁33、3階正面壁34、および、3階側壁38を含んで構成される。
【0026】
3階側壁31は、隣地Y側に位置し、敷地境界線Bに近接している。3階後退正面壁32は、3階側壁31から敷地境界線Bとは反対側に延在する。3階後退正面壁32は、一端が3階側壁31の一端(道路R側の端部)に接続される。3階後退正面壁32は、3階側壁31に対し平面視で90度の角度で傾斜する。3階後退側壁33は、一端が3階後退正面壁32の他端に接続される。3階後退側壁33は、3階後退正面壁32に対し平面視で90度の角度で傾斜する。
【0027】
3階正面壁34は、一端が3階後退側壁33の他端(道路R側の端部)に接続される。3階正面壁34は、3階後退側壁33に対し平面視で90度の角度で傾斜する。3階側壁31、3階後退正面壁32、3階後退側壁33、および、3階正面壁34により、平面視で略W字状の壁面が形成される。3階側壁38は、3階側壁31と平行に配置され、一端が1階正面壁34の他端に接続される。
【0028】
3階側壁31における道路R側の端部には、道路R側に向けて突出する3階第一袖壁31aが設けられる。即ち、3階第一袖壁31aは、平面視で3階側壁31の延在方向に沿って突設され、3階側壁31と3階第一袖壁31aとは、互いに一直線状に設けられる。さらに言い換えれば、3階第一袖壁31aは、3階側壁31に連続するようにして、3階後退正面壁32から突設されている。
【0029】
3階正面壁34における隣地Y側の端部には、隣地Y側に向けて突出する3階第二袖壁34aが設けられる。即ち、3階第二袖壁34aは、平面視で3階正面壁34の延在方向に沿って突設され、3階正面壁34と3階第二袖壁34aとは、互いに一直線状に設けられる。さらに言い換えれば、3階第二袖壁34aは、3階正面壁34に連続するようにして、3階後退側壁33から突設されている。
【0030】
3階第一袖壁31a、3階後退正面壁32、3階後退側壁33、および、3階第二袖壁34aで囲まれる領域には、3階ベランダ36が形成される。3階ベランダ36の床は、2階の天井、および、2階庇25によって構成される。
【0031】
3階後退正面壁32および3階後退側壁33の全面または一部には、3階ベランダ36へ出入りするための扉や、採光のための窓等の開口部が設けられる。3階第一袖壁31aの道路R側の端部と、3階第二袖壁34aとの間には、手すり(図示せず)が設けられる。
【0032】
3階ベランダ36の上部の一部を覆うように、3階後退正面壁32から道路R側に向かって突出する3階庇35が設けられる。3階庇35は、3階後退正面壁32から3階後退側壁33に亘って設けられている。3階庇35の軒裏は、防火性能を有する板材により軒天井が形成されている。3階庇35は、3階後退正面壁32から、3階第一袖壁31aの道路R側への突出寸法の半分程度の位置まで突出している。3階庇35の道路R側の端部は、3階第二袖壁34aの上端に連続している。3階庇35の隣地Y側の端部は、3階第一袖壁31aの上端に連続している。3階庇35の隣地Z側の端部は、3階後退正面壁32の上端に連続している。また、3階庇35は、3階の屋根(建物1の屋根)37に連続している。
【0033】
次に、建物1の3階を例として、3階後退正面壁32と、隣地Yとの位置関係と設計方法について説明する。ここで、3階後退正面壁32に開口部を設ける場合には、隣地Yからの火炎を避けるため、3階後退正面壁32と、隣地Yとの直線距離が所定の距離以上離れていることが望ましい。また、3階後退正面壁32の開口部と隣地Yとの直線距離が所定の距離以内にある場合には、当該開口部は、たとえば防火戸を設ける等により防火性の高い開口部とすることが望ましい。これらのことは、たとえば、建築基準法等の法令においても規定されている。
【0034】
図2に示されるように、建物1の設計方法においては、3階第一袖壁31aの先端部(道路R側の先端部)31bに所定長さの線分L1が接した状態を保ちながら、線分L1の一端を敷地境界線B上で移動させた際の線分L1の移動領域A1に開口部が重ならないように、開口部を設ける。すなわち、3階後退正面壁32において、開口部を設けることのできる領域は、線分L1の他端により形成される曲線状の軌跡と、3階後退正面壁32の外表面32aとの交点P1,P2を基準として決定することができる。3階後退正面壁32において、交点P1,P2を基準として線分L1の移動領域A1外の領域Aa,Abに、開口部を設けることができる。このように、3階後退正面壁32に関しては、平面上において線分L1を移動させることにより、平面的な移動領域A1を生成する。
【0035】
この場合、開口部の防火性は高くてもよく、低くてもよい。
図2に示される例では、線分L1の長さを5mとしているが、この長さは、法令に準じて、また階層に応じて、適宜変更することができる。たとえば、階層が1階である場合には、線分L1の長さを3mとしてもよい。
【0036】
この建物1の設計方法によれば、3階第一袖壁31aの先端部31bに所定長さの線分L1が接した状態を保ちながら、線分L1の一端が敷地境界線B上で移動させられる。この際の線分L1の移動領域A1に開口部が重ならないように、領域Aa,Abに開口部が設けられることにより、建物1の防火安全性が確保される。このように、所定長さの線分L1の移動領域A1を用いて開口部の位置を決めるため、防火安全性の高い建物1を簡易に設計することができる。すなわち、防火安全性の高い建物1が提供される。
【0037】
また、3階後退正面壁32において、交点P1,P2を基準として線分L1の移動領域A1内の領域Acには、防火性の高い開口部を設けるようにしてもよい。この設計方法によれば、所定長さの線分L1の移動領域A1に重なる領域Acには、防火性の高い開口部が設けられる。このように、開口部が設けられる位置が線分L1の移動領域A1外であるか移動領域A1内であるかに応じて、開口部における防火性を簡易に設計することができる。
【0038】
また、上記した開口部位置を決める設計方法とは異なり、3階第一袖壁31aの突設寸法(あるいは、3階後退正面壁32の後退寸法)を決める方法を採用してもよい。すなわち、
図3に示されるように、線分L1の移動領域A1に3階後退正面壁32が重ならないように、3階第一袖壁31aの突設寸法を設定してもよい。すなわち、線分L1の他端により形成される曲線状の軌跡が、3階後退正面壁32の外表面32aと交差しないように、3階第一袖壁31aの突設寸法Laを設定することができる。言い換えれば、線分L1の他端により形成される曲線状の軌跡が、3階後退正面壁32の外表面32aと交差しないように、3階後退正面壁32を後退させることができる。
【0039】
この場合、開口部の防火性は高くてもよく、低くてもよい。
図2に示される例では、線分L1の長さを5mとしているが、この長さは、法令に準じて、また階層に応じて、適宜変更することができる。
【0040】
この建物1の設計方法によれば、3階第一袖壁31aの先端部31bに所定長さの線分L1が接した状態を保ちながら、線分L1の一端が敷地境界線B上で移動させられる。この際の線分A1の移動領域A1に3階後退正面壁32が重ならないように、3階第一袖壁31aの突設寸法Laが設定される。これにより、3階第一袖壁31aに対して3階後退正面壁32の位置が待避させられ、建物1の防火安全性が確保される。このように、所定長さの線分L1の移動領域A1を用いて3階第一袖壁31aの突設寸法Laが設定されるため、防火安全性の高い建物1を簡易に設計することができる。
【0041】
また、3階庇35に関しても、同様の設計方法を適用することができる。すなわち、
図4に示されるように、3階庇35の先端部に線分L2が接した状態を保ちながら、線分L2の一端を敷地境界線B上で移動させた際の線分L1の移動領域A2に3階後退正面壁32が重ならないように、3階庇35の突設寸法を設定する。この場合、敷地境界線Bを通る鉛直面Baを想定し、この鉛直面Ba上で線分L2の一端を移動させる。さらに、線分L2は、3階庇35の敷地境界線B側の上端縁を通る仮想直線L3を含む複数の仮想平面S上の線分とすることができる。このように、3階庇35に関しては、線分L2を立体的に(線分L2の一端の高さを変えて)移動させることにより、立体的な移動領域A2を生成する。この設計方法によれば、3階庇35により防火安全性が向上された建物を簡易に設計することができる。
【0042】
また、3階後退正面壁32に開口部を設ける場合には、線分L1の移動領域A2に開口部が重ならないように、3階庇35の突設寸法を設定してもよい。この設計方法によれば、庇により防火安全性が向上された建物を簡易に設計することができる。
【0043】
次に、建物1の3階を例として、3階後退正面壁32および3階後退側壁33と、隣地Yおよび道路Rとの位置関係について説明する。ここで、3階後退正面壁32や3階後退側壁33に開口部を設ける場合には、隣地Yや道路Rからの火炎を避けるため、3階後退正面壁32および3階後退側壁33と、隣地Yおよび道路Rとの直線距離が所定の距離以上離れていることが望ましい。これは、例えば、建築基準法等の法令においても規定されている。
【0044】
建物1では、隣地Yからの直線距離が5m以内の位置に3階後退正面壁32および3階後退側壁33が存在しないように、および、道路Rの道路中心線R1からの直線距離が5m以内の位置に3階後退正面壁32および3階後退側壁33が存在しないように設計されている。
【0045】
図5に示すように、3階後退側壁33を、隣地Yとの距離が5m以上となる位置に設ける。3階後退正面壁32を、道路中心線R1からの距離が5m以上となる位置に設ける。
【0046】
また、3階第一袖壁31aの先端部に所定長さの線分L4が接した状態を保ちながら、線分L4の一端を敷地境界線B上で移動させた際の線分L4の移動領域に3階後退側壁33が重ならないように、3階第一袖壁31aにおける、3階側壁31から道路R側への突出寸法Laを設定する。直線L4と3階後退側壁33とが重ならない場合には、3階後退側壁33と隣地Yとが直線距離で5m以上離間されている。
【0047】
同様に、3階第二袖壁34aの先端部に所定長さの線分L5が接した状態を保ちながら、線分L5の一端を道路中心線R1上で移動させた際の線分L5の移動領域に3階後退側壁33が重ならないように、3階第二袖壁34aにおける、3階正面壁34から隣地Y側への突出寸法を設定する。直線L5と3階後退側壁33とが重ならない場合には、3階後退側壁33と道路中心線R1とが直線距離で5m以上離間されている。
【0048】
なお、1階または2階についても、3階の考え方と同様に、離間させたい隣地Y,Zとの距離や道路中心線R1との距離に基づいて、1階後退正面壁12、1階後退側壁13、2階後退正面壁22、2階後退側壁23(
図4参照)の配置位置を設定すると共に、1階第一袖壁11aおよび2階第二袖壁24aの突出寸法を設定する。
【0049】
また、1階においても、離間させたい1階後退側壁13と道路中心線R1との距離に応じて、3階の3階第二袖壁34a等と同様に、1階正面壁14の隣地Y側の端部から隣地Y側へ向けて突設された袖壁を設けることができる。
【0050】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。建物1の構造は、鉄骨造や木造など、適宜の構造を適用することができる。建物1の各階の内部の構造については、適宜の間取りを適用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1…建物、11…1階側壁、11a…1階袖壁、12…1階後退正面壁(正面壁)、15…1階庇、31…3階側壁、31a…3階第一袖壁、32…3階後退正面壁(正面壁)、35…3階庇、B…敷地境界線、L1…線分。