特許第6105267号(P6105267)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6105267
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】黒色粉体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/18 20060101AFI20170316BHJP
   G02F 1/1339 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
   C01B33/18 C
   G02F1/1339 500
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-268389(P2012-268389)
(22)【出願日】2012年12月7日
(65)【公開番号】特開2014-115399(P2014-115399A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2015年9月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000120010
【氏名又は名称】宇部エクシモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】三好 英範
(72)【発明者】
【氏名】小池 匡
(72)【発明者】
【氏名】仲山 典宏
【審査官】 佐藤 哲
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−049953(JP,A)
【文献】 特開平07−172813(JP,A)
【文献】 特開2001−229733(JP,A)
【文献】 特開2004−070101(JP,A)
【文献】 特開2010−225494(JP,A)
【文献】 米国特許第06013369(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 − 33/193
G02F 1/1339
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルガノポリシロキサンとビニル系重合体とを複合した複合粒子の粉体から得られる黒色粉体の製造方法であって、
前記オルガノポリシロキサンは、下記一般式(1):
Si(OR ・・・(1)
(一般式(1)中、Rは非加水分解性基であって、炭素数1〜20のアルキル基、(メタ)アクリロイルオキシ基若しくはエポキシ基を有する炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基、又は、炭素数7〜20のアラルキル基を示し、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示し、各ORは互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で示されるトリアルコキシシランから得られる縮合物を含み、
前記ビニル系重合体は、ニトリル基を有するビニル系重合体を含み、
前記黒色粉体を構成する黒色粒子は、前記複合粒子中の有機成分を炭化させることで生成した炭素を着色物質として含んでなり、
XYZ表色系におけるY値が6%以下であるとともに、
10%K値が2000〜25000N/mmであり、
前記製造方法は、前記トリアルコキシシランから得られる縮合物を含む粒子にニトリル基を有するビニル系単量体を吸収させた後に前記単量体を重合することにより前記複合粒子を形成する複合工程と、
前記複合粒子中の有機成分を炭化させる炭化工程とを有することを特徴とする黒色粉体の製造方法
【請求項2】
前記ニトリル基を有するビニル系重合体は、アクリロニトリルを構成単位として含むビニル系重合体を含み、
前記黒色粒子は、前記トリアルコキシシランに対するアクリロニトリルの質量比が0.1〜2の範囲とされた複合粒子から得られる請求項1に記載の黒色粉体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色粉体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、液晶表示装置のスペーサとして黒色粒子が用いられる(特許文献1,2参照)。特許文献1には、金属アルコキシド分解生成物により粒子成長して得られた粒子を熱処理することにより得られる黒色系粒子が開示されている。特許文献2には、シリカ粒子にフッ素化剤及び有機溶媒を接触した後に加熱して得られる黒色シリカ粒子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平07−82172号公報
【特許文献2】特開平03−279209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、液晶表示装置等の表示装置が狭額縁化されることで、バックライトから照射される光が額縁内のシール部分を通じて前面側に漏れ易くなる。表示装置の狭額縁化は、更に進展することが予測されるため、シール部分にスペーサとして用いられる粒子に対しても、光の漏れを抑制すべく、黒色度の優れるものが求められることになる。一方、例えば、額縁内のシール部分に用いられるスペーサとしての機能を発揮させつつ、シール部分に形成される配線を保護するという観点から、黒色粒子は適度な柔軟性を有することが好ましいと言える。
【0005】
本発明の目的は、黒色度と適度な柔軟性を発揮させることの容易な黒色粉体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する黒色粉体の製造方法は、オルガノポリシロキサンとビニル系重合体とを複合した複合粒子の粉体から得られる黒色粉体の製造方法であって、前記オルガノポリシロキサンは、下記一般式(1):
Si(OR ・・・(1)
(一般式(1)中、Rは非加水分解性基であって、炭素数1〜20のアルキル基、(メタ)アクリロイルオキシ基若しくはエポキシ基を有する炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基、又は、炭素数7〜20のアラルキル基を示し、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示し、各ORは互いに同一であっても異なっていてもよい。)で示されるトリアルコキシシランから得られる縮合物を含み、前記ビニル系重合体は、ニトリル基を有するビニル系重合体を含み、前記黒色粉体を構成する黒色粒子は、前記複合粒子中の有機成分を炭化させることで生成した炭素を着色物質として含んでなり、XYZ表色系におけるY値が6%以下であるとともに、10%K値が2000〜25000N/mmであり、前記製造方法は、前記トリアルコキシシランから得られる縮合物を含む粒子にニトリル基を有するビニル系単量体を吸収させた後に前記単量体を重合することにより前記複合粒子を形成する複合工程と、前記複合粒子中の有機成分を炭化させる炭化工程とを有する
【0007】
上記黒色粉体の製造方法において、前記ニトリル基を有するビニル系重合体は、アクリロニトリルを構成単位として含むビニル系重合体を含み、前記黒色粒子は、前記トリアルコキシシランに対するアクリロニトリルの質量比が0.1〜2の範囲とされた複合粒子から得られることが好ましい。ここで、前記質量比は、黒色粉体の原料として用いるトリアルコキシシラン及びアクリロニトリルの各質量部から求められる値である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、黒色度と適度な柔軟性を発揮させることが容易となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、黒色粉体及びその製造方法の実施形態について説明する。
<黒色粉体>
黒色粉体は、オルガノポリシロキサンとビニル系重合体とを複合した複合粒子の粉体から得られる。オルガノポリシロキサンは、下記一般式(1)で示されるトリアルコキシシランから得られる縮合物を含む。
【0011】
Si(OR ・・・(1)
一般式(1)中、Rは非加水分解性基であって、炭素数1〜20のアルキル基、(メタ)アクリロイルオキシ基若しくはエポキシ基を有する炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基、又は、炭素数7〜20のアラルキル基を示し、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示し、各ORは互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0012】
一般式(1)で示されるトリアルコキシシランとしては、例えばメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、及びγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
【0013】
一般式(1)で示されるトリアルコキシシランは、一種又は二種以上を用いることができる。
オルガノポリシロキサンは、ジアルコキシシラン及びモノアルコキシシランから選ばれる少なくとも一種のオルガノアルコキシシランから得られる縮合物を含んでいてもよい。
【0014】
ビニル系重合体は、ニトリル基を有するビニル系重合体を含む。ニトリル基を有するビニル系重合体は、構成単位としてアクリロニトリル及びメタクリロニトリルの少なくとも一方を含むものが挙げられる。ニトリル基を有するビニル系重合体の構成単位は、例えば、アクリル酸メチル、酢酸ビニル、及びメタクリル酸メチル等を含んでもよい。
【0015】
ニトリル基を有するビニル系重合体は、アクリロニトリルを構成単位として含むビニル系重合体を含むことが好ましく、アクリロニトリルが50モル%以上含まれることがより好ましい。
【0016】
黒色粉体を構成する黒色粒子は、トリアルコキシシランに対するアクリロニトリルの質量比が0.1〜2の範囲とされた複合粒子から得られることが好ましい。トリアルコキシシランに対するアクリロニトリルの質量比が0.1以上の場合、黒色度がより高まり易くなり、また、黒色粒子の硬さの制御が容易となる。トリアルコキシシランに対するアクリロニトリルの質量比が2以下の場合、黒色粒子の凝集が抑制され易くなり、また、黒色粒子の絶縁性が高まり易くなる。
【0017】
黒色粒子は、複合粒子中の有機成分を炭化させることで生成した炭素を着色物質として含む。有機成分は、上記一般式(1)のRと、上記のビニル系重合体とを含む。有機成分の炭化は、複合粒子の粉体を加熱することで行われる。
【0018】
黒色粉体のXYZ表色系におけるY値は6%以下であるとともに、10%K値は2000〜25000N/mmである。XYZ表色系におけるY値は、JIS Z8701:1999に準拠して測定される値である。Y値は、黒色度をより発揮させるという観点から3%以下であることが好ましい。
【0019】
黒色粉体の黒色度は、例えば透過型顕微鏡で拡大した黒色粉体の輝度によっても評価することが可能である。この評価では、透過型顕微鏡で拡大した黒色粉体の画像をCCDイメージセンサ等の撮像素子を用いて記憶装置に取り込んだ後、画像解析ソフトを用いて黒色粒子と背景とのコントラスト比を算出する。そして、異なる構成の黒色粒子についてコントラスト比を比較することで黒色度を評価することができる。コントラスト比は、黒色粒子の輝度をL1とし、背景の輝度L2としたとき、L1/L2で示される。
【0020】
黒色粒子のコントラスト比は、遮光性をより発揮させるという観点から、0.5以下であることが好ましい。
10%K値は、微小圧縮試験機を用いて、圧縮速度0.029g/秒、最大荷重10gの条件下で圧縮した場合の変位[mm]を測定し、下記関係式によって求められる。
【0021】
10%K値[N/mm]=(3/21/2)×F×S−3/2×R−1/2
上記関係式中のFは、黒色粉体の10%圧縮変形における荷重[N]であり、Sは黒色粉体の10%圧縮変形における変位[mm]であり、Rは黒色粒子の半径[mm]である。
【0022】
黒色粉体の平均粒子径は、好ましくは1〜100μmであり、更に好ましくは1〜20μmである。黒色粉体の粒径分布は、下記CV値(変動係数)により示される。
CV値(%)={粒子径の標準偏差[μm]/平均粒子径[μm]}×100
黒色粉体のCV値は、好ましくは5%以下である。
【0023】
黒色粉体は、例えば、液晶表示装置スペーサ、EL表示装置スペーサ、タッチパネル用スペーサ、各種基板の基板間の距離を均一に保持するためのスペーサ等のスペーサとして好適である。黒色粉体は、例えば、導電性粒子のコア材、コーティング膜用の添加剤、光拡散フィルム用の添加剤、凹凸付与剤、化粧品用の添加剤、塗料又はインク用の添加剤、接着剤用の添加剤、及び各種充填剤として用いることもできる。
【0024】
<黒色粉体の製造方法>
次に、黒色粉体の製造方法について説明する。黒色粉体の製造方法は、複合工程と炭化工程とを含む。複合工程では、トリアルコキシシランの縮合物を含む粒子にニトリル基を有するビニル系単量体を吸収させる。更に複合工程では、ニトリル基を有するビニル系単量体を重合させることで、複合粒子を形成する。
【0025】
トリアルコキシシランの縮合物を含む粒子は、シード粒子形成工程及び成長粒子形成工程を通じて得られる。
(シード粒子形成工程)
シード粒子形成工程では、少なくともトリアルコキシシランを含むオルガノアルコキシシランを水性溶媒に溶解した溶液に、触媒を添加することでオルガノアルコキシシランを加水分解及び縮合させる。これにより、トリアルコキシシランの縮合物を含むシード粒子が形成される。なお、シード粒子形成工程では、シード粒子が液滴として水性分散媒に分散したシード粒子水性分散媒が得られる。
【0026】
水性溶媒としては、水と水混和性有機溶剤との混合溶媒、又は水が挙げられる。水混和性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコール類、アセトン、ジメチルケトン、メチルエチルケトン等のケトン類、及び、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル等のエーテル類が挙げられる。水混和性有機溶剤は、一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
水性溶媒には、オルガノアルコキシシランの溶解性を高めるとともに、生成したシード粒子を安定化させるという観点から、安定化剤を含有させることもできる。安定化剤としては、例えば界面活性剤及び高分子分散剤が挙げられる。なお、黒色粒子中に残留するイオン系物質を低減させることが望まれる場合は、ノニオン系の安定化剤を用いることが好ましい。
【0028】
触媒としては、アンモニア及びアミンの少なくとも一方が挙げられる。アミンとしては、例えばモノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン及びエチレンジアミンが挙げられる。触媒は、一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。触媒の中でも、毒性が少なく、粒子から除去することが容易であり、かつ安価であるという観点から、アンモニアが好適である。
【0029】
加水分解及び縮合の反応は、オルガノアルコキシシラン及び触媒を水性溶媒中で撹拌しながら行われる。反応開始時の触媒量は、常法に従って設定することができる。反応開始時の触媒量は、例えば、オルガノアルコキシシランの種類や濃度、得られる粒子の粒径に応じて設定することができる。反応温度は、オルガノアルコキシシランの種類に応じて適宜設定されるが、例えば0〜50℃の範囲が好適である。
【0030】
シード粒子水性分散液中のシード粒子の平均粒子径は、好ましくは0.3〜15μmである。シード粒子水性分散液中のシード粒子のCV値は、特に限定されないが、好ましくは5%以下である。
【0031】
(成長粒子形成工程)
成長粒子形成工程では、粒子成長用溶液としてオルガノアルコキシシラン水性溶液を用いる。このオルガノアルコキシシラン水性溶液と上記シード粒子水性分散液とを混合し、シード粒子にオルガノアルコキシシランを吸収させる。これにより、シード粒子が成長した成長粒子が形成される。成長粒子は、トリアルコキシシランの縮合物を含む粒子である。この成長粒子形成工程では、成長粒子水性分散液が得られる。
【0032】
粒子成長用溶液中のオルガノアルコキシシランとしては、加水分解及び縮合の反応性に優れるという観点から、上記一般式(1)で示されるトリアルコキシシランが好ましくは、メチルトリメトキシシラン又はビニルトリメトキシシランがより好ましい。
【0033】
粒子成長用溶液に用いる水性溶媒としては、シード粒子形成工程で用いる水性溶媒として例示したものが挙げられる。
粒子成長用溶液には、オルガノアルコキシシランの溶解性を高めるとともに、成長粒子の安定性を高めるという観点から、シード粒子形成工程と同様に安定化剤を含有させることもできる。
【0034】
(複合工程)
複合工程では、まず、ニトリル基を有するビニル系単量体を含むエマルションが調製される。ニトリル基を有するビニル系単量体は、常法に従って、乳化剤とともに水性分散媒に分散することで、前記単量体が油滴として分散したエマルションが得られる。水性分散媒としては、シード粒子形成工程で用いる水性溶媒として例示したものを用いることができる。
【0035】
エマルション中のニトリル基を有するビニル系単量体の含有量は、例えば、10〜70質量%とされる。
乳化剤は、例えば、HLB値(親水性親油性バランス値)を指標として適宜選択して用いることができる。乳化剤としては、例えば炭素数6〜30のアルキル基を有するアルキル硫酸塩が好適に使用される。アルキル硫酸塩の塩としては、カリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0036】
エマルションには、更にラジカル重合開始剤が含有される。ラジカル重合開始剤の種類は、特に限定されず、例えばアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系重合開始剤、過酸化ベンゾイル等の過酸化物が挙げられる。エマルション中のラジカル重合開始剤の含有量は、単量体1モルに対して、好ましくは0.001〜20モル、より好ましくは0.01〜10モルの範囲である。
【0037】
エマルションには、ニトリル基を有する単量体以外のビニル系単量体を含有させてもよい。
調製されたエマルションは、成長粒子水性分散液と混合される。得られた混合液中でビニル系単量体が成長粒子に吸収される。その後、混合液が加熱されることで、ビニル系単量体がラジカル重合される。これにより、固体状の複合粒子が形成される。なお、複合工程では、複合粒子の洗浄及び分離が行われることで、複合粒子の粉体が得られる。
【0038】
(炭化工程)
炭化工程では、複合粒子の粉体を加熱することで複合粒子中の有機成分を炭化させる。炭化工程は、空気よりも酸素濃度の低いガス中で行われることが好ましい。空気よりも酸素濃度の低いガスとしては、例えば不活性ガス及び還元性ガスが挙げられる。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、ネオンガス、及びアルゴンガスが挙げられる。還元性ガスとしては、例えば、アンモニアガスが挙げられる。炭化工程では、不活性ガス及び還元性ガスから選ばれる少なくとも一種と空気と混合した混合ガスを用いてもよいし、不活性ガス及び還元性ガスから選ばれる少なくとも一種のみを用いてもよい。
【0039】
炭化工程における加熱温度は、例えば350〜800℃とされる。炭化工程における加熱時間は、例えば2〜48時間とされる。炭化工程において、加熱条件を変更することで、黒色粉体の黒色度と柔軟性とを制御することもできる。例えば、加熱温度を高めることで、黒色粉体の黒色度が高まるとともに柔軟性が低下する傾向となる。なお、例えば二官能のアルコキシシラン(ジアルコキシシラン)を少量添加して加熱することで、黒色粉体の柔軟性を低下させることもできる。
【0040】
<黒色粉体及びその製造方法の作用>
複合粒子中のオルガノポリシロキサンは、一般式(1)で示されるトリアルコキシシランから得られる縮合物を含む。このため、トリアルコキシシランの有する非加水分解性基が炭化されることで、黒色粒子の主骨格となるシロキサン結合に欠損が生じると推測される。これにより、柔軟な黒色粉体が得られ易くなる。更に、複合粒子中のビニル系重合体は、ニトリル基を有するビニル系重合体を含む。ニトリル基を有するビニル系重合体に由来する炭素が着色物質として黒色粒子に含まれることで、高い黒色度の黒色粉体が得られ易くなる。
【0041】
以上詳述した本実施形態によれば、次のような効果が発揮される。
(1)複合粒子は、一般式(1)で示されるトリアルコキシシランから得られる縮合物と、ニトリル基を有するビニル系重合体とを含む。黒色粉体を構成する黒色粒子は、複合粒子中の有機成分を炭化させることで生成した炭素を着色物質として含む。黒色粉体のXYZ表色系におけるY値は6%以下であるとともに、10%K値は2000〜25000N/mmである。このように構成された黒色粉体によれば、黒色度と適度な柔軟性を発揮させることが容易となる。
【0042】
(2)黒色粉体を構成する黒色粒子は、トリアルコキシシランに対するアクリロニトリルの質量比が0.1〜2の範囲とされた複合粒子から得られることが好ましい。この場合、黒色粉体の黒色度及び柔軟性をより高めることが容易となる。
【0043】
(3)黒色粉体の製造方法は、複合工程と炭化工程とを有する。複合工程では、トリアルコキシシランの縮合物を含む粒子にニトリル基を有するビニル系単量体を吸収させた後、そのビニル系単量体が重合されることにより複合粒子が形成させる。炭化工程では、複合粒子中の有機成分を炭化させる。この製造方法によれば、黒色度と適度な柔軟性を発揮させることが容易となる。
【0044】
なお、前記実施形態を次のように変更して構成してもよい。
・シード粒子形成工程を複数回繰り返すことで、より大きく成長させたシード粒子を得ることもできる。
【0045】
・成長粒子形成工程を省略してもよい。
・成長粒子形成工程と複合工程とを同時に行うこともできる。この場合、例えば、第1の変更例及び第2の変更例が挙げられる。
【0046】
第1の変更例では、前記実施形態のエマルションに、更にオルガノアルコキシシランが含有されたエマルションが用いられる。このエマルションとシード粒子とを接触させることで、シード粒子にオルガノアルコキシシランとニトリル基を有するビニル系単量体とを吸収させる。その後、オルガノアルコキシシランの加水分解及び縮合と、ニトリル基を有するビニル系単量体のラジカル重合が行われる。
【0047】
第2の変更例では、前記実施形態のエマルションを用いて、シード粒子に対してニトリル基を有するビニル系単量体を吸収させた後に、更にオルガノアルコキシシランを吸収させる。その後、オルガノアルコキシシランの加水分解及び縮合と、ニトリル基を有するビニル系単量体のラジカル重合が行われる。
【0048】
・黒色粒子には表面処理が施されてもよい。例えば、黒色粒子の表面を絶縁性物質で被覆して用いることで、黒色粒子の絶縁性を高めることができる。例えば、黒色粒子を樹脂材料と混合して用いる場合、樹脂材料と親和性の高い材料を用いて黒色粒子に表面処理を施すことにより、樹脂中における黒色粒子の分散性を高めることができる。
【0049】
上記実施形態から把握できる技術的思想について以下に記載する。
(イ)前記黒色粉体において、平均粒子径が1〜100μmであるとともにCV値が5%以下である黒色粉体。
【0050】
(ロ)前記黒色粉体の製造方法において、前記複合工程における前記吸収は、前記ニトリル基を有するビニル系単量体を含むエマルションと、前記トリアルコキシシランから得られる縮合物を含む粒子の水性分散液とを混合することにより行われる黒色粉体の製造方法。
【実施例】
【0051】
次に、実施例及び比較例を説明する。
(実施例1)
<シード粒子の調製>
メチルトリメトキシシラン(MTMS)120gと水1200gとを20℃で1時間撹拌した後、1N−アンモニア水溶液12gを添加し、更に20分間撹拌することにより、MTMSシード粒子の分散液を得た。
【0052】
<シード粒子の成長(オルガノポリシロキサン分散液の調製)>
メチルトリメトキシシラン96gと水467gとを25℃で1時間撹拌した溶液に、1%ドデシル硫酸アンモニウム水溶液13gを混合した。得られた混合液に上記シード粒子の分散液180gを添加し、20分間撹拌することでオルガノポリシロキサン分散液を調製した。
【0053】
<単量体エマルションの調製>
アクリロニトリル50gに、重合開始剤としてのアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)5gを溶解することで混合液を調製した。この混合液と、乳化剤としての硫酸エステル塩(商品名:ニューコール707SF、日本乳化剤株式会社)3gをイオン交換水100gで溶解させた溶液とをホモジナイザーにより20000rpmで1分間撹拌することで、単量体エマルションを調製した。
【0054】
<ビニル系重合体の複合>
単量体エマルションをオルガノポリシロキサン分散液に添加し、1時間撹拌した後、単量体のラジカル重合を行うため、70℃で6時間保持することで複合粒子の分散液を調製した。
【0055】
この分散液を冷却した後、洗浄液としてイソプロピルアルコールを用いたデカンテーションを3回繰り返して、複合粒子の洗浄を行った。上澄みのイソプロピルアルコールを除去した後、複合粒子をオーブンで80℃にて1時間乾燥することで、複合粒子の粉体を得た。得られた粉体は白色であった。
【0056】
<有機成分の炭化>
複合粒子の粉体を窒素雰囲気下、600℃で160分間加熱した。この加熱により、複合粒子に含まれる有機成分を炭化することで黒色粉体を得た。
【0057】
(実施例2)
実施例2では、シード粒子の調製条件、及び有機成分の炭化における加熱条件を変更した以外は、実施例1と同様にして黒色粉体を調製した。実施例2では、ビニルトリメトキシシラン(VTMS)125gと水1000gとを25℃で1時間撹拌した後、1N−アンモニア水溶液0.4gを添加し、更に40分間撹拌することにより、VTMSシード粒子の分散液を得た。有機成分の炭化では、加熱温度を650℃に変更した。
【0058】
(実施例3)
実施例3では、有機成分の炭化において、加熱温度を400℃に変更した以外は、実施例1と同様にして黒色粉体を調製した。
【0059】
(実施例4)
実施例4では、単量体エマルションの調製においてアクリロニトリルの配合量を15gに変更した以外は、実施例2と同様にして黒色粉体を調製した。
【0060】
(実施例5)
実施例5では、シード粒子の調製の条件と、シード粒子の成長の条件を変更した以外は、実施例1と同様にして黒色粉体を調製した。シード粒子の調製は、メチルトリメトキシシラン(MTMS)240gと水32gとを30℃で1時間撹拌した後、水1200gと1N−アンモニア水溶液12gとを混合した溶液に加え、さらに40分間撹拌することにより、MTMSシード粒子の分散液を得た。シード粒子の成長は、上記シード粒子の添加量を250gに変更した以外は実施例1と同様にして調製した。
【0061】
(実施例6)
実施例6では、モノマーエマルションの調製においてアクリロニトリルの配合量を170gに変更した以外は、実施例2と同様にして黒色粉体を調製した。
【0062】
(比較例1)
比較例1では、ビニル系重合体の複合を省略し、実施例1における複合粒子の分散液と同様にして、オルガノポリシロキサン分散液を洗浄及び乾燥することでオルガノポリシロキサン粒子の粉体を得た。得られたオルガノポリシロキサン粒子の粉体を窒素雰囲気下、650℃で160分間加熱した。この加熱により、オルガノポリシロキサン粒子に含まれる有機成分を炭化することで粉体を得た。
【0063】
(比較例2)
比較例2では、有機成分の炭化における加熱温度を1000℃に変更した以外は、比較例1と同様にして粉体を得た。
【0064】
(Y値の測定)
各実施例の黒色粉体のXYZ表色系におけるY値をJIS Z8701:1999に準拠して測定した。まず、分光光度計(V−670、日本分光株式会社製)に石英製の粉体用ホルダーをセットしてゼロ点補正を行った。次に、粉体用ホルダーに黒色粉体を入れ、Y値の測定を行った。各比較例の粉体についても、同様にY値の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0065】
(コントラスト比の測定)
各実施例の黒色粉体を水又は界面活性剤を含有する水溶液に分散させた。その分散液を黒色粒子同士が重ならないように透過型光学顕微鏡にセットした後、8ビットのグレースケールにて撮影した。その画像を用いて輝度の計測を行った。撮影の際には、画像の背景における500ピクセル以上の領域について、輝度の平均値が130〜160の値となるように露光時間を調整した。輝度の計測には、画像解析ソフト(商品名:Image J)を用いた。黒色粒子の輝度は、30ピクセル以上の領域に存在する黒色粒子について任意に10点測定した値の平均値とした。この輝度の測定では、黒色粒子の端部分を含まず、黒色粒子の中心部を測定した。次に、黒色粒子の輝度と背景の輝度からコントラスト比を算出した。各比較例の粉体についても、同様にコントラスト比を算出した。その結果を表1に示す。
【0066】
(10%K値の測定)
微小圧縮試験機(MCTE−200、株式会社島津製作所製)を用いて、各実施例の黒色粉体中の黒色粒子10個の10%K値をそれぞれ測定し、それら10%K値の平均値を求めた。各比較例の粉体についても、同様に10%K値の平均値を求めた。その結果を表1に示す。
【0067】
(平均粒子径及びCV値)
各実施例において、シード粒子の分散液、複合粒子の粉体、及び黒色粉体のそれぞれをサンプリングし、コールターカウンターにて平均粒子径及びCV値を求めた。各比較例についても、同様に平均粒子径及びCV値を求めた。その結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
表1に示すように、各実施例の黒色粉体では、Y値が6%以下であるとともに10%K値が2000〜25000N/mmである。比較例1の粉体では、ビニル系重合体を複合せずに黒色粉体を得ているため、Y値は10%を超える結果となった。比較例2では、比較例1よりも、炭化工程における加熱温度を高めることで粉体のY値は低下されたが、粉体の10%K値が25000N/mmを超える結果となった。