特許第6105342号(P6105342)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6105342
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】流体機器同士の締結方法、及び締結具
(51)【国際特許分類】
   F16L 23/036 20060101AFI20170316BHJP
【FI】
   F16L23/036
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-57003(P2013-57003)
(22)【出願日】2013年3月19日
(65)【公開番号】特開2014-181763(P2014-181763A)
(43)【公開日】2014年9月29日
【審査請求日】2015年9月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】396020361
【氏名又は名称】株式会社水道技術開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 篤史
(72)【発明者】
【氏名】戸継 昭人
【審査官】 渡邉 洋
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭49−094230(JP,U)
【文献】 特開2002−250446(JP,A)
【文献】 特開2010−249268(JP,A)
【文献】 特開2003−120646(JP,A)
【文献】 特開2007−100752(JP,A)
【文献】 特開2007−023500(JP,A)
【文献】 実公昭55−052131(JP,Y2)
【文献】 実開昭59−079618(JP,U)
【文献】 実開昭59−183529(JP,U)
【文献】 特開平05−196027(JP,A)
【文献】 実開昭56−157463(JP,U)
【文献】 実開昭60−034182(JP,U)
【文献】 特開平05−248577(JP,A)
【文献】 特開2007−127153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L23/00−23/24
F16K27/00−27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体機器のフランジ部に形成されたボルト孔にボルトを挿通し、前記ボルトの先端部にナットを取り付け、前記ボルト及び前記ナットを締め付けて前記流体機器同士を締結する方法であって、
前記ボルトとして、溝無し側面を中央部に有する両ネジボルトを用い、前記溝無し側面が少なくとも一方のフランジ部のフランジ面から軸方向外側へ露出するように、前記両ネジボルトをボルト孔に通す挿通工程と、
リング状の弾性シール部材をフランジ面との間に介在させてナットを前記両ネジボルトの両端部に締着するにあたり、前記溝無し側面がフランジ面から露出している場合には、貫通ナットを用い、前記弾性シール部材の内周面を前記溝無し側面に接触させた状態で締着する一方、前記溝無し側面がフランジ面から露出していない場合には、袋ナットを用い、前記弾性シール部材をフランジ面及び前記袋ナットに接触させた状態で締着する締着工程と、を含み、
前記流体機器同士を突き合わせた状態で、前記ボルトを前記ボルト孔に挿入する場合に前記ボルトと前記流体機器とが干渉し、
前記挿通工程では、前記流体機器同士を離間させた状態で、前記フランジ部の突き合わせ面側から前記ボルト孔に前記両ネジボルトを挿入する、流体機器同士の締結方法。
【請求項2】
前記締着工程において、前記溝無し側面がフランジ面から露出していることにより前記貫通ナットを用いる場合に、前記弾性シール部材と前記貫通ナットとの間にスペーサを介在させている請求項に記載の流体機器同士の締結方法。
【請求項3】
前記締着工程において、前記溝無し側面がフランジ面から露出していない場合に、前記袋ナットを利用する代わりに貫通ナットを用い、更に、前記両ネジボルトのネジ溝に対応する溝を内周面に有する溝付き弾性シール部材を用い、前記両ネジボルトのネジ溝と前記溝付き弾性シール部材の溝とを噛み合わせた状態で前記貫通ナットを締着する請求項1又は2に記載の流体機器同士の締結方法。
【請求項4】
前記溝付き弾性シール部材の軸方向外側には、当該溝付き弾性シール部材の軸方向外側面及び径方向外側面に接触するワッシャ構造が配置されており、前記ワッシャ構造は、前記貫通ナットと一体回転し得るように構成されており、前記貫通ナットを締め付ける回転動作に伴って前記貫通ナット、前記ワッシャ構造及び前記溝付き弾性シール部材を一体回転させる請求項に記載の流体機器同士の締結方法。
【請求項5】
流体管又は流体機器のフランジ部に形成されたボルト孔に挿通されたボルトの先端部に取り付けられ、前記ボルト孔を密封しつつ前記フランジ部同士を締結するための締結具であって、
前記ボルト孔の周縁部位と密接するためのシール面を有するリング状の弾性シール部材と、前記ボルトの先端部に取り付けるための貫通ナットと、前記弾性シール部材の軸方向外側面及び径方向外側面に接触するワッシャ構造と、を備え、
前記弾性シール部材の内周面には、前記ボルトの先端部に形成されたネジ溝に対応する溝が形成されており、
前記ワッシャ構造は、前記貫通ナットと前記弾性シール部材と一体に回転可能に構成されている締結具。
【請求項6】
前記ワッシャ構造は、前記貫通ナットと一体形成されている請求項に記載の締結具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体配管系統を構成する流体機器(仕切弁、補修弁等)同士をフランジ接合する流体機器同士の締結方法、及び締結具に関する。
【背景技術】
【0002】
水道管等の流体管同士のフランジ接合、又は、流体管と流体機器とのフランジ接合には、ボルト及びナットなどの締結具が用いられる。例えば、特許文献1には、フランジ部に形成されたボルト孔に頭付き六角ボルトを挿通し、頭付き六角ボルトの先端部に貫通ナットを取り付け、頭付きボルト及び貫通ナットを締め付けて、フランジ同士を接合することが開示されている。
【0003】
このようなフランジ接合部分は、地震等の外力や老朽化によりフランジ部同士の間から流体(水)が漏出する場合がある。この流体漏出を未然に防止するために、又は、現に発生している流体の漏出を止めるための一つの有効な手段として、例えば特許文献2の器具を用いることが挙げられる。特許文献2には、フランジ部の径方向先端同士の間を密封すべく、フランジ部の径方向先端同士の間を閉塞する位置に巻き付けたパッキンをフランジ部に押圧した状態で固定するための配管補強金具が開示されている。この配管補強金具は、フランジ部同士の間からの流体漏出を防ぐものであるので、ボルト孔からの漏出を防止するために、ボルトの頭部とフランジ面との間、及び、ナットとフランジ面との間に、リング状の弾性シール部材を介在させる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−122692号公報
【特許文献2】意匠登録第1305825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、図1Aに示す既設の仕切弁11に対し、図1Cに示すように補修弁12を新規に接続するといった、同一機能を有する流体機器同士(仕切弁11,補修弁12)を接続することにより、機能を二重化して耐震性を向上させることが考えられる。しかしながら、図6に示すように、流体機器11,12は、フランジ部11f,12fの管径よりも大きな箱部を有することが多く、流体機器同士11,12を接続する際に従来通りに頭付きボルト102を用いれば、頭付きボルト102の頭部102aと流体機器11,12とが干渉して、頭付きボルト102をフランジ部11f,12fのボルト孔15に挿入できない場合が考えられる。
【0006】
そこで、頭付きボルトをボルト孔に挿入できない環境においても、ボルト孔を密封しつつフランジ部を締結するためには、頭付きボルトの代わりに、頭部のない両ネジボルトを用い、両ネジボルトの両端部に、リング状の弾性シール部材を介して袋ナットを取り付けることが考えられる。しかし、袋ナットは貫通ナットよりもコストが高く、軸方向寸法が大きいので、両ネジボルトの両端部に2つの袋ナットを取り付ければ、コストが増大するとともに、場合によっては周辺の他の機器に干渉して取り付けできないおそれがある。
【0007】
一方、貫通ナットを使用しようとしても、両ネジボルトのネジ溝に対して弾性シール部材が重なると、ボルトのネジ溝と弾性シール部材との間の隙間によって水漏れを防止できない場合がある。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、ボルト孔を密封することはもとより、コストを抑制しつつナットが周辺機器と干渉する不具合を低減する流体機器同士の締結方法、及び締結具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0010】
すなわち、本発明の流体機器同士を締結する方法は、流体機器のフランジ部に形成されたボルト孔にボルトを挿通し、前記ボルトの先端部にナットを取り付け、前記ボルト及び前記ナットを締め付けて前記流体機器同士を締結する方法であって、前記ボルトとして、溝無し側面を中央部に有する両ネジボルトを用い、前記溝無し側面が少なくとも一方のフランジ部のフランジ面から軸方向外側へ露出するように、前記両ネジボルトをボルト孔に通す挿通工程と、リング状の弾性シール部材をフランジ面との間に介在させてナットを前記両ネジボルトの両端部に締着するにあたり、前記溝無し側面がフランジ面から露出している場合には、貫通ナットを用い、前記弾性シール部材の内周面を前記溝無し側面に接触させた状態で締着する一方、前記溝無し側面がフランジ面から露出していない場合には、袋ナットを用い、前記弾性シール部材をフランジ面及び前記袋ナットに接触させた状態で締着する締着工程と、を含む。
【0011】
流体機器には、弁装置など流体を制御するための機器などが挙げられる。流体機器は、フランジ部を介して他の機器や流体管に接続される。流体機器は、フランジ部の管径よりも大きな径の箱部を有する。両ネジボルトは、頭部を有さず、両端部側面にネジ溝が形成され、中央部側面にネジ溝が形成されていないボルトを意味する。貫通ナットは、ネジ孔が貫通しているナットを意味する。袋ナットは、ネジ孔の片側が閉塞しているナットを意味する。
【0012】
この方法によれば、溝無し側面が少なくとも一方のフランジ部のフランジ面から軸方向外側へ露出するように両ネジボルトが配置され、溝無し側面がフランジ面から露出している場合には、貫通ナットが用いられるので、両ネジボルトの両端に取り付けられる2つのナットのうち少なくとも1つのナットには貫通ナットが必ず使用される。貫通ナットは袋ナットに比べて一般的に、軸方向寸法が小さく、低コストである。したがって、両方に袋ナットを使用する場合に比べてナットが占有する空間の軸方向寸法を低減でき、他の装置に干渉する不具合を低減できると共に、コストを低減することが可能となる。
それでいて、貫通ナットを用いる場合に、ボルトの溝有り側面と弾性シール部材の内周面が接触すれば、当該部分から水漏れが生じるおそれがあるが、ボルトの溝無し側面と弾性シール部材の内周面とが接触するようにしているので、両ネジボルトとシール部材の間を通る水漏れを防止できる。
さらに、溝無し側面がフランジ面から露出していない場合には、袋ナットを用いるので、弾性シール部材と両ネジボルトとの間から水が漏れても袋ナットで適切に止水できる。
さらに、フランジ面から溝無し側面が露出しているか否かに応じて、貫通ナットと袋ナットとを使い分けるので、一種の両ネジボルトでフランジの様々な厚みに対応可能となり、現場のフランジに合わせた両ネジボルトを用いる必要がなく、低コストである。
したがって、ボルト孔を的確に密封するとともに、コストを抑制しつつナットが周辺機器と干渉する不具合を低減することが可能となる。
【0013】
流体機器と両ネジボルトが干渉する場合であっても、的確にボルト孔に両ネジボルトを挿入するためには、前記挿通工程では、前記流体機器同士を離間させた状態で、前記フランジ部の突き合わせ面側から前記ボルト孔に前記両ネジボルトを挿入することが好ましい。
【0014】
部品共通化により製造コストを低減させるためには、前記締着工程において、前記溝無し側面がフランジ面から露出していることにより前記貫通ナットを用いる場合に、前記弾性シール部材と前記貫通ナットとの間にスペーサを介在させていることが好ましい。
【0015】
ナットが占有する空間を低減するためには、前記締着工程において、前記溝無し側面がフランジ面から露出していない場合に、前記袋ナットを利用する代わりに貫通ナットを用い、更に、前記両ネジボルトのネジ溝に対応する溝を内周面に有する溝付き弾性シール部材を用い、前記両ネジボルトのネジ溝と前記溝付き弾性シール部材の溝とを噛み合わせた状態で前記貫通ナットを締着することが好ましい。
【0016】
更に、止水性能を向上させるためには、前記溝付き弾性シール部材の軸方向外側には、当該溝付き弾性シール部材の軸方向外側面及び径方向外側面に接触するワッシャ構造が配置されており、前記ワッシャ構造は、前記貫通ナットと一体回転し得るように構成されており、前記貫通ナットを締め付ける回転動作に伴って前記貫通ナット、前記ワッシャ構造及び前記溝付き弾性シール部材を一体回転させることが好ましい。
【0017】
本発明の締結具は、流体管又は流体機器のフランジ部に形成されたボルト孔に挿通されたボルトの先端部に取り付けられ、前記ボルト孔を密封しつつ前記フランジ部同士を締結するための締結具であって、前記ボルト孔の周縁部位と密接するためのシール面を有するリング状の弾性シール部材と、前記ボルトの先端部に取り付けるための貫通ナットと、前記弾性シール部材の軸方向外側面及び径方向外側面に接触するワッシャ構造と、を備え、前記弾性シール部材の内周面には、前記ボルトの先端部に形成されたネジ溝に対応する溝が形成されており、前記ワッシャ構造は、前記貫通ナットと一体に回転可能に構成されている。
【0018】
ここでいう「ボルト」には、六角ボルトなどの頭付きボルトや、頭部を有さない両ネジボルト及び全ネジボルトを利用することも可能である。
【0019】
この構成によれば、内周面に溝を有する弾性シール部材が貫通ナットと共に回転し、適切にボルトにねじ込まれるので、止水性能を向上させることが可能となる。それでいて、貫通ナットが使用可能となるので、袋ナットを利用する場合に比べてナットが占有する空間を低減することができる。
【0020】
上記ワッシャ構造を実現する具体的構成としては、前記ワッシャ構造は、前記貫通ナットと一体形成されていることが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1A】既設の流体配管系統の一例を示す図。
図1B図1Aの系統に対し、一部の機器を取り外した様子を示す図。
図1C図1Bの流体機器に対し更に別の流体機器をフランジ接合した様子を示す図。
図2A】本発明の第1実施形態の挿通工程を示す図。
図2B図2Aの次の締着工程を模式的に示す拡大断面図。
図2C図2Bの次の締着工程を模式的に示す拡大断面図。
図3】第1実施形態の他の例の締着工程を模式的に示す拡大断面図。
図4】上記以外の実施形態に係る締着工程を模式的に示す拡大断面図。
図5】第2実施形態の締着工程を模式的に示す拡大断面図。
図6】従来例による不具合を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0023】
<第1実施形態>
図1Aに示すように、本実施形態では、流体管10にフランジ部を介して第1の流体機器11(仕切弁)が接続され、第1の流体機器11にフランジを介して空気弁13が接続されている場合に、図1Bに示すように空気弁13を一旦除去し、図1Cに示すように第1の流体機器11のフランジに第2の流体機器12(補修弁)を接続し、第2の流体機器12に新規の空気弁13を接続する事案を例として説明する。
【0024】
一般的に、図1Cに示すように、フランジ接合は、フランジ部10f,11fに形成されたボルト孔15に頭付きボルト102を挿通し、頭付きボルト102の先端部にナット3を取り付け、ボルト102及びナット3を締め付けて両者を締結する。しかしながら、本実施形態において、第1の流体機器11と第2の流体機器12のフランジ接合には、図6に示すように、頭付きボルト102が流体機器11,12に干渉するために使用することができない。
【0025】
そこで、本実施形態では、次のように、第1の流体機器11と第2の流体機器12とを締結する。
【0026】
ボルトには、六角ボルト等の頭付きボルト102(図6参照)と、両ネジボルトや全ネジボルト等の頭部のないボルトがある。本実施形態では、まず、図2Bに示すように、溝有り側面2bを両端部に有し、溝無し側面2cを中央部に有する両ネジボルト2を用い、挿通工程を実行する。挿通工程は、図2Bに示すように、溝無し側面2cが少なくとも一方のフランジ部12fのフランジ面16から軸方向外側へ露出するように、両ネジボルト2をボルト孔15に通す工程である。本実施形態では、図2Aに示すように、第1の流体機器11のフランジ部11fと第2の流体機器12のフランジ部12fとを離間させた状態で、フランジ部の突き合わせ面側(接合面側)からボルト孔15に両ネジボルト2を挿入する。挿入後に、双方の流体機器11,12のフランジ部同士11f,12fを接触させる。この方法によれば、両ネジボルト2と流体機器11,12の箱部が干渉するおそれがあっても、確実に両ネジボルト2をボルト孔15に挿通することが可能となる。なお、流体機器11,12と両ネジボルト2とが干渉しない場合には、第1の流体機器11のフランジ部11fと第2の流体機器12のフランジ部12fとを接触させた状態で、両ネジボルト2をボルト孔15に挿通してもよい。
【0027】
次に、図2Bに示すリング状の弾性シール部材4をフランジ面16との間に介在させてナット3を両ネジボルト2の両端部に締着する締着工程を実行する。この締着工程において、図2Bに示すように、溝無し側面2cがフランジ面16から露出している場合には、貫通ナット30を用い、弾性シール部材4の内周面4aを溝無し側面2cに接触させた状態で締着する。貫通ナット30と弾性シール部材4との間には、弾性シール部材4の軸方向外側面4b及び径方向外側面4cに接触するリング状のワッシャ5を介在させる。弾性シール部材4は、いわゆるOリングとも呼ばれ、ゴム等の弾性部材で形成される。ワッシャ5は、弾性部材よりも硬質な材料(例えば金属)で形成されており、例えば板金加工や鋳造により製造される。
【0028】
次に、両ネジボルト2の他端部に対する締着工程において、図2Cに示すように、溝無し側面2cがフランジ面16から露出していない場合には、袋ナット31を用い、弾性シール部材4をフランジ面16及び袋ナット31に接触させた状態で締着する。
【0029】
このように、両ネジボルト2の溝無し側面2cが一方のフランジ部12fのフランジ面16から露出し、他方のフランジ部11fのフランジ面16から露出していない場合には、図2Cに示すように、片側が貫通ナット30で締着され、他方が袋ナット31で締着される。
【0030】
一方、図3に示すように、双方のフランジ部11f,12fの厚さが図2Cの場合とは異なり、両ネジボルト2の溝無し側面2cが両方のフランジ部11f,12fのフランジ面16からそれぞれ露出している場合には、両ネジボルト2の両端部に貫通ナット30,30が締着されることになる。
【0031】
また、図3及び図4に示すように、締着工程において、溝無し側面2cがフランジ面16から露出していることにより貫通ナット30を用いる場合に、フランジ部11f,12fの厚みに応じて、弾性シール部材4と貫通ナット30との間にスペーサ6を介在させてもよい。
【0032】
なお、上記の手順で両ネジボルト及びナットでフランジ部同士を締着した後、意匠登録第1305825号公報に示す配管補強金具をフランジ部に取り付けることが好ましい。詳細な説明は省略するが、図1Cに示すように、ゴム板などのパッキン71を接着剤にてリング状に接着してフランジ部の径方向先端部に配置し、同図に示すように、配管補強金具70を構成する複数の分割片同士を頭付きボルト及び貫通ナット(図示せず)で締結する。この場合、図2Aに示すように、第1の流体機器11のフランジ部11fと第2の流体機器12のフランジ部12fとを離間させた状態で、リング状のゴムパッキンをいずれかのフランジ部に嵌めて預け、両フランジを接合した後、預けていたゴムパッキンをフランジ部に戻してもよい。
【0033】
以上のように、本実施形態の流体機器同士を締結する方法は、流体機器11,12のフランジ部11f,12fに形成されたボルト孔15にボルト2を挿通し、ボルト2の先端部にナット3を取り付け、ボルト2及びナット3を締め付けて流体機器同士11,12を締結する方法であって、ボルトとして、溝無し側面2cを中央部に有する両ネジボルト2を用い、溝無し側面2cが少なくとも一方のフランジ部12fのフランジ面16から軸方向外側へ露出するように、両ネジボルト2をボルト孔15に通す挿通工程と、リング状の弾性シール部材4をフランジ面16との間に介在させてナット3を両ネジボルト2の両端部に締着するにあたり、溝無し側面2cがフランジ面16から露出している場合には、貫通ナット30を用い、弾性シール部材4の内周面4aを溝無し側面2cに接触させた状態で締着する一方、溝無し側面2cがフランジ面16から露出していない場合には、袋ナット31を用い、弾性シール部材4をフランジ面16及び袋ナット31に接触させた状態で締着する締着工程と、を含む。
【0034】
この方法によれば、溝無し側面2cが少なくとも一方のフランジ部12fのフランジ面16から軸方向外側へ露出するように両ネジボルト2が配置され、溝無し側面2cがフランジ面16から露出している場合には、貫通ナット30が用いられるので、両ネジボルト2の両端に取り付けられる2つのナットのうち少なくとも1つのナットには貫通ナット30が必ず使用される。貫通ナット30は袋ナット31に比べて一般的に、軸方向寸法が小さく、低コストである。したがって、両方に袋ナット31を使用する場合に比べてナットが占有する空間の軸方向寸法を低減でき、他の装置に干渉する不具合を低減できると共に、コストを低減することが可能となる。
それでいて、貫通ナット30を用いる場合に、ボルト2の溝有り側面2bと弾性シール部材4の内周面4aが接触すれば、当該部分から水漏れが生じるおそれがあるが、ボルト2の溝無し側面2cと弾性シール部材4の内周面4aとが接触するようにしているので、両ネジボルト2とシール部材10の間を通る水漏れを防止できる。
さらに、溝無し側面2cがフランジ面16から露出していない場合には、袋ナット31を用いるので、弾性シール部材4と両ネジボルト2との間から水が漏れても袋ナット31で適切に止水できる。
さらに、フランジ面16から溝無し側面2cが露出しているか否かに応じて、貫通ナット30と袋ナット31とを使い分けるので、一種の両ネジボルト2でフランジの様々な厚みに対応可能となり、現場のフランジに合わせて個別に両ネジボルトを用いる必要がなく、低コストである。
したがって、ボルト孔を的確に密封するとともに、コストを抑制しつつナットが周辺機器と干渉する不具合を低減することが可能となる。
【0035】
特に、本実施形態では、挿通工程では、流体機器同士11,12を離間させた状態で、フランジ部12fの突き合わせ面側(接合面側)からボルト孔15に両ネジボルト2を挿入する。このようにすれば、流体機器11,12の箱部と両ネジボルト2とが干渉する場合でも、的確にボルト孔15に両ネジボルト2を挿入することが可能となる。
【0036】
さらに、本実施形態では、締着工程において、溝無し側面2cがフランジ面16から露出していることにより貫通ナット30を用いる場合に、弾性シール部材4と貫通ナット30との間にスペーサ6を介在させている。このようにすれば、弾性シール部材4が溝有り側面2bに干渉することが無いように、現場のフランジ部11f,12fの厚みに応じて調整でき、厚みの異なる種々のフランジ部や設置状況に対して共有のボルト及びナットを利用でき、部品共通化により製造コストを低減させることが可能となる。
【0037】
本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。
【0038】
<第2実施形態>
例えば、図2Cに示すように、第1実施形態の締着工程において、溝無し側面2cがフランジ面16から露出していない場合に袋ナット31を用いているが、第2実施形態においては、図5に示すように、袋ナット31を用いる代わりに貫通ナット32を用いる。更に、同図に示すように、両ネジボルト2のネジ溝2mに対応する溝41mを内周面に有する溝付き弾性シール部材41を用いる。両ネジボルト2のネジ溝2mと溝付き弾性シール部材41の溝41mとを噛み合わせた状態で貫通ナット32を締着する。この場合、溝付き弾性シール部材41の軸方向外側には、溝付き弾性シール部材41の軸方向外側面41b及び径方向外側面41cに接触するワッシャ構造5Xが配置されている。このワッシャ構造5Xは、貫通ナット32と一体回転し得るように構成されており、貫通ナット32を締め付ける回転動作に伴って貫通ナット32、ワッシャ構造5X及び溝付き弾性シール部材41を一体回転させる。本実施形態では、ワッシャ構造5Xと貫通ナット32とを一体に形成することで、両者を一体回転可能に構成しているが、これに限定されない。例えば、両者を別部材にし、両者の間に互いに係合し合う凹凸構造を設けることにより両者を一体回転可能に構成してもよい。また、接着剤などで両者を接着して一体回転可能に構成してもよい。
【0039】
上記の締結具(貫通ナット32、弾性シール部材41)は、流体機器同士11,12のフランジ接続に限定されず、例えば流体管同士のフランジ接合、及び、流体管と流体機器のフランジ接合にも利用可能である。すなわち、締結具(貫通ナット32、弾性シール部材41)は、流体管又は流体機器のフランジ部に形成されたボルト孔に挿通されたボルトの先端部に取り付けられ、ボルト孔を密封しつつフランジ部同士を締結するために用いられる。締結具は、ボルト孔15の周縁部位と密接するためのシール面を有するリング状の弾性シール部材41と、ボルト2の先端部に取り付けるための貫通ナット32と、弾性シール部材41の軸方向外側面41b及び径方向外側面41cに接触するワッシャ構造5Xと、を備え、弾性シール部材41の内周面には、ボルト2の先端部に形成されたネジ溝2mに対応する溝41mが形成されており、ワッシャ構造5Xは、貫通ナット32と一体に回転可能に構成されている。
【0040】
弾性シール部材の内周面が平坦面の場合に、当該平坦面と両ネジボルトのネジ溝を合わせると、ネジ溝の隙間が埋まらずに十分に止水できない。そこで、弾性シール部材41の内周面に両ネジボルト2のネジ溝2mに対応する溝41mやヒレを設けることで、両者の面一に接触して十分に止水することが可能となる。
【0041】
一方、内周面に溝41mを設けた弾性シール部材41を用い、貫通ナットとワッシャ構造が別部材である場合には、貫通ナットに入力された回転操作力が弾性シール部材に入力されず、弾性シール部材41が軸方向に沿って押されるだけで、弾性シール部材41の内周面が傷つき止水性が損なわれる可能性がある。そこで、弾性シール部材41に接触するワッシャ構造5Xを貫通ナット32と一体に回転可能にすることで、貫通ナット32と共に弾性シール部材41も回転させて、弾性シール部材41の内周面が傷つくことを避けて、止水性能を向上させてある。
【0042】
また、上記のようにすれば、両ネジボルト2の両端部に貫通ナット30,32が用いられることになるので、袋ナット31を用いる場合に比べてナットが占有する空間の軸方向寸法を低減でき、他の機器との干渉による不具合を回避することが可能となる。
【0043】
本発明において、流体管は、水道管に限定されるものではなく、各種の液体や気体が流れる流体管であってよい。
【符号の説明】
【0044】
11,12…流体機器
11f,12f…フランジ部
15…ボルト孔
16…フランジ面
2…ボルト(両ネジボルト)
2c…溝無し側面
2m…両ネジボルトのネジ溝
3…ナット
30,32…貫通ナット
31…袋ナット
4…弾性シール部材
4a…弾性シール部材の内周面
41…溝付き弾性シール部材
41m…溝付き弾性シール部材の溝
6…スペーサ
5X…ワッシャ構造
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6