特許第6105363号(P6105363)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6105363汚染物質の除去方法および磁性除染剤の製造方法
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  • 特許6105363-汚染物質の除去方法および磁性除染剤の製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6105363
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】汚染物質の除去方法および磁性除染剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/06 20060101AFI20170316BHJP
   B01J 20/02 20060101ALI20170316BHJP
   G21F 9/12 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
   G21F9/06 531
   B01J20/02 B
   G21F9/12 501B
   G21F9/12 501J
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-87152(P2013-87152)
(22)【出願日】2013年4月18日
(65)【公開番号】特開2014-211341(P2014-211341A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2016年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501083643
【氏名又は名称】学校法人慈恵大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100105256
【弁理士】
【氏名又は名称】清野 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100156834
【弁理士】
【氏名又は名称】橋村 一誠
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 亮栄
(72)【発明者】
【氏名】川上 智
(72)【発明者】
【氏名】並木 禎尚
【審査官】 藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−237735(JP,A)
【文献】 特開2006−015190(JP,A)
【文献】 特開2000−034141(JP,A)
【文献】 特開平07−185513(JP,A)
【文献】 特開2005−177709(JP,A)
【文献】 特開2011−189257(JP,A)
【文献】 特開昭62−266499(JP,A)
【文献】 特開2013−181882(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/06
G21F 9/12
B01J 20/00−20/34
B09B 1/00−5/00
C02F 1/28
C02F 1/46−1/48
B03C 1/00−1/015
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性セシウムを含む被処理物をスラリー化し、当該スラリーのpHをアルカリ性に調整した後、1回目の磁力選別を行い、当該スラリーから磁性物質を除去する工程と、
前記磁性物質が除去されたスラリーへ、鉄とコバルトとの合金を含む磁性粉粒子がポリ塩化ジアリルジメチルアンモニウムにより被覆され、さらに当該磁性粉粒子の表面に、フェロシアン化ニッケルが被覆されている磁性除染剤を添加し、当該磁性除染剤へ汚染物質を吸着させた後、2回目の磁力選別を行い、当該磁性物質が除去されたスラリーから汚染物質を吸着した磁性除染剤を回収する工程とを、具えることを特徴とする汚染物質の除去方法。
【請求項2】
前記1回目の磁力選別前に、前記スラリーのpH値を、7を超え12以下に調整することを特徴とする請求項1に記載の汚染物質の除去方法。
【請求項3】
前記磁性除染剤を前記スラリー質量に対して0.1〜3.0質量%添加することを特徴とする請求項1または2に記載の汚染物質の除去方法。
【請求項4】
磁性粉粒子を純水中へ分散させて磁性粉スラリーとし、当該磁性粉スラリーへアルカリを添加してアルカリ性とし、さらに、ポリ塩化ジアリルジメチルアンモニウムを添加して、磁性粉粒子へポリ塩化ジアリルジメチルアンモニウムを付着させる工程と、
得られたポリ塩化ジアリルジメチルアンモニウムが付着した磁性粉粒子を純水で洗浄した後、水中へ分散させて磁性粉スラリーを得る工程と、
得られた磁性粉スラリーへ、フェロシアン化カリウム水溶液、および硫酸ニッケル水溶液を添加して、ポリ塩化ジアリルジメチルアンモニウムにより被覆された磁性粉粒子の表面に、フェロシアン化ニッケルを被覆させる工程と、を具えることを特徴とする磁性除染剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性セシウム等の汚染物質を含有する被処理物から当該汚染物質を除去する方法、当該汚染物質の除去方法に用いる磁性除染剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原発事故の発生等により、大量の放射性セシウム等の汚染物質が環境中に飛散し、土壌や水の汚染を引き起こすことがある。一旦このような事態となると、各地の下水処理場で発生する汚泥、一般廃棄物焼却場で発生する飛灰にも汚染物質が含有されることとなる。
当該汚染された土壌や汚泥に含有される汚染物質の大部分は134Csや137Csであり、特に137Csは半減期が30.2年と長い。この為、汚染物質は、長期にわたって環境へ影響を及ぼすことが懸念されることから、飛灰や汚泥からの汚染物質の除去が望まれる。
【0003】
当該汚染物質の除去に関する従来技術として、例えば特許文献1がある。
当該特許文献1は、放射性セシウムに対して吸着性を有する除染剤に磁性体を担持させるステップと、放射性セシウムで汚染された固体に前記除染剤を添加し、前記固体中の放射性セシウムを前記除染剤に吸着させるステップと、前記磁性体が担持された前記除染剤を磁力によって分離除去するステップと、を具える放射性セシウム汚染固体の処理方法に関するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−24812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、汚染物質に対して吸着性を有する除染剤を磁性体に担持させ、磁性除染剤を得る工程と、汚染物質で汚染された被処理物に当該磁性除染剤を添加し、被処理物中の汚染物質を当該磁性除染剤に吸着させる工程と、当該磁性除染剤を磁力選別する工程と、を具える被処理物からの汚染物質の除去方法について検討した。すると、当該磁力選別によって分離回収される、汚染物質を吸着した磁性除染剤等を含む磁着物の嵩が大きいことを知見した。
【0006】
勿論、汚染物質を吸着した磁性除染剤等を含む磁着物の嵩は、当初の被処理体(例えば飛灰)の嵩に比べれば減容化されてはいる。しかしながら、処理が求められる飛灰等の被処理体は多量である。一方、回収された汚染物質を吸着した磁性除染剤等を含む磁着物は、今後、永年にわたって慎重な管理が求められることから、その嵩はできるだけ減容化することが求められている。
【0007】
本発明は、上述の状況下で為されたものであって、その解決しようとする課題は、放射性セシウム等の汚染物質を含有する被処理物から、磁性除染剤と磁力選別とを用いて汚染物質を除去する際に発生する、当該汚染物質を吸着した磁性除染剤等を含む磁着物の嵩を減容化できる、被処理物からの汚染物質の除去方法を提供し、当該除去方法に適した磁性除染剤およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決する為、本発明者らは研究を行なった。特に、上記汚染物質を吸着した磁性除染剤等の磁着物の態様を精密に検討した。
そして当該磁着物は、汚染物質を吸着した磁性除染剤と、被処理物に含まれていた鉄成分等の磁性物質との混合物である、との画期的な知見を得た。当該知見より、当該磁着物に、被処理物に含まれていた磁性物質を含ませることなく、極力、汚染物質を吸着した磁性除染剤のみとする態様にすれば、当該磁着物の嵩を減容化できることに想到したものである。
【0009】
次に、本発明者らは、上述した磁着物に、被処理物に含まれていた磁性物質を含ませることなく、汚染物質を吸着した磁性除染剤のみとする態様に近づけることを課題として研究を行なった。そして、汚染された被処理体に磁性除染剤を添加し、前記被処理体中の汚染物質を磁性除染剤に吸着させる工程の前に被処理体を磁力選別し、当該汚染された被処理体に含有される磁性物質を予め除去するという構成に想到した。
即ち、当該汚染された被処理体に含有される磁性物質を、1回目の磁力選別によって分離除去する工程と、磁性物質が分離除去された後の汚染された被処理体へ、前記磁性除染剤を添加し、前記固体中の汚染物質を前記磁性除染剤に吸着させる工程と、前記磁性体が担持された前記磁性除染剤を2回目の磁力選別によって分離回収する工程とをおこなうことで、2回目の磁力選別に係る磁着物は、殆どが汚染物質を吸着した磁性除染剤となることを知見し、減容化が実現した。
さらに、本発明者らは、汚染物質を吸着するのに適した磁性除染剤にも想到し本発明を完成した。
【0010】
即ち、上述の課題を解決するための第1の発明は、
放射性セシウムを含む被処理物をスラリー化し、当該スラリーのpHをアルカリ性に調整した後、1回目の磁力選別を行い、当該スラリーから磁性物質を除去する工程と、
前記磁性物質が除去されたスラリーへ、鉄とコバルトとの合金を含む磁性粉粒子がポリ塩化ジアリルジメチルアンモニウムにより被覆され、さらに当該磁性粉粒子の表面に、フェロシアン化ニッケルが被覆されている磁性除染剤を添加し、当該磁性除染剤へ汚染物質を吸着させた後、2回目の磁力選別を行い、当該磁性物質が除去されたスラリーから汚染物質を吸着した磁性除染剤を回収する工程とを、具えることを特徴とする汚染物質の除去方法である。
第2の発明は、
前記1回目の磁力選別前に、前記スラリーのpH値を、7を超え12以下に調整することを特徴とする汚染物質の除去方法である。
第3発明は、
前記磁性除染剤を前記スラリー質量に対して0.1〜3.0質量%添加することを特徴とする汚染物質の除去方法である。
第4の発明は、
磁性粉粒子を純水中へ分散させて磁性粉スラリーとし、当該磁性粉スラリーへアルカリを添加してアルカリ性とし、さらに、ポリ塩化ジアリルジメチルアンモニウムを添加して、磁性粉粒子へポリ塩化ジアリルジメチルアンモニウムを付着させる工程と、
得られたポリ塩化ジアリルジメチルアンモニウムが付着した磁性粉粒子を純水で洗浄した後、水中へ分散させて磁性粉スラリーを得る工程と、
得られた磁性粉スラリーへ、フェロシアン化カリウム水溶液、および硫酸ニッケル水溶液を添加して、ポリ塩化ジアリルジメチルアンモニウムにより被覆された磁性粉粒子の表面に、フェロシアン化ニッケルを被覆させる工程とを、具えることを特徴とする磁性除染剤の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、放射性セシウム等の汚染物質を含有する被処理物から、磁性を有する除染剤を用いて当該汚染物質を吸着して得られる、当該汚染物質を吸着した磁性除染剤等を含む磁着物の嵩を減容化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】被処理物からの汚染物質の除去方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る被処理物からの汚染物質の除去方法について説明し、次に、本発明に係る磁性除染剤について説明する。
【0014】
[1]本発明に係る被処理物からの汚染物質の除去方法
図1は、本発明に係る被処理物からの汚染物質の除去方法を示すフロー図である。
(被処理物灰)
本実施例における、被処理物からの汚染物質の除去方法の被処理物は、飛灰や主灰(燃えがら、スラグなど)、汚染土壌、ガレキ類、バイオマス(剪定枝、草本類)などである。当該飛灰や主灰は、一般廃棄物処理場等で発生し、放射性セシウム等の汚染物質を含有しているものである。
【0015】
(スラリー化)
上述した飛灰へ水を加えて攪拌しスラリーを得る。水は、水道水、地下水等を用いることができる。スラリーの濃度は3〜30質量%とすることが好ましい。撹拌は、常温で良く、100〜500RPM、0.5〜12時間で良い。
【0016】
(pH調整)
フェロシアン化ニッケル被覆、および、飛灰に含まれる重金属類(鉛、亜鉛、カドミウムなど)が、スラリーへ溶解するのを防止することを目的として、上述したスラリーへpH調整剤を添加しアルカリ性に調整する。スラリーのpH値は7を超え12以下の範囲に調整することが好ましい。
pH調整剤としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、炭酸等の酸や、苛性ソーダ、ソーダ灰、消石灰、生石灰、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム等のアルカリを好ましく用いることができる。
【0017】
(磁力選別(1回目))
表面の磁束密度が、例えば(1)500〜4,000ガウスの磁石、(2)4,000〜20,000ガウスの磁石を準備する。
上記(1)(2)の各磁石を順次、pH調整したスラリー中に沈め、各回とも例えば10〜180秒間攪拌してから磁石を引き揚げて、スラリーから磁性物質を除去する処理を繰り返して、鉄くず等の磁性物質をスラリーから除去する。なお、スラリー中の磁着物の種類、含有率などを考慮して、上記(1)(2)の各磁石の他にも、表面の磁束密度が異なる複数種を準備しておき、適宜、交換使用することも好ましい構成である。
【0018】
(磁性除染剤の添加)
磁性物質が除去されたスラリー中へ、後述する磁性除染剤を添加して撹拌する。磁性除染剤の添加量は、スラリー質量に対して0.1質量%以上、3質量%以下が好ましい。
撹拌は、常温で良く、100〜500RPM、0.5〜12時間で良い。
【0019】
(磁力選別(2回目))
1回目の磁力選別にて使用した磁石と同様の、表面の磁束密度が、例えば(1)500〜4,000ガウスの磁石、(2)4,000〜20,000ガウスの磁石を準備する。
上記(1)(2)の各磁石を順次、磁性物質が除去されたスラリー中に沈め、各回とも10〜180秒間攪拌してから磁石を引き揚げて、スラリーから汚染物質を吸着した磁性除染剤を回収する処理を繰り返して2回目の磁力選別を実施し、汚染物質を吸着した磁性除染剤をスラリーから回収する。
【0020】
(ろ過)
磁力選別2回目後のスラリーを、ろ紙等を用いてろ液と固形分とにろ別し、さらに固形分を乾燥して脱水ケーキを得る。
【0021】
(分析)
上述した飛灰、磁性物質、汚染物質を吸着した磁性除染剤、ろ液、および脱水ケーキに含まれる汚染物質である放射性セシウム濃度を測定し、当該測定値に応じた保管方法を選択する。
【0022】
[2]本発明に係る磁性除染剤
本発明にかかる磁性除染剤としては、鉄、または、鉄とコバルトとの合金からなる磁性粉粒子を、ポリ塩化ジアリルジメチルアンモニウム(以下「PDDA」と記載する場合がある。)で被覆した後、さらに当該PDDAで被覆された磁性粉粒子に、フェロシアン化ニッケルを被覆したものを使用できる。
磁性除染剤は、レーザー回折型粒度分布測定装置(例えば、HELOS&RODOS)により計測される平均粒子径(D50径)が、1〜200μm、好ましくは5〜100μmである凝集塊状であり、BET一点法による比表面積値が、20〜400m/g、好ましくは20〜200m/g、一層好ましくは25〜150m/gであるものを使用するのがよい。凝集体を構成する一次粒子は、平均粒子径が10〜500nm、好ましくは20〜450nm、一層好ましくは30〜400nmであり、形状は球状であっても針状であってもよい。なお、球状の場合の平均粒子径はその直径、針状の場合はその長軸長の平均値を平均一次粒子径とする。
また、磁性除染剤の磁性粉粒子とその表面に被覆する成分(PDDA及びフェロシアン化ニッケル)の質量比は、磁性粉の質量10に対して除染成分の質量を1以上とすることが好ましい。
【0023】
[3]本発明に係る磁性除染剤の製造方法
本発明にかかる磁性除染剤の製造方法の一実施形態について説明する。
鉄、または、鉄とコバルトとの合金からなる磁性粉粒子を純水中に分散させ、磁性粉スラリーを得る。このときのスラリー濃度は攪拌のしやすさから、5〜200g/Lとするのがよい。
得られた磁性粉スラリーに、アンモニア水等のアルカリを添加してアルカリ性とし、アルカリ性となった磁性粉スラリーへPDDAを添加して、磁性粉粒子へPDDAを付着させる。なお、PDDAの添加濃度は、処理液に対する固形分として10質量%以下、好ましくは5質量%以下、一層好ましくは2質量%以下となるように添加する。
【0024】
得られたPDDAが付着した磁性粉粒子のスラリーを磁石の上で静置して、PDDA被覆された磁性粉粒子をスラリーから沈降させた後、上澄みを除き、余分なPDDAやアンモニア成分を除去して沈降物を得て1回目の洗浄操作とする。
得られた沈降物へ純水を加えてスラリーとし、当該スラリーを攪拌して液中に不純物を溶かし出した。
当該スラリーを再度磁石の上に静置して、PDDA被覆された磁性粉粒子をスラリーから沈降させた後、上澄みを除き、余分なPDDAやアンモニア成分を再度除去して沈降物を得て2回目の洗浄操作とする。
上述の純水による洗浄操作を複数回(好ましくは3回以上)繰り返した後、PDDA被覆された磁性粉粒子を水中へ分散させる。
【0025】
分散処理を行なった磁性粉スラリーへ、フェロシアン化物(例えば、フェロシアン化カリウムやフェロシアン化ナトリウム)の水溶液、および硫酸ニッケル水溶液をそれぞれ添加して、常温にて剪断力を有する分散機により攪拌する。なお、フェロシアン化物水溶液の添加濃度は飽和溶解量以下、溶解作業の作業性の観点から好ましくは0.50mol/L以下、硫酸ニッケル水溶液の添加濃度も飽和溶解量以下、同様に溶解作業の容易性から好ましくは1.0mol/L以下、一層好ましくは0.50mol/L以下の濃度とするのがよい。
以上の操作により、PDDAにより被覆された磁性粉粒子の表面に、フェロシアン化ニッケルを被覆させ、本発明で使用する磁性除染剤粒子のスラリーが得られる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を参照しながら、本発明を具体的に説明する。
[実施例1]
[1]被処理物からの汚染物質の除去方法
(1)スラリー化およびpH調整
被処理物である放射性セシウム濃度3,800[Bq/kg]の飛灰1kgと、水道水10Lとを、容量20Lの円筒型容器に投入し、pH12のスラリーを得た。当該スラリーへ、さらに塩酸(和光純薬株式会社製 特級)を添加しながら攪拌機(新東科学株式会社製:スリーワンモーター)で撹拌し、当該スラリーのpH値を10に調整した。
【0027】
(2)磁力選別(1回目)
表面の磁束密度が、(1)1,500ガウス、(2)8,000ガウスの棒磁石を準備した。
当該(1)(2)の各棒磁石を順次、上述したスラリー中に沈め、各回とも15秒間攪拌してから磁石を引き揚げ、磁性物質を磁着物として、スラリーから除去する処理を5回繰り返して、鉄くず等の磁性物質をスラリーから除去した。このときの棒磁石はビニール袋等で覆い、磁着物がビニール袋等内に容易に回収できるようにした。
回収された鉄くず等の磁性物質を105℃の乾燥機で乾燥し、質量と放射性セシウム濃度を測定した(日立アロカ社製 食品放射能測定システム CAN−OSP−NAIを使用)。磁性物質の質量は70[g]であり、その放射性セシウム濃度は1,500[Bq/kg]であった。
【0028】
(3)除染剤の添加
磁性物質除去後のスラリーを容量20Lの円筒型容器に投入し、実施例1に係る磁性除染剤を10g添加して3時間撹拌し、放射性セシウムを磁性除染剤に吸着させて、セシウム吸着磁性除染剤(以下、「Cs吸着磁性除染剤」と記載する場合がある。)とした。
【0029】
(4)磁力選別(2回目)
1回目の磁力選別と同様に、表面の磁束密度が、(1)1,500ガウス、(2)8,000ガウスの棒磁石を準備した。
上記(1)(2)の各棒磁石を順次にスラリー中に沈め、各回とも15秒間攪拌してから磁石を引き揚げて、Cs吸着磁性除染剤を磁着物として、スラリーから回収する処理を5回繰り返して、Cs吸着磁性除染剤をスラリーから回収した。このときの棒磁石はビニール袋等で覆い、磁着物がビニール袋等内に容易に回収できるようにした。
回収されたCs吸着磁性除染剤の質量は50[g]であり、その放射性セシウム濃度は50,200[Bq/kg]であった。
【0030】
(5)ろ過および分析
磁力選別2回目後のスラリーを、No.5Cのろ紙を用いて吸引ろ過、乾燥し、脱水ケーキの質量を測定するとともに、脱水ケーキ、ろ液の放射性セシウム濃度を測定した。脱水ケーキの質量は700[g]であった。放射性セシウム濃度は、脱水ケーキが1,500[Bq/kg]、ろ液が3[Bq/kg]未満であった。脱水ケーキの放射性セシウム濃度測定には、測定対象の放射能レベルにより連続的に選別可能な土壌連続ソーティング装置(ポニー工業株式会社製 SoilSorting System S3)を用い、選別設定値は3,000[Bq/kg]とした。
放射性セシウムの濃度測定結果から、被処理物である飛灰に含有されていた放射性セシウムの殆どが、放射性セシウムを吸着した磁性除染剤に含有されていることが判明した。そして、磁力選別1回目に回収された磁着物には、被処理物由来の放射性セシウムは殆ど含まれておらず、汚染物質の減容化ができた。
【0031】
[2]磁性除染剤の製造方法
1000mLスケールの容器へ、平均長軸長235nmの鉄−コバルト(鉄原子量に対するコバルト原子量割合=3%)磁性粉粒子21gと純水570gとを投入し、常温にて30分間剪断力を有する攪拌機(プライミクス株式会社製TKホモミクサーMarkII)を用いて8000rpmで攪拌し、磁性粉を分散させ、磁性粉スラリーとした。
得られた磁性粉スラリーにアンモニア水(濃度21.3%)14gを添加して、分散液の液性をアルカリ性とした。このアルカリ性の磁性粉スラリーにPDDA(シグマアルドリッチ社製試薬、分子量10〜15万、固形分濃度20%)を15g(処理液全体に対する固形分濃度0.5質量%)添加し、プロペラ型攪拌機を用いて常温で30分間240rpmにて攪拌し、磁性粉粒子へPDDAを付着させた。
【0032】
得られたPDDAが付着した磁性粉粒子のスラリーを磁石の上で静置して、当該磁性粉粒子をスラリーから沈降させた後、上澄みを除き、余分なPDDAやアンモニア成分を除去して沈降物を回収した。
得られた沈降物へ純水を加えて400mLのスラリーとし、当該スラリーを攪拌して液中に不純物を溶かし出した。当該スラリーを再度磁石の上に静置して、PDDA被覆された磁性粉粒子をスラリーから沈降させた後、上澄みを除き、余分なPDDAやアンモニア成分を再度除去して沈降物を得た。
上述の洗浄操作を3回繰り返したところ、スラリーのpH値は8.57となり、導電率は8.5mS/mを示した。また、当該スラリーの一部を採取して乾燥し炭素量を確認したところ、0.5質量%の炭素が検出された。
当該スラリーを、常温にて分散機(プライミクス株式会社製のTKホモミクサーMarkII)により8000rpm(翼周速度12.6m/s)で30分間攪拌し、磁性粉粒子を分散させた。
【0033】
分散処理を行なった磁性粉スラリーへ、フェロシアン化カリウム水溶液(フェロシアン化カリウム三水和物として24.45g含有)、および硫酸ニッケル水溶液(硫酸ニッケル六水和物として19.99g含有)を、それぞれ添加して、常温にて分散機(同上)により8000rpmで30分間攪拌した。その後、磁性粉スラリー(固形分濃度約5%)を、ノズル型スプレードライヤーで噴霧し(入口温度220℃、噴射圧力50mmHg)、乾燥して、PDDAを被覆した磁性粉粒子の表面に、更にフェロシアン化ニッケルが被覆された実施例1に係る磁性除染剤を得た。
【0034】
[比較例1]
磁力選別(1回目)の操作を行わなかった以外は、実施例1と同様の操作を行った。
その結果、回収された磁着物の質量は120[g]であり、その放射性セシウム濃度は21,000[Bq/kg]であった。
【0035】
脱水ケーキの質量は700[g]であり、放射性セシウム濃度は1,500[Bq/kg]であった。ろ液の放射性セシウム濃度は3[Bq/L]未満であった。
脱水ケーキを土壌連続ソーティング装置に投入したところ、3,000[Bq/kg]未満と判定された。
【0036】
[実施例2]
飛灰として、放射性セシウム濃度が27,500[Bq/kg]のものを1kg用いた以外は、実施例1と同様の処理および測定を行った。
その結果、磁力選別1回目で回収された磁性物質の質量は40[g]であり、その放射性セシウム濃度は7,000[Bq/kg]であった。
磁力選別2回目で回収されたCs吸着磁性除染剤の質量は40[g]であり、その放射性セシウム濃度は650,000[Bq/kg]であった。
脱水ケーキの質量は680[g]であり、放射性セシウム濃度は2,500[Bq/kg]であった。ろ液の放射性セシウム濃度は3[Bq/L]未満であった。
脱水ケーキを土壌連続ソーティング装置に投入したところ、放射性セシウム濃度は3,000[Bq/kg]未満と判定された。
【0037】
[比較例2]
磁力選別(1回目)の操作を行わなかった以外は、実施例2と同様の操作を行った。
その結果、回収された磁着物の質量は80[g]であり、その放射性セシウム濃度は340,000[Bq/kg]であった。
脱水ケーキの質量は700[g]であり、放射性セシウム濃度は2,500[Bq/kg]であった。ろ液の放射性セシウム濃度は3[Bq/L]未満であった。
脱水ケーキを土壌連続ソーティング装置に投入したところ、3,000[Bq/kg]未満と判定された。
【0038】
【表1】
【0039】
[まとめ]
表1に記載された実施例1および比較例1の結果と、管理型最終処分場への埋立基準は放射性セシウム濃度8,000[Bq/kg]未満であることとから、実施例1では、埋立できない磁着物の質量が、比較例1に比べて2.4分の1に減容化できることが判明した。
同様に、表1に記載された実施例2および比較例2の結果と、放射性セシウム濃度が100,000[Bq/kg]を超えると特定廃棄物となることとから、実施例2では、当該特定廃棄物となる磁着物の質量が、比較例2に比べて2分の1に減容化できることが判明した。
図1