(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
常温から10℃/分で昇温し、550℃で2時間保持し、その後、10℃/分で常温まで降温した後の下記式で示される熱収縮率が3ppm以上75ppm未満である、請求項1又は2に記載のガラス基板。
熱収縮率(ppm)={熱処理前後のガラスの収縮量/熱処理前のガラスの長さ}×106
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のフラットパネルディスプレイ用ガラス基板は、モル%表示で、
SiO
2 55〜80%、
Al
2O
3 8〜20%、
B
2O
3 0〜8%、
MgO 0%超〜15%
CaO 0〜20%、
SrO 0〜15%、
BaO 0〜10%、
を含有し、
SiO
2+2×Al
2O
3が100%以下であり、
モル比B
2O
3/(SiO
2+Al
2O
3)が0〜0.12であり、
モル比MgO/RO(但し、ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量である)が0.15〜0.9の範囲であり、
失透温度が1280℃未満であり、
常温から10℃/分で昇温し、550℃で2時間保持し、その後、10℃/分で常温まで降温した後の下記式で示される熱収縮率が3ppm以上75ppm未満である。
熱収縮率(ppm)={熱処理前後のガラスの収縮量/熱処理前のガラスの長さ}×10
6
【0012】
以下、本発明のフラットパネルディスプレイ用ガラス基板について説明する。
【0013】
SiO
2は、ガラスの骨格成分であり、従って、必須成分である。含有量が少なくなると、耐酸性が低下し、歪点が低下し、熱膨張係数が増加する傾向がある。また、SiO
2含有量が少なすぎると、ガラス基板を低密度化するのが難しくなる。一方、SiO
2含有量が多すぎると、熔融粘性が著しく高くなり熔解が困難になる傾向がある。SiO
2含有量が多すぎると、耐失透性が低下する傾向もある。SiO
2の含有量は、55〜80mol%の範囲とする。SiO
2の含有量は、好ましくは60〜75mol%、より好ましくは62〜73mol%、さらに好ましくは63〜72mol%、一層好ましくは63〜70mol%、より一層好ましくは65〜70mol%、さらに一層好ましくは65〜69mol%、尚一層好ましくは65〜68mol%の範囲である。
【0014】
Al
2O
3は、分相を抑制し、歪点を高くする必須成分である。Al
2O
3含有量が少なすぎると、ガラスが分相しやすくなる。また、Al
2O
3含有量が少なすぎると、歪点が低下する。さらに、Al
2O
3含有量が少なすぎると、ヤング率も低下し、酸によるエッチングレートも低下する傾向がある。Al
2O
3含有量が多すぎると、ガラスの失透温度が上昇して、耐失透性が低下するので、成形性が悪化する傾向がある。このような観点から、Al
2O
3の含有量は8〜20mol%の範囲である。Al
2O
3の含有量は、好ましくは8〜18mol%、より好ましくは9〜17mol%、さらに好ましくは11〜15mol%、一層好ましくは12〜15mol%、より一層好ましくは12〜14mol%の範囲である。
【0015】
B
2O
3は、ガラスの高温粘性を低下させ、熔融性を改善する成分である。即ち、熔融温度近傍での粘性を低下させるので、熔解性を改善する。また、失透温度を低下させる成分でもある。B
2O
3含有量が少ないと、熔解性が低下し、耐失透性が低下する傾向がある。B
2O
3含有量が多すぎると、歪点が低下し、耐熱性が低下する。また、B
2O
3含有量が多すぎると、ヤング率が低下する。また、ガラス成形時のB
2O
3の揮発により、失透が生じやすくなる。特に、歪点が高いガラスは、成型温度が高くなる傾向にあるため、上記揮発が促進され、失透の生成が顕著な問題となる。また、ガラス熔解時のB
2O
3の揮発により、ガラスの不均質が顕著となり、脈理が発生しやすくなる。このような観点から、B
2O
3含有量は、0〜8mol%、好ましくは0〜5mol%の範囲である。B
2O
3含有量は、好ましくは0.1〜5mol%、より好ましくは1.5〜5mol%、さらに好ましくは1.5〜4.5mol%の範囲である。一方、耐失透性を重視した場合には、B
2O
3含有量は好ましくは0〜7mol%、より好ましくは0.1〜7mol%、さらに好ましくは1〜7mol%、一層好ましくは1.5〜7mol%、より一層好ましくは1.5〜6.5mol%、さらに一層好ましくは2〜6mol%の範囲である。B
2O
3含有量は、熔解性と耐失透性の両方を考慮して適宜決定される。熔解性と耐失透性の両方を考慮するとB
2O
3含有量は、好ましくは1〜5mol%、より好ましくは1.5〜5mol%、さらに好ましくは1.5〜4.5mol%の範囲である。
【0016】
MgOは、熔解性を向上させる必須成分である。また、アルカリ土類金属の中では密度を増加させにくい成分であるので、その含有量を相対的に増加させると、低密度化を図りやすくなる。含有させることで、熔解性を向上できる。但し、MgOの含有量が多すぎると、ガラスの失透温度が急激に上昇するため、特に成形工程で失透しやすくなる。また、MgO含有量が多すぎると、耐酸性低下の傾向がある。このような観点から、MgO含有量は、0mol%超〜15mol%であり、好ましくは1.5〜15mol%、より好ましくは2〜15mol%、さらに好ましくは2〜12mol%、一層好ましくは3〜11mol%、より一層好ましくは4〜10mol%、さらに一層好ましくは5〜9mol%の範囲である。
【0017】
CaOは、ガラスの失透温度を急激に上げることなくガラスの熔解性を向上させるのに有効な成分である。また、アルカリ土類金属の中では密度を増加させにくい成分であるので、その含有量を相対的に増加させると、低密度化を図りやすくなる。含有量が少な過ぎると、耐失透性低下を生じる傾向がある。CaO含有量が多すぎると、熱膨張係数が増加し、密度が上昇する傾向がある。このような観点から、CaO含有量は、0〜20mol%、好ましくは3〜15mol%、より好ましくは4〜13mol%、さらに好ましくは5〜11mol%、一層好ましくは7〜11mol%の範囲である。
【0018】
SrOは、ガラスの失透温度を下げることができる成分である。SrOは、必須ではないが、含有させると、耐失透性および熔解性が向上する。しかし、SrO含有量が多すぎると、密度が上昇してしまう。このような観点から、SrO含有量は、0〜15mol%であり、好ましくは0〜10mol%、より好ましくは0〜7mol%、さらに好ましくは0〜4mol%、一層好ましくは0〜2mol%、より一層好ましくは0〜1.5mol%、さらに一層好ましくは0〜1mol%の範囲である。ガラスの密度を低下させたい場合には、SrOは実質的に含有させないことが好ましい。
【0019】
BaOは、ガラスの失透温度を下げることができる成分である。必須ではないが、含有させると、耐失透性および熔解性が向上する。しかし、BaOの含有量が多すぎると、密度が上昇してしまう。また、環境負荷の観点、および熱膨張係数が増大する傾向があることから、BaO含有量は、0〜10mol%であり、好ましくは0〜4mol%、より好ましくは0〜3mol%、さらに好ましくは0〜2.5 mol%、一層好ましくは0〜2mol%、より一層好ましくは0〜1 mol%、さらに一層好ましくは0〜0.5mol%、尚一層好ましくは実質的に含有させない。
【0020】
Li
2O及びNa
2Oは、ガラス基板から溶出してTFT特性を劣化させたり、ガラスの熱膨張係数を大きくして熱処理時に基板を破損したりするおそれのある成分である。Li
2O及びNa
2Oは、好ましくはいずれも実質的に含有させない。
【0021】
K
2Oは、ガラスの塩基性度を高め、清澄性を促進させる成分である。また、熔解性を向上し、熔融ガラスの比抵抗を低下させる成分である。必須ではないが、含有させると、熔融ガラスの比抵抗が低下し、熔解槽を構成する耐火物に電流が流れてしまうことを防止でき、熔解槽が侵食されることを抑制できる。また、熔解槽を構成する耐火物がジルコニアを含有する場合、熔解槽が侵食されて、熔解槽からガラスへジルコニアが溶出してしまうことを抑制できるため、ジルコニアに起因する失透も抑制できる。また、熔解温度近傍におけるガラス粘性を低下させるので、熔解性と清澄性が向上する。一方、K
2O含有量が多すぎると、ガラス基板から溶出してTFT特性を劣化させるおそれがある。また、熱膨張係数も増大する傾向がある。このような観点から、K
2O含有量は、好ましくは0〜0.8mol%、より好ましくは0.01〜0.5mol%、さらに好ましくは0.1〜0.3mol%の範囲である。
【0022】
ZrO
2およびTiO
2は、ガラスの化学的耐久性および歪点を向上させる成分である。ZrO
2およびTiO
2は、必須成分ではないが、含有させることで歪点の上昇および耐酸性向上を実現できる。しかし、ZrO
2量およびTiO
2量が多くなりすぎると、失透温度が著しく上昇するため、耐失透性および成形性が低下する場合がある。特に、ZrO
2は融点が高く難熔なため、原料の一部が熔解炉の底部に堆積するといった問題を引き起こす。これらの未熔解の成分がガラス素地に混入するとインクルージョンとしてガラスの品質悪化を引き起こす。また、TiO
2は、ガラスを着色させる成分なので、ディスプレイ用基板には好ましくない。このような観点から、本発明のガラス基板では、ZrO
2およびTiO
2の含有率は、それぞれ、0〜5mol%が好ましく、0〜3mol%がより好ましく、0〜2mol%がさらに好ましく、0〜1mol%が一層好ましい。さらに一層好ましくは、本発明のガラス基板には、ZrO
2およびTiO
2を実質的に含有させないことである。
【0023】
ZnOは、耐BHF性や熔解性を向上させる成分である。但し、必須成分ではない。ZnO含有量が多くなりすぎると、失透温度が上昇し、歪点が低下し、密度が上昇する傾向がある。このような観点から、ZnO含有量は、好ましくは0〜5mol%、より好ましくは0〜3mol%、さらに好ましくは0〜2mol%、一層好ましくは0〜1mol%の範囲である。ZnOは実質的に含有させないことが好ましい。
【0024】
P
2O
5は、高温粘性を低下させ、熔解性を向上させる成分である。但し、必須成分ではない。P
2O
5含有量が多すぎると、ガラス熔解時のP
2O
5の揮発により、ガラスの不均質が顕著となり、脈理が発生しやすくなる。また、耐酸性が著しく悪化する。また、乳白が生じやすくなる。このような観点から、P
2O
5含有量は、好ましくは0〜3mol%、より好ましくは0〜1mol%、さらに好ましくは0〜0.5mol%の範囲であり、実質的に含有しないことが特に好ましい。
【0025】
本発明のガラス基板は清澄剤を含むことができる。清澄剤としては、環境への負荷が小さく、ガラスの清澄性に優れたものであれば特に制限されないが、例えば、Sn、Fe、Ce、Tb、Mo、SbおよびWの金属酸化物の群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。清澄剤としては、SnO
2が好適である。清澄剤の含有量は、少なすぎると、泡品質が悪化し、含有量が多くなりすぎると、失透や着色などの原因となる場合がある。清澄剤の含有量は、清澄剤の種類やガラスの組成にもよる。例えば、SnO
2、Fe
2O
3及びSb
2O
3の合量は、0.05〜0.20mol%であることが好ましい。
【0026】
SnO
2は1600℃以上でも清澄効果が得られる清澄剤であり、アルカリ金属酸化物を微量にしか含有できないフラットパネルディスプレイ用ガラス基板(例えば、アルカリ金属酸化物の合量が0〜0.8mol%)の製造に使用できる数少ない清澄剤である。しかし、SnO
2は失透を生じやすい成分であるため、失透を抑制する観点からは、多量に添加することは好ましくない。
【0027】
また、歪点が高いガラス(例えば、歪点が670℃以上のガラス)は、歪点が低いガラス(例えば、歪点が670℃未満のガラス)と比較して失透温度が高くなりやすい傾向にあるため、失透を抑制するために、成形工程における熔融ガラスの温度を歪点が低いガラスと比較して高くしなくてはならない場合がある。ここで、オーバーフローダウンドロー法で用いられる成形体は、耐クリープ性・耐熱性という観点から、ジルコニアを含有する耐火物を含んで構成されることが好ましい。成形方法としてオーバーフローダウンドローを採用する場合、成形工程における熔融ガラスの温度を高くしようとするほど、成形体の温度も上昇させる必要がある。しかし、成形体の温度が高くなると、成形体からジルコニアが溶出し、当該ジルコニアの失透が生じやすくなるという問題がある。また、特にSnO
2を多く含有するガラスでは、このジルコニアに起因して、SnO
2の失透が生じる虞がある。
【0028】
さらに、歪点が高いガラス(例えば、歪点が670℃以上のガラス)は、歪点が低いガラス(例えば、歪点が670℃未満のガラス)と比較して、ガラス原料を熔解する温度も高くなりやすい傾向にある。ここで、熔解工程を行う熔解槽は、耐侵食性の観点から、ジルコニアを含有する高ジルコニア系耐火物を含んで構成されることが好ましい。また、エネルギー効率の観点から、電気熔融あるいは電気熔融と他の加熱手段の組み合わせで、ガラス原料を熔解することが好ましい。しかし、本発明に記載されたような高歪点であり、かつアルカリ金属酸化物を微量にしか含有できないガラスを熔解する場合、熔融ガラスの比抵抗が大きいため、高ジルコニア系耐火物に電流が流れてしまい、熔融ガラス中にジルコニアが溶出してしまうという問題が生じやすくなる。ジルコニアが溶出してしまうと、上述したジルコニアの失透およびジルコニアに起因するSnO
2の失透が生じる虞がある。
【0029】
つまり、ジルコニアに起因するSnO
2の失透を抑制するという観点からも、本発明のガラス基板においては、SnO
2は0.2mol%を超えて含有させることは好ましくない。このような観点から、SnO
2含有量は、例えば、0.01〜0.2mol%の範囲とすることが好ましく、より好ましくは0.03〜0.15mol%、さらに好ましくは0.05〜0.12mol%の範囲である。
【0030】
Fe
2O
3は、清澄剤としての働きを有する以外に、熔融ガラスの比抵抗を低下させる成分である。高温粘性が高く、難熔解性のガラスにおいては、熔融ガラスの比抵抗を低下させるために含有させることが好ましい。しかし、Fe
2O
3含有量が多くなりすぎると、ガラスが着色し、透過率が低下する。そのためFe
2O
3含有量は、0〜0.1mol%の範囲であり、好ましくは0〜0.05mol%、より好ましくは0.001〜0.05mol%、さらに好ましくは0.003〜0.05mol%、一層好ましくは0.005〜0.03mol%の範囲である。
【0031】
本発明において清澄剤は、SnO
2とFe
2O
3を組合せて用いることが好ましい。失透の観点からは、SnO
2を多く含有させることは好ましくないことは上述の通りである。しかし、清澄効果を十分に得るためには清澄剤を所定値以上含有させることが求められる。そこで、SnO
2とFe
2O
3を併用することで、SnO
2の含有量を失透が生じるほど多くせずに、十分な清澄効果を得、泡の少ないガラス基板を製造することができる。SnO
2とFe
2O
3の合量は、好ましくは0.05〜0.2mol%の範囲であり、より好ましくは0.08〜0.2mol%、さらに好ましくは0.1〜0.18mol%、一層好ましくは0.1〜0.15mol%の範囲である。
【0032】
SnO
2とFe
2O
3の合量に対するSnO
2の含有量のモル比(SnO
2/(SnO
2+Fe
2O
3))は、大きすぎると失透が生じやすくなり、小さすぎると十分な清澄効果を得られなくなり、ガラスが着色してしまう場合がある。そのため、好ましくは0.55〜1の範囲であり、より好ましくは0.6〜1、さらに好ましくは0.65〜1、一層好ましくは0.65〜0.95、より一層好ましくは0.65〜0.9の範囲である。
【0033】
本発明のガラス基板は、環境負荷の問題から、As
2O
3は実質的に含有しないことが好ましい。本発明のガラス基板は、環境負荷の問題から、Sb
2O
3は、好ましくは0〜0.5mol%、より好ましくは0〜0.1mol%、最も好ましくは実質的に含有しない。
【0034】
本発明のガラス基板は、環境上の理由からPbO及びFは実質的に含有しないことが好ましい。
【0035】
なお、本明細書において、「実質的に含有せず」とは、前記ガラス原料にこれら成分の原料となる物質を用いないことを意味し、他の成分のガラス原料に不純物として含まれる成分、製造装置からガラスへ溶出する成分の混入を排除するものではない。
【0036】
SiO
2の含有量とAl
2O
3の含有量の2倍との合量であるSiO
2+2×Al
2O
3は少なすぎると、歪点が低下する傾向があり、多すぎると、耐失透性が悪化する傾向がある。そのためSiO
2+2×Al
2O
3は、100mol%以下であり、好ましくは75〜100mol%、より好ましくは75〜97mol%、より好ましくは80〜96mol%、さらに好ましくは85〜96mol%、一層好ましくは85〜95mol%、より一層好ましくは87〜95mol%、さらに一層好ましくは89〜95mol%、尚一層好ましくは89〜94mol%である。
【0037】
SiO
2の含有量とAl
2O
3の1/2の差SiO
2-Al
2O
3/2は、値が小さすぎると、エッチングレートは向上するものの、耐失透性が低下するおそれがある。値が高すぎると、エッチングレートが低下するおそれがある。このような観点から、SiO
2-Al
2O
3/2は、69mol%以下であることが好ましく、好ましくは45〜69mol%、より好ましくは45〜64mol%、さらに好ましく50〜63mol%、一層好ましくは55〜62 mol%、より一層好ましくは55〜61.5mol%、さらに一層好ましくは55〜61mol%である。
【0038】
モル比B
2O
3/(SiO
2+Al
2O
3)は、主に歪点と耐失透性の指標となる。B
2O
3は、前述のように、含有量が少ないと、熔解性および耐失透性が低下する。他方、含有量が多くなると、歪点が低下し、耐熱性が低下する。また、含有量が多くなると、耐酸性およびヤング率が低下する傾向がある。B
2O
3/(SiO
2+Al
2O
3)についても基本的には同様の傾向がある。そのためモル比B
2O
3/(SiO
2+Al
2O
3)は0〜0.12の範囲とする。B
2O
3/(SiO
2+Al
2O
3)が0.12超では、歪点を十分に高くすることができず、0に近づくほど耐失透性は低下する傾向がある。モル比B
2O
3/(SiO
2+Al
2O
3)は、好ましくは0〜0.1、より好ましくは0.001〜0.08、さらに好ましくは0.005〜0.08、一層好ましくは0.01〜0.075、より一層好ましくは0.01〜0.07の範囲である。一方、より耐失透性を重視した場合には、モル比B
2O
3/(SiO
2+Al
2O
3)は0〜0.12、好ましくは0.01〜0.10、より好ましくは0.02〜0.09、さらに好ましくは0.025〜0.085の範囲である。尚、上記モル比の逆数である(SiO
2+Al
2O
3)/B
2O
3は、B
2O
3が0mol%超の場合、好ましくは8.3以上である。
【0039】
B
2O
3とP
2O
5の合量であるB
2O
3+P
2O
5は少なすぎると、熔解性が低下する傾向があり、多すぎると、B
2O
3+P
2O
5のガラスの不均質が顕著となり、脈理が発生しやすくなり、歪点が低下する傾向がある。そのためB
2O
3+P
2O
5は、好ましくは0〜8mol%、より好ましくは0〜5 mol%、さらに好ましくは0.1〜5mol%、一層好ましくは1.5〜5mol%である。一方、耐失透性を重視した場合には、B
2O
3+P
2O
5は、好ましくは0〜7mol%、より好ましくは0.1〜7mol%、さらに好ましくは1〜7mol%、一層好ましくは1.5〜7mol%、より一層好ましくは1.5〜6.5mol%、さらに一層好ましくは2〜6.5mol%、尚一層好ましくは2〜6mol%の範囲である。B
2O
3+P
2O
5は、熔解性と耐失透性の両方を考慮して適宜決定される。熔解性と耐失透性の両方を考慮すると、B
2O
3+P
2O
5は、好ましくは1〜8mol%、より好ましくは1.5〜7mol%、さらに好ましくは2〜5mol%である。
【0040】
モル比MgO/ROは耐失透性の指標となる。但し、ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの含有量の合量(MgO+CaO+SrO+BaO)である。MgO/ROは好ましくは0.15〜0.9、より好ましくは0.2〜0.8、さらに好ましくは0.3〜0.7、一層好ましくは0.3〜0.6の範囲である。これらの範囲とすることで、耐失透性と熔解性を両立することができる。さらに、低密度化を図ることができる。
【0041】
SrO及びBaOは、ガラスの失透温度を下げることができる成分である。必須ではないが、含有させると、耐失透性および熔解性が向上する。但し、含有量が多すぎると、密度が上昇してしまう。このような観点から、SrO含有量及びBaO含有量の合量(SrO+BaO)は、好ましくは0〜15mol%の範囲であり、より好ましくは0〜10mol%、さらに好ましくは0〜7mol%、一層好ましくは0〜5mol%、より一層好ましくは0〜4mol%、さらに一層好ましくは0〜3mol%、尚一層好ましくは0〜2mol%の範囲である。密度を低下させたい場合には、実質的に含有させないことが好ましい。
【0042】
MgO、CaO、SrO及びBaOは、熔解性を向上させる成分である。MgO、CaO、SrO及びBaOの含有量の合量であるRO(MgO+CaO+SrO+BaO)が少なすぎると、熔解性が悪化する。ROが多すぎると、歪点が低下し、密度が上昇し、ヤング率が低下する。また、ROが多すぎると、熱膨張係数が増大する傾向もある。このような観点から、ROは、好ましくは4〜25mol%の範囲であり、より好ましくは7〜21mol%、さらに好ましくは12〜19mol%の範囲である。
【0043】
BaOは、環境に対する負荷が大きい成分であり、かつその含有量が多くなるとガラスの密度が高くなり、ガラス基板の軽量化を図り難くなる。BaO/ROは好ましくは0〜0.5、より好ましくは0〜0.1、さらに好ましくは0〜0.07、一層好ましくは0〜0.05、より一層好ましくは0〜0.02の範囲である。
【0044】
Li
2O、Na
2O及びK
2Oは、ガラスの塩基性度を高め、清澄剤の酸化を容易にして、清澄性を発揮させる成分である。また、熔融温度における粘性を低下させ、熔解性を向上させる成分である。また、熔融ガラスの比抵抗を低下させる成分でもある。Li
2O、Na
2O及びK
2O は、必須ではないが、含有させると、熔融ガラスの比抵抗が低下し、清澄性および熔解性が向上する。特に、熔解槽を構成する耐火物に電流が過度に流れてしまうことを防止でき、熔解槽が侵食されることを抑制できる。また、熔解槽がジルコニアを含有する場合、熔解槽からガラスへのジルコニアの溶出を抑制できるため、ジルコニアに起因する失透も抑制できる。また、熔解ガラスの粘性を低下させるので、熔解性と清澄性が向上する。しかし、Li
2O、Na
2O及びK
2Oの含有量の合量であるR
2Oが多すぎると、ガラス基板から溶出してTFT特性を劣化させるおそれがある。また、熱膨張係数が増大する傾向がある。R
2Oは好ましくは0〜0.8mol%、より好ましくは0.01〜0.5mol%、さらに好ましくは0.1〜0.3mol%である。
【0045】
K
2Oは、Li
2OやNa
2Oと比較して、分子量が大きいため、ガラス基板から溶出しにくい。そのため、R
2Oを含有させる場合には、Li
2OやNa
2OよりもK
2Oを多く含有させることが好ましい。Li
2O及びNa
2Oの割合が大きいと、ガラス基板から溶出してTFT特性を劣化させるおそれが強くなる。モル比K
2O/R
2Oは、好ましくは0.5〜1、より好ましくは0. 6〜1、さらに好ましくは0.65〜1、一層好ましくは0.7〜1の範囲である。
【0046】
本発明のガラス基板は失透温度が、好ましくは1280℃未満、より好ましくは1260℃以下、さらに好ましくは1250℃以下、一層好ましくは1235℃以下、より一層好ましくは1215℃以下である。失透温度が1280℃未満であれば、オーバーフローダウンドロー法でガラス板の成形がしやすくなる。オーバーフローダウンドロー法を適用することで、ガラス基板表面を研磨する工程を省略することができるので、ガラス基板の表面品質を向上できる。また、生産コストも低減することができる。失透温度が高すぎると、失透が生じやすく、品質低下の虞がある。また、オーバーフローダウンドロー法への適用が難しくなる傾向がある。
【0047】
本発明のガラス基板は、100℃〜300℃における平均熱膨張係数(100-300℃)が、28×10
-7℃
-1以上、50×10
-7℃
-1未満であることが好ましく、好ましくは41×10
-7℃
-1未満、より好ましくは28〜41×10
-7℃
-1未満、さらに好ましくは28〜39×10
-7℃
-1未満、一層好ましくは28〜38×10
-7℃
-1未満、より一層好ましくは32〜38×10
-7℃
-1未満、さらに一層好ましくは34×10
-7℃
-1超〜38×10
-7℃
-1未満の範囲である。熱膨張係数が大きいと、熱処理工程において、熱衝撃や熱収縮率が増大する傾向がある。LTPS−TFTの製造工程では、急加熱と急冷が繰り返され、ガラス基板にかかる熱衝撃は大きくなる。さらに、大型のガラス基板は、熱処理工程において、温度差(温度分布)がつきやすく、ガラス基板の破壊確率が高くなる。また、熱膨張係数が大きいと、熱収縮率を低減することが困難となる。他方、熱膨張係数が小さいと、ガラス基板上に形成される金属、有機系接着剤などの周辺材料と熱膨張係数との整合がとりにくくなり、周辺部材が剥離してしまう虞がある。
【0048】
一般にガラス基板は歪点が低いと、ディスプレイ製造時の熱処理工程において熱収縮が生じやすくなる。本発明のガラス基板は、歪点が、好ましくは670℃以上、より好ましくは680℃以上、さらに好ましくは685℃以上、一層好ましくは690℃以上、より一層好ましくは695℃以上である。
【0049】
本発明のガラス基板は熱収縮率が、75ppm未満であり、好ましくは70ppm未満、より好ましくは65ppm未満、より好ましくは60ppm未満である。熱収縮率は、好ましくは55ppm以下、さらに好ましくは50ppm以下、一層好ましくは48ppm以下、より一層好ましくは45ppm以下である。熱収縮率(量)が大きくなり過ぎると、画素の大きなピッチズレを引き起こし、高精細なディスプレイを実現できなくなる。熱収縮率(量)を所定範囲に制御するためには、ガラス基板の歪点を670℃以上とし、かつ平均熱膨張係数(100-300℃)を50×10
-7℃
-1未満とすることが好ましい。なお、熱収縮率は最も好ましくは0ppmであるが、熱収縮率を0ppmにしようとすると、徐冷工程を極めて長くすることや、徐冷、切断工程後に熱収縮低減処理(オフライン徐冷)を施すことが求められるが、この場合、生産性が低下し、コストが高騰してしまう。生産性およびコストを鑑みると、熱収縮率は、例えば、3ppm以上75ppm未満であることが好ましく、より好ましくは5ppm以上75ppm未満、さらに好ましくは10ppm以上65ppm未満、一層好ましくは15ppm以上60ppm未満、より一層好ましくは20〜55ppm、さらに一層好ましくは25〜50ppmである。
【0050】
尚、熱収縮率は、昇降温速度が10℃/分、550℃で2時間保持の熱処理を施された後の下記式で示される。より詳細には、常温から10℃/分で昇温し、550℃で2時間保持し、その後、10℃/分で常温まで降温する。
熱収縮率(ppm)={熱処理前後のガラスの収縮量/熱処理前のガラスの長さ}×10
6
このとき、「熱収縮処理前後のガラスの収縮量」とは、「熱処理前のガラスの長さ−熱処理後のガラスの長さ」である。
【0051】
本発明のガラス基板は密度が、ガラス基板の軽量化及びディスプレイの軽量化という観点から、好ましくは2.6g/cm
3以下、より好ましくは2.57g/cm
3以下、さらに好ましくは2.53g/cm
3以下、一層好ましくは2.5g/cm
3以下である。密度が高くなり過ぎると、ガラス基板の軽量化が困難となり、ディスプレイの軽量化も図れなくなる。
【0052】
ガラスの転移点(以下、Tgと記載)が低くなると、耐熱性が低下する傾向がある。また、熱処理工程において熱収縮が生じやすくなる傾向もある。本発明のガラス基板はTgが、好ましくは720℃以上、より好ましくは730℃以上、さらに好ましくは740℃以上、一層好ましくは750℃以上である。ガラス基板のTgを上記範囲にするには、本発明のガラス基板の組成の範囲において、Tgを高める、例えば、SiO
2及びAl
2O
3等の成分を多めにする、あるいはB
2O
3の成分を少なくすることが適当である。
【0053】
本発明のガラス基板を構成するガラスは、エッチングレートが50μm/h以上であることが好ましい。エッチングレートが速くなると、生産性が向上する。特に、TFT側とカラーフィルタ側のガラス基板を張り合わせた後にエッチングを行い、軽量化を図る場合には、エッチングレートが生産性を左右する。しかし、エッチングレートが高くなりすぎると液晶製造時の生産性は向上するものの、ガラスの耐失透性が低下してしまう。また、熱収縮率も増大しやすくなる。エッチングレートは好ましくは60〜140μm/h、より好ましくは70〜120μm/h、さらに好ましくは75〜120μm/h、一層好ましくは80〜120μm/hである。ガラスのエッチングレートを高めるためには、SiO
2-Al
2O
3/2の値を小さくすればよい。他方、ガラスのエッチングレートを低くするためには、例えば、SiO
2-Al
2O
3/2の値を大きくすればよい。本発明においては、上記エッチングレートは以下の条件で測定したものと定義する。エッチングレート(μm/h)は、ガラス基板を、HF濃度1mol/kg、HCl濃度5mol/kgとなるように調整した40℃のエッチング液に1時間浸漬した場合の、単位時間(1時間)当たりのガラス基板の一方の表面の厚み減少量(μm)として表す。
【0054】
本発明のガラス基板は板厚が、例えば、0.1〜1.1mmの範囲であることができる。但し、この範囲に限定する意図ではない。板厚は、例えば、0.1〜0.7mm、0.3〜0.7mm、0.3〜0.5mmの範囲であることもできる。ガラス板の厚さが薄すぎると、ガラス基板自体の強度が低下する。例えば、フラットパネルディスプレイ製造時の破損が生じやすくなる。板厚が厚すぎると、薄型化が求められるディスプレイには好ましくない。また、ガラス基板の重量が重くなるため、フラットパネルディスプレイの軽量化が図りがたくなる。さらに、TFT形成後にエッチング処理を行う場合には、エッチング処理量が多くなり、コストと時間がかかってしまう。
【0055】
本発明のガラス基板は、例えば、アレイ・カラーフィルタ張り合わせ後にガラス基板表面をエッチング処理するフラットパネルディスプレイの製造に用いられる。特に本発明のガラス基板は、LTPS−TFTまたはOS−TFTが形成されるフラットパネルディスプレイ用ガラス基板に好適である。具体的には、液晶ディスプレイ用ガラス基板、有機ELディスプレイ用ガラス基板に好適である。特に、LTPS−TFT液晶ディスプレイ用ガラス基板、LTPS−TFT有機ELディスプレイ用ガラス基板に好適である。中でも、高精細が求められる携帯端末などのディスプレイ用ガラス基板に好適である。
【0056】
<フラットパネルディスプレイ>
本発明は、LTPS−TFTまたはOS−TFTをガラス基板表面に形成したフラットパネルディスプレイを包含し、このフラットパネルディスプレイはガラス基板が上記本発明のガラス基板である。本発明のフラットパネルディスプレイは、例えば、液晶ディスプレイまたは有機ELディスプレイであることかできる。
【0057】
<ガラス基板の製造方法>
本発明のフラットパネルディスプレイ用ガラス基板の製造方法は、所定の組成に調合したガラス原料を、例えば、直接通電加熱や燃焼加熱を用いて、熔解する熔解工程と、
前記熔解工程にて熔解した熔融ガラスを平板状ガラスに成形する成形工程と、
前記平板状ガラスを徐冷する徐冷工程と、を有する。
特に、前記徐冷工程は、前記平板状ガラスの熱収縮率を低減するように前記平板状ガラスの冷却条件を制御する工程であることが好ましい。
【0058】
[熔解工程]
熔解工程においては、所定の組成を有するように調合したガラス原料を、例えば、直接通電加熱や燃焼加熱を用いて熔解する。ガラス原料は、公知の材料から適宜選択できる。エネルギー効率の観点から、熔解工程では、ガラス原料を、少なくとも直接通電加熱を用いて熔解することが好ましい。また、熔解工程を行う熔解槽は、高ジルコニア系耐火物を含んで構成されることが好ましい。
【0059】
[成形工程]
成形工程では、熔解工程にて熔解した熔融ガラスを平板状ガラスに成形する。平板状ガラスへの成形方法は、例えば、ダウンドロー法、特にオーバーフローダウンドロー法が好適であり、平板状ガラスとしてガラスリボンが成形される。その他、フロート法、リドロー法、ロールアウト法などを適用できる。ダウンドロー法を採用することにより、フロート法など他の成形方法を用いた場合に比べ、得られたガラス基板の主表面が雰囲気以外とは非接触である自由表面で形成されるために、極めて高い平滑性を有しており、成形後のガラス基板表面の研磨工程が不要となるために、製造コストを低減することができ、さらに生産性も向上させることができる。さらに、ダウンドロー法を使用して成形したガラス基板の両主表面は均一な組成を有しているために、エッチング処理を行った際に、成型時の表裏に関係なく均一にエッチングを行うことができる。加えて、ダウンドロー法を使用して成形することで、ガラス基板表面の研磨工程に起因するマイクロクラックのない表面状態を有するガラス基板を得ることができるため、ガラス基板自体の強度も向上させることができる
【0060】
[徐冷工程]
徐冷時の条件を適宜調整することでガラス基板の熱収縮率をコントロールすることができる。特に、前記平板状ガラスの熱収縮率を低減するように前記平板状ガラスの冷却条件を制御することが好ましい。ガラス基板の熱収縮率は上述のように3ppm以上75ppm未満である。3ppm以上75ppm未満のガラス基板を製造するためには、例えば、ダウンドロー法を使用する場合は、平板状ガラスとしてのガラスリボンの温度を、TgからTg−100℃の温度範囲内を20〜200秒かけて冷却するように、成形を行うことが望ましい。20秒未満であると、熱収縮率を十分低減することができない場合がある。一方、200秒を超えると、生産性が低下すると共に、ガラス製造装置(徐冷炉)が大型化してしまう。あるいは、平板状ガラスとしてのガラスリボンの冷却速度を、TgからTg−100℃の温度範囲内において、30〜300℃/分とするように徐冷を行うことが好ましい。冷却速度が、300℃/分を超えると、熱収縮率を十分低減することができない場合がある。一方、30℃/分未満であると、生産性が低下すると共に、ガラス製造装置(徐冷炉)が大型化してしまう。冷却速度の好ましい範囲は、30〜300℃/分であり、50〜200℃/分がより好ましく、60〜120℃/分がさらに好ましい。なお、徐冷工程の下流で平板状ガラスを切断した後に、別途オフラインで徐冷を行うことでも熱収縮率は低下させることができるが、この場合、徐冷工程を行う設備の他に、別途オフラインで徐冷を行う設備が必要となる。そのため、上述したように、オフライン徐冷を省略することができるように、徐冷工程を熱収縮率を低減できるように制御したほうが、生産性及びコストの観点からも好ましい。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0062】
実施例1〜34
表1に示すガラス組成になるように、実施例1〜34および参考例1〜4の試料ガラスを以下の手順に従って作製した。得られた試料ガラスおよび試料ガラス基板について、失透温度、Tg、100〜300℃の範囲における平均熱膨張係数、熱収縮率、密度、歪点を求めた。
【0063】
【表1】
【0064】
(試料ガラスの作製)
まず、表1に示すガラス組成となるように、通常のガラス原料である、シリカ,アルミナ,酸化ホウ素,炭酸カリウム,塩基性炭酸マグネシウム,炭酸カルシウム,硝酸ストロンチウム,硝酸バリウム,酸化第二スズおよび酸化第二鉄を用いて、ガラス原料バッチ(以下バッチと呼ぶ)を調合した。なお、ガラスで400gとなる量で調合した。
【0065】
前記調合したバッチは、白金ルツボの中で熔融および清澄した。まず、このルツボを1600℃に設定した電気炉で3時間保持してバッチを熔融した。次に、その電気炉を1640℃まで昇温し、4時間保持することでガラス融液の清澄を行なった。その後、ガラス融液を炉外で鉄板上に流し出し、冷却固化してガラス体を得た。このガラス体には引き続いて徐冷操作を施した。徐冷操作は、このガラス体を800℃に設定した別の電気炉の中で2時間保持した後、740℃まで2時間、更に660℃まで2時間で冷却後、その電気炉の電源を切り、室温まで冷却することによって行なった。この徐冷操作を経たガラス体を試料ガラスとした。前記試料ガラスは、徐冷条件に影響されず、かつ/または、基板状では測定できない特性(失透温度、熱膨張係数、Tgおよび歪点)の測定に用いた。
【0066】
上記試料ガラスを切断、研削および研磨加工を施して、φ5mm、長さ20mmの円柱状とし、これをTgで30分保持した後、Tg−100℃まで100℃/分で冷却し、室温まで放冷することで、熱収縮測定用試料ガラスとした。
【0067】
(歪点)
前記試料ガラスを、3mm角、長さ55mmの角柱形状に切断・研削加工して、試験片とした。この試験片に対して、ビーム曲げ測定装置(東京工業株式会社製)を用いて測定を行い、ビーム曲げ法(ASTM C−598)に従い、計算により歪点を求めた。
【0068】
(熱収縮率)
熱収縮率は、常温から10℃/分で昇温し、550℃で2時間保持し、その後、10℃/分で常温まで降温した後の熱収縮測定用試料ガラスの収縮量を用いて、以下の式にて求めた。
熱収縮率(ppm)={熱処理前後のガラスの収縮量/熱処理前のガラスの長さ}×10
6
【0069】
(失透温度の測定方法)
前記試料ガラスを粉砕し、2380μmのふるいを通過し、1000μmのふるい上に留まったガラス粒を得た。このガラス粒をエタノールに浸漬し、超音波洗浄した後、恒温槽で乾燥させた。乾燥させたガラス粒を、幅12mm、長さ200mm、深さ10mmの白金ボート上に、前記ガラス粒25gをほぼ一定の厚さになるように入れた。この白金ボートを、1080〜1400℃の温度勾配をもった電気炉内に5時間保持し、その後、炉から取り出して、ガラス内部に発生した失透を50倍の光学顕微鏡にて観察した。失透が観察された最高温度を、失透温度とした。
【0070】
(100〜300℃の範囲における平均熱膨張係数αおよびTgの測定方法)
前記試料ガラスを、φ5mm、長さ20mmの円柱状に加工して、試験片とした。この試験片に対し、示差熱膨張計(Thermo Plus2 TMA8310)を用いて、昇温過程における温度と試験片の伸縮量を測定した。この時の昇温速度は5℃/分とした。前記温度と試験片の伸縮量との測定結果を元に100〜300℃の温度範囲における平均熱膨張係数およびTgを求めた。なお、本願でのTgとは、ガラス体を800℃に設定した別の電気炉の中で2時間保持した後、740℃まで2時間、更に660℃まで2時間で冷却後、その電気炉の電源を切り、室温まで冷却した試料ガラスについて測定した値である。
【0071】
(密度)
ガラスの密度は、アルキメデス法によって測定した。
【0072】
(エッチングレート)
エッチングレート(μm/h)は、試料ガラス(12.5mm x20mm x0.7mm)を、HF濃度1mol/kg、HCl濃度5mol/kgとなるように調整した40℃のエッチング液(200mL)に1時間浸漬した場合の、単位時間(1時間)当たりのガラス基板の一方の表面の厚み減少量(μm)として表す。
【0073】
実施例に示す組成となるよう調合したガラス原料を、高ジルコニア系耐火物を含む耐火煉瓦製の熔解槽と白金合金製の調整槽を備えた連続熔解装置を用いて、1560〜1640℃で熔解し、1620〜1670℃で清澄し、1440〜1530℃で攪拌した後にオーバーフローダウンドロー法により厚さ0.7mmの薄板状に成形し、TgからTg−100℃の温度範囲内において、100℃/分の速度で徐冷を行い、ガラス基板を得た。なお、前記記載の各特性については、得られたガラス基板を用いて測定した。なお、熱収縮率は、下記の方法により求めた。
ガラス基板の所定箇所に直線状のマーキングを記入した後、このガラス基板をマーキングに対して垂直にカッター線を入れ、2つのガラス板片に分割した。次に、一方のガラス板片のみに、550℃、2時間の熱処理を施した。その後、熱処理を施したガラス板片と未処理のガラス板片を並べて接着テープで固定してから、マーキングのずれを測定し、下記式で熱収縮率を求めた。
熱収縮率(ppm)={熱処理前後のガラスの収縮量/熱処理前のガラスの長さ}×10
6
【0074】
上記のように得られたガラスは、熱収縮率が3ppm以上75ppm未満であった。また、失透温度も1280℃未満であった。したがって、これらのガラスを用いることで、オーバーフローダウンドロー法により、LTPS−TFTが適用されるディスプレイに用いることが可能な、ガラス基板を製造することができる。また、これらのガラス基板は、OS−TFT用ガラス基板としても適したものである。