(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記工程b)における比較と前記工程c)における決定に基づいて、心臓再同期療法中の逆リモデリングの確率を見積もることをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の作動方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ペースメーカーやペーシング機能を有する埋め込み型除細動器(「ICDs」)などの埋め込み型心調律管理(「RCM」)を有する従来の心臓ペーシングは、心臓の所望の部分と電気的に接触している心臓内電極を介して患者の心臓に電気的ペーシングパルスを送ることを伴う。CRM装置は通常患者の胸部に皮下移植される。
【0016】
心臓再同期療法(「CRT」)のためのペーシング制御システムの手動、自動又は半自動調整に対する従来の心臓埋め込み型電気装置(「CIED」)を用いたアプローチは、心不全疾患率及び死亡率、そして特に注目すべきは逆体積リモデリングなどの臨床効果指標の改善と関連付けられていない生理学的に情報不足な装置ベースの測定結果に単に依存するという点で制限される。これらの関連付けを行わない理由として、CRT反応に必須な生理学的パラメータに関する知識不足、これらのパラメータが心臓機能の改善の確率にどのように関係しているかということについての不十分な理解、そしてこれらのパラメータをペーシング刺激技術に用いる目的についての情報に関する知識不足が挙げられる。以下に説明するように、本発明は、臨床医が、基質条件、療法の実施及び受け渡し並びに臨床レスポンダーにおいて成果を高めるとともにノンレスポンダーを臨床レスポンダーに変える療法反応の間の相互作用についてのより深い理解を利用する能力を提供する。
【0017】
図1を参照すると、CRTに利用される例示的なCIED100が示されている。そのような例示的なCIED100は、心臓内リードシステム104と電気通信する埋め込み型パルス発生器102を含む。
【0018】
心臓内リードシステム104の部分は、上大静脈などの上部静脈系の血管を通って又は他の心臓へのアクセス方法により患者の心臓106に挿入されてもよい。心臓内リードシステム104は一以上の電極を含み、該一以上の電極は、電極の位置で、空間的に分離された電極間で若しくは電極とパルス発生器102のハウジング108とのさまざまな組み合わせ間で検知される心臓電気的活動を示す心電図(「EGM」)信号を生成する又は電極の位置にペーシング電気パルスを送るように構成されている。オプションで、心臓内リードシステム104は、心臓のチャンバ圧力、動き、収縮性、振動又は温度などの生理学的パラメータを検知するように構成された一以上の電極を含んでもよい。
【0019】
リードシステム104は、患者の心臓106からの電気信号を検知するとともにペーシングパルスを心臓106に送るために、一以上の心臓チャンバの内、上又は近傍に配置された一以上の心臓内電極110〜114を含んでもよい。
図1に示したような心臓内電極110〜114は、左心室、右心室、左心房、及び右心房を含む心臓の一以上のチャンバにおける電気的活動を検知するため及び該一以上のチャンバのペースを調整するために、用いられてもよい。リードシステム104は、心臓に電気的除細動/除細動電気ショックを送る一以上の除細動電極を含んでもよい。
【0020】
パルス発生器102は、心臓の不整脈を検出し、リードシステム104を介して心臓106に送られる電気刺激パルスやショックの形でペーシング又は除細動治療を制御する電気回路を含む。パルス発生器102のハウジング108は、さまざまな選択可能な心臓内電極110〜114との組み合わせで、遠方EGMを記録するための検知電極としても機能する。このようなコントローラは、プログラム及びデータ・ストレージ用メモリと電気通信するマイクロプロセッサで構成されている。他のコントローラの設計も、当業者によって容易に理解されるであろう。
【0021】
コントローラとして機能するパルス発生器102は、CIED100を多数のプログラムモードで動作させるよう構成され、各プログラムモードは、検知された心臓電気的活動に応じて又は自発的心臓電気的活動がないときにペーシングパルスがどのように出力されるかを定める。また、コントローラと、例えば携帯用又はベッドサイドの通信ステーションあるいは患者が携帯又は装着した通信ステーションなどの外部通信装置あるいは又は外部プログラマとの間の通信を容易にするために、通信回路が設けられる。通信回路は、一以上の埋め込まれた、外部の、皮膚又は皮下の生理学的又は非生理学的センサ、患者入力装置あるいは情報システムとの一方向又は二方向通信を容易にしてもよい。
【0022】
コントローラは、メモリ内に保存されたプログラムされた指示に応じてCIED100の全体的な動作を制御する。より具体的には、CIED100の検知回路は、特定のチャネルの電極によって検知された電圧から、複数の心房、心室及び遠方EGM信号(本来の又はペース調整された脈動において生じる心臓の脱分極の時間的経過及び振幅を示す)を、単独及びさまざまな組み合わせで生成する。コントローラは、心臓内電極110〜114及びパルス発生器102のハウジング108とともに形成された遠視野電極から検知されたEGM信号を読み取り、プログラムされたペーシングモードに基づいてペーシング電気パルスの供給を制御する。
【0023】
CIED又は他のCRM装置によって取得されたEGMと、体表面リードシステムを用いる心電図(「ECG」)装置によって取得された心電図との直接的比較分析を実現するために形態学的フレームワークが構築される。特に、心臓電気的活動モデルはCRM装置によるペーシング前後に取得されたECGから形成される。したがって、このモデルは、異常な基礎グローバル心臓電気的活動、CRM装置によって引き起こされるグローバル心臓電気的活動の変化及び心室興奮波面融合を最大化する所望のグローバル心臓電気的活動に関する情報を伝え、これによって心ポンプ機能改善の最大確率を補償する。EGMは、グローバル心臓活動を記録するためにECG装置によって一般的に用いられる体表面リードシステムと同じ観点を共有するわけではないが、形態学的フレームワークを用いることによって、心臓電気的活動のモデルをCIEDによって記録されたEGMと直接比較してもよい。したがって、複数のCIED EGMは、グローバル心臓電気的活動の体表面ECG測定値に対する形態学的サロゲートの役割を果たす。
【0024】
形態学的フレームワークは、心室興奮パターン比較のためのQRS記号フレームワークと呼ばれる。簡潔にいうと、各表面電極における前ペーシング及び後ペーシングQRS群は、四つの可能な波形要素:R、S、Q及びQSに分解される。各QRS群の全要素のミリボルト(「mV」)で表した絶対振幅及びミリ秒(「ms」)で表した継続時間を用いて、特定の興奮パターンが特徴づけられる。各表面電極における心室興奮は、以下の表1及び
図2に示すように、九つの可能なパターンすなわちQRS記号(「グリフ」)によって特徴付けることができる。
【0026】
上述のグリフは心室興奮シーケンスを分類するための視覚記号言語を構成するのに用いられる。各グリフは一つの観点から心室興奮のパターンを特徴付け、グリフの組み合わせを用いて複数の観点から(即ちグローバルな視点で)興奮を表現することができる。各QRS記号の要素波形の振幅、方向性、時間分及び他の側面は、心室興奮を定量化するために数値的分析することができる。例えば、分析をすることで、心室興奮の陽性(正の)変化(通常心室伝導遅延における反対向きの基礎力)の証拠が、心室ポンプ機能の改善を説明することができる。
【0027】
左脚ブロック(「LBBB」)中の典型的な心室興奮は、前平面において右から左、水平面において前から後ろ、体表面ECG上において変動軸として記録される。表面リードによって記録される心臓電気的活動をQRSグリフフレームワークで特徴付ける例として、このタイプの心室伝導ブロックは、表面リードI、aVLにおける優性な陽性力(グリフ:R、Rs)、aVRにおける陰性力(グリフ:QS)、II、III、AVFにおける変動性の力(グリフ:R、Rs、rS、QS)、V1−V2における優性な陰性力(グリフ:QS、rS)、V3−V5における転移(グリフ:rSからRs、R)及びV5−V6における優性な陽性力(グリフ:R、Rs)を伴うステレオタイプ記号サインを生成する。心室伝導ブロックの異なる形態についても、他の特徴的なQRS記号サインを同様に構築することができる。
【0028】
LBBBの実験モデルは、左心室内の電気的非同期性が心室興奮波面融合によって最小化されたときに心室ポンプ機能の最大改善が見られることを実証する。マルチサイトペーシング時における波面反対及び逆転は、二つの直交面で表現されるQRS波面要素の方向性の変化、QRS波面要素の振幅の変化(出現、増大、後退又は減少など)及び/又は基礎興奮に対するCRTペース調整QRS継続時間(「QRSd」)によって表される心室興奮時間の変化によって特徴付けられる心室興奮波面融合の予測可能なECG証拠をもたらす。例えば、前面電気軸の変化は、正常又は左軸偏位(「LADEV」)を右軸偏位(「RADEV」)に変える。この偏位は、前面における興奮の逆転、例えば右から左が左から右へ逆転することを示す。同様に、水平面における興奮逆転は、優性電気力の前方から後方が後方から前方へ変わる変化によって示される。このようなグローバル心室電気興奮における代表的な方向性変化は相関性を有するが、基礎電気興奮、ペース調整興奮、ペーシング制御パラメータ、ペーシングリード位置及びその他の検討事項間の相互作用に応じてさまざまな程度で出現してもよい。心室融合の証拠を特徴付ける別の方法は、ペーシング前後において、興奮波面逆転を示す予測方向における最大R波、S波又はQS波の振幅の変化の、局地的又はグローバルな測定値を使用するというものである。
【0029】
さらに、QRS記号サインの変化は、優性左方力を有するリードに右方力が出現するにつれて明らかになる。例えば、リードI及びaVLにおいて、qR、QR及びQSグリフがR、Rs又はRSグリフに取って代わる。これらの変化は前面における興奮の逆転(右から左、から左から右)を示す。さらに、前方力が優性後方力を有するリードに現れ、これは、リードV1におけるQSグリフからrS、RS、Rs又はRグリフへの変化、リードV2におけるQS又はrSグリフからRS、Rs又はRグリフへの変化、リードV3におけるrS又はRSグリフからRs又はRグリフへの変化などによって特徴付けられる。これらの変化は、水平面における興奮の逆転(前方から後方、から後方から前方)を示す。グローバル心臓電気的活動の基礎表面リード測定値及びマルチサイトペーシング時のこれらの測定値の予測変化に関する前述の情報は、QRS記号フレームワークに翻訳されると、CIEDによって読み込みすることができるとともにCIEDで記録されるEGMと比較することができる心臓電気的活動モデルの中に組み込まれる。
【0030】
局所的及び部分的QRS記号サインの予測変化は、本明細書で「中枢リード」と記載する特定表面ECGリード:I、aVL、特にV1及びV2においてもっとも顕著であることに注目すべきである。これらの中枢リードは、垂直な前面及び水平面におけるグローバル心室興奮を特徴付ける。リードI及びaVLは前面における右から左方向のグローバルな興奮を示し、一方でリードV1及びV2は水平面における前から後方向へのグローバルな興奮を示す。したがって、グローバル心室興奮の分析への代替的なアプローチは、精度を落さずに、減少した表面ECGリードセット(中枢リードのみを含む)からの情報を有する心臓電気的活動モデルを利用する。したがって、例示の減少したリードセットは、前面において興奮波面逆転を評価するために一から二本のリード(I、aVLリードなど)及び水平面において一から二本のリード(V1、V2リードなど)を含む。さらに、中枢リードI及びV1のみを含むさらに単純な表面ECGリードセットを用いても、前面及び水平面における興奮波面逆転を検出するのに十分観測可能な電力を提供することが可能である。
【0031】
心臓再同期療法実施のための本方法は、大きく二つの段階にまとめられる。第一に、心臓電気的活動のモデルが生成されてCRM装置に与えられ、第二に、ペーシング制御パラメータが、連続的、拍毎又はほぼ連続的に実質的に最適なグローバル心室興奮波面融合を実現するよう連続的に調整されるよう、CRM装置によって記録されたEGMが、与えられたモデルとリアルタイムで比較される。心臓電気的活動のモデルは、先ず、ペーシング前後において表面リードからECG信号を取得することによって生成される。次に、これらの信号はグローバル心室興奮のために分析される。QRS記号フレームを用いて、取得されたECG信号におけるグローバル心室興奮波面融合のマーカーが、体表面ECG測定値についてのCIED EGMサロゲートに送られる。このサロゲートは、単一又は複数の、相補的な心臓内の、局所的及び遠方EGM QRSグリフから形成される。これらのサロゲートは、体表面ECGへの後続の絶対的な依存を除外し、あるいは周期性体表面ECGベースの評価及び調整と共存し、患者特有ベースでのペーシング療法の自動測定(titration)のための終点ターゲットである。
【0032】
上述の本方法では、ペーシング療法の測定のための単一の全体的なプロセスが実行される。しかしながら、分析によれば、ペーシングパラメータを連続的に調整したにもかかわらず、患者によって波面融合を最適化する一般的なペーシング療法の方法に対する異なる反応が示されることが示されている。より具体的には、非同期性心不全患者におけるCRT前後の心室興奮シーケンス特徴のECGベースの分析は、CRTに対する、三つの区別可能な、相互排他的な包括的な心室興奮反応パターン表現型を説明する。さらに、患者の逆リモデリング及び心臓機能の改善の確率は、誘発反応パターン表現型に直接関係付けられてもよい。このことを考慮すると、本発明の方法を用いて、ペーシング療法に対する反応パターンをより深く理解するとともにより特徴付けることができ、反応パターンに基づく最適心室興奮波面融合の患者特定証拠の達成及び維持を介して、反応パターンを用いて心臓機能の改善の確率を決定すると共にペーシング療法の測定を最大化することができ、したがって心臓機能の改善の確率が最大化される。
【0033】
通常、CRTは、二以上のソース又は刺激サイト(二室ペーシングの際の右心室及び左心室の最も電気的に遅延した部分)からの進行波面を伴う。波動力学の原理によれば、これらの波面ソースは、時間的及び空間的に一定であるので、高コヒーレンスであると特徴付けられてもよい。より具体的には、波面は、CIEDコントローラを用いて、安定で同期がとられたペーシング刺激によって開始されるので、同じ周波数(単位時間当たりの波の数)を有し、即ち、例えば、一定刺激率と同じである。同様に、刺激サイト及び伝搬経路が解剖学的に不変であるので、興奮波面は空間的に一定である。これらの関係は任意の一対の刺激電極(例えば、単一電極刺激リード間、単一リードの複数の刺激電極間又は複数の電極を有するリード間)に適用できることに注目されたい。
【0034】
融合波面は個別の波面の合成物であり、個別の波面の位相関係及び振幅の影響を受ける。位相関係は、刺激タイミング(同時対順次的刺激など)、経路長及び波面伝搬に対する隔壁(瘢痕など)の影響を受ける。通常、高波面コヒーレンスの重要性は、波面間の相対的な位相関係が一定である又は固定されているということである。しかしながら、波面挙動における一部の力学的変動が、介在する心筋組織の伝導性の変動によって生じる可能性がある。さらに、波面位相関係は、ペーシング制御パラメータの操作によって変更することができる。したがって、臨床改善(特に逆リモデリング)の増大した確率と関連付けられかつ個別患者に合わせた特定の所望パターンを達成するために、集合体の融合波面をペーシング制御パラメータによって操作することができる。
【0035】
本発明によれば、有効又は無効な心室興奮波面融合反応の一般的認識のために波面伝搬を分析するために、波動力学を用いる概念的フレームワークが提供される。より具体的には、このフレームワークは、LBBB及びCRT中の特定の興奮パターンを特徴付けるための理論的構図を提供する。この構図において、CRTは、二以上のソース又は刺激サイト(二室ペーシングの際の右心室及び左心室の最も電気的に遅延した部分)からの個別の進行波面間の高コヒーレントな波面干渉の例を説明する。このことを単純な有効/無効観測よりさらに一歩進めると、示された波面干渉の特徴は、CRTに対する三つの区別可能な、互いに除外可能な、包括的な心室興奮反応パターン表現型(傾斜融合(oblique fusion)レスポンダー表現型、相殺融合(cancellation fusion)レスポンダー表現型及び総和融合(summation fusion)ノンレスポンダー表現型)に区別することができ、これについては以下に詳しく説明する。
【0036】
上述のように、融合波面は個別の波面の合成物であり、個別の波面の位相関係及び振幅の影響を受ける。伝搬波面が反対(opposed)である場合、結果としてもたらされる融合波面の興奮パターンは弱め合う干渉を反映する。本明細書で用いる場合、弱め合う干渉とは、二つの進行する反対波面が、さまざまな程度で、引き算によって互いに相殺される傾向があることを意味する。したがって、この場合、LBBBの基礎心室興奮シーケンスサインが、変動可能に反対の進行波面の混合の有効ペース調整心室興奮シーケンスによって置き換えられる。本明細書で用いる場合、有効とは、左心室(「LV」)ポンプ機能の改善の必須条件である、LBBBに対する心室伝導遅延を減少させる興奮シーケンスを意味する。
【0037】
これに対して、CRT中のLBBB基礎興奮シーケンスの強調の観測は、強め合う干渉によって特徴付けられる。本明細書で用いる場合、強め合う干渉とは、二つの進行波面が総和によって互いを強め合うことを意味し、したがって基礎心室伝導不良が悪化する。このような形の無効ペース調整心室興奮シーケンス又は融合不良は、LBBBに対する心室伝導遅延を減少させず、これによりLVポンプ機能の改善の可能性を除外する。また、場合によって、強め合う干渉は下部の心室伝導遅延を促進する可能性がある。
【0038】
上述の干渉パターンは、基礎波面シーケンスと比べた場合の伝搬波面の相対的位相関係(波面のピークと谷の相対的タイミング)及び相対的波振幅を分析することによって特徴付けることができる。さらに、ペース調整波面と基礎波面のQRS継続時間(「QRSd」)間の差分計算により、波面の位相関係及び相対的振幅を反映するとともに、合計の心室電気的非同期性の変化を定量化することができる。「QRSdiff」(又は「QRSdec」)と称されるこの差分計算は、12誘導体表面ECGから、以下の式に基づいて導出することができる。
【0040】
基礎QRSd(「bQRSd」)は、合計基礎心室電気興奮時間(「bVAT」)を測る基準である。ペース調整QRSd(「pQRSd」)は、合計ペース調整心室興奮時間(「pVAT」)を測る基準である。したがって、QRSdiffは、CRT前後の合計心室興奮(「VAT」)の差を測る基準である。pQRSdがbQRSdよりも短い場合、QRSdiffは陰性(負)(ゼロより小さい)であり、合計心室電気的非同期性が減少したこと及び電気的再同期がより有効であることを示す。次第に陰性となるQRSdiffは、あまり陰性でないQRSdiff値に比べて、基礎心室伝導遅延がより修正されたことを示すとともに、逆リモデリングの増大した確率と関連する。これに対して、pQRSdがbQRSdよりも長い場合、QRSdiffは陽性(正)(ゼロより大きい)であり、合計心室電気的非同期性が増大したこと及び電気的再同期があまり有効でないことを示し、これは、逆リモデリングの減少した確率と関連付けることができる(心室興奮シーケンスの陽性の変化がないなどのさらなる証拠と合わせて関連付けることができ、以下に詳しく説明する)。さらに、したがって、中立(neutral)又はゼロ値であるQRSdiffは、VATの変化がないことを示す。QRSdiffは、CRTに対する反応の基礎LV伝導遅延における変化の尺度として用いることができる。QRSdiffは、例えば最大左心室電気的興奮時間(「LVATmax」)によって基礎LV伝導遅延を説明する。任意の与えられたpQRSdについて、より大きい(より陰性の)QRSdiffは、LVATmaxが(より長いbQRSdから)減少したことを意味する。逆に、より小さい(より陽性の)QRSdiffは、LVATmaxが変化していない又は長期に及ぶことを意味する。
【0041】
上述の波面干渉パターン及び特徴に関して、三つの区別可能かつ互いに除外可能な観測波面融合表現型について、以下に説明する。これらの表現型の特定は、逆リモデリングの確率の決定を助けることができるとともに、最適なCRTのためのペーシングパラメータを決定するための特定測定シーケンスを提供するのに用いることもできる。
【0042】
傾斜(非対称)融合レスポンダー表現型
【0043】
傾斜又は非対称融合波面は、間接的に反対の波面の組み合わせを説明する。本明細書で用いる場合、「傾斜」との用語は、平行でも垂直でもない波面干渉を指す。個別の波面は高コヒーレンス(同じ周波数)、一定だがやや逆の位相関係(−90度よりも大きいが−180度よりも小さい)及び同じ又は異なるピーク振幅によって特徴付けられる。
【0044】
傾斜又は非対称融合波面表現型の弱め合う波面干渉は、新たなQRS成分波面の出現及び伝導遅延逆転の予測方向における先在の成分波面の後退によって特徴付けられ、これは興奮シーケンスの有効な又は陽性の変化を示す(CRT前に測定された基礎波面と比較して)。陰性のQRSdiff(合計心室電気的非同期性)は、この表現型を特徴付けるのには必要ではないが、しばしば観測され、ペーシング制御パラメータの影響を受ける。一部の患者では、QRSdiffは予測方向における興奮シーケンスの陽性の変化にもかかわらず中立である又は減少する(より陽性となる)。さらに、傾斜融合レスポンダー表現型は側壁刺激サイトで最もよく観測される。
【0045】
傾斜融合波面表現型のさまざまな例示的波面特徴の概略的表現が、
図3A〜3Fに示される。特に、
図3Aは、側壁刺激サイトからの同時両心室ペーシング中の単一チャンバ右心室波面アウトプット(「RVO」)及び単一チャンバ左心室波面アウトプット(「LVO」)を説明する。二つの波面は、高コヒーレンス、同等でない振幅(LVOがRVOよりも大きい)、時間的整列及び逆位相関係を示す。結果としてもたらされる融合波面は、興奮の陽性変化を示すRグリフと、合計VATが若干減少したことを示す若干陰性のQRSdiffを示す。これらの特徴を基礎波面と比較して決定する方法については以下でさらに説明する。
【0046】
図3Bは、側壁刺激サイトからの同時両心室ペーシング中のRVO波面及びLVO波面を説明する。二つの波面は、高コヒーレンス、同等でない振幅(LVOがRVOよりも大きい)、時間的非整列(異なる伝導時間又は伝導経路による)及びやや位相がずれた関係を示す。結果としてもたらされる融合波面は、興奮の陽性変化を示すRSグリフと、合計VATが不変であることを示す中立(ゼロ値)のQRSdiffを示す。
【0047】
図3Cは、側壁刺激サイトからの同時両心室ペーシング中のRVO波面及びLVO波面を説明する。二つの波面は、高コヒーレンス、同等でない振幅(LVOがRVOよりも大きい)、時間的非整列(左心室遅延を伴う異なる伝導時間による)及びやや位相がずれた関係を示す。結果としてもたらされる融合波面は、興奮の陽性変化を示すqRグリフと、合計VATが不変であることを示す中立(ゼロ値)のQRSdiffを示す。
【0048】
図3Dは、順次両心室ペーシング(左心室の後に右心室)中のRVO波面及びLVO波面を説明する。二つの波面は、高コヒーレンス、同等でない振幅(LVOがRVOよりも大きい)、時間的非整列(順次ペーシングによる)及びやや位相がずれた関係を示す。結果としてもたらされる融合波面は、興奮の陽性変化を示すRSグリフと、合計VATが不変であることを示す中立(ゼロ値)のQRSdiffを示す。
【0049】
図3Eは、順次両心室ペーシング(左心室興奮遅延)中のRVO波面及びLVO波面を説明する。二つの波面は、高コヒーレンス、同等でない振幅(LVOがRVOよりも大きい)、時間的整列(左心室獲得待ち時間又は進出ブロックによる)及び逆位相関係を示す。結果としてもたらされる融合波面は、興奮の陽性変化を示すRグリフと、合計VATが不変であることを示す中立(ゼロ値)のQRSdiffを示す。
【0050】
図3Fは、前静脈刺激サイトからの同時両心室ペーシング中のRVO波面及びLVO波面を説明する。二つの波面は、高コヒーレンス、同等でない振幅(RVOがLVOよりも大きい)、時間的整列及びやや位相がずれた関係を示す。結果としてもたらされる融合波面は、興奮のわずかな陽性変化を示すrSグリフと、合計VATのわずかな増大を示す若干陽性のQRSdiffを示す。
【0052】
相殺又は対称融合波面表現型は、直接的に反対の波面の組み合わせを説明する。本明細書で用いる場合、「相殺」との用語は、直接反対の(換言すると平行又は完全に位相がずれている)波面干渉を指す。これらの興奮波面は、高コヒーレンス(同じ周波数)、一定の高逆位相関係(−180度に近づく又は逆位相)及び同じ又は同様波面ピーク振幅によって特徴付けられる。
【0053】
相殺又は対称融合波面は、大きな度合いの相殺を示す。より具体的には、このような伝搬波面が完全に位相がずれているような場合、一方の波面の頂点が他方の波面の谷と一致して相殺される。したがって、出現する融合波面は引き算による両個別波面の合成物減少である。相殺又は対称融合波面の弱め合う波面干渉は、優性QRS成分波面の消滅によって特徴付けられ、興奮シーケンスの急激な陽性変化を示す。全QRS波面成分は減少し、QRSdiffは最大化される(基礎LBBBに対する全心室電気的非同期の大きな減少を示す)。
【0054】
相殺融合レスポンダー表現型は、側壁刺激サイトでほぼ独占的に観測される。ペース調整されたQRSdは通常相殺融合レスポンダーで最も短く、その結果、QRSdiffは通常、任意の基礎QRSdについて、上述の傾斜融合波面表現型において観測されたQRSdiffと比べてより大きい。合計心室電気的非同期性の減少を示すQRSdiffの大きな増大は必須であり、相殺融合表現型に対する唯一のマーカーとなり得る。また、波面後退は、典型的に観測されるものの、必須ではない。例えば、中枢リードにおける小規模な(準優性の)及び大規模な(優性の)QRS波面成分の後退は典型的であるが(例えばV1−V3でのR後退及びV1−V3でのQS/S後退)、必要ではない。
【0055】
表4に、例示的な相殺(対称)融合表現型の概略的表現を示す。特に、
図4は、側壁刺激サイトからの同時両心室ペーシング中のRVO波面及びLVO波面を説明する。二つの波面は、高コヒーレンス、同等の振幅、時間的整列及び逆位相(180度)関係を示す。結果としてもたらされる融合波面は、興奮の陽性変化を示すqsグリフ(後部の力の後退)と、合計VATの大きい減少を示す大きい陰性QRSdiffを示す。
【0057】
総和融合波面表現型は、同相の波面の組み合わせ(平行かつ反対でない、ピークと谷が整列したものを考える)を説明する。これらの興奮波面は、高コヒーレンス(同じ周波数)であるが、一定の高同相関係よって特徴付けられ、波面の総和をもたらす。総和融合波面の強め合う波面干渉は、中枢リードによる予測されるQRS変化がないこと、先在の波面の増強及び中立又は陽性QRSdiff(合計VATの増大を示す)によって特徴付けられる。到底興奮の陽性変化の証拠はみつからない。これらの関係の結論は、基礎心室興奮シーケンスが不変である又は強調(「増幅」)されたということである。
【0058】
増幅は、基礎心室伝導遅延が悪化されたことを示す。これは、中立(差がない)、あるいはより頻繁には、合計心室電気的非同期性の望ましくない増大(「伝導遅延スタッキング」という)を示すQRSdiffの陽性値を伴う。この反応パターンは非側壁刺激サイトで最もよく観測されるが、ペーシング制御パラメータを不適切に適用した際に側壁刺激サイトにおいて記録されるものでもあり及び/又は有効ペース調整興奮波面伝搬に対する基質関連障壁の結果でもある。
【0059】
総和融合ノンレスポンダー表現型は、真の又は顕性(manifest)融合不良表現型と、不顕性(concealed)融合不良表現型と、の二つのサブタイプを含む。顕性融合不良表現型は上記で特徴付けた真の強め合う干渉を示す。
図5は、例示的な顕性融合不良表現型の概略的表現を示す。特に、
図5は、中心静脈刺激サイトからの同時両心室ペーシング中のRVO波面及びLVO波面を説明する。二つの波面は、高コヒーレンス、同等の振幅、時間的整列及び同相(総和)関係を示す。結果としてもたらされる融合波面は、興奮の陽性変化がないことを示すQSグリフと、合計VATの大きい増大を示す大きい陽性QRSdiffを示す。
【0060】
不顕性融合不良表現型は、強め合う干渉の偽形態を有する患者において特徴付けられる。つまり、興奮シーケンスの陽性変化が到底ないにもかかわらず、ペーシング制御パラメータへの変化が傾斜融合又は相殺融合反応(つまり弱め合う干渉)への転換を生じさせる可能性が存在する。特に、以下でさらに議論するように、両心室ペーシングのタイミングの変化(同時から順次的な心室刺激へなど)又は多電極LVリードを用いる代替の(alternate)刺激経路の選択は、十分非同期性の波面周波数タイミングを生成し、以前は隠れていた傾斜又は相殺融合反応表現型を示す可能性がある。不顕性融合反応は、通常は右から左とは対照的に左から右がより大きいような差異を示す二方向性心室伝導時間、例えば瘢痕体積による固定伝導ブロック、機能性伝導ブロック、左心室獲得待ち時間若しくは進出ブロック及び/又は当業者にとって周知の他の因子によって起こる場合がある。
【0061】
図6は、ペーシング刺激サイト、心室興奮波面伝搬、波面干渉パターン及び心室興奮反応パターン表現型の関係のまとめを説明する。特に、相殺融合は直接的に反対の又は180度の波面間(例えばRV1とLV1の間)の位相関係において生じ、傾斜融合は間接的に反対の又は90から180度の波面間(例えばRV1とLV2の間)の位相関係において生じ、総和融合は同相又は0から90度の波面間(例えばRV1からLV4の間)の位相関係において生じる。以下でさらに議論するように、逆リモデリングに関するこれらの示されたパラメータ間の相互関係は、融合反応表現型に特有のCRTの自動測定を定式化するのに用いることができる。
【0062】
上述の融合反応表現型を、各々、逆リモデリング及び心臓機能の改善の確率とおおまかに関連付けることができる。さらに、他のパラメータに加えて正しい融合反応表現型の特定を用いて、逆リモデリングの確率をより詳細に見積もることができる。基質、LV刺激サイト、ペーシング制御パラメータの適用又は心室興奮融合反応パターンの単一のパラメータでは個別患者ベースで逆リモデリングの確率を説明するには十分でないものの、調査によれば、有利なパラメータの組み合わせを有する患者においてリモデリングの最も高い確率が観測され、その一方で複数の有利なパラメータを欠く患者においてリモデリングの最も低い確率が観測された、と認識されている。さらに、一以上の有利なパラメータの強い現れは、一以上の一以上の有利なパラメータの不在を克服することができる。逆に、場合によっては、単一の強陰性パラメータ(小さい左心室興奮時間など)は、有利なパラメータの任意の組み合わせによって克服することができない。例えば、以下に示す表2は、高い、中くらいの及び低い逆リモデリング確率を示す特徴的なパラメータの組み合わせを説明し、そのような条件下での例示的な全リモデリング率と、観測された傾斜融合表現型及び相殺融合表現型と関連した逆リモデリング率とを含む。
【0064】
上の表2を参照すると、傾斜及び相殺融合表現型(弱め合う干渉を示す)は逆リモデリングの増大した確率と関連し、一方で顕性融合不良表現型(強め合う干渉を示す)は逆リモデリングの実質的に減少した又は欠如した確率と関連すると認められる。また、逆リモデリングへのQRSdiffの影響は、側壁刺激サイトについて最大であり、非側壁刺激サイトについて最小である。つまり、
図7に示すように、リモデリングの確率は、非側部サイトについてほぼQRSdiffの値に無関心である。結果として、CRTペーシング制御パラメータは、左心室刺激サイトの知識によって影響を受け得る。さらに、逆リモデリングの確率へのQRSdiffの影響は融合反応表現型によって異なる。
図8に示すように、逆リモデリングとより大きいQRSdiffの高まる関係は、傾斜融合に比べて相殺融合の方がより傾斜が急である。さらに、傾斜融合の際のリモデリング率はQRSdiffに対して条件付きの感度を示す。例えば、有利な基質条件(低いLV瘢痕スコアなど)を有する傾斜融合レスポンダー表現型は、QRSdiffにかかわらず、リモデリングのより高い確率と関連付けられ、一方で、不利な基質条件(高いLV瘢痕スコアなど)を有する傾斜融合表現型は、リモデリング率が、QRSdiffが大きい(より陰性)ときは同様に高いが、QRSdiffが小さい(より陽性)のときは低い。さらに、相殺融合の際のリモデリング率は、QRSdiffに対してかなり感度が高い。例えば、基質条件にかかわらず、大きい(より陰性の)QRSdiffを有する相殺融合において最も高いリモデリング率が観測され、一方で小さい、中立の又は増大するQRSdiffでの相殺融合において実質的により低いリモデリング率が観測された。
【0065】
したがって、左心室逆リモデリングは、患者特有三段階事象連鎖の予測可能な結果と見なすことができる。第一段階又は「基質段階」は、固定であり、前述のように基礎ECG法を用いて瘢痕体積及びLVATmaxによって特徴付けられる。第二段階又は「手順結果段階」は、患者特有ECG融合反応表現型を生成するインプラントでのLVリード(側部対非側部)を示す。第三段階又は「ECG表現型測定段階」は、ECG融合反応表現型を調節するチャンバタイミング及びQRSdiffによって示されるVATの減少を参照する。例えば、下の表3は、上述の三段階に基づきリモデリング率を示す。
【0067】
上の表3によれば、良好な基質、側部リード及び融合ノンレスポンダー表現型を有する患者について、リモデリング率は40%である。同じ患者で測定されたECG融合反応(例えば、不顕性無反応からの直接(immediate)融合反応又は変換融合反応)においては、リモデリング率は、傾斜融合表現型についてはほぼ72%にまで増加し、相殺融合表現型については100%にまで増加する。何れかの融合反応表現型がVATをさらに減少することによって促進された場合、リモデリング率はそれぞれ96.1%及び100%に達する。これらの測定リモデリング率は、有利な基質条件及びすでに良好なリモデリング確率を有する患者において、LVリードサイト及び電気的再同期の測定によって改善される可能性があることを示す。
【0068】
悪い基質条件、側部刺激サイト及び融合ノンレスポンダー表現型を有する患者については、リモデリング率は低い(47.6%)。何れかの融合反応表現型を生成することでリモデリング率はわずかに改善され、相殺融合表現型の大きなQRSdiffに近づく測定によりリモデリング率が90%近くにまで増加する。良好な基質条件、非側部LVリードサイト及び傾斜又は相殺融合表現型の患者については、リモデリング率は、側部リードを有する他は同様の患者に比べて実質的に低い。最後に、悪い基質条件及び非側部リードを有する患者については、リモデリング率は融合反応表現型にかかわらず低い。
【0069】
まとめると、ECG表現型は、LV伝導遅延の逆転の有無の直接的な目に見える証拠及び電気的再同期効率の数値的定量化可能指標を与える患者特有CRTアウトプット測定値である。融合表現型は、分解されたQRS群ベースの記号言語を用いて表示される。融合グリフの三つのサブタイプは、波動伝搬中の干渉の原理を用いて生成される。傾斜及び相殺表現型は、有効波面融合の異なる度合いを表すとともに、リモデリングの増大した確率と関連する。電気的再同期の効率は、心室電気的非同期性(VAT)の減少を列挙するとともに増大したリモデリングの確率と関連する、患者特有の、融合反応表現型とリンクしたQRSdiffによって定量化される。反対に、融合無反応表現型は、波面総和(融合不良)を表し、増大したVAT及び減少したリモデリングを伴う。ECG表現型、電気的再同期効率及び逆リモデリングの確率は、LVリードサイトの影響を強く受ける。二つのECG融合反応表現型は側部リードからしばしば生成され、一方で融合無反応表現型は非側部リードと関連する。何れかの融合反応表現型について、VAT(QRSdif)及びリモデリングの確率の減少並びにLV体積減少は、非側部リードよりも側部リードの方が大きい。最大のQRSdiff、LV体積の最大減少及び最も高いリモデリング確率を伴う相殺融合反応表現型は、ほぼ例外なく側部リードから生成される。最後に、VATの減少(より大きいQRSdiff)と増大したリモデリング率の関係は、非側部リードよりも側部リードの方が急であり、傾斜融合反応表現型よりも相殺融合反応の方が急である。
【0070】
本発明によれば、融合レスポンダー表現型の認識の方法は、上述のCIEDベースEGMサロゲートに変換されたECG分析構造を用いてグローバル心臓電気的活動モデルを構築する工程と、特定の融合表現型を示す基準の波面特徴を分析する工程と、を含む。
【0071】
より具体的には、
図9に示すように、QRS記号サイン、心室興奮のグローバル測定値及びQRS継続時間を決定するために表面ECG方法論を用いて、基礎心室興奮を分析する(プロセスブロック200)。次に、単一チャンバ右心室及び左心室ペーシングを開始し(プロセスブロック202)、QRS記号サイン、心室興奮のグローバル測定値及びペース調整QRS継続時間を決定するために表面ECG方法論を用いて各心室興奮シーケンスを分析する(プロセスブロック204)。単一チャンバペーシングに続いて、両心室ペーシングを開始し(プロセスブロック206)、QRS記号サイン、心室興奮のグローバル測定値及びペース調整QRS継続時間を決定するためにQRS記号方法論を用いてペース調整心室興奮シーケンスを分析する(プロセスブロック208)。同時両心室ペーシング中に、ペース調整QRSdと基礎QRSdの間でQRSdiffを決定する(プロセスブロック210)。QRSdiffの決定後、基礎心室興奮シーケンスをペース調整心室興奮シーケンスと比較し(プロセスブロック212)、傾斜(非対称)融合レスポンダー表現型を示すパラメータを満足しているか否かを決定する(プロセスブロック214)。そうであれば、傾斜融合レスポンダー表現型を特定し(プロセスブロック216)、特定プロセスが完了する(プロセスブロック218)。そうでなければ、相殺(対称)融合レスポンダー表現型を示すパラメータを満足しているか否かを決定する(プロセスブロック220)。そのようなパラメータを満足していれば、相殺融合レスポンダー表現型を特定し(プロセスブロック222)、特定プロセスが完了する(プロセスブロック218)。そうでなければ、融合ノンレスポンダーレスポンダー表現型を示すパラメータを満足しているか否かを決定する(プロセスブロック224)。そのようなパラメータを満足していれば、融合ノンレスポンダー表現型を特定し(プロセスブロック226)、特定プロセスが完了する(プロセスブロック218)。
【0072】
傾斜融合レスポンダー表現型を示すパラメータのセットは、中枢リード(V1−V3など)における新たな前方向きの力(R波)の発生、中枢リード(V1−V3など)における後方向きの力(QS,S波)の後退の有無、中枢リード(I、aVLなど)における左向きの力(R波)の後退の有無、中枢リード(I、aVLなど)における右向きの力(Q、QS)の発生の有無、QRSdiffが陰性、中立又は陽性であること、を含む。
【0073】
相殺融合レスポンダー表現型を示すパラメータのセットは、中枢リードによる興奮逆転の予測方向における新たなQRS波形成分の発生がないこと、中枢リード(V1−V3など)における後方向き後から(QS,S波)の後退、中枢リード(V1−V3における)前方向きの力(R、r波)の後退の有無、中枢リード(I、aVLなど)における左向きの力(R波)の後退の有無又は右向きの力(QS、S波)の増幅、QRSdiff値が陰性であること、を含む。
【0074】
融合ノンレスポンダー表現型を示すパラメータのセットは、中枢リードによる興奮逆転の予測方向における新たなQRS波形成分の発生がないこと、中枢リードによる興奮逆転の予測方向における既存の波形成分の後退がない又は最小限であること、既存のQRS波形成分(興奮逆転の予測方向と反対)の増幅、QRSdiff値が中立又は陽性であること、を含む。
【0075】
いったん融合反応表現型が特定されると(
図9のプロセスの完了によって示される)、最適融合興奮を達成するためのペーシング制御パラメータを測定するための、特定された表現型に特有のプロセスが、開始される。例示の制御パラメータ調整は、短縮することによるなどのペース調整房室間隔(「pAVI」)の操作、あるいは早期興奮心室の前に固定又は可変間隔で電気的に遅延された心室を刺激することによるなどの心室−心室即ち「V−V」タイミング間隔を用いた順次的に同期がとられた両心室(「BV」)ペーシングタイミングの操作を含む。さらに、下記にさらに説明するように、場合によっては特定融合反応表現型の最適化は多電極LVリードを用いることによって一部の患者で促進されることがある。
【0076】
図10に、傾斜融合レスポンダーにおける最適興奮融合を測定するための例示のプロセスの概要を示す。このプロセスの普遍的目標は、最適な傾斜融合及び房室再同期を達成するペーシング制御設定の組み合わせを特定することである。pAVI、右心室及び左心室刺激のタイミング並びに左心室伝導遅延の修正の間の関係により、このプロセスは、両心室ペーシング(特にLV興奮タイミング)の最適化とpAVIの最適化の二つの主要なシーケンスを介して実施してもよい。以下に記載する
図10のプロセス工程はこのアプローチを広い意味でまとめているが、完全ではない。
【0077】
まず、固定pAVIにおいて(例えば、100ms又は固有AVI(「iAVI」)の50%にて)同時BVペーシングを実施する(プロセスブロック228)。場合によっては、
図9の特定プロセスで実施された同時BVペーシングを続けてもよい。次に、興奮シーケンスアウトプットメトリクス又は基礎波形の測定値(例えば、ペーシング前に測定されたもの)及び上述の同時BVペーシングによって作られた波形の測定値を含む
図11に示すような興奮シーケンスメトリクスログが生成される(プロセスブロック230)。そのような測定値は、次のものに必ずしも限定されないが、中枢リードV1からの最大R波振幅、R波振幅の基礎からの変化、QRSグリフ反応、QRS継続時間及びQRSdiffを含む。興奮シーケンスメトリクスログは、まず、観測された融合波形メトリクスが視覚的に比較できるよう(R波振幅変化及びQRSdiffの観点から)又はプロセッサにより数値的にまとめられるよう、基礎メトリクスを含むことができる。
図11の例示的な興奮シーケンスメトリクスログによれば、一列目に示すように、基礎波形は、R波を示さず(したがってR波振幅は0mV)、QSグリフを示し、QRSdが200msであることを示した。また、二列目に示すように、プロセスブロック228で実行された同時BVペーシングは、最大R波振幅が2mV、R波振幅の変化が2mV、rSグリフ、QRSdが200ms及びQRSdiffが0msを示す融合波形を生成した。この例によれば、同時BVペーシングの間に、QSグリフからrSグリフへの変換によって示されるようにR波の発生及びS波の後退が起こり、したがって傾斜融合を示す。
【0078】
次に、100msなどの固定pAVIにおいて、繰り返し順次BVペーシングを実施し(プロセスブロック232)、ここでV−Vタイミング間隔が次第に増大する、つまり左心室刺激のタイミングが右心室刺激に対して段階的な値(例えば+10ms、+20ms、+30msなど)で次第に進行する。各繰り返しにおける融合波形メトリクスを特定し、興奮シーケンスメトリクスログに記録する(プロセスブロック234)。一例として、
図11は、三列目に示すように、+10msのLV興奮での順次BVペーシングによって、最大R波振幅が5mV、R波振幅の変化が5mV、RSグリフ、QRSdが180ms及びQRSdiffが−20msを示す融合波形が生成されたことを示す。四列目に示すように、+20msのLV興奮での順次BVペーシングによって、最大R波振幅が8mV、R波振幅の変化が8mV、Rsグリフ、QRSdが170ms及びQRSdiffが−30msを示す融合波形が生成された。五列目に示すように、+30msのLV興奮での順次BVペーシングによって、最大R波振幅が10mV、R波振幅の変化が10mV、Rグリフ、QRSdが220ms及びQRSdiffが+20msを示す融合波形が生成された。この例において、順次ペーシング中に、R波振幅は次第に増大しS波は消えて、基礎伝導不良が次第に逆転することを示す(前方−後方から後方−前方)。
【0079】
次に、最小のペース調整QRSdで、最大の陰性(増大)QRSdiffをもたらす、興奮の陽性変化の最大の証拠(QRSグリフによって示される)によって特徴付けられる最適融合表現型波面を達成するペーシング制御設定、特にLV興奮タイミング、を特定するために、各順次BVペーシング設定の興奮シーケンスアウトプットメトリクスを調査する(プロセスブロック236)。したがって、
図11に示されたメトリクスログの例に戻って参照すると、+20msのLV興奮(四列目に示す)での順次BVペーシングが、興奮の陽性変化、最小QRSd及び最も陰性のQRSdiff(合計VATの最大減少)によって決定されるように、最適傾斜融合波面を示した。傾斜融合波面が中立又は減少したQRSdiffを伴う興奮シーケンスの陽性変化を示し得ることから、そのような条件下の最適ペーシング制御設定は、場合によって最小ペース調整QRSdのみしかもたらさないものでもよい(興奮シーケンスの陽性変化にもかかわらず合計VATが中立又は増大した)。
【0080】
プロセスブロック236で最適LV興奮タイミングが決定されたならば、繰り返し同時BVペーシングを実施し(プロセスブロック238)、ここでpAVIは段階的な値(120ms、100ms、80ms、60msなど)で次第に変化する。各繰り返しにおける融合表現型波形メトリクスを特定し、少なくとも基礎波面メトリクスを含む興奮シーケンスメトリクスログに記録する(プロセスブロック240)。一例として、
図12は、一列目に示すように、R波を示さず(したがってR波振幅は0mV)、QSグリフを示し、QRSdが200msである基本波形を用いた興奮シーケンスメトリクスログを示す。二列目に示すように、120msのpAVIでの同時BVペーシングによって、最大R波振幅が2mV、R波振幅の変化が2mV、rSグリフ、QRSdが200ms及びQRSdiffが0msを示す融合波形が生成された。三列目に示すように、100msのpAVIでの同時BVペーシングによって、最大R波振幅が7mV、R波振幅の変化が7mV、RSグリフ、QRSdが180ms及びQRSdiffが−20msを示す融合波形が生成された。四列目に示すように、80msのpAVIでの同時BVペーシングによって、最大R波振幅が8mV、R波振幅の変化が8mV、Rsグリフ、QRSdが170ms及びQRSdiffが−30msを示す融合波形が生成された。五列目に示すように、60msのpAVIでの同時BVペーシングによって、最大R波振幅が10mV、R波振幅の変化が10mV、Rグリフ、QRSdが220ms及びQRSdiffが+20msを示す融合波形が生成された。
【0081】
次に、最小のペース調整QRSdで、最大の陰性(増大)QRSdiffをもたらす、興奮の陽性変化の最大の証拠(QRSグリフによって示される)によって特徴付けられる最適融合波面を達成するペーシング制御設定、特にpAVI、を特定するために、各同時BVペーシング設定の興奮シーケンスアウトプットメトリクスを調査する(プロセスブロック242)。したがって、
図12に示すメトリクスログの例に戻って参照すると、80mspAVI(四列目に示す)での同時BVペーシングが、興奮の陽性変化、最小QRSd及び最も陰性のQRSdiffによって決定されるように、最適傾斜融合表現型波形を示した。上述のように、傾斜融合波面が中立又は減少したQRSdiffを伴う興奮シーケンスの陽性変化を示し得ることから、そのような条件下の最適ペーシング制御設定は、場合によって最小ペース調整QRSdのみしかもたらさないものでもよい。
【0082】
プロセスブロック242で最適pAVI設定が決定されたならば、追加のpAVI設定チェックを行う(プロセスブロック244)。この追加のチェックは、事前開示で述べたように、プロセスブロック242で決定された最適pAVIが心房性検知及び心房性ペーシングの条件を確実に満たすようにする。例えば、選択されたpAVIは、継続時間が短すぎると(例えば
図12の五列目に示す60mspAVIなど)そのような条件を満たさない場合がある。選択されたpAVIがそのような条件を満たさなければ、興奮シーケンスアウトプットメトリクスを調査して「次に最も良い」pAVIを選択する(プロセスブロック246)。もしpAVIが心房性検知及び心房性ペーシング条件を満たせば、選択されたLV興奮タイミング及びpAVIをCRTのための最終ペーシング制御設定として用いる(プロセスブロック248)。したがって、上述の方法によれば、最適傾斜融合のための最終ペーシング制御設定は、傾斜融合レスポンダー表現型の興奮シーケンスの陽性変化の証拠を最大化する、ペース調整QRSdを最小化する、陰性(増大)QRSdiffを最大化又は陽性(減少)QRSdiffを最小化するという条件を満たすとともに、心房性検知及びペーシングの条件下の最適pAVI条件を満たすものでもよい。
【0083】
ペーシング制御パラメータ(pAVI、順次両心室刺激及び/又は他の当業者に周知の操作)の測定における興奮シーケンスメトリクスの変化が、おおまかに予測可能な傾向及び挙動を表示する場合があることが認識される。例えば、極度のRV興奮に先行するLV(LV preceding RV activation)では、R振幅及びペース調整QRSdは、合計興奮逆転及び合計心室電気的非同期性の増大を示す最大値であることが大抵の場合は事実であると認識されている。しかしながら、ペーシング制御パラメータの測定における興奮シーケンスメトリクスの変化は、大きな患者内及び患者間不均一性をも示す。例えば、
図13(A)〜(D)は、QRSdiffと比べたR波発生に関する患者特有興奮メトリクス反応曲線の例を示す。
図13(A)に示すように、一部の患者は、タイミングパラメータの繰り返し変化に対して比較的「平ら」な傾斜融合表現型興奮メトリクス反応曲線を示し、一方で他は、不十分な融合又は過剰修正により何れかの側にブラケットを用いて示すように、最適傾斜融合表現型メトリクスの単一回転軸を示す。
【0084】
図11、12に表示された興奮シーケンスメトリクスは、最適な波面融合を決定するには正確であるとはいえ、単に代表的なものである。融合測定シーケンス中のQRSグリフの変化の正確な定量化を可能とするのに十分である多数の追加のメトリクスを収集してもよい。同様に、臨界体表面ECGグリフのための定量的なサロゲートの役割を果たすCIEDグリフについての同様の方法及び論理を用いて、並行興奮シーケンス変化メトリクスログを構成してもよい。さらに、場合によっては、個別の患者に対する最適なペーシング制御パラメータの精度をさらに高めるために、上述の二つの測定プロセスを並行して実行してもよい。この場合の例示的なアプローチは、許容されるpAVIの全ての値にわたって順次両心室ペーシングを繰り返し変化させるというものである。これにより、興奮シーケンス変化メトリクスログにおけるデータポイントの数が増大し、個別の患者に対する最適ペーシング制御パラメータの精度がさらに高まる。さらに、これらの並行測定プロセスの結果は、心房性検知及びペーシングの状態において最適pAVI測定と完全に統合されることができる。
【0085】
図14に、相殺(対称)融合レスポンダーにおける最適興奮融合を測定する例示的なプロセスの概要を示す。このプロセスの普遍的目標は、最適な相殺融合及び房室再同期を達成するペーシング制御設定の組み合わせを特定することである。相殺融合の最適化のためのこのプロセスは、上で傾斜融合について述べたものと同様の論理及び骨組みを用いて実施してもよいが、異なる動作パラメータ及び興奮シーケンス変化アウトプットメトリクスを含むこともできる。上述の論理に続いて、pAVI、右心室及び左心室刺激のタイミング並びに左心室伝導遅延の関係により、このプロセスは、両心室ペーシングの最適化及びpAVIの最適化の二つの主要シーケンスを介して実行されてもよい。以下に記載する
図14のプロセス工程はこのアプローチを広くまとめたものであり、完全なものではない。
【0086】
まず、固定pAVIにて(例えば100ms又はiAVIの50%で)同時BVペーシングを実施する(プロセスブロック250)。場合によっては、
図8の特定プロセスで実施した同時BVペーシングを続けて行ってもよい。次に、興奮シーケンスアウトプットメトリクス又は基礎波形及び上述の同時BVペーシングによって生じた波形の測定値を含む、
図15に示されるような興奮シーケンスメトリクスログを生成する(プロセスブロック252)。このような測定値は、必ずしも次のものに限定されないが、中枢リードV1−V3からの最大QS波振幅、基礎からのQS波振幅の変化、QRSグリフ反応、QRS継続時間及びQRSdiffを含むことができる。場合によっては、このプロセスにおいて、S波メトリクスをQS波メトリクスに代入してもよい。
図15の興奮シーケンスメトリクスログの例によれば、基礎波形は、一列目に示すように、QS波振幅が10mV、QSグリフ及びQRSdが200msを示した。二列目に示すように、プロセスブロック250で実行された同時BVペーシングによって、QS波振幅が9mV、QS波振幅の変化が−1mV、QSグリフ、QRSdが180ms及びQRSdiffが−20msを示す融合波形が生成された。
【0087】
次に、100msなどの固定pAVIにて繰り返し順次BVペーシングを実施し(プロセスブロック254)、ここで左心室刺激のタイミングが右心室刺激に対して段階的な値(例えば+10ms、+20ms、+60msなど)で次第に進行する。各繰り返しにおける融合波形メトリクスを特定し、興奮シーケンスメトリクスログに記録する(プロセスブロック256)。一例として、
図15は、三列目に示すように、+10msのLV興奮での順次BVペーシングによって、QS波振幅が6mV、QS波振幅の変化が−4mV、QSグリフ、QRSdが160ms及びQRSdiffが−40msを示す融合波形が生成されたことを示す。四列目に示すように、+20msのLV興奮での順次BVペーシングによって、QS波振幅が4、QS波振幅の変化が−6mV、QSグリフ、QRSdが150ms及びQRSdiffが−50msを示す融合波形が生成された。五列目に示すように、+60msのLV興奮での順次BVペーシングによって、QS波振幅が0、QS波振幅の変化が−10mV、Rグリフ、QRSdが200ms及びQRSdiffが0ms(過剰修正を示す)を示す融合波形が生成された。この例において、順次ペーシング中に、QS後退が次第に増大し、基礎伝導不良が次第に逆転することを示す(前方−後方から後方−前方)。
【0088】
次に、最小ペース調整QRSdで、最大の陰性(増大)QRSdiffをもたらす、興奮の陽性変化の最大の証拠(QRSグリフの後退によって示される)によって特徴付けられる最適融合波面を達成するペーシング制御設定、特にLV興奮タイミング、を特定するために、各順次BVペーシング設定の興奮シーケンスアウトプットメトリクスを調査する(プロセスブロック258)。傾斜融合レスポンダーとは異なり、増大したQRSdiffのみが、相殺融合における興奮シーケンスの陽性変化の証拠の必須条件である。さらに、傾斜融合レスポンダーとは異なり、QRSグリフの変化は新たなQRS波形の発生を含まない。それどころか、QRSグリフの変化は、左向きで後方に向いた力(特にQS、S波)の後退に限られる。したがって、相殺融合レスポンダーにおいては、これらの条件下での最良のペーシング制御設定は、最大陰性値QRSdiff(又は最小ペース調整QRSd)をもたらすものである。
【0089】
したがって、
図15に示すメトリクスログの例に戻って参照すると、+20msのLV興奮(四列目に示す)での順次BVペーシングが、最小QRSd及び最も陰性のQRSdiffによって決定されるように、最適相殺融合表現型波面を示した。このペーシングパラメータ下では、QRSグリフは不変であるが、振幅は60%減少し、ペース調整QRSdは25%減少した(故に「相殺」を生じる)ことに注目する。この例において、より小さい程度の順次両心室ペーシング(+10msLV興奮)は、興奮の陽性変化(QS後退)のより弱い証拠、より長いペース調整QRSd及びより小さい(より陰性の)QRSdiffをもたらし、その一方で、より大きい程度の順次両心室ペーシング(+60msLV興奮)は、合計興奮逆転(単調Rグリフによって示される)、相殺から傾斜融合表現型への変換、最大ペース調整QRSd及び陽性値QRSdiffをもたらした。また、このより大きい程度は、合計心室電気的非同期性の望ましくない増大及び相殺融合表現型の完全廃止をももたらした。
【0090】
プロセスブロック258で最適LV興奮タイミングが決定されたならば、繰り返し同時BVペーシングを実施し(プロセスブロック260)、ここでpAVIは段階的な値(130ms、120ms、100ms、80msなど)で次第に変化する。各繰り返しにおける融合波形メトリクスを特定し、少なくとも基礎波面メトリクスを含む(及び順次BVペーシングからのメトリクスを含んでも含まなくてもよい)興奮シーケンスメトリクスログに記録する(プロセスブロック262)。一例として、
図16は、一列目に示すように、QS波振幅が10mV、QSグリフ、QRSdが200msである基礎波形を用いた興奮シーケンスメトリクスログを示す。二列目に示すように、130msのpAVIでの同時BVペーシングによって、QS波振幅が11mV、QS波振幅の変化が1mV、QSグリフ、QRSdが180ms及びQRSdiffが−20msを示す相殺融合波形が生成された。三列目に示すように、120msのpAVIでの同時BVペーシングによって、QS波振幅が7mV、QS波振幅の変化が3mV、QSグリフ、QRSdが165ms及びQRSdiffが−35msを示す相殺融合波形が生成された。四列目に示すように、110msのpAVIでの同時BVペーシングによって、QS波振幅が5mV、QS波振幅の変化が5mV、QSグリフ、QRSdが150ms及びQRSdiffが−50msを示す相殺融合波形が生成された。五列目に示すように、80msのpAVIでの同時BVペーシングによって、QS波の消失(QS波振幅が0mV、QS波振幅の変化が−10mVであることにより示される)及び新たに発生したRグリフを示すととともにQRSdが200ms及びQRSdiffが0msである相殺融合波形が生成された。
【0091】
次に、最小のペース調整QRSdで、最大の陰性(増大)QRSdiffをもたらす、興奮の陽性変化の最大の証拠(QRSグリフによって示される)によって特徴付けられる最適融合波面を達成するペーシング制御設定、特にpAVI、を特定するために、各同時BVペーシング設定の興奮シーケンスアウトプットメトリクスを調査する(プロセスブロック264)。上述のように、相殺融合波面は、中立もしくは減少したQRSdiff又はQRSグリフの観測可能な後退を伴う興奮シーケンスの陽性変化を示さない場合があることから、このような条件下での最適ペーシング制御設定は最も陰性のQRSdiffをもたらすものでもよい。したがって、
図16に示すメトリクスログの例に戻って参照すると、100mspAVI(四列目に示す)での同時BVペーシングが、最小QRSd及び最も陰性のQRSdiffによって決定されるように、最適相殺融合波形を示した。
【0092】
プロセスブロック264で最適pAVI設定が決定されたならば、追加のpAVI設定チェックを行う(プロセスブロック266)。この追加のチェックは、プロセスブロック242で決定された最適pAVIが心房性検知及び心房性ペーシングの条件を確実に満たすようにする。例えば、選択されたpAVIは、継続時間が短すぎると(例えば
図16の五列目に示す80mspAVIなど)そのような条件を満たさない場合がある。選択されたpAVIがそのような条件を満たさなければ、興奮シーケンスアウトプットメトリクスを調査して「次に最も良い」pAVIを選択する(プロセスブロック268)。もしpAVIが心房性検知及び心房性ペーシング条件を満たせば、選択されたLV興奮タイミング及びpAVIをCRTのための最終ペーシング制御設定として用いる(プロセスブロック270)。したがって、上述の方法によれば、最適相殺融合のための最終ペーシング制御設定は、中枢リードV1−V3における後方向きの力(QS、S波)の後退によって示される興奮シーケンスの陽性変化の証拠を最大化する、ペース調整QRSdを最小化する及び陰性(増大)QRSdiffを最大化するという条件を満たすとともに、心房性検知及びペーシングの条件下の最適pAVI条件を満たすものでもよい。
【0093】
上で傾斜融合について述べたように、ペーシング制御パラメータ(pAVI、順次BV刺激及び他の当業者に周知の操作)の測定における興奮シーケンスメトリクスの変化が、おおまかに予測可能な傾向及び挙動を表示するが、大きな患者内及び患者間不均一性も示す場合があることが認識される。例えば、pAVIと順次BVペーシングの特定の組み合わせが、最適波面融合を達成するために必要となる。同様に、同時BVペーシングの際にpAVIのみが異なりその他は同様に患者において、このpAVIのみの違いは、最適相殺融合を達成する場合がある。さらに、他の患者において、LV電極対、pAVI及び順次両心室ペーシングの特定の組み合わせが、最適波面融合を達成するのに必要となることも可能である。
【0094】
さらに、
図15、16に表示された興奮シーケンスメトリクスは、最適な波面融合を決定するには正確であるとはいえ、単に代表的なものである。融合測定シーケンス中のQRSグリフの変化の正確な定量化を可能とするのに十分である多数の追加のメトリクスを収集してもよい。同様に、臨界体表面ECGグリフのための定量的なサロゲートの役割をするCIEDグリフについての同様の方法及び論理を用いて、並行興奮シーケンス変化メトリクスログを構成してもよい。さらに、場合によっては、上で傾斜融合について議論したように、個別の患者に対する最適なペーシング制御パラメータの精度をさらに高めるために、上述の二つの測定プロセスを並行して実行してもよい。
【0095】
上述の論理的及び分析的アプローチを続け、
図17に、不顕性融合レスポンダー表現型を特定するプロセスの例を示す。このプロセスの普遍的目標は、融合ノンレスポンダー表現型を装った弱め合う干渉の偽の形を有する患者を特定することである。通常、これは、傾斜融合又は相殺融合レスポンダーへの変換を生じさせるためにペーシング制御パラメータの変化を用いて達成してもよい。特に、非同期性波面周波数タイミングをもたらす両心室ペーシングのタイミングの変化(順次心室刺激など)又は経路長の変化(多電極LVリードを用いる代替の刺激経路など)は、同時両心室刺激によって隠されていた傾斜又は相殺融合反応表現型を示す場合がある。これは、順次BV刺激が、同時BVペーシングにおける興奮シーケンスの陽性変化を抑制すると分かっている因子、特異的二方向心室伝導時間、固定伝導ブロック(瘢痕体積から)、機能的伝導ブロック、左心室獲得待ち時間及び/又は当業者に周知のその他の因子を含む、を取り除くことができるという見解を利用する。以下に記載する
図17のプロセス工程はこのアプローチを広い意味でまとめているが、完全ではない。
【0096】
まず、固定pAVIにおいて(例えば、100ms又はiAVIの50%にて)同時BVペーシングを実施する(プロセスブロック272)。場合によっては、
図8の特定プロセスで実施された同時BVペーシングを続けてもよい。次に、興奮シーケンスアウトプットメトリクス又は基礎波形及び上述の同時BVペーシングによって作られた波形の測定値を含む
図18に示すような興奮シーケンスメトリクスログが生成される(プロセスブロック274)。そのような測定値は、次のものに必ずしも限定されないが、中枢リードV1−V3からの最大QS及びR波振幅、QS及びR波振幅の基礎からの変化、QRS継続時間及びQRSdiffを含む。場合によっては、このプロセスにおいて、S波メトリクスをQS波メトリクスに代入してもよい。
図18の興奮シーケンスメトリクスログの例によれば、基礎波形は、一列目に示すように、QSグリフ、R波振幅が0mV、QS振幅が10mV及びQRSdが200msを示す。二列目に示すように、プロセスブロック272で実行された同時BVペーシングによって、QSグリフ、QS波振幅が12mV、R波振幅の変化が0mV、QS波振幅の変化が2mV、QRSdが220ms及びQRSdiffが+20msを示す融合波形が生成された。
【0097】
次に、100msなどの固定pAVIにおいて、繰り返し順次BVペーシングを実施し(プロセスブロック276)、ここで左心室刺激のタイミングが右心室刺激に対して段階的な値(例えば+10ms、+20ms、+30ms、+60msなど)で次第に進行する。各繰り返しにおける融合波形メトリクスを特定し、興奮シーケンスメトリクスログに記録する(プロセスブロック278)。一例として、
図18は、三列目に示すように、+10msのLV興奮での順次BVペーシングによって、QSグリフ、QS波振幅が6mV、R波振幅の変化が0mV、QS波振幅の変化が−4mV、QRSdが160ms及びQRSdiffが−40msを示す融合波形が生成されたことを示す。四列目に示すように、+20msのLV興奮での順次BVペーシングによって、rSグリフ、R波振幅が2mV、QS波振幅が5mV、R波振幅の変化が2mV、QS波振幅の変化が−5mV、QRSdが180ms及びQRSdiffが−20msを示す融合波形が生成された。五列目に示すように、+30msのLV興奮での順次BVペーシングによって、RSグリフ、R波振幅が5mV、QS波振幅が5mV、R波振幅の変化が5mV、QS波振幅の変化が−5mV、QRSdが200ms及びQRSdiffが0msを示す融合波形が生成された。六列目に示すように、+60msのLV興奮での順次BVペーシングによって、Rグリフ、R波振幅が6mV、R波振幅の変化が6mV、QS波の消失(QS波振幅の変化が−10mVであることにより示される)、QRSdが210ms及びQRSdiffが+10msを示す融合波形が生成された。
【0098】
プロセスブロック276の順次BVペーシングは、傾斜又は相殺融合を含むことによって融合興奮を促進することができる位相シフトを生じさせてもよい。したがって、次に、不顕性傾斜又は相殺融合表現型の発生を特定するために、各順次BVペーシング設定についての興奮シーケンスアウトプットメトリクスを調査する(プロセスブロック280)。例えば、
図18に戻って参照すると、+10msでのLV興奮(三列目に示す)が、相殺融合表現型への変換を示す。これは、全波形成分が後退したこと(最も注目すべきはQS振幅の40%減少)、QRSdが40%減少したこと、もたらされたQRSdiffが−40msであることによって示され、合計心室非同期性の大きな減少を示す。さらに、より大きいLV興奮タイミングでの順次両心室ペーシングを続けると、
図18のメトリクスログの四列目に示すように、傾斜融合表現型へのさらなる変換が生じる。これは、QSからrSへのQRSグリフの変化によって示され、前方向きの力(R波)の発生を反映する。順次両心室ペーシングのさらなる増大は、予測QRSグリフ変化、QRSdの増大及びQRSdiffの減少とともに、持続性傾斜融合表現型を進行させる。さらに、この例では、最大陰性(増大)QRSdiffをもたらす最小ペース調整QRSdにおける興奮の陽性変化の最大証拠(QRSグリフ反応)が、+20msLV興奮(三列目に示す)でのBV順次ペーシングにおいて、相殺融合表現型への変換が生じたときに観測される。
【0099】
融合ノンレスポンダーから傾斜又は相殺融合表現型への変換が観測された場合(プロセスブロック282で決定されるように)、次に、上述の各最適化シーケンスを実行する(プロセスブロック284)。場合によっては、傾斜又は相殺融合表現型が観測されるとすぐに各最適化プロセスを実施することができるよう(さらなる繰り返しを続けることなく)、興奮シーケンスアウトプットメトリクスを記録して各繰り返しの後に評価してもよい。
【0100】
融合ノンレスポンダー表現型が持続する場合(プロセスブロック282で決定されるように)、繰り返し同時BVペーシングを実施し(プロセスブロック286)、ここでpAVIが段階的な値(120ms、110ms、100msなど)で次第に変化する。各繰り返しでの融合波形メトリクスを特定し、少なくともくそ波面メトリクスを含む興奮シーケンスメトリクスログに記録する(プロセスブロック288)。上述のものと同様に、次に、不顕性傾斜又は相殺融合表現型の発生を特定するために、各同時BVペーシング設定についての興奮シーケンスアウトプットメトリクスを調査する(プロセスブロック290)。融合ノンレスポンダーから傾斜又は相殺融合表現型への変換が観測された場合(プロセスブロック292で決定されるように)、次に上述の各最適化シーケンスを実行する(プロセスブロック294)。
【0101】
融合ノンレスポンダー表現型が持続する場合(プロセスブロック292で決定されるように)、顕性融合ノンレスポンダー表現型を確認し(プロセスブロック296)、ペーシング制御パラメータのさらなる操作は適用されず、つまり、両心室ペーシングを用いてペーシング制御パラメータを有する興奮の陽性変化を生じさせるためのさらなる試みは行わない。
【0102】
図19は、顕性融合ノンレスポンダーを示す、興奮シーケンスアウトプットメトリクス又は測定値(例えば、上述のプロセスブロック272−280からのもの)を含む興奮シーケンスメトリクスログの例を示す。
図19において、基礎波形は、一列目に示すように、QSグリフ、QS振幅が10mV及びQRSdが200msを示す。二列目に示すように、固定100mspAVIでの同時BVペーシングによって、持続するQSグリフ、QS波振幅が12mV、QS波振幅の変化が2mV、QRSdが200ms及びQRSdiffが0msを示す融合波形が生成された。三列目に示すように、固定100mspAVIでの+20msのLV興奮での順次BVペーシングによって、QSグリフ、QS波振幅が10mV、QS波振幅の変化が0mV、QRSdが220ms及びQRSdiffが+20msを示す融合波形が生成された。四列目に示すように、固定100mspAVIでの+30msのLV興奮での順次BVペーシングによって、持続するQSグリフ、QS波振幅が15mV、QS波振幅の変化が5mV、QRSdが230ms及びQRSdiffが+30msを示す融合波形が生成された。
【0103】
図19のメトリクスログの例に示すように、同時BVペーシングによって基礎LBBB QRSグリフが増幅された(特に、QSパターンは持続し、Q振幅は20%増大し、QRSd及びQRSdiffは変化しない)。順次両心室ペーシングを続けると、QRSグリフパターンの漸進的増大(特にQS振幅)、増大したQRSd及び減少したQRSdiffによって示されるように、増幅プロセスが促進された。このパターンは、上述の伝導遅延スタッキングの定義を満たす。場合によっては、伝導遅延スタッキングを決定した後、上述のプロセスがまっすぐにプロセスブロック296に進み、ペーシング制御パラメータのさらなる操作は適用されない。
【0104】
プロセスブロック296でのペーシング制御パラメータの操作にもかかわらず(顕性融合ノンレスポンダー表現型が認められた場合)融合ノンレスポンダー表現型が持続する場合、ペース調整された心室伝導経路を変更するための新たなLVペーシングサイトの選択を含む、しかしこれに限定されない、心室再同期を回復するための代替ストラテジーが必要となる。これは、上述のように、LVペーシングリードの再配置又は多電極LVリードからの代替LV電極の選択によって達成することができる。伝導経路の変化は、もたらされるペース調整心室興奮シーケンスに有利に影響し、不顕性傾斜又は相殺融合表現型を示す。例えば、経路長の変化は、興奮波面が逆位相へと移動するような位相シフトを生じる可能性がある。
【0105】
図20を参照すると、電極LV1、LV2、LV3、LV4、LV5及びLV6を含む本発明にかかわる多電極LVリードが、LV半球の側壁を横切るように概略的に示されている。多電極LVリード()は、インプラントにおける患者特有最適LV刺激サイトを選択し、融合興奮表現型認識を促進し、融合レスポンダーにおける最適化を修正し、融合ノンレスポンダーをレスポンダー表現型に変換するために実施され、これにより逆リモデリングの増大した確率及び臨床改善に寄与する。上述のように、変化するLV刺激サイトは、両心室ペーシング中に波面干渉の形を変えることにより、異なる興奮融合反応表現型をもたらすことができる。この影響は、波面対向、伝導経路長及び波面伝導の他の物性の変化に関係する。
【0106】
さらに、上述の論理的及び分析的アプローチを続け、
図21に、多電極LVリードを介する伝導経路の調整を用いる不顕性融合レスポンダーの変換のプロセスの例を示す。このプロセスは、基礎波形メトリクスを用いて興奮シーケンスメトリクスログを生成することを含む(プロセスブロック298)。次に、多電極LVリードから異なる電極対のセットを用いて同時及び/又は順次BVペーシングを実施する(プロセスブロック300)。用いられた各電極対の融合波形メトリクスを特定し、興奮シーケンスメトリクスログに記録する(プロセスブロック302)。次に、どの電極対が相殺もしくは傾斜融合への変換を示すか、又はさらにどの電極対が最適な相殺もしくは傾斜融合を示すかを決定するために融合波形メトリクスを調査する(プロセスブロック304)。次に、選択されたLV電極を、CRTのための最終ペーシング制御設定に適用する(プロセスブロック306)。
【0107】
一例として、
図22は、一列目に示すように、QSグリフ、QS振幅が10mV及びQRSdが200msを示す基礎波形を用いて生成された興奮シーケンスメトリクスログを示す。二列目に示すように、電極対LV1−LV2を用いた、固定100mspAVIでの同時BVペーシングによって、QSグリフ、R波振幅が0mV、QS波振幅が12mV、QS波振幅の変化が2mV、QRSdが220ms及びQRSdiffが+20msを示す融合波形が生成された。三列目に示すように、電極対LV2−LV3を用いた、固定100mspAVIでの同時BVペーシングによって、QSグリフ、QS波振幅が6mV、QS波振幅の変化が−4mV、QRSdが160ms及びQRSdiffが−40msを示す融合波形が生成された。四列目に示すように、電極対LV4−LV5を用いた、固定100mspAVIでの同時BVペーシングによって、rSグリフ、R波振幅が2mV、QS波振幅が5mV、R波振幅の変化が2mV、QS波振幅の変化が−5mV、QRSdが180ms及びQRSdiffが−20msを示す融合波形が生成された。五列目に示すように、電極対LV4−LV5を用いた、固定100mspAVI及びLV+20msでの順次BVペーシングによって、RSグリフ、R波振幅が5mV、QS波振幅が5mV、R波振幅の変化が5mV、QS波振幅の変化が−5mV、QRSdが200ms及びQRSdiffが0msを示す融合波形が生成された。六列目に示すように、電極対LV4−LV5を用いた、固定100mspAVI及びLV+40msでの順次BVペーシングによって、Rグリフ、R波振幅が6mV、QS波振幅が0mV、R波振幅の変化が6mV、QS波振幅の変化が−10mV、QRSdが210ms及びQRSdiffが+10msを示す融合波形が生成された。
【0108】
図22の波形メトリクスの例を用いることで、LV電極対LV1−LV2を用いた同時BVペーシングにより基礎LBBB QRSグリフが増幅した(特に、QSパターンが持続し、Q振幅が20%増大し、QRSdが20%増大し、これにより陽性QRSdiffが生じ、合計心室非同期性の増大を示す)。LV電極対LV2−LV3を用いた同時BVペーシングにより、相殺融合表現型への変換が生じた。これは、全ての波形成分の後退(中でも注目すべきはQS振幅の40%減少)及びQRSdの40%減少により示され、これは−40のQRSdiffをもたらし、合計心室非同期性が大幅に減少したことを示す。LV電極対LV4−LV5を用いた同時両心室ペーシングにより、傾斜融合表現型へのさらなる変換が生じた。これは、QRSグリフがQSからrSへと変化したことにより示され、前方向きの力(R波)の発生を反映する。LV電極対LV4−LV5を用いた順次両心室ペーシングの追加により、持続性傾斜融合表現型が進行し、QRSグリフが変化し(基礎のQSからRS及びRへ)、QRSdが増大し、QRSdiffが減少した。したがって、この例では、最大陰性(増大)QRSdiffをもたらす最小ペース調整QRSdにおける興奮(QRSグリフ反応)の陽性変化の最大証拠によって特徴付けられる最適波面融合が、電極対LV2−LV3を用いたBV同時ペーシング中に相殺融合表現型が生じたときに観測された。
【0109】
場合によっては、同時両心室ペーシングを一定に維持するとともにLV電極対を変えながらpAVIを操作する際に、同様のフロープロセスを実施してもよい。さらに、このアプローチの他のバリエーションも当業者にとって容易に理解できるものである。何れの場合でも、融合ノンレスポンダーから傾斜又は相殺融合表現型への変換が観測されたならば、適切な最適化シーケンスへ移行することができる。さらに、場合によっては、上述の
図21のプロセスは、もしLV刺激が別のサイトに限定されていたならば達成できない興奮融合レスポンスメトリクスの最適なセットを得るために用いることができる。
【0110】
本発明の多電極LVリードの別の側面は、興奮シーケンスの変化の指標として機能することである。LVリードの配置は左心室の後壁をターゲットとすることから、LVリード上の電極と前方に配置された電極(RVコイル、SVCコイル、パルス発生器のハウジングなど)の間に生じたEGMは、前方から後方への方向の興奮波面伝搬に関する正確な情報を提供することができる。特に、ペーシング刺激に使用されていない個別のLV電極又はLV電極の対をこの目的のために追加で適用することができる。これらのEGMは、患者特有ベースで興奮融合表現型及び関連する電気的再同期メトリクスを特徴付けるとともに測定するために、表面QRSグリフのサロゲートとして機能することができる。
【0111】
一部の従来のCRTシステムは多電極LVリードを採用してもよい。しかしながら、これらのシステムにおいては、その目的は単に、ターゲットLV静脈内の特定サイトに局在化した望ましくない生体力学的特性を克服するために追加の別の刺激サイトを与えるというものである。そのような別の刺激サイトは、CIEDを再プログラミングすることによって非侵襲的にテスト及び適用することができる。したがって、一般に使用されている従来の多電極リード設計の意図は、最初に埋め込まれたLVリードの外科的な再配置又は取り替えを必要とせずに別の刺激サイトの選択肢を与えるというものである。この構成が望ましくない物理的刺激特性(心臓外即ち横隔膜神経刺激、望ましくなく高い心室ペーシング閾値など)を克服するという本来の目的に潜在的に有用である一方で、この構成は、上で議論したように、具体的な興奮波面反応パターンによって示される心室伝導遅延の認識及び知識のある修正というCRTの主な治療目標を前進させることはない。さらに、多電極LVリードのこの使用は従来のペーシングリードとは根本的に違わず、つまり、心室伝導シーケンスへの特定の刺激の結果について定量化されていない心臓刺激をもたらすペーシング刺激を与える。
【0112】
図10−22を参照して説明した方法を踏まえると、興奮変化メトリクスログを用いて最適興奮アウトプットパラメータを数値的に定量化することができ、テンプレート照合のための患者特有最適心室興奮融合を示す一以上のペース調整QRSグリフを特定することができる。これらのシステムQRSグリフの各々についての対応興奮アウトプットメトリクスは、興奮がどれだけ陽性に変更されたかを表す、QRS成分波形間の大きさの関係の正確な複製を提供する。したがって、最適傾斜又は相殺融合興奮の際にQRSテンプレートのみが分析されるのではなく、成分波形、ペース調整QRSd及びQRSdiff間の定量的関係も分析される。QRSグリフテンプレート、CIEDベースEGMグリフサロゲート、グリフ特有対応興奮アウトプットメトリクス及び対応ペーシング制御パラメータは、患者特有最適心室興奮融合を自動的に生成し更新するための本発明の方法の総合的な基礎を形成することができる。通常、これらの動作パラメータ間の相互作用的関係は以下のようにまとめることができ、つまり、ペース調整QRSグリフ及びCIEDベースのEGMサロゲートは興奮シーケンスの陽性変化の患者特有の証拠を与える、定量的興奮アウトプットメトリクスは最適心室興奮融合の際の患者特有ペース調整QRSグリフ及びCIEDベースのEGMサロゲートを特定する、これらの興奮アウトプットメトリクス及び関連する臨界的ペーシング制御パラメータは患者特有融合パターンを測定し周期的に更新する、これらのパラメータ間の関係が個別の患者に特有のものであることからグリフテンプレート照合及び興奮融合メトリクスは本明細書に記載した患者特有測定及び更新に用いられる、そしてグリフテンプレート照合及び興奮融合メトリクスは測定プロセスの内部検証のための機構を提供する。一例として、減少した(より陽性の)QRSdiffが、興奮シーケンスの陽性変化にもかかわらず、一部の傾斜融合レスポンダーに記録される。対応するグリフテンプレートは、合計心室電気的非同期性の増大が、競合する非対称的に対向する波面の遅い伝搬に付随して起こる興奮シーケンスの陽性変化が原因で生じるという検証を提供する。このようにして、グリフテンプレートは、総和融合不良の際に観測されたように、遅い伝導での電気的再同期が、興奮シーケンスの陰性変化よりもむしろ減少した(より陽性の)QRSdiffにもかかわらず生じたという証拠を提供する。
【0113】
上述の記載を踏まえると、本発明は、特定の心室興奮融合反応表現型を認識、最適化及び自動的に測定するためのECGベースの記号言語を提供する。この記号言語は、目標とされた心室興奮融合反応パターンに関する装置ペーシング制御パラメータを評価、更新、指示及び確認するためにさまざまな方法で利用される。本発明によれば、そのような評価は、
図22にまとめたように複数の方法で周期的に実施することができる。
【0114】
一つのアプローチにおいて、プロセスは全体的にCIEDベースである。このアプローチは、ペーシング刺激の提供に関わりのない別個のEGMインプットシステムを利用してもよい。最適な心室興奮融合のためのCIEDベースのEGMサロゲートは、次にリアルタイムで基礎テンプレートと比較することができる。そのような両心室ペース調整テンプレート「ビューイング」のための別個のEGMインプットは、以下にさらに説明するように皮下源と心臓内源(上述のように多電極LVリードなど)を利用することができる。
【0115】
さらに、プロセスは、以下の一以上の目的を果たす外部プログラマにおけるユーザ・インターフェース・アプリケーション(UI app)として並行して実施することができ、前記目的とは、(1)逆理モデリングの基質条件を特徴付けるとともにさまざまな前提(リード位置、ECG融合表現型)に基づき逆リモデリングの確率を予測するために、UP app基礎ECG相互作用を用いることによる患者選択ガイドとして、(2)リードサイト、電極対及びクロスチャンバ電極の組み合わせによってECG表現型を特定する、異なるリードサイト、多電極リード又はクロスチャンバ電極組み合わせを選択することによってCEG表現型を修正する、RV刺激サイトの操作によってECG表現型を修正するために、ECG融合表現型の操作のためのUI app−LVリード位置決め相互作用を用いることによる埋め込みガイドとして、(3)患者特有最適ECG融合表現型を測定するためにUI app−装置相互作用を用いることによるCRT移植後の事前放電のため及び(4)最適ECG表現型に影響する状態の変化を特定するとともに変化する患者状態についての測定を調整するためにUI app−装置相互作用を用いることによる長期的経過観察のため、である。
【0116】
携帯用又はベッドサイド通信ステーションを介してCIEDにリンクされたデジタルネットワーク経由でアクセスされた複数サーバベースの計算リソースを用いて、定期的にスケジュールされた又は誘発された通信中に周期的評価を自動的に実施することもできる。サーバベースのソフトウェアは、患者特有興奮融合反応表現型のCIEDベースのEGMサロゲートの形態学的及び定量的な比較を実施することができる。興奮融合反応表現型の重要な変化を認識することにより、医師への報告のための電気的「フラグ」を生成する又はすぐにもしくは次のプログラマ相互作用に応じてCIED内の最適化シーケンスの自動再利用を誘発することができる。そのような「クラウドベース」のストラテジーの利点は、CIED又はプログラマベースのストラテジーに比べてより大きい計算リソースの能力である。プログラマベースの又は「クラウドベース」のアプローチにも共通の別の利点は、ペーシング刺激を与えるためのものではない別個のCIED−EGMインプットシステムが不要となることである。
【0117】
したがって、
図23に示すような評価の一般的な方法は、インプラントでの最適化パラメータを用いて患者のカルテを作成する工程(プロセスブロック308)と、表現型テンプレート及び波面メトリクスを保存する工程(プロセスブロック310)と、例えばCIED314、外部プログラマ316、遠隔ステーション318及び/又は他のクラウドベースのアプローチ320を用いてリアルタイム比較を周期的に走らせる工程(プロセスブロック312)と、を含むことができる。もし保存されたテンプレート及び波面メトリクスが現在の表現型及び波面メトリクスと整合するならば(プロセスブロック322)、次のチェックがスケジュールされる(プロセスブロック324)。もし整合しなければ(プロセスブロック326)、例えば本発明の一以上の記載された方法に基づいて新たな最適化シーケンスが実行され、新たな表現型テンプレート及び波面メトリクスを用いて患者のカルテが更新される(プロセスブロック328)。
【0118】
上で議論したように、本発明の側面は、これらのタスクにおいて体表面ECG興奮パターン(QRSグリフ)にCIEDベースのEGMサロゲートを適用することである。現在、EGM従来型CRTシステムは一以上の心臓内EGMから導かれる。これらの心臓内EGMは、関連性のある表面ECG信号としての振幅、継続時間及び方向性のサインの変化と関連付けることができる一方で、心臓空間の必要な解剖学的限定によってさらに制限されたより局在化された見解として限定されてもよい。本発明のいくつかの実施によれば、皮下記録源を、これらの解剖学的限定を克服するため、一以上の体表面ECG信号をよりよく近似するため及び興奮波面伝搬及び形状のより大きい解像度を与えるために用いることができる。
【0119】
例えば、
図1、24に示すCRTパルス発生器102のハウジング108は、皮下記録源の機能を果たすことができる。CRTパルス発生器102は通常、左上胸に埋め込まれるので、中枢ECGリードV1−V3をより近づける機会に気付くであろう。パルス発生器102上の多数の電極116−122は、対で(局所的記録用)又は選択された心臓内電極と組み合わせて(遠視野記録用)用いることができる。特に、皮下電極及び多電極LVリード124上の一以上の選択可能電極対は、前方から後方への方向における興奮シーケンス変化について高い解像度を提供することができる。したがって、一部の実施では、多電極LVリード及び皮下記録源は、単にペーシング刺激の供給システムとしての機能を果たすよりもむしろ上述の興奮融合最適化プロセスの一体部分として機能してもよい。
【0120】
図25に、グローバル心室興奮の体表面ECG登録用のCIEDによって生成された電気記録図グリフサロゲートを示す。LBBB中のV1における典型的なQSグリフが観測された(上列、左)。対応するCan−LVグリフ(例えば、
図24中の局所SQ EGM源2及びLV電極LV3又はLV3−LV4対など)はRSである(下列、左)。CIEDグリフは、単一チャンバRV(RVO)ペーシング中にrSに変化し(下列、真ん中)、単一チャンバLV(LVO)ペーシング中にQSに変化する(下列、真ん中)。V1における典型的なRグリフ(傾斜融合表現型を満たす)が、同時BV(BVO)ペーシング中に観測された(上列、右)。対応するCan−LVグリフはQSである(下列、右)。ここで留意すべきはLBBB、単一チャンバ及び両心室ペーシングの各条件が、ユニークなCIED興奮グリフをもたらすことである。また、CIEDグリフ継続時間はLVOペーシング中に最大であり、これは典型的なものであることに留意する。さらに、CIEDグリフ継続時間はLBBBと比べてBVOペーシングにおいて減少し(目に見えてVATがより短い)、中枢リードV1の体表面ECGグリフに反映されるVATの変化に極めて類似することに留意する。この例において、LV電極は刺激とEGM記録の両方に用いられる。EGM記録及びペーシング刺激の一方又は両方の目的のための単一チャンバ、クロスチャンバ又は皮下電極対の別の組み合わせが、個別の患者におけるグローバル心室興奮のECG体表面登録のための最適なCIEDグリフサロゲートをもたらしてもよい。
【0121】
本発明について一以上の好ましい実施形態の観点で記載した。当然のことながら、本明細書に明確に記載したものだけでなく、多くの同等のもの、代替のもの、バリエーション及び修正も可能であり本発明の範囲内である。