特許第6105719号(P6105719)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6105719
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】生体を監視するモニターおよびシステム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/1455 20060101AFI20170316BHJP
【FI】
   A61B5/14 322
【請求項の数】19
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-514760(P2015-514760)
(86)(22)【出願日】2014年5月2日
(86)【国際出願番号】JP2014002416
(87)【国際公開番号】WO2014178199
(87)【国際公開日】20141106
【審査請求日】2016年6月9日
(31)【優先権主張番号】特願2013-96921(P2013-96921)
(32)【優先日】2013年5月2日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509339821
【氏名又は名称】アトナープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102934
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 彰
(72)【発明者】
【氏名】ムルティ プラカッシ スリダラ
【審査官】 冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/049753(WO,A1)
【文献】 特表2008−522697(JP,A)
【文献】 特開2007−20890(JP,A)
【文献】 特開2003−290345(JP,A)
【文献】 特表2003−522558(JP,A)
【文献】 特開2007−179002(JP,A)
【文献】 特表2012−526982(JP,A)
【文献】 特表2008−510559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06 − 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体表面から生体内部の状態を監視するモニターであって、
前記生体表面に装着される観察窓を含むプローブと、
前記観察窓を介してアクセスされる前記生体表面の観察領域の少なくとも一部にレーザーを照射するユニットと、
前記観察領域に2次元に分散するように断続的に、または、前記観察領域をスキャンするように連続的に形成される複数の観測スポットのそれぞれから、レーザー照射に起因する散乱光を検出するユニットと、
前記複数の観測スポットから得られる散乱光に基づき、前記複数の観測スポットの中から前記生体内部のターゲット部分の情報を含む散乱光が得られると判断される第1の観測スポットを限定するユニットと、
前記第1の観測スポットまたはその周りの観測スポットから、少なくとも1つの成分の分光スペクトルを取得し、その強度に基づき前記生体内部の状態を示す第1の情報を出力するユニットとを有し、
前記プローブは、前記照射するユニットからレーザーを前記複数の観察スポットのそれぞれに選択的に導く出力ユニットを含む、モニター。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1の観測スポットまたはその周りにおいて、前記生体表面からの深度の異なる複数の部分の、第1の成分の分光スペクトルを取得し、前記第1の成分の分光スペクトルの強度に基づき、前記第1の観測スポットをさらに限定または更新するユニットを有するモニター。
【請求項3】
請求項1または2において、前記第1の観察スポットを限定するユニットは、前記第1の観測スポットに対する深度方向のプロファイルを形成し、前記ターゲット部分の3次元プロファイルを形成するユニットを含み、
前記第1の情報を出力するユニットは、前記ターゲット部分の3次元プロファイルに関連する前記第1の観測スポットまたはその周りの観測スポットから、少なくとも1つの成分の分光スペクトルを取得し、その強度に基づき前記生体内部の前記ターゲット部分の状態を示す前記第1の情報を出力するユニットを含む、モニター。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、前記プローブは、前記複数の観測スポットのそれぞれから散乱光を前記検出するユニットに導く入力ユニットを含む、モニター。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、前記複数の観測スポットが前記観察領域に1〜1000μmの間隔で設定される、モニター。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、前記複数の観測スポットが前記観察領域に10〜100μmの間隔で設定される、モニター。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、前記プローブは、拡散性多孔質膜を介して前記生体表面に前記観察窓を密着する、モニター。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載のモニターと、
前記第1の情報に基づき、生体に生理活性物質を与える配送ユニットとを有するシステム。
【請求項9】
請求項8において、さらに、
生体の外部状態を取得または予測する行動監視ユニットと、
前記第1の情報に加え、前記行動監視ユニットからの情報により、前記配送ユニットから生体に与える生理活性物質の量または種類を制御するユニットとを有する、システム。
【請求項10】
請求項8または9において、さらに、
前記第1の情報および前記配送ユニットの動作状況を外部に出力するユニットを有する、システム。
【請求項11】
生体表面から生体内部の状態を監視するモニターを含むシステムの制御方法であって、
前記モニターは、
前記生体表面に装着される観察窓を含むプローブと、
前記観察窓を介してアクセスされる前記生体表面の観察領域の少なくとも一部にレーザーを照射するユニットと、
前記観察領域に2次元に分散するように断続的に、または、前記観察領域をスキャンするように連続的に形成される複数の観測スポットのそれぞれから、レーザー照射に起因する散乱光を検出するユニットとを含み、
前記プローブは、前記照射するユニットからレーザーを前記複数の観察スポットのそれぞれに選択的に導く出力ユニットを含み、
当該制御方法は、前記複数の観測スポットから得られる散乱光に基づき、前記複数の観測スポットの中から前記生体内部のターゲット部分の情報を含む散乱光が得られると判断される第1の観測スポットを限定することと、
レーザーを前記第1の観測スポットまたはその周りの観測スポットに選択的に照射することと、
前記第1の観測スポットまたはその周りの観測スポットから、少なくとも1つの成分の分光スペクトルを取得し、その強度に基づき前記生体内部の状態を示す第1の情報を出力することとを含む、方法。
【請求項12】
請求項11において、
前記第1の観察スポットを限定することは、前記第1の観測スポットに対する深度方向のプロファイルを形成し、前記ターゲット部分の3次元プロファイルを形成することを含み、
前記第1の情報を出力することは、前記ターゲット部分の3次元プロファイルに関連する前記第1の観測スポットまたはその周りの観測スポットから、少なくとも1つの成分の分光スペクトルを取得し、その強度に基づき前記生体内部の前記ターゲット部分の状態を示す第1の情報を出力することを含む、方法。
【請求項13】
請求項11または12において、
前記第1の観測スポットまたはその周りにおいて、前記生体表面からの深度の異なる複数の部分の、第1の成分の分光スペクトルを取得し、前記第1の成分の分光スペクトルの強度に基づき、前記第1の観測スポットをさらに限定または更新することを含む、方法。
【請求項14】
請求項11ないし13のいずれかにおいて、さらに、
前記システムは、生体に生理活性物質を与える配送ユニットを有し、
当該方法は、前記第1の情報に基づき、前記配送ユニットが配送する生理活性物質および量を選択することを含む、方法。
【請求項15】
請求項14において、さらに、
前記システムは、生体の外部状態を取得または予測する行動監視ユニットを有し、
前記選択することは、前記第1の情報に加え、前記外部状態の情報により、前記配送ユニットが配送する生理活性物質の量または種類を選択することを含む、方法。
【請求項16】
請求項において、前記第1の情報を出力するユニットは、前記ターゲット部分の3次元プロファイルにより設定された深度で交差するように、ストークス光またはポンプ光を照射する空間オフセットコヒーレント反ストークスラマン分光ユニットを含む、モニター。
【請求項17】
請求項3または16において、前記ターゲット部分は血管であり、
前記3次元プロファイルを形成するユニットは、前記散乱光に含まれるドップラー効果成分から血流の有無を判断し、血管の3次元プロファイルを形成するユニットを含む、モニター。
【請求項18】
請求項12において、前記第1の情報を出力することは、前記ターゲット部分の3次元プロファイルにより設定された深度で交差するように、ストークス光またはポンプ光を照射することを含む、方法。
【請求項19】
請求項12または18において、前記ターゲット部分は血管であり、
前記3次元プロファイルを形成することは、前記散乱光に含まれるドップラー効果成分から血流の有無を判断し、血管の3次元プロファイルを形成することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の内部状態を監視するモニター、およびモニターからの情報に基づき生理活性物質を与えるシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本国特開2007−192831号公報には、グルコース調節の測定における侵襲性試験の必要性や血液担持マーカーの使用を回避することを可能する診断キットが開示されている。この診断キットは、所定量の13C富化グルコースと呼気採取容器とを含む、被検者における血糖コントロール測定用診断キットであって、1つの実施形態において、複数の呼気採取容器をさらに含み、また別の実施形態において、糖尿病の診断に用いられる、さらに別の実施形態において、インスリン抵抗性の診断に用いられる。
【発明の概要】
【0003】
呼気分析は非侵襲性ではあるが、連続して生体の状態を監視することが難しい。
【0004】
本発明の一態様は、生体表面から生体内部の状態を監視するモニターである。モニターは、生体表面に装着される観察窓を含むプローブと、観察窓を介してアクセスされる生体表面の観察領域の少なくとも一部にレーザーを照射するユニットと、観察領域に2次元に分散するように断続的に、または、観察領域をスキャンするように連続的に形成される複数の観測スポットのそれぞれから、レーザー照射に起因する散乱光を検出するユニットと、複数の観測スポットから得られる散乱光に基づき、複数の観測スポットの中から生体内部のターゲット部分の情報を含む散乱光が得られると判断される第1の観測スポットを限定するユニットと、第1の観測スポットまたはその周りの観測スポットから、少なくとも1つの成分の分光スペクトルを取得し、その強度に基づき生体内部の状態を示す第1の情報を出力するユニットとを有する。プローブは、照射するユニットからレーザーを複数の観察スポットのそれぞれに選択的に導く出力ユニットを含む。
【0005】
モニターは、さらに、第1の観測スポットまたはその周りにおいて、生体表面からの深度の異なる複数の部分の、第1の成分の分光スペクトルを取得し、第1の成分の分光スペクトルの強度に基づき、第1の観測スポットをさらに限定または更新するユニットを有することが望ましい。
【0006】
本発明の他の態様の1つは、生体表面から生体内部の状態を監視するモニターを含むシステムの制御方法である。モニターは、生体表面に第1の間隔で二次元に分散した複数の観測スポットを設定するプローブと、複数の観測スポットのそれぞれから散乱光が出力されるように、生体表面にレーザーを照射するユニットと、複数の観測スポットからの散乱光を検出するユニットとを含み、当該制御方法は以下のステップを含む。
1.複数の観測スポットのそれぞれの観測スポットから散乱光を取得して、レーザードップラー効果により複数の観測スポットの中から皮下血管に関連する第1の観測スポットを求めること。
2.第1の観測スポットまたはその周りにおいて、生体表面からの深度の異なる複数の部分の、第1の成分の分光スペクトルを取得し、第1の成分の分光スペクトルの強度に基づき、生体表面下のターゲット部分を判断すること。
3.ターゲット部分の少なくとも1つの成分の分光スペクトルの強度に基づき生体の内部状態を示す第1の情報を出力すること。
【0007】
この制御方法は、さらに以下のステップを含むことが望ましい。
4.第1の観測スポットまたはその周りにおいて、生体表面からの深度の異なる複数の部分の、第1の成分の分光スペクトルを取得し、第1の成分の分光スペクトルの強度に基づき、第1の観測スポットをさらに限定または更新すること。
【0008】
近赤外分光法、ラマン分光法などの分光分析技術を用いて血液などの体液中に存在する化合物や、皮下組織を分析することができ、さらに、その分析結果に基づいて体液中の生化学物質、細胞成分などを分析できる。このため、分光分析により生体情報を取得できるはずである。しかしながら、生体中の各部分において生化学物質の濃度や、細胞成分は異なる。このため、取得された情報は、生体表面下の様々な構造の情報を含み、目的とする情報が他の情報やノイズに埋もれてしまい、生体の状態を推定することは難しい。
【0009】
上記のモニターおよび制御方法においては、プローブの観察窓を介してアクセスできる生体表面の観察領域に複数の観測スポットを設定する。さらに、複数の観測スポットの全てのデータを用いるのではなく、限定するユニットにより複数の観測スポットの一部にロックして分光スペクトルを取得し、そのデータに基づいて生体の内部情報を示す第1の情報を出力する。したがって、生体表面下の限られた部分に関する情報を選択的に取得できるので、目的とする情報が他の情報やノイズに埋もれてしまうことを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】健康管理システムを示すブロック図。
図2】モニターを示すブロック図。
図3】観察領域と観測スポットを示す図。
図4】ラマン分光スペクトルを示す図。
図5】イベント認識モジュールを示すブロック図。
図6】グルコースの変化を示す図。
図7】健康管理システムの動作を示すフローチャート。
【発明の実施の形態】
【0011】
以下では、皮下の毛細血管をターゲット部分として、その分光スペクトルを取得することにより、血管中を流れる成分、たとえばグルコースの量を含む情報を取得するケースを例に説明する。
【0012】
本発明のモニターにおいては、プローブの観察窓を介してアクセスできる生体表面の観察領域に複数の観測スポットを設定する。限定するユニットは、まず、複数の観測スポットから得られる散乱光に基づいて、生体内部のターゲット部分の情報が得られるであろう観測スポットを第1の観測スポットとして限定あるいはロックする。ターゲット部分が生体内部の毛細血管であれば、散乱光に含まれるレーザードップラー効果のスペクトルに着目し、血流が観察される観測スポットであるか否かで第1の観測スポットとしてロックできる。ターゲット部分は毛細血管に限られず、たとえば、リンパ腺であれば、リンパ腺に含まれる成分を分光分析した際に最大強度で検出される成分のスペクトルに着目し、その成分が観察される観測スポットであるか否かで第1の観測スポットとしてロックできる。
【0013】
限定するユニットは、第1の観測スポットをロックする際に2次元的なプロファイルだけではなく、深度方向のプロファイルを含めた3次元的なプロファイルを求めてもよい。毛細血管であれば、レーザードップラー効果に含まれる血流成分から、数学モデルを用いて深度方向のプロファイルを求めることができる。ラマンスペクトルを測定するのであれば、空間オフセットラマン分光法(SORS、Spatially Offset Raman Spectroscopy)を使用できる。
【0014】
毛細血管の血流が観測される第1の観測スポットは、毛細血管の上またはその近傍に位置すると想定される。生体情報となる第1の情報を出力するユニットは、第1の観測スポットまたはその周りの観測スポットにロックし、少なくとも1つの成分の分光スペクトルを取得し、その強度に基づき生体内部の状態を示す第1の情報を出力する。
【0015】
このモニターにおいては、第1の観測スポットまたはその周りにおいて、生体表面からの深度の異なる複数の部分の、第1の成分の分光スペクトルを取得し、第1の成分の分光スペクトルの強度に基づき、第1の観測スポットをさらに限定または更新するユニットを設けることは有効である。分光法により生体表面からの深度の異なる複数の部分のスペクトルを取得し、スペクトルに含まれる第1の成分の強度からターゲット部分のスペクトルであることを判断できる。たとえば、血管中に存在する生化学物質の濃度を検出したい場合、人間であれば、生体表面の近傍は、表面を形成する皮膚(表皮)、真皮、皮下組織により形成され、血管は真皮または皮下組織に存在することが多い。しかしながら、表面から血管までの距離は、部位により異なり、さらに患者それぞれにより異なり、そのときの姿勢によっても異なることがある。
【0016】
このモニターにおいては、深度の異なるスペクトルの中で、血液中に最も多く存在する成分の強度が最も強いスペクトルを判断することにより、血液のスペクトルであることを判断できる。そして、血液のスペクトルに含まれる1または複数の成分の強度を判断することにより、血液中の濃度をベースにした生体の内部状態を示す第1の情報を出力できる。ターゲット部分は血管に限られず、皮下脂肪や、リンパ節であってもよく、深度の異なる複数のターゲット部分の成分に基づいて生体内部の状態を示す第1の情報を生成してもよい。血液中のスペクトルから得られる代表的な臨床生化学分析用の値は、コレステロール、血糖値(グルコース)、HbA1cなどの糖化ヘモグロビン、AST、ALT、トリグリセロール、G−GTP、LDH、ALP、アディポネクチンなどである。
【0017】
深度調整の容易な分光分析方法の1つは、共焦点ラマン分析である。1または複数の共焦点ラマン分析ユニットを用いることにより、ターゲット部分に存在する成分または細胞の3次元情報を得ることも可能である。分光分析用の入射光は、LEDまたはその他の比較的波長帯の広いものであってもよいが、波長帯の狭いレーザー光であることが望ましい。波長変換が可能なチューナブルレーザーを光源として用いると、深度調整が容易となり、さらに、共鳴ラマン分光法により、ターゲット部分のより精度の高いスペクトルを得ることができる。
【0018】
深度方向のプロファイルを生成できる分光分析方法の他の1つは、空間オフセットラマン分光法(SORS)である。さらに、高精度で深度方向のプロファイルを生成できる方法として、本発明者は、コヒーレント反ストークスラマン分光法(CARS、Coherent Anti-stokes Raman Spectroscopy (scattering))に用いられるポンプ光またはストークス光の照射角度を制御することにより、空間オフセットされたCARSスペクトルを取得することを提唱している。
【0019】
複数の観測スポットは、レーザーを複数の観測スポットに選択的に照射することにより設定してもよく、散乱光を複数の観測スポットのそれぞれから選択的に取得できるものであってもよい。したがって、プローブは、照射するユニットからレーザーを複数のスポットのそれぞれに選択的に導く出力ユニットを含んでもよい。プローブは、複数の観測スポットのそれぞれから散乱光を検出するユニットに導く入力ユニットを含んでもよい。出力ユニットおよび入力ユニットの一例は、MEMSあるいはマイクロマシンで形成されるミラーまたはミラーの集合体(MD、Micro-mirror Device)である。観察領域内に、1つまたは複数のレーザースポットを断続的または連続的に形成でき、多数の観測スポットを形成できる。
【0020】
出力ユニットおよび入力ユニットの他の例は、フォトニクス結晶ファイバ(PCF、Photonic crystal fiber)、マクロストラクチャーファイバ(Micro-structured Fiber)、ホーリーファイバー(Holey fiber)、バンドルファイバーなどの多焦点を形成する光学部材と、MEMSまたはマイクロマシンで形成されるシャッターマトリクス、あるいはMDとの組み合わせである。観察領域内に、1つまたは複数のスポットを断続的に形成でき、多数の観測スポットを形成できる。
【0021】
出力ユニットおよび入力ユニットは、観察領域に1〜1000μmの間隔で複数の観測スポットを設定できるものであることが望ましい。複数の観測スポットは観察領域に10〜100μmの間隔で設定されることがさらに好ましい。皮下組織の平均的サイズは、数μmから数10μmであり、モニターは、数100μmあるいはそれ以下の解像度を備えていることが好ましい。
【0022】
プローブは、皮膚に密着していることが望ましい。ジェルなどの流動物を介して皮膚に取り付けてもよいが、ユーザーの利便性と装着感とを考えると、拡散性多孔質膜を介して生体表面に観察窓を密着することが望ましい。拡散性多孔質膜の一例は、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、ハイブリッドシリカ製の薄膜である。
【0023】
このモニターと、モニターから得られる第1の情報に基づき、生体に生理活性物質を与える配送ユニットとを組み合わせることにより、投薬システムを提供できる。このシステムは、患者の治療、体調管理、リハビリなどに用いられる。生理活性物質は、生体物質であるか合成物質であるかを問わず、生物に対して生理作用または薬理作用を発言する物質単体または化学物群を示す。生理活性物質は、ビタミン、ミネラル、酵素、ホルモンなどを含み、ホルモンの一例はインスリンである。
【0024】
このシステムは、さらに、生体の外部状態を取得または予測する行動監視ユニットを有することが望ましい。システムは、さらに、第1の情報に加え、行動監視ユニットからの情報(第2の情報)に基づいて配送ユニットから生体に与える生理活性物質の量または種類を制御するユニットを有することが望ましい。患者の生活リズム、行動パターンから患者の近未来の生体内の状況を予測したり、実際に食事をしていたり、運動していたりすることから生体内の今後の状況の変化を予測することにより、投与する生理活性物質のタイプや量を、現状の生体の状況に対して先行して制御することができる。このため、患者の状況が、行動にマッチした状態になるように、生理活性物質のタイプおよび量を制御できる。
【0025】
さらに、このシステムは、第1の情報および配送ユニットの動作状況を外部に出力するユニットを有することが望ましい。このシステムを通じ、医師や看護師などが患者を遠隔監視することができる。
【0026】
本明細書において説明する、上記のモニターを含むシステムの制御方法は、プログラムまたはプログラム製品として適当な記録媒体に記録したり、インターネットを介して提供できる。また、このシステムの制御方法は、生体表面から生体内部の状態を分光法によりモニターすることを含む方法として提供してもよい。この方法は、患者を治療する方法として提供してもよく、ユーザーの体調を管理する方法として提供してもよく、発作などを未然に防ぐための方法として提供してもよい。
【0027】
システムが、生体に生理活性物質を与える配送ユニットを有する場合は、制御方法は、第1の情報に基づき、配送ユニットが配送する生理活性物質および量を選択するステップを含むことが望ましい。
【0028】
システムが、生体の外部状態を取得または予測する行動監視ユニットを有する場合は、選択するステップは、第1の情報に加え、外部状態の情報により、配送ユニットが配送する生理活性物質の量または種類を選択することを含むことが望ましい。
【0029】
図1に、非侵襲性のヘルス・バイタル(健康・生命)制御プラットフォーム(制御または調整システム)の概略構成をブロック図により示している。このシステム1は、センサープラットフォーム10と、解析エンジン120と、ドラッグ配送ユニット130と、イベント追跡ユニット140とを含む。なお、以下においては、糖尿病の患者の生命を維持し、さらに、患者が健康で活力ある生活を送ることができるように患者の健康を管理するシステム1を例に説明するが、このシステム1をプラットフォームとして対応可能な疾病は糖尿病に限定されない。
【0030】
センサープラットフォーム(モニター)10は、糖尿病の患者に対しては、非侵襲で血液中のグルコースの量を連続してモニターできるものである。センサープラットフォーム10の一例は、波長可変型のFTIR−ラマン分光分析ユニットである。センサープラットフォーム10に搭載されるセンサーは1種類である必要はなく、複数種類であってもよく、同じタイプのセンサーを複数個備えていてもよい。たとえば、赤外分光分析装置、近赤外分光分析装置、質量分析装置、イオン移動度センサーなど何れかまたは複数のタイプのセンサーが共通に生体表面に装着されるものであってもよく、生体表面に分散して取り付けられるものであってもよい。
【0031】
モニター10に含まれるセンサーは、MEMS等の技術により人体あるいは生体に取り付けられたときに生活または活動の障害になりにくい程度にコンパクトで軽量であり、さらに、軽量のバッテリーで長時間稼働するように低消費電力であることが要求される。電源は、小型バッテリーであってもよく、太陽電池などの外界エネルギーにより発電するものや、体温、その他の生体反応、さらには生体の活動により発電するものであってもよく、これらを組み合わせたものであってもよい。
【0032】
モニター10は、高精度で、自動校正機能を備えているものであることが要望される。自動校正機能は、生体の表面から生体内部の測定ターゲット部分を自動的に発見し、そのターゲット部分からの情報を生体の活動等によらず自動追尾または再発見する機能を含む。
【0033】
糖尿病の患者に対してモニター10により測定することが望ましい情報(生体情報)150は、血液中のグルコース濃度、糖化ヘモグロビン濃度(HbA1c濃度)、糖化アルブミン濃度、血圧、血中酸素量、がんマーカー、その他の健康および生命維持に関連する要素である。
【0034】
図2に、モニター10の一例としてラマン分光分析ユニット11を示している。このユニット11は、光学エンジン20と、チューナブルレーザーエンジン30と、検出器40と、信号処理エンジン50とを含み、いずれもチップ化され、それらが積層された状態で生体(人体)7の表面(皮膚)2に装着できるようになっている。
【0035】
光学エンジン20は、MEMS光学チップであり、皮膚2に装着される観察窓21を含むプローブ23と、観察窓21を介してアクセスされる皮膚2の観察領域3の少なくとも一部にレーザーを照射するユニット25と、観察領域3に2次元に分散するように断続的に、または、観察領域をスキャンするように連続的に形成される複数の観測スポットのそれぞれから、レーザー照射に起因する散乱光を検出するユニット27とを含む。
【0036】
レーザー照射ユニット(1次光学系)25は、CARSに対応しており、チューナブルレーザーエンジン30から得られる角振動数ωsのストークス光31をガイドする第1の光路25aと、角振動数ωpのポンプ光32をガイドする第2の光路25bとを含む。第1の光路25aおよび第2の光路25bとは、偏光板P、半波長板HWP、1/4波長板QWPなどを含む。レーザー照射ユニット25は、ダイクロイックビーム結合器BCによりストークス光31とポンプ光32とを合成し、プローブ23を介して観察領域3にレーザー光を照射する。
【0037】
レーザーエンジン30は、複数の波長のレーザー光を出力するチップタイプのレーザーチップまたはLEDユニットである。波長可変レーザーエンジンとしては、リトロウ型のレーザーエンジン、リットマン型のレーザーエンジンなどが使用できる。レーザーエンジン30は、特に、波長可変のストークス光31と、波長可変のポンプ光32とを供給できるものであることが望ましい。ストークス光31の波長範囲の一例は、1000〜1100nmであり、900〜1450nmであることがさらに好ましい。ポンプ光32の波長範囲の一例は700〜800nmである。レーザーエンジン30は、これらの波長範囲のレーザー光を複数の光源ユニットの組み合わせで生成してもよい。
【0038】
検出ユニット(2次光学系)27は、プローブ23から供給される角周波数ωasのアンチストークス光を分離するビームセパレータBSと、観察領域3に2次元に分散するように形成される複数の観測スポットから得られる散乱光(二次光)28を光検出器40に供給する光路27aとを含む。検出ユニット27は、検出器40に散乱光28を集光させるためのレンズL、レーザーブロックフィルタ、回折格子などを含んでいてもよい。検出ユニット27は、異なるタイプの検出器、たとえば、CCDとフォトダイオードとに散乱光28を分割して供給するようにフリップミラー(flip mirror)を含んでいてもよい。
【0039】
光検出器40は、CCDまたはCMOSのように検出エレメントが2次元に配置されたセンサーであってもよい。光検出器40は、フォトダイオードであってもよく、応答速度が速く、低雑音で周波数特性に優れたInGaAsフォトダイオードが適している。特に、プローブ23が観測スポットの高解像度の選択機能を備えている場合は、光検出器40の側では観測スポットの選択機能が不要か、または低解像度の選択機能があればよい。したがって、検出器40としてフォトダイオードを適用でき、低雑音の信号を出力できる。
【0040】
プローブ23は、観察窓23を介してアクセスできる観察領域3に複数の観測スポットを形成する出力ユニット23aと、複数の観測スポットから選択的に散乱光28を取得できる入力ユニット23bとを含む。このプローブ23は、出力ユニット23aとしてMEMSタイプの多面鏡が集積されたMDユニットを用い、入力ユニット23bとして、MDユニットとマルチファイバーとの組み合わせを採用し、多数の観測スポットからクロストークがない状態で散乱光28を選択して取得できるようにしている。
【0041】
図3に、観察領域3に、複数の観測スポット5が設定される様子を示している。この例では、600μm×600μmの観察領域3に、50μmピッチで12×12個の観測スポット5を設定している。観察領域3のサイズ、観測スポット5のピッチ、数は一例であり、これに限定されない。観測スポット5は一定のピッチでなくてもよく、また、MDユニットを用いて連続的に設定してもよい。それぞれの観測スポット5の位置は再現性が高いことが要望される。また、観測スポット5のピッチは、検出対象である毛細血管8のサイズ、たとえば直径が数μm〜数10μmを十分に検出できるとともに、毛細血管8の情報を選択して取得できるものであることが望ましい。したがって、観測スポット5のピッチは、1〜1000μm程度が好ましく、10〜100μm程度がさらに好ましい。
【0042】
光学エンジン20は、3D共焦点ラマンマイクロスコピーとしての機能を備えたものであってもよい。
【0043】
光学エンジン20を制御する信号処理エンジン50は、レーザードップラー解析ユニット51と、SORS解析ユニット52と、CARS解析ユニット53と、3Dプロファイルユニット(3Dプロファイラー)54と、メモリ55と、生体情報生成ユニット56とを含む。ドップラー解析ユニット51およびSORS解析ユニット52とは、複数の観測スポット5から得られる散乱光28に基づき、複数の観測スポット5の中から生体7の内部のターゲット部分である毛細血管8の情報を含む散乱光28が得られると判断される第1の観測スポット5aを限定するユニットとして機能する。
【0044】
3Dプロファイラー54は、レーザードップラー解析ユニット51と、SORS解析ユニット52との出力に基づき、毛細血管8を2次元的にカバーする第1の観測スポット5aをロックし、それら第1の観測スポット5aに対する深度方向のプロファイルを形成する。これにより、観察領域3に関わる毛細血管8の3次元プロファイル57が形成され、メモリ55に蓄積される。毛細血管8の3次元プロファイル57は1つに限られない。また、3次元プロファイル57は、プローブ23を付け替える度に異なり、また、装着時間が経過すると姿勢が変わるなどの要因で異なることがある。
【0045】
CARS解析ユニット53は、第1の観測スポット5aおよび/またはその周りの観測スポットから、少なくとも1つの成分の分光スペクトルを取得し、その強度に基づき生体7の内部の状態を示す第1の情報58を出力するユニットとして機能する。さらに、CARS解析ユニット53は、第1の観測スポット5aおよび/またはその周りにおいて、生体表面2からの深度の異なる複数の部分の、第1の成分の分光スペクトルを取得し、第1の成分の分光スペクトルの強度に基づき、第1の観測スポット5aを検証し、必要であればさらに限定または更新するユニットとして機能する。
【0046】
生体情報生成ユニット56はCARS解析ユニット53から得られた情報58を含めた生体情報59を生成し、出力する。
【0047】
本例のCARS解析ユニット53は、SORSとしての機能を備えており、ストークス光31およびポンプ光32の一方、たとえば、ストークス光31を第1の観測スポット5aのいずれかに照射し、出力ユニット23aのDMの何れかの角度を制御することにより、ポンプ光32をストークス光31に対して異なる角度で照射する。このレーザー光の散乱光28を、位置選択性(解像度)が優れた入力ユニット23bで、レーザー光の入射した位置からオフセットした観測スポット5で取得する。これにより、深さ方向に異なる位置の構造からCARSスペクトルを得ることができる。
【0048】
レーザーエンジン30が共焦点ラマンスペクトルスコピの場合も、レーザーの焦点位置を深さ方向に変えることが可能である。このため、生体表面(皮膚表面)2から生体内部、すなわち、皮下組織の3Dラマンスペクトルをえることが可能である。
【0049】
深さ方向に異なるラマンスペクトル中に、血管を流れる血液のラマンスペクトルが含まれていれば、事前に得られた3Dプロファイル57が検証できる。血液のラマンスペクトルであるか否かは、血液中にもっとも濃度が高い、または血液中で最も濃度が低くなる成分のラマンスペクトル成分(スペクトルピーク)を選択することにより判断できる。たとえば、グルコースは、皮下組織、真皮内に対し、血管中が最も高く、グルコース濃度に基づいてCARSスペクトルまたは3Dラマンスペクトルを解析することにより血管位置を判断できる。グルコースの代わりに、または、グルコースに加えて、血球(白血球、赤血球)を含むヘマトクリットや、アルブミンなどの血管中に主に含まれる成分のラマンスペクトルに注目して血管位置を判断してもよい。
【0050】
血管位置(血管深度)を判断できれば、その位置におけるラマンスペクトルは血液成分を反映したものであり、血液中に含まれる他の成分濃度、たとえば、糖化赤血球濃度などの血液成分の情報(血液成分情報、生体内部情報、第1の情報)を、位置が判明したラマンスペクトルからリアルタイムまたは最少サンプリングタイムの間隔で連続して得ることができる。生体表面に取り付けられたモニター(センサープラットフォーム)10と毛細血管8との距離(深さ)および位置(角度)は、人体の姿勢や動きにより変わる。このため、血管位置を発見するプロセスは定期的に繰り返し行われることが望ましい。
【0051】
図4に、グルコースのラマンスペクトル(破線)と、牛血から得られるラマンスペクトル(実線)とを比較して示している。グルコースのラマンシフトは400cm−1、1100cm−1前後に表れており、牛血においても観測される。したがって、ラマンスペクトルにより血中のグルコース濃度を測定できることが分かる。なお、図4に示したスペクトルは、自発ラマン散乱である。
【0052】
生体表面(皮膚)2にプローブ23を取り付ける場合、生体表面である皮膚2に観察窓21ができるだけ隙間なく密着しているとともに、皮膚2との間に水分ができるだけ存在しないことが望ましい。隙間や水分が存在してもレーザーパワーを調整するなどの手段で測定は可能であるが、高精度で情報を取得するためにはできるだけ存在しないことが望ましい。
【0053】
本例においては、プローブ23を、拡散性多孔質膜45を介して皮膚2に密着させている。皮膚呼吸に伴う水分(汗)の存在が生体内部の情報を含むラマンスペクトルを得る際の障害になるが、拡散性多孔質膜(透過膜)45を皮膚2との間に設けることで、水分を継続的に外部に放出できる。拡散性多孔質膜45はレーザー光31および32、散乱光28は透過し、上記の観測にはほとんど支障がない。また、拡散性多孔質膜45は弾性があるので人が動いても皮膚2との間に隙間が生ずるのを抑制できる。拡散性多孔質膜45はプローブ側に貼り付けても皮膚側に貼りつけてもよい。拡散性多孔質膜45の一例はPDMS(ポリジメチルシロキサン)、ハイブリッドシリカなどである。
【0054】
PDMSは、高分子鎖間の距離が大きく、高い気体透過係数を示す高分子膜素材の1つである。したがって、PDMSは微細口径の多孔性膜として機能し、さらに、疎水性で、有機液体に親和性が高く、選択透過性に優れていることが報告されている。ハイブリッドシリカは、平均細孔径が0.1ないし0.6nmで、数種類の媒体内で少なくとも200℃まで熱水的に安定であるシリカをベースとする微孔質有機−無機ハイブリッド膜であり、短鎖架橋シランのゾル−ゲル処理を使用して製造することができる。ハイブリッドシリカは、気体の分離ならびに低分子量アルコールなどの様々な有機化合物からの水および他の小分子化合物の分離に適していることが報告されている。さらに、PDMSに対して耐熱性が高く、高温での用途、たとえば、低温で蓄積して高温で放出するような濃縮を兼ねた用途に適している。拡散性多孔質膜45は、これらに限定されない。また、拡散性多孔質膜45の代わりに同等の機能を備えたジェルなどの半流動体を介在させてもよい。
【0055】
センサープラットフォームであるモニター10には、ラマン分光センサー11に加えて、または代わりに、皮膚呼吸の成分を分析するイオン移動度センサー(IMS)や質量分析センサー(MS)を搭載してもよい。また、分散型のセンサープラットフォーム10であれば、呼気分析用のイオン移動度センサーや質量分析センサーを鼻孔近傍あるいは鼻孔内に取り付けてもよい。分散配置される複数のセンサーからの情報は無線または有線で収集できる。
【0056】
図1に戻って、解析エンジン120は、モニター(センサープラットフォーム)10により得られる生体内部情報を、イベント追跡ユニット140で得られる生体外部情報と合せて解析し、ドラッグデリバリユニット130により生理活性物質を生体(人体)に注入する。
【0057】
ドラッグデリバリユニット(配送ユニット)130は、自動化され、非侵襲性で、複数のドラッグ注入経路(チャンネル)を備え、生体(人体)7に簡単に装着したり、貼りつけたりできるものが望ましい。一例は、MEMSを用いた超音波、電界効果トランジスタ、ナノジェットを用いた非侵襲型のインスリンポンプまたはインジェクタである。糖尿病の患者に対する処方薬152の一例は、基礎インスリン(basal insulin)および追加インスリン(bolus insulin)である。
【0058】
ドラッグデリバリユニット130は、モニター10と並べて人体表面に取り付けてもよい。ドラッグデリバリユニット130が人体に注入する生理活性物質は、人体に予定通りに吸収または拡散する前にモニター10により取得される生体内部情報に影響を与える可能性がある。この場合は、ドラッグデリバリユニット130はモニター10から離れた、たとえば、人体の反対側に装着することが望ましい。ドラッグデリバリユニット130、解析エンジン120およびモニター10の間の情報経路は有線であっても、無線であってもよく、さらに、それぞれが直に、またはコンピュータネットワークを介して間接的に接続されていてもよい。
【0059】
解析エンジン120に生体外部情報を提供するイベント追跡ユニット140は、人体に装着されていてもよく、外界から人体の動作を観察するものであってもよく、患者のスケジュールを管理するサーバーに含まれていてもよく、それらが組み合わされたものであってもよい。イベント追跡ユニット140の典型的なものは、身体に装着可能なセンサーあるいはセンサー群である。イベント追跡ユニット140は、画像センサー等から得られる情報により患者の食事の有無や食事の内容を判断したり、加速度センサー等から得られる情報により患者の動作、たとえば、運動を開始したか、通常の仕事を行っているか、寝ているか、休憩中かなどを判断したりする機能を含む。
【0060】
イベント追跡ユニット140は、患者の体温、皮膚表面の湿度、患者の外側の気温、湿度、風量、風向、気圧などを取得するセンサーを備えていてもよい。イベント追跡ユニット140は、さらに、過去の患者の動作を学習し、近未来、たとえば、一時間後、30分後、数分後における患者の動作、たとえば食事を行ったり、運動(トレーニング)を行ったり、日常業務を行ったり、就寝、休息することを予測できる機能(学習機能)を備えていることが望ましい。
【0061】
解析エンジン120は、このシステム1の制御ユニットとしての機能を備えている。解析エンジン120は、さらに、イベント追跡ユニット140から得られる生体外部情報に基づいて、今後患者自身または患者の周りで動的に発生するイベントを予想する機能(イベント予想機能)と、通常の(日常的な、静的な)イベントの発生を考慮する機能(静的イベント解析機能)と、イベント認識モジュール60とを含む。
【0062】
解析エンジン120は、さらに、センサープラットフォーム10から得られる人体内部情報に加え、予測されるイベントを含む人体外部情報を考慮し、ドラッグデリバリユニット130から注入する生理活性物質、たとえば、インスリンなどのホルモン、処方薬、ミネラル、栄養素などの種類と量とを決定および制御する機能(投薬量推定機能)とを含む。解析エンジン120は、さらに、生理活性物質の種類と量とを決定する機能に対し、処方箋の内容、身体のサイズ特徴、既往症などのボディーパラメータをデータベースなどから取得する機能(身体パラメータモニタリング機能)と、校正する機能(キャリブレーション機能)とを含む。
【0063】
人体に注入または投与する生理活性物質の種類および量を決定する投薬量推定機能は、生体内部情報に基づいて種類および量を決定するクローズドループ機能と、クローズドループ機能の出力に対して生体外部情報を含めた予測機能をもとに修正を加えるオープンループ機能とを含む。
【0064】
図5にイベント認識モジュール60の概要を示している。このイベント認識モジュール60は解析エンジン120が備えていてもよく、イベント追跡ユニット140が備えていてもよい。イベント認識モジュール60は、モニター10から得られるリアルタイムGCM(Continuous Glucose Monitoring)61の情報をイベント予想情報62で処理して投薬(ドラッグデリバリ)ユニット130を制御するためのイベント認識63を生成する。イベント予測情報62は、イベント追跡ユニット140などにより得られる、食事および食べ物を取った情報65、運動また日常生活(日常業務)を行っている情報66、就寝している情報67などを基に生成される。
【0065】
解析エンジン120は、さらに、サードパーティがオンラインストアー154などを用いて提供するアプリケーションにしたがって生理活性物質の種類および量を決定する機能68を備えている。オンラインストアー154で提供されるアプリケーションの例は、糖尿病患者用プログラム、ダイエット管理用プログラム、心臓疾患用プログラム、ストレスモニタリング用プログラム、ライフスタイル管理用プログラム、予防診断用プログラム、適合診断用プログラムである。センサープラットフォーム10により判断でき、生理活性物質による治療対象または緊急対処する疾患としては、心筋梗塞、脳梗塞、肝機能障害、腎機能障害、高脂血症などを挙げることができる。
【0066】
解析エンジン120は、さらに、クラウドサービス156と情報を交換する機能69を含む。クラウドサービス156は、医師または看護師、さらには家族などが患者をオンラインで監視するサービスを含み、オンラインモニタリング、イベントをオーバーライドして投薬のタイプや量を決めるサービス、イベントデータベースを生成する機能、遠隔地からのモニタリングサービスを含む。
【0067】
解析エンジン120は、CPUおよびメモリを含むコンピュータ資源を用いて実現することも可能であり、LSIまたはASICであってもよく、さらに、回路を再構成可能なチップを用いて実現してもよい。
【0068】
図6に、血中のグルコースの変化の例を示している。実線は血中のグルコースを何等かの方法で検査してインスリンを投与したケースを示している。穿刺タイプのセンサーにより血中のグルコース濃度を測定する場合、測定の遅れ(センサーラグ)がある。このため、インスリンの投与77が遅すぎたり、早すぎたり、インスリンの量が多すぎたり、少なすぎたりすることにより、グルコース量76が、高血糖状態78になったり、低血糖状態79になったりする可能性がある。最悪の場合、人体に回復不能なダメージを与えたり、死に至ることがあり得る。このようなことを避けるために、糖尿病の患者は、血糖値が変化しやすい状況の発生を未然に防ぐ必要があり、急激な運動を避けたり、食事を定期的に所定の量だけのカロリーを摂取するようにするなど、種々の制限のある生活を行う必要がある。
【0069】
これに対し、本例の健康管理システム1においては、モニター10により、連続して、リアルタイムに血中のグルコースを測定する。したがって、インスリンの投与量を連続して測定されるグルコース濃度に対して細やかに制御できる。さらに、イベント認識モジュール60は、運動や、食事といったイベント(患者の活動)の発生を検出し、さらに、日常のスケジュールや、さまざまなセンサーの出力を用いて患者の活動を予測する。解析エンジン120は、予測された状態に対応できるように投与するインスリンの種類および量を決定する。このため、血中のグルコース濃度を、健康に影響の少ない細い幅の範囲75に制御することができる。このため、糖尿病の患者であっても健常人と同様にスポーツを行ったり、食事をとったりすることが可能となる。
【0070】
図7に健康管理システム1の主な動作をフローチャートに示している。ステップ81において、モニター1のプローブ23の観察窓21を、PDMS45を介して皮膚2の表面に装着する。ステップ82において、観察窓21で見える観察領域3の皮膚2の水分をラマンスペクトルで測定する。たとえば、共焦点法により皮膚表面および内部の水分量を測定でき、皮膚までの距離も測定できる。ステップ83において、皮膚表面の水分量と、皮膚表面までの距離とにより、以降の測定で用いるレーザーの出力を調整する。皮膚2の表面の水分が多かったり、皮膚2と観測窓21との間に隙間が空いているとレーザーの浸透力が変わるので、レーザーの出力を調整することが望ましい。皮膚2の表面の水分量は電気伝導率(導電率)を測定することにより求めてもよい。
【0071】
ステップ84において、レーザードップラー解析ユニット51を用い、レーザードップラー法により、観察領域3の中の観測スポット5で、血流を検出している観測スポット5aを判断する。血流を検出している観測スポット5aを限定することにより、観察領域3の中の毛細血管8の位置を特定でき、毛細血管8の直上または近傍に位置する観測スポット5aを識別できる。たとえば、波長800nm前後のポンプ用のレーザー光32を、観察領域3の全体に照射し、各観測スポット5から得られる拡散光28のスペクトル(レイリー散乱)を取得し、その中に、赤血球で散乱される光のドップラーシフトの周波数の広がりが見られれば、血流の有無を判断できる。レーザー光32をDMモジュール23aを用いて各観測スポット5に個別に照射してもよい。
【0072】
ステップ85において、これ以降において、測定対象となる観測スポット(第1の観測スポット)5aを限定し、測定対象をロックする。ステップ86において、3Dプロファイラー54は、ロックされた観測スポット5aで得られたドップラーシフトのデータから、数学モデルにしたがってロックされた観測スポット5aの下の毛細血管8を示す深度プロファイルを生成する。
【0073】
次に、ステップ87において、プロファイラー54は、さらに、SORS解析ユニット52を用い、観測スポット5aの深度方向のプロファイルを検証する。空間オフセットラマン分光法(SORS)においては、観測スポット5aにレーザーを照射し、観測スポット5aから離れた、観測スポット5aの周囲の観測スポット5において散乱光28を取得することにより皮膚2の下の深部組織からのラマンスペクトルを得る。レーザーの照射角度を調整して深度方向のプロファイル生成用のラマンスペクトルを取得してもよい。
【0074】
ステップ88において、ロックされた観測スポット5aの深度プロファイルも含めた3Dプロファイル57が得られると、プロファイラー54は、毛細血管8が存在するであろう測定対象(ターゲット部分)の深さ方向の位置を決定する。これにより、ターゲット部分の3次元的な位置が決まる。
【0075】
ステップ89において、CARS解析ユニット53が、コヒーレント反ストークスラマン分光法(CARS)により、測定対象の位置からCARSスペクトルを取得する。CARS解析ユニット53は、ロックされた観測スポット5aまたはその周辺の観測スポット5に、設定された深度で交差するように、選択的に、可変長レーザーをストークス光31および/またはポンプ光32として照射する。これにより、ロックされた観測スポット5aから、設定された深度に存在する成分で、ストークス光31およびポンプ光32により設定される波長条件に合致する成分からの反ストークスラマン散乱光28を取得できる。このため、ディテクタ40は、毛細血管8が存在するであろう皮膚下の位置の組織からのCARSスペクトルを検出できる。したがって、他の組織からのラマンスペクトルで毛細血管8の情報が薄められたり、平均化されることがなく、低ノイズの情報が得られる。
【0076】
個々の観測スポット5aからの散乱光28をディテクタ40に供給するためには、多焦点を形成可能なマルチファイバーとDMまたはMEMSタイプのシャッターとの組み合わせを備えた入力ユニット23bを用い、他の観測スポット5からの散乱光28をシャットアウトすることが望ましい。
【0077】
さらに、ストークス光31およびポンプ光32を可変長とし、照射位置をロックされた観測スポット5aまたはその周囲に限定することにより、ディテクタ40の側は位置的な解像度と波長選択性とが不要となる。このため、反応速度が速く、精度の高いフォトディテクタを採用できる。このため、ストークス光31およびポンプ光32を短時間のパルス光で供給でき、たとえば、ピコ秒またはフェムト秒単位のパルス光で供給できる。
【0078】
したがって、皮膚2がレーザー光により損傷することを未然に防止でき、人体への影響を抑制しながら、長時間にわたり継続して毛細血管8からの情報を取得できる。また、皮膚2との間にPDMS45などの多孔質膜を挟むことにより皮膚2に対するレーザー光の影響をさらに軽減できる。
【0079】
ステップ90において、CARS解析ユニット53は、グルコース、ヘモグロビンHbA1cなどの情報をCARSスペクトルから抽出して第1の情報58として生体情報生成ユニット56へ供給する。生体情報生成ユニット59は、血液中の第1の情報56と、必要であれば、プロファイラー54が3Dプロファイルを生成する過程で収集した情報を集約して生体内部情報59として解析エンジン120に供給する。
【0080】
ステップ91において、CARS解析ユニット53は、一定の間隔で、測定対象(ターゲット部分)として設定された深度を変化させたCARSスペクトルを取得する。深さ方向(垂直方向)に変化するラマンスペクトルに含まれるグルコース濃度から、ターゲット部分の深度のスペクトルが、深度の異なる部分のスペクトルに対して血管のスペクトルとして適しているかを判断する。これにより、常に深度プロファイル57を検証できる。ステップ92において、ターゲット部分から得られる情報が血管として適していない場合は、ステップ84に戻って、3Dプロファイル57を更新したり、再生成する。
【0081】
深度プロファイル57の検証に用いられるラマンスペクトル成分は、グルコースに限らず、ヘマトクリット、アルブミンなどの血管中に、周囲よりもさらに高い濃度で存在する成分であってもよい。
【0082】
CARS解析ユニット53は、深度方向を変えてCARSスペクトルを取得する際に、ストークス光31またはポンプ光32の角度を変え、所定の観測スポット5aからシフト(オフセット)された位置でCARSスペクトルを取得するようにしてもよい。空間オフセットされたCARSスペクトル(SOCARSスペクトル)を取得することにより、深度方向のプロファイルの精度をさらに向上できる。
【0083】
CARSの代わりに、あるいはCARSとともに、共鳴ラマン分光法でスペクトルを取得してもよい。複数のラマン分光センサー11のデータを組み合わせて3Dのラマンスペクトルを取得してもよい。
【0084】
ステップ90において、解析エンジン120は、グルコースに限らず、血管を流れる血液中に存在するグルコース以外の化学成分や、赤血球などの細胞や、アルブミンなどのタンパク質などを含めた血液成分であって、ラマンスペクトルから推定できるすべての成分を含む生体内部情報を取得できる。
【0085】
ステップ93において、解析エンジン120は、イベント追跡ユニット140から生体外部情報をさらに取得し、ステップ94において、生体内部情報および生体外部情報に基づき投薬ユニット130において投薬する生理活性物質のタイプおよび量を判断する。そして、ステップ95において、投薬ユニット130は、解析エンジン120の分析結果に基づいて所定の生理活性物質、たとえば、インスリンを投与する。
【0086】
以上に説明したように、健康管理システム1は、連続したクローズドループで、非侵襲のヘルス・バイタルコントロールプラットフォームであり、非侵襲の波長がプログラマブルの分光装置を含み、さらに、身体のアクティビティ及びイベント追跡ユニットと、制御ユニットと、投薬ユニット(ドラッグデリバリユニット)が一体となり、自動的に測定部分の自動調整を行うことができるものである。非侵襲の光学的質量分析技術が血液を基本とした測定に使われる。センサープラットフォームであるモニター10は、チューナブルレーザーを持つ、MEMSベースの光学装置であり人体との接触部分には、高浸透性の膜組織(薄膜)が用いられる。
【0087】
また、このシステム1は、プラットフォームとして利用され、新しい方法(治療方法)や処理方法をダウンロードして用いる拡張性を含む。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7