(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御ユニット(21)が、前記吸気弁(17)を、前記最高流量値から前記最小流量値への平均流量変化率が少なくとも7200lpm/sとなる速度で、前記最高流量位置から前記最小流量位置へと移行させるように構成される、請求項1に記載の人工呼吸器(1)。
前記呼気ライン(9)を通る前記ガスの流量を調節するための電子制御された呼気弁(19)をさらに備え、前記制御ユニット(21)が、前記呼気弁(19)を、前記吸気弁(17)の振動パターンとは位相がずれた振動パターンで振動させるように構成される、請求項1から7のいずれか一項に記載の人工呼吸器(1)。
【背景技術】
【0002】
高頻度振動換気(HFOまたはHFOV: high frequency oscillatory ventilation)とは通常、従来の換気法を用いては適切に換気することができない新生児患者に、少量の1回換気量の呼吸ガスを送達するものである。吸気中は、人工呼吸器の呼吸回路内で正圧(overpressure)が生じ、それによって呼吸ガスが患者に送り込まれ、呼気中は、呼吸回路内の負圧(underpressure)が、患者の気道からガスを抜き出す働きをする。周囲圧力(大気圧)に対して陽圧と陰圧との間で振動する圧力プロファイルを適用することによって、吸気と呼気との両方が「能動的(active)」となり、ガスが患者の体内にトラップされる危険が最小限に抑えられる。
【0003】
HFO換気は、典型的には5〜20Hzの周波数範囲で、死腔量、すなわち患者の気道を含む容積、ならびに人工呼吸器のチューブ系および気管チューブの容積よりも少ないか、それに等しいか、またはそれよりもわずかにだけ多い1回換気量で実行される。HFO換気の特徴を規定する関連パラメータには、MAP(mean airway pressure、平均気道内圧)、振動周波数、ならびに振動圧力プロファイルの陽圧成分と陰圧成分との振幅が含まれる。この点に関して、MAPとは、平均気道内圧の略称ではあるが、呼吸回路のYピースで測定される平均圧力であり、この圧力は、HFO換気を受けている患者の気道内圧に実際に対応するわけではないことに留意されたい。HFO換気を規定する圧力振幅もやはり、Yピースで測定される。
【0004】
HFOは、能動的な吸気のみを使用する換気療法である高頻度換気(HFV: high frequency ventilation)と混同されてはならない。HFO換気とは異なり、HFV中に患者に加えられる振動圧力は、大気圧よりも下がることは決してない。したがって、HFOでは能動的な吸気および能動的な呼気が関与するが、HFVでは能動的な吸気しか関与しない。
【0005】
従来技術によるHFO人工呼吸器では、様々な技術を用いて、患者に加える振動、および典型的には正弦波の圧力プロファイルを生じさせている。
【0006】
たとえば、ピストン発振器を用いて振動圧力プロファイルを生じさせるHFO人工呼吸器がある。ピストン式のHFO人工呼吸器では、ピストンが典型的にはダイアフラムに作用して、ダイアフラムをダイアフラム収容部内で前後に動かす。ダイアフラムの片側をガス源と、換気している患者の気道とに流体連通させることによって、呼吸ガスを、振動圧力プロファイルを用いて患者に送達することができる。そのようなピストン式のHFO人工呼吸器が、特許文献1から既知である。
【0007】
他のHFO人工呼吸器では、スピーカ技術を用いて、振動圧力プロファイルを生じさせている。そのようなHFO人工呼吸器が、たとえば特許文献2、および特許文献3に開示されている。
【0008】
さらに他のHFO人工呼吸器では、ときにはジェットベンチュリシステムと呼ばれることがあるイジェクタを用いて、振動圧力プロファイルの少なくとも陰圧を生じさせ、すなわち少なくとも患者の能動的な呼気を実現している。この呼気は、人工呼吸器の呼気ライン内で陰圧が生じるように、呼気ライン中のガスを患者から離れる方向に払い出すことによって実現され、この陰圧は、患者の気道からガスを抜き出す働きをする。いくつかのHFO人工呼吸器では、イジェクタをやはり用いて、ガスを人工呼吸器の吸気ライン内に患者の方に向けて吹き込むことによって、振動圧力プロファイルの陽圧を生じさせる。他のHFO人工呼吸器では、人工呼吸器の吸気弁を調節することによって陽圧を生じさせ、呼気ラインにあるイジェクタを用いて陰圧を生じさせている。
【0009】
様々な種類のHFO人工呼吸器が、特許文献4の背景技術にさらに記載されており、この記載は、患者に加えられる1回換気量に基づいて、呼吸圧力の振幅および振動周波数の少なくとも一方を調節するための調節手段を有するHFO人工呼吸器に関する。
【0010】
従来技術によるHFO人工呼吸器には、いくつかの欠点が伴う。ピストン式、およびスピーカ式のHFO人工呼吸器では、ピストンまたはダイアフラムが高頻度で動くため、ときとして騒音が大きくなる。イジェクタ式のHFO人工呼吸器では、ときとして、患者の能動的な呼気を完全にサポートするのに十分な負圧を生じさせることができない。さらに、ピストン、スピーカ、またはイジェクタの形の振動発生器が必要となるので、人工呼吸器の費用および複雑さが増す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の一目的は、従来技術による高頻度振動(HFO)換気を行うための人工呼吸器に伴う上述の欠点の1つまたは複数を解消、または少なくとも軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、添付の特許請求の範囲の請求項1に記載の、HFO換気を患者に行うための呼吸装置によって達成される。
【0014】
この目的はまた、請求項12および請求項22にそれぞれ記載の関連する方法およびコンピュータプログラムによって達成される。
【0015】
本発明は、十分に高い流量の呼吸ガスを、完全、またはほぼ完全に、かつ十分迅速に遮断することによって、HFO換気に使用するのに適した、振動圧力プロファイルの陰圧成分を生じさせることができるという発見に基づく。これは、呼吸ガス質量の運動エネルギーを用いて、呼吸装置のチューブ内に、呼吸装置が連結されている患者が能動的な呼気を行うのに十分な負圧を生じさせることができるという事実による。
【0016】
本発明による呼吸装置の吸気弁の調節を速やかに行うことによって、呼吸ガスのパルスが生じ、呼吸装置の吸気ラインを介して患者の方にそのパルスが伝達される。呼吸ガスを吸気ラインに注入することによって、チューブ系内の圧力が増大することになり、その後、吸気弁を迅速に閉止すると呼吸ガス流が減速するため、圧力は減少することになる。最高流量を十分高くし、かつ吸気弁を十分速やかに閉止すると、流量の減速によって呼吸ガスパルスの後に陰圧(すなわち大気圧よりも低い圧力)が生じる。呼吸ガスパルスの慣性によって、陰圧は、吸気ラインを介して呼吸装置の近位チューブの方へと伝播し、この近位チューブには、患者を吸気ラインと呼気ラインとに連結する患者コネクタが含まれている。チューブ系内の圧力が増大するにつれて、ガスが患者の気道に送り込まれることになり、したがって能動的な吸気が行われることになる。呼吸ガスパルスの運動エネルギーによって、パルスの少なくとも一部が呼気ラインに伝播することになる。このときまでに、新たな呼吸ガス流が吸気ラインに通されていなかった場合、ガスパルス後の陰圧、または残りのガスパルスによって、ガスが患者の気道から抜き出されることになり、したがって能動的な呼気が行われることになる。したがって、患者は、呼吸ガスパルスが呼吸装置の吸気ライン中を患者の方へと伝播するにつれて能動的な吸気を受けることになり、また、呼吸ガスパルスが呼吸装置の呼気ライン中を患者から離れる方向に伝播するにつれて能動的な呼気を受けることになる。振動吸気弁以外の振動構成要素なしで、−50cmH
2Oの大きさの陰圧成分を生じさせることができることが判明している。
【0017】
高い運動エネルギーを有し、明確に画定された呼吸ガスパルスのパルストレインを生じさせることによって、十分に速やかな閉止機構を有する振動吸気弁以外の手段は使用せずに、能動的な吸気および能動的な呼気を伴う真のHFO換気を行うことができ、この振動吸気弁は、吸気弁を通る呼吸ガスの流量が十分に高くなる開放位置と、吸気弁を通る流量がゼロまたはほぼゼロになる閉止またはほぼ閉止位置との間で振動する。能動的な呼気を行うために必要となる陰圧は、吸気弁を介して注入された呼吸ガスパルスの運動エネルギーだけを用いて生じさせる。
【0018】
したがって、本発明の一態様によれば、人工呼吸器または麻酔機械など、HFO換気を患者に行うための呼吸装置が提供される。この呼吸装置は、周囲(大気)圧力に対して陽圧と陰圧との間で振動する振動圧力プロファイルに従って、呼吸ガスを患者に供給することによって、HFO換気を行うように構成されている。この呼吸装置は、呼吸ガスを患者に搬送するための吸気ラインと、ガスを患者から搬送するための呼気ラインと、吸気ラインに流れ込む加圧呼吸ガスの流量を調節するための吸気弁とを備える。この呼吸装置は、吸気弁を制御するための制御ユニットをさらに含み、この制御ユニットは、吸気弁を、吸気弁を通る呼吸ガスの流量が最高流量と見なされる最高流量位置と、吸気弁を通る流量がゼロまたはほぼゼロの最小流量と見なされる最小流量位置との間で振動するように制御することによって、振動圧力プロファイルを生じさせるように構成されている。
【0019】
したがって、従来技術によるHFO人工呼吸器とは異なり、振動圧力プロファイルの陽圧成分と陰圧成分との両方が、振動吸気弁によって生じる。
【0020】
先に述べたように、従来技術によれば、人工呼吸器の吸気弁を用いて圧力プロファイルの陽圧成分を生じさせるHFO人工呼吸器が存在する。しかし、これらのHFO人工呼吸器はすべて、イジェクタまたは他の適切な装置を用いて、圧力プロファイルの陰圧成分を生じさせている。従来技術によるこれらのHFO人工呼吸器では、以下の3つの理由のうちの1つまたは複数のため、陰圧成分は吸気弁の振動によっては生じず、または生じさせることができない。
− 第1に、既知のHFO人工呼吸器では、最高流量は十分に高くない。呼吸ガスパルスの慣性が、患者の気道からガスを抜き出すことが可能となる陰圧を生じさせるのに十分なほど高くなるには、吸気弁を通る呼吸ガスの最高流量は十分に高くなければならない。従来技術によるHFO人工呼吸器は、典型的には約30lpmの最高流量を送達する。本発明によるHFO人工呼吸器は、180lpmまでの流量を送達することが可能であり、このため吸気弁を介して注入されたガスパルスは、これらの既知のHFO人工呼吸器の吸気弁を介して注入された対応するガスパルスによって搬送される運動エネルギーの約36倍のエネルギーを搬送することになる。
− 第2に、既知のHFO人工呼吸器では、吸気弁の調節が遅くなりすぎる。吸気弁を通る最高流量は十分に高くなければならないということに加えて、患者が能動的な呼気を行うには、最高流量を極めて急激に遮断して、十分な陰圧を生じさせなければならない。このことは、吸気弁の調節速度、特に閉止速度が極めて高くなければならないことを意味する。従来技術によるHFO人工呼吸器では、患者が能動的な呼気を行うのに必要となる陰圧成分を生成することができず、その理由は、そうしたHFO人工呼吸器では、呼吸ガスの流量を最高流量からゼロまたはほぼゼロ流量までそれほど速やかには低減させることができないからである。さらに、吸気弁は、HFO換気の頻度に対応する周波数で振動するので、吸気弁は、好ましくは、1秒あたり少なくとも20回(20HzのHFO換気に対応)、閉止またはほぼ閉止した位置から、最高流量が十分に高くなる開放位置へと移行し、再度戻ることができなければならない。従来技術によるHFO人工呼吸器の吸気弁および制御機構では、これらの2つの最端位置間で、求められる頻度で振動するには遅すぎる。
− 第3に、既知のHFO人工呼吸器では、バイアス流が典型的には高すぎる。患者回路の患者付近で陰圧を生じさせるには、吸気弁の最高流量および調節が十分高いだけではならない。吸気弁が最も閉止した位置にあるときに吸気弁を通る流量(バイアス流)もやはり十分に小さくなければならず、というのは、減速(すなわち時間単位あたりの流量減少)も十分高くなければならないからである。既知のHFO人工呼吸器では、バイアス流は典型的には約3lpm以上であり、既知のHFO人工呼吸器の最高流量および吸気弁の閉止速度を考慮すると、このバイアス流では高すぎて、患者回路にいかなる陰圧も生じさせることができない。
【0021】
上記から理解されるように、最高流量と最小流量との両方とも、および最高流量から最小流量への流量変化は、呼吸ガスパルスの後に生じる陰圧の大きさに影響を及ぼす。本発明の呼吸装置の制御ユニットは、好ましくは、吸気弁を、最高流量から最小流量への平均流量変化率が少なくとも7200lpm/s(180lpmからゼロ流量までの流量減少時間が25msに相当)、より好ましくは少なくとも12000lpm/s、さらに好ましくは少なくとも18000lpm/s(180lpmからゼロ流量までの流量減少時間が10msに相当)となる速度で、最高流量位置から最小流量位置へと移行させるように制御する。平均変化率が18000lpm/sとなる閉止速度では、30lpmの最高流量で、能動的な呼気を行うのに十分なほど低い陰圧を生じさせるのに十分である。しかし、好ましくは、少なくとも5〜20Hzの関連周波数範囲で、適切なMAP(Mean Airway pressure、平均気道圧)、および圧力振幅到達範囲(pressure amplitude coverage)を得るには、最高流量は、少なくとも60lpm、さらに好ましくは少なくとも120lpmでなければならない。さらに、最小流量(バイアス流)は、4lpm以下、好ましくは1lpm以下でなければならない。
【0022】
以下で、吸気弁の開放および閉止について述べる場合、吸気弁を開放するとは、吸気弁を最小流量位置から最高流量位置まで開放することを意味し、吸気弁を閉止するとは、吸気弁を最高流量位置から最小流量位置にすることを意味することを理解されたい。上記の議論から理解されるように、最小流量位置とは、吸気弁を通る流量がゼロである完全閉止位置、または吸気弁を通る流量が4lpm未満、好ましくは1lpm未満であるほぼ閉止位置である。
【0023】
したがって、20Hz以上の周波数で、提案のHFO換気を行うには、呼吸装置の吸気弁は、その最も開放した「最高流量位置」から、完全に、またはほぼ閉止した位置まで極めて速やかに移行できなければならない。上述の要件を満たす吸気弁および弁制御機構を有する市販の(非HFO)人工呼吸器に、Maquet Critical Care ABによって開発製造されたSERVO−i人工呼吸器がある。本発明は、提案のHFO換気を行うように十分に速やかな吸気弁を有する、SERVO−i人工呼吸器などの従来の人工呼吸器を適合させることによって実施できることが企図される。HFO換気の適合は、適切なコンピュータプログラムを、人工呼吸器の制御ユニットの不揮発性メモリにインストールすることによって行うことができ、このコンピュータプログラムは、制御ユニットの処理装置によってそのコンピュータプログラムが実行されると、従来の人工呼吸器に、本明細書に記載の方法を実施させることによって、従来の人工呼吸器をHFO対応人工呼吸器に変換させるものである。提案のHFO換気を行うために、SERVO−i人工呼吸器のハードウェアを改変する必要はない。しかし、好ましくは、騒音を回避するために、吸気ラインおよび呼気ラインの近位端に通常配置されている逆止め弁を除去するが、そうでない場合にはHFO換気中にこれらの逆止め弁によって騒音が生じることになる。
【0024】
能動的な呼気の効果をさらに高めるために、この呼吸装置は、好ましくは、呼気ライン内でガスが逆流する、すなわちガスが患者の方へと流れるのを防止、または少なくとも制限するための手段を備える。各ガスパルス後に生じる陰圧は、チューブ系を伝播する際にガスパルスを減速させる作用を有する。呼気ラインにまだ陰圧が幾分残ったままガスパルスの慣性がゼロになると、患者の能動的な呼気に逆らう逆流(バックサクション)が呼気ラインに生じ得る。そのような逆流を防止することによって、患者の能動的な呼気を長引かせることができる。
【0025】
好ましくは、逆流は、呼気ラインの遠位端に配置された呼気弁を用いて防止される。そのような呼気弁は、今日のほとんどの呼吸装置に使用されている。HFO換気中の呼気ラインの逆流を防止するために、呼気弁を、呼気ライン内の陰圧によって逆流が生じる前に閉止するように構成することができる。好ましくは、呼気弁は、制御電流が弁に印加されない限り、ガスが患者から離れる方向に流れるようにし、反対方向へはガスが流れないよう防止するように設計された電気機械的な一方向呼気弁である。制御電流がこの弁に印加されると、流れの方向にかかわらず弁は閉止したまま保たれ、その閉止力は、制御電流の大きさに依存する。そのような呼気弁によって、呼気弁を介した逆流が自動的に防止されることになり、一方で、呼吸装置の制御ユニットにより、患者回路内の圧力に依存して呼気弁の閉止力を調整して、HFO換気の吸気相中に呼気弁からガスが漏れるのを防止することが可能となるという利点がさらに得られる。上記は、各吸気相の持続時間中に増大して、患者回路内で増大する圧力を補償する大きさを有する制御電流を呼気弁に印加することによって実現することができる。
【0026】
呼気ラインの逆流はまた、呼気ラインに配置された機械的な一方向弁などの1つまたは複数の受動構成要素によって防止することができる。また、HFO換気を行う呼吸装置の呼気ラインの長さを増大させることによっても、呼気ラインの逆流を十分に制限できることが示されてきている。したがって、本発明のさらに別の実施形態によれば、呼気ライン内でガスが逆流するのを防止または制限するための手段は、呼吸装置の呼気ラインの長さを延長させる1本のチューブを備える。
【0027】
呼吸装置が電子制御された呼気弁を備える場合、制御ユニットは、好ましくは、吸気弁と呼気弁とを同期させて制御することによって、HFO換気の効果をさらに向上させるように構成される。本発明の好ましい実施形態では、制御ユニットは、吸気弁と呼気弁とで位相がずれるように、すなわち吸気弁と呼気弁とが同時に開閉しないように、吸気弁と呼気弁とを制御するように構成される。
【0028】
呼気弁は、吸気弁が開放しているときは閉止したまま保たれる。好ましくは、呼気弁はまた、吸気弁が閉止した後も、しばらくの間は閉止したまま維持される。吸気弁の閉止と、呼気弁の開放との間の時間遅延を、本明細書では呼気遅延と称する。この呼気遅延は、各吸気中に患者に送達される新鮮なガスの容量を増大させる効果を有し、というのは、呼気弁の開放を遅らせることによって、吸気ラインと、呼気ラインとを患者に連結し、さらに患者の気道に連結する患者コネクタの共通ラインに流れ込む呼吸ガスの流量が増大することになるからである。呼気遅延は、好ましくは、HFO換気の各周期中に、各呼吸ガスパルスによって、十分な量の呼吸ガスが患者の気道に流れ込むように選択される。
【0029】
上述のように、制御可能な呼気弁はまた、呼気ラインの逆流を防止する働きをすることができる。呼気弁は、上述のように電気機械的な一方向弁として設計される場合、呼気ラインの逆流が自動的に防止されることになる。しかし、呼気弁の設計によっては、患者の能動的な呼気に悪影響を及ぼす少量の逆流がなおも出現することがあり、たとえば、制御電流が印加されない場合に弁の膜と弁座との間にわずかな間隙がある場合である。したがって、呼気相の終了付近で、呼気ライン中に陰圧がまだ幾分残ったまま、制御電流を弁に印加することによって、呼気弁を能動的に閉止することが望ましくなり得る。これは、呼気弁を能動的に制御して閉止してからいくらか経った後、吸気弁を開放することによってその後の吸気相を開始することができることを意味する。
【0030】
したがって、吸気弁および呼気弁の制御は、もう1つの時間遅延をさらに含むことができ、本明細書では、呼気弁の閉止と、吸気弁の開放との間の吸気遅延と称する。
【0031】
最適な吸気遅延時間および呼気遅延時間は、主に患者回路のチューブ長さ、HFO換気の頻度、および換気する患者の特性に依存する。本発明の一実施形態によれば、吸気遅延時間と呼気遅延時間との一方または両方とも、人工呼吸器のオペレータによって設定することができ、また、所定の圧力プロファイルに従ってHFO換気を患者に行うように、前記遅延時間の一方または両方を最適化させる使用前チェックを実施することにより、人工呼吸器の制御ユニットによって自動的に設定することもできる。そのような使用前チェックでは、人工呼吸器は、患者回路内で測定された圧力を、所定の圧力プロファイルによって与えられた圧力と比較し、吸気および/または呼気遅延時間を調整して、それらの圧力間のいかなる偏位も最小限に抑えられるように適合させることができる。好ましくは、この人工呼吸器は、進行中のHFO換気中、送達される圧力プロファイルが所望の所定の圧力プロファイルから逸脱しないことが確実となるように、吸気遅延時間と呼気遅延時間との一方または両方を自動的に調整するようにさらに適合され、この調整は、たとえば、測定された圧力値を所望の圧力プロファイルと繰り返し比較し、一方または両方の時間遅延を調整して、いかなる偏位も補償することによって行われる。
【0032】
本発明のさらなる有利な態様について、以下の詳細な説明に記載する。
【0033】
本発明は、以下に示す詳細な説明、および単なる例によって示す添付の図面からより完全に理解されよう。様々な図面において、同じ参照番号は、同じ要素に対応する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の例示的な実施形態による、HFO換気を患者に行うための呼吸装置を示す図である。
【
図2】本発明の例示的な実施形態による、HFO換気を患者3に行うための方法を示す流れ図である。
【
図3A】本発明の例示的な実施形態による、HFO換気を行う呼吸装置の患者回路内の圧力および流量の推移を簡略化した形で示す図である。
【
図3B】本発明の例示的な実施形態による、HFO換気を行う呼吸装置の患者回路内の圧力および流量の推移を簡略化した形で示す図である。
【
図3C】本発明の例示的な実施形態による、HFO換気を行う呼吸装置の患者回路内の圧力および流量の推移を簡略化した形で示す図である。
【
図3D】本発明の例示的な実施形態による、HFO換気を行う呼吸装置の患者回路内の圧力および流量の推移を簡略化した形で示す図である。
【
図3E】本発明の例示的な実施形態による、HFO換気を行う呼吸装置の患者回路内の圧力および流量の推移を簡略化した形で示す図である。
【
図3F】本発明の例示的な実施形態による、HFO換気を行う呼吸装置の患者回路内の圧力および流量の推移を簡略化した形で示す図である。
【
図3G】本発明の例示的な実施形態による、HFO換気を行う呼吸装置の患者回路内の圧力および流量の推移を簡略化した形で示す図である。
【
図4】本発明の例示的な実施形態による、HFO換気を患者3に行うための方法を示す流れ図である。
【
図5A】本発明の例示的な実施形態による、HFO換気を行う呼吸装置の患者回路内の圧力および流量の推移を簡略化した形で示す図である。
【
図5B】本発明の例示的な実施形態による、HFO換気を行う呼吸装置の患者回路内の圧力および流量の推移を簡略化した形で示す図である。
【
図5C】本発明の例示的な実施形態による、HFO換気を行う呼吸装置の患者回路内の圧力および流量の推移を簡略化した形で示す図である。
【
図5D】本発明の例示的な実施形態による、HFO換気を行う呼吸装置の患者回路内の圧力および流量の推移を簡略化した形で示す図である。
【
図5E】本発明の例示的な実施形態による、HFO換気を行う呼吸装置の患者回路内の圧力および流量の推移を簡略化した形で示す図である。
【
図5F】本発明の例示的な実施形態による、HFO換気を行う呼吸装置の患者回路内の圧力および流量の推移を簡略化した形で示す図である。
【
図5G】本発明の例示的な実施形態による、HFO換気を行う呼吸装置の患者回路内の圧力および流量の推移を簡略化した形で示す図である。
【
図6】本発明の例示的な実施形態による、HFO換気を行う呼吸装置の患者回路内の圧力および流量の推移をより詳細に示す図である。
【
図7】本発明のHFO換気の、15Hzにおける様々な平均流量についてのMAPと圧力振幅到達範囲とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1は、本発明の例示的な実施形態に従って、高頻度振動(HFO)換気を患者3に行うための呼吸装置1を示す。呼吸装置1は、加圧された呼吸ガスを少なくとも1つのガス源7から患者3に搬送するための吸気ライン5と、呼気ガスを患者3から大気または掃気システム(図示せず)に搬送するための呼気ライン9とを備える人工呼吸器である。吸気ライン5と呼気ライン9とは、患者コネクタ11を介して互いに連結され、また、患者3にも連結されており、この患者コネクタ11は、呼吸ガスを患者に搬送し、呼気ガスを患者から搬送するための共通ライン13を備える。患者コネクタ11は、吸気ライン5と呼気ライン9とを共通ライン13に連結する、いわゆるYピースをさらに備える。吸気ライン5、呼気ライン9、および患者コネクタ11はともに、呼吸装置1の患者回路を形成している。
【0036】
呼吸装置1は、吸気ライン5、呼気ライン9、および/または患者コネクタ11の流量を測定するための少なくとも1つの流量センサ15a〜cをさらに備えることができる。さらに、この呼吸装置は、患者回路内の圧力を測定するための1つまたは複数の圧力センサを備えてもよい。本実施形態では、この呼吸装置は、患者コネクタ11のYピースに配置された少なくとも1つの圧力センサ16を備える。
【0037】
さらに、呼吸装置1は、吸気ライン5を介して患者3に供給される呼吸ガスの流量を調節するための制御可能な吸気弁17と、制御可能な呼気弁19とを備える。
【0038】
吸気弁17、および呼気弁19は、呼吸装置1の制御ユニット21により、呼吸装置のオペレータによって呼吸装置に入力された事前設定パラメータ、および/または流量センサ15a〜c、および圧力センサ16など、呼吸装置の様々なセンサによって測定された測定パラメータに基づいて制御される。制御ユニット21は、コンピュータプログラムを記憶する不揮発性メモリ23を備え、このコンピュータプログラムは、制御ユニット21の処理装置25によって実行されると、以下で説明する原理に従って、制御ユニット21に吸気弁17および呼気弁19を制御させるものである。別段の記載がない限り、以下で説明する方法のステップはすべて、コンピュータプログラムを実行することにより、呼吸装置1の制御ユニット21によって実施される。
【0039】
図1には単一のガス源7しか示されていないが、呼吸装置1は、多数のガス成分を含む呼吸ガス混合物を患者3に供給するように、多数のガス源に連結してもよいことを理解されたい。したがって、当技術分野で一般的なように、この呼吸装置は、吸気弁17の上流にガス混合タンクを備えてもよく、また、吸気ライン5に流れ込むそれぞれのガス成分の流量を制御するようにそれぞれ配置された複数の吸気弁を備えてもよい。ガス源7は、たとえば、加圧された空気および/または酸素を送達する1つまたは複数の壁付きコンセントを備えることができ、こうしたコンセントは病院環境で一般的に利用可能である。
【0040】
図2は、本発明の例示的な実施形態に従い、呼吸装置1を用いてHFO換気を患者に行うための方法を示す。
【0041】
第1のステップS1で、呼吸装置1の吸気弁17を、吸気弁17を通る加圧呼吸ガスの流量が最高流量に達する最高流量位置まで開放する。
【0042】
第2のステップS2で、吸気弁17を前記最高流量位置から、吸気弁17を通る流量がゼロまたはほぼゼロの最小流量に制限される最小流量位置にすることによって、吸気弁17を急激に閉止する。
【0043】
ステップS1における吸気弁17の開放によって、患者回路に陽圧が生じ、患者3が能動的な吸気を行う。吸気弁17の最高流量、最小流量、および閉止速度は、吸気弁17の開放によって陽圧が生じた後、ステップS2で吸気弁17を急激に閉止することによって患者回路に陰圧が生じるように選択され、
図3A〜
図3Gを参照しながら以下で説明する。
【0044】
第3のステップS3で、HFO換気の所望の頻度に対応する周波数でステップS1およびステップS2を繰り返す。呼吸装置1は、少なくとも5〜20Hzの周波数範囲で、好ましくは5〜50Hzのより広い範囲でHFO換気を行うように適合され、この周波数範囲は、この呼吸装置がステップS1およびステップS2を少なくとも1秒あたり20回、好ましくは1秒あたり50回まで繰り返すことができることを意味する。
【0045】
吸気弁17が最高流量位置と最小流量位置との間で振動することによって、HFO換気の各周期中に、呼吸装置1の患者回路5、9、11の圧力が、患者3の気道にガスを送り込む働きをする陽圧と、患者3の気道からガスを抜き出す働きをする陰圧との間で振動することになる。それによって、呼吸装置1は、振動吸気弁17以外のいかなる振動部品も用いずに、能動的な吸気、および能動的な呼気でHFO換気を行うことが可能となる。
【0046】
吸気弁17は、制御ユニット21により、振動圧力プロファイルに従って制御電流を吸気弁17に印加することによって、呼吸ガスを送達するように制御され、したがって吸気弁17は制御電流の周波数に従って最高流量位置と最小流量位置との間で振動することになる。制御電流は、たとえば正弦波形、矩形波形、三角波形、または鋸波形を有することができる。矩形波形は、吸気弁17の開閉速度が最も速くなるという点において有利である。しかし、矩形波の制御電流の高調波(overtone)により、HFO人工呼吸器の動作に騒音が生じる。したがって、制御電流は、好ましくは、たとえば矩形波と正弦波との混合波とするなどによって、矩形波形に近い波形を有するように選択する。
【0047】
典型的には、呼吸装置1のオペレータは、HFO換気の所望の振動周波数、およびMAP(Mean Airway Pressure、平均気道内圧)を、たとえば5〜20Hz、および0〜35mbarの範囲にそれぞれ設定することによって、患者に施される所望の振動圧力プロファイルを選択する。さらに、呼吸装置1は、オペレータがその圧力プロファイルについて所望の振幅を設定することが可能となるように構成することができる。実施可能な圧力振幅の範囲は、設定される周波数およびMAP、ならびに呼吸回路の特性に依存し、したがって選択可能な振幅の範囲は、好ましくは制御ユニット21によって、設定周波数、設定MAP、および呼吸装置の特性に基づいて制限される。制御ユニット21は、設定周波数、設定MAP、さらには設定圧力振幅に基づいて、所望の圧力プロファイルが得られる流量プロファイルを自動的に求め、その求められた流量プロファイルが得られるように、吸気弁に印加する制御電流を適合させる。
【0048】
患者回路内の圧力は、通常はHFO換気中に、たとえば患者コネクタ11内の圧力センサ16を用いてサンプリングされる。測定された圧力が所望の圧力プロファイルから逸脱する場合、それに応じて、制御電流、したがって吸気弁17を通る呼吸ガスの流量プロファイルを調整する。好ましくは、制御ユニット21は、測定された圧力を事前設定された制御値と比較するように構成され、必要であれば、前記比較に基づいて制御電流、したがって吸気弁17の振動運動を調整するように構成される。好ましくは、サンプリング、および比較は、HFO換気の各周期で実施され、このことは、患者が常に所望の圧力プロファイルに従った圧力を確実に受けることになるように、呼吸ごとに流量プロファイルを調整できることを意味する。以下で説明するように、本発明の他の実施形態では、能動的に制御される呼気弁を用いて、患者の能動的な呼気を促進することができる。そのような実施形態では、呼気弁の調節もやはり、測定された圧力と、所望の圧力プロファイルとの間の偏位を補償するように調整することができる。
【0049】
図3A〜
図3Gは、上記の方法ステップの、呼吸装置1の患者回路内の圧力および流量に関する作用を簡略化した形で示す。
図3A〜
図3Gでは、患者回路のより高密度の点描領域は、患者回路のより低密度の点描領域よりも圧力が高いことを示し、矢印を用いて、それぞれの図面が表す様々な時点で、ガスが患者3に送り込まれているのか、それとも患者3から引き出されているのかを示している。
【0050】
ステップS1で吸気弁を開放することによって、
図3Aおよび
図3Bに示すように、1つまたは複数のガス源7(
図1)からの加圧呼吸ガスが、吸気ライン5に流れ込むことになる。呼吸ガスを供給すると、患者回路内の圧力が増大する。
【0051】
図3Bの矢印で示すように、この圧力増大によって、呼吸ガスが患者コネクタ11の共通ライン13、および患者3の気道に強制的に流れ込むことになり、したがって患者が能動的な吸気を行うことになる。しばらくすると、
図3Cに示すように、患者回路、5、9、11全体の圧力が増大し、呼吸ガスは患者3に流れ込み続ける。
【0052】
図3Dに示すように、ステップS2で吸気弁17を急激に閉止することによって、呼吸ガス流を停止または少なくとも急激に減速させ、それによって呼吸ガスの慣性のため吸気ライン5を伝播する呼吸ガスパルス27を発生させる。
【0053】
吸気弁17の急激な閉止によって呼吸ガス流量が迅速に減速することによって、陰圧、すなわち大気圧未満の気圧が、呼吸ガスパルス27の後に生じる。呼吸ガスパルス27後の陰圧フィールドを、参照番号29によって示す。ここで、吸気弁17を、
図3Cに示す時点と
図3Dに示す時点との間のある時点で閉止する。
【0054】
患者回路内の圧力が増大すると、
図3B〜
図3Dの矢印によって示すように、ガスが患者回路の共通ライン13、および患者の気道に流れ込む。HFO換気の各周期で患者3の気道に入るガスは、必ずしもというわけではないが、典型的には同じ周期中に吸気弁17を介して吸気ライン5に注入された呼吸ガスパルス27のガスを少なくとも幾分含む。HFO換気の各周期中に患者3の気道に入るガス量は、典型的には呼吸ガスパルス27のガス量よりもはるかに少ない。
【0055】
図3Eおよび
図3Fに示すように、呼吸ガスパルス27の幾分か、およびその後生じる陰圧フィールド29は、患者回路の呼気ライン9に伝播することになり、ここで陰圧により、患者3の気道および共通ライン13からガスが抜き出されることになり、患者回路内の圧力が一様になる(level out)。したがって、陰圧により、患者3が能動的な呼気を行うことになる。
【0056】
図3Gに示すように、患者3の気道からのガス流により、患者回路内の陰圧は次第に一様になる。ある時点で、陰圧が一様になると、それによって能動的な呼気相が終わり、吸気弁17を再度開放することによって、能動的な吸気相から始まる新たなHFO換気周期を開始することができる(
図3A)。しかし、患者回路内の陰圧フィールド29が、患者3の気道から流れるガスによって完全に一様になる前に、吸気弁17を開放することによって、新たな吸気相を開始してもよいことを理解されたい。患者3が能動的な呼気を行うために重要なことは、吸気弁17を急激に閉止することによって、患者の気道から少なくとも少量のガスを抜き出すのに十分な大きさの陰圧を患者回路内で生じさせること、また、少なくともある時間の間、陰圧を与えて患者の気道からガスを抜き出してから、吸気弁17を介して新たな呼吸ガスパルスを注入することである。
【0057】
図4は、本発明の別の例示的な実施形態に従い、呼吸装置1を用いて患者にHFO換気を行う方法を示す。
図2の方法と比較した相違は、呼吸装置1の制御可能な呼気弁19を用いて、能動的な呼気の効果を高めている点である。
【0058】
第1のステップS11およびS12は、
図2のステップS1およびS2にそれぞれ対応する。
【0059】
第3のステップS13で、呼気弁19(
図1)(ステップS11で吸気弁を開放するときには閉止している)を開放する。好ましくは、ステップS12の吸気弁17の閉止と、呼気弁19の開放とは、同時には行わない。そうではなく、呼気弁19の開放は、好ましくはある遅延時間だけ遅延させ、以下ではこの遅延を呼気遅延と称する。吸気弁17を閉止した後も、呼気弁19をある時間の間閉止したまま保つことによって、吸気弁17が閉止したときに呼気弁19が開放している場合よりも、呼吸ガスパルス27の新鮮なガスが患者コネクタ11の共通ライン13、および患者3の気道により多く流れ込むことになる。呼気弁19を開放することによって、呼吸ガスパルス27の少なくとも幾分か、およびその後生じる陰圧フィールド29が、呼気ライン9に伝播することになり、ここで陰圧は、患者3の気道からガスを抜き出す働きをし、したがって能動的な呼気相を開始する働きをする。呼気時間遅延は、患者回路のチューブ長さ、HFO換気の頻度、および患者の特性に依存して、好ましくは0〜10msの範囲である。
【0060】
第4のステップS14で、呼気弁19を閉止する。呼気弁19は、好ましくは、能動的な呼気相の終了付近で、呼気ライン9内に陰圧がまだ幾分残ったままで閉止する。こうすることによって、呼気ライン9の逆流、すなわちガス流が呼気ライン9の遠位端から呼気ラインの近位端の方へと流れることが防止される。そのような逆流があると、呼気ライン9のより近位の部分の陰圧が一様になり、したがってガスが患者3の気道から抜き出されることが妨げられることになる。したがって、呼気弁19の閉止は、患者3の能動的な呼気を長引かせる効果を有する。呼気相の終了付近での呼気弁19の閉止と、後続の吸気相を開始するための吸気弁17の開放との間の時間遅延を、以下では吸気遅延と称する。吸気遅延は、やはり患者回路のチューブ長さ、HFO換気の頻度、および患者の特性に依存して、好ましくは0〜50msの範囲である。
【0061】
第5の最終ステップS15で、HFO換気の所望の頻度に対応する周波数で、ステップS11〜S14を繰り返す。
【0062】
図5A〜
図5Gは、
図3の方法ステップの、呼吸装置1の患者回路内の圧力および流量に関する作用を簡略化した形で示す。
図3A〜
図3Gと同様に、患者回路のより高密度の点描領域は、患者回路のより低密度の点描領域よりも圧力が高いことを示し、矢印を用いて、それぞれの図面が表す様々な時点で、ガスが患者3に送り込まれているのか、それとも患者3から引き出されているのか示している。
【0063】
図5A〜
図5Gと、先に説明した
図3A〜
図3Gとの間の唯一の相違は、
図4を参照しながら上記で説明したように、呼吸装置1の呼気弁19を用いてHFO換気を向上させている点である。
【0064】
患者3へのガスの流量を増大させるために、
図5A〜
図5Eに示すように、吸気相の最初の部分の間、呼気弁19を閉止したまま保つ。
図5Eに示すように、呼気弁19を閉止したまま保つことによって、患者回路5、9、11内の圧力が増大し続けることになり、したがって患者3の肺内でもやはり圧力が増大することになる。この圧力増大は、振動圧力プロファイルの振幅と平均圧力との両方を増大させる働きをする。
【0065】
図5Eで示す時点と、
図5Fで示す時点との間のある時点で、吸気弁17を閉止する。次いで、
図5Fで示すその後のある時点で、呼気弁19を開放する。吸気弁17の閉止と呼気弁19の開放との間の経過時間は、上述の呼気遅延に相当する。上述のように、吸気弁17を急激に閉止することによって流量が減速し、したがって患者回路の吸気弁17のところに陰圧29が生じる。呼気弁19を開放すると、患者回路内の全体が正圧になっていたため、患者回路内の呼吸ガスが加速し、呼気弁19から流れ出し、その際に後に生じる負圧29は、患者3の気道からガスを抜き出す働きをし、したがって
図5Gに示すように、患者3が能動的な呼気を行うことになる。
【0066】
能動的な呼気相の終了付近で、呼気弁19を閉止して、呼気のライン9内でガスが逆流するのを防止する。この閉止は、
図5Hで示すある時点で、患者回路内に陰圧29がまだ幾分残っているときに行う。したがって、能動的な呼気相の終了付近で呼気弁を閉止すると、負圧29を患者回路内にトラップする働きをし、それによってこの負圧は、呼気ライン9内でのガスの逆流によってではなく、
図5Iに示すように患者3の気道から流れるガスによって一様になることが保証される。
【0067】
図5Hおよび
図5Iに示すように、呼気弁19を閉止してから、吸気弁17を開放して、後続の吸気相(
図5Aに示す)を開始する。呼気相の最終段階中の呼気弁19の閉止(
図5H)と、後続の吸気相を開始する吸気弁の開放(
図5A)との間の経過時間は、上述の吸気遅延に相当する。
【0068】
したがって、本実施形態では、制御ユニット21は、吸気弁17と呼気弁19とで位相がずれように、すなわちそれらが同時に開閉しないように制御するように構成されている。本実施形態では、能動的な吸気相中に患者3に流れ込む新鮮なガス流を増大させる働きをする呼気時間遅延と、呼気ライン9内でガスが逆流するのを防止することによって能動的な呼気相を長引かせる働きをする吸気時間遅延との両方がある。これらの時間遅延は、HFO人工呼吸器のオペレータによって、たとえば患者回路のチューブ長さ、HFO換気の設定頻度、および患者の特性に基づいて設定することができる。これらの時間遅延はまた、患者回路内で得られた流量および/または圧力の測定値、たとえば流量センサ15a〜15cの1つまたは複数、および/または圧力センサ16(
図1)によって得られた流量および/または圧力の測定値に基づき、制御ユニット21によって継続的に設定かつ/または調整してもよい。好ましくは、制御ユニット21は、進行中のHFO換気中に、振動圧力プロファイルが、所望のMAP、および許容可能な陽圧と陰圧との振幅を有する所望の圧力プロファイルを確実に取るように、そのような測定値に基づいて吸気および/または呼気の時間遅延を自動的に適合させるように構成される。
【0069】
振動圧力プロファイルが所望の圧力プロファイルを確実に取るように、制御ユニット21は、進行中のHFO換気中に吸気弁17を介して注入される流量のプロファイルを自動的に適合させるようにさらに構成することができる。この目的で、制御ユニット21は、吸気弁17の最大開放度(すなわち吸気弁の最高流量位置)と、弁の種類に依存して、吸気弁17の開放および/または閉止速度との両方を適合させるように構成することができる。これらのパラメータは、制御ユニット21により、吸気弁17を調節するために使用される制御電流のプロファイルを調整することによって調整することができる。上述のように、呼気弁19の調節もやはり、制御ユニット21により、進行中のHFO換気中に、測定された圧力プロファイルと、所望の圧力プロファイルとの間のいかなる偏位も補償するように自動的に調整される。この目的で、制御ユニット21は、呼気弁19を調節するために使用される制御電流のプロファイルを調整することができ、それによって以下のパラメータ、すなわち呼気弁19を開閉させるタイミング、開放度、開放速度、閉止速度、および弁が閉止しているときに弁を開放させるのに必要となる力(閉止力)の1つまたは複数を調整することができる。
図4、および
図5A〜
図5Gに示す実施形態では、HFO換気の効果を高めるための呼気弁19の能動的な制御が伴うが、呼気弁19、およびその制御は有利ではあるが、本発明の不可欠な特徴ではないことを理解されたい。患者3の能動的な吸気と、能動的な呼気との両方が、呼気弁19を使用しなくとも実現できることが示されてきている。
【0070】
制御可能な呼気弁19を使用しない場合、呼気ライン9内でガスが逆流するのを防止または制限するための他の何らかの手段を呼吸装置1に装備すると有利となり得る。そのような手段には、たとえば呼気ラインの逆流(すなわち、一方向弁の他方側から患者の方への流れ)を防止する一方向弁が含まれ得る。また、呼気ライン9の長さを増大させることによっても、呼気ラインの逆流を十分に制限できることが示されてきている。したがって、本発明の呼吸装置1は、能動的な呼気相が終了する間、呼気ライン9内でガスが逆流するのを防止または制限するための手段を備えることができ、その手段には、
− 呼気ライン9の遠位端に配置された制御可能な呼気弁19、
− 呼気ライン9の遠位端に配置された一方向弁(逆止め弁)、および
− 呼気ライン9の長さを延長させる1本のチューブ
の1つまたは複数が含まれることを理解されたい。
【0071】
当業者には理解されるように、
図3A〜
図3G、および
図5A〜
図5Gは、呼吸装置1の患者回路内の流量および圧力を単に概略的示すものにすぎない。これらの図は、今日のHFO人工呼吸器で通常使用されている、振動圧力プロファイルの陰圧成分を生じさせるためのイジェクタ、スピーカ、ピストン、または他のいかなる手段も用いずに、吸気弁17の速やかな調節によって、患者3に真のHFO換気を行うことを可能とする物理的な原理を、読者に簡単に説明するために示すものにすぎない。
【0072】
患者回路5、9、13内の圧力および流量の変化については、提案の弁制御HFO換気中の患者回路内での流量および圧力の推移をシミュレーションした結果を示す
図6を検討することによってよりよい理解を得ることができる。
【0073】
このシミュレーションは、電流発生器を用いて吸気弁17をシミュレートし、静電容量を用いて吸気ライン5のコンプライアンスをシミュレートし、電圧発生器の近位側に配置されたダイオードを用いて呼気弁19をシミュレートすることによって行った。患者回路は、2つの64ノードRLCネットワークを、1つは吸気ライン5用、1つは呼気ライン9用として、計算された成分値を用いてモデル化した。患者の肺は、肺モデルを新生児患者の肺に対応させる成分値を有する抵抗器および静電容量によってモデル化した。他の成分値はすべて、Maquet Critical Care ABSのSERVO−i人工呼吸器の挙動をシミュレートするように選択した。
【0074】
このシミュレーションは、最高流量が180lpm、振動周波数が15Hz、およびMAPが25mbarのHFO換気について行った。最小流量(バイアス流)は、ゼロに設定した。これは、このシミュレーションによって、吸気弁17が、吸気弁を通る流量が180lpmとなる最高流量位置と、吸気弁を通る流量がゼロになる完全閉止位置との間で振動するHFO換気をシミュレートしていることを意味する。Servo−i人工呼吸器の弁制御機構の能力によると、180lpmからゼロ流量まで下がる時間は10msであり、したがって吸気弁17を通る流量の減速は18000lpm/sであった。このモデルには、
図4、および
図5A〜
図5Gを参照しながら上記で説明したように、患者の能動的な呼気相を長引かせるための呼気弁19の使用が含まれていた。
【0075】
HFO換気に好影響を及ぼすいくつかの側面については、このシミュレーションでは考慮に入れなかった。たとえば、吸気弁17の開放によって生じる患者回路内の圧力増大によって、吸気弁17の膜に力が加わり、この力が弁の開放速度を増大させる働きをし、したがって弁を通る流量がさらに加速することになる。同様に、吸気弁17を閉止する際、吸気弁を通るガスの流量の減速によって生じる陰圧フィールド29(たとえば
図3D参照)によって、閉止速度を増大させる働きをする力が吸気弁17の膜に加わることになり、したがって流量がさらに減速することになる。これらの現象については、モデル化しなかった。
【0076】
図6では、シミュレーションの結果として得られた様々な流量および圧力について、以下の注釈を使用している。
− P
prox:近位圧力。これは、共通ライン13の遠位端の圧力であり、圧力センサ16(
図1)で測定される圧力に対応する。この圧力は、HFO換気の圧力振幅およびMAPについて論じる際に通常参照される圧力である。
− F
prox:近位流量。これは、患者コネクタ11の共通ライン13を通る流量、すなわち患者の方へと向かう流量(正流)または患者から離れる流量(負流)である。この流量は、流量センサ15c(
図1)で測定される流量に対応する。
− P
insp:吸気ライン圧力。これは、吸気ライン5の、吸気弁17における、またはその付近の圧力である。この圧力は、流量センサ15a(
図1)と同じ位置に配置された圧力センサで測定されることになる圧力に対応する。
− F
insp:吸気ライン流量。これは、吸気ライン5の、吸気弁17における、またはその付近の流量である。この流量は、流量センサ15a(
図1)で測定される流量に対応する。
− P
exp:呼気ライン圧力。これは、呼気ライン9の、呼気弁19における、またはその付近の圧力である。この圧力は、流量センサ15b(
図1)と同じ位置に配置された圧力センサで測定されることになる圧力に対応する。
− F
exp:呼気ライン流量。これは、呼気ライン9の、呼気弁19における、またはその付近の流量である。この流量は、流量センサ15b(
図1)で測定される流量に対応する。
− P
lung:肺圧力。これは、患者3の肺圧力である。
【0077】
図6では、y軸は、流量をm
3/sで示し(1A = 1m
3/s、すなわち1mAが1l/sまたは60lpmに等しいことを意味する)、圧力をパスカルで示している(1V = 1Pa、すなわち1kVが10cmH
2Oに等しいことを意味する)。x軸は、時間を秒で示している。
【0078】
T1は、吸気弁17の開放が開始する時点を示し、T2は、吸気弁17がその最大開放位置(最高流量位置)に達する時点を示し、T3は、吸気弁の閉止が開始する時点を示し、T4は、吸気弁が完全に閉止する時点を示す。T5は、呼気弁19が開放する時点を示し、T6は、呼気弁19が閉止する時点を示す。
【0079】
図6のグラフのP
inspを検討するとわかるように、吸気弁17を開放すると、吸気ライン内の圧力が急峻に増大する。吸気弁がその最大開放位置に達すると、吸気弁を通る流量F
inspは増大しなくなり、そのため吸気ラインの圧力P
inspは一時的に下がってから、患者および患者回路のコンプライアンスが満たされたことによる圧力増大が支配要因となると、再度上昇し始める。圧力波は、音速のため吸気弁17と患者コネクタ11との間で遅延する。近位圧力P
proxを検討するとわかるように、患者コネクタ11における圧力は、吸気弁17を急激に閉止して間もなく陰圧となる。このシミュレーションでは、患者回路の近位部分で、最大振幅が約−40cmH
2Oの陰圧スイングが得られることが示され、この陰圧スイングは、患者3が能動的な呼気を行うのに十二分である。さらに、F
inspとF
proxとを比較すると、吸気弁17を通る流量のうちほんのわずかな一部しか患者3に達していないことがわかる。
【0080】
真に能動的な呼気を行うのに十分となる陰圧を得るには、吸気弁17の動力学と、制御ユニット21によって吸気弁に印加される制御電流のプロファイルとを、最高流量から最小流量への平均流量変化率が少なくとも7200lpm/s、より好ましくは12000lpm/s、さらに好ましくは18000lpm/sとなる吸気弁の閉止速度となるようにしなければならない。さらに、先に述べたように、陰圧の大きさは、呼吸ガスパルスの運動エネルギーに依存し、したがって吸気弁を通る呼吸ガスの流量に依存する。吸気弁17を通る最高流量が高いほど、振動圧力プロファイルの圧力スイングも高くなる。上記のシミュレーションは最高流量180lpmについて行ったが、能動的な呼気を行うには最高流量が30lpmで十分となり得る。しかし、好ましくは、最高流量は、少なくとも60lpm、さらに好ましくは少なくとも120lpmでなければならない。また、上記のシミュレーションは、吸気弁17が、最高流量位置と、弁を通る流量がゼロになる完全閉止位置との間で振動するシナリオについてシミュレートしているが、吸気弁17が最も閉止した位置にあるときに、閉止弁17を通るバイアス流がわずかにあっても、十分な陰圧をなおも得ることができる。このバイアス流は、4lpmを超えてはならず、好ましくは1lpmを超えてはならない。
【0081】
図7は、例示的な周波数である15Hzでの、様々な平均流量についての本発明の弁制御HFO換気の近位端平均圧力および近位端圧力振幅の到達範囲を示す図である。上述のように、近位端平均圧力および近位端圧力振幅は、
図1の圧力センサ16で測定し、HFO換気の例では通常、MAPおよび圧力振幅と呼ばれるものにそれぞれ対応する。当業者には理解されるように、平均流量とは、HFO換気の一周期中に吸気弁17を通って流れる平均流量であり、この一周期中に吸気弁17は最小流量位置から最高流量位置へと移行し、再度戻る。
図7では、内側のループは、平均流量10lpmにおけるMAPおよび圧力振幅の到達範囲を示し、次のループは、平均流量20lpmにおけるMAPおよび圧力振幅の到達範囲を示す、という具合に、平均流量70lpmにおけるMAPおよび圧力振幅の到達範囲を示す外側ループまで示す。