特許第6105835号(P6105835)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6105835
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】回転電機の相間絶縁紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/34 20060101AFI20170316BHJP
【FI】
   H02K3/34 D
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-130119(P2011-130119)
(22)【出願日】2011年6月10日
(65)【公開番号】特開2012-257434(P2012-257434A)
(43)【公開日】2012年12月27日
【審査請求日】2014年3月20日
【審判番号】不服2015-21849(P2015-21849/J1)
【審判請求日】2015年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】特許業務法人 サトー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 正克
(72)【発明者】
【氏名】花井 隆
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 渉
【合議体】
【審判長】 藤井 昇
【審判官】 永田 和彦
【審判官】 堀川 一郎
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭62−7749(JP,U)
【文献】 特開2007−124821(JP,A)
【文献】 特開2008−160927(JP,A)
【文献】 特開2006−217679(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/087078(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラミド紙で構成され固定子鉄心の軸方向両端部においてコイルエンド部間を絶縁可能な形状に形成された一対の相間絶縁紙本体と、
前記相間絶縁紙本体に比べて融点が低いポリフェニレンサルファイド樹脂で構成され、前記一対の相間絶縁紙本体に接触する接触面を両端部に有し前記接触面が溶着された状態で該一対の相間絶縁紙本体を連結する連結条部と、を備える回転電機の相間絶縁紙の製造方法であって、
前記相間絶縁紙本体と前記連結条部とは、前記相間絶縁紙本体の融点よりも充分に低い温度で溶着されることを特徴とする、
回転電機の相間絶縁紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転電機の相間絶縁紙および回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、回転電機は、コイル相間が相間絶縁紙によって絶縁されている。例えば特許文献1に記載の回転電機では、一対の相間絶縁紙本体およびこれらを繋ぐ連結条部を有して構成された相間絶縁紙によって、異相の固定子コイルのコイルエンド間が絶縁されている。この場合、相間絶縁紙は、連結条部が固定子鉄心のスロット内に収容されることにより相間絶縁紙本体の位置が決定される。そして、この相間絶縁紙本体によって、固定子鉄心の軸方向両端部から露出したコイルエンド間が絶縁される。
【0003】
相間絶縁紙は、材料を打ち抜くことで一体に構成できるが、このように構成すると、材料取りの効率いわゆる歩留まりが良くないので、相間絶縁紙本体と連結条部とを別体に打ち抜いてから、これらを接合することが考えられている。この場合、相間絶縁紙本体と連結条部とは、例えば接合部分に圧力を加えながら超音波を与えて発熱させて溶着する超音波溶着や、加熱部を押し当てて溶着する熱溶着などによって接合される。この構成によると、接着剤などを用いる必要がないため、環境性に優れるとともにコストを削減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−263726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のように相間絶縁紙本体と連結条部とを溶着するものでは、溶着の際の熱によって相間絶縁紙本体が溶融されて接合部分が劣化したり薄くなることがあり、これにより相間絶縁紙本体の絶縁性能が低下するおそれがあった。
【0006】
そこで、相間絶縁紙本体と連結条部との接合部分について絶縁性能の低下を抑制することのできる回転電機の相間絶縁紙の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態の回転電機の相間絶縁紙の製造方法は、アラミド紙で構成され固定子鉄心の軸方向両端部においてコイルエンド部間を絶縁可能な形状に形成された一対の相間絶縁紙本体と、前記相間絶縁紙本体に比べて融点が低いポリフェニレンサルファイド樹脂で構成され、前記一対の相間絶縁紙本体に接触する接触面を両端部に有し前記接触面が溶着された状態で該一対の相間絶縁紙本体を連結する連結条部と、を備える回転電機の相間絶縁紙の製造方法である。前記相間絶縁紙本体と前記連結条部とは、前記相間絶縁紙本体の融点よりも充分に低い温度で溶着される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第一実施形態を示す永久磁石電動機の概略図
図2】三相の固定子コイルおよび相間絶縁紙が配置された状態の固定子の斜視図
図3】相間絶縁紙の斜視図
図4】相間絶縁紙本体および連結条部の接合前の状態を示す分解斜視図
図5】第二実施形態を示す図3相当図
図6】第二実施形態を示す図4相当図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、複数の実施形態による回転電機の相間絶縁紙および回転電機について、図面を参照して説明する。なお、各実施形態において実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0010】
(第一実施形態)
まず、第一実施形態について、図1から図4を参照して説明する。
図1は、回転電機として電気自動車やハイブリット自動車などにも用いられる、インバータにより駆動される永久磁石電動機10を示している。永久磁石電動機10は、主に回転子11および回転子11の外周側に設けられた固定子12から構成されている。
【0011】
回転子11は、回転子鉄心111と、回転子鉄心111の内周部に設けられた回転軸112とを有して構成されている。回転子鉄心111は、例えば珪素鋼板をプレスで打ち抜いて円環状に形成された鉄心片を複数枚積層して一体的に構成されている。回転軸112は、回転子鉄心111を鉄心材の積層方向に貫いて回転子鉄心111に固定されている。回転子11は、回転子鉄心111の外周面と固定子12の内周面との間に僅かな隙間いわゆるエアギャプを隔てて回転可能に配置されている。
【0012】
回転子鉄心111には、回転軸112方向から径方向外側へ向かってV字状に広がる複数対この場合八対の磁石用スロット113が、それぞれ等間隔に形成されていている。そして、これら八対の磁石用スロット113には、それぞれネオジムなどの希土類系元素を含む磁性体で形成された永久磁石114が挿入されている。この場合、各永久磁石114は、回転子11の周方向において互いに極性の異なる磁極すなわちN極またはS極が交互となるように配置されている。
【0013】
固定子12は、図2にも示すように、複数のコイル用スロット121が形成された円筒状の固定子鉄心122を有して構成されている。固定子鉄心122は、例えば珪素鋼板をプレスで打ち抜いて円環状に形成された鉄心片を複数枚積層して一体的に構成されている。コイル用スロット121内には、スロット絶縁紙13を介して複数相、本実施形態の場合、U、V、Wの三相の固定子コイル14(U)、14(V)、14(W)が挿通されている。そして、その両端部はコイルエンド部15(U)、15(V)、15(W)として固定子鉄心122の軸方向両端部から突出している。
【0014】
三相の固定子コイル14(U)、14(V)、14(W)においてコイルエンド部15(U)、15(V)、15(W)間には、各相間にそれぞれ複数枚、例えば4枚ずつ、合計8枚の相間絶縁紙16が配設されている。これにより、固定子鉄心122の軸方向両端部において、複数相のコイルエンド部15間、つまり異相となるコイルエンド部15(U)、15(V)間、およびコイルエンド部15(V)、15(W)間が絶縁されている。
【0015】
相間絶縁紙16は、図3に示すように、一対の相間絶縁紙本体17を三本の連結条部18で連結して構成されている。相間絶縁紙本体17は、図2に示す固定子鉄心122の軸方向両端部において異相のコイルエンド部15間を絶縁可能な形状、具体的には、固定子12の周方向へ長尺な矩形状に形成されている。連結条部18は、コイル用スロット121と同程度の幅寸法に設定された紙紐状に形成されている。そして、連結条部18は、その両端部が相間絶縁紙本体17に接合されて、一対の相間絶縁紙本体17を連結している。
【0016】
この連結条部18は、相間絶縁紙本体17に比べて融点が低い材料で構成されている。即ち、本実施形態の場合、相間絶縁紙本体17は、例えばアラミド紙などの絶縁紙で構成されている。一般にアラミド紙は、高温環境下において耐久性、機械的および電気的特性に優れており、融点は400℃以上とされている。これに対して、連結条部18は、例えばポリフェニレンサルファイド樹脂(polyphenylene sulfide、以下PPS樹脂と称す)で構成されている。一般にPPS樹脂は、引張り強さや曲げ強さなどの機械的強度が高く、また寸法安定性に優れており、融点は280℃程度とされている。
このように、PPS樹脂から構成される連結条部18は、アラミド紙から構成される相間絶縁紙本体17に比べて融点が低い。換言すれば、相間絶縁紙本体17は連結条部18に対して充分に融点が高い構成となっている。
【0017】
このように構成された相間絶縁紙本体17および連結条部18は、図4に示すように、それぞれ別体に打ち抜かれてから接合される。具体的には、まず、アラミド紙を打ち抜いて相間絶縁紙本体17を得るとともに、PPS樹脂シートを打ち抜いて連結条部18を得る。そして、図3に示すように、連結条部18の両端の接合部181を相間絶縁紙本体17に重ね合わせた状態で、接合部181に圧力を加えながら超音波を与えて発熱させたり加熱部を押し当てたりする。すると、連結条部18の接合部181において、相間絶縁紙本体17との接触面が融解し、これにより接合部181が相間絶縁紙本体17に対して溶着される。
【0018】
このように、相間絶縁紙16は、相間絶縁紙本体17と連結条部18とが溶着により接合されて一体に構成される。そして、この相間絶縁紙16は、連結条部18が固定子鉄心122のコイル用スロット121内に収容されて配設される。これにより、相間絶縁紙本体17は、異相のコイルエンド部15間に配置されて、これらコイルエンド部15間を絶縁する。
【0019】
なお、詳細は図示しないが、コイルエンド部15(U)、15(V)、15(W)は、固定子12の小型化のために、固定子鉄心122の径方向外側へ拡開されるとともに軸方向内側へ圧縮されて成形される。そして、コイルエンド部15にワニスが滴下され、このワニスを固定子コイル14に含浸させることにより全体が固められて固定子12が構成される。
【0020】
上記した第一実施形態によれば次のような作用効果を得ることができる。
本実施形態の構成によれば、連結条部18は、相間絶縁紙本体17に比べて融点が充分に低い材料で構成されている。つまり、相間絶縁紙本体17の融点は、連結条部18の融点に比べて充分に高い。これによれば、相間絶縁紙本体17と連結条部18とは、相間絶縁紙本体17の融点よりも充分に低い温度で溶着される。この場合、相間絶縁紙本体17は、溶着の際の熱によってほとんど溶融することがない。そのため、相間絶縁紙本体17の接合部分が、溶着の際の熱によって劣化したり薄くなることを防止でき、その結果、相間絶縁紙本体17と連結条部18との接合部分の絶縁性能が低下することを抑制できる。
【0021】
(第二実施形態)
次に、図5および図6を参照して第二実施形態について説明する。
この第二実施形態において、相間絶縁紙19は、主に第一実施形態と同様の構成であるが、相間絶縁紙19を構成する相間絶縁紙本体20の形状について第一実施形態と異なっている。
具体的には、相間絶縁紙本体20は、固定子12の周方向へ長尺なほぼ矩形状に形成されており、さらに、その長手方向の縁部から突出した耳部201を有している。本実施形態においても、相間絶縁紙本体20はアラミド紙などで構成され、連結条部21はPPS樹脂などで構成されている。
【0022】
相間絶縁紙本体20および連結条部21も、図6に示すようにそれぞれ別体に打ち抜かれると、図5に示すように相間絶縁紙本体20の耳部201に連結条部21の両端の接合部211が溶着されて、相間絶縁紙本体20および連結条部21が一体に結合される。この連結条部21は、コイル用スロット121内に収容された状態で、固定子鉄心122から軸方向外側へ突出しない長さ寸法に設定されている。そして、耳部201は連結条部21とともにコイル用スロット121に収容される。
【0023】
この構成によれば、第一実施形態と同様に、連結条部21は相間絶縁紙本体20に比べて融点の低い材料で構成されているため、相間絶縁紙本体20と連結条部21との接合部分について絶縁性能の低下を抑制することができる。さらに、相間絶縁紙本体20と連結条部21との接合部分つまり耳部201および接合部211は、コイル用スロット121内に収容されるためコイルエンド部15間の絶縁には寄与しない。そのため、仮に溶着の際の熱によって相間絶縁紙本体17の接合部分が劣化することがあったとしても、コイルエンド間の絶縁性能に影響を与えることがなく、その結果、絶縁性能の低下がより効果的に抑制される。
【0024】
以上説明した実施形態によれば、相間絶縁紙の連結条部は、相間絶縁紙本体に比べて融点が低い材料で構成され、その両端部が一対の相間絶縁紙本体に溶着された状態で該一対の相間絶縁紙本体を連結する。これによれば、相間絶縁紙本体の融点よりも低い温度で、連結条部を相間絶縁紙本体に対して溶着することができる。そのため、相間絶縁紙本体において連結条部との接合部分が溶着の際の熱によって劣化したり薄くなることが防がれて、その結果、相間絶縁紙本体と連結条部との接合部分について絶縁性能の低下を抑制することができる。
【0025】
なお、上記各実施形態において、相間絶縁紙16、19は、異相のコイルエンド部15間、即ちコイルエンド部15(U)、15(V)間、およびコイルエンド部15(V)、15(W)間を絶縁する構成とした。しかし、これに限られず、例えば同相のコイルエンド部15間を絶縁するものに適用してもよい。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0027】
図面中、10は永久磁石電動機(回転電機)、12は固定子、122は固定子鉄心、15はコイルエンド部、16、19は相間絶縁紙、17、20は相間絶縁紙本体、18、21は連結条部を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6