(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記金属安定化剤が、還元性を有する有機化合物及びイミノジ酢酸誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載のアルミニウム製熱交換器の表面処理方法。
前記(b)工程で用いる親水化処理剤が、リン酸、縮合リン酸、ホスホン酸及びそれらの誘導体並びにリチウムイオンからなる群より選ばれる少なくとも1種をさらに含む請求項1から5いずれか1項に記載のアルミニウム製熱交換器の表面処理方法。
前記(b)工程で用いる親水化処理剤中の親水性樹脂が、ケン化度が90%以上のポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコールのうち少なくとも一方を含むものである請求項1から6いずれか1項に記載のアルミニウム製熱交換器の表面処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について詳しく説明する。
本実施形態に係る表面処理方法は、アルミニウム製熱交換器の表面処理を行うものである。本実施形態に係る表面処理方法は、(a)化成処理工程と、(b)親水化処理工程と、(c)焼き付け工程と、を含む。
なお以下の説明では、耐白錆性を耐食性とし、耐黒変性を耐湿性として説明する。
【0031】
[熱交換器]
本実施形態に係る表面処理方法の処理対象は、アルミニウム製熱交換器であり、自動車エアコン用途として好ましく用いられる。ここで、「アルミニウム製」とは、アルミニウム又はアルミニウム合金(以下、単に「アルミニウム」という。)から成ることを意味する。
【0032】
上述したように、本実施形態に係るアルミニウム製熱交換器は、熱交換効率向上の観点から、その表面積を可能な限り大きくすべく複数のフィンが狭い間隔で配置されるとともに、これらのフィンに冷媒供給用のチューブが入り組んで配置される。また、これらのフィン等を組み立てた後、例えば、窒素ガス中でフラックスを用いてろう付けが行われ、この場合にはフィン等の表面にフラックスが不可避的に残存する。そのため、フィン等の表面状態(電位状態等)が不均一となり、従来の化成処理剤では、均一な化成皮膜や親水化皮膜を得ることが困難となる。
なお、フラックスとしては、NB法で通常用いられるハロゲン系のフラックスを用いることができる。ハロゲン系のフラックスとしては、KAlF
4、K
2AlF
5、K
3AlF
6、CsAlF
4、Cs
3AlF
6及びCs
2AlF
5からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0033】
[(a)化成処理工程]
本実施形態の(a)化成処理工程は、アルミニウム製熱交換器を、ジルコニウム及びチタニウムのうち少なくとも一方を含み且つその含有量が合計で5〜5,000質量ppm、バナジウムを含み且つその含有量が10〜1,000質量ppm、金属安定化剤を含み且つその含有量が5〜5,000質量ppm、並びに、pHが2〜6である化成処理剤で化成処理することで、その表面に化成皮膜を形成する工程である。
なお、化成処理する前に、化成処理効果をより一層向上させる目的で、必要に応じてアルミニウム製熱交換器を酸洗処理してもよい。酸洗処理の条件は特に限定されず、アルミニウム製熱交換器の酸洗処理として従来用いられている処理条件を採用できる。
【0034】
ここで、本実施形態の化成処理剤では、ジルコニウム、チタニウム及びバナジウムは、いずれも錯イオン等の各種イオンとして存在する。そのため、本明細書において、ジルコニウム、チタニウム及びバナジウムの各含有量は、各種イオンの金属元素換算の値を意味する。
【0035】
本実施形態の化成処理剤は、ジルコニウムイオン及びチタニウムイオンのうち少なくとも一方と、バナジウムイオンと、を含み、ジルコニウム系化合物及びチタニウム系化合物のうち少なくとも一方とバナジウム系化合物とを水に溶解することで得られる。即ち、本実施形態の化成処理剤は、ジルコニウムイオン及びチタニウムイオンのうち少なくとも一方とバナジウムイオンとを活性種とする溶液である。本実施形態の好ましい化成処理剤としては、ジルコニウムイオン、チタニウムイオン及びバナジウムイオンの全てを活性種として含有する。
【0036】
ジルコニウムイオンは化成反応により変化し、これにより、アルミニウム表面に酸化ジルコニウムを主体としたジルコニウム析出物が析出する。ジルコニウムイオンの供給源であるジルコニウム系化合物としては、フルオロジルコニウム酸、フッ化ジルコニウム等のジルコニウム化合物の他、これらのリチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等の塩が挙げられる。また、酸化ジルコニウム等のジルコニウム化合物をフッ化水素酸等のフッ化物で溶解させたものを用いることもできる。これらのジルコニウム系化合物は、フッ素を有するため、アルミニウム表面をエッチングする機能を有する。
【0037】
チタニウムイオンは化成反応により変化し、これにより、アルミニウム表面に酸化チタニウムを主体としたチタニウム析出物が析出する。チタニウムイオンは、沈殿pHが上記のジルコニウムイオンよりも低いため、チタニウム析出物自体が析出し易いうえ、上述のジルコニウム析出物や後述のバナジウム析出物の析出を促進できる結果、主としてこれら析出物から形成される化成皮膜の皮膜量を増加させることができる。特に、アルミニウム製熱交換器がフラックスろう付けされたアルミニウム製熱交換器である場合には、チタニウムイオンは、アルミニウム製熱交換器の表面に残存するフラックスの近傍にも容易に沈殿してチタニウム析出物を析出させることができる。
チタニウムイオンの供給源であるチタニウム系化合物としては、フルオロチタン酸、フッ化チタン等のチタニウム化合物の他、これらのリチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等の塩が挙げられる。また、酸化チタニウム等のチタニウム化合物をフッ化水素酸等のフッ化物で溶解させたものを用いることもできる。これらのチタニウム系化合物は、上記のジルコニウム系化合物と同様にフッ素を有するため、アルミニウム表面をエッチングする機能を有する。また、そのエッチング機能は、上記のジルコニウム系化合物よりも高い。
【0038】
本実施形態では、化成処理剤中に、ジルコニウムイオン及びチタニウムイオンのうち少なくとも一方とバナジウムイオンを含むことにより、ジルコニウム及びチタニウムのうち少なくとも一方とともに、バナジウムを含有する化成皮膜が形成される。バナジウムイオンは、チタニウムイオンよりも低いpHで沈殿する特性を有し、これにより、アルミニウム表面に酸化バナジウムを主体としたバナジウム析出物が析出する。より詳しくは、バナジウムイオンは、還元反応によって酸化バナジウムに変換され、これにより、アルミニウム表面にバナジウム析出物が析出する。
バナジウム析出物は、アルミニウム表面の一部を除いて全体的に被覆する特性を有するジルコニウム析出物やチタニウム析出物と異なり、ジルコニウム析出物やチタニウム析出物が形成され難いアルミニウム表面の偏析物上に析出し易い特性を有する。これにより、本実施形態の化成処理剤によれば、バナジウムイオンを含まない従来の化成処理剤に比して、主としてジルコニウム析出物、チタニウム析出物及びバナジウム析出物によって緻密で高い被覆性を有する化成皮膜を形成できる。
また、バナジウム析出物は、ジルコニウムイオンやチタニウムイオンが共存することで、従来のクロム皮膜と同様に自己修復効果を発揮し、皮膜形成性に優れる特性を有する。即ち、バナジウム析出物から微量のバナジウムイオンが適度に溶出し、溶出したバナジウムイオンがアルミニウム表面を酸化して不動態化することで自己修復し、良好な耐食性が維持される。一方、バナジウムイオンがジルコニウムイオンやチタニウムイオンとの共存下でない場合には、バナジウム析出物が析出し難く、バナジウム析出物が析出したとしてもその析出物からバナジウムイオンが多量に溶出してしまい、上記のような自己修復効果は得られない。
【0039】
本実施形態では、好ましくは、化成処理剤中に、ジルコニウムイオン、チタニウムイオン及びバナジウムイオンを含むことにより、ジルコニウム、チタニウム及びバナジウムを含む化成皮膜が形成される。ジルコニウムイオン、チタニウムイオン及びバナジウムイオンの全てを活性種として含有する活性処理剤を用いることにより、特にフラックスろう付けされたアルミニウム製熱交換器を用いた場合には、フラックスの近傍においてもより緻密で高い被覆性を有する化成皮膜を形成することができる。
【0040】
バナジウム系化合物としては、2〜5価のバナジウム化合物を用いることができる。具体的には、メタバナジン酸、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、五酸化バナジウム、オキシ三塩化バナジウム、硫酸バナジル、硝酸バナジル、燐酸バナジル、酸化バナジウム、二酸化バナジウム、バナジウムオキシアセチルアセトネート、塩化バナジウム等が挙げられる。これらバナジウム系化合物は、フッ素を有していないため、アルミニウム表面をエッチングする機能は無い。
本実施形態では、4価又は5価のバナジウム化合物が好ましく、具体的には硫酸バナジル(4価)及びメタバナジン酸アンモニウム(5価)が好ましく用いられる。
【0041】
上述したように本実施形態の化成処理剤では、ジルコニウムイオン及びチタニウムイオンの含有量の合計が金属換算で5〜5,000質量ppmであり、バナジウムイオンの含有量が金属換算で10〜1,000質量ppmである。これらを満たすことにより、後述する親水化処理との組み合わせによる相乗効果によって、アルミニウム製熱交換器の耐食性及び耐湿性が大幅に向上するとともに、良好な親水性及び防臭性が得られる。
また、上記の効果がさらに高められる観点から、ジルコニウムイオン及びチタニウムイオンの含有量の合計は金属換算で5〜3,000質量ppmであることが好ましく、ジルコニウムの含有量は5〜3,000質量ppmであることが好ましく、チタニウムの含有量は5〜500質量ppmであることが好ましく、バナジウムの含有量は10〜500質量ppmであることが好ましい。
【0042】
本実施形態の化成処理剤は、ジルコニウムイオン、チタニウムイオン及びバナジウムイオンからなる各金属イオンを安定化させる金属安定化剤を含む。本実施形態で用いる金属安定化剤は、化成処理剤中で、ジルコニウムイオン、バナジウムイオン及びチタニウムイオンとキレート結合する等して、複合体を形成する。これにより、ジルコニウムイオン、バナジウムイオン及びチタニウムイオンからなる各金属イオンは、化成処理剤中で安定化される。
【0043】
ところで、上述したようにジルコニウムイオン、チタニウムイオン及びバナジウムイオンからなる各金属イオンは、それぞれ固有の沈殿pHを有する。そのため従来の化成処理剤では、処理材表面のエッチング反応に伴う界面でのpHの上昇により、沈殿pHの低い方から順に、各金属イオンが沈殿することで化成皮膜が形成される。
これに対して、本実施形態の化成処理剤では、各金属イオンは金属安定化剤の作用により複合体を形成して安定化しているため、沈殿pHが上昇している。そのため、各金属イオンに固有の沈殿pHよりも高いpHで、各金属イオンは複合体として同時に沈殿する。具体的には、最も沈殿pHが高いジルコニウムイオンの沈殿pHよりも高いpHで、各金属イオンは複合体として同時に沈殿する。これにより、従来よりも均一な化成皮膜が形成されるとともに、複合体として沈殿するため析出物の粒子径が増大する結果、従来よりも高い被覆率が得られる。そのため、従来よりも優れた耐食性が得られ、特に優れた耐湿性が得られる。
以上の金属安定化剤による効果を十分に発揮させる観点から、本実施形態の化成処理剤は、ジルコニウム、バナジウム及びチタニウムいずれをも含むことが好ましい。
【0044】
なお、本実施形態の化成処理剤では、各金属イオンが金属安定化剤の作用で複合体化されたものと、複合体化されずに金属イオンのまま存在するものとが共存する。
ここで、従来の化成処理剤では、アルミニウム系金属材料の表面の欠陥部に各金属イオンが析出し、続いて、析出した金属の部分に同じ金属が析出する。そのため、皮膜形成が均一ではなく、皮膜に欠陥が生じる。
これに対して本実施形態の化成処理剤では、界面でのpHの上昇に伴い、先ず、複合体化されていない各金属イオンが、それぞれに固有の沈殿pHで順に沈殿し、アルミニウム系金属材料の表面の欠陥部を被覆する。次いで、金属安定化剤の作用で形成された複合体が、より高いpHで沈殿することにより、化成皮膜が均一に形成される。
このように、本実施形態の化成処理剤では、化成皮膜の皮膜形成ステップが2段階で行われる点において、従来の化成処理剤と大きく相違する。
【0045】
また、上述した特許文献5の技術は、反応型の化成処理剤ではなく、塗布型の表面処理剤中にアスコルビン酸等を含有するものである。そのため、特許文献5の技術では、アスコルビン酸等の金属安定化剤との複合体の形成による各金属イオンの安定化や沈殿pHの上昇に加えて、複合体として各金属イオンが同時に沈殿することによる化成皮膜の均一化や被覆率の向上といった、反応型の化成処理剤に特有の効果が発揮されることはない点において、本実施形態と大きく相違する。
【0046】
本実施形態で用いる金属安定化剤としては、還元性を有する有機化合物及びイミノジ酢酸誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
還元性を有する有機化合物としては、アスコルビン酸、シュウ酸、アルミニウムレーキ、アントシアニン、ポリフェノール、アスパラギン酸、ソルビトール、クエン酸及びグルコン酸ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく例示される。これら還元性を有する有機化合物は、特に価数が変化し易いバナジウムを還元して安定化させる。
アルミニウムレーキとしては、例えば、三栄源エフ・エフ・アイ社製「食用青色1号アルミニウムレーキ」、「食用赤色2号アルミニウムレーキ」、「食用黄色4号アルミニウムレーキ」等を用いることができる。
アントシアニンとしては、例えば、三菱化学フーズ社製「アルベリーL」(登録商標)、「テクノカラーレッドADK」、「マイスレッドA」等を用いることができる。
ポリフェノールとしては、ピロガロール、カテキン、タンニン等のポリフェノールを用いることができ、例えば、リリース科学工業社製「パンシルFG−70」、「パンシルFG−60」や、群栄化学工業社製「PL−6757」、「PL−4012」等を用いることができる。
また、イミノジ酢酸誘導体としては、イミノジ酢酸やイミノジコハク酸4ナトリウムが好ましく例示される。
イミノジコハク酸4ナトリウムとしては、例えば、ランクセス社製「BaypureCX−100」等を用いることができる。
上記で列挙したもののうち、耐食性、耐湿性及び安全性の観点から、アスコルビン酸、アントシアニン、ポリフェノールが好ましく用いられる。
【0047】
本実施形態では、金属安定化剤を2種以上併用して用いることができる。具体的には、例えば、還元性を有する有機化合物を2種併用してもよく、還元性を有する有機化合物1種とイミノジ酢酸誘導体1種とを併用してもよく、イミノジ酢酸誘導体を2種併用してもよい。
【0048】
本実施形態では、金属安定化剤の含有量は、5〜5,000質量ppmである。ここで、本明細書における金属安定化剤の含有量とは、金属安定化剤を2種以上併用して用いる場合には、その合計量を意味する。金属安定化剤の含有量がこの範囲内であれば、上述した金属安定化剤による効果が確実に発揮される。好ましくは、10〜2,000質量ppmであり、この範囲内であれば、上述した金属安定化剤による効果がより高められる。
【0049】
また、上述したように本実施形態の化成処理剤のpHは、2〜6であり、好ましくは3〜5である。pHが2以上であれば化成処理剤によるエッチング過多を起こさずに化成皮膜を形成でき、優れた耐食性及び耐湿性が得られる。またpHが6以下であれば、エッチング不足とならずに十分な皮膜量の化成皮膜を形成でき、優れた耐食性及び耐湿性が得られる。なお、化成処理剤のpHは、硫酸、硝酸、アンモニア等の一般的な酸やアルカリを用いて調整できる。
【0050】
本実施形態の化成処理剤は、防錆性を向上する目的で、マンガン、亜鉛、セリウム、3価クロム、モリブテン、マグネシウム、ストロンチウム、カルシウム、スズ、銅、鉄及び珪素化合物等の金属イオン、ホスホン酸、リン酸及び縮合リン酸等のリン化合物、並びに、アミノシラン及びエポキシシラン等の各種シランカップリング剤等の各種防錆剤を含んでいてもよい。
【0051】
また、本実施形態の化成処理剤は、アルミニウムイオンを50〜5,000質量ppm含み、遊離フッ素イオンを1〜100質量ppm含んでいてもよい。
アルミニウムイオンは、処理対象のアルミニウムからも化成処理剤中に溶出するが、それとは別に、アルミニウムイオンを積極的に添加することで化成処理反応を促進できる。また、従来よりも遊離フッ素イオン濃度を高く設定することで、より優れた耐食性を有する化成皮膜を形成できる。
上記の効果がさらに高められる観点から、アルミニウムイオンのより好ましい含有量は100〜3,000質量ppmであり、さらに好ましい含有量は200〜2,000質量ppmである。同様に、遊離フッ素イオンのより好ましい含有量は5〜80質量ppmであり、さらに好ましい含有量は15〜50質量ppmである。
アルミニウムイオンの供給源としては、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、フッ化アルミニウム、酸化アルミニウム、明礬、珪酸アルミニウム及びアルミン酸ナトリウム等のアルミン酸塩や、フルオロアルミニウム酸ナトリウム等のフルオロアルミニウム塩が挙げられる。
遊離フッ素イオンの供給源としては、フッ化水素酸、フッ化水素アンモニウム、ジルコニウムフッ化水素酸及びチタニウムフッ化水素酸等のフッ化水素酸並びにその塩;フッ化ナトリウム、フッ化ジルコニウム及びフッ化チタニウム等の金属フッ化物;フッ化アンモニウム等が挙げられる。遊離フッ素イオンの供給源としてフッ化ジルコニウムやフッ化チタニウム等を用いた場合は、これらはジルコニウムイオンやチタニウムイオンの供給源となる。
【0052】
本実施形態の化成処理の方法は特に限定されず、スプレー法や浸漬法等のいずれの方法でもよい。化成処理剤の温度は、好ましくは45〜70℃であり、より好ましくは50〜65℃である。また、化成処理の時間は、好ましくは20〜900秒であり、より好ましくは30〜600秒である。これらを満たすことにより、優れた耐食性及び耐湿性を有する化成皮膜を形成できる。
【0053】
以上のようにしてアルミニウム製熱交換器の表面に形成される本実施形態の化成皮膜では、ジルコニウム及びチタニウムの合計量は5〜300mg/m
2であることが好ましく、バナジウムの量は1〜150mg/m
2であることが好ましく、金属安定化剤の量は炭素換算で0.5〜200mg/m
2であることが好ましい。これらを満たすことにより、より優れた耐食性及び耐湿性が得られる。また、ジルコニウム量とチタニウム量の比率は、処理するアルミニウム製熱交換器の表面状態、特に偏析物の量等によって変動するが、これらの合計量が上記範囲内であればよい。
なお、化成皮膜中のジルコニウム量、チタニウム量及びバナジウム量は、フィンを10mm×10mm以上となるように張り合わせ、蛍光X線分析装置「XRF−1700」(島津製作所製)の測定結果から算出される。
また、化成皮膜中の金属安定化剤量は、化成皮膜中の有機炭素量として(即ち、炭素換算で)、TOC装置「TOC−VCS」(島津製作所製)の測定結果から算出される。ただし、防錆性を向上するために上記で列挙した各種防錆剤を含む場合には、金属安定化剤由来のC量は、上記TOC装置で測定されたC量から、各種防錆剤中に含まれるSi量、P量、N量等の測定値に基づいて算出されたC量を差し引くことで、算出される。
【0054】
[(b)親水化処理工程]
本実施形態の(b)親水化処理工程は、上記の(a)化成処理工程で表面に化成皮膜が形成されたアルミニウム製熱交換器を、親水性樹脂を含む親水化処理剤と接触させる工程である。
本実施形態の親水化処理剤は、水系溶媒中に親水性樹脂を含む水系溶液又は水系分散液である。好ましくは、本実施形態の親水化処理剤は、親水性樹脂に加えて、下記一般式(1)で表されるグアニジン化合物及びその塩のうち少なくとも一方を含む水系溶液又は水系分散液である。
【0055】
本実施形態の親水性樹脂としては、特に限定されないが、分子内に水酸基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基、スルホン酸基及びエーテル基のうち少なくともいずれかを有する水溶性又は水分散性の親水性樹脂であることが好ましい。また、本実施形態の親水性樹脂は、良好な親水性が得られる観点から、水滴との接触角が40°以下となるような親水化皮膜を形成できるものであることが好ましい。
具体的な親水性樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリビニルスルホン酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、キトサン、ポリエチレンオキサイド、水溶性ナイロン、これらの重合体を形成するモノマーの共重合体、2−メトキシポリエチレングリコールメタクリレート/アクリル酸2−ヒドロキシルエチル共重合体等のポリオキシエチレン鎖を有するアクリル系重合体等が好ましく用いられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
上記の親水性樹脂は、優れた親水性及び耐水性を有するとともに、それ自体の臭気が無く、臭気物質が吸着し難い特性を有する。このため、上記の親水性樹脂を含む親水化処理剤によれば、得られる親水化皮膜は親水性及び防臭性に優れ、水滴や流水に曝されても劣化し難い。また、この親水化皮膜によれば、埃臭を有するシリカ等の無機物や、臭気物質を吸着した残存モノマー成分が露出し難いため、優れた防臭性が得られる。
【0057】
本実施形態の親水性樹脂は、数平均分子量が1,000〜100万の範囲内であることが好ましい。数平均分子量が1,000以上であれば、親水性、防臭性、造膜性等の皮膜物性が良好となる。また、数平均分子量が100万以下であれば、親水化処理剤の粘度が高くなりすぎることがなく、作業性や皮膜物性が良好となる。より好ましい数平均分子量は、1万〜20万の範囲内である。なお、本明細書における数平均分子量、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定された標準ポリスチレン換算の値である。
【0058】
上記の親水性樹脂のうち、優れた親水性及び防臭性の観点から、ポリビニルアルコールが好ましく、中でも、ケン化度が90%以上のポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコールが特に好ましい。これらのうち少なくとも一方を用いることにより、優れた親水性及び防臭性が得られる。より好ましいケン化度は、95%以上である。
変性ポリビニルアルコールとしては、ペンダント基中の0.01〜20%が、下記一般式(4)で表されるポリオキシアルキレンエーテル基であるポリオキシアルキレン変性ポリビニルアルコールが挙げられる。
【化4】
[上記式(4)中、nは1〜500の整数を表し、R
1は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R
2は水素原子又はメチル基を表す。]
【0059】
上記のポリオキシアルキレン変性ポリビニルアルコールにおいて、ポリオキシアルキレン変性基がペンダント基中の0.1〜5%であることが好ましく、ポリオキシアルキレン変性基の重合度nは、3〜30であることが好ましい。これらを満たすことにより、ポリオキシアルキレン変性基の親水性によって、良好な親水性が得られる。ポリオキシアルキレン変性ポリビニルアルコールとしては、例えばエチレンオキサイド変性ポリビニルアルコールが挙げられる。
【0060】
本実施形態では、親水化処理剤中の親水性樹脂の含有量は特に限定されないが、好ましくは親水化処理剤の固形分中10〜99質量%であり、より好ましくは30〜95質量%である。これにより、良好な親水性及び防臭性が得られる。
【0061】
本実施形態の親水化処理剤中に好ましく含有されるグアニジン化合物は、下記一般式(1)で表される。このように、グアニジン化合物は窒素を多く含むため、ジルコニウム及びチタニウムのうち少なくとも一方と、バナジウムを含有する化成皮膜に対して良好に密着する特性を有し、さらには厚みがおよそ0.1μmで薄い化成皮膜を介してアルミニウム表面に吸着し易い特性を有する。そのため、親水化処理剤中にグアニジン化合物を配合することにより、化成皮膜と親水化皮膜とでアルミニウム又はアルミニウム合金基材を被覆することができ、黒変の発生を抑制できる。即ち、本実施形態の親水化処理剤は、グアニジン化合物を配合することで、良好な耐食性を付与できるとともに優れた耐湿性を付与できる。
【0062】
また、本実施形態の好ましい態様では、例えばフラックスろう付けされたアルミニウム製熱交換器を用い、これに対してジルコニウム及びチタニウムのうち少なくとも一方とバナジウムを含有する化成処理剤で化成処理を施した後、親水性樹脂とグアニジン化合物及びその塩のうち少なくとも一方とを含む親水化処理剤で処理することにより、二段階の防錆処理が施されていることとなり、フラックスが部分的に残存する状態であっても、結果的に、アルミニウム製熱交換器の全面に対して充分な防錆効果が付与される。
また、化成皮膜がジルコニウム、チタニウム及びバナジウムの全てを含有し、親水化皮膜がグアニジン化合物を含有する場合においては、化成皮膜と親水化皮膜の密着性が特に良好となるためと推察されるが、フラックスの近傍を含め、アルミニウム又はアルミニウム合金基材の全面において耐湿性を著しく向上させる効果が見出されており、より好ましい。
【化5】
[式(1)中、Yは、−C(=NH)−(CH
2)
m−、−C(=O)−NH−(CH
2)
m−、又は−C(=S)−NH−(CH
2)
m−を表わす。mは、0〜20の整数を表し、nは、正の整数を表わし、kは、0又は1を表わす。Xは、水素、アミノ基、水酸基、メチル基、フェニル基、クロロフェニル基又はメチルフェニル基を表わす。Zは、水素、アミノ基、水酸基、メチル基、フェニル基、クロロフェニル基、メチルフェニル基又は下記一般式(2)で表され且つ質量平均分子量が200〜100万の重合体を表す。]
【化6】
[式(2)中、pは、正の整数を表す。]
【0063】
上記のグアニジン化合物としては、例えば、グアニジン、アミノグアニジン、グアニルチオ尿素、1,3−ジフェニルグアニジン、1,3−ジ−o−トリルグアニジン、1−o−トリルビグアニド、ポリヘキサメチレンビグアニド、ポリヘキサエチレンビグアニド、ポリペンタメチレンビグアニド、ポリペンタエチレンビグアニド、ポリビニルビグアニド、ポリアリルビグアニド等が挙げられる。
また、グアニジン化合物の塩としては、上記のグアニジン化合物の、リン酸塩、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩及びグルコン酸塩等の有機酸塩が挙げられる。グアニジン化合物の塩の合計量は、グアニジン化合物及びその塩の合計量に対して、モル比で0.01〜100の範囲内であることが好ましい。これにより、良好な耐食性及び耐湿性が得られる。
【0064】
上記グアニジン化合物及びその塩は、数平均分子量が59〜100万の範囲内であることが好ましい。上記の一般式(1)に示されるように、グアニジン化合物の分子量の最小は59であり、数平均分子量が100万以下であれば水溶化が可能となり、この範囲内であれば、良好な耐食性及び耐湿性が得られる。この効果がより高められる観点から、数平均分子量の下限値は、300であることがより好ましく、500であることがさらに好ましい。一方、上限値は、10万であることがより好ましく、2万であることがさらに好ましい。
【0065】
上記グアニジン化合物及びその塩としては、優れた耐食性及び耐湿性が得られる効果を有することから、上記一般式(1)、(2)で表されるグアニジン化合物及びその塩のうち、分子中に下記一般式(3)で表されるビグアニド構造を有するグアニジン化合物及びその塩であることが好ましい。
【化7】
【0066】
上記ビグアニド構造を有するグアニジン化合物及びその塩としては、例えば、ポリヘキサメチレンビグアニド、1−o−トリルビグアニド、グルコン酸クロルヘキシジン及びその塩等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0067】
上記グアニジン化合物及びその塩の含有量の合計は、親水化処理剤の固形分に対して1〜40質量%であることが好ましい。これにより、優れた耐食性及び耐湿性が得られる。また、この効果がより高められる観点から、5〜30質量%であることがより好ましい。
【0068】
本実施形態の親水化処理剤は、リン酸、縮合リン酸、ホスホン酸及びそれらの誘導体並びにリチウムイオンからなる群より選ばれる少なくとも1種をさらに含むことが好ましい。
本実施形態の親水化処理剤は、リン酸、縮合リン酸、ホスホン酸及びそれらの誘導体といったリン系化合物を含むことにより、これらリン系化合物を含む親水化皮膜がアルミニウム表面に形成される。これにより、アルミニウム表面からアルミニウムが溶出した場合でも、溶出したアルミニウムが親水化皮膜中のリン系化合物と反応してリン酸アルミニウムを形成して不溶化することで、さらなるアルミニウムの溶出を長期間に亘って抑制でき、優れた耐食性及び耐湿性が得られる。
【0069】
上記リン系化合物としては、例えば、リン酸、ポリリン酸、トリポリリン酸、メタリン酸、ウルトラリン酸、フィチン酸、ホスフィン酸、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、ホスホノブタントリカルボン酸(以下、「PBTC」という。)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩、アクリルホスホン共重合体等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
リン系化合物の含有量は、親水化処理剤の固形分に対して0.05〜25質量%であることが好ましい。これにより、優れた耐食性及び耐湿性が得られる。また、この効果がより高められる観点から、0.1〜10質量%であることがより好ましい。
【0070】
また、本実施形態の親水化処理剤は、リチウムイオンを含むことで以下のようなメカニズムにより、優れた耐食性及び耐湿性が得られる。
即ち、特にフラックスろう付けされたアルミニウム製熱交換器を用いた場合、アルミニウム製熱交換器の表面に残存するハロゲン系フラックス中のカリウムイオン等のアルカリ金属イオンと、親水化皮膜からのリチウムイオンが例えば下記式(5)に示すイオン交換反応を行うことで、フラックス残渣と親水化皮膜との界面に難溶性の皮膜が形成される。これにより、形成された難溶性の皮膜がアルミニウム表面からのアルミニウムの溶出を抑制する結果、優れた耐食性及び耐湿性が得られる。なお、リチウムイオンは親水化皮膜中に長期間に亘って残存するため、上記の効果は長期間に亘って維持される。
【化8】
[上記式(5)中、x及びyの組み合わせは、xが1でyが4、xが2でyが5又はxが3でyが6である。]
【0071】
上記リチウムイオンの供給源としては、親水化処理剤中でリチウムイオンを生成し得るリチウム化合物であれば特に限定されず、例えば、水酸化リチウム、硫酸リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、クエン酸リチウム、乳酸リチウム、リン酸リチウム、シュウ酸リチウム、珪酸リチウム、メタ珪酸リチウム等が挙げられる。中でも、臭気に対する影響が少ない観点から、水酸化リチウム、硫酸リチウム、炭酸リチウムが好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
リチウムイオンの含有量は、親水化処理剤の固形分に対して金属換算で0.01〜25質量%であることが好ましい。これにより、優れた耐食性及び耐湿性が得られる。また、この効果がより高められる観点から、0.05〜5質量%であることがより好ましい。
【0072】
本実施形態の親水化処理剤は、親水化皮膜の耐水性を向上させる観点から、必要に応じて架橋剤を含んでもよい。架橋剤としては、ポリビニルアルコールや変性ポリビニルアルコールの水酸基と反応する無機架橋剤や有機架橋剤を用いることができる。
無機架橋剤としては、二酸化珪素等のシリカ化合物、ジルコンフッ化アンモニウムやジルコン炭酸アンモニウム等のジルコニウム化合物、チタンキレート等の金属キレート化合物、Ca、Al、Mg、Fe、Zn等の金属塩等が挙げられる。これら無機架橋剤は、耐水性の向上の他、親水化皮膜の表面に微小の凹凸を形成して水の接触角を低下させる効果もある。
有機架橋剤としては、メラミン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ化合物、ブロック化イソシアネート化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これら架橋剤の含有量は、親水化処理剤の固形分に対して0.1〜50質量%であることが好ましい。これにより、優れた耐水性が得られる。また、この効果がより高められる観点から、0.5〜30質量%であることがより好ましい。
【0073】
本実施形態の親水化処理剤は、任意成分として、分散剤、防錆剤、顔料、シランカップリング剤、抗菌剤(防腐剤)、潤滑剤、消臭剤等を含んでもよい。
分散剤としては特に限定されず、各種界面活性剤や分散樹脂が挙げられる。
防錆剤としては特に限定されず、例えば、タンニン酸、イミダゾール化合物、トリアジン化合物、トリアゾール化合物、ヒドラジン化合物、ジルコニウム化合物等が挙げられる。中でも、優れた耐食性及び耐湿性が得られる観点から、ジルコニウム化合物が好ましい。ジルコニウム化合物としては特に限定されず、例えば、K
2ZrF
6等のアルカリ金属フルオロジルコネート、(NH
4)
2ZrF
6等のフルオロジルコネート等の可溶性フルオロジルコネート、H
2ZrF
6等のフルオロジルコン酸、フッ化ジルコニウム、酸化ジルコニウム等が挙げられる。
顔料としては特に限定されず、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、カオリンクレー、カーボンブラック、酸化鉄(Fe
2O
3、Fe
3O
4等)等の無機顔料の他、有機顔料等の各種着色顔料等が挙げられる。
シランカップリング剤は、親水性樹脂と上記顔料の親和性を高め、両者の密着性を向上させることができる。シランカップリング剤としては特に限定されず、例えば、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−[2−(ビニルベンジルアミノ)エチル]−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。シランカップリング剤は、縮合物又は重合物でもよい。
抗菌剤(防腐剤)としては特に限定されず、例えば、2−(4−チアゾリル)ベンズイミダゾール、ジンクピリチオン、ベンゾイソチアゾリン等が挙げられる。
上記任意成分の含有量は、親水化処理剤の固形分に対して合計で0.01〜50質量%であることが好ましい。これにより、親水化処理剤の効果を阻害することなくそれぞれの効果が発揮される。各効果がより高められる観点から、0.1〜30質量%であることがより好ましい。
【0074】
親水化処理剤の溶媒としては特に限定されないが、廃液処理等の観点から水を主体とする水系溶媒が好ましい。また、造膜性を向上させ、より均一で平滑な皮膜を形成できる観点から、有機溶剤を併用してもよい。有機溶剤としては、塗料等に一般的に用いられ、水を均一に混合するものであれば特に限定されず、例えばアルコール系、ケトン系、エステル系、エーテル系の有機溶剤が挙げられる。これら有機溶剤の含有量は、親水化処理剤中に0.01〜5質量%であることが好ましい。
また、本実施形態の親水化処理剤は、安定性向上の観点から、pH調整剤を含んでもよい。pH調整剤としては、硫酸、硝酸、アンモニア等の一般的な酸やアルカリが挙げられる。
本実施形態の親水化処理剤は、作業性、形成される親水化皮膜の均一性や厚さ、経済性等の観点から、その固形分濃度が1〜11質量%であることが好ましく、2〜5質量%であることがより好ましい。
【0075】
本実施形態の(b)親水化処理工程では、親水化処理に先立って、(a)化成処理工程で化成処理されたアルミニウム製熱交換器を従来公知の方法で水洗処理することが好ましい。
また、上述した構成を備える親水化処理剤を、表面に化成皮膜が形成されたアルミニウム製熱交換器に接触させる方法としては、浸漬法、スプレー法、塗布法等が挙げられる、中でも、アルミニウム製熱交換器の複雑な構造を考慮すると、浸漬法が好ましい。浸漬時間は、通常、室温で10秒間程度とすることが好ましい。浸漬後、エアブローによりウェット皮膜量を調整することで、親水化皮膜量を制御できる。
【0076】
[(c)焼き付け工程]
本実施形態の(c)焼き付け工程は、上述の(b)親水化処理工程で親水化処理されたアルミニウム製熱交換器を焼き付け処理することで、その表面に親水化皮膜を形成する工程である。
焼き付け温度は、アルミニウム製熱交換器自体の温度が140〜160℃となる焼き付け温度であることが好ましく、焼き付け時間は、2〜120分であることが好ましい。これにより、親水化皮膜を確実に形成することができる。
本実施形態の(c)焼き付け工程で形成される親水化皮膜の皮膜量は、0.05〜5g/m
2であることが好ましい。親水化皮膜の皮膜量がこの範囲内であれば、優れた耐食性及び耐湿性が得られるとともに、優れた耐水性及び防臭性が得られる。なお、親水化皮膜の皮膜量は、標準皮膜サンプルの親水化皮膜量とこれに含まれる有機炭素量の関係から算出した換算係数を用いて、TOC装置「TOC−VCS」(島津製作所製)の測定結果から算出できる。
【0077】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例】
【0078】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特に断りがない限り、部、%及びppmは、全て質量基準である。
【0079】
<実施例
、参考例1〜38及び比較例1〜6>
[化成処理剤の調製]
従来公知の調製方法に従って、ジルコニウム、チタニウム、バナジウム及び金属安定化剤の含有量並びにpHが、表1〜表3に示す通りとなるように各成分を配合して混合することにより、化成処理剤を調製した。なお、ジルコニウム供給源としてはフルオロジルコニウム酸を用い、チタニウム供給源としてはフルオロチタン酸を用い、バナジウム供給源としては硫酸バナジルを用いた。表1〜表3中の各濃度は、配合から計算されたものである。
【0080】
[親水化処理剤の調製]
従来公知の調製方法に従って、親水性樹脂、上記の一般式(1)で表されるグアニジン化合物、リン系化合物、リチウムイオン及び添加剤の含有量が、表1〜表3に示す通りとなるように各成分を配合して混合し、溶媒として水を用いて固形分濃度2.5%の親水化処理剤を調製した。ただし、実施例13においてのみ、固形分濃度5%の親水化処理剤を調製した。
【0081】
[試験熱交換器の作製]
実施例
、参考例1〜33及び比較例1〜6では、熱交換器として、ノコロックろう付け法によりKAlF
4及びK
3AlF
6のフラックスでろう付けされた自動車エアコン用のアルミニウム製熱交換器(NB熱交換器)を用いた。また、実施例
、参考例34〜38では、真空ろう付け法によりろう付けされた自動車エアコン用のアルミニウム製熱交換器(VB熱交換器)を用いた。NB熱交換器のフィン表面におけるフラックス量は、カリウムとして50mg/m
2であった。
これらの熱交換器を、硫酸1%と、KAlF
4及びK
3AlF
6のフラックス0.4%を含む酸浴中に、40℃にて20秒間浸漬して酸洗浄を実施した。
酸洗浄後、熱交換器を、上述のようにして調製した化成処理剤中に50℃にて60秒間浸漬することで、化成処理を実施した。
化成処理後、熱交換器を30秒間水洗した後、上述のようにして調製した親水化処理剤中に室温で10秒間浸漬した。浸漬後、エアブローによりウェット皮膜量を調整した。
次いで、乾燥炉にて、熱交換器自体の温度が150℃となる焼き付け温度で5分間焼付け処理を実施することで、試験用熱交換器を作製した。
【0082】
<評価>
各実施例
、参考例及び比較例で作製した試験用熱交換器について、以下に示す物性評価を行った。
[耐食性(耐白錆性)]
各実施例
、参考例及び比較例で作製した試験用熱交換器について、JIS Z 2371に基づいた耐食性(耐白錆性)の評価を実施した。具体的には、各実施例
、参考例及び比較例で作製した試験用熱交換器に対して、5%食塩水を35℃にて噴霧した後、2,000時間経過後の白錆発生部の面積を、下記の評価基準に従って目視で評価した。評価者は2人とし、2人の評価の平均値に基づいて、耐食性を評価した。
(評価基準)
10:白錆発生無し。
9:白錆は見られたが、白錆発生部の面積が10%未満。
8:白錆発生部の面積が10%以上20%未満。
7:白錆発生部の面積が20%以上30%未満。
6:白錆発生部の面積が30%以上40%未満。
5:白錆発生部の面積が40%以上50%未満。
4:白錆発生部の面積が50%以上60%未満。
3:白錆発生部の面積が60%以上70%未満。
2:白錆発生部の面積が70%以上80%未満。
1:白錆発生部の面積が80%以上90%未満。
【0083】
[耐湿性(耐黒変性)]
各実施例
、参考例及び比較例で作製した試験用熱交換器に対して、温度70℃、湿度98%以上の雰囲気下で3,000時間の耐湿試験を実施した。試験後の黒変発生部の面積を、上記耐食性の評価基準に準じて目視で評価した。評価者は2人とし、2人の評価の平均値に基づいて、耐湿性を評価した。
【0084】
[親水性]
各実施例
、参考例及び比較例で作製した試験用熱交換器を、流水に72時間接触させた後、水滴との接触角を測定した。接触角の測定は、自動接触角計「CA−Z」(協和界面化学社製)を用いて実施した。接触角が小さいほど親水性は高く、接触角が40°以下であれば、親水性が良好であると評価される。
【0085】
[臭気]
各実施例
、参考例及び比較例で作製した試験用熱交換器を、水道水の流水に72時間接触させた後、その臭気を下記の評価基準で評価した。評価者は2人とし、2人の評価の平均値に基づいて、臭気を評価した。臭気が1.5以下であれば、防臭性が良好であると評価される。
(評価基準)
0:無臭。
1:微かに臭いを感じる。
2:楽に臭いを感じる。
3:明らかに臭いを感じる。
4:強い臭いを感じる。
5:非常に強い臭いを感じる。
【0086】
[皮膜量]
各実施例
、参考例及び比較例で作製した試験用熱交換器の表面に形成された化成皮膜中のジルコニウム量、チタニウム量及びバナジウム量は、フィンを10mm×10mm以上となるように張り合わせ、蛍光X線分析装置「XRF−1700」(島津製作所製)の測定結果から算出した。
また化成皮膜中の金属安定化剤量は、化成皮膜中の有機炭素量として(即ち、炭素換算で)、TOC装置「TOC−VCS」(島津製作所製)の測定結果から算出した。
各実施例
、参考例及び比較例で作製した試験用熱交換器の表面に形成された親水化皮膜の皮膜量は、標準皮膜サンプルの親水化皮膜量とこれに含まれる有機炭素量の関係から算出した換算係数を用いて、TOC装置「TOC−VCS」(島津製作所製)の測定結果から算出した。
【0087】
各実施例
、参考例及び比較例で調製した化成処理剤及び親水化処理剤の組成と、各実施例
、参考例及び比較例で作製した試験用熱交換器の評価結果をまとめて表1〜表3に示した。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
表1〜表3における各成分の詳細は、次の通りである。
(1)化成処理剤において、Zr濃度は、化成処理剤中のジルコニウム含有量(各種イオンの金属元素換算濃度)を表し、Ti濃度は、化成処理剤中のチタニウム含有量(各種イオンの金属元素換算濃度)を表し、V濃度は、化成処理剤中のバナジウム含有量(各種イオンの金属元素換算濃度)を表す。
(2)化成処理剤中の金属安定化剤の濃度は、化成処理剤に対する金属安定化剤の含有量である。
【0092】
(3)金属安定化剤のアルベリーLは、アントシアニンである。
(4)金属安定化剤のパンシルFG−70は、カテキンである。
(5)金属安定化剤のPL−6757は、ポリフェノールである。
(6)金属安定化剤のBaypure CX−100は、イミノジコハク酸4ナトリウムである。
【0093】
(7)親水化処理剤中の各成分の固形分%は、親水化処理剤の固形分に対する各成分の含有量を表す。
(8)ポリビニルアルコールのケン化度は99%であり、その数平均分子量は60,000である。
(9)エチレンオキサイド変性ポリビニルアルコールのケン化度は99%であり、その数平均分子量は20,000であり、ポリオキシエチレン基の含有割合(ポリビニルアルコールの全ペンダント基に対する割合)は3%である。
【0094】
(10)カルボキシメチルセルロースの数平均分子量は、10,000である。
(11)ポリビニルスルホン酸ナトリウムの数平均分子量は、20,000である。
(12)ポリアクリル酸の数平均分子量は、20,000である。
(13)キトサンの重量平均分子量は430,000である。なお、キトサンはクエン酸で溶解する必要があるため、キトサンを用いる場合にはクエン酸も同時に含まれることとなる。
(14)縮合リン酸は、トリポリリン酸である。
(15)PBTCは、ホスホノブタントリカルボン酸を表す。
(16)フェノール樹脂は、レゾール型フェノール樹脂からなる有機架橋剤であり、その数平均分子量は300である。
【0095】
表1〜表3に示した通り、実施例
、参考例1〜38いずれも、比較例1〜5と比べて耐食性及び耐湿性に優れており、また、比較例6と比べても耐湿性に優れているうえ、親水性及び臭気(防臭性)も遜色無く良好であることが分かった。この結果から、NB熱交換器及びVB熱交換器を、ジルコニウム及びチタニウムのうち少なくとも一方を含み且つその含有量が合計で5〜5,000質量ppm、バナジウムを含み且つその含有量が10〜1,000質量ppm、金属安定化剤を含み且つその含有量が5〜5,000質量ppm、並びに、pHが2〜6である化成処理剤で化成処理して化成皮膜を形成した後、親水性樹脂を含む親水化処理剤と接触させ、焼き付けて親水化皮膜を形成することにより、従来よりも優れた耐食性及び耐湿性が得られることが確認された。