特許第6105979号(P6105979)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6105979
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】アルミニウム製熱交換器の表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/44 20060101AFI20170316BHJP
   C23C 22/83 20060101ALI20170316BHJP
   F28F 13/18 20060101ALI20170316BHJP
   C23C 22/34 20060101ALI20170316BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20170316BHJP
   B05D 3/10 20060101ALI20170316BHJP
   B23K 1/00 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
   C23C22/44
   C23C22/83
   F28F13/18 B
   C23C22/34
   B05D7/14 101C
   B05D3/10 A
   B23K1/00 330J
【請求項の数】9
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-47340(P2013-47340)
(22)【出願日】2013年3月8日
(65)【公開番号】特開2013-213282(P2013-213282A)
(43)【公開日】2013年10月17日
【審査請求日】2016年2月10日
(31)【優先権主張番号】特願2012-53031(P2012-53031)
(32)【優先日】2012年3月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】315006377
【氏名又は名称】日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】松井 徳純
(72)【発明者】
【氏名】水野 晃宏
(72)【発明者】
【氏名】和田 優子
(72)【発明者】
【氏名】法華 淳介
(72)【発明者】
【氏名】中村 賢治
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 敬幸
(72)【発明者】
【氏名】小林 健吾
【審査官】 宮本 靖史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−214105(JP,A)
【文献】 特開2008−088552(JP,A)
【文献】 特開2002−030460(JP,A)
【文献】 特開2005−008975(JP,A)
【文献】 特開2012−017524(JP,A)
【文献】 特開2000−199077(JP,A)
【文献】 特開2006−069197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00 − 22/86
F28F 11/00 − 19/06
B05D 1/00 − 7/26
B23K 1/00 − 3/08
B23K 31/02
B23K 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム製熱交換器の表面処理方法であって、
(a)前記アルミニウム製熱交換器を化成処理剤によってその表面に化成皮膜を形成する工程と、
(b)前記(a)工程で表面に化成皮膜が形成されたアルミニウム製熱交換器を、親水性樹脂を含む親水化処理剤と接触させる工程と、
(c)前記(b)工程で接触処理されたアルミニウム製熱交換器を、焼き付け処理することで、その表面に親水化皮膜を形成する工程
とを含み、
前記工程(a)で用いる化成処理剤が、ジルコニウム及びチタニウムのいずれをも含み且つその含有量が合計で5〜5,000質量ppm、バナジウムを含み且つその含有量が10〜1,000質量ppm、金属安定化剤を含み且つその含有量が5〜5,000質量ppm、並びに、pHが2〜6であるアルミニウム製熱交換器の表面処理方法。
【請求項2】
前記金属安定化剤が、還元性を有する有機化合物及びイミノジ酢酸誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載のアルミニウム製熱交換器の表面処理方法。
【請求項3】
前記(a)工程で形成される化成皮膜において、ジルコニウムの量及びチタニウムの量の合計が5〜300mg/mであり、バナジウムの量が1〜150mg/mであり、且つ金属安定化剤の量が炭素換算で0.5〜200mg/mであり、
前記(c)工程で形成される親水化皮膜の皮膜量が0.05〜5g/mである請求項1又は2に記載のアルミニウム製熱交換器の表面処理方法。
【請求項4】
前記(b)工程で用いる親水化処理剤が、さらに、下記一般式(1)で表されるグアニジン化合物及びその塩のうち少なくとも一方を含む請求項1からいずれか1項に記載のアルミニウム製熱交換器の表面処理方法。
【化1】
[式(1)中、Yは、−C(=NH)−(CH−、−C(=O)−NH−(CH−、又は−C(=S)−NH−(CH−を表わす。mは、0〜20の整数を表し、nは、正の整数を表わし、kは、0又は1を表わす。Xは、水素、アミノ基、水酸基、メチル基、フェニル基、クロロフェニル基又はメチルフェニル基を表わす。Zは、水素、アミノ基、水酸基、メチル基、フェニル基、クロロフェニル基、メチルフェニル基又は下記一般式(2)で表され且つ質量平均分子量が200〜100万の重合体を表す。]
【化2】
[式(2)中、pは、正の整数を表す。]
【請求項5】
前記グアニジン化合物及びその塩が下記一般式(3)で表されるビグアニド構造を有するもの及びその塩である請求項に記載のアルミニウム製熱交換器の表面処理方法。
【化3】
【請求項6】
前記(b)工程で用いる親水化処理剤が、リン酸、縮合リン酸、ホスホン酸及びそれらの誘導体並びにリチウムイオンからなる群より選ばれる少なくとも1種をさらに含む請求項1からいずれか1項に記載のアルミニウム製熱交換器の表面処理方法。
【請求項7】
前記(b)工程で用いる親水化処理剤中の親水性樹脂が、ケン化度が90%以上のポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコールのうち少なくとも一方を含むものである請求項1からいずれか1項に記載のアルミニウム製熱交換器の表面処理方法。
【請求項8】
前記アルミニウム製熱交換器が、フラックスろう付けされたアルミニウム製熱交換器である請求項1からいずれか1項に記載のアルミニウム製熱交換器の表面処理方法。
【請求項9】
前記アルミニウム製熱交換器が、ノコロックろう付け法によりフラックスろう付けされたアルミニウム製熱交換器である請求項1からいずれか1項に記載のアルミニウム製熱交換器の表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム製熱交換器の表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エアコンに用いられるアルミニウム製熱交換器は、熱交換効率向上の観点から、通常、その表面積を可能な限り大きくすべく複数のフィンが狭い間隔で配置されるとともに、これらのフィンに冷媒供給用のチューブが入り組んで配置される。このような複雑な構造の熱交換器では、エアコン稼動時に大気中の水分がフィンやチューブ(以下、「フィン等」という。)の表面に凝縮水として付着する。ところが、フィン等の表面の濡れ性が劣る場合には、付着した凝縮水が略半球状の水滴となったりフィン間にブリッジ状に存在する等して通風抵抗が増大する結果、排気のスムーズな流れが阻害されて熱交換効率が低下するという問題がある。このような現象を抑制するために、通常、フィン等の表面には親水化処理が施されている。
【0003】
また、フィン等を構成するアルミニウムやその合金は、本来、防錆性に優れる材料である。しかしながら、フィン等の表面に凝縮水が長時間滞留すると、局部的に酸素濃淡電池が形成されて腐食反応が進行し、さらにそこに大気中の汚染成分が付着して濃縮されると、腐食反応が促進される。腐食反応により生じた生成物、例えば白錆は、フィン等の表面に堆積することで熱交換特性が阻害される他、送風機により大気中に排出される等の問題がある。
【0004】
そのため、白錆の発生を抑制して耐食性を向上させる技術が種々提案されている。例えば、アルミニウムやその合金材料の表面に対して良好な耐食性を付与する化成処理剤として、チタニウム錯フッ化物イオン、5価バナジウム化合物イオン及びジルコニウム錯フッ化物イオンを含む化成処理剤が開示されている(特許文献1参照)。
また、アルミニウム製熱交換器の表面に対して良好な耐食性を付与する化成処理剤として、5価バナジウム化合物イオンに相当するデカバナジン酸イオン及びジルコニウム錯フッ化物イオンを含む化成処理剤が開示されている(特許文献2参照)。
【0005】
ところで、自動車エアコンに用いられるアルミニウム製熱交換器は、上述のようにして複数のフィン等を配置して組み立てた後、それらを接合することで作製される。接合に際しては、アルミニウムの表面には強固で緻密な酸化皮膜が形成されているため、機械的な接合法ではないろう付け法による接合は容易ではなく、真空中でろう付けする等の工夫が必要であった。
【0006】
これに対して、近年、表面の酸化皮膜を効果的に除去する手段として、ハロゲン系フラックスを用いたフラックスろう付け法が開発され、中でも、ろう付けの管理が容易で加工費が安価である観点から、窒素ガス中でフラックスろう付けするノコロックろう付け法(以下、「NB法」という。)が多用されている。このNB法では、複数のフィン等を配置して組み立てた後、窒素ガス中で、KAlF及びKAlF等のフラックスを用いてフィン等をろう付けする。
【0007】
しかしながら、NB法により作製されたアルミニウム製熱交換器(以下、「NB熱交換器」という。)は、フィン等の表面にフラックスが不可避的に残存する。すると、フィン等の表面状態(電位状態等)が不均一となる結果、その後の処理により均一な化成皮膜や親水化皮膜を得ることができず、良好な耐食性及び親水性が得られない、という問題があった。
【0008】
そこで、良好な耐食性及び親水性に加えて、自動車エアコン用途として重要な特性である良好な防臭性をも付与するNB熱交換器の表面処理方法として、NB熱交換器を、ジルコニウム錯フッ化物イオン及びチタニウム錯フッ化物イオンのうち少なくも一方を含む化成処理剤に浸漬して化成処理した後、ポリビニルアルコール、ポリオキシアルキレン変性ポリビニルアルコール、無機架橋剤及びグアニジン化合物等を含む親水化処理剤に浸漬して親水化処理する技術が開示されている(特許文献3参照)。
【0009】
また、アルミニウム又はアルミニウム合金基材の表面の親水性、高耐食性、抗菌性及び防臭性を長期間に亘り保持できる表面処理方法として、アルミニウム又はアルミニウム合金基材表面を化成皮膜の形成に適した状態にする表面調整工程、水洗工程、前記アルミニウム又はアルミニウム合金基材の表面に化成皮膜からなる第1保護層を形成する工程、水洗工程、前記第1保護層上に有機皮膜である第2保護層を塗布する工程、及び乾燥工程を順次経る技術が開示されている(特許文献4参照)。この技術では、前記第1保護層を、バナジウムと、チタン、ジルコニウム及びハフニウムから選ばれる少なくとも1種以上の金属とを含有する化成処理液で形成し、前記第2保護層を、(1)キトサン誘導体及び可溶化剤と、(2)ポリビニルアルコールの側鎖に親水性ポリマーがグラフト重合してなる変性ポリビニルアルコールと、(3)水溶性架橋剤とを含有する組成物で形成する。
【0010】
また、アルミニウム系金属材料等に優れた耐食性を付与する技術として、特定の構造を有する樹脂化合物と、バナジウム化合物と、特定の金属化合物と、を必須成分とする表面処理剤に関する技術が開示されている(特許文献5参照)。この技術では、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン酸基、1〜3級アミノ基及びアミド基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する水溶性有機化合物として、例えばアスコルビン酸等を含有することにより、バナジウム化合物を還元するだけでなく、バナジウム化合物の安定性を著しく向上させ、優れた耐食性付与効果を長時間維持できるとされている。また、均一な皮膜を形成でき、耐食性のレベルを向上できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−261058号公報
【特許文献2】特表2004−510882号公報
【特許文献3】特開2006−69197号公報
【特許文献4】特開2011−161876号公報
【特許文献5】特開2001−181860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、近年、自動車エアコン用のアルミニウム製熱交換器では、耐食性の向上に加えて、耐湿性の向上が重要となっている。ここで、上述したように耐食性の指標は白錆であるのに対して、耐湿性の指標は黒変である。白錆は、酸素、水及び塩化物イオン等の腐食因子により発生する局部的な腐食現象であるのに対して、黒変は、酸素、水及び熱の存在により発生する全面的な腐食現象である。そのため、高熱に晒される環境下にある自動車エアコン用のアルミニウム製熱交換器では、耐食性とともに黒変の発生を抑制して耐湿性を向上させることが望まれる。
【0013】
しかしながら、特許文献1の技術は、処理対象が熱交換器ではないため、親水化処理は行われない。また、この技術は、耐湿性についての検討は何らなされておらず、耐湿性を向上させる技術ではない。
【0014】
特許文献2の技術は、処理対象はアルミニウム製熱交換器であるものの、耐湿性についての検討は何らなされていない。この技術は、良好な耐食性の付与に焦点を絞った技術であり、耐湿性を向上させる技術ではない。
【0015】
特許文献3の技術は、処理対象が自動車エアコン用のアルミニウム製熱交換器であり、良好な耐食性及び親水性に加えて良好な防臭性を付与する技術であるが、耐湿性に着目した技術ではない。そのため、この技術では、耐湿性についての検討は何らなされておらず、優れた耐湿性は得られない。また、特許文献3には、化成処理剤中にバナジウムイオンを所定量含有させた実施態様については記載されておらず、特許文献3における耐食性は、その評価時間が本発明と比べて大幅に短く、本発明よりもレベルの低いものとなっている。
【0016】
特許文献4の技術は、処理対象がアルミニウム製又はアルミニウム合金製の熱交換器であり、長期間の親水性、高耐食性、抗菌性、耐湿性及び防臭性を付与する技術であるが、この技術における耐食性は、その評価時間が本発明と比べて大幅に短い。また、この技術における耐湿性も、その評価温度が本発明と比べて大幅に低く、本発明よりもレベルの低いものとなっている。
【0017】
特許文献5の技術は、処理対象が熱交換器ではないため、親水化処理は行われない。また、この技術では、耐湿性についての検討は何らなされておらず、耐湿性を向上させる技術ではない。さらには、この技術は、塗布型の表面処理剤に関する技術であり、本発明のような反応型の化成処理剤に関する技術ではない。
【0018】
以上の通り、自動車エアコンに用いられるアルミニウム製熱交換器に対して、優れた耐食性(耐白錆性)及び耐湿性(耐黒変性)を付与し得る表面処理方法については、これまでのところ確立されていないのが現状である。
【0019】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、自動車エアコンに用いられるアルミニウム製熱交換器に対して、優れた耐食性(耐白錆性)及び耐湿性(耐黒変性)を付与し得る表面処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するため本発明は、アルミニウム製熱交換器の表面処理方法であって、
(a)上記アルミニウム製熱交換器を化成処理剤によってその表面に化成皮膜を形成する工程と、
(b)上記(a)工程で表面に化成皮膜が形成されたアルミニウム製熱交換器を、親水性樹脂を含む親水化処理剤と接触させる工程と、
(c)上記(b)工程で接触処理されたアルミニウム製熱交換器を、焼き付け処理することで、その表面に親水化皮膜を形成する工程
とを含み、
前記工程(a)で用いる化成処理剤が、ジルコニウム及びチタニウムのうち少なくとも一方を含み且つその含有量が合計で5〜5,000質量ppm、バナジウムを含み且つその含有量が10〜1,000質量ppm、金属安定化剤を含み且つその含有量が5〜5,000質量ppm、並びに、pHが2〜6であるアルミニウム製熱交換器の表面処理方法を提供する。
【0021】
上記金属安定化剤が、還元性を有する有機化合物及びイミノジ酢酸誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0022】
上記(a)工程で形成される化成皮膜において、ジルコニウムの量及びチタニウムの量の合計が5〜300mg/mであり、バナジウムの量が1〜150mg/mであり、且つ金属安定化剤の量が炭素換算で0.5〜200mg/mであり、
上記(c)工程で形成される親水化皮膜の皮膜量が0.05〜5g/mであることが好ましい。
【0023】
上記(a)工程で形成される化成皮膜が、ジルコニウム及びチタニウムのいずれをも含むことが好ましい。
【0024】
上記(b)工程で用いる親水化処理剤が、さらに、下記一般式(1)で表されるグアニジン化合物及びその塩のうち少なくとも一方を含むことが好ましい。
【化1】
[式(1)中、Yは、−C(=NH)−(CH−、−C(=O)−NH−(CH−、又は−C(=S)−NH−(CH−を表わす。mは、0〜20の整数を表し、nは、正の整数を表わし、kは、0又は1を表わす。Xは、水素、アミノ基、水酸基、メチル基、フェニル基、クロロフェニル基又はメチルフェニル基を表わす。Zは、水素、アミノ基、水酸基、メチル基、フェニル基、クロロフェニル基、メチルフェニル基又は下記一般式(2)で表され且つ質量平均分子量が200〜100万の重合体を表す。]
【化2】
[式(2)中、pは、正の整数を表す。]
【0025】
上記グアニジン化合物及びその塩が下記一般式(3)で表されるビグアニド構造を有するもの及びその塩であることが好ましい。
【化3】
【0026】
上記(b)工程で用いる親水化処理剤が、リン酸、縮合リン酸、ホスホン酸及びそれらの誘導体並びにリチウムイオンからなる群より選ばれる少なくとも1種をさらに含むことが好ましい。
【0027】
上記(b)工程で用いる親水化処理剤中の親水性樹脂が、ケン化度が90%以上のポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコールのうち少なくとも一方を含むものであることが好ましい。
【0028】
上記アルミニウム製熱交換器が、ノコロックろう付け法によりフラックスろう付けされたアルミニウム製熱交換器であることが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、自動車エアコンに用いられる熱交換器に対して、優れた耐食性(耐白錆性)及び耐湿性(耐黒変性)を付与し得る表面処理方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について詳しく説明する。
本実施形態に係る表面処理方法は、アルミニウム製熱交換器の表面処理を行うものである。本実施形態に係る表面処理方法は、(a)化成処理工程と、(b)親水化処理工程と、(c)焼き付け工程と、を含む。
なお以下の説明では、耐白錆性を耐食性とし、耐黒変性を耐湿性として説明する。
【0031】
[熱交換器]
本実施形態に係る表面処理方法の処理対象は、アルミニウム製熱交換器であり、自動車エアコン用途として好ましく用いられる。ここで、「アルミニウム製」とは、アルミニウム又はアルミニウム合金(以下、単に「アルミニウム」という。)から成ることを意味する。
【0032】
上述したように、本実施形態に係るアルミニウム製熱交換器は、熱交換効率向上の観点から、その表面積を可能な限り大きくすべく複数のフィンが狭い間隔で配置されるとともに、これらのフィンに冷媒供給用のチューブが入り組んで配置される。また、これらのフィン等を組み立てた後、例えば、窒素ガス中でフラックスを用いてろう付けが行われ、この場合にはフィン等の表面にフラックスが不可避的に残存する。そのため、フィン等の表面状態(電位状態等)が不均一となり、従来の化成処理剤では、均一な化成皮膜や親水化皮膜を得ることが困難となる。
なお、フラックスとしては、NB法で通常用いられるハロゲン系のフラックスを用いることができる。ハロゲン系のフラックスとしては、KAlF、KAlF、KAlF、CsAlF、CsAlF及びCsAlFからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0033】
[(a)化成処理工程]
本実施形態の(a)化成処理工程は、アルミニウム製熱交換器を、ジルコニウム及びチタニウムのうち少なくとも一方を含み且つその含有量が合計で5〜5,000質量ppm、バナジウムを含み且つその含有量が10〜1,000質量ppm、金属安定化剤を含み且つその含有量が5〜5,000質量ppm、並びに、pHが2〜6である化成処理剤で化成処理することで、その表面に化成皮膜を形成する工程である。
なお、化成処理する前に、化成処理効果をより一層向上させる目的で、必要に応じてアルミニウム製熱交換器を酸洗処理してもよい。酸洗処理の条件は特に限定されず、アルミニウム製熱交換器の酸洗処理として従来用いられている処理条件を採用できる。
【0034】
ここで、本実施形態の化成処理剤では、ジルコニウム、チタニウム及びバナジウムは、いずれも錯イオン等の各種イオンとして存在する。そのため、本明細書において、ジルコニウム、チタニウム及びバナジウムの各含有量は、各種イオンの金属元素換算の値を意味する。
【0035】
本実施形態の化成処理剤は、ジルコニウムイオン及びチタニウムイオンのうち少なくとも一方と、バナジウムイオンと、を含み、ジルコニウム系化合物及びチタニウム系化合物のうち少なくとも一方とバナジウム系化合物とを水に溶解することで得られる。即ち、本実施形態の化成処理剤は、ジルコニウムイオン及びチタニウムイオンのうち少なくとも一方とバナジウムイオンとを活性種とする溶液である。本実施形態の好ましい化成処理剤としては、ジルコニウムイオン、チタニウムイオン及びバナジウムイオンの全てを活性種として含有する。
【0036】
ジルコニウムイオンは化成反応により変化し、これにより、アルミニウム表面に酸化ジルコニウムを主体としたジルコニウム析出物が析出する。ジルコニウムイオンの供給源であるジルコニウム系化合物としては、フルオロジルコニウム酸、フッ化ジルコニウム等のジルコニウム化合物の他、これらのリチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等の塩が挙げられる。また、酸化ジルコニウム等のジルコニウム化合物をフッ化水素酸等のフッ化物で溶解させたものを用いることもできる。これらのジルコニウム系化合物は、フッ素を有するため、アルミニウム表面をエッチングする機能を有する。
【0037】
チタニウムイオンは化成反応により変化し、これにより、アルミニウム表面に酸化チタニウムを主体としたチタニウム析出物が析出する。チタニウムイオンは、沈殿pHが上記のジルコニウムイオンよりも低いため、チタニウム析出物自体が析出し易いうえ、上述のジルコニウム析出物や後述のバナジウム析出物の析出を促進できる結果、主としてこれら析出物から形成される化成皮膜の皮膜量を増加させることができる。特に、アルミニウム製熱交換器がフラックスろう付けされたアルミニウム製熱交換器である場合には、チタニウムイオンは、アルミニウム製熱交換器の表面に残存するフラックスの近傍にも容易に沈殿してチタニウム析出物を析出させることができる。
チタニウムイオンの供給源であるチタニウム系化合物としては、フルオロチタン酸、フッ化チタン等のチタニウム化合物の他、これらのリチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等の塩が挙げられる。また、酸化チタニウム等のチタニウム化合物をフッ化水素酸等のフッ化物で溶解させたものを用いることもできる。これらのチタニウム系化合物は、上記のジルコニウム系化合物と同様にフッ素を有するため、アルミニウム表面をエッチングする機能を有する。また、そのエッチング機能は、上記のジルコニウム系化合物よりも高い。
【0038】
本実施形態では、化成処理剤中に、ジルコニウムイオン及びチタニウムイオンのうち少なくとも一方とバナジウムイオンを含むことにより、ジルコニウム及びチタニウムのうち少なくとも一方とともに、バナジウムを含有する化成皮膜が形成される。バナジウムイオンは、チタニウムイオンよりも低いpHで沈殿する特性を有し、これにより、アルミニウム表面に酸化バナジウムを主体としたバナジウム析出物が析出する。より詳しくは、バナジウムイオンは、還元反応によって酸化バナジウムに変換され、これにより、アルミニウム表面にバナジウム析出物が析出する。
バナジウム析出物は、アルミニウム表面の一部を除いて全体的に被覆する特性を有するジルコニウム析出物やチタニウム析出物と異なり、ジルコニウム析出物やチタニウム析出物が形成され難いアルミニウム表面の偏析物上に析出し易い特性を有する。これにより、本実施形態の化成処理剤によれば、バナジウムイオンを含まない従来の化成処理剤に比して、主としてジルコニウム析出物、チタニウム析出物及びバナジウム析出物によって緻密で高い被覆性を有する化成皮膜を形成できる。
また、バナジウム析出物は、ジルコニウムイオンやチタニウムイオンが共存することで、従来のクロム皮膜と同様に自己修復効果を発揮し、皮膜形成性に優れる特性を有する。即ち、バナジウム析出物から微量のバナジウムイオンが適度に溶出し、溶出したバナジウムイオンがアルミニウム表面を酸化して不動態化することで自己修復し、良好な耐食性が維持される。一方、バナジウムイオンがジルコニウムイオンやチタニウムイオンとの共存下でない場合には、バナジウム析出物が析出し難く、バナジウム析出物が析出したとしてもその析出物からバナジウムイオンが多量に溶出してしまい、上記のような自己修復効果は得られない。
【0039】
本実施形態では、好ましくは、化成処理剤中に、ジルコニウムイオン、チタニウムイオン及びバナジウムイオンを含むことにより、ジルコニウム、チタニウム及びバナジウムを含む化成皮膜が形成される。ジルコニウムイオン、チタニウムイオン及びバナジウムイオンの全てを活性種として含有する活性処理剤を用いることにより、特にフラックスろう付けされたアルミニウム製熱交換器を用いた場合には、フラックスの近傍においてもより緻密で高い被覆性を有する化成皮膜を形成することができる。
【0040】
バナジウム系化合物としては、2〜5価のバナジウム化合物を用いることができる。具体的には、メタバナジン酸、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、五酸化バナジウム、オキシ三塩化バナジウム、硫酸バナジル、硝酸バナジル、燐酸バナジル、酸化バナジウム、二酸化バナジウム、バナジウムオキシアセチルアセトネート、塩化バナジウム等が挙げられる。これらバナジウム系化合物は、フッ素を有していないため、アルミニウム表面をエッチングする機能は無い。
本実施形態では、4価又は5価のバナジウム化合物が好ましく、具体的には硫酸バナジル(4価)及びメタバナジン酸アンモニウム(5価)が好ましく用いられる。
【0041】
上述したように本実施形態の化成処理剤では、ジルコニウムイオン及びチタニウムイオンの含有量の合計が金属換算で5〜5,000質量ppmであり、バナジウムイオンの含有量が金属換算で10〜1,000質量ppmである。これらを満たすことにより、後述する親水化処理との組み合わせによる相乗効果によって、アルミニウム製熱交換器の耐食性及び耐湿性が大幅に向上するとともに、良好な親水性及び防臭性が得られる。
また、上記の効果がさらに高められる観点から、ジルコニウムイオン及びチタニウムイオンの含有量の合計は金属換算で5〜3,000質量ppmであることが好ましく、ジルコニウムの含有量は5〜3,000質量ppmであることが好ましく、チタニウムの含有量は5〜500質量ppmであることが好ましく、バナジウムの含有量は10〜500質量ppmであることが好ましい。
【0042】
本実施形態の化成処理剤は、ジルコニウムイオン、チタニウムイオン及びバナジウムイオンからなる各金属イオンを安定化させる金属安定化剤を含む。本実施形態で用いる金属安定化剤は、化成処理剤中で、ジルコニウムイオン、バナジウムイオン及びチタニウムイオンとキレート結合する等して、複合体を形成する。これにより、ジルコニウムイオン、バナジウムイオン及びチタニウムイオンからなる各金属イオンは、化成処理剤中で安定化される。
【0043】
ところで、上述したようにジルコニウムイオン、チタニウムイオン及びバナジウムイオンからなる各金属イオンは、それぞれ固有の沈殿pHを有する。そのため従来の化成処理剤では、処理材表面のエッチング反応に伴う界面でのpHの上昇により、沈殿pHの低い方から順に、各金属イオンが沈殿することで化成皮膜が形成される。
これに対して、本実施形態の化成処理剤では、各金属イオンは金属安定化剤の作用により複合体を形成して安定化しているため、沈殿pHが上昇している。そのため、各金属イオンに固有の沈殿pHよりも高いpHで、各金属イオンは複合体として同時に沈殿する。具体的には、最も沈殿pHが高いジルコニウムイオンの沈殿pHよりも高いpHで、各金属イオンは複合体として同時に沈殿する。これにより、従来よりも均一な化成皮膜が形成されるとともに、複合体として沈殿するため析出物の粒子径が増大する結果、従来よりも高い被覆率が得られる。そのため、従来よりも優れた耐食性が得られ、特に優れた耐湿性が得られる。
以上の金属安定化剤による効果を十分に発揮させる観点から、本実施形態の化成処理剤は、ジルコニウム、バナジウム及びチタニウムいずれをも含むことが好ましい。
【0044】
なお、本実施形態の化成処理剤では、各金属イオンが金属安定化剤の作用で複合体化されたものと、複合体化されずに金属イオンのまま存在するものとが共存する。
ここで、従来の化成処理剤では、アルミニウム系金属材料の表面の欠陥部に各金属イオンが析出し、続いて、析出した金属の部分に同じ金属が析出する。そのため、皮膜形成が均一ではなく、皮膜に欠陥が生じる。
これに対して本実施形態の化成処理剤では、界面でのpHの上昇に伴い、先ず、複合体化されていない各金属イオンが、それぞれに固有の沈殿pHで順に沈殿し、アルミニウム系金属材料の表面の欠陥部を被覆する。次いで、金属安定化剤の作用で形成された複合体が、より高いpHで沈殿することにより、化成皮膜が均一に形成される。
このように、本実施形態の化成処理剤では、化成皮膜の皮膜形成ステップが2段階で行われる点において、従来の化成処理剤と大きく相違する。
【0045】
また、上述した特許文献5の技術は、反応型の化成処理剤ではなく、塗布型の表面処理剤中にアスコルビン酸等を含有するものである。そのため、特許文献5の技術では、アスコルビン酸等の金属安定化剤との複合体の形成による各金属イオンの安定化や沈殿pHの上昇に加えて、複合体として各金属イオンが同時に沈殿することによる化成皮膜の均一化や被覆率の向上といった、反応型の化成処理剤に特有の効果が発揮されることはない点において、本実施形態と大きく相違する。
【0046】
本実施形態で用いる金属安定化剤としては、還元性を有する有機化合物及びイミノジ酢酸誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
還元性を有する有機化合物としては、アスコルビン酸、シュウ酸、アルミニウムレーキ、アントシアニン、ポリフェノール、アスパラギン酸、ソルビトール、クエン酸及びグルコン酸ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく例示される。これら還元性を有する有機化合物は、特に価数が変化し易いバナジウムを還元して安定化させる。
アルミニウムレーキとしては、例えば、三栄源エフ・エフ・アイ社製「食用青色1号アルミニウムレーキ」、「食用赤色2号アルミニウムレーキ」、「食用黄色4号アルミニウムレーキ」等を用いることができる。
アントシアニンとしては、例えば、三菱化学フーズ社製「アルベリーL」(登録商標)、「テクノカラーレッドADK」、「マイスレッドA」等を用いることができる。
ポリフェノールとしては、ピロガロール、カテキン、タンニン等のポリフェノールを用いることができ、例えば、リリース科学工業社製「パンシルFG−70」、「パンシルFG−60」や、群栄化学工業社製「PL−6757」、「PL−4012」等を用いることができる。
また、イミノジ酢酸誘導体としては、イミノジ酢酸やイミノジコハク酸4ナトリウムが好ましく例示される。
イミノジコハク酸4ナトリウムとしては、例えば、ランクセス社製「BaypureCX−100」等を用いることができる。
上記で列挙したもののうち、耐食性、耐湿性及び安全性の観点から、アスコルビン酸、アントシアニン、ポリフェノールが好ましく用いられる。
【0047】
本実施形態では、金属安定化剤を2種以上併用して用いることができる。具体的には、例えば、還元性を有する有機化合物を2種併用してもよく、還元性を有する有機化合物1種とイミノジ酢酸誘導体1種とを併用してもよく、イミノジ酢酸誘導体を2種併用してもよい。
【0048】
本実施形態では、金属安定化剤の含有量は、5〜5,000質量ppmである。ここで、本明細書における金属安定化剤の含有量とは、金属安定化剤を2種以上併用して用いる場合には、その合計量を意味する。金属安定化剤の含有量がこの範囲内であれば、上述した金属安定化剤による効果が確実に発揮される。好ましくは、10〜2,000質量ppmであり、この範囲内であれば、上述した金属安定化剤による効果がより高められる。
【0049】
また、上述したように本実施形態の化成処理剤のpHは、2〜6であり、好ましくは3〜5である。pHが2以上であれば化成処理剤によるエッチング過多を起こさずに化成皮膜を形成でき、優れた耐食性及び耐湿性が得られる。またpHが6以下であれば、エッチング不足とならずに十分な皮膜量の化成皮膜を形成でき、優れた耐食性及び耐湿性が得られる。なお、化成処理剤のpHは、硫酸、硝酸、アンモニア等の一般的な酸やアルカリを用いて調整できる。
【0050】
本実施形態の化成処理剤は、防錆性を向上する目的で、マンガン、亜鉛、セリウム、3価クロム、モリブテン、マグネシウム、ストロンチウム、カルシウム、スズ、銅、鉄及び珪素化合物等の金属イオン、ホスホン酸、リン酸及び縮合リン酸等のリン化合物、並びに、アミノシラン及びエポキシシラン等の各種シランカップリング剤等の各種防錆剤を含んでいてもよい。
【0051】
また、本実施形態の化成処理剤は、アルミニウムイオンを50〜5,000質量ppm含み、遊離フッ素イオンを1〜100質量ppm含んでいてもよい。
アルミニウムイオンは、処理対象のアルミニウムからも化成処理剤中に溶出するが、それとは別に、アルミニウムイオンを積極的に添加することで化成処理反応を促進できる。また、従来よりも遊離フッ素イオン濃度を高く設定することで、より優れた耐食性を有する化成皮膜を形成できる。
上記の効果がさらに高められる観点から、アルミニウムイオンのより好ましい含有量は100〜3,000質量ppmであり、さらに好ましい含有量は200〜2,000質量ppmである。同様に、遊離フッ素イオンのより好ましい含有量は5〜80質量ppmであり、さらに好ましい含有量は15〜50質量ppmである。
アルミニウムイオンの供給源としては、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、フッ化アルミニウム、酸化アルミニウム、明礬、珪酸アルミニウム及びアルミン酸ナトリウム等のアルミン酸塩や、フルオロアルミニウム酸ナトリウム等のフルオロアルミニウム塩が挙げられる。
遊離フッ素イオンの供給源としては、フッ化水素酸、フッ化水素アンモニウム、ジルコニウムフッ化水素酸及びチタニウムフッ化水素酸等のフッ化水素酸並びにその塩;フッ化ナトリウム、フッ化ジルコニウム及びフッ化チタニウム等の金属フッ化物;フッ化アンモニウム等が挙げられる。遊離フッ素イオンの供給源としてフッ化ジルコニウムやフッ化チタニウム等を用いた場合は、これらはジルコニウムイオンやチタニウムイオンの供給源となる。
【0052】
本実施形態の化成処理の方法は特に限定されず、スプレー法や浸漬法等のいずれの方法でもよい。化成処理剤の温度は、好ましくは45〜70℃であり、より好ましくは50〜65℃である。また、化成処理の時間は、好ましくは20〜900秒であり、より好ましくは30〜600秒である。これらを満たすことにより、優れた耐食性及び耐湿性を有する化成皮膜を形成できる。
【0053】
以上のようにしてアルミニウム製熱交換器の表面に形成される本実施形態の化成皮膜では、ジルコニウム及びチタニウムの合計量は5〜300mg/mであることが好ましく、バナジウムの量は1〜150mg/mであることが好ましく、金属安定化剤の量は炭素換算で0.5〜200mg/mであることが好ましい。これらを満たすことにより、より優れた耐食性及び耐湿性が得られる。また、ジルコニウム量とチタニウム量の比率は、処理するアルミニウム製熱交換器の表面状態、特に偏析物の量等によって変動するが、これらの合計量が上記範囲内であればよい。
なお、化成皮膜中のジルコニウム量、チタニウム量及びバナジウム量は、フィンを10mm×10mm以上となるように張り合わせ、蛍光X線分析装置「XRF−1700」(島津製作所製)の測定結果から算出される。
また、化成皮膜中の金属安定化剤量は、化成皮膜中の有機炭素量として(即ち、炭素換算で)、TOC装置「TOC−VCS」(島津製作所製)の測定結果から算出される。ただし、防錆性を向上するために上記で列挙した各種防錆剤を含む場合には、金属安定化剤由来のC量は、上記TOC装置で測定されたC量から、各種防錆剤中に含まれるSi量、P量、N量等の測定値に基づいて算出されたC量を差し引くことで、算出される。
【0054】
[(b)親水化処理工程]
本実施形態の(b)親水化処理工程は、上記の(a)化成処理工程で表面に化成皮膜が形成されたアルミニウム製熱交換器を、親水性樹脂を含む親水化処理剤と接触させる工程である。
本実施形態の親水化処理剤は、水系溶媒中に親水性樹脂を含む水系溶液又は水系分散液である。好ましくは、本実施形態の親水化処理剤は、親水性樹脂に加えて、下記一般式(1)で表されるグアニジン化合物及びその塩のうち少なくとも一方を含む水系溶液又は水系分散液である。
【0055】
本実施形態の親水性樹脂としては、特に限定されないが、分子内に水酸基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基、スルホン酸基及びエーテル基のうち少なくともいずれかを有する水溶性又は水分散性の親水性樹脂であることが好ましい。また、本実施形態の親水性樹脂は、良好な親水性が得られる観点から、水滴との接触角が40°以下となるような親水化皮膜を形成できるものであることが好ましい。
具体的な親水性樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリビニルスルホン酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、キトサン、ポリエチレンオキサイド、水溶性ナイロン、これらの重合体を形成するモノマーの共重合体、2−メトキシポリエチレングリコールメタクリレート/アクリル酸2−ヒドロキシルエチル共重合体等のポリオキシエチレン鎖を有するアクリル系重合体等が好ましく用いられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
上記の親水性樹脂は、優れた親水性及び耐水性を有するとともに、それ自体の臭気が無く、臭気物質が吸着し難い特性を有する。このため、上記の親水性樹脂を含む親水化処理剤によれば、得られる親水化皮膜は親水性及び防臭性に優れ、水滴や流水に曝されても劣化し難い。また、この親水化皮膜によれば、埃臭を有するシリカ等の無機物や、臭気物質を吸着した残存モノマー成分が露出し難いため、優れた防臭性が得られる。
【0057】
本実施形態の親水性樹脂は、数平均分子量が1,000〜100万の範囲内であることが好ましい。数平均分子量が1,000以上であれば、親水性、防臭性、造膜性等の皮膜物性が良好となる。また、数平均分子量が100万以下であれば、親水化処理剤の粘度が高くなりすぎることがなく、作業性や皮膜物性が良好となる。より好ましい数平均分子量は、1万〜20万の範囲内である。なお、本明細書における数平均分子量、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定された標準ポリスチレン換算の値である。
【0058】
上記の親水性樹脂のうち、優れた親水性及び防臭性の観点から、ポリビニルアルコールが好ましく、中でも、ケン化度が90%以上のポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコールが特に好ましい。これらのうち少なくとも一方を用いることにより、優れた親水性及び防臭性が得られる。より好ましいケン化度は、95%以上である。
変性ポリビニルアルコールとしては、ペンダント基中の0.01〜20%が、下記一般式(4)で表されるポリオキシアルキレンエーテル基であるポリオキシアルキレン変性ポリビニルアルコールが挙げられる。
【化4】
[上記式(4)中、nは1〜500の整数を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、Rは水素原子又はメチル基を表す。]
【0059】
上記のポリオキシアルキレン変性ポリビニルアルコールにおいて、ポリオキシアルキレン変性基がペンダント基中の0.1〜5%であることが好ましく、ポリオキシアルキレン変性基の重合度nは、3〜30であることが好ましい。これらを満たすことにより、ポリオキシアルキレン変性基の親水性によって、良好な親水性が得られる。ポリオキシアルキレン変性ポリビニルアルコールとしては、例えばエチレンオキサイド変性ポリビニルアルコールが挙げられる。
【0060】
本実施形態では、親水化処理剤中の親水性樹脂の含有量は特に限定されないが、好ましくは親水化処理剤の固形分中10〜99質量%であり、より好ましくは30〜95質量%である。これにより、良好な親水性及び防臭性が得られる。
【0061】
本実施形態の親水化処理剤中に好ましく含有されるグアニジン化合物は、下記一般式(1)で表される。このように、グアニジン化合物は窒素を多く含むため、ジルコニウム及びチタニウムのうち少なくとも一方と、バナジウムを含有する化成皮膜に対して良好に密着する特性を有し、さらには厚みがおよそ0.1μmで薄い化成皮膜を介してアルミニウム表面に吸着し易い特性を有する。そのため、親水化処理剤中にグアニジン化合物を配合することにより、化成皮膜と親水化皮膜とでアルミニウム又はアルミニウム合金基材を被覆することができ、黒変の発生を抑制できる。即ち、本実施形態の親水化処理剤は、グアニジン化合物を配合することで、良好な耐食性を付与できるとともに優れた耐湿性を付与できる。
【0062】
また、本実施形態の好ましい態様では、例えばフラックスろう付けされたアルミニウム製熱交換器を用い、これに対してジルコニウム及びチタニウムのうち少なくとも一方とバナジウムを含有する化成処理剤で化成処理を施した後、親水性樹脂とグアニジン化合物及びその塩のうち少なくとも一方とを含む親水化処理剤で処理することにより、二段階の防錆処理が施されていることとなり、フラックスが部分的に残存する状態であっても、結果的に、アルミニウム製熱交換器の全面に対して充分な防錆効果が付与される。
また、化成皮膜がジルコニウム、チタニウム及びバナジウムの全てを含有し、親水化皮膜がグアニジン化合物を含有する場合においては、化成皮膜と親水化皮膜の密着性が特に良好となるためと推察されるが、フラックスの近傍を含め、アルミニウム又はアルミニウム合金基材の全面において耐湿性を著しく向上させる効果が見出されており、より好ましい。
【化5】
[式(1)中、Yは、−C(=NH)−(CH−、−C(=O)−NH−(CH−、又は−C(=S)−NH−(CH−を表わす。mは、0〜20の整数を表し、nは、正の整数を表わし、kは、0又は1を表わす。Xは、水素、アミノ基、水酸基、メチル基、フェニル基、クロロフェニル基又はメチルフェニル基を表わす。Zは、水素、アミノ基、水酸基、メチル基、フェニル基、クロロフェニル基、メチルフェニル基又は下記一般式(2)で表され且つ質量平均分子量が200〜100万の重合体を表す。]
【化6】
[式(2)中、pは、正の整数を表す。]
【0063】
上記のグアニジン化合物としては、例えば、グアニジン、アミノグアニジン、グアニルチオ尿素、1,3−ジフェニルグアニジン、1,3−ジ−o−トリルグアニジン、1−o−トリルビグアニド、ポリヘキサメチレンビグアニド、ポリヘキサエチレンビグアニド、ポリペンタメチレンビグアニド、ポリペンタエチレンビグアニド、ポリビニルビグアニド、ポリアリルビグアニド等が挙げられる。
また、グアニジン化合物の塩としては、上記のグアニジン化合物の、リン酸塩、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩及びグルコン酸塩等の有機酸塩が挙げられる。グアニジン化合物の塩の合計量は、グアニジン化合物及びその塩の合計量に対して、モル比で0.01〜100の範囲内であることが好ましい。これにより、良好な耐食性及び耐湿性が得られる。
【0064】
上記グアニジン化合物及びその塩は、数平均分子量が59〜100万の範囲内であることが好ましい。上記の一般式(1)に示されるように、グアニジン化合物の分子量の最小は59であり、数平均分子量が100万以下であれば水溶化が可能となり、この範囲内であれば、良好な耐食性及び耐湿性が得られる。この効果がより高められる観点から、数平均分子量の下限値は、300であることがより好ましく、500であることがさらに好ましい。一方、上限値は、10万であることがより好ましく、2万であることがさらに好ましい。
【0065】
上記グアニジン化合物及びその塩としては、優れた耐食性及び耐湿性が得られる効果を有することから、上記一般式(1)、(2)で表されるグアニジン化合物及びその塩のうち、分子中に下記一般式(3)で表されるビグアニド構造を有するグアニジン化合物及びその塩であることが好ましい。
【化7】
【0066】
上記ビグアニド構造を有するグアニジン化合物及びその塩としては、例えば、ポリヘキサメチレンビグアニド、1−o−トリルビグアニド、グルコン酸クロルヘキシジン及びその塩等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0067】
上記グアニジン化合物及びその塩の含有量の合計は、親水化処理剤の固形分に対して1〜40質量%であることが好ましい。これにより、優れた耐食性及び耐湿性が得られる。また、この効果がより高められる観点から、5〜30質量%であることがより好ましい。
【0068】
本実施形態の親水化処理剤は、リン酸、縮合リン酸、ホスホン酸及びそれらの誘導体並びにリチウムイオンからなる群より選ばれる少なくとも1種をさらに含むことが好ましい。
本実施形態の親水化処理剤は、リン酸、縮合リン酸、ホスホン酸及びそれらの誘導体といったリン系化合物を含むことにより、これらリン系化合物を含む親水化皮膜がアルミニウム表面に形成される。これにより、アルミニウム表面からアルミニウムが溶出した場合でも、溶出したアルミニウムが親水化皮膜中のリン系化合物と反応してリン酸アルミニウムを形成して不溶化することで、さらなるアルミニウムの溶出を長期間に亘って抑制でき、優れた耐食性及び耐湿性が得られる。
【0069】
上記リン系化合物としては、例えば、リン酸、ポリリン酸、トリポリリン酸、メタリン酸、ウルトラリン酸、フィチン酸、ホスフィン酸、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、ホスホノブタントリカルボン酸(以下、「PBTC」という。)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩、アクリルホスホン共重合体等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
リン系化合物の含有量は、親水化処理剤の固形分に対して0.05〜25質量%であることが好ましい。これにより、優れた耐食性及び耐湿性が得られる。また、この効果がより高められる観点から、0.1〜10質量%であることがより好ましい。
【0070】
また、本実施形態の親水化処理剤は、リチウムイオンを含むことで以下のようなメカニズムにより、優れた耐食性及び耐湿性が得られる。
即ち、特にフラックスろう付けされたアルミニウム製熱交換器を用いた場合、アルミニウム製熱交換器の表面に残存するハロゲン系フラックス中のカリウムイオン等のアルカリ金属イオンと、親水化皮膜からのリチウムイオンが例えば下記式(5)に示すイオン交換反応を行うことで、フラックス残渣と親水化皮膜との界面に難溶性の皮膜が形成される。これにより、形成された難溶性の皮膜がアルミニウム表面からのアルミニウムの溶出を抑制する結果、優れた耐食性及び耐湿性が得られる。なお、リチウムイオンは親水化皮膜中に長期間に亘って残存するため、上記の効果は長期間に亘って維持される。
【化8】
[上記式(5)中、x及びyの組み合わせは、xが1でyが4、xが2でyが5又はxが3でyが6である。]
【0071】
上記リチウムイオンの供給源としては、親水化処理剤中でリチウムイオンを生成し得るリチウム化合物であれば特に限定されず、例えば、水酸化リチウム、硫酸リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、クエン酸リチウム、乳酸リチウム、リン酸リチウム、シュウ酸リチウム、珪酸リチウム、メタ珪酸リチウム等が挙げられる。中でも、臭気に対する影響が少ない観点から、水酸化リチウム、硫酸リチウム、炭酸リチウムが好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
リチウムイオンの含有量は、親水化処理剤の固形分に対して金属換算で0.01〜25質量%であることが好ましい。これにより、優れた耐食性及び耐湿性が得られる。また、この効果がより高められる観点から、0.05〜5質量%であることがより好ましい。
【0072】
本実施形態の親水化処理剤は、親水化皮膜の耐水性を向上させる観点から、必要に応じて架橋剤を含んでもよい。架橋剤としては、ポリビニルアルコールや変性ポリビニルアルコールの水酸基と反応する無機架橋剤や有機架橋剤を用いることができる。
無機架橋剤としては、二酸化珪素等のシリカ化合物、ジルコンフッ化アンモニウムやジルコン炭酸アンモニウム等のジルコニウム化合物、チタンキレート等の金属キレート化合物、Ca、Al、Mg、Fe、Zn等の金属塩等が挙げられる。これら無機架橋剤は、耐水性の向上の他、親水化皮膜の表面に微小の凹凸を形成して水の接触角を低下させる効果もある。
有機架橋剤としては、メラミン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ化合物、ブロック化イソシアネート化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これら架橋剤の含有量は、親水化処理剤の固形分に対して0.1〜50質量%であることが好ましい。これにより、優れた耐水性が得られる。また、この効果がより高められる観点から、0.5〜30質量%であることがより好ましい。
【0073】
本実施形態の親水化処理剤は、任意成分として、分散剤、防錆剤、顔料、シランカップリング剤、抗菌剤(防腐剤)、潤滑剤、消臭剤等を含んでもよい。
分散剤としては特に限定されず、各種界面活性剤や分散樹脂が挙げられる。
防錆剤としては特に限定されず、例えば、タンニン酸、イミダゾール化合物、トリアジン化合物、トリアゾール化合物、ヒドラジン化合物、ジルコニウム化合物等が挙げられる。中でも、優れた耐食性及び耐湿性が得られる観点から、ジルコニウム化合物が好ましい。ジルコニウム化合物としては特に限定されず、例えば、KZrF等のアルカリ金属フルオロジルコネート、(NHZrF等のフルオロジルコネート等の可溶性フルオロジルコネート、HZrF等のフルオロジルコン酸、フッ化ジルコニウム、酸化ジルコニウム等が挙げられる。
顔料としては特に限定されず、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、カオリンクレー、カーボンブラック、酸化鉄(Fe、Fe等)等の無機顔料の他、有機顔料等の各種着色顔料等が挙げられる。
シランカップリング剤は、親水性樹脂と上記顔料の親和性を高め、両者の密着性を向上させることができる。シランカップリング剤としては特に限定されず、例えば、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−[2−(ビニルベンジルアミノ)エチル]−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。シランカップリング剤は、縮合物又は重合物でもよい。
抗菌剤(防腐剤)としては特に限定されず、例えば、2−(4−チアゾリル)ベンズイミダゾール、ジンクピリチオン、ベンゾイソチアゾリン等が挙げられる。
上記任意成分の含有量は、親水化処理剤の固形分に対して合計で0.01〜50質量%であることが好ましい。これにより、親水化処理剤の効果を阻害することなくそれぞれの効果が発揮される。各効果がより高められる観点から、0.1〜30質量%であることがより好ましい。
【0074】
親水化処理剤の溶媒としては特に限定されないが、廃液処理等の観点から水を主体とする水系溶媒が好ましい。また、造膜性を向上させ、より均一で平滑な皮膜を形成できる観点から、有機溶剤を併用してもよい。有機溶剤としては、塗料等に一般的に用いられ、水を均一に混合するものであれば特に限定されず、例えばアルコール系、ケトン系、エステル系、エーテル系の有機溶剤が挙げられる。これら有機溶剤の含有量は、親水化処理剤中に0.01〜5質量%であることが好ましい。
また、本実施形態の親水化処理剤は、安定性向上の観点から、pH調整剤を含んでもよい。pH調整剤としては、硫酸、硝酸、アンモニア等の一般的な酸やアルカリが挙げられる。
本実施形態の親水化処理剤は、作業性、形成される親水化皮膜の均一性や厚さ、経済性等の観点から、その固形分濃度が1〜11質量%であることが好ましく、2〜5質量%であることがより好ましい。
【0075】
本実施形態の(b)親水化処理工程では、親水化処理に先立って、(a)化成処理工程で化成処理されたアルミニウム製熱交換器を従来公知の方法で水洗処理することが好ましい。
また、上述した構成を備える親水化処理剤を、表面に化成皮膜が形成されたアルミニウム製熱交換器に接触させる方法としては、浸漬法、スプレー法、塗布法等が挙げられる、中でも、アルミニウム製熱交換器の複雑な構造を考慮すると、浸漬法が好ましい。浸漬時間は、通常、室温で10秒間程度とすることが好ましい。浸漬後、エアブローによりウェット皮膜量を調整することで、親水化皮膜量を制御できる。
【0076】
[(c)焼き付け工程]
本実施形態の(c)焼き付け工程は、上述の(b)親水化処理工程で親水化処理されたアルミニウム製熱交換器を焼き付け処理することで、その表面に親水化皮膜を形成する工程である。
焼き付け温度は、アルミニウム製熱交換器自体の温度が140〜160℃となる焼き付け温度であることが好ましく、焼き付け時間は、2〜120分であることが好ましい。これにより、親水化皮膜を確実に形成することができる。
本実施形態の(c)焼き付け工程で形成される親水化皮膜の皮膜量は、0.05〜5g/mであることが好ましい。親水化皮膜の皮膜量がこの範囲内であれば、優れた耐食性及び耐湿性が得られるとともに、優れた耐水性及び防臭性が得られる。なお、親水化皮膜の皮膜量は、標準皮膜サンプルの親水化皮膜量とこれに含まれる有機炭素量の関係から算出した換算係数を用いて、TOC装置「TOC−VCS」(島津製作所製)の測定結果から算出できる。
【0077】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例】
【0078】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特に断りがない限り、部、%及びppmは、全て質量基準である。
【0079】
<実施例、参考例1〜38及び比較例1〜6>
[化成処理剤の調製]
従来公知の調製方法に従って、ジルコニウム、チタニウム、バナジウム及び金属安定化剤の含有量並びにpHが、表1〜表3に示す通りとなるように各成分を配合して混合することにより、化成処理剤を調製した。なお、ジルコニウム供給源としてはフルオロジルコニウム酸を用い、チタニウム供給源としてはフルオロチタン酸を用い、バナジウム供給源としては硫酸バナジルを用いた。表1〜表3中の各濃度は、配合から計算されたものである。
【0080】
[親水化処理剤の調製]
従来公知の調製方法に従って、親水性樹脂、上記の一般式(1)で表されるグアニジン化合物、リン系化合物、リチウムイオン及び添加剤の含有量が、表1〜表3に示す通りとなるように各成分を配合して混合し、溶媒として水を用いて固形分濃度2.5%の親水化処理剤を調製した。ただし、実施例13においてのみ、固形分濃度5%の親水化処理剤を調製した。
【0081】
[試験熱交換器の作製]
実施例、参考例1〜33及び比較例1〜6では、熱交換器として、ノコロックろう付け法によりKAlF及びKAlFのフラックスでろう付けされた自動車エアコン用のアルミニウム製熱交換器(NB熱交換器)を用いた。また、実施例、参考例34〜38では、真空ろう付け法によりろう付けされた自動車エアコン用のアルミニウム製熱交換器(VB熱交換器)を用いた。NB熱交換器のフィン表面におけるフラックス量は、カリウムとして50mg/mであった。
これらの熱交換器を、硫酸1%と、KAlF及びKAlFのフラックス0.4%を含む酸浴中に、40℃にて20秒間浸漬して酸洗浄を実施した。
酸洗浄後、熱交換器を、上述のようにして調製した化成処理剤中に50℃にて60秒間浸漬することで、化成処理を実施した。
化成処理後、熱交換器を30秒間水洗した後、上述のようにして調製した親水化処理剤中に室温で10秒間浸漬した。浸漬後、エアブローによりウェット皮膜量を調整した。
次いで、乾燥炉にて、熱交換器自体の温度が150℃となる焼き付け温度で5分間焼付け処理を実施することで、試験用熱交換器を作製した。
【0082】
<評価>
各実施例、参考例及び比較例で作製した試験用熱交換器について、以下に示す物性評価を行った。
[耐食性(耐白錆性)]
各実施例、参考例及び比較例で作製した試験用熱交換器について、JIS Z 2371に基づいた耐食性(耐白錆性)の評価を実施した。具体的には、各実施例、参考例及び比較例で作製した試験用熱交換器に対して、5%食塩水を35℃にて噴霧した後、2,000時間経過後の白錆発生部の面積を、下記の評価基準に従って目視で評価した。評価者は2人とし、2人の評価の平均値に基づいて、耐食性を評価した。
(評価基準)
10:白錆発生無し。
9:白錆は見られたが、白錆発生部の面積が10%未満。
8:白錆発生部の面積が10%以上20%未満。
7:白錆発生部の面積が20%以上30%未満。
6:白錆発生部の面積が30%以上40%未満。
5:白錆発生部の面積が40%以上50%未満。
4:白錆発生部の面積が50%以上60%未満。
3:白錆発生部の面積が60%以上70%未満。
2:白錆発生部の面積が70%以上80%未満。
1:白錆発生部の面積が80%以上90%未満。
【0083】
[耐湿性(耐黒変性)]
各実施例、参考例及び比較例で作製した試験用熱交換器に対して、温度70℃、湿度98%以上の雰囲気下で3,000時間の耐湿試験を実施した。試験後の黒変発生部の面積を、上記耐食性の評価基準に準じて目視で評価した。評価者は2人とし、2人の評価の平均値に基づいて、耐湿性を評価した。
【0084】
[親水性]
各実施例、参考例及び比較例で作製した試験用熱交換器を、流水に72時間接触させた後、水滴との接触角を測定した。接触角の測定は、自動接触角計「CA−Z」(協和界面化学社製)を用いて実施した。接触角が小さいほど親水性は高く、接触角が40°以下であれば、親水性が良好であると評価される。
【0085】
[臭気]
各実施例、参考例及び比較例で作製した試験用熱交換器を、水道水の流水に72時間接触させた後、その臭気を下記の評価基準で評価した。評価者は2人とし、2人の評価の平均値に基づいて、臭気を評価した。臭気が1.5以下であれば、防臭性が良好であると評価される。
(評価基準)
0:無臭。
1:微かに臭いを感じる。
2:楽に臭いを感じる。
3:明らかに臭いを感じる。
4:強い臭いを感じる。
5:非常に強い臭いを感じる。
【0086】
[皮膜量]
各実施例、参考例及び比較例で作製した試験用熱交換器の表面に形成された化成皮膜中のジルコニウム量、チタニウム量及びバナジウム量は、フィンを10mm×10mm以上となるように張り合わせ、蛍光X線分析装置「XRF−1700」(島津製作所製)の測定結果から算出した。
また化成皮膜中の金属安定化剤量は、化成皮膜中の有機炭素量として(即ち、炭素換算で)、TOC装置「TOC−VCS」(島津製作所製)の測定結果から算出した。
各実施例、参考例及び比較例で作製した試験用熱交換器の表面に形成された親水化皮膜の皮膜量は、標準皮膜サンプルの親水化皮膜量とこれに含まれる有機炭素量の関係から算出した換算係数を用いて、TOC装置「TOC−VCS」(島津製作所製)の測定結果から算出した。
【0087】
各実施例、参考例及び比較例で調製した化成処理剤及び親水化処理剤の組成と、各実施例、参考例及び比較例で作製した試験用熱交換器の評価結果をまとめて表1〜表3に示した。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
表1〜表3における各成分の詳細は、次の通りである。
(1)化成処理剤において、Zr濃度は、化成処理剤中のジルコニウム含有量(各種イオンの金属元素換算濃度)を表し、Ti濃度は、化成処理剤中のチタニウム含有量(各種イオンの金属元素換算濃度)を表し、V濃度は、化成処理剤中のバナジウム含有量(各種イオンの金属元素換算濃度)を表す。
(2)化成処理剤中の金属安定化剤の濃度は、化成処理剤に対する金属安定化剤の含有量である。
【0092】
(3)金属安定化剤のアルベリーLは、アントシアニンである。
(4)金属安定化剤のパンシルFG−70は、カテキンである。
(5)金属安定化剤のPL−6757は、ポリフェノールである。
(6)金属安定化剤のBaypure CX−100は、イミノジコハク酸4ナトリウムである。
【0093】
(7)親水化処理剤中の各成分の固形分%は、親水化処理剤の固形分に対する各成分の含有量を表す。
(8)ポリビニルアルコールのケン化度は99%であり、その数平均分子量は60,000である。
(9)エチレンオキサイド変性ポリビニルアルコールのケン化度は99%であり、その数平均分子量は20,000であり、ポリオキシエチレン基の含有割合(ポリビニルアルコールの全ペンダント基に対する割合)は3%である。
【0094】
(10)カルボキシメチルセルロースの数平均分子量は、10,000である。
(11)ポリビニルスルホン酸ナトリウムの数平均分子量は、20,000である。
(12)ポリアクリル酸の数平均分子量は、20,000である。
(13)キトサンの重量平均分子量は430,000である。なお、キトサンはクエン酸で溶解する必要があるため、キトサンを用いる場合にはクエン酸も同時に含まれることとなる。
(14)縮合リン酸は、トリポリリン酸である。
(15)PBTCは、ホスホノブタントリカルボン酸を表す。
(16)フェノール樹脂は、レゾール型フェノール樹脂からなる有機架橋剤であり、その数平均分子量は300である。
【0095】
表1〜表3に示した通り、実施例、参考例1〜38いずれも、比較例1〜5と比べて耐食性及び耐湿性に優れており、また、比較例6と比べても耐湿性に優れているうえ、親水性及び臭気(防臭性)も遜色無く良好であることが分かった。この結果から、NB熱交換器及びVB熱交換器を、ジルコニウム及びチタニウムのうち少なくとも一方を含み且つその含有量が合計で5〜5,000質量ppm、バナジウムを含み且つその含有量が10〜1,000質量ppm、金属安定化剤を含み且つその含有量が5〜5,000質量ppm、並びに、pHが2〜6である化成処理剤で化成処理して化成皮膜を形成した後、親水性樹脂を含む親水化処理剤と接触させ、焼き付けて親水化皮膜を形成することにより、従来よりも優れた耐食性及び耐湿性が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明のアルミニウム製熱交換器の表面処理方法によれば、フィン等の表面にフラックスが残存する熱交換器に対しても優れた耐食性及び耐湿性を付与できるため、本発明の表面処理方法は、自動車エアコン用のアルミニウム製熱交換器の表面処理に好ましく適用される。