【実施例】
【0053】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。なお、特に記載しない限り「部」は質量部を、「%」は質量%を意味する。
【0054】
[実施例1]
各種重合度のポリ酢酸ビニル/酢酸ビニルモノマー/メタノールの組成比を0〜80%/5〜100%/0〜80%と変えて各種濃度の溶液を調整して、4600〜12000cm
−1のスペクトル領域で近赤外分光分析を行い多変量解析で検量線を作成した。
【0055】
[比較例1]
各種重合度のポリ酢酸ビニル/酢酸ビニルモノマー/メタノールの組成比を0〜80%/5〜100%/0〜80%と変えて各種濃度の溶液を調整して、4000〜12000cm
−1のスペクトル領域で近赤外分光分析を行い多変量解析で検量線を作成した。
【0056】
[試験例1]
これらの検量線の各精度を比較するために、検量線に使用していない各種濃度に調整したポリマー溶液(未知試料)でテストバリデーションを行い、酢酸ビニルモノマー量(VAc)及びポリ酢酸ビニル量(PVAc)をそれぞれの検量線から導き出した結果と相関、偏差を調べた。その結果を
図1及び
図2に示す。
【0057】
実施例1として4600〜12000cm
−1のスペクトル領域で作成した検量線では、酢酸ビニルモノマー量(VAc:NIR1)及びポリ酢酸ビニル量(PVAc:NIR3)ともに相関係数及び標準偏差は R2=0.999 σ=0.5、R2=0.998 σ=0.5と極めて良い分析精度を示した。
一方、比較例1として4000〜12000cm
−1のスペクトル領域で作成した検量線では、酢酸ビニルモノマー量(VAc:NIR2)及びポリ酢酸ビニル量(PVAc:NIR4)ともに相関係数及び標準偏差は、R2=0.962 σ=3.4、R2=0.927 σ=3.0と分析精度はあまり良くなかった。
【0058】
近赤外吸収スペクトルの吸収波形で確認すると、4600cm
−1未満では明らかに温度の影響を受けており、相関が悪い原因と考えられる。
【0059】
[実施例2]
攪拌機、温度計、還流冷却器を備えた重合反応容器中に、各種配合組成で酢酸ビニル/メタノールを仕込み、重合開始剤としてt−ヘキシルパーオキシネオデカネート(日本油脂社製、商品名パーヘキシルND)を仕込み、重合反応収率を変えて溶液重合を行い、酢酸ビニル(VAc)/ポリ酢酸ビニル(PVAc)の各種組成ポリマー溶液を調整した。
このポリマー溶液の実測濃度と実施例1の方法で得られた近赤外分光分析の検量線から算出したNIR組成の相関を調べた。なお、酢酸ビニルの実測濃度は臭素による滴定法を用いて測定し、ポリ酢酸ビニルの実測濃度は乾燥して固形分測定で濃度分析を行った。
【0060】
その結果、各種重合配合の組成で近赤外線吸収スペクトル測定によって概ね良好な相関が確認され、重合収率を測定することが可能であることを確認した(
図3)。
【0061】
[実施例3]
攪拌機、温度計、還流冷却器を備えた重合反応容器中に、酢酸ビニル820部及びメタノール180部を仕込み、重合開始剤としてt−ヘキシルパーオキシネオデカネート0.05部を数回に分けて仕込み、窒素雰囲気下、液温60℃で約3時間の溶液重合反応を複数回繰返して実施した。
【0062】
なお、この重合反応容器の底部には、近赤外吸収スペクトル透過測定用の検出部を直接挿入して設置しておき、重合反応中の重合反応率の変化を経時的に測定した。なお、検出部は、光路長5mmのプローブで50m長の光ケーブルを介して近赤外分光分析装置に接続した。
【0063】
近赤外スペクトルの測定条件は、測定波長:4600〜12000cm
−1、分解能:8cm−1、積算回数:64回(約1分間)の測定で近赤外スペクトルデータを連続測定した。この測定データは、多変量解析を備えた演算装置で処理して実施例1で作成した検量線によって酢酸ビニルモノマー濃度(VAc)とポリ酢酸ビニル濃度(PVAc)に変換した。
【0064】
この重合反応中のVAc濃度、PVAc濃度の変化を
図4に示す。
重合反応により得られた酢酸ビニルの重合反応率を濃度測定によって分析したところ、45〜48%で近赤外分光分析から算定した測定値とよく一致した。
【0065】
また、従来は、重合反応の進み方は、還流量や重合機の攪拌機のモーター負荷等から間接的に推定するしか無く、重合完了後に濃度測定等を行って初めて重合収率が分かるだけであったが、近赤外分光分析装置の検出部を重合機に挿入することで、
図4に示すとおりリアルタイムで重合状態を観察できるようになった。これによって、目標とする重合収率で重合反応を停止することが可能になっただけではなく、重合触媒の添加速度を適正に調整することも可能になった。
【0066】
[実施例4]
実施例3で得られたそれぞれの重合反応溶液中にメタノール蒸気を吹き込んで未反応の酢酸ビニルを除去した後、メタノールにて希釈し濃度25%のポリ酢酸ビニルのメタノール溶液を調整した。このメタノール溶液600部と、鹸化触媒として濃度1.5%の苛性ソーダを含むメタノール溶液75部を45℃に保温したニーダー型混合機に入れて30分間連続攪拌して鹸化反応させ、これを粉砕してスラリー状にした。このスラリーに酢酸を添加し、中和することで鹸化反応を停止した。
【0067】
中和したスラリーは、固液を分離して固形分を乾燥し、製品としての重合バッチ毎のPVA(鹸化度=87.6〜88.5mol%、4%水溶液粘度(20℃)=43〜48mPa・s)を得た。
【0068】
重合反応により得られた酢酸ビニルの重合反応率は45〜48%で、重合反応溶液を実験室で脱モノマー、鹸化、乾燥、精製してPVAを作製し、このPVAを1%水溶液に溶解調整して極限粘度を測定することで粘度換算重合度式で「重合度」に換算した結果、重合度=2400〜2600のポリマーであることを確認した。
【0069】
この重合仕込配合組成等重合条件一定の条件での、重合収率と得られたPVAの4%水溶液粘度(20℃)の相関関係を
図5に示す。
【0070】
一定の配合条件(VAc/メタノール/触媒量)で重合反応を行い、各重合収率で停止したポリマーを鹸化して得られるPVAの4%水溶液粘度は、近赤外分光分析から算出した重合収率(NIR)と極めて高い相関を示し、PVAの重要な物性の指標である4%水溶液粘度の制御が容易かつ精度良く出来ることが確認された。
なお、4%水溶液粘度は、JIS K 6726−1994に従って20℃で測定したものである。
【0071】
一方、濃度分析から得られた重合収率(手分析)と4%水溶液粘度には殆ど相関が得られなかった。この理由は、重合反応後のポリマー溶液は極めて粘調な高粘度溶液であり、サンプリング時に温度が高く溶剤が揮発したりするためであり、近赤外分光分析の場合には、検出部が重合容器内にあるためにサンプリングによるバラつきが起こり難いために分析の精度が極めて高いためであると考えられる。
【0072】
[比較例2]
実施例3同様の方法で、酢酸ビニル/メタノールの重合配合量を変化させて、重合度=1700〜2700のポリマーを複数回重合し、脱モノマー、鹸化、分離乾燥して重合バッチ毎に下記の3品種のPVAを得た。(鹸化度=87.8〜88.2mol%)
品種A:4%水溶液粘度(20℃)の規格範囲=22〜28mPa・s
品種B:4%水溶液粘度(20℃)の規格範囲=31〜33mPa・s
品種C:4%水溶液粘度(20℃)の規格範囲=40〜48mPa・s
【0073】
重合反応で得られたポリマー溶液を使用して、実験室で脱モノマー、鹸化、精製、乾燥して、水溶液の極限粘度を調べて重合度を測定した。また、得られたPVAの4%水溶液粘度(20℃)を測定して、重合バッチ毎のPVAの重合度と4%水溶液粘度の関係を調べた(
図6)。
【0074】
従来、重合度を4%水溶液粘度の指標にしていたが、この方法では、広い範囲での相関関係は得られるが、品種毎の4%水溶液粘度を制御出来るほどの相関が無いことが確認された。
【0075】
[実施例5]
攪拌機、温度計、還流冷却器を備えた重合反応容器中に、酢酸ビニル/マレイン酸エステル/アルキルビニルエーテル/エタノール(400部/230部/200部/170部)を仕込み、重合開始剤として2−2’アゾビス(2,4−ジメチルバレトニトリル)(日本ヒドラジン工業製 ABN−V)を連続的に仕込み、実施例3と同様の方法で近赤外線吸収スペクトルから重合反応による各単量体の反応による減少を連続測定した(
図7)。
【0076】
その結果、重合開始から60分程度でマレイン酸エステルが反応し尽くして無くなっていることが判明した。この結果から、マレイン酸エステルを重合反応中に連続添加することでポリマーに均一に導入することが出来た。
また、
図7から重合反応70分以降で急速に全ての単量体の反応速度が低下していることが判明した。そのため、重合触媒の添加速度を制御することで70分以降の反応速度が低下しないように調整することが出来た(
図8)。
【0077】
従来は、重合反応中の単量体組成や反応速度を連続的に測定する方法が無かった。
このように、本発明を用いて、重合反応中の近赤外吸光分析によって各単量体の反応状態を測定して、ポリマーの構造を均一且つ安定に生産する処方に調整することが可能になった。