特許第6105981号(P6105981)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6105981ビニルエステル共重合体の分析方法及び製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6105981
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】ビニルエステル共重合体の分析方法及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/359 20140101AFI20170316BHJP
   C08F 218/04 20060101ALI20170316BHJP
   C08F 216/06 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
   G01N21/359
   C08F218/04
   C08F216/06
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-48369(P2013-48369)
(22)【出願日】2013年3月11日
(65)【公開番号】特開2014-174056(P2014-174056A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2015年10月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】594146788
【氏名又は名称】日本酢ビ・ポバール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】植野 剛市
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏明
(72)【発明者】
【氏名】木村 佳弘
【審査官】 横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−028233(JP,A)
【文献】 特開平01−113637(JP,A)
【文献】 特開2000−159897(JP,A)
【文献】 特開平06−220162(JP,A)
【文献】 特開平09−124708(JP,A)
【文献】 特開2000−105231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N21/00−21/61
C08C19/00
C08F6/00−246/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルエステル又はポリビニルエステルの鹸化物を製造する工程において、重合反応の各単量体の重合収率を、多変量解析装置を備えた近赤外分光分析装置を用いて測定することを特徴とする分析方法であって、近赤外線吸収スペクトルを測定波長4600cm−1以上で測定する分析方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法によって、重合収率及び共重合組成率を一定にすることを特徴とする、ポリビニルエステル又はポリビニルエステルの鹸化物の製造方法。
【請求項3】
近赤外分光分析装置の検出部を重合反応装置に挿入し、重合状態を観察することを特徴とする請求項記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法によって、近赤外分光分析を行う工程を有することを特徴とするポリビニルエステルの鹸化物の4%水溶液粘度の制御方法。
【請求項5】
ポリビニルエステルが、ビニルエステルの1種以上を重合若しくは共重合して得られるポリビニルエステル、又はビニルエステルと共重合可能なビニルエステル以外の単量体の1種以上とビニルエステルの1種以上とを共重合して得られるポリビニルエステルである請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニルエステル共重合体又はその鹸化物、特にポリビニルアルコールの製造方法に関する。より詳しくは、多変量解析装置を装備した近赤外分光分析装置を用いる分析方法及び製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビニルエステル共重合体は、酢酸ビニル系エマルジョン等の接着剤や紙加工用の表面サイズ剤等に使用される樹脂であり、エチレン酢酸ビニル共重合体やその鹸化物のエチレンビニルアルコールは酸素バリア性のあるフィルムや食品容器等に使用されている。
【0003】
また、ビニルエステル共重合体の鹸化物の代表であるポリビニルアルコール(以下、PVAと略す)及び各種単量体を共重合した変性ポリビニルアルコールは、ビニロン繊維、フィルム、成形品、接着剤等の原料用をはじめ、繊維加工剤、紙加工剤、乳化分散剤、塩ビ重合用懸濁剤等として工業的に広い分野で使用されている代表的な高分子である。
【0004】
更に、PVAを原料として製造されるブチラール樹脂は、インキや塗料、セラミックス等のバインダーや自動車フロントガラスの中間膜等として世界中で大量に使用されている。
【0005】
PVAは、種々の重合方式(溶液、塊状、懸濁、乳化重合等)によりビニルエステルを重合して得られるビニルエステル共重合体を鹸化して得ることができる。工業的に主として実施されているPVAの製造方法は、例えば、以下の方法が挙げられる。
【0006】
まず、酢酸ビニル又は酢酸ビニルと各種単量体を、メタノール等の低級アルコール溶媒中でラジカル重合開始剤を用いて溶液重合し、ポリ酢酸ビニル共重合体の重合反応溶液を得る。得られた重合反応溶液を、メタノール等の低級アルコールの蒸気と接触させて未反応の酢酸ビニルや単量体を除去する。次いで、このモノマーを除去(脱モノマー)した重合反応溶液に苛性ソーダ等の鹸化触媒を添加混合して、得られたスラリー状の鹸化物を中和・分離濾過・加熱乾燥することで粉粒状のPVAが得られる。
【0007】
ビニルエステル共重合体やPVAの製造に際しては、各反応工程ごとに材料配合量、温度、反応時間を制御する方法がとられているが、計量精度、反応装置内の均質性等の影響を受けて反応状態が変動し、得られるポリマーの品質にばらつきが発生する。
【0008】
ビニルエステル共重合体やPVAの重要な物性指標は、各単量体の共重合組成比率と重合度若しくは水溶性を有するPVAの場合には4%水溶液粘度である。
【0009】
これらの制御のためには、重合反応中の各単量体の重合収率及び分子量を測定する必要がある。しかしながら、従来は重合反応中の重合収率や分子量を直接測定することは出来なかったために、重合攪拌機モーターの負荷電流値の変化や反応熱で発生する還流流量、重合反応機内の温度等の間接的な指標で重合収率や重合度を制御していた。
【0010】
重合収率や重合度は、バッチ重合の場合には各重合反応終了後の測定、連続重合の場合には、定期的に測定を行っている。
【0011】
しかしながら、ビニルエステル共重合体は高粘度で且つ高濃度なために重合反応容器から均一な組成でサンプリングすることが難しく、また、サンプリングから濃度測定するまでのごく短時間の間にも重合反応は進行するために分析の誤差が大きくなり易く、精度良く分析することが困難であった。
【0012】
また、PVAの4%水溶液粘度の制御のために重合度分析を行うが、重合度分析のためには、重合工程で得られたビニルエステル共重合体のポリマーサンプルを脱モノマーして鹸化し、分離、洗浄、乾燥することで、PVAを合成してそのPVAを1%水溶液に溶解調整してから極限粘度を測定分析し、JIS K6726記載の粘度換算式より重合度を計算するという分析方法のために、極めて煩雑な操作と数時間という長時間の測定時間を要する分析である。
【0013】
従って、重合反応途中での重合収率や重合度を知ることは現実的には出来ず、重合反応後の分析においても精度良く迅速な測定は出来ておらず、特に水溶性を有するPVAの4%水溶液粘度の制御は極めて難しいものであった。
【0014】
特に2種類以上のビニルエステルと単量体を共重合する場合には、各単量体の重合反応をリアルタイムに制御することが必要であるが、現実には反応後の組成や間接的な指標での制御しか出来ていなかった。
【0015】
サンプリングから解析までの時間を短縮するために、近赤外分光分析装置を用いた製造方法が知られている。
【0016】
特許文献1では、ポリエステルのエステル化工程及び重縮合反応を近赤外分光分析装置で分析制御する方法が記載されている。
【0017】
また、特許文献2では、近赤外分光分析装置を用いてPVAの鹸化度の制御を行う製造方法が開示されている。
【0018】
さらに、特許文献3では、エポキシ樹脂とビスフェノールとの反応を近赤外分光分析で制御する樹脂の製造方法が記載されている。また、特許文献4では、ポリアミドの溶融重合を近赤外分光分析で制御する製造方法が記載されている。
【0019】
このようにポリエステル、ポリアミド、エポキシ等の重合反応、PVAの鹸化反応を制御する製造方法に関して諸物性値を近赤外分光分析装置を利用して測定し、得られた測定値を用いて反応条件を制御する方法がそれぞれ提案されている。
【0020】
しかしながら、いずれの公報においても近赤外分光分析装置を用いてビニルエステル共重合体やビニルエステル共重合体の鹸化物を製造する場合の各単量体の重合収率の測定や重合条件の制御、さらには重合で得られたポリマーの物性値等を制御する方法については何ら記述がされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開平10−182802号公報
【特許文献2】特開2006−28233号公報
【特許文献3】特開平6−220162号公報
【特許文献4】特開2002−194079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は、このような背景技術に鑑みてなされたものであり、ビニルエステル共重合体の重合収率の分析をリアルタイムに行い、重合度及び4%水溶液粘度の解析までの時間を大幅に短縮するとともに、品質の安定化が図れるビニルエステル共重合体やビニルエステル共重合体の鹸化物の製造方法を提供することを目的とする。
【0023】
特に、2種類以上のビニルエステルを共重合する場合に、それぞれの重合反応率は異なるために、各ビニルエステルの添加速度や重合触媒量の調整を行う必要がある。しかしながら、重合反応中の各単量体の反応率を測定することは極めて難しかった。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、重合反応中の反応物の近赤外線吸収スペクトルを、多変量解析装置を装備した近赤外分光分析装置を用いることで、重合反応中の各単量体の重合収率を直接観察して、重合度及び4%水溶液粘度を推定する方法を見出した。
また、この測定方法を利用して、重合に供する各単量体及び重合触媒量の添加速度を制御することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0025】
すなわち、本発明は以下の発明に関する。
[1]ビニルエステル共重合体又はビニルエステル共重合体の鹸化物を製造する工程において、重合反応の各単量体の重合収率を、多変量解析装置を備えた近赤外分光分析装置を用いて測定することを特徴とする分析方法。
[2]近赤外分光分析装置において、近赤外収スペクトルの測定は4600cm−1以上で行うことを特徴とする前記[1]記載の分析方法。
[3]前記[1]又は[2]に記載の方法によって、重合収率及び共重合組成率を一定にすることを特徴とする、ビニルエステル共重合体又はビニルエステル共重合体の鹸化物の製造方法。
[4]近赤外収スペクトルの測定は4600cm−1以上で行うことを特徴とする前記[3]記載の製造方法。
[5]近赤外分光分析装置の検出部を重合反応装置に挿入し、重合状態を観察することを特徴とする前記[3]又は[4]に記載の製造方法。
[6]前記[1]又は[2]に記載の方法によって、近赤外分光分析を行う工程を有することを特徴とするビニルエステル共重合体の鹸化物の4%水溶液粘度の制御方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明のビニルエステル共重合体やビニルエステル共重合体の鹸化物の製造方法によれば、重合反応工程での重合組成物のサンプリングから重合収率や重合度、4%水溶液粘度の解析までの時間を短縮できるとともに、各単量体の配合率や重合触媒量、重合時間をリアルタイムに制御できるので、得られるビニルエステル共重合体やビニルエステル共重合体の鹸化物の品質並びに製造工程の安定化及びポリマーの品質の安定化を図ることができる。
特に、2種以上のビニルエステルを共重合する場合に、それぞれの共重合性は異なるために、各ビニルエステルの添加速度を調整する必要がある。しかし、重合反応中の各単量体の反応率をリアルタイムに測定することは極めて難しい。
【0027】
本発明を利用することで重合反応中での各単量体の反応率を経時的に測定することが出来るために、各単量体の添加速度や重合触媒の添加速度を調整することが可能となり、ホモポリマー等の副生成物を少なくすることで均質な共重合組成を持つビニルエステル共重合体やビニルエステル共重合体の鹸化物を安定して得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、実施例1の検量線の精度比較結果(VAcテストバリデーション)を示す。
図2図2は、比較例1の検量線の精度比較結果(PVAcテストバリデーション)を示す。
図3図3は、実測組成とNIR組成の相関を示す。
図4図4は、実施例3の重合反応中のPVAc,VAc濃度の変化を示す。
図5図5は、実施例4の重合収率と4%水溶液粘度(VAc/メタノール=82/18触媒量一定)を示す。
図6図6は、比較例2の重合度と4%水溶液粘度の関係を示す。
図7図7は、実施例5の重合反応の連続測定を示す。
図8図8は、実施例5の重合反応の連続測定を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、1種以上の(i)各種ビニルエステル又は(ii)各種ビニルエステルと共重合可能なビニルエステル以外の単量体の1種以上とを重合反応させてビニルエステル共重合体を得る場合、又は得られたビニルエステル共重合体を更に鹸化反応によってPVAやビニルアルコール−ビニルエステル共重合体を製造する工程において、重合反応の重合収率を、多変量解析装置を備えた近赤外分光分析装置を用いて測定する方法に関する。また、本発明は、その測定値を利用して重合収率、共重合組成率、重合度及び4%水溶液粘度等を一定にする製造方法に関するものである。
【0030】
本発明に用いられるポリビニルエステルは、ビニルエステルの1種以上を重合若しくは共重合して得られるポリビニルエステル、又はビニルエステルと共重合可能なビニルエステル以外の単量体の1種以上とビニルエステルの1種以上とを共重合して得られるポリビニルエステルが挙げられる。
【0031】
ビニルエステルとしては、特に限定されず、例えば、酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、モノククロ酢酸ビニル等が挙げられ、工業的には酢酸ビニルが一般的に使用される。
【0032】
ビニルエステルと共重合可能なビニルエステル以外の単量体としては、例えば、α−オレフィン類〔エチレン、プロピレン等〕、(メタ)アクリル酸アルキルエステル類〔(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等〕、不飽和アミド類〔(メタ)アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等〕、不飽和酸類〔(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等〕、不飽和酸のアルキル(メチル、エチル、プロピル等)エステル、不飽和酸の無水物〔無水マレイン酸等〕、不飽和酸の塩〔ナトリウム、カリウム、アンモニウム等〕、グリシジル基含有単量体〔アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート等〕、スルホン酸基含有単量体〔2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、その塩類等〕、リン酸基含有単量体〔アシッドホスホオキシエチルメタアクリレート、アシッドホスホオキシプロピルメタアクリレート等〕アルキルビニルエーテル類等が挙げられるが、特にこれ等に限定されるものではない。また、アセトアルデヒド等のアルデヒド類をビニルエステル重合中に共存させることで共重合体中にカルボニル基を導入するような既知の変性方法を利用することも可能である。
【0033】
重合又は共重合に使用する重合触媒(重合開始剤)としては、特に限定されず、例えば、2−エチルヘキシルペルオキシジカーボネート(Trigonox EHP)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、t−ブチルペルオキシネオデカノエート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルペルオキシジカーボネート、ジ−n−ブチルペルオキシジカーボネート、ジ−セチルペルオキシジカーボネート、ジ−s−ブチルペルオキシジカーボネート等のフリーラジカルを生成できる開始剤であれば、いずれも使用可能である。
【0034】
また、得られたビニルエステル共重合体の一部又は全てを鹸化する工程では、例えば鹸化触媒の存在下、直接鹸化する方法や有機溶媒中でアルコーリシスする方法がある。
【0035】
鹸化触媒としては、特に限定されず、例えば、苛性ソーダ、苛性カリ、ナトリウムアルコラート、アミン類及び炭酸ソーダ等のアルカリ触媒や、硫酸、燐酸及び塩酸等の酸触媒が挙げられるが、好ましくはアルカリ触媒、より好ましくは苛性ソーダが鹸化速度が速く生産性に優れている点で好適である。
【0036】
有機溶媒としては、特に限定されないが、アルコールが好ましい。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール等が挙げられるが、中でもメタノールが好ましい。
【0037】
ビニルエステル共重合体を鹸化する方法は、特に制限はなく、例えば、ビニルエステル共重合体の溶液に鹸化触媒を添加混合する方法、ビニルエステル共重合体が分散している系に鹸化触媒を添加混合する方法等が挙げられ、いずれの方法においても無水系又は含水系で鹸化反応させることができる。鹸化反応はエステルの一部だけを鹸化することも全て完全に鹸化することもできる。更には、既知の方法で鹸化溶剤中にベンゼンや他の溶剤を添加しておいてビニルアルコール単位をブロック状又はランダム状に配置させることも可能である。また、PVAをブチルアルデヒドやホルムアルデヒド等を反応させて、ブチラール樹脂やホルマール樹脂等に変性することも可能である。
【0038】
ビニルエステル共重合体若しくはその一部又は全てのビニルエステルを鹸化したビニルエステル共重合体の鹸化物は、例えば、必要に応じて中和、析出、洗浄、濾過等の後処理を経てた後、加熱、減圧等の方法により乾燥されて粉粒状で得ることができるが、乾燥せずに、水溶液又は水と有機溶媒の混合溶液として得ることもできる。
【0039】
本発明は、重合反応中及び/又は重合反応後のポリマーの配合組成を近赤外分光分析装置を用いて迅速かつ正確に算定することができる。
【0040】
近赤外分光分析は相対分析であり、実際の重合工程に適用する前に、既知の試料で検量線を作成する必要がある。各単量体及びポリマーの含有濃度が分かっている検量線用試料を20〜50種類程度調整して、近赤外スペクトルを測定し、多重線形回帰法或いは部分最小自乗法等の多変量解析を用いて解析して相関関係を求めることで、検量線を作成できる。多変量解析には市販のケモメトリクスソフトウェアを使用することができる。例えば、各ビニルエステル及びその他単量体、アルコール類等を各種配合で混合した重合配合組成物並びにその重合配合組成物に重合触媒を添加して一部もしくは全てを共重合反応した各種ビニルエステル共重合体の配合組成物を作製しておき、予め既知の配合比率、或いはポリマー分の濃度測定、NMR分析、滴定法等の化学分析等によって各単量体や各共重合体、溶剤等の配合比率を測定しておく。一方、これらの組成物の近赤外吸収スペクトルを測定して、多変量解析によって、各種ビニルエステル、各種単量体、各種重合体及び共重合体の配合比の検量線を作成する。
【0041】
このようにして得られた検量線を使用することによって、重合反応中及び/又は重合反応後の、ポリマー溶液又はポリマー溶液を乾燥して得られるポリマーの配合組成を、近赤外線分析装置を用いてリアルタイムに正確に算定することができる。
【0042】
本発明の分析方法が適用できるのは、重合反応途中あるいは重合反応後の各種モノマーとポリマーと溶媒の混合物サンプルについて近赤外スペクトル測定を行うことが可能である。
【0043】
ポリマーの状態は、固形物でも液状物でも固液混合のスラリー状物でも良いが、均一な液状(分散液)で測定した方がサンプルの均質性やハンドリング性及び分析精度から好ましい。
【0044】
近赤外線スペクトルを測定する方法としては、透過法や反射法の何れでもよいが、ポリマーが透明な液状の場合は透過法の方が精度良く安定した測定が可能である。重合反応装置の適宜な場所には近赤外線スペクトルを照射するプローブやセル等の測定端子が設置される。測定端子の設置方法は特に制限されないが、重合装置内部に直接測定端子を設置する方法、重合装置に外部循環用バイパスを設け、そこに測定端子を設置する方法等を例として挙げることができる。特に、重合反応装置に近赤外吸収スペクトル透過測定用の検出部を直接挿入しておくことによって、重合反応中の各単量体の重合反応率の変化を経時的に測定することが可能になり、反応率の制御に有用な情報を得ることが出来る。重合反応設備は、連続式、バッチ式のいずれであっても適用可能である。
【0045】
近赤外線吸収スペクトルの測定において、測定波長は、約4600cm−1以上が好ましく、4600〜12000cm−1程度がより好ましい。これらは、多変量解析用に、2種以上の測定波長を組み合わせてもよい。測定波長を4600cm−1以上で測定することによって、重合反応中の温度変化等の影響を受けることなく高精度で測定することが可能になる。従って、重合反応の進み方の状態をリアルタイムに確認しながら、目標とする重合反応率で重合反応を停止することが可能である。
【0046】
近赤外線吸収スペクトルの測定条件は、例えば、測定波長:4600cm−1〜12000cm−1、分解能:8cm−1、積算回数:64回で行えば、1分程度の測定時間で精度の高い近赤外スペクトルを得ることが可能であり、各単量体の重合反応率や残留する単量体量を精度良く測定することができる。
【0047】
なお、本発明に用いられる近赤外分光分析装置は、多変量解析装置を装備したものであれば特に制限はなく、例えば、ブルカー・オプティクス社製「TANGO FT-NIR スペクトロメータ(商品名)」、「MATRIX-Fシリーズ プロセス用近赤外分光計(商品名)」、「MPA FT-NIR マルチパーパスアナライザー MPA F2(商品名)」、「Vector22/N(商品名)」、ニコレット社「Antaris(商品名)」、パーキン・エルマー社「Spectrum One NTS(商品名)」、ビュッヒ社「近赤外分析計 FT-NIR NIRFlex N-500(商品名)」等がある。
【0048】
また、本発明では、近赤外分光分析装置を用いて得られた重合収率値から、重合度や4%水溶液粘度等を推定することも可能である。
【0049】
従来は重合反応後のポリマーを実験室で脱モノマー、鹸化、精製してPVAを作製し、このPVAを1%水溶液に溶解調整して極限粘度を測定することで、粘度換算重合度式で重合度に換算し重合反応のコントロールファクターとしていた。この操作は極めて煩雑なだけでなく、測定に数時間も要することと、更に測定精度が悪いことから、重合反応の制御が極めて難しかった。
【0050】
ポリマーの近赤外吸収スペクトルによって極めて精度の良い重合収率が得られることで、重合配合組成が一定な条件では重合度や4%水溶液粘度等をリアルタイムに高精度で推定することが可能になり、重合反応を安定して制御することが出来るようになった。
【0051】
また万一、重合仕込配合量が何らかの原因で設定した配合量と違っていたとしても、重合反応設備内に近赤外吸収スペクトル検出部を挿入して測定していれば配合仕込量に異常があるかどうか容易に検出して異常反応や事故を未然に防止することも可能である。
【0052】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた態様を含む。
【実施例】
【0053】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。なお、特に記載しない限り「部」は質量部を、「%」は質量%を意味する。
【0054】
[実施例1]
各種重合度のポリ酢酸ビニル/酢酸ビニルモノマー/メタノールの組成比を0〜80%/5〜100%/0〜80%と変えて各種濃度の溶液を調整して、4600〜12000cm−1のスペクトル領域で近赤外分光分析を行い多変量解析で検量線を作成した。
【0055】
[比較例1]
各種重合度のポリ酢酸ビニル/酢酸ビニルモノマー/メタノールの組成比を0〜80%/5〜100%/0〜80%と変えて各種濃度の溶液を調整して、4000〜12000cm−1のスペクトル領域で近赤外分光分析を行い多変量解析で検量線を作成した。
【0056】
[試験例1]
これらの検量線の各精度を比較するために、検量線に使用していない各種濃度に調整したポリマー溶液(未知試料)でテストバリデーションを行い、酢酸ビニルモノマー量(VAc)及びポリ酢酸ビニル量(PVAc)をそれぞれの検量線から導き出した結果と相関、偏差を調べた。その結果を図1及び図2に示す。
【0057】
実施例1として4600〜12000cm−1のスペクトル領域で作成した検量線では、酢酸ビニルモノマー量(VAc:NIR1)及びポリ酢酸ビニル量(PVAc:NIR3)ともに相関係数及び標準偏差は R2=0.999 σ=0.5、R2=0.998 σ=0.5と極めて良い分析精度を示した。
一方、比較例1として4000〜12000cm−1のスペクトル領域で作成した検量線では、酢酸ビニルモノマー量(VAc:NIR2)及びポリ酢酸ビニル量(PVAc:NIR4)ともに相関係数及び標準偏差は、R2=0.962 σ=3.4、R2=0.927 σ=3.0と分析精度はあまり良くなかった。
【0058】
近赤外吸収スペクトルの吸収波形で確認すると、4600cm−1未満では明らかに温度の影響を受けており、相関が悪い原因と考えられる。
【0059】
[実施例2]
攪拌機、温度計、還流冷却器を備えた重合反応容器中に、各種配合組成で酢酸ビニル/メタノールを仕込み、重合開始剤としてt−ヘキシルパーオキシネオデカネート(日本油脂社製、商品名パーヘキシルND)を仕込み、重合反応収率を変えて溶液重合を行い、酢酸ビニル(VAc)/ポリ酢酸ビニル(PVAc)の各種組成ポリマー溶液を調整した。
このポリマー溶液の実測濃度と実施例1の方法で得られた近赤外分光分析の検量線から算出したNIR組成の相関を調べた。なお、酢酸ビニルの実測濃度は臭素による滴定法を用いて測定し、ポリ酢酸ビニルの実測濃度は乾燥して固形分測定で濃度分析を行った。
【0060】
その結果、各種重合配合の組成で近赤外線吸収スペクトル測定によって概ね良好な相関が確認され、重合収率を測定することが可能であることを確認した(図3)。
【0061】
[実施例3]
攪拌機、温度計、還流冷却器を備えた重合反応容器中に、酢酸ビニル820部及びメタノール180部を仕込み、重合開始剤としてt−ヘキシルパーオキシネオデカネート0.05部を数回に分けて仕込み、窒素雰囲気下、液温60℃で約3時間の溶液重合反応を複数回繰返して実施した。
【0062】
なお、この重合反応容器の底部には、近赤外吸収スペクトル透過測定用の検出部を直接挿入して設置しておき、重合反応中の重合反応率の変化を経時的に測定した。なお、検出部は、光路長5mmのプローブで50m長の光ケーブルを介して近赤外分光分析装置に接続した。
【0063】
近赤外スペクトルの測定条件は、測定波長:4600〜12000cm−1、分解能:8cm−1、積算回数:64回(約1分間)の測定で近赤外スペクトルデータを連続測定した。この測定データは、多変量解析を備えた演算装置で処理して実施例1で作成した検量線によって酢酸ビニルモノマー濃度(VAc)とポリ酢酸ビニル濃度(PVAc)に変換した。
【0064】
この重合反応中のVAc濃度、PVAc濃度の変化を図4に示す。
重合反応により得られた酢酸ビニルの重合反応率を濃度測定によって分析したところ、45〜48%で近赤外分光分析から算定した測定値とよく一致した。
【0065】
また、従来は、重合反応の進み方は、還流量や重合機の攪拌機のモーター負荷等から間接的に推定するしか無く、重合完了後に濃度測定等を行って初めて重合収率が分かるだけであったが、近赤外分光分析装置の検出部を重合機に挿入することで、図4に示すとおりリアルタイムで重合状態を観察できるようになった。これによって、目標とする重合収率で重合反応を停止することが可能になっただけではなく、重合触媒の添加速度を適正に調整することも可能になった。
【0066】
[実施例4]
実施例3で得られたそれぞれの重合反応溶液中にメタノール蒸気を吹き込んで未反応の酢酸ビニルを除去した後、メタノールにて希釈し濃度25%のポリ酢酸ビニルのメタノール溶液を調整した。このメタノール溶液600部と、鹸化触媒として濃度1.5%の苛性ソーダを含むメタノール溶液75部を45℃に保温したニーダー型混合機に入れて30分間連続攪拌して鹸化反応させ、これを粉砕してスラリー状にした。このスラリーに酢酸を添加し、中和することで鹸化反応を停止した。
【0067】
中和したスラリーは、固液を分離して固形分を乾燥し、製品としての重合バッチ毎のPVA(鹸化度=87.6〜88.5mol%、4%水溶液粘度(20℃)=43〜48mPa・s)を得た。
【0068】
重合反応により得られた酢酸ビニルの重合反応率は45〜48%で、重合反応溶液を実験室で脱モノマー、鹸化、乾燥、精製してPVAを作製し、このPVAを1%水溶液に溶解調整して極限粘度を測定することで粘度換算重合度式で「重合度」に換算した結果、重合度=2400〜2600のポリマーであることを確認した。
【0069】
この重合仕込配合組成等重合条件一定の条件での、重合収率と得られたPVAの4%水溶液粘度(20℃)の相関関係を図5に示す。
【0070】
一定の配合条件(VAc/メタノール/触媒量)で重合反応を行い、各重合収率で停止したポリマーを鹸化して得られるPVAの4%水溶液粘度は、近赤外分光分析から算出した重合収率(NIR)と極めて高い相関を示し、PVAの重要な物性の指標である4%水溶液粘度の制御が容易かつ精度良く出来ることが確認された。
なお、4%水溶液粘度は、JIS K 6726−1994に従って20℃で測定したものである。
【0071】
一方、濃度分析から得られた重合収率(手分析)と4%水溶液粘度には殆ど相関が得られなかった。この理由は、重合反応後のポリマー溶液は極めて粘調な高粘度溶液であり、サンプリング時に温度が高く溶剤が揮発したりするためであり、近赤外分光分析の場合には、検出部が重合容器内にあるためにサンプリングによるバラつきが起こり難いために分析の精度が極めて高いためであると考えられる。
【0072】
[比較例2]
実施例3同様の方法で、酢酸ビニル/メタノールの重合配合量を変化させて、重合度=1700〜2700のポリマーを複数回重合し、脱モノマー、鹸化、分離乾燥して重合バッチ毎に下記の3品種のPVAを得た。(鹸化度=87.8〜88.2mol%)
品種A:4%水溶液粘度(20℃)の規格範囲=22〜28mPa・s
品種B:4%水溶液粘度(20℃)の規格範囲=31〜33mPa・s
品種C:4%水溶液粘度(20℃)の規格範囲=40〜48mPa・s
【0073】
重合反応で得られたポリマー溶液を使用して、実験室で脱モノマー、鹸化、精製、乾燥して、水溶液の極限粘度を調べて重合度を測定した。また、得られたPVAの4%水溶液粘度(20℃)を測定して、重合バッチ毎のPVAの重合度と4%水溶液粘度の関係を調べた(図6)。
【0074】
従来、重合度を4%水溶液粘度の指標にしていたが、この方法では、広い範囲での相関関係は得られるが、品種毎の4%水溶液粘度を制御出来るほどの相関が無いことが確認された。
【0075】
[実施例5]
攪拌機、温度計、還流冷却器を備えた重合反応容器中に、酢酸ビニル/マレイン酸エステル/アルキルビニルエーテル/エタノール(400部/230部/200部/170部)を仕込み、重合開始剤として2−2’アゾビス(2,4−ジメチルバレトニトリル)(日本ヒドラジン工業製 ABN−V)を連続的に仕込み、実施例3と同様の方法で近赤外線吸収スペクトルから重合反応による各単量体の反応による減少を連続測定した(図7)。
【0076】
その結果、重合開始から60分程度でマレイン酸エステルが反応し尽くして無くなっていることが判明した。この結果から、マレイン酸エステルを重合反応中に連続添加することでポリマーに均一に導入することが出来た。
また、図7から重合反応70分以降で急速に全ての単量体の反応速度が低下していることが判明した。そのため、重合触媒の添加速度を制御することで70分以降の反応速度が低下しないように調整することが出来た(図8)。
【0077】
従来は、重合反応中の単量体組成や反応速度を連続的に測定する方法が無かった。
このように、本発明を用いて、重合反応中の近赤外吸光分析によって各単量体の反応状態を測定して、ポリマーの構造を均一且つ安定に生産する処方に調整することが可能になった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、各種ビニルエステル及び単量体を重合してビニルエステル共重合体やビニルエステル共重合体の鹸化物を製造する工程において、重合反応の各単量体の重合収率を多変量解析装置を備えた近赤外分光分析装置を用いてリアルタイムに分析する方法である。また、重合収率及び共重合組成率、重合速度を分析し制御することで安定した品質のビニルエステル共重合体又はビニルエステル共重合体の鹸化物の製造方法を提供するものであり、特に産業的にはPVAの安定生産を実現する方法として有効に利用できる。
図7
図8
図1
図2
図3
図4
図5
図6