特許第6105983号(P6105983)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6105983
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】放熱基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20170316BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20170316BHJP
   H05K 3/44 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
   H01L23/36 C
   H01L23/12 J
   H05K3/44 A
【請求項の数】8
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-51631(P2013-51631)
(22)【出願日】2013年3月14日
(65)【公開番号】特開2014-179416(P2014-179416A)
(43)【公開日】2014年9月25日
【審査請求日】2016年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】矢野 信介
(72)【発明者】
【氏名】七瀧 努
【審査官】 豊島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−042147(JP,A)
【文献】 特開2006−287123(JP,A)
【文献】 特開2011−023475(JP,A)
【文献】 特開2009−184195(JP,A)
【文献】 特開2006−210896(JP,A)
【文献】 特開2012−248593(JP,A)
【文献】 特開2011−114010(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L23/12 −23/15
23/29
23/34 −23/36
23/373−23/427
23/44
23/467−23/473
H05K 1/05
3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体部と、
前記基体部の表面の少なくとも一部の領域に形成され且つセラミックスを主成分として含んでなる第1の絶縁材料からなる絶縁層と、
を備える放熱基板の製造方法であって、
前記基体部が、
セラミックスを主成分として含んでなる第2の絶縁材料からなる基材と、
前記基材を貫通するように前記基材中に埋設された、金属を主成分として含んでなる金属性物体と、
を含んでなり、
前記第1の絶縁材料の粉体を噴射して前記基体部に衝突させる噴射加工技術により前記絶縁層を形成させる成膜工程、及び
前記成膜工程の期間中及び/又は前記成膜工程の終了後に、前記噴射加工技術によって形成される前記絶縁層を300℃以上1200℃以下であり且つ前記金属性物体の融点以下である温度において加熱することにより前記絶縁層の熱伝導率を加熱前よりも高める加熱工程、
を含む、放熱基板の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の放熱基板の製造方法であって、
前記噴射加工技術がエアロゾルデポジション(AD)法である、
放熱基板の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2の何れか1項に記載の放熱基板の製造方法であって、
前記成膜工程の期間中に実行される前記加熱工程が、前記成膜工程において前記第1の絶縁材料の粉体を搬送するための流体及び/又は前記基体部を加温して前記絶縁層を加熱することにより実行される、
放熱基板の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の放熱基板の製造方法であって、
前記放熱基板が、
前記絶縁層の前記基体部とは反対側の表面の少なくとも一部の領域に、導電性材料を含んでなる導体である表面導体、
を更に備え、
前記放熱基板の製造方法が、
前記表面導体を形成させる表面導体形成工程、
を更に含む、
放熱基板の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の放熱基板の製造方法であって、
前記表面導体形成工程が、
前記絶縁層の前記基体部とは反対側の表面の少なくとも一部の領域に、前記導電性材料を含んでなる導体ペーストを配設する配設ステップと、
前記配設ステップにおいて配設された前記導体ペーストを焼成する焼成ステップと、
を含む、放熱基板の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の放熱基板の製造方法であって、
前記表面導体形成工程に含まれる前記配設ステップが前記成膜工程の終了後であり且つ前記加熱工程の開始前である時点において実行され、
前記成膜工程の終了後に実行される前記加熱工程が、前記表面導体形成工程に含まれる前記焼成ステップの実行により実行される、
放熱基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の放熱基板の製造方法であって、
前記金属性物体の、前記放熱基板の主面に平行な平面による断面形状の主要部分の長手方向に直交する方向における最大長さが6mm以下である、
放熱基板の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の放熱基板の製造方法であって、
前記セラミックスが、窒化アルミ(AlN)、窒化珪素(Si)、炭化珪素(SiC)、アルミナ(Al)、酸化銅(CuO)、又はスピネル系化合物である、
放熱基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱基板の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、例えばエアロゾルデポジション(AD)法等を始めとする、微粒子を所定の速度に加速して基材に衝突させ、この衝突の際に生ずる圧力及び/又は衝撃力を利用して成膜するプロセス(以降、かかるプロセスを「噴射加工技術」と総称する場合がある)によって形成される絶縁層を備える放熱基板において、高い耐電圧、高い接着性、及び高い放熱性を十分に維持しつつ、製造工程及び製造後の使用期間において生ずる温度変化に起因する基板の反り及び絶縁層の割れを低減することができる放熱基板を製造する方法に関する。加えて、本発明は、かかる方法によって製造される放熱基板にも関する。
【背景技術】
【0002】
例えば集積回路(IC)チップ及び/又は発光ダイオード(LED)等の回路素子が実装される回路基板及びかかる回路基板を含むパッケージにおいては、例えば当該パッケージ等における種々の性能向上及び/又は小型軽量化の進展等に伴い、これらの回路素子の作動に伴って発生する熱を効率良く外部に放出して、これらの回路素子の温度上昇を防ぐことが益々重要となっている。そこで、当該技術分野においては、これらの回路素子が実装される回路基板及びかかる回路基板を含むパッケージにおける放熱性を向上させるための様々な技術が提案されている。
【0003】
かかる技術の具体例としては、例えば、高い熱伝導率を有する金属(例えば、アルミニウム、銅、銀、及びタングステン等の金属、並びにこれらの金属の合金等)を含んでなる金属基体の表面に絶縁層が形成され、当該絶縁層の表面に例えばICチップ及び/又はLED等の回路素子との電気的接続のための導体パターンが形成された、高い放熱性を備える回路基板(以降、かかる基板を「放熱基板」と称する場合がある)が挙げられる。上記絶縁層を構成する材料としては、例えば樹脂、高い熱伝導率を有するフィラー粉末を樹脂に混ぜたもの、セラミック膜等を使用することができることが知られている。
【0004】
例えば、当該技術分野においては、例えばエアロゾルデポジション(AD)法等、微粒子を所定の速度に加速して基材に衝突させ、この衝突の際に生ずる圧力及び/又は衝撃力を利用して成膜するプロセス(噴射加工技術)により、セラミック絶縁膜(層)を金属材料の上に形成させることできることが知られている(例えば、特許文献1を参照)。かかる噴射加工技術によって得られるセラミック絶縁層は、金属基体の表面上に直接形成させることができ、高い耐電圧及び(金属)基体との高い接着性を有するので、回路基板における絶縁層として好適である。また、例えば接着剤層等を介すること無く、セラミック絶縁層を金属材料の表面上に直接形成させることができるので、基板全体としての熱抵抗を小さくすることができる。かかる観点からも噴射加工技術によって形成されたセラミック絶縁層を備える金属材料を含んでなる基板は、回路基板として好適である。
【0005】
また、種々の噴射加工技術の中でも、例えば溶射コーティング等の手法は加熱プロセスによる熱的なエネルギーアシストを必要とし、微粒子をガス搬送によって基材にて圧粉層を形成する成膜工程の後に焼成工程が必要であったり、成膜工程において基材を加温することが必要であったりする。一方、AD法は、かかる加熱プロセスを必要とはせず、室温付近の温度にてセラミック絶縁膜を形成することができる(例えば、非特許文献1を参照)。因みに、AD法においてセラミック絶縁層と(金属)基体との高い接着性を確保する観点からは、室温付近の温度でのセラミック絶縁膜の形成(成膜)が望ましく、絶縁材料(セラミックス)の微粒子を搬送するガス(搬送ガス)及びセラミック絶縁層を形成する対象物となる基材の温度は何れも100℃以下であることが望ましい。しかしながら、以下に述べる理由により、AD法によって形成された絶縁膜については、室温付近での成膜後にアニール処理が必要となる。
【0006】
上記のように、AD法は加熱プロセスを必要としないので、加熱プロセスに起因する基板の割れ及び/又は反りの発生を低減することができる。結果として、室温付近の温度でのAD法によって形成されるセラミック絶縁層は、加熱プロセスを必要とすること無く、高い緻密度、高い耐電圧、及び(金属)基体との高い接着性を発揮することができる。従って、室温付近の温度でのAD法によって形成されるセラミック絶縁層は、回路基板における絶縁層として好適である。尚、緻密度としては、相対密度で90%以上であることが望ましく、より好ましくは95%以上であることが望ましい。
【0007】
ところで、小さな熱抵抗を有する回路基板を得るには、高い耐電圧を持つ絶縁材料を用いて薄い絶縁層を形成する必要がある。加えて、当該絶縁材料の熱伝導率もまた高い必要がある。しかしながら、室温付近の温度でのAD法によって形成される絶縁層の熱伝導率は、当該絶縁層を構成する絶縁材料が本来有する熱伝導率よりも低くなってしまう傾向がある。従って、AD法によって形成される絶縁層を備える従来技術に係る回路基板をそのままの状態で使用すると、基板全体としての熱抵抗を所望のレベルにまで低減することが困難な場合がある。
【0008】
そこで、本発明者は、AD法によって形成される絶縁層の熱伝導率を高めて当該絶縁層を備える放熱基板において高い放熱性を発揮させるべく鋭意研究の結果、室温付近の温度でのAD法によって形成されるセラミック絶縁層を適切な温度範囲にて加熱するアニール処理に付すことにより、高い耐電圧及び高い接着性を十分に維持しつつ、当該絶縁層を構成する絶縁材料が本来有する熱伝導率を発揮させて、高い熱伝導率を有するセラミック絶縁層が得られることを見出した。これにより、AD法によって形成される絶縁層を備える放熱基板において、高い耐電圧及び高い接着性を十分に維持しつつ、高い放熱性を発揮させることができる。
【0009】
以上のように、AD法を始めとする種々の噴射加工技術によって形成される絶縁層において高い熱伝導率及び高い緻密度を達成しようとすると、例えば、成膜工程において搬送ガス及び/又は基材を加温したり、成膜工程の後に焼成工程及び/又はアニール工程を設けたりする等して、絶縁層を加熱処理することが必要である。
【0010】
しかしながら、放熱基板の構成(例えば、セラミック絶縁層及び基体部のそれぞれを構成する材料、それぞれの厚み等)によっては、上記のような加熱処理に伴って基板が反ったり、絶縁層が割れたりする問題が生ずる場合があった。また、基体部の表面上にセラミック絶縁層が配設されてなる放熱基板においては、これらの構成要素を構成する材料の熱膨張率の差異に起因して、基板の製造後の使用期間中におけるヒートサイクル及び/又は熱衝撃により、セラミック絶縁層が割れる等の問題が生ずる場合もあった。特に、例えば熱抵抗を低減する等の目的によりセラミック絶縁層の厚みを100μm以下にまで下げると、上記のような割れが発生する虞が高まる。
【0011】
上記のように、当該技術分野においては、加熱処理を伴う噴射加工技術によって形成される絶縁層を備える放熱基板において、高い緻密度、高い耐電圧、高い接着性、及び高い熱伝導率を当該絶縁層に十分に発揮させつつ、製造工程及び製造後の放熱基板の使用期間において生ずる温度変化に起因する放熱基板の反り及び絶縁層の割れを低減することができる技術に対する継続的な要求が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3784341号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】明渡 純(産業技術総合研究所)、Maxim Lebedev(産業技術総合研究所)、「微粒子,超微粒子の衝突固化現象を用いたセラミックス薄膜形成技術 : エアロゾルデポジション法による低温・高速コーティング」、まてりあ、日本金属学会会報、日本金属学会、2002年7月20日、第41巻、第7号、p.459−466
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前述のように、当該技術分野においては、加熱処理を伴う噴射加工技術によって形成される絶縁層を備える放熱基板において、高い緻密度、高い耐電圧、高い接着性、及び高い熱伝導率を当該絶縁層に十分に発揮させつつ、製造工程及び製造後の放熱基板の使用期間において生ずる温度変化に起因する放熱基板の反り及び絶縁層の割れを低減することができる技術に対する継続的な要求が存在する。本発明は、かかる要求に応えるために為されたものである。即ち、本発明は、加熱処理を伴う噴射加工技術によって形成される絶縁層を備える放熱基板において、高い緻密度、高い耐電圧、高い接着性、及び高い熱伝導率を当該絶縁層に十分に発揮させつつ、製造工程及び製造後の放熱基板の使用期間において生ずる温度変化に起因する放熱基板の反り及び絶縁層の割れを低減することができる、放熱基板の製造方法を提供することを1つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的は、
基体部と、
前記基体部の表面の少なくとも一部の領域に形成され且つセラミックスを主成分として
含んでなる第1の絶縁材料からなる絶縁層と、
を備える放熱基板の製造方法であって、
前記基体部が、
セラミックスを主成分として含んでなる第2の絶縁材料からなる基材と、
前記基材を貫通するように前記基材中に埋設された、金属を主成分として含んでなる
金属性物体と、
を含んでなり、
前記第1の絶縁材料の粉体を噴射して前記基体部に衝突させる噴射加工技術により前記
絶縁層を形成させる成膜工程、及び
前記成膜工程の期間中及び/又は前記成膜工程の終了後に、前記噴射加工技術によって形成される前記絶縁層を300℃以上1200℃以下であり且つ前記金属性物体の融点以下である温度において加熱することにより前記絶縁層の熱伝導率を加熱前よりも高める加熱工程、
を含む、放熱基板の製造方法によって達成される。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る放熱基板の製造方法によれば、加熱処理を伴う噴射加工技術によって形成される絶縁層を備える放熱基板において、高い緻密度、高い耐電圧、高い接着性、及び高い熱伝導率を当該絶縁層に十分に発揮させつつ、製造工程及び製造後の放熱基板の使用期間において生ずる温度変化に起因する放熱基板の反り及び絶縁層の割れを低減することができる。その結果、例えば、当該放熱基板を使用する半導体パッケージ等における高温高湿環境下での絶縁不良等を抑制して、当該パッケージの信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の1つの実施態様に係る放熱基板及び当該放熱基板に実装される回路素子の模式的な断面図である。
図2】本発明のもう1つの実施態様に係る放熱基板及び当該放熱基板に実装される回路素子の模式的な断面図である。
図3】本発明の更にもう1つの実施態様に係る放熱基板及び当該放熱基板に実装される回路素子の模式的な断面図である。
図4】本発明のまた更にもう1つの実施態様に係る放熱基板及び当該放熱基板に実装される回路素子の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
前述のように、本発明は、加熱処理を伴う噴射加工技術によって形成される絶縁層を備える放熱基板において、高い緻密度、高い耐電圧、高い接着性、及び高い熱伝導率を当該絶縁層に十分に発揮させつつ、製造工程及び製造後の放熱基板の使用期間において生ずる温度変化に起因する放熱基板の反り及び絶縁層の割れを低減することができる、放熱基板の製造方法を提供することを1つの目的とする。本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究の結果、加熱処理を伴う噴射加工技術によって形成される絶縁層を備える放熱基板において、金属を主成分として含んでなる金属性物体とセラミックスを主成分として含んでなる基材とを含んでなる基体部であって、金属性物体が基材を貫通するように基材中に埋設されている基体部を採用し、かかる基体部の表面のうち金属性物体が露出している表面の少なくとも一部の領域に絶縁層を配設することにより、高い緻密度、高い耐電圧、高い接着性、及び高い熱伝導率を当該絶縁層に十分に発揮させつつ、製造工程及び製造後の放熱基板の使用期間において生ずる温度変化に起因する放熱基板の反り及び絶縁層の割れを低減することができることを見出し、本発明を想到するに至ったものである。
【0019】
即ち、本発明の第1の実施態様は、
基体部と、
前記基体部の表面の少なくとも一部の領域に形成され且つセラミックスを主成分として含んでなる第1の絶縁材料からなる絶縁層と、
を備える放熱基板の製造方法であって、
前記基体部が、
セラミックスを主成分として含んでなる第2の絶縁材料からなる基材と、
前記基材を貫通するように前記基材中に埋設された、金属を主成分として含んでなる金属性物体と、
を含んでなり、
前記第1の絶縁材料の粉体を噴射して前記基体部に衝突させる噴射加工技術により前記絶縁層を形成させる成膜工程、及び
前記成膜工程の期間中及び/又は前記成膜工程の終了後に、前記噴射加工技術によって形成される前記絶縁層を300℃以上であり且つ1200℃以下である温度において加熱する加熱工程、
を含む、放熱基板の製造方法である。
【0020】
上記のように、本実施態様に係る放熱基板の製造方法によって製造される放熱基板は、一般的な放熱基板と同様に、
基体部と、
前記基体部の表面の少なくとも一部の領域に形成され且つセラミックスを主成分として含んでなる第1の絶縁材料からなる絶縁層と、
を備える。
【0021】
加えて、本実施態様に係る放熱基板の製造方法によって製造される放熱基板は、
前記基体部が、
セラミックスを主成分として含んでなる第2の絶縁材料からなる基材と、
前記基材を貫通するように前記基材中に埋設された、金属を主成分として含んでなる金属性物体と、
を含んでなる。
【0022】
上記金属性物体は、本質的には、上記基材を構成する材料(第2の絶縁材料)と比較して、より高い熱伝導率を有する材料である限り、如何なる材料によって構成されていてもよい。かかる金属性物体の主成分となる材料の具体例としては、例えば、高い熱伝導率を有する金属(例えば、アルミニウム、銅、銀、タングステン、及びステンレス鋼(SUS)等の金属、並びにこれらの金属の合金(例えば、銅/タングステン等)等)を挙げることができる。また、上記金属性物体の主成分となる材料は、例えば、ヒートスラグ又はヒートスプレッダーを構成する材料として、当該技術分野において広く使用されている材料であってもよい。更に、上記金属性物体の主成分となる材料に、セラミック粉末等を混合して、例えば、熱伝導率、熱膨張係数等を調整してもよい。かかるセラミック粉末を構成する材料としては、例えば、窒化アルミ(AlN)、窒化珪素(Si)、炭化珪素(SiC)、アルミナ(Al)、酸化銅(CuO)、及びスピネル系化合物等を挙げることができる。
【0023】
但し、前述したように、AD法を始めとする種々の噴射加工技術によって形成される絶縁層において高い熱伝導率及び高い緻密度を達成しようとすると、例えば、成膜工程において搬送ガス及び/又は基材を加温したり、成膜工程の後に焼成工程及び/又はアニール工程を設けたりする等して、絶縁層を加熱処理することが必要である。従って、金属性物体は、絶縁層の成膜工程の期間中及び/又は成膜工程の終了後に、絶縁層と共に加熱処理に付されることとなる。このため、金属性物体の主成分となる材料は、かかる加熱処理の温度(以降、かかる温度を「アニール温度」と総称する場合がある)に耐え得る性状(例えば、融点、耐熱温度等)を有する必要がある。逆に言うと、アニール温度は、加熱処理により熱伝導率を高めようとする絶縁層を構成する絶縁材料の性状のみならず、金属性物体を構成する材料の性状をも考慮して設定される必要がある。
【0024】
また、上記基材は、セラミックスを主成分として含んでなる第2の絶縁材料(誘電体材料)からなる。かかるセラミックスは、例えば、回路基板の基材を構成する誘電体材料として、当該技術分野において広く使用されている種々のセラミックスの中から適宜選択することができる。かかるセラミックスの具体例としては、例えば、窒化アルミ(AlN)、窒化珪素(Si)、炭化珪素(SiC)、アルミナ(Al)、酸化銅(CuO)、及びスピネル系化合物等を挙げることができる。
【0025】
本実施態様に係る放熱基板の製造方法によって製造される放熱基板が備える基体部は、上述のように、セラミックスを主成分として含んでなる第2の絶縁材料からなる基材と、基材を貫通するように基材中に埋設された、金属を主成分として含んでなる金属性物体と、を含んでなる。かかる構成は、例えば、ゲルキャスト法又はグリーンシート法によって実現することができる。例えば、後者のグリーンシート法を採用する場合は、先ず、セラミック粉末及びバインダーを含んでなるペーストを例えばドクターブレード法等によってシート状に成形する。次いで、斯くして得られたグリーンシートの金属性物体を埋設すべき領域を例えば金型を使用して打ち抜く。次いで、斯くして打ち抜いた領域に前述したような導体ペーストを充填し、乾燥後、所定の条件下で焼成することによって、上述したような構成を実現することができる。尚、例えばゲルキャスト法、グリーンシート法、及びドクターブレード法等、セラミックスを含んでなる基材中に金属性物体が埋設された構成を有する基板を製造するために使用される種々の方法については、当業者に周知であるので、本明細書においては特に説明はしない。
【0026】
更に、上記絶縁層は、基体部の表面のうち金属性物体が露出している表面の少なくとも一部の領域に形成される。例えば、基体部が平板状の形状を有し且つ基体部の厚み方向(即ち、基体部の2つの主面に直行する方向)に基材を貫通するように基材中に埋設された金属性物体が基体部の2つの主面において露出している場合は、上記絶縁層は、例えば、前記基体部の2つの主面の何れか一方又は両方の少なくとも一部の領域に形成されていてもよい。尚、上記絶縁層は、セラミックスを主成分として含んでなる第1の絶縁材料(誘電体材料)からなる。かかるセラミックスは、例えば、回路基板の基材を構成する誘電体材料として、当該技術分野において広く使用されている種々のセラミックスの中から適宜選択することができる。かかるセラミックスの具体例としては、例えば、窒化アルミ(AlN)、窒化珪素(Si)、炭化珪素(SiC)、アルミナ(Al)、酸化銅(CuO)、及びスピネル系化合物等を挙げることができる。尚、第1の絶縁材料は、上述した第2の絶縁材料と同じであっても、異なっていてもよい。
【0027】
本実施態様に係る放熱基板の製造方法は、上記のような放熱基板を製造する方法であって、前記第1の絶縁材料の粉体を噴射して前記基体部に衝突させる噴射加工技術により前記絶縁層を形成させる成膜工程、及び前記成膜工程の期間中及び/又は前記成膜工程の終了後に、前記噴射加工技術によって形成される前記絶縁層を300℃以上であり且つ1200℃以下である温度において加熱する加熱工程を含む。上記成膜工程においては、前記基体部の表面の前記少なくとも一部の領域に前記絶縁層を形成させるための手法として、前述したように、微粒子を所定の速度に加速して基材に衝突させ、この衝突の際に生ずる圧力及び/又は衝撃力を利用して成膜するプロセス(噴射加工技術)を採用する。
【0028】
尚、かかる噴射加工技術の具体例としては、例えば、エアロゾルデポジション(AD)法等の手法を挙げることができる。エアロゾルデポジション法(AD法)は、当業者に周知であるように、噴射加工技術の1種であり、微粒子又は超微粒子(例えば、セラミック粉体等)を所定の速度に加速して基材(例えば、基体部)に衝突させ、この衝突の際に生ずる圧力及び/又は衝撃力を利用して成膜する方法である。AD法の具体的な実施方法については当業者に周知であるため、本明細書においては、これ以上の詳細な説明は割愛する。
【0029】
一方、上記加熱工程においては、前記成膜工程の期間中及び/又は前記成膜工程の終了後に、前記噴射加工技術によって形成される前記絶縁層を300℃以上であり且つ1200℃以下(より好ましくは1050℃以下)である温度において加熱する。当該加熱処理は、所望の厚みを有する絶縁層の成膜が完了した後に実行してもよく、あるいは、例えば前記成膜工程においてセラミック粉末を搬送するガスを加温したり、セラミック粉末を衝突させる基体部を加温したりすることにより、成膜工程と並行して実行してもよい。何れにせよ、加熱工程における絶縁層の加熱処理温度(アニール温度)は、前述したように、加熱処理により熱伝導率を高めようとする絶縁層を構成する絶縁材料の性状に応じて適宜設定することができる。具体的には、アニール温度は、例えば、300℃以上であることが必要である場合が多く、場合によっては500℃以上の温度であることが必要である場合もある。更には、700℃以上の温度における加熱処理により大きな効果が得られる場合もある。しかしながら、アニール温度を高くし過ぎると絶縁層の耐電圧が低下したり、加熱処理に伴う温度変化に起因する応力の発生により絶縁層が割れたりするので、アニール温度は1200℃以下(より好ましくは1050℃以下)であることが望ましい。
【0030】
また、アニール温度は、前述したように、加熱処理により熱伝導率を高めようとする絶縁層を構成する絶縁材料の性状のみならず、金属性物体を構成する材料の性状をも考慮して設定される必要がある。具体的には、アニール温度の上限は、例えば、金属性物体を構成する材料の融点に応じて設定される必要がある。例えば、金属性物体を構成する材料がアルミニウムである場合、アニール温度の上限は650℃付近となり、当該材料が銅である場合は、当該上限は1050℃付近となる。かかる観点からは、金属性物体を構成する材料が例えばタングステン又はSUS等のより高い融点を有する金属である場合は、より高い温度でのアニールが可能である。
【0031】
しかしながら、前述したように、過度に高い温度でのアニールはセラミック絶縁層の耐電圧を低下させる虞がある。かかる観点からは、アニール温度の上限は1200℃、より好ましくは1050℃となる。従って、金属性物体を構成する材料として単体としての金属を使用する場合、当該金属の融点が1200℃以下である場合は、アニール温度の上限は当該金属の融点となるが、当該金属の融点が1200℃を超える場合は、アニール温度の上限は当該金属の融点に拘わり無く1200℃、より好ましくは1050℃となる。例えば、金属性物体を構成する材料として、例えば、アルミニウム、銅、銀、タングステン、及びSUSの何れか1種を使用する場合、アルミニウム、銅、又は銀を使用する場合はこれらの金属の融点がアニール温度の上限となる。この場合、これらの金属の中では、できるだけ高いアニール温度が必要とされる場合は、金属性物体を構成する材料として銅を選択することができる。一方、放熱基板をできるだけ軽量化する必要がある場合は、銅と比べるとアニール温度の上限は低下するが、金属性物体を構成する材料としてアルミニウムを選択することができる。一方、タングステン又はSUSを使用する場合は、これらの金属の融点に拘わり無く、アニール温度の上限は1200℃、より好ましくは1050℃となる。このように、アニール温度は、加熱処理により熱伝導率を高めようとする絶縁層を構成する絶縁材料の性状のみならず、金属性物体を構成する材料の性状をも考慮して設定される必要がある。
【0032】
以上のように、本実施態様に係る放熱基板の製造方法によれば、噴射加工技術によって形成されるセラミック絶縁層を適切な温度範囲での加熱処理に付すことにより、高い耐電圧及び高い接着性を十分に維持しつつ、当該絶縁層を構成する絶縁材料が本来有する熱伝導率を発揮させて、高い熱伝導率を有するセラミック絶縁層を得ることができる。尚、前述したように、従来技術に係る放熱基板のように単に金属板(金属性物体に該当)の表面に絶縁層を配設しただけの構成では、加熱処理に伴う温度変化により、金属板と絶縁層との間での熱膨張係数の差異に起因して、例えば、当該放熱基板の反り、絶縁層の割れ等の問題が生ずる虞があった。また、同様の問題が、例えば、当該放熱基板に実装された回路素子の作動に伴う発熱に起因する温度変化によっても生ずる虞があった。
【0033】
しかしながら、本実施態様に係る放熱基板の製造方法によって製造される放熱基板においては、上述したように、基体部がセラミックスを主成分として含んでなる(第2の)絶縁材料からなる基材と当該基材を貫通するように当該基材中に埋設された金属を主成分として含んでなる金属性物体とを含んでなる。これにより、当該放熱基板においては、上記のような温度変化が生じた際に、相対的に大きい熱膨張係数を有する金属性物体が、相対的に小さい熱膨張係数を有するセラミック絶縁層と比較して、より大きい寸法変化を生じようとするものの、金属性物体の周囲を囲む基材は絶縁層と同等の寸法変化しか生じないため、金属性物体の寸法変化が基材によって抑制され、絶縁層との寸法変化の差に起因して発生する応力が低減され、結果として、例えば、当該放熱基板の反り、絶縁層の割れ等の問題が起こる虞を低減することができる。
【0034】
尚、本実施態様に係る放熱基板の製造方法によって製造される放熱基板が有する上述のような構成は、上述したような加熱処理に伴う温度変化(例えば、成膜工程においてセラミック粉末を搬送するガスを加温したり、セラミック粉末を衝突させる対象となる基体部を加温したりする場合における温度変化、成膜工程後に実行される加熱工程における温度変化等)及び当該放熱基板に実装された回路素子の作動に伴う発熱に起因する温度変化のみならず、当該放熱基板が備える基体部に含まれる金属性物体と絶縁層との間での熱膨張係数の差異に起因する問題(例えば、当該放熱基板の反り、絶縁層の割れ等)を生じさせ得る限り、如何なる温度変化に対しても有効である。
【0035】
ところで、本発明に係る放熱基板の製造方法によって製造される放熱基板における金属性物体の当該基板の主面に平行な平面による断面形状は、特に限定されるものではない。当該断面形状は、当該放熱基板が使用される回路の設計(例えば、大きな発熱量を有する回路素子の大きさ、形状、配置等)に応じて、例えば、正方形、長方形、平行四辺形、台形、円、楕円等、種々の形状とすることができる。
【0036】
但し、当該基板の主面に平行な平面による断面における基体部に占める金属性物体の割合が過度に大きくなると、基体部を製造する際における基材と金属性物体との間での熱膨張係数の差異に起因して、基体部を良好に製造することが困難となる。具体的には、例えば、前述したように、グリーンシート法によって基体部を製造する場合、セラミック粉末及びバインダーを含んでなるセラミックペーストを例えばドクターブレード法等によってシート状に成形してグリーンシートを得る。斯くして得られたグリーンシートを例えば金型を使用して打ち抜いて、金属性物体を埋設すべき領域となる開口部を設ける。次いで、斯くして打ち抜いた開口部に前述したような導体ペーストを充填し、乾燥後、当該複合体を所定の条件下で焼成することによって、上述したような構成を有する基体部を製造することができる。
【0037】
この際、当該基体部の主面(即ち、当該基体部を使用する基板の主面)に平行な平面による断面における基体部に占める金属性物体の割合が過度に大きいと、セラミックペーストと導体ペーストとからなる複合体を焼成する際の両者の熱膨張係数(焼成収縮挙動)の差異に起因する寸法変化の差異が大きくなり、例えば、基体部の変形及び/又は割れ、金属性物体と基材との剥離等の問題が生じて、基体部の製造が困難となる場合がある。かかる観点から、本発明に係る放熱基板における金属性物体の当該基板の主面に平行な平面による断面の大きさには上限がある。
【0038】
具体的には、本発明に係る放熱基板における金属性物体の当該基板の主面に平行な平面による断面形状の主要部分の長手方向に直交する方向における最大長さは6mm以下、より好ましくは4mm以下であることが望ましい。当該長さが6mmを超えると、上述したように、基体部を製造する際における基材と金属性物体との間での熱膨張係数の差異に起因して、基体部を良好に製造することが困難となるので望ましくない。尚、ここで「断面形状の主要部分」と規定したのは、上記最大長さの計測において、例えば突起状の部分等、局所的に大きい長さを有する部分は除外することを意味する。換言すれば、本発明に係る放熱基板において、金属性物体が所期の効果を発揮することが可能である限りにおいて、当該基板の主面に平行な平面による断面が部分的に上記上限を超える長さを有していても問題ではない。
【0039】
ところで、本明細書における「噴射加工技術」は、前述したように、微粒子を所定の速度に加速して基材に衝突させ、この衝突の際に生ずる圧力及び/又は衝撃力を利用して圧粉体層を形成させることにより成膜するプロセスを指す。上述したように、かかる噴射加工技術の具体例としては、例えば、エアロゾルデポジション(AD)法等の手法を挙げることができる。従って、本発明に係る放熱基板の製造方法に含まれる成膜工程において、AD法を噴射加工技術として採用することができる。
【0040】
即ち、本発明の第2の実施態様は、
本発明の前記第1の実施態様に係る放熱基板の製造方法であって、
前記噴射加工技術がエアロゾルデポジション(AD)法である、
放熱基板の製造方法である。
【0041】
尚、上述したように、AD法の具体的な実施方法については当業者に周知であるため、本明細書においては、これ以上の詳細な説明は割愛する。
【0042】
ところで、前述したように、本発明に係る放熱基板の製造方法に含まれる加熱工程は、前記噴射加工技術によって形成される前記絶縁層を300℃以上であり且つ1200℃以下である温度において加熱するという条件を満足する限りにおいて、前記成膜工程の期間中に実行しても、前記成膜工程の終了後に実行しても、あるいは前記成膜工程の期間中及び終了後の両方において実行してもよい。成膜工程の期間中に実行される加熱工程においては、前述したように、例えば、第1の絶縁材料の粉体を搬送するための流体(例えば、搬送ガス等)を加熱したり、基体部を加温したりすることにより、絶縁層を加熱することができる。
【0043】
即ち、本発明の第3の実施態様は、
本発明の前記第1又は前記第2の実施態様の何れか1つに係る放熱基板の製造方法であって、
前記成膜工程の期間中に実行される前記加熱工程が、前記成膜工程において前記第1の絶縁材料の粉体を搬送するための流体及び/又は前記基体部を加温して前記絶縁層を加熱することにより実行される、
放熱基板の製造方法である。
【0044】
上記のように、本実施態様に係る放熱基板の製造方法においては、前記成膜工程の期間中に実行される前記加熱工程が、前記成膜工程において前記第1の絶縁材料の粉体を搬送するための流体及び/又は前記基体部を加温して前記絶縁層を加熱することにより実行される。即ち、本実施態様に係る放熱基板の製造方法においては、成膜工程と加熱工程とを同時に実行することができる。これにより、本実施態様に係る放熱基板の製造方法においては、製造工程の短縮を図ることができる。尚、上述したように、本発明に係る放熱基板の製造方法に含まれる加熱工程は、前記噴射加工技術によって形成される前記絶縁層を300℃以上であり且つ1200℃以下である温度において加熱するという条件を満足する限りにおいて、前記成膜工程の期間中に実行しても、前記成膜工程の終了後に実行しても、あるいは前記成膜工程の期間中及び終了後の両方において実行してもよい。従って、本実施態様に係る放熱基板の製造方法においては、成膜工程の期間中に実行される加熱工程に加えて、成膜工程の終了後に実行される他の加熱工程を更に含んでいてもよい。
【0045】
ところで、本実施態様に係る放熱基板の製造方法によって製造される放熱基板は、例えば集積回路(IC)チップ及び/又は発光ダイオード(LED)等の回路素子が実装される回路基板として使用することができる。この場合、上述したように当該放熱基板(回路基板)は高い熱伝導率を有する。従って、例えば当該回路基板を含むパッケージにおいては、上記回路素子の作動に伴って発生する熱を効率良く外部に放出して、これらの回路素子の温度上昇を抑制することができる。
【0046】
尚、上記のように、本実施態様に係る放熱基板の製造方法によって製造される放熱基板を例えば集積回路(IC)チップ及び/又は発光ダイオード(LED)等の回路素子が実装される回路基板として使用する場合、当然のことながら、当該回路基板上に実装される各種回路素子を電気的に接続するための表面電極又は端子として機能する導体(以降、かかる導体を「表面導体」と称する場合がある)をその表面に備えていてもよい。この場合、表面導体は、基体部の絶縁層が配設されていない露出面ではなく、絶縁層の基体部とは反対側の表面に配設されるのが一般的である。
【0047】
従って、本発明の第4の実施態様は、
本発明の前記第1乃至前記第3の実施態様の何れか1つに係る放熱基板の製造方法であって、
前記放熱基板が、
前記絶縁層の前記基体部とは反対側の表面の少なくとも一部の領域に、導電性材料を含んでなる導体である表面導体、
を更に備え、
前記放熱基板の製造方法が、
前記表面導体を形成させる表面導体形成工程、
を更に含む、
放熱基板の製造方法である。
【0048】
上記のように、本実施態様に係る放熱基板の製造方法によって製造される放熱基板は、前記絶縁層の前記基体部とは反対側の表面の少なくとも一部の領域に、導電性材料を含んでなる導体である表面導体、を更に備える。当該表面導体は、当該放熱基板(回路基板)上に実装される回路素子を他の回路素子及び/又は他の回路基板と電気的に接続するための表面電極又は端子として機能することができる。これにより、当該放熱基板は、例えば集積回路(IC)チップ及び/又は発光ダイオード(LED)等の回路素子が実装される回路基板として使用されることができる。
【0049】
尚、上記表面導体は、導電性材料を含んでなる導体である限りにおいて、如何なる材料及び構成を有するものであってもよい。上記表面導体は、例えば、導電性材料を含んでなる導体ペーストを例えばスクリーン印刷法等の印刷法によって絶縁層の基体部とは反対側の表面の少なくとも一部の領域に印刷したり、所望の形状を有する開口部を備えるメタルマスク等を使用して上記導体ペーストを上記領域に配設したりして、得られた導体パターンを焼成することによって形成させてもよい。この場合、導体ペーストは、例えば、導電性粒子と、バインダー樹脂と、溶剤と、を混合してペースト化したものであってもよい。導電性粒子としては、例えば、カーボン、金、白金、銅、タングステン、ニッケル、アルミニウム等を使用することができる。バインダー樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、フッ素樹脂(例えば、ポリフッ化ビニリデン)等を使用することができる。あるいは、上記表面導体は、例えばリードフレーム等の予め所定の形状に成形された導体部材を絶縁層の基体部とは反対側の表面の少なくとも一部の領域に貼付することによって形成させてもよい。
【0050】
ところで、本実施態様に係る放熱基板の製造方法は、上記のように、前記表面導体を形成させる表面導体形成工程を更に含む。表面導体形成工程において表面導体を形成させるための具体的な手法は、例えば、表面導体の材料及び構成に応じて、当該技術分野において広く用いられている各種手法から適宜選択することができる。かかる手法の具体例としては、上述したように、例えば、導電性材料を含んでなる導体ペーストを例えばスクリーン印刷法等の印刷法によって絶縁層の基体部とは反対側の表面の少なくとも一部の領域に配設し、得られた導体パターンを焼成する手法、例えばリードフレーム等の予め所定の形状に成形された導体部材を絶縁層の基体部とは反対側の表面の少なくとも一部の領域に貼付する手法等を挙げることができる。
【0051】
上記のように、表面導体形成工程は、導電性材料を含んでなる導体ペーストをセラミック絶縁層の基体部とは反対側の表面の少なくとも一部の領域に配設する配設ステップと、配設ステップにおいて配設された導体ペースト(導体パターン)を焼成する焼成ステップとを含むことができる。
【0052】
従って、本発明の第5の実施態様は、
本発明の前記第4の実施態様に係る放熱基板の製造方法であって、
前記表面導体形成工程が、
前記絶縁層の前記基体部とは反対側の表面の少なくとも一部の領域に、前記導電性材料を含んでなる導体ペーストを配設する配設ステップと、
前記配設ステップにおいて配設された前記導体ペーストを焼成する焼成ステップと、
を含む、放熱基板の製造方法である。
【0053】
上記のように、本実施態様に係る放熱基板の製造方法に含まれる前記表面導体形成工程は、前記絶縁層の前記基体部とは反対側の表面の少なくとも一部の領域に、前記導電性材料を含んでなる導体ペーストを配設する配設ステップと、前記配設ステップにおいて配設された前記導体ペーストを焼成する焼成ステップと、を含む。即ち、本実施態様に係る放熱基板の製造方法によって製造される放熱基板が備える表面導体は、上述したように、例えば、導電性材料を含んでなる導体ペーストを例えばスクリーン印刷法等の印刷法によって絶縁層の基体部とは反対側の表面の少なくとも一部の領域に印刷したり、所望の形状を有する開口部を備えるメタルマスク等を使用して上記導体ペーストを上記領域に配設したりして、得られた導体パターンを焼成する手法によって形成させることができる。
【0054】
上記のように本実施態様に係る放熱基板の製造方法に含まれる前記表面導体形成工程が配設ステップにおいて配設された導体ペーストを焼成する焼成ステップを含む場合、製造工程の短縮及び省エネルギーの観点から、当該焼成ステップにおいて導体ペーストを焼成するための加熱処理を前述した加熱工程における絶縁層の加熱処理にも利用して、表面導体形成工程に含まれる焼成ステップと加熱工程とを同時に実行することが望ましい。但し、この場合は、表面導体形成工程に含まれる配設ステップは成膜工程と加熱工程との間に実行する必要がある。
【0055】
従って、本発明の第6の実施態様は、
本発明の前記第5の実施態様に係る放熱基板の製造方法であって、
前記表面導体形成工程に含まれる前記配設ステップが前記成膜工程の終了後であり且つ前記加熱工程の開始前である時点において実行され、
前記成膜工程の終了後に実行される前記加熱工程が、前記表面導体形成工程に含まれる前記焼成ステップの実行により実行される、
放熱基板の製造方法である。
【0056】
上記のように、本実施態様に係る放熱基板の製造方法においては、前記表面導体形成工程に含まれる前記配設ステップが前記成膜工程の終了後であり且つ前記加熱工程の開始前である時点において実行され、前記成膜工程の終了後に実行される前記加熱工程が、前記表面導体形成工程に含まれる前記焼成ステップの実行により実行される。即ち、本実施態様に係る放熱基板の製造方法においては、表面導体形成工程に含まれる焼成ステップにおいて導体ペーストを焼成するための加熱処理が前述した加熱工程における絶縁層の加熱処理にも利用されると共に、表面導体形成工程に含まれる焼成ステップと加熱工程とが同時に実行される。これにより、本実施態様に係る放熱基板の製造方法においては、製造工程の短縮及び省エネルギーを達成することができる。
【0057】
ところで、冒頭において述べたように、本発明は、基板全体として低い熱抵抗を実現することにより高い放熱性を発揮することができる放熱基板を製造する方法のみならず、かかる方法によって製造される放熱基板にも関する。
【0058】
従って、本発明の第7の実施態様は、
基体部と、
前記基体部の表面の少なくとも一部の領域に形成され且つセラミックスを主成分として含んでなる絶縁材料からなる絶縁層と、
を備える放熱基板であって、
前記基体部が、
セラミックスを主成分として含んでなる絶縁材料からなる基材と、
前記基材を貫通するように前記基材中に埋設された、金属を主成分として含んでなる金属性物体と、
を含んでなり、
本発明の前記第1乃至前記第6の実施態様の何れか1つに係る放熱基板の製造方法によって製造される、
放熱基板である。
【0059】
即ち、本実施態様に係る放熱基板においては、加熱処理を伴う噴射加工技術によって形成される絶縁層を備えるにも拘わらず、金属を主成分として含んでなる金属性物体とセラミックスを主成分として含んでなる基材とを含んでなる基体部であって、金属性物体が基材を貫通するように基材中に埋設されている基体部を採用し、かかる基体部の表面のうち金属性物体が露出している表面の少なくとも一部の領域に絶縁層を配設することにより、高い緻密度、高い耐電圧、高い接着性、及び高い熱伝導率を当該絶縁層に十分に発揮させつつ、製造工程及び製造後の放熱基板の使用期間において生ずる温度変化に起因する放熱基板の反り及び絶縁層の割れを低減することができる。
【0060】
従って、本実施態様に係る放熱基板を含むパッケージにおいては、当該放熱基板に実装される回路素子の作動に伴って発生する熱を効率良く外部に放出して、これらの回路素子の温度上昇を抑制することができると共に、これらの回路素子の温度上昇に起因する基板の反り及び絶縁層の割れを低減することができるので、パッケージ全体としての信頼性を高めることもできる。
【0061】
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施態様について説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施態様に限定されるものではなく、本発明の概念から逸脱しない範疇で、多種多様な修飾が加えられ得る。かかる修飾を伴う本発明の幾つかの変形例を以下に列挙するが、これらの変形例もまた本発明の理解を助けることを目的として、あくまでも例示として開示されるものであり、本発明の範囲がこれらの変形例に限定されるものと解釈されるべきではないことは言うまでも無い。
【0062】
ここで、添付図面を参照しながら、本実施態様に係る放熱基板の製造方法によって製造される放熱基板の構成につき、以下に詳しく説明する。図1は、前述したように、本発明の1つの実施態様に係る放熱基板及び当該放熱基板に実装される回路素子の模式的な断面図である。図1に示す実施態様に係る放熱基板100は、上記のように、基体部120と、基体部120の表面の少なくとも一部の領域に形成され且つセラミックスを主成分として含んでなる絶縁材料からなる絶縁層122と、を備える。また、基体部120は、セラミックスを主成分として含んでなる絶縁材料からなる基材121と、基材121を貫通するように基材121中に埋設された、金属を主成分として含んでなる金属性物体111と、を含んでなる。尚、絶縁層122は、前述したように、成膜工程において、基体部120の表面のうち金属性物体111が露出している表面(図1においては、基体部120の2つの主面のうち図1に向かって上側の主面)の少なくとも一部の領域に、エアロゾルデポジション法(AD法)によって形成された後に、アニール工程において、300℃以上であり且つ1200℃以下である温度範囲におけるアニール処理に付され、熱伝導率が向上されている。
【0063】
上記に加えて、図1に示す実施態様に係る放熱基板100においては、絶縁層122の基体部120とは反対側の表面(図1に向かって上側)に表面導体131が配設されており、当該表面導体131には発光ダイオード(LED)141が電気的に接続されている。図1に示す実施態様に係る放熱基板100は、かかる構成を有するため、上記のようなアニール工程における温度変化又はLED141の作動に伴う発熱による温度変化が生じた際に、相対的に大きい熱膨張係数を有する金属性物体111が、相対的に小さい熱膨張係数を有する絶縁層122と比較して、より大きい寸法変化を生じようとするものの、金属性物体111の周囲を囲む基材121は絶縁層122と同等の寸法変化しか生じない。その結果、金属性物体111の寸法変化が基材121によって抑制され、絶縁層122との寸法変化の差に起因して発生する応力が低減され、例えば、放熱基板100の反り、絶縁層122の割れ等の問題が起こる虞を低減することができる。
【0064】
ところで、本実施態様の1つの変形例に係る放熱基板は、基体部の2つの主面のうち、表面導体が配設されている側とは反対側の主面の少なくとも一部の領域に形成された裏面導体を更に備えていてもよく、更には、基体部の基材中に埋設されて表面導体の少なくとも一部と裏面導体の少なくとも一部とを電気的に接続するビア導体を更に備えていてもよい。かかる構成により、例えば、表面導体と電気的に接続された回路素子(例えば、LED等)と、当該基板を挟んで当該回路素子の反対側に配置される他の回路素子及び/又は他の回路基板との電気的接続を容易に確立したり、かかる電気的接続のための配線の長さを短くして電気的損失及び/又はインピーダンスを低減したりすることができる。
【0065】
ここで、添付図面を参照しながら、上記変形例に係る放熱基板の構成につき、以下に詳しく説明する。図2は、前述したように、本発明のもう1つの実施態様に係る放熱基板及び当該放熱基板に実装される回路素子の模式的な断面図である。図2に示す実施態様に係る放熱基板200は、図1に示した実施態様に係る放熱基板100と同様に、基体部220と、基体部220の表面の少なくとも一部の領域に形成され且つセラミックスを主成分として含んでなる絶縁材料からなる絶縁層222と、を備える。また、基体部220は、セラミックスを主成分として含んでなる絶縁材料からなる基材221と、基材221を貫通するように基材221中に埋設された、金属を主成分として含んでなる金属性物体211と、を含んでなる。尚、絶縁層222は、前述したように、成膜工程において、基体部220の表面のうち金属性物体211が露出している表面(図2においては、基体部220の2つの主面のうち図2に向かって上側の主面)の少なくとも一部の領域に、エアロゾルデポジション法(AD法)によって形成された後に、アニール工程において、300℃以上であり且つ1200℃以下である温度範囲におけるアニール処理に付され、熱伝導率が向上されている。
【0066】
また、図2に示す実施態様に係る放熱基板200においては、図1に示した実施態様に係る放熱基板100と同様に、絶縁層222の基体部220とは反対側の表面(図2に向かって上側)に表面導体231が配設されており、当該表面導体231には発光ダイオード(LED)241が電気的に接続されている。図2に示す実施態様に係る放熱基板200は、かかる構成を有するため、上記のようなアニール工程における温度変化又はLED241の作動に伴う発熱による温度変化が生じた際に、相対的に大きい熱膨張係数を有する金属性物体211が、相対的に小さい熱膨張係数を有する絶縁層222と比較して、より大きい寸法変化を生じようとするものの、金属性物体211の周囲を囲む基材221は絶縁層222と同等の寸法変化しか生じない。その結果、金属性物体211の寸法変化が基材221によって抑制され、絶縁層222との寸法変化の差に起因して発生する応力が低減され、例えば、放熱基板200の反り、絶縁層222の割れ等の問題が起こる虞を低減することができる。
【0067】
上記に加えて、図2に示す実施態様に係る放熱基板200においては、図1に示した実施態様に係る放熱基板100とは異なり、基体部220の表面導体231とは反対側の表面(図2に向かって下側)に裏面導体232が配設されており、更に、基材221中に埋設されたビア導体233が表面導体231と裏面導体232とを電気的に接続している。これにより、図2に示す実施態様に係る放熱基板200においては、上述したように、例えば、表面導体231と電気的に接続されたLED241と、放熱基板200を挟んでLED241の反対側に配置される他の回路素子及び/又は他の回路基板(何れも図示せず)との電気的接続を容易に確立したり、かかる電気的接続のための配線の長さを短くして電気的損失及び/又はインピーダンスを低減したりすることができる。
【0068】
ところで、例えば、セラミック絶縁層が形成されている主面に実装された回路素子(例えば、ICチップ、LED等)から発生する熱を当該放熱基板の内部を通して当該放熱基板の反対側に伝達して、放熱効率を高めようとする場合がある。かかる場合においては、当該放熱基板の主面に平行な平面内における熱伝導経路の広がりを考慮すると、主たる熱伝導経路となる金属性物体の当該放熱基板の主面に平行な平面による断面積は、セラミック絶縁層が形成されている主面に近い側よりも遠い側の方が大きいことが望ましい。
【0069】
しかしながら、当該断面積が大きくなるほど、当該放熱基板の主面に平行な平面内における金属性物体の温度変化に伴う寸法変化が大きくなる。従って、セラミック絶縁層が形成されている主面とは反対側の主面にも小さい熱膨張係数を有する材料からなる構成部材が配設されている場合、上記のように金属性物体の当該放熱基板の主面に平行な平面による断面積をセラミック絶縁層が形成されている主面から遠いほど大きくすると、放熱効率の向上という観点からは望ましいものの、小さい熱膨張係数を有する材料からなる構成部材と金属性物体との間での熱膨張係数の違いに起因して、基板の反り、絶縁層の割れ等の問題を生ずる虞が高まってしまう。
【0070】
一方、前述したように、セラミック絶縁層は、基体部の表面のうち金属性物体が露出している表面の少なくとも一部の領域にAD法によって形成される。従って、例えば、図1に示した実施態様に係る放熱基板のように、基体部の2つの主面のうち一方の主面にはセラミック絶縁層が形成されており、他方の主面にはセラミック絶縁層が形成されていないように構成することができる。かかる場合、基体部の2つの主面のうちセラミック絶縁層が形成されていない主面においては、前述したような温度変化が生じた際に金属性物体とセラミック絶縁層との間での熱膨張係数の差異に起因する応力が発生して放熱基板の反り及び/又はセラミック絶縁層の割れ等の問題を生ずる虞が低い。つまり、かかる場合における基体部の2つの主面のうちセラミック絶縁層が形成されていない主面においては、上述したような金属性物体の寸法上の制約は小さい。
【0071】
従って、本発明に係る放熱基板において、基体部の2つの主面のうち一方の主面にはセラミック絶縁層が形成されており、他方の主面にはセラミック絶縁層が形成されていない場合は、金属性物体の当該放熱基板の主面に平行な平面による断面積が、セラミック絶縁層が形成されている主面に近い側よりも遠い側の方が大きくなるように構成することにより、当該放熱基板の内部における熱伝導経路を拡張して、当該放熱基板における放熱効率を更に向上させることができる。
【0072】
ここで、添付図面を参照しながら、上記変形例に係る放熱基板の構成につき、以下に詳しく説明する。図3は、前述したように、本発明の更にもう1つの実施態様に係る放熱基板及び当該放熱基板に実装される回路素子の模式的な断面図である。図3に示す実施態様に係る放熱基板300は、図1に示した実施態様に係る放熱基板100と同様に、基体部320と、基体部320の表面の少なくとも一部の領域に形成され且つセラミックスを主成分として含んでなる絶縁材料からなる絶縁層322と、を備える。また、基体部320は、セラミックスを主成分として含んでなる絶縁材料からなる基材321と、基材321を貫通するように基材321中に埋設された、金属を主成分として含んでなる金属性物体311と、を含んでなる。尚、絶縁層322は、前述したように、成膜工程において、基体部320の表面のうち金属性物体311が露出している表面(図3においては、基体部320の2つの主面のうち図3に向かって上側の主面)の少なくとも一部の領域に、エアロゾルデポジション法(AD法)によって形成された後に、アニール工程において、300℃以上であり且つ1200℃以下である温度範囲におけるアニール処理に付され、熱伝導率が向上されている。
【0073】
また、図3に示す実施態様に係る放熱基板300においては、図1に示した実施態様に係る放熱基板100と同様に、絶縁層322の基体部320とは反対側の表面(図3に向かって上側)に表面導体331が配設されており、当該表面導体331には発光ダイオード(LED)341が電気的に接続されている。図3に示す実施態様に係る放熱基板300は、かかる構成を有するため、上記のようなアニール工程における温度変化又はLED341の作動に伴う発熱による温度変化が生じた際に、相対的に大きい熱膨張係数を有する金属性物体311が、相対的に小さい熱膨張係数を有する絶縁層322と比較して、より大きい寸法変化を生じようとするものの、金属性物体311の周囲を囲む基材321は絶縁層322と同等の寸法変化しか生じない。その結果、金属性物体311の寸法変化が基材321によって抑制され、絶縁層322との寸法変化の差に起因して発生する応力が低減され、例えば、放熱基板300の反り、絶縁層322の割れ等の問題が起こる虞を低減することができる。
【0074】
上記に加えて、図3に示す実施態様に係る放熱基板300においては、図1に示した実施態様に係る放熱基板100とは異なり、放熱基板300の主面に平行な平面による金属性物体311の断面積が、絶縁層322に近い側よりも、絶縁層322から遠い側の方が大きくなるように構成されている。これにより、図3に示す実施態様に係る放熱基板300においては、上述したように、例えば、LED341から発生する熱を放熱基板300の内部を通して放熱基板300の反対側により効率良く伝達して、放熱基板300全体としての放熱効率を高めることができる。尚、図3においては、放熱基板300の主面に直交する平面による金属性物体311の断面形状を階段状(あるいは踏み台状)の形状として描かれているが、放熱基板300の主面に平行な平面による金属性物体311の断面積が絶縁層322に近い側よりも絶縁層322から遠い側の方が大きくなるように構成されている限りにおいて、放熱基板300の主面に直交する平面による金属性物体311の断面形状は如何なる形状であってもよい。
【0075】
ところで、上記においては、基体部の2つの主面のうち一方の主面にはセラミック絶縁層が形成されており、他方の主面にはセラミック絶縁層が形成されていない構成を有する、本発明の1つの変形例について説明した。しかしながら、本発明に係る放熱基板の構成は、上記のような構成に限定されるものではない。即ち、本実施態様の他の1つの変形例に係る放熱基板においては、当該放熱基板が備える基体部を構成する基材を貫通するように基材中に埋設された金属性物体が露出している2つの主面の両方にセラミック絶縁層が形成されていてもよい。かかる構成においては、両方の主面において、前述したような温度変化が生じた際に金属性物体とセラミック絶縁層との間での熱膨張係数の差異に起因する応力が発生して放熱基板の反り及び/又はセラミック絶縁層の割れ等の問題を生ずる虞がある。つまり、かかる場合においては、両方の主面において、前述したような金属性物体の寸法上の制約が課されることになる。しかしながら、その一方で、かかる構成においては、何れの主面においても金属性物体との電気的導通がセラミック絶縁層によって遮断されているので、表面導体及び裏面導体の設計上の自由度は高い。
【0076】
ここで、添付図面を参照しながら、上記変形例に係る放熱基板の構成につき、以下に詳しく説明する。図4は、前述したように、本発明のまた更にもう1つの実施態様に係る放熱基板及び当該放熱基板に実装される回路素子の模式的な断面図である。図4に示す実施態様に係る放熱基板400は、図1に示した実施態様に係る放熱基板100と同様に、基体部420と、基体部420の表面の少なくとも一部の領域に形成され且つセラミックスを主成分として含んでなる絶縁材料からなる絶縁層422と、を備える。また、基体部420は、セラミックスを主成分として含んでなる絶縁材料からなる基材421と、基材421を貫通するように基材421中に埋設された、金属を主成分として含んでなる金属性物体411と、を含んでなる。尚、絶縁層422は、前述したように、成膜工程において、基体部420の表面のうち金属性物体411が露出している表面(図4においては、基体部420の2つの主面のうち図4に向かって上側の主面)の少なくとも一部の領域に、エアロゾルデポジション法(AD法)によって形成された後に、アニール工程において、300℃以上であり且つ1200℃以下である温度範囲におけるアニール処理に付され、熱伝導率が向上されている。
【0077】
また、図4に示す実施態様に係る放熱基板400においては、図1に示した実施態様に係る放熱基板100と同様に、絶縁層422の基体部420とは反対側の表面(図4に向かって上側)に表面導体431が配設されており、当該表面導体431には発光ダイオード(LED)441が電気的に接続されている。図4に示す実施態様に係る放熱基板400は、かかる構成を有するため、上記のようなアニール工程における温度変化又はLED441の作動に伴う発熱による温度変化が生じた際に、相対的に大きい熱膨張係数を有する金属性物体411が、相対的に小さい熱膨張係数を有する絶縁層422と比較して、より大きい寸法変化を生じようとするものの、金属性物体411の周囲を囲む基材421は絶縁層422と同等の寸法変化しか生じない。その結果、金属性物体411の寸法変化が基材421によって抑制され、絶縁層422との寸法変化の差に起因して発生する応力が低減され、例えば、放熱基板400の反り、絶縁層422の割れ等の問題が起こる虞を低減することができる。
【0078】
上記に加えて、図4に示す実施態様に係る放熱基板400においては、図1に示した実施態様に係る放熱基板100とは異なり、基体部420の表面導体431とは反対側の表面(図4に向かって下側)に第2のセラミック絶縁層423が配設されている。当該絶縁層423と金属性物体411との熱膨張係数の差異に起因して発生する応力についても、金属性物体411の周囲を囲む基材421によって低減され、例えば、放熱基板400の反り、絶縁層422の割れ等の問題が起こる虞を低減することができる。また、図4に示す構成においては、放熱基板400の何れの主面においても金属性物体411との電気的導通がセラミック絶縁層422及び423によって遮断されているので、表面導体431及び裏面導体の設計上の自由度は高い。
【0079】
以下、本発明の幾つかの実施態様に係る放熱基板の製造方法によって製造される放熱基板につき更に詳しく説明する。但し、以下に述べる説明はあくまでも例示を目的とするものであり、本発明の範囲が以下の説明に限定されるものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0080】
1.各種評価用試料の作製
本実施例においては、以下に示す表1に列挙した各種基材及び金属(金属性物体)を使用して、実施例E01乃至E09に係る各種評価用試料を作製した。より具体的には、セラミック粉末及びバインダーを含んでなるグリーンシートを打ち抜いて開口部を設け、当該開口部に表1に列挙する金属を含んでなる導体ペーストを充填して複合体を得て、得られた複合体を焼成して基体部とした。因みに、基体部を構成するセラミック基材の熱膨張係数は、実施例E01では10ppm/℃、実施例E02乃至E04では6ppm/℃、実施例E05では8ppm/℃、実施例E06及びE08乃至E09では4ppm/℃、そして実施例E07では2ppm/℃であった。一方、基体部を構成する金属性物体(及び後述する各種比較例における基体部としての金属板)の材料である銅(Cu)、銀(Ag)、SUS、及びCuWの熱膨張係数は、それぞれ17ppm/℃、19ppm/℃、10ppm/℃、7ppm/℃であった。何れの評価用試料についても、基体部の形状は、長辺×短辺=8mm×5mm、厚み=1mmの直方体とした。また、金属性物体の材料である導体ペーストに含まれる銅粒子及び銀粒子の粒径は、それぞれ5μm及び2μmであった。一方、実施例E01乃至E09と同じ形状を有し且つ同じ金属からなる金属板(基材無し)を基体部として使用して、それぞれ対応する比較例C01乃至C09に係る各種評価用試料を作製した。更に、比較例C10においては、実施例E08と同じ構成を有する評価用試料を作製した(但し、後述するように、比較例C10と実施例E08とでは、絶縁層の加熱温度が異なる)。
【0081】
更に、実施例E09と比較例C09の組み合わせ以外の評価用試料については、成膜工程において、エアロゾル化チャンバー及び成膜チャンバーを備える一般的な構成を有するエアロゾルデポジション(AD)法用成膜装置を使用して、表1に列挙するセラミック粉末をそれぞれの基体部の金属性物体が露出している面に吹き付けて、表1に列挙する厚みの絶縁層を成膜した。これらのAD法によって絶縁層を成膜した各種評価用試料のうち、実施例E01及び比較例C01、実施例E03及び比較例C03、実施例E04及び比較例C04、実施例E07及び比較例C07、実施例E08及び比較例C08、並びに比較例C10については、絶縁層の成膜後に、表1に列挙する温度にてアニール処理を実行した。但し、比較例C10については、上述のように、実施例E08と同じ構成を有するものの、絶縁層のアニール温度が上限温度である1200℃よりも高い(1300℃)。AD法によって絶縁層を成膜した他の評価用試料については、絶縁層の成膜中に、表1に列挙する温度にて基体部を加熱することによって、絶縁層のアニール処理を実行した。一方、実施例E09と比較例C09との組み合わせに係る評価用試料については、AD法ではない噴射加工技術によって圧粉体層を形成(成膜)させた後、表1に示す温度にて絶縁層を焼成した。
【0082】
【表1】
【0083】
2.各種評価用試料の評価方法
(1)絶縁層の割れ(クラック)
上記成膜工程及びアニール工程を経た各種評価用試料につき、金属基体の表面に形成された絶縁層における割れ(クラック)の有無を、実体顕微鏡及び金属顕微鏡によって観察した。尚、当該評価は、実施例E03と比較例C03との組み合わせについては実施しなかった。
【0084】
(2)ヒートサイクル不良率
例えば、製造後の使用期間中における回路素子からの発熱に伴う温度変化の影響を評価するため、上記成膜工程及びアニール工程を経た各種評価用試料を−50℃〜250℃の温度範囲に亘るヒートサイクル試験に付し、その後の絶縁層における割れ(クラック)の有無(顕微鏡による観察結果)の発生状況に基づいて不良率を算出した。尚、当該評価は、実施例E03と比較例C03との組み合わせについてのみ実施した。
【0085】
3.各種評価用試料の評価結果
上述したように評価したクラック及びヒートサイクル不良率の評価結果についても、表1に纏めて列挙されている。表1に示すように、何れの実施例と比較例との組み合わせにおいても、本発明の構成要件を満足する(金属性物体が基材中に埋設されてなる基体部を使用する)実施例については、何れの評価用試料においても、作製直後におけるクラックは認められず、またヒートサイクル試験後においても良好な状態を維持することができた。これに対し、本発明の構成要件を満足しない(単なる金属板を基体部として使用する)比較例については、何れの評価用試料においても、作製直後から既にクラックが認められ、またヒートサイクル試験後の不良率が高くなった。また、絶縁層の加熱温度が高過ぎる比較例(C10)については、何れの評価用試料においても、作製直後から既にクラックが認められた。
【0086】
前述したように、本発明に係る放熱基板の製造方法によって製造される放熱基板においては、基体部がセラミックスを主成分として含んでなる絶縁材料からなる基材と当該基材を貫通するように当該基材中に埋設された金属を主成分として含んでなる金属性物体とを含んでなる。これにより、当該放熱基板においては、上記のような温度変化が生じた際に、相対的に大きい熱膨張係数を有する金属性物体が、相対的に小さい熱膨張係数を有するセラミック絶縁層と比較して、より大きい寸法変化を生じようとするものの、金属性物体の周囲を囲む基材は絶縁層と同等の寸法変化しか生じないため、金属性物体の寸法変化が基材によって抑制される。従って、本発明に係る放熱基板の製造方法によって製造される放熱基板においては、かかる構成を基体部が備えていない従来技術に係る放熱基板と比較して、絶縁層との寸法変化の差に起因して発生する応力が低減されることが、以上の結果からも確認された。また、比較例(C10)についての評価結果からは、絶縁層の加熱温度を好適な範囲に収めることも、絶縁層の割れ(クラック)を低減するために重要であることが確認された。
【0087】
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施態様及び変形例並びにこれらの幾つかに対応する実施例につき、時に添付図面を参照しながら説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施態様及び実施例に限定されるものと解釈されるべきではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることが可能であることは言うまでも無い。
【符号の説明】
【0088】
100…放熱基板、111…金属性物体、120…基体部、121…基材、122…絶縁層、131…表面導体、141…発光ダイオード(LED)、200…放熱基板、211…金属性物体、220…基体部、221…基材、222…絶縁層、231…表面導体、232…裏面導体、233…ビア導体、241…発光ダイオード(LED)、300…放熱基板、311…金属性物体、320…基体部、321…基材、322…絶縁層、331…表面導体、341…発光ダイオード(LED)、400…放熱基板、411…金属性物体、420…基体部、421…基材、422…絶縁層、423…絶縁層、431…表面導体、及び441…発光ダイオード(LED)。
図1
図2
図3
図4