(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6105995
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】振動溶着方法および振動溶着装置
(51)【国際特許分類】
B29C 65/06 20060101AFI20170316BHJP
【FI】
B29C65/06
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-63203(P2013-63203)
(22)【出願日】2013年3月26日
(65)【公開番号】特開2014-188673(P2014-188673A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000151209
【氏名又は名称】株式会社マーレ フィルターシステムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100096459
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 剛
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 優
(72)【発明者】
【氏名】宮本 春樹
【審査官】
長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】
特開平01−171839(JP,A)
【文献】
特開2001−026056(JP,A)
【文献】
特開2001−058355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/02−65/46
F02M 35/104
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多気筒内燃機関用の樹脂製のインテークマニホールドを構成することになる一方の部材と他方の部材の接合部同士を突き合わせて加圧拘束した上で、その加圧拘束状態で振動を加えることにより、上記接合部同士の突き合わせ部に振動溶着を施すようにした振動溶着方法であって、
上記接合部同士の突き合わせ部はインテークマニホールドの中空部に臨んでいて、
それぞれのブランチ部の開放端部に対し所定距離を隔てて独立したエアブローノズルを非接触で個別に臨ませて圧縮空気を吹き込む一方で、
上記各ブランチ部が共有しているコレクタ部の単一の開放端部に対し所定距離を隔てて吸引ノズルを非接触で臨ませて負圧吸引力を作用させながら振動溶着を施すことを特徴とする振動溶着方法。
【請求項2】
上記インテークマニホールドは強化繊維を含んだ樹脂製のものであることを特徴とする請求項1に記載の振動溶着方法。
【請求項3】
多気筒内燃機関用の樹脂製のインテークマニホールドを構成することになる一方の部材と他方の部材の接合部同士を突き合わせて加圧拘束した上で、その加圧拘束状態で振動を加えることにより、上記接合部同士の突き合わせ部に振動溶着を施すようにした振動溶着装置であって、
それぞれのブランチ部の開放端部から内部に圧縮空気を吹き込むための独立したエアブローノズルを、上記それぞれのブランチ部の開放端部に対し所定距離を隔てて非接触で対向配置するとともに、
上記各ブランチ部が共有しているコレクタ部の単一の開放端部から内部に負圧吸引力を作用させるための吸引ノズルを、上記コレクタ部の単一の開放端部に対し所定距離を隔てて非接触で対向配置してあることを特徴とする振動溶着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂部品の接合方法の一つである振動溶着方法およびそのための振動溶着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
振動溶着方法は、溶着すべき樹脂部品同士の突き合わせ部に振動を与えて、その摩擦熱により局部的に溶融させて溶着する方法であることから、溶着が完了するまでの間に細かな「ばり」や樹脂粉(これらを総称して溶着粉と言う。)が発生する。このような溶着粉の発生は環境衛生上好ましくないだけでなく、溶着の際の位置決め治具に付着したり、あるいは製品そのものに付着して、二次的不具合の要因となる。
【0003】
そこで、上記溶着粉対策として、特許文献1に記載されているように、押圧治具や製品に向けて空気吹き出し装置から空気を吹き付けて溶着粉を除去するようにしたものや、あるいは特許文献2に記載されているように、多数の吸引孔を有する吸引パイプを上下型の合わせ部の周囲に配置して、溶着粉を吸引・除去するようにしたものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−225387号公報
【特許文献2】特開2004−66740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1,2に記載された技術では、例えば両端が開放されたダクト状の中空容器を構成することになる一方の部材と他方の部材とを振動溶着するに際して、中空容器の内側に発生した溶着粉の除去には対応することができず、なおも改善の余地を残している。
【0006】
本発明はこのような課題に着目してなされたもので、両端が開放されたダクト状の中空容器を構成することになる一方の部材と他方の部材とを振動溶着するに際して、中空容器の内側に発生した溶着粉を効果的に除去できるようにした振動溶着方法および振動溶着装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
多気筒内燃機関用の樹脂製のインテークマニホールドを構成することになる一方の部材と他方の部材の接合部同士を突き合わせて加圧拘束した上で、その加圧拘束状態で振動を加えることにより、上記接合部同士の突き合わせ部に振動溶着を施すようにした振動溶着方法であって、上記接合部同士の突き合わせ部は
インテークマニホールドの中空部に臨んでいて、
それぞれのブランチ部の開放端部に対し所定距離を隔てて独立したエアブローノズルを非接触で個別に臨ませて圧縮空気を吹き込む一方で、
上記各ブランチ部が共有しているコレクタ部の単一の開放端部に対し所定距離を隔てて吸引ノズルを非接触で臨ませて負圧吸引力を作用させながら振動溶着を施すことを特徴とする。
【0008】
この場合において、上記負圧吸引力は集塵機等の吸引装置で発生した負圧吸引力とする。
【0011】
したがって、少なくとも請求項1に記載の発明では、
インテークマニホールドの長手方向に沿って、エアブローによる圧縮空気の流れと負圧吸引力による空気の流れとが形成されることになるので、それらのエアブローと負圧吸引力との相乗効果によって、
インテークマニホールドの内部に発生した溶着粉を効果的に除去することができるようになる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、エアブローと負圧吸引力との相乗効果によって、
インテークマニホールドの内部に発生した溶着粉を効果的に除去することができ、後工程での製品内部の清掃工程を廃止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る振動溶着での対象となる製品の一例を示す図で、多気筒内燃機関用のインテークマニホールドの構造を示す分解説明図。
【
図2】
図1に示したインテークマニホールドのための振動溶着装置の縦断面説明図。
【
図3】
図2に示した負圧吸引部を含む振動溶着装置の平面説明図。
【
図4】
図2に示したエアブロー部の拡大断面説明図。
【
図5】
図2に示した負圧吸引部の拡大説明図で、
図3のa方向矢視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1〜5は本発明に係る振動溶着方法を実施するためのより具体的な形態を示し、特に
図1は振動溶着の対象となる製品例として多気筒内燃機関用のインテークマニホールドの構造を示している。
【0015】
図1に示したインテークマニホールド1は、両端が開放されたダクト状の中空容器の如き形状のもので、大きく分けてロアケース2とアッパケース3およびカバー5の三部品からなり、最初にロアケース2とアッパケース3とを振動溶着することでインテークマニホールド1の本体部4が形成され、次いで本体部4に対してカバー5を振動溶着する。ロアケース2、アッパケース3およびカバー5のいずれの材質も、例えばナイロン6(登録商標)に代表されるような強化繊維(フィラー)を含んだポリアミド樹脂である。このようにロアケース2とアッパケース3およびカバー5の三部品からなるインテークマニホールド1は、変形ボックス状のコレクタ部(サージタンク部)6のほか各気筒毎に独立した複数のブランチ部7を備えていて、コレクタ部6の上面がカバー5にて閉蓋されることになる。
【0016】
なお、各ブランチ部7の端部には、図示外のシリンダヘッドとの結合のためのフランジ部8が一体に形成されていて、コレクタ部6の端部には図示外のスロットルボディとの結合のためのフランジ部9が一体に形成されていて、これらのフランジ部8,9が外部に開放された開放端部となっている。また、コレクタ部6では、フランジ部9以外にも
図1のアッパケース3の側壁相当部に開口形成された窓部10をもって外部に開放されている。
【0017】
図2は上記インテークマニホールド1のための振動溶着装置の概略断面図を示していて、また
図3は上記振動溶着装置の要部概略平面図を示している。ここでは、
図1に示したように、ロアケース2とアッパケース3とが予め振動溶着されることによりインテークマニホールド1の本体部4が形成されていて、この本体部4のコレクタ部6に対してカバー5を振動溶着するものとする。
【0018】
図2に示すように、堅牢な架台11の上に下部溶着治具12が固定されているとともに、この昇降可能な下部溶着治具12に対して上部溶着治具13が対向配置されている。そして、下部溶着治具12が下降している状態で、下部溶着治具12上の複数の位置決めブロック14の上にインテークマニホールド1の本体部4を位置決めするとともに、カバー5を上部溶着治具13に位置決めし、その状態で下部溶着治具12を上昇させて本体部4とカバー5とを下から加圧拘束する。この場合において、周知のように、本体部4とカバー5の双方の接合部のうち少なくともいずれか一方には凸状のビード部が予め形成されていて、このビード部を相手側に突き合わせた状態で振動溶着に供するものとする。
【0019】
このような加圧拘束状態で、例えば上部溶着治具13によりカバー5に対し
図3の矢印Fで示すような所定振幅の振動が付加されると、本体部4とカバー5同士の突き合わせ部が振動付加による摩擦熱で局部的に溶融することにより相互に溶着され、両者が一体化されることになる。
【0020】
図2に示すように、下部溶着治具12を支えている架台11には、本体部4における各ブランチ部7の開放端部であるフランジ部8と対向するようにして、そのフランジ部8の並設方向に沿ってプレート状のノズルホルダ15を設けてある。
図2のほか
図4に示すように、ノズルホルダ15にはそれぞれのブランチ部7毎に独立したエアブローノズル16を各ブランチ部7の開放端内部に臨ませるように設けてある。それぞれのエアブローノズル16はそのエアブロー方向がブランチ部7の内部を指向してはいても、各ブランチ部7の開放端部であるフランジ部8に対し所定距離C1だけ隔てて非接触としてある。そして、各エアブローノズル16は図示しない圧縮空気供給源に接続されており、それぞれのブランチ部7の内部に向けて圧縮空気を吹き込んでいわゆるエアブローを行うようになっている。
【0021】
他方、
図3に示すように、下部溶着治具12上には本体部4側の開放端部であるフランジ部9と対向するようにして金属製の吸引ノズル17を設けてある。この吸引ノズル17もフランジ部9に対し所定距離C2だけ隔てて非接触で対向配置されている。吸引ノズル17は、
図5に示すように例えばステンレス製のエルボ状のものであって、静電気(帯電)防止ホース18を介して吸引装置(負圧吸引源)である図示しない集塵機に接続されているとともに、
図3のフランジ部9と対向する部分には静電気(帯電)防止ホースをカットして形成したプロテクタ19を装着してある。これにより、吸引ノズル17は本体部4側の開放端部であるフランジ部9と非接触ではあっても、集塵機による負圧吸引力を少なくとも本体部4の内部に及ぼすことができるようになっている。
【0022】
したがって、このように構成された振動溶着装置によれば、
図2,3に示すように、インテークマニホールド1の本体部4とカバー5との相対位置決めを行いつつ、それら両者を下部溶着治具12と上部溶着治具13とで加圧拘束し、
図3の矢印F方向の所定振幅の振動を所定時間付与することにより、本体部4とカバー5とが溶着されて一体化される。
【0023】
その際に、振動を付加するのに先立って、
図4の各エアブローノズル16からそれぞれのブランチ部7の内部に向けて圧縮空気を吹き込んでいわゆるエアブローを行う一方、それと並行して
図3,5の吸引ノズル17からコレクタ部6の内部に負圧吸引力を作用させ、その集塵状態で上記のように振動を付加して振動溶着を行うものとする。そして、上記のようなエアブローと負圧吸引力とを併用したいわゆる集塵は、振動溶着が終了するまで継続するものとする。
【0024】
この場合において、それぞれのエアブローノズル16および吸引ノズル17はインテークマニホールド1の本体部4に対して所定距離C1またはC2だけ隔てて非接触としてあるため、その本体部4に振動が付加されたとしてもエアブローノズル16や吸引ノズル17が本体部4と衝突することはなく、本体部4側に傷を付けてしまうこともなければ、異音が発生することもない。
【0025】
これにより、
図2,3に矢印Mで示すように、振動溶着中のインテークマニホールド1の内部には、それぞれのブランチ部7の開放端部であるフランジ部8からコレクタ部6側の開放端部であるフランジ部9へと向かう指向性の強い空気の流れが形成される。同時に、コレクタ部6の内部においても
図1の窓部10からフランジ部9へと向かう指向性の強い空気の流れが形成される。そして、本体部4とカバー5との実際に溶着にあずかる部分は、上記のような空気の流れのなかに臨んでいることになり、実際に溶着にあずかる部分にも上記のような空気の流れが及ぶことになる。
【0026】
そのため、本体部4とカバー5との振動溶着に伴って発生した溶着粉は、エアブローによって吹き飛ばれるようにして本体部4等から離間し、負圧吸引力により集塵機側に吸引されることになり、本体部4やカバー5等に付着したままとなることはない。
【0027】
また、それぞれのエアブローノズル16および吸引ノズル17はインテークマニホールド1の本体部4に対して所定距離C1またはC2だけ隔てて非接触としてあるため、エアブローノズル16から吹き出される圧縮空気の吸い込み(サクション)効果によって各ブランチ部7のフランジ部8側からの外気の吸い込みを積極的に促進できるとともに、
図1に示したコレクタ部6の窓部10からも外気を積極的に吸い込むことができるようになる。
【0028】
ここで、上記のようにコレクタ部6の窓部10からも外気を積極的に吸い込むのと並行して、コレクタ部6には不図示の幾つかのパイプ類が付帯していて、これらのパイプ類は大気開放されている故に、これらのパイプ類によってもコレクタ部6内に外気を積極的に吸い込むことができる。
【0029】
そのため、特にコレクタ部6において密閉空間での真空状態となることはなく、エアブローと負圧吸引力との相乗効果によってコレクタ部6の内部には常に流動状態で空気の流れが形成されているので、コレクタ部6の隅々まで負圧吸引力が満遍なく及ぶことになり、コレクタ部6内の溶着粉を効果的に吸引・除去することができる。
【0030】
そして、先にも述べたように、インテークマニホールド1の本体部4やカバー5の材質として、例えばナイロン6(登録商標)等に代表されるような強化繊維(フィラー)を含んだポリアミド樹脂が採用されている場合には、実際に溶着にあずかる部分での振動摩擦によって繊維質の溶着粉の発生が不可避であるが、これらの溶着粉も効果的に吸引・除去することができる。
【0031】
このように本実施の形態によれば、インテークマニホールド1の本体部4とカバー5との振動溶着に際して、本体部4の内部空間を通してエアブローと負圧吸引力とを併用した集塵を行うようにしたので、振動溶着に際して本体部4の内部に発生する溶着粉を振動溶着と並行して効果的に集塵することができるので、振動溶着後の後工程での清掃を廃止でき、工数削減が図れる。また、本体部4に付加される振動を利用してエアブローしながら吸引するため、溶着粉を効果的に落としながら吸引・除去することができるほか、本体部4の外部に発生する溶着粉を抑制できるため、治具等への付着防止を図ることができるとともに、環境衛生上も好ましいものとなる。
【0032】
ここで、上記実施の形態では、
図1に示したインテークマニホールド1の本体部4とカバー5とを振動溶着する場合について例示しているが、本体部4を構成することになるロアケース2とアッパケース3とを振動溶着する場合にも本発明を適用することができ
る。
【符号の説明】
【0033】
1…インテークマニホールド(中空容器)
2…ロアケース
3…アッパケース
4…本体部
5…カバー
6…コレクタ部
7…ブランチ部
16…エアブローノズル
17…吸引ノズル