特許第6106054号(P6106054)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6106054テトラキス(カルボキシアルキル)グリコールウリル類とその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6106054
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】テトラキス(カルボキシアルキル)グリコールウリル類とその利用
(51)【国際特許分類】
   C07D 487/04 20060101AFI20170316BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
   C07D487/04 136
   C07D487/04CSP
   C08L63/00 C
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-189535(P2013-189535)
(22)【出願日】2013年9月12日
(65)【公開番号】特開2015-54843(P2015-54843A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2016年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000180302
【氏名又は名称】四国化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079120
【弁理士】
【氏名又は名称】牧野 逸郎
(72)【発明者】
【氏名】熊野 岳
(72)【発明者】
【氏名】武田 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】三浦 昌三
(72)【発明者】
【氏名】溝部 昇
【審査官】 水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−171887(JP,A)
【文献】 特表2001−502003(JP,A)
【文献】 特開2000−038438(JP,A)
【文献】 米国特許第03187005(US,A)
【文献】 特開昭54−019917(JP,A)
【文献】 英国特許第00722541(GB,B)
【文献】 KANG, J.et.al.,A new anion receptor with a glycoluril molecular scaffold,Supramolecular Chemistry,Taylor & Francis Ltd.,2004年,16(3),175-179
【文献】 佐藤正常,ヒダントイン類とアクリロニトリルとの反応,日本化学雑誌,日本,日本化学会,1962年,83巻3号,318-323
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】
(式中、nは0又は1を示し、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又は炭素原子数1〜5の低級アルキル基を示す。)
で表される1,3,4,6−テトラキス(カルボキシアルキル)グリコールウリル類。
【請求項2】
請求項1に記載の1,3,4,6−テトラキス(カルボキシアルキル)グリコールウリル類を含むエポキシ樹脂用架橋剤。
【請求項3】
請求項2に記載のエポキシ樹脂用架橋剤を含むエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
溶媒の存在下又は不存在下、酸の存在下に、一般式(a)
【化2】
(式中、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又は炭素原子数1〜5の低級アルキル基を示す。)
で表されるジカルボニル化合物と一般式(b)
【化3】
(式中、R3炭素原子数1〜3の低級アルキル基を示す。)
で表される尿素誘導体(b)を反応させることを含む一般式(II)
【化4】
(式中、R1及びR2は前記と同じである。)
で表される1,3,4,6−テトラキス(カルボキシメチル)グリコールウリル類の製造方法。
【請求項5】
溶媒の存在下又は不存在下、塩基の存在下に、一般式(c)
【化5】
(式中、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又は炭素原子数1〜5の低級アルキル基を示す。)
で表されるグリコールウリル類とアクリロニトリルを反応させて、一般式(d)
【化6】
(式中、R1及びR2は前記と同じである。)
で表される1,3,4,6−テトラキス(2−シアノエチル)グリコールウリル類を得る第1工程、次いで、溶媒の存在下又は不存在下、酸の存在下に、上記1,3,4,6−テトラキス(2−シアノエチル)グリコールウリル類を加水分解する第2工程を含む一般式(III)
【化7】
(式中、R1及びR2は前記と同じである。)
で表される1,3,4,6−テトラキス(カルボキシエチル)グリコールウリル類の製造方法。
【請求項6】
一般式(d)
【化8】
(式中、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又は炭素原子数1〜5の低級アルキル基を示す。)
で表される1,3,4,6−テトラキス(2−シアノエチル)グリコールウリル類。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なテトラキス(カルボキシアルキル)グリコールウリル類とその利用、特に、エポキシ樹脂用架橋剤としての利用に関する。更に、本発明は、テトラキス(カルボキシアルキル)グリコールウリル類の製造方法とその製造のための中間体に関する。
【背景技術】
【0002】
グリコールウリル類は4個の尿素系窒素を環構造中に有するヘテロ環化合物であって、上記尿素系窒素の反応性を利用して、種々の用途や新規な機能性化合物の製造に用いられている。
【0003】
例えば、グリコールウリル類をジメトキシエタナールのようなアルデヒド類と反応させてアミノプラスチック樹脂とし、これをセルロースのための架橋剤として用いることが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、酢酸ビニルとエチレンと自己架橋性単量体からなる共重合体とテトラメチロールグリコールウリル類を含むエマルジョンを不織布のためのバインダーとして用いることが提案されている(特許文献2参照)。水溶性高分子抗菌剤であるポリヘキサメチレンビグアナイド化合物を繊維に固着させるための架橋剤として用いることも提案されている(特許文献3参照)。
【0005】
一方、反応性に富むアリル基を複数、分子中に有する化合物、例えば、トリアリルイソシアヌレレートは合成樹脂や合成ゴムの架橋剤としてよく知られているが、同様に、合成樹脂や合成ゴムの架橋剤として機能する分子中に4個のアリル基を有するテトラアリルグリコールウリル類も知られている(特許文献4参照)。
【0006】
分子内に複数のカルボキシル基を有する化合物も、例えば、エポキシ樹脂の架橋剤としてよく知られている。例えば、その代表例はトリス(カルボキシエチル)イソシアヌレートであって、反応性に富むカルボキシル基を分子内に3個有しており、エポキシ樹脂等の架橋剤として用いられている(特許文献5参照)。トリス(カルボキシエチル)イソシアヌレートをフラックス材料とすることも提案されている(特許文献6参照)。
【0007】
しかし、グリコールウリル化合物の4個の窒素原子上の水素原子が全てカルボキシアルキル基で置換された化合物は、エポキシ樹脂等の架橋剤として機能することが期待されるが、これまで知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−67729号公報
【特許文献2】特開平2−261851号公報
【特許文献3】特開平7−82665号公報
【特許文献4】特開平11−171887号公報
【特許文献5】特表平8−506134号公報
【特許文献6】特開2002−146159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、新規なテトラキス(カルボキシアルキル)グリコールウリル類とその利用、特に、エポキシ樹脂用架橋剤を提供することを目的とする。さらに、本発明は、テトラキス(カルボキシアルキル)グリコールウリル類の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、一般式(I)
【0011】
【化1】
【0012】
(式中、nは0又は1を示し、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又は低級アルキル基を示す。)
で表される1,3,4,6−テトラキス(カルボキシアルキル)グリコールウリル類が提供される。
【0013】
本発明によれば、上記1,3,4,6−テトラキス(カルボキシアルキル)グリコールウリル類の利用として、エポキシ樹脂用の架橋剤が提供され、更には、そのエポキシ樹脂用架橋剤とアミン類からなる硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物が提供される。
【0014】
更に、本発明によれば、上記1,3,4,6−テトラキス(カルボキシアルキル)グリコールウリル類の製造方法が提供される。
【0015】
即ち、溶媒の存在下又は不存在下、酸の存在下に、一般式(a)
【0016】
【化2】
【0017】
(式中、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又は低級アルキル基を示す。)
で表されるジカルボニル化合物と一般式(b)
【0018】
【化3】
【0019】
(式中、R3は低級アルキル基を示す。)
で表される尿素誘導体を反応させることを含む一般式(II)
【0020】
【化4】
【0021】
(式中、R1及びR2は前記と同じである。)
で表される1,3,4,6−テトラキス(カルボキシメチル)グリコールウリル類の製造方法が提供される。
【0022】
また、溶媒の存在下又は不存在下、塩基の存在下に、一般式(c)
【0023】
【化5】
【0024】
(式中、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又は低級アルキル基を示す。)
で表されるグリコールウリル類とアクリロニトリルを反応させて、一般式(d)
【0025】
【化6】
【0026】
(式中、R1及びR2は前記と同じである。)
で表される1,3,4,6−テトラキス(2−シアノエチル)グリコールウリル類を得る第1工程、次いで、溶媒の存在下又は不存在下、酸の存在下に、上記1,3,4,6−テトラキス(2−シアノエチル)グリコールウリル類を加水分解する第2工程を含む一般式(III)
【0027】
【化7】
【0028】
(式中、R1及びR2は前記と同じである。)
で表される1,3,4,6−テトラキス(カルボキシエチル)グリコールウリル類の製造方法が提供される。
【0029】
上述したほか、本発明によれば、上記1,3,4,6−テトラキス(カルボキシエチル)グリコールウリル類の製造のための中間体である前記一般式(d)で表される1,3,4,6−テトラキス(2−シアノエチル)グリコールウリル類が提供される。
【発明の効果】
【0030】
本発明による1,3,4,6−テトラキス(カルボキシアルキル)グリコールウリル類は、分子中の4個の窒素原子上の水素原子がすべて、カルボキシルアルキル基で置換された新規な化合物、即ち、分子中に4個のカルボキシル基を有するグリコールウリル類である。
【0031】
本発明によるこのような1,3,4,6−テトラキス(カルボキシアルキル)グリコールウリル類は4官能性であるので、例えば、エポキシ樹脂の架橋剤として用いた場合、従来の2官能性や3官能性の架橋剤を用いた場合よりも、架橋密度のより高いエポキシ樹脂硬化物、従って、例えば、硬度、耐熱性、耐湿性等によりすぐれたエポキシ樹脂硬化物を得ることができる。
【0032】
また、本発明の方法によれば、上述した1,3,4,6−テトラキス(カルボキシアルキル)グリコールウリル類を収率よく得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】1,3,4,6−テトラキス(カルボキシメチル)グリコールウリルのIRスペクトルである。
図2】1,3,4,6−テトラキス(2−シアノエチル)グリコールウリルのIRスペクトルである。
図3】1,3,4,6−テトラキス(2−カルボキシエチル)グリコールウリルのIRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明による1,3,4,6−テトラキス(カルボキシアルキル)グリコールウリル類は一般式(I)
【0035】
【化8】
【0036】
(式中、nは0又は1を示し、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又は低級アルキル基を示す。)
で表される。
【0037】
上記一般式(I)で表される1,3,4,6−テトラキス(カルボキシアルキル)グリコールウリル類において、R1又はR2が低級アルキル基であるとき、その低級アルキル基は、通常、炭素原子数1〜5であり、好ましくは、1〜3であり、最も好ましくは1であり、従って、最も好ましい上記低級アルキル基はメチル基である。
【0038】
従って、本発明による1,3,4,6−テトラキス(カルボキシアルキル)グリコールウリル類の好ましい具体例として、例えば、
1,3,4,6−テトラキス(カルボキシルメチル)グリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(2−カルボキシルエチル)グリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(カルボキシルメチル)−3a−メチルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(2−カルボキシルエチル)−3a−メチルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(カルボキシルメチル)−3a,6a−ジメチルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(2−カルボキシルエチル)−3a,6a−ジメチルグリコールウリル
等を挙げることができる。
【0039】
本発明による前記1,3,4,6−テトラキス(カルボキシアルキル)グリコールウリル類のうち、nが0であるもの、即ち、下記一般式(II)
【0040】
【化9】
【0041】
(式中、R1及びR2は前記と同じである。)
で表される1,3,4,6−テトラキス(カルボキシメチル)グリコールウリル類は、次式に従って、一般式(a)
【0042】
【化10】
【0043】
(式中、R1及びR2は前記と同じである。)
で表されるジカルボニル化合物を、必要に応じて適宜の溶媒中、酸の存在下に一般式(b)
【0044】
【化11】
【0045】
(式中、R3は低級アルキル基を示す。)
で表される尿素誘導体(b)と反応させることによって得ることができる。
【0046】
上記尿素誘導体(b)中のエステル基(−CO23)は、反応の際に加水分解されるエステル基であって、基R3は、好ましくは、炭素原子数1〜3のアルキル基であり、より好ましくは、メチル基又はエチル基である。従って、上記尿素誘導体(b)としては、例えば、N,N’−カルボニルビス(グリシンメチル)やN,N’−カルボニルビス(グリシンエチル)が好ましく用いられる。
【0047】
上記尿素誘導体(b)は上記ジカルボニル化合物(a)1モル部に対して2〜10モル部の割合にて、好ましくは、2〜4モル部の割合にて用いられる。
【0048】
また、上記ジカルボニル化合物(a)としては、例えば、グリオキザール、2−オキソプロパナール、ジアセチル等が用いられる。
【0049】
上記ジカルボニル化合物(a)と上記尿素誘導体(b)の反応において用いられる酸としては、塩酸、硫酸等の無機酸や酢酸等の有機酸を挙げることができる。これら酸は、通常、ジカルボニル化合物(a)1モル部に対して、0.05〜10モル部の割合、好ましくは、0.1〜1.0モル部の割合で用いられる。
【0050】
上記ジカルボニル化合物(a)と上記尿素誘導体(b)の反応において、溶媒は、これを用いるときは、反応を阻害しない限りは、特に制限されることはないが、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールのようなアルコール類、ヘキサン、ヘプタンのような脂肪族炭化水素類、アセトン、2−ブタノンのようなケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルのようなエステル類、ベンゼン、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロトリフルオロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンのようなハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテルのようなエーテル類、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルピロリジノン、ヘキサメチルホスホロトリアミドのようなアミド類、ジメチルスルホキシドのようなスルホキシド類等を挙げることができる。このような溶媒は単独で、又は2種以上を組み合わせて、適宜量が用いられる。
【0051】
上記ジカルボニル化合物(a)と上記尿素誘導体(b)の反応は、通常、−10〜150℃の範囲の温度で行なわれ、好ましくは、0℃〜100℃の範囲の温度で行なわれる。また、反応時間は、反応温度にもよるが、通常、1〜24時間の範囲であり、好ましくは、1〜6時間の範囲である。
【0052】
上記ジカルボニル化合物(a)と上記尿素誘導体(b)の反応の終了後、得られた反応混合物から、例えば、抽出等の操作によって、目的とする1,3,4,6−テトラキス(カルボキシメチル)グリコールウリル類を得ることができる。必要に応じて、更に、水等の溶媒による洗浄や活性炭処理等によって、目的とする1,3,4,6−テトラキス(カルボキシメチル)グリコールウリル類を精製することができる。
【0053】
本発明による1,3,4,6−テトラキス(カルボキシアルキル)グリコールウリル類のうち、nが1であるもの、即ち、下記一般式(III)
【0054】
【化12】
【0055】
(式中、R1及びR2は前記と同じである。)
で表される1,3,4,6−テトラキス(2−カルボキシエチル)グリコールウリル類は、一般式(c)
【0056】
【化13】
【0057】
(式中、R1及びR2は前記と同じである。)
で表されるグリコールウリル類と、好ましくは適宜の溶媒中、塩基の存在下にアクリロニトリルを反応させて、一般式(d)
【0058】
【化14】
【0059】
(式中、R1及びR2は前記と同じである。)
で表される1,3,4,6−テトラキス(2−シアノエチル)グリコールウリル類を得る第1工程、次いで、得られた1,3,4,6−テトラキス(2−シアノエチル)グリコールウリル類を好ましくは適宜の溶媒中、酸の存在下に加水分解する第2工程を経ることによって得ることができる。
【0060】
上記第1工程、即ち、グリコールウリル類(c)とアクリロニトリルとの反応において、アクリロニトリルはグリコールウリル類(c)1モル部に対して、通常、4.0〜20.0モル部の割合にて、好ましくは、4.0〜8.0モル部の割合にて用いられる。
【0061】
上記第1工程における塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムtert−ブトキシド等の無機塩基や、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、DBU(1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデ−7−セン)等の有機塩基が用いられる。これら塩基は、グリコールウリル類(c)1モル部に対して、通常、0.01〜5.0モル部の割合で用いられ、好ましくは、0.01〜1.0モル部の割合で用いられる。
【0062】
また、上記第1工程において、溶媒は、これを用いるときは、反応を阻害しない限りは、特に、制限されることはないが、例えば、前記ジカルボニル化合物(a)と前記尿素誘導体(b)の反応において用いる溶媒と同じ溶媒を用いることができる。
【0063】
上記第1工程における反応温度と反応時間も、前記ジカルボニル化合物(a)と前記尿素誘導体(b)の反応における反応温度と反応時間と同じである。
【0064】
上述した第1及び第2工程による1,3,4,6−テトラキス(カルボキシエチル)グリコールウリル類の合成に際しては、上記第1工程の終了後、得られた反応混合物から過剰のアクリロニトリルと溶媒を留去し、得られた残留物をそのまま、第2工程において、加水分解してもよいし、また、得られた1,3,4,6−テトラキス(2−シアノエチル)グリコールウリル類を反応混合物から適宜手段にて分離して、これを第2工程において、加水分解に供してもよい。
【0065】
上記第2工程、即ち、1,3,4,6−テトラキス(2−シアノエチル)グリコールウリル類の加水分解において用いられる酸としては、塩酸、硫酸等の無機酸や酢酸等の有機酸を挙げることができる。これら酸は、1,3,4,6−テトラキス(2−シアノエチル)グリコールウリル類1モル部に対して、通常、0.1〜20.0モル部の割合にて、好ましくは、1.0〜3.0モル部の割合にて用いられる。
【0066】
上記第2工程において用いられる溶媒は、反応を阻害しない限りは、特に、制限されることはないが、例えば、前記ジカルボニル化合物(a)と前記尿素誘導体(b)の反応において用いる溶媒と同じ溶媒を用いることができる。
【0067】
また、上記1,3,4,6−テトラキス(2−シアノエチル)グリコールウリル類の加水分解の反応は、通常、0〜150℃の範囲の温度で行なわれ、好ましくは、室温乃至100℃の範囲の温度で行なわれる。また、反応時間は、反応温度にもよるが、通常、1〜36時間の範囲であり、好ましくは、1〜16時間の範囲である。
【0068】
このようにして、上記1,3,4,6−テトラキス(2−シアノエチル)グリコールウリル類の加水分解反応の終了後、得られた反応混合物から、例えば、抽出等の操作によって、目的とする1,3,4,6−テトラキス(2−カルボキシエチル)グリコールウリル類を得ることができる。必要に応じて、更に、水等の溶媒による洗浄や活性炭処理等によって、目的とする1,3,4,6−テトラキス(2−カルボキシエチル)グリコールウリル類を精製することができる。
【0069】
本発明による1,3,4,6−テトラキス(カルボキシアルキル)グリコールウリル類は、前述したように、分子中に4個のカルボキシル基を有し、従って、例えば、エポキシ樹脂のための架橋剤として有用である。
【0070】
本発明によるエポキシ樹脂組成物は、前記一般式(I)で表される1,3,4,6−テトラキス(カルボキシアルキル)グリコールウリル類を架橋剤として含み、更に、アミン類からなる硬化剤を含む。
【0071】
本発明に従って、1,3,4,6−テトラキス(カルボキシアルキル)グリコールウリル類を架橋剤として含むと共にアミン類からなる硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物は、従来、知られているエポキシ樹脂組成物に比べて、架橋密度のより高いエポキシ樹脂硬化物、従って、例えば、硬度、耐熱性、耐湿性等によりすぐれたエポキシ樹脂硬化物を与える。
【0072】
本発明において、上記エポキシ樹脂とは、平均して1分子当り2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物をいい、従って、よく知られているように、そのようなエポキシ樹脂として、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、カテコール、レゾルシノール等の多価フェノール、グリセリンやポリエチレングリコール等の多価アルコールとエピクロルヒドリンを反応させて得られるポリグリシジルエーテル類、p−ヒドロキシ安息香酸、β−ヒドロキシナフトエ酸のようなヒドロキシカルボン酸とエピクロルヒドリンを反応させて得られるグリシジルエーテルエステル類、フタル酸、テレフタル酸のようなポリカルボン酸とエピクロルヒドリンを反応させて得られるポリグリシジルエステル類、更に、エポキシ化フェノールノボラック樹脂、エポキシ化クレゾールノボラック樹脂、エポキシ化ポリオレフィン、環式脂肪族エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂等を挙げることができるが、しかし、本発明において、エポキシ樹脂は上記例示に限定されるものではない。
【0073】
本発明によるエポキシ樹脂組成物におけるアミン類からなる硬化剤としては、従来から知られているように、エポキシ基と付加反応し得る活性水素を分子内に1個以上有すると共に、1級アミノ基、2級アミノ基及び3級アミノ基から選ばれるアミノ基を分子内に少なくとも1個有するものであればよい。このようなアミン類からなる硬化剤として、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、n−プロピルアミン、2−ヒドロキシエチルアミノプロピルアミン、シクロヘキシルアミン、4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタンのような脂肪族アミン類、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、2−メチルアニリン等の芳香族アミン類、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾリン、2,4−ジメチルイミダゾリン、ピペリジン、ピペラジンのような窒素含有複素環化合物等を挙げることができる。しかし、本発明において、アミン類からなる硬化剤は上記例示に限定されるものではない。
【0074】
更に、本発明によるエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、充填剤、希釈剤、溶剤、顔料、可撓性付与剤、カップリング剤、酸化防止剤等、種々の添加剤を含んでいてもよい。
【実施例】
【0075】
以下に本発明を実施例によって説明するが、本発明はそれら実施例によって特に限定されるものではない。
【0076】
尚、以下において、N,N’−カルボニルビス(グリシンメチル)は、Synlett、第7巻、第1104〜1106頁(2010年)に記載された方法に従って合成したものを用いた。
【0077】
また、40%グリオキザール水溶液、グリコールウリル及びアクリロニトリルはいずれも東京化成工業(株)製を用い、DBUは和光純薬工業(株)製を用いた。
【0078】
実施例1
(1,3,4,6−テトラキス(カルボキシルメチル)グリコールウリルの合成)
温度計を備えた100mLフラスコにN,N’−カルボニルビス(グリシンメチル)2.04g(10.0mmol)、40%グリオキザール水溶液726mg(5.0mmol)、酢酸10mL及び硫酸49mg(0.5mmol)を投入した。
【0079】
得られた混合物を110℃にて終夜攪拌した後、室温まで冷却し、アセトン50mLを加え、析出した結晶を濾別し、乾燥して、1,3,4,6−テトラキス(カルボキシルメチル)グリコールウリル1.26gを白色結晶として得た。収率67%。
【0080】
得られた1,3,4,6−テトラキス(カルボキシルメチル)グリコールウリルは融点223〜239℃であった。そのIRスペクトルを図1に示す。また、そのH−NMRスペクトル(d6−DMSO)におけるδ値は下記のとおりであった。
【0081】
12.8(br,4H),5.52(s,2H),4.05(d,4H),3.85(d,4H)
【0082】
実施例2
(1,3,4,6−テトラキス(2−シアノエチル)グリコールウリルの合成)
温度計を備えた200mLオートクレーブ容器にグリコールウリル13.54g(95.3mmol)、アクリロニトリル35.38g(666.8mmol)、DBU0.58g(3.8mmol)及び水54mLを投入した。
【0083】
得られた混合物を120℃にて5時間攪拌した後、室温まで冷却した。析出した結晶を濾別し、アセトン50mL/水10mLの混合溶媒から再結晶して、1,3,4,6−テトラキス(2−シアノエチル)グリコールウリル20.75gを白色結晶として得た。収率61%。
【0084】
得られた1,3,4,6−テトラキス(2−シアノエチル)グリコールウリルの融点は139〜141℃であった。そのIRスペクトルを図2に示す。また、そのH−NMRスペクトル(d6−DMSO)におけるδ値は下記のとおりであった。
【0085】
5.50(s,2H),3.64−3.71(m,4H),3.44−3.51(m,4H),2.79(t,8H)
【0086】
実施例3
(1,3,4,6−テトラキス(2−カルボキシルエチル)グリコールウリルの合成)
温度計を備えた100mLフラスコに1,3,4,6−テトラキス(2−シアノエチル)グリコールウリル10.00g(28.2mmol)と濃塩酸20mLを投入した。
【0087】
得られた混合物を110℃にて2時間攪拌した後、減圧下で濃縮し、得られた濃縮物にアセトン40mLを投入した。不溶物を濾過によって除去した後、濾液を氷冷下に1時間攪拌した。析出した結晶を濾別し、乾燥して、1,3,4,6−テトラキス(2−カルボキシルエチル)グリコールウリル4.62gを白色結晶として得た。収率38%。
【0088】
得られた1,3,4,6−テトラキス(2−カルボキシルエチル)グリコールウリルの融点は115〜121℃であった。そのIRスペクトルを図3に示す。また、そのH−NMRスペクトル(D2O)におけるδ値は下記のとおりであった。
【0089】
3.99(s,2H),3.88(t,2H),3.66(t,2H),3.57(t,2H),3.27(t,2H),2.64(t,2H),2.58(t,4H),2.05(t,2H)
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明による1,3,4,6−テトラキス(カルボキシアルキル)グリコールウリル類は、4個の窒素原子を環構造中に有するヘテロ環からなり、それぞれの窒素原子上の水素原子がいずれもカルボキシルアルキル基で置換された新規な化合物、即ち、分子中に4個のカルボキシル基を有する化合物である。
【0091】
従って、このような化合物は、例えば、エポキシ樹脂の架橋剤や半田フラックス活性剤として有用である。

図1
図2
図3