(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アルカリ易溶性ポリエステル成分及びアルカリ難溶性ポリエステル成分を有するポリエステル高配向未延伸糸を、温度150〜200℃、延伸倍率1.5〜1.7倍、仮撚係数20000〜30000の条件でピンタイプの仮撚具により延伸仮撚しながら、デリベリローラから糸速80〜150m/分で引き出し、割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸を得る工程と、
前記割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸を分繊する分繊工程と、
を備える、割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の製造方法。
前記ポリエステル高配向未延伸糸は、総繊度が180〜300dtexであり、フィラメント数が6〜16本である、請求項1に記載の割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の製造方法。
前記ポリエステル高配向未延伸糸におけるアルカリ易溶性ポリエステル成分とアルカリ難溶性ポリエステル成分との質量比率(アルカリ易溶性ポリエステル成分/アルカリ難溶性ポリエステル成分)が、5/95〜30/70の範囲にある、請求項1または2に記載の割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の製造方法。
前記アルカリ難溶性ポリエステル成分が、ポリエチレンテレフタレートである、請求項1〜3のいずれかに記載の割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の製造方法。
前記分繊工程において得られる前記割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の単糸繊度を5〜30dtexとする、請求項1〜4のいずれかに記載の割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来法に基づく仮撚加工では、捲縮の強いウーリー分繊糸を得るためにマルチフィラメント糸に強い捲縮を与えると、単糸が集束し、後に分繊し難くなるという問題がある。そこで、マルチフィラメント糸に強い捲縮を与えずにウーリー分繊糸を得る手法が広く採用されている。しかしながら、捲縮が弱くなると、織編物の風合い、質感などが向上し難いだけでなく、単糸の断面形状が変形しにくく、織編物の目ズレを抑制し難い。しかも、マルチフィラメント糸に与える捲縮が弱いと、分繊糸のパッケージを解舒した際の張力変動を十分に緩和できず、解舒不良を起こすことがある。その結果、織編物の表面に筋状の欠点(パーンビケ)が現れ易くなる。
【0007】
本発明は、上記の従来技術の欠点を解消するものである。すなわち、本発明は、高捲縮でありながら分繊性に優れる割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の製造方法を提供することを主な目的とする。当該製造方法により得られる割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸は、目ズレ及びパーンビケが発生し難く、かつ、風合い及び質感に優れた織編物を構成するのに適した、極細ポリエステルモノフィラメント捲縮糸を得るために使用することができるものである。さらに、本発明は、当該製造方法により得られた割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸を用いた織編物の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、従来法に基づいてマルチフィラメント糸に強い捲縮を与えた際に、優れた分繊性などに所望の効果が得られない原因について検討を重ねたところ、従来法では、マルチフィラメント糸の捲縮を強くするのに伴い、当該分繊糸のクリンプ形状が大きな弧を描くが如くになり、これに起因して単糸の揃い易い部分が多く出現し、これが分繊性を低めている要因になっていると考えられた。そこで、本発明者は、捲縮の強さは弱めずにクリンプ形状を小さくできる仮撚条件について検討を重ねた。その結果、スピンドル方式による特定条件でマルチフィラメント糸を仮撚りすると、マルチフィラメント糸に強い捲縮を与えつつ、単糸のクリンプ形状を緻密なものとすることができることを見出した。さらに、このような方法で得られた緻密なクリンプ形状を有する分繊糸を加工することで、目ズレ及びパーンビケが発生し難く、かつ、風合い、質感にも優れた織編物を製造することができることも見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成された発明である。
【0009】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. アルカリ易溶性ポリエステル成分及びアルカリ難溶性ポリエステル成分を有するポリエステル高配向未延伸糸を、温度150〜200℃、延伸倍率1.5〜1.7倍、仮撚係数20000〜30000の条件でピンタイプの仮撚具により延伸仮撚しながら、デリベリローラから糸速80〜150m/分で引き出し、割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸を得る工程と、
前記割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸を分繊する分繊工程と、
を備える、割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の製造方法。
項2. 前記ポリエステル高配向未延伸糸は、総繊度が180〜300dtexであり、フィラメント数が6〜16本である、項1に記載の割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の製造方法。
項3. 前記ポリエステル高配向未延伸糸におけるアルカリ易溶性ポリエステル成分とアルカリ難溶性ポリエステル成分との質量比率(アルカリ易溶性ポリエステル成分/アルカリ難溶性ポリエステル成分)が、5/95〜30/70の範囲にある、項1または2に記載の割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の製造方法。
項4. 前記アルカリ難溶性ポリエステル成分が、ポリエチレンテレフタレートである、項1〜3のいずれかに記載の割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の製造方法。
項5. 前記分繊工程において得られる前記割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の単糸繊度を5〜30dtexとする、項1〜4のいずれかに記載の割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の製造方法。
項6. 項1〜5のいずれかに記載の製造方法で得られた割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸を製織編する工程と、
前記製織編された割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸に対してアルカリ溶出処理を行い、前記割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸を単糸繊度0.05〜3dtexの極細ポリエステルモノフィラメント捲縮糸に分割するアルカリ溶出処理工程と、
を備える、織編物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、高捲縮かつ緻密なクリンプ形状を有する割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸が得られる。割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸においては、クリンプ形状を小さくすることで、単糸が揃いにくくなり、割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸からの分繊性に優れている。また、高捲縮を有するため、割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸から得られる極細ポリエステルモノフィラメント捲縮糸を用いて織編物を構成した際、織編物の風合い、質感が向上する。高捲縮及び単糸の断面形状の変形により、織編物にシャリ感も付与できる。また、織編物に対して、極細ポリエステルモノフィラメント捲縮糸に由来するマイクロソフトタッチ風合いを付与できる。この他、割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸を巻き取ったパッケージの解舒性も良好となり、パーンビケが発生し難くなる。さらに、本発明では、供給糸として高配向未延伸糸を使用すると共に、ピンタイプの仮撚具を使用しているため、単糸の断面形状が適度に変形する。このため、織編物の目ズレを十分に抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の製造方法は、以下の工程(1)及び(2)を備えることを特徴とする。
(1)アルカリ易溶性ポリエステル成分及びアルカリ難溶性ポリエステル成分を有するポリエステル高配向未延伸糸を、温度150〜200℃、延伸倍率1.5〜1.7倍、仮撚係数20000〜30000の条件でピンタイプの仮撚具により延伸仮撚しながら、デリベリローラから糸速80〜150m/分で引き出し、割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸を得る工程
(2)前記割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸を分繊する分繊工程
以下、本発明の割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の製造方法について詳述する。
【0013】
1.割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の製造方法
(工程1:割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸を得る工程)
本発明における製造方法の工程1において、まずポリエステル高配向未延伸糸を準備する。ポリエステル高配向未延伸糸を用いることにより、後述の延伸仮撚において、ポリエステル高配向未延伸糸を構成する単糸(高配向未延伸複合繊維)の断面形状を適度に変形させることができ、後に織編物とした際の目ズレを効果的に抑制し得る。なお、延伸糸を仮撚りすると、単糸の断面形状が変形し難く、織編物とした際の目ズレを抑制し難い。
【0014】
本発明において、ポリエステル高配向未延伸糸とは、ポリエステルポリマーを2000〜4000m/分程度の速度で紡糸して巻き取られたマルチフィラメント糸をいう。本発明の効果を奏することを限度として、ポリエステルポリマーは、艶消し剤、安定剤、難燃剤、着色剤等の改質剤を含んでいてもよいし、カチオン染料可染性、熱収縮特性等の機能付与成分の共重合やブレンドが施されたものであってもよい。ポリエステル高配向未延伸糸は、複数の高配向未延伸複合繊維が束になって構成されている。後述の通り、ポリエステル高配向未延伸糸は、所定条件で延伸仮撚され、割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸となる。さらに、割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸は、後述の工程2の分繊工程において、分繊されて、割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸となる。すなわち、ポリエステル高配向未延伸糸を構成する高配向未延伸複合繊維が、本発明の製造方法を経て割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸となる。
【0015】
ポリエステル高配向未延伸糸としては、例えば総繊度が180〜300dtex程度であり、フィラメント数(高配向未延伸複合繊維の本数)が6〜16本程度のものを用いることが好ましい。このようなポリエステル高配向未延伸糸は、操業安定性、織編物の風合いなどの観点から、オーガンジー用などとして好ましい。また、ポリエステル高配向未延伸糸の伸度としては、操業安定性などの点から、例えば100〜140%程度が好ましい。
【0016】
ポリエステル高配向未延伸糸は、アルカリ易溶性ポリエステル成分及びアルカリ難溶性ポリエステル成分を有する。より具体的には、ポリエステル高配向未延伸糸を構成する複数の高配向未延伸複合繊維は、それぞれ、アルカリ易溶性ポリエステル成分及びアルカリ難溶性ポリエステル成分を有する。高配向未延伸複合繊維の断面形状としては、特に限定されないが、例えば、
図2のように、断面がくさび形状をした複数のアルカリ難溶性ポリエステル成分fをアルカリ易溶性ポリエステル成分gでつなぎ合わせ、繊維全体として断面形状が円形を呈することが好ましい。
図2のような形状の高配向未延伸複合繊維を採用する場合、断面におけるアルカリ難溶性ポリエステル成分fの数は、6〜15個程度が好ましい。
【0017】
ポリエステル高配向未延伸糸において、アルカリ易溶性ポリエステル成分は、アルカリ難溶性ポリエステル成分をつなぎ合わせる接着剤に相当するものであり、後述のアルカリ溶出処理においてポリエステル高配向未延伸糸から溶出する。各高配向未延伸複合繊維におけるアルカリ易溶性ポリエステル成分とアルカリ難溶性ポリエステル成分との質量比率(アルカリ易溶性ポリエステル成分/アルカリ難溶性ポリエステル成分)としては、好ましくは5/95〜30/70程度が挙げられる。
【0018】
アルカリ難溶性ポリエステル成分としては、アルカリ易溶性成分に比してアルカリ水溶液に対する溶解度が低ければ特に制限されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)などが使用できる。また、アルカリ易溶性ポリエステル成分としては、アルカリ難溶性成分に比してアルカリ水溶液に対する溶解度が高ければ特に制限されないが、重量平均分子量が2000〜10000であって、ポリエチレングリコール10〜30質量%と5−ナトリウムスルホイソフタル酸1〜3モル%とを共重合した共重合PETなどが使用できる。本発明では、目安として、アルカリ易溶性ポリエステル成分のアルカリ水溶液を用いたアルカリ溶出速度が、アルカリ難溶性ポリエステル成分の当該アルカリ溶出速度より2〜20倍程度速いことが好ましい。なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により、ポリスチレンを標準物質として測定した値である。
【0019】
高配向未延伸複合繊維(ポリエステル高配向未延伸糸)におけるアルカリ易溶性ポリエステル成分は、割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸となった後、アルカリ溶出処理により溶解し、高配向未延伸複合繊維からアルカリ難溶性ポリエステル成分が分割される。すなわち、ポリエステル高配向未延伸糸の各高配向未延伸複合繊維から得られる割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸において、アルカリ溶出処理工程において溶出しなかったアルカリ難溶性ポリエステル成分が、後述の織編物を構成する極細ポリエステルモノフィラメント捲縮糸となる。
【0020】
本発明の製造方法における工程1では、上記のポリエステル高配向未延伸糸をピンタイプの仮撚具により延伸仮撚する。すなわち、工程1では、ポリエステル高配向未延伸糸をスピンドル方式で仮撚りする。本発明においては、ピンタイプの仮撚具を用いることで、ポリエステル高配向未延伸糸に対して捲縮を均一かつ安定的に付与できる。これにより、パーンビケなどの織編物欠点を抑えることが可能となる。なお、仮撚りの方式は、一般に、スピンドル方式とフリクション方式とに大別される。本発明の製造方法において、フリクション方式、すなわち仮撚具としてディスクタイプのものを使用すると、捲縮のばらつき、サージング(加撚された撚りが解撚域で解かれず撚りが残った状態、つまり開繊していない状態)などが生じやすくなり、分繊性に優れる割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸が得られにくくなる。
【0021】
本発明の製造方法における工程1を、
図1を参照しながら詳述する。まず、クリールに、上記のポリエステル高配向未延伸糸10のパッケージ1を仕掛け、ポリエステル高配向未延伸糸10をフィードローラ2へ導入する。次に、ポリエステル高配向未延伸糸10を、ヒーター3、ピンタイプの仮撚具4を経て、デリベリローラ5から糸速80〜150m/分で引き出す。ここで、
図1のフィードローラ2とデリベリローラ5との間が延伸仮撚域となる。具体的には、フィードローラ2と仮撚具4との間が加撚域T1となり、仮撚具4とデリベリローラ5との間が解撚域T2となる。
【0022】
本発明においては、温度150〜200℃でポリエステル高配向未延伸糸10を延伸仮撚する。具体的には、ヒーター3のヒーター温度を150〜200℃に設定して、ポリエステル高配向未延伸糸10を延伸仮撚する。温度が150℃未満になると、強い捲縮が付与できない場合がある。一方、温度が200℃を超えると、単糸同士が融着しやすくなり、分繊性に優れる割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸が得られない場合がある。
【0023】
また、本発明の製造方法においては、工程1におけるポリエステル高配向未延伸糸10の延伸倍率を1.5〜1.7倍とする。本発明において、延伸倍率とは、フィードローラ2の表面速度とデリベリローラ5の表面速度との比(延伸倍率=デリベリローラ5の表面速度/フィードローラ2の表面速度)をいう。延伸倍率が1.5倍未満になると、割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸の伸度が高くなる。この場合、後述の分繊工程の後、割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸を製織編して、アルカリ溶出処理を含む後加工に供した際に、織編物の形態変化が大きくなり、風合い、質感が低下する。一方、延伸倍率が1.7倍を超えると、糸切れが増えることに加え、毛羽の多い割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸となり、後述の分繊工程における分繊性が低下する。
【0024】
本発明では、スピンドルの回転によってピンタイプの仮撚具4が回転し、糸が加撚される。このときの加撚の度合い、すなわち仮撚係数を20000〜30000、好ましくは22000〜28000に設定する。仮撚係数とは、K=T×D
1/2(K:仮撚係数、T:仮撚数(T/M)、D:割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸の総繊度(dtex))なる式で算出されるものである。そして、仮撚数とは、T=スピンドル回転数(rpm)/デリベリローラ5の表面速度(m/分)で算出されるものである。仮撚係数が20000未満になると、捲縮が弱くなり、割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸のクリンプ形状が大きくなる。一方、30000を超えると、割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸のクリンプ形状が緻密になり過ぎて、割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸において単糸同士が絡み易くなり、後述の分繊工程における分繊性が低下する。
【0025】
本発明では、ポリエステル高配向未延伸糸10を上記の温度、延伸倍率、及び上記の仮撚係数の条件で延伸仮撚しながら、デリベリローラ5から80〜150m/分の糸速で引き出す。すなわち、デリベリローラ5の表面速度を80〜150m/分に設定する。80m/分未満では、捲縮が強くなり過ぎ、分繊性が低下する。一方、150m/分を超えると、捲縮が弱くなり、後に織編物としたとき、所望の風合い、質感が得られない。
【0026】
本発明の製造方法では、工程1において、上記特定の温度、延伸倍率、及び仮撚係数に設定して、ピンタイプの仮撚具によりポリエステル高配向未延伸糸10を延伸仮撚しながら、上記特定の糸速で割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸を得るため、適度に緻密なクリンプ形状を有する割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸とすることが可能となる。特に、本発明において、割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸に適切なクリンプ形状を付与する観点からは、上記特定の仮撚係数において、ポリエステル高配向未延伸糸10を加撚しながら、上記特定の温度に設定することが重要である。
【0027】
本発明の製造方法における工程1では、以上のような条件でポリエステル高配向未延伸糸10を延伸仮撚して、割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸を得る。本発明の製造方法においては、後述の工程2(分繊工程)に供する前に、工程1で得られた割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸をローラなどに巻き取る巻取工程をさらに備えていてもよいし、工程1で得られた割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸をそのまま工程2に供してもよい。巻取工程は、例えば、
図1に示すように、デリベリローラ5を経て得られた割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸を、第2デリベリローラ6を経由させた後、巻き取りローラ7を介してパッケージ8として巻き取ることにより行うことができる。割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸を巻き取ったパッケージ8の形状としては、特に限定されないが、一般にはチーズ形状、コーン形状が好ましい。
【0028】
(工程2:分繊工程)
本発明の製造方法においては、工程1で得られた割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸を分繊する分繊工程を備える。なお、本発明において、分繊とは、マルチフィラメント捲縮糸を単糸に分けることをいう。工程1で得られた割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸を分繊することにより得られる単糸が、割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸である。
【0029】
割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸の分繊方法としては、特に制限されず、例えば、市販の分繊装置を用いて行うことができる。分繊装置としては、例えば、糸供給部、開繊部、及び巻取部から構成される装置が使用できる。分繊工程は、例えば、次のようにして行うことができる。まず、分繊装置の糸供給部から工程1で得られた割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸を引き出し、開繊部へ導入する。このとき、割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸を巻き取ったパッケージを糸供給部の所定位置に仕掛けておいてもよい。開繊部には、通常、ハタキが備えられ、糸進行方向と逆方向に回転するハタキによりマルチフィラメント捲縮糸が開繊する。その後、開繊したマルチフィラメント捲縮糸を各単糸に引き離し、それぞれ別々の巻取部に送り、各単糸を巻き取る。
【0030】
分繊工程において得られる割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸は、単糸繊度が5〜30dtex程度であることが好ましく、10〜25dtex程度であることがより好ましい。単糸繊度が5dtex未満になると、取扱いが難しくなる傾向にあり、経糸準備及び製織編の際の糸切れ、連れ込みなどが発生し易くなり、品質のよい織編物を得難くなる。一方、30dtexを超えると、後述の極細ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の単糸繊度が太くなり、織編物において極細ポリエステルモノフィラメント捲縮糸による独特の風合い(マイクロソフトタッチ風合い)が発現し難くなる。
【0031】
また、分繊工程において得られる割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の熱水収縮率は、10%以下であることが好ましく、3〜7%であることがより好ましい。熱水収縮率が10%を超えると、後述するアルカリ溶出処理を含む一連の後加工を通じて織編物が大きく収縮し、寸法安定性が低下する傾向にある。また、割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の収縮に伴って、割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の単糸繊度が太くなる傾向にあり、織編物に所望の風合いを付与する観点からは好ましくない。なお、割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の熱水収縮率は、JIS L1013に基づいて測定した値である。
【0032】
また、分繊工程において得られる割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸のクリンプ伸長率としては、10%以上であることが好ましく、15〜40%であることがより好ましく、20〜30%であることが特に好ましい。本発明において、クリンプ伸長率とは、捲縮の度合いを数値化したものである。クリンプ伸長率が10%未満になると、織編物にシャリ感を与え難くなる。特に本発明では、高圧湿熱処理した後の割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸にかかるクリンプ伸長率として、30%以上が好ましく、35〜60%がより好ましく、これにより一層シャリ感が発現し易くなる。
【0033】
クリンプ伸長率を測定するには、まず、割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸に対して0.2cN/dtexの張力を掛けながらトータル繊度が2500dtex程度になるまで、枠周1.125mの検尺機を用いてカセ取りし、室温下フリー状態で一昼夜放置する。次に、カセに2種の荷重(第一荷重:2.5g、第二荷重:497.5g)により0.2cN/dtexの張力を掛け、10秒間放置後の長さ(A)を測定する。続いて、第二荷重を取り外し(第一荷重は取り付けたままにする)、10秒間放置後の長さ(B)を測定する。その後、クリンプ伸長率(%)=(A−B)/A×100なる式に基づき、算出する。クリンプ伸長率の測定は、5本の割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸について行い、その平均をその糸のクリンプ伸長率とする。
【0034】
高圧湿熱処理については、上記のようにして巻き取ったカセを、オートクレーブ(平山製作所社製)に投入し、130℃で30分間、フリー状態で湿熱処理する。高圧湿熱処理後のクリンプ伸長率については、この湿熱処理後の糸に上記と同様の荷重を掛け、同様の式に基づいて算出する。
【0035】
図3は、本発明の製造方法により製造される割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸のクリンプ形状を説明するための模式図であり、割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の側面を示している。本発明では、適度に緻密なクリンプ形状を有する割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸を得ることができるため、これから得られる割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸も同様に緻密なクリンプ形状を有する。本発明の製造方法において得られる割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸のクリンプ山数としては、具体的には、50個/m以上が好ましく、70〜200個/mがより好ましい。クリンプ山数が50個/m未満では高捲縮といえず、織編物においてシャリ感が発現し難くなる。
【0036】
割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸のクリンプ山数を測定するには、まず、割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸を適当な長さに切った後、0.1cN/dtexの荷重を掛け、その状態で30cmおきに印を付ける。その後、荷重を取り外し、クリンプ形状の山aと谷bとの高低差hが2mm以上となる部位の箇所を数え、その数を1mあたりのものに換算したものをクリンプ山数とする。
【0037】
以上のようにして、本発明の割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の製造方法を行うことができる。本発明においては、さらに、当該割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸から、例えば、下記の方法を採用することにより、織編物を得ることができる。以下、本発明の織編物の製造方法について詳述する。
【0038】
2.織編物の製造方法
本発明の織編物の製造方法においては、当該割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸を、以下の製織編工程及びアルカリ溶出処理工程に供することにより、目ズレ及びパーンビケの発生が抑制されており、かつ、風合い及び質感に優れた織編物が得られる。
【0039】
(製織編工程)
本発明の織編物の製造方法において、製織編工程では、割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸を製織編する。製織編及びこれに先立つ経糸準備は、市販の装置を用いて行うことができる。また、製織編によって形成する織組織としては、特に制限されず、例えば、平織、朱子織、綾織、斜子織、畦織などが挙げられる。
【0040】
製織編工程で製織編する織編物のカバーファクター(CF)としては、特に制限されないが、例えば平織の場合には、好ましくは300〜1200程度とすればよい。ここで、カバーファクター(CF)とは、織物の粗密を数値化したものであり、以下の式により算出される。
CF=D
1/2×経糸密度(本/2.54cm)+D
1/2×緯糸密度(本/2.54cm)[式中、D:割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の単糸繊度]
【0041】
(アルカリ溶出処理工程)
本発明の織編物の製造方法においては、製織編工程の後、アルカリ溶出処理を行う。アルカリ溶出処理工程により、製織編工程で形成された織編物を構成する割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸が分割され、極細ポリエステルモノフィラメント捲縮糸が得られる。アルカリ溶出処理は、一連の後加工の中に組み込まれているのが一般的である。この場合、製織編の生機を直接的にアルカリ溶出処理してもよく、リラックス、精練等の後、アルカリ溶出処理してもよい。また、精練を兼ねてアルカリ溶出処理してもよい。
【0042】
アルカリ溶出処理するには、まずアルカリ浴を用意する。アルカリ浴は、通常、苛性ソーダを水に溶解すれば容易に調製できる。アルカリ浴の濃度は、苛性ソーダの場合15〜22g/l程度が好ましい。アルカリ浴の濃度が22g/lを超えると、糸中のアルカリ難溶性ポリエステル成分も同時に多く溶出され、得られる極細ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の引張強度が低下する傾向にある。一方、15g/l未満であると、アルカリ易溶性ポリエステル成分が十分に溶出されず、分割が促進しない傾向にある。アルカリ溶出処理の条件としては、98℃(沸騰した状態)で20〜30分間が好ましい。
【0043】
本発明では、このように、割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸を用いて製織編した後、アルカリ溶出処理によりこれを分割する。製織編に先立って当該捲縮糸を分割してしまうと、極細ポリエステルモノフィラメント捲縮糸がばらけ易くなり、結果、毛羽、糸切れなどが発生し、品質のよい織編物を得難くなる。
【0044】
図4は、アルカリ溶出処理後の割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の断面形状、すなわち極細ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の断面形状を表すものである。割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の分割の程度は、アルカリ減量率によって知ることができる。アルカリ減量率の目安としては、15〜30質量%程度(すなわち、アルカリ溶出処理前の織編物を100質量%とすると、アルカリ溶出処理後に織編物が85〜70質量%程度となる)とすることが好ましい。
【0045】
極細ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の単糸繊度としては、織編物にマイクロソフトタッチ風合いを付与できれば特に限定されるものでないが、実用上は0.05〜3dtexが好ましい。単糸繊度が0.05dtex未満になると、織編物の風合いに張り腰感が失われ、「くたくた」した風合いのものとなり易く、一方、3dtexを超えると、織編物にマイクロソフトタッチ風合いを付与し難くなるため、いずれも好ましくない。
【0046】
極細ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の単糸繊度を測定するには、まず、0.05±0.01cN/dtexの張力を掛けながら、枠周1.125mの検尺機に割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸を約200m(枠周の178周分)カセ取りする。次に、苛性ソーダ20g/l、浴比1:50なるアルカリ浴で、巻き取ったカセを98℃で30分間アルカリ溶出処理し、乾燥後、室温下フリー状態で一昼夜放置する。その後、小数点以下5桁までのグラム数を測定できる電子天秤(研精工業社製)を用いて、前記アルカリ溶出処理後の糸を秤量し、以下の式に基づき算出する。
単糸繊度(dtex)=9000m/(1.125m×178周)×(アルカリ溶出処理後の糸質量g)×1.111/(1本の割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸から分割される極細ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の数)
【0047】
繊度の測定は、5本のパッケージについて行い、その平均をその糸の単糸繊度とする。極細ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の単糸繊度を0.05〜3dtexに調整するには、例えば、単糸繊度3〜30dtexの割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸を用いるとよい。
【0048】
本発明の製造方法によって得られる織編部物は、目ズレ及びパーンビケが発生し難く、かつ、風合い、質感にも優れているため、例えば、オーガンジー用薄地織物として好適に使用される。
【実施例】
【0049】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。
【0050】
(実施例1〜2及び比較例1〜8)
図2のような断面形状をした高配向未延伸複合繊維を複数本束ねてなるポリエステル高配向未延伸糸(220dtex、12f、伸度130%)を用意した。この複合繊維におけるアルカリ易溶性ポリエステル成分gとアルカリ難溶性ポリエステル成分fとの質量比率は、20/80であり、アルカリ易溶性ポリエステル成分gとして、重量平均分子量が6000であって、ポリエチレングリコール13.3質量%と5−ナトリウムスルホイソフタル酸2.5モル%とを共重合した共重合PETを使用し、アルカリ難溶性ポリエステル成分fとして、PETを使用した。
【0051】
上記ポリエステル高配向未延伸糸を、
図1に示すようなスピンドル方式(ピンタイプの仮撚具を使用)の仮撚り工程に導入した。各実施例、比較例における仮撚条件は、表1記載の通りである。仮撚り後、得られた割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸を市販の分繊装置で分繊し、割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸とした。なお、分繊の条件としては、分繊速度450m/分、送り出し張力0.8cN/dtex、巻き取り張力1.1cN/dtexを採用した。その後、割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸を経緯糸に用いて、カバーファクター(CF)950の平織物を製織した。ここで、カバーファクター(CF)とは、織物の粗密を数値化したものであり、以下の式により算出した。
CF=D
1/2×経糸密度(本/2.54cm)+D
1/2×緯糸密度(本/2.54cm)[式中、D:割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の単糸繊度]
製織編後、織編物をアルカリ溶出処理に供した。アルカリ溶出処理は、織編物を98℃の苛性ソーダ水溶液(濃度20g/l)中で25分間処理することにより行った。次に、アルカリ溶出処理した織編物を、青色染料を用いて高圧染色し、オーガンジー用薄地織編物とした。
【0052】
(分繊性の評価)
割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸の6kg巻ドラム状パッケージを、単糸1本1本に糸切れなく分繊できた割合で評価した。具体的には、上記実施例及び比較例の場合、フィラメント数が12本なので、当該マルチフィラメント捲縮糸を12本に分けることになるが、このときの無断糸率で評価した。糸切れなく分繊できた場合、割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸の巻量は500gとなる。結果を表1に示す。
○:無断糸率70%以上
△:無断糸率50%以上70%未満
×:無断糸率50%未満
【0053】
(織編物の評価)
1.風合い
織編物を以下の基準で官能評価した。結果を表1に示す。
○:シャリ感及びマイクロソフトタッチ風合いに優れる。
△:シャリ感及びマイクロソフトタッチ風合いが一応認められるが十分でない。
×:シャリ感及びマイクロソフトタッチ風合いのいずれにおいても優れたものといえない。
2.パーンビケ
織編物を以下の基準で官能評価した。結果を表1に示す。
○:筋状の欠点は認められない。
△:筋状の欠点がわずかに認められる。
×:筋状の欠点が認められる。
3.目ズレ
織編物を以下の基準で官能評価した。結果を表1に示す。
○:染色後の織物において、目ズレは認められない。
△:染色後の織物において、目ズレがわずかに認められる。
×:染色後の織物において、目ズレが認められる。
【0054】
【表1】
【0055】
(実施例及び比較例の考察)
本発明の所定範囲を満たす製造方法を採用した実施例1及び2では、割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸の分繊性に優れ、これを分繊した割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸から得た織編物の風合い及び質感も優れていた。
【0056】
これに対し、比較例1、2は、ヒーター温度が本発明の所定範囲を外れている。比較例1ではヒーター温度が低すぎたため、捲縮が十分に付与できず、単糸断面の変形も十分ではなかった。このため、織編物の風合いが低下し、目ズレが発生した。さらに、織物にパーンビケも一部認められた。一方、比較例2では、ヒーター温度が高すぎたため、単糸同士が融着し、後に割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸を分繊できなかった。このため、以降の工程を行うことができなかった。
【0057】
比較例3、4は、延伸倍率が本発明の所定範囲を外れている。比較例3では、延伸倍率が低すぎたため、割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸の伸度が高くなり、結果、織編物が形態変化し、風合いが低下した。また、分繊の過程で糸が引き伸ばされたことで、割繊型ポリエステルモノフィラメント捲縮糸がストレート分繊糸に近い形態となり、目ズレ、パーンビケが発生した。一方、比較例4では、仮撚り時に糸切れや毛羽の発生が多発したため、仮撚りを途中で中止した。このため、以降の工程を行うことができなかった。
【0058】
比較例5、6は、仮撚係数が本発明の所定範囲を外れている。比較例5では、加撚が十分でないため、捲縮を十分に付与できなかった。このため、比較例1と同様、織編物の風合いが低下し、目ズレが発生した。一方、比較例6では、割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸のクリンプ形状が緻密になり過ぎ、これを分繊することができなかった。よって、以降の工程を行うことができなかった。
【0059】
比較例7、8は、糸速が本発明の所定範囲を外れている。比較例7では、割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸の捲縮がやや強くなったために、分繊性がやや低下した。一方、比較例8では、割繊型ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸の捲縮がやや弱くなったために、織物風合いなどが低下した。