(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記傾斜サイプの少なくとも一本で、前記傾斜サイプの、前記サイプ主直線を挟んで隣り合う第1部分と第2部分とにおいて、前記第1部分の形状が、前記第2部分の形状と異なる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
前記傾斜サイプの少なくとも一本で、前記傾斜サイプの、前記サイプ主直線を挟んで隣り合う第1部分と第2部分とにおいて、前記第1部分の前記サイプ主直線からの振幅が、前記第2部分の前記サイプ主直線からの振幅と異なる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、図面を参照しつつ、この発明の実施の形態を例示説明する。
図1に、本発明の空気入りタイヤ(以下、「タイヤ」という)の一実施形態のトレッド1の部分展開図を示す。トレッド1は、ブロック状またはリブ状の陸部を有する。図示した例では、タイヤ周方向に延びる周方向溝2と、隣接する2本の周方向溝2を連通してタイヤ幅方向に延びる横溝3とによってブロック状の陸部4が複数個区画形成され、タイヤ幅方向に4列のブロック列が形成されている。
なお、本発明の他の実施形態では、
図2に示すように、センター部にリブ状の陸部を形成し、それ以外の部分にブロック状の陸部を形成している。以下、
図1に示す実施形態のタイヤについて説明を行うが、
図2に示す実施形態でも、同様の作用効果を発揮することができる。
【0012】
なお、
図1に示す例では、周方向溝2及び横溝3はどちらも直線状に延びているが、いずれか一方または両方をジグザグ状、波形状、クランク状等に延びるものとすることもできる。また、周方向溝2はタイヤ周方向に沿って延びているが、タイヤ周方向から若干の角度をもって延びるものとすることができる。そして横溝3はタイヤ幅方向に沿って延びているが、タイヤ幅方向から若干の角度をもって延びるものとすることができる。
【0013】
陸部4の各ブロックには、その表面に開口しタイヤ幅方向に延びる、
図1に示す例では4本のサイプ11が形成されている。なお、図示した例では、これらのサイプ11をすべて、後述する傾斜サイプとしているが、この発明では、少なくとも2つ以上のサイプを傾斜サイプとすればよい。
サイプ11はそれぞれ、
図1に示すように、陸部表面で、サイプ11の延在方向に延びる部分11pと該延在方向に対して傾斜して延びる部分11sとを繰り返す、その頂点11tで屈曲する表面屈曲部を有する台形波状としている。これにより、サイプにタイヤ幅方向エッジ成分を持たせることができ、操縦安定性を向上させることができる。また雪面上を走行している際には、陸部表面のサイプの屈曲箇所での局所的沈み込みを制御して、雪上性能の低下を防止することができ、一方、通常路面を走行している際には、陸部が受ける接地圧を均一化して、該陸部と路面との間の摩擦係数の低下を抑制して、ドライ性能及びウェット性能を確保することができる。なお、「サイプの延在方向」とは、サイプが全体として延在する方向であって、
図1〜4に示す実施形態では、タイヤ幅方向である。
また、
図3に示すように、サイプ11を陸部表面で、タイヤ幅方向両端を除いて、その頂点11tで屈曲する表面屈曲部を有し、タイヤ周方向への振幅を伴ってジグザグ状に屈曲して延在させることもできる。この場合にも、サイプがタイヤ幅方向エッジ成分を持つために、操縦安定性を向上させることができる。
【0014】
そして、
図4に示すように、サイプ11を陸部表面で、タイヤ幅方向からわずかに傾斜して延びる幅方向延在部11wと、タイヤ周方向からわずかに傾斜して延びる周方向延在部11rとの繰り返しで構成して、稲妻状に屈曲して延在させることもできる。この場合にも、サイプがタイヤ幅方向エッジ成分を持つために、操縦安定性を向上させることができる。
ここで、サイプ11のタイヤ幅方向長さL1と、幅方向延在部11wそれぞれのタイヤ幅方向長さL2との比L2/L1を、0.4〜0.6とすることが、タイヤ幅方向のブロック剛性を高めて、サイプ11が連通する溝のタイヤ幅方向の雪中剪断力を高める観点から好ましい。
また、幅方向延在部11wのタイヤ幅方向に対する傾斜角度θ
1を、5°〜30°以下とすることが、ブロックのタイヤ幅方向剛性を、タイヤ周方向の広い幅にわたって高めつつ、タイヤ周方向エッジ成分を有効に発揮させる観点から好ましい。すなわち、θ
1が5°未満の場合には、ブロックのタイヤ幅方向剛性を、タイヤ周方向の狭い幅でしか向上させることができなくなり、また、θ
1が30°より大きい場合には、タイヤ周方向エッジ成分が発揮されにくくなるおそれがある。
そして、周方向延在部11rのタイヤ周方向に対する傾斜角度θ
2を、5°より大きくすることが、ブロックのタイヤ幅方向剛性を高め、タイヤ周方向エッジ成分を有効に発揮させる観点から好ましい。
なお、
図1、3、4に示す実施形態では、サイプ11の表面屈曲部11t(
図4に示す実施形態では、幅方向延在部11wと周方向延在部11rとの境界部)でサイプ11が角度を持って屈曲しているが、表面屈曲部でサイプを滑らかに屈曲させることもできる。
【0015】
ここで、サイプが有する表面屈曲部の数が多くなりすぎると、該表面屈曲部付近で接地圧が局所的に大きくなって、一部が路面に対して浮き上がり、雪上トラクション性能やドライ制動(ブレーキング)性能が低下するおそれがある。一方、サイプが、陸部表面で表面屈曲部を全く有していないストレート型のサイプである場合には、サイドフォースが加わる際に、サイプに挟み込まれた雪が抜けやすくなるため、雪上旋回性能が低下して雪上操縦安定性が低下するおそれがある。
従って、例えば
図4に示すように、前記傾斜サイプの少なくとも一部が、2つ以下の表面屈曲部を有することで、雪上トラクション性能、ドライ制動(ブレーキング)性能、及び雪上操縦安定性能を高い次元で両立させることができる。
【0016】
また、
図4に示す実施形態でも、
図3のように、サイプの幅方向端部に、タイヤ幅方向に延びる部分を設けることができる。また、タイヤのモールドの製造を容易にする観点から、図示はしないが、サイプの中心からタイヤ幅方向両外側に向かって、表面屈曲部のタイヤ周方向振幅を小さくしていくことが好ましい。
なお、サイプを、陸部表面で直線状とすることもできるが、上述したように台形波状、ジグザグ状又は稲妻状とすることが、サイプのタイヤ周方向に延びる部分に、タイヤ幅方向エッジ成分を持たせて、タイヤが発生する横力を高めて雪上走行安定性を確保する観点から好ましい。
そして、各ブロックにおいて、サイプはタイヤ幅方向に対して対称に形成することができ、またブロックに形成されるサイプ本数が奇数の場合には、タイヤ周方向中央のサイプをジグザグ状に屈曲させて延在するサイプとすることができる。
【0017】
図5は、
図1に示すタイヤのブロック状の陸部4の斜視図である。
図6は、
図5のA−A線断面図、すなわち傾斜サイプの延在方向(タイヤ幅方向)に直交する断面を示す図である。
図6に示すように、陸部4に形成された4本の稲妻状のサイプ11a〜11dは、サイプの陸部表面41への開口端P
oとタイヤ径方向最内端P
iとを結ぶ直線(この発明では「サイプ主直線」という)la〜ldがタイヤ径方向に対して傾斜する、傾斜サイプである。このように、タイヤ幅方向に延びるサイプ11a〜11dの少なくとも一部を傾斜サイプとすることによって、駆動時及び制動時に、陸部表面を倒れやすくしてエッジ効果を高め、雪上性能を向上することができる。
傾斜サイプ11a〜11dはそれぞれ、そのサイプ主直線la〜ldに対して突出する、図示する例では4つの内部屈曲部を具える。そして、該内部屈曲部の頂点P
1〜P
4は、サイプ深さd(例えば7mm)の20%よりも深い位置に位置する。このことで、陸部表面での雪上における変形を妨げることなしに、サイプにより細分化された陸部同士を、サイプの深い位置で接触させて、陸部の倒れ込みを抑制することができ、その結果、ドライ性能及びウェット性能を有効に向上させることができる。
さらに、ブロック状の陸部4のタイヤ周方向中心Lcを挟んで、該ブロック状の陸部4の一方側(
図5、6では左側)の傾斜サイプのサイプ主直線la、lbが、該ブロック状の陸部4の他方側(
図5、6では右側)の少なくとも一本(この実施形態では二本)の傾斜サイプのサイプ主直線lc、ldとは、タイヤ径方向に対して逆方向に傾斜している。サイプ主直線のタイヤ径方向に対する傾斜方向を上記のようにすることで、ブロック陸部の剛性を均一化させて、雪上性能、ドライ性能及びウェット性能を安定させることができる。そして、タイヤ周方向の両方側の入力に対して陸部表面を倒れやすくして、駆動時及び制動時の両方で高い雪上性能を発揮させることができる。また、サイプは一般に、ブレードを生タイヤに挿入したまま加硫することで形成されるが、上記のように、タイヤ径方向内側に向けてサイプ主直線同士が互いに離れるようにすることで、加硫後ブレードを引き抜いた際にトレッドが破損することを防止することができる。
このように、この実施形態の空気入りタイヤでは、陸部表面を倒れやすくしてエッジ効果を高めることで、雪上性能を向上させることができるとともに、サイプの深い位置で陸部同士を接触させて、陸部の倒れ込みを抑制することで、ドライ性能及びウェット性能を向上させることができる。
なお、タイヤ径方向に対するサイプ主直線la〜ldの傾斜方向(以下、サイプの傾斜方向ともいう)をそれぞれ逆にして、ブロック状の陸部4のタイヤ周方向中心Lcを挟んで、タイヤ径方向内側に向けて傾斜サイプ同士が互いに近づくようにすることもできる。そして隣接するそれぞれのサイプ間で、開口端とタイヤ径方向最内端とを結ぶ直線の傾斜方向がタイヤ径方向に対して逆となるように傾斜サイプを配置することもできる。
また、深さ方向に稲妻状に延びるサイプに変えて、サイプを深さ方向にパルス波状に延在させることもできる。
【0018】
なお製造上の理由から、サイプの開口端付近ではサイプが略タイヤ径方向に延びていてもよい。
【0019】
図7A〜
図7Fを用いて、本発明のタイヤに対し、駆動または制動のための入力Fiを加えた際の様子を説明する。なお説明を単純化するため、ブロック状の陸部4に形成された、内部屈曲部を具える傾斜サイプのうち、タイヤ周方向の一方の最外の傾斜サイプ11a周辺の挙動を以下説明するが、他の内部屈曲部を具える傾斜サイプの周辺でも同様の挙動となる。
【0020】
図7Aは、
図5の左側、すなわち傾斜サイプ11aのサイプ主直線laがタイヤ径方向外側に向かって延びている方向と同じ方向の入力を与えた場合の、傾斜サイプ11a周辺での陸部4の様子を示す図である。
図示するように、傾斜サイプ11aの、タイヤ径方向に対して直線laとは逆方向に延びていた部分の両側の壁面が接触し、サイプを挟んで入力側とは反対の小陸部4bには、入力側の小陸部4aからの力Fwが及ぼされる。この力Fwによって、小陸部4bを路面へ倒し込もうとするモーメントMwが発生する。また小陸部4bには入力Fiによる、小陸部4bを路面から浮き上がらせようとするモーメントMiが発生する。このように、小陸部4bに発生する2つのモーメントMw、Miは、互いに逆方向のモーメントであるために打ち消し合い、結果として小陸部4bの変形が抑制され、ドライ性能及びウェット性能を一層向上させることができる。
そして、陸部の倒れ込みを抑制する観点から、傾斜サイプの両側の壁面が接触する箇所は、陸部の深い位置に存在していることが良い。そのため本発明のタイヤでは、傾斜サイプの内部屈曲部の頂点を、サイプ深さの20%よりも深い位置に位置させている。また、内部屈曲部の頂点を深い位置に位置させることで、陸部が多少摩耗した際にも、傾斜サイプの開口端付近の傾斜方向が変化せず、摩耗により雪上性能が変化することを防止することができる。
【0021】
なお、
図5、6に示す実施形態では、各傾斜サイプにそれぞれ4つの内部屈曲部を設けているが、傾斜サイプには少なくとも一つの内部屈曲部が設けられていればよい。そして各傾斜サイプに複数、特に好ましくは4つ以上の内部屈曲部を持たせることで、陸部剛性が一層高まり、ドライ性能及びウェット性能を一層向上させることができる。
【0022】
図7Bは、
図5の右側、すなわち傾斜サイプ11aのサイプ主直線laがタイヤ径方向内側に向かって延びている方向と同じ方向の入力を与えた場合の、傾斜サイプ11a周辺での陸部4の様子を示す図である。
図示されるように、サイプを挟んで入力側とは反対の小陸部4aには、路面からの力Fgによる、小陸部4aを路面へ倒し込もうとするモーメントMgが発生する。また小陸部4aには入力Fiによる、小陸部4aを路面から浮き上がらせようとするモーメントMiが発生する。小陸部4aに発生する2つのモーメントMg、Miは、互いに逆方向のモーメントであるために打ち消し合って、結果として小陸部4aの変形が抑制され、ドライ性能及びウェット性能を一層向上させることができる。
【0023】
以上のように、本発明のタイヤでは、内部屈曲部を具える傾斜サイプによって、タイヤ周方向のいずれの方向からの入力に対しても、陸部の変形を抑制させ、ドライ性能及びウェット性能を一層向上させることができる。
また図示はしないが、一本の傾斜サイプのサイプ主直線と、他のいずれかの傾斜サイプのサイプ主直線とを、タイヤ径方向に対して逆方向に傾斜させることで、サイプによって分割された小陸部同士が支え合って、陸部の変形をさらに抑制させて、ドライ性能及びウェット性能をより一層向上させることができる。
【0024】
ところで、サイプが周方向溝2に開口する位置付近等でサイプを底上げする(サイプ深さを浅くする)ことができる。一方、サイプの深さを一定とすることもできる。サイプを底上げすると、陸部の剛性が高くなってドライ性能及びウェット性能が向上するが、反面雪上性能が低下するおそれがある。本発明のタイヤでは、従来のサイプが形成されたタイヤよりも陸部の剛性を向上させることができるため、底上げの数を減らしてもドライ性能及びウェット性能を確保することができる。
そのため、例えば
図1で点線で囲まれた箇所のみを底上げすることができる。具体的には、サイプを底上げした底上げ部を、一方のタイヤ幅方向端のみに千鳥状に設けて、雪上性能、ドライ性能及びウェット性能を両立させることができる。
【0025】
ここで、タイヤの製造を容易とし、またブロック陸部の剛性を均一化して、雪上性能、ドライ性能及びウェット性能を安定させる観点から、
図9Eに示すように、陸部が、タイヤ周方向に延びる複数本の周方向溝と、隣接する2本の周方向溝を連通する複数本の横溝によって区画形成された、ブロック状の陸部であり、ブロック状の陸部のタイヤ周方向中心Lcを挟んで、ブロック状の陸部の一方側の傾斜サイプのサイプ主直線la,lbが、ブロック状の陸部の他方側の少なくとも一本(
図9Eでは2本)の傾斜サイプのサイプ主直線lc,ldと、タイヤ径方向に対して逆方向に傾斜することが好ましい。
【0026】
そして、
図10Dに示す傾斜サイプは、サイプ主直線lを挟んで隣り合う第1部分S
P1と第2部分S
P2とにおいて、第1部分S
P1の形状が、第2部分S
P2の形状と異なっている。具体的には、第1部分S
P1のサイプ主直線lに対する入射角度θ
P1(ここで示す例では75°)が、第2部分S
P2のサイプ主直線lに対する入射角度θ
P2(この例では90°)と異なっている。そして、その結果、第1部分S
P1の大きさ(第1部分S
P1とサイプ主直線lとで囲まれた領域の面積)と、第2部分S
P2の大きさ(第2部分S
P2とサイプ主直線lとで囲まれた領域の面積)とが異なっている。
この傾斜サイプに、タイヤ周方向の、サイプ主直線がタイヤ径方向外側に向かって延びている方向と同じ方向の入力を与えた場合の、傾斜サイプ周辺での陸部の様子を
図7Cに示す。上述したこのような傾斜サイプを形成した場合には、第1部分S
P1と第2部分S
P2との形状の違いにより、第1部分S
P1と第2部分S
P2との間の境界付近で、剛性が増加する。これにより、入力Fiによる、小陸部4bを路面から浮き上がらせようとするモーメントMiが発生する際、サイプの両壁面が接触して小陸部4aから小陸部4bに及ぼされる力Fwによる、小陸部4bを路面へ押し込もうとするモーメントMwを、より効果的に発揮させることができる。従って、入力Fiによって発生するモーメントMiをより完全に相殺できるようなモーメントMwを発生させて、小陸部4bの変形をより抑制して、ドライ性能及びウェット性能をさらに向上させることができる。
また、この傾斜サイプに、タイヤ周方向の、サイプ主直線がタイヤ径方向内側に向かって延びている方向と同じ方向の入力を与えた場合の、傾斜サイプ周辺での陸部の様子を
図7Dに示す。入力Fiによる、小陸部4aを路面から浮き上がらせようとするモーメントMiが発生する際、路面からの力Fgによる、小陸部4aを路面へ倒し込もうとするモーメントMgも、上述した剛性の増加により、より効果的に発揮させることができる。従って、入力Fiによって発生するモーメントMiをより完全に相殺できるようなモーメントMgを発生させて、小陸部4aの変形をより抑制して、ドライ性能及びウェット性能をさらに向上させることができる。
なお、上述した実施形態では、第1部分S
P1及び第2部分S
P2のサイプ主直線lに対する入射角度θ
P1,θ
P2を互いに相違させることで、第1部分S
P1及び第2部分S
P2の形状を相違させているが、他の方法でも形状を相違させることができ、例えば第1部分S
P1と第2部分S
P2との波長を変えてもよい。すなわち、第1部分S
P1及び第2部分S
P2の形状が相違していれば、入力Fiによって発生するモーメントMiをより効果的に相殺させる効果をより高めることができる。
【0027】
一方、
図10Eに示す傾斜サイプは、サイプ主直線lを挟んで隣り合う第1部分S
P1と第2部分S
P2とにおいて、第1部分S
P1のサイプ主直線lからの振幅(最大距離、この例では0.8mm)A
1が、第2部分S
P2のサイプ主直線lからの振幅(最大距離、この例では0.4mm)A
2と異なっている。この実施形態では、第1部分S
P1と第2部分S
P2とは略相似であり、第1部分S
P1の大きさと第2部分S
P2の大きさとが相違している。このような傾斜サイプを形成した場合には、当該傾斜サイプ周辺で、剛性を、タイヤ径方向で変化させることができる。この例では、タイヤ径方向外側の第1部分S
P1の振幅が相対的に大きいため、第1部分S
P1付近の剛性が小さくなり、一方、タイヤ径方向内側の第2部分S
P2の振幅が相対的に小さいため、第2部分S
P2付近の剛性が大きくなる。
この傾斜サイプに、タイヤ周方向の、サイプ主直線がタイヤ径方向外側に向かって延びている方向と同じ方向の入力を与えた場合の、傾斜サイプ周辺での陸部の様子を
図7Eに示す。上述したようにタイヤ径方向内側の第2部分S
P2付近の剛性が大きいため、入力Fiによって発生するモーメントMiをより完全に相殺できるようなモーメントMwを発生させて、小陸部4bの変形をより抑制して、ドライ性能及びウェット性能をさらに向上させることができる。
また、この傾斜サイプに、タイヤ周方向の、サイプ主直線がタイヤ径方向内側に向かって延びている方向と同じ方向の入力を与えた場合の、傾斜サイプ周辺での陸部の様子を
図7Fに示す。この場合も、タイヤ径方向内側の第2部分S
P2付近の剛性が大きいため、入力Fiによって発生するモーメントをより完全に相殺できるようなモーメントMgを発生させて、小陸部4aの変形をより抑制して、ドライ性能及びウェット性能をさらに向上させることができる。
なお、上述した実施形態では、第1部分S
P1の振幅及び波長と、第2部分S
P2の振幅及び波長とをそれぞれ相違させているが、振幅のみを相違させて波長は略等しくすることもでき、振幅を略等しくして波長を相違させることもできる。また、傾斜サイプを稲妻状とせず、二等辺三角形波等の他の形状とすることもできる。そして
図10Eでは、傾斜サイプは、傾斜サイプとサイプ主直線との交点P
1,P
2で点対称となっているが、これに代えて、サイプ主直線の一方側の大きさを、他方側よりも大きくすることもできる。これらの場合にも、上述した剛性をタイヤ径方向で変化させる効果を発揮させることができる。
【0028】
図8は、本発明の他の実施形態にかかる空気入りタイヤのトレッド101の部分展開図である。
図8に示すように、このタイヤは、トレッド101に、周方向溝として、タイヤ赤道面CL上を連続して延びる中央周方向溝102と、該中央周方向溝102のタイヤ幅方向外側且つトレッド端TEよりタイヤ幅方向内側に位置し、タイヤ周方向に延びる複数の縦溝103とを有し、また、トレッド端TEからタイヤ幅方向内側に延びる複数の横溝104と、を有している。
なお、「トレッド端」とは、トレッド踏面の、タイヤ幅方向の最外位置をいい、「トレッド踏面」とは、タイヤを所定内圧を充填し、最大負荷能力に対応する負荷を加えた状態でタイヤを転動させた際に、路面に接触することになる、タイヤの全周にわたる外周面をいう。
【0029】
図8に示すように、横溝104は、タイヤ幅方向外側に向かうにつれて溝幅が漸増しており、また、タイヤ幅方向外側に向かうにつれてタイヤ幅方向に対する傾斜角度が漸減している。
さらに、図示例では、複数本の縦溝103が、タイヤ周方向に隣接する2本の横溝104に開口しており、この2本の隣接する横溝104間でタイヤ周方向に対して傾斜して延びている。
そして、中央周方向溝102、幅方向外側主方向溝103、横溝104により、複数のブロック105が区画形成されており、各ブロック105の表面には、図示例で複数本のサイプ111a、111bが設けられている。サイプはいずれも先に述べた傾斜サイプであり、そのサイプ主直線に対して突出する内部屈曲部を具えるとともに、該内部屈曲部の頂点は、サイプ深さの20%よりも深い位置に位置し、少なくとも一本の傾斜サイプはそのサイプ主直線が、他のいずれかの傾斜サイプのサイプ主直線と、タイヤ径方向に対して逆方向に傾斜している。
【0030】
ここで、タイヤ赤道面CLからトレッド端TEまでのタイヤ幅方向の中心位置M1、M2を基準として、該中心位置よりタイヤ幅方向内側をセンター部C1、C2、該中心位置よりタイヤ幅方向外側をショルダ部S1、S2とすると、本実施形態のタイヤでは、横溝104は、タイヤ幅方向外側に向かうにつれて溝幅が漸増しているため、横溝104のショルダ部S1(S2)での溝幅は、横溝104のセンター部C1(C2)での溝幅より大きくなっている。
さらに、本実施形態のタイヤにあっては、タイヤ幅方向外側の縦溝103bの溝深さを、タイヤ幅方向内側の縦溝103aの溝深さより浅くしている。
【0031】
また、
図8に示すタイヤでは、陸部表面に、
図3に示すような、タイヤ幅方向両端を除いて、タイヤ周方向への振幅を伴ってジグザグ状に屈曲して延在する傾斜サイプ(
図8の111a)と、
図4に示すような、ほぼタイヤ幅方向に延びる幅方向延在部11wと、ほぼタイヤ周方向に延びる周方向延在部11rとの繰り返しで構成され、稲妻状に屈曲して延在する傾斜サイプ(
図8の111b)とが形成されている。
【0032】
以下、本実施形態のタイヤの作用効果について説明する。
雪上路面における摩擦力は、タイヤ前面の走行抵抗となる圧縮抵抗、ブロック表面の表面摩擦力、溝部の雪中せん断力、ブロックエッジによるエッジ効果などにより発生する。
本実施形態のタイヤによれば、まず、タイヤ赤道面CL上を連続して延びる中央周方向溝102を設けているため、接地長の長くなるタイヤ赤道面CL上での排水性を高めて、効率よくタイヤのウェット性能を確保することができる。
また、縦溝103を複数設けたことにより、旋回時に発生する横力に対して、縦溝103により区画されるブロックエッジによるエッジ効果を確保して、雪上路面での横グリップ力を確保することができ、雪上旋回性能を向上させることができる。
さらに、一般的な前輪駆動車では、リア荷重は、フロント荷重より小さいが、本実施形態のタイヤでは、タイヤ幅方向内側の縦溝103aの溝深さを、タイヤ幅方向外側の縦溝103bの溝深さより深くしたことにより、例えばリア荷重のような接地形状が小さくなる低荷重が負荷された際の当該縦溝による横方向のエッジ効果をより一層増大させ、これによって、低荷重時における横力をより一層増大させ、雪上でのスタビリティファクタを増大させることにより、雪上での横グリップ力のみならず、雪上路面でのフロント/リアバランスも向上させることができ、タイヤの雪上性能を総合的に向上させることができる。
これに加えて、ブロックに形成されるサイプを傾斜サイプとし、そのサイプ主直線に対して突出する内部屈曲部を具えるとともに、該内部屈曲部の頂点は、サイプ深さの20%よりも深い位置に位置し、少なくとも一本の傾斜サイプはそのサイプ主直線が、他のいずれかの傾斜サイプのサイプ主直線と、タイヤ径方向に対して逆方向に傾斜することで、ブロックの剛性を高め、横力が加わっている際にも雪中剪断力及びブロックのエッジ効果を効果的に発揮させて、雪上操縦安定性能を向上させることができる。
【0033】
さらに、横溝104のショルダ部での溝幅が、横溝104のセンター部での溝幅より大きいため、雪上路面での前後方向の入力に対しては、雪中せん断力を確保して、雪上路面での前後方向のグリップ力を高めることができる。
また、本実施形態のタイヤでは、接地長が長くなりやすい、タイヤ幅方向内側の縦溝103aの溝深さが、タイヤ幅方向外側の縦溝103bよりも深いため、排水性を効率よく高めることができる。
さらに、本実施形態のタイヤでは、横溝104のショルダ部での溝幅が、横溝104のセンター部での溝幅より大きいため、ショルダ部の剛性が低下しがちであるが、タイヤ幅方向外側の縦溝の溝深さが浅いため、ショルダ部の剛性を確保することもできる。
【0034】
また、本発明のサイプは、トレッド踏面101において、中央周方向溝102の溝面積と複数の縦溝103の溝面積との合計の溝面積が、全溝面積の50%未満であるタイヤに適用した場合に、より大きな効果を発揮することができる。
横溝104の溝面積が相対的に大きい場合には、横溝104の幅が大きくなり、雪柱剪断力及びブロックのエッジ効果の、操縦安定性に対する寄与がより大きくなる。このようなタイヤに本発明のサイプを適用して、雪柱剪断力及びブロックのエッジ効果を向上させることで、操縦安定性を大きく向上させることができる。
【実施例】
【0035】
タイヤサイズが195/65R15の実施例タイヤ、比較例タイヤを試作し、それらの性能を評価したので、以下に説明する。
【0036】
実施例タイヤ1〜8及び比較例タイヤ1〜3にはともに、
図1に示すブロック状の陸部が形成されている。
実施例タイヤ1の4列のブロック列には、
図9Aの斜視図及び
図10Aの断面図に示す、2つの内部屈曲部を有する、幅0.7mm、深さ(トレッド表面からの距離、以下同じ)7mmの傾斜サイプが形成されている。トレッド表面に近い内部屈曲部の頂点の深さは3mmである。また、ブロック状の陸部のタイヤ周方向中心を挟んで、該ブロック状の陸部の一方側の傾斜サイプのサイプ主直線が、該ブロック状の陸部の他方側の傾斜サイプのサイプ主直線とは、タイヤ径方向に対して逆方向に傾斜している。そして図示はしていないが、サイプの周方向溝への開口位置付近では、サイプがそのタイヤ幅方向端部で千鳥状に底上げされている。なお陸部表面では、サイプの延在方向はタイヤ幅方向と略一致している。
実施例タイヤ2は、
図9Bに示すように、隣接する傾斜サイプのタイヤ径方向に対する傾斜方向が互いに逆になっている点を除き、実施例タイヤ1と同じ構造を持つ。
実施例タイヤ3は、
図9Cに示すように、陸部表面でサイプを、陸部表面のタイヤ幅方向両端部分を除き、ジグザグ状に延在させている点を除き、実施例タイヤ2と同じ構造を持つ。
実施例タイヤ4は、
図9Dに示すように、陸部表面で傾斜サイプがその延在方向に延びる部分と、該延在方向に対して傾斜して延びる部分とを繰り返してなる、台形波状に形成されている点を除き、実施例タイヤ3と同じ構造を持つ。
実施例タイヤ5は、
図9E及び
図10Bに示すように、サイプが4つの内部屈曲部を有し、陸部表面で傾斜サイプが台形波状に形成されている点を除き、実施例タイヤ1と同じ構造を持つ。
実施例タイヤ6は、
図9Fに示すように、隣接する傾斜サイプのタイヤ径方向に対する傾斜方向が互いに逆となっている点を除き、実施例タイヤ5と同じ構造を持つ。
実施例タイヤ7は、サイプのタイヤ幅方向端部に底上げ部を設けていない点を除き、実施例タイヤ6と同じ構造を持つ。
実施例タイヤ8は、
図9I及び
図10Aに示すように、傾斜サイプを陸部表面で、タイヤ幅方向に対してわずかに傾斜して延びる幅方向延在部と、タイヤ周方向に対してわずかに傾斜して延びる周方向延在部との繰り返しで構成して、稲妻状に屈曲して延在させ、該傾斜サイプがそれぞれ2つの表面屈曲部を有する。また、それぞれの傾斜サイプのサイプ主直線は、タイヤ径方向内側が、ブロック状の陸部のタイヤ周方向中心を向いている。その他の点については、実施例タイヤ1と同じ構造を持つ。
実施例タイヤ9は、
図8に示すブロック状の陸部が形成されている。そして陸部表面には、
図8に示すように、タイヤ周方向への振幅を伴ってジグザグ状に屈曲して延在する傾斜サイプ111aと、タイヤ幅方向に対してわずかに傾斜して延びる幅方向延在部及びタイヤ周方向に対してわずかに傾斜して延びる周方向延在部の繰り返しで構成され、稲妻状に屈曲して延在する傾斜サイプ111bとが形成されている。両傾斜サイプのタイヤ径方向断面図は
図10Aの通りである。
【0037】
比較例タイヤ1のブロック列には、
図9Gの斜視図及び
図10Aの断面図に示す、2つの内部屈曲部を有する傾斜サイプが形成されている。
比較例タイヤ2のタイヤ幅方向の一方の外側の1列のブロック列と、タイヤ幅方向の他方の外側の1列のブロック列(これらを以下、ショルダ部のブロック列といい、表1中「ショルダ部」で示す)には、
図9H及び
図10Cに示すように、サイプ主直線がタイヤ径方向に対して傾斜していないサイプが形成され、タイヤ赤道面CLを挟む2列のブロック列(以下センター部のブロック列といい、表1中「センター部」で示す)にはそれぞれ4本のタイヤ径方向に延びる、幅0.7mm、深さ7mmのサイプが形成されている。またショルダ部及びセンター部のそれぞれのサイプのタイヤ幅方向両端部は底上げされている。その他の構造については、実施例タイヤ1と同じである。
比較例タイヤ3は、トレッド表面に最も近い内部屈曲部の頂点の深さを1mmとした点を除いて、実施例タイヤ7と同じ構造を持つ。
【0038】
以上に述べた各供試タイヤについて、サイズ15×6Jのリムに組み付けるとともに、空気圧200kPaを充填して、以下の雪上加速試験、ウェット・ドライ制動試験及び雪上操縦安定性能試験を行った。
【0039】
<雪上加速試験>
雪路面上で、上記のタイヤを装着した車両を、静止状態からアクセルを全開にして50m走行するまでの時間(加速時間)を計測することで、雪上トラクション性能を評価した。その結果を表1に示す。
ここで、表1に示す指数値は、比較例タイヤ2の加速時間の逆数を100としたものであり、数値が大きいほど雪上トラクション性能に優れることを示す。
【0040】
<ウェット・ドライ制動試験>
ウェット路面で80km/hからフルブレーキをかけて静止状態になるまでの制動距離を測定した。また、ドライ路面で100km/hからフルブレーキをかけて静止状態になるまでの制動距離を測定した。これらの結果も表1に示す。
ここで、表1に示す指数値は、比較例タイヤ2の制動距離の逆数を100としたものであり、数値が大きいほどウェット制動性能、ドライ制動性能に優れることを示す。
【0041】
<雪上操縦安定性能試験>
上記のタイヤを装着した車両を運転し、雪路のテストコース上を1周した際にかかるタイムを計測することで、雪上操縦安定性能を評価した。その結果を表1に示す。
ここで、表1に示す指数値は、比較例タイヤ2のタイムの逆数を100としたものであり、数値が大きいほど雪上操縦安定性能試験に優れることを示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1に示す結果から、実施例タイヤ1〜9はともに、比較例タイヤ1〜3に比して、雪上トラクション性能、ウェット制動性能及びドライ制動性能がいずれも大きく向上していることがわかる。また、実施例タイヤ5は加硫後ブレードを引き抜いた際にトレッドが破損することがなく、製造が容易であった。さらに、実施例タイヤ8、9は、比較例タイヤ1〜3に比して雪上操縦安定性能が大きく向上していることがわかる。