特許第6106265号(P6106265)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6106265
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】車両制御装置および車両の制御方法
(51)【国際特許分類】
   F16D 48/02 20060101AFI20170316BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20170316BHJP
   F16H 61/12 20100101ALI20170316BHJP
【FI】
   F16D48/02 640D
   F16H61/02
   F16H61/12
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-506645(P2015-506645)
(86)(22)【出願日】2014年2月12日
(86)【国際出願番号】JP2014053134
(87)【国際公開番号】WO2014148147
(87)【国際公開日】20140925
【審査請求日】2015年8月4日
(31)【優先権主張番号】特願2013-58502(P2013-58502)
(32)【優先日】2013年3月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075513
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 政喜
(74)【代理人】
【識別番号】100120260
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅昭
(74)【代理人】
【識別番号】100167520
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 良太
(72)【発明者】
【氏名】小辻 弘一
【審査官】 西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−190254(JP,A)
【文献】 特開2007−139129(JP,A)
【文献】 特開2001−099278(JP,A)
【文献】 特開2002−168270(JP,A)
【文献】 特開2005−344805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 48/02
F16H 61/02
F16H 61/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と駆動輪との間に設けられた摩擦締結要素を備えた車両を制御する車両制御装置であって、
インヒビタスイッチの信号が走行ポジションであるかどうか判定する第1判定手段と、
前記摩擦締結要素に連通する油路がドレーン状態であるかどうか判定する第2判定手段と、
前記摩擦締結要素の温度を推定する温度推定手段と、
前記インヒビタスイッチの信号が前記走行ポジションであり、かつ前記油路が前記ドレーン状態である場合に、前記温度推定手段による前記摩擦締結要素の温度推定を禁止する温度推定禁止手段とを備える車両制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御装置であって、
前記温度推定手段によって推定された前記摩擦締結要素の推定温度が所定温度よりも高い場合に、前記摩擦締結要素を保護する保護制御を実行する保護制御手段を備え、
前記温度推定禁止手段は、前記インヒビタスイッチの信号が前記走行ポジションであり、前記油路が前記ドレーン状態であり、かつ前記摩擦締結要素の推定温度が、前記所定温度よりも低く設定された温度よりも高い場合に、前記温度推定手段による前記摩擦締結要素の温度推定を禁止し、
前記保護制御手段は、前記温度推定禁止手段が前記摩擦締結要素の温度推定を禁止している場合には、前記保護制御を実行しない車両制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両制御装置であって、
前記摩擦締結要素は、前記車両の発進時にスリップ締結される発進用摩擦締結要素である車両制御装置。
【請求項4】
駆動源と駆動輪との間に設けられた摩擦締結要素を備えた車両を制御する車両の制御方法であって、
インヒビタスイッチの信号が走行ポジションであるかどうか判定し、
前記摩擦締結要素に連通する油路がドレーン状態であるかどうか判定し、
前記摩擦締結要素の温度を推定し、
前記インヒビタスイッチの信号が前記走行ポジションであり、かつ前記油路が前記ドレーン状態である場合に、前記摩擦締結要素の温度推定を禁止する車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両制御装置および車両の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、レンジ切替弁が各レンジの中間位置にある場合にフェール処理を行うものがJP5−87233Aに開示されている。
【発明の概要】
【0003】
レンジ切替弁が各レンジの中間位置となると、例えばインヒビタスイッチ信号が走行ポジションとなり、かつ摩擦締結要素に連通する油路がドレーン状態となる場合がある。この場合、摩擦締結要素に油圧が供給されないので、摩擦締結要素は締結していないが、インヒビタスイッチ信号が走行ポジションとなっているので制御上は摩擦締結要素が締結していると判定される。
【0004】
摩擦締結要素が締結する際、スリップしながら締結するため摩擦締結要素では熱が発生する。発生した熱によって摩擦締結要素が過熱状態になると、摩擦締結要素の耐久性が低下するので、摩擦締結要素の温度を推定し、推定した温度に基づいて例えば摩擦締結要素に供給される潤滑油量を制御して摩擦締結要素が過熱状態となることを抑制している。
【0005】
上記する状態において、摩擦締結要素の温度を推定すると、実際には摩擦締結要素は締結していないにもかかわらず、摩擦締結要素が締結していると判定されるため、摩擦締結要素の温度は実際の温度よりも高く推定される。つまり、誤った摩擦締結要素の温度が推定される。
【0006】
本発明はこのような問題点を解決するために発明されたもので、誤った摩擦締結要素の温度が推定されることを防ぐことを目的とする。
【0007】
本発明のある態様に係る車両制御装置は、駆動源と駆動輪との間に設けられた摩擦締結要素を備えた車両を制御する車両制御装置であって、インヒビタスイッチの信号が走行ポジションであるかどうか判定する第1判定部と、摩擦締結要素に連通する油路がドレーン状態であるかどうか判定する第2判定部と、摩擦締結要素の温度を推定する温度推定部と、インヒビタスイッチの信号が走行ポジションであり、かつ油路がドレーン状態である場合に、温度推定部による摩擦締結要素の温度推定を禁止する温度推定禁止部とを備える。
【0008】
本発明の別の態様に係る車両の制御方法は、駆動源と駆動輪との間に設けられた摩擦締結要素を備えた車両を制御する車両の制御方法であって、インヒビタスイッチの信号が走行ポジションであるかどうか判定し、摩擦締結要素に連通する油路がドレーン状態であるかどうか判定し、摩擦締結要素の温度を推定し、インヒビタスイッチの信号が走行ポジションであり、かつ油路がドレーン状態である場合に、摩擦締結要素の温度推定を禁止する。
【0009】
これら態様によると、誤った摩擦締結要素の温度が推定されることを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1はハイブリッド車両の全体構成図である。
図2図2は本実施形態の温度推定禁止制御を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0012】
図1は、ハイブリッド車両(以下、車両という。)100の全体構成図である。車両100は、エンジン1と、第1クラッチ2と、モータジェネレータ(以下、MGという。)3と、第1オイルポンプ4と、第2オイルポンプ5と、第2クラッチ6と、無段変速機(以下、CVTという。)7と、駆動輪8と、統合コントローラ50とを備える。
【0013】
エンジン1は、ガソリン、ディーゼル等を燃料とする内燃機関であり、統合コントローラ50からのエンジン制御指令に基づいて、回転速度、トルク等が制御される。
【0014】
第1クラッチ2は、エンジン1とMG3との間に介装されたノーマルオープンの油圧駆動式クラッチである。第1クラッチ2は、統合コントローラ50からのモード切換指令に基づき油圧コントロールバルブユニット71により作り出された制御油圧によって、締結・解放状態が制御される。第1クラッチ2としては、例えば、乾式多板クラッチが用いられる。
【0015】
MG3は、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型回転電動機である。MG3は、統合コントローラ50からのMG制御指令に基づいて、インバータ9により作り出された三相交流を印加することにより制御される。MG3は、バッテリ10からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することができる。また、MG3は、ロータがエンジン1や駆動輪8から回転エネルギーを受ける場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能し、バッテリ10を充電することができる。
【0016】
第1オイルポンプ4は、エンジン1又はMG3によって駆動されるベーンポンプである。第1オイルポンプ4は、CVT7のオイルパン72に貯留される作動油を吸い上げ、油圧コントロールバルブユニット71に油を供給する。
【0017】
第2オイルポンプ5は、バッテリ10から電力の供給を受けて動作する電動オイルポンプである。第2オイルポンプ5は、統合コントローラ50からの指令に基づき、第1オイルポンプ4のみでは油量が不足する場合に駆動され、第1オイルポンプ4と同様にCVT7のオイルパン72に貯留される作動油を吸い上げ、油圧コントロールバルブユニット71に油を供給する。
【0018】
第2クラッチ6は、MG3とCVT7との間に介装される。第2クラッチ6は、例えば遊星歯車機構からなる前後進切替機構に設けられた油圧作動クラッチであり、統合コントローラ50からの前後進切換指令に基づき、油圧コントロールバルブユニット71により作り出された制御油圧により、締結・解放が制御される。第2クラッチ6としては、例えば、ノーマルオープンの湿式多板クラッチが用いられる。
【0019】
第2クラッチ6へ供給される油圧は、油圧コントロールバルブユニット71に設けられたマニュアルバルブ、ソレノイドバルブ等によって制御されている。マニュアルバルブは、シフトレバー14と機械的に連結しており、シフトレバー14の操作に連動して油路を切り替える。ソレノイドバルブは、シフトレバー14の位置を検出するインヒビタスイッチ54からの信号などに基づいて算出されたトルク指示信号により駆動され、指示伝達トルクに応じた油圧となるように第2クラッチ6に供給される油圧を制御する。第2クラッチ6は、シフトレバー14が走行レンジであり、かつインヒビタスイッチ54からの信号が走行ポジションの場合に締結する。走行レンジとは、Dレンジなどの車両100が前進するレンジに加えて、Rレンジの車両100が後退するレンジを含んでいる。走行ポジションも同様に、車両100が前進するポジションに加えて、車両100が後退するポジションを含んでいる。
【0020】
なお、インヒビタスイッチ54は、シフトレバー14の位置を検知する検知範囲が広めに設定されており、シフトレバー14の操作が完了する前にインヒビタスイッチ54からの信号が切り替わる。そのため、シフトレバー14が非走行レンジと走行レンジとの間で保持される場合、例えば、シフトレバー14がNレンジからDレンジへの変更途中にNレンジとDレンジとの間で保持される場合には、インヒビタスイッチ54の信号は、Dポジションとなるが、マニュアルバルブはNレンジに対応した位置となる。そのため、第2クラッチ6に連通する油路はドレーン状態となり、第2クラッチ6には油圧が供給されず、第2クラッチ6は解放状態となる。このような状態は、例えば、運転者がシフトレバー14をNレンジとDレンジとの間に保持した場合や、運転者の意に反してシフトレバー14がNレンジとDレンジとの間に保持された場合に生じる。
【0021】
また、第2クラッチ6には、第2クラッチ6が過熱状態とならないように油(以下、潤滑油という。)が供給される。
【0022】
CVT7は、MG3の下流に配置され、車速やアクセル開度等に応じて変速比を無段階に変更することができる。CVT7は、プライマリプーリと、セカンダリプーリと、両プーリに掛け渡されたベルトとを備える。CVT7は、第1オイルポンプ4及び第2オイルポンプ5からの吐出圧を元圧として作り出されたプライマリプーリ圧とセカンダリプーリ圧とによりプライマリプーリの可動プーリとセカンダリプーリの可動プーリとを軸方向に動かし、ベルトのプーリ接触半径を変化させることで、変速比を無段階に変更する。
【0023】
CVT7の出力軸には、図示しない終減速ギヤ機構を介してディファレンシャル12が接続され、ディファレンシャル12には、ドライブシャフト13を介して駆動輪8が接続される。
【0024】
統合コントローラ50には、エンジン1の回転速度を検出するエンジン回転速度センサ51、第2クラッチ6の入力回転速度を検出する回転速度センサ55、第2クラッチ6の出力回転速度(=CVT7の入力回転速度)を検出する回転速度センサ52、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ53、CVT7のシフトレバー14の位置を検出するインヒビタスイッチ54からの信号等が入力され、統合コントローラ50は、これらに基づき、上記エンジン1、MG3、CVT7に対する各種制御を行う。
【0025】
車両100は、従来の自動変速機搭載車両のようにトルクコンバータを備えていない。このため、発進時は第2クラッチ6をスリップ締結させながら発進する。
【0026】
したがって、トルクコンバータを備えた場合と比較して、第2クラッチ6をスリップさせる運転領域が多く存在するため、車両100は、第2クラッチ6の発熱量に見合った潤滑油を第2クラッチ6に供給し、第2クラッチ6が過熱状態となることを抑制している。
【0027】
それでも、第2クラッチ6が過熱状態となるような場合には、第2クラッチ6を保護する保護制御が実行される。保護制御では、例えばエンジントルクを低減して第2クラッチ6に伝達されるトルクを低減し、第2クラッチ6の温度上昇を抑制する。また警告灯などを点灯させて運転者に第2クラッチ6の温度が高くなっていることを告知する。さらに第2クラッチ6の温度が高くなる場合には、保護制御では、エンジン1、MG3を停止し、車両100を停止させ、第2クラッチ6の温度が上昇することを防止する。保護制御は、推定された第2クラッチ6の温度が所定温度よりも高くなると実行される。
【0028】
本実施形態では、第2クラッチ6の指示伝達トルクと、第2クラッチ6の入力軸と第2クラッチ6の出力軸との回転速度差とを積算して第2クラッチ6で発生する熱量を算出し、算出した熱量に基づいて第2クラッチ6の温度を推定する。
【0029】
なお、第2クラッチ6の推定伝達トルクを用いて第2クラッチ6の温度を推定することも可能であるが、推定伝達トルクはエンジン1で発生するエンジントルクと、MG3で発生するモータトルクとの加算値から、第1オイルポンプ4のフリクションなどを減算して算出しており、各要素のバラツキが影響するため温度推定の精度が悪化する。そこで、本実施形態では、第2クラッチ6の指示伝達トルクを用いて第2クラッチ6の温度を推定している。
【0030】
また、本実施形態では、エンジン回転速度が吹け上がらないように回転速度制御を実行している。回転速度制御は、エンジン回転速度が吹け上がるような場合に、MG3によって発電を行い、エンジン回転速度が吹け上がることを防ぐ制御である。そのため、第2クラッチ6に油圧が供給されておらず、第2クラッチ6が解放状態である場合に、アクセルペダルが踏み込まれてエンジントルクが大きくなっても、エンジントルクはMG3による発電に用いられるので、エンジン回転速度は吹け上がらず、推定伝達トルクは小さい。
【0031】
車両100では、上記するように、シフトレバー14がNレンジとDレンジとの間で保持され、インヒビタスイッチ54の信号はDポジションとなり、マニュアルバルブはNレンジに対応する位置となる場合がある。この場合、第2クラッチ6への油圧はドレーン状態となり、第2クラッチ6には油圧が供給されず、第2クラッチ6は解放状態となる。このような状態で、アクセルペダルが踏み込まれても回転速度制御によって第2クラッチ6の推定伝達トルクは大きくならないが、アクセル開度に応じて第2クラッチ6の指示伝達トルクは大きくなり、推定伝達トルクと指示伝達トルクとの間に乖離が生じる。推定伝達トルクは小さいので、第2クラッチ6の実際の温度はさほど高くならないが、推定された第2クラッチ6の温度は、指示伝達トルクに基づいて推定されるので、実際の温度よりも高くなる。つまり、誤った第2クラッチ6の温度が推定される。そして、推定された第2クラッチ6の温度が、所定温度よりも高くなると、保護制御が実行される。すなわち、実際には第2クラッチ6の温度が所定温度よりも高くなっておらず、保護制御を実行する必要がないにもかかわらず、保護制御が実行される。
【0032】
そこで、本実施形態では、誤った第2クラッチ6の温度が推定されることを防ぎ、不要な保護制御が実行されることを防ぐ。
【0033】
次に、本実施形態の温度推定禁止制御について図2のフローチャートを用いて説明する。
【0034】
ステップS100では、統合コントローラ50は、インヒビタスイッチ54の信号が走行ポジションであるかどうか判定する。処理は、インヒビタスイッチ54の信号が走行ポジションである場合にはステップS101に進み、インヒビタスイッチ54の信号が走行ポジションではない場合にはステップS106に進む。
【0035】
ステップS101では、統合コントローラ50は、第2クラッチ6の推定伝達トルクを算出する。統合コントローラ50は、エンジン1で発生するエンジントルクと、MG3で発生するモータトルクとの加算値から第1オイルポンプ4のフリクションなどを減算して推定伝達トルクを算出する。
【0036】
ステップS102では、統合コントローラ50は、第2クラッチ6の推定伝達トルクが第1所定トルク以下であるかどうか判定する。第1所定トルクは第2クラッチ6に油圧が供給されているかどうか判定可能なトルクである。本実施形態では、回転速度制御が実行されており、第2クラッチ6に油圧が供給されていない場合には、アクセルペダルの踏み込みの有無にかかわらず、第2クラッチ6の推定伝達トルクは小さい。従って、推定伝達トルクが第1所定トルク以下である場合には、統合コントローラ50は、第2クラッチ6に油圧を供給する油路がドレーン状態であり、第2クラッチ6に油圧が供給されていないと判定し、処理はステップS103に進む。一方、推定伝達トルクが第1所定トルクよりも大きい場合には統合コントローラ50は第2クラッチ6に油圧が供給されていると判定し、処理はステップS106に進む。なお、MG3により回転速度制御が実行されている場合、第2クラッチ6に油圧を供給する油路がドレーン状態であり、第2クラッチ6に油圧が供給されていないと判定することも考えられるが、統合コントローラ50は、MG3が回転速度制御を実行しているか否かを検知していない。従って、上記のように第2クラッチ6の推定伝達トルクが第1所定トルク以下であるかどうかを判定している。
【0037】
ステップS100においてインヒビタスイッチ54の信号が走行ポジションであると判定され、かつステップS102において第2クラッチ6の推定伝達トルクが第1所定トルク以下であると判定された場合には、シフトレバー14が非走行レンジと走行レンジとの間に保持され、インヒビタスイッチ54の信号が走行ポジションとなるが、第2クラッチ6に連通する油路がドレーン状態であり、第2クラッチ6に油圧が供給されていないと判定する。
【0038】
ステップS103では、統合コントローラ50は、指示伝達トルクを算出する。統合コントローラ50は、アクセル開度などに基づいて第2クラッチ6の目標締結容量を算出し、目標締結容量に基づいて指示伝達トルクを算出する。
【0039】
ステップS104では、統合コントローラ50は、指示伝達トルクと第2所定トルクとを比較する。第2所定トルクは、第2クラッチ6の温度が所定温度よりも大きくなる可能性があり、保護制御が実行される可能性があると判定可能なトルクであり、予め設定されている。処理は、指示伝達トルクが第2所定トルクよりも大きい場合にはステップS105に進み、指示伝達トルクが第2所定トルク以下の場合にはステップS106に進む。
【0040】
ステップS105では、統合コントローラ50は、第2クラッチ6の温度推定を禁止する。インヒビタスイッチ54の信号が走行ポジションであるにもかかわらず、第2クラッチ6に油圧が供給されていない場合に、指示伝達トルクに基づいて第2クラッチ6の温度を推定すると、実際の温度よりも高い温度が推定される。そのため、統合コントローラ50は、第2クラッチ6の温度推定を禁止する。なお、本実施形態では、さらに保護制御が実行される可能性がある場合に、第2クラッチ6の温度推定を禁止する。
【0041】
ステップS106では、統合コントローラ50は、第2クラッチ6の温度推定を継続する。
【0042】
本発明の実施形態の効果について説明する。
【0043】
インヒビタスイッチ54の信号が走行ポジションであり、かつ第2クラッチ6と連通する油路がドレーン状態となり第2クラッチ6に油圧が供給されていない場合には、第2クラッチ6の温度推定を禁止する。これにより、第2クラッチ6が締結しておらず、実際には第2クラッチ6の温度が高くなっていない場合に、誤った第2クラッチ6の温度が推定されることを防ぐことができる。
【0044】
第2クラッチ6の推定温度が所定温度よりも高くなると保護制御を実行するが、インヒビタスイッチ54の信号が走行ポジションであり、かつ第2クラッチ6と連通する油路がドレーン状態となり第2クラッチ6に油圧が供給されていない場合には、第2クラッチ6の温度推定を禁止する。そのため、第2クラッチ6の温度が実際には所定温度よりも高くなっておらず保護制御を実行する必要がないにもかかわらず、保護制御が実行されることを防ぐことができる。これにより、不必要に保護制御が実行されて車両100の走行性能が制限されることを防ぎ、運転者に違和感を与えることを防ぐことができる。
【0045】
また、指示伝達トルクが第2所定トルクよりも大きく、保護制御が実行される可能性がある場合にのみ第2クラッチ6の温度推定を禁止する。これにより、例えばシフトレバー14がDレンジであり、指示伝達トルクが小さく、その指示伝達トルクに応じてエンジン1などが制御されて推定伝達トルクが小さい場合に、第2クラッチ6の温度推定が禁止されることを防ぎ、第2クラッチ6の温度を推定することができる。
【0046】
指示伝達トルクの値に関わらず、推定伝達トルクが第1所定トルクよりも小さい場合に、温度推定を禁止すると、指示伝達トルクが第2所定トルク以下であっても温度推定が禁止される。そのため、指示伝達トルクに対する推定伝達トルクのばらつきにより、推定伝達トルクが第1所定トルクよりも小さくなる場合には、温度推定が禁止される。また、指示伝達トルクが非常に低い運転状態においては、推定伝達トルクのばらつきの有無に関わらず、推定伝達トルクが第1所定トルクよりも小さくなる場合があり、この場合も温度推定が禁止される。つまり、インヒビタスイッチ54の信号が走行ポジションであり、かつ第2クラッチ6と連通する油路がドレーン状態となっていないにも関わらず、温度推定が禁止される。この場合、指示伝達トルクを用いて、上記する保護制御とは別の保護制御を実行可能な装置では、温度推定が禁止されると、別の保護制御が実行されないおそれがある。例えば、短時間に第2クラッチ6の締結、解放指示が繰り返し行われると、推定伝達トルクが第1所定トルク以下であり、かつ指示伝達トルクが第2所定トルク以下であっても、第2クラッチ6で発生する熱量が大きくなる場合ある。このような場合には、指示伝達トルクに基づいて第2クラッチ6の温度を推定し、第2クラッチ6の温度が高くなると、第2クラッチ6の耐久性低下を防ぐために、例えばエンジン1のトルクダウンを行うなどの別の保護制御を行うことが考えられる。本実施形態では、インヒビタスイッチ54の信号が走行ポジションであり、かつ第2クラッチ6と連通する油路がドレーン状態となっていないにも関わらず、推定伝達トルクが第1所定トルクよりも小さくなる可能性のある指示伝達トルクが第2所定トルク以下の場合には、温度推定を継続するので、このような別の保護制御を実行することができる。
【0047】
第2クラッチ6は、車両100の発進時にスリップして発熱するので第2クラッチ6の温度を正確に推定し、潤滑油の流量などを制御し、第2クラッチ6を保護することが重要となる。本実施形態では、このような第2クラッチ6の温度が誤って推定されることを防ぐことができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0049】
上記実施形態では、指示伝達トルクと第2所定トルクとを比較し、保護制御が実行される可能性があるかどうか判定したが、第2クラッチ6の推定温度と所定温度、または安全代を考慮し、所定温度よりも低く設定された温度とを比較してもよい。これによっても、本実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0050】
本実施形態では、第2クラッチ6の指示伝達トルクを用いて第2クラッチ6の温度推定を行ったが、第2クラッチ6への指示油圧を用いて第2クラッチ6の温度推定を行ってもよい。また、推定伝達トルクを用いて第2クラッチ6へ油圧が供給されているかどうか判定したが、油圧センサによって検出した実油圧を用いて第2クラッチ6へ油圧が供給されているかどうか判定してもよい。これによっても、本実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0051】
本実施形態では、回転速度制御を行っているが、回転速度制御を行っていない場合、例えばMG3を有していない車両の場合には、エンジン回転速度に基づいて第2クラッチ6に油圧が供給されているかどうか判定してもよい。これによっても、本実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0052】
本実施形態では、ステップS104において指示伝達トルクが第2所定トルクよりも大きい場合に第2クラッチ6の温度推定を禁止したが、これを省略してもよい。これにより、第2クラッチ6に油圧が供給されていない場合に、第2オイルポンプ5が動作することを抑制し、第2オイルポンプ5で消費される電力を抑制することができる。
【0053】
本願は2013年3月21日に日本国特許庁に出願された特願2013−58502に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2