特許第6106343号(P6106343)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6106343
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】水素排出膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20170316BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20170316BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20170316BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20170316BHJP
   C22C 5/04 20060101ALI20170316BHJP
   C22C 5/06 20060101ALI20170316BHJP
   C22C 5/02 20060101ALI20170316BHJP
   H01M 2/12 20060101ALI20170316BHJP
   H01G 9/12 20060101ALI20170316BHJP
   H01G 11/14 20130101ALI20170316BHJP
   C22F 1/14 20060101ALN20170316BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20170316BHJP
【FI】
   B01D71/02 500
   B01D69/10
   B01D69/12
   B01D53/22
   C22C5/04
   C22C5/06
   C22C5/02
   H01M2/12 101
   H01G9/12 A
   H01G11/14
   !C22F1/14
   !C22F1/00 613
   !C22F1/00 622
   !C22F1/00 641Z
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 691Z
   !C22F1/00 694A
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-529303(P2016-529303)
(86)(22)【出願日】2015年6月12日
(86)【国際出願番号】JP2015067000
(87)【国際公開番号】WO2015194470
(87)【国際公開日】20151223
【審査請求日】2016年5月23日
(31)【優先権主張番号】特願2014-123485(P2014-123485)
(32)【優先日】2014年6月16日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福岡 孝博
(72)【発明者】
【氏名】石井 恭子
(72)【発明者】
【氏名】正木 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】秦 健太
(72)【発明者】
【氏名】湯川 宏
(72)【発明者】
【氏名】南部 智憲
【審査官】 中村 俊之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−012495(JP,A)
【文献】 米国特許第03350845(US,A)
【文献】 特開平05−330803(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0012004(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0241477(US,A1)
【文献】 特表2005−502158(JP,A)
【文献】 特開2001−029760(JP,A)
【文献】 特開2003−297325(JP,A)
【文献】 特開2000−247605(JP,A)
【文献】 特開2004−174373(JP,A)
【文献】 特開2014−017051(JP,A)
【文献】 特開2006−043677(JP,A)
【文献】 特開2000−233119(JP,A)
【文献】 特開2006−055831(JP,A)
【文献】 特開2008−077945(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00−71/82
C02F 1/44
C22C 5/02
C22C 5/04
C22C 5/06
C22F 1/00
H01G 9/12
H01G 11/14
H01M 2/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合金を含む水素排出膜において、前記水素排出膜は電気化学素子に設けられるものであり、前記合金がPdAuを含む合金であり、PdAuを含む合金中のAuの含有量が15mol%以上であることを特徴とする水素排出膜。
【請求項2】
PdAuを含む合金中のAuの含有量が15〜55mol%であり、膜厚tと膜面積sが下記式1を満たす請求項1記載の水素排出膜。
〈式1〉
t/s<41.1m−1
【請求項3】
PdAuを含む合金は、さらにIB族及び/又はIIIA族の金属を含み、PdAuを含む合金中のAuと前記金属との合計含有量が55mol%以下である請求項1又は2に記載の水素排出膜。
【請求項4】
金属層の片面又は両面に請求項1〜3のいずれかに記載の水素排出膜を有する複合水素排出膜。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の水素排出膜、又は請求項4記載の複合水素排出膜の片面又は両面に支持体を有する水素排出積層膜。
【請求項6】
前記支持体は、平均孔径100μm以下の多孔質体である請求項5記載の水素排出積層膜。
【請求項7】
前記支持体の原料が、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリイミド、ポリアミドイミド、及びアラミドからなる群より選択される少なくとも1種である請求項5又は6記載の水素排出積層膜。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載の水素排出膜、請求項4記載の複合水素排出膜、又は請求項5〜7のいずれかに記載の水素排出積層膜を備えた電気化学素子用安全弁。
【請求項9】
請求項8記載の電気化学素子用安全弁を備えた電気化学素子。
【請求項10】
前記電気化学素子が、アルミ電解コンデンサ又はリチウムイオン電池である請求項9記載の電気化学素子。
【請求項11】
請求項1〜3のいずれかに記載の水素排出膜、請求項4記載の複合水素排出膜、請求項5〜7のいずれかに記載の水素排出積層膜、又は請求項8記載の電気化学素子用安全弁を用いた水素排出方法。
【請求項12】
150℃以下の環境下で水素を排出させる請求項11記載の水素排出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池、コンデンサ、キャパシタ、及びセンサなどの電気化学素子等に設けられる水素排出膜に関する。詳しくは、使用中に水素ガスが発生し内部圧力が上昇する電気化学素子等において、150℃程度以下の使用環境下において、発生した水素を外部に排出する機能を有する水素排出膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、風力発電及び太陽光発電などのインバータ、蓄電池などの大型電源などの用途にアルミ電解コンデンサが使用されている。アルミ電解コンデンサは、逆電圧、過電圧、及び過電流によって内部に水素ガスが発生する場合があり、水素ガスが大量に発生すると内部圧力の上昇によって外装ケースが破裂する恐れがある。
【0003】
そのため、一般のアルミ電解コンデンサには、特殊膜を備えた安全弁が設けられている。安全弁は、コンデンサ内部の水素ガスを外部に排出する機能に加え、コンデンサの内部圧力が急激に上昇した場合には自壊して内部圧力を低下させ、コンデンサ自体の破裂を防止する機能を有するものである。このような安全弁の構成部材である特殊膜としては、例えば、以下のものが提案されている。
【0004】
特許文献1では、パラジュームに20wt%(19.8mol%)Agを含有させたパラジューム銀(Pd−Ag)の合金で構成された箔帯を備えた圧力調整膜が提案されている。
【0005】
しかし、特許文献1の箔帯は、50〜60℃程度以下の環境下で脆化しやすく、圧力調整膜としての機能を長期間維持することができないという問題があった。また、本発明者らが検討した結果、電気化学素子の外装ケースの部品及び付属品として用いられる有機材料の一部から放出されるガスによって圧力調整膜が劣化し、水素排出機能が低下するという問題も新たに確認された。
【0006】
一方、携帯電話、ノートパソコン、及び自動車等のバッテリーとして、リチウムイオン電池が幅広く使用されている。また近年、リチウムイオン電池は高容量化やサイクル特性向上に加えて、安全性への関心が高まっている。特に、リチウムイオン電池はセル内でガスが発生することが知られており、内圧上昇に伴う電池パックの膨張や破裂が懸念されている。
【0007】
特許文献2には、電池内で発生した水素ガスを選択的に透過する水素選択透過性合金膜として、ジルコニウム(Zr)とニッケル(Ni)の合金からなるアモルファス合金(例えば、36Zr−64Ni合金)膜を用いることが開示されている。
【0008】
しかし、前記アモルファス合金は、低温域(例えば、50℃)で水素に触れると水素化物(ZrH)を形成して脆化するため、圧力調整膜としての機能を長時間維持することができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4280014号明細書
【特許文献2】特開2003−297325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、電気化学素子の使用環境温度で脆化しにくい水素排出膜、複合水素排出膜及び水素排出積層膜を提供することを目的とする。また、前記特性に加えて、有機材料から放出されるガスによって劣化しにくい水素排出膜、複合水素排出膜及び水素排出積層膜を提供することを目的とする。また、当該水素排出膜、複合水素排出膜又は水素排出積層膜を備えた電気化学素子用安全弁、当該安全弁を備えた電気化学素子を提供することを目的とする。さらに、水素排出膜、複合水素排出膜、水素排出積層膜、又は電気化学素子用安全弁を用いた水素排出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、合金を含む水素排出膜において、前記合金がPd−Au合金であり、Pd−Au合金中のAuの含有量が15mol%以上であることを特徴とする水素排出膜、に関する。
【0012】
Pd−Ag合金を含む水素透過膜は、膜表面で水素分子を水素原子に解離して水素原子を膜内に固溶し、固溶した水素原子を高圧側から低圧側に拡散させ、低圧側の膜表面で再び水素原子を水素分子に変換して排出する機能を有する。また、Pd−Ag合金は400〜600℃の温度域で水素分離機能を有することが知られている。
【0013】
特許文献1のPd−20wt%Ag合金が、50〜60℃程度以下の環境下で脆化しやすくなる理由としては以下のように考えられる。Pd−20wt%Ag合金は、高温域においては水素原子を固溶してもα格子相は変化し難いが、50〜60℃程度以下の低温域においては、水素原子を固溶するとα格子相の一部がβ格子相に相変化し、脱水素するとβ格子相は再びα格子相に相変化する特性を有すると考えられる。そして、β格子相の格子定数はα格子相の格子定数に比べて大きいため、α格子相とβ格子相とが混在する領域(α+β格子相)で歪みが生じる。そのため、水素固溶化−脱水素化が繰り返されると、α+β格子相で歪み起因による破壊が起こり、Pd−20wt%Ag合金が脆化すると考えられる。
【0014】
本発明者らは、Pd−Ag合金の代わりに、Au含有量が15mol%以上であるPd−Au合金を用いて水素排出膜を形成することにより、50〜60℃程度以下の低温域であっても水素排出膜が脆化し難くなることを見出した。Au含有量が15mol%以上であるPd−Au合金は、50〜60℃程度以下の低温域で水素原子を固溶してもα格子相がβ格子相に相変化し難い、つまりα+β格子相が形成され難いと考えられる。そのため、本発明のPd−Au合金は、水素固溶化−脱水素化が繰り返されても脆化が起こり難いと考えられる。また、本発明者らは、Au含有量が15mol%以上であるPd−Au合金を含む水素排出膜は、電気化学素子の外装ケースの部品及び付属品として用いられる有機材料から放出されるガスによって劣化しにくいことを見出した。
【0015】
前記水素排出膜は、Pd−Au合金中のAuの含有量が15〜55mol%であり、膜厚t(m)と膜面積s(m)が下記式1を満たすことが好ましい。
〈式1〉t/s<41.1m−1
電気化学素子に設けられる水素排出膜は、圧力の平方根が76.81Pa1/2(0.059bar)における水素透過量が10ml/day以上(4.03×10−4mol/day以上:SATPに従い計算(温度25℃、気圧1barにおける1molの理想気体の体積は24.8L))であることが求められる。本発明のPd−Au合金中のAuの含有量が15〜55mol%である水素排出膜は、50℃における水素透過係数が3.6×10−12〜2.5×10−9(mol・m-1・sec-1・Pa-1/2)である。ここで、水素透過係数は下記式2により求められる。
〈式2〉水素透過係数=(水素モル数×膜厚t)/(膜面積s×時間×圧力の平方根)
水素透過量が10ml/day(4.03×10−4mol/day)かつ水素透過係数が2.5×10−9(mol・m-1・sec-1・Pa-1/2)の場合、式2に各数値を代入すると以下のとおりである。
2.5×10−9=(4.03×10−4×膜厚t)/(膜面積s×86400×76.81)
2.5×10−9=6.08×10−11×膜厚t/膜面積s
膜厚t/膜面積s=41.1m−1
したがって、50℃における水素透過係数が3.6×10−12〜2.5×10−9(mol・m-1・sec-1・Pa-1/2)の水素透過膜を用いる場合において、水素透過量が10ml/day以上(4.03×10−4mol/day以上)となる条件は、膜厚t/膜面積s<41.1m−1である。
【0016】
Pd−Au合金は、さらにIB族及び/又はIIIA族の金属を含んでいてもよい。その場合、Pd−Au合金中のAuと前記金属との合計含有量は55mol%以下であることが好ましい。
【0017】
本発明の複合水素排出膜は、金属層の片面又は両面に前記水素排出膜を有するものである。金属層の片面又は両面に前記水素排出膜を設けることにより、金属層が有機材料から放出されるガスによって劣化することを抑制することができる。
【0018】
本発明の水素排出積層膜は、前記水素排出膜又は前記複合水素排出膜の片面又は両面に支持体を有するものである。支持体は、水素排出膜等が安全弁から脱落した場合に、電気化学素子内に落下することを防止するために設けられる。また、水素排出膜等は、電気化学素子の内部圧力が所定値以上になった時に自壊する安全弁としての機能を有する必要がある。水素排出膜等が薄膜である場合には、水素排出膜等の機械的強度が低いため、電気化学素子の内部圧力が所定値になる前に自壊するおそれがあり、安全弁としての機能を果たせない。そのため、水素排出膜等が薄膜である場合には、機械的強度を向上させるために水素排出膜等の片面又は両面に支持体を積層することが好ましい。
【0019】
支持体は、平均孔径100μm以下の多孔質体であることが好ましい。平均孔径が100μmを超えると、多孔質体の表面平滑性が低下するため、スパッタリング法等で水素排出膜等を製造する場合に、多孔質体上に膜厚の均一な水素排出膜等を形成し難くなったり、水素排出膜等にピンホール又はクラックが生じやすくなる。
【0020】
支持体は、化学的及び熱的に安定である観点からポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリイミド、ポリアミドイミド、及びアラミドからなる群より選択される少なくとも1種のポリマーにより形成されていることが好ましい。
【0021】
また、本発明は、前記水素排出膜、前記複合水素排出膜、又は前記水素排出積層膜を備えた電気化学素子用安全弁、及び当該安全弁を有する電気化学素子、に関する。電気化学素子としては、例えば、アルミ電解コンデンサ及びリチウムイオン電池などが挙げられる。
【0022】
また、本発明は、前記水素排出膜、前記複合水素排出膜、前記水素排出積層膜、又は前記電気化学素子用安全弁を用いた水素排出方法、に関する。
【0023】
本発明の水素排出方法においては、前記水素排出膜等を用いて150℃以下の環境下で水素を排出させることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の水素排出膜、複合水素排出膜、及び水素排出積層膜は、電気化学素子の使用環境温度で脆化しにくく、しかも有機材料から放出されるガスによって劣化しにくいという特徴がある。また、本発明の水素排出膜、複合水素排出膜、及び水素排出積層膜は、電気化学素子内部で発生した水素ガスのみを速やかに外部に排出することができるだけでなく、外部から電気化学素子内部への不純物の侵入を防止することができる。また、本発明の水素排出膜、複合水素排出膜、又は水素排出積層膜を備えた安全弁は、電気化学素子の内部圧力が急激に上昇した場合には自壊して内部圧力を低下させ、電気化学素子自体の破裂を防止することができる。これら効果により、電気化学素子の性能を長期間維持することができ、電気化学素子の長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の水素排出積層膜の構造を示す概略断面図である。
図2】本発明の水素排出積層膜の構造を示す概略断面図である。
図3】実施例1で作製した水素排出膜の評価試験後の写真である。
図4】実施例3で作製した水素排出膜の評価試験後の写真である。
図5】実施例5で作製した水素排出膜の評価試験後の写真である。
図6】実施例6で作製した水素排出膜の評価試験後の写真である。
図7】比較例1で作製した水素排出膜の評価試験後の写真である。
図8】実施例7で作製した水素排出積層膜の評価試験後の写真である。
図9】実施例9で作製した水素排出積層膜の評価試験後の写真である。
図10】実施例11で作製した水素排出積層膜の評価試験後の写真である。
図11】実施例12で作製した水素排出積層膜の評価試験後の写真である。
図12】比較例3で作製した水素排出積層膜の評価試験後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0027】
本発明の水素排出膜の原料としては、Auの含有量が15mol%以上のPd−Au合金を用いる。Auの含有量が多いほど低温域で水素脆化し難くなるため、Auの含有量は25mol%以上であることが好ましく、より好ましくは30mol%以上である。また、Auの含有量が15mol%以上であれば、有機材料から放出されるガスによる水素排出膜の劣化を抑制することができる。一方、Auの含有量が多くなりすぎると水素透過速度が低下する傾向にあるため、Auの含有量は、55mol%以下であることが好ましく、より好ましくは50mol%以下であり、さらに好ましくは45mol%以下であり、特に好ましくは40mol%以下である。
【0028】
また、Pd−Au合金は、本発明の効果を損なわない範囲でIB族及び/又はIIIA族の金属を含んでいてもよく、例えば、Ag及び/又はCuを含んでいてもよい。すなわち、Pd−Au−Agの3成分を含む合金であってもよく、Pd−Au−Cuの3成分を含む合金であってもよい。さらに、Pd−Au−Ag−Cuの4成分を含む合金であってもよい。このように、PdとAuと他の金属を含む多成分系合金の場合、Pd−Au合金中のAuと他の金属との合計含有量は、55mol%以下であることが好ましく、より好ましくは50mol%以下であり、さらに好ましくは45mol%以下であり、特に好ましくは40mol%以下である。
【0029】
本発明の水素排出膜は、例えば、圧延法、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、及びメッキ法などにより製造することができるが、膜厚の厚い水素排出膜を製造する場合には、圧延法を用いることが好ましく、膜厚の薄い水素排出膜を製造する場合には、スパッタリング法を用いることが好ましい。
【0030】
圧延法は、熱間圧延であってもよく、冷間圧延のいずれの方法でもよい。圧延法は、一対又は複数対のロール(ローラー)を回転させ、ロール間に原料であるPd−Au合金を、圧力をかけながら通過させることにより膜状に加工する方法である。
【0031】
圧延法により得られる水素排出膜の膜厚は、5〜50μmであることが好ましく、より好ましくは10〜30μmである。膜厚が5μm未満の場合には、製造時にピンホール又はクラックが生じやすくなったり、水素を吸蔵すると変形しやすくなる。一方、膜厚が50μmを超えると、水素を透過させるのに時間を要するため水素排出性能が低下したり、コスト面で劣るため好ましくない。
【0032】
スパッタリング法は特に限定されず、平行平板型、枚葉型、通過型、DCスパッタ、及びRFスパッタなどのスパッタリング装置を用いて行うことができる。例えば、Pd−Au合金ターゲットを設置したスパッタリング装置に基板を取り付けた後、スパッタリング装置内を真空排気し、Arガス圧を所定値に調整し、Pd−Au合金ターゲットに所定のスパッタ電流を投入して、基板上にPd−Au合金膜を形成する。その後、基板からPd−Au合金膜を剥離して水素排出膜を得る。なお、ターゲットとしては、製造する水素排出膜に応じて、単一又は複数のターゲットを用いることができる。
【0033】
基板としては、例えば、ガラス板、セラミックス板、シリコンウエハー、アルミニウム及びステンレスなどの金属板が挙げられる。
【0034】
スパッタリング法により得られる水素排出膜の膜厚は、0.01〜5μmであることが好ましく、より好ましくは0.05〜2μmである。膜厚が0.01μm未満の場合には、ピンホールが形成される可能性があるだけでなく、要求される機械的強度を得難い。また、基板から剥離する際に破損しやすく、剥離後の取り扱いも困難になる。一方、膜厚が5μmを超えると、水素排出膜を製造するのに時間を要し、コスト面で劣るため好ましくない。
【0035】
水素排出膜の膜面積は、水素透過量と膜厚を考慮して適宜調整することができるが、安全弁の構成部材として用いる場合には、0.01〜100mm程度である。なお本発明において膜面積は、水素排出膜において実際に水素を排出する部分の面積であって、後述するリング状の接着剤を塗布した部分は含まない。
【0036】
金属層の片面又は両面に前記水素排出膜を設けて複合水素排出膜としてもよい。
【0037】
金属層を形成する金属は、単体、又は合金化することで水素透過機能を有する金属であれば特に制限されず、例えば、Pd、Nb、V、Ta、Ni、Fe、Al、Cu、Ru、Re、Rh、Au、Pt、Ag、Cr、Co、Sn、Zr、Y、Ce、Ti、Ir、Mo及びこれらの金属を2種以上含む合金などが挙げられる。
【0038】
前記金属層は、Pd合金を含む合金層であることが好ましい。Pd合金を形成する他の金属は特に制限されないが、第11族元素を用いることが好ましく、より好ましくはAg及びCuからなる群より選択される少なくとも1種である。Pd合金は、第11族元素を20〜65mol%含むことが好ましく、より好ましくは30〜65mol%であり、さらに好ましくは30〜60mol%である。また、Ag含有量が20mol%以上であるPd−Ag合金、又はCu含有量が30mol%以上であるPd−Cu合金を含む合金層は、50〜60℃程度以下の低温域であっても水素によって脆化しにくいので好ましい。また、Pd合金は、本発明の効果を損なわない範囲でIB族及び/又はIIIA族の金属を含んでいてもよい。
【0039】
前記金属層は、前記水素排出膜と同様の方法で作製することができる。また、前記金属層の膜厚は、前記水素排出膜の膜厚と同程度であることが好ましい。
【0040】
前記金属層の片面又は両面に前記水素排出膜を設ける方法は特に制限されないが、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、及びメッキ法などが挙げられる。また、リング状の接着剤を用いてもよい。
【0041】
水素排出膜又は複合水素排出膜の片面又は両面に支持体を設けて水素排出積層膜としてもよい。特に、スパッタリング法により得られる水素排出膜等は、膜厚が薄いため、機械的強度を向上させるために水素排出膜等の片面又は両面に支持体を積層することが好ましい。
【0042】
図1及び2は、本発明の水素排出積層膜1の構造を示す概略断面図である。図1(a)又は(b)に示すように、水素排出膜2の片面又は両面にリング状の接着剤3を用いて支持体4を積層してもよく、図2(a)又は(b)に示すように、治具5を用いて水素排出膜2の片面又は両面に支持体4を積層してもよい。
【0043】
支持体4は、水素透過性であり、水素排出膜2を支持しうるものであれば特に限定されず、無孔質体であってもよく、多孔質体であってもよい。支持体4として多孔質体を用いる場合、スポンジ構造又はフィンガーボイド構造が好適である。また、支持体4は、織布、不織布であってもよい。支持体4の形成材料としては、例えば、ポリエチレン及びポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、ポリスルホン及びポリエーテルスルホンなどのポリアリールエーテルスルホン、ポリテトラフルオロエチレン及びポリフッ化ビニリデンなどのフッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、アラミドなどが挙げられる。これらのうち、化学的及び熱的に安定であるポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリイミド、ポリアミドイミド、及びアラミドからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく用いられる。
【0044】
支持体4の厚さは特に限定されないが、通常5〜1000μm程度、好ましくは10〜300μmである。
【0045】
水素排出膜2をスパッタリング法で製造する場合、基板として支持体4を用いると、支持体4上に水素排出膜2を直接形成することができ、接着剤3又は治具5を用いることなく水素排出積層膜1を製造できるため、水素排出積層膜1の物性及び製造効率の観点から好ましい。その場合、支持体4としては、平均孔径100μm以下の多孔質体を用いることが好ましく、より好ましくは平均孔径5μm以下の多孔質体であり、特に限外ろ過膜(UF膜)を用いることが好ましい。
【0046】
本発明の水素排出膜、複合水素排出膜及び水素排出積層膜の形状は、略円形状であってもよく、三角形、四角形、五角形等の多角形であってもよい。後述する用途に応じた任意の形状にすることができる。
【0047】
本発明の水素排出膜、複合水素排出膜及び水素排出積層膜は、特にアルミ電解コンデンサ又はリチウムイオン電池の安全弁の構成部材として有用である。また、本発明の水素排出膜、複合水素排出膜及び水素排出積層膜は、安全弁とは別に水素排出弁として電気化学素子に設けることも可能である。
【0048】
本発明の水素排出膜、複合水素排出膜又は水素排出積層膜を用いて電気化学素子内部で発生した水素を排出する方法は特に限定されないが、例えばアルミ電解コンデンサ又はリチウムイオン電池の外装部分の一部に本発明の水素排出膜、複合水素排出膜又は水素排出積層膜を設け、これを外装内部と外部の隔膜として用いることができる。この場合、外装内部と外部は水素排出膜等によって隔離され、水素排出膜等は水素以外の気体を透過しない。外装内部で発生した水素は圧力の上昇により水素排出膜等を介して外部に排出され、外装内部は所定圧力以上に上昇することはない。
【0049】
本発明の水素排出膜等は低温で脆化しないため、例えば150℃以下の温度、さらには110℃以下の温度で使用できるという利点がある。すなわち、その用途により、高温(例えば400〜500℃)で使用されないアルミ電解コンデンサ又はリチウムイオン電池における水素排出方法において、本発明の水素排出膜等は特に好適に用いられる。
【実施例】
【0050】
以下に実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によりなんら限定されるものではない。
【0051】
実施例1
〔圧延法による水素排出膜(Au含有量15mol%)の作製〕
インゴット中のAu含有量が15mol%となるようにPd及びAu原料をそれぞれ秤量し、水冷銅坩堝を備えたアーク溶解炉に投入し、大気圧のArガス雰囲気中でアーク溶解した。得られたボタンインゴットをロール径100mmの2段圧延機を用いて厚さ5mmになるまで冷間圧延して板材を得た。その後、ガラス管の中に圧延した板材を入れ、ガラス管の両端を封止した。ガラス管内部を室温で5×10−4Paまで減圧し、その後700℃まで昇温して24時間放置し、その後室温まで冷却した。この熱処理により、合金中のPd及びAuの偏析を解消した。次に、ロール径100mmの2段圧延機を用いて板材を厚さ100μmになるまで冷間圧延し、さらにロール径20mmの2段圧延機を用いて板材を厚さ25μmになるまで冷間圧延した。その後、ガラス管の中に圧延した板材を入れ、ガラス管の両端を封止した。ガラス管内部を室温で5×10−4Paまで減圧し、その後500℃まで昇温して1時間放置し、その後室温まで冷却した。この熱処理により、圧延によって生じたPd−Au合金内部のひずみを除去し、厚さ25μm、Au含有量15mol%のPd−Au水素排出膜を作製した。下記方法で水素排出膜の水素脆性を評価したところ、実用上問題ない程度の外観上の僅かな歪みが見られただけであった(図3参照)。
【0052】
実施例2
〔圧延法による水素排出膜(Au含有量20mol%)の作製〕
インゴット中のAu含有量が20mol%となるようにPd及びAu原料をそれぞれ使用した以外は実施例1と同様の方法で厚さ25μm、Au含有量20mol%のPd−Au水素排出膜を作製した。下記方法で水素排出膜の水素脆性を評価したところ、歪などの外観変化は見られなかった。
【0053】
実施例3
〔圧延法による水素排出膜(Au含有量30mol%)の作製〕
インゴット中のAu含有量が30mol%となるようにPd及びAu原料をそれぞれ使用した以外は実施例1と同様の方法で厚さ25μm、Au含有量30mol%のPd−Au水素排出膜を作製した。下記方法で水素排出膜の水素脆性を評価したところ、歪などの外観変化は見られなかった(図4参照)。
【0054】
実施例4
〔圧延法による水素排出膜(Au含有量40mol%)の作製〕
インゴット中のAu含有量が40mol%となるようにPd及びAu原料をそれぞれ使用した以外は実施例1と同様の方法で厚さ25μm、Au含有量40mol%のPd−Au水素排出膜を作製した。下記方法で水素排出膜の水素脆性を評価したところ、歪などの外観変化は見られなかった。
【0055】
実施例5
〔圧延法による水素排出膜(Au含有量50mol%)の作製〕
インゴット中のAu含有量が50mol%となるようにPd及びAu原料をそれぞれ使用した以外は実施例1と同様の方法で厚さ25μm、Au含有量50mol%のPd−Au水素排出膜を作製した。下記方法で水素排出膜の水素脆性を評価したところ、歪などの外観変化は見られなかった(図5参照)。
【0056】
実施例6
〔圧延法による水素排出膜(Au含有量15mol%、Ag含有量15mol%)の作製〕
インゴット中のAu及びAg含有量が各15mol%となるようにPd、Au及びAg原料をそれぞれ使用した以外は実施例1と同様の方法で厚さ25μm、Au含有量15mol%及びAg含有量15mol%のPd−Au−Ag水素排出膜を作製した。下記方法で水素排出膜の水素脆性を評価したところ、歪などの外観変化は見られなかった(図6参照)。
【0057】
比較例1
〔圧延法による水素排出膜(Au含有量10mol%)の作製〕
インゴット中のAu含有量が10mol%となるようにPd及びAu原料をそれぞれ使用した以外は実施例1と同様の方法で厚さ25μm、Au含有量10mol%のPd−Au水素排出膜を作製した。下記方法で水素排出膜の水素脆性を評価したところ、水素排出膜に歪が発生し実用上使用できない状態になった(図7参照)。
【0058】
比較例2
〔圧延法による水素排出膜(Ag含有量19.8mol%)の作製〕
インゴット中のAg含有量が19.8mol%となるようにPd及びAg原料をそれぞれ秤量し、水冷銅坩堝を備えたアーク溶解炉に投入し、大気圧のArガス雰囲気中でアーク溶解した。得られたボタンインゴットをロール径100mmの2段圧延機を用いて厚さ5mmになるまで冷間圧延して板材を得た。その後、ガラス管の中に圧延した板材を入れ、ガラス管の両端を封止した。ガラス管内部を室温で5×10−4Paまで減圧し、その後700℃まで昇温して24時間放置し、その後室温まで冷却した。この熱処理により、合金中のPd及びAgの偏析を解消した。次に、ロール径100mmの2段圧延機を用いて板材を厚さ100μmになるまで冷間圧延し、さらにロール径20mmの2段圧延機を用いて板材を厚さ25μmになるまで冷間圧延した。その後、ガラス管の中に圧延した板材を入れ、ガラス管の両端を封止した。ガラス管内部を室温で5×10−4Paまで減圧し、その後700℃まで昇温して1時間放置し、その後室温まで冷却した。この熱処理により、圧延によって生じたPd−Ag合金内部のひずみを除去し、厚さ25μm、Ag含有量19.8mol%のPd−Ag水素排出膜を作製した。下記方法で水素排出膜の水素脆性を評価したところ、水素排出膜に歪が発生し実用上使用できない状態になった。
【0059】
実施例7
〔スパッタリング法による水素排出積層膜(Au含有量15mol%)の作製〕
Au含有量が15mol%であるPd−Au合金ターゲットを装着したRFマグネトロンスパッタリング装置(サンユー電子社製)に、支持体であるポリスルホン多孔質シート(日東電工社製、孔径0.001〜0.02μm)を取り付けた。その後、スパッタリング装置内を1×10−5Pa以下に真空排気し、Arガス圧1.0Paにおいて、Pd−Au合金ターゲットに4.8Aのスパッタ電流を投入して、ポリスルホン多孔質シート上に厚さ400nmのPd−Au合金膜(Au含有量15mol%)を形成して水素排出積層膜を作製した。下記方法で水素排出積層膜の水素脆性を評価したところ、表面にクラックは生じていなかった(図8参照)。
【0060】
実施例8
〔スパッタリング法による水素排出積層膜(Au含有量20mol%)の作製〕
Au含有量が20mol%であるPd−Au合金ターゲットを用いた以外は実施例7と同様の方法で厚さ400nmのPd−Au合金膜(Au含有量20mol%)を形成して水素排出積層膜を作製した。下記方法で水素排出積層膜の水素脆性を評価したところ、表面にクラックは生じていなかった。
【0061】
実施例9
〔スパッタリング法による水素排出積層膜(Au含有量30mol%)の作製〕
Au含有量が30mol%であるPd−Au合金ターゲットを用いた以外は実施例7と同様の方法で厚さ400nmのPd−Au合金膜(Au含有量30mol%)を形成して水素排出積層膜を作製した。下記方法で水素排出積層膜の水素脆性を評価したところ、表面にクラックは生じていなかった(図9参照)。
【0062】
実施例10
〔スパッタリング法による水素排出積層膜(Au含有量40mol%)の作製〕
Au含有量が40mol%であるPd−Au合金ターゲットを用いた以外は実施例7と同様の方法で厚さ400nmのPd−Au合金膜(Au含有量40mol%)を形成して水素排出積層膜を作製した。下記方法で水素排出積層膜の水素脆性を評価したところ、表面にクラックは生じていなかった。
【0063】
実施例11
〔スパッタリング法による水素排出積層膜(Au含有量50mol%)の作製〕
Au含有量が50mol%であるPd−Au合金ターゲットを用いた以外は実施例7と同様の方法で厚さ400nmのPd−Au合金膜(Au含有量50mol%)を形成して水素排出積層膜を作製した。下記方法で水素排出積層膜の水素脆性を評価したところ、表面にクラックは生じていなかった(図10参照)。
【0064】
実施例12
〔スパッタリング法による水素排出積層膜(Au含有量15mol%、Ag含有量15mol%)の作製〕
Au及びAg含有量が各15mol%であるPd−Au−Ag合金ターゲットを用いた以外は実施例7と同様の方法で厚さ400nmのPd−Au−Ag合金膜(Au及びAg含有量:各15mol%)を形成して水素排出積層膜を作製した。下記方法で水素排出積層膜の水素脆性を評価したところ、表面にクラックは生じていなかった(図11参照)。
【0065】
比較例3
〔スパッタリング法による水素排出積層膜(Au含有量10mol%)の作製〕
Au含有量が10mol%であるPd−Au合金ターゲットを用いた以外は実施例7と同様の方法で厚さ400nmのPd−Au合金膜(Au含有量10mol%)を形成して水素排出積層膜を作製した。下記方法で水素排出積層膜の水素脆性を評価したところ、表面にクラックが生じていた。水素脆化が起こったと考えられる(図12参照)。
【0066】
比較例4
〔スパッタリング法による水素排出積層膜(Ag含有量19.8mol%)の作製〕
Ag含有量が19.8mol%であるPd−Ag合金ターゲットを用いた以外は実施例7と同様の方法で厚さ400nmのPd−Ag合金膜(Ag含有量19.8mol%)を形成して水素排出積層膜を作製した。下記方法で水素排出積層膜の水素脆性を評価したところ、表面にクラックが生じていた。水素脆化が起こったと考えられる。
【0067】
〔評価方法〕
(水素透過係数の測定)
作製した水素排出膜又は水素排出積層膜をスウェージロック社製のVCRコネクターに取り付け、片側にSUSチューブを取り付け、密封された空間(63.5ml)を作製した。チューブ内を真空ポンプで減圧後、水素ガスの圧力が0.15MPaになるように調整し、50℃の環境下での圧力変化をモニターした。圧力変化により水素排出膜又は水素排出積層膜を透過した水素モル数がわかるため、これを下記式2に代入して水素透過係数を算出した。なお、測定に用いた水素排出膜の有効膜面積sは3.85×10−5であり、水素排出積層膜の有効膜面積sは7.07×10−6である。
〈式2〉水素透過係数=(水素モル数×膜厚t)/(膜面積s×時間×圧力の平方根)
【0068】
(水素透過性の評価)
作製した水素排出膜又は水素排出積層膜をスウェージロック社製のVCRコネクターに取り付け、片側にSUSチューブを取り付け、密封された空間(63.5ml)を作製した。チューブ内を真空ポンプで減圧後、水素ガスの圧力が0.15MPaになるように調整し、105℃の環境下での圧力変化をモニターした。圧力変化により水素排出膜又は水素排出積層膜を透過した水素モル数(体積)がわかるため、これを1日当たりの透過量に換算したものを水素透過量とした。なお、測定に用いた水素排出膜の有効膜面積sは3.85×10−5であり、水素排出積層膜の有効膜面積sは7.07×10−6である。
(例)2時間で圧力が0.15MPaから0.05MPaに変化した場合(変化量0.10MPa)、水素排出膜を透過した水素体積は63.5mLになる。よって1日当たりの水素透過量は63.5×24÷2=762mL/dayとなる。
また、下記基準で水素透過性を評価した。
〇:100mL/day以上
△:10mL/day以上100mL/day未満
×:10mL/day未満
【0069】
(圧延法で作製した水素排出膜の水素脆性の評価)
ガラス管の中に作製した水素排出膜を入れ、ガラス管の両端を封止した。ガラス管内部を50℃で5×10−3Paまで減圧し、その後、400℃まで昇温した。その後、ガラス管内に水素ガスを導入し、105kPaの雰囲気下で1時間放置した。その後、ガラス管内を室温まで冷却し、ガラス管内を5×10−3Paまで真空排気(30分)した。その後、再びガラス管内に水素ガスを導入し、105kPaの雰囲気下で1時間放置した。上記操作を3回繰り返した後、水素排出膜をガラス管内から取り出し、水素排出膜の外観を目視にて観察した。
【0070】
(スパッタリング法で作製した水素排出積層膜の水素脆性の評価)
ガラス管の中に作製した水素排出積層膜を入れ、ガラス管の両端を封止した。ガラス管内部を50℃で5×10−3Paまで減圧した後、ガラス管内に水素ガスを導入し、105kPaの雰囲気下で1時間放置した。その後、水素排出積層膜をガラス管内から取り出し、膜表面をSEMにて観察した。
【0071】
(耐腐食性Aの評価)
密閉されたSUS缶の中にPVC切片(積水成型工業株式会社製、エスビロンシートA−370)1gと作製した水素排出膜又は水素排出積層膜(15mm×15mm)を入れて、125℃で12時間熱処理を行い、PVCから発生したガスを水素排出膜又は水素排出積層膜の表面に曝露させた。その後、水素排出膜又は水素排出積層膜の水素透過量を上記と同様の方法で測定し、下記基準で耐腐食性Aを評価した。
〇:腐食試験前後の水素透過量の保持率が50%以上
×:腐食試験前後の水素透過量の保持率が50%未満
【0072】
(耐腐食性Bの評価)
300mLのセパラブルフラスコに和光純薬工業株式会社製のアジピン酸二アンモニウム2gとエチレングリコール18gを入れ、作製した水素排出膜又は水素排出積層膜(15mm×15mm)をセパラブルフラスコの蓋から吊り下げた。105℃で12時間熱処理を行い、2種の化合物から発生したガスを水素排出膜又は水素排出積層膜の表面に曝露させた。その後、水素排出膜又は水素排出積層膜の水素透過量を上記と同様の方法で測定し、下記基準で耐腐食性Bを評価した。
〇:腐食試験前後の水素透過量の保持率が50%以上
×:腐食試験前後の水素透過量の保持率が50%未満
【0073】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の水素排出膜、複合水素排出膜及び水素排出積層膜は、電池、コンデンサ、キャパシタ、及びセンサなどの電気化学素子に設けられる安全弁の構成部材として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0075】
1:水素排出積層膜
2:水素排出膜
3:接着剤
4:支持体
5:治具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12