【実施例】
【0050】
以下に実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によりなんら限定されるものではない。
【0051】
実施例1
〔圧延法による水素排出膜(Au含有量15mol%)の作製〕
インゴット中のAu含有量が15mol%となるようにPd及びAu原料をそれぞれ秤量し、水冷銅坩堝を備えたアーク溶解炉に投入し、大気圧のArガス雰囲気中でアーク溶解した。得られたボタンインゴットをロール径100mmの2段圧延機を用いて厚さ5mmになるまで冷間圧延して板材を得た。その後、ガラス管の中に圧延した板材を入れ、ガラス管の両端を封止した。ガラス管内部を室温で5×10
−4Paまで減圧し、その後700℃まで昇温して24時間放置し、その後室温まで冷却した。この熱処理により、合金中のPd及びAuの偏析を解消した。次に、ロール径100mmの2段圧延機を用いて板材を厚さ100μmになるまで冷間圧延し、さらにロール径20mmの2段圧延機を用いて板材を厚さ25μmになるまで冷間圧延した。その後、ガラス管の中に圧延した板材を入れ、ガラス管の両端を封止した。ガラス管内部を室温で5×10
−4Paまで減圧し、その後500℃まで昇温して1時間放置し、その後室温まで冷却した。この熱処理により、圧延によって生じたPd−Au合金内部のひずみを除去し、厚さ25μm、Au含有量15mol%のPd−Au水素排出膜を作製した。下記方法で水素排出膜の水素脆性を評価したところ、実用上問題ない程度の外観上の僅かな歪みが見られただけであった(
図3参照)。
【0052】
実施例2
〔圧延法による水素排出膜(Au含有量20mol%)の作製〕
インゴット中のAu含有量が20mol%となるようにPd及びAu原料をそれぞれ使用した以外は実施例1と同様の方法で厚さ25μm、Au含有量20mol%のPd−Au水素排出膜を作製した。下記方法で水素排出膜の水素脆性を評価したところ、歪などの外観変化は見られなかった。
【0053】
実施例3
〔圧延法による水素排出膜(Au含有量30mol%)の作製〕
インゴット中のAu含有量が30mol%となるようにPd及びAu原料をそれぞれ使用した以外は実施例1と同様の方法で厚さ25μm、Au含有量30mol%のPd−Au水素排出膜を作製した。下記方法で水素排出膜の水素脆性を評価したところ、歪などの外観変化は見られなかった(
図4参照)。
【0054】
実施例4
〔圧延法による水素排出膜(Au含有量40mol%)の作製〕
インゴット中のAu含有量が40mol%となるようにPd及びAu原料をそれぞれ使用した以外は実施例1と同様の方法で厚さ25μm、Au含有量40mol%のPd−Au水素排出膜を作製した。下記方法で水素排出膜の水素脆性を評価したところ、歪などの外観変化は見られなかった。
【0055】
実施例5
〔圧延法による水素排出膜(Au含有量50mol%)の作製〕
インゴット中のAu含有量が50mol%となるようにPd及びAu原料をそれぞれ使用した以外は実施例1と同様の方法で厚さ25μm、Au含有量50mol%のPd−Au水素排出膜を作製した。下記方法で水素排出膜の水素脆性を評価したところ、歪などの外観変化は見られなかった(
図5参照)。
【0056】
実施例6
〔圧延法による水素排出膜(Au含有量15mol%、Ag含有量15mol%)の作製〕
インゴット中のAu及びAg含有量が各15mol%となるようにPd、Au及びAg原料をそれぞれ使用した以外は実施例1と同様の方法で厚さ25μm、Au含有量15mol%及びAg含有量15mol%のPd−Au−Ag水素排出膜を作製した。下記方法で水素排出膜の水素脆性を評価したところ、歪などの外観変化は見られなかった(
図6参照)。
【0057】
比較例1
〔圧延法による水素排出膜(Au含有量10mol%)の作製〕
インゴット中のAu含有量が10mol%となるようにPd及びAu原料をそれぞれ使用した以外は実施例1と同様の方法で厚さ25μm、Au含有量10mol%のPd−Au水素排出膜を作製した。下記方法で水素排出膜の水素脆性を評価したところ、水素排出膜に歪が発生し実用上使用できない状態になった(
図7参照)。
【0058】
比較例2
〔圧延法による水素排出膜(Ag含有量19.8mol%)の作製〕
インゴット中のAg含有量が19.8mol%となるようにPd及びAg原料をそれぞれ秤量し、水冷銅坩堝を備えたアーク溶解炉に投入し、大気圧のArガス雰囲気中でアーク溶解した。得られたボタンインゴットをロール径100mmの2段圧延機を用いて厚さ5mmになるまで冷間圧延して板材を得た。その後、ガラス管の中に圧延した板材を入れ、ガラス管の両端を封止した。ガラス管内部を室温で5×10
−4Paまで減圧し、その後700℃まで昇温して24時間放置し、その後室温まで冷却した。この熱処理により、合金中のPd及びAgの偏析を解消した。次に、ロール径100mmの2段圧延機を用いて板材を厚さ100μmになるまで冷間圧延し、さらにロール径20mmの2段圧延機を用いて板材を厚さ25μmになるまで冷間圧延した。その後、ガラス管の中に圧延した板材を入れ、ガラス管の両端を封止した。ガラス管内部を室温で5×10
−4Paまで減圧し、その後700℃まで昇温して1時間放置し、その後室温まで冷却した。この熱処理により、圧延によって生じたPd−Ag合金内部のひずみを除去し、厚さ25μm、Ag含有量19.8mol%のPd−Ag水素排出膜を作製した。下記方法で水素排出膜の水素脆性を評価したところ、水素排出膜に歪が発生し実用上使用できない状態になった。
【0059】
実施例7
〔スパッタリング法による水素排出積層膜(Au含有量15mol%)の作製〕
Au含有量が15mol%であるPd−Au合金ターゲットを装着したRFマグネトロンスパッタリング装置(サンユー電子社製)に、支持体であるポリスルホン多孔質シート(日東電工社製、孔径0.001〜0.02μm)を取り付けた。その後、スパッタリング装置内を1×10
−5Pa以下に真空排気し、Arガス圧1.0Paにおいて、Pd−Au合金ターゲットに4.8Aのスパッタ電流を投入して、ポリスルホン多孔質シート上に厚さ400nmのPd−Au合金膜(Au含有量15mol%)を形成して水素排出積層膜を作製した。下記方法で水素排出積層膜の水素脆性を評価したところ、表面にクラックは生じていなかった(
図8参照)。
【0060】
実施例8
〔スパッタリング法による水素排出積層膜(Au含有量20mol%)の作製〕
Au含有量が20mol%であるPd−Au合金ターゲットを用いた以外は実施例7と同様の方法で厚さ400nmのPd−Au合金膜(Au含有量20mol%)を形成して水素排出積層膜を作製した。下記方法で水素排出積層膜の水素脆性を評価したところ、表面にクラックは生じていなかった。
【0061】
実施例9
〔スパッタリング法による水素排出積層膜(Au含有量30mol%)の作製〕
Au含有量が30mol%であるPd−Au合金ターゲットを用いた以外は実施例7と同様の方法で厚さ400nmのPd−Au合金膜(Au含有量30mol%)を形成して水素排出積層膜を作製した。下記方法で水素排出積層膜の水素脆性を評価したところ、表面にクラックは生じていなかった(
図9参照)。
【0062】
実施例10
〔スパッタリング法による水素排出積層膜(Au含有量40mol%)の作製〕
Au含有量が40mol%であるPd−Au合金ターゲットを用いた以外は実施例7と同様の方法で厚さ400nmのPd−Au合金膜(Au含有量40mol%)を形成して水素排出積層膜を作製した。下記方法で水素排出積層膜の水素脆性を評価したところ、表面にクラックは生じていなかった。
【0063】
実施例11
〔スパッタリング法による水素排出積層膜(Au含有量50mol%)の作製〕
Au含有量が50mol%であるPd−Au合金ターゲットを用いた以外は実施例7と同様の方法で厚さ400nmのPd−Au合金膜(Au含有量50mol%)を形成して水素排出積層膜を作製した。下記方法で水素排出積層膜の水素脆性を評価したところ、表面にクラックは生じていなかった(
図10参照)。
【0064】
実施例12
〔スパッタリング法による水素排出積層膜(Au含有量15mol%、Ag含有量15mol%)の作製〕
Au及びAg含有量が各15mol%であるPd−Au−Ag合金ターゲットを用いた以外は実施例7と同様の方法で厚さ400nmのPd−Au−Ag合金膜(Au及びAg含有量:各15mol%)を形成して水素排出積層膜を作製した。下記方法で水素排出積層膜の水素脆性を評価したところ、表面にクラックは生じていなかった(
図11参照)。
【0065】
比較例3
〔スパッタリング法による水素排出積層膜(Au含有量10mol%)の作製〕
Au含有量が10mol%であるPd−Au合金ターゲットを用いた以外は実施例7と同様の方法で厚さ400nmのPd−Au合金膜(Au含有量10mol%)を形成して水素排出積層膜を作製した。下記方法で水素排出積層膜の水素脆性を評価したところ、表面にクラックが生じていた。水素脆化が起こったと考えられる(
図12参照)。
【0066】
比較例4
〔スパッタリング法による水素排出積層膜(Ag含有量19.8mol%)の作製〕
Ag含有量が19.8mol%であるPd−Ag合金ターゲットを用いた以外は実施例7と同様の方法で厚さ400nmのPd−Ag合金膜(Ag含有量19.8mol%)を形成して水素排出積層膜を作製した。下記方法で水素排出積層膜の水素脆性を評価したところ、表面にクラックが生じていた。水素脆化が起こったと考えられる。
【0067】
〔評価方法〕
(水素透過係数の測定)
作製した水素排出膜又は水素排出積層膜をスウェージロック社製のVCRコネクターに取り付け、片側にSUSチューブを取り付け、密封された空間(63.5ml)を作製した。チューブ内を真空ポンプで減圧後、水素ガスの圧力が0.15MPaになるように調整し、50℃の環境下での圧力変化をモニターした。圧力変化により水素排出膜又は水素排出積層膜を透過した水素モル数がわかるため、これを下記式2に代入して水素透過係数を算出した。なお、測定に用いた水素排出膜の有効膜面積sは3.85×10
−5m
2であり、水素排出積層膜の有効膜面積sは7.07×10
−6m
2である。
〈式2〉水素透過係数=(水素モル数×膜厚t)/(膜面積s×時間×圧力の平方根)
【0068】
(水素透過性の評価)
作製した水素排出膜又は水素排出積層膜をスウェージロック社製のVCRコネクターに取り付け、片側にSUSチューブを取り付け、密封された空間(63.5ml)を作製した。チューブ内を真空ポンプで減圧後、水素ガスの圧力が0.15MPaになるように調整し、105℃の環境下での圧力変化をモニターした。圧力変化により水素排出膜又は水素排出積層膜を透過した水素モル数(体積)がわかるため、これを1日当たりの透過量に換算したものを水素透過量とした。なお、測定に用いた水素排出膜の有効膜面積sは3.85×10
−5m
2であり、水素排出積層膜の有効膜面積sは7.07×10
−6m
2である。
(例)2時間で圧力が0.15MPaから0.05MPaに変化した場合(変化量0.10MPa)、水素排出膜を透過した水素体積は63.5mLになる。よって1日当たりの水素透過量は63.5×24÷2=762mL/dayとなる。
また、下記基準で水素透過性を評価した。
〇:100mL/day以上
△:10mL/day以上100mL/day未満
×:10mL/day未満
【0069】
(圧延法で作製した水素排出膜の水素脆性の評価)
ガラス管の中に作製した水素排出膜を入れ、ガラス管の両端を封止した。ガラス管内部を50℃で5×10
−3Paまで減圧し、その後、400℃まで昇温した。その後、ガラス管内に水素ガスを導入し、105kPaの雰囲気下で1時間放置した。その後、ガラス管内を室温まで冷却し、ガラス管内を5×10
−3Paまで真空排気(30分)した。その後、再びガラス管内に水素ガスを導入し、105kPaの雰囲気下で1時間放置した。上記操作を3回繰り返した後、水素排出膜をガラス管内から取り出し、水素排出膜の外観を目視にて観察した。
【0070】
(スパッタリング法で作製した水素排出積層膜の水素脆性の評価)
ガラス管の中に作製した水素排出積層膜を入れ、ガラス管の両端を封止した。ガラス管内部を50℃で5×10
−3Paまで減圧した後、ガラス管内に水素ガスを導入し、105kPaの雰囲気下で1時間放置した。その後、水素排出積層膜をガラス管内から取り出し、膜表面をSEMにて観察した。
【0071】
(耐腐食性Aの評価)
密閉されたSUS缶の中にPVC切片(積水成型工業株式会社製、エスビロンシートA−370)1gと作製した水素排出膜又は水素排出積層膜(15mm×15mm)を入れて、125℃で12時間熱処理を行い、PVCから発生したガスを水素排出膜又は水素排出積層膜の表面に曝露させた。その後、水素排出膜又は水素排出積層膜の水素透過量を上記と同様の方法で測定し、下記基準で耐腐食性Aを評価した。
〇:腐食試験前後の水素透過量の保持率が50%以上
×:腐食試験前後の水素透過量の保持率が50%未満
【0072】
(耐腐食性Bの評価)
300mLのセパラブルフラスコに和光純薬工業株式会社製のアジピン酸二アンモニウム2gとエチレングリコール18gを入れ、作製した水素排出膜又は水素排出積層膜(15mm×15mm)をセパラブルフラスコの蓋から吊り下げた。105℃で12時間熱処理を行い、2種の化合物から発生したガスを水素排出膜又は水素排出積層膜の表面に曝露させた。その後、水素排出膜又は水素排出積層膜の水素透過量を上記と同様の方法で測定し、下記基準で耐腐食性Bを評価した。
〇:腐食試験前後の水素透過量の保持率が50%以上
×:腐食試験前後の水素透過量の保持率が50%未満
【0073】
【表1】