(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記反射用薄膜が、前記多層反射膜の上面に形成された保護膜を含み、前記反射用薄膜の上面が、前記保護膜の上面であることを特徴とする、請求項1に記載の反射型マスクブランクの製造方法。
前記回転加速段階における前記マスクブランク基板の回転速度を加速するときの加速度が、150〜1500rpm/秒の実質的に一定の回転加速度であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の反射型マスクブランクの製造方法。
前記滴下工程が、前記回転加速段階の後に、前記マスクブランク基板の回転速度を前記第1の回転速度に維持する回転速度維持段階をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の反射型マスクブランクの製造方法。
前記第2の回転速度の2乗が、前記第1の回転速度の2乗の1/2以下であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の反射型マスクブランクの製造方法。
前記滴下工程と、前記均一化工程との間に、前記レジスト液の滴下を停止した状態で、前記マスクブランク基板の回転速度を前記第1の回転速度に維持する滴下停止工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の反射型マスクブランクの製造方法。
前記反射用薄膜の上面が、スパッタリングにより成膜されたMo、Nb、Ru又はSiから選択される少なくとも1以上の元素が含まれる層の表面であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の反射型マスクブランクの製造方法。
前記マスクブランク基板の前記主表面上に、前記主表面の周縁部において前記マスクブランク基板の内側から外側に向かって膜厚が小さくなる膜厚傾斜領域が設けられるように前記多層反射膜が形成されていることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の反射型マスクブランクの製造方法。
請求項11に記載の反射型マスクブランクの製造方法によって製造された反射型マスクブランクの前記吸収体膜をパターニングするパターニング形成工程を有することを特徴とする、反射型マスクの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は、マスクブランク基板の主表面71上に反射用薄膜を有する反射型マスクブランク1の製造方法である(
図12及び
図13参照)。
図13に、本発明の製造方法により製造できる反射型マスクブランク基準マーク80の形成個所を例示する。本発明のEUVリソグラフィー用の反射型マスクブランク1の製造方法は、レジスト層を用いたリソグラフィープロセスによって、反射型マスクブランク1の欠陥情報における欠陥位置の基準となる基準マーク80を形成する基準マーク形成工程を有する。
図7に、本発明の製造方法に用いることのできるレジスト液塗布装置(回転塗布装置120)を例示する。本発明者らは、基準マーク形成工程のリソグラフィープロセスにおいて、レジスト層を形成する際に、レジスト液126の滴下後、基板の回転速度を所定の回転加速度で加速するならば、表面エネルギーの比較的低い被塗布面であっても、被塗布面全体をレジスト液126で濡らすことができるため、微細な気泡に起因する欠陥が生じにくいことを見出した。この知見に基づき、本発明の製造方法によれば、EUVリソグラフィー用の反射型マスクブランク1に、パターン形成領域における欠陥の発生が抑制され、かつ直線的な輪郭の基準マーク80を形成することができることを見出し、本発明に至った。
【0033】
図8及び
図14に符号115として示す多層反射膜付き基板115表面の欠陥情報は、例えば、検査光源の波長として266nmのUVレーザーや、193nmのArFエキシマレーザーのレーザー光を多層反射膜12表面に照射し、その反射光から異物を検出する検査方法、及びマスクパターン露光に用いる波長と同じ波長のEUV光を用いて欠陥を検出する同波長(at wavelength)欠陥検査法などが挙げられる。欠陥検査では、多層反射膜付き基板115表面に形成された基準マーク80を利用することにより、多層反射膜付き基板115の欠陥の位置情報を正確に把握し、記憶することができる。
【0034】
上述の欠陥検査を行う場合には、
図9に示すような吸収体膜パターン22を形成する際に、吸収体膜パターン22の形成位置を規定するための吸収体パターンマスクと、上述の多層反射膜付き基板115を用いた反射型マスクブランク1との相対位置を記憶した欠陥位置情報に基づいて決定することができる。このときに、吸収体膜パターン22が反射型マスクブランク1上の欠陥を覆い隠すように、吸収体パターンマスクの位置決めをすることが可能である。決定した相対位置に基づいて、反射型マスクブランク1上に吸収体膜パターン22を形成することができる。このようにして吸収体膜パターン22を形成した反射型マスク2は、欠陥が吸収体膜パターン22の下に隠れていることになる。そのため、この反射型マスク2を用いた半導体基板への露光投影の際に、欠陥に起因する悪影響を防止することができる。
【0035】
図8は本発明の反射型マスクブランク1の一例の断面模式図、
図9は本発明の反射型マスク2の一例の断面模式図である。また、
図10は本発明の反射型マスク2の製造方法の概略工程の一例を示す断面模式図である。本発明の反射型マスクブランク1では、ガラス基板11上に、EUV光31を反射する多層反射膜12が形成される。尚、本明細書において、EUVリソグラフィー用多層反射膜付き基板115(単に、「多層反射膜付き基板115」ともいう。)とは、ガラス基板11上に、EUV光31を反射する多層反射膜12が形成されたものである。また、本明細書に記載のEUVリソグラフィー用多層反射膜付き基板115は、ガラス基板11上に、EUV光31を反射する多層反射膜12と、さらに、多層反射膜12上に保護膜13(キャッピング層)とが形成されたものも含む。保護膜13を形成することにより、吸収体膜パターン22形成時に多層反射膜12を保護することができる。また、本明細書に記載のEUVリソグラフィー用多層反射膜付き基板115とは、多層反射膜12や保護膜13上にレジスト膜19が形成されたものも含む。また、本明細書に記載のEUVリソグラフィー用多層反射膜付き基板115は、さらに、ガラス基板11の多層反射膜12が設けられた主表面71に対して反対側の主表面71に形成された導電膜18を含むことができる。
【0036】
本明細書において、マスクブランクの原料となる基板を「マスクブランク基板」という。また、反射型マスクブランクを製造するための、多層反射膜12等が形成されていない基板、多層反射膜付き基板115及びその他の所定の薄膜が形成された基板を総称して、単に、「基板」という場合がある。また、多層反射膜付き基板115において、「マスクブランク基板の回転又は静止」という場合には、多層反射膜付き基板115全体として回転又は静止していることを意味する。「反射用薄膜」とは、多層反射膜12を少なくとも含み、場合によりさらに保護膜13及び/又は吸収体膜16を含む薄膜をいう。
【0037】
本発明の反射型マスク2の製造方法に用いる反射型マスクブランク1の例は、
図8に示すように構成されている。すなわち、
図8の例は、ガラス基板11上に、順に、EUV領域を含む短波長域の露光光を反射する多層反射膜12、吸収体膜パターン22形成時及び吸収体膜パターン22修正時に多層反射膜12を保護する保護膜13、及びEUV領域を含む短波長域の露光光を吸収する吸収体膜16を有する。
図8に示す例では、吸収体膜16は、下層を、EUV領域を含む短波長域の露光光吸収体層14とし、上層を、吸収体膜パターン22の検査に使用する検査光に対する低反射層15とした二層構造で構成さている。
【0038】
また、
図9に示すように、本発明により得られる反射型マスク2は、上記のような反射型マスクブランク1における吸収体膜16(すなわち低反射層15及び露光光吸収体層14)がパターン状に形成されたものである。尚、上記のような積層構成の吸収体膜16を備える反射型マスク2において、マスク表面の吸収体膜16を、露光光を吸収する層と、マスクパターン検査波長に対して反射率の小さい層とにそれぞれ機能を分離して積層構成することにより、マスクパターン検査時のコントラストを十分得ることができる。
【0039】
本発明により得られる反射型マスク2は、従来のフォトリソグラフィー法による転写限界を上回る、より微細なパターンの転写を可能とするため、EUV光31の領域を含む短波長域の光を使用するリソグラフィーに用いられ、EUV露光光用の反射型マスク2として使用することができるものである。
【0040】
図2に示すように、本発明の反射型マスクブランク1の製造方法は、反射用薄膜を有するマスクブランク基板を用意する基板準備工程(S1)と、基準マークを形成する基準マーク形成工程(S2)とを含む。本発明の反射型マスクブランク1の製造方法は、さらに、保護膜形成工程(S3)と、吸収体膜形成工程(S4)とを含むことができる。
【0041】
まず、本発明の反射型マスクブランク1の製造方法の基板準備工程(S1)について説明する。
【0042】
EUVリソグラフィー用多層反射膜付き基板115に用いる基板11は、良好な平滑性及び平坦度が得られることから、ガラス基板11を好ましく用いることができる。具体的には、基板11の材料として、合成石英ガラス、及び低熱膨張の特性を有するSiO
2−TiO
2系ガラス(2元系(SiO
2−TiO
2)及び3元系(SiO
2−TiO
2−SnO
2等))、例えばSiO
2−Al
2O
3−Li
2O系の結晶化ガラス、β石英固溶体を析出した結晶化ガラスなどを挙げることができる。
【0043】
ガラス基板11は0.2nmRms以下の平滑な表面と100nm以下の平坦度を有していることが、高反射率及び高転写精度を得るために好ましい。尚、本発明において平滑性を示す単位Rmsは、二乗平均平方根粗さであり、原子間力顕微鏡で測定することができる。また、本発明における平坦度は、TIR(total indicated reading)で示される表面の反り(変形量)を示す値である。これは、ガラス基板11の表面を元に最小二乗法で定められる平面を焦平面としたとき、この焦平面より上にあるガラス基板11の表面の最も高い位置と、焦平面より下にある最も低い位置の高低差の絶対値である。平滑性は10μm角エリアでの平滑性、平坦度は142mm角エリアでの平坦度で示している。
【0044】
尚、ガラス基板11の「主表面71」とは、
図12に例示するように、ガラス基板11の周囲及びその近傍の部分(側面72及び面取面73)を除く表面のことをいう。すなわち、ガラス基板11の「主表面71」とは、
図12において、対向する2つの「主表面71」として示される表面をいう。
【0045】
本発明の製造方法により製造される反射型マスクブランク1は、基板11の主表面71上形成される反射用薄膜が、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層させた多層反射膜12を少なくとも含む。本発明の反射型マスクブランク1の製造方法では、反射用薄膜の上面が、多層反射膜12の上面であることが好ましい。
【0046】
ガラス基板11の主表面71上に形成される多層反射膜12は、EUV領域を含む短波長域の露光光を反射する材質で構成される。多層反射膜12は、EUV光31などの短波長域の光に対する反射率が極めて高い材質で構成することが、反射型マスク2として使用する際のコントラストを高められるので特に好ましい。高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層させた構成の多層反射膜12は、EUV光31などの短波長域の光に対する反射率が極めて高く、反射型マスク2として使用する際のコントラストを高めることができるため、多層反射膜12として好適に用いることができる。
【0047】
本発明の反射型マスクブランク1の製造方法は、反射用薄膜の上面が、スパッタリングにより成膜されたMo、Nb、Ru又はSiから選択される少なくとも1以上の元素が含まれる層の表面であることが好ましい。反射用薄膜の上面が、上述の所定の層であることにより、優れた反射率の反射用薄膜を得ることができる。特に、反射用薄膜の反射率を高めるには、屈折率の大きいMoを含む層を最上層とすることが好ましい。
【0048】
多層反射膜12を構成する高屈折率層の材料として、Mo、Nb、Ru及びRhからなる群から選択される少なくとも一つの材料を用いることが好ましい。また、多層反射膜12を構成する低屈折率層の材料として、Si及びSi化合物からなる群から選択される少なくとも一つの材料を用いることが好ましい。本発明の製造方法では、多層反射膜12の高屈折率層がモリブデン(Mo)であって、低屈折率層がケイ素(Si)であることが好ましい。シリコン(Si)とモリブデン(Mo)との薄膜を交互に積層した周期積層膜は、12〜14nm程度の軟X線領域であるEUV光31の多層反射膜12として、好適に用いることができる。通常は、高屈折率層及び低屈折率層の薄膜(数nm程度の厚さ)を30〜60周期、好ましくは40周期(層数)繰り返して積層し多層反射膜12とする。周期積層膜の製造方法の一例として、イオンビームスパッタリング法により、Siターゲットを用いてSi層を成膜し、その後、Moターゲットを用いてMo層を成膜し、これを1周期として、30〜60周期、好ましくは40周期積層することにより、多層反射膜12を得ることができる。
【0049】
EUV光31の領域で使用されるその他の多層反射膜12の例としては、Ru/Si周期多層反射膜、Mo/Be周期多層反射膜、Mo化合物/Si化合物周期多層反射膜、Si/Nb周期多層反射膜、Si/Mo/Ru周期多層反射膜、Si/Mo/Ru/Mo周期多層反射膜及びSi/Ru/Mo/Ru周期多層反射膜などが挙げられる。
【0050】
多層反射膜12の成膜は、例えばイオンビームスパッタリング法やマグネトロンスパッタリング法などを用いて行うことができる。特に、本発明の反射型マスクブランク1の製造方法に用いる多層反射膜付き基板115では、多層反射膜12を、イオンビームスパッタリング法により成膜することが好ましい。イオンビームスパッタリング法により、所定の膜厚の高屈折率層及び低屈折率層を再現性良く周期的に形成することができる。
【0051】
本発明の反射型マスクブランク1の製造方法に用いる多層反射膜付き基板115では、基板11の主表面71の法線に対して、高屈折率層の成膜のためのスパッタ粒子66の入射角度が、低屈折率層の成膜のためのスパッタ粒子66の入射角度より大きくなるように、多層反射膜12を成膜することが好ましい。
【0052】
図16に、集束イオンビームスパッタリング法による成膜装置の概念図を示す。
図16に、集束イオンビームスパッタリング法の際の、基板11の主表面71の法線に対するスパッタ粒子66の入射角度αを示す。集束イオンビームスパッタリング法の場合、入射角度αは、集束イオンビーム64がターゲット62に入射することにより発生するスパッタ粒子66が、基板11へ入射するときの基板11の主表面71の法線に対する角度である。高屈折率層の成膜のためのスパッタ粒子66の入射角度α
1を、低屈折率層の成膜のためのスパッタ粒子66の入射角度α
2より大きくすると、高屈折率材料の飛散粒子の運動エネルギーが基板11の表面に対する垂直方向の成分と、基板11に対して平行方向の成分に分散される。そのため、高屈折率材料の飛散粒子が低屈折率層に被着するときの衝突エネルギーを小さくすることができる。これにより、高屈折率材料の低屈折率層への拡散が起こることを抑制することができ、金属拡散層の形成を抑えることができる。このため、拡散防止層を設けずに多層反射膜12の構成材料のみで高い反射率を有する多層反射膜12を得ることができる。また、このような方法で作られた多層反射膜12を用いることにより、基準マーク80形成時のエッチングによる加工速度を向上させることができる。
【0053】
Mo等の高屈折率層の成膜のためのスパッタ粒子66の入射角度α
1は、40度以上90度未満であることが好ましい。また、Si等の低屈折率層の成膜のためのスパッタ粒子66の入射角度α
2は、5度以上60度以下であることが好ましい。上記入射角度を用いて多層反射膜12を成膜することにより、基準マーク80形成時のエッチングによる加工速度をさらに向上させることができる。
【0054】
本発明の反射型マスクブランク1の製造方法は、基板11の主表面71上に、主表面71の周縁部において基板11の内側から外側に向かって膜厚が小さくなる膜厚傾斜領域90が設けられるように多層反射膜12が形成されていることが好ましい。
【0055】
図13に、基準マーク80を三つ有する本発明の反射型マスクブランク1の一例を示す。尚、基準マーク80の個数は特に限定されない。基準マーク80については、最低3つ(3箇所)必要であるが、3つ以上であっても構わない。
図13に示すように、基板11の主表面71の周縁部には、膜厚傾斜領域90が設けられている。
図14に、本発明の反射型マスクブランク1の周縁部の断面模式図の一例を示す。
図14に示すように、膜厚傾斜領域90では、基板11の内側から外側に向かって多層反射膜12の膜厚が小さくなる。多層反射膜12の膜厚が小さい膜厚傾斜領域90に基準マーク80を形成することにより、基準マーク80の形成時間を短くすることができる。尚、多層反射膜付き基板115の場合も、反射型マスクブランク1と同様に、膜厚傾斜領域90を有することができる。
【0056】
反射型マスク2の吸収体膜パターン22に影響を及ぼさないために、膜厚傾斜領域90は、例えば、基板11の大きさが152mm×152mmの場合、基板11の側面72から5mm幅の領域、すなわち142mm×142mmの領域よりも外側とすることが好ましい。この場合には、
図13に示す傾斜領域の幅Dslopeは、5mmである。また、基板11の大きさが上述のように152mm×152mmの場合、膜厚傾斜領域90は、より好ましくは、基板11の側面72から1mm幅の領域を除いた142mm×142mmの大きさから、150mm×150mmまでの大きさを有する領域であることができ、さらに好ましくは、142mm×142mmの大きさから、148mm×148mmまでの大きさを有する領域であることができる。
【0057】
本発明の反射型マスクブランク1の製造方法では、多層反射膜を形成する際に、周縁部に離間して遮蔽部材68を設け、基板11の主表面71の法線に対して斜めに高屈折率層と低屈折率層が堆積するように、スパッタリング法により成膜することにより形成することが好ましい。
【0058】
図15に、周縁部に離間して遮蔽部材68を設けたスパッタリング法により多層反射膜12を形成する様子を例示する。遮蔽部材68を設けることにより、スパッタ粒子66が基板11の周縁部に堆積することが妨げられる。そのため、スパッタ粒子66が基板11の主表面71の法線に対して斜めに入射して堆積する。その結果、主表面71の周縁部において基板11の内側から外側に向かって膜厚が小さくなる膜厚分布を有するように、多層反射膜12(高屈折率層及び低屈折率層)の材料が堆積するようになる。このように、周縁部に離間して遮蔽部材68を設けることにより、多層反射膜12の膜厚傾斜領域90を簡単に確実に形成することができる。遮蔽部材68を設けることで、通常の多層反射膜12の形成方法と同様のプロセスにより、膜厚傾斜領域90を形成することができる。
【0059】
また、後述する基準マーク形成工程においてレジスト層を形成する場合、基板の周縁部の膜厚が厚くなる傾向がある。多層反射膜12の周縁部に膜厚傾斜領域90が形成されていると、その傾斜に周縁部の厚膜化の現象が相殺されるので、平坦なレジスト層表面を形成することができる。基準マーク80は周縁部に形成されるので、レジスト層に基準マーク80のパターンを描画する際には、周縁部の盛り上がりによる描画不良が起きにくくなるため、直線的な輪郭を有する基準マーク80を形成することが可能になる。
【0060】
基準マーク80は、基板11に到達する深さまでエッチングされたものが最も明瞭に識別できる。しかし、基板11に到達するまでエッチングをすると、それにかかる時間が長くなり、レジスト層も厚く形成する必要がある。基準マーク80を形成する領域が膜厚の小さくなる膜厚傾斜領域90であると、基準マーク80形成にかかるエッチング時間を短縮することができ、レジスト層の膜厚も小さくすることもできる。その結果、より直線的な輪郭を有する基準マーク80を形成することができる。
【0061】
図15に示すような遮蔽部材68を設けたスパッタリング法では、基板11の主表面71と遮蔽部材68との距離h、遮蔽部材68による遮蔽長さL、基板11の主表面71の法線に対する多層反射膜12材料(高屈折率層及び低屈折率層の材料)のスパッタ粒子66の入射角度αを調節することにより、膜厚傾斜領域90における多層反射膜12の膜厚及び傾斜角度を制御することができる。成膜の際には、回転ステージ63に基板11を載置することにより、基板11を回転させることができる。そのため、四角形の基板11のすべての辺の膜厚傾斜領域90において、基板11の回転に応じて、所定の入射角度αでの成膜を行うことができる。
【0062】
図15に示すような遮蔽部材68を設けたスパッタリング法では、膜厚傾斜領域90での膜厚を所定の値とするために、基板11の主表面71の法線に対する多層反射膜12材料(高屈折率層及び低屈折率層の材料)のスパッタ粒子66の入射角度αは、5度以上90度未満とすることが好ましく、10度以上80度以下、15度以上70度以下、20度以上60度以下とすることがより好ましい。基板11の主表面71と遮蔽部材68との距離hは、0.1mm〜1.0mmであることが好ましく、0.2mm〜0.6mmであることがより好ましい。また、遮蔽部材68による遮蔽長さLは、0.5mm〜4.0mmであることが好ましく、1.0mm〜2.0mmであることがより好ましい。
【0063】
次に、本発明の反射型マスクブランク1の製造方法の基準マーク形成工程について、
図3を参照しながら説明する。
【0064】
本発明の反射型マスクブランク1の製造方法は、反射用薄膜の上面に、レジスト層を形成し、レジスト層を用いたリソグラフィープロセスによって、多層反射膜12の少なくとも一部を除去することにより、反射型マスクブランク1の欠陥情報における欠陥位置の基準となる基準マーク80を形成する基準マーク形成工程(S2)を含む。基準マーク形成工程(S2)は、レジスト層を形成するために、少なくとも、滴下工程(S21)及び均一化工程(S22)を含む。基準マーク形成工程(S2)は、さらに、均一化工程(S22)によって得られたレジスト層の形状を、その形状のまま乾燥させるための乾燥工程S23を含むことができる。形成したレジスト層を用いて基準マーク80を形成するために、基準マーク形成工程は、さらにパターン形成工程(S24)、エッチング工程(S25)及びレジスト除去工程(S26)を含むことができる。
【0065】
図3に示すように、基準マーク形成工程は、レジスト層を形成するために、少なくとも、滴下工程(S21)及び均一化工程(S22)を含む。
【0066】
滴下工程(S21)において、反射用薄膜の上面に、レジスト液126を滴下して供給するために、回転塗布装置120を用いることができる。回転塗布装置120は、
図7に示すように、四角形状の基板11上に、例えば遮光膜を形成した多層反射膜付き基板115を載置して回転可能に保持するスピンナーチャック121と、多層反射膜付き基板115上にレジスト液126を滴下するためのノズル122と、滴下されたレジスト液126が、多層反射膜付き基板115の回転により多層反射膜付き基板115から外方に飛散した後に、回転塗布装置120の周辺に飛散するのを防止するためのカップ123と、カップ123の上方に、多層反射膜付き基板115外方に飛散したレジスト液126をカップ123の外側下方へと誘導するインナーリング124と、多層反射膜付き基板115に向かう気流134を生起させるように排気を行う排気手段130を備えることができる。
【0067】
上述のスピンナーチャック121には、多層反射膜付き基板115を回転させるためのモーター(図示せず。)が接続されており、このモーターは後述する回転条件に基づいてスピンナーチャック121を回転させる。
【0068】
また、カップ123の下方には、排気量を制御する排気量制御手段が備えられた排気手段130と、回転中に多層反射膜付き基板115外に飛散したレジスト液126を回収し排液する排液手段(図示せず。)とが設けられている。
【0069】
上記回転塗布装置120を用いたレジスト層を形成するための工程では、最初に、多層反射膜付き基板115を基板搬送装置(図示せず。)によって回転塗布装置120のスピンナーチャック121へ移送し、このスピンナーチャック121上に多層反射膜付き基板115を保持する。
【0070】
図3に示すように、レジスト層を形成するための工程は、四角形状の多層反射膜付き基板115上に、レジスト材料及び溶剤を含むレジスト液126を滴下するための滴下工程(S21)を含む。具体的には、レジスト液126は、回転塗布装置120のノズル122から、多層反射膜付き基板115の薄膜14の表面に滴下される。滴下工程(S21)では、反射用薄膜の上面にレジスト液126を滴下して供給する。
図1に示すように、滴下工程(S21)は、マスクブランク基板の回転が静止しているか、又は、滴下されたレジスト液126がマスクブランク基板の回転による作用で実質的に移動しない回転速度から、第1の回転速度に至るまで、マスクブランク基板の回転速度を加速する回転加速段階(D1)を含む。
【0071】
各種スパッタリング法により成膜された多層反射膜12の被塗布面は、表面エネルギーが面上で均質な状態であるといえる。そのような被塗布面にレジスト液126を供給すると、レジスト液126が液膜を形成しながら被塗布面に自然に広がることができる。自然に広がった領域については、レジスト液126と被塗布面との濡れ性が確保された状態を得ることができる。レジスト液126の滴下を開始したときに、マスクブランク基板の回転が静止していることにより、レジスト液126の広がりをスムーズに行うことができる。
【0072】
また、レジスト液126の滴下を開始したときに、滴下されたレジスト液126がマスクブランク基板の回転による作用で実質的に移動しない回転速度で回転する場合にも、マスクブランク基板が静止した状態でレジスト液126の滴下を開始する場合と同様に、レジスト液126が液膜を形成しながら被塗布面に自然に広がることができる。滴下されたレジスト液126がマスクブランク基板の回転による作用で実質的に移動しない回転速度とは、具体的には、0〜300rpm、好ましくは0〜100rpm、より好ましくは0〜50rpmの回転速度であり、マスクブランク基板が静止していることがさらに好ましい。この結果、レジスト液126を塗布する際に、レジスト液126の気泡に起因する欠陥の発生を防止することができる。
【0073】
滴下工程(S21)において、レジスト液126の滴下は、回転加速段階(D1)を含むことが必要である。回転加速段階(D1)では、マスクブランク基板の回転が静止しているか、又は、滴下されたレジスト液126がマスクブランク基板の回転による作用で実質的に移動しない回転速度から、第1の回転速度R1に至るまで、マスクブランク基板の回転速度を加速する。滴下開始後、自然に広がるレジスト液126は、回転加速段階(D1)によって回転速度を上昇させていくことにより、液膜の縁部にあるレジスト液126も徐々に外方(基板周縁部)に向かって広げることができる。つまり、マスクブランク基板の回転開始の初期の段階で、遠心力により液膜の縁部のレジスト液126が被塗布面に濡れることなく飛ばされる現象が起きにくい。その結果、滴下工程(S21)が回転加速段階(D1)を含むことにより、被塗布面をレジスト液126によって均一に濡れた状態にすることができる。この結果、表面エネルギーの低い被塗布面とレジスト液126との接触の悪さ(濡れ性の悪さ)による気泡に起因する欠陥の発生が効果的に抑制される。尚、滴下工程(S21)の後の均一化工程(S22)では、高回転速度段階(S22−3)での高速回転によって、被塗布面のレジスト液126を振り切ることにより、他の要因に由来する異物を基板の外方に飛ばすことができる。この結果、反射型マスクブランク1の異物による欠陥の発生を抑制することができる。
【0074】
本発明における滴下工程(S21)では、回転加速段階(D1)において、徐々に基板の回転数を上げる構成を採用している。本構成によると、初期の低速での基板の回転で被塗布面全域の濡れが確保できる。濡れが確保されることにより、気泡状のヌケ欠陥の発生が抑制される。
【0075】
滴下工程(S21)において、回転加速段階(D1)におけるマスクブランク基板の回転速度を加速するときの加速度が、150〜1500rpm/秒の実質的に一定の回転加速度であることが好ましい。回転加速段階(D1)において、マスクブランク基板の回転速度の加速開始から第1の回転速度R1に至るまでの時間は、少なくとも1秒以上であることが好ましい。その結果、被塗布面をレジスト液126によって均一に濡れた状態にすることを確実にできる。
【0076】
また、本発明の反射型マスクブランクの製造方法では、第2の回転速度R2の2乗が、第1の回転速度R1の2乗の1/2以下であることが好ましい。基板11の回転速度を、第1の回転速度R1から所定の範囲の第2の回転速度R2に低下させることにより、被塗布面の周縁部に加わっていた遠心力が、50%以下になる。そのため、基板11の周縁部に集中していたレジスト液が慣性力の働きにより効果的に回転中心に向けて戻ることができる。
【0077】
本発明の反射型マスクブランクの製造方法は、滴下工程(S21)が、回転加速段階(D1)の後に、マスクブランク基板の回転速度を第1の回転速度に維持する回転速度維持段階(D2)をさらに含むことが好ましい。この結果、液膜の縁部にあるレジスト液126も徐々に外方(基板周縁部)に向かって広げることを確実にでき、被塗布面をレジスト液126によって、より均一に濡れた状態にすることができる。
【0078】
尚、「回転速度を維持する」とは、本発明の方法によるレジスト液126の塗布に対して悪影響を及ぼさない程度の回転速度の変動、例えば±30%の回転速度の変動、好ましくは±20%の回転速度の変動、より好ましくは±10%の回転速度の変動、及びさらに好ましくは±5%の回転速度の変動を含むことができる。
【0079】
本発明の反射型マスクブランクの製造方法は、滴下工程と、均一化工程との間に、レジスト液の滴下を停止した状態で、マスクブランク基板の回転速度を第1の回転速度に維持する滴下停止工程(S21−2)をさらに含むことが好ましい。この結果、液膜の縁部にあるレジスト液126も徐々に外方(基板周縁部)に向かって広げることをより確実にでき、被塗布面をレジスト液126によってさらに均一に濡れた状態にすることができる。
図1には、滴下停止工程(S21−2)を含む場合の回転速度の時間変化を点線で示している。尚、滴下停止工程(S21−2)は、必ずしも必要ではない。
【0080】
図1に、本発明による、滴下工程(S21)のいくつかの場合を例示する。
図1に示す滴下工程A〜Dのいずれの滴下工程(S21)も、回転加速段階(D1)を含む。
【0081】
図1に示す滴下工程Aでは、レジスト液126の滴下の開始が、滴下されたレジスト液126がマスクブランク基板の回転による作用で実質的に移動しない回転速度のときに開始され、滴下開始直後にマスクブランク基板の回転速度を加速する(回転加速段階(D1))。その後、回転速度が、第1の回転速度R1に達すると、第1の回転速度R1が維持される(回転速度維持段階(D2))。回転速度維持段階(D2)の終了と共に、レジスト液126の滴下も終了する。
【0082】
図1に示す滴下工程Bでは、レジスト液126の滴下の開始が、マスクブランク基板の回転が静止しているときに開始され、滴下開始直後にマスクブランク基板の回転速度を加速する(回転加速段階(D1))。その後、回転速度が、第1の回転速度R1に達すると、第1の回転速度R1が維持される(回転速度維持段階(D2))。回転速度維持段階(D2)の終了と共に、レジスト液126の滴下も終了する。
【0083】
図1に示す滴下工程Cでは、レジスト液126の滴下の開始が、マスクブランク基板の回転が静止しているときに開始され、しばらくその状態を維持する。その後、マスクブランク基板の回転速度を加速する(回転加速段階(D1))。その後、回転速度が、第1の回転速度R1に達すると、第1の回転速度R1が維持される(回転速度維持段階(D2))。回転速度維持段階(D2)の終了と共に、レジスト液126の滴下も終了する。滴下工程Cでは、レジスト液126の滴下の開始が、滴下されたレジスト液126がマスクブランク基板の回転による作用で実質的に移動しない回転速度のときに開始され、しばらくその状態を維持し、その後、回転加速段階(D1)に移行するようにすることもできる。
【0084】
図1に示す滴下工程Dでは、回転速度維持段階(D2)が行われないことを除き、滴下工程Bと同様にレジスト液126を滴下する。この場合、回転加速段階(D1)によって第1の回転速度R1に達すると共に、レジスト液126の滴下も終了する。
【0085】
図1に示す例では、回転加速段階(D1)の基板11の回転速度変化は一定(回転加速度が一定)の例を示す。しかしながら、本発明のレジスト液126の滴下に悪影響を及ぼさない範囲で、基板11の回転速度変化は、ステップ状の速度変化及びその他の一定でない単調増加の速度変化をすることもできる。
【0086】
基準マーク形成工程におけるレジスト層を形成するための工程は、滴下したレジスト液126を均一に広げる均一化工程(S22)を含む。
【0087】
図1に示すように、本発明の反射型マスクブランクの製造方法において、均一化工程(S22)は、マスクブランク基板11の回転速度を、第1の回転速度R1よりも低速の回転速度である第2の回転速度R2で維持する低回転速度段階(D3)と、マスクブランク基板11の回転速度を、第1の回転速度R1よりも高速の第3の回転速度R3で維持する高回転速度段階(D4)とを含む。
【0088】
本発明の均一化工程(S22)では、滴下工程(S21)終了時の高速回転から、回転速度を下げ、低回転速度段階(D3)を含むこととしている。滴下工程(S21)終了時の高速回転では、被塗布面の周縁部に位置するレジスト液には強い遠心力が作用している。基板11の回転速度を下げることにより、周縁部に位置するレジスト液に加わる遠心力が低下するため、周縁部に集まったレジスト液が被塗布面の内側に向けて戻るような作用が働く。これにより、周縁部に集まり過ぎたレジスト液が被塗布面の全体に均される。
【0089】
回転加速段階(D1)において、レジスト液126は被塗布面を十分に濡らすことができれば、本発明の効果はある程度得ることができる。さらに、均一化工程(S22)の初期段階(低回転速度段階(D3))において、緩やかかつ全面にレジスト液126を展開すれば、その後の高回転速度段階(D4)により回転数を速やかに上昇して高速回転状態にしても、レジスト液126によって被塗布面を十分に濡らした状態を維持することができる。低回転速度段階(D3)により、基板の回転速度を下げて遠心力を低下させれば、液膜の縁部にあるレジスト液126の分子間力による凝集が切断されにくくなるため、レジスト液126はなめらかに被塗布面に広がる。そのため、低回転速度段階(D3)では、余剰レジスト液126を被塗布面の周縁部にまで十分に濡らすことができるため、濡れ性を確保した環境を整えることができる。その後、高回転速度段階(D4)により、被塗布面のレジスト液126の厚さをさらに均一化できる。
【0090】
均一化工程(S22)における最高回転速度(第3の回転速度R3)は、被塗布面上に余剰のレジスト液126がある場合、余剰のレジスト液126を基板の外側に飛ばすことが可能な遠心力が期待できる回転速度で設定されている。その遠心力は、レジスト液126の凝集状態(分子間力)と被塗布面への密着力とを超えて基板外方向に飛ばすための力であり、被塗布面に液を濡らしながらレジスト液126を広げるために必要な遠心力をはるかに超えるものである。したがって、前述したように、レジスト液126が表面に濡れることなく飛ばされたり、はじかれたりすることになる。
【0091】
基準マーク形成工程中、均一化工程(S22)の第3の回転速度R3は、500rpm以上であることが好ましい。
【0092】
基準マーク形成工程におけるレジスト層を形成するための工程では、高回転速度段階(D4)によって、均一化工程(S22)の最高回転速度(第3の回転速度R3)に達する。均一化工程の第3の回転速度R3は、500rpm以上であることが好ましく、850〜2000rpmであることがより好ましい。均一化工程(S22)の第3の回転速度R3が、所定の回転数以上であることにより、多層反射膜付き基板115上のレジスト層の膜厚を均一化することができる。均一化工程(S22)の第3の回転速度R3及び回転時間は、レジスト液126の種類によって適宜選択することができる。高回転速度段階(D4)での、所定の第3の回転速度R3での回転時間は、1〜15秒であることが好ましい。均一化工程(S22)が高回転速度段階(D4)を有することにより、被塗布面のレジスト液126を振り切ることができ、他の要因に由来する異物を外方に飛ばすことができる。この結果、最終的に得られるマスクブランクの異物による欠陥も抑制される。
【0093】
基準マーク形成工程に用いるレジスト液126は特に限定されないが、例えば、粘度が10mPa・sを超え、平均分子量が10万以上である高分子量樹脂からなる高分子型レジスト、粘度が10mPa・s未満で、平均分子量が10万未満であるノボラック樹脂と溶解阻害剤などからなるノボラック系レジスト、及びポリヒドロキシスチレン系樹脂と酸発生剤などからなる化学増幅型レジストなどを用いることができる。特に、本実施の形態において効果があるのは、粘度が10mPa・s未満で、平均分子量が10万未満のレジストである。また、化学増幅型レジストのように、ポリマー(Polymer)とPAG(Photo Acid Generator)とクエンチャー(Quencher)とを含む複数の構成物質から成るレジストの場合、反射型マスクブランク1面内で、上記構成物質の面内ばらつきが生じることで、面内CDばらつきが生じやすい。本発明の反射型マスクブランク1の製造方法は、化学増幅型レジストを用いる場合にも適用することができる。
【0094】
例えば、化学増幅型レジストやノボラック系レジストでは、粘度が低いので(10mPa・s以下)、均一化工程(S22)では、高回転速度段階(D4)の回転速度(第3の回転速度R3)は850〜2000rpmに、高回転速度段階(D4)の時間は1〜10秒にそれぞれ設定され、乾燥工程(S23)では、基板の回転速度は100〜450rpmに設定される。また、高分子型レジストでは、粘性が高いので(10mPa・s超)、均一化工程(S22)では、高回転速度段階(D4)の回転速度(第3の回転速度R3)は850〜2000rpmに、高回転速度段階(D4)の時間は2〜15秒にそれぞれ設定され、乾燥工程(S23)では、基板の回転速度は50〜450rpmに設定される。乾燥工程(S23)での基板回転時間は、レジスト層が完全に乾燥するまでに(それ以上乾燥回転を続けてもレジスト層の膜厚が減少しなくなるまでに)要する時間が設定される。
【0095】
例えば基板11の大きさが6インチ角(152.4mm×152.4mm)の場合、レジスト塗布工程におけるレジスト液126の最終的な吐出量は、1.5〜8mlであることが好ましい。1.5mlを下回ると、レジスト液126が基板11表面に十分にいきわたらず、成膜状態が悪くなる恐れが生じる。8mlを超えると、コーティングに用いられずにスピン回転によって外方に飛散するレジスト液126の量が多くなり、レジスト液126の消費量が増大するので好ましくない。また、飛散したレジスト液126が回転塗布装置120内部を汚染する懸念が生じる。
【0096】
また、レジスト液126の吐出速度は、0.5〜3ml/秒であることが好ましい。吐出速度が0.5ml/秒を下回ると、基板11上にレジスト液126を供給する時間が長くなってしまう問題が生じる。吐出速度が3ml/秒を超えると、レジスト液126が基板11に強く接触してしまい、レジスト液126が基板11を濡らさずにはじき出されてしまう恐れがあるため好ましくない。
【0097】
基準マーク形成工程に用いるレジスト液126は、界面活性剤を実質的に含まないことが好ましい。レジスト液126に添加された界面活性剤が微細な異物の発生要因の一つと考えられる欠陥が現像時に生じることがある。基準点は、基準マーク80の複数の個所で縦線の線幅を測定しその線幅の中点をつないで得られた中心線と、複数の個所で横線の線幅を測定しその線幅の中点をつないで得られた中心線との交点から定められる。基準マーク80の縦線及び横線の輪郭が直線的であれば、基準点は明確に定められるが、露光時に異物が発生すると輪郭が直線的にならず、基準点が不明確になる恐れがある。
【0098】
したがって、レジスト液126が、界面活性剤を実質的に含まないことによって、異物の発生を低減することにより、基準マーク80の基準点を明確に定めることができる。
【0099】
本発明において、レジスト層を形成する反射用薄膜の上面が、多層反射膜の上面であることが好ましい。反射用薄膜の上面が、多層反射膜の上面であることにより、形成した基準マークのコントラストを高めることができる。
【0100】
本発明の反射型マスクブランク1の製造方法では、基準マーク形成工程の均一化工程(S22)において、多層反射膜付き基板115に向かう気流134を生起させるように排気を行うための排気手段130を稼働させることが好ましい。滴下工程において塗布環境を積極的に減圧すると、含まれる溶媒の揮発を促進してレジスト液126が被塗布面に密着する前に乾いてしまう現象や、異物を巻き込んだ状態でレジスト液126が乾燥凝集することを抑制することができる。
【0101】
均一化工程(S22)の際に、排気量を制御する排気量制御手段が備えられた排気手段130により、多層反射膜付き基板115が回転している間、多層反射膜付き基板115の上面に沿って多層反射膜付き基板115の中央側から外周方向に気流134が流れるように、気流134を発生することができる。気流134により、多層反射膜付き基板115の周縁部(基板の主表面71の端部)に生じるレジスト液126の液溜まりを効果的に多層反射膜付き基板115外に飛散させることができる。さらに、気流134により、多層反射膜付き基板115の四隅や多層反射膜付き基板115の周縁部に生じるレジスト液126の液溜まりが多層反射膜付き基板115中央部へと引き戻されるのを効果的に抑制できる。その結果、多層反射膜付き基板115の四隅及び周縁部に形成されるレジスト層の厚膜領域を低減させることができ、あるいはその領域の膜厚の盛り上がりを低減させる(厚膜化を抑制する)ことができる。具体的には、多層反射膜付き基板115の上面に当たる気流134の速度が、0.5m/秒以上5m/秒以下となるように排気量を制御することが好ましい。
【0102】
さらに、多層反射膜付き基板115の上面からカップ123上方に設けられたインナーリング124(開口部132)までの高さ(距離)と、インナーリング124の開口径とを制御することによって、多層反射膜付き基板115上面から多層反射膜付き基板115の周縁部に当たる気流134の流速を制御することができる。この制御により、多層反射膜付き基板115の周縁部に生じるレジスト液126の液溜まりを効果的に多層反射膜付き基板115外に飛散させ、又、多層反射膜付き基板115の四隅や多層反射膜付き基板115の周縁部に生じるレジスト液126の液溜まりが多層反射膜付き基板115中央部へと引き戻されることを効果的に抑制するために必要な気流134の流速を維持することが可能である。
【0103】
尚、排気手段130による気流134の発生は、均一化工程(S22)のみならず、他の工程、例えば乾燥工程(S23)においても行うことができる。
【0104】
本発明の反射型マスクブランク1の製造方法では、レジスト層を形成するための工程が、均一化工程(S22)の後に、乾燥工程(S23)を含むことができる。乾燥工程(S23)において、均一化工程(S22)での回転速度よりも低い回転速度で多層反射膜付き基板115を回転させることにより、均一化工程(S22)により得られたレジスト層の膜厚の均一性を保持しながら、レジスト層を乾燥させることができる。
【0105】
本発明の反射型マスクブランク1の製造方法では、上述の乾燥工程(S23)終了後に、多層反射膜付き基板115上に形成されたレジスト層に含まれる溶剤を完全に蒸発させるため、このレジスト層を加熱して乾燥処理する加熱乾燥処理工程を有してもよい。この加熱乾燥処理工程は、通常、レジスト層が形成された多層反射膜付き基板115を加熱プレートにより加熱する加熱工程と、レジスト層が形成された多層反射膜付き基板115を冷却プレートにより冷却する冷却工程とを含む。これらの加熱工程における加熱温度及び時間、冷却工程における冷却温度及び時間は、レジスト液126の種類に応じて適宜調整される。
【0106】
基準マーク形成工程では、反射用薄膜の上面に、上述のようにレジスト層を形成した後、レジスト層を用いたリソグラフィープロセスによって、多層反射膜12の少なくとも一部を除去することにより、反射型マスクブランク1の欠陥情報における欠陥位置の基準となる基準マーク80を形成する。具体的には、パターン形成工程(S24)、エッチング工程(S25)及びレジスト除去工程(S26)によって、基準マーク80を形成する。
【0107】
パターン形成工程(S24)では、上述のようにして形成したレジスト層(電子線描画用レジスト層)に所定の基準マーク80のパターンを描画し、現像を経て、基準マーク80のレジストパターン21を形成する。次いで、エッチング工程(S25)において、基準マーク80のレジストパターン21をマスクにして反射用薄膜のエッチングを行う。次に、レジスト除去工程(S26)において、基準マーク80のレジストパターン21を除去することによって、基準マーク80を形成することができる。尚、パターン形成工程(S24)、エッチング工程(S25)及びレジスト除去工程(S26)による基準マーク80の形成の際には、反射型マスクブランク1の吸収体膜16をパターニングする際の工程と同様の工程を用いることができる。
【0108】
本発明の反射型マスクブランク1の製造方法では、基準マーク形成工程(S2)中、上述のエッチング工程(S25)の際に、多層反射膜12の少なくとも一部を除去することにより、膜厚傾斜領域90に多層反射膜付き基板115表面の欠陥情報における欠陥位置の基準となる基準マーク80を形成する。
【0109】
上述のエッチング工程(S25)の際に、多層反射膜12の全層を加工してなくても十分にコントラストがとれる場合には、必ずしも多層反射膜12の全層を除去しなくても良い。また、本発明の製造方法の基準マーク形成工程(S2)では、膜厚傾斜領域90に基準マーク80を形成し、さらに、膜厚傾斜領域90よりも内側の領域にさらなる基準マーク80を形成することもできる。
【0110】
基準マーク80の形状は、例えば、
図6(a)及び(b)に示すような形状とすることができる。例えば、
図6(a)に示す基準マーク80は、ファインマーク82と、二つの補助マーク84からなり、ファインマーク82は5μm×5μmの正方形、二つの補助マーク84は1μm×200μmの長方形とすることができる。一般に、ファインマーク82は、欠陥位置の基準となる位置(基準点)を決定するためのものであり、補助マーク84は、欠陥検査光や電子ビームによりファインマーク82のおおよその位置を特定するためのものである。ファインマーク82の形状は点対称の形状であって、且つ、欠陥検査光や電子ビームの走査方向に対して0.2μm以上10μm以下の幅の部分を有する形状とすることが好ましい。ファインマーク82は
図6(a)のような正方形に限らず、正方形の角部が丸みを帯びた形状、八角形又は十字形状等であってもよい。また、補助マーク84は、ファインマーク82の周囲に、欠陥検査光又は電子ビームの走査方向に沿って配置されていることが好ましい。補助マーク84の形状は、欠陥検査光又は電子ビームの走査方向に対して垂直な長辺と平行な短辺を有する矩形状であることが好ましい。補助マーク84が、欠陥検査光又は電子ビームの走査方向に対して垂直な長辺と平行な短辺を有する矩形状であることにより、欠陥検査装置又は電子線描画機の走査により確実に検出できるため、ファインマーク82の位置を容易に特定することができる。
【0111】
図6(a)の基準マーク80を用いて、欠陥位置の基準となる基準点は次のようにして決定することができる。上記補助マーク84上を欠陥検査光又は電子ビームによってX方向及びY方向に走査し、これら補助マーク84を検出することにより、ファインマーク82の位置を大まかに特定することができる。そして、位置が特定された上記ファインマーク82上を欠陥検査光又は電子ビームによってX方向及びY方向に走査後、上記補助マーク84の走査により検出されたファインマーク82上の交点P(通常、メインマークの略中心)をもって基準点を決定することができる。尚、
図6(b)のような基準マーク80のような十字型の場合にも、複数の個所で縦線の線幅を測定しその線幅の中点をつないで得られた中心線と、複数の個所で横線の線幅を測定しその線幅の中点をつないで得られた中心線との交点から、欠陥位置の基準となる基準点を定めることができる。
【0112】
基準マーク80を形成する位置(中心位置)は、多層反射膜12の中央部分の膜厚の1/3〜1/2の膜厚となるような膜厚傾斜領域90に配置することが好ましい。例えば、傾斜領域の幅Dslopeが5mmの場合には、基準マーク80を形成する位置(中心位置)を、基板11の側面72から1.5mm〜4.0mmの位置とすることが好ましい。
【0113】
上述のようにして形成した基準マーク80を欠陥検査に利用することにより、反射型マスクブランク1の欠陥の位置情報を正確に把握し、記憶することができる。
【0114】
次に、本発明の反射型マスクブランク1の製造方法は、多層反射膜12上に保護膜13を形成する保護膜形成工程(S3)を有することが好ましい。尚、保護膜13の形成は、基準マーク形成工程(S2)より前に行うことができる。その場合には、多層反射膜12の基準マーク80の形成のためのパターニングを、保護膜13を含めて行う。本発明の反射型マスクブランク1の製造方法は、保護膜形成工程(S3)を基準マーク形成工程(S2)より前に行うことが好ましい。すなわち、本発明の反射型マスクブランク1の製造方法は、反射用薄膜が、多層反射膜12の上面に形成された保護膜13を含み、反射用薄膜の上面が、保護膜13の上面であることが好ましい。基準マーク形成工程(S2)の際、多層反射膜12へダメージを、保護膜13により防止することができるためである。
【0115】
図8に示す反射型マスクブランク1の例では、多層反射膜12と吸収体膜16との間に保護膜13を形成している。保護膜13を設けることにより、吸収体膜16のパターン形成時だけでなく、パターン修正時の多層反射膜12へのダメージが防止されるため、多層反射膜12の反射率を高く維持することが可能となるので好ましい。特に、保護膜13により、保護膜13に酸化膜が形成され、レジスト液126をはじきやすくなる。その場合でも、本発明に用いる基準マーク形成工程によって、レジスト液126を基板表面全体に塗布することができる。
【0116】
保護膜13は、イオンビームスパッタリング法及びマグネトロンスパッタリング法等の成膜方法を用いて形成することができる。上述の多層反射膜12の形成と同様に、保護膜13の形成も、基板11の主表面71の法線に対して斜めに保護膜13材料が堆積するように形成することが好ましい。すなわち、保護膜13の膜厚は、多層反射膜12と同様の傾向の膜厚分布とすることが好ましい。保護膜13の形成では、上述の遮蔽部材68を設けて成膜することができ、また、遮蔽部材68を設けずに成膜することもできる。保護膜13の膜厚を薄くすることができる点から、遮蔽部材68を設けて保護膜13を形成することが好ましい。
【0117】
本発明の反射型マスクブランク1の製造方法では、保護膜13の材料が、ルテニウム(Ru)を含む材料であることが好ましい。
【0118】
保護膜13の材料は、Ru、RuとNb、Zr、Y、B、Ti、La又はMoとの合金、SiとRu、Rh、Cr又はBとの合金、Si、Zr、Nb、La、B及びTa等の材料を使用することができる。これらの材料の中でも、反射率特性の観点から、ルテニウム(Ru)を含む材料、具体的には、Ru、又はRuと、Nb、Zr、Y、B、Ti、La及び/又はMoとの合金を材料とする保護膜13を形成することが好ましい。
【0119】
本発明の反射型マスクブランク1の製造方法では、ガラス基板11の多層反射膜12が設けられた主表面71に対して反対側の主表面71(「裏面」という。)に導電膜18を形成することができる。反射型マスクブランク1が裏面に導電膜18を有することにより、
図11に示すようなパターン転写装置50に反射型マスク2をセットする際の、静電チャックの性能を向上することができる。導電膜18の材料としては、静電チャックが適性に動作できれば何でもよい。例えば、クロム(Cr)やタンタル(Ta)等の金属や合金、又は上記金属や合金の酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、酸化炭化物、酸化窒化炭化物等を使用することができる。それらの中でも、TaBN及び/又はTaNを用いることが好ましく、TaBN/Ta
2O
5又はTaN/Ta
2O
5を用いることがさらに好ましい。導電膜18は、単層であることができ、また、複数層及び組成傾斜膜であってもよい。
【0120】
静電チャックが適性に動作するために、導電膜18のシート抵抗は好ましくは200Ω/□以下、より好ましくは100Ω/□以下、さらに好ましくは75Ω/□以下、特に好ましくは50Ω/□以下であることができる。シート抵抗は、導電膜18の組成及び膜厚を調整することにより、適切なシート抵抗の導電膜18を得ることができる。
【0121】
本発明の反射型マスクブランク1の製造方法では、反射用薄膜の上面に吸収体膜16を形成する吸収体膜形成工程を含む。
【0122】
図8に、本発明のEUVリソグラフィー用反射型マスクブランク1の一例の断面模式図を示す。
図8に示すように、EUVリソグラフィー用多層反射膜付き基板115の多層反射膜12上に、所定の吸収体膜16を備えることにより、EUVリソグラフィー用反射型マスクブランク1とすることができる。尚、本発明のEUVリソグラフィー用反射型マスクブランク1は、吸収体膜16の上に、吸収体膜16をパターニングするための電子線描画用レジスト膜19等の薄膜を、さらに有することができる。すなわち、本発明のEUVリソグラフィー用反射型マスクブランク1は、EUVリソグラフィー用多層反射膜付き基板115の多層反射膜12上に、所定の吸収体膜16及び電子線描画用レジスト膜19を備えた構造を有することができる。
【0123】
本発明の反射型マスクブランク1の製造方法は、吸収体膜形成工程において、膜厚傾斜領域90を覆わないように吸収体膜16を形成することが好ましい。膜厚傾斜領域90に基準マーク80が形成されている場合に、吸収体膜16を基準マーク80の上にも成膜すると、基準マーク80の形状が歪む恐れがある。そのため、膜厚傾斜領域90に基準マーク80が形成されている場合に、膜厚傾斜領域90を覆わないように吸収体膜16を形成することにより、多層反射膜付き基板115における欠陥検査光及び電子ビームによる基準マーク80検出の高コントラストの状態を維持することができる。吸収体膜16が膜厚傾斜領域90を覆わないようにするには、膜厚傾斜領域90に対向する位置に、上述と同様の遮蔽部材68を設置して、スパッタリング法により形成することができる。
【0124】
上述の本発明の反射型マスクブランク1の製造方法では、吸収体膜16を形成する前の多層反射膜12に基準マーク80を形成する場合について述べた。次に述べる本発明の反射型マスクブランク1の製造方法では、基準マーク80の形成を、多層反射膜12の上に吸収体膜16の形成を行った後に行うことができる。
【0125】
基準マーク80の形成を、多層反射膜12の上、又は保護膜13の上に吸収体膜16の形成を行った後に行う場合には、次の手順によって、所定の基準マーク80を有する反射型マスクブランク1を製造方法することができる。すなわち、上述のように、まず、膜厚傾斜領域90が設けられるように多層反射膜12を形成する。次に、多層反射膜付き基板115の多層反射膜12上、又は保護膜13上に、吸収体膜16を形成する(吸収体膜形成工程(S4))。その後に、多層反射膜12の少なくとも一部を除去することにより、膜厚傾斜領域90に多層反射膜付き基板115表面の欠陥情報における欠陥位置の基準となる基準マーク80を形成する(基準マーク形成工程(S2))。尚、吸収体膜16の形成は、多層反射膜12の膜厚傾斜領域90を除いて行うことができる。すなわち、基板11の周縁部には多層反射膜12の膜厚傾斜領域90のみが形成されている場合には、多層反射膜12のみを除去することにより、基準マーク80を形成することができる。また、基準マーク80が形成される位置にも吸収体膜16が形成されている場合には、多層反射膜12の少なくとも一部を除去する際に、必然的に吸収体膜16も除去することにより、基準マーク80を形成することができる。
【0126】
上述のようにして形成した基準マーク80を欠陥検査に利用することにより、反射型マスクブランク1の欠陥の位置情報を正確に把握し、記憶することができる。
【0127】
次に、本発明の反射型マスク2の製造方法について、説明する。
【0128】
本発明は、上述の製造方法で製造された反射型マスクブランク1の吸収体膜16をパターニングするパターニング形成工程を有する、反射型マスク2の製造方法である。
図9に、本発明の反射型マスク2の構成の一例の断面模式図を示す。
図10を参照して本発明の反射型マスク2の製造方法を説明する。
【0129】
図10(a)は、上述の本発明の製造方法により得られる反射型マスクブランク1の構成の一例を示している。この反射型マスクブランク1は、ガラス基板11上に、多層反射膜12、保護膜13、露光光吸収体層14、及び検査光の低反射層15をこの順に積層して形成される。また、多層反射膜12の傾斜領域には、基準マーク80が形成されている。尚、反射型マスクブランク1は、さらにレジスト膜19を有することができる(
図10(b))。また、レジスト膜19の形成の際には、基準マーク形成工程においてレジスト層を形成する場合と同様な方法によって、形成することができる。
【0130】
次に、EUV光31の吸収体である露光光吸収体層14及び検査光の低反射層15からなる吸収体膜16を加工して所定の吸収体膜パターン22を形成する。通常は、吸収体膜16の表面に、電子線描画用レジスト膜19を塗布・形成し、レジスト膜付きの反射型マスクブランク1を準備する(
図10(b))。次に、電子線描画用レジスト膜19に所定のパターンを描画し、現像を経て、所定のレジストパターン21を形成する(同図(c))。次いで、レジストパターン21をマスクにして吸収体膜16のエッチングを行い、最後にレジストパターン21を除去して、吸収体膜パターン22を有する反射型マスク2を得る(同図(d))。本実施の形態では、吸収体膜16が、EUV光31の吸収体で構成する露光光吸収体層14と、マスクパターンの検査光の吸収体で構成する低反射層15との積層構成からなり、いずれもタンタル(Ta)を主成分とする材料からなる。この吸収体膜16をエッチングする工程において、同一エッチングガスを使用してドライエッチングしたときに、吸収体膜16を構成する各層のエッチングレート比が0.1〜10の範囲であることが好ましい。これにより、積層構成のタンタル系吸収体膜16のエッチング制御性を改善することができ、そのためパターン線幅や保護膜13へのダメージの程度等の面内均一性を改善することができる。
【0131】
本発明では、上記積層構成の吸収体膜16をドライエッチングするときのエッチングガスとしてフッ素(F)を含むガスを用いることが最も好適である。フッ素(F)を含むガスを用いて前記積層構成のタンタル系吸収体膜16をドライエッチングすると、吸収体膜16を構成する各層のエッチングレート比を上記の好ましい範囲となるように制御することができるからである。
【0132】
フッ素(F)を含むガスとしては、例えば、CF
4、CHF
3、C
2F
6、C
3F
6、C
4F
6、C
4F
8、CH
2F
2、CH
3F、C
3F
8、SF
6及びF
2等が挙げられる。このようなフッ素を含むガスを単独で用いても良いが、上記フッ素ガスより選択される2種以上の混合ガスや、例えばアルゴン(Ar)等の希ガスや塩素(Cl
2)ガス等を混合して用いても良い。
【0133】
上記吸収体膜16を構成する露光光吸収体層14及び低反射層15のいずれか一方が、タンタル(Ta)とホウ素(B)と酸素(O)とを含む材料からなり、他方がタンタル(Ta)とホウ素(B)と窒素(N)とを含む材料からなる場合において、この吸収体膜16を、フッ素を含むガスを用いてドライエッチングすると、吸収体膜16を構成する各層のエッチングレート比が0.15〜5.0の範囲となるように制御することができる。
【0134】
積層構成のタンタル系吸収体膜16を、例えばフッ素を含有するガスを用いてドライエッチングすることにより、吸収体膜16を構成する各層のエッチングレート比を0.1〜10の範囲とすることができる。この結果、吸収体膜16のエッチング制御性を改善することができ、また吸収体膜16をエッチングしたときの下層のダメージを最小限に抑えることができる。
【0135】
以上のようにして、吸収体膜16をエッチングした後、残存するレジストパターン21を酸素アッシング等の方法で除去する。
【0136】
尚、吸収体膜16の形成の際には、多層反射膜付き基板115又は反射型マスクブランク1の欠陥検査によって記憶した欠陥位置情報に基づいて、吸収体膜パターン22の下に欠陥が隠れるように、吸収体膜パターン22の形成位置を調整することができる。この結果、反射型マスク2を用いた半導体基板への露光投影の際に、欠陥に起因する悪影響を防止することができる。
【0137】
上述のようにして作製した反射型マスク2を、EUV光31で露光するとマスク表面の吸収体膜16のある部分では吸収され、それ以外の吸収体膜16を除去した部分では露出した保護膜13及び多層反射膜12でEUV光31が反射されることにより(同図(d)参照)、EUV光31を用いるリソグラフィー用の反射型マスク2として使用することができる。
【0138】
本発明の反射型マスク2の製造方法によって得られた反射型マスク2を用い、
図11に示すようなパターン転写装置50によって、半導体基板34上のレジスト膜に転写パターンを露光転写することにより、半導体装置を製造することができる。
図11に示すようなパターン転写装置50は、レーザープラズマX線源32及び縮小光学系33を有している。上述の反射型マスク2を用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写することで、高精度のパターンを有する半導体デバイスを製造することができる。
【実施例】
【0139】
以下、実施例により、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。
【0140】
(実施例1)
実施例1に使用した基板11は、SiO
2−TiO
2系のガラス基板11(6インチ角[152.4mm×152.4mm]、厚さが6.3mm)である。このガラス基板11を機械研磨することにより、表面粗さRms(二乗平均平方根粗さ)が0.15nm(測定領域:1μm×1μm、原子間力顕微鏡で測定)の平滑な表面と、0.05μm以下の平坦度とを有するガラス基板11を得た。
【0141】
次に、基板11の主表面71に、Mo膜/Si膜周期多層反射膜12を成膜することにより、実施例1の多層反射膜付き基板115を作製した。
【0142】
具体的には、上述の基板11の主表面71に、イオンビームスパッタリング法によって、Si膜(4.2nm)とMo膜(2.8nm)とを一周期として、40周期積層することにより、Mo膜/Si膜周期多層反射膜12(合計膜厚280nm)を成膜した。尚、基板11の周縁部に膜厚傾斜領域90を形成するために、
図15に示すような遮蔽部材68を設けて、多層反射膜12を成膜した。尚、遮蔽部材68による遮蔽長さLを1.3mm、基板11の主表面71と遮蔽部材68との距離hを0.3mmとしたところ、膜厚傾斜領域90の幅Dslopeは2.5mmとなった。また、Mo膜/Si膜周期多層反射膜は、基板11の主表面71の法線に対して、Si膜のスパッタ粒子66の入射角度が5度、Mo膜のスパッタ粒子66の入射角度が65度なるように成膜した。
【0143】
次に、上述の実施例1の多層反射膜付き基板115の膜厚傾斜領域90に、
図4及び
図5に示す形状の基準マーク80を、
図3に示す基準マーク形成工程により形成した。
【0144】
図3に示す基準マーク形成工程では、リソグラフィー法により基準マーク80を形成した。まず、多層反射膜付き基板115上に、レジスト塗布工程によりレジスト液126を回転塗布し、薄膜14の表面にレジスト層を形成した。レジスト液126に含まれるレジスト及び溶剤は、下記のものを用いた。
レジスト:ポジ型化学増幅型レジストFEP171(富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ社製)
溶剤:PGMEA(プロピレングリコールモノメチルアセテート)とPGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)の混合溶剤
【0145】
表1に、実施例1の基準マーク形成工程(S2)中のレジスト液126の滴下のための滴下工程(S21)及び滴下したレジスト液126を均一にするための均一化工程(S22)の際の、基板の回転速度の時間変化を示す。表1の「開始時間」及び「終了時間」は、レジスト液126の滴下を開始したときを0秒として示している。また、「継続時間」は、それぞれの工程の開始時間から終了時間までの時間を示す。尚、レジスト液126の滴下は、回転加速段階(D1)の開始時(時間:t=0.0秒)から、回転速度維持段階(D2)の終了時(時間:t=4.0秒)まで行った。また、各工程及び各段階の間で基板の回転速度が異なる場合には、後続する工程又は段階の始めの0.05秒で回転速度を変化させた。例えば、表1の場合、乾燥工程(S23)開始直後の0.05秒で、回転速度1000rpmを250rpmまで減速した。この回転速度の変化は、その他の実施例及び比較例についても同様である。
【0146】
【表1】
【0147】
均一化工程(S22)及び乾燥工程(S23)において、多層反射膜付き基板115が回転している間、常時連続して強制排気を行い、多層反射膜付き基板115の上面に沿って多層反射膜付き基板115の中央側から外周方向に気流134が流れるように気流134を発生させた。そのため、多層反射膜付き基板115の回転により多層反射膜付き基板115の周縁部(基板11の主表面71の端部)に生じるレジスト液126の液溜まりを効果的に多層反射膜付き基板115の外に飛散させた。また、多層反射膜付き基板115の四隅や多層反射膜付き基板115の周縁部に生じるレジスト液126の液溜まりが多層反射膜付き基板115中央部へと引き戻されるのを効果的に抑制させることができた。また、多層反射膜付き基板115の四隅及び周縁部に形成されるレジスト層の厚膜領域を低減させることができた。また、その領域の膜厚の盛り上がりを低減させる(厚膜化を抑制する)ことができた。
【0148】
次に、加熱乾燥装置及び冷却装置に、レジスト層が形成された多層反射膜付き基板115を搬送し、所定の加熱乾燥処理を行ってレジスト層を乾燥させた(乾燥工程(S23))。
【0149】
次に、レジスト層に、
図4及び
図5に示すの形状の基準マーク80をレーザー描画でし、現像によってレジストパターン21(第1レジストパターン21)を形成した(パターン形成工程(S24))。
図4は、レジスト層が形成された多層反射膜付き基板115において、基準マーク80の形成個所を示す平面図である。
図5は、基準マーク80部分を拡大した平面図である。尚、
図4における寸法は、X4=Y4=136.000mm、X5=Y5=8mm、X6=Y6≦2.700mm及びX5=Y5≦5.700である。
図5における寸法は、X1=Y1=1.500mm、X2=Y2=0.550mm及びX3=Y3=0.1mmである。また、
図4及び
図5の寸法の横のカッコ内の数は、同一の寸法の個数を示す。
【0150】
次に、レジストパターン21をマスクにして、Mo膜/Si膜周期多層反射膜12を、エッチングガスとしてフッ素系ガス(CF
4)を用いたドライエッチング法でエッチングすることにより、基準マーク80を形成した(エッチング工程(S25))。このときのエッチング深さは約280nmであり、多層反射膜12の全層をエッチングした。
【0151】
次に、レジストパターン214を公知の方法で剥離した(レジスト除去工程(S26))。
【0152】
さらに、イオンビームスパッタリング法によって、Mo膜/Si膜周期多層反射膜12の上に、Ruの保護膜13(2.5nm)を成膜した(保護膜形成工程(S3))。
【0153】
次いで、保護膜13上に、DCマグネトロンスパッタリングにより、厚さ28nmのTaN層(Ta:N=70%:30%の原子比率)の半透過膜を吸収体膜16として形成した(吸収体膜形成工程(S4))。タンタルの窒素化は、タンタルターゲット62と、Arに窒素を40%添加したガスとを用いた反応性スパッタリング法で行った。以上のようにして、実施例1の基準マーク80を形成した反射型マスクブランク1を製造した。
【0154】
(実施例2)
保護膜形成工程(S3)の後に基準マーク形成工程(S2)を実施した以外は、実施例1と同一の条件で、実施例2の反射型マスクブランク1を製造した。
【0155】
(比較例1)
比較例1は、基準マーク形成工程(S2)が異なるほかは、実施例1と同様の条件で反射型マスクブランクを製造した。表2に比較例1の基準マーク形成工程(S2)の基板回転スケジュールを示す。
【0156】
比較例1の場合には、滴下工程(S21)において基板を静止した状態で実施し、その後、均一化工程(S22)300rpmの低回転速度段階(D1)の低速回転を3秒間実施し、低速回転の直後、1500rpmの高速回転段階(D3))を3.5秒間実施した。
【0157】
【表2】
【0158】
<評価>
実施例1及び比較例1について、基準マーク形成工程(S2)の乾燥工程(S23)終了時点の欠陥数を、レーザー干渉コンフォーカル光学系による60nm感度の欠陥検査装置(レーザーテック社製 M6640)を用いて、欠陥の大きさごとにカウントした。欠陥数の測定結果を表3に示す。
【0159】
【表3】
【0160】
表3に示すように、滴下工程(S21)が回転加速段階(D1)及び回転維持段階(D2)を含む実施例1、2の場合は、1μmを超える欠陥が発生せず、さらに微細な欠陥もごく少数に抑えられた。その結果、パターンエッジが直線的な基準マーク80をフォトリソグラフィー法で形成することができた。また、レジスト層に欠陥が少なかったため、エッチング工程(S25)でマスクパターン形成領域の多層反射膜12に事故的な欠陥が生じることを抑制できた。
【0161】
一方、比較例1は、基準マーク形成領域にも欠陥が形成されており、基準マーク80のパターンエッジは欠陥に由来するラフネスが生じてしまうという結果となった。また、マスクパターン形成領域内にも欠陥があったことから、エッチング工程(S25)で多層反射膜12の一部分がエッチングされてしまうことによる二次的な欠陥が生じた。