(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.繊維不織布
本発明の繊維不織布の繊維は、熱可塑性樹脂からなり、好ましくは非極性熱可塑性樹脂からなり、より好ましくは非極性オレフィン系熱可塑性樹脂からなり、さらに好ましくはポリプロピレン系樹脂からなる。
【0021】
本発明の繊維不織布の繊維を構成する熱可塑性樹脂は、種々公知の熱可塑性樹脂でありうる。かかる熱可塑性樹脂の具体例には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテンおよび1−オクテンなどのα−オレフィンの単独もしくは共重合体が含まれる。より具体的には、高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(いわゆるLLDPE)、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン(プロピレン単独重合体)、ポリプロピレンランダム共重合体、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテン、エチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・1−ブテンランダム共重合体、プロピレン・1−ブテンランダム共重合体等のポリオレフィンが挙げられる。
【0022】
熱可塑性樹脂の他の具体例には、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド(ナイロン−6、ナイロン−66、ポリメタキシレンアジパミド等)、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、アイオノマーあるいはこれらの混合物等を例示することができる。
【0023】
これらの熱可塑性樹脂のうち、高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリプロピレンランダム共重合体等のプロピレン系重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミドなどが好ましい。
【0024】
前記熱可塑性樹脂の中でも、プロピレン系重合体が好ましい。プロピレン系重合体の繊維からなる不織布は、耐薬品性が優れるからである。好ましいプロピレン系重合体は、融点(Tm)が155℃以上、好ましくは157〜165℃の範囲にあり;プロピレンの単独重合体であっても、もしくはプロピレンと極少量の1種または2種以上のα−オレフィンとの共重合体であってもよい。共重合するα−オレフィンは、炭素数2以上、好ましくは2〜8の1種または2種以上であることが好ましく、より具体的にはエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテンなどが挙げられる。プロピレン系重合体は、プロピレン単独重合体が特に好ましい。
【0025】
プロピレン系重合体は、溶融紡糸し得る限り、そのメルトフローレート(MFR:ASTM D−1238、230℃、荷重2160g)は特に限定はされないが、通常、500〜3000g/10分、好ましくは1000〜2500g/10分の範囲にある。MFRが上記範囲にあるプロピレン系重合体を用いることにより、紡糸性が良好で、引張強度などに機械的強度が良好な不織布が得られる。
【0026】
本発明の繊維不織布は、1)不織布繊維の平均繊維径が小さいこと、2)不織布が構成する孔の平均孔径が小さいこと、3)溶剤成分を含まないこと、を主な特徴とする。
【0027】
繊維不織布を構成する繊維の平均繊維径は0.01〜0.5μm、好ましくは0.1〜0.3μmである。従来のメルトブローン法により製造される繊維不織布の平均繊維径の下限は約0.8μmであり、本発明の繊維不織布の繊維はさらに細いことを特徴とする。繊維不織布の平均繊維径の測定は、繊維不織布の電子顕微鏡写真(倍率1000倍)から、任意の1000本の不織布繊維を選択し、選択した繊維の直径を測定し、その平均を求めればよい。
【0028】
繊維不織布の孔の、目付10g/m
2で測定した平均孔径は10.0μm以下、好ましくは3.0μm以下、より好ましくは2.5μm以下である。一方、繊維不織布の孔の、目付10g/m
2で測定した平均孔径は0.01μm以上、好ましくは0.1μm以上であることが好ましい。平均孔径が0.01μm未満であると、繊維不織布をフィルターに用いた場合に、圧損が高くなり流量が低下する虞がある。
【0029】
また、繊維不織布の孔の、単層目付10g/m
2における最大孔径は20μm以下であることが好ましく、6.0μm以下であることがより好ましく、5.0μm以下であることがさらに好ましく;繊維不織布の孔の、目付10g/m
2で測定した最小孔径は0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。
【0030】
繊維不織布の孔の径(平均孔径、最大孔径、最小孔径)は、バブルポイント法により測定することができる。具体的には、繊維不織布の試験片にフッ素系不活性液体を含浸させ、キャピラリー・フロー・ポロメーターで孔径を測定すればよい。
【0031】
本発明の繊維不織布の目付は、用途により適宜決め得るが、通常、1〜200g/m
2、好ましくは2〜150g/m
2の範囲にある。繊維不織布の空隙率は、通常40%以上であり、40〜98%の範囲にあることが好ましく、60〜95%の範囲にあることがより好ましい。本発明の繊維不織布がエンボス加工をされている場合には、繊維不織布の空隙率は、エンボス点を除く箇所における空隙率を意味する。
【0032】
また、本発明の繊維不織布のうち、40%以上の空隙率を有する部位の占める体積が90%以上であることが好ましく、ほぼ全ての部位で40%以上の空隙率を有することがより好ましい。本発明の繊維不織布をフィルターに用いる場合には、エンボス加工されていないか、またはほとんど全ての領域でエンボス加工されていないことが好ましい。エンボス加工がされると、フィルターとして流体を通過させるときの圧力損失が高まり、かつフィルター流路長が短くなるので、フィルタリング性能が低下するからである。一方、本発明の繊維不織布が、他の不織布に積層されている場合に、当該他の不織布はエンボス加工がされていても構わない。
【0033】
本発明の繊維不織布は溶媒成分を含まないことを特徴とする。溶媒成分とは、繊維を構成する樹脂を溶解可能な有機溶媒成分を意味する。溶媒成分とは、ジメチルホルムアミド(DMF)などが想定される。溶媒成分を含まないとは、ヘッドスペースガスクロマトグラフ法によって検出限界以下であることを意味する。
【0034】
本発明の繊維不織布の繊維は、繊維同士が自己融着した交絡点を有する。自己融着した交絡点とは、繊維を構成する樹脂自体が融着することで繊維同士が結合した枝分かれ部位を意味し、繊維同士がバインダ樹脂を介して接着してできた交絡点とは区別される。
図1は、本発明の繊維不織布の電子顕微鏡写真(2000倍)である。
図1の矢印で指し示した部分が、自己融着した交絡点である。自己融着した交絡点は、メルトブローンによる繊維樹脂の細化の過程で形成される。
【0035】
前記の通り、本発明の繊維不織布の繊維同士は、自己融着による交絡点を有するので、繊維同士を接着させるための接着成分を必要としない。したがって、本発明の繊維不織布は、繊維を構成する樹脂以外の樹脂成分を含有する必要がなく、また含有しないことが好ましい。
【0036】
本発明の繊維不織布は、単層不織布として用いられてもよいし、積層体の少なくとも一つの層を構成する不織布として用いられてもよい。積層不織布を構成する他の層の例には、従来のメルトブローン不織布、スパンボンド不織布、ニードルパンチング及びスパンレース不織布などの他の不織布や、織物、編物、紙などが含まれる。
【0037】
本発明の繊維不織布は、例えば、ガスフィルター(エアフィルター)および液体フィルターなどのフィルターとして用いられうる。前記の通り、本発明の繊維不織布は、1)溶剤成分を含まず、2)繊維同士を接着させるための接着剤成分を含まず、しかも、3)エンボス加工をされている必要がないので、不織布繊維を構成する樹脂成分以外の不純物を実質的に含まない。そのため、清浄性とフィルタリング性能が高く、高性能フィルターとして好適に用いられる。
【0038】
また本発明の繊維不織布は、発泡成形用補強材にも用いうる。発泡成形用補強材とは、例えばウレタン等からなる発泡成形体の表面を被覆して、発泡成形体の表面を保護したり、発泡成形体の剛性を高めるために使用される補強材である。
【0039】
前述の通り、本発明の繊維不織布は、繊維径が小さく液体保持性能等が高い。したがって、発泡成形用の金型内面に、本発明の繊維不織布を含む発泡成形用補強材を配置し、発泡成形を行うことで、ウレタン等の発泡用樹脂が成形体表面に染み出すことを防止できる。発泡成形用補強材には、本発明の繊維不織布のみからなる単層不織布を用いてもよいが、本発明の繊維不織布の片面または両面に、スパンボンド不織布が積層された積層体を用いることが好ましい。スパンボンド不織布を積層することで、例えば他の層との積層が容易となる。
【0040】
上記スパンボンド不織布としては、繊維径が10〜40μm、好ましくは10〜20μmであり、目付が10〜50g/m
2、好ましくは10〜20g/m
2であるものが好適である。スパンボンド不織布層の繊維径及び目付が上記範囲であると、発泡用樹脂の染み出しを防止できるとともに、発泡成形用補強材の軽量化が図れる。
【0041】
なお、上記発泡成形用補強材は、必要に応じて、スパンボンド不織布上にさらに補強層等を有してもよい。補強層としては、種々の公知の不織布等を用いうる。発泡成形用補強材が補強層を片面のみに有する場合、発泡成形用補強材は、補強層が本発明の繊維不織布より、発泡樹脂側となるように配置して使用される。
【0042】
2.繊維不織布の製造方法
本発明の繊維不織布の製造方法は、例えば以下のステップを含むことを特徴とする。
1)メルトブローン法により、溶融した熱可塑性樹脂を紡糸口金から加熱ガスと共に吐出して、繊維状樹脂とするステップ
2)前記繊維状樹脂に高電圧を印加するステップ
3)前記高電圧を印加された繊維状樹脂を、ウェブ状に捕集するステップ
【0043】
本発明の極細繊維不織布の製造方法は、熱可塑性樹脂の溶液を紡糸原料として用いるのではなく、熱可塑性樹脂を溶融紡糸することで極細繊維不織布を製造する。用いる熱可塑性樹脂は、前述の通りであり、好ましくは非極性熱可塑性樹脂からなり、より好ましくは非極性オレフィン系熱可塑性樹脂からなり、さらに好ましくはポリプロピレン系樹脂からなる。
【0044】
本発明の繊維不織布の製造方法は、溶融熱可塑性樹脂をメルトブローンによって一定の径にまで細化したのち、高電圧を印加することで電場によってさらに細化することを特徴とする。このように、メルトブローンによる細化と、電圧による細化とを2工程に分けて行うことを特徴とする。
【0045】
メルトブローン法とは、繊維不織布の製造におけるフリース形成法の一つである。溶融した熱可塑性樹脂を、紡糸口金から繊維状に吐出させるときに、溶融状態の吐出物に両側面から加熱圧縮ガスをあてるとともに、加熱圧縮ガスを随伴させることで吐出物の径を小さくすることができる。
【0046】
メルトブローン法は、具体的には、例えば、原料となる熱可塑性樹脂(例えば、ポロプロピレン系樹脂)を、押出機などを用いて溶融する。溶融樹脂は、押出機の先端に接続された紡糸口金に導入され、紡糸口金の紡糸ノズルから、繊維状に吐出される。吐出された繊維状の溶融樹脂を高温ガス(例えば空気)で牽引することにより、繊維状の溶融樹脂が細化される。
【0047】
吐出された繊維状溶融樹脂は、高温ガスに牽引されることで、通常1.0μm以下、好ましくは0.8μm以下の直径にまで細化される。好ましくは、高温ガスによる限界まで繊維状溶融樹脂を細化する。高温ガスにより細化された繊維径が1.0μmを超える場合には、ついで高電圧印加ステップを行っても、さらに細化が十分起きないことがある。
【0048】
高温ガスに牽引されることで細化した繊維状溶融樹脂は、高電圧を印加されることでさらに細化される。つまり、電場の引力により繊維状溶融樹脂を捕集側に引っ張ることで細化する。印加する電圧は特に制限されないが、1〜300kVでありうる。
【0049】
繊維状溶融樹脂への電圧の印加は、上記高温ガスを吐出するガスノズル及び繊維状樹脂を捕集するコレクターの間に設置された導電部材と、コレクターとの間に電位差を設けること等で行い得る(例えば
図3及び
図4参照)。メルトブローン後の上記位置で電圧を印加されることで、繊維状溶融樹脂は、十分に細化される。
【0050】
従来から、静電力で繊維状溶融樹脂を細化すること(エレクトロスピニング)は試みられていたが、その細化の程度は十分ではなかった。また、特開2007−262644号公報に記載のように、極性樹脂(ポリエチレンテレフタレート)であれば、ある程度、静電力によって繊維状溶融樹脂を細化することができることが報告されている。ところが、非極性樹脂の場合には、静電力によって繊維状溶融樹脂を細化することは非常に困難であった。これに対して本発明者は、非極性樹脂であっても、あらかじめ十分に細化された繊維状溶融樹脂であれば、静電力によってさらに細化することができることを見出した。
【0051】
繊維状溶融樹脂は、熱線を照射されてもよい。熱線を照射することで、細化し、流動性の低下した繊維状樹脂を再溶融することができる。また、熱線を照射することで、繊維状溶融樹脂の溶融粘度をより下げることもできる。そのため、分子量の大きい熱可塑性樹脂を紡糸原料としても、十分に細化された繊維を得ることができ、高強度の繊維不織布が得られうる。
【0052】
熱線とは、波長0.7〜1000μmの電磁波を意味し、特に波長0.7μm〜2.5μmである近赤外線を意味する。熱線の強度や照射量は特に制限されず、繊維状溶融樹脂が再溶融されればよい。例えば、1V〜200V(好ましくは1V〜20V)の近赤外線ランプまたは近赤外線ヒータを用いることができる。
【0053】
電圧の印加と熱線の照射の順序は特に限定されず、同時に行ってもよい。好ましくは、熱線を照射してから電圧を印加する。
【0054】
電圧印加された繊維状溶融樹脂は、コレクターに捕集されて堆積される。その結果、繊維不織布が製造される。コレクターの例には、多孔ベルトまたは多孔ドラムなどが含まれる。また、コレクターは空気捕集部を有していてもよく、繊維の捕集を促進してもよい。
【0055】
コレクター上に予め設けた所望の基材上に、細化された繊維をウェブ状に捕集してもよい。予め設けておく基材の例には、メルトブローン不織布、スパンボンド不織布、ニードルパンチング及びスパンレース不織布などの他の不織布や織物、編物、紙などが含まれる。それにより、高性能フィルター、ワイパーなどで使用する極細繊維不織布積層体を得ることもできる。前記基材としてはメルトブローン不織布、スパンボンド不織布、ニードルパンチング及びスパンレース不織布などの他の不織布や織物、編物、紙などが含まれる。
【0056】
3.繊維不織布の製造装置
本発明の繊維不織布の製造装置は、
1)熱可塑性樹脂を溶融して搬送する押出機と、
2)前記押出機から搬送された溶融樹脂を、繊維状に吐出する紡糸口金と、
3)前記紡糸口金の下部に、高温ガスを噴射するガスノズルと、
4)前記紡糸口金から吐出された繊維状溶融樹脂に、高電圧を印加する電圧付与手段と、
5)前記繊維をウェブ状に捕集する手段と、を具備する。
【0057】
押出機は、特に限定されず、一軸押出機であっても多軸押出機であってもよい。ホッパーから投入された固体樹脂が、圧縮部で溶融される。
【0058】
紡糸口金は、押出機の先端に配置されている。紡糸口金は、通常複数の紡糸ノズルを具備しており、例えば複数の紡糸ノズルが列状に配列している。紡糸ノズルの直径は、0.05〜0.38mmであることが好ましい。溶融樹脂が、押出機によって紡糸口金にまで搬送され、紡糸ノズルに導入される。紡糸ノズルの開口部から繊維状の溶融樹脂が吐出される。溶融樹脂の吐出圧力は、通常0.01〜200kg/cm
2の範囲であり、10〜30kg/cm
2の範囲が好ましい。これより吐出量を高めて、大量生産を実現する。
【0059】
ガスノズルは、紡糸口金の下部、より具体的には紡糸ノズルの開口部付近に、高温ガスを噴射する。噴射ガスは、空気でありうる。
図2などに示されるように、ガスノズルを紡糸ノズルの開口部の近傍に設けて、ノズル開口からの吐出直後の樹脂に、高温ガスを噴射することが好ましい。
【0060】
噴射するガスの速度(吐出風量)は特に限定されないが、4〜30Nmm
3/分/mでありうる。噴射するガスの温度は、原料樹脂の種類によって異なるが、ポリプロピレンであれば、通常は5℃〜400℃以下であり、好ましくは250℃〜350℃の範囲である。噴射するガスの種類は所望の不織布の種類により限定されないが、圧縮空気を用い得る。
【0061】
電圧付与手段は、紡糸口金から吐出された繊維状の溶融樹脂に電圧を印加する。繊維状の溶融樹脂に電圧を印加するには、例えば以下の態様がある。
1)
図2に示されるように、ガスノズル23開口部とコレクター50との間にリング状導電部材31(例えば金属板)を配置して、リング状導電部材31とガスノズル23開口部との間に電位差を設ける。このとき、ガスノズル23の開口部を接地しておけばよい。
2)
図3〜
図5に示されるように、ガスノズル23開口部とコレクター50との間にリング状導電部材31’(例えば金属板)を配置して、リング状導電部材31’とコレクターと50の間に電位差を設ける。このとき、コレクター50を接地しておけばよい。
【0062】
図2〜
図5に示される電圧付与手段を用いれば、高電圧が印加される部材や、接地される部材を、他の部材と明らかに区分することができるので、容易に絶縁することができる。さらに好ましくは、
図3〜
図5に示されるように、リング状導電部材31’とコレクター50との間に電位差を設けることが好ましい。
【0063】
印加される電圧は1kV〜300kVの範囲が望ましく、10〜100kVがより望ましい。
【0064】
電圧付与手段は、紡糸口金の吐出口から一定の間隔をもって配置されている。一定の間隔とは、紡糸口金から吐出された繊維状溶融樹脂が、高温ガスによって牽引されてある程度まで細化されるための間隔である。ある程度まで細化されるとは、繊維状溶融樹脂の直径が1.0μm以下にまで細化されることを意味し、好ましくは0.8μm以下にまで細化されることを意味する。
【0065】
電圧付与手段の配置位置の設定は、まず電圧を付与することなく、紡糸口金から繊維状溶融樹脂を吐出して、繊維状溶融樹脂の径の変化を測定する。測定結果に基づいて、直径が1.0μm以下にまで細化された繊維状溶融樹脂に電圧を印加することができるように、電圧付与手段を配置する。通常、電圧付与手段は、ガスノズル表面から10mm以上離れた位置に配置されることが好ましく、ガスノズル表面から10〜20mmの位置に配置されることがより好ましい。
【0066】
本発明の繊維不織布の製造装置は、前記紡糸口金から吐出された繊維状溶融樹脂に熱線を照射する熱線照射手段を、さらに具備することが好ましい。熱線を照射された繊維は、再溶融して流動性が高まることが好ましい。熱線照射手段は、例えば近赤外線である。
【0067】
繊維への熱線の照射は、繊維に電圧を印加しながら行ってもよく(
図3参照)、繊維に電圧を印加する前に行ってもよい(
図4)。熱線照射は、好ましくは電圧印加の前または電圧印加と同時に行い、電圧印加の前に行うことがより好ましい。
【0068】
ウェブ状に捕集する手段(コレクター)は特に限定されず、例えば多孔ベルトに繊維を捕集すればよい。多孔ベルトのメッシュ幅は5〜200メッシュであることが好ましい。さらに、多孔ベルトの繊維捕集面の裏側に空気捕集部を設けて、捕集を容易にしてもよい。
【0069】
捕集する手段の捕集面から、紡糸ノズルのノズル開口部までの距離は、3〜55cmであることが好ましい。ノズル開口部から捕集面までの間に、電圧の印加と、必要に応じて熱線の照射とを行う。
【0070】
以下において
図2〜
図5を参照して、本発明の繊維不織布の製造装置とその製造方法の例を説明するが、本発明がこれらの態様に限定されるわけではない。
図2〜
図5に示される装置はそれぞれ、電圧付与手段を有している。
【0071】
図2〜
図4に示される繊維不織布製造装置は、押出機10と、紡糸口金20と、電圧電源30または30’と、近赤外線ランプ40と、多孔ベルト(コレクター)50とを具備する。
図5に示される繊維不織布製造装置は、押出機10と、紡糸口金20と、電圧電源30’と、温度保持部70と、多孔ベルト(コレクター)50とを具備する。
【0072】
押出機10のホッパー11に固体の熱可塑性樹脂を投入して、圧縮部12で溶融する。溶融された樹脂は、紡糸口金20に搬送されて、紡糸ノズル21に導入される。紡糸ノズル21のノズル開口から、溶融樹脂が繊維状に吐出される。
【0073】
一方、紡糸ノズル21のノズル開口の近傍には、エアノズル(ガスノズル)23が配置されている。エアノズル23からは、エア加熱装置22から供給された高温エアが吐出される。吐出された高温エアは、紡糸ノズル21のノズル開口から吐出された樹脂60にあてられる。
【0074】
次に、繊維状に吐出された樹脂60に電圧を印加し、かつ熱線も照射する。
図2〜
図4に示される装置のそれぞれについて説明する。
【0075】
図2に示される装置は、紡糸口金20と、多孔ベルト50との間にリング状導電部材31が配置されている。電圧電源30は、リング状導電部材31と紡糸口金20との間に、高電位差を設ける。紡糸ノズル21のノズル開口から吐出された樹脂60は、高温エアにより細化された後、リング状導電部材31のリング内を通過する。そのため、紡糸ノズル21のノズル開口からリング状導電部材31に移動する樹脂繊維に、電圧が印加される。それにより、高温エアにより細化された繊維状樹脂の径はさらに小さくなる。
【0076】
次に、リング状導電部材31のリング内を通過した樹脂繊維に、近赤外線ランプ40で赤外線を照射する。それにより、繊維状樹脂は再溶融して繊維径がさらに小さくなりうる。
【0077】
一方、
図3に示される装置にも、紡糸口金20と、多孔ベルト50との間にリング状導電部材31’が配置されている。電圧電源30’は、リング状導電部材31’と多孔ベルト50との間に、高電位差を設ける。紡糸ノズル21のノズル開口から吐出された樹脂60は、高温エアにより細化された後、リング状導電部材31’の内部を通過して、多孔ベルト50に捕集される。そのため、リング状導電部材31’から多孔ベルト50に移動する樹脂繊維に、電圧が印加される。それにより高温エアにより細化された繊維状樹脂の径はさらに小さくなる。
【0078】
さらに、リング状導電部材31’から多孔ベルト50に移動する樹脂繊維には、電圧の印加とともに、赤外線ランプ40で熱線も照射する。熱線の照射と電圧の印加とを同時に行うことにより、繊維径がより効率的に小さくなりうる。
【0079】
また、
図4に示される装置も、
図3に示される装置と同様に、紡糸口金21と、多孔ベルト50との間にリング状導電部材31’が配置されている。電圧電源30’は、リング状導電部材31’と多孔ベルト50との間に、高電位差を設ける。
【0080】
紡糸ノズル21のノズル開口から吐出された樹脂60は、まず、近赤外線ランプ40で赤外線を照射される。赤外線を照射された繊維は、高温エアにより細化された後、リング状部材31’の内部を通過して、多孔ベルト50に捕集される。そのため、リング状部材31’から多孔ベルト50に移動する樹脂繊維に、電圧が印加される。それにより、高温エアにより細化された繊維状樹脂の径はさらに小さくなるが、近赤外線ランプ40の赤外線により繊維が溶融しているので、より効果的に繊維径が小さくなる。
【0081】
図2〜
図4に示される装置において、電圧印加および熱線照射をされた繊維は多孔ベルト50に捕集される。多孔ベルト50はローラによって搬送されている。多孔ベルト50の捕集面の裏側にエア捕集部を設けて、繊維の捕集を容易にしている。それにより、多孔ベルト50に極細繊維不織布が製造される。
【0082】
図5に示される装置は、
図3に示される装置と同様に、紡糸口金21と、多孔ベルト50との間にリング状導電部材31’が配置されている。電圧電源30’は、リング状導電部材31’と多孔ベルト50との間に、高電位差を設ける。
【0083】
図5に示される装置は、近赤外線ランプ40を具備していないが、温度保持部70を有する。温度保持部70は、吐出された樹脂60の温度が低下しないように、熱の放散を抑制する部材であり、例えば熱伝導性の低い材質からなる中空筒である。紡糸ノズル21のノズル開口から吐出された樹脂60は、高温エアにより細化された後、リング状部材31’の内部を通過して、多孔ベルト50に捕集される。そのため、リング状部材31’から多孔ベルト50に移動する樹脂繊維に、電圧が印加される。それにより、高温エアにより細化された繊維状樹脂の径はさらに小さくなるが、温度保持部70により樹脂の温度が維持されるので、より効果的に繊維径が小さくなる。
【実施例】
【0084】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0085】
実施例及び比較例における物性値等は、以下の方法により測定した。
(1)繊維不織布の繊維の平均繊維径(μm)
電子顕微鏡(日立製作所製S−3500N)を用いて、倍率1000倍の繊維不織布の写真を撮影した。繊維不織布を構成する繊維のうち、任意の繊維100本を選び、選択した繊維の幅(直径)を測定した。測定結果の平均を平均繊維径とした。
【0086】
(2)繊維不織布の最大孔径(μm)、最小孔径(μm)及び平均孔径(μm)
JIS Z8703(試験場所の標準状態)に規定する温度20±2℃、湿度65±2%の恒温室内で、得られた極細繊維不織布から採取した試験片をフッ素系不活性液体(3M社製 商品名:フロリナート)に浸漬し、Porous materials,Inc社製のキャピラリー・フロー・ポロメーター(Capillary Flow Porometer)「モデル:CFP-1200AE」を用いて測定した最大孔径(μm)、最小孔径(μm)及び平均孔径(μm)を測定した(表中、「最大孔径」、「最小孔径」及び「平均孔径」と示す)。
【0087】
(3)目付(g/m
2)
縦方向50cm×横方向50cmの試料を3個採取して、各試料の重量をそれぞれ測定し、得られた値の平均値を単位面積当たりに換算し、小数点以下第一位を四捨五入した。
【0088】
(4)空隙率(%)
得られた繊維不織布の任意箇所について、JIS 1096に準拠し、厚さ測定器を用いて、10秒間、0.7kPaの下で厚みを測った結果と目付および不織布に使用した原料密度より、下記計算式にて求めた数値の小数点以下第1位を四捨五入し空隙率を求めた。ただし、得られた不織布が積層体であった場合(実施例1,2,5および比較例1〜5)には、スパンボンド不織布を除去して得た単層不織布を測定した。
空隙率(%)=〔1−(目付/厚み/密度)〕×100
【0089】
(5)溶媒成分
JIS K0114:2000に記載の公知のガスクロマトグラフ法(ヘッドスペース法)において、サンプルビンに得られた繊維不織布から採取した試験片を入れ、160℃に加熱しサンプルビン中のガスを分析して、揮発したDMFの量を測定した。
【0090】
(6)捕集性能(%)、圧力損失(Pa)、QF値(Pa
−1)
粉塵の捕集性能は、以下の方法で測定した。繊維不織布(積層体)の任意の部分から、15cm×15cmのサンプルを3個採取し、それぞれのサンプルについて、捕集性能測定装置(東京ダイレック(株)社製 Model8130)で捕集性能を測定した。捕集効率の測定にあたっては、個数中央径:0.07μmをもつNaCl粒子ダストをアトマイザーで発生させ、次にサンプルをホルダーにセットし、風量をフィルター通過速度が5.3cm/secになるように流量調整バルブで調整し、ダスト濃度を15〜20mg/m
3の範囲で安定させた。サンプルの上流のダスト個数D2および下流のダスト個数D1をレーザー式粒子検出器で検出し、下記計算式にて求めた数値の小数点以下第2位を四捨五入し捕集効率(%)を求めた。
捕集効率(%)=〔1−(D1/D2)〕×100
ここで、D1:下流のダスト個数、D2:上流のダスト個数である。
【0091】
また圧力損失(Pa)は上記捕集性能測定時のサンプルの上流と下流の静圧差を圧力計で読み取り、サンプルの平均値の小数点以下第一位を四捨五入して算出した。さらに、QF値は、上記の方法で求めた捕集性能と圧力損失の値を用いて以下の式により算出し、小数点以下第三位を四捨五入した。QF値(Pa
-1)=−[ln(1−[捕集性能(%)]/100)]/[圧力損失(Pa)]
【0092】
図4に示される不織布製造装置を用いて、繊維不織布を作製した。プロピレン単独重合体(MFR:1500g/10分)をダイに供給し、設定温度:300℃のダイスから、ノズル単孔あたりの吐出量:0.03g/分で、ノズルの両側から吹き出す加熱エアー(230℃、120m/sec)と伴に吐出した。ダイスのノズルの直径は0.2mmであった。
【0093】
焦点距離30mmの近赤外線ランプを、ガスノズル表面からの距離(
図4におけるd1参照):5mmの位置に焦点を合わせて、強度12Vで照射した。さらに、ガスノズル表面からの距離(
図4におけるd2参照):10mmの位置に、印加リングを設置して20kVの電圧を印加した。
ガスノズル表面からコレクターまでの距離(
図4におけるd3参照)は100mmであった。ガスノズル表面からの距離(
図4におけるd2):10mmの位置(印加リングの配置位置)での溶融樹脂の径は、0.6μmであった。
【0094】
紡糸した樹脂繊維を、コレクター上に設置したスパンボンド不織布(目付:15g/m
2、平均繊維径18μ)に吹き付けて、スパンボンド不織布上に、目付:2g/m
2、平均繊維径0.3μmの繊維不織布が積層された不織布積層体を得た。
【0095】
得られた不織布積層体の物性を上記記載の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0096】
〔実施例2〕
印加リングのガスノズル表面からの距離(
図4におけるd2)を20mmとしたこと以外は、実施例1と同一の方法で紡糸を行い、スパンボンド不織布上に、目付:2g/m
2、平均繊維径0.5μmの繊維不織布が積層された不織布積層体を得た。ガスノズル表面からの距離(
図4におけるd2):20mmの位置(印加リングの配置位置)での溶融樹脂の径は、0.8μmであった。得られた不織布積層体の物性を上記記載の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0097】
〔実施例3〕
スパンボンド不織布と積層しなかった以外は、実施例1と同一の方法で紡糸を行い、目付:10g/m
2、平均繊維径0.3μmの繊維不織布(単層)を得た。得られた繊維不織布の物性を上記記載の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0098】
〔実施例4〕
スパンボンド不織布と積層しなかった以外は、実施例2と同一の方法で紡糸を行い、目付:10g/m
2、平均繊維径0.3μmの繊維不織布(単層)を得た。得られた繊維不織布の物性を上記記載の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0099】
〔
参考例5〕
近赤外線ランプによる赤外照射をしなかった以外は、実施例1と同一の方法で紡糸を行い、スパンボンド不織布上に、目付:2g/m
2、平均繊維径0.6μmの不織布が積層された不織布積層体を得た。ガスノズル表面からの距離(
図4におけるd2):10mmの位置(印加リングの配置位置)での溶融樹脂の径は、0.9μmであった。得られた不織布積層体の物性を上記記載の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
実施例1〜
4、および参考例5で得られた繊維不織布の繊維の平均繊維径は、いずれも0.6μm以下であり、十分に細繊維化されている。ただし、近赤外線照射をしなかった
参考例5では、近赤外線照射をした実施例1と比較して、やや繊維径が大きくなった。
【0102】
また、実施例3および実施例4からわかるように、製造した繊維不織布の平均孔径も0.3μmおよび0.6μmであって、十分に小さい。また、実施例1〜
4、および参考例5で得られた繊維不織布は、溶融ポリマーを紡糸原料としているので、溶媒成分を含まない。さらに、実施例1〜
4、および参考例5で得られた繊維不織布の繊維は、
図1の写真に示されるように、繊維同士が自己融着した交絡点を有していた。
【0103】
〔比較例1〕
近赤外線ランプによる赤外照射と、電圧印加とをしなかった以外は、実施例1と同一の方法で紡糸を行い、スパンボンド不織布上に、目付:2g/m
2、平均繊維径0.8μmの不織布が積層された不織布積層体を得た。比較例1の方法は、従来のメルトブローン法による紡糸に相当する。得られた不織布積層体の物性を上記記載の方法で測定した。結果を表2に示す。
【0104】
〔比較例2〕
近赤外線ランプによる赤外照射と、加熱エアーを噴き出させなかった以外は、実施例1と同一の方法で紡糸を行い、スパンボンド不織布上に、目付:2g/m
2、平均繊維径10μmの不織布が積層された不織布積層体を得た。比較例2の方法は、従来のエレクトロスピニング法による紡糸に相当する。得られた不織布は繊維径が太く(平均繊維径10.0μm)、上記記載の方法で物性(孔径、フィルター性能)を測定したが測定下限値以下であった。結果を表2に示す。
【0105】
〔比較例3〕
吐出量:0.001g/分にした以外は、比較例2と同一方法で紡糸を行い、スパンボンド不織布上に、目付:2g/m
2、平均繊維径1.5μmの不織布が積層された不織布積層体を得た。得られた不織布積層体の物性を上記記載の方法で測定した。結果を表2に示す。
【0106】
〔比較例4〕
印加リングによる電圧印加を行う代わりに、ダイスに印加を行う不織布製造装置(特願2005−520068を参照)を用いて、繊維不織布を作製した。プロピレン単独重合体(MFR:1500g/10分)をダイに供給し、設定温度:300℃のダイから、ノズル単孔あたりの吐出量:0.03g/分でノズルの両側から吹き出す加熱エアー(230℃、120m/sec)と伴に吐出した。ダイスのノズルの直径は、0.2mmであり、ダイスのノズルから吐出された直後の溶融樹脂の直径はノズル径とほぼ同一であった。
【0107】
ノズル表面からコレクターまでの距離:100mm、印加電圧が20kVで紡糸した繊維をコレクター上に設置したスパンボンド不織布(目付:15g/m
2、平均繊維径18μm)に吹き付けて、スパンボンド不織布上に、目付:2g/m
2、平均繊維径1.0μmの不織布が積層された不織布積層体を得た。得られた不織布積層体の物性を上記記載の方法で測定した。結果を表2に示す。
【0108】
〔比較例5〕
公知のエレクトロスピニング装置を用いて、繊維不織布を作製した。設定温度250℃のシリンジ内でDMF溶媒に、プロピレン単独重合体(MFR:1500g/10分)を、濃度10重量%になるように調整したうえで溶解させた。
【0109】
ノズル1本当たりの吐出量0.01g/分で吐出し、ノズルの表面からコレクターまでの距離):100mm、印加電圧:20kVの条件で紡糸した繊維を、コレクター上に設置したスパンボンド不織布(目付:15g/m
2、平均繊維径18μm)に吹き付けた。スパンボンド不織布上に、目付:2g/m
2、平均繊維径0.5μmの不織布が積層された不織布積層体を得た。得られた不織布積層体の物性を上記記載の方法で測定した。結果を表2に示す。
【0110】
【表2】
【0111】
比較例1では電圧印加をしなかったために、メルトブローンによる細化しか行われず、0.8μmの繊維径となり、十分に細化された繊維が得られなかった。比較例2では、加熱エアーを噴きださせなかったため、電場による細化しか行われず、極めて太い(10μm)繊維となった。比較例3のように、樹脂の吐出量を低下させても、細化の程度は不十分(1.5μm)であった。
【0112】
比較例4では、繊維状樹脂が十分に細化される前に、電圧印加が行われたため、得られた繊維が十分に細化されていない(1.0μm)。また、比較例5では、ポリマー溶液を用いているため、得られた繊維の径は小さいものの(0.5μm)、溶剤性分が多量に残存している。