特許第6106535号(P6106535)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6106535
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】SiC基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20170327BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20170327BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20170327BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
   H01L21/304 621A
   H01L21/304 622D
   B24B37/00 H
   C09K3/14 550D
   C09K3/14 550Z
   C09G1/02
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-131717(P2013-131717)
(22)【出願日】2013年6月24日
(65)【公開番号】特開2015-5702(P2015-5702A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2016年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100146879
【弁理士】
【氏名又は名称】三國 修
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 有三
【審査官】 山口 大志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−179655(JP,A)
【文献】 特開2009−238891(JP,A)
【文献】 特開2008−166329(JP,A)
【文献】 特開2010−284784(JP,A)
【文献】 特開2011−035023(JP,A)
【文献】 佐藤 誠,SiC研磨加工における化学的作用と機械的作用,結晶加工と評価技術第145委員会 第132回研究会資料,日本,独立行政法人 日本学術振興会,2012年12月13日,p.10-13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
C09G 1/02
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC基板の表面を研磨する工程を備えたSiC基板の製造方法であって、
前記SiC基板が、Si面側にエピタキシャル層が積層されてなるSiC基板であり、
前記SiC基板に備えられるSi面及びC面の両面に対し、CMP(Chemical Mechanical Polishing)法により、C面/Si面加工選択比を3.0以上として両面研磨加工を施すCMP工程を少なくとも具備し、
前記CMP工程は、スラリーとして、過マンガン酸カリウムを酸化剤として含み、アルミナを研磨剤として含むものを用い、
前記CMP工程は、前記SiC基板のSi面の研磨加工レートを0.5〜3.0(μm/hr)とし、且つ、C面の研磨加工レートを3〜15(μm/hr)とすることを特徴とするSiC基板の製造方法。
【請求項2】
前記CMP工程は、pHが2〜6の過マンガン酸カリウム系スラリーを用いることを特徴とする請求項1に記載のSiC基板の製造方法。
【請求項3】
前記CMP工程は、前記SiC基板に対して研磨パッドが押し付けられる研磨荷重が100〜500(g/cm)の範囲であることを特徴とする請求項1または請求項の何れかに記載のSiC基板の製造方法。
【請求項4】
前記スラリーとして、含有する前記アルミナ研磨剤が凝集してなる二次粒子の平均粒子径が、0.1〜0.5μmとなるものを用いることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか一項に記載のSiC基板の製造方法。
【請求項5】
前記スラリーとして、硝酸をpH調整剤として含むものを用いることを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか一項に記載のSiC基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC基板の製造方法に関し、特に、SiC基板の表面を研磨して平坦化する工程を有するSiC基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きく、熱伝導率が3倍程度高い等の特性を有することから、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。このため、近年、半導体デバイスの基板にSiC基板が用いられるようになっている。
【0003】
上述のSiC基板は、例えば、昇華法等で作製したSiCのバルク単結晶のインゴットから製造され、通常、インゴットの外周を研削して円柱状に加工した後、ワイヤーソー等を用いて円板状にスライス加工し、外周部を面取りして所定の直径に仕上げることで得られる。さらに、円板状のSiC基板の表面に、機械的研削法による研削処理を施すことで凹凸及び平行度を整え、その後、CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学的機械研磨)法等のメカノケミカル研磨を表面に施すことで、片面または両面を鏡面に仕上げる。このようなSiC基板の研削、研磨は、スライス加工によって発生するうねりや加工歪の除去の他、SiC基板表面の平坦化等を目的として行われる。
【0004】
上述のようなCMP法は、化学的作用と機械的作用の両方を併せ持つ研磨方法であることから、SiC基板に損傷を与えることなく、平坦な表面を安定して得ることが可能である。このため、CMP法は、SiC半導体デバイス等の製造工程において、SiC基板の表面に生じた荒れやうねり、あるいは、SiC基板の表面にエピタキシャル層が積層されてなるウェハ上の配線等による凹凸を平坦化する方法として、広く採用されている。
【0005】
また、SiC基板が用いられてなるSiC(エピタキシャル)ウェハは、通常、上記手順で得られたSiC基板の上に、化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD)により、SiC半導体デバイスの活性領域となるSiCエピタキシャル膜(エピタキシャル層)を成長させることによって製造する。一方、SiC単結晶のインゴットからスライスされたSiC基板を、表面に凹凸やうねりが発生した状態のままで用いた場合には、SiC基板の表面に成膜されたエピタキシャル層の表面にも凹凸等が生じることとなる。このため、SiC基板上にSiCエピタキシャル膜を成長させたSiCウェハを製造する際は、予め、SiC基板表面をCMP法で研磨した後、この上にSiCエピタキシャル膜を成長させる。また、SiCエピタキシャル膜の成長後にも、上記同様に機械的研削法による研削処理、及び、CMP法による仕上げ研磨を行うことにより、SiCウェハの表面の荒れの除去処理や平坦化処理を行う。
【0006】
ここで、SiC基板上のエピタキシャル層の表面にうねりや加工歪が残存した状態で、この上にトランジスタやダイオード等の半導体素子を形成して半導体装置を製造すると、SiC本来の優れた物性値から期待されるような電気的特性が得られ難くなる。このため、上述のような、エピタキシャル層を含むSiC基板の表面の平坦化処理は、非常に重要な工程である。
【0007】
一般に、SiC基板表面のうねりや加工歪を除去する処理としては、例えば、ラップ研磨等の機械式研磨法を用いることが有効であり、また、表面の平坦化については、例えば、1μm以下の粒径のダイヤを用いた研磨や、♯10000以上の高い番手の砥石を用いた研削が有効である。さらに、SiCエピタキシャル膜(エピタキシャル層)を成長させる前のSiC基板表面の仕上げ加工や、SiCエピタキシャル膜を成膜した後のウェハの仕上げ加工として、表面粗さRa<0.1μmとするためのCMP法による研磨加工が一般的に行われている。
【0008】
SiC基板の表面をCMP法で研磨する方法について、図6を用いて以下に説明する。
図6に示すように、インゴットからスライスした後、表面が機械的研削法で研削されたSiC基板100は、CMP研磨機200に備えられる回転可能なSiC基板支持部201に取り付けられる。そして、SiC基板100を回転定盤202の表面に貼り付けられた研磨パッド202aに押し当てるとともに、研磨パッド202aとSiC基板100との界面に、スラリーチューブ203からスラリー204を供給しながらSiC基板支持部201を回転させることにより、SiC基板100の研磨面(表面)100aを研磨する。
【0009】
ここで、一般に、SiC基板の成膜面であるSi面上にエピタキシャル膜を成膜した際、膜の表面に面荒れが生じるという問題があり、特に、エピタキシャル膜が厚くなるとともに、膜表面の荒れが目立ってくるという問題がある。これは、主として、エピタキシャル膜を厚く成長させる際のステップバンチングによって生じる荒れである。
【0010】
例えば、図5(a)に示すように、エピタキシャル膜を成膜する前のSiC基板は、CMP法による研磨加工が施されているため、面荒れは殆ど見られず、AFM画像による評価においても、凹凸や欠陥はほとんど検出されない。しかしながら、図5(b)に示すように、その後、SiC基板上に、30μm程度と厚めのエピタキシャル膜を成膜すると、膜表面の全体にわたって荒れが生じた状態となり、AFM評価においてもステップバンチングが検出され、さらに、数10μmオーダーの巨大なエピタキシャル欠陥も発生し易くなる。
【0011】
一方、上述のようなステップバンチングによって生じる荒れは、膜厚方向で概ね0.01μm程度の高さである。このため、図5(c)に示すように、荒の生じたエピタキシャル膜の表面に、例えば、1μm程度の除去量でCMP加工を施すことにより、ステップバンチング等の荒れは除去できる。即ち、上述のような方法でエピタキシャル膜表面の荒れを除去できれば、高耐圧デバイス向けのエピタキシャル膜としての厚い膜厚を維持し、且つ、荒れの少ないSiCエピタキシャル基板を形成することが可能となる。従って、その後のデバイス形成工程において素子特性に優れたデバイスを製造できるというメリットが得られることから、エピタキシャル膜表面の仕上げ研磨加工は非常に重要である。
【0012】
上述のような、SiC基板上に成膜したエピタキシャル膜の表面の荒れを除去することを目的として、SiC基板表面をCMP法によって研磨加工する方法としては、例えば、特許文献1に記載のような方法が提案されている。特許文献1に記載には、回転テーブルに複数のSiC基板を取り付け、バッジ処理でCMP研磨加工する方法が開示されている。
【0013】
また、特許文献2には、半導体装置の製造工程において、チャネル領域を形成するにあたり、エピタキシャル膜を研磨して平坦化することで、チャネル領域を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2009−10071号公報
【特許文献2】特開2002−43570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ここで、上述したSiC基板の成膜面(Si面)のみならず、その裏面側であるC面においても、Si面側におけるエピタキシャル成長条件、例えば、成長炉のタイプや成膜温度等の条件設定により、Si面上のエピタキシャル膜と同様に、基板表面が曇る等の荒れが生じる場合がある。例えば、図7(a)の顕微鏡写真に示すように、SiC基板のSi面上にエピタキシャル膜を成膜する前における裏面側のC面は、ダイヤモンド研磨等によって鏡面に仕上げられているが、図7(b)に示すように、エピタキシャル膜の成膜後は、荒れが生じた状態となっている。このような荒れが生じる原因としては、例えば、装置を構成するSiC部材からの転写や、SiC基板からのカーボン抜け等によるものが考えられる。また、例えば、成膜温度が1500℃程度と高温である場合には、ほとんどの材料は昇華するので、その材料ガスが基板裏面側に回り込むことでC面に荒れが生じることも考えられる。
【0016】
このように、C面に荒れが生じた場合においても、Si面の場合と同様、SiC基板のSi面にエピタキシャル膜を成膜した後に、C面側にも研磨加工を施せば、該C面の荒れを除去することが可能である。このように、SiC基板のC面に生じた荒れを除去できれば、その後の評価工程におけるSiC基板の吸着エラー等を抑制できる等の効果が得られることからも、C面を研磨することは重要である。
【0017】
一方、Si面にエピタキシャル膜を成膜後、例えば、SiC基板の両面側、即ち、エピタキシャル膜が成膜されたSi面側と裏面であるC面側を各々別工程で研磨加工した場合には、工程数が多くなることから生産性向上の妨げになり、また、コストアップの要因となる。このため、SiC基板のSi面に成膜されたエピタキシャル膜に加え、C面の研磨加工を行う場合には、これら両面を同時に研磨加工することが望まれる。
【0018】
しかしながら、SiC基板のSi面及びC面の両面研磨を、従来から用いられているコロイダルシリカ等の研磨剤を含むスラリーを用いたCMP研磨加工によって行った場合、元々、コロイダルシリカを含んだスラリーは、Si面の加工レートが遅いうえ、Si面の加工レートを最適化すると、C面側の加工レートが極端に低下することがある。このため、例え、各面の加工レートのバランスを調整したとしても、レートの絶対値が低いことから、エピタキシャル成長による面の荒れを除去するためには、加工時間が長大化するという問題がある。
【0019】
一般的に、エピタキシャル成長時に生じるステップバンチングは、高さ寸法がそれほど大きくないことから、Si面側においては、それほど高い研磨加工レートが必要とされない。それにも関わらず、ダイヤモンドスラリーを用いてSiC基板の両面研磨を行った場合には、Si面側のエピタキシャル膜が大きく削られることから、特に、大きな膜厚が必要とされる高耐圧デバイス向けのSiCウェハを製造するのが極めて困難となっていた。
【0020】
上述のように、従来、CMP研磨加工によってSiC基板のSi面及びC面の両面研磨を行うにあたり、エピタキシャル膜を削りすぎること無く、Si面及びC面の両面を適正な研磨レートで研磨加工する技術については、何ら提案されていなかった。このため、エピタキシャル膜の大きな膜厚を確保しながら荒れを除去するとともに、裏面側であるC面の荒れも確実に除去できる研磨方法が切に求められていた。
【0021】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、CMP法による両面研磨を行った場合であっても、Si面のエピタキシャル膜を削りすぎること無く、且つ、エピタキシャル層表面の荒れを除去でき、さらに、C面の荒れも効果的に除去することが可能な、生産性及び歩留まりに優れたSiC基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者等は、上述したような、SiC基板のSi面及びC面の両面研磨をCMP法で行う場合に、Si面に形成したエピタキシャル層を削りすぎること無く一定以上の膜厚を確保しながら、ステップバンチング等に由来する荒れを除去し、且つ、裏面側であるC面を所定以上のレートで研磨することで、C面の荒れを除去するため、鋭意検討を重ねた。この結果、CMPスラリーとして、好ましくは過マンガン酸カリウムを酸化剤として含み、より好ましくはアルミナを研磨剤として含むSi面用の超高レートCMPスラリーを用い、且つ、C面側の選択比が高い条件を採用することにより、エピタキシャル層表面の荒れを除去しつつ該エピタキシャル層の除去量を最小限に抑制でき、且つ、C面の荒れも除去することが可能となることを知見した。即ち、スラリー種やC面/Si面加工選択比等のCMP研磨加工条件を適正範囲としてSiC基板を両面研磨することにより、簡便なプロセスで生産性を損なうことなく、また、エピタキシャル層の大きな膜厚を確保しながら、Si面(エピタキシャル層)及びC面の両面において荒れを確実に除去することができ、さらに、エピタキシャル層表面の平坦度も改善されることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0023】
(1) SiC基板の表面を研磨する工程を備えたSiC基板の製造方法であって、前記SiC基板に備えられるSi面及びC面の両面に対し、CMP(Chemical Mechanical Polishing)法により、C面/Si面加工選択比を3.0以上として両面研磨加工を施すCMP工程を少なくとも具備することを特徴とするSiC基板の製造方法。
(2) 前記SiC基板が、前記Si面側に、さらにエピタキシャル層が積層されてなるSiC基板であることを特徴とする(1)に記載のSiC基板の製造方法。
(3) 前記CMP工程は、スラリーとして、過マンガン酸カリウムを酸化剤として含み、pHが2〜6の過マンガン酸カリウム系スラリーを用いることを特徴とする(1)又は(2)に記載のSiC基板の製造方法。
(4) 前記CMP工程は、前記過マンガン酸カリウム系スラリーとして、アルミナを研磨剤として含むスラリーを用いることを特徴とする(3)に記載のSiC基板の製造方法。
(5) 前記CMP工程は、前記SiC基板に対して研磨パッドが押し付けられる研磨荷重が100〜500(g/cm)の範囲であることを特徴とする(1)〜(4)の何れか一項に記載のSiC基板の製造方法。
(6) 前記CMP工程は、前記SiC基板のSi面の研磨加工レートが0.5〜3.0(μm/hr)であり、且つ、C面の研磨加工レートが3〜15(μm/hr)であることを特徴とする(1)〜(5)の何れか一項に記載のSiC基板の製造方法。
(7) 前記CMP工程の前に、さらに、前記SiC基板のSi面及びC面を機械式研磨法によって研磨する粗研磨工程を含むことを特徴とする(1)〜(6)の何れか一項に記載のSiC基板の製造方法。
【0024】
なお、本発明における「SiC基板」とは、少なくとも一方の表面にエピタキシャル層が積層されたSiC基板(SiCエピタキシャルウェハ)か、あるいは、SiC基板そのものの両方を含むものである。即ち、本発明において「SiC基板の表面を研磨することで該表面を平坦化する」とは、Si面にエピタキシャル層が積層されたSiC基板(SiCエピタキシャルウェハ)の表面(エピタキシャル層面及びC面)を研磨する場合と、SiC基板そのものの表面(Si面及びC面)を研磨する場合の何れをも含む。
【発明の効果】
【0025】
本発明のSiC基板の製造方法によれば、Si面及びC面を有してなるSiC基板を、CMP法により、C面/Si面加工選択比を所定以上としてSi面及びC面を両面研磨加工する方法を採用している。このように、CMP研磨加工条件を適正範囲としてSiC基板を両面研磨することにより、簡便なプロセスで、Si面に成膜されたエピタキシャル層表面の荒れを除去しつつ該エピタキシャル層の除去量を最小限に抑制でき、且つ、C面の荒れも除去することが可能となり、さらに、両面を同時に加工することで、平坦度、即ち、GBIR(Global Back Ideal Range(TTV:Total thickness variation)やSBIR(Site Back Ideal Range(LTVmax:Local Thickness Variation)の改善も期待できる。従って、表面特性に優れ、高耐圧デバイスに適用可能なSiC基板を、生産性及び歩留まり良く製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施形態であるSiC基板の製造方法を模式的に説明する図であり、図1(a)はCMP法を用いてSiC基板の両面研磨を行う工程の一例を示す斜視図、図1(b)は側面図である。
図2】本発明の実施形態であるSiC基板の製造方法を模式的に説明する図であり、CMP法を用いてSiC基板のSi面を所定時間で研磨加工した際の、過マンガン酸カリウム系スラリーを使用した場合と、コロイダルシリカ系スラリーを使用した場合の研磨加工レートを示すグラフである。
図3】本発明の実施形態であるSiC基板の製造方法を模式的に説明する図であり、過マンガン酸カリウム系スラリーを用いたCMP法により、SiC基板を所定時間で両面研磨した際の、Si面及びC面の各々の研磨加工レートを示すグラフである。
図4】本発明の実施形態であるSiC基板の製造方法を模式的に説明する図であり、AFM測定画像(5μm□視野)を示す図で、図4(a)は過マンガン酸カリウム系スラリーによるCMP研磨加工後の、SiC基板のSi面のAFM測定画像、図4(b)はC面のAFM測定画像である。
図5】従来のSiC基板の製造方法を模式的に説明する図であり、AFM測定画像(5μm□視野)及びCandela評価によるSiC基板上の欠陥分布を示す図で、図5(a)はコロイダルシリカを含むスラリーを用いたCMP研磨加工後のSiC基板のSi面、図5(b)はSi面にエピタキシャル層を成膜した直後の該エピタキシャル層の表面、図5(c)はCMP研磨加工後、エピタキシャル成膜後及びエピタキシャル層の表面をCMP研磨加工した後の、基板全面でのCandela評価による欠陥サイズ毎のカウント数を示したものである。
図6】従来のSiC基板の製造方法を模式的に説明する図である。
図7】SiC基板のSi面にエピタキシャル層を形成する前と形成した後の、裏面側であるC面の表面の状態を示す図であり、図7(a)はSi面上にエピタキシャル層を形成する前のC面の表面、図7(b)はSi面上にエピタキシャル層を形成した後のC面の表面の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を適用したSiC基板の製造方法について、主に図1図4を適宜参照しながら詳細に説明する(図6の従来図及び図7の顕微鏡写真も一部参照)。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0028】
<SiC基板>
本発明の方法における被研磨物であるSiC基板は、各種の半導体デバイスに用いられる半導体基板であり、エピタキシャル層が形成されるSi面と、その裏面側のC面とを有する。このようなSiC基板は、まず、例えば昇華法等によって作製したSiCバルク単結晶のインゴットの外周を研削して円柱状に加工した後、ワイヤーソー等を用いて円板状にスライス加工し、外周部を面取りして所定の直径に仕上げることで製造できる。この際のSiCバルク単結晶としては、何れのポリタイプのものも用いることができ、実用的なSiCデバイスを作製するためのSiCバルク単結晶として主に採用されている4H−SiCを用いることができる。
【0029】
スライス加工によって円板状とされたSiC基板は、最終的に表面が鏡面研磨されるが、まず、従来公知の機械的研磨法を用いて表面を研磨することで、研磨面の凹凸を大まかに除去するとともに平行度を整えることができる。そして、機械的研磨法を用いて表面が研磨されたSiC基板の表面が、CMP(化学的機械研磨)法によってメカノケミカル研磨されることにより、表面が鏡面且つ面粗さRaが0.1(nm)以下に仕上げられたSiC基板となる。この際、SiC基板の片面、即ちSi面のみが研磨され、鏡面とされていても良いが、Si面及びC面の両面それぞれが研磨された鏡面であっても良い。
【0030】
SiC基板は、表面の研磨処理により、上記のインゴットをスライス加工する際に発生するうねりや加工歪が除去されるとともに、基板の表面が平坦化された鏡面となる。このような表面が鏡面に研磨されたSiC基板は、平坦性に非常に優れたものとなり、さらに、SiC基板上に各種のエピタキシャル層を形成したウェハは、各層の結晶特性に優れたものとなる。SiC基板は、通常、この上にSiCデバイスの活性領域となるエピタキシャル層が化学的気相成長法(CVD)等によって形成され、SiCエピタキシャルウェハとして用いられる。
【0031】
なお、上述したが、本発明における被研磨物である「SiC基板」は、Si面にエピタキシャル層が積層されたSiC基板(SiCエピタキシャルウェハ)に加え、SiC基板そのものの両方を含む。従って、本実施形態で説明するSiC基板の研磨には、Si面にエピタキシャル層が積層されたSiC基板(SiCエピタキシャルウェハ)の両面(Si面及びC面)を研磨する場合に加え、SiC基板そのものの両面を研磨する場合の両方が含まれる。また、本実施形態においては、Si面にエピタキシャル層が積層されたSiC基板のSi面(エピタキシャル層の表面)及びC面を研磨する場合について説明する。
【0032】
上述のようなSiC基板(SiCエピタキシャルウェハ)の表面を研磨する場合、エピタキシャル成長中に生じたエピタキシャル層表面の微小な段差等の凹凸を除去してさらに平坦化するとともに、エピタキシャル層表面の荒れを除去することにより、電子デバイスを形成する際に、その上に形成される酸化膜との界面の品質を向上させ、高品質のデバイスを得ることが可能となる。特に、高耐圧デバイスに用いられるSiC基板のように、エピタキシャル成長層が厚い場合には、表面にステップバンチングによる段差等が発生しやすいため、本発明に係るCMP研磨を行うことがより有効である。また、エピタキシャル層の表面は、スライス加工された段階のSiC基板に比べて平坦であるため、エピタキシャル層の表面をCMP法で研磨する場合には、機械的研磨法による表面研磨を省略することができる。
【0033】
また、本実施形態では、エピタキシャル層が形成されたSiC基板のSi面の研磨と同時に、裏面側のC面も研磨する両面研磨を採用している。これにより、Si面にエピタキシャル層を形成する際のエピタキシャル成長条件等により、C面側に生じた荒れについても、Si面側のエピタキシャル層表面の荒れと同時に除去することが可能となる。このように、SiC基板のSi面のみならず、C面側にもCMP加工を施すことで該C面に生じた荒れを除去できれば、その後の評価工程におけるSiC基板の吸着エラー等を抑制できる等の効果が得られることから、生産性や歩留まりの向上につながる。
【0034】
<研磨装置>
以下に、本実施形態で説明するSiC基板の製造方法で用いる、SiC基板のSi面及びC面の両面を同時にCMP研磨加工するための研磨装置の一例について説明する。
図1(a)、(b)に示すように、本実施形態の研磨装置2は、上面側が研磨面とされた下定盤22と、下定盤22の上方に上下動自在に支持され、下面側が研磨面とされた上定盤21とを備える。また、上定盤21の下面側、及び、下定盤22の上面側には、SiC基板1の各表面を研磨するための研磨パッド21a、22aが貼り付け固定されている。また、研磨装置2には、CMP研磨加工を行うためのスラリーSを、上定盤21を貫通するように複数設けられたスラリー供給孔21bを介して、上定盤21と下定盤22との間に供給するスラリーチューブ23が備えられている。
【0035】
上定盤21及び下定盤22は、モーター等からなる図示略の駆動装置により、支持軸20を中心として互いに反対方向に回転される(図1(a)中に示す矢印Rを参照)。
上定盤21は、該上定盤21の上方に設置された図示略の駆動装置によって支持軸20を中心に回転自在とされている。また、上定盤21は、例えば、図示略のスライド駆動手段等によって上下動可能に構成されている。
下定盤22は、該下定盤22の下方に設置された図示略の駆動装置によって、支持軸20を中心に回転駆動される。また、下定盤22は、その下面側が、例えば、図示略のリング状ベアリング等によって支持されている。
【0036】
上定盤21と下定盤22との間には、被研磨物であるSiC基板1を保持する円形孔24aを有するキャリアプレート24が配置される。このキャリアプレート24は、下定盤22の中心孔に配置された、公知の機構を有する図示略の内側ピン歯車と外側ピン歯車とによる遊星運動で、自転、且つ、公転するように回転駆動される。なお、図1(a)、(b)に示す例では、図示及び説明の都合上、下定盤22上においてキャリアプレート24を1箇所にのみ配置しているが、通常、キャリアプレート24は、上定盤21及び下定盤22の円周方向において複数配置される。また、図示例のキャリアプレート24は、SiC基板1を保持する円形孔24aが計3箇所に設けられているが、これには限定されず、円形孔24aの数は適宜設定することが可能である。
【0037】
研磨パッド21a、22aは、それぞれ上定盤21及び下定盤22の表面に貼り付けられ、キャリアプレート24で保持されたSiC基板1を両面側から挟み込むように配置される。そして、研磨パッド21a、22aは、上定盤21及び下定盤22とともに回転しながら、SiC基板1に対して該SiC基板1の両面側から押し当てられることにより、SiC基板1の両面を同時に研磨する。これにより、SiC基板1のSi面1aが平坦化処理されるとともに、Si面1a及びC面1bに生じた荒れが除去される。この際、例えば、SiC基板1のSi面1aが上定盤21側、C面1bが下定盤22側を向くようにSiC基板1を配置することで、Si面1a上に形成されたエピタキシャル層11が研磨パッド21aによって研磨され、C面1bが研磨パッド22aによって研磨される。
【0038】
研磨パッド21a、22aとしては、例えば、従来からこの分野で用いられている不織布やスエード材等を用いることができる。
研磨パッド21a、22aに用いられる織布やスエード材としては、例えば、ニッタハース社製のSUBA400等の不織布を、何ら制限無く用いることができる。
【0039】
スラリーチューブ23は、SiC基板1と研磨パッド21a、22aとの界面にスラリー(研磨剤)Sを供給するものであり、その先端が上定盤21に設けられたスラリー供給孔21bに接続されている。そして、スラリーチューブ23は、図示略のスラリータンクからポンプ手段等によって通液されたスラリーSを、スラリー供給孔21bから、研磨パッド21a、22a間に向けて吐出する。これにより、SiC基板1と研磨パッド21a、22aとの界面にスラリーSが供給される。
【0040】
研磨装置2によれば、スラリーSをSiC基板1と研磨パッド21a、22aとの界面に供給しつつ、上定盤21及び下定盤22を回転させ、且つ、キャリアプレート24を回転させることにより、研磨パッド21a、22a間に挟まれたSiC基板1の両面を同時にCMP研磨加工することができる。
【0041】
本実施形態の製造方法によれば、詳細を後述するように、上述のような研磨装置2を用い、SiC基板1を、CMP法により、好ましくは過マンガン酸カリウムを酸化剤として含む過マンガン酸カリウム系スラリーを用い、C面/Si面加工選択比を所定以上としてSi面1a及びC面1bを両面研磨する。これにより、SiC基板1のSi面1a側に形成された図示略のエピタキシャル層の表面の荒れを除去しつつ、このエピタキシャル層の除去量を最小限に抑制でき、且つ、C面1bの荒れも除去することが可能となる。
【0042】
<製造方法>
本発明に係るSiC基板1の製造方法は、SiC基板1のSi面1a及びC面1bを両面研磨する方法である。また、以下の説明においては、図1(a)、(b)に示す研磨装置2を用いて、Si面1a側に図示略のエピタキシャル層が積層されたSiC基板1のSi面1a及びC面1bを同時に研磨する場合を例示する。
【0043】
本発明に係る製造方法は、Si面1a及びC面1bを有してなるSiC基板1を、CMP法によって両面研磨する方法である。そして、本実施形態では、CMPスラリーとして、過マンガン酸カリウムを酸化剤として含み、さらに、アルミナを研磨材として含む過マンガン酸カリウム系スラリーを用いるとともに、C面/Si面加工選択比を、3.0以上としてSi面1a及びC面1bを両面研磨加工するCMP工程を少なくとも具備する。
【0044】
[SiC基板の準備]
本実施形態では、まず、被研磨物であるSiC基板を得るにあたり、SiCバルク単結晶のインゴットを準備し、このインゴットの外周を研削して、円柱状のインゴットに加工する。その後、ワイヤーソー等により、インゴットを円板状にスライス加工し、さらに、その外周部を面取りすることで、所定の直径を有するSiC基板1に仕上げる。
【0045】
本実施形態においては、SiCバルク単結晶の成長方法や、インゴットの研削加工方法、スライス加工方法等については、特に限定されることなく、従来公知の方法を採用できる。なお、通常、研削、研磨を施す前のSiC基板の表面には、数10μm程度の厚みのばらつきやうねり、凹凸が生じた状態となっている。
【0046】
[SiC基板の粗研磨工程]
粗研磨工程では、後述のエピタキシャル層を形成する前のSiC基板1のSi面1a及びC面1bを、機械式研磨法によって研磨する。
具体的には、詳細な図示を省略するが、例えば、ラップ研磨等の機械式研磨法により、SiC基板1のSi面1a及びC面1bにおける比較的大きなうねりや加工歪等の凹凸を除去する研磨処理を行う。この際、従来公知のラップ研磨装置を用いて、キャリアプレートにSiC基板を保持させ、スラリーを供給するとともに、キャリアプレートを遊星運動させながら定盤を回転させることにより、SiC基板の片面あるいは両面を同時にラップ研磨する方法を採用することができる。
【0047】
SiC基板の両面を研磨する場合には、まず、キャリアプレートに形成された円形孔にSiC基板を収納して保持させる。
次いで、キャリアプレートに保持されたSiC基板を上下の定盤で挟み込み、研磨荷重Fをかけた状態で、定盤の間に研磨剤を含むスラリーを供給しながら、2枚の定盤を交互に対向して回転させ、SiC基板の表裏を削り取る。これにより、SiC基板のSi面及びC面が次第に研磨され、各面に残留したうねりの凸部が先行して除去される。この際の加工砥粒としては、例えばダイヤモンド砥粒等を用いる。また、粗研磨工程において、SiC基板の片面のみを研磨する場合には、例えば、SiC基板の被研磨面と反対側の面を、接着材等を用いてキャリアプレートに貼り付け、SiC基板を貼り付けたキャリアプレートと定盤とを対向させて、上記同様の研磨を行う。
このような粗研磨工程で研磨されたSiC基板の表面は、大きなうねりや加工歪等の凹凸が除去された状態となる。
【0048】
粗研磨工程において、エピタキシャル層を形成する前のSiC基板に対して、ラップ研磨によって機械式研磨を行う場合の加工圧力、即ち、SiC基板を研磨する際に加えられる研磨荷重Fは、10〜100g/cmの範囲とすることが好ましい。この加工圧力は研磨レートに対応するが、その範囲を上記とすることにより、SiC基板表面のうねりや加工歪等の凹凸を短時間で除去できるような研磨レートとすることが可能となる。SiC基板に加えられる加工圧力が上記範囲を超えると、スライス加工後の「厚さのばらつき」や「うねり」が大きなSiC基板に対して、局所的に力が加わりやすくなり、SiC基板に割れやクラック等が生じる可能性がある。
また、この際に用いる砥粒の粒径は、直径の平均が10μm以下であることが好ましい。
【0049】
なお、本実施形態で説明するSiC基板の粗研磨工程では、上記のようなラップ研磨による粗研磨を行う方法を例に挙げているが、例えば、ラップ研磨の後にポリッシュを用いた精密な研磨を行うことで、SiC基板1の各面を超精密研磨する方法としても良い。
あるいは、上記のラップ研磨において、二次粒子の平均粒径が0.25μm(250nm)程度の、ポリッシュにおいても用いられる細やかなダイヤモンドスラリーを用い、精密な研磨を行うことも可能である。
また、上述のようなSiC基板の粗研磨工程を複数回で行っても良い。
【0050】
[SiC基板の平坦化工程]
次に、平坦化工程においては、上記粗研磨工程において凹凸及び平行度が整えられたSiC基板1に対して、CMP法によって超精密研磨(鏡面研磨)を施すことで、SiC基板1のSi面1aを平坦化する。また、裏面であるC面1bを、ダイヤモンドスラリーを用いてポリッシュすることで鏡面研磨を行う。
【0051】
具体的には、図示を省略するが、例えば、図1(a)、(b)に示す研磨装置2と同様の装置を用いて、エピタキシャル層が形成される前のSiC基板1を両面研磨することが可能である。あるいは、図6に示すような、従来から用いられている片面研磨装置を用いてSiC基板1の両面を交互に研磨することも可能である。
【0052】
エピタキシャル層が形成される前のSiC基板1をCMP法によって超精密研磨を施す際の条件としては、従来より採用されている、SiC基板そのものを研磨する場合の各種条件を、何ら制限無く適用することが可能である。
【0053】
[エピタキシャル工程]
次に、エピタキシャル工程においては、凹凸及び平行度が整えられ、平坦化されたSiC基板1のSi面1a上に、エピタキシャル層を成長させる。なお、図1(a)、(b)においては、このエピタキシャル層の図示を省略している。
エピタキシャル工程は、具体的には、従来公知のCVD法等を用いて、SiC基板1のSi面1a上に、半導体デバイスを構成するためのSiCエピタキシャル層を成膜する。
【0054】
[CMP工程]
次に、CMP工程においては、Si面1aに図示略のエピタキシャル層が形成されたSiC基板(SiCウェハ)1に対して、CMP法によって研磨加工を施す。
【0055】
具体的には、図1(a)、(b)に示すような研磨装置2を使用して、SiC基板1の両面、即ち、エピタキシャル層が成膜されたSi面1a、及び、裏面側のC面1bに対して、過マンガン酸カリウム系スラリーを用いるとともに、C面/Si面加工選択比を3.0以上として、CMPによる両面研磨加工を施す。
【0056】
(手順)
まず、研磨装置2に備えられるキャリアプレート24に形成された円形孔24aに、被研磨物であるSiC基板1を配置して保持させる。この際、例えば、エピタキシャル層が成膜されたSi面1a側を上面側、C面1bを下面側として配置することで、Si面1aと上定盤21に貼り付けられた研磨パッド21aとが対向するとともに、C面1bと下定盤22に貼り付けられた研磨パッド22aとが対向するように、SiC基板1を配置する。また、図示例では、キャリアプレート24に形成された3箇所の円形孔24aの各々に、SiC基板1を配置して保持させている。
【0057】
次に、下定盤22及び研磨パッド22aを所定の回転数で回転させた状態とするとともに、キャリアプレート24を自転させることで、このキャリアプレート24を、SiC基板1を保持した状態で、自転、且つ、公転するように回転駆動する。次いで、スラリーチューブ23に、過マンガン酸カリウムを酸化剤として含み、且つ、アルミナを研磨剤として含む後述のスラリー(過マンガン酸カリウム系スラリー)Sを通液することにより、上定盤21に設けられたスラリー供給孔21bから、研磨パッド21a及びキャリアプレート24(SiC基板1)の上にスラリーSを供給する。次いで、上定盤21を下方に移動させ、エピタキシャル層が成膜されたSi面1aと研磨パッド21aとを接触させるとともに、C面1bと研磨パッド22aとを接触させる。その後、上定盤21及び下定盤22を所定の回転数で回転させることで、Si面1a及びC面1bの研磨を開始する。この際、図1(a)中に矢印Rで示すように、上定盤21と下定盤22とは、それぞれ逆方向に回転させる。
【0058】
上述のように、スラリーSを、研磨パッド21a及びキャリアプレート24、並びに、SiC基板1の上、即ち、SiC基板1と研磨パッド21a、22aとの界面に供給しつつ、上定盤21及び下定盤22を回転させるとともに、さらにキャリアプレート24を回転させることにより、研磨パッド21a、22a間に挟まれたSiC基板1の両面を同時に研磨する。本実施形態によれば、上記手順でSiC基板1の両面研磨を行うことにより、1回のプロセスで、エピタキシャル層の成長時にSi面1a及びC面1bに生じた荒れを除去するとともに、Si面1a上に残存した微細な凹凸等が平坦化される。
【0059】
次に、SiC基板1のSi面1a及びC面1bが平坦化、鏡面研磨された段階で、研磨動作を停止させる。具体的には、上定盤1及び研磨パッド21aを上方に移動させることにより、研磨パッド22a、キャリアプレート24及びSiC基板1から離間させる。
次に、下定盤22、研磨パッド21a及びキャリアプレート24を回転させながら、純水を用いて、SiC基板1の表面を洗浄するとともに、研磨パッド21a、キャリアプレート24を洗浄する。この際、SiC基板1のSi面1aは、純水の直接供給によって洗浄され、C面1bは、回転駆動される研磨パッド21a及びキャリアプレート24と、SiC基板1との隙間から供給される純水によって洗浄される。
【0060】
その後、キャリアプレート24からSiC基板1を取り外し、このSiC基板1全体を、従来公知の洗浄用薬液を用いて洗浄することにより、付着したスラリーSを除去した後、乾燥させる。
以上の工程により、Si面1a及びC面1bが平坦化、鏡面研磨されたSiC基板1を製造することができる。
【0061】
なお、本実施形態においては、上記手順のCMP工程の前に、さらに、SiC基板1のSi面1a及びC面1bを機械式研磨法によって研磨する粗研磨工程を含む方法としても構わない。
またさらに、上記のCMP工程の後に、追加工程として、さらなる精密研磨を行っても構わない。
【0062】
なお、例えば、C面1b側の荒れがひどく、該C面1bの除去量(研磨量)を10μm以上とする必要がある場合も考えられる。このような場合には、例えば、まず、C面1b側を先に片面粗加工した後に、上記条件によるSiC基板1のCMP両面研磨を行えばよい。ここで、通常、Si面及びC面の各々を片面粗加工する場合には、C面1bの研磨前のプレートへの基板固定時に、接着面であるエピタキシャル層に深い傷が入るのを防止するため、予め、Si面1aを覆う保護膜を形成する必要があるが、上記の場合には、最終的にSi面1a及びC面1bの両面研磨を行うことから、上記の保護層を形成するのが不要となる。
【0063】
(過マンガン酸カリウム系スラリー)
本実施形態において、CMP研磨に用いるスラリーSは、特に、SiC基板のSi面の研磨用として用いられ、過マンガン酸カリウムを酸化剤として含み、且つ、研磨剤としてアルミナを含有する、過マンガン酸カリウム系超高レートスラリーである。また、スラリーSは、C面がSi面よりも研磨加工レートが高く、C面/Si面加工選択比が3.0以上となるように、過マンガン酸カリウム酸化剤やアルミナ研磨剤等の組成比が適正化されてなるものである。
ここで、本実施形態において、「C面がSi面よりも研磨加工レートが高い」とは、C面の研磨加工レートが、Si面の研磨加工レートよりも大きいことを言う。また、「C面/Si面加工選択比が3.0以上である」、即ち、「Si面に対するC面の研磨加工レート比が3.0以上である」とは、C面1bの研磨加工レートが、Si面1aの研磨加工レートの3.0倍以上であることを言う。
【0064】
上述したように、SiC基板のSi面上に成膜されたエピタキシャル層は、成長時のステップバンチング等により、その表面に、0.01μm程度の段差からなる荒れが生じる。また、SiC基板のSi面上にエピタキシャル層を成膜すると、その成長条件に依る原因に加え、SiC部材からの転写や材料ガスのC面側への回り込みの他、SiC基板からのカーボン抜け等に起因すると考えられる荒れが、Si面上のエピタキシャル層と同様に、C面の表面にも生じる。一方、このようなSiC基板のSi面及びC面に対し、コロイダルシリカ系スラリーを用いてCMP法による両面研磨を施した場合には、元々、コロイダルシリカを含んだスラリーは、Si面の加工レートが遅いうえ、Si面の加工レートを最適化すると、C面側の加工レートが極端に低下することがある。このため、例え、各面の加工レートのバランスを調整したとしても、レートの絶対値が低いことから、エピタキシャル成長による面の荒れを除去するためには、加工時間が長大化するという問題がある。一方、このような加工時間の長大化を回避するため、SiC基板のSi面及びC面に対し、例えば、ダイヤモンドスラリーを用いた両面ポリッシュ加工を施した場合には、基本的に両面の選択比が「1」となるので、C面を削った分だけ、Si面のエピタキシャル層も削られてしまうとともに、ダイヤモンドスラリーによるポリッシュ加工でエピタキシャル層表面に荒れが生じた場合には、CMP法による追加加工が必要になるという問題が生じる。
【0065】
本発明では、スラリーSとして、C面/Si面加工選択比が3.0以上でC面の選択比が高い過マンガン酸カリウム系スラリーを用いることにより、Si面1aに成膜されたエピタキシャル層の除去量を最小限に抑制しながら、該エピタキシャル層表面の荒れを除去できる。また、本発明では、Si面1aの研磨加工と同時に、裏側のC面1bを大きく研磨することで、該C面1bの荒れを効果的に除去することが可能となる。さらに、本発明では、1ステップの工程でSi面1a及びC面1bの両面を研磨できるので、生産性が向上する。また、本発明の方法でSiC基板1の両面を同時に加工することで、平坦度(GBIR(TTV)やSBIR(LTVmax))の改善も期待できるので、表面特性に優れたSiC基板1を製造することが可能となる。
【0066】
また、スラリーSは、SiC基板1のCMP研磨加工においてC面/Si面加工選択比を上記範囲としたうえで、さらに、Si面1aの研磨加工レートを0.5〜3.0(μm/hr)、且つ、C面1bの研磨加工レートが3〜15(μm/hr)の範囲とすることが好ましい。スラリーSを用いたCMP研磨における、Si面1a及びC面1bの研磨加工レートが上記範囲であれば、工程時間を長大化させることなく、短時間でSi面1a及びC面1bの荒れを除去することができ、生産性を向上させることが可能となる。
【0067】
また、スラリーSは、そのpHは特に限定されないが、例えば、pHが2〜6の範囲である過マンガン酸カリウム系スラリーを用いることが、上記のC面/Si面加工選択比を3.0以上に制御し易いという観点から、より好ましい。
【0068】
また、スラリーSとしては、酸化剤として過マンガン酸カリウムを含み、例えば、スラリーSに含まれるアルミナ研磨剤が凝集してなる二次粒子の平均粒子径が0.1〜0.5μm程度のものを用いることができる。より具体的には、スラリーSとして、アルミナからなる研磨材に加え、酸化剤として過マンガン酸カリウム含み、さらに、pH調整剤として、例えば硝酸を含む混合液を用いることができる。
【0069】
(研磨荷重)
本実施形態で説明するCMP工程においては、SiC基板1の直径が4インチ(10.16cm)の場合には、SiC基板1に対して研磨パッド21a、22aが押し付けられる研磨荷重Fが、例えば、100〜500(g/cm)の範囲であることが好ましい。また、SiC基板1の直径が3インチ(7.6cm)の場合には、上記の研磨荷重Fが、例えば、100〜500(g/cm)の範囲であることが好ましい。CMP工程では、上記したスラリーSを用いるとともに、研磨荷重Fを上記範囲とすることで、SiC基板1の研磨加工レートを最適に制御するのが容易になる。
【0070】
(研磨パッド及びキャリアプレートの回転数)
本実施形態で説明するCMP工程においては、SiC基板1の直径が4インチの場合には、例えば、研磨パッド21a、22aの回転数が10〜60rpmの条件とすることができる。また、キャリアプレート24の回転数については、特に限定されず、適宜設定することができる。CMP工程では、スラリーSを用い、研磨荷重Fを上記範囲に規定するとともに、研磨パッド21a、22aの回転数を上記範囲とすることにより、SiC基板1の研磨加工レートを最適に制御するのが容易になる。
【0071】
<作用効果>
以上説明したように、本発明のSiC基板1の製造方法によれば、Si面1a及びC面1bを有してなるSiC基板1を、CMP法により、過マンガン酸カリウム系のスラリーSを用いるとともに、C面/Si面加工選択比を所定以上としてSi面1a及びC面1bを両面研磨する方法を採用している。このように、CMP研磨加工条件を適正範囲としてSiC基板1を両面研磨することにより、簡便なプロセスで、Si面1aに成膜されたエピタキシャル層表面の荒れを除去しつつ、このエピタキシャル層の除去量を最小限に抑制でき、且つ、C面1bの荒れも除去することが可能となる。さらに、上記条件によるSiC基板1の両面を同時に加工することで、平坦度、即ち、GBIR(TTV)やSBIR(LTVmax)の改善も期待できる。従って、表面特性に優れ、高耐圧デバイスに適用可能なSiC基板1を、生産性及び歩留まり良く製造することが可能となる。
【0072】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例】
【0073】
以下、本発明の効果を、実施例を用いて具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0074】
[実施例]
本実施例においては、過マンガン酸カリウム系スラリー(FUJIMI社:DSC−201)を用い、以下に示す条件で、SiC基板のSi面とC面を別々にCMP研磨し、この際の各面の研磨加工レートの関係を調査することで、CMP両面研磨を行った場合の代替実験とした。
【0075】
本実施例においては、まず、SiC基板(3インチ、4H−SiC−4°off基板)のSi面及びC面に、平均粒径:3μmのダイヤモンドスラリーを用いて両面ラップを施した後、平均粒径:1μmのダイヤモンドスラリーを用いて両面ポリッシュ加工による粗研磨工程を施したSiC基板に対し、さらに、CMP研磨を施した。この際、二次粒子の平均粒径が0.3(μm)のコロイダルシリカに、酸化剤としてHを添加したスラリーを用いた。そして、研磨加工時間を3.0(hr)、研磨荷重を500(gf/cm)、定盤回転数を60rpm、加工レートをSi面0.2(μm/hr){密度:3.2(g/cc)からの重量換算}の条件として、SiC基板のCMP研磨加工を行った。
【0076】
そして、上記の過マンガン酸カリウム系スラリー(アルミナを研磨剤として含むスラリー)を用いて、以下の条件で、SiC基板のSi面とC面を別々にCMP研磨し、この際の各面の研磨加工レートを図3のグラフに示した。この際、SiC基板のSi面及びC面の研磨条件は、それぞれ同条件とした。なお、本実施例においては、CMP研磨加工後のSiC基板のSi面にSiCエピタキシャル層を成膜せずに両面研磨を行い、研磨加工レートを確認しているが、一般に、SiC基板の研磨加工レートは、エピタキシャル層の有無による影響は無い。
【0077】
(1)SiC基板(サンプル):3インチ、4H−SiC−4°off基板;3枚1組セット{Si面にエピタキシャル層なし}
(2)CMP研磨加工条件
A.研磨装置:不二越機械工業(株)製
B.加工時間:60min
C.CMPスラリー:アルミナ+過マンガン酸カリウム+硝酸(pH:3)
D.スラリー量・流速:7000g以上・100(ml/min)
E.スラリー供給方法:掛け流し
F.CMP研磨荷重:280gf/cm
G.定盤回転数:60rpm
【0078】
図3のグラフに示すように、過マンガン酸カリウム系スラリー(アルミナ研磨剤スラリー)を用いて、両面の研磨条件を各々同条件としてSiC基板を研磨すると、Si面の研磨加工レートが1.31〜1.98(μm/hr)であり、C面の研磨加工レートは6.73〜8.24(μm/hr)と高く、平均して4.7という高い選択比が得られた。
【0079】
上述したように、一般に、Si面におけるエピタキシャル層表面の荒れは、主としてステップバンチングによる0.01μm程度の高さのものなので、上記範囲の研磨加工レートであれば、分オーダーの短い加工時間で、エピタキシャル層の厚みを確保しながら、ほぼ完全に荒れを除去することが可能となることが明らかである。
【0080】
一方、エピタキシャル成長時に、裏面側のC面に生じる荒れは、基板表面が曇る程度の荒れ(図7(b)の顕微鏡写真を参照)であることが多く、図3のグラフに示すようにC面の研磨加工レートは非常に高い。このため、Si面側のエピタキシャル層の膜厚を確保するため、表面の研磨加工を短時間で設定した場合であっても、C面側の荒れはほぼ完全に除去することが可能であることが明らかである。
【0081】
また、本実施例では、CMP研磨加工後のSiC基板の面粗さを、AFM(5μm□視野)で、Si面及びC面の両面で確認し、図4(a)にSi面のAFM測定画像を示すとともに、図4(b)にC面のAFM測定画像を示した。
【0082】
この結果、Si面においては、面粗さRa:0.056(nm)と、通常のコロイダルシリカスラリーを用いた場合のRa:0.03〜0.05(nm)に較べて若干粗いものの、一般的なステップバンチングが生じたエピタキシャル面に較べて平坦度が改善している。
一方、C面においては、面粗さRa:0.2(nm)と、Si面に較べて荒れているものの、平均粒径〜1μmのダイヤモンドスラリーで研磨した場合のRa:1(nm)に較べて、大幅に平坦度が改善している。
なお、上述のようなSi面とC面の面粗さの違いは、加工レートの高いC面においては、CMP加工における化学的な作用及び機械的な作用のうち、機械的な作用がより活発なことから、レートが高い分面がSi面に較べて若干荒れているためと推定される。
【0083】
[実験例]
以下に、本発明者等が、本発明のSiC基板の製造方法を実証するために行った実験例について説明する。
本実験例では、上記の過マンガン酸カリウム系スラリー(アルミナを研磨剤として含むスラリー)と、市販のコロイダルシリカスラリーを用いて、上記同様の条件でSiC基板のSi面をCMP研磨し、この際の研磨加工レートを図2のグラフに示した。
【0084】
図2に示すように、コロイダルシリカスラリーを用いてSiC基板をCMP研磨した場合、Si面の研磨レートは0.21〜0.34(μm/hr)程度であった。一方、過マンガン酸カリウム系スラリー(アルミナ研磨剤スラリー)を用いてSiC基板をCMP研磨した場合には、Si面の研磨加工レートが1.24〜1.81(μm/hr)となり、コロイダルシリカ系スラリーを用いた場合の数倍となる1(μm/hr)以上の高レートが得られることがわかる。
【0085】
以上説明したような実施例の結果より、本発明のSiC基板の製造方法を適用することで、CMP両面研磨加工による簡便なプロセスで、Si面に成膜されたエピタキシャル層表面の荒れを除去しつつ、このエピタキシャル層の除去量を最小限に抑制でき、且つ、C面の荒れも除去することができるので、表面特性に優れ、高耐圧デバイスに適用可能なSiC基板1を、生産性及び歩留まり良く製造することが可能となることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明に係るSiC基板の製造方法は、表面特性に優れ、膜厚の大きなエピタキシャル層を備えるSiC基板を、生産性及び歩留まり良く製造できるので、特に、高耐圧デバイス等に用いられるSiC基板の製造に好適である。
【符号の説明】
【0087】
1…SiC基板、
1a…Si面(エピタキシャル層の表面)、
1b…C面、
2…製造装置、
21…上定盤、
21b…スラリー供給孔
22…下定盤、
21a、22a…研磨パッド、
23…スラリーチューブ、
20…支持軸、
24…キャリアプレート、
24a…円形孔、
S…スラリー
F…研磨荷重
図1
図2
図3
図6
図4
図5
図7