特許第6106543号(P6106543)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キリン株式会社の特許一覧

特許6106543β−ユーデスモールを有効成分とする食欲増進及び/又は体重増加抑制剤
<>
  • 特許6106543-β−ユーデスモールを有効成分とする食欲増進及び/又は体重増加抑制剤 図000002
  • 特許6106543-β−ユーデスモールを有効成分とする食欲増進及び/又は体重増加抑制剤 図000003
  • 特許6106543-β−ユーデスモールを有効成分とする食欲増進及び/又は体重増加抑制剤 図000004
  • 特許6106543-β−ユーデスモールを有効成分とする食欲増進及び/又は体重増加抑制剤 図000005
  • 特許6106543-β−ユーデスモールを有効成分とする食欲増進及び/又は体重増加抑制剤 図000006
  • 特許6106543-β−ユーデスモールを有効成分とする食欲増進及び/又は体重増加抑制剤 図000007
  • 特許6106543-β−ユーデスモールを有効成分とする食欲増進及び/又は体重増加抑制剤 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6106543
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】β−ユーデスモールを有効成分とする食欲増進及び/又は体重増加抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/045 20060101AFI20170327BHJP
   A61P 1/14 20060101ALI20170327BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20170327BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20170327BHJP
【FI】
   A61K31/045
   A61P1/14
   A61P3/04
   A23L33/105
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-136959(P2013-136959)
(22)【出願日】2013年6月28日
(65)【公開番号】特開2014-141447(P2014-141447A)
(43)【公開日】2014年8月7日
【審査請求日】2016年1月29日
(31)【優先権主張番号】特願2012-287733(P2012-287733)
(32)【優先日】2012年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】311002447
【氏名又は名称】キリン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100177714
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昌平
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(72)【発明者】
【氏名】小原 一朗
(72)【発明者】
【氏名】形山 幹生
【審査官】 常見 優
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−130307(JP,A)
【文献】 特開2004−284990(JP,A)
【文献】 特開平04−013629(JP,A)
【文献】 特開平03−123734(JP,A)
【文献】 特開平03−120214(JP,A)
【文献】 光永徹 光永徹 Tohru Mitsunaga Tohru Mitsunaga,サイプレス(豪州ヒノキ)材精油の吸入が肥満抑制および交感神経活動に及ぼす効果 Anti-obese Effect and Sympathetic Nerve Activity by Inhaling Cypress Essential Oil,香料 256,渡辺 洋三 日本香料協会
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00−33/44
A61P 1/00−43/00
A23L31/00−33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−ユーデスモールを有効成分として含有する食欲増進剤
【請求項2】
食欲増進剤が、体脂肪増加抑制効果を伴うものであることを特徴とする請求項1に記載の食欲増進剤
【請求項3】
β−ユーデスモールからなる有効成分の含有量が、0.14〜100ppbであることを特徴とする請求項1又は2に記載の食欲増進剤
【請求項4】
食欲増進剤が、β−ユーデスモールを有効成分として含有し、該有効成分の飲料中の含有量が0.14〜100ppbであり、かつ、アルコール含有量が1%未満である食欲増進用非アルコールドリンク飲料であることを特徴とする請求項3に記載の食欲増進剤。
【請求項5】
β−ユーデスモールを有効成分として含有する食欲増進用組成物。
【請求項6】
食欲増進用組成物が、体脂肪増加抑制効果を伴うものであることを特徴とする請求項5に記載の食欲増進用組成物。
【請求項7】
β−ユーデスモールからなる有効成分の含有量が、0.14〜100ppbであることを特徴とする請求項5又は6に記載の食欲増進用組成物。
【請求項8】
食欲増進用組成物が、β−ユーデスモールを有効成分として含有し、該有効成分の飲料中の含有量が0.14〜100ppbであり、かつ、アルコール含有量が1%未満である食欲増進用非アルコールドリンク飲料であることを特徴とする請求項7に記載の食欲増進用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β−ユーデスモールを有効成分として含有する食欲増進剤及び/又は体重増加抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
旧来より、ビールや、日本酒或いはワイン等の醸造酒は、食欲を増進する機能を有することが知られている。健全な健康を維持する上で、食欲は最も重要な因子であり、食欲が低下すると、体に栄養成分や機能成分の供給が衰えて、健常人の健全な健康機能を維持できないばかりでなく、生理機能の低下から各種の疾病を引き起こす要因ともなり得る。食欲不振は、ストレス等の環境要因に起因する場合や、体の生理機能の異常に起因する場合等、各種の要因があるが、従来より、食欲不振に対する対応策の一つとして、食欲増進剤の提供が検討されている。
【0003】
例えば、食欲増進剤としてグレリンが知られている(Nature,2001.Jan.11;409(6817):194-8.)。グレリンは、食欲増進ホルモンであり、胃底を裏打ちする上皮細胞により産生されて、食欲を刺激するように機能し、そのレベルは、食事の前に増加して、その後減少することが知られている(特表2012−72144号公報)。また、胃液分泌を促進し、食欲を増進する食欲増進剤として、N−メチルチラミン、N,N−ジメチルチラミン、或いは、酵母発酵産物のガストリン分泌促進活性を有する画分を有効成分とする食欲増進剤が開示されている(特開平11−158064号公報)。N−メチルチラミンは、ビール等の発酵産物や、麦芽等に含まれ、N,N−ジメチルチラミンは、大麦胚芽に含まれていることが知られており、該物質は、胃の幽門前庭部から分泌され、胃酸分泌促進作用を持つ消化管ホルモンであるガストリン分泌促進作用を有し、食欲増進作用を有する。
【0004】
また、特開2011−140477号公報には、ホップ中から単離した、キサントフモール、イソキサントフモール、8−プレニルナリンゲニンが、視床下部における食欲の調節に関与することが知られているCB1受容体結合活性を有し、食欲を増進する作用を示すことが見出されたことから、該物質を有効成分とする食欲増進剤が開示されている。更に、WO2006/054641には、ニューロペプチド(NPB)のアナログであるペプチド誘導体が、摂食障害等への関連が知られているG蛋白受容体7(GPR7)の選択的なリガンドであり、食欲増進剤として作用することが開示されている。
【0005】
これらの食欲増進剤は、その投与により、摂食量の増加をもたらすとされ、摂食障害の治療や、健常人においても食欲不振の症状緩和などに有効であるとされている。一方で、これら従来の食欲増進剤による摂食量の増加は、体重増加をもたらすことが報告されている(WO01/32182)。このことは、従来の食欲増進剤の使用は医師の指導管理のもとでの適切な使用が必要であり、摂食量増加による過剰な体重増加を引き起こし肥満やそれに起因する生活習慣病を引き起こすリスクをも同時に有しているという課題の存在を示唆している。また、その摂取方法も静脈内投与が必要である場合があるなど、必ずしも簡便とはいえない場合も多い。
【0006】
一方、食品であるトウガラシやトウガラシに含まれるカプサイシン類は、食欲を増進させる効果があることが報告されており(「消化管におけるTRPV1の発現と機能」、日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)128,78〜81(2006))、また、その代謝亢進作用により肥満を抑制することが報告されている(Journal of Nutrition 116(7)1272-8(1986))。しかしながら、トウガラシやカプサイシン類は、その摂取にあたって、「辛味」や「刺激性」を有するという香味上の問題がある。同じくトウガラシに含まるカプサイシン類の類縁体で辛味が弱いとされるカプシエイト類であっても、その強度は低下するものの辛味や刺激性を引き起こすこと自体に変わりはなく、その刺激性から咳反射感受性試験の誘発物質になりうることが明らかにされている(「非喫煙健常者におけるカプサイシンとカプシエイトによる咳反射と口腔の辛味刺激感受性」山崎,都、東北大学博士学位論文、2009.3.25.)。
【0007】
上記のように、従来より、各種の食欲増進剤が報告され、開示されているが、現在までに報告されている食欲増進剤では、摂食量の増加に伴い体重増加を引き起こすという問題があったり、更には、香味上の制約から、容易かつ香味にも優れた状態で摂取することがしにくいという問題があった。したがって、食欲増進剤の提供において、容易かつ簡便に香味上優れた状態で摂取でき、安全かつ効果的に食欲を増進しつつ、体重の過剰な増加をもたらさない食欲増進剤を提供することからは、なお課題を残しているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−158064号公報。
【特許文献2】特開2011−140477号公報。
【特許文献3】特表2012−72144号公報。
【特許文献4】WO01/32182。
【特許文献5】WO2006/054641。
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Nature,2001.Jan.11;409(6817):194-8。
【非特許文献2】「消化管におけるTRPV1の発現と機能」、日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)128,78〜81(2006)。
【非特許文献3】Kawada T, Hagihara K et al., Journal of Nutrition 116(7)1272-8(1986)。
【非特許文献4】「非喫煙健常者におけるカプサイシンとカプシエイトによる咳反射と口腔の辛味刺激感受性」、山崎,都、東北大学博士学位論文、2009。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、容易かつ簡便に香味上優れた状態で摂取でき、安全かつ効果的に食欲を増進しつつ、体重の過剰な増加をもたらさない食欲増進剤を提供することにある。また、本発明の課題は、食欲増進剤による食欲増進作用に対して、体重増加を抑制する、体重増加抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、天然素材であり、安全かつ効果的に食欲を増進し、しかも、香味上優れた状態で摂取できる食欲増進物質について鋭意探索するなかで、ホップや、ユーカリノキに含まれ、好ましいヒノキ様の香味を有する芳香成分であるβ−ユーデスモールが、食欲増進作用を有することを見出し、そして、該有効成分を経口摂取させるという簡便な手段によって食欲増進効果をもたらしつつも、長期間の摂取によっても体重の過剰な増加を生じさせないことを発見し、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。本発明の食欲増進物質を用いた場合の体重増加抑制は、その一つの原因として、体脂肪の増加抑制によって、その体重増加の抑制を発揮することができる。
【0012】
すなわち、本発明は、β−ユーデスモールを有効成分として含有する食欲増進及び/又は体重増加抑制剤からなる。本発明の食欲増進及び/又は体重増加抑制剤において、β−ユーデスモールからなる有効成分の含有量は、0.14〜100ppbであることが好ましい。本発明において、有効成分であるβ−ユーデスモールは、食欲増進作用を有し、体脂肪増加抑制等を原因とする体重増加抑制作用を有する。本発明の食欲増進剤は、体重増加を抑制することが可能な、食欲増進剤として提供することができる。また、食欲増進作用に対する体重増加抑制作用を有することから、食欲増進に対する体重増加抑制剤として提供することもできる。本発明の食欲増進及び/又は体重増加抑制剤は、経口摂取の形態で摂取することができるが、該食欲増進及び/又は体重増加抑制剤を、飲料や食品に添加して摂取することもできる。
【0013】
すなわち具体的には本発明は、[1]β−ユーデスモールを有効成分として含有する食欲増進剤や、[2]食欲増進剤が、体脂肪増加抑制効果を伴うものであることを特徴とする前記[1]に記載の食欲増進剤や、[3]β−ユーデスモールからなる有効成分の含有量が、0.14〜100ppbであることを特徴とする前記[1]又は[2]に記載の食欲増進剤や、[4]食欲増進剤が、β−ユーデスモールを有効成分として含有し、該有効成分の飲料中の含有量が0.14〜100ppbであり、かつ、アルコール含有量が1%未満である食欲増進用非アルコールドリンク飲料であることを特徴とする前記[3]に記載の食欲増進剤や、[5]β−ユーデスモールを有効成分として含有する食欲増進用組成物や、[6]食欲増進用組成物が、体脂肪増加抑制効果を伴うものであることを特徴とする前記[5]に記載の食欲増進用組成物や、[7]β−ユーデスモールからなる有効成分の含有量が、0.14〜100ppbであることを特徴とする前記[5]又は[6]に記載の食欲増進用組成物や、[8]食欲増進用組成物が、β−ユーデスモールを有効成分として含有し、該有効成分の飲料中の含有量が0.14〜100ppbであり、かつ、アルコール含有量が1%未満である食欲増進用非アルコールドリンク飲料であることを特徴とする前記[7]に記載の食欲増進用組成物からなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、容易かつ簡便に香味上優れた状態で摂取でき、安全かつ効果的に食欲を増進しつつ、体重の過剰な増加をもたらさない食欲増進剤を提供する。また、本発明は、食欲増進剤による食欲増進作用に対して、体重増加を抑制することから、該食欲増進作用に対する体重増加抑制剤を提供する。更に、本発明の食欲増進剤は、食欲増進作用に対して、体脂肪増加を抑制することから、該食欲増進作用に対する体脂肪増加抑制剤を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の実施例におけるβ−ユーデスモール飲水混合投与時の味覚的忌避性の検証における、二瓶選択試験によるβ−ユーデスモールの味覚的忌避性の試験結果を示すグラフである。
図2図2は、本発明の実施例におけるβ−ユーデスモール飲水混合投与時の味覚的忌避性の検証における、自由飲水によるβ−ユーデスモールの味覚的忌避性の試験結果を示すグラフである。
図3図3は、本発明の実施例におけるβ−ユーデスモール飲水混合投与時の摂食量と体重変化率の検証における、自由飲水によるβ−ユーデスモールの摂食増加作用と体重の過剰な増加抑制作用の試験結果を示すグラフである。
図4図4は、本発明の実施例におけるβ−ユーデスモール投与時のグレリン濃度関係の検証における、β−ユーデスモールの28日間自由飲水投与後の血中グレリン濃度を測定した結果を示すグラフである。
図5図5は、本発明の実施例におけるβ−ユーデスモール投与時のグレリン濃度関係の検証における、β−ユーデスモールの単回投与後の血中グレリン濃度を測定した結果を示すグラフである。
図6図6は、本発明の実施例におけるβ−ユーデスモール投与時の体重増加抑制作用の検証における、β−ユーデスモールの単回投与後の肩甲間褐色脂肪組織交感神経活動および、副睾丸白色脂肪組織交感神経活動変化を測定した結果を示すグラフである。
図7図7は、本発明の実施例におけるβ−ユーデスモール投与時の体脂肪増加抑制作用の検証における、β−ユーデスモールの39日間自由飲水投与試験時の摂食率、体重増加率、精巣周囲脂肪組織、腎周囲脂肪組織、腸間膜周囲脂肪組織重量を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、β−ユーデスモールを有効成分として含有する食欲増進及び/又は体重増加抑制剤からなる。本発明においては、食欲増進剤による食欲増進作用に対して、体重増加を抑制することが可能であることから、食欲増進に対して体重増加を抑制することができる食欲増進剤を提供することができる。本発明のβ−ユーデスモールを有効成分として含有する食欲増進及び/又は体重増加抑制剤は、その体重抑制の原因の一つとして、食欲増進作用に対して、体脂肪増加を抑制する作用を有することから、食欲増進作用に対する体脂肪増加抑制剤として提供することができる。本発明における体脂肪増加抑制効果は、皮下脂肪増加抑制作用や内臓脂肪増加抑制作用によって発揮されるが、好ましくは内臓脂肪増加抑制作用により発揮される。
【0017】
本発明においては、食欲増進及び/又は体重増加抑制剤の有効成分として、β−ユーデスモールを用いる。該有効成分である、β−ユーデスモールは、市販のものを用いてもよく、これらを含有する天然物や合成香料から精製したものを用いてもよい。また、これらを含有する天然物、合成香料、該天然物又は合成香料からの抽出物を、β−ユーデスモールの含有物として用いてもよい。
【0018】
抽出に用いられる天然物としては、例えば、桑科(Moraceae)多年生植物に属する植物であるホップ(Humulus luplus)、フトモモ科(Myrtaceae)の常緑高木であるユーカリノキ(Eucalyptus globulus)等が挙げられる。これらの植物は、その植物体をそのまま用いてもよく、該植物体を物理化学的処理又は生物学的処理をして得られる処理物として用いてもよい。これらの植物の植物体として、ホップについては、葉、又は毬花があげられるが、毬花が好ましく用いられる。毬花のルプリン部分を用いてもよい。ホップとしてはドイツ・ヘルスブルッカー種、ドイツ・スパルトセレクト種、チエコ・ザーツ種があげられるが、β−ユーデスモールを高含有することから、ドイツ・ヘルスブルッカー種が好ましく用いられる。ユーカリノキ(ユーカリ)については、葉、小枝、花または果実があげられるが、葉が好ましく用いられる。
【0019】
植物体の物理化学的処理としては、天日乾燥、通風乾燥、凍結乾燥等による乾燥処理、ブレンダー、ホモジナイザー、ボールミル等による粉砕処理などがあげられ、物理化学的処理物としては、乾燥処理物、粉砕処理物等が挙げられる。生物学的処理としては、細菌、酵母等による発酵処理などがあげられ、生物学的処理物としては発酵処理物等が挙げられる。植物体の処理物の例としては、例えば、ホップ毬花の圧縮物であるホップペレットが挙げられる。本発明の植物体の抽出物としては、該植物体から、溶媒抽出、超臨界流体抽出、水蒸気蒸留等、植物体から物質を抽出する方法によって取得できる抽出物が挙げられるが、溶媒抽出が好ましい。
【0020】
溶媒抽出に用いる溶媒としては、本発明に用いられる植物体又はその処理物からβ−ユーデスモールを抽出できる溶媒であれば、例えば水、精製水、脱イオン水、蒸留水等の水性媒体、アルコール、酢酸アルキル、脂肪族ケトン、脂肪族エーテル、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素等の有機溶媒等いずれでもよいが、水性媒体またはアルコールが好ましく、エタノールがより好ましく用いられる。溶媒は単独で用いてもよいし、複数を組み合わせた混合溶媒として用いてもよい。
【0021】
溶媒抽出は、撹拌機、超音波発生器、還流抽出器、ソックスレー抽出器等、通常の溶媒抽出で使用される機器が用いられる。溶媒抽出に用いられる溶媒量は、特に制限はないが、例えば植物体1重量部に対して溶媒を0.1〜10000重量部、好ましくは1〜1000重量部、さらに好ましくは5〜100重量部を用いて行う。抽出温度は、溶媒の融点以上、沸点以下の温度であれば、特に制限はないが、水性媒体では0〜100℃が好ましく、20〜80℃がより好ましく、有機溶媒では0〜300℃が好ましく、20〜80℃がより好ましい。
【0022】
抽出時間は、特に制限はないが、1分間〜1年間が好ましく、30分間〜1週間がより好ましい。溶媒抽出が終了した後、得られた抽出液を、沈降分離、ケーク濾過、清澄濾過、遠心濾過、遠心沈降、圧搾、分離、フィルタープレス等の固液分離方法を用いて、好ましくは濾過により、抽出液を取得し、これを抽出物としてもよい。また、該固液分離方法によって得られた抽出残渣を、抽出溶媒でさらに抽出し、これを抽出物としてもよい。植物体から溶媒抽出、超臨界流体分離等の抽出方法により取得した抽出物は、更に、固液分離方法、濃縮または乾燥方法、精製方法等を用いて処理してもよい。
【0023】
本発明の食欲増進及び体重増加抑制剤は、経口摂取により摂取される。該経口摂取の製剤形態としては、経口薬剤として用いられている各種の製剤形態を用いることができる。本発明の製剤組成物は、活性成分として、有効な量のβ−ユーデスモール(0.14〜100ppb)を薬理的に許容される担体と均一に混合して製造できる。これらの製剤組成物は、経口投与に対して適する単位服用形態にあることが望ましい。経口摂取形態にある組成物の調製においては、何らかの有用な薬理的に許容される担体が使用できる。
【0024】
例えば懸濁剤およびシロップ剤のような経口液体調製物は、水、シュークロース、ソルビトール、フラクトース等の糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、ゴマ油、オリーブ油、大豆油等の油類、p−ヒドロキシ安息香酸エステル類等の防腐剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミント等のフレーバー類等を使用して製造できる。粉剤、丸剤、カプセル剤および錠剤は、ラクトース、グルコース、シュークロース、マンニトール等の賦形剤、でん粉、アルギン酸ソーダ等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン等の結合剤、脂肪酸エステル等の表面活性剤、グリセリン等の可塑剤等を用いて製造できる。錠剤およびカプセル剤は、投与が容易であるという理由で、最も有用な単位経口投与剤である。錠剤やカプセル剤を製造する際には固体の製薬担体が用いられる。
また、注射剤は、蒸留水、塩溶液、グルコース溶液または塩水とグルコース溶液の混合物等から成る担体を用いて調製することができる。この際、常法に従い適当な助剤を用いて、溶液、懸濁液または分散液として調製される。
【0025】
本発明の食欲増進及び体重増加抑制剤は、β−ユーデスモールを飲料に含有させ摂取することができる。該飲料は、β−ユーデスモール又はその含有物を、製造時、又は製造後に、飲料中のこれらの含有量が合計で0.14〜100ppbとなるように添加、含有させることにより製造することができるが、該飲料の製造は、β−ユーデスモール又はその含有物を、製造時、又は製造後に、該飲料中に添加、含有させる点を除き、非アルコール飲料(アルコール含有量が1%未満である飲料)の通常の製造に用いられる原料、添加物及び製造方法を用いるこができる。本発明の飲料中のβ−ユーデスモールの含有量は、市販のGC/MS装置を用いるなど、常法により定量することができる。
【0026】
本発明の食欲増進及び体重増加抑制剤は、非アルコール飲料等に適用することができる。かかる場合の非アルコール飲料としては、例えば、ミネラルウォーター、ニア・ウォーター、スポーツドリンク、茶飲料、乳飲料、コーヒー飲料、果汁入り飲料、野菜汁入り飲料、果汁および野菜汁飲料、炭酸飲料などが挙げられるが、これらに限定はされない。ノンアルコールビール等、アルコール含有量が1%未満のビール飲料であってもよい。ミネラルウォーターは、発泡性及び非発泡性のミネラルウォーターのいずれもが包含される。
【0027】
上記非アルコール飲料における茶飲料とは、ツバキ科の常緑樹である茶樹の葉(茶葉)、又は茶樹以外の植物の葉若しくは穀類等を煎じて飲むための飲料をいい、発酵茶、半発酵茶、及び不発酵茶のいずれもが包含される。茶飲料の具体例としては、日本茶(例えば、緑茶、麦茶)、紅茶、ハーブ茶(例えば、ジャスミン茶)、中国茶(例えば、中国緑茶、烏龍茶)、ほうじ茶等が挙げられる。乳飲料とは、生乳、牛乳等またはこれらを原料として製造した食品を主原料とした飲料をいい、牛乳等そのもの材料とするものの他に、例えば、栄養素強化乳、フレーバー添加乳、加糖分解乳等の加工乳を原料とするものも包含される。
【0028】
果汁入り飲料や果汁および野菜汁入り飲料に用いられる果物としては、例えば、リンゴ、ミカン、ブドウ、バナナ、ナシ、モモ、マンゴーなどが挙げられる。また、野菜汁入り飲料や果汁および野菜汁入り飲料に用いられる野菜としては、例えば、トマト、ニンジン、セロリ、カボチャ、セロリ、キュウリなどが挙げられる。
【0029】
本発明の食欲増進及び体重増加抑制剤を飲料等に適用するにあたり、β−ユーデスモール以外の食欲増進効果または体重増加抑制効果を有する素材を配合することができる。食欲増進効果または体重増加抑制効果を有する素材としては、例えば、ホップ抽出物、イソフムロン類、ヘスペリジン、カテキン、ケルセチン、コーヒー豆マンノオリゴ糖、ジアシルグリセロール、中鎖脂肪酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、グロビン蛋白分解物、ベータコングリニシン、クロロゲン酸類、13−オキソ−9,11−オクタデカジエン酸、難消化デキストリン、レスベラトロール類、紅茶重合ポリフェノール類、烏龍茶重合ポリフェノール、ワイン抽出物、コーヒー豆抽出物、トマト抽出物などが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0030】
本発明は、食欲増進作用及び体重増加抑制作用を有する食欲増進剤及び体重増加抑制剤を提供する。本発明の有効成分であるユーデスモールを食欲増進剤として摂取する際には、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ等の動物等に対して経口または非経口的に安全に投与することができ、投与対象の年齢、性別、体重、又は投与方法などに応じて適宜決定することができる。例えば成人一人が、β−ユーデスモールを一日当たり1000μg〜0.025μg、好ましくは500μg〜0.025μg、より好ましくは5μg〜0.025μgとなるように摂取することが好ましい。
【0031】
β−ユーデスモールを一日当たり摂取する量を一回であるいは数回に分けて摂取することもでき、例えば一日当たり摂取する量を一回で摂取する場合には、1回当たりの単位包装形態の食品はβ−ユーデスモール1000μg〜0.025μg含有する。
【0032】
「1回当たりの単位包装形態」からなる食品とは、1回あたりに摂取する量が予め定められた形態の食品である。本明細書にて食品とは、経口摂取し得るもの(医薬品を除く)を広く包含する概念であり、所謂「食べ物」のみならず飲料、健康補助食品、保健機能食品、サプリメント等を含む。1回当たりの単位包装形態としては、例えば、飲料、キャンディー、チューイングガム、ゼリー、プリン、ヨーグルト等の場合にはパック、包装、ボトル等で一定量を規定する形態が挙げられ、顆粒・粉末・スラリー状の食品の場合には、包装などで一定量を規定できる、あるいは容器などに1回当たりの摂取量を表示してある形態が挙げられる。
【0033】
本発明は、β−ユーデスモールを用いる食欲を増進する方法及び/又は体重増加を抑制する方法を提供する。また本発明は、β−ユーデスモールを摂取させることを特徴とする、食欲を増進する方法及び/又は体重増加を抑制する方法を提供する。特に、本発明の食欲を増進する方法及び/又は体重増加を抑制する方法は、その体重増加の抑制において、体脂肪の増加抑制作用等を有することから、食欲の増進における体脂肪の増加抑制方法を提供することができる。なお、本発明の食欲を増進する方法及び/又は体重増加を抑制する方法は、ヒトに対する医療行為として行われる食欲増進及び/又は体重増加抑制の方法は対象としていない。
【0034】
本発明は、β−ユーデスモールを含有する飲食品を摂取させることを特徴とする、食欲を増進する方法及び/又は体重増加を抑制する方法を提供する。飲食品は、有効な量のβ−ユーデスモール(0.14〜100ppb)を含有させることができる。特に、本発明のβ−ユーデスモールを含有する飲食品を摂取させることを特徴とする、食欲を増進する方法及び/又は体重増加を抑制する方法は、その体重増加の抑制において、体脂肪の増加抑制作用等を有することから、食欲の増進における体脂肪の増加抑制方法を提供することができる。
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
[1.β−ユーデスモール飲水混合投与時の味覚的忌避性検証(ラット)]
【0037】
「試験1」
12時間毎の明暗周期(8時〜20時まで点灯)下に24℃の恒温動物室にて1週間以上順化飼育した体重約300gのWistar系雄ラット(9週齢)を試験に用いた。試験前の体重をもとに3群に分け(n=5)、個別飼育を行った。試験実施前16時間絶水させ、その後に一匹に対して2本の給水ボトルを与え、それぞれの重量を給水開始15分後に測定し、飲水量を算出した。一匹のラットに与える2本の給水ボトルは以下の組み合わせとした。
0.5%カルボキシメチルセルロース(CMC):2本。
0.5%CMC:1本及び5ppbβ−ユーデスモール(0.5%CMC)1本。
0.5%CMC:1本及び50ppbβ−ユーデスモール(0.5%CMC)1本。
【0038】
一日以上の間隔をあけた後に群を入れ替え3回試験を繰り返すクロスオーバー試験を実施した。結果は、2本の給水ボトルの飲水量の合計を100%としたときのβ−ユーデスモールを含むボトルの飲水量を百分率で示した。コントロールとしてはβ−ユーデスモールを全く含まない0.5%CMCのみのデータを示した。有意差検定は2本の給水ボトル間の飲水量で実施した。
【0039】
(結果)
味覚的な忌避性がない場合にはグラフ中の値は50%となるが、5ppb、50ppbともにほぼ50%となり、対照となる0.5%CMCの飲水量との間に有意差は認められなかった(図1:二瓶選択試験によるβ−ユーデスモールの味覚的忌避性の検証結果)。有意差検定はStudent t-testにより行った。
【0040】
「試験2」
12時間毎の明暗周期(8時〜20時まで点灯)下に24℃の恒温動物室にて1週間以上順化飼育した体重約300gのWistar系雄ラット(9週齢)を試験に用いた。試験前3日間の体重等をもとにβ−ユーデスモール投与群(n=20)とコントロール群(n=20)に群分けを行った。ラットは個別飼育を行った。一方、β−ユーデスモールを、0.14ppb含む0.5%カルボキシメチルセルロース(CMC)水溶液(以下、β−ユーデスモール0.14ppbCMC水溶液という)を調製した。また、β−ユーデスモールを含まないCMC水溶液をコントロールとして作製した。
【0041】
(結果)
β−ユーデスモール群には、β−ユーデスモール0.14ppbCMC水溶液を、コントロール群にはCMC水溶液を、それぞれ飲水ボトルを用いて28日間連続で自由に摂取させた。その結果、試験開始2、16、18日目でβ−ユーデスモール群の方がコントロール群に対して体重あたりの飲水量が有意に増加する等、試験期間を通じてβ−ユーデスモール群でやや多い傾向であったが、試験期間全体を通じては有意差が認められなかった(p=0.18)(図2:自由飲水によるβ−ユーデスモールの味覚的忌避性の検証結果)。試験期間を通じた総飲水量はβ−ユーデスモール群では966.8ml、コントロール群では939.8mlであった。体重あたりの飲水量の有意差検定は、群間の各日の比較はStudent t-testにて、試験期間全体を通じてはANOVA with repeated measuresにて行った。
【0042】
「試験1」及び「試験2」の結果から、β−ユーデスモールに味覚的な忌避性がないことが確認された。
【実施例2】
【0043】
[2.β−ユーデスモール飲水混合投与時の摂食量と体重変化率(ラット)]
【0044】
「試験1」
12時間毎の明暗周期(8時〜20時まで点灯)下に24℃の恒温動物室にて1週間以上順化飼育した体重約300gのWistar系雄ラット(約9週齢)を試験に用いた。3日間の摂食量と体重をもとにβ−ユーデスモール投与群(n=20)とコントロール群(n=20)に群分けを行った。
【0045】
一方、β−ユーデスモールを、0.14ppb含む0.5%カルボキシメチルセルロース(CMC)水溶液(以下、β−ユーデスモール0.14ppbCMC水溶液という)を調製した。また、β−ユーデスモールを含まないCMC水溶液をコントロールとして作製した。β−ユーデスモール群にはβ−ユーデスモール0.14ppbCMC水溶液を、コントロール群にはCMC水溶液を、それぞれ飲水ボトルを用いて28日間連続で自由に摂取させた。その間、粉末給餌器を用いて給餌し、自由に摂食させた。その間の体重の変化率について試験開始前日の値を100%として示す。一日あたりの摂食量は体重で補正した値を示す。
【0046】
(結果)
β−ユーデスモール群はコントロール群に対して測定した全ての日において体重あたりの摂食量の平均値が高く、試験開始9、15、16、18、21、28日目では有意差も認められた。また、試験期間を通じた有意差検定の結果でも、有意差も認められた(p<0.01)(図3)。最終的な総摂食量の平均値はβ−ユーデスモール群では674.4g、コントロール群では668.0gであった。
【0047】
上記のように、β−ユーデスモール群では摂食量が有意に多いにもかかわらず、試験期間を通じた体重増加率にはコントロール群との間に有意差はなく(p=0.47)、最終的なβ−ユーデスモール群の体重増加率の平均値(134.5%)はむしろコントロール群の平均値(134.8%)よりも低く抑えられ、解剖時に測定した臓器重量(精巣周囲脂肪、腎周囲脂肪、肝臓)にも有意差は認められなかった(図3:自由飲水によるβ−ユーデスモールの摂食増加作用と体重の過剰な増加抑制作用の試験結果)。体重あたりの摂食量、及び体重増加率の有意差検定は、群間の各日の比較はStudent t-testにて、試験期間全体を通じてはanalysis of variance(ANOVA)with repeated measures with repeated measuresにて行った。解剖時の臓器重量の有意差検定はStudent t-testにて行った。
【0048】
「試験2」
β−ユーデスモールの有効濃度を検証するため、以下の試験を行った。β−ユーデスモールを、0.14ppb含む0.5%カルボキシメチルセルロース(CMC)水溶液(以下、β−ユーデスモール0.14ppbCMC水溶液という)及びβ−ユーデスモールを、1.4ppb含む0.5%カルボキシメチルセルロース(CMC)水溶液(以下、β−ユーデスモール1.4ppbCMC水溶液という)を調製した。また、β−ユーデスモールを含まないCMC水溶液をコントロールとして作製した。
【0049】
試験1と同様の方法でラットを用いた試験を実施した。体重と摂食量をもとにβ−ユーデスモール0.14ppb投与群(n=12)、β−ユーデスモール1.4ppb投与群(n=12)、及びコントロール群(n=12)に群分けを行った。β−ユーデスモール0.14ppb群にはβ−ユーデスモール0.14ppbCMC水溶液を、β−ユーデスモール1.4ppb群にはβ−ユーデスモール1.4ppbCMC水溶液を、コントロール群にはCMC水溶液をそれぞれ飲水ボトルを用いて33日間連続で自由に摂取させた。
【0050】
(結果)
結果、試験期間中の総摂食量の平均値はβ−ユーデスモール0.14ppb群では850.2g、β−ユーデスモール1.4ppb群では846.22gとなり、コントロール群の838.43gを上回った。このとき試験開始からの体重増加率はβ−ユーデスモール0.14ppb群では136.8%、β−ユーデスモール1.4ppb群では138.9gとなり、コントロール群の140.7%を下回った。したがって、少なくともβ−ユーデスモールを0.14ppbから1.4ppbの濃度で摂取する場合、体重の過剰な増加を抑制しつつ、摂食量を増加させる効果があると認められた。
【実施例3】
【0051】
[3.β−ユーデスモール投与時のグレリン濃度(ラット)]
【0052】
「試験1」
実施例2の試験1の28日間β−ユーデスモール飲水混合投与試験期間終了後、ラットを一晩(約18時間)絶食させ、ウレタン麻酔し、頚静脈から2ml採血を行った。採取した血液から血漿を分離し、オクタノイルグレリン(活性型グレリン)、及びデスアシルグレリン(不活性型グレリン)の濃度をELISAにて測定した(図4)。その結果、β−ユーデスモール群はコントロール群に対してオクタノイルグレリン(活性型グレリン)、及びデスアシルグレリン(不活性型グレリン)ともに平均値が上昇し、オクタノイルグレリン(活性型グレリン)では統計的な有意差が認められたことから、β−ユーデスモールによる摂食量増加作用には、血中の活性型グレリンの増加が寄与している可能性が考えられた(図4:、β−ユーデスモールの28日間自由飲水投与後の血中グレリン濃度を測定した結果)。
【0053】
β−ユーデスモールの摂取により、血中の活性化グレリンが上昇することを確認するため、以下の試験を行った。12時間毎の明暗周期(8時〜20時まで点灯)下に24℃の恒温動物室にて1週間以上順化飼育した体重約300gのWistar系雄ラット(9週齢)を実験に用いた。体重を元に群分けを行った。ラットを一晩(約18時間)絶食させた後、ウレタン麻酔し、37度にセットしたホットプレート上で保温した状態で、経口で胃内にカニューレを挿入した。
【0054】
カニューレを用いてβ−ユーデスモール5ppb含有CMC水溶液またはβ−ユーデスモール50ppb含有CMC水溶液を1.0ml/300g体重を胃内投与した。その際、投与5分前、及び投与後15,30,60分後に300μlづつ頚静脈から採血を行った。また、β−ユーデスモールを含まないCMC水溶液をコントロールとして用いる以外は同様の操作を行い、これをコントロール投与群とした。採取した血液から血漿を分離し、オクタノイルグレリン(活性型グレリン)、及びデスアシルグレリン(不活性型グレリン)の濃度を市販のELISAにて測定した。測定結果は投与前の測定値を100%とし、経時的な変化として示す(図5:β−ユーデスモールの単回投与後の血中グレリン濃度を測定した結果)。
【0055】
図5に示すとおり、β−ユーデスモール5ppb含有CMC、またはβ−ユーデスモール50ppb含有CMC水溶液の投与により、血漿中のオクタノイルグレリンの濃度はコントロール群よりも常に高い値を推移した。また、一方、デスアシルグレリンについては一定の傾向は認められなかった。
【実施例4】
【0056】
[4.β-ユーデスモール投与時の肩甲間褐色脂肪組織交感神経もしくは副睾丸白色脂肪組織交感神経遠心枝活動変化(ラット)]
【0057】
β-ユーデスモールが摂食量を増加させつつも体重増加を抑制する理由を検証するため、体熱産生を制御する肩甲間褐色脂肪組織交感神経活動、及び脂肪分解を制御する副睾丸白色脂肪組織交感神経に与える影響を検討した。このとき白色脂肪組織の交感神経の興奮は脂肪分解を促進し抗肥満効果をもたらすこと、及び褐色脂肪組織の交感神経興奮は熱産生上昇をもたらし抗肥満効果をもたらすことが知られているため(自律神経による生体制御とその利用、永井克也、化学と生物 Vol. 51, No. 3 2013)、両神経活動がβ-ユーデスモールにより活性化されれば、摂食量の増加によっても体脂肪である白色脂肪組織(クロロゲン酸類の体脂肪低減効果、http://www.kao.co.jp/rd/eiyo/about-cga/cga03.html)での脂肪分解を促進し、体脂肪増加抑制効果をもたらすと考えられる。
【0058】
12時間毎の明暗周期(8時〜20時まで点灯)下に24℃の恒温動物室にて1週間以上飼育した体重約300gのWistar系雄ラット(約9週齢)を3時間絶食させた。絶食後、ウレタン麻酔し、胃内投与用のカニューレを挿入し、肩甲間褐色脂肪組織交感神経もしくは副睾丸白色脂肪組織交感神経の遠心枝を銀電極で吊り上げ、それら神経の電気活動を測定した(Shen J, et al. Neurosci. Lett. 383.188-193, 2005;Tanida M, et al., Neurosci. Lett. 389: 109-114, 2005)。
【0059】
一方、β−ユーデスモールを5ppb含む0.5%カルボキシメチルセルロース(CMC)水溶液(以下、β−ユーデスモールCMC水溶液という)を調製した。これらの神経の電気活動測定値が落ち着いた時期にそれぞれのβ−ユーデスモールCMC水溶液を1.0ml/300g体重となるように胃内投与し、その際生じるこれらの肩甲間褐色脂肪組織交感神経もしくは副睾丸白色脂肪組織交感神経遠心枝の電気活動の変化を90分間ずつ電気生理学的に測定した。なお、手術開始から測定終了までチューブを気管に挿入して気道を確保し、保温装置にて体温(ラット直腸温)を35.0±0.5℃に保つようにした。また、β−ユーデスモールを含まないCMC水溶液をコントロールとして用いる以外は同様の操作を行い、これをコントロール投与群とした。
【0060】
これらの神経活動のデータは5分間毎の5秒あたりの発火頻度(pulse/5s)の平均値にて解析し刺激開始前5分間の平均値(0分値)を100%とした百分率で表した。なお、データから平均値と標準誤差を計算すると共に、群としての統計学的有意差の検定はANOVA with repeated measuresにより行ない、胃内投与開始前(0分)の神経活動の絶対値間の統計学的有意差の検定はMann-Whitney U-testにより行なった。
【0061】
肩甲間褐色脂肪組織交感神経活動(brown adipose tissue sympathetic nerve activity、BAT-SNA)および、副睾丸白色脂肪組織交感神経活動(white adipose tissue sympathetic nerve activity、WAT-SNA)についての結果を図6に示す。図6に示すとおり、β−ユーデスモールCMC水溶液を胃内投与した群では、BAT-SNAがコントロール投与群に対して高いレベルで保持された。胃内投与開始5分後から90分後までの間のBAT-SNA値をβ−ユーデスモールCMC水溶液を投与した群とコントロール投与群との2群で統計学的検討により比較するとβ−ユーデスモールCMC水溶液を投与した群のBAT-SNA値はコントロール投与群のBAT-SNA値よりも有意に高かった。胃内投与開始前(0分)の神経活動の絶対値間の統計学的有意差はなかった。
【0062】
また、図6に示すとおり、β−ユーデスモールCMC水溶液を投与した群では、WAT-SNAはコントロール投与群に対して投与後30分以降から高いレベルを保持した。胃内投与開始5分後から90分後までの間のBAT-SNA値をβ−ユーデスモールCMC水溶液を投与した群とコントロール投与群との2群で統計学的検討により比較するとβ−ユーデスモールCMC水溶液を投与した群のBAT-SNA値はコントロール投与群のBAT-SNA値よりも有意に高かった。胃内投与開始前(0分)の神経活動の絶対値間の統計学的有意差はなかったことから、試験に使用した動物の個体差による影響はないと考えられた。
【実施例5】
【0063】
[5.β-ユーデスモール投与時の体脂肪増加抑制作用]
β-ユーデスモールによる食欲増進作用及び体脂肪増加抑制作用をより直接検証するため、体脂肪増加抑制作用の検証に汎用されるマウス高脂肪食肥満モデル試験を実施した。
【0064】
「試験方法」
5週齢の雌性C57BL/6Jマウス(日本チャールズリバー)をAIN93G飼料(オリエンタル酵母)により7日間自由飲水、自由摂餌下で飼育後、試験を開始した。試験食には、脂質由来のエネルギー比が60%の高脂肪食(Metabolism,45,1539-1546(1996))を用い、β−ユーデスモールCMC水溶液を給水した。対照群には同様の高脂肪食を与え、β−ユーデスモールを含まないCMC水溶液を与えた。各群はn=8とし、試験開始時の体重の平均値をもとに群わけを行い39日間の飼育試験を行った。飼育期間中は一週間に2回の摂餌量の測定、体重測定を行った。飼育最終日に20時間の絶食条件化でエーテル麻酔の後、頚椎脱臼による安楽死を行った。その後、解剖を行い、精巣周囲脂肪組織、腎周囲脂肪組織、腸間膜周囲脂肪組織をそれぞれ採取し、湿重量を測定した。
【0065】
(結果)
結果を、図7に示す。図中において、対照群はHFD、β−ユーデスモールCMC水溶液摂取群はβ-Eudと示す。飼育期間中の総摂餌量はβ−ユーデスモールCMC水溶液の投与によって増加する一方で、体重の増加率はβ−ユーデスモールCMC水溶液摂餌によって抑制された。更に、解剖時脂肪組織重量は精巣周囲、腎周囲、腸間膜周囲のいずれにおいても、β−ユーデスモールCMC水溶液摂取群において対照群に対して増加が抑制された。
【0066】
以上で示された効果、すなわち体熱産生を制御するBAT-SNAを上昇させる効果、脂肪分解を制御するWAT-SNAを上昇させる効果は、β−ユーデスモールがこれらの神経活動の上昇を介して脂肪分解を促進し体熱産生を上昇させることにより、摂食量の増加による体脂肪増加や体重増加を抑制する効果を有することを示すものである。
【0067】
以上の結果から、β−ユーデスモールには味覚的な忌避性がないことを確認し、その摂取は食欲増進をもたらすことにより摂食量を増加させ、かつ摂食量の上昇による体脂肪増加を抑制し、体重の過剰な増加を抑制する手段であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、容易かつ簡便に香味上優れた状態で摂取でき、安全かつ効果的に食欲を増進しつつ、体重の過剰な増加をもたらさない食欲増進剤を提供する。また、本発明は、食欲増進剤による食欲増進作用に対して、体重増加を抑制することから、該食欲増進作用に対する体重増加抑制剤を提供する。更に、本発明は、食欲増進剤による食欲増進作用に対して、体脂肪増加を抑制することから、該食欲増進作用に対する体脂肪増加抑制剤を提供する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7