特許第6106575号(P6106575)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6106575
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】エレベーター装置
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/00 20060101AFI20170327BHJP
   B66B 3/00 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
   B66B5/00 G
   B66B3/00 T
   B66B3/00 R
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-235116(P2013-235116)
(22)【出願日】2013年11月13日
(65)【公開番号】特開2015-93764(P2015-93764A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年2月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 康人
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 雅宏
(72)【発明者】
【氏名】大黒屋 篤
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 隆行
【審査官】 八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−223750(JP,A)
【文献】 特開2004−142924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 3/00− 3/02
B66B 5/00− 5/28
B66B 7/00− 7/12
B66B 11/00−11/08
B66B 13/00−13/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
かご内に設置されるマイクロホンを有し、外部との通話を行うインターホン装置を備えたエレベーター装置において、
前記マイクロホンは、異常診断運転時にエレベーターの発生音を集音するものから成り、
前記エレベーターの総括制御を行う制御装置を備え、
前記制御装置は、
前記インターホン装置を操作する非常押釦が作動したかを判定する第1判定部と、
前記第1判定部で前記非常押釦が作動していないと判定されたときに、異常診断運転の実施が可能かを判定する第2判定部とを有しており、
前記第2判定部で前記異常診断運転の実施が可能と判定されたときに前記異常診断運転を実施させると共に、
前記異常診断運転時に、前記マイクロホンが出力する音信号に基づき異常を判定する第3判定部を有していることを特徴とするエレベーター装置。
【請求項2】
フィルターを設け、前記インターホン装置による外部との通話時に、前記マイクロホンが集音した音信号の音声周波数帯域を抽出すると共に、異常診断運転時に、前記フィルターを解除することを特徴とする請求項1に記載のエレベーター装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーター装置に係り、特に、エレベーターが発生する音を収音して異常を検出するエレベーター装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、エレベーターのかご内には、インターホン装置が設置され、このインターホン装置は、かご内にマイクロホンを具備し、かご内の非常押釦を乗客が押圧すると、その信号を制御装置に備えられた異常検出手段が受信し、電話回線を介して外部、例えば管制センターに通報してセンター員に繋ぎ、かご内の乗客がマイクロホンを介してセンター員と通話するものである。
【0003】
また、エレベーターが発生する音を収音して異常を検出するものとして、特開2007−137647号公報に記載されるものがある。この公報には、昇降路内を昇降されるかご、かごの内側に設けられている第1のマイクロホン、かごの外側に設けられている第2のマイクロホン、かごに非搭載であり、第1及び第2のマイクロホンからの信号を受ける信号受信部、かごと信号受信部との間に設けられ、第1のマイクロホンからの信号と第2のマイクロホンからの信号との両方の信号を信号受信部に伝送する信号線、及び信号受信部に入力された第2のマイクロホンからの信号に基づいて昇降路内の異常を検出する異常検出部を備えている、と記載されている。すなわち、かごの内側のマイクロホンは非常時における乗客との通話用として使用すると共に、かごの外側に設けられるマイクロホンはエレベーターの発生音を収音して異常診断するものとして使用し、かつ双方のマイクロホンを切り替えて使用することで信号線を共用し、コストの低減を図るようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−137647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前述した公報に記載されるものは、かごの内側およびかごの外側に設置されたそれぞれのマイクロホンで信号線を共用する一方、エレベーターの発生音を集音して異常を検出する異常診断運転時には、特定の周波数の信号を抽出するフィルターを介してあらかじめ想定した異常音を検出するというものであるが、フィルターにより特定の周波数帯域に絞り込んでしまうために、予期せぬ異常の兆候を見逃してしまう恐れがあった。
【0006】
また、異常診断運転用にかごの外側に別途、マイクロホンを設置する必要があることから、複数のマイクロホンの設置に伴うコスト高を避けることはできなかった。
【0007】
さらに、インターホンとして用いるかご内のマイクロホンに関しては、特定の周波数に絞り込むことがなされておらず、外部との通話時に、周囲の不要な音をマイクロホンが取り込んでしまい、クリアーな音場とならず通話がしにくいという課題があった。
【0008】
本発明は、前述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、簡易な構成でエレベーターの発生音に基づき異常診断を行うことができると共に、インターホン通話時にクリアーな音場を構築することができ、かつ、異常診断を高精度なものとすることのできるエレベーター装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は、かご内に設置されるマイクロホンを有し、外部との通話を行うインターホン装置を備えたエレベーター装置において、前記マイクロホンは、異常診断運転時にエレベーターの発生音を集音するものから成り、前記エレベーターの総括制御を行う制御装置を備え、前記制御装置は、前記インターホン装置を操作する非常押釦が作動したかを判定する第1判定部と、前記第1判定部で前記非常押釦が作動していないと判定されたときに、異常診断運転の実施が可能かを判定する第2判定部とを有しており、前記第2判定部で前記異常診断運転の実施が可能と判定されたときに前記異常診断運転を実施させると共に、前記異常診断運転時に、前記マイクロホンが出力する音信号に基づき異常を判定する第3判定部を有していることを特徴としている。
【0010】
このように構成した本発明によれば、インターホン装置のマイクロホンを用いて異常診断運転時にエレベーターの発生音を集音し、判定部によりマイクロホンが出力する音信号に基づき異常を判定する。このように、あらかじめ設けられるインターホン通話用のマイクロホンを異常診断用としても用いることにより、簡易な構成でエレベーターの発生音に基づき異常診断を行うことができる。
【0011】
また、本発明は、フィルターを設け、前記インターホン装置による外部との通話時に、前記マイクロホンが集音した音信号の音声周波数帯域を抽出すると共に、異常診断運転時に、前記フィルターを解除することを特徴としている。
【0012】
このように構成した本発明によれば、インターホン装置を用いてかご内の乗客が外部と通話する時には、フィルターによりマイクロホンが集音した音信号から音声周波数帯域のみを抽出して用いる。これによって、通話時にクリアーな音場を構築することができる。一方、異常診断運転時にフィルターは解除され、マイクロホンが集音した音信号の周波数帯域全体を用いて異常の判定を行う。これによって、異常診断を高精度なものとすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、インターホン装置のマイクロホンは、異常診断運転時にエレベーターの発生音を集音するものであると共に、マイクロホンが出力する音信号に基づき異常を判定する判定部を設けたことにより、あらかじめ設けられるインターホン通話用のマイクロホンを異常診断用としても用い、簡易な構成でエレベーターの発生音に基づき異常診断を行うことができ、これによって、コストを抑えた装置とすることができる。
【0014】
また、フィルターを設け、インターホン装置による外部との通話時に、マイクロホンが集音した音信号の音声周波数帯域を抽出することにより、クリアーな音場を構築し、かご内の乗客と外部との通話を円滑に行うことができる。一方、異常診断運転時に、フィルターを解除することにより、マイクロホンが集音した音信号の周波数帯域全体を用いて異常の判定が行われ、これによって、異常診断を高精度なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係るエレベーター装置の一実施例を示す概略構成図である。
図2】本実施例におけるエレベーター装置の処理手順を示すフローチャートである。
図3】本実施例における通話時のマイクロホンの周波数特性を示す説明図である。
図4】本実施例における異常診断運転時のマイクロホンの周波数特性を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るエレベーター装置の実施例を図に基づき説明する。
【実施例1】
【0017】
本実施例のエレベーター装置は、建屋に設けられた昇降路に設置されるかご1と、ロープ2を介してかご1と連結されるつり合いおもり3とを備え、ロープ2を巻上機のシーブ4を介して駆動することによりかご1およびつり合いおもり3が昇降路内を昇降するようになっている。
【0018】
かご1内には、かご内操作盤5が設置され、このかご内操作盤5には、閉じ込め等の非常時に乗客によって操作される非常押釦6と、非常押釦6の押圧により後述する管制センターのセンター員と通話を行うためのインターホン装置7とが設けられると共に、インターホン装置7には音を集音するマイクロホン8が備えられている。
【0019】
かご内操作盤5と通信ケーブル9を介して接続されると共に、エレベーターの統括制御を行う制御装置10が設けられ、この制御装置10には、マイクロホン8から出力される音信号を記録する記録部11と、インターホン装置7による外部との通話時に、マイクロホン8から出力される音信号の音声周波数帯域を抽出するフィルター13とが備えられている。なお、フィルター13は、いわゆるデジタルフィルターである共に、異常診断運転時には解除されるものである。制御装置10は、インターホン装置7を操作する非常押釦6が作動したかを判定する第1判定部と、この第1判定部で非常押釦6が作動していないと判定されたときに、異常診断運転の実施が可能かを判定する第2判定部とを有しており、この第2判定部で異常診断運転の実施が可能と判定されたときに異常診断運転を実施させると共に、異常診断運転時に、マイクロホン8が出力する音信号に基づき異常を判定する第3判定部12を有している。
【0020】
制御装置10は、電話回線14を介して外部、すなわち管制センター15と接続可能となっている。
【0021】
本実施例にあっては、手順S1の第1判定部にてかご1内の非常押釦6が押圧されたかどうかを常時監視しており、例えば閉じ込め事故が発生し、かご1内の乗客が非常押釦6を押圧すると、通信ケーブル9を介して出力信号が制御装置10に送られる。制御装置10は、手順S2としてフィルター13を有効とし、マイクロホン8が出力する音信号のうち音声周波数帯域を抽出する。この音声周波数帯域は、人間が発する音声に特化した帯域であり、例えば図3の実線に示すように、100〜4kHzの周波数帯域に設定される。そして、インターホン装置7は、手順S3として電話回線14を介して管制センター15のセンター装置と繋がれ、かご1内の乗客と管制センター15のセンター員が通話可能となる。
【0022】
一方、制御装置10は、所定間隔で異常診断運転を実施するように設定されており、この周期が来ると手順S1の第1判定部で非常押釦6が非操作であること、かつ手順S4の第2判定部で異常診断運転を実施可能かどうか判する。手順S4の第2判定部で実施可能と判する条件は、例えば図示しないかご内負荷検出装置の出力がない場合や、かご内カメラの映像診断によりかご1内が無人であることを検出した場合である。そして、手順S4の第2判定部で異常診断運転実施可能と判すると、手順S5として、図示しない巻上機のシーブ4を介してロープ2を駆動し、かご1およびつり合いおもり3を昇降させると共に、所定階床にかご1を停止させてドアの開閉動作を行う。また、これらの一連の動作の間、マイクロホン8によりエレベーターが発する音を集音し、記録部11に記録する。なお、この異常診断運転中、フィルター13は解除され、マイクロホン8が集音した音信号の周波数帯域全体、例えば図4に示すように、20〜20kHzの周波数帯域が記録部11に記録される。次いで、手順S6の第3判定部12は、記録された音信号に異常音があるかどうかを判定する。手順S6で異常がないことが判定されると、手順S1に戻り、通常運転を継続する。一方、手順S6で異常が検出されると、手順S7として制御装置10は電話回線14を介して管制センター15に発報し、専門技術員の出動を要請する。
【0023】
本実施例によれば、インターホン装置7のマイクロホン8は、異常診断運転時にエレベーターの発生音を集音するものであると共に、マイクロホン8が出力する音信号に基づき異常を判定する判定部12を設けたことにより、あらかじめ設けられるインターホン通話用のマイクロホン8を異常診断用としても用い、簡易な構成でエレベーターの発生音に基づき異常診断を行うことができ、これによって、コストを抑えた装置とすることができる。
【0024】
また、フィルター13を設け、インターホン装置7による管制センター15のセンター員との通話時に、マイクロホン8が集音した音信号の音声周波数帯域を抽出することにより、通話時にクリアーな音場を構築し、かご1内の乗客とセンター員との通話を円滑に行うことができる。
【0025】
さらに、異常診断運転時に、フィルター13を解除することにより、マイクロホン8が集音した音信号の周波数帯域全体を用いて異常の判定を行うことにより、異常診断を高精度なものとすることができる。
【0026】
なお、本発明は前述した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。また、前述した実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置き換えをすることが可能である。例えば前述した実施例では、フィルター13により音声周波数帯域として100〜4kHzの周波数帯域を抽出するようにしたが、この値はその限りではなく任意に設定できるものである。
【符号の説明】
【0027】
1 かご
2 ロープ
3 つり合いおもり
4 シーブ
5 かご内操作盤
6 非常押釦
7 インターホン装置
8 マイクロホン
9 通信ケーブル
10 制御装置
11 記録部
12 第3判定部
13 フィルター
14 電話回線
15 管制センター
図1
図2
図3
図4