【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明のカーボンブラシは下記実施例の内容によって制限されるものではない。
〔実施例〕
本発明のカーボンブラシを、以下のようにして作製した。
【0020】
先ず、黒鉛粉の総量に対する割合が50重量%となるように、バインダーとしてのピッチを加えた。次に、上記ピッチの融点より高い温度で混捏した後、冷却して粉砕し40メッシュパスの成形原料を得た。次いで、この成形原料をプレス装置により加圧成形し、非酸化雰囲気の下で高温焼成することによりバインダーを炭化させて、カーボンブロック基材を得た。この後、このカーボンブロック基材を所定の寸法に切削加工した後、カーボンブロック基材にリード線を取り付けた。
【0021】
しかる後、カーボンブロック基材の表面及び内部に形成された気孔内に懸濁液を含浸させることにより、洗濯機用モータに使用されるカーボンブラシを作製した。
懸濁液の含浸は、以下のようにして行った。先ず、油脂と石油系溶剤とから成る含浸液に上記カーボンブロック基材を20分浸漬して、カーボンブロック基材の気孔内に含浸液を含浸させた。尚、上記油脂としては、耐熱グリース(潤滑性改良剤としての二硫化モリブデンが3重量%添加され、粘稠剤としてベントナイト粘土が7重量%添加されたもの)を用いた。上記石油系溶剤としては、工業用の炭化水素系溶剤(イソパラフィン系のもの〔ミネラルスピリット〕であって、沸点は190℃、20℃での蒸気圧は0.1〜0.2kPa)を用いた。また、石油系溶剤に対する油脂の割合は5重量%とした。次いで、余分な含侵液を脂ぎりした後、50℃で通風乾燥することにより、余分な石油系溶剤を除去した。このような工程を経て、気孔内に懸濁液(含浸液中の余分な石油系溶剤を除去した液)を含浸できる。尚、含浸前後における重量変化から算出すると、カーボンブロック基材に対する上記懸濁液の割合は、1.5重量%であった。
このようにして作製したカーボンブラシを、以下、本発明ブラシAと称する。
【0022】
〔比較例〕
カーボンブロック基材の表面及び内部に形成された気孔内に、懸濁液を含浸させないこと以外は、上記実施例と同様にしてカーボンブラシを作製した。
このようにして作製したカーボンブラシを、以下、比較ブラシZと称する。
【0023】
〔実験〕
上記本発明ブラシA及び比較ブラシZを、各々、ドラム洗濯機用の整流子モータにセットし、洗濯時における実際の運転状況を再現した試験台で、下記条件で運転した。そして、この運転時におけるモータの騒音レベルとブラシの温度とを測定したので、それらの結果を、各々
図3及び
図4に示す。
【0024】
・実験条件整流子の種類:銅整流子
回転数:洗濯時730rpm(1サイクル中の時間:60分)
脱水時16000rpm(1サイクル中の時間:10分)
1サイクル:80分
ブラシ圧:58KPa
測定時間:19時間(14サイクル)
【0025】
・騒音レベルの測定方法
図1に示すように、カーボンブラシ3と騒音計4との距離L1は50cmとなるようにして、騒音レベルを測定した。尚、
図1において、1はモータ、2は整流子である。
・ブラシ温度の測定方法
図2に示すように、ブラシ本体6とブラシホルダー7との境界位置から熱電対8までの距離L3は2mmとなるようにして測定した。尚、ブラシ本体6の露出長さL2は2mmとした。
【0026】
図3から明らかなように、本発明ブラシAは比較ブラシZに比べて、騒音レベルが約5dB低下していることが認められる。また、
図4から明らかなように、本発明ブラシAは比較ブラシZに比べて、ブラシ温度が10〜20℃低下していることが認められる。
【0027】
(その他の事項)
(1)上記実施例では、含浸液において、石油系溶剤に対する油脂の割合を5重量%としたが、これに限定するものではない。但し、当該割合は、1重量%以上30重量%以下であることが望ましい。このように限定するのが好ましいのは、当該割合が1重量%未満であると、油脂の割合が少な過ぎて、潤滑性が十分に向上しないことがある。一方、当該割合が30重量%を超えると、含浸液の粘度が高くなって、十分な量の含浸液を気孔内に含浸できないことがあるという理由による。
【0028】
尚、含浸液がこのような割合に規制されていれば、カーボンブロック基材の気孔内に含浸液を含浸させた後、余分な石油系溶剤を除去して気孔内に懸濁液を含浸させる際、カーボンブロック基材に対する懸濁液の割合が、0.5重量%以上6重量%以下となるように、容易に規制できる。
【0029】
(2)石油系溶剤としては上述したものに限定するものではなく、90℃以上の沸点を有するイソブチルアルコール、イソペンチルアルコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、クロルベンゼン、酢酸イソブチル、酢酸ノルマル−ブチル、酢酸ノルマル−プロピル、1,4−ジオキサン、テトラクロロエチレン、トルエン、1−ブタノール、メチルイソブチルケトン、メチル−ノルマル−ブチルケトン等であっても良く、好ましくは140℃以上の沸点を有するエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ−ノルマル−ブチルエーテル、オルト−ジクロロベンゼン、クレゾール、酢酸イソペンチル、酢酸ノルマル−ペンチル、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、N・N−ジメチルホルムアミド、スチレン、メチルシクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノン、石油ナフサ、ミネラルスピリット等であっても良い。但し、石油系溶剤は、沸点が90℃以上250℃以下(特に、140℃以上250℃以下)で、油脂の洗浄、溶解能力を有し、しかも、臭気の小さいものが望ましい。したがって、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ−ノルマル−ブチルエーテル、石油ナフサ、ミネラルスピリット等であることが一層好ましい。その中でも、20℃での蒸気圧が1kPa以下であるものがより一層好ましく、上記4種の溶剤は概ね1kPa以下であるが、品種によってバラツキのあるものは、1kPaの品種を選定するのが好ましい。
【0030】
(3)油脂としてはワックスや粘稠剤を加えた油脂を使用する。また、これに潤滑性を改良する添加剤が加えられていても良い。
油脂としては、グリース類を好適に用いることができ、特にベントナイト粘土などを粘凋剤に用いた高温適性型のグリースが適している。ワックスとしては、モンタンワックス等の鉱物系ワックス、パラフィンワックス等の石油系ワックス、合成ワックス、ポリエチレン系ワックス、ステアリン酸等を適宜用いることが出来る。
また粘稠剤としては、上述のベントナイト粘土の他に、カオリナイト、ハロイサイト等を用いることが出来る。
更にまた、潤滑を改良する添加剤としては、上述の二硫化モリブデンの他に、二硫化タングステン、窒化ホウ素、フッ化黒鉛、酸化ビスマス、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化マンガン、酸化クロム、酸化アンチモン、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化スズ等を用いることができる。