特許第6106671号(P6106671)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6106671
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】粘膜治癒促進剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20170327BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20170327BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20170327BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
   C12N15/00 GZNA
   A61K31/713
   A61K48/00
   A61P1/04
【請求項の数】1
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-525572(P2014-525572)
(86)(22)【出願日】2012年7月17日
(86)【国際出願番号】JP2012068068
(87)【国際公開番号】WO2014013535
(87)【国際公開日】20140123
【審査請求日】2015年7月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】505156709
【氏名又は名称】株式会社ステリック再生医科学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】米山 博之
(72)【発明者】
【氏名】藤井 庄人
【審査官】 戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/004995(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/084232(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)配列番号:1に記載の塩基配列からなるRNAと、該RNAと相補的な配列からなるRNAとがハイブリダイズした構造を含む、CHST15遺伝子の発現を抑制するsiRNA、(ii)末端において1もしくは複数の核酸がオーバーハングした構造を有する(i)のsiRNA、または(iii)(i)もしくは(ii)のsiRNAを発現し得るDNAベクターを有効成分として含む、内視鏡的な粘膜治癒、もしくは内視鏡的な潰瘍治癒のための医薬組成物であって、該有効成分は粘膜下に投与される、医薬組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘膜治癒促進剤に関する。本発明は、特にクローン病、潰瘍性大腸炎、ベーチェット病などの慢性炎症性疾患の治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
〔「レミケード以降」のクローン病治療の新展開:全身症状は調節可能になってきた- そして、局所病変(腸管組織障害)の制御=Intestinal/mucosal healingが次の開発課題となった〕
クローン病(Crohn's disease、CD)は、消化管全域に非連続性の炎症及び潰瘍を生じる非特異性炎症性疾患である。北米で40〜60万人、欧州で60万人、日本では約3万人がCDに罹患している希少疾病であり、患者数は生活習慣の変化に伴い増加し続けている(非特許文献1)。CDは、消化管全般に炎症や潰瘍が生じ、下痢、腹痛、発熱、下血に伴う貧血、体重減少、体力低下や倦怠感などの多彩な臨床症状が見られ、QOLが著しく低下する。また、CDの炎症病変は粘膜内から発症し、粘膜下層、固有筋層へと波及するため、全層性の肉芽腫性炎症、浮腫、線維化による腸壁の肥厚が特徴である(非特許文献2〜4)。
CDに対する治療は、抗炎症並びに抗免疫機序に基づく薬剤、すなわち、5-ASA製剤、経口ステロイド、免疫抑制剤から開始され、近年抗TNF製剤も使用されるようになった(非特許文献5)。CDの臨床的活動性を評価するCDAI(Crohn's Disease Activity Index)の減少においては症状のコントロールが可能になってきた。しかしながら、CDAIで寛解あるいは軽症と判定された患者でも、内視鏡検査では局所の活動性病変が残存している症例は多く、繰り返す炎症の再燃や線維化による狭窄の起点病巣となると考えられている(非特許文献2、3、6、7)。CDは進行性の腸管組織障害(Progressive digestive damage)であるとする概念が確立され(非特許文献4、6、7)、治療戦略も症状コントロールから、内視鏡病変の治癒を介したi)長期的な腸管保護とii)腸狭窄による外科手術の回避へと、その重点がシフトしている(非特許文献6〜11)。とりわけ、内視鏡的な腸管治癒(Intestinal Healing: IH)あるいは粘膜治癒(Mucosal Healing: MH)がCD患者の予後に影響を及ぼす因子であるとする報告がなされ(非特許文献6〜11)、CDの内視鏡的活動性を評価するSES-CD(Simple Endoscopic Score for CD)の改善が、CD治療における新たな効果判定基準となってきた。既存薬によるCD患者のMH効果は、5-ASA製剤や経口ステロイド剤ではほとんど無く、免疫抑制剤では16.5%、抗TNF製剤でも30.1%と報告されている(非特許文献7、11)。このような全身投与薬で十分に制御しきれない内視鏡病変を如何に治癒させるか(IH/MH)が重要であるという医学的知識を付加した事が、レミケードの貢献であり、CDに対する新薬に求められる喫緊の課題が明確化されたとも言える。
【0003】
〔IH/MHを狙った新規治療戦略:臨床病理学的視点から〜慢性化の拠点・線維化病巣を早期より把握し、治療を開始する〕
内視鏡病変が残存する病因は十分には解明されていないが、潰瘍と線維化が同居する点に、CDにおける内視鏡病変治癒の難しさがある。組織損傷に対する修復過程において、適切なMHの代わりに、不適切な「線維化形成性」修復(Fibrotic healing)が誘導される事により、潰瘍と線維化を伴う炎症病巣が持続する事が一つの要因と考えられ(非特許文献2、3、12)、そのような局所病変に対しては炎症・免疫機序に基づく全身性既存薬だけでは十分な効果が獲得できないものと推測される。病理学的には損傷・修復を繰り返しながら残存していると考えられ(非特許文献3)、CDにおいてはアフタ(浮腫状の小隆起と紅斑を伴うびらん)や潰瘍、それも、浮腫性に内腔の狭小化を伴っている病変として、内視鏡検査で診断される。更には近年、拡大内視鏡や共焦点内視鏡など、リアルタイムでより詳細に観察できる技術も普及してきており、早期からの治療を可能にする環境が整ってきている。
炎症時早期から病変部に集積する線維芽細胞の過剰な活性化がFibrotic healingへバランスを傾けると証明されてきた事から、「線維芽細胞活性化の抑制」が炎症性腸疾患における炎症性線維化(Inflammation-driven intestinal fibrosis)に対する新しい治療ターゲットとして注目されている(非特許文献2〜3)。炎症・免疫機序に基づいた既存薬だけでは十分な効果を得られない内視鏡病変は、潰瘍と線維化が同居する病態である事から、線維化/線維芽細胞を標的とした治療は、CDにおける新しい治療戦略として台頭してきたと言える。
【0004】
〔IH/MHを狙った新規治療戦略:科学的視点から〜CHST-CS経路〕
糖硫酸転移酵素遺伝子であるCarbohydrate sulfotransferase 15 (CHST15)はコンドロイチン硫酸-A(CS-A)のGalNAc(4SO4)残基の6位に硫酸塩を転移し、高度に硫酸化されたコンドロイチン硫酸-E(CS-E)を合成するII型の膜貫通型ゴルジタンパク質である(非特許文献13〜14)。CD患者の活動性大腸病変で高度に硫酸化されたコンドロイチン硫酸(CS)の合成が有意に増加している事(非特許文献15)、高度に硫酸化されたCS-Eは、CD患者の肥厚した粘膜下層で増加するV型コラーゲンと結合する事(非特許文献16〜17)、更には高度に硫酸化されたCS-Eは、コラーゲン線維(フィブリル)形成を促進する事(非特許文献18)、が報告されており、CS-Eは局所線維化病変の維持と増強に関与していると考えられている。更に、高度に硫酸化されたCS-Eは、線維芽細胞の接着に関わる分子CD44、線維芽細胞の遊走に関わるケモカインMCP-1、SDF-1、線維芽細胞の増殖に関わるPDGF、TGF-βと結合する事が報告されており(非特許文献19)、粘膜下局所におけるこれらの分子の濃縮を介しても線維芽細胞の定着と活性化に関わっている事が示唆されている。
【0005】
本発明者は、CHST15タンパク質がCD患者の線維化部位で過剰産生されること、ならびに、腸線維化を生じる大腸炎の動物モデルでCHST15が腸線維化に関連する事を見出した(非特許文献20〜21)。コンドロイチン分解酵素ABCやコンドロイチン脱硫酸化酵素によって過剰に硫酸化されたCSを除去すると、線維化が軽減された成績(特許文献1、非特許文献20〜21)から、本発明者は原因となるCHST15の産生を制御することが消化管における線維化に対する有望なターゲットであるという考えに至った。従来の化学的手法だけでは、高硫酸化CSやCHST15を選択的に阻害する方法がなかったが、本発明者はsiRNA、それも局所注射経路により選択的に阻害する戦略を進めた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4585611号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Van Assche G, Geboes K, Rutgeerts P et al. Medical therapy for Crohn's disease strictures. Inflamm Bowel Dis 10: 55-60, 2004.
【非特許文献2】Rieder F. and Fiocchi C. Intestinal fibrosis in IBD-a dynamic, multifactorial process. Nature Rev Gastroenterol Hepatol 6: 228-35, 2009.
【非特許文献3】Rieder F and FIocchi C. First International summit on fibrosis in intestinal inflammation: mechanisms and biological therapies. Fibrogenesis & Tissue Repair 3: 22, 2010.
【非特許文献4】Peyrin-Biroulet L, Loftus EV, Colombel J, et al. Early Crohn's disese: a proposed definition for use in disease-modification trials. Gut 59: 141-147, 2010.
【非特許文献5】Kozuch PL and Hanauer SB. Treatment of inflammatory bowel disease: a review of medical therapy. World J Gastroenterol 21: 354-77, 2008.
【非特許文献6】Lacucci M and Ghosh S. Looking beyond symptom relief: evolution of mucosal healing in inflammatory bowel disease. Ther Adv Gastroenterol 4: 129-143, 2011.
【非特許文献7】de Chambrun GP, Peyrin-Biroulet L, Lemann M et al. Clinical implications of mucosal healing for the management of IBD. Nat Rev Gastroenterol Hepatol 7: 15-29, 2010.
【非特許文献8】Pariente B, Cosnes J, Danese S et al. Development of the Crohn's disease digestive damage score, the Lemann score. Inflamm Bowel Dis 17: 1415-1422, 2011.
【非特許文献9】Caviglia R, Ribolsi M, Rizzi M et al. Maintenance of remission with infliximab in inflammatory bowel disease: Efficacy and safety long-term follow up. World J Gastroenterol 13: 5238-5244, 2007.
【非特許文献10】Baert F, Moortgat L, van Assche G et al. Mucosal healing predicts sustained clinical remission in patients with early-stage Crohn's disease. Gastroenterol 138: 463-468, 2010.
【非特許文献11】Colombel JF, Sandborn WJ, Reinisch W et al. Infliximab, azathioprine, or combination therapy for Crohn's disease. N Eng J Med 362: 1383-1395, 2010.
【非特許文献12】Wynn TA. Common and unique mechanisms regulate fibrosis in various fibroproliferative diseases. J Clin Invest 117: 524-529, 2007.
【非特許文献13】Ohtake S, Kondo S, Morisaki T, et al. Expression of sulfotransferase involved in the biosynthesis of chondroitin sulfate E in the bone marrow derived mast cells. Biochemical Biophysica Acta 1780: 687-95, 2008.
【非特許文献14】Habuchi O, Moroi R, Ohtake S, et al. Enzymatic synthesis of chondroitin sulfate E by N-acetylgalactosamine 4-sulfate 6-O-sulfotransferase purified from squid cartilage. Anal Biochem 310: 129-36, 2002.
【非特許文献15】Belmiro CLR, Souza HSP, Elia CCS et al. Biochemical and immunohistochemical analysis of glycosaminoglycan in inflamed and non-inflamed intestinal mucosa of patients with Crohn's disease. In J Colorectal Dis 20: 295-304, 2005.
【非特許文献16】Takagaki K, Munakata H, Kakizaki I et al. Domein structure of chondroitin sulfate E octasaccharides binding to type V collagens. JBC 277: 8882-8889, 2002.
【非特許文献17】Graham MF, Diegelmann RF, Elson CO et al. Collagen content and types in the intestinal strictures of Crohn's disease. Gastroenterol 94: 257-265, 1988.
【非特許文献18】Kvist AJ, Hohnson AE, Morgelin M et al. Chondroitin sulfate perlecan enhances collagen fibril formation. JBC 281: 33127-33139, 2006.
【非特許文献19】Yamada S and Sugahara K. Potential therapeutic Application of chondroitin sulfate/dermatan sulfate. Current Drug Discovery Technologies 5: 289-301, 2008.
【非特許文献20】Kiryu H, Terai G, Imamura O et al. A detailed investigation of accessibilities around target sites of siRNA and miRNAs. Bioinformatics 2011 Apr 29. [Epub ahead of print]
【非特許文献21】Suzuki K, Fujii M, Yoneyama H et al. The development of the therapeutic agent utilizing RNA interference in the colon of stenosis of Crohn's disease. J Jpn Soc Gastroenterol 107 (347): A29, 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は粘膜治癒促進剤、特にクローン病・潰瘍性大腸炎の新規治療剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
RNA干渉(RNAi)はウイルス感染から細胞を守るために進化した生体防御機構の一つである。この機構はウイルスRNAのユニークな構造を認識し、次に、RNAiの活性化を導き、全てのウイルスRNAを分解することができる。その結果、RNAiは感染した細胞をウイルス感染から回復させる機能を発揮する。我々はユニークな構造を有するsiRNAを合成した。
本発明のsiRNA(抗CHST15 siRNA)はCHST15産生に関与するhuman CHST15遺伝子の発現を抑制するように特異的にデザインされた27mer siRNAである。27mer siRNA二重鎖はnMあるいはpMのオーダーで遺伝子発現を非常に強く抑制する。本発明の抗CHST15 siRNAはCHST15 mRNA、すなわち、human CHST15のシークエンス領域に相補的であるシークエンスを含む合成siRNAであり、そのアンチセンス鎖はRNAi機能へのガイド・シークエンスとして働き、human CHST15を特異的に認識し分解させることにより、糖硫酸転移酵素(CHST15タンパク質)産生に関する遺伝子の発現をブロックする。その結果、CSの硫酸基の転移が起こらず、線維芽細胞も活性化されずに線維化が抑制されると推定される。
本発明者は、大腸炎モデルマウスを用いた実験により、CHST15遺伝子の発現を抑制するsiRNAが、クローン病もしくは潰瘍性大腸炎に対して治療効果を奏することを見出した。即ち、CHST15遺伝子の発現を抑制するsiRNAは、クローン病もしくは潰瘍性大腸炎の治療剤となることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は、より具体的には以下の〔1〕〜〔4〕を提供するものである。
〔1〕CHST15遺伝子の発現を抑制するsiRNAであって、配列番号:1に記載の塩基配列からなるRNAと、該RNAと相補的な配列からなるRNAとがハイブリダイズした構造を含むsiRNA。
〔2〕末端において1もしくは複数の核酸がオーバーハングした構造を有する〔1〕に記載のsiRNA。
〔3〕〔1〕もしくは〔2〕に記載のsiRNAを発現し得るDNAベクター。
〔4〕〔1〕または〔2〕に記載のsiRNA、または〔3〕に記載のDNAを有効成分として含む、粘膜治癒促進剤。
〔5〕〔1〕または〔2〕に記載のsiRNA、または〔3〕に記載のDNAを有効成分として含む、クローン病もしくは潰瘍性大腸炎の治療剤。
〔6〕〔1〕または〔1〕に記載のsiRNA、または〔3〕に記載のDNAを有効成分として含む、創傷治癒、粘膜治癒、もしくは潰瘍治癒のための医薬組成物。
【0011】
さらに本発明は、以下に関する。
〔a〕 配列番号:1に記載の塩基配列からなるRNAと該RNAと相補的な配列からなるRNAとがハイブリダイズした構造を含むsiRNAを対象へ投与する工程を含む、粘膜治癒の促進方法、または、クローン病もしくは潰瘍性大腸炎の治療方法。(ここで、対象とは、哺乳動物(ヒト、または非ヒト哺乳動物など)であり、好ましくは、クローン病もしくは潰瘍性大腸炎の患者である。)
〔b〕 粘膜治癒促進剤またはクローン病もしくは潰瘍性大腸炎の治療剤の製造における、配列番号:1に記載の塩基配列からなるRNAと該RNAと相補的な配列からなるRNAとがハイブリダイズした構造を含むsiRNAの使用。
〔c〕 粘膜治癒促進用またはクローン病もしくは潰瘍性大腸炎の治療用の(治療において使用するための)、配列番号:1に記載の塩基配列からなるRNAと該RNAと相補的な配列からなるRNAとがハイブリダイズした構造を含むsiRNA。
〔d〕 CHST15遺伝子の発現を抑制する、配列番号:1に記載の塩基配列からなるRNAと該RNAと相補的な配列からなるRNAとがハイブリダイズした構造を含むsiRNAを含有する粘膜治癒促進剤またはクローン病もしくは潰瘍性大腸炎の治療剤を製造するためのプロセス。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の試験デザインの模式図である。
図2】本発明の抗CHST15 siRNAが大腸CHST15遺伝子発現に及ぼす影響を示すグラフである。各点につきn=2〜6の平均値及びSD値を示す。Nは正常マウス、Cは陰性対照群を示す。
図3】本発明の抗CHST15 siRNAが大腸ハイドロキシプロリン量へ及ぼす影響(Day 19)を示すグラフである。Nは正常マウス、Cは陰性対照群を示す。
図4】本発明の抗CHST15 siRNAがSegmental SES-CDスコアへ及ぼす影響を示すグラフである。Day 19における抗CHST15 siRNA投与群と陰性対照群との差はp<0.01(***)であった(Bonferroni multiple comparison test)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明者によって、CHST15(Carbohydrate sulfotransferase 15)遺伝子の発現を抑制することにより、クローン病もしくは潰瘍性大腸炎の治療効果、または、創傷治癒、粘膜治癒、もしくは潰瘍治癒の効果が発揮されることが見出された。より詳しくは、本発明者は、CHST15遺伝子の発現をRNAi効果によって抑制することにより、クローン病もしくは潰瘍性大腸炎の治療効果、または、創傷治癒、粘膜治癒、もしくは潰瘍治癒の効果を有するRNA分子(siRNA)を見出した。
なお、本発明のCHST15は、別称として、GalNAc4S-6ST (N-acetylgalactosamine 4-sulfate 6-0 sulfotransferase)とも呼ばれる。
【0014】
本発明はまず、CHST15遺伝子の発現をRNAi効果によって抑制するsiRNA(shRNAも含む)を提供する。該RNAは、クローン病もしくは潰瘍性大腸炎の治療効果、または、創傷治癒、粘膜治癒、もしくは潰瘍治癒の効果を有する。
【0015】
本発明のCHST15遺伝子は特に制限されるものではないが、通常、動物由来であり、より好ましくは哺乳動物由来であり、最も好ましくはヒト由来である。
【0016】
本発明のCHST15遺伝子の発現をRNAi(RNA interferance;RNA干渉)効果により抑制し得るRNA(本明細書において単に「本発明のsiRNA」と記載する場合あり)は、より具体的には、配列番号:1〜4のいずれかに記載の塩基配列を含むRNAを挙げることができる。また、本発明のsiRNAのより好ましい態様においては、配列番号:1または2に記載の塩基配列からなるRNAを一方の鎖とする二本鎖RNA (siRNA)を挙げることができる。
【0017】
本発明は、CHST15遺伝子の発現をRNAi効果により抑制し得るRNA(siRNA)であって、配列番号:1に記載の塩基配列からなるRNAと、該RNAと相補的な配列からなるRNAとがハイブリダイズした構造を含む二本鎖RNAを提供する。
【0018】
例えば、配列番号:1に記載の塩基配列(5'-GGAGCAGAGCAAGAUGAAUACAAUC-3')を含むことを特徴とする本発明のsiRNAとは、以下のような構造のRNA分子を例示することができる。
(上記「I」は水素結合を表す。)
【0019】
なお、上記RNA分子において一方の端が閉じた構造の分子、例えば、ヘアピン構造(ステムループ構造)を有するsiRNA(shRNA)も本発明に含まれる。即ち、分子内において二本鎖RNA構造を形成し得る分子もまた本発明に含まれる。
【0020】
例えば、
5'-GGAGCAGAGCAAGAUGAAUACAAUC (配列番号:1) (xxxx)n GAUUGUAUUCAUCUUGCUCUGCUCC (配列番号:2)-3' のような分子もまた本発明に含まれる。(上記「(xxxx)n」は任意塩基および配列数からなるポリヌクレオチドを表す。)
さらに、5'-GGAGCAGAGCAAGAUGAAUACAAUCAG (配列番号:3) (xxxx)n GAUUGUAUUCAUCUUGCUCUGCUCCAU (配列番号:4)-3'のような分子もまた本発明に含まれる。
【0021】
本発明におけるsiRNAは、必ずしも全てのヌクレオチドがリボヌクレオチド(RNA)でなくともよい。即ち、本発明において、siRNAを構成する1もしくは複数のリボヌクレオチドは、分子自体としてCHST15遺伝子の発現を抑制する機能を有するものであれば、対応するデオキシリボヌクレオチドであってもよい。この「対応する」とは、糖部分の構造は異なるものの、同一の塩基種(アデニン、グアニン、シトシン、チミン(ウラシル))であることを指す。例えば、アデニンを有するリボヌクレオチドに対応するデオキシリボヌクレオチドとは、アデニンを有するデオキシリボヌクレオチドのことを言う。また、前記「複数」とは特に制限されないが、好ましくは2〜5個程度の少数を指す。
【0022】
一般的にRNAiとは、標的遺伝子のmRNA配列と相同な配列からなるセンスRNAおよびこれと相補的な配列からなるアンチセンスRNAとからなる二本鎖RNAを細胞内に導入することにより、標的遺伝子mRNAの破壊を誘導し、標的遺伝子の発現が阻害される現象を言う。通常、RNAi効果を有する二本鎖RNAは、発現を抑制したい標的遺伝子のmRNAにおける連続するRNA領域と相同な配列からなるセンスRNA、および該センスRNAに相補的な配列からなるアンチセンスRNAからなる二本鎖RNAである。
【0023】
本発明の好ましい態様においては、CHST15遺伝子の発現をRNAi効果により抑制し得るRNAであって、配列番号:1に記載の塩基配列からなるRNAと、該RNAと相補的な配列からなるRNAとがハイブリダイズした構造を有する二本鎖RNAである。即ち、本発明は、CHST15遺伝子の発現を抑制するsiRNAであって、配列番号:1に記載の塩基配列からなるRNAと、該RNAと相補的な配列からなるRNAとがハイブリダイズした構造を含むsiRNAを提供する。より具体的には、配列番号:1に記載のRNAと、配列番号:2に記載のRNAとがハイブリダイズした構造の核酸分子が挙げられる。
【0024】
本発明におけるsiRNAの好ましい態様においては、CHST15遺伝子の発現をRNAi効果により抑制し得るRNA(siRNA)であって、配列番号:1に記載の塩基配列からなるRNAと、該RNAと相補的な配列からなるRNAとがハイブリダイズした構造からなる二本鎖RNAを好適に示すことができる。ただし、この二本鎖RNAの末端において、例えば、1もしくは複数のRNAもしくはDNAが付加もしくは欠失された構造の二本鎖RNA(RNAとDNAとのハイブリッド分子)もまた、本発明に含まれる。
【0025】
本発明のsiRNAは、末端に数塩基のオーバーハングを有する分子であってもよい。このオーバーハングを形成する塩基の長さ、および配列は特に制限されない。また、このオーバーハングは、DNAおよびRNAのいずれであってもよい。好ましくは、2塩基のオーバーハングを例示することができる。一例としては、3'末端へAG、AUのオーバーハングを有する二本鎖RNAが挙げられる。本発明の二本鎖RNAには、オーバーハングを形成する塩基がDNAである分子も含まれる。
【0026】
本発明のsiRNAの好ましい態様としては、例えば、3'末端のオーバーハング部分の塩基がAG、AUである下記siRNA分子を挙げることができる(実施例における「抗CHST15 siRNA」に相当)。
【0027】
即ち、本発明のsiRNAの好ましい態様としては、配列番号:3に記載されたRNAと、配列番号:4に記載されたRNAとがハイブリダイズした構造のsiRNA分子を挙げることができる。
【0028】
本発明のsiRNAは、当業者においては、本明細書によって開示された塩基配列を基に、適宜作製することができる。具体的には、配列番号:1〜4のいずれかに記載の塩基配列を基に、本発明の二本鎖RNAを作製することができる。一方の鎖(例えば、配列番号:1に記載の塩基配列)が判明していれば、当業者においては容易に他方の鎖(相補鎖)の塩基配列を知ることができる。本発明のsiRNAは、当業者においては市販の核酸合成機を用いて適宜作製することが可能である。また、所望のRNAの合成については、一般の合成受託サービスを利用することが可能である。
【0029】
本発明のsiRNA(例えば、配列番号:1〜4のいずれかに記載の塩基配列を一方の鎖とする二本鎖RNA分子)は、粘膜治癒促進効果、特に、クローン病もしくは潰瘍性大腸炎の治療効果を有することから、本発明は、本発明のsiRNAを有効成分として含有する、粘膜治癒促進剤、または、クローン病もしくは潰瘍性大腸炎の治療剤を提供する。さらに、本発明のsiRNAは、創傷治癒、粘膜治癒、もしくは潰瘍治癒の効果を有することから、本発明は、本発明のsiRNAを有効成分として含有する、粘膜治癒促進剤、創傷治癒剤、粘膜治癒剤、もしくは潰瘍治癒剤を提供する。また、本発明は、本発明のsiRNAを有効成分として含有する、創傷治癒、粘膜治癒、もしくは潰瘍治癒のための医薬組成物を提供する。
【0030】
本発明において治療対象となる疾患は、例えば、炎症、創傷における粘膜治癒、創傷治癒、潰瘍治癒が挙げられる。
本発明の慢性炎症性疾患治療剤は、例えば、皮膚をはじめとする外皮及び上皮組織における弾性線維症、強皮症、慢性腹膜炎、後腹膜腔線維化症など、結合組織などの支持組織、筋肉における多発性筋炎、皮膚筋炎、結節性多発動脈炎、軟組織線維症、慢性関節リウマチ、手掌線維腫、腱炎、腱鞘炎、アキレス腱炎、足菌腫など、骨髄、心臓などの血液組織、脈管系における骨髄線維症、脾機能亢進症、脈管炎、徐脈性不整脈、動脈硬化、閉塞性血栓性血管炎、結節性線維症、狭心症、拡張型うっ血性心筋症、心不全、拘束型心筋症、びまん性非閉塞性心筋症、閉塞性心筋症、肺性心、僧帽弁狭窄、大動脈弁狭窄、慢性心膜炎、心内膜線維症、心内膜心筋線維症など、肝臓などの消化器系では慢性膵炎、クローン病、潰瘍性大腸炎、アルコール性肝炎、慢性B型肝炎、慢性C型肝炎、ウィルソン病、肝硬変、ウイルス性肝炎、ゴーシェ病、糖原病、α抗トリプシン欠損、ヘモクロマトーシス、チロシン血症、果糖血症、ガラクトース血症、ゼルウェガー症候群、先天性肝線維症、門脈圧亢進症、肝肉芽腫症、バッド−キアリ症候群、原発性硬化性胆管炎、脂肪肝、非アルコール性肝炎、肝線維症、先天性肝線維症、アルコール性肝硬変、ウイルス性肝硬変、寄生虫性肝硬変、中毒性肝硬変、栄養障害性肝硬変、うっ血性肝硬変、肝硬化症、シャルコー肝硬変、トッド肝硬変、続発性胆汁性肝硬変、単葉性肝硬変、慢性非化膿性破壊性胆炎から移行した肝硬変、閉塞性肝硬変、胆細管性肝硬変、胆汁性肝硬変、萎縮性肝硬変、壊死後性肝硬変、肝炎後肝硬変、結節性肝硬変、混合型肝硬変、小結節性肝硬変、代償性肝硬変、非代償性肝硬変、大結節性肝硬変、中隔性肝硬変、突発性肝硬変、門脈周囲性肝硬変、門脈性肝硬変、原発性胆汁性肝硬変など、肺などの呼吸系におけるコクシジオイデス症、ブラストミセス症、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、グッドパスチャー症候群、成人呼吸促迫症候群における肺線維症、慢性閉塞性肺疾患、無気肺、肺炎、珪肺症、石綿肺症、過敏性肺炎、特発性肺線維症、リンパ球性間質性肺炎、ランゲルハンス細胞肉芽腫症、嚢胞性線維症、膿胞性線維症、肺線維症、特発性肺線維症、線維化性肺胞隔炎、間質性線維症、びまん性肺線維症、慢性間質性肺炎、気管支拡張症、細気管支炎線維症、気管支周囲線維症、胸膜線維症など、腎臓などの泌尿器、生殖器系における男性性腺機能低下症、筋強直性ジストロフィー、ペイロニー病などによる線維症、慢性尿細管間質性腎炎、常染色体劣性嚢胞腎、骨髄腫腎、水腎症、急速進行性糸球体腎炎、腎毒性疾患、黄色肉芽腫性腎盂腎炎、鎌状赤血球腎症、腎性尿崩症、常染色体優性多発性嚢胞腎疾患、慢性糸球体腎炎、IgA腎症、腎硬化症、巣状糸球体硬化症、膜性腎炎、膜増殖性糸球体腎炎、慢性腎盂腎炎、腎アミロイドーシス、多発性嚢胞腎、後腹膜線維症、ループス腎炎など膠原病に伴う腎病変、糖尿病性腎症、慢性前立腺炎、住血吸虫症による膀胱炎、乳腺線維症、乳腺線維腺腫など、脊椎などの神経系における先天性斜頸、強直性脊椎炎、神経線維腫や脊髄損傷後の神経機能欠損等の脊髄疾患、パーキンソン病やアルツハイマー病等の脳神経疾患、眼球における後部水晶体線維化症、増殖性網膜症など、また、全身に病変の生じるサルコイドーシス、全身性エリテマトーデスによる線維症や全身性強皮症、多発性筋炎、皮膚筋炎など、術後の合併症、並びに糖尿病、癌等の種々の慢性炎症性疾患の治療剤として有用である。
また、Wynn TA. Cellular and molecular mechanisms of fibrosis. J Pathol 2008; 214: 199-210のTable 1に記載の疾患も本発明の治療剤の治療対象となり得る。
【0031】
さらに、本発明のsiRNA(二本鎖RNA)もしくは配列番号:1〜4のいずれかに記載のRNAを発現し得るDNAもまた、本発明に含まれる。即ち本発明は、本発明のsiRNA(二本鎖RNA)を発現し得るDNA(ベクター)を提供する。本発明の上記二本鎖RNAを発現し得るDNA(ベクター)は、例えば、該二本鎖RNAの一方の鎖をコードするDNA、および該二本鎖RNAの他方の鎖をコードするDNAが、それぞれ発現し得るようにプロモーターと機能的に連結した構造を有するDNAである。本発明の上記DNAは、当業者においては、一般的な遺伝子工学技術により作製することができる。より具体的には、本発明のRNA(例えば、配列番号1〜4のいずれかに記載のRNA)をコードするDNAを公知の種々の発現ベクターへ適宜挿入することによって、本発明の発現ベクターを作製することが可能である。
【0032】
本願発明のCHST15 (GalNAc4S-6ST)の配列は、例えば、アクセッション番号NM_015892に基づいて取得することができる。一例として、本願発明のCHST15遺伝子の塩基配列を配列番号:5に、該遺伝子によってコードされるアミノ酸配列を配列番号:6へ記載する。
【0033】
上記以外のアミノ酸配列からなるタンパク質であっても、例えば配列番号:6に記載された配列と高い同一性(通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上)を有し、かつ、上記タンパク質が有する機能を持つタンパク質は、本発明のCHST15タンパク質に含まれる。上記タンパク質とは、例えば、配列番号:6に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が付加、欠失、置換、挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、通常変化するアミノ酸数が30アミノ酸以内、好ましくは10アミノ酸以内、より好ましくは5アミノ酸以内、最も好ましくは3アミノ酸以内である。
【0034】
本発明における上記遺伝子には、例えば、配列番号:5に記載の塩基配列からなるDNAに対応する他の生物における内在性の遺伝子(ヒトの上記遺伝子のホモログ等)が含まれる。
【0035】
また、配列番号:5に記載の塩基配列からなるDNAに対応する他の生物の内在性のDNAは、一般的に、それぞれ配列番号:5に記載のDNAと高い同一性(相同性)を有する。高い同一性とは、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上(例えば、95%以上、さらには96%、97%、98%または99%以上)の相同性を意味する。この相同性は、mBLASTアルゴリズム(Altschul et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 2264-8; Karlin and Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5873-7)によって決定することができる。また、該DNAは、生体内から単離した場合、それぞれ配列番号:5に記載のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすると考えられる。ここで「ストリンジェントな条件」としては、例えば「2×SSC、0.1%SDS、50℃」、「2×SSC、0.1%SDS、42℃」、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」、よりストリンジェントな条件として「2×SSC、0.1%SDS、65℃」、「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」および「0.2×SSC、0.1%SDS、65℃」の条件を挙げることができる。
【0036】
また、本発明における薬剤は、「医薬品」、「医薬組成物」、「治療用医薬」等と表現することもできる。
【0037】
なお、本発明における「治療」には、疾患の発生を予め抑制し得る予防的な効果も含まれる。また、必ずしも、完全な治療効果を有する場合に限定されず、部分的な効果を有する場合であってもよい。
【0038】
本発明の薬剤は、生理学的に許容される担体、賦形剤、あるいは希釈剤等と混合し、医薬組成物として経口、あるいは非経口的に投与することができる。経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、溶剤、乳剤、あるいは懸濁剤等の剤型とすることができる。非経口剤としては、注射剤、点滴剤、外用薬剤、吸入剤(ネブライザー)あるいは座剤等の剤型を選択することができる。注射剤には、皮下注射剤、筋肉注射剤、腹腔内注射剤、頭蓋内投与注射剤、あるいは鼻腔内投与注射剤等を示すことができる。外用薬剤には、経鼻投与剤、あるいは軟膏剤等を示すことができる。主成分である本発明の薬剤を含むように、上記の剤型とする製剤技術は公知である。
【0039】
例えば、経口投与用の錠剤は、本発明の薬剤に賦形剤、崩壊剤、結合剤、および滑沢剤等を加えて混合し、圧縮整形することにより製造することができる。賦形剤には、乳糖、デンプン、あるいはマンニトール等が一般に用いられる。崩壊剤としては、炭酸カルシウムやカルボキシメチルセルロースカルシウム等が一般に用いられる。結合剤には、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、あるいはポリビニルピロリドンが用いられる。滑沢剤としては、タルクやステアリン酸マグネシウム等が公知である。
【0040】
本発明の薬剤を含む錠剤は、マスキングや、腸溶性製剤とするために、公知のコーティングを施すことができる。コーティング剤には、エチルセルロースやポリオキシエチレングリコール等を用いることができる。
【0041】
また注射剤は、主成分である本発明の薬剤を適当な分散剤とともに溶解、分散媒に溶解、あるいは分散させることにより得ることができる。分散媒の選択により、水性溶剤と油性溶剤のいずれの剤型とすることもできる。水性溶剤とするには、蒸留水、生理食塩水、あるいはリンゲル液等を分散媒とする。油性溶剤では、各種植物油やプロピレングリコール等を分散媒に利用する。このとき、必要に応じてパラベン等の保存剤を添加することもできる。また注射剤中には、塩化ナトリウムやブドウ糖等の公知の等張化剤を加えることができる。更に、塩化ベンザルコニウムや塩酸プロカインのような無痛化剤を添加することができる。
【0042】
また、本発明の薬剤を固形、液状、あるいは半固形状の組成物とすることにより外用剤とすることができる。固形、あるいは液状の組成物については、先に述べたものと同様の組成物とすることで外用剤とすることができる。半固形状の組成物は、適当な溶剤に必要に応じて増粘剤を加えて調製することができる。溶剤には、水、エチルアルコール、あるいはポリエチレングリコール等を用いることができる。増粘剤には、一般にベントナイト、ポリビニルアルコール、アクリル酸、メタクリル酸、あるいはポリビニルピロリドン等が用いられる。この組成物には、塩化ベンザルコニウム等の保存剤を加えることができる。また、担体としてカカオ脂のような油性基材、あるいはセルロース誘導体のような水性ゲル基材を組み合わせることにより、座剤とすることもできる。
【0043】
本発明の薬剤を遺伝子治療剤として使用する場合は、本発明の薬剤を注射により直接投与する方法のほか、核酸が組込まれたベクターを投与する方法が挙げられる。上記ベクターとしては、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター等が挙げられ、これらのウイルスベクターを用いることにより効率よく投与することができる。
【0044】
本発明の好ましい態様としては、局所投与が挙げられる。具体的には、大腸、直腸等の粘膜下に、例えば、内視鏡を用いて注入する方法(内視鏡局所投与)が挙げられる。
【0045】
また、本発明の薬剤をリポソームなどのリン脂質小胞体に導入し、その小胞体を投与することも可能である。siRNAやshRNAを保持させた小胞体をリポフェクション法により所定の細胞に導入する。そして、得られる細胞を例えば静脈内、動脈内等に全身投与する。
【0046】
本発明の薬剤は、安全とされている投与量の範囲内において、ヒトを含む哺乳動物に対して、必要量(有効量)が投与される。本発明の薬剤の投与量は、剤型の種類、投与方法、患者の年齢や体重、患者の症状等を考慮して、最終的には医師または獣医師の判断により適宜決定することができる。また、siRNAまたはshRNAを目的の組織または器官に導入するために、市販の遺伝子導入キット(例えばアデノエクスプレス:クローンテック社)を用いることもできる。
【0047】
また本発明は、本発明のRNAもしくはDNA、または本発明の薬剤を個体(例えば、患者等)もしくは細胞組織へ投与する工程を含む、クローン病、潰瘍性大腸炎の治療方法に関する。
【0048】
本発明の方法における個体とは、好ましくはヒトであるが、特に制限されず、非ヒト動物であってもよい。
【0049】
個体への投与は、一般的には、例えば、内視鏡を用いた局所投与(例えば、大腸もしくは直腸粘膜下への投与)、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射など当業者に公知の方法により行うことができる。投与量は、対象者(患者等)の体重や年齢、投与方法などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。
【0050】
さらに本発明は、本発明のRNAもしくはDNA、または本発明の薬剤についての、クローン病、潰瘍性大腸炎の治療剤の製造における使用に関する。
【0051】
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、本実施例において使用した「抗CHST15 siRNA」は、配列番号:3および4に記載されたRNAがハイブリダイズした構造のsiRNAである。
【0053】
〔目的〕
Dextran sulfate sodium (DSS)で誘発した慢性大腸炎モデルマウスに対する抗CHST15 siRNAの治療効果を検討した。本モデルは粘膜層ならびに粘膜下層に炎症性線維化病変を示すモデルであり、クローン病患者で認められる粘膜下層の肥厚を伴う炎症性線維化病変と合致する事から、同病変に対する治療効果の評価が可能である。
【0054】
〔方法〕
2.5% DSSの摂取開始から6日目(Day 5)より通常飲水に変更し、7日目(Day 6)にマウス大腸体積当たり25 nM、250 nM、2500 nMの抗CHST15 siRNAを、大腸粘膜下に投与した(図1)。12日目(Day 11)と20日目(Day 19)に剖検を行い、CHST15遺伝子発現及び大腸ハイドロキシプロリン量の測定を行った。試験条件の詳細を、以下の表1〜6に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
【表4】
【0059】
【表5】
【0060】
【表6】
【0061】
試験デザインの概略は図1の通りである。具体的には、まずC57BL/6Jマウスに2.5% DSS溶液 (低用量の抗CHST15 siRNA、中用量の抗CHST15 siRNA、高用量の抗CHST15 siRNA、対照及び陰性対照各群)、または精製水 (無処置)をDay0〜Day5まで投与した。
体重スコア、下痢便スコア、血便スコアをDay0〜Day6の間、毎日観察した。体重スコア、下痢便スコア及び血便スコアは、それぞれ表7、8、9に従い算出し、その合計値をDisease Activity Score(DAI)とした。一般状態はDay0〜Day19の間、毎日観察した。
【0062】
【表7】
【0063】
【表8】
【0064】
【表9】
【0065】
投与日(Day 6)及び屠殺時(Day11及びDay19)に、内視鏡を用いて全ての動物の写真を撮影した。大腸炎に対する抗CHST15 siRNAの効果を確認するために各個体について肛門部より0.5 cm、1.0 cm、1.5 cmの写真を3枚撮影した。Day 6及びDay 19の全ての写真について、Segmental SES-CDスコア法に従ってスコア付けをした。SES-CDスコアは感度の高い内視鏡インデックスとして開発され、臨床診断に使用されている。Segmental SES-CDスコアの基準は表10の通りである。
【0066】
【表10】
【0067】
今回の試験において、肛門から0.5〜1.5 cmの大腸部位でのSegemtal SES-CDスコアによる評価では、総点は12点であった。
【0068】
〔Day 11及びDay19での最終的観察〕
1. 採血方法
以下の表11の条件にて採血を行った。
【0069】
【表11】
【0070】
2. 遺伝子発現解析の方法
(1)RNA抽出
遺伝子発現解析用の直腸サンプルをRNAlater(Lot No. 108K0483、SIGMA Alderich)に浸漬し、4℃にて保存した。このサンプルをRNAiso Plus(Takara)を用いて、ホモジナイズし、フェノール/クロロホルム処理後、採取したlysateをRNA fast pure kit(Lot No. 1001、Takara)のカートリッジに注入し、室温で8000 x g、1分間の遠心によりカートリッジに核酸を吸着させた。カートリッジに10% EtOH WB溶液 750 μLを注入し、室温で8000 x g、 1分間の遠心によりカートリッジを洗浄。EB溶液30 μLを注入し、室温で4分間インキュベートした後、室温で8000 x g、1分間の遠心により、カートリッジよりtotal RNAを溶出。得られたtotal RNAの吸光度測定値よりtotal RNA濃度を算出した(1 OD=40 μg/mL total RNA)。
【0071】
(2)逆転写反応及びリアルタイムRT-PCR反応
Total RNA溶液を1000 ng/μLに希釈して定量用サンプルとし、random 6 merプライマーを用いて逆転写反応を下表に示す反応条件で行った。得られたcDNAを鋳型に標的遺伝子(マウスCHST15)に対するリアルタイムPCR用プライマーを用いて、相対定量リアルタイムRT-PCRを行った。検量線用に陰性対照群のcDNAを使用して、10 ng/μLから4倍の希釈系列を作製した。また、マウスβアクチンに対するプライマーを用いて、同一サンプルを同様に測定した。マウスCHST15遺伝子の発現については、βアクチン発現量で補正し、無処置群を1とした相対発現量で示した。リアルタイムRT-PCR反応は、SYBR Premix ExTaq II (Perfect Real Time)のプロトコールに従い、リアルタイムRT-PCR装置Thermal Cycler Dice Real Time Systemを用いて表12〜13に示す反応条件で行った。
【0072】
【表12】
【0073】
【表13】
【0074】
3. ハイドロキシプロリン測定の方法
ハイドロキシプロリン測定用の直腸サンプルを計量後、2N NaOHを添加し、Block incubator (ASTEC)にて65℃で10分間加熱処理を行った。得られた腸溶解物より、10 μLをBCA assay kit (Lot No. LD144450、Thermoscientific)を用いてタンパク量を測定し、残りを121℃、20分間オートクレーブ処理して、熱アルカリ分解を行った。熱アルカリ分解サンプルに6N HClを添加し、121℃、20分間オートクレーブ処理して加水分解後、活性炭-4N NaOH溶液、酢酸-クエン酸緩衝液を添加して中和した。得られたサンプルを遠心し、上清を回収した。得られた上清にクロラミンT試薬を加えて混和し、室温で25分間反応させ、続いてエールリッヒ試薬を加えて混和し、65℃、20分間加熱、その後5分間氷冷した。4℃にて遠心後、得られた上清150 μLを96wellプレートに分注し、Power wave XS (Biotek)を用いて560 nmの吸光度を測定した。サンプル中のハイドロキシプロリン量は、ハイドロキシプロリンの標準溶液を用い作製した検量線より4-parametric法を用いて、算出した。得られたハイドロキシプロリン量をタンパク質濃度で補正した。
【0075】
〔統計解析〕
試験結果は平均値 ± SDで表示した。全ての検定には、Bonferroni multiple comparison test (PRISM software)を使用した。P <0.05の場合に統計学的に有意とした。
【0076】
〔成績〕
1. 一般症状
無処置群以外の全ての群で、Day 1〜2以降に立毛が見られた。全個体に試験期間中、病態以外の一般症状の異常は見られなかった。
【0077】
2. 遺伝子発現解析図2
無処置群(N)と比較して、対照群及び陰性対照群(C)においては、Day 11およびDay 19ともにCHST15遺伝子の発現上昇が認められた。抗CHST15 siRNA投与群においては、陰性対照群の発現量と比較して、CHST15遺伝子発現の低下が認められた。Day 19においては、濃度依存性の傾向も認められた。
無処置群(N)におけるCHST15遺伝子発現量をベースライン(0%)として、陰性対照群(C)の平均値を100%と設定した時の抗CHST15 siRNAの平均ノックダウン効率(%)は表14の通りである。
【0078】
【表14】
【0079】
3. ハイドロキシプロリン測定図3
無処置群(N)と比較して、対照群及び陰性対照群(C)においては、Day 11ならびにDay 19ともに大腸ハイドロキシプロリン量の増加傾向が認められた。Day 19において、抗CHST15 siRNA投与群(250 nM及び2500 nM)は大腸ハイドロキシプロリン量の低下が認められた。濃度依存性の傾向も認めていた。
陰性対照群(C)における大腸ハイドロキシプロリン量の平均値を100%と設定した時の抗CHST15 siRNAによる平均低下率(%)は表15の通りである。
【0080】
【表15】
【0081】
4. Segmental SES-CDスコア図4
陰性対照群においては、Day 6と比してDay 19でSegmental SES-CDスコアの減少傾向が認められた。Day 19においては、全濃度の抗CHST15 siRNA投薬群は陰性対照群よりもSegmental SES-CDスコアの有意な低下が認められた。濃度依存性は明確ではなかった。
【0082】
〔結論〕
2.5% DSSで誘発した慢性大腸炎モデルマウスにおいて、大腸粘膜下に投与した抗CHST15 siRNAの25、250、2500 nMの投与用量では、明確な濃度依存性を示さなかったものの、CHST15の遺伝子発現量の低下を認めた。抗CHST15 siRNAの250、2500 nMではDay 19における大腸ハイドロキシプロリン含量の低下が認められ、標的遺伝子であるCHST15遺伝子発現抑制による、抗線維化効果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の抗CHST15 siRNAは、大腸におけるCHST15の遺伝子発現抑制及びハイドロキシプロリン量の低下効果を示した。また、臨床的に最重要な観察項目であるSegmental SES-CDスコアの著明な抑制効果を示した。この結果より、本発明の抗CHST15 siRNAは慢性大腸炎モデルマウスにおける炎症と線維化に基づく内視鏡病変の改善に明確な有効性を示す事が示唆された。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]