特許第6106695号(P6106695)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6106695乳風味の濃厚なフレッシュクリームの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6106695
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】乳風味の濃厚なフレッシュクリームの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 13/12 20060101AFI20170327BHJP
   A23C 9/14 20060101ALI20170327BHJP
   A23C 9/15 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
   A23C13/12
   A23C9/14
   A23C9/15
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-553129(P2014-553129)
(86)(22)【出願日】2013年12月16日
(86)【国際出願番号】JP2013083634
(87)【国際公開番号】WO2014098034
(87)【国際公開日】20140626
【審査請求日】2015年12月1日
(31)【優先権主張番号】特願2012-275827(P2012-275827)
(32)【優先日】2012年12月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】辻 直樹
(72)【発明者】
【氏名】横山 茜
【審査官】 森井 文緒
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/054707(WO,A1)
【文献】 特開平06−054648(JP,A)
【文献】 特開平08−205770(JP,A)
【文献】 特表平08−505774(JP,A)
【文献】 米国特許第02981626(US,A)
【文献】 国際公開第94/024878(WO,A1)
【文献】 特開昭50−018661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C 1/00−23/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
DWPI(Thomson Innovation)
Japio−GPG/FX
FSTA(STN)
BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料乳を遠心分離し,脂肪率が51質量%以上65質量%以下の分離クリームを得る分離工程と,
前記分離クリームに脱脂濃縮乳及び脱脂粉乳のいずれか又は両方を添加し,脂肪率が45質量%以上50質量%以下であり,無脂乳固形分量が6質量%以上15質量%以下の希釈クリームを得る希釈工程と,
を含む,フレッシュクリームの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のフレッシュクリームの製造方法であって,
前記希釈工程は,前記分離クリームに脱脂濃縮乳を添加し,脂肪率が45質量%以上50質量%以下であり,無脂乳固形分量が6質量%以上15質量%以下の希釈クリームを得る工程である,
フレッシュクリームの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のフレッシュクリームの製造方法であって,
前記希釈工程の後に,
前記希釈クリームを殺菌する殺菌工程を更に含む,
フレッシュクリームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,脱脂濃縮乳や脱脂粉乳を用いても,塩味が強調されない,乳風味の濃厚なフレッシュクリーム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2008−109940号公報(下記特許文献1)には,生乳を膜濃縮処理した後に,遠心分離を行うクリームの製造方法が開示されている。この文献には,膜濃縮処理の例とし,RO(逆浸透)膜,NF(ナノろ過)膜,及びUF(限外ろ過)膜を用いた,ろ過処理が開示されている。そして,この文献には,ナノろ過膜を用いて,膜濃縮処理を行うことで,水,カリウム,ナトリウムを低減できる点が開示されている(段落[0016])。また,この文献の実施例1では,無脂乳固形分(SNF)濃度が8.9%の生乳をナノろ過膜処理し,SNF濃度が13.4%の濃縮乳を得て,この濃縮乳を遠心分離して,クリームを得た実施結果が開示されている(段落[0027])。この文献の実施例1において得られたクリームは,脂肪の含有量が47.5%であり,無脂乳固形分の含有量は7%であるとされている。
【0003】
特開2002−51699号公報(下記特許文献2)には,生乳を遠心分離した後に,逆浸透(RO)膜処理する加工乳の製造方法が開示されている。
【0004】
特開2002−253116号公報(下記特許文献3)には,原料乳を遠心分離した後に,膜処理することで,無脂乳固形分濃度やカルシウム濃度を高め,ナトリウム濃度を軽減する加工乳の製造方法が開示されている。この文献には,無脂乳固形分を10重量%以上12重量%以下で含み,カルシウムとナトリウムとの濃度比が2.5以上4以下である加工乳が開示されている(段落[0009])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−109940号公報
【特許文献2】特開2002−51699号公報
【特許文献3】特開2002−253116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に,バターでは,有塩バターのように,塩味が強調されることで,風味が良くなると考えられ,バターを製造する際に,脱脂濃縮乳や脱脂粉乳をそのまま用いても特に問題ないと考えられていた。一方,フレッシュクリームでは,塩味を増すことで,風味が悪くなると考えられ,フレッシュクリームを製造する際に,脱脂濃縮乳や脱脂粉乳をそのまま用いると,脱脂濃縮乳や脱脂粉乳に由来する塩味が強調されるため,脱塩処理などを行う必要があると考えられていた。
【0007】
本発明は,脱脂濃縮乳や脱脂粉乳を用いても,塩味が強すぎない,乳風味の濃厚なフレッシュクリーム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は,基本的には,乳脂肪分を高めに調整した後に,脱脂濃縮乳又は脱脂粉乳を添加し,無脂乳固形分(SNF)の含有量を高めると,脱脂濃縮乳又は脱脂粉乳に由来する塩味が抑えられ,乳風味の濃厚なフレッシュクリームを得ることができるという知見に基づく。
【0009】
本発明の第1の側面は,フレッシュクリームの製造方法に関する。このフレッシュクリームの製造方法は,分離工程(S101)と,希釈工程(S102)を含む。この方法は,殺菌工程(S103)を含め,フレッシュクリームの製造方法における公知の工程を適宜含んでもよい。分離工程(S101)にて,乳脂肪分を高めた後,希釈工程(S102)にて,高SNFかつ低脂肪の乳成分を混入することで,高SNFかつ低脂肪の乳成分の塩味を,脂肪分が抑える結果,乳風味の濃厚なフレッシュクリームを得ることができる。
【0010】
分離工程(S101)は,原料乳を遠心分離し,脂肪率が51質量%以上65質量%以下の分離クリームを得る工程である。分離クリームとは,分離工程を経て,脂肪分が高められた原料クリームを意味する。
【0011】
希釈工程(S102)は,分離クリームに脱脂濃縮乳及び脱脂粉乳のいずれか又は両方を添加し,脂肪率が45質量%以上50質量%以下であり,無脂乳固形分量が6質量%以上15質量%以下の希釈クリームを得る工程である。希釈クリームとは,希釈工程により,脂肪率が低減された原料クリームを意味する。希釈工程の好ましいものは,風味や製造特性(混合の容易さ)などの観点から,分離クリームに脱脂濃縮乳を添加することであって,脂肪率が45質量%以上50質量%以下であり,無脂乳固形分量が6質量%以上15質量%以下の希釈クリームを得るものである。
【0012】
殺菌工程(S103)は,希釈クリームを殺菌する工程である。殺菌工程は,通常,希釈クリームを一定時間で一定温度に保持することで,希釈クリームに含まれる一般細菌などを死滅又は軽減させる工程である。通常,殺菌工程の後には,その殺菌された希釈クリームを冷却する。
【0013】
本発明の第2の側面は,上記した,いずれかの製造方法により製造されたフレッシュクリームに関する。このフレッシュクリームでは,通常や従来のフレッシュクリームと比べて,脂肪率がそれほど大きく変わらない一方で、無脂乳固形分量が増強されている。このとき,本来であれば,このフレッシュクリームでは,塩味が強くて,美味しくないはずであるにもかかわらず,乳風味が濃厚で,美味しくなっている。これは,脱脂濃縮乳や脱脂粉乳に由来する塩成分が,フレッシュクリームの脂肪成分により,うまく取り囲まれており,その結果,塩味が抑えられているものと考えられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば,乳風味の濃厚なフレッシュクリーム及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のフレッシュクリームの香気分析の結果を示す図面に替わるグラフである。
図2】本発明のフレッシュクリームの官能評価の結果を示す図面に替わるグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の第1の側面は,フレッシュクリームの製造方法に関する。このフレッシュクリームの製造方法は,分離工程(S101)と,希釈工程(S102)を含む。この方法は,殺菌工程(S103)を含め,フレッシュクリームの製造方法における公知の工程を適宜含んでもよい。フレッシュクリームは,例えば,特許第4736893号公報や,本明細書に記載した公報に開示されているように公知のものである。乳等省令では,フレッシュクリームは,「生乳,牛乳または,特別牛乳から乳脂肪分以外の成分を取り除いたもの」として定義される。
【0017】
フレッシュクリームを製造する一般的な方法は,既に知られている。本発明では,既に知られたフレッシュクリームの製造装置を用いて,当業者に公知の条件を適宜採用して,フレッシュクリームを製造できる。以下,フレッシュクリームを製造する方法について説明する。ただし,本発明は,以下の例に限定されるものではなく,以下に説明する例から,当業者に自明な範囲で適宜修正したものも含む。
【0018】
本発明の第1の側面のフレッシュクリームの製造方法は,分離工程(S101)にて,乳脂肪分を高めた後,希釈工程(S102)にて,高SNFかつ低脂肪の乳成分を混入することで,高SNFかつ低脂肪の乳成分の塩味を,脂肪分が抑える結果,乳風味の濃厚なフレッシュクリームを得ることができる。
【0019】
本発明のフレッシュクリームの製造方法に用いる原料乳は,生乳(未殺菌の乳)であってもよいし,均質化していない乳(殺菌済みの乳)であってもよい。そして,乳の例は,牛乳である。
【0020】
分離工程(S101)は,原料乳を遠心分離し,分離クリームを得る工程である。分離クリームとは,分離工程を経て,脂肪分が高められた原料クリームを意味する。この分離クリームの脂肪率は,希釈クリーム最終製品となるフレッシュクリームの塩味,コク味,乳風味などの風味面や,乳化安定性,ホイップ時間,オーバーランなどの物性面などを勘案して設定される。分離クリームの脂肪率は,51質量%以上65質量%以下であり,好ましくは52質量%以上60質量%以下であり,より好ましくは53質量%以上58質量%以下である。遠心分離は,公知の遠心分離機を用いて行えばよい。遠心分離の条件は,公知である。遠心分離の条件の例は,1000G以上10000G以下で1秒以上10分以下ある。遠心分離の回転速度や遠心分離時間を調整することで,実際に得られる分離クリームに含まれる脂肪率,無脂乳固形分量,水分量などを調整することができる。
【0021】
希釈工程(S102)は,分離クリームに脱脂濃縮乳及び脱脂粉乳のいずれか又は両方を添加し,希釈クリームを得る工程である。希釈クリームとは,希釈工程により,脂肪率が低減された原料クリームを意味する。この希釈クリームの脂肪率は,最終製品となるフレッシュクリームの塩味,コク味,乳風味などの風味面や,乳化安定性,ホイップ時間,オーバーランなどの物性面などを勘案して設定される。希釈クリームの脂肪率は,45質量%以上50質量%以下であり,好ましくは46質量%以上49質量%以下であり,より好ましくは47質量%以上48質量%以下である。また,希釈クリームの無脂乳固形分量は,6質量%以上15質量%以下であり,好ましくは7質量%以上13質量%以下であり,より好ましくは8質量%以上12質量%以下である。希釈工程の好ましいものは,風味や製造特性(混合の容易さ)などの観点から,分離クリームに脱脂濃縮乳を添加する工程であって,脂肪率が45質量%以上50質量%以下(好ましくは46質量%以上49質量%以下,より好ましくは47質量%以上48質量%以下)であり,無脂乳固形分量が6質量%以上15質量%以下(好ましくは7質量%以上13質量%以下,より好ましくは8質量%以上12質量%以下)の希釈クリームを得るものである。
【0022】
脱脂濃縮乳には,部分脱脂濃縮乳が含まれるが,ホエー濃縮液などであってもよい。脱脂粉乳には,部分脱脂粉乳が含まれるが,ホエー粉,ホエイタンパク質濃縮物(WPC),ホエイタンパク質分離物(WPI),カゼイン,ナトリウムカゼイネート,カルシウムカゼイネート,ミルクタンパク質濃縮物(MPC)などであってもよい。これらのうち,自然な乳風味を効果的に向上する観点から,脱脂濃縮乳,部分脱脂濃縮乳,脱脂粉乳,部分脱脂粉乳が好ましい。
【0023】
殺菌工程(S103)は,希釈クリームを殺菌し,希釈クリームに含まれる一般細菌などを死滅又は軽減させる工程である。本発明の殺菌工程には,一般細菌などを完全に死滅又は軽減させることのほか,滅菌工程なども含まれる。殺菌方法の例は,直接加熱殺菌(インジェクション式,インフュージョン式),間接加熱殺菌(プレート式,チューブラー式,シェル&チューブ式,表面掻き取り式),内部加熱殺菌(通電式,マイクロ波式,高周波式,遠赤外線式),過熱水蒸気殺菌,レトルト殺菌,紫外線殺菌,高圧殺菌,電解磁場殺菌,放射線殺菌,及び化学的殺菌を含めて,公知の方法である。希釈クリームを一定時間で一定温度に保持することで,希釈クリームに含まれる一般細菌などを殺菌する場合,超高温殺菌(UHT)を行っても,高温短時間殺菌法(HTST)を行ってもよい。通常,殺菌工程の後には,その殺菌された希釈クリームを冷却する。超高温殺菌(UHT)は,例えば,110℃以上150℃以下(好ましくは120℃以上140℃以下,より好ましくは120℃以上130℃以下)で,1秒以上30秒以内(好ましくは1秒以上10秒以下,より好ましくは1秒以上5秒以下)に殺菌する処理である。高温短時間殺菌法(HTST)は,例えば,60℃以上100℃以下(好ましくは70℃以上100℃以下,より好ましくは72℃以上75℃以下)で,5秒以上5分以下(好ましくは5秒以上1分以下,より好ましくは10秒以上30秒以下)に殺菌するものである。
【0024】
本発明の第2の側面は,上記した,いずれかの製造方法により製造されたフレッシュクリームに関する。このフレッシュクリームでは,通常や従来のフレッシュクリームと比べて,脂肪率がそれほど大きく変わらない一方で、無脂乳固形分量が増強されている。このとき,本来であれば,このフレッシュクリームでは,塩味が強くて,美味しくないはずであるにもかかわらず,乳風味が濃厚で,美味しくなっている。これは,脱脂濃縮乳や脱脂粉乳に由来する塩成分が,フレッシュクリームの脂肪成分により,うまく取り囲まれており,その結果,塩味が抑えられているものと考えられる。
【実施例】
【0025】
[実施例1]
生乳を脂肪率が55質量%となるように遠心分離し,原料クリームを得た。そして,この原料クリームに,無脂乳固形分量が33質量%の脱脂濃縮乳を混合し,脂肪率が47.5質量%となるように調整し,希釈クリームを得た。その後,この希釈クリームを殺菌(120℃,15秒)してから,冷却(5℃)し,フレッシュクリームを得た。この得られたフレッシュクリームは,脂肪率を47質量%,無脂乳固形分量を8質量%の割合で含んでいた。
【0026】
[比較例1]
生乳を脂肪率が47.5質量%となるように遠心分離し,原料クリームを得た。この原料クリームを殺菌(120℃,15秒)してから,冷却(5℃)し,フレッシュクリームを得た。この得られたフレッシュクリームは,脂肪率を47質量%,無脂乳固形分量を4.7質量%の割合で含んでいた。
【0027】
実施例1及び比較例1で得られたフレッシュクリームの物性を比較した。その結果を表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
乳化安定性は,フレッシュクリーム(100g)をビーカー(200ml)に入れ,常温(25℃)に維持して,120回/分で振とうしたときに,比較例1の対照品が凝固する所要時間を100として算出し,相対的な数値で評価した。
【0030】
ホイップ時間は,フレッシュクリームに砂糖を7質量%となるように混合し,ハンドミキサーを使用してホイップし,最適なホイップ(起泡)状態に達する所要時間で表現した。
【0031】
オーバーランは,フレッシュクリームの容積の増加率(増加割合)として,次式により算出した。
【0032】
【0033】
実施例1のフレッシュクリームでは,比較例1のフレッシュクリーム(対照品)と比べて,物性面において,粘度が幾らか高く感じられた。しかしながら,実施例1のフレッシュクリームでは,対照品と比べて,乳化安定性,ホイップ時間,オーバーランが僅かに小さい数値を示すものの,物性面において,全体として良好であった。また,実施例1のフレッシュクリームでは,対照品と比べて,風味面において,濃厚な乳風味(ミルク感)を強く感じられて良好であった。そして,実施例1のフレッシュクリームでは,対照品と比べて,総合評価が良好であった。
【0034】
香気成分の分析
実施例1及び比較例1で得られたフレッシュクリームについて,香気成分を分析した。 その結果を表2及び図1に示す。それぞれの試料の2.5gを20mlのバイアル瓶に採取し,内標準としてメチルイソブチルケトン50ngを添加した後に密栓し,60℃で40分間に加温した。ヘッドスペースに揮発した成分を固相マイクロファイバー(SUPELCO
StableFlex Carboxene/PDMS,1センチメートル)に補修し,GC/MS分析に供した(n=3)。GC/MSの分析条件は,以下の通りであった。なお,各化合物の検出面積では,硫黄化合物(DMS,DMDS,DMTS)については,選択イオンモニタリング(SIM)法により測定し,その他の化合物については,トータルイオンモニタリング法により測定した。
【0035】
カラム:DB−WAX
昇温:40度(5min)−15度/min−250度(10min)
モード:SIM/TIM同時測定
硫黄化合物のSIM抽出イオン:62,94,126(m/z)
【0036】
【表2】
【0037】
表2及び図1から,生乳に由来する香気成分では,比較例1のフレッシュクリームが多いことが分かった。一方,加熱酸化に由来する香気成分では,実施例1のフレッシュクリームが多いことが分かった。つまり,実施例1のフレッシュクリームでは、非常に重厚な香気を醸し出していた。これは,実施例1のフレッシュクリームでは,比較例1のフレッシュクリームに比べて,ミネラル成分やタンパク質成分を多く含むことに由来すると考えられる。
【0038】
官能評価
実施例1で得られたフレッシュクリームについて,専門パネルの24人で官能評価した。その結果を,表3及び図2に示す。
【0039】
【表3】
【0040】
表3及び図2から,実施例1のフレッシュクリームでは,非常に高い濃厚感を呈することが分かった。
【0041】
[実施例2]
実施例1のフレッシュクリームを用いて,クリームブリュレを製造した。実施例1のフレッシュクリームを290g,牛乳を70g,卵黄を90g,グラニュー糖を50gとして,合計で500gの原料を用いた。卵黄にグラニュー糖を混ぜて,ハンドミキサーで全体が白く曇るまで攪拌した。牛乳を50℃に温めて,卵黄とグラニュー糖の攪拌物およびフレッシュクリームを添加し,よく混ぜた。この得られた混合物をココット皿に注ぎ入れた。その後,ココット皿ごとで,上火を150℃,下火を160℃に余熱したオーブンで,40〜50分に保持して焼いた。このようにしてクリームブリュレを得た。
【0042】
この得られたクリームブリュレでは,塩味が強いということはなく,風味に優れた良好なものであった。実施例1のフレッシュクリームをクリームブリュレの原料として使用しても,濃厚な乳風味が維持された。
【0043】
[実施例3]
実施例1のフレッシュクリームを用いて,ムースを製造した。実施例1のフレッシュクリームを200g,牛乳を248.5g,グラニュー糖を42.5g,ゼラチンを9gとして,合計で500gの原料を用いた。牛乳を70℃に温めて,グラニュー糖とゼラチンを添加し,よく混ぜた。この得られた混合物を氷水で冷やし,とろみが出るまで,ゆるやかに攪拌した。この得られた攪拌物に,半立てまで泡立てたフレッシュクリームを添加してから,容器に充填した。その後,容器ごとで,冷蔵庫(5℃)に保持して冷やした。このようにして,ムースを得た。
【0044】
この得られたムースでは,塩味が強いということはなく,風味に優れた良好なものであった。実施例1のフレッシュクリームをムースの原料として使用しても,濃厚な乳風味が維持された。
図1
図2