(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6106783
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】等時性修正部を有する、微細加工可能材料から製造したひげぜんまい
(51)【国際特許分類】
G04B 17/06 20060101AFI20170327BHJP
G04B 18/06 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
G04B17/06 Z
G04B18/06
【請求項の数】16
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-77897(P2016-77897)
(22)【出願日】2016年4月8日
(65)【公開番号】特開2016-206179(P2016-206179A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2016年4月8日
(31)【優先権主張番号】15163808.7
(32)【優先日】2015年4月16日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504341564
【氏名又は名称】モントレー ブレゲ・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィデ・サルチ
(72)【発明者】
【氏名】シルヴァン・マレシャル
(72)【発明者】
【氏名】ポリクロニス・ナキス・カラパティス
【審査官】
深田 高義
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第03599423(US,A)
【文献】
欧州特許出願公開第02104006(EP,A1)
【文献】
欧州特許出願公開第02233989(EP,A1)
【文献】
スイス国特許出願公開第00045160(CH,A3)
【文献】
スイス国特許出願公開第00704677(CH,A3)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 17/06
G04B 18/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の段(10)を備える、微細加工可能材料から製造した計時器ひげぜんまい(1)であって、各前記段(10)は、渦巻きぜんまいを形成し、全てが互いに平行であり、前記段(10)のそれぞれの内側端部(20)で共通の軸コレット又は同じ天真に互いに組み付けるように構成し、各前記段(10)は、前記段(10)のそれぞれの外側端部(30)に、ひげぜんまいスタッドへの特定の取付け手段(40)を含み、前記特定の取付け手段(40)は、他の前記段の前記取付け手段(40)とは別個であり、前記取付け手段(40)は、ひげぜんまいスタッドに対する位置調節手段(50)を備え、前記位置調節手段(50)も、他の前記段の前記位置調節手段(50)とは別個であり、前記取付け手段(40)及び前記位置調節手段(50)は、前記ひげぜんまい(1)のための内蔵等時性修正手段を共に形成する、計時器ひげぜんまい(1)であって、前記段(10)の前記位置調節手段(50)は、スタッド(3)を保持するようにそれぞれ構成した筐体(6)を備える複数の個別の位置調節位置(60)を含み、
前記段(10)の前記位置調節手段(50)は、前記個別の位置調節位置(60)を画定する複数の弾性マルチアーム(70)を含む
ことを特徴とする、計時器ひげぜんまい(1)。
【請求項2】
前記取付け手段(40)は、前記位置調節手段(50)の位置に応じて変わる可変剛性のものであることを特徴とする、請求項1に記載の計時器ひげぜんまい(1)。
【請求項3】
前記段(10)の前記位置調節手段(50)は、互いに異なる剛性である複数の弾性マルチアーム組立体(70)を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の計時器ひげぜんまい(1)。
【請求項4】
前記段(10)の前記位置調節手段(50)は、互いに同じ剛性である複数の弾性マルチアーム組立体(70)を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の計時器ひげぜんまい(1)。
【請求項5】
前記弾性マルチアーム組立体(70)は、それぞれ、第1の内側領域上に少なくとも1つの内側取付け点、及び前記ひげぜんまい(1)の枢動軸から前記第1の領域よりも離れている第2の外側領域上に少なくとも1つの外側取付け点を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の計時器ひげぜんまい(1)。
【請求項6】
前記弾性マルチアーム組立体(70)は、それぞれ、前記ひげぜんまい(1)の外側を向いたU字形筐体を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の計時器ひげぜんまい(1)。
【請求項7】
前記個別位置(60)は、前記ひげぜんまい(1)の枢動軸に対して、4°から12°の間にある一定のピッチで角度がずれることを特徴とする、請求項1に記載の計時器ひげぜんまい(1)。
【請求項8】
少なくとも2つの前記段(10)は、反対方向に巻いたぜんまいを含むことを特徴とする、請求項1に記載の計時器ひげぜんまい(1)。
【請求項9】
第1の方向に巻かれた全ての前記段(10)の合計剛性は、前記第1の方向とは反対の第2の方向に巻かれた全ての前記段(10)の合計剛性に等しいことを特徴とする、請求項8に記載の計時器ひげぜんまい(1)。
【請求項10】
各前記段(10)は、角度間欠送り手段を含み、前記角度間欠送り手段は、他の前記段(10)内に備えた相補形の間欠送り手段と相補的に協働するように構成し、一定で、再現可能な形状で複合前記ひげぜんまい(1)を一緒に形成することを特徴とする、請求項1に記載の計時器ひげぜんまい(1)。
【請求項11】
脱進機機構(200)であって、請求項1から10のうち一項に記載の少なくとも1つの前記ひげぜんまい(1)に結合したてんぷ(2)を備える少なくとも1つのぜんまい付きてんぷ組立体(100)を含み、少なくとも1つの前記段(10)の前記外側端部(30)を所定位置に締結する少なくとも1つのスタッド(3)を備える脱進機機構(200)。
【請求項12】
少なくとも1つの同じ前記スタッド(3)は、異なる前記段(10)のいくつかの前記外側端部(30)の取付けを目的とすることを特徴とする、請求項11に記載の脱進機機構(200)。
【請求項13】
脱進機機構(200)は、前記ひげぜんまい(1)の軸に平行な1つの真直ぐな前記スタッド(3)を含むことを特徴とする、請求項12に記載の脱進機機構(200)。
【請求項14】
少なくとも1つの前記スタッド(3)は、異なる熱伸び係数をもつ2つの材料(3X、3Y)により2種の金属を付着させて製造し、前記ひげぜんまい(1)のコイルの方向に変形するように構成し、前記ひげぜんまい(1)のうち1つの端部は、前記スタッドによって保持することを特徴とする、請求項11に記載の脱進機機構(200)。
【請求項15】
請求項11に記載の少なくとも1つの脱進機機構(200)を含む機械式計時器ムーブメント(300)。
【請求項16】
請求項15に記載の少なくとも1つの機械式計時器ムーブメント(300)を含む時計(400)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の段を備える、微細加工可能材料から製造した計時器ひげぜんまいに関し、それぞれの段は、渦巻きぜんまいを形成し、全てが互いに平行であり、それぞれの内側端部で共通の軸コレット又は同じ天真に互いに組み付けるように構成し、各前記段は、段のそれぞれの外側端部に、ひげぜんまいスタッドへの独自の取付け手段を含み、独自の取付け手段は、他の前記段の取付け手段とは別個であり、前記取付け手段は、ひげぜんまいスタッドに対する位置調節手段を備え、これら位置調節手段も、他の前記段の位置調節手段とは別個であり、前記取付け手段及び前記位置調節手段は、前記ひげぜんまいのための内蔵等時性修正手段を共に形成する。
【0002】
本発明は、そのようなひげぜんまいを含む脱進機機構にも関する。
【0003】
本発明は、少なくとも1つのひげぜんまいの外側端部をひげぜんまいスタッドに取り付けた、少なくとも1つのぜんまい付きてんぷ組立体を含む脱進機機構にも関する。
【0004】
本発明は、少なくとも1つの脱進機機構を含む機械式計時器ムーブメントに関する。
【0005】
本発明は、少なくとも1つの機械式計時器ムーブメントを備える時計に関する。
【0006】
本発明は、微細加工可能材料から製造したひげぜんまい、及びより詳細には脱進機機構、を含む計時器機構の分野に関する。
【背景技術】
【0007】
シリコン、シリコン酸化物、DLC等の微細加工可能材料によるひげぜんまいの製作の新しい技術は、MEMS、DRIE、LIGA若しくは同様の方法により実装されるが、これらの技術は著しく進歩しており、このように製作したぜんまいは、
−形状的に、公称形状に非常に近く、従来技術の鉄鋼ぜんまいよりもかなりの整合性がある;
−塑性変形がないために、鉄鋼ぜんまいよりも安定した機械特性を有する;
−磁気がない;
−いくつかの段(特に二重ぜんまい)で製造できる及び/又は従来の鉄鋼ぜんまい技術と比較して末端湾曲部の精度を向上させて製造できる
といった重要な利点を有する。
【0008】
しかし、微細加工可能材料から製造したこの種のぜんまいの場合、微調節が大幅に制限される。というのは、ぜんまいには、組み立てた後に使用できる、平均振動数及び等時性を調節する別個のシステムがないためである。
【0009】
等時性勾配が有効長さの修正により変化した場合、対応するぜんまい付きてんぷ組立体の平均振動数も大きく変化するが、この場合、てんぷ車ねじの修正では、一般に、この誤差の補償には十分ではない。
【0010】
しかし、従来の鉄鋼ひげぜんまいは、間欠送り組立体の使用、及びひげぜんまいの塑性変形が可能であることのために、組み立てた後でさえ、ひげぜんまいの平均振動数及び等時性勾配に関して別個に調節できる。
【0011】
更に、製作システムは、極めて細心の注意を払った機械加工でさえ、約100万分の1規模の誤差が残るため、公称形状に十分に近いぜんまい付きてんぷを作製できず、等時性性能の向上を保証することができない。
【0012】
PORTESCAP名義の特許文献1は、二重ひげぜんまいを有する調整デバイスを記載しており、2つのひげぜんまいは、相互に温度補償するように構成される。
【0013】
ERNEST BOREL名義の特許文献2は、可動スタッドを有する間欠送り組立体を記載している。
【0014】
NIVAROX名義の特許文献3は、特にシリコンから製造した、共通のコレットを有する一体式二重ひげぜんまいを記載している。
【0015】
ULYSSE NARDIN名義の特許文献4は、ひげぜんまいを記載しており、このひげぜんまいの外側コイルは、横長開口を画定する2つの条片に分割され、この横長開口は、スタッド以外の調節部材を収容するためのものである。
【0016】
MHVJ名義の特許文献5は、特定のスタッド構成を有するトゥールビヨンを記載しており、このスタッド構成は、衝撃の際にひげぜんまいが横に変位するのを制限するように構成される。
【0017】
MONTRES INVAR名義の特許文献6は、2つの段が別個の外側コイルを有するひげぜんまいを記載している。
【0018】
NIVAROX名義の特許文献7は、位置を移動、調節可能なスタッドを有する脱進機機構を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】仏国特許2024511
【特許文献2】瑞国特許256274
【特許文献3】欧州特許2104006
【特許文献4】欧州特許2233989
【特許文献5】瑞国特許704677
【特許文献6】瑞国特許45160
【特許文献7】欧州特許2781967
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
したがって、本発明は、微細加工可能材料から製造したひげぜんまいの作製を提案するものであり、このひげぜんまいは、内蔵等時性調節手段を含む。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この目的で、本発明は、請求項1に記載のひげぜんまいに関する。
【0022】
本発明は、請求項12に記載の脱進機機構にも関する。
【0023】
本発明は、少なくとも1つのそのような脱進機機構を含む機械式計時器ムーブメントにも関する。
【0024】
本発明は、少なくとも1つのこの種の機械式計時器ムーブメントを含む時計にも関する。
【0025】
本発明の他の特徴及び利点は、添付の図面を参照しながら以下の詳細な説明を読めば明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】ひげぜんまいの軸に平行である単一の真直ぐなスタッドに対し第1の調節位置にある、本発明によるひげぜんまいの概略斜視図であり、ひげぜんまいは、ひげぜんまいの軸に平行である単一の真直ぐなスタッドと協働する2段のコイルを備え、各コイルの段は、その外側端部に、スタッド調節・取付け手段を含む。
【
図2】同じ第1の位置にある、2つの段が延在する面に平行な
図1のひげぜんまいの概略投影平面図である。
【
図3】第2の調節位置にある、同じひげぜんまいの
図1と同様の図である。
【
図4】
図3の第2の位置にある、同じひげぜんまいの
図2と同様の図である。
【
図5】2つの外側コイルを互いに関連付けて重ねた特定の調節位置にある、本発明によるひげぜんまいの概略斜視図であり、このひげぜんまいは、ひげぜんまいの軸に平行である単一の真直ぐなスタッドに取り付けた3段のコイルを含む。
【
図6】同じ特定の調節位置にある、3つの段が延在する面に平行な
図5のひげぜんまいの概略投影平面図である。
【
図7】2段のコイルを含む本発明によるひげぜんまいの別の変形形態の概略斜視図であり、調節・取付け手段はマトリックス構造体を形成し、これにより、各コイルに対する広範な調節の可能性を与える。コイルは自由状態で図示する。
【
図8】ひげぜんまいの軸に平行である単一の真直ぐなスタッドに対し特定の調節位置にある、2つの段が延在する面に平行な
図7のひげぜんまいの概略投影平面図である。
【
図9】各コイルが個別のスタッドと協働する位置にある、同じひげぜんまいの
図8と同様の図である。
【
図10】同じ特定の位置にある、2つの段が延在する面に平行な
図9のひげぜんまいの概略投影平面図である。
【
図11】
図5の3段のひげぜんまいと協働する単一のスタッドに加えられる応力の仕組みの概略図である。
【
図12】計時器ムーブメントを備える時計を表すブロック図であり、計時器ムーブメントは、本発明によるひげぜんまいを備えるスタッド・ひげぜんまい組立体を含む。
【
図13】ひげぜんまいに対し一方のスタッド相対位置にある、環状スタッド取付け具の概略平面詳細図である。
【
図14】ひげぜんまいに対しもう一方のスタッド相対位置にある、環状スタッド取付け具の概略平面詳細図である。
【
図15】ひげぜんまいに対し一方のスタッド相対位置にある、スタッド取付け具の概略平面詳細図であり、スタッド取付け具は、ひげぜんまいの突起を形成するブロックの空洞内にある。
【
図16】ひげぜんまいに対しもう一方のスタッド相対位置にある、スタッド取付け具の概略平面詳細図であり、スタッド取付け具は、ひげぜんまいの突起を形成するブロックの空洞内にある。
【
図17】そのような空洞内に保持したスタッド・タブの一例の斜視図である。
【
図18】そのような空洞内に保持したスタッド・タブの一例の斜視図である。
【
図19】2つの異なる熱状態T1及びT2において振動子の温度補償を達成するように構成した2種材料スタッドの概略断面図及び概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、限定はしないがシリコン又はシリコン及びシリコン酸化物を含む微細加工可能材料から製造した、計時器のひげぜんまい1に関する。
【0028】
このひげぜんまい1は、それぞれが渦巻きぜんまいを形成する複数の段10を含む。段10は、全て互いに平行であり、それぞれの内側端部20で共通の軸コレット(図示せず)に互いに組み付けるか又は同じ天真に一緒に組み付けるように構成し、この軸コレットは、それぞれの内側端部20A、20B、20C等を取り付ける管、又は同様の要素から構成できる。
【0029】
各段10は、微細加工可能材料から製造する。
【0030】
現況技術では、一定の実施形態にのみ適している特定の一変形形態では、ひげぜんまいの様々な段の外形は、自由状態で重なり、前記ひげぜんまい1は一体型である。
【0031】
たいていの場合、特に図面に示す実施形態では、各段10は、別個に製造し、最後のひげぜんまい1は、共通のコレット内へ組み付けるか又はてんぷ2上に直接組み付けることによって作製する。この場合、有利には、各段10は、角度間欠送り手段を含み、この角度間欠送り手段は、他の段内に備えた相補形の角度間欠送り手段と相補的に協働するように構成し、一定で完全に再現可能な形状を有する複合ひげぜんまい1を一緒に形成するようにする。
【0032】
本発明を、2つの段10A及び10Bを有する単純な事例で
図1から
図4及び
図7から
図10に示す。この特定の変形形態は、ほとんどの計時器適用例に適した十分な調節精度を提供する。当業者であれば、本発明をより多数の段に外挿する仕方は分かるであろう。
【0033】
図5及び
図6に示す1つの特定の適用例は、3つのひげぜんまいを含み、これらは、位置合せしない点、例えば互いから120°の点でコレットに取り付け、高さをずらす。
【0034】
図1から
図4及び
図7から
図10に示す、2つの段を有する本発明の単純な変形形態では、各段10、10A、10Bは、それぞれの内側端部30、ここでは30A、30Bに、独自のスタッド取付け手段40、ここでは、40A、40Bを含み、これらのスタッド取付け手段40は、前記他の段のスタッド取付け手段40とは別個である。
【0035】
図1から
図3を煩雑にしないために、必要に応じて、スタッド3、又は底板若しくは受けへの取付け具は、詳細に図示しない。
【0036】
本発明は、全ての重ねた段を協働させる単一のスタッド3を有する構成、及び1つの特定のスタッドが各段10に対応する構成の両方に使用できる。
図9及び
図10に示すのは、後者の変形形態である。例えば、受けと一体であるスタッド3Aは、ひげぜんまい1の上側段10Aと協働し、例えば、底板と一体である別のスタッド3Bは、ひげぜんまい1の下側段10Bと協働する。
【0037】
これらの取付け手段40、40A、40Bは、スタッド位置調節手段50、ここでは50A、50Bを含み、これらの位置調節手段も、他の段の位置調節手段とは別個である。
【0038】
したがって、各段を他の段とは別個に調節でき、他の段とは別個に取り付けることもできる。
【0039】
好ましくは、所与の段10のこれらの位置調節手段50は、多くの係数点として形成する複数の個別の位置調節位置60を含む。
【0040】
図面に示す単純で非限定的なバージョンでは、これらの個別の位置は、単一のスタッド3を保持するようにそれぞれ配置したU字形又は同様の筐体6に対応する。微細加工可能材料でひげぜんまいを製造すると、より複雑な形状が可能になる。こうした形状とは、特に、時計調節者又は最適な調節位置を決定するロボットが選択した筐体にスタッドを挿入する際に、可撓性変形可能壁の間で締め具を形成するオメガ字形又は同様の形状の筐体を有するものであり、これらの壁は、挿入後スタッドを確実に保持するように構成したものである。
【0041】
図1から
図6に示す実施形態では、位置調節手段50は、各段10A/B/Cに対し、関係するぜんまいの長さ部の片側のみにはしご構成で配設し、本質的には、関係する段の有用な長さ及び剛性の修正のために考案される。
【0042】
図7から
図10に示すより複雑な実施形態では、調節手段は、各段に、区画601Aから605A又は601Bから605Bと共に一種の格子又は網状組織をなすマトリックス構造体内にスタッドを位置決めする可能性をもたらし、区画601Aから605A又は601Bから605Bは、関係するぜんまいの長さ部の両側に、2つの実質的に平行な列で配設する。したがって、長さ部及び径方向位置の両方に作用して取付け点を選択することが可能である。より多くのマトリックス段及び列を有するより複雑な実施形態は、微細加工可能材料の使用のために容易に作製でき、制限要因となるのは、スタッドのアクセスしやすさ及び位置決め器具へのアクセスのみである。
【0043】
図8の例は、締め具のようにスタッド3を保持する段10Aの筐体604A及び段10Bの605Bと協働する単一のスタッド3を示す。
図10の例は、段10Aの筐体601が第1のスタッド3Aと協働する一方で、段10Bの筐体605Bが第2のスタッド3Bと協働することを示す。
【0044】
同じ例では、取付け手段40は、各区画に停止フックを含み、この停止フックは、U字又はH字形状で、主軸がぜんまいの長さ部に平行であり、関係する段10の戻りトルクに逆らって、関係するスタッドを固定するように構成する。調節操作の後、続いて、例えば接着剤接合によって筐体6をスタッド3に接合することが可能である。特定の有利な変形形態では、U字又は同様の形状の外形は、U字部をスタッド3上にスナップ嵌めする突起を含み、これにより接着剤接合を行う必要がなくなる。
【0045】
したがって、取付け手段40及び位置調節手段50は、ひげぜんまい1のための内蔵等時性修正手段を共に形成する。
【0046】
したがって、
図7から
図10は、取付け手段40が位置調節手段50の位置に応じて変わる可変剛性のものである特定の変形形態を示す。この変形形態では、所与の段10の位置調節手段50は、複数の弾性マルチアーム組立体70を含み、こうした複数の弾性マルチアーム組立体70も、上記した個別の位置調節位置60を画定し、筐体6を支持する。
【0047】
図7から
図10の特定の適用例では、弾性マルチアーム70は、互いに異なる剛性のものである。弾性マルチアーム70は、ここでは、ひげぜんまい1の作製方法により可能である、平行な可撓性アームにより示す。図面の特定の非限定的な事例では、弾性マルチアーム70は、3つの条片701A、704A、701B、次に2つの条片702A、702B、及び最後に1つの条片703A、703Bにより、次第に減少する剛性の群又は次第に増加する剛性の群で構成する。各段10の最も外側の区間の剛性は、最後の弾性マルチアームの剛性を選択することによって、任意に調節され、したがって、ひげぜんまい1全体の可変剛性の調節が可能であることを理解されたい。これらの弾性アームの剛性は、場合に応じて、図面の場合のように、関係する段の外側端部30から減少するように選択できるか、又はその逆も同様に選択できるか、又は別の様式で選択できる。
【0048】
いくつかの条片を有するこれらの弾性マルチアーム70は、角度位置を変更した状態で、様々なひげぜんまいの剛性をより迅速に変更できる。
【0049】
しかし、調節するのが、スタッドの相対位置及び所与の段の位置調節手段50の相対位置のみである、図示しない単純な変形形態を選択することが可能である。したがって、所与の段10の位置調節手段50は、全てが同じ剛性である、複数の弾性マルチアーム組立体70を含むことができる。
【0050】
図7から
図10の変形形態では、弾性マルチアーム組立体70は、それぞれ、第1の内側領域上に少なくとも1つの内側取付け点、及びひげぜんまい1の枢動軸から第1の領域よりも離れている第2の外側領域上に少なくとも1つの外側取付け点を含み、この第2の外側領域は、段に関係するスタッドに、高度に差異化した位置をもたらす。
【0051】
好ましくは、個別位置60は、ひげぜんまいの軸に対して、4°から12°の間にある一定のピッチで角度がずれる。
【0052】
図1から
図6に示す例では、個別位置60は、8°から12°の間にある一定のピッチ、特に約10°角度がずれる。
【0053】
図7から
図10に示す例では、ひげぜんまい1の枢動軸に対して、個別位置60は、4°から6°の間にある一定のピッチ、特に約5°角度がずれる。
【0054】
特定の変形形態では、少なくとも2つの段10のそれぞれの取付け手段40は、互いの上に自由状態で重なる。
【0055】
有利には、様々な段の調節差を可能にするため、したがって、ひげぜんまい1にもたらす剛性をより良好に調節するために、少なくとも2つの段10は、互いに異なる剛性のぜんまいを含む。
【0056】
より詳細には、少なくとも2つの段10は、互いに異なる区分を有するぜんまいを含む。
【0057】
同様に、特定の変形形態では、少なくとも2つの段10は、互いに異なる有効長さを有するぜんまいを含む。
【0058】
更に同様に、特定の変形形態では、少なくとも2つの段10は、例えば一方は非酸化状態のシリコンであり、もう一方は酸化状態のシリコンである、互いに異なるシリコン酸化状態のぜんまいを含む。
【0059】
特定の変形形態では、少なくとも2つの段10は、反対方向に巻いたぜんまいを含む。このことは、全ての図面の場合に当てはまる。
【0060】
好ましくは、第1の方向に巻かれた全ての段10の合計の剛性は、第1の方向とは反対の第2の方向に巻かれた全ての段10の合計の剛性に等しい。
【0061】
本発明により、ひげぜんまい1を組み立てた後、ひげぜんまいを既にてんぷ及びムーブメント内部に組み付けた場合でさえ、有効な取付け位置を修正することが可能である。
【0062】
図5及び
図6は、3つの重ねたぜんまい段10A、10B、10Cを有する、有利な変形形態を示す。上記のように、それぞれは、内側端部20A、20B、20C及び外側端部30A、30B、30Cを含み、並びに位置調節手段を含む取付け手段を含むが、図面を煩雑にしないために、これには参照番号を付さない。これらの図では、位置調節手段は、ここではU字形外形であり長方形又は正方形スタッド3区分と協働するように構成した筐体6を含む。この例のスタッド区分及び外形形状は、非限定的なものである。この特定の変形形態では、スタッド3は、真直ぐであり、様々なぜんまい段の共通軸に平行である。このバージョンは、製造が非常に簡単であるため、非常に経済的である。
【0063】
図5及び
図6のこの非限定的な変形形態では、位置調節手段の筐体6、即ち601A、602A、603A、601B、602B、603B、601C、602C、603Cの全ては、外側に開口を有する。
図5は、筐体602A、602B及び602Cが共通のスタッド3と協働する、特定の締結位置を示す。調節の変更は簡単である。というのは、各ひげぜんまいは、好都合に押圧でき、関係するスタッドの締結位置の変更を可能にするためである。最も重要なことは、この特定の構成により、他の段に対する調節とは別個に、複数段のうち1つの段に対する調節が、調節を実施するオペレータにとって極めて好都合に可能になることである。
【0064】
図11は、スタッドに返される合力がゼロである好ましい事例を示し、この事例では、ぜんまいは3つの段を有し、上側段10A及び下側段10Bが、同一で同じ方向に巻かれ、それぞれが反対方向に巻かれた中間段10Bの剛性の半分の剛性を有する。応力FA及びFCは、応力FBの両側に、ぜんまいの端部に対し実質的に接線面内で、ぜんまいの共通軸に平行に反対方向で加えられ、この結果得られたトルクは最小であるか、ゼロでさえある。
【0065】
本発明のこの構成は、一方のひげぜんまい段の剛性を減少することによって、それに応じてもう一方のひげぜんまい段の剛性を増加でき、その逆も同様である。また、2つの最も可撓性のぜんまいの剛性が最も硬いぜんまいの半分である特定の好ましい事例では、平均振動数は、ひげぜんまい段のスタッド3への全ての取付け構成に対し、依然として同じである。
【0066】
したがって、本発明のこれらの異なる実装変形形態では、平均振動数の調節及び等時性勾配の調節を実現することが可能である。
【0067】
特に、単一のスタッドへの取付け手段を重ねる場合、有効な取付けを修正する間、図示の変形形態の2つの段10A及び10Bの剛性は、反対に変化する。即ち、一方の段のぜんまいの硬さはより増す一方で、もう一方の段のぜんまいの硬さは少なくなる。こうして2つのぜんまいの形状を画定、調節でき、その結果、得られた合計剛性、したがって本発明によるひげぜんまい1と共に形成したぜんまい付きてんぷの振動数は、等時性勾配の調節手順の間、ほぼ変化しない。そのような場合、てんぷねじの通常の調節により、ぜんまい付きてんぷ組立体の平均振動数を依然として設定できる。
【0068】
逆に、取付け位置によって異なる等時性勾配の修正は、依然として重要であり、製造又は組立ての誤り、例えば接着剤接合の誤りを修正できる。
【0069】
本発明は、ぜんまい付きてんぷ組立体100にも関し、このぜんまい付きてんぷ組立体100は、少なくとも1つのそのようなひげぜんまい1と結合したてんぷ2を備える。
【0070】
本発明は、脱進機機構200にも関し、脱進機機構200は、少なくとも1つのそのようなぜんまい付きてんぷ組立体100、及び少なくとも1つの前記段10の外側端部30を所定位置に締結する少なくとも1つのスタッド3を備える。
【0071】
上記で説明したように、第1の変形形態では、少なくとも1つの同じスタッド3は、異なる段10のいくつかの外側端部30を締結するように構成する。その一方で、第2の変形形態では、脱進機機構200は、各段10の外側端部30を所定位置に締結する個別のスタッド3を備える。
【0072】
上記の説明は、ひげぜんまいの形状に関する。
【0073】
また、特定の単一のスタッド又はスタッドの組合せの解決策は、単独で、又はこれらの特定のひげぜんまいと組み合わせて、等時性の調節に関する問題に対し独自の解決策をもたらすことができる。
【0074】
実際には、複数のひげぜんまいを取り付ける外側位置、角度位置及び/又は径方向位置に作用することでも、等時性を制御できる。
【0075】
特に、
図9及び
図10に見られる、少なくとも2つの別個のスタッドを有する変形形態を考慮でき、少なくとも2つの別個のスタッドは、上記のひげぜんまいと共に又は従来のひげぜんまいと共に使用できる。当然ながら、スタッドの可動性は、関係する底板及び受けの製造を複雑にするが、標準的なひげぜんまいの使用の継続を希望する時計設計者にとっては理解の範囲内である。上記した多段ひげぜんまい1の特定の利点は、厚さ寸法の制御であり、この厚さ寸法を、動作及び動作安全性に必要な遊びに対応する精密な最小値まで低減可能であることに留意されたい。
【0076】
したがって、特定の変形形態では、脱進機機構200は、少なくとも1つのスタッド3を備え、少なくとも1つのスタッド3の位置は、少なくとも1つの段10の外側端部30を所定位置に締結するために、移動、調節可能である。
【0077】
特定の変形形態では、脱進機機構200は、少なくとも1つのスタッド3を備え、少なくとも1つのスタッド3の位置は、少なくとも1つの標準的なひげぜんまいの外側端部を所定位置に締結するために、移動、調節可能である。即ち、標準的なひげぜんまいとは、非特定構成ではコイルの巻線から延びる単一の外側コイル、及び他のコイルと同様若しくは同一の区分から延びる単一の外側コイルを備えるものである。当然ながら、標準的なひげぜんまいに適用可能なこの構成は、上記に示した多段ひげぜんまい1に適用可能である。
【0078】
より詳細には、少なくとも1つのそのような位置調節可能スタッドは、脱進機機構200内に構成した底板又は受け内の複数の個別位置のうち1つを占有可能であるように構成する。特定の一実施形態では、このスタッドは、一揃いの公知の位置穴をなす1つの筐体又はボアの内側に嵌合でき、これらは、機構ごとに再現可能である。
【0079】
当然、そのようなスタッド構成は、一般に、いくつかの別個のスタッドに適用でき、特に、一変形形態では、存在するひげぜんまいと同数の別個のスタッドで適用できる。
【0080】
スタッドとひげぜんまいとの間の様々で特別な取付け構成は、特に、微細加工可能材料から製造した一実施形態で可能であり、これにより、ワッシャ又は空洞突起等の形態の、上記で説明した多数のアームによる様々な取付けが可能になり、このことは、シリコンひげぜんまいに極めて有利な解決策である。ワッシャ等は、マスク内に直接組み込むことができる。
【0081】
図13及び
図14に示す第1の変形形態は、貫通孔409を有する取付け具401、402を備え、これにより、スタッド3への純粋に機械的な取付けが極めて容易になり、スタッドとひげぜんまいとの間の接着剤接合の必要性さえなくなる。より詳細には、これらの環状取付け具401、402は、互いに異なる剛性のものであってもよい接続撚線408、409の端部にある。
【0082】
図15から
図18に示す第2の変形形態では、ひげぜんまい1は、ブロック403、404の形態の突起405を有し、これらブロック403、404の中には、製造時に、非限定例では余分な厚さの酸化物をエッチングすることによって非貫通空洞406を作製する。シリコンぜんまい上の酸化物の厚さが通常5から10マイクロメートルの間である場合、この変形形態では、より多大な影響をもつ厚さ、特に20から30マイクロメートルの間の厚さの酸化物を有するぜんまいを使用することが可能である。そのような場合、スタッド3が中に備えるタブ3Z上に少なくとも1つの弾性薄片を備えることで、所望の突起405を留めることができる。一変形形態は、ぜんまいを所定位置に接着剤で留める場合は、接着剤留めの間、2つのそのような弾性薄片を使用してこのぜんまいを所定位置に維持するようにする。水平位置の振れの測定に関しては、そのような弾性薄片のみでぜんまいを保持することが可能であり、衝撃に対する良好な抵抗力をもたらすための接着剤留めは、全ての調節後にのみ行うことが可能である。当然、少なくとも1つの弾性薄片407は、スタッド3又はそのようなタブ3Zの保持のために、空洞内部に作製することもできる。
【0083】
振動子の温度補償を達成するために、
図19に示す有利な変形形態は、2種材料の弾性スタッド3の使用にあり、各スタッドは、異なる相対厚さをもつ2つの材料3X及び3Yを有する。スタッドは、2種の金属を付着させて製造し、2つの成分材料の異なる熱伸び係数により、好ましくはコイルの方向に変形し、2つのひげぜんまいに張力の差を生じさせる。この解決策は、各ひげぜんまいの有効長さの調節を可能にし、正確な等時性勾配及び平均歩度を保証し、したがって、温度変動による剛性の変化が、てんぷの慣性の変化に常に従うことを保証する(その一方で、一般に、ひげぜんまいの有効長さ、したがって剛性の変化は、温度に対する剛性の依存性も変化させる)。
【0084】
特定の一実施形態では、脱進機機構200は、間欠送り組立体を有さない。
【0085】
本発明は、少なくとも1つのこの種の脱進機機構200を含む機械式計時器ムーブメント300にも関する。
【0086】
本発明は、少なくとも1つのそのような機械式計時器ムーブメント300を含む時計400にも関する。
【0087】
要約すると、本発明は、鉄鋼ひげぜんまいで通常使用する間欠送りシステムに取って代わることによって、時計製造者が、シリコン派生物等、可塑変形可能ではない材料から製造したひげぜんまいの組合せの等時性を微細に調節することを可能にする。
【符号の説明】
【0088】
1 ひげぜんまい
2 てんぷ
3 スタッド
6 筐体
10 段
20 内側端部
30 外側端部
40 取付け手段
50 位置調節手段
60 位置調節位置
70 弾性マルチアーム
100 ぜんまい付きてんぷ組立体
200 脱進機機構
300 計時器ムーブメント
400 時計