(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6106829
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】複数相電力配電回路網の全相における通信信号の同時検出
(51)【国際特許分類】
H04B 3/54 20060101AFI20170327BHJP
H04B 1/10 20060101ALI20170327BHJP
H04B 3/32 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
H04B3/54
H04B1/10 L
H04B3/32
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-556802(P2013-556802)
(86)(22)【出願日】2012年2月28日
(65)【公表番号】特表2014-511637(P2014-511637A)
(43)【公表日】2014年5月15日
(86)【国際出願番号】US2012026951
(87)【国際公開番号】WO2012118810
(87)【国際公開日】20120907
【審査請求日】2015年3月2日
(31)【優先権主張番号】61/447,365
(32)【優先日】2011年2月28日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517027310
【氏名又は名称】アクララ テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スペンサー,クウェンティン
【審査官】
川口 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】
特表2003−531551(JP,A)
【文献】
特開平11−205201(JP,A)
【文献】
米国特許第05262755(US,A)
【文献】
特開2004−336770(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/017247(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 3/54 − 3/58
H04B 1/10
H04B 3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数相電力配電システムの少なくとも一相で送信される信号を検出する方法で、信号の成分が前記システムの全相で並行して現れるものであって、
システムの全相に現れる信号の成分を信号検出器で検出する過程と、
各相で検出された検出信号を信号処理装置に与える過程と、
検出信号の成分を信号処理装置で処理して、検出信号の全成分が合成され信号強度が各相の信号強度よりも大きい合成信号を生成する過程とを含み、
信号処理装置が検出信号を処理する過程において、配電システムの各相のフィルタ処理された検出信号のサンプルを取得し、このサンプルを用いて各メッセージビットの全相からのサンプルを並べた並列信号マトリクスを形成し、得られた信号マトリクスをもとに各メッセージビットの全相からのサンプルを並べた複数の時間範囲に対応する複数の並列ウィンドウマトリクスを形成し、この並列ウィンドウマトリクスを処理することにより合成信号を生成する、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記配電システムに他の信号が存在する場合、これらの他の信号から検出信号に生じる干渉を信号処理装置で検出信号から除去することにより検出信号の質を改善する、請求項1の方法。
【請求項3】
前記信号検出器は、配電システムの各相に対する信号処理アルゴリズムを組み合わせた並行相アルゴリズムを使用して信号の検出を行う、請求項1の方法。
【請求項4】
前記各相に対する前記信号検出器はバンドパスフィルタとチャネル分離フィルタとを含む、請求項1の方法。
【請求項5】
前記並列信号マトリクスが、メイン検出窓を表すメイン窓部分と、前記メイン窓部分の前の時間範囲を表すプレ窓部分と、前記メイン窓部分の後の時間範囲を表すポスト窓部分の3つの時間範囲からの信号サンプルを含む、請求項1の方法。
【請求項6】
前記各相からの信号のメイン窓部分、プレ窓部分、及びポスト窓部分をそれぞれ別々の並列マトリクスに編成することによって、前記並列信号マトリクスから3つの並列ウィンドウマトリクスを形成する過程をさらに含む、請求項5の方法。
【請求項7】
前記各並列ウィンドウマトリクスは、他の並列ウィンドウマトリクスと同じ大きさを有する、請求項6の方法。
【請求項8】
並列ウィンドウマトリクスを処理する過程において、相関検出器を使用してメッセージビットの初期の推定値を求め、各データマトリクスの近似マトリクスを求め、近似されたデータマトリクスを使用して各ビットの推定値を改良する、請求項6の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、参照によってここに導入される2011年2月28日に出願された米国特許出願公開第61/447,365号の利益を主張するものである。
【0002】
連邦支援の研究又は開発に関する記載
適用なし。
【背景技術】
【0003】
本発明は、例えば公益施設から消費者に電力を供給するための電力配電回路網の通信に関する。より具体的には、本発明は通信信号、特に消費者施設から公益施設に送り返されるものを、公益施設の電力配電回路網の全相において同時検出することを対象とする。
【0004】
電力施設で使用される通信システムは当該技術分野において周知である。例えば、米国特許第6,940,396号明細書、及び第5,262,755号明細書を参照されたい。一般的に、公益施設はシステムを使用して、メッセージ又はコマンド(アウトバウンド信号)を送信機位置(通常は回路網の変電所)から消費者施設に送る。続いて一般的にそれぞれの施設におけるメータに組み込まれている送受信機は、コマンドの実行又は情報の要求に応えて、信号(インバウンド信号)を公益施設に送り返す。
【0005】
従来、入力メッセージを受けるために公益施設にある装置は、回路網の複数相のメッセージを同時に受ける能力がなかった。しかし現在は、受信機はこの能力を有しており、通常はインバウンド信号の一部が回路網の三相の全てに存在するため、全相における信号を結合させることで最適な信号強度を発生できる。
【0006】
公益施設で使用される1つの通信システムは、双方向自動通信システム、つまりTWACS(登録商標)である。このシステムの従来の実施においては、インバウンド信号検出ハードウェアは一度に一相の信号をサンプリングする能力を持つのみであった。現在の信号検出ハードウェアは、変電所への全ての入力(相)の信号を同時にサンプリングする能力を有する。複数相の同時に送信された信号を検出するための方法は、米国特許6,940,396号に開示されているが、その方法は一度に一相の信号を検出するように設計されており、信号を分離するために信号の時間的な違いに依存している。配線条件に応じて、全てのインバウンド信号は、変電所で得られる三相(又は中性相が存在する場合は四相)のうち少なくとも2つで現れ、故にインバウンド信号の最適な検出はこれらの複数相からの信号を含む。しかし従来は、それは可能でなかった。“全相”検出を実行するための、且つ並行位相モードで作動する本発明の方法を使用することは、現在は可能である。
【0007】
より高い信号強度信号を生じる全相検出に加え、結合信号の信号対ノイズ比(SNR)を最適にすることはまた、検出方法が、もし存在するならば様々な相におけるノイズ信号の相関を考慮することを要求する。本発明の方法に従って、信号強度及びノイズ相関は各インバウンド信号に対して適応して推定され、結果的に得られる結合スキームはより高い信号対ノイズ比を生み出す。
【0008】
最後に、並行位相方法の従来の実行は複雑で、検出のため、及び他の位相の信号からの干渉を除去するために信号処理アルゴリズムを分離する必要があった。本発明の方法はこれらのアルゴリズムを統合し、結果として単一のアルゴリズムが従来のアルゴリズムと比べてより良い通信性能と減少した計算要件とを同時に生み出す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6,940,396号明細書
【特許文献2】米国特許第5,262,755号明細書
【特許文献3】米国特許第6,940,396号明細書
【発明の概要】
【0010】
本発明は、公益施設の電力配電回路網における通信システムで使用するための全相検出器及び検出方法を対象にしている。検出器及び方法は、回路網の三(又は四)相の全てに存在する信号を検出し、全相からの結果を結合させて、個々の信号のいずれかよりも高い信号強度を有する信号を生み出す。検出器及び方法はノイズを抑制する効果をさらに有し、このノイズの統計は1つより多くの位相にわたって相関関係がない。アルゴリズムは、信号対ノイズ比を最大化可能な程度まで、信号電力が増加されてノイズが抑制されるように、信号を加算するのに最適な重み(weights)を見つける。
【0011】
本発明の方法は、信号検出のため及び他の位相の信号からの干渉を除去するためのあらかじめ分離された信号処理アルゴリズムを統合する並行位相アルゴリズムを利用する。この統合は、より複雑でなく、より信頼出来る検出器設計をもたらす。さらに、中性線に存在する全ての付加的な信号が本発明のアルゴリズムで使用され、それにより中性線上の失われた通信を再試行しなければいけない従来の実践を除去する。
【0012】
顧客の場所から公益施設の変電所に送られるインバウンド信号に関して、公益施設とその顧客との間でより良い通信をもたらすように、検出器はTWACS(商標登録)などの現在の公益施設の通信システムで容易に実装される。
【0013】
他の対象物及び特徴は部分的に明らかで且つ以下に部分的に示される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本発明の目的は、明細書の一部を構成する図面に示される例示の実施形態に示されるように達成される。
【
図1】単相信号検出におけるデータ処理流れの簡易化されたブロック図を示す図である。
【
図2】全相信号検出におけるデータ処理流れの簡易化されたブロック図を示す図である。
【
図3】全相信号検出に使用されるウィンドウ処理スキームの代表を示す図である。
【
図4】並行位相モードにある本発明の全位相検出器及び方法と、単相及び並行位相モードの両方にある単相との、性能比較を示すグラフである。
【0015】
対応する参照記号は図面のいくつかの表示を通して対応する部分を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の詳細な説明は、本発明を例示として、そして限定することなく示す。この説明は当業者が本発明を製作及び使用することを明らかに可能にし、本発明のいくつかの実施形態、適応、変更、代替、及び使用を、本発明を実施するのための最良の形態であると現在考えられるものを含み記載する。加えて、本発明はその適用において、以下の説明に示される、又は図に図示される要素の構築及び配置の詳細に限定されないことが理解されるであろう。発明は他の実施形態が可能で、様々な方法で実行又は実施されることが可能である。また、本明細書で使用される表現及び専門用語は説明の目的のためであり、限定するものとしてみなされるべきでない。
【0017】
図1を参照すると、単相検出のための信号処理における従来の一連の事象が図示されている。
図1に関して、サンプリングされた電流波形は、まずバンドパスフィルタで処理されて、わずかな信号電力を有する周波数で発生するノイズが減少される。次に、フィルタ処理された波形は(本出願と同じ譲受人が所有する米国特許第5,262,755号明細書に示されるように)チャネル分離フィルタを通過する。このフィルタは各チャネルに対して1つのフィルタを含み、信号を処理するため、及び各ビットに対する加算されたパルス波形を結合信号から分離するために使用される。従って、各チャネルにおいて各ビットに対する一組の波形が生み出される。これらはここで大きさがM×Nの信号マトリクスに配置され、ここでMは半サイクルごとのサンプル数で、Nはビット数である。例えば、毎秒4320サンプルのレートでサンプリングされた60Hzの交流波形は、半サイクルごとのサンプル数が36だが、ダウンサンプリングが行われたり、異なるサンプルレートが使用されたりするとより少ない場合がある。次に6つのチャネルの全てにおける信号がアウトバウンド信号除去アルゴリズムを通過する。前述で参照された米国特許第6,940,396号明細書に記載され、且つTWACS(登録商標)システムに現在使用される並行位相モードは、他の位相のインバウンド信号と同時に発生する位相のアウトバウンド送信を有する。アウトバウンド信号は他の位相に漏れ、且つ局所的に発生するため非常に強いので、アウトバウンド信号の除去はインバウンド信号を確実に検出するために必要である。このアルゴリズムはアウトバウンドビットパターンを使用し、アウトバウンドビットパターンは局所的に発生されてインバウンド信号からアウトバウンド信号を分離又は“清浄化”するので検出器に既知である。干渉するアウトバウンド信号が存在しない場合には、アルゴリズムは単に信号を通過させる。この干渉除去の後、デコードされたビットを抽出するために、各チャネルで結果として得られる信号マトリクスが検出器及びデコーダに送られる。
【0018】
図2を参照すると、全相検出のためのデータ処理スキームが示されている。
図2において、ここではバンドパスフィルタ処理及びチャネル分離操作が電力配電回路網の三相A、B、及びCの全てに行われることを除いて、
図1に示されるのと同じ一連の段階が実施される。さらに、チャネル分離段階の後で、三相の全てからの信号が結合され、各特定のチャネルに対する単一の“並列(stacked)マトリクス”を形成する。次にアウトバウンド除去アルゴリズムが並列信号マトリクスに適用され、これらは続いて検出器及びデコーダに通される。長さが1つの半サイクルである各ビットにおける信号によって、これは前述のシステムパラメータを使用して36サンプルになる。当業者は、バンドパスフィルタの遮断周波数に応じて、フィルタ処理された信号を、信号に含まれるいかなる情報も失うことなく2又は3の因子でダウンサンプリングできることを理解するであろう。このようなダウンサンプリングを実施することによって、データサイズと計算コストとを、ダウンサンプリングなしの単相インバウンド検出器と同様に維持することができるので、同様のハードウェアで容易に実施できる。
【0019】
図2のブロック図は位相A、B、及びCを示すが、中性相もまた存在する場合には含まれる。多くの現在の装置では、三相の全てを加算することにより、アナログの“合成”中性(neutral)を発生させるのが一般的である。これがなされる場合、合成中性信号は、
図2の全相検出方法を使用して処理されたときに新しい情報を必ずしももたらさない。これは、信号がインバウンド波形の異なる“複製(copy)”を含まないからである。しかし、実際のバスレベルの中性が存在する装置では、中性信号は、位相―中性(phase-to-neutral)信号を処理するときに、残りの位相の全てを加算することによっては入手できない、追加のインバウンド信号情報を含む。当業者は、ノイズレベルは通常はフィーダレベルよりもバスレベルにおいて高いことを理解するであろう。従って、従来は真の(real)バスレベルの中性信号よりフィーダレベルの“合成”中性信号が好ましいと考えられてきた。しかし、本発明による全相検出においては、バスレベルの信号を有することに利益があり、これに対する必要性は全相検出アルゴリズムが実施され、通信性能が評価された後に、所定の位置で経験的に決められ得る。
【0020】
本発明の全相検出アルゴリズムは電力線通信システムにおける2つの大きな利益を有する。1つ目は、それぞれの位相に存在する検出された信号対ノイズ比を増加させるように全ての信号源を結合させることによって達成される、改良された性能である。2つ目は、並行相検出のための改良された、より単純なシステム設計である。
【0021】
並行位相検出の従来の方法は信号マトリクスに要求されるものに加えてさらなる入力を必要としており、これは他の位相からの干渉信号を除去するために、そしてシステムが他の位相からの波形及び検出されたビットについての情報を保つことを必要としていたので行われる。これは、信号が全相に亘って常に時間的に並ばないので、特に複雑になることが理解されるであろう。故に、特定のチャネルのいかなるインバウンド信号も4つまでの他のインバウンド信号から、すなわち他の位相の各々からの2つの各々の信号からの干渉にさらされ得る。データ管理の観点から、特定のインバウンド信号タイムスロット及びチャネルにおける全相からの信号マトリクスを利用し、そして上述の他の入力が不要なロバストな(robust)方法で信号を検出する検出アルゴリズムを有することは、特に有益である。本発明の検出アルゴリズムはこれを実行する。
【0022】
上述で参照されるTWACS(商標登録)によると、従来は、信号検出アルゴリズムはインバウンド信号の時間的なウィンドウ処理を使用していた。加えて、信号検出のために利用可能な半サイクルの全体分のサンプルはあったが、電流パルスの幅は信号窓の全体より非常に少なかった。これは、検出窓の始めと終わりとにあるいくつかのサンプルを放棄することになる。これは、比較的少ない信号強度を有するがノイズを含むサンプルを取り除くことにより、信号対ノイズ比を改良した。システムが並行位相モードで作動しているとき、検出窓の始めと終わりとに存在する他の位相からの信号を有することはまた一般的であった。そして並行相検出の間は、他のインバウンド信号からの干渉を最小にするように検出窓を狭くすることが必要になった。本発明に従う全相検出においては狭い検出窓が使用され続けるが、ここで検出窓の前及び後で得られたサンプルはまた干渉を推定するために使用される。
【0023】
ここで
図3を参照すると、本発明に使用される信号のウィンドウ処理スキームが図示されている。
図3において、検出アルゴリズムへの外部入力は、図の左側に示される並列信号マトリクスを含む。図に示されるように、この並列窓マトリクスは三相A、B、及びCの全てを表す。各相の中には、メイン検出窓並びにメイン窓の前及び後の範囲を表す3つの時間範囲がある。
【0024】
全相検出の第一段階は、単一の並列信号マトリクスを、3つの窓の各々を表す3つの並列信号マトリクスに再配置することである。これは、
図3の右側部分に示されるように、3つの並列でウィンドウ処理された(windowed)マトリクスがそれぞれ“メイン窓”、“プレ窓”、及び“ポスト窓”信号と名付けられている。続く数学的な記載において、これらの3つの信号マトリクスはS
main、S
pre及びS
postとして示される。理論上は、これらの3つのマトリクスは同数の列を有する必要はない。しかし、シミュレーションテストでは、それらを等しくすることによってかなり良い結果が得られた。故に、以下の説明における簡易化のために、それぞれの窓は寸法的に等しいと仮定する。これは、位相ごとにM個のサンプルがあると、窓の各々の幅はM/3個のサンプルで、3つの並列でウィンドウ処理されたマトリクスの大きさはM×N、又は中性信号が存在する場合は4M/3×Nである。
【0025】
従来の検出スキームでは、プレ窓とポスト窓とは切り捨てられ、S
mainサンプルのみがインバウンドメッセージを検出するのに使用された。本発明の全相検出方法では、信号検出スキームにおける最も重要な構成要素として、S
mainサンプルの複数相並列型が再び使用される。さらに、単相検出方法では、信号とノイズとを分離するため、特異値分解が使用されてメイン窓信号マトリクスの低ランク近似を形成する。全相検出では、近似のランクは3から5に増加され、これは経験的な結果に基づく。この増加はまた、並列マトリクスが単相信号マトリクスより著しく大きく、且つより多くの信号情報を含むので有用である。デコード処理は、いくつかの点において最大のSNRデコード方法と同様である。その方法はa)相関検出器及びデータマトリクスの低ランク近似を使用してビットを推定すること、及びb)低ランク近似されたデータを使用してビット推定値を改良することの段階を含む。全相検出では、同様の段階が使用されるが、データマトリクスのランク及び大きさに応じて調整される。主な相違点はビットの初期推定値を形成することである。
【0026】
全相モード検出では、ビットの推定は干渉信号の存在によって複雑である。これらの干渉信号は必ずしもメッセージ境界(message boundaries)と並ばないので、実際のメッセージビット(message bits)をデコードして干渉を推定するのは非常に難しい。しかし、特異値分解を計算し、それぞれU
pre及びU
postとして規定されるプレ窓及びポスト窓信号マトリクスのドミナント(dominant)な左特異ベクトルを使用することで、干渉メッセージの妥当な一次推定値が得られる。これはSマトリクスのS
main、S
pre及びS
postの3つ全てに対する左特異ベクトルを計算する必要があることを意味する。操作はM
3に比例する複雑性を有するので、一つの大きなものより、3つの小さなSマトリクスの分解を計算する方が速い。これは全相検出を実施するようにプログラムされたコンピュータの計算負荷をより扱いやすくする。2つの干渉推定値によって、それぞれの寄与(contribution)はアウトバウンド干渉を清浄化するために使用されるのと同様のゼロ空間射影処置(null-space projection procedure)を使用して、S
mainから除去される。これは信号の“清浄化された”型となり、S
cleanとして規定される。
【0027】
この処理に対する課題は、この段階においては、相関検出器をS
mainに適用することによって、ときにはS
cleanより良いビットの初期推定値を発生することである。これは主に通信システムにおける干渉の相対的な強度及びタイミングの結果である。単相モードにおいては、例えばS
pre及びS
postでは干渉が予想されず、S
mainが好ましい選択である。検出アルゴリズムだけではシステムが単相モードで操作されているかどうかがわからないので、検出アルゴリズムへのいかなる追加の入力の要求も避けるために、この点における解決法は、相関検出器を元の及び清浄化された信号マトリクスの両方に適用し、そして最も高い信号対ノイズ比を有するマトリクスからの推定ビットを使用することである。シミュレーションはこのアプローチが成功することを示した。
【0028】
ビットが推定されると、本発明の方法はS
mainの低ランク近似を利用し、推定値を改良して最終結果を生み出す。
【0029】
本発明の方法を実施する段階は以下のとおりである。
【0030】
1.S
main、S
pre、S
postの3つの並列でウィンドウ処理されたマトリクスを形成する(
図3参照)。
【0031】
2.各マトリクスに対して、左特異ベクトルを計算し、S
mainのKドミナント(Kdominant)ベクトルであるU
k、並びにそれぞれS
preとS
postのドミナントベクトルであるU
pre及びU
postを計算する。
(a)S
TSの固有ベクトルであるW、及び対応する固有値であるλを計算する。
(b)W
kをk最大固有値に対応するK列のWとする。
(c)U
kを計算する。
U
K=SW
KΛ
K-1/2
ここでΛ
kはその対角線上にλの第一K要素を含む対角マトリクスである。Λ
kの正規化は、S
pre及びS
postで行われたように、1つのベクトルのみが使用される場合は必要でない。
【0032】
3.プレ及びポスト窓信号からの最も著しい寄与が取り除かれたS
mainの複製である、S
cleanを形成する。
V=[U
pre U
post]
S
clean=S
main−V(V
TV)
−1V
TS
main
【0033】
4.S
cleanとS
mainとを使用して、メッセージビットに対する最良な推定値を選定するためにSNRで重み付けされた相関検出器を使用する。
(a)Sマトリクスの各々に対して、相関検出器の出力であるdを計算する。
(i)S
Cをメッセージの既知のヘッダービットに対応するSの行とする。対角マトリクスCは±1として表現されるビットの値を含む。
(ii)相関ベクトルCを計算する。
T=S
CTC
(iii)ビットを推定するために相関ベクトルを使用する。
d=S
C
(b)d
main及びd
cleanについて、d
maxを次式の最大値を有するベクトルを見つけることで計算できる、最も高い推定SNRを有するベクトルとする。
(c)推定ビットとして符号d
maxを使用する。
b
0=sgn(d
max)
【0034】
5.ビットの推定値を改め、軟判定出力を計算するためにそれを使用する。
(a)ベクトルpと
を計算する。
(b)b
0からb
1を計算する。全てにおいてj=
つまり、p
j<q
jの全ての場合のビットを反転させる。
(c)b
1から、検出器出力を計算する。
d=U
K(U
KTb
1)
6.b
0=sgn(d)として、段階5を繰り返す。
【0035】
最後に、
図4は本発明の全相検出アルゴリズムのシミュレーションされた性能と、2つの他の検出スキームとの比較を現す。他のスキームの第一スキームは、単相信号検出のためであり、既存の最大SNR検出アルゴリズムを含む。もう一方のスキームは並行位相検出のためであり、ライン間の信号伝達に基づく。
図4に示されるように、並行位相検出アルゴリズムは、信号に存在する干渉が増えたことの結果として、単相検出アルゴリズムと比べてわずかな性能損失を示す。全相検出アルゴリズムは、単相信号検出と比べてほぼ2dBのゲインの性能を達成し、並行位相信号検出と比べて2dBよりわずかに大きなゲインを達成する。性能におけるこのゲインの例外は、ノイズフロアが全相検出性能に存在する高いSNRである。しかし、フロアのブロックエラー率は10
-3より少ないので、全相インバウンド信号検出に対する大きな問題を起こさない。
【0036】
前述の見解において、本発明のいくつかの目的及び利点が達成され、他の有益な結果が得られることが分かるであろう。