(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6106834
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】油圧式無段変速機
(51)【国際特許分類】
F16H 39/14 20060101AFI20170327BHJP
【FI】
F16H39/14
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-187702(P2012-187702)
(22)【出願日】2012年8月28日
(65)【公開番号】特開2014-43925(P2014-43925A)
(43)【公開日】2014年3月13日
【審査請求日】2015年8月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115200
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修之
(72)【発明者】
【氏名】田中 正広
(72)【発明者】
【氏名】松本 恭太
【審査官】
高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−151191(JP,A)
【文献】
特開2006−226301(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/066593(WO,A1)
【文献】
特開2002−243037(JP,A)
【文献】
特開2002−310061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 39/00−47/12
F16H 57/04
F16H 61/4165
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの回転動力が入力される入力軸と、
前記入力軸に対して動力伝達可能に接続された油圧式無段変速部とを有し、
前記油圧式無段変速部が、
前記入力軸に対して回転一体に同軸線上に設けられたシリンダブロックと、
前記シリンダブロックの軸線方向一方において、同軸線周りの円周上に間隔をあけて往復摺動可能に挿入された複数の油圧ポンプ用のプランジャと、
前記油圧ポンプ用プランジャの先端に摺接する油圧ポンプ用の斜板と、
前記シリンダブロックの軸線方向他方において、同軸線周りの円周上に間隔をあけて往復摺動可能に挿入された油圧モータ用のプランジャと、
前記油圧モータ用のプランジャの先端が摺接する油圧モータ用の斜板とを有し、
前記入力軸の内部に、圧油が供給される油路が設けられており、
前記シリンダブロックの内部に、ポンプ用スプール弁及びモータ用スプール弁の基端側に形成された油室と、該油室を介して前記油路に連通する冷却油流路が設けられており、
前記冷却油流路が、前記シリンダブロックの軸心側から前記油室に連通して外周側に向けて放射状に拡がるように形成されていることを特徴とする油圧式無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ポンプ用シリンダブロックおよび油圧モータ用シリンダブロックが一つのシリンダブロックで構成される油圧式無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1〜3に開示されている油圧式無段変速機(HST;Hydraulic Static Transmission)が、無段変速機の一種として知られている。
【0003】
特許文献1,2に開示されている静油圧式無段変速機は、可変容量型の油圧ポンプおよび油圧モータとからなり、これらの油圧ポンプおよび油圧モータの間に両者に兼用されるシリンダブロックが介設されている。上記シリンダブロックの軸線方向一方には、油圧ポンプ用構成部材として、シリンダブロック内に往復摺動可能に嵌入された油圧ポンプ用プランジャ、該油圧ポンプ用プランジャの端部に摺接する油圧ポンプ用斜板、該油圧ポンプ用斜板の傾斜量を変化させる油圧サーボなどが備わっている。また、上記シリンダブロックの軸線方向他方には、油圧モータ用構成部材として、シリンダブロック内に往復摺動可能に嵌入された油圧モータ用プランジャ、該油圧モータ用プランジャの端部に摺接する固定傾斜角の油圧モータ用斜板などが備わっている。
【0004】
シリンダブロックは入力軸と一体に回転し、このシリンダブロックに嵌入された油圧ポンプ用プランジャが軸線方向に対して傾斜した油圧ポンプ用斜板等によって往復動されて、油圧を発生させる。この発生した油圧が油圧モータ用プランジャを往復動させることで、当該油圧モータ用プランジャに押圧される油圧モータ用斜板に回転動力が伝達される。
【0005】
特許文献3に開示されている静油圧式無段変速機は、シリンダブロックが油圧モータ用シリンダブロックと油圧ポンプ用シリンダブロックとに分かれている点で特許文献1,2と相違している。
【0006】
上記特許文献1〜3に開示されている静油圧式無段変速機は、油圧ポンプ内の油路、油圧モータ内の油路、並びに、これらの油圧ポンプおよび油圧モータをバルブ介して連通する油路などで構成される油圧閉回路を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−185111号公報
【特許文献2】特開2010−264809号公報
【特許文献3】特開2005−256980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、油圧閉回路内のオイルは、漏れ等により減少した分だけチャージポンプから補充されるだけで、殆ど入れ替わることはなく、シリンダブロック内でのプランジャの摺動抵抗などの各部材の摺動抵抗や、オイルのせん断抵抗などによって、オイルの温度が上昇して高温になり易い。オイルが高温になると、オイルの劣化、粘度低下による各部の焼き付き等が懸念される。
【0009】
特許文献3に開示されている静油圧式無段変速機では、油圧閉回路内の油圧が高くなると、リリーフ油を供給油路側に戻して、油圧閉回路内の油温上昇を抑制している。しかし、同文献のシリンダブロックのように、油圧モータ用シリンダブロックと油圧ポンプ用シリンダブロックとが分かれているタイプのものではオイルの温度上昇を抑制できても、油圧ポンプ用シリンダブロックと油圧モータ用シリンダブロックとが1つのシリンダブロックで構成される場合は、シリンダブロック内で発生する熱量が格段に多くなることから、オイルを十分に冷却することが困難となるおそれがある。
【0010】
本発明は、かかる課題に鑑みて創案されたものであり、油圧ポンプ用シリンダブロックと油圧モータ用シリンダブロックとが1つのシリンダブロックで構成される油圧式無段変速機において、シリンダブロックを効率的に冷却し、油圧閉回路内のオイルの温度上昇を抑制可能な油圧式無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決すべく提供される本発明の油圧式無段変速機は、エンジンの回転動力が入力される入力軸と、前記入力軸に対して動力伝達可能に接続された油圧式無段変速部とを有し、前記油圧式無段変速部が、前記入力軸に対して回転一体に同軸線上に設けられたシリンダブロックと、前記シリンダブロックの軸線方向一方において、同軸線周りの円周上に間隔をあけて往復摺動可能に挿入された複数の油圧ポンプ用のプランジャと、前記油圧ポンプ用プランジャの先端に摺接する油圧ポンプ用の斜板と、前記シリンダブロックの軸線方向他方において、同軸線周りの円周上に間隔をあけて往復摺動可能に挿入された油圧モータ用のプランジャと、前記油圧モータ用のプランジャの先端が摺接する油圧モータ用の斜板とを有し、前記入力軸の内部に、圧油が供給される油路が設けられており、前記シリンダブロックの内部に
、ポンプ用スプール弁及びモータ用スプール弁の基端側に形成された油室と、該油室を介して前記油路に連通する冷却油流路が設けられており、前記冷却油流路が、前記シリンダブロックの軸心側から
前記油室に連通して外周側に向けて放射状に拡がるように形成されていることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の油圧式無段変速機は、入力軸内に形成されている油路、及びシリンダブロック内に形成されている
スプール弁の基端側に形成された油室とこれに連通する冷却油流路を介してオイルを供給することができる。これにより、シリンダブロックを効率的に冷却し、シリンダブロック内に形成された油圧回路に導入されている作動用オイルの温度上昇を抑制することが可能となる。また、オイルを低温に維持することにより、オイルの劣化や粘度低下に伴う各部の焼き付き等を防止することができる。
【0013】
また、本発明の油圧式無段変速機は、入力軸内に形成された油路を通じ、シリンダブロック内に形成されている
スプール弁の基端側に形成された油室とこれに連通する冷却油流路に対して圧油を導入できる構成であるため、冷却油流路の大きさを適宜変更することにより、冷却用に用いるオイルの量を容易に調整することができる。従って、本発明の油圧式無段変速機によれば、冷却油流路の大きさに応じてシリンダブロックの冷却性能を任意に調整することができる。
【0014】
本発明の油圧式無段変速機は、冷却油流路がシリンダブロックの軸心側から
前記油室を介して外周側に向けて放射状に形成されているため、シリンダブロックの回転が高速になるにつれて遠心力の影響によりオイル流量が増加し、シリンダブロックの冷却性能が向上する。従って、本発明の油圧式無段変速機によれば、シリンダブロックの回転速度に応じて、適切な冷却性能を発揮させることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、油圧ポンプ用シリンダブロックと油圧モータ用シリンダブロックとが1つのシリンダブロックで構成される油圧式無段変速機において、シリンダブロックを効率的に冷却し、油圧閉回路内のオイルの温度上昇を抑制可能な油圧式無段変速機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】油圧式無段変速機を搭載した車両のドライブトレーンを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る油圧式無段変速機10について図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1に示した油圧式無段変速機10は、いわゆるHMTあるいはこれに類するものである。油圧式無段変速機10は、入力軸20、シリンダブロック30、油圧ポンプ用プランジャ40、油圧ポンプ用斜板50、油圧モータ用プランジャ60、及び油圧モータ用斜板70等を主要な構成部材として備えている。
【0018】
油圧式無段変速機10は、シリンダブロック30に対して可変容量型の油圧ポンプPおよび油圧モータMを配置することにより構成された油圧式無段変速部Xを有する。油圧式無段変速部Xは、入力軸20とシリンダブロック30とが一体的に回転することにより油圧ポンプPにおいて発生する油圧を油圧モータMに供給し、回転動力を出力側に出力させることが可能とされている。以下、油圧式無段変速部Xを中心として構成される油圧式無段変速機10の各部の構成について、さらに詳細に説明する。
【0019】
入力軸20は、ボールベアリング22,24を介してトランスミッションケース16内において回転自在に支持されている。具体的には、トランスミッションケース16は、入力軸20の先端側(動力伝達の下流側)に壁面16aを有する。壁面16aにおいて入力軸20に対応する位置には、入力軸用ボス部16bが設けられている。入力軸20は、入力軸用ボス部16b内に設けられたボールベアリング22により、先端部が回転自在に支持されている。また、入力軸20の基端側(動力伝達の上流側)は、ボールベアリング24により回転自在に支持されている。入力軸20には、エンジン(図示せず)の回転動力が、ダンパー(図示せず)、オイルポンプ14等を介して伝達される。
【0020】
また、入力軸20内には、油路21が形成されており、オイルポンプ14から圧油が供給される。油路21は、入力軸20の略軸心位置において軸線方向に延びるように形成された主油路21aと、主油路21aの中途において径方向に分岐するように副油路21bとを有する。油路21に供給された圧油は、各部の潤滑や、油圧式無段変速機10の作動用オイルの補充用として供給されるほか、シリンダブロック30の冷却用として利用される。
【0021】
シリンダブロック30は、略円柱状の形状とされており、入力軸20の途中位置に一体的に設けられている。入力軸20は、シリンダブロック30の略軸心位置を通るように設けられている。シリンダブロック30の軸線方向一方側(エンジン側)には、油圧ポンプPが構成され、他方側には油圧モータMが構成されている。
【0022】
具体的には、油圧ポンプPは、シリンダブロック30の一方側に設けられた油圧ポンプ用プランジャ40、及び油圧ポンプ用斜板50によって主要部が構成されている。油圧ポンプ用プランジャ40は、シリンダブロック30の一方側(エンジン側)に、軸線周りの円周上に等間隔をあけて複数設けられたポンプ用プランジャボア42のそれぞれに、往復摺動可能なように挿入されている。油圧ポンプ用プランジャ40は、スプリングによって油圧ポンプ用斜板50側に付勢されている。なお、本実施形態では油圧ポンプ用プランジャ40は3個以上の奇数個とされている。
【0023】
油圧ポンプ用斜板50は、ポンプ用クレードル52(第一クレードル)、ポンプ用斜板本体54、及びベアリング56,58によって主要部が構成されている。油圧ポンプ用斜板50は、ポンプ用クレードル52に対し、ポンプ用斜板本体54を装着した構成とされている。ポンプ用クレードル52とポンプ用斜板本体54との間には、ベアリング56,58が介在している。これにより、ポンプ用斜板本体54は、ポンプ用クレードル52に対して回転自在に支持されている。
【0024】
ポンプ用クレードル52は、入力軸20の軸線回りに回転不能に支持されている。また、ポンプ用クレードル52は、斜板傾斜調整機構(図示せず)に対して接続されており、斜板傾斜調整機構を作動させ、ポンプ用クレードル52を揺動させることにより、ポンプ用斜板本体54の入力軸20の軸線に対する傾斜量を任意に調整することができる。
【0025】
油圧ポンプPは、入力軸20の回転に伴ってシリンダブロック30及びこれに装着されている油圧ポンプ用プランジャ40が軸線回りに回転することにより、ポンプ作用を発動する。具体的には、入力軸20に連動してシリンダブロック30が入力軸20の軸線回りに一周する間に、シリンダブロック30とポンプ用斜板本体54との間において各油圧ポンプ用プランジャ40がストローク可能な長さが増減する。そのため、入力軸20の回転に伴い、シリンダブロック30及びこれに装着されている油圧ポンプ用プランジャ40が入力軸20の軸線回りに回転すると、ポンプ用斜板本体54に摺接している油圧ポンプ用プランジャ40が往復動し、ポンプ作用を発動する。油圧ポンプPにおいて発生する油圧は、油圧ポンプ用斜板50の傾斜量に応じて調整できる。油圧ポンプPにおいて発生した油圧は、油圧モータM側(油圧モータ用プランジャ60の基部を押圧するシリンダブロック30内の油圧室)に供給される。
【0026】
油圧モータMは、シリンダブロック30の軸線方向他方側(エンジン及び油圧ポンプPとは反対側)に設けられた油圧モータ用プランジャ60、及び油圧モータ用斜板70によって主要部が構成されている。油圧モータ用プランジャ60は、入力軸20の軸線周りの円周上に等間隔をあけて複数設けられたモータ用プランジャボア62のそれぞれに、往復摺動可能なように挿入されている。油圧モータ用プランジャ60は、スプリングによって油圧モータ用斜板70側に付勢されている。油圧ポンプ用プランジャ40と油圧モータ用プランジャ60とはシリンダブロック30内での周方向位置を違えている。なお、本実施形態では油圧モータ用プランジャ60は3個以上の奇数個とされている。
【0027】
油圧モータ用斜板70は、モータ用クレードル72(第二クレードル)、モータ用斜板本体74、及びベアリング76,78によって主要部が構成されている。油圧モータ用斜板70は、モータ用クレードル72に対し、モータ用斜板本体74を装着した構成とされている。モータ用クレードル72とモータ用斜板本体74との間には、ベアリング76,78が介在している。これにより、モータ用斜板本体74は、モータ用クレードル72に対して回転可能に支持されている。
【0028】
モータ用クレードル72は、上述したポンプ用クレードル52とは異なり角度調整不可能とされている。具体的には、モータ用クレードル72は、ボールベアリング80を介して入力軸20に対して相対回転自在に支持されている。また、油圧モータ用斜板70は、モータ用クレードル72の端部において外周側に装着されたアンギュラボールベアリング88により、トランスミッションケース16内に回転自在に支持されている。
【0029】
モータ用斜板本体74は、上述したモータ用クレードル72に対して装着されている。そのため、油圧モータ用斜板70は、上述した油圧ポンプ用斜板50のポンプ用斜板本体54とは異なり、モータ用斜板本体74の傾斜量を変化させることができない。また、モータ用斜板本体74には、油圧モータ用プランジャ60の先端部が摺接している。
【0030】
油圧モータMは、入力軸20の回転に伴ってシリンダブロック30及びこれに装着されている油圧モータ用プランジャ60が入力軸20の軸線回りに回転することにより、モータとしての機能を発揮する。具体的には、油圧モータ用プランジャ60は、油圧ポンプ側から供給される圧油によって往復動摺動し、油圧モータ用斜板70にスラスト荷重を与えつつ、シリンダブロック30と共に入力軸20の軸線回りに回転する。これにより、油圧モータMがモータとしての機能を発揮し、出力側に向けて回転動力を出力させることができる。油圧モータMから出力される回転速度(減速比)は、上述した油圧ポンプPから供給される油圧に応じて変化する。そのため、斜板傾斜調整機構(図示せず)を作動させて油圧ポンプ用斜板50の傾斜を変化させることにより、出力側に出力される回転速度(減速比)を調整することができる。
【0031】
上述した油圧ポンプP及び油圧モータMにおける作動油の流出入経路は、シリンダブロック30内に設けられたポンプ用スプール弁90及びモータ用スプール弁92によって切り替えられる。ポンプ用スプール弁90及びモータ用スプール弁92は、シリンダブロック30に設けられたポンプ用弁収容部32及びモータ用弁収容部34に挿入されている。
図2に示すように、ポンプ用弁収容部32及びモータ用弁収容部34は、シリンダブロック30において各プランジャ40,60用に形成されたプランジャボア42,62よりもさらに内径側の位置に設けられている。ポンプ用弁収容部32及びモータ用弁収容部34は、それぞれ入力軸20に沿う方向に形成されている。そのため、ポンプ用スプール弁90及びモータ用スプール弁92は、それぞれポンプ用弁収容部32及びモータ用弁収容部34において入力軸20に沿って摺動可能とされている。
【0032】
図2に示すように、ポンプ用弁収容部32及びモータ用弁収容部34は、シリンダブロック30の周方向に交互に設けられている。
図1に示すように、ポンプ用弁収容部32は、油圧ポンプP側において開口しており、油圧モータM側において閉塞されている。また、モータ用弁収容部34は油圧モータM側において開口しており、油圧ポンプP側において閉塞されている。ポンプ用弁収容部32及びモータ用弁収容部34の閉塞側、すなわちポンプ用スプール弁90及びモータ用スプール弁92の基端側には、それぞれ油室36a,36bが形成されている。油室36a,36bには、入力軸20に形成された油路21(主油路21a及び副油路21b)を介して圧油を導入することができる。そのため、入力軸20側から油室36a,36bに圧油を導入することにより、ポンプ用スプール弁90及びモータ用スプール弁92を押し動かし、作動させることができる。
【0033】
ポンプ用スプール弁90及びモータ用スプール弁92は、それぞれ対応するプランジャ40,60の回転位置に応じ、シリンダブロック30内に形成された作動油の流出入経路を開閉する弁動作をし、プランジャ40,60によって吸入又は排出される作動油の流れを切り換える。
【0034】
また、
図1及び
図2に示すように、シリンダブロック30には、冷却油流路38a,38bが形成されている。冷却油流路38a,38bは、油室36a,36bに連通すると共に、シリンダブロック30の軸心側から外周側に向けて放射状に延びるように形成されている。冷却油流路38a,38bの開口径は、油室36a,36bの開口径よりも十分に小さい。そのため、ポンプ用スプール弁90及びモータ用スプール弁92の作動に影響を与えない範囲内で、油室36a,36b内に導入された圧油の一部を冷却油流路38a,38bに導入することができる。
【0035】
上述した油圧モータMの出力は、モータ用クレードル72の外周部に一体的に設けられた第一平行軸ギア94、及び出力軸100の一端側に設けられた第二平行軸ギア96を介して出力軸100に伝達される。出力軸100に伝達された動力は、図示しない差動ギア及びこれに接続されたドライブシャフトに向けて出力される。
【0036】
上述したように、本実施形態の油圧式無段変速機10は、入力軸20内に形成された油路21を介して供給される圧油を、及びシリンダブロック30内に形成された冷却油流路38a,38bに導入することができる。これにより、シリンダブロック30を効率的に冷却し、シリンダブロック30内に形成された油圧回路に導入されている作動用オイルの温度上昇を抑制することが可能となる。また、オイルを低温に維持することにより、オイルの劣化や粘度低下に伴う各部の焼き付き等を防止することができる。
【0037】
また、本実施形態の油圧式無段変速機10は、冷却油流路38a,38bの開口径等の大きさを適宜変更することにより、シリンダブロック30等の冷却用として冷却油流路38a,38bに導入されるオイルの量を容易に調整することができる。従って、本実施形態の油圧式無段変速機10によれば、冷却油流路38a,38bの大きさに応じてシリンダブロック30の冷却性能を任意に調整することができる。
【0038】
本実施形態の油圧式無段変速機10は、冷却油流路38a,38bがシリンダブロック30の軸心側から外周側に向けて放射状に形成されているため、シリンダブロック30の回転が高速になるにつれて遠心力の影響によりオイル流量が増加し、シリンダブロック30の冷却性能が向上する。従って、油圧式無段変速機10によれば、シリンダブロック30の回転速度に応じて、適切な冷却性能を発揮させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、例えば、自動車、自動二輪車、トラクター等の作業用車両をはじめとする車両全般において搭載される油圧式無段変速機として利用可能であり、特に軽自動車等のコンパクトな構成の車両において好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0040】
10 油圧式無段変速機
20 入力軸
21 油路
30 シリンダブロック
38a,38b 冷却油流路
40 油圧ポンプ用プランジャ
50 油圧ポンプ用斜板
60 油圧モータ用プランジャ
70 油圧モータ用斜板
X 油圧式無段変速部