特許第6106837号(P6106837)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6106837ヒトパピローマウィルス(HPV)L2蛋白質を認識するモノクローナル抗体とそれを使用したHPV中和抗体価測定法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6106837
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】ヒトパピローマウィルス(HPV)L2蛋白質を認識するモノクローナル抗体とそれを使用したHPV中和抗体価測定法
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/08 20060101AFI20170327BHJP
   C12N 5/20 20060101ALI20170327BHJP
   G01N 33/577 20060101ALI20170327BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20170327BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20170327BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20170327BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20170327BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20170327BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20170327BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
   C07K16/08ZNA
   C12N5/20
   G01N33/577 B
   G01N33/574 C
   G01N33/543 501A
   A61K39/395 S
   A61P31/20
   A61K49/00 A
   C12P21/08
   C12N15/00 A
【請求項の数】18
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2012-550917(P2012-550917)
(86)(22)【出願日】2011年12月26日
(86)【国際出願番号】JP2011079994
(87)【国際公開番号】WO2012090895
(87)【国際公開日】20120705
【審査請求日】2014年12月8日
(31)【優先権主張番号】特願2010-291067(P2010-291067)
(32)【優先日】2010年12月27日
(33)【優先権主張国】JP
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-11304
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-11305
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】803000056
【氏名又は名称】公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100141195
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 恵美子
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】森 清一郎
(72)【発明者】
【氏名】神田 忠仁
【審査官】 白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/001867(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/018049(WO,A1)
【文献】 JOURNAL OF VIROLOGY,2007年,vol.81 no.24,pp.13927-13931
【文献】 PNAS,2008年,vol.105 no.15,pp.5850-5855
【文献】 VIROLOGY,1998年,vol.245,pp.353-359
【文献】 JOURNAL OF VIROLOGY,1999年,vol.73 no.7,pp.6188-6190
【文献】 Human Vaccines,2009年,vol.5 no.1,pp.43-45
【文献】 VIROLOGY,2007年,vol.358,pp.266-272
【文献】 Journal of Medical Virology,2008年,vol.80,pp.841-846
【文献】 臨床とウイルス,2009年,vol.37 no.3,pp.145-152
【文献】 Journal of Medical Microbiology,2007年,vol.56,pp.907-913
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/MEDLINE/BIOSIS(STN)
PubMed
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトパピローマウイルスL2蛋白質の共有エピトープを認識するモノクローナル抗体であって、ヒトパピローマウイルスL2蛋白質の共有エピトープが、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:24または配列番号:25に記載のアミノ酸配列からなり、
配列番号:11(CDRH1)、配列番号:12(CDRH2)、配列番号:13(CDRH3)、配列番号:14(CDRL1)、配列番号:15(CDRL2)および配列番号:16(CDRL3)で表されるアミノ酸配列を含む、モノクローナル抗体。
【請求項2】
ヒトパピローマウイルスL2蛋白質の共有エピトープを認識するモノクローナル抗体であって、ヒトパピローマウイルスL2蛋白質の共有エピトープが、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:24または配列番号:25に記載のアミノ酸配列からなり
配列番号:17(CDRH1)、配列番号:18(CDRH2)、配列番号:19(CDRH3)、配列番号:20(CDRL1)、配列番号:21(CDRL2)および配列番号:22(CDRL3)で表されるアミノ酸配列を含む、モノクローナル抗体。
【請求項3】
重鎖可変部領域が配列番号:7に記載されたアミノ酸配列であり、軽鎖可変部領域が、配列番号:8に記載されたアミノ酸配列である請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項4】
重鎖可変部領域が配列番号:9に記載されたアミノ酸配列であり、軽鎖可変部領域が、配列番号:10に記載されたアミノ酸配列である請求項に記載のモノクローナル抗体。
【請求項5】
ヒトパピローマウイルスL2蛋白質を認識し、寄託番号FERM BP−11304のハイブリドーマ細胞株によって産生される請求項に記載のモノクローナル抗体。
【請求項6】
ヒトパピローマウイルスL2蛋白質を認識し、寄託番号FERM BP−11305のハイブリドーマ細胞株によって産生される請求項に記載のモノクローナル抗体。
【請求項7】
ヒトパピローマウイルス(HPV)の交叉性中和抗体の抗体価測定方法であって、
(a)試験サンプルを、HPV抗原と接触させ、当該サンプル中の抗体を当該抗原に結合させる工程、
(b)請求項1〜のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体を(a)の反応系に添加し、当該抗原に結合した当該モノクローナル抗体の量を測定する工程、
を含む方法。
【請求項8】
ヒトパピローマウイルス(HPV)の交叉性中和抗体の抗体価測定方法であって、
(a)試験サンプルを、HPV抗原と接触させ、当該サンプル中の抗体を当該抗原に結合させる工程、
(b)(a)で抗体が結合しなかった余剰のエピトープに、請求項1〜のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体を接触させ、当該モノクローナル抗体が結合する量を測定する工程、
を含む方法。
【請求項9】
ヒトパピローマウイルス(HPV)の交叉性中和抗体の抗体価測定方法であって、
(a)請求項1〜のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体と試験サンプルを混合した後にHPV抗原と接触させ、抗体/抗原複合体を形成させる工程、
(b)(a)で得られる抗体/抗原複合体のうち、抗体/抗原複合体を形成した当該モノクローナル抗体の量を測定する工程、
を含む方法。
【請求項10】
該抗原に結合させた該モノクローナル抗体または該エピトープに接触させ結合した該モノクローナル抗体に、該モノクローナル抗体を認識する標識二次抗体を接触させ、該標識二次抗体により生じるシグナルの強度を試験サンプル存在下および非存在下において測定することにより、該試験サンプル中に存在しうる交叉性中和抗体の抗体価を測定する、請求項またはに記載の方法。
【請求項11】
工程(a)において形成されるモノクローナル抗体と抗原の複合体に、該モノクローナル抗体を認識する標識二次抗体を接触させ、試験サンプル存在下および非存在下において該標識二次抗体により生じるシグナルの強度を測定することにより、該試験サンプル中に存在しうる交叉性中和抗体の抗体価を測定する、請求項に記載の方法。
【請求項12】
HPV抗原が固体支持体に固定されている請求項11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
試験サンプル中のHPV交叉性中和抗体の存在を測定するためのキットであって、(a)固体支持体に結合させたHPV抗原、(b)請求項1〜のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体、および(c)請求項1〜のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体を認識する標識二次抗体とを含んでなる前記キット。
【請求項14】
請求項1〜のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体を含んでなるHPV感染の診断試薬。
【請求項15】
請求項1〜のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体を産生する細胞株。
【請求項16】
寄託番号がFERM BP−11304またはFERM BP−11305である請求項15に記載の細胞株。
【請求項17】
請求項1〜のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体を含む医薬。
【請求項18】
請求項1〜のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体を含むHPV治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HPVL2蛋白質を認識するモノクローナル抗体、その抗体を使用した、交叉性中和抗体の抗体価測定方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
HPVには100以上の遺伝子型が存在する。粘膜に感染する型(粘膜指向性HPV)のうち、少なくとも15の型(高リスク型:16、18、31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、66、68、73型)が子宮頸癌の原因となる。
HPV粒子は、L1蛋白質の5量体(キャプソメア)72個とL2蛋白質12分子で構成される正20面体のキャプシドがDNAゲノムを包む構造をしている。組み換えDNA技術を応用してL1蛋白質のみを大量に発現させるとキャプシド様の構造(L1−キャプシド)ができる。L2蛋白質も同時に発現させればウイルス粒子と同じ組成のキャプシド(L1/L2−キャプシド)が形成される。L1−キャプシドは、強い免疫原性を持ち、動物に接種するとアジュバント無しに抗体産生と細胞性免疫の両者を誘導することが示されている。この免疫原性はHPVの型に特異的で、16型L1−キャプシドの免疫では16型に特異的な反応が起こる。
L1−キャプシドをワクチン抗原として用いることで、HPVの感染を予防できる。既に、HPV6、11、16型及び18型、あるいはHPV16型及び18型のL1−キャプシドを抗原とするワクチンが海外で開発され、日本でも販売されている。しかしながら、この第一世代ワクチン抗原は極めて型特異性が高く、例えば、16型L1−キャプシドワクチンはHPV16型の感染しか防がない。従って、高リスク型共通の中和抗体を誘導するワクチン抗原の開発が望まれている。
本発明者らはこれまでに、HPV16型のL2蛋白質に型共通中和エピトープが存在することを見出し、次世代の型共通HPVワクチン抗原として利用できることを示してきた(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、および非特許文献4)。
中でも、HPV16 L2蛋白質のアミノ酸番号56から75のアミノ酸配列は、全ての高リスク型HPVで高度に保存されており、この領域をキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)と結合させた複合体(KLH-P56/75)や、16型L1蛋白質のアミノ酸番号430から433の間に挿入したキメラ蛋白質からなるキメラキャプシド(16L1-430(56/75)キメラキャプシド)を動物に接種すると、幅広い型に有効な交叉性中和抗体を誘導できる(特許文献1、非特許文献3、および非特許文献4)。これらの知見が示すように、L2蛋白質のアミノ酸番号56から75のアミノ酸配列をもつ抗原は、すべての高リスク型HPVに有効な次世代HPVワクチンとして有望であり、実用化に向けて開発中である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2009/001867
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Kawana K, et al.: Common neutralization epitope in minor capsid protein L2 of human papillomavirus types 16 and 6. J. Virology, 73, 6188-6190, 1999
【非特許文献2】Kawana K, et al.,: Safety and immunogenicity of a peptide containing the cross-neutralization epitope of HPV16 L2 administered nasally in healthy volunteers. Vaccine, 21: 4256-4260, 2003
【非特許文献3】Kondo K, et al.,: Neutralization of HPV16, 18, 31, and 58 pseudovirons with antisera induced by immunizing rabbits with synthetic peptides representing segments of the HPV16 minor capsid protein L2 surface region. Virology, 358: 266-272, 2007
【非特許文献4】Kondo K, et al., Modification of human papillomavirus-like particle vaccine by insertion of the cross-reactive L2-epitopes. J. Med. Virol.,80: 841-846, 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
L2蛋白質のアミノ酸番号56から75のアミノ酸配列を含む抗原を次世代HPVワクチンとして実用化するには、この抗原により交叉性中和抗体がヒトに効率よく誘導されるか否か調べる必要がある。特に、臨床試験では、多数の被験者血清を測定するため、簡便で、ハイスループットな交叉性中和抗体価測定法が必要である。
HPVの増殖を許す培養細胞系が無いため、HPVの感染をモニターするにはHPVのL1/L2−キャプシドにレポーター遺伝子の発現プラスミド等を組み込んだ感染性偽ウイルスが使用される。HPVに対する中和抗体は、この感染性偽ウイルスの感染阻害で測定されている。しかしながら、この方法は、遺伝子型特異的中和抗体、すなわちHPVのL1蛋白質に対する抗体による感染阻害と、交叉性中和抗体、すなわちHPVのL2蛋白質に対する抗体による感染阻害とを区別できず、また、手間と時間を要するため多検体の測定には不向きである。
上記のような状況において、次世代HPVワクチンによって誘導される交叉性中和抗体の抗体価をハイスループットに測定する方法の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、高リスク型HPVのL2蛋白質に共通の特定のアミノ酸配列を有するペプチドに対するモノクローナル抗体を作製し、当該モノクローナル抗体を用いて、次世代HPVワクチンによって誘導される交叉性中和抗体を測定する方法を見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下に記載の抗HPVL2蛋白質モノクローナル抗体、上記モノクローナル抗体を用いた交叉性中和抗体の測定方法および診断方法、上記モノクローナル抗体を含む測定キット、診断試薬および医薬、上記モノクローナル抗体の産生細胞等を提供する。
[1]ヒトパピローマウイルスL2蛋白質の共有エピトープを認識するモノクローナル抗体。
[2]ヒトパピローマウイルスL2蛋白質の共有エピトープが、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:24または配列番号:25に記載のアミノ酸配列からなる、前記[1]に記載のモノクローナル抗体。
[3]ヒトパピローマウイルスL2蛋白質の共有エピトープが、配列番号:2または配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなる、前記[1]に記載のモノクローナル抗体。
[4]配列番号:11(CDRH1)、配列番号:12(CDRH2)、配列番号:13(CDRH3)、配列番号:14(CDRL1)、配列番号:15(CDRL2)および配列番号:16(CDRL3)で表されるアミノ酸配列を含む前記[1]に記載のモノクローナル抗体。
[5]配列番号:17(CDRH1)、配列番号:18(CDRH2)、配列番号:19(CDRH3)、配列番号:20(CDRL1)、配列番号:21(CDRL2)および配列番号:22(CDRL3)で表されるアミノ酸配列を含む前記[1]に記載のモノクローナル抗体。
[6]重鎖可変部領域が配列番号:7に記載されたアミノ酸配列であり、軽鎖可変部領域が、配列番号:8に記載されたアミノ酸配列である前記[1]に記載のモノクローナル抗体。
[7]重鎖可変部領域が配列番号:9に記載されたアミノ酸配列であり、軽鎖可変部領域が、配列番号:10に記載されたアミノ酸配列である前記[1]に記載のモノクローナル抗体。
[8]ヒトパピローマウイルスL2蛋白質を認識し、寄託番号FERM BP−11304のハイブリドーマ細胞株によって産生される前記[6]に記載のモノクローナル抗体。
[9]ヒトパピローマウイルスL2蛋白質を認識し、寄託番号FERM BP−11305のハイブリドーマ細胞株によって産生される前記[7]に記載のモノクローナル抗体。
[10]ヒトパピローマウイルス(HPV)の交叉性中和抗体の抗体価測定方法であって、
(a)試験サンプルを、HPV抗原と接触させ、当該サンプル中の抗体を当該抗原に結合させる工程、
(b)前記[1]に記載のモノクローナル抗体を(a)の反応系に添加し、当該抗原に結合した当該モノクローナル抗体の量を測定する工程、
を含む方法。
[11]ヒトパピローマウイルス(HPV)の交叉性中和抗体の抗体価測定方法であって、
(a)試験サンプルを、HPV抗原と接触させ、当該サンプル中の抗体を当該抗原に結合させる工程、
(b)(a)で抗体が結合しなかった余剰のエピトープに、前記[1]に記載のモノクローナル抗体を接触させ、当該モノクローナル抗体が結合する量を測定する工程、
を含む方法。
[12]ヒトパピローマウイルス(HPV)の交叉性中和抗体の抗体価測定方法であって、
(a)前記[1]に記載のモノクローナル抗体と試験サンプルを混合した後にHPV抗原と接触させ、抗体/抗原複合体を形成させる工程、
(b)(a)で得られる抗体/抗原複合体のうち、抗体/抗原複合体を形成した当該モノクローナル抗体の量を測定する工程、
を含む方法。
[13]該抗原に結合させた該モノクローナル抗体または該エピトープに接触させ結合した該モノクローナル抗体に、該モノクローナル抗体を認識する標識二次抗体を接触させ、該標識二次抗体により生じるシグナルの強度を試験サンプル存在下および非存在下において測定することにより、該試験サンプル中に存在しうる交叉性中和抗体の抗体価を測定する、前記[10]または[11]に記載の方法。
[14−1]工程(a)において形成されるモノクローナル抗体と抗原の複合体に、該モノクローナル抗体を認識する標識二次抗体を接触させ、試験サンプル添加前と後での該標識二次抗体により生じるシグナルの強度を測定することにより、該試験サンプル中に存在しうる交叉性中和抗体の抗体価を測定する、前記[12]に記載の方法。
[14−2]工程(a)において形成されるモノクローナル抗体と抗原の複合体に、該モノクローナル抗体を認識する標識二次抗体を接触させ、試験サンプル存在下および非存在下において該標識二次抗体により生じるシグナルの強度を測定することにより、該試験サンプル中に存在しうる交叉性中和抗体の抗体価を測定する、前記[12]に記載の方法。
[15]HPV抗原が固体支持体に固定されている前記[10]〜[14−2]のいずれか1項に記載の方法。
[16]試験サンプル中のHPV交叉性中和抗体の存在を測定するためのキットであって、(a)固体支持体に結合させたHPV抗原、(b)前記[1]に記載のモノクローナル抗体、および(c)前記[1]に記載のモノクローナル抗体を認識する標識二次抗体とを含んでなる前記キット。
[17]前記[1]に記載のモノクローナル抗体を含んでなるHPV感染の診断試薬。
[18]前記[1]に記載のモノクローナル抗体を産生する細胞株。
[19]寄託番号がFERM BP−11304またはFERM BP−11305である前記[18]に記載の細胞株。
[20]前記[1]に記載のモノクローナル抗体を含む医薬。
[21]前記[1]に記載のモノクローナル抗体を含むHPV治療薬。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、本発明のモノクローナル抗体とHPV抗原との結合を、試料が競合的に阻害する程度を測定し、試料中の交叉性中和抗体レベルを知ることができる。ELISAを使うので、本発明の測定法は迅速、簡便であり、臨床試験で得られる大量の被験者血清中の交叉性中和抗体価をハイスループットに測定することが可能となる。また、本発明のモノクローナル抗体は、HPV感染の診断、あるいはHPV感染の治療剤としても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ELISAによるエピトープマッピングの結果を示す図である。
図2】モノクローナル抗体13B及び24Bが認識するP56/75内のエピトープと、高リスク型HPVでのアミノ酸配列の保存領域を示す図である。
図3】モノクローナル抗体13B及び24Bによる16型及び58型偽ウイルスの中和を示す図である。
図4】モノクローナル抗体13B及び24Bの高リスク型L1/L2−キャプシドへの結合を示す図である。
図5】ELISAを用いたモノクローナル抗体13B及び24Bによる交叉性中和抗体価測定方法を示す図である。
図6】KLH結合ペプチドまたはキメラキャプシドで免疫したウサギに誘導された交叉性中和抗体を示す図である。
図7】モノクローナル抗体13B及び24Bの重鎖、軽鎖の可変領域のアミノ酸配列およびそれらの相補性決定領域(CDR)を示す図である。
図8】ELISAによるエピトープマッピングの結果を示す図である。
図9】モノクローナル抗体13B及び24Bが認識するP56/75内のエピトープと、高リスク型HPVでのアミノ酸配列の保存領域を示す図である。
図10】モノクローナル抗体13B及び24Bによる16、18、31、33、35、51、52および58偽ウイルスの中和を示す図である。
図11】モノクローナル抗体13B及び24Bの高リスク型L1/L2−キャプシドへの結合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、HPVL2蛋白質を認識するモノクローナル抗体(以下、本発明のモノクローナル抗体と称することもある)の抗原の調製法、および該モノクローナル抗体の製造法について説明する。
【0010】
ヒトパピローマウイルスは、2つの構造遺伝子として、L1およびL2を有し、その産物はキャプシド蛋白として機能する。
「ヒトパピローマウイルスL2蛋白質」とは、ヒトパピローマウイルス(HPV)の当該L2遺伝子によりコードされる蛋白質(Zhou J et al., Expression of vaccinia recombinant HPV 16 L1 and L2 ORF proteins in epithelial cells is sufficient for assembly of HPV virion-like particles. Virology. 185: 251-257, 1991)を意味する。
【0011】
本発明で用いられるHPVL2蛋白質またはL2ペプチドは、例えば、GGLGIGTGSGTGGRTGYIPL(配列番号:1)で表される蛋白質(ポリペプチド)またはその誘導体である。
配列番号:1で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドの誘導体の例としては、(1)上記アミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは、1〜10個程度、より好ましくは数個(1〜9個もしくは1〜5個)、さらに好ましくは、1、2または3個)のアミノ酸が欠失したもの、(2)上記アミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1〜20個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数個(1〜9個)、さらに好ましくは、1、2または3個)のアミノ酸が付加したもの、(3)上記アミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1〜20個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数個(1〜9個)、さらに好ましくは、1、2または3個)のアミノ酸が挿入されたもの、または(4)上記アミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは、1〜10個程度、より好ましくは数個(1〜9個もしくは1〜5個)、さらに好ましくは、1、2または3個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたもの、または(5)上記の組合せが挙げられる。
なお、本明細書における蛋白質(ポリペプチド)は、ペプチド標記の慣例に従って、左端がN末端(アミノ末端)、右端がC末端(カルボキシル末端)である。
本発明で用いられる蛋白質は、C末端がカルボキシル基、カルボキシレート、アミドまたはエステルの何れであってもよい。
本明細書において、「抗体」は、抗原であるHPVのL2蛋白質を認識あるいは結合し得る抗体分子全体またはその断片を意味し、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。
本明細書において、「モノクローナル抗体」は、単一の抗体産生細胞から得られた抗体分子である。モノクローナル抗体には、モノクローナル抗体分子そのもの、またモノクローナル抗体分子の断片が含まれる。
上記抗体またはモノクローナル抗体の「断片」とは、全長抗体の一部を指し、一般に、抗原結合領域または可変領域を含む部分のことである。例えば、抗体断片にはFab、Fab’、F(ab’)2、及びFv断片が含まれる。その他の断片としては、diabody(diabodies)、線状抗体、一本鎖抗体分子、及び抗体断片より形成された多特異性抗体が含まれる。
本発明の測定法に用いられる好ましいモノクローナル抗体としては、マウス由来の軽鎖および重鎖可変領域、およびマウス由来のγ1重鎖およびκ軽鎖定常領域を含む、IgG1抗体またはIgG2抗体である。
また、医薬として用いられるモノクローナル抗体は、後述の通り、部分的もしくは完全にヒト化、またはキメラ化したものが好ましく用いられる。
本明細書において、「共有エピトープ」とは、HPVL2蛋白質のアミノ酸配列のうち、高リスク型HPVで高度に保存されている領域であって、本発明のモノクローナル抗体が認識し得る領域を意味し、例えば、GTGGRTGYIPL(配列番号:2)、GGLGIGTGSGTGGR(配列番号:3)、SGTGGRTGYI(配列番号:24)もしくはLGIGTGSGTG(配列番号:25)のアミノ酸配列またはGTGGRTGYIPL(配列番号:2)もしくはGGLGIGTGSGTGGR(配列番号:3)のアミノ酸配列、またはそれらの変異配列を意味する。
配列番号:2、配列番号:3、配列番号:24および配列番号:25で表されるアミノ酸配列の変異配列を有するポリペプチドには、(1)上記アミノ酸配列中の1〜3個(あるいは1〜2個、または1個)のアミノ酸が欠失したもの、(2)上記アミノ酸配列に1〜3個(あるいは1〜2個、または1個)のアミノ酸が付加したもの、(3)上記アミノ酸配列に1〜3個(あるいは1〜2個、または1個)のアミノ酸が挿入されたもの、または(4)上記アミノ酸配列中の1〜3個(あるいは1〜2個、または1個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたもの、または(5)それらの組合せが含まれる。
【0012】
本明細書において、「HPVL2蛋白質を認識する」とは、HPVL2蛋白質に特異的に結合することを意味し、具体的には、エンザイム・イムノアッセイ等のイムノアッセイにより特異的な抗原抗体反応が検出可能であることを意味する。
本発明のHPVL2蛋白質を認識するモノクローナル抗体は、HPVL2蛋白質の部分ペプチド(好ましくは、配列番号:1で表されるHPVL2ペプチド(P56/75))に特異的に結合するものであればよい。このようなモノクローナル抗体としては、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドまたはその誘導体に特異的に結合するモノクローナル抗体が挙げられる。
【0013】
より具体的な本発明のHPVL2蛋白質を認識するモノクローナル抗体としては、HPVL2蛋白質の共有エピトープ(好ましくは、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:24または配列番号:25で表されるペプチド)に特異的に結合するモノクローナル抗体などが挙げられる。
本明細書においては、配列番号:2で表されるペプチドを認識するモノクローナル抗体を、13B、配列番号:3で表されるペプチドを認識するモノクローナル抗体を、24Bと称する。13Bは、配列番号:24で表されるペプチドを認識するモノクローナル抗体も含む。24Bは、配列番号:25で表されるペプチドを認識するモノクローナル抗体も含む。
本明細書において、「相補性決定領域」とは、可変領域において、抗原と相補的に直接結合する領域を意味し、具体的には、図7に示される重鎖および軽鎖における各3つの領域(CDRH1、CDRH2、CDRH3、CDRL1、CDRL2、およびCDRL3)を指す。
好ましいモノクローナル抗体としては、相補性決定領域(CDR)の配列が、図7の重鎖および軽鎖のCDR1〜CDR3に示される配列を有する、モノクローナル抗体13Bまたは24Bである。
さらに好ましくは、重鎖可変部領域が配列番号:7に記載されたアミノ酸配列であり、軽鎖可変部領域が、配列番号:8に記載されたアミノ酸配列であるモノクローナル抗体であって、配列番号:7および8における相補性決定領域を除くアミノ酸配列が、それらの変異配列となっていてもよいモノクローナル抗体である。ここで、該相補性決定領域は、例えば、配列番号:11〜16の少なくとも1つに記載されたアミノ酸配列である。
または、重鎖可変部領域が配列番号:9に記載されたアミノ酸配列であり、軽鎖可変部領域が、配列番号:10に記載されたアミノ酸配列であるモノクローナル抗体であって、配列番号:9および10における相補性決定領域を除くアミノ酸配列が、それらの変異配列となっていてもよいモノクローナル抗体である。ここで、該相補性決定領域は、例えば、配列番号:17〜22の少なくとも1つに記載されたアミノ酸配列である。
配列番号:7〜10における相補性決定領域を除くアミノ酸配列の変異配列には、(1)上記アミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは、1〜10個程度、より好ましくは数個(1〜9個もしくは1〜5個)、さらに好ましくは、1、2または3個)のアミノ酸が欠失したもの、(2)上記アミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1〜20個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数個(1〜9個)、さらに好ましくは、1、2または3個)のアミノ酸が付加したもの、(3)上記アミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1〜20個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数個(1〜9個)、さらに好ましくは、1、2または3個)のアミノ酸が挿入されたもの、または(4)上記アミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは、1〜10個程度、より好ましくは数個(1〜9個もしくは1〜5個)、さらに好ましくは、1、2または3個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたもの、または(5)上記の組合せが含まれる。
【0014】
定常領域のアミノ酸配列は、ヒトまたは哺乳動物(例、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)などのIgG1抗体またはIgG2抗体由来のものを用いることができる。
モノクローナル抗体13Bの例としては、Mouse-Mouse hybridoma 13B(FERM BP−11304)で標示されるハイブリドーマ細胞から産生されるモノクローナル抗体が挙げられる。モノクローナル抗体24Bの例としては、Mouse-Mouse hybridoma 24B(FERM BP−11305)で標示されるハイブリドーマ細胞から産生されるモノクローナル抗体が挙げられる。
【0015】
「交叉性中和抗体」とは、二以上の遺伝子型のHPVを中和することができる抗体、または二以上の遺伝子型のHPVの感染を中和することができる抗体を意味する。HPVには、6、11、16、18、31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、66、68、73型など非常に多くの遺伝子型が知られている(zur Hausen H. Papillomavirus infections--a major cause of human cancers. Biochim Biophys Acta. 1288: F55-78, 1996)。好ましい交叉性中和抗体は、三以上の高リスク型(16、18、31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、66、68、73型)HPVを中和することができる抗体である。より好ましくは、16および18型のほかに、33、52および58型のうち少なくとも1以上の型のHPVを中和することができる抗体である。具体的には、上記高リスク型のHPVL2蛋白質に特異的に結合し、HPVを中和することができる抗体である。
「HPV抗原」とは、交叉性中和抗体の測定において、抗原/抗体複合体を形成させるための抗原として用いられるものを意味する。使用可能なHPV抗原としては、型共通のエピトープ(例えば、共有エピトープ)を有するものであれば、遺伝子型の制限はなく、例えば、L2蛋白質を保持したキャプシドや偽ウイルスである。HPV16のL1/L2キメラキャプシドが好ましい。また、HPV抗原として、L2ペプチド全長、その一部(例えばL2ペプチド(56-75))もしくはそれらの変異体又はキーホールリンペットヘモシアニンやBSAに結合したL2ペプチド(例えばKLH-P56/75)などを使用することもできる。
「標識二次抗体」とは、本発明のモノクローナル抗体を認識する抗体であって、酵素の活性や放射性同位体、発色あるいは発光などの、検出可能なシグナルを生成することができる物質で標識された抗体を意味する。
【0016】
以下に、本発明のモノクローナル抗体の抗原の調製法、および該モノクローナル抗体の製造法について説明する。
(1)抗原の調製
本発明のモノクローナル抗体を調製するために使用される抗原としては、例えば、HPVL2蛋白質のアミノ酸番号56〜75の配列を有するペプチド(L2ペプチド(56-75))、具体的には、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含有するポリペプチドまたはその塩と同一の抗原決定基を1種あるいは2種以上有する(合成)ペプチド、配列番号:1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはその誘導体など、何れのものも使用することができる(以下、これらを単にL2ペプチド抗原と称することもある)。
配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含有するポリペプチドまたはその塩は、公知の方法、例えばWO 09/01867号公報に記載の方法に準じて製造でき、さらに、L2ペプチド抗原としてのペプチドは、(1)公知のペプチドの合成法に従って、または(2)配列番号:1または配列番号:2、3、24もしくは25で表されるアミノ酸配列を含有するポリペプチドを適当なペプチダーゼで切断することによって製造することもできる。
該ペプチドの合成法としては、例えば固相合成法、液相合成法のいずれによっても良い。すなわち、該ペプチドを構成し得る部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合させ、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的のペプチドを製造することができる。公知の縮合方法や保護基の脱離としてはたとえば、以下に記載された方法等が挙げられる。
(i)M. Bodanszky およびM.A. Ondetti、ペプチド シンセシス (Peptide Synthesis), Interscience Publishers, New York (1966年)
(ii)SchroederおよびLuebke、ザ ペプチド(The Peptide), Academic Press, New York (1965年)
また、反応後は通常の精製法、例えば、溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、再結晶などを組み合わせて該ペプチドを精製単離することができる。上記方法で得られるペプチドが遊離体である場合は、公知の方法によって適当な塩に変換することができ、逆に塩で得られた場合は、公知の方法によって遊離体に変換することができる。
【0017】
ペプチドのアミド体は、アミド形成に適した市販のペプチド合成用樹脂を用いて合成することができる。そのような樹脂としては例えば、クロロメチル樹脂、ヒドロキシメチル樹脂、ベンズヒドリルアミン樹脂、アミノメチル樹脂、4−ベンジルオキシベンジルアルコール樹脂、4−メチルベンズヒドリルアミン樹脂、PAM樹脂、4−ヒドロキシメチルメチルフェニルアセトアミドメチル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、4−(2’,4’-ジメトキシフェニル−ヒドロキシメチル)フェノキシ樹脂、4−(2’,4’-ジメトキシフェニル−Fmocアミノエチル)フェノキシ樹脂などを挙げることができる。このような樹脂を用い、α−アミノ基と側鎖官能基を適当に保護したアミノ酸を、目的とするペプチドの配列通りに、公知の各種縮合方法に従い、樹脂上で縮合させる。反応の最後に樹脂からペプチドを切り出すと同時に各種保護基を除去し、目的のペプチドを取得する。あるいはクロロトリチル樹脂、オキシム樹脂、4−ヒドロキシ安息香酸系樹脂等を用い、部分的に保護したペプチドを取り出し、更に常套手段で保護基を除去し目的のペプチドを得ることもできる。
【0018】
上記した保護されたアミノ酸の縮合に関しては、ペプチド合成に使用できる各種活性化試薬を用いることができるが、特に、カルボジイミド類がよい。カルボジイミド類としてはDCC、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロリル)カルボジイミドなどが挙げられる。これらによる活性化にはラセミ化抑制添加剤(例えば、HOBt、HOOBtなど)とともに保護されたアミノ酸を直接樹脂に添加するか、または、対称酸無水物またはHOBtエステルあるいはHOOBtエステルとしてあらかじめ保護されたアミノ酸の活性化を行ったのちに樹脂に添加することができる。保護されたアミノ酸の活性化や樹脂との縮合に用いられる溶媒としては、ペプチド縮合反応に使用しうることが知られている溶媒から適宜選択されうる。たとえばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどの酸アミド類、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類、トリフルオロエタノールなどのアルコール類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、ピリジンなどの三級アミン類、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類、酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類あるいはこれらの適宜の混合物などが用いられる。反応温度はペプチド結合形成反応に使用され得ることが知られている範囲から適宜選択され、通常約−20℃〜約50℃の範囲から適宜選択される。活性化されたアミノ酸誘導体は通常約1.5ないし約4倍過剰で用いられる。ニンヒドリン反応を用いたテストの結果、縮合が不十分な場合には保護基の脱離を行うことなく縮合反応を繰り返すことにより十分な縮合を行うことができる。反応を繰り返しても十分な縮合が得られないときには、無水酢酸またはアセチルイミダゾールを用いて未反応アミノ酸をアセチル化して、後の反応に影響を及ぼさないようにすることができる。
【0019】
原料アミノ酸のアミノ基の保護基としては、たとえば、ベンジルオキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基、t−ペンチルオキシカルボニル基、イソボルニルオキシカルボニル基、4−メトキシベンジルオキシカルボニル基、2−Cl−ベンジルオキシカルボニル基、2−Br−ベンジルオキシカルボニル基、アダマンチルオキシカルボニル基、トリフルオロアセチル基、フタロイル基、ホルミル基、2−ニトロフェニルスルフェニル基、ジフェニルホスフィノチオイル基、N−9−フルオレニルメトキシカルボニル基などが挙げられる。カルボキシル基の保護基としては、たとえばC1-6アルキル基、C3-8シクロアルキル基、C7-14アラルキル基、2−アダマンチル基、4−ニトロベンジル基、4−メトキシベンジル基、4−クロロベンジル基、フェナシル基およびベンジルオキシカルボニルヒドラジド基、t−ブトキシカルボニルヒドラジド基、トリチルヒドラジド基などが挙げられる。
セリンおよびスレオニンの水酸基は、たとえばエステル化またはエーテル化によって保護することができる。このエステル化に適する基としては例えばアセチル基などの低級(C1-6)アルカノイル基、ベンゾイル基などのアロイル基、ベンジルオキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などの炭酸から誘導される基などが挙げられる。また、エーテル化に適する基としては、たとえばベンジル基、テトラヒドロピラニル基、t-ブチル基などである。
チロシンのフェノール性水酸基の保護基としては、たとえばベンジル基、Cl−ベンジル基,2−ニトロベンジル基、Br−ベンジルオキシカルボニル基、t-ブチル基などが挙げられる。
ヒスチジンのイミダゾールの保護基としては、p−トルエンスルフォニル基、4−メトキシ−2,3,6−トリメチルベンゼンスルホニル基、ジニトロフェノール基、ベンジルオキシメチル基、t−ブトキシメチル基、t−ブトキシカルボニル基、トリチル基、N−9−フルオレニルメトキシカルボニル基などが挙げられる。
原料のカルボキシル基の活性化されたものとしては、たとえば対応する酸無水物、アジド、活性エステル[アルコール(たとえば、ペンタクロロフェノール、2,4,5−トリクロロフェノール、2,4−ジニトロフェノール、シアノメチルアルコール、パラニトロフェノール、HONB、N−ヒドロキシスクシンイミド、N−ヒドロキシフタルイミド、HOBt)とのエステル]などが挙げられる。原料のアミノ基の活性化されたものとしては、たとえば対応するリン酸アミドが挙げられる。
【0020】
保護基の除去(脱離)方法としては、たとえばPd−黒あるいはPd−炭素などの触媒の存在下での水素気流中での接触還元や、また、無水フッ化水素、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸あるいはこれらの混合液などによる酸処理や、ジイソプロピルエチルアミン、トリエチルアミン、ピペリジン、ピペラジンなどによる塩基処理、また液体アンモニア中ナトリウムによる還元なども挙げられる。上記酸処理による脱離反応は一般に−20℃〜40℃の温度で行われるが、酸処理においてはアニソール、フェノール、チオアニソール、メタクレゾール、パラクレゾール、ジメチルスルフィド、1,4−ブタンジチオール、1,2−エタンジチオールのようなカチオン捕捉剤の添加が有効である。また、ヒスチジンのイミダゾール保護基として用いられる2,4−ジニトロフェニル基はチオフェノール処理により除去され、トリプトファンのインドール保護基として用いられるホルミル基は上記の1,2−エタンジチオール、1,4−ブタンジチオールなどの存在下の酸処理による脱保護以外に、希水酸化ナトリウム、希アンモニアなどによるアルカリ処理によっても除去される。
原料の反応に関与すべきでない官能基の保護および保護基、ならびにその保護基の脱離、反応に関与する官能基の活性化などは、公知の基あるいは公知の手段から適宜選択しうる。
ペプチドのアミド体を得る別の方法としては、まず、カルボキシル末端アミノ酸のα−カルボキシル基をアミド化した後、アミノ基側にペプチド鎖を所望の鎖長まで延ばした後、該ペプチド鎖のN末端のα−アミノ基の保護基のみを除いたペプチドとC末端のカルボキシル基の保護基のみを除いたペプチド(またはアミノ酸)とを製造し、この両ペプチドを上記したような混合溶媒中で縮合させる。縮合反応の詳細については上記と同様である。縮合により得られた保護ペプチドを精製した後、上記方法によりすべての保護基を除去し、所望の粗ペプチドを得ることができる。この粗ペプチドは既知の各種精製手段を駆使して精製し、主要画分を凍結乾燥することで所望のペプチドのアミド体を得ることができる。
ペプチドのエステル体を得るにはカルボキシ末端アミノ酸のα−カルボキシル基を所望のアルコール類と縮合しアミノ酸エステルとした後、ペプチドのアミド体と同様にして所望のペプチドのエステル体を得ることができる。
【0021】
L2ペプチド抗原は、直接免疫に用いることもできる。また、L2ペプチド抗原を適当な担体に結合または吸着させた複合体を免疫してもよい。該担体(キャリアー)とL2ペプチド抗原(ハプテン)との混合比は、担体に結合あるいは吸着させたL2ペプチド抗原に対してモノクローナル抗体が効率よく誘導できれば、どのようなものをどのような比率で結合あるいは吸着させてもよく、通常ハプテン抗原に対するモノクローナル抗体の作製にあたり常用されている天然もしくは合成の高分子担体を重量比でハプテン1に対し0.1〜100の割合で結合あるいは吸着させたものを使用することができる。天然の高分子担体としては、例えばウシ、ウサギ、ヒトなどの哺乳動物の血清アルブミンや例えばウシ、ウサギなどの哺乳動物のチログロブリン、例えばウシ、ウサギ、ヒト、ヒツジなどの哺乳動物のヘモグロビン、キーホールリンペットヘモシアニンなどが用いられる。合成の高分子担体としては、例えばポリアミノ酸類、ポリスチレン類、ポリアクリル類、ポリビニル類、ポリプロピレン類などの重合物または供重合物などの各種ラテックスなどを用いることができる。
また、ハプテンとキャリアーのカプリングには、種々の縮合剤を用いることができる。例えば、チロシン、ヒスチジン、トリプトファンを架橋するビスジアゾ化ベンジジンなどのジアゾニウム化合物、アミノ基同志を架橋するグルタルアルデビトなどのジアルデヒド化合物、トルエン−2,4−ジイソシアネートなどのジイソシアネート化合物、チオール基同志を架橋するN,N’−o−フェニレンジマレイミドなどのジマレイミド化合物、アミノ基とチオール基を架橋するマレイミド活性エステル化合物、アミノ基とカルボキシル基とを架橋するカルボジイミド化合物などが好都合に用いられる。また、アミノ基同志を架橋する際にも、一方のアミノ基にジチオピリジル基を有する活性エステル試薬(例えば、3-(2-ピリジルジチオ)プロピオン酸N-スクシンイミジル(SPDP)など)を反応させた後還元することによりチオール基を導入し、他方のアミノ基にマレイミド活性エステル試薬によりマレイミド基を導入後、両者を反応させることもできる。
本発明のモノクローナル抗体の作製においては、上記L2ペプチド抗原は、KLH(キーホールリンペットヘモシアニン)に接合したものが好ましい。なお、KLHとL2ペプチド抗原の接合体としては、このKLHによるペプチド領域のマスキングを防ぐためにN末にシステイン残基を付加したものが好ましい。
【0022】
(2)モノクローナル抗体の作製
L2ペプチド抗原は、温血動物に対して、例えば腹腔内注入、静脈注入、皮内注射、皮下注射などの投与方法によって、抗体産生が可能な部位にそれ自体単独であるいは担体、希釈剤と共に投与される。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は、通常2〜6週毎に1回ずつ、計2〜10回程度行われる。温血動物としては、例えばサル、ウサギ、イヌ、モルモット、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギ、ニワトリなどがあげられるが、モノクローナル抗体作製にはマウスが好ましく用いられる。
モノクローナル抗体の作製に際しては、L2ペプチド抗原を免疫された温血動物、たとえばマウスから抗体価の認められた個体を選択し、最終免疫の2〜5日後に該個体から脾臓またはリンパ節を採取し、それらに含まれる抗体産生細胞を骨髄腫細胞と融合させることにより、本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ(以下、本発明の抗体産生ハイブリドーマともいう)を調製することができる。
血清中の抗L2ペプチド抗体価の測定は、例えば後記の標識化L2ペプチドと抗血清とを反応させたのち、抗体に結合した標識剤の活性を測定することによりなされる。融合操作は既知の方法、例えばケーラーとミルスタインの方法〔Nature、256巻、495頁(1975年)〕に従い実施できる。融合促進剤としては、ポリエチレングリコール(PEG)やセンダイウイルスなどが挙げられるが、好ましくはPEGなどが用いられる。骨髄腫細胞としては、たとえばNS-1、P3U1、SP2/0、AP-1などがあげられ、P3U1などが好ましく用いられる。用いられる抗体産生細胞(脾臓細胞)数と骨髄腫細胞数との好ましい比率は、通常1:1〜20:1程度であり、PEG(好ましくはPEG1000〜PEG6000)が10〜80%程度の濃度で添加され、通常20〜40℃、好ましくは30〜37℃、通常1〜10分間インキュベートすることにより効率よく細胞融合を実施できる。
【0023】
本発明の抗体産生ハイブリドーマのスクリーニングには種々の方法が使用できるが、例えば配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含有するポリペプチドまたはその塩あるいはそれらの部分ペプチドを直接あるいは担体とともに吸着させた固相(例、マイクロプレート)にハイブリドーマ培養上清を添加し、次に放射性物質や酵素などで標識した抗免疫グロブリン抗体(細胞融合に用いられる抗体産生細胞がマウスの場合、抗マウス免疫グロブリン抗体が用いられる)またはプロテインAを加え、固相に結合した本発明の抗体を検出する方法、抗免疫グロブリン抗体またはプロテインAを吸着させた固相にハイブリドーマ培養上清を添加し、放射性物質や酵素などで標識した配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含有するポリペプチドを加え、固相に結合した本発明のモノクローナル抗体を検出する方法などがあげられる。上記スクリーニングにおいて、HPV16 L1/L2キャプシドを抗原として用いることもできる。本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングまたは育種は、通常HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)を添加して、10〜20%牛胎児血清を含む動物細胞用培地(例、RPMI1640)で行われる。ハイブリドーマ培養上清の抗体価は、上記の抗血清中の本発明の抗体の抗体価の測定と同様にして測定できる。
本発明のモノクローナル抗体は、本発明の抗体産生ハイブリドーマの培養物(例えば、培養上清、培養細胞)から取得することができる。また、本発明のモノクローナル抗体は、本発明の抗体産生ハイブリドーマを生体内(例えば腹腔)に接種された非ヒト温血動物の体液(例えば、腹水、血液など)から取得することができる。該培養物または体液からの本発明のモノクローナル抗体の分離精製は、通常のポリクローナル抗体の分離精製と同様に免疫グロブリンの分離精製法〔例、塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体(例、DEAE)による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、抗原結合固相あるいはプロテインAまたはプロテインGなどの活性吸着剤によりモノクローナル抗体のみを採取し、結合を解離させてモノクローナル抗体を得る特異的精製法など〕に従って行われる。
以上のようにして、ハイブリドーマ細胞を温血動物の生体内又は生体外で培養し、その体液または培養物からモノクローナル抗体を採取することによって、本発明のモノクローナル抗体を製造することができる。
なお、(a)配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含有するポリペプチドの一部領域と反応する本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ、および(b)上記ポリペプチドとは反応するが、その一部領域とは反応しない本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングは、例えば、その一部領域に相当するペプチドとハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体との結合性を測定することにより行うことができる。
【0024】
(3)交叉性中和抗体の測定法
本発明のモノクローナル抗体を用いることにより、交叉性中和抗体の測定あるいは検出を、好ましくはヒトパピローマウイルス(HPV)の交叉性中和抗体の抗体価の測定あるいは検出を効率よく行なうことができる。
具体的には、
A.(a)試験サンプルを、HPV抗原と接触させ、サンプル中の抗体を当該抗原に結合させる工程、
(b)(a)で抗体が結合しなかった余剰のエピトープに、本発明のモノクローナル抗体を接触させ、当該モノクローナル抗体が結合する量を測定する工程、を含む方法、
あるいは、
B.(a)試験サンプルと本発明のモノクローナル抗体を混合し、HPV抗原と接触させ、抗体/抗原複合体を形成させる工程、
(b)(a)で得られる抗体/抗原複合体のうち、抗体/抗原複合体を形成した本発明のモノクローナル抗体の量を測定する工程、を含む方法、
により測定することができる。
また、上記Aの方法は、
(a)試験サンプルを、HPV抗原と接触させ、当該サンプル中の抗体を当該抗原に結合させる工程、
(b)本発明のモノクローナル抗体を(a)の反応系に添加し、当該抗原に結合した当該モノクローナル抗体の量を測定する工程、
を含む方法であってもよい。
以下に本発明の交叉性中和抗体の測定法について、更に説明する。
本発明のモノクローナル抗体を用いる測定法は、特に制限されるものではなく、いずれの測定法を用いてもよいが、被測定液中の交叉性中和抗体量に対応する本発明のモノクローナル抗体の量を化学的または物理的手段により検出し、これを既知量の抗体を含む標準液を用いて作製し算出する測定法が好ましく用いられる。
本発明の測定方法は、HPVのL2蛋白質の共有エピトープを認識する本発明のモノクローナル抗体を用い、HPV抗原への当該抗体の結合量からサンプルの抗体価を求めるものである。したがって、本発明の測定法は、共有エピトープを認識する、HPVの交叉性中和抗体の抗体価を測定することができる。
以下に、さらに説明する。
上記Aの方法を用いる場合、試験サンプル中の型共通エピトープ認識抗体の測定には、一定量の抗原に段階希釈したサンプルを接触させることでサンプル中の抗体を抗原に結合させ、その後に充分量の本発明のモノクローナル抗体を加え、抗原に結合した本発明のモノクローナル抗体量を測定する。ここで、充分量の本発明のモノクローナル抗体とは、反応系に存在するエピトープに結合し得る当該モノクローナル抗体の総量または当該量以上のモノクローナル抗体を意味する。当該量は、測定に用いるHPV抗原の量と抗体価から求めることができる。(a)の反応系に添加された本発明のモノクローナル抗体は、余剰のエピトープに接触し結合する。ここで、余剰のエピトープは、サンプル中の抗体が結合しなかったHPV抗原エピトープ、あるいは反応系中に存在する全エピトープの中からサンプル中の抗体が結合したHPV抗原エピトープを除いたエピトープを意味する。本発明のモノクローナル抗体は、接触したエピトープの中、認識し得るエピトープに結合することができる。抗原に結合した本発明のモノクローナル抗体は、(a)において試験サンプル中の抗体が結合しなかった抗原に結合した本発明のモノクローナル抗体の他、サンプル中の抗体と置き換わって抗原に結合した本発明のモノクローナル抗体であってもよい。抗原に結合した本発明のモノクローナル抗体の量は、例えば、該モノクローナル抗体を認識する標識二次抗体を該モノクローナル抗体(例えば、余剰のエピトープに接触させた該モノクローナル抗体)に接触させ、該標識二次抗体により生じるシグナル強度を測定することで求めることができる。この方法により、エピトープを埋める、すなわち反応系中の全エピトープに結合し得るのに充分なサンプルの最大希釈が判明する。例えば、試験サンプル存在下および非存在下におけるシグナル強度を比較することで、該試験サンプル中に存在しうる交叉性中和抗体の抗体価を測定することができる。試験サンプルの非存在下におけるシグナル強度は、(a)において試験サンプルの代わりに陰性対照となり得るサンプル(水、緩衝液、血液など)を用いることで測定することができる。
上記Bの方法を用いる場合、試験サンプル中の型共通エピトープ認識抗体の測定には、段階希釈したサンプルと一定量の本発明のモノクローナル抗体を混ぜ、その後に一定量の抗原に反応させることで、抗体/抗原複合体を形成させる。そして、抗原に結合した本発明のモノクローナル抗体量を測定する。例えば、抗原に結合した本発明のモノクローナル抗体の量は、形成した本発明のモノクローナル抗体と抗原の複合体に、該モノクローナル抗体を認識する標識二次抗体を接触させ、該標識二次抗体により生じるシグナル強度を測定することで求めることができる。この方法では、本発明のモノクローナル抗体と競合的に結合し、本発明のモノクローナル抗体の結合を阻害(予め基準値を設定)するサンプルの最大希釈が判明する。例えば、試験サンプル存在下および非存在下あるいは試験サンプル添加前と後でのシグナル強度を比較することで、該試験サンプル中に存在しうる交叉性中和抗体の抗体価を測定することができる。試験サンプルの非存在下におけるシグナル強度は、(a)において試験サンプルの代わりに陰性対照となり得るサンプル(水、緩衝液、血液など)を用いることで測定することができる。
本発明において「抗体価」は、抗原に対する抗体の結合力の指標あるいはサンプル中の抗体の量を示す指標を意味する。本発明の測定方法において、抗体価は希釈倍率で求めることができる。本発明のモノクローナル抗体の結合量について、予め基準点を設定し、その基準点に達したときの当該サンプルの希釈倍率を当該サンプルに含まれる抗体の抗体価とすることができる。例えば、Aの場合、反応系中の全エピトープに結合し得るのに必要なサンプルの希釈倍率、すなわち、本発明のモノクローナル抗体の結合量の減少が認められなくなった点のサンプルの希釈倍率を、当該サンプルに含まれる抗体の抗体価として求めることができる。また、Bの場合、本発明のモノクローナル抗体の結合を阻害するサンプルの希釈倍率、すなわち、本発明のモノクローナル抗体の結合量の増加が認められなくなった点の希釈倍率を、当該サンプルに含まれる抗体の抗体価として求めることができる。
より高い希釈倍率であれば、抗体価はより高いと評価され、より低い希釈倍率であれば、抗体価はより低いと評価される。
上記Aの方法において、「接触」とは、試験サンプルまたは本発明のモノクローナル抗体および試験サンプルの混合物とHPV抗原とが、所定条件下で反応し得る環境下に両者を置くことを意味し、具体的には試験サンプル中の抗体または本発明のモノクローナル抗体とHPV抗原とが所定条件下で結合し得る環境下に両者を置くことを意味する。接触には、試験サンプルまたは混合物をHPV抗原に混合すること、HPV抗原を試験サンプルまたは混合物に混合すること、HPV抗原を固定化した固体支持体と試験サンプルまたは混合物とを共存させること、当該固体支持体中に試験サンプルまたは混合物を注入することなどが含まれる。試験サンプル、本発明のモノクローナル抗体または混合物とHPV抗原とを接触させると、試験サンプル中の抗体または本発明のモノクローナル抗体とHPV抗原とが結合する。
【0025】
(i)試験サンプルの調製
試験サンプルとしては、ヒト全血、血清等が好ましい。全血は、必要に応じて高速遠心を行うことにより、不溶性の物質を除去した後、以下のようにELISA/RIA用試験サンプルやウエスタンブロット用試験サンプルとして調製する。
【0026】
ELISA/RIA用試験サンプルとしては、例えば回収した血清をそのまま使用するか、緩衝液で適宜希釈したものを用いる。ウエスタンブロット用(電気泳動用)試験サンプルは、例えば血清をそのまま使用するか、緩衝液で適宜希釈して使用する。ドット/スロットブロットの場合も、上記と同様である。
【0027】
(ii)HPV抗原の固相化
上記のようにして得られた試験サンプル中の交叉性中和抗体を特異的に検出するためには、HPV抗原を免疫沈降法、リガントの結合を利用した方法等によって沈殿させ、固相化せずに検出に使用することもできるし、HPV抗原を固体支持体に固定(固相化)したものを用いることもできる。蛋白質を固相化する場合において、ウエスタンブロット法、ドットブロット法又はスロットブロット法に用いられるメンブレンとしては、ニトロセルロースメンブレン(例えば、バイオラッド社製等)、ナイロンメンブレン(例えば、ハイボンド−ECL(アマシャム・ファルマシア社製)等)、コットンメンブレン(例えば、ブロットアブソーベントフィルター(バイオラッド社製)等)又はポリビニリデン・ジフルオリド(PVDF)メンブレン(例えば、バイオラッド社製等)等が挙げられる。
【0028】
電気泳動後のゲルからメンブレンに抗原蛋白質を移す、いわゆるブロッティング方法としては、ウエット式ブロッティング法(CURRENTPROTOCOLS IN IMMUNOLOGY volume 2ed by J. E. Coligan, A. M. Kruisbeek, D. H. Margulies, E. M. Shevach, W. Strober)、セミドライ式ブロッティング法(上記CURRENTPROTOCOLS IN IMMUNOLOGY volume 2参照)等を挙げることができる。ドットブロット法やスロットブロット法のための器材も市販されている(例えば、バイオ・ドット(バイオラッド)等)。
【0029】
一方、ELISA法/RIA法で検出または定量を行うためには、専用の96穴プレート(例えば、イムノプレート・マキシソープ(ヌンク社製)等)にHPV抗原又はその希釈液(例えば0.05%アジ化ナトリウムを含むリン酸緩衝生理食塩水(以下「PBS」という)で希釈したもの)を入れて4℃乃至室温で一晩、又は37℃で1乃至3時間静置することにより、ウェル内底面にHPV抗原を吸着させて固相化する。
【0030】
(4)交叉性中和抗体の抗体価の測定
ここで用いられる抗体価の測定法としては、放射性同位元素免疫定量法(以下「RIA法」という)、固相酵素免疫定量法(以下「ELISA法」という)、蛍光抗体法、受身血球凝集反応法など種々の公知技術があげられるが、検出感度、迅速性、正確性、及び操作の自動化の可能性などの観点から、ELISA法がより好適である。
【0031】
本発明における抗体価の測定は、例えばELISA法によれば、以下に記載するような手順により行うことができる。まず、精製又は部分精製したHPV抗原をELISA用96穴プレート等の固相表面に吸着させ、段階的に希釈した試験サンプル(例えばヒト血清)中の交叉性中和抗体を抗体/抗原複合体形成に十分な時間及び条件下で接触させる。洗浄後、一次抗体として本発明のマウス型モノクローナル抗体に接触させ、抗体と結合せずに残ったエピトープに本発明のモノクローナル抗体を結合させる。さらに二次抗体として酵素標識された抗マウス抗体を加えてマウス型モノクローナル抗体に結合させ、洗浄後該酵素の基質を加え、基質分解に基づく発色による吸光度の変化等を測定することにより、抗体価を算出する。
上記手順のほか、試験サンプルと一次抗体として本発明のマウス型モノクローナル抗体を混合してから測定することも可能である。
試験サンプルを、段階希釈(例えば2段階以上、好ましくは3段階以上希釈)した時の吸光度から、平行線定量法により、各血清の交叉性中和抗体価を定量することができる。平行線定量法において、本発明のモノクローナル抗体を含む標準液を用いることができる(実施例3(試験方法3)参照)。
【0032】
本発明の方法に用いられるHPV抗原は、大腸菌や培養細胞で発現させたHPVL2蛋白質全長または一部、HPVL1及びL2蛋白質からなるキャプシド、偽ウイルス、またはL2蛋白質の配列の一部を持つ合成ペプチドが用いられる。
本発明の方法に用いられるモノクローナル抗体は、13B、24B、または13Bと24Bの混合物が用いられる。あるいは、本発明の方法に用いられるモノクローナル抗体は、本発明のモノクローナル抗体;好ましくはHPVL2蛋白質の共有エピトープを認識するモノクローナル抗体;より好ましくは配列番号:11(CDRH1)、配列番号:12(CDRH2)、配列番号:13(CDRH3)、配列番号:14(CDRL1)、配列番号:15(CDRL2)および配列番号:16(CDRL3)で表されるアミノ酸配列を含むモノクローナル抗体、または配列番号:17(CDRH1)、配列番号:18(CDRH2)、配列番号:19(CDRH3)、配列番号:20(CDRL1)、配列番号:21(CDRL2)および配列番号:22(CDRL3)で表されるアミノ酸配列を含むモノクローナル抗体;より好ましくは重鎖可変部領域が配列番号:7に記載されたアミノ酸配列であり、軽鎖可変部領域が、配列番号:8に記載されたアミノ酸配列であるモノクローナル抗体、または重鎖可変部領域が配列番号:9に記載されたアミノ酸配列であり、軽鎖可変部領域が、配列番号:10に記載されたアミノ酸配列であるモノクローナル抗体;またはより好ましくはFERM BP−11304またはFERM BP−11305のハイブリドーマ細胞株によって産生されるモノクローナル抗体が用いられる。
このようにして、本発明のモノクローナル抗体は、その特異性を利用し、交叉性中和抗体の検出や測定などに用いることができる。
【0033】
(i)検出
本発明のモノクローナル抗体は、それを直接標識するか、又は該抗体を一次抗体とし、該抗体を特異的に認識する(モノクローナル抗体を作製した動物由来の抗体を認識する)標識二次抗体と協同で検出に用いられる。
標識の種類として好ましいものは酵素(アルカリホスファターゼ又は西洋ワサビペルオキシダーゼ)又はビオチン(ただし二次抗体のビオチンにさらに酵素標識ストレプトアビジンを結合させる操作が加わる)であるが、これらに限定されない。標識二次抗体(又は標識ストレプトアビジン)を使用する方法のための、予め標識された抗体(又はストレプトアビジン)は種々のものが市販されている。RIAの場合はI125等の放射性同位元素で標識された抗体を用い、測定は液体シンチレーションカウンター等を用いて行う。
【0034】
これら標識された酵素の活性を検出することにより、交叉性中和抗体の量(力価)が測定される。アルカリホスファターゼ又は西洋ワサビペルオキシダーゼの場合、それら酵素の触媒により発色する基質や発光する基質が市販されている。本発明では、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)による酵素標識が好適に用いられる。
発色する基質を用いた場合、ウエスタンブロット法やドット/スロットブロット法においては目視で検出できる。ELISA法においては、好ましくは市販のマイクロプレートリーダーを用いて各ウェルの吸光度(測定波長は基質により異なる)を測定することにより定量する。
【0035】
一方、発光する基質を使用した場合は、ウエスタンブロット法やドット/スロットブロット法においてはX線フィルム又はイメージングプレートを用いたオートラジオグラフィーや、インスタントカメラを用いた写真撮影により検出することができ、デンシトメトリーやモレキュラー・イメージャーFxシステム(バイオラッド社製)等を利用した定量も可能である。また、ELISA法で発光基質を用いる場合は、発光マイクロプレートリーダー(例えば、バイオラッド社製等)を用いて酵素活性を測定する。
【0036】
(ii)測定操作
1)ウエスタンブロット、ドットブロット又はスロットブロットの場合
まず、モノクローナル抗体の非特異的吸着を阻止するため、予めメンブレンをそのような非特異的吸着を阻害する物質(スキムミルク、カゼイン、ウシ血清アルブミン、ゼラチン、ポリビニルピロリドン等)を含む緩衝液中に一定時間浸しておく操作(ブロッキング)を行う。ブロッキング溶液の組成は、例えば5%スキムミルク、0.05乃至0.1%ツイーン20を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)又はトリス緩衝生理食塩水(TBS)が用いられる。スキムミルクの代わりに、ブロックエース(大日本製薬)、1乃至10%のウシ血清アルブミン、0.5乃至3%のゼラチン又は1%のポリビニルピロリドン等を用いてもよい。ブロッキングの時間は、4℃で16乃至24時間、又は室温で1乃至3時間である。
【0037】
次に、メンブレンを0.05乃至0.1% ツイーン20を含むPBS又はTBS(以下「洗浄液」ともいう)で洗浄して余分なブロッキング溶液を除去した後、試験サンプルあるいは本発明のモノクローナル抗体をブロッキング溶液で適宜希釈した溶液中に一定時間浸して、試験サンプル中の交叉性中和抗体あるいはモノクローナル抗体をメンブレン上の抗原に結合させ、抗体/抗原複合体を形成させる。このときの試料またはモノクローナル抗体の希釈倍率は、予備のウエスタンブロッティング実験を行って決定することができる。この抗体反応操作は、好ましくは室温で2時間行う。抗体反応操作終了後、メンブレンを洗浄液で洗浄する。次いで上記で形成した抗体/抗原複合体に、適宜希釈したモノクローナル抗体または試験サンプルを加え、結合させる。ここで、用いたモノクローナル抗体が標識されたものである場合は、ただちに検出操作を行うことができる。未標識のモノクローナル抗体を用いた場合には、引き続いて二次抗体反応を行う。標識二次抗体は、例えば市販のものを使用する場合はブロッキング溶液で2000乃至20000倍に希釈して用いる(添付の指示書に好適な希釈倍率が記載されている場合は、その記載に従う)。一次抗体を洗浄除去した後のメンブレンを二次抗体溶液に室温で45分乃至1時間浸し、洗浄液で洗浄してから、標識方法に合わせた検出操作を行う。洗浄操作は、例えばまずメンブレンを洗浄液中で15分間振盪してから、洗浄液を新しいものに交換して5分間振盪した後、再度洗浄液を交換して5分間振盪することにより行う。必要に応じてさらに洗浄液を交換して洗浄してもよい。
【0038】
2)ELISA/RIAの場合
まず、HPV抗原を固相化させたプレートのウェル内底面へのモノクローナル抗体の非特異的吸着を阻止するため、ウエスタンブロットの場合と同様、予めブロッキングを行っておく。ブロッキングの条件については、ウエスタンブロットの項に記載した通りである。
次に、ウェル内を0.05乃至0.1% ツイーン20を含むPBS又はTBS(以下「洗浄液」ともいう)で洗浄して余分なブロッキング溶液を除去した後、試験サンプルを洗浄液で適宜希釈した溶液を分注して一定時間インキュベーションし、試料中の交叉性中和抗体を抗原に結合させる。このときの試料の希釈倍率は、例えば、予備のELISA実験を行って決定することができる。この抗体反応操作は、好ましくは室温で1時間程度行う。抗体反応操作終了後、ウェル内を洗浄液で洗浄する。次いで、本発明のモノクローナル抗体を同様に適宜希釈した溶液を分注して一定時間インキュベーションし、抗原と結合させる。ここで、用いたモノクローナル抗体が標識されたものである場合は、ただちに検出操作を行うことができる。未標識のモノクローナル抗体を用いた場合には、引き続いて二次抗体反応を行う。標識二次抗体は、例えば市販のものを使用する場合は洗浄液で2000乃至20000倍に希釈して用いる(添付の指示書に好適な希釈倍率が記載されている場合は、その記載に従う)。一次抗体を洗浄除去した後のウェルに二次抗体溶液を分注して室温で1乃至3時間インキュベーションし、洗浄液で洗浄してから、標識方法に合わせた検出操作を行う。洗浄操作は、例えばまずウェル内に洗浄液を分注して5分間振盪してから、洗浄液を新しいものに交換して5分間振盪した後、再度洗浄液を交換して5分間振盪することにより行う。必要に応じてさらに洗浄液を交換して洗浄してもよい。
また、試験サンプルと本発明のモノクローナル抗体は、適宜順番を入れ替えて用いることが可能である。
また、本発明は、試験サンプル中のHPV交叉性中和抗体の存在または抗体価を測定するためのキットまたはHPVの交叉性中和抗体の抗体価を測定するためのキットを提供する。具体的には、当該キットは、(a)固体支持体に結合させたHPV抗原、(b)本発明のモノクローナル抗体、および(c)本発明のモノクローナル抗体を認識する標識二次抗体とを含んでなる。当該キットは、測定に必要な試薬、バッファー、水、容器、取扱説明書等を含んでいてもよい。
【0039】
(5)本発明のモノクローナル抗体を含有してなる医薬
本発明のモノクローナル抗体は、HPV予防薬およびHPV治療薬、すなわちHPV感染、またはHPV感染により引き起こされる疾患の予防剤および治療剤などの医薬として使用することができる。医薬として使用する場合には、そのような疾患の治療または予防が必要なヒトまたは動物種に対し、適合性を有するモノクローナル抗体が用いられる。
HPV感染により引き起こされる疾患としては、子宮頸癌、尖圭コンジローマ、疣贅などの疾患が挙げられる。本発明のモノクローナル抗体を含有してなるHPV予防薬およびHPV治療薬は、好ましくは、子宮頸癌の予防剤または治療剤である。
【0040】
好ましい一実施態様において、本発明のモノクローナル抗体を医薬として用いる場合には、ヒトに投与した場合に抗原性を示す危険性が低減された抗体、具体的には、完全ヒト抗体、ヒト化抗体、マウス−ヒトキメラ抗体などのキメラ抗体が好ましく、特に好ましくは完全ヒト抗体である。ヒト化抗体およびキメラ抗体は、後述する方法に従って遺伝子工学的に作製することができる。また、完全ヒト抗体は、ヒト−ヒト(もしくはマウス)ハイブリドーマより製造することも可能ではあるが、大量の抗体を安定に且つ低コストで提供するためには、後述するヒト抗体産生動物(例:マウス)またはファージディスプレイ法を用いて製造することが望ましい。
【0041】
(i)キメラ抗体の作製
本明細書において「キメラ抗体」とは、H鎖およびL鎖の可変領域(VHおよびVL)の配列がある哺乳動物種に由来し、定常領域(CHおよびCL)の配列が他の哺乳動物種に由来する抗体を意味する。可変領域の配列は、例えばマウス等の容易にハイブリドーマを作製することができる動物種由来であることが好ましく、定常領域の配列は投与対象となる哺乳動物種由来であることが好ましい。
【0042】
キメラ抗体の作製法としては、例えば米国特許第6,331,415号に記載される方法あるいはそれを一部改変した方法などが挙げられる。具体的には、まず、上述のようにして得られる本発明のモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ(例えば、マウス−マウスハイブリドーマ)から、常法に従ってmRNAもしくは全RNAを調製し、cDNAを合成する。該cDNAを鋳型として、適当なプライマー(例えば、センスプライマーとしてVHおよびVLの各N末端配列をコードする塩基配列を含むオリゴDNA、アンチセンスプライマーとしてCHおよびCLのN末端配列をコードする塩基配列とハイブリダイズするオリゴDNA(例えばBio/Technology, 9: 88-89, 1991参照))を用い、常法に従ってPCRでVHおよびVLをコードするDNAを増幅、精製する。同様の方法により、他の哺乳動物(例:ヒト)のリンパ球等より調製したRNAからRT-PCRによりCHおよびCLをコードするDNAを増幅、精製する。常法を用いてVHとCH、VLとCLをそれぞれ連結し、得られたキメラH鎖DNAおよびキメラL鎖DNAを、それぞれ適当な発現ベクター(例えば、CHO細胞、COS細胞、マウス骨髄腫細胞等で転写活性を有するプロモーター(例:CMVプロモーター、SV40プロモーター等)を含むベクターなど)に挿入する。両鎖をコードするDNAは別個のベクターに挿入してもよいし、1個のベクターにタンデムに挿入してもよい。得られたキメラH鎖およびキメラL鎖発現ベクターで宿主細胞を形質転換する。宿主細胞としては、動物細胞、例えば上記したマウス骨髄腫細胞の他、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、サル由来のCOS-7細胞、Vero細胞、ラット由来のGHS細胞などが挙げられる。形質転換は動物細胞に適用可能ないかなる方法を用いてもよいが、好ましくはエレクトロポレーション法などが挙げられる。宿主細胞に適した培地中で一定期間培養後、培養上清を回収して上記と同様の方法で精製することにより、キメラモノクローナル抗体を単離することができる。あるいは、宿主細胞としてウシ、ヤギ、ニワトリ等のトランスジェニック技術が確立し、且つ家畜(家禽)として大量繁殖のノウハウが蓄積されている動物の生殖系列細胞を用い、常法によってトランスジェニック動物を作製することにより、得られる動物の乳汁もしくは卵から容易に且つ大量にキメラモノクローナル抗体を得ることもできる。さらに、トウモロコシ、イネ、コムギ、ダイズ、タバコなどのトランスジェニック技術が確立し、且つ主要作物として大量に栽培されている植物細胞を宿主細胞として、プロトプラストへのマイクロインジェクションやエレクトロポレーション、無傷細胞へのパーティクルガン法やTiベクター法などを用いてトランスジェニック植物を作製し、得られる種子や葉などから大量にキメラモノクローナル抗体を得ることも可能である。
得られたキメラモノクローナル抗体をパパインで分解すればFabが、ペプシンで分解すればF(ab’)2がそれぞれ得られる。
【0043】
また、マウスVHおよびVLをコードするDNAを適当なリンカー、例えば1〜40アミノ酸、好ましくは3〜30アミノ酸、より好ましくは5〜20アミノ酸からなるペプチド(例:[Ser-(Gly)m]nもしくは[(Gly)m-Ser]n(mは0〜10の整数、nは1〜5の整数)等)をコードするDNAを介して連結することによりscFvとすることができ、さらにCH3をコードするDNAを適当なリンカーを介して連結することによりminidodyモノマーとしたり、CH全長をコードするDNAを適当なリンカーを介して連結することによりscFv-Fcとすることもできる。このような遺伝子工学的に修飾(共役)された抗体分子をコードするDNAは、適当なプロモーターの制御下におくことにより大腸菌や酵母などの微生物で発現させることができ、大量に抗体分子を生産することができる。
【0044】
マウスVHおよびVLをコードするDNAを1つのプロモーターの下流にタンデムに挿入して大腸菌に導入すると、モノシストロニックな遺伝子発現によりFvと呼ばれる二量体を形成する。また、分子モデリングを用いてVHおよびVLのフレームワーク領域(FR)中の適当なアミノ酸をCysに置換すると、両鎖の分子間ジスルフィド結合によりdsFvと呼ばれる二量体が形成される。
【0045】
(ii)ヒト化抗体
本明細書において「ヒト化抗体」とは、可変領域に存在する相補性決定領域(CDR)以外のすべての領域(即ち、定常領域および可変領域中のFR)の配列がヒト由来であり、CDRの配列のみが他の哺乳動物種由来である抗体を意味する。他の哺乳動物種としては、例えばマウス等の容易にハイブリドーマを作製することができる動物種が好ましい。また、「完全ヒト抗体」は、本質的に、CDRを含む軽鎖および重鎖の両方の全配列がヒト遺伝子から生じる抗体を意味する。
ヒト化抗体の作製法としては、例えば米国特許第5,225,539号、第5,585,089号、第5,693,761号および第5,693,762号に記載される方法あるいはそれらを一部改変した方法などが挙げられる。具体的には、上記キメラ抗体の場合と同様にして、ヒト以外の哺乳動物種(例:マウス)由来のVHおよびVLをコードするDNAを単離した後、常法により自動DNAシークエンサー(例:Applied Biosystems社製等)を用いてシークエンスを行い、得られる塩基配列もしくはそこから推定されるアミノ酸配列を公知の抗体配列データベース[例えば、Kabat database (Kabatら,「Sequences of Proteins of Immunological Interest」,US Department of Health and Human Services, Public Health Service, NIH編, 第5版, 1991参照) 等]を用いて解析し、両鎖のCDRおよびFRを決定する。決定されたFR配列に類似したFR配列を有するヒト抗体のL鎖およびH鎖をコードする塩基配列[例:ヒトκ型L鎖サブグループIおよびヒトH鎖サブグループIIもしくはIII(Kabatら,1991(上述)を参照)]のCDRコード領域を、決定された異種CDRをコードする塩基配列で置換した塩基配列を設計し、該塩基配列を20〜40塩基程度のフラグメントに区分し、さらに該塩基配列に相補的な配列を、前記フラグメントと交互にオーバーラップするように20〜40塩基程度のフラグメントに区分する。各フラグメントをDNAシンセサイザーを用いて合成し、常法に従ってこれらをハイブリダイズおよびライゲートさせることにより、ヒト由来のFRと他の哺乳動物種由来のCDRを有するVHおよびVLをコードするDNAを構築することができる。より迅速かつ効率的に他の哺乳動物種由来CDRをヒト由来VHおよびVLに移植するには、PCRによる部位特異的変異誘発を用いることが好ましい。そのような方法としては、例えば特開平5-227970号公報に記載の逐次CDR移植法等が挙げられる。このようにして得られるVHおよびVLをコードするDNAを、上記キメラ抗体の場合と同様の方法でヒト由来のCHおよびCLをコードするDNAとそれぞれ連結して適当な宿主細胞に導入することにより、ヒト化抗体を産生する細胞あるいはトランスジェニック動植物を得ることができる。
【0046】
ヒト化抗体もキメラ抗体と同様に遺伝子工学的手法を用いてscFv、scFv-Fc、minibody、dsFv、Fvなどに改変することができ、適当なプロモーターを用いることで大腸菌や酵母などの微生物でも生産させることができる。
ヒト化抗体作製技術は、例えばハイブリドーマの作製技術が確立していない他の動物種に好ましく投与し得るモノクローナル抗体を作製するのにも応用することができる。例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリなどの家畜(家禽)として広く繁殖されている動物やイヌやネコなどのペット動物などが対象として挙げられる。
【0047】
(iii)ヒト抗体産生動物を用いた完全ヒト抗体の作製
内因性免疫グロブリン(Ig)遺伝子をノックアウト(KO)した非ヒト温血動物に機能的なヒトIg遺伝子を導入し、これを抗原で免疫すれば、該動物由来の抗体の代わりにヒト抗体が産生される。従って、マウス等のようにハイブリドーマ作製技術が確立している動物を用いれば、従来のマウスモノクローナル抗体の作製と同様の方法によって完全ヒトモノクローナル抗体を取得することが可能となる。まず、ヒトIgのH鎖およびL鎖のミニ遺伝子を通常のトランスジェニック(Tg)技術を用いて導入したマウスと、内因性マウスIg遺伝子を通常のKO技術を用いて不活性化したマウスとを交配して得られたヒト抗体産生マウス(Immunol. Today, 17: 391-397, 1996を参照)を用いて作製されたヒトモノクローナル抗体のいくつかは既に臨床段階にあり、現在までのところ抗ヒトIgヒト抗体(HAHA)の産生は報告されていない。
【0048】
その後、Abgenix社[商品名:XenoMouose(Nat. Genet., 15: 146-156, 1997; 米国特許第5,939,598号等を参照)]やMedarex社[商品名:Hu-Mab Mouse(Nat. Biotechnol., 14: 845-851, 1996; 米国特許第5,545,806号等を参照)]が酵母人工染色体(YAC)ベクターを用いてより大きなヒトIg遺伝子を導入したTgマウスを作製し、よりレパートリーに富んだヒト抗体を産生し得るようになった。しかしながら、ヒトIg遺伝子は、例えばH鎖の場合、約80種のV断片、約30種のD断片および6種のJ断片が様々に組み合わされたVDJエクソンが抗原結合部位をコードすることによりその多様性を実現しているため、その全長はH鎖が約1.5Mb(14番染色体)、κL鎖が約2Mb(2番染色体)、λL鎖が約1Mb(22番染色体)に達する。ヒトにおけるのと同様の多様な抗体レパートリーを他の動物種で再現するためには、各Ig遺伝子の全長を導入することが望ましいが、従来の遺伝子導入ベクター(プラスミド、コスミド、BAC、YAC等)に挿入可能なDNAは通常数kb〜数百kbであり、クローニングしたDNAを受精卵に注入する従来のトランスジェニック動物作製技術では全長の導入は困難であった。
【0049】
Tomizukaら(Nat. Genet., 16: 133-143, 1997)は、Ig遺伝子を担持するヒト染色体の自然断片(hCF)をマウスに導入して(染色体導入(TC)マウス)、完全長ヒトIg遺伝子を有するマウスを作製した。即ち、まず、H鎖遺伝子を含む14番染色体およびκL鎖遺伝子を含む2番染色体を例えば薬剤耐性マーカー等で標識したヒト染色体を有するヒト−マウスハイブリッド細胞を48時間程度紡錘糸形成阻害剤(例:コルセミド)で処理して、1〜数本の染色体もしくはその断片が核膜に被包されたミクロセルを調製し、微小核融合法によりマウスES細胞に染色体を導入する。薬剤を含む培地を用いてヒトIg遺伝子を有する染色体もしくはその断片を保持するハイブリッドES細胞を選択し、通常のKOマウス作製の場合と同様の方法によりマウス胚へ顕微注入する。得られるキメラマウスからコートカラーを指標にする等して生殖系列キメラを選択し、ヒト14番染色体断片を伝達するTCマウス系統(TC(hCF14))およびヒト2番染色体断片を伝達するTCマウス系統(TC(hCF2))を樹立する。常法により内因性H鎖遺伝子およびκL鎖遺伝子をKOされたマウス(KO(IgH)およびKO(Igκ))を作製し、これら4系統の交配を繰り返すことにより、4種の遺伝子改変をすべて有するマウス系統(ダブルTC/KO)を樹立することができる。
上記のようにして作製されるダブルTC/KOマウスに、通常のマウスモノクローナル抗体を作製する場合と同様の方法を適用すれば、抗原特異的ヒトモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを作製することができる。しかしながら、κL鎖遺伝子を含むhCF2がマウス細胞内で不安定なため、ハイブリドーマ取得効率は通常のマウスの場合に比べて低いという欠点がある。
【0050】
一方、前記Hu-Mab MouseはκL鎖遺伝子の約50%を含むが、可変領域クラスターが倍加した構造を有するため完全長を含む場合と同等のκ鎖の多様性を示し(他方、H鎖遺伝子は約10%しか含まないのでH鎖の多様性は低く、抗原に対する応答性が不十分である)、且つYACベクター(Igκ-YAC)によりマウス染色体中に挿入されているので、マウス細胞内で安定に保持される。この利点を生かし、TC(hCF14)マウスとHu-Mab Mouseとを交配してhCF14とIgκ-YACとを安定に保持するマウス(商品名:KMマウス)を作製することにより、通常のマウスと同等のハイブリドーマ取得効率および抗体の抗原親和性を得ることができる。
【0051】
さらに、より完全にヒトにおける多様な抗体レパートリーを再現するために、λL鎖遺伝子をさらに導入したヒト抗体産生動物を作製することもできる。かかる動物は、上記と同様の方法でλL鎖遺伝子を担持するヒト22番染色体もしくはその断片を導入したTCマウス(TC(hCF22))を作製し、これと上記ダブルTC/KOマウスやKMマウスとを交配することにより得ることもできるし、あるいは、例えばH鎖遺伝子座とλL鎖遺伝子座とを含むヒト人工染色体(HAC)を構築してマウス細胞に導入することにより得ることもできる(Nat. Biotechnol., 18: 1086-1090, 2000)。
【0052】
(iv)ファージディスプレイヒト抗体ライブラリーを用いた完全ヒト抗体の作製
完全ヒト抗体を作製するもう1つのアプローチはファージディスプレイを用いる方法である。この方法はPCRによる変異がCDR以外に導入される場合があり、そのため臨床段階で少数のHAHA産生の報告例があるが、その一方で宿主動物に由来する異種間ウイルス感染の危険性がない点や抗体の特異性が無限である(禁止クローンや糖鎖などに対する抗体も容易に作製可能)等の利点を有している。
【0053】
ファージディスプレイヒト抗体ライブラリーの作製方法としては、例えば、以下のものが挙げられるが、これに限定されない。
用いられるファージは特に限定されないが、通常繊維状ファージ(Ffバクテリオファージ)が好ましく用いられる。ファージ表面に外来タンパク質を提示する方法としては、g3p、g6p〜g9pのコートタンパク質のいずれかとの融合タンパク質として該コートタンパク質上で発現、提示させる方法が挙げられるが、よく用いられるのはg3pもしくはg8pのN末端側に融合させる方法である。ファージディスプレイベクターとしては、1)ファージゲノムのコートタンパク質遺伝子に外来遺伝子を融合した形で導入して、ファージ表面上に提示されるコートタンパク質をすべて外来タンパク質との融合タンパク質として提示させるものの他、2)融合タンパク質をコードする遺伝子を野生型コートタンパク質遺伝子とは別に挿入して、融合タンパク質と野生型コートタンパク質とを同時に発現させるものや、3)融合タンパク質をコードする遺伝子を有するファージミドベクターを持つ大腸菌に野生型コートタンパク質遺伝子を有するヘルパーファージを感染させて融合タンパク質と野生型コートタンパク質とを同時に発現するファージ粒子を産生させるものなどが挙げられるが、1)の場合は大きな外来タンパク質を融合させると感染能力が失われるため、抗体ライブラリーの作製のためには2)または3)のタイプが用いられる。
【0054】
具体的なベクターとしては、Holtら(Curr. Opin. Biotechnol., 11: 445-449, 2000)に記載されるものが例示される。例えば、pCES1(J. Biol. Chem., 274: 18218-18230, 1999参照)は、1つのラクトースプロモーターの制御下にg3pのシグナルペプチドの下流にκL鎖定常領域をコードするDNAとg3pシグナルペプチドの下流にCH3をコードするDNA、His-tag、c-myc tag、アンバー終止コドン(TAG)を介してg3pコード配列とが配置されたFab発現型ファージミドベクターである。アンバー変異を有する大腸菌に導入するとg3pコートタンパク質上にFabを提示するが、アンバー変異を持たないHB2151株などで発現させると可溶性Fab抗体を産生する。また、scFv発現型ファージミドベクターとしては、例えばpHEN1(J. Mol. Biol., 222:581-597, 1991)等が用いられる。
一方、ヘルパーファージとしては、例えばM13-KO7、VCSM13等が挙げられる。
また、別のファージディスプレイベクターとして、抗体遺伝子の3’末端とコートタンパク質遺伝子の5’末端にそれぞれシステインをコードするコドンを含む配列を連結し、両遺伝子を同時に別個に(融合タンパク質としてではなく)発現させて、導入されたシステイン残基同士によるS-S結合を介してファージ表面のコートタンパク質上に抗体を提示し得るようにデザインされたもの(Morphosys社のCysDisplayTM技術)等も挙げられる。
【0055】
ヒト抗体ライブラリーの種類としては、ナイーブ/非免疫ライブラリー、合成ライブラリー、免疫ライブラリー等が挙げられる。
ナイーブ/非免疫(non-immunized)ライブラリーは、正常なヒトが保有するVHおよびVL遺伝子をRT-PCRにより取得し、それらをランダムに上記のファージディスプレイベクターにクローニングして得られるライブラリーである。通常、正常人の末梢血、骨髄、扁桃腺などのリンパ球由来のmRNA等が鋳型として用いられる。疾病履歴などのV遺伝子のバイアスをなくすため、抗原感作によるクラススイッチが起こっていないIgM由来のmRNAのみを増幅したものを特にナイーブライブラリーと呼んでいる。代表的なものとしては、CAT社のライブラリー(J. Mol. Biol., 222: 581-597, 1991; Nat. Biotechnol., 14: 309-314, 1996参照)、MRC社のライブラリー(Annu. Rev. Immunol., 12: 433-455, 1994参照)、Dyax社のライブラリー(J. Biol. Chem., 1999 (上述); Proc. Natl. Acad. Sci. USA,14: 7969-7974, 2000参照)等が挙げられる。
合成ライブラリーは、ヒトB細胞内の機能的な特定の抗体遺伝子を選び、V遺伝子断片の、例えばCDR3等の抗原結合領域の部分を適当な長さのランダムなアミノ酸配列をコードするDNAで置換し、ライブラリー化したものである。最初から機能的なscFvやFabを産生するVHおよびVL遺伝子の組み合わせでライブライリーを構築できるので、抗体の発現効率や安定性に優れているとされる。代表的なものとしては、Morphosys社のHuCALライブラリー(J.Mol. Biol., 296: 57-86, 2000参照)、BioInvent社のライブラリー(Nat. Biotechnol., 18: 852, 2000参照)、Crucell社のライブラリー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92: 3938, 1995; J. Immunol. Methods, 272: 219-233, 2003参照)等が挙げられる。
免疫(immunized)ライブラリーは、癌、自己免疫疾患、感染症等の患者やワクチン接種を受けた者など、標的抗原に対する血中抗体価が上昇したヒトから採取したリンパ球、あるいは上記体外免疫法により標的抗原を人為的に免疫したヒトリンパ球等から、上記ナイーブ/非免疫ライブラリーの場合と同様にしてmRNAを調製し、RT-PCR法によってVHおよびVL遺伝子を増幅し、ライブラリー化したものである。最初から目的の抗体遺伝子がライブラリー中に含まれるので、比較的小さなサイズのライブラリーからでも目的の抗体を得ることができる。
【0056】
ライブラリーの多様性は大きいほどよいが、現実的には、以下のパンニング操作で取り扱えるファージ数(1011〜1013ファージ)と通常のパンニングでクローンの単離および増幅に必要なファージ数(100〜1,000ファージ/クローン)を考慮すれば、108〜1011クローン程度が適当であり、約108クローンのライブラリーで通常10-9オーダーのKd値を有する抗体をスクリーニングすることができる。
【0057】
標的抗原に対する抗体をファージディスプレイ法で選別する工程をパンニングという。具体的には、例えば、抗原を固定化した担体とファージライブラリーとを接触させ、非結合ファージを洗浄除去した後、結合したファージを担体から溶出させ、大腸菌に感染させて該ファージを増殖させる、という一連の操作を3〜5回程度繰り返すことにより抗原特異的な抗体を提示するファージを濃縮する。抗原を固定化する担体としては、通常の抗原抗体反応やアフィニティークロマトグラフィーで用いられる各種担体、例えばアガロース、デキストラン、セルロースなどの不溶性多糖類、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、シリコン等の合成樹脂、あるいはガラス、金属などからなるマイクロプレート、チューブ、メンブレン、カラム、ビーズなど、さらには表面プラズモン共鳴(SPR)のセンサーチップなどが挙げられる。抗原の固定化には物理的吸着を用いてもよく、また、通常タンパク質あるいは酵素等を不溶化、固定化するのに用いられる化学結合を用いる方法でもよい。例えばビオチン−(ストレプト)アビジン系等が好ましく用いられる。標的抗原である内因性リガンドがペプチドなどの小分子である場合には、抗原決定基として用いた部分が担体との結合により被覆されないように特に注意する必要がある。非結合ファージの洗浄には、BSA溶液などのブロッキング液(1-2回)、Tween等の界面活性剤を含むPBS(3-5回)などを順次用いることができる。クエン酸緩衝液(pH5)などの使用が好ましいとの報告もある。特異的ファージの溶出には、通常酸(例:0.1M塩酸など)が用いられるが、特異的プロテアーゼによる切断(例えば、抗体遺伝子とコートタンパク質遺伝子との連結部にトリプシン切断部位をコードする遺伝子配列を導入することができる。この場合、溶出するファージ表面には野生型コートタンパク質が提示されるので、コートタンパク質のすべてが融合タンパク質として発現しても大腸菌への感染、増殖が可能となる)や可溶性抗原による競合的溶出、あるいはS-S結合の還元(例えば、前記したCysDisplayTMでは、パンニングの後、適当な還元剤を用いて抗体とコートタンパク質とを解離させることにより抗原特異的ファージを回収することができる)による溶出も可能である。酸で溶出した場合は、トリスなどで中和した後で溶出ファージを大腸菌に感染させ、培養後、常法によりファージを回収する。
【0058】
パンニングにより抗原特異的抗体を提示するファージが濃縮されると、これらを大腸菌に感染させた後プレート上に播種してクローニングを行う。再度ファージを回収し、上述の抗体価測定法(例:ELISA、RIA、FIA等)やFACSあるいはSPRを利用した測定により抗原結合活性を確認する。
【0059】
選択された抗原特異的抗体を提示するファージクローンからの抗体の単離および精製は、例えば、ファージディスプレイベクターとして抗体遺伝子とコートタンパク質遺伝子の連結部にアンバー終止コドンが導入されたベクターを用いる場合には、該ファージをアンバー変異を持たない大腸菌(例:HB2151株)に感染させると、可溶性抗体分子が産生されペリプラズムもしくは培地中に分泌されるので、細胞壁をリゾチームなどで溶解して細胞外画分を回収し、上記と同様の精製技術を用いて行うことができる。His-tagやc-myc tagを導入しておけば、IMACや抗c-myc抗体カラムなどを用いて容易に精製することができる。また、パンニングの際に特異的プロテアーゼによる切断を利用する場合には、該プロテアーゼを作用させると抗体分子がファージ表面から分離されるので、同様の精製操作を実施することにより目的の抗体を精製することができる。
【0060】
ヒト抗体産生動物およびファージディスプレイヒト抗体ライブラリーを用いた完全ヒト抗体作製技術は、他の動物種のモノクローナル抗体を作製するのにも応用することができる。例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリなどの家畜(家禽)として広く繁殖されている動物やイヌやネコなどのペット動物などが対象として挙げられる。非ヒト動物においては標的抗原の人為的免疫に対する倫理的問題が少ないので、免疫ライブラリーの利用がより有効である。
【0061】
本発明のモノクローナル抗体を含有してなる予防剤および/または治療剤は低毒性であり、そのまま液剤として、または適当な剤型の医薬組成物として、ヒトまたは哺乳動物(例、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して非経口的または経口的に投与することができる。
本発明のモノクローナル抗体は、それ自体を投与しても良いし、または適当な医薬組成物として投与しても良い。投与に用いられる医薬組成物としては、本発明のモノクローナル抗体またはその塩と薬理学的に許容され得る担体、希釈剤もしくは賦形剤とを含むものであっても良い。このような医薬組成物は、経口または非経口投与に適する剤形として提供される。
非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、坐剤等が用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤等の剤形を包含しても良い。
このような注射剤は、公知の方法に従って調製できる。注射剤の調製方法としては、例えば、上記本発明のモノクローナル抗体またはその塩を通常注射剤に用いられる無菌の水性液、または油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製できる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液等が用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤(例、ポリソルベート80、HCO−50(polyoxyethylene(50mol)adduct of hydrogenated castor oil))等と併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油等が用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等を併用してもよい。調製された注射液は、適当なアンプルに充填されることが好ましい。直腸投与に用いられる坐剤は、上記モノクローナル抗体またはその塩を通常の坐薬用基剤に混合することによって調製されても良い。
【0062】
経口投与のための組成物としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられる。このような組成物は公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有していても良い。錠剤用の担体、賦形剤としては、例えば、乳糖、でんぷん、蔗糖、ステアリン酸マグネシウムが用いられる。
【0063】
上記の非経口用または経口用医薬組成物は、活性成分の投与量に適合するような投薬単位の剤形に調製されることが好都合である。このような投薬単位の剤形としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、坐剤が挙げられる。モノクローナル抗体の含有量としては、投薬単位剤形当たり通常5〜500mg程度、とりわけ注射剤では5〜100mg程度、その他の剤形では10〜250mg程度の上記モノクローナル抗体が含有されていることが好ましい。
なお前記した各組成物は、上記モノクローナル抗体との配合により好ましくない相互作用を生じない限り他の活性成分を含有してもよい。
【0064】
本発明のモノクローナル抗体を含有する予防剤、治療剤または診断剤(医薬)の投与量は、投与対象、対象疾患、症状、投与ルート等によっても異なるが、例えば、成人の子宮頸がんの治療のために使用する場合には、本発明のモノクローナル抗体を1回量として、通常0.01〜20mg/kg体重程度、好ましくは0.1〜10mg/kg体重程度、さらに好ましくは0.1〜5mg/kg体重程度を、1日1〜5回程度、好ましくは1日1〜3回程度、静脈注射により投与するのが好都合である。他の非経口投与(例、皮下投与)および経口投与の場合もこれに準ずる量を投与することができる。症状が特に重い場合には、その症状に応じて増量してもよい。
本発明の医薬は、キットの形態で提供することもできる。当該キットは、本発明の医薬の他、他の活性成分、他の医薬、取扱説明書、容器等を含んでも良い。
【0065】
(6)本発明のモノクローナル抗体を含んでなるHPV感染の診断試薬
本発明のモノクローナル抗体は、HPV感染の診断試薬としても用いられる。本発明のモノクローナル抗体を使用したHPV感染の検出方法は、例えば、まず、頸部擦過細胞試料などの試料中の蛋白質を96穴プレートや384穴プレート等のマルチウエルプレートのウエル内底面やメンブレン等に固相化しておいてから、本発明のモノクローナル抗体を用いた試料中のHPVの検出が行われる。このうち、96穴プレートや384穴プレート等のマルチウエルプレートを用いるのは一般に固相酵素免疫定量法(ELISA法)や放射性同位元素免疫定量法(RIA法)と呼ばれる方法である。一方、メンブレンに固相化する方法としては、試料のポリアクリルアミド電気泳動を経てメンブレンに蛋白質を転写する方法(ウエスタンブロット法)か、又は直接メンブレンに試料又はその希釈液を染み込ませる、いわゆるドットブロット法やスロットブロット法が挙げられる。
【実施例】
【0066】
本発明を以下の実施例によって説明する。本実施例は本発明の具体的態様を例示した説明であり、いかなる意味においても本発明又は例示される形態の範囲及び意味を限定するものではない。同様に、本発明は、本明細書で述べる特定実施形態によって範囲を限定されるものではない。本明細書の記述に加えて、本発明の様々な修正が本明細書、請求の範囲および図面の記載から当業者に明らかになる。
本明細書において引用された特許、特許出願および文献を含むすべての参考文献は、参照としてそれらの全体が本明細書に組み込まれる。

1.ヒトパピローマウイルス16型(HPV16)のL2蛋白質を認識するモノクローナル抗体の作製
人工合成したペプチド(HPV16 L2蛋白質のアミノ酸番号56から75:P56/75[配列番号:1])にキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)をシステインを介して結合させた抗原(KLH-P56/75)(50μg/匹)をフロイントコンプリートアジュバント(FCA)とともに3匹のBalb/cマウスに皮内接種した。2週間、4週間、6週間後にそれぞれ同様に追加免疫を行った。最初の免疫から7週間後に、25μg/匹のKLH-P56/75をFCAとともに静脈注射した。最後の免疫から6日後、マウスから回収した脾臓細胞とミエローマ細胞P3U1を6:1の比率で混合し、50%ポリエチレングリコール(PEG)を用いて細胞融合を行った。ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジンを添加した培地(HAT培地)により融合細胞を選択し、細胞をクローニングした。HPV16 L1/L2キャプシドを抗原とするELISAにより、抗HPV16 L2抗体を分泌する細胞クローンを調べた。結果、モノクローナル抗体13B、及び、24Bを産生する2種類の細胞クローンを得た。抗体13Bを産生する細胞および24Bを産生する細胞は、それぞれ「Mouse-Mouse hybridoma 13B」および「Mouse-Mouse hybridoma 24B」と称し、2010年10月15日に本出願人により独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号 305-8566))にブダペスト条約に基づき国際寄託され、FERM BP−11304およびFERM BP−11305の国際寄託番号を有する。13B、及び、24B産生細胞を、それぞれ5匹のBalb/cマウスの腹腔に接種し、それぞれのモノクローナル抗体が濃縮されたマウス腹水を作製した。
【0067】
2.モノクローナル抗体13B、及び、24Bのエピトープマッピング
P56/75のN末端、またはC末端側から数個ずつアミノ酸を欠失、あるいはアラニンに置換した変異ペプチドを抗原(KLH結合)として、ELISAにより、P56/75のアミノ酸の一部をアラニンに置き換えたペプチドとの結合を調べて、各モノクローナル抗体の結合に必須なアミノ酸(図2二重下線)及び結合に影響するアミノ酸(図2下線)を調べ、モノクローナル抗体13B、及び、24Bのエピトープを推定した。使用した抗原ペプチドとELISAの結果を図1に示した。この結果より、13B、及び、24Bは、HPV16 L2蛋白質のアミノ酸番号の67から72、及び、56から58を中心とする領域をそれぞれ認識することがわかった。
上記のように推定された、モノクローナル抗体13B及び24BのP56/75内エピトープ、および高リスク型HPVでのアミノ酸配列の保存領域を図2に示す。
さらに、P56/75のN末端またはC末端側から数個ずつアミノ酸を欠失、あるいはアラニンに置換した別の変異ペプチドを抗原(BSA結合)として用いて、各モノクローナル抗体のエピトープを上記と同様の方法で調べた。使用した抗原ペプチドとELISAの結果を図8に示す。
考察した結果、13Bが認識するエピトープはHPV16 L2蛋白質のアミノ酸64から73領域内にあり、24Bが認識するエピトープはアミノ酸58から67領域内(図9下線)に存在すると考えられる。
図9に、上記のとおり推定されたモノクローナル抗体13B及び24BのP56/75内エピトープ、および高リスク型HPVでのアミノ酸配列の保存領域を示す。
【0068】
3.交叉性中和抗体価測定法
13B及び24BによるHPV偽ウイルスの交叉性感染阻害及びHPV L1/L2-キャプシドへの交叉性結合を調べた。テスト血清中の交叉性中和抗体価は、13B及び24BとHPV16L2抗原の結合をテスト血清が干渉する能力で推定した。
(試験方法1)HPV16、18、31、33、35、51、52および58偽ウイルス(PsV)に対するモノクローナル抗体の中和活性の測定
(1) HPV16、または、HPV58のL1及びL2発現プラスミドと分泌型アルカリホスファターゼ(SEAP)発現プラスミドとを混合し、293FT細胞にトランスフェクションした。トランスフェクション2日後の細胞を、Detergent Buffer(0.35% Brij58, 1μlのRNase, (Ambion #2286) in D-PBS(0.9mM CaCl2、10mM MgCl2)に懸濁し、37℃で一晩インキュベートした。氷中に5分間静置した後、10,000g、4℃、10分間遠心し、上清を回収した。回収した上清は、27%、33%、39%のiodixanol(0.8M NaCl in PBSで調製)の上に重層し、50,000rpm、16℃、3.5時間超遠心した。超遠心後、HPV16またはHPV58の偽ウイルス(PsV)を含むフラクションを回収し、これを中和実験に使用した。
フェノールレッド不含の細胞培養用培地で希釈したPsVと抗体を含む腹水(13B、24Bまたはその混合物)とを混合し、4℃で1時間反応させ、予め96ウェルプレートに準備した293FT細胞に感染させた。3日後に培養上清40μlを回収し、20μlの0.05%CHAPS溶液、及び、200μlの基質溶液(9.5M Diethanolamine、1mM MgCl2、0.5mM ZnCl2を含む溶液に、使用時に20mlあたり1つの4-Nitrophenyl phosphate disodium salt hexahydrate tablet (Sigma N9389) を入れたもの)と混合し、発色後、450nmの吸光度を測定した。各抗体と混合したときのPsVの感染性を、PsVとマウス血清(免疫前、1:50希釈)とを混合したときの感染性(陰性対照)と比較した。
(結果)13B及び24BともにHPV16およびHPV58偽ウイルスに対する中和活性を持ち、抗体13Bと24Bを混合した方が抗体13Bまたは24B単独より強い中和活性を示した(図3)。
(2)さらに、HPV16およびHPV58に加え、HPV18、31、33、35、51および52の偽ウイルスに対する抗体13B及び24Bの中和活性を、上記(1)と同様の方法で調べた。ここでは、陰性対照として抗FLAGモノクローナル抗体M2(50μg/ml)を用い、抗体13B及び24Bとしてマウス腹水から精製したモノクローナル抗体(50μg/ml)を用いた。抗体溶液(抗FLAG抗体M2、13B、24Bまたは13Bと24Bとの混合物)とPsV浮遊液とを抗体濃度が25μg/mLになるように混合した。また、各抗体と混合したときのPsVの感染性を、陰性対照(抗FLAG抗体M2)と混合したときのPsVの感染性と比較し、t検定によって抗体の中和活性の有無を判定した。
(結果)
13BはHPV16、18、31、33、51および58を中和し、24BはHPV16、18、31、33、35、51、52および58を中和した。すなわち、13Bは調べた偽ウイルスの中、HPV35およびHPV52以外の全ての型の偽ウイルスを中和した。24Bは調べた全ての型の偽ウイルスを中和した。また、13Bと24Bとを混合すると、単独よりも強い中和活性を示した(図10)。
【0069】
(試験方法2)高リスク型L1/L2キャプシドに対するモノクローナル抗体の結合活性の測定
(1) HPV各型のL1及びL2発現プラスミドを293FT細胞にトランスフェクションした。トランスフェクションした細胞からのL1/L2-キャプシドの抽出、精製は、PsVと同様に行った(試験方法1参照)。
96 well ELISAプレートの各 wellに、PBSで希釈したL1/L2キャプシド(0.5μg/ml)を50μlずつ加え、4℃で一晩静置した。ブロッキング溶液(5% スキムミルク、0.1% Tween20を含むPBS)で室温、2時間ブロッキングし、抗原固相化プレートとした。
ブロッキング溶液で1:100に希釈した各モノクローナル抗体を含む腹水を、ELISAプレートに固相化したL1/L2キャプシドと反応させた。PBSTで洗浄後、ブロッキング溶液で1:2000に希釈したホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)標識抗マウスIgG抗体(Santa Cruz: sc-2031)を各wellに加え、室温で1時間反応させた。PBSTで洗浄後、基質溶液(2mg/mlのo-フェニレンジアミン、及び、0.0065%の過酸化水素水を含む0.1Mクエン酸3ナトリウム、pH4.8)を各wellに加え、室温で反応させ、発色後、450nmの吸光度を測定した。
(結果)13Bおよび24Bは、それぞれ、16、31、33、51、58型及び16、31、33、35、51、52、58型のL1/L2−キャプシドにELISAで結合した。すなわち、13Bは35型と52型以外の調べたすべての抗原と結合した。24Bは調べたすべての抗原と結合した。
21A(実施例1のハイブリドーマの選択時にHPV16型L2蛋白質のアミノ酸56−75配列を持つペプチドと結合した抗体。HPV16偽ウイルスの中和活性はない)は調べたすべての抗原と結合しなかった。(図4)。
(2)さらに、上記で調べた16、31、33、35、51、52および58型L1/L2キャプシドに加え、18型L1/L2キャプシドへの13Bおよび24Bの結合を、上記(1)と同様の方法で調べた。また、L1のみからなるキャプシドを作製し、各抗体の該キャプシドへの結合を上記(1)と同様の方法で調べた。マウス腹水から精製した各モノクローナル抗体は、ブロッキング溶液で250 ng/wellになるように希釈して使用した。
(結果)
13Bおよび24Bは18型L1/L2キャプシドにも結合した。すなわち、13Bは35型と52型以外の調べたすべての抗原と結合した。24Bは調べたすべての抗原と結合した。また、いずれの抗体もL1のみからなるキャプシドには結合しないことから、これらの抗体は各型のL2蛋白質に特異的に結合することが明らかとなった(図11)。
(試験方法3)血清中の交叉性中和抗体価の測定
抗原とするHPV16 L1/L2キャプシドは、昆虫細胞(Sf9)にHPV16 L1及びL2を発現するバキュロウイルスを感染させ作製した。ウイルス感染3日後の細胞を0.5% NP-40を含むPBSに懸濁し、核を分離した。核を塩化セシウムを含むPBS(1.28g/ml)に懸濁し、超音波破砕により破壊した。34,000rpm、20℃で20時間遠心し、L1/L2キャプシドを含むフラクションを回収した。フラクションを、0.5M の塩化ナトリウムを含むPBSに対し一晩透析した。超遠心用チューブに、上から5%、60%のショ糖を含むPBSを重層し、その上に透析したフラクションをさらに重層し、31,000rpm、4℃、2時間遠心した。L1/L2キャプシドを含むフラクションを、0.5M の塩化ナトリウムを含むPBSに対し一晩透析し、抗原とした。
96 well ELISAプレートの各ウェルに、PBSで希釈したHPV16 L1/L2キャプシド(5μg/ml)を50μlずつ加え、4℃で一晩静置した。5%のスキムミルクを含むPBST(0.1%のTween-20を含むPBS)で室温、2時間ブロッキングし、抗原固相化プレートとした。
1/10から1/6250に5倍ずつ、ブロッキング溶液で段階希釈したテスト血清(ウサギ抗P56/75血清、及び、対照血清等)を抗原固相化プレートの各ウェルに加え、室温で2時間反応させた。テスト血清として、KLH-P53/69(P53/69[配列番号:23]のアミノ酸配列を有するペプチドをシステインを介しKLHと結合させた複合体)、KLH-P56/75、KLH-P18/38(WO2009/001867)、または16L1-430(56/75)キメラキャプシド(WO2009/001867)で免疫したウサギ血清を用いた。なお、KLHは、「Imject(登録商標) mcKLH (in PBS Buffer)」(Thermo Scientific Pierce社)を用いた。PBSTで洗浄後、1:100000、及び、1:3000にブロッキング溶液でそれぞれ希釈した13B、及び、24Bマウス腹水と室温で2時間反応させた。PBSTで洗浄後、ブロッキング溶液で1:2000に希釈したホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)標識抗マウスIgG抗体(Santa Cruz: sc-2031)を各wellに加え、室温で1時間反応させた。PBSTで洗浄後、基質溶液(2mg/mlのo-フェニレンジアミン、及び、0.0065%の過酸化水素水を含む0.1Mクエン酸3ナトリウム、pH4.8)を加え、室温で反応させ、発色後の450nmの吸光度を測定した。テスト血清を、1/50、1/250、及び、1/1250に希釈した時の吸光度から、平行線定量法により、各血清の交叉性中和抗体価を定量した。
(結果)KLH-P56/75及び16L1-430(56/75)キメラキャプシドで免疫したウサギ血清には、モノクローナル抗体13Bの結合を阻害する抗体が含まれていた。KLH-P53/69、KLH-P56/75及び16L1-430(56/75)で免疫したウサギ血清には、モノクローナル抗体24Bの結合を阻害する抗体が含まれていた。陰性対照として用いたKLH-P18/38で免疫したウサギ血清には、これらモノクローナル抗体の結合を阻害する抗体はなかった。(図5、6)。
図6のELISAの結果を基に、抗体価の定量を行った。KLH-P56/75で免疫したウサギ血清を標準血清とし、1/50、1/250、1/1250希釈の3点でのOD値から、平行線定量法を用い、各ウサギ血清の交叉性中和抗体価を定量した。結果を以下の表にしめす。
【0070】
【表1】
【0071】
4.モノクローナル抗体13B及び24Bのサブタイプの解析
KLH-P56/75を固定化したセファロース4B(GE Healthcare社)を用いて、13B及び24Bをアフィニティー精製した。精製した抗体のサブタイプを、Mouse Monoclonal Antibody Isotyping Test Kit (AbD Serotec社)を用いて解析した。13BはIgG1、24BはIgG2bであった。また、軽鎖はそれぞれκ鎖であった。

5.モノクローナル抗体13B及び24Bの可変領域アミノ酸配列の解析
13B及び24Bを産生するハイブリドーマ(寄託番号FERM BP−11304およびFERM BP−11305)から、RNeasy Mini kit (QIAGEN社)を用いてRNAを抽出した。RNAをSMARTer RACE cDNA Amplification Kit(Clontech社)を用いてcDNAに変換するとともに、cDNAの5’末端にアダプターを付加した。13Bの重鎖は、アダプターに対するプライマーとIgG1の定常領域に対するプライマー(5’-ATAGACAGATGGGGGTGTCGTTTTGGC)[配列番号:4]を用いてPCRを行った。24Bの重鎖は、アダプターに対するプライマーとIgG2bの定常領域に対するプライマー(5’-AGGGGCCAGTGGATAGACTGATGG)[配列番号:5]を用いてPCRを行った。13B及び24Bの軽鎖は、アダプターに対するプライマーとκ鎖の定常領域に対するプライマー(5’-GGATACAGTTGGTGCAGCATC)[配列番号:6]を用いてPCRを行った。PCR産物をアガロースゲル電気泳動後、バンドを切り出し、pGEM-T Easy vector(Promega社)にクローニングした。それぞれ約10クローンの塩基配列を解析し、PCRにおけるエラーと思われる配列を除外した。cDNAの塩基配列からアミノ酸配列を推定した。
アフィニティー精製した13B及び24Bをポリアクリルアミドゲル電気泳動後、PVDF膜に転写し、それぞれの重鎖、軽鎖のN末端アミノ酸配列(5残基)をEdman分解法により解析し、塩基配列から推定したアミノ酸配列と一致することを確認した。
13B及び24Bの可変領域のアミノ酸配列を表2に示す。さらに、これらの相補性決定領域(CDR)1〜3の配列を表3に示す。
また図7において、13B及び24Bの可変領域のアミノ酸配列、およびそれらの相補性決定領域(CDR)1〜3を示す。
【0072】
【表2】

【表3】
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のモノクローナル抗体は、非常に多くの遺伝子型を有する高リスク型HPVに対して結合活性を有し、本発明のモノクローナル抗体を用いた抗体価測定方法は、ワクチン開発、特に次世代HPVワクチンの実用化を目指した臨床研究などにおいて、被験者血清中の交叉性中和抗体価を、大量、迅速に測定可能な有用な方法である。また、本発明のモノクローナル抗体は、高リスク型HPVによる感染の診断薬または治療薬としても利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]