(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
地糸とパイル糸とからなる基本編み組織又は変化編み組織としての第1編み組織と、前記地糸よりも前記パイル糸のシンカーループ長を長くした第2編み組織と、前記第2編み組織と比べて前記パイル糸のシンカーループ長を長くした第3編み組織と、を含み、同一コース内において、前記基本編み組織及び前記変化編み組織が単独又は混在する領域内に、前記第2編み組織及び前記第3編み組織が、編目一目単位で選択的に配置されていることでパイル柄が描出され、着用時における肌と前記編み組織との距離が遠くなる領域ほど、前記パイル糸のシンカーループ長が長い編み組織が配置されるように、前記第1編み組織、前記第2編み組織、及び前記第3編み組織が選択されている編地によって、つま先部及び/又はかかと部が形成されている靴下。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
情報や技術の多様化とともに人間の嗜好も多様化していることに伴い、自らの個性を表現するものの一つとして、ファッション性の高いニット製品が求められている。高度なファッション性をもつニット製品を提供するためには、全体の形状もさることながら、ニット製品の外観すなわち表面に美しいデザインを有することが求められる。そして、美しいデザインを演出する方法として、ニット製品の表面に精細な立体感を演出することが考えられる。また、ニット製品は、単に衣料としての使用だけでなく、ニット製品に備わる付加価値を求められることもある。このような付加価値を実現する方法として、ニット製品の表面に形成される精細な立体感を利用して、着用感など機能性を向上させることが考えられる。このように、デザイン性や機能性を追及したニット製品を製造するとなると、従来の基本編み(又は変化編み)、高パイル編み、及び低パイル編みの数種類の編み組織を単に分布させるだけでなく、更に精細な、編目一目(針1本)単位で分布させた編地を提供する必要がある。
【0006】
そこで、本発明の主な目的は、ニット製品の一方の面に精細なパイル柄を表出(描出)することにより立体感を形成することができるパイル長を変化させた編地、これを備えたニット製品及び靴下を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるパイル長を変化させた編地は、往復運動する編針間にシンカーを出入りさせて同一コース内に地糸とパイル糸とからなる複数の編み組織を編成することができる編機によって任意のパイル柄が描出された、パイル長を変化させた編地において、複数の編み組織は、地糸とパイル糸とからなる基本編み組織又は変化編み組織としての第1編み組織と、地糸よりもパイル糸のシンカーループ長を長くした第2編み組織と、第2編み組織と比べてパイル糸のシンカーループ長を長くした第3編み組織と、を含み、同一コース内において、基本編み組織及び変化編み組織が単独又は混在する領域内に、第2編み組織及び第3編み組織が、編目一目単位で選択的に配置されることでパイル柄が描出されるか、又は、同一コース内において、第2編み組織の領域内に、第3編み組織が、編目一目単位で選択的に配置されることでパイル柄が描出される。
【0008】
ここで、本願における基本編み組織には、地糸とパイル糸とのシンカーループ長が同じ平編みなどが含まれる。また、本願における変化編みには、パイル糸を編まずに浮かせるフロート編み(浮き編み)と、編目を編針に引っ掛けたままでウェール方向に2目以上を一緒に編み込んだタック編みと、浮き編みを応用して色糸を別糸道より挿入して柄をつくるカットボス編みなどが含まれる。
【0009】
本発明のパイル長を変化させた編地は、例えば、往復運動する編針間に第1パイルシンカー及び第2パイルシンカーからなる一対のシンカーを出入りさせることにより、同一コース内に地糸とパイル糸とからなる複数の編み組織を編成することができる丸編機によって編成することができる。
【0010】
このような丸編機における、シンカーの選別駆動による編目組織の編成制御によれば、編目組織の違い、すなわち、シンカーループの長さは、“パイル糸及び地糸とシンカーとの接点”から“パイル糸及び地糸と編針との接点”までの距離に対応することになる。よって、パイル糸及び地糸とシンカーとの接点、すなわち、パイル糸及び地糸を、2枚のシンカーのうちのどちらで保持するか、どの爪で保持するかを、各シンカーの前進・後退により選別することで、シンカーループ(パイル)長の異なる編目組織(第1〜第3編み組織)を編成することが可能となる。例えば、第1シンカー及び第2シンカーの両方を前進させない第1編成制御、一方のシンカーである第1シンカーを前進させる第2編成制御、及び他方のシンカーである第2シンカーを前進させる第3編成制御の3つの制御の全てを、アクチュエータにより選択的に実行することで、編目一目単位で、編目組織の異なる編目を分布させた編地を編成することができる。
【0011】
同一コース内において、第1編み組織の領域内に、第2編み組織及び第3編み組織が、編目一目単位で選択的に配置され、又は、同一コース内において、第2編み組織の領域内に、第3編み組織が、編目一目単位で選択的に配置されることで、ニット製品の一方の面に精細なパイル柄を描出することが可能となり、立体感を形成することができる。
【0012】
また、本発明によるパイル長を変化させた編地は、丸編機のシリンダが正回転することで編成された正回転領域と、シリンダが往復回転することで編成された往復回転領域と、を有し、パイル柄は、正回転領域と往復回転領域とに描出されているものとすることができる。
【0013】
なお、ここでいう“シリンダ”とは、丸編機において編針が納められる筒状の部品である。このシリンダが上下方向の中心線を軸として自転することにより、編針が上下に動き、編地が編成される。
【0014】
なお、“正回転”とは、丸編機を上から見たとき、シリンダが反時計回り(左回り)に自転することをいい、“逆回転”とは、シリンダが時計回り(右回り)に自転するこという。また、“往復回転”とは、1周分の正回転と、1周分の逆回転とを繰返しながら、略半周分の編針のみで繰り返し編むシリンダの動きをいう。
【0015】
これにより、パイル長を変化させた編地において、例えば、靴下においては、かかと、つま先など、往復回転運動によって編目が編成される部分にも、編目一目単位で、編目組織の異なる編目を分布させた複雑なパイル柄を形成することができる。その結果、ニット製品のあらゆる部位に立体感を形成することが可能となり、より高度なファッション性や機能性を発揮することができる、パイル長を変化させた編地を提供することができる。
【0016】
また、本発明によるパイル長を変化させた編地は、丸編機のシリンダが正回転することで編成された正回転領域と、シリンダが往復回転することで編成された往復回転領域と、を有し、パイル柄は、正回転領域と往復回転領域とに跨って描出されているものとすることができる。
【0017】
これにより、パイル長を変化させた編地において、例えば、靴下においては、かかと、つま先などの往復回転領域に隣接する部分からこれらの往復回転領域にまで、連続して編目一目単位で、編目組織の異なる編目を分布させた複雑なパイル柄を形成することができる。その結果、ニット製品のあらゆる部位に立体感を形成することが可能となり、より高度なファッション性や機能性を発揮することができる、パイル長を変化させた編地を提供することができる。
【0018】
また、上記のパイル長を変化させた編地は、ニット製品として適用可能である。また、上記のパイル長を変化させた編地は、靴下としても適用可能である。例えば、本発明のパイル長を変化させた編地を靴下などのニット製品に適用することにより、ファッション性を高めるために重要となる脚部や足部のお洒落を好適に演出できたり、着用感などの機能を向上させたりすることができる。特に、往復回転によって編成されるつま先部とかかと部とに、また、それ以外の領域から連続して複雑なパイル柄を挿入して立体感を形成することにより、下履きを着用する外出時のみならず、下履きを脱ぐ室内においても高いファッション性をアピールすることができる。また、着用感などの機能を向上させることができなかった部分にも対応することができるようになる。
【0019】
また、本発明によるニット製品は、着用時における肌と編み組織との距離に基づいて、第1編み組織、第2編み組織、及び第3編み組織が選択されたものとすることができる。
【0020】
これにより、例えば、レッグウェアに適用したとき、着用時に肌と編み組織との距離が近い部分には第1編み組織を適用し、距離が遠い部分には、パイル糸のシンカーループ長が地糸のシンカーループ長よりも長い第2編み組織や第3編み組織を適用することができる。これにより、従来、着用時に編み組織と肌とが離れる部分であっても、肌と編み組織との距離が縮まるので、着用感を向上させることができる。
【0021】
また、本発明によるニット製品は、着用時において編み組織が受ける負荷の大きさに基づいて、第1編み組織、第2編み組織、及び第3編み組織が選択されたものとすることができる。
【0022】
これにより、例えば、レッグウェアに適用したとき、着用時に編み組織が受ける負荷が比較的大きい部分には、パイル糸のシンカーループ長が地糸のシンカーループ長よりも長い第2編み組織や第3編み組織を適用することができる。これにより、負荷がかかる部分に厚みをもたせることができるため、歩行時や走行時の衝撃を和らげることができる。
【0023】
また、本発明によるニット製品では、ゴアラインを、第2編み組織又は第3編み組織によって編成することができる。
【0024】
なお、ここでいう“ゴアライン”とは、丸編機のシリンダの往復回転によって、丸編機の半周側のみの針を、目減らし及び目増しする部分の境目をいう。例えば、靴下の踵や爪先の袋部は、丸編機のシリンダの往復回転によって編まれ、丸編機の半周側のみの針が、目減らし及び目増しされて形成される。
【0025】
これにより、ゴアラインでは第2編み組織又は第3編み組織が配置されることによってパイル糸が伸びるようになり、ゴアラインにおける突っ張り感を軽減させることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ニット製品の一方の面に精細なパイル柄を表出することにより立体感を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を付すこととする。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。また、説明中、「上」、「下」等の方向を示す語は、図面に示された状態に基づいた便宜的な語である。
【0029】
(第1実施形態)
図1は、本発明の一実施形態に係るマルチパイル編地(パイル長を変化させた編地)の編目を示す拡大図である。パイル糸91と地糸92が一緒に編みこまれ、パイル糸91と地糸92のシンカーループの長さが同じ編み組織を平編み(第1編み組織)P
0といい、パイル糸91のシンカーループが地糸92よりも長くなった編み組織を低パイル編み(第2編み組織)P
1といい、低パイル編みP
1よりも更にシンカーループが長くなった編み組織を高パイル編み(第3編み組織)P
2という。なお、低パイル編みP
1のことは「ショートパイル編み」とも称され、高パイル編みP
2のことは、「ロングパイル編み」とも称され、平編みP
0のことは、「プレーン編み」とも称される。
【0030】
マルチパイル編地10は、丸編機によって、同一コース内において、平編みP
0の領域内に、低パイル編みP
1及び高パイル編みP
2が、編目一目単位で選択的に配置されることでパイル柄が描出されているか、又は、同一コース内において、低パイル編みP
1の領域内に、高パイル編みP
2が、編目一目単位で選択的に配置されることでパイル柄が描出されている。これにより、ニット製品の一方の面に精細なパイル柄を表出することができ、立体感を形成することができる。なお、
図1におけるマルチパイル編地10において、ループの横の列を「コース」と称し、横方向を「コース方向」又は「周方向」と称す。
【0031】
次に、本発明の一実施形態のマルチパイル編地10(
図1参照)を用いた靴下(ニット製品)について説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係るマルチパイル編地を用いた靴下を示す側面図である。靴下1は、
図2に示すように、つま先を覆うつま先部3、つま先部3に連続して形成され甲及び土踏まずを覆う足部4、足部4に連続して形成されかかとを覆うかかと部5、かかと部5に連続して形成され足首及び脹脛を覆うレッグ部6を備えている。
【0032】
靴下1は、荷重が掛かるかかと部5は高パイル編みP
2で、比較的荷重が掛からない足部4のうち甲を覆う部分及びレッグ部6は平編みP
0で形成されている。また、靴下1は、高パイル編みP
2及び低パイル編みP
1でつま先部3の足裏部分が形成され、低パイル編みP
1及び平編みP
0でつま先部3の足上部分が形成されている。レッグ部6と足部4のうち甲を覆う部分との境界部分4aは、高パイル編みP
2で形成されている。レッグ部6は、平編みP
0、低パイル編みP
1及び高パイル編みP
2で形成され、平編みP
0の領域内に、低パイル編みP
1及び高パイル編みP
2が斜め下方に向かって延在している。
【0033】
また、マルチパイル編地10は、丸編機のシリンダが正回転することで編成された正回転領域と、シリンダが往復回転することで編成された往復回転領域と、を有している。
図2に示す靴下1では、足部4及びレッグ部6が正回転領域に該当し、つま先部3、及びかかと部5が往復回転領域に該当する。
【0034】
本実施形態の靴下1においては、往復回転領域であるかかと部5が、低パイル編みP
1及び高パイル編みP
2によって編目一目単位で選択的に配置され、往復回転領域であるかかと部5から正回転領域である足部4又はレッグ部6に跨がる部分5a,5bが、低パイル編みP
1及び高パイル編みP
2によって編目一目単位で選択的に配置されている。
【0035】
更に、本実施形態の靴下1においては、往復回転領域であるつま先部3が、低パイル編みP
1及び高パイル編みP
2によって編目一目単位で選択的に配置され、往復回転領域であるつま先部3から正回転領域である足部4に跨がる部分3aが、低パイル編みP
1及び高パイル編みP
2によって編目一目単位で選択的に配置されている。
【0036】
図3は、
図2に示す靴下に用いられるマルチパイル編地の編目の配置を示す組織図であり、レッグ部6の一部を構成する部分を示している。
図3に示すように、マルチパイル編地10では、コース方向(
図3における左右方向)に連続する1コース内に、平編みP
0、低パイル編みP
1、及び高パイル編みP
2が編目一目単位で配置されている。これにより、複雑なパイル柄を描出することができる。また、
図2に示すように、平編みP
0の領域内に、斜め下方に向かって延在する低パイル編みP
1及び高パイル編みP
2部分のパイル柄を滑らかに形成することができる。
【0037】
上記実施形態の靴下1では、同一コース内において、平編みP
0の領域内に、低パイル編みP
1及び高パイル編みP
2が、編目一目単位で選択的に配置され(例えば、かかと部5)、また、同一コース内において、低パイル編みP
1の領域内に、高パイル編みP
2が、編目一目単位で選択的に配置される(例えば、足部4、レッグ部6)ので、靴下1の表面に精細なパイル柄を描出することが可能となり、立体感を形成することができる。
【0038】
また、上記実施形態の靴下1では、着用時において、編み組織が受ける負荷の大きさに応じたクッション効果を出すことが出来る。
【0039】
また、上記実施形態の靴下1では、つま先部3が、低パイル編みP
1及び平編みP
0、高パイル編みP
2及び平編みP
0が、帯状に交互に配置されているので、つま先部3全体を分厚くすることなく、通気性を確保しつつ着地圧を分散できる。また、上記実施形態の靴下1では、足部4の母指球に丸い平編みP
0領域が形成されているので、踏み込みの感覚を感じやすくすることができる。また、上記実施形態の靴下1では、足部4とレッグ部6との境界に高パイル編みP
2が配置されているので、靴の履き口との接触による負荷を低減させることができる。また、上記実施形態の靴下1では、レッグ部6に斜め下方に延びる帯状の高パイル編みP
2及び低パイルP
1編みが形成されているので、筋肉のサポートやマッサージ効果を期待することができる。
【0040】
次に、本発明の一実施形態に係るマルチパイル編地を編成する方法の一例を説明する。本実施形態に係るマルチパイル編地を編成する丸編機は、往復運動する編針間に、一対のシンカーを選択的に出入りさせて複数の種類の編目組織を編成するものである。
図4は、本実施形態のマルチパイル編地を編成する丸編機の一実施形態であって、互いに対向して配置される低パイルシンカーと高パイルシンカーとに形成されるそれぞれの爪の位置の違いを示す説明図である。
【0041】
本実施形態のマルチパイル編地10は、低パイル編みP
1を形成する際にパイル糸91を保持するための低パイル爪22と、地糸92を保持するための小爪23とを有する低パイルシンカー21と、高パイル編みP
2を形成する際にパイル糸91を保持するための高パイル爪26を有する高パイルシンカー25とを有する一対のシンカー20を備えた丸編機によって編成される。低パイルシンカー21に形成される低パイル爪22及び小爪23と、高パイルシンカー25に形成される高パイル爪26とは、
図4に示すように上下方向において形成される位置が異なっており、小爪23と高パイル爪26との距離H2は、小爪23と低パイル爪22との距離H1よりも長い。本実施形態の丸編機では、この距離差(高低差)を利用してシンカーループ長の異なる編み組織が編成される。
【0042】
図5は、丸編機において、平編み、低パイル編み、及び高パイル編みを編成する際のパイル糸及び地糸の保持状態を示す側面図である。編目編成時のシンカーループ長は、
図5(a)〜
図5(c)に示すように、“パイル糸91及び地糸92と各爪22,23,26との接点P
22,P
23,P
26”から“パイル糸91及び地糸92と編針11との接点P
11”までの距離に応じて編成される。すなわち、編針11が、パイル糸91及び地糸92を旧ループに引き込む際に、パイル糸91及び地糸92をどの爪(低パイル爪22,小爪23,高パイル爪26)で保持するかによって、編み組織の種類を変えることができる。パイル糸91及び地糸92をどの爪で保持するかは、
図5(a)〜
図5(c)に示すように、低パイルシンカー21及び高パイルシンカー25を選別的に前進させることで実現することができる。
【0043】
図5(a)に示すように、編針11に対し、低パイルシンカー21及び高パイルシンカー25を所定位置から動かさない場合(前進させない場合)には、パイル糸91及び地糸92は、共に低パイルシンカー21の小爪23に保持される。このとき、「“パイル糸91と小爪23との接点P
23”から“パイル糸91と編針11との接点P
11”までの距離D
91」と、「“地糸92と小爪23との接点P
23”から“地糸92と編針11との接点P
11”までの距離D
92」とが等しい。したがって、
図5(a)に示す状態で、編針11がパイル糸91及び地糸92を旧ループに引き込むと、パイル糸91のシンカーループ長と地糸92のシンカーループ長とが同じとなる平編みP
0が編成される。
【0044】
図5(b)に示すように、編針11に対し、低パイルシンカー21のみを所定位置から編針11のある方向に距離L移動させた場合(前進させた場合)には、パイル糸91は、低パイルシンカー21の低パイル爪22に保持され、地糸92は、低パイルシンカー21の小爪23に保持される。このとき、「“パイル糸91と低パイル爪22との接点P
22”から“パイル糸91と編針11との接点P
11”までの距離D
91」と、「“地糸92と小爪23との接点P
23”から“地糸92と編針11との接点P
11”までの距離D
92」との間に距離H1の差が生じる。したがって、
図5(b)に示す状態で、編針11がパイル糸91及び地糸92を旧ループに引き込むと、パイル糸91のシンカーループ長が地糸92のシンカーループ長よりも長い(長さで表すとH1の2倍)低パイル編みP
1が編成される。
【0045】
図5(c)に示すように、編針11に対し、低パイルシンカー21及び高パイルシンカー25の両方を所定位置から編針11方向に距離L移動させた場合(前進させた場合)には、パイル糸91は、高パイルシンカー25の高パイル爪26に保持され、地糸92は、低パイルシンカー21の小爪23に保持される。このとき、「“パイル糸91と高パイル爪26との接点P
26”から“パイル糸91と編針11との接点P
11”までの距離D
91」と、「“地糸92と小爪23との接点P
22”から“地糸92と編針11との接点P
11”までの距離D
92」との間に距離H2の差が生じる。ここで、距離H2は、距離H1よりも長い。したがって、
図5(c)に示す状態で、編針11がパイル糸91及び地糸92を旧ループに引き込むと、パイル糸91のシンカーループ長が地糸92のシンカーループ長よりも長い(長さで表すとH2の2倍)高パイル編みP
2が編成される。
【0046】
このように上記マルチパイル編地10では、同一コース内において、平編みP
0の領域内に、低パイル編みP
1及び高パイル編みP
2が、編目一目単位で選択的に配置され、また、同一コース内において、低パイル編みP
1の領域内に、高パイル編みP
2が、編目一目単位で選択的に配置されるので、靴下1の表面に精細なパイル柄を描出することが可能となり、立体感を形成することができる。
【0047】
また、上記マルチパイル編地10を備えた靴下1では、ファッション性を高めるために重要となる脚部や足部のお洒落を好適に演出できたり、着用感などの機能を向上させたりすることができる。特に、往復回転によって編成されるつま先部3とかかと部5とに、また、それ以外の領域から連続して複雑なパイル柄を描出して立体感を形成することにより、下履きを着用する外出時のみならず、下履きを脱ぐ室内においても高いファッション性をアピールすることができる。
【0048】
上記マルチパイル編地10では、編目一目単位で選択的に高低パイル編みP
1,P
2を配置することができるので、必要な箇所にのみ高低パイル編みP
1,P
2を編成することができ、マルチパイル編地10を製造する際に糸の節約をすることができる。したがって、このマルチパイル編地10が用いられる靴下や足袋などの製造コストを低減させることができる。
【0049】
以上、上記効果を得ることができる第1実施形態に係るマルチパイル編地10を備えた靴下1について説明した。以下に説明する第2〜第5実施形態の靴下1A〜1C及び足袋1Dでは、これらの効果を奏しつつ、更に機能性の面で効果を発揮する。以下、第2〜第5実施形態について順番に説明する。
【0050】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係る靴下(ニット製品)1Aについて説明する。
図6は、本発明の第2実施形態に係る靴下のつま先部を示す展開図であり、
図6に示す凡例は、編み組織の種類を示している。
図6の領域51は、着用時において足裏側の部分であり、領域52は、着用時において甲側の部分であり、領域51と領域52との境界53は、着用時においてつま先となる部分である。
【0051】
靴下1Aは、上記第1実施形態で説明したような、同一コース内において、平編み(第1編み組織)P
0の領域内に、低パイル編み(第2編み組織)P
2及び高パイル編み(第3編み組織)P
2が、編目一目単位で選択的に配置されることでパイル柄が描出されているか、又は、同一コース内において、低パイル編みP
0の領域内に、高パイル編みP
2が、編目一目単位で選択的に配置されることでパイル柄が描出されているマルチパイル編地(パイル長を変化させた編地)10を備えている。また、このパイル柄は、シリンダが往復回転することで編成された往復回転領域内と、往復回転領域内と丸編機のシリンダが正回転することで編成された正回転領域とに跨る部分とに形成されている。
【0052】
そして、着用時における肌と編み組織との距離に基づいて、平編みP
0、低パイル編みP
1及び高パイル編みP
2が選択されている。具体的には、先丸靴下1Aにおいて、編み組織と肌との距離が遠くなる部分、すなわち、着用時に指と指の隙間となる部分55と、足裏側であって足の指の付け根となる部分56と、甲側であって足指間の付け根部分57とに、低パイル編みP
1及びパイル編みP
2が配置されている。更に、編み組織と肌との距離が遠くなる領域ほど、パイル糸91のシンカーループ長が長いパイル編みP
2が配置されている。
【0053】
本実施形態に係る靴下1Aでは、編目一目単位で、上述した編目組織を分布させることができるマルチパイル編地10を用いているので、着用時に指と指の隙間となる部分55と、足裏側であって足の指の付け根となる部分56と、甲側であって足指間の付け根部分57とに、正確に低パイル編みP
1及びパイル編みP
2を配置することができる。このように低パイル編みP
1及び高パイル編みP
2が配置されることにより、指と指の隙間部分の着用感が向上し、先丸靴下1Aでありながら、5本の指のそれぞれの袋部が形成されたような着用感を演出することが可能となる。
【0054】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態に係る靴下(ニット製品)1Bについて説明する。
図7は、本発明の第3実施形態に係る靴下のつま先部を示す展開図であり、
図7に示す凡例は、編み組織の種類を示している。また、
図6と同様に、領域51は、着用時において足裏側の部分であり、領域52は、着用時において甲側の部分であり、領域51と領域52との境界53は、着用時においてつま先となる部分である。
【0055】
靴下1Bは、第2実施形態と同様、上述のマルチパイル編地(パイル長を変化させた編地)10を備えている。また、このパイル柄は、シリンダが往復回転することで編成された往復回転領域内と、往復回転領域内と丸編機のシリンダが正回転することで編成された正回転領域とに跨る部分とに形成されている。そして、靴下1Bは、着用時における編み組織への負荷の大きさに基づいて、適切な厚みの編み組織(平編み(第1編み組織)P
0、低パイル編み(第2編み組織)P
1及び高パイル編み(第3編み組織)P
2)となるように選択されている。具体的には、着用時につま先となる部分において、負荷がかかりやすい部分に低パイル編みP
1及び高パイル編みP
2が配置されている。更に、編み組織にかかる負荷が大きくなる部分ほど、パイル糸91のシンカーループ長が長い編み組織が配置されている。
【0056】
本実施形態の靴下1Bでは、編目一目単位で、上述した編目組織を分布させることができるマルチパイル編地10を用いているので、負荷がかかる部分に正確に低パイル編みP
1及びパイル編みP
2を配置することができる。そして、このように低パイル編みP
1及び高パイル編みP
2を配置することにより、当該部分のマルチパイル編地10の厚みが大きくなり、つま先部3における着用者の足へのダメージを低減できる。
【0057】
ここで、負荷のかかる部分は、着用者の競技種目によって異なる。例えば、バスケットボールなどの競技種目で着用される場合には、横方向への負荷が大きくなる。この場合、
図7に示すように、つま先部3の側面側61,62に高低パイル編みP
1,P
2を配置することによって、着用者の足への負担が低減される。さらに、
図7に示すように、小指(第5趾)が位置する側である外側61に、より厚みをもたせるために高パイル編みP
2を配置すれば、より効果的に着用者の足への負担が低減できる。
【0058】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態に係る靴下(ニット製品)1Cについて説明する。
図8は、本発明の第4実施形態に係る靴下1Cを示す展開図であり、
図8に示す凡例は、編み組織の種類を示している。
図8の領域64は、着用時において足裏側の部分であり、領域65は、着用時において甲側の部分である。
【0059】
靴下1Cは、第2及び第3実施形態と同様、上述のマルチパイル編地(パイル長を変化させた編地)10を備えている。また、このパイル柄は、シリンダが往復回転することで編成された往復回転領域内と、丸編機のシリンダが正回転することで編成された正回転領域とに跨る部分とに形成されている。そして、靴下1Cは、着用時における肌と編み組織との距離に基づいて、編み組織(平編み(第1編み組織)P
0、低パイル編み(第2編み組織)P
1及び高パイル編み(第3編み組織)P
2)となるように選択されている。具体的には、靴下1Cの足裏部において、編み組織と肌とが接触する領域66に平編みP
0が配置され、当該領域66の周辺に、低パイル編みP
1及び高パイル編みP
2が配置されている。更に、編み組織と肌との距離が遠くなるほど、パイル糸91のシンカーループ長が長いパイル編みP
2が配置されている。
【0060】
本実施形態の靴下1Cでは、編目一目単位で、上述した編目組織を分布させることができるマルチパイル編地10を用いているので、編み組織と肌とが接触する領域66に正確に平編みP
0を配置することができる。また、その周辺に、着用時における肌との距離に基づいて、低パイル編みP
1と高パイル編みP
2を正確に配置することができる。領域66に配置される編み組織と当該領域66の周辺に配置される編み組織とは、パイル糸91のシンカーループ長に違いがある。このため、マルチパイル編地の厚さが異なる。領域66の周辺の領域のマルチパイル編地が、領域66のマルチパイル編地よりも厚いので、領域66には凹部が形成される。
【0061】
本実施形態の靴下1Cでは、当該凹部に、シリコン樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂のいずれかが充填される。当該凹部に上記樹脂が充填されることにより、加重がかかった際に、肌と樹脂との間の滑り止め効果が発揮されることとなり、履き心地が向上する。つまり、上記マルチパイル編地10を用いることで、シリコン樹脂などを充填すべき箇所、すなわち、肌と接触する部分に正確に凹部を形成することができる。
【0062】
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態に係る足袋(ニット製品)1Dについて説明する。
図9は、本発明の第5実施形態に係る足袋を示す斜視図である。足袋1Dは、つま先部71において、親指(第一趾)を覆う袋部72と、その他の指(第二趾〜第五趾)を覆う袋部73とを有している。このような構成の足袋1Dのつま先部71の袋部72,73及びかかと部75は、丸編機のシリンダの往復回転によって編まれ、丸編機の半周側のみの針が、目減らし及び目増しされて形成される。そして、この目減らし及び目増しの境目をゴアラインという。
図9においては、袋部72の両側面に2箇所のゴアライン72a,72bが形成され、袋部73の両側面に2箇所のゴアライン73a,73bが形成される。
【0063】
足袋1Dは、第2〜第4実施形態と同様、上述のマルチパイル編地(パイル長を変化させた編地)10を備えている。また、このパイル柄は、シリンダが往復回転することで編成された往復回転領域内と、往復回転領域内と丸編機のシリンダが正回転することで編成された正回転領域とにまたがる部分とに形成されている。そして、足袋1Dは、ゴアライン72a,72b,73a,73bが低パイル編み(第2編み組織)P
1又は高パイル編み(第3編み組織)P
2となるように選択されている。
【0064】
本実施形態の足袋1Dでは、往復回転領域内においても、編目一目単位で、上述した編目組織を分布させることができるマルチパイル編地10を用いているので、ゴアライン72a,72b,73a,73bとなる部分に正確に低パイル編みP
1又は高パイル編みP
2を配置することができる。これにより、パイル糸91の伸びにより、ゴアラインにおける突っ張り感を低減させることができる。
【0065】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0066】
上記実施形態のマルチパイル編地は、レッグウェアとして、タイツ、足袋、ストッキング、サポータなどに適用可能であるが、例えば、脚以外の体部位に着用される、例えば手袋などのニット製品に適用することも可能である。
【0067】
本発明のマルチパイル編地を用いる靴下又は足袋(ニット製品)の例として、上記第2〜第5実施形態を示したが、これらの特徴を適宜組み合わせたものとすることもできる。
【0068】
上記実施形態のマルチパイル編地では、基本編み組織である平編みP
0を適用した例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、平編みP
0の代わりに、変化編み組織であるフロート編み、タック編み、カットボス編みなどを適用してもよい。または、平編み、フロート編み、タック編み、カットボス編みなどがそれぞれ単独又は混在する領域内に、低パイル編み(第2編み組織)P
1及び高パイル編み(第3編み組織)P
2が、編目一目単位で選択的に配置されることでパイル柄が描出されてもよい。
【0069】
また、本発明によるパイル長を変化させた編地では、編み組織に、補強糸を含めることができる。