特許第6106883号(P6106883)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人福岡大学の特許一覧

特許6106883第二次高調波光を用いた新規コラーゲン線維化評価モデル
<>
  • 特許6106883-第二次高調波光を用いた新規コラーゲン線維化評価モデル 図000002
  • 特許6106883-第二次高調波光を用いた新規コラーゲン線維化評価モデル 図000003
  • 特許6106883-第二次高調波光を用いた新規コラーゲン線維化評価モデル 図000004
  • 特許6106883-第二次高調波光を用いた新規コラーゲン線維化評価モデル 図000005
  • 特許6106883-第二次高調波光を用いた新規コラーゲン線維化評価モデル 図000006
  • 特許6106883-第二次高調波光を用いた新規コラーゲン線維化評価モデル 図000007
  • 特許6106883-第二次高調波光を用いた新規コラーゲン線維化評価モデル 図000008
  • 特許6106883-第二次高調波光を用いた新規コラーゲン線維化評価モデル 図000009
  • 特許6106883-第二次高調波光を用いた新規コラーゲン線維化評価モデル 図000010
  • 特許6106883-第二次高調波光を用いた新規コラーゲン線維化評価モデル 図000011
  • 特許6106883-第二次高調波光を用いた新規コラーゲン線維化評価モデル 図000012
  • 特許6106883-第二次高調波光を用いた新規コラーゲン線維化評価モデル 図000013
  • 特許6106883-第二次高調波光を用いた新規コラーゲン線維化評価モデル 図000014
  • 特許6106883-第二次高調波光を用いた新規コラーゲン線維化評価モデル 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6106883
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】第二次高調波光を用いた新規コラーゲン線維化評価モデル
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/14 20060101AFI20170327BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20170327BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20170327BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20170327BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
   A61B3/14 Z
   C12Q1/02
   G01N33/483 C
   G01N33/48 M
   G01N21/17 A
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-186951(P2012-186951)
(22)【出願日】2012年8月27日
(65)【公開番号】特開2014-42671(P2014-42671A)
(43)【公開日】2014年3月13日
【審査請求日】2015年8月17日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成24年4月5〜8日,財団法人 日本眼科学会主催,「第116回 日本眼科学会総会」
(73)【特許権者】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】240000039
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人 衞藤法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々 由季生
(72)【発明者】
【氏名】向野 利寛
(72)【発明者】
【氏名】石橋 達朗
(72)【発明者】
【氏名】吉田 茂生
(72)【発明者】
【氏名】福島 修一郎
(72)【発明者】
【氏名】荒木 勉
(72)【発明者】
【氏名】安井 武史
【審査官】 安田 明央
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−514133(JP,A)
【文献】 特開2007−049990(JP,A)
【文献】 特表2010−532487(JP,A)
【文献】 特表2005−519881(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/061836(WO,A2)
【文献】 特表2009−545519(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00−3/16
C12Q 1/02
G01N 21/17
G01N 33/48
G01N 33/483
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SHG顕微鏡を用いてコラーゲン増殖性眼疾患動物モデルの眼組織の正常部位ないし病変部位のSHG輝度を測定するSHG輝度測定工程と,病変部位の面積を測定する面積測定工程と,前記SHG輝度測定工程におけるSHG輝度と前記面積測定工程における面積値を用いて,病変部位における平均SHG輝度を算出する算出工程と,SHG光の検出からコラーゲン型を特定する工程を含むことを特徴とするインビボ評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,第二次高調波光(SHG光)を利用した増殖性眼疾患に関する線維化評価方法に関する。さらに詳しくは,牽引性網膜剥離等のコラーゲン増殖性眼疾患について,SHG顕微鏡を用いたインビボおよびインビトロ評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
牽引性網膜剥離は,網膜前後面にI型コラーゲン線維を主体とする線維増殖膜が形成され,網膜を牽引することで,裂孔形成や難治性網膜剥離を引き起こす疾患である。牽引性網膜剥離に対する有効な薬物療法は未だ無く,病態の詳細な解明は急務である。牽引性網膜剥離の原因因子として形質転換成長因子(TGF)β,結合組織増殖因子(CTGF),血小板由来成長因子(PDGF)などが知られている。
【0003】
このように牽引性網膜剥離の病態についてコラーゲン線維が大きく関与するが,コラーゲンが関与する眼疾患は,牽引性網膜剥離のほか,増殖糖尿病網膜症,黄斑前膜など複数存在する。このことから眼組織においてコラーゲン増殖を適切に評価できるインビトロ,インビボ評価法の確立は,コラーゲンが関与する眼疾患の病態解明や薬剤開発に大きく寄与することが期待される。
【0004】
現在,眼組織におけるコラーゲンを評価するための方法として,組織染色法,および走査型電子顕微鏡や反射共焦点顕微鏡を用いた観察法などが知られている。しかしながら,組織染色法や走査型電子顕微鏡を用いた観察方法では,観察対象の固定が必要であり,侵襲的であるという欠点を有する。また,反射共焦点顕微鏡では,インビボ計測や三次元計測が可能であるものの,コラーゲン線維のみを観察できないという欠点を有する。加えて,組織染色法や反射共焦点顕微鏡を用いても,コラーゲンの配向情報を得ることはできないのが現状である。
【0005】
一方,第二次高調波発生(SHG,Second Harmonic Generation)は,2つの光子が中心対称性を欠いて分布する物質(非中心対称構造体)と相互作用した後,入射光のちょうど半分の波長をもった1つの光子へと変換される現象をいう。このSHGにより得られる光は,第二次高調波光(以下,「SHG光」と略する)と呼ばれる。SHG光は,電気・機械分野で長年研究が行われてきたが,近年では,生命科学分野においても広く研究が行われ(非特許文献1,2),コラーゲン検出に関する技術も開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−049990
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Chang Y et al. J Biol Phys. 2010 Sep;36(4):365-83.Epub 2010 Jun 9.
【非特許文献2】Latour G et al. Biomed OptExpress. 2012 Jan 1;3(1):1-15. Epub 2011 Dec 1.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では,SHG光を用いたコラーゲン培養組織試料の評価方法に関する技術が開示されている。しかし,この技術では,眼組織に存在するコラーゲンに関する評価方法については何ら開示されていない。加えて,眼組織にコラーゲンが存在した場合の具体的な評価方法については,開示も示唆もない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記事情を背景として本発明では,SHG光を利用してコラーゲン増殖を評価することにより,眼疾患の評価を行う評価方法の開発を課題とする。
【0010】
発明者らは,同じコラーゲン増殖性眼疾患であっても,病態に特徴的なコラーゲンの型や病期の進行度などにより,SHG光の観察できる範囲や強度に違いがあることを発見した。発明者らは,この違いを評価することにより,コラーゲン増殖性眼疾患の病態や重症度の客観的評価が可能であることを見出し,本発明を完成させた。
【0011】
本発明は,以下から構成される。
【0012】
本発明の第一の構成は,SHG顕微鏡を用いて眼疾患動物モデルの眼組織の観察を行う観察工程を含み,眼疾患動物モデルの病態の重症度ないし病期の評価を行うことを特徴とするインビボ評価方法である。
【0013】
本発明の第二の構成は,前記インビボ評価方法がさらに,SHG顕微鏡により正常部位ないし病変部位のSHG輝度を測定するSHG輝度測定工程と,病変部位の面積を測定する面積測定工程とを含むことを特徴とする第一の構成に記載のインビボ評価方法である。
【0014】
本発明の第三の構成は,前記インビボ評価方法がさらに,前記SHG輝度測定工程におけるSHG輝度と前記面積測定工程における面積値を用いて,病変部位における平均SHG輝度を算出する算出工程を含むことを特徴とする第二の構成に記載のインビボ評価方法である。
【0015】
本発明の第四の構成は,前記インビボ評価方法がさらに,眼疾患動物モデルに薬剤を投与し,治療効果を評価する治療効果評価工程を含むことを特徴とする第一から第三の構成に記載のインビボ評価方法である。
【0016】
本発明の第五の構成は,前記眼疾患動物モデルが,増殖硝子体網膜症・網膜前膜等のコラーゲン増殖性眼疾患動物モデルであることを特徴とする第一から第四の構成に記載のインビボ評価方法である。
【0017】
本発明の第六の構成は,SHG顕微鏡を用いたコラーゲン3次元細胞培養系のインビトロ評価方法であって,コラーゲンを含む培地に線維芽細胞等のコラーゲン線維増殖を行う細胞を播種する工程と,SHG顕微鏡を用いて観察を行う観察工程を含み,コラーゲン増殖の有無等を評価することを特徴とするインビトロ評価方法である。
本発明の第七の構成は,前記コラーゲン線維増殖を行う細胞が,網膜色素上皮細胞等の眼由来細胞であることを特徴とする第六の構成に記載のインビトロ評価方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明により,SHG光を利用した眼疾患の評価を行う評価方法の提供が可能となった。すなわち,本発明により,SHG顕微鏡を用いて,コラーゲン増殖の有無を定量的・定性的に評価することにより,眼疾患のインビボ,インビトロ評価が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】黄班円孔被験者手術検体のインビトロSHG像観察結果を示した図
図2】黄斑前膜被験者手術検体のインビトロSHG像観察結果を示した図
図3】増殖性硝子体網膜症被験者手術検体のインビトロSHG像観察結果を示した図
図4】増殖糖尿病網膜症被験者のインビボSHG像観察結果を示した図
図5】増殖糖尿病網膜症被験者のインビボSHG像観察結果を示した図
図6】増殖糖尿病網膜症被験者のインビボSHG像観察結果を示した図
図7】増殖糖尿病網膜症被験者のインビボSHG像観察結果を示した図
図8】増殖糖尿病網膜症被験者のインビボSHG像観察結果を示した図
図9】増殖糖尿病網膜症被験者のインビボSHG顕微鏡観察測定結果をまとめた図
図10】コラーゲンゲル3次元系において,コラーゲンのSHG変化を示した図
図11】コラーゲンゲル3次元系において,コラーゲン線維の変化を示した図
図12】コラーゲンゲル3次元系において,コラーゲン線維束径の変化を示した図
図13】コラーゲンゲル3次元系において,TGFβ2のSHG変化の影響を示した図
図14】コラーゲンゲル3次元系において,PeriostinのSHG変化の影響を示した図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下,本発明のインビボ,インビトロ評価方法について,詳細に説明する。
本発明のSHG光を用いたコラーゲン増殖性眼疾患に関する評価方法は,インビボおよびインビトロの2つの評価方法からなる。
【0021】
まず,インビボ評価方法について説明を行う。
インビボ評価を行う施術者は,本発明のインビボ評価方法における評価対象として,眼疾患動物モデルを用いる。用いる眼疾患動物モデルについて,病変部位のコラーゲン増殖の有無に関わらず特に限定する必要はなく,施術者は,種々の眼疾患動物モデルを用いることができる。施術者は,増殖硝子体網膜症,網膜前膜などの,コラーゲン増殖性眼疾患動物モデルを,好ましくは用いることができる。また,牽引性網膜剥離,増殖性糖尿病網膜症,黄斑前膜などのコラーゲン増殖性眼疾患については未だ動物モデルが知られていないが,これらの疾患を反映させた動物モデルであっても構わない。
用いる眼疾患動物モデルについて,施術者は,点眼液の投薬や麻酔など,SHG顕微鏡観察を行うために必要と思われる前処理を眼疾患動物モデルに対し行うことができる。
【0022】
施術者は,SHG顕微鏡により,眼疾患動物モデルの眼組織の観察を行う(以下,「観察工程」という)。観察工程では,病変部位のみならず,正常部位を含めた眼組織全体の観察を行うことが好ましい。また,これら正常部位や病変部位の判定については,通常行われる,眼底カメラによる観察を組合わせて,判定を行ってもよい。
【0023】
本発明におけるインビボ評価法では,さらにSHG輝度測定工程と面積測定工程を含むことができる。これにより,眼疾患動物モデルの病態や重症度,病期について客観的指標が得られるという効果を有する。
【0024】
SHG輝度測定工程においては,眼組織のSHG輝度を測定し得る限り,種々の測定方法を採ることができる。また,面積測定工程においては,眼組織において病変ないし異常部位(以下,まとめて「病変部位」という)の面積値を測定し得る限り,種々の測定方法を採ることができる。
【0025】
SHG輝度測定工程について例をあげて説明する。
施術者は,SHG顕微鏡観察を行い,正常部位の任意部位を数ヶ所選択し測定を行う。通常,SHG顕微鏡には,任意の部位の撮像画像を,ピクセルごとのSHG輝度情報とともに記録できる機能を備えている。この機能を利用し,施術者は,SHG顕微鏡観察を行い,正常部位と判断した任意部位を数ヶ所選択し,選択した正常部位の画像を記録することにより,正常部位におけるピクセルごとのSHG輝度情報を得ることができる。同様の操作により,病変部位におけるピクセルごとのSHG輝度情報を得ることができる。これらの画像記録作業により,SHG輝度測定工程を完了することができる。
【0026】
続いて面積測定工程について,例をあげて説明する。
上記のSHG輝度測定工程により,正常部位ないし病変部位におけるSHG輝度測定情報を得ることができるが,このSHG輝度測定情報を用いて,正確な病変部位の面積値を算出することができる。例えば,正常部位におけるSHG輝度情報の平均値もしくは最大値などを閾値として設定する。病変部位のSHG画像において,設定した閾値を上回るSHG輝度を有するピクセルを病変部位として改めて定義し,そのピクセル和を病変部位の面積値として設定するなどである。
【0027】
本発明におけるインビボ評価法では,さらに算出工程を含むことができる,これにより,眼疾患動物モデルについて,数値としてのより客観的な指標が得られ,眼疾患動物モデルの病態や重症度,病期の客観的評価がよりしやすくなるという効果を有する。
算出工程について例をあげると,前記面積測定工程により算出された面積において,この面積におけるSHG輝度の総和を面積値で割ることにより,算出することができる。
【0028】
本発明におけるインビボ評価法では,さらに,治療効果評価工程を含むことができる。これにより,薬剤等の治療効果を,SHG光を元にした客観的指標により評価が可能となるという効果を有する。
【0029】
次に,インビトロ評価法について説明を行う。
本発明におけるインビトロ評価法において,施術者は,インビトロ評価系として,コラーゲンを含む培地に,線維芽細胞等のコラーゲン線維増殖を行う細胞の播種を行う。また,コラーゲン線維増殖を行う細胞等としては,網膜色素上皮細胞等の眼由来細胞をもちいることが好ましい。
コラーゲンゲルとしては,通常用いられるコラーゲンゲルを用いればよく,例えば,Cell Matrix I-AとDMEM,HEPES buffer等を混和し,インキュベートするなどして作製することができる。
作製されたコラーゲンゲルに,コラーゲン線維増殖を行う細胞の播種を行い,所定の時間,培養を行う。この播種されたコラーゲン線維増殖を行う細胞を,インビボ評価法と同様,SHG顕微鏡にて観察,測定を行うことにより,コラーゲン増殖を客観的に評価することが可能となる。
【実施例】
【0030】
以下では,実施例を踏まえ,本発明のインビボ評価法およびインビトロ評価法をさらに詳細に説明するが,当然のことながら,本発明の内容は下記に限定されるものではない。
【0031】
<<実施例1>>
1.被験者の同意の元,各被験者の手術検体を採取し,20%ホルマリン液で固定した。固定した手術検体をスライドガラスに均一に展開し,光学顕微鏡又はSHG顕微鏡にて観察を行った。
2.合わせて,手術前の被験者について,眼底カメラを用い眼底像およびOCT像の観察を行った。
【0032】
<結果>
1.図1から図3に結果を示す。各図はそれぞれ上段が眼底カメラによるOCT像又は観察像,下段左が光学顕微鏡による拡大観察像,下段右がSHG顕微鏡による観察像である。図1は黄班円孔,図2は黄斑前膜,図3は増殖性硝子体網膜症の被験者である。
2.IV型コラーゲン増殖病態を主とする黄班円孔被験者の手術検体では,SHG光は全く検出されなかった(図1)。一方,I型コラーゲン増殖病態を主とする黄斑前膜や増殖性硝子体網膜症の被験者の手術検体では,SHG光が検出された(図2,3)。
3.これらの結果から,コラーゲンの型の違いにより,SHG光の検出が異なることが示された。
4.病態によりコラーゲンの型が異なることもあり,また,同じ病態であってもその進行度によりコラーゲンの成熟度が異なることが通常である。このことを踏まえると,病態や病態の進行度により,SHG顕微鏡観察結果に変化が見られることが強く示唆され,そのSHG観察結果を客観的に評価することにより,病態や病態の進行度の客観的評価が可能となりうることが強く示唆された。
【0033】
<<実施例2>>
<方法>
1.SHG顕微鏡にて,増殖性糖尿病網膜症被験者の眼の観察を行った。
2.増殖組織の無い部位のSHG輝度を測定し,そのうち最高輝度の部位を正常組織の閾値とした。
3.正常組織の閾値よりも高いSHG輝度を有する部位を増殖膜のある部位とした。この増殖膜のある部位の任意の部位(318.5×318.5μm2)を3か所選択し,SHG輝度の測定を行った。
4.SHG輝度の面積当たりの平均値を算出した。
5.合わせて,眼底カメラにて,眼底像およびOCT像の観察・解析を行った。
【0034】
<結果>
1.結果を図4から8に示す。各図において,上段が眼底カメラによる観察結果,下段がSHG顕微鏡による観察結果を示す。図上段のうち,左と右が眼底像,中央がOCT像を示す。
2.図4から図8の増殖性糖尿病網膜症被験者の眼底カメラによる観察において,いずれにおいてもコラーゲンの増殖が確認された。
(1) 比較的病気の進行が進んでいない被験者では,SHG光が広範に観察される一方,そのSHG強度はそれほど高くなかった(図4,5)。
(2) また,図6に見られるように,SHG光が観察される範囲は狭いものの,SHG強度が高い被験者も見られた。
(3) また,病気の進行が進んでいる被験者では,SHG光が広範に観察され,かつ,そのSHG強度も高かった(図7,8)。
3.各被験者について,SHGが観察される面積およびその強度をまとめたものを図9に示す。このようにSHG顕微鏡観察面積およびSHG強度を定量化することにより,増殖性糖尿病網膜症被験者を客観的に評価することが可能となる。また,この結果から,SHG顕微鏡観察面積およびSHG強度は比例するわけではないが,これらいずれもが高くなると,増殖性糖尿病網膜症被験者の病期の進行度,すなわち増殖膜の成熟度と相関する可能性が示唆された。
4.これらの結果は,増殖性糖尿病網膜症の病期の進行度の評価に,SHG観察が有用であることを示す結果である。
【0035】
<<実施例3>>
<実験方法>
1.コラーゲンゲルについて,まず,Cell Matrix I-A(700μL)と5倍濃縮DMEM(200μL),buffer(0.05N NaOH/260 mM NaHCO3 / 20mM HEPES 100μL)を混和した。この混和溶液200μLを,3.5mmガラスシャーレに加えて,30分間37℃インキュベーションすることによりゲル化し,コラーゲンゲルを作製した。
2.作製したコラーゲンゲルに,ヒト網膜色素上皮細胞(hRPE)を,播種密度4.0×104 cells/mLで2cc播種した。播種後すぐに培養液にTGFβ(3ng/mL)を添加した。培養液交換は2日ごとに行い,液量は1.8mLとした。
3.位相差顕微鏡とSHG顕微鏡を用いて,24時間,4日,8日目に1dishにつき3視野測定し,平均をSHG発現面積率・平均輝度として評価を行った。
4.走査電子顕微鏡(SEM)を用いて,培養していないゲル及び8日間細胞培養後のゲル表面を,トリプシン処理後に観察を行った。
【0036】
<結果>
1.結果を図10から図14に示す。
2.コラーゲンゲル3次元培養系では,培養4日目よりSHG発現面積及び平均輝度の上昇を認め,8日目には両指標ともに統計学的に有意な差を認めた(図10)。
3.同条件ゲルのSEM顕微鏡解析では,細胞培養後のゲルでコラーゲン線維が密に存在することが明らかとなった(図11)。
4.SEM顕微鏡解析を用いたコラーゲン線維束径の比較では,培養後の方が培養前のコラーゲン線維よりも,統計学的に有意に太いコラーゲン線維束を認めた(図12)。
5.TGFβ刺激hRPE細胞培養下では,培養4日目からSHG発現面積及び平均輝度の統計学的に有意な上昇を認め,その効果は8日目まで継続した(図13,下段)。
6.同条件ゲルのSEM顕微鏡解析では,TGFβ刺激hRPE細胞のゲルでコラーゲン線維が密に存在していた(図13,上段)。
7.SHG顕微鏡を用いたコラーゲン3次元培養系は,コラーゲンの線維化及び抑制効果を,固定など修飾を行わずにリアルタイムで観察できることが示された。よって,コラーゲン線維リモデリングの新しいインビトロ評価法として有用である。


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14