特許第6106885号(P6106885)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6106885
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】懸垂碍子成形型
(51)【国際特許分類】
   B28B 7/00 20060101AFI20170327BHJP
   B28B 3/02 20060101ALI20170327BHJP
   H01B 17/06 20060101ALN20170327BHJP
【FI】
   B28B7/00 B
   B28B3/02 K
   !H01B17/06 A
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-57387(P2014-57387)
(22)【出願日】2014年3月20日
(65)【公開番号】特開2015-178255(P2015-178255A)
(43)【公開日】2015年10月8日
【審査請求日】2015年10月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100154461
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 由布
(72)【発明者】
【氏名】小山 誠
(72)【発明者】
【氏名】上田 篤史
【審査官】 伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−186715(JP,A)
【文献】 特開平07−178713(JP,A)
【文献】 特開平03−023903(JP,A)
【文献】 特開平07−323412(JP,A)
【文献】 特開2014−188771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 7/00− 7/46
B28B 3/02− 3/10
B28B 1/26− 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製型枠の内部に、多孔質金属または多孔質樹脂からなる通気性構造部材と、成形面を構成する通気性石膏からなる多孔質表面層とを配置した懸垂碍子成形型であって、
前記通気性構造部材は金属製型枠との接触面に凹溝を備え、この凹溝と金属製型枠との間に、離型用空気が供給される通気溝を形成したことを特徴とする懸垂碍子成形型。
【請求項2】
前記凹溝は、複数のリング状凹溝とこれらのリング状凹溝を接続する直線状凹溝とからなることを特徴とする請求項1記載の懸垂碍子成形型。
【請求項3】
前記複数のリング状凹溝を、懸垂碍子の笠を成形する位置に配置したことを特徴とする請求項2記載の懸垂碍子成形型。
【請求項4】
前記凹溝の幅を、10〜90mmとしたことを特徴とする請求項1記載の懸垂碍子成形型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、懸垂碍子をプレス成形するために用いられる懸垂碍子成形型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
懸垂碍子は、土練機から押し出された坏土を所定長さに切断したうえで懸垂碍子成形型に供給し、プレス成形する方法で製造されている。
【0003】
このために使用される懸垂碍子成形型としては、図1に示すように金属製型枠1の内部に通気性石膏2を充填し、通気性石膏2の表面を成形面3とした構造のもの(特許文献1)が、従来から用いられていた。この通気性石膏2の内部には多孔チューブ4が埋め込まれ、プレス成形後に多孔チューブ4からエアブローを行なって通気性石膏2を通じて成形面3に空気を噴出させ、成形体を浮き上がらせることによって、懸垂碍子成形型からの成形体Wの取出し作業を容易に行えるようになっている。
【0004】
しかし図1のような構造の従来の懸垂碍子成形型は、不安定な多孔チューブ4を通気性石膏2の内部に埋設する必要があるためにその位置決めが難しく、成形面3から多孔チューブ4までの距離がばらつき、部位によって通気量が不均一となって成形体Wが変形するおそれがあった。またばらつきが大きいために成形面3から多孔チューブ4までの距離を小さくすることができず、そのためにエアブロー量を大きくして離型スピードを高め、生産ピッチを上げることが難しかった。
【0005】
また図1のような構造の従来の懸垂碍子成形型は、繰り返し使用することにより成形面3が摩耗した場合には、金属製型枠1から通気性石膏2を全て取り除き、新たに懸垂碍子成形型を製作する必要があり、多くの工数と材料コストがかかるという問題があった。
【0006】
さらに、成形面3を構成する通気性石膏2は、滑らかな成形表面を得ること、目詰まりしにくいこと、成形荷重に耐える機械的強度を有することなどの要求を満足するためには緻密であることが求められる。しかしその反面、通気性石膏2を緻密にすると必然的に通気性が低下することとなる。このため離型ピッチを短縮することは困難であり、生産性向上を図るうえでの一つのネックとなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−178713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、成形面が摩耗したときの補修コストを低減することができ、また成形品質を低下させることなく、離型ピッチを短縮することができる懸垂碍子成形型を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、金属製型枠の内部に、多孔質金属または多孔質樹脂からなる通気性構造部材と、成形面を構成する通気性石膏からなる多孔質表面層とを配置した懸垂碍子成形型であって、前記通気性構造部材は金属製型枠との接触面に凹溝を備え、この凹溝と金属製型枠との間に、離型用空気が供給される通気溝を形成したことを特徴とするものである。
【0010】
前記凹溝は、複数のリング状凹溝とこれらのリング状凹溝を接続する直線状凹溝とからなることが好ましく、複数のリング状凹溝を、懸垂碍子の笠を成形する位置に配置することが好ましい。また前記凹溝の幅は、10〜90mmとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の懸垂碍子成形型は、金属製型枠の内部に、多孔質金属または多孔質樹脂からなる通気性構造部材と、成形面を構成する通気性石膏からなる多孔質表面層とを配置した構造であるから、繰り返し使用することにより成形面が摩耗した場合には、通気性構造部材は残したまま、多孔質表面層のみを取り除いて補修すればよい。このため補修コストを大幅に削減することができる。また本発明の懸垂碍子成形型は、多孔質表面層を薄くし、かつ厚さのばらつきをなくすことができるので、エアブロー量を大きくして離型ピッチを短縮することができる。
【0012】
また本発明の懸垂碍子成形型は、通気性構造部材が金属製型枠と接触する面に凹溝を形成し、離型用空気が供給される通気溝としたものであるから、通気溝の位置を正確に決めることができるうえ、多孔チューブを埋設していた従来よりも安価に製造することができる。しかも通気性構造部材の凹溝以外の部分は金属製型枠と密着しているため、プレス圧に耐える機械的強度を備えた懸垂碍子成形型となり、成形品質を向上させることができる。
【0013】
なお、凹溝を複数のリング状凹溝とこれらのリング状凹溝を接続する直線状凹溝とからなるものとし、リング状凹溝を懸垂碍子の笠を成形する位置に配置すれば、離型効果が高まり、離型ピッチを速めることができる。さらに凹溝の幅を10〜90mmとすれば、十分な通気性を確保しつつ多孔質表面層の撓みを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】従来の懸垂碍子成形型を示す断面図である。
図2】本発明の実施形態の懸垂碍子成形型を示す平面図である。
図3図2のA−A断面図である。
図4図2のB−B断面図である。
図5】溝幅と圧力損失との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施形態を説明する。
図2図4は本発明の実施形態の懸垂碍子成形型を示す図であり、10は例えばアルミニウム合金からなる金属製型枠であり、懸垂碍子の外形状にほぼ対応する形状のものである。底部中心には貫通孔11が形成されている。周知のように、懸垂碍子は笠W1と頭部W2とを備えている。
【0016】
この金属製型枠10の貫通孔11を除く内面には、通気性構造部材12が配置されている。この通気性構造部材12は機械的強度と通気性とを兼ね備えたものであることが必要であり、多孔質金属または多孔質樹脂を用いることができる。通気性構造部材12はJIS−R2115による通気率が10−13(m)以上の材質とすることが好ましい。この実施形態では、通気性構造部材12として、多孔質のフェノール樹脂を用いている。
【0017】
この通気性構造部材12が金属製型枠10と接触する面には、図2に示すような凹溝が形成されている。この実施形態では、凹溝は図3に示される複数のリング状凹溝13と、図4に示される直線状凹溝14とからなる。これらの凹溝は離型用空気が供給される通気溝として機能するものである。図4に示すように、直線状凹溝14の端部には空気供給パイプ15が接続され、離型時に離型用空気を供給している。直線状凹溝14を通じて供給された離型用空気は、複数のリング状凹溝13に達する。
【0018】
通気性構造部材12の内面には、多孔質表面層16が配置されている。多孔質表面層16は好ましくは通気性石膏からなり、従来と同様に成形面17を構成するものである。多孔質表面層16は通気性構造部材12の内面に石膏を流し込み、半硬化した状態で前記の凹溝から空気を供給し、石膏中の水分を空気圧により絞り出して通気性を付与する方法で形成することができる。成形素材である坏土は多孔質表面層16の成形面上に供給され、プレスされて懸垂碍子が成形される。
【0019】
リング状凹溝13内の離型用空気は、通気性構造部材12及び多孔質表面層16を通過して成形面17に達して成形体との間に空気層を形成し、成形体Wの離型性を向上させる。この効果を高めるために、リング状凹溝13は図3に示すように懸垂碍子の笠W1を成形する位置に、集中的に配置することが望ましい。このような配置とすれば成形体Wの頭部W2には離型用空気がほとんど供給されず、碍子頭部の変形を防止することができる。
【0020】
このように離型用空気は通気性構造部材12の凹溝、特にリング状凹溝13から成形面17に向って噴出するため、凹溝の大きさや配置は離型効果に影響する。まずリング状凹溝13は必ずしも図3のような同心円状である必要はなく、例えばスパイラル状としてもよい。またリング状凹溝13をなくし、空気を放射状の直線状凹溝14から噴出させることも可能である。しかし成形体Wの笠W1の全周を均等に浮上させるためには、実施形態の構造が最善と考えられる。
【0021】
本発明においては、凹溝の幅は10〜90mmの範囲とすることが望ましい。図5に示すように、溝幅が狭くなるとその内部を流れる空気の圧力損失は急激に増大するから、少なくとも10mm以上とすることが好ましい。
【0022】
また、凹溝の幅が広くなるとその周囲がプレス圧によって撓み易くなり、成形面17を形成する多孔質表面層16の歪も大きくなって成形品質に悪影響を及ぼす。発明者がテストした結果、多孔質表面層16の歪を従来の懸垂碍子成形型以下とするためには、凹溝の幅は90mm以下とすることが好ましく、70mm以下とすることが更に好ましい。
【0023】
このように構成された本発明の懸垂碍子成形型は、従来と同様に坏土をプレスして懸垂碍子を成形するために使用されるものであり、成形面17は緻密な多孔質表面層16によって形成されているので、成形体Wの表面は滑らかであり、坏土が目詰まりすることもない。また多孔質表面層16は機械的強度と通気性とを兼ね備えた通気性構造部材12によって支持されているので、プレスの圧力によって歪むこともない。
【0024】
プレス成形後、成形体Wを懸垂碍子成形型から取り出す際には、空気供給パイプ15から離型用空気を供給する。離型用空気は直線状凹溝14を通じてリング状凹溝13に入り、その周囲の通気性構造部材12及び多孔質表面層16を通過して成形面17から噴出する。これによって成形面17と成形体との間に空気層が形成され、成形体Wを容易に取り出すことが可能となる。このため本発明の懸垂碍子成形型を用いれば、離型ピッチを短縮し、生産性を向上させることができる。
【0025】
しかも本発明においては、離型用空気の通気溝となる凹溝を通気性構造部材12と金属製型枠10との間に形成したのでその位置を正確に決定することができ、従来の多孔チューブ4のように通気部材の位置がばらつくことはない。従って本発明の懸垂碍子成形型は、成形体Wを変形させることなくより多くの離型用空気を供給することが可能となる。よって従来よりも離型ピッチを短縮することができる。
【0026】
また、繰り返し使用することによって多孔質表面層16が摩耗した場合には、多孔質表面層16のみを通気性構造部材12の内面から取り除いて補修すればよいため、補修に必要な材料は従来よりも大幅に減少し、補修コストを引き下げることができる。
【0027】
以上に説明したように、本発明の懸垂碍子成形型は、成形面が摩耗したときの補修コストを低減することができ、また成形品質を低下させることなく、離型ピッチを短縮することができる利点がある。
【符号の説明】
【0028】
1 金属製型枠
2 通気性石膏
3 成形面
4 多孔チューブ
10 金属製型枠
11 貫通孔
12 通気性構造部材
13 リング状凹溝
14 直線状凹溝
15 空気供給パイプ
16 多孔質表面層
17 成形面
W 成形体
W1 笠
W2 頭部
図1
図2
図3
図4
図5