【文献】
藤田 玲子,ImPACTにおける長半減期FP核変換技術開発,[オンライン],2014年 8月20日,p.1-15,[検索日 2016.05.30],URL,http:www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/070/shiro/_icsFiles/afieldfile/2014/09/11/1351595_1.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に示すように、実施形態に係る放射性廃棄物の処理方法は、放射性廃棄物から核分裂生成物のうち放射性核種を含み原子番号が共通する同位体元素の群を分離抽出する工程(S11)と、加速器により生成した高エネルギー粒子を前記同位体元素の群に照射して前記放射性核種のうち長寿命放射性核種
又は中寿命放射性核種を半減期の短い短寿命放射性核種又は安定核種に核変換させる工程(S13)と、を含んでいる。
さらに、分離抽出の工程(S11)の後、核変換の工程(S13)前に、濃縮効果の偶奇性に基づいて、前記同位体元素の群を、中性子数が奇数の同位体群及び中性子数が偶数の同位体群のいずれか一方に濃縮する工程(S12)を含んでいる。
【0016】
本実施形態で適用対象となる放射性廃棄物は、核分裂生成物(FP:Fission Products)を含むものを想定している。この核分裂生成物(FP)とは、ウランU−235やプルトニウムPu−239等の核分裂性核種が核分裂して、二つ以上に分離した核種を指す。
ウランU−235の核分裂生成物(FP)の元素の種類は、ニッケル(原子番号28)からジスプロシウム(原子番号66)までの約40種類である。
そして、ウランU−235の核分裂生成物(FP)の質量数に対する収率分布は、72から160の範囲にわたり、質量数90及び140付近に極大値をもつダブルピーク形状をなしている。
【0017】
このように核分裂生成物(FP)は、同位体を区別すると数百種類にわたり、さらにこれらは安定核種と放射性核種とに分類され、このうち放射性核種は原子核崩壊により、より安定な核種に変化する。
原子核崩壊の半減期の短い放射性核種(短寿命放射性核種)は、短時間に多量の放射線を放つが、時間経過とともに放射能が急速に減衰するため、所定期間の保管により無害化することができる。
【0018】
一方で、半減期の長い放射性核種(長寿命放射性核種)は、放射線量が少ないが減衰速度が遅いために、大量に所持している場合は半永久的な管理が必要になる。
このために、長寿命放射性核種を、短寿命放射性核種又は安定核種に核変換することができれば、放射性廃棄物の管理負担を軽減することができる。
【0019】
核分裂生成物(FP)に含まれる主要な長寿命放射性核種(カッコ内は半減期)としては、セレンSe−79(2.95×10
5年)、パラジウムPd−107(6.5×10
6年)、ジルコニウムZr−93(1.5×10
6年)、セシウムCs−135(2.3×10
6年)、ヨウ素I−129(1.57×10
7年)、テクネチウムTc−99(2.1×10
5年)、スズSn−126(2.3×10
5年)が挙げられる。
このうち、ヨウ素I−129(1.57×10
7年)及びテクネチウムTc−99(2.1×10
5年)については、中性子捕獲反応(n,γ)で効率的に短寿命化させる報告例がある。このため、本実施形態においてヨウ素I−129及びテクネチウムTc−99を検討から外しているが、本発明を適用することもできる。
【0020】
なお、本実施形態において、半減期が10
10年以上の放射性核種は、準安定核種とみなし、処理対象から外している。
また、上述した長寿命放射性核種以外であっても、半減期が10年を超える主要な核分裂生成物(FP)であるストロンチウムSr−90(28.8年)、クリプトンKr−85(10.8年)、サマリウムSm−151(90年)
等の中寿命放射性核種についても、さらなる短寿命化をめざし処理対象に含めて検討を行った。
【0021】
図1の分離抽出工程(S11)では、複数の核種が混在している放射性廃棄物から、着目した長寿命放射性核種を含む同位体元素の群を分離抽出する工程である。つまり、注目する長寿命放射性核種と同じ原子番号(陽子数)Zを有し、質量数(陽子数+中性子数)Aの異なる元素の群が抽出される。
【0022】
このような同位体元素群の分離抽出方法は、一般的な元素分離方法を適用することができ、例えば、電解法、溶媒抽出法、イオン交換法、沈殿法、および乾式法もしくは、これらの組合せが挙げられる。また、ガラス固化体が対象の場合、分離抽出の前工程でガラス固化体の溶解もしくは分解が必要であるが、一般的な溶解/分解法が適用でき、例えば、アルカリ融解法、溶融塩法(電解還元、化学還元)、高温融解法、ハロゲン化法、酸溶解法、アルカリ溶解法が挙げられる。ガラス固化体が溶解もしくは分解した後は、前記の一般的な元素分離方法を適用することができる。
【0023】
図1の偶奇濃縮工程(S12)は、分離抽出工程(S11)を経た後の同位体元素群に対し、濃縮効果の偶奇性に基づいて、中性子数が奇数の同位体群及び中性子数が偶数の同位体群のいずれか一方に濃縮する処理を実施する工程である。
この偶奇濃縮工程(S12)を経ることにより、後段の核変換処理工程(S13)が効率化する。このため、この偶奇濃縮工程(S12)は、必須の工程ではなく、トータルコストを勘案し、実施しない場合もある。
【0024】
一般に、同位体分離は、同位体の蒸気圧等、微少な物性差、質量差を利用して行われる。ところで、原子スペクトル線の振動数が同位体によってわずかにずれ、奇数核と偶数核においてそれぞれ光の偏光に対する光学遷移の選択則が異なるという、アイソトープシフト現象が知られている。
この現象を利用して、(S11)で分離抽出した同位体元素群を、(S12)で中性子数が奇数の同位体群及び中性子数が偶数の同位体群のいずれか一方に濃縮させることができる。
【0025】
このような、偶奇濃縮工程(S12)として、左右円偏光レーザーによる電子励起過程における遷移選択則が、陽子数が偶数の場合、核スピン0である偶々核と偶奇核で異なるという性質の利用が考えられる。
具体的には、偏光を制御したレーザーを照射して、奇数核種のみをイオン化させることができる。なお、偶奇濃縮工程(S12)に適用される方法に特に限定はない。
【0026】
図1の核変換処理工程(S13)について、以下、照射する高エネルギー粒子の種類、及び分離抽出された同位体元素群の種類毎に分けて説明する。
【0027】
(二次中性子放出反応;(n,xn)反応(x≧2))
最初に、同位体元素群に照射する高エネルギー粒子が、中性子(n)である場合について説明する。中性子は、原子核の電荷によるクーロン力を受けないので、原子核に入射して原子核反応を起こさせやすい。
一般に、小さいエネルギーの中性子が原子核に入射する場合、入射前後の運動エネルギーの和が保存される弾性散乱((n,n)反応)が支配的である、しかし、中性子のエネルギーが大きくなり数100keVを超えると、入射前後の運動エネルギーの和が保存されない非弾性散乱が生じ始める。
【0028】
そして、中性子のエネルギーが、MeV以上となると(n,p)反応や(n,α)反応といった荷電粒子が放出される反応が起こり、7〜8MeVから(n,2n)反応が起こり2次中性子を放出するようになる。そして、さらに中性子のエネルギーが大きくなると(n,3n)反応が起きる。
ここで、(n,2n)反応とは、原子核に一個の中性子が入射すると、この原子核から中性子が二個放出される反応であり、(n,3n)反応とは、原子核に一個の中性子が入射すると、この原子核から中性子が三個放出される反応である。
【0029】
ところで、原子核に入射した一次中性子が二次中性子を分離放出させるエネルギーの大きさは、中性子数の偶奇性に依存した傾向を示す。一般に陽子が偶数個の原子核では、奇数個の中性子を有する原子核から一つの中性子を取る方が、偶数個の場合よりも、小さなエネルギーですむ。
以下、中性子の照射エネルギーを適切に設定することにより、同位体元素の中性子分離エネルギーの偶奇性に基づき、長寿命放射性核種
又は中寿命放射性核種を選択的に短寿命放射性核種又は安定核種に核変換できることを、処理対象となる同位体元素群の種類毎に説明する。
【0030】
図2(A)は、中性子の照射エネルギーに対するセレン同位体(Se)の中性子放出反応断面積を示すグラフを示している。
図2(B)は、臭素Br、セレンSe、ヒ素Asの主要な同位体元素群を示す核図表である。
Se同位体元素群は、一定期間の放置及び分離抽出工程(
図1;S11)の過程において、安定核種であるSe−74,76,77,78,80,82及び長寿命放射性核種であるSe−79(半減期2.95×10
5年)のみが残存し、その他の同位体は核崩壊によりほぼ消滅している。
このSe同位体元素群のうち消滅対象は、長寿命放射性核種のSe−79である。
【0031】
図2(A)に示すように、中性子の照射エネルギーを大きくしていくと、7MeVを超えたところから中性子を奇数持つSe−77及びSe−79の(n,2n)反応断面積が増大し始め、各々は中性子を一つ減らしてSe−76及びSe−78にそれぞれ核変換される。
さらに中性子の照射エネルギーを大きくしていくと、10MeVを超えたところから中性子を偶数持つSe−76、Se−78及びSe−80の(n,2n)反応断面積が増大し始め、各々はSe−75、Se−77及びSe−79に核変換されてしまう。そして、このSe同位体の(n,2n)反応断面積は、14MeVを超えたあたりで一定値となる。
さらに中性子の照射エネルギーを大きくしていくと、18MeVを超えたところから(n,3n)反応断面積が増大し始める。
【0032】
図2(B)に示されるSe同位体元素群の核変換のなかで不都合な副次的な(n,2n)反応は、安定核種のSe−80が長寿命放射性核種のSe−79に核変換されることである。なお、安定核種のSe−82が短寿命放射性核種のSe−81に核変換されることは、このSe−81が短期間でBr81(安定核種)に核崩壊するために許容される。
そこで、Se同位体元素群のうち長寿命放射性核種であるSe−79のみを、選択的に消滅させるために、中性子の照射エネルギーの値は、Se−79の(n,2n)反応断面積がSe−80の(n,2n)反応断面積よりも10倍以上大きくなる範囲内、具体的には7.5MeV〜10.3MeVの範囲内に設定されることが望まれる。
なお、この範囲に中性子の照射エネルギーが設定された場合、安定核種であるSe−77も(n,2n)反応するが、安定核種のSe−76に核変換されるので問題ない。
【0033】
図3(A)は、中性子の照射エネルギーに対するパラジウム同位体(Pd)の中性子放出反応断面積を示すグラフを示している。
図3(B)は、銀Ag、パラジウムPd、ロジウムRhの主要な同位体元素群を示す核図表である。
Pd同位体元素群は、一定期間の放置及び分離抽出工程(
図1;S11)の過程において、安定核種であるPd−102,104,105,106,108,110及び長寿命放射性核種であるPd−107(半減期6.5×10
6年)のみが残存し、その他の同位体は核崩壊によりほぼ消滅している。
このPd同位体元素群のうち消滅対象は、長寿命放射性核種のPd−107である。
【0034】
図3(A)に示すように、中性子の照射エネルギーを大きくしていくと、7MeVの近傍から中性子を奇数持つPd−105及びPd−107の(n,2n)反応断面積が増大し始め、各々は中性子を一つ減らしてPd−104及びPd−106にそれぞれ核変換される。
さらに中性子の照射エネルギーを大きくしていくと、9MeVを超えたところから中性子を偶数持つPd−102,104,106,108,110の(n,2n)反応断面積が増大し始め、各々はPd−101,103,105,107,109に核変換されてしまう。そして、Pd同位体の(n,2n)反応断面積は、11MeVを超えたあたりで一定値となる。
さらに中性子の照射エネルギーを大きくしていくと、16MeVを超えたところから(n,3n)反応断面積が増大し始める。
【0035】
図3(B)に示されるPd同位体元素群の核変換のなかで不都合な副次的な(n,2n)反応は、安定核種のPd−108が長寿命放射性核種のPd−107に核変換されることである。
そこで、Pd同位体元素群のうち長寿命放射性核種であるPd−107のみを、選択的に消滅させるために、中性子の照射エネルギーの値は、Pd−107の(n,2n)反応断面積が、Pd−108の(n,2n)反応断面積よりも10倍以上大きくなる範囲内、具体的には7MeV〜9.5MeVの範囲内に設定されることが望まれる。
【0036】
なお、この範囲に中性子の照射エネルギーが設定された場合、安定核種であるPd−110が(n,2n)反応により短寿命放射性核種であるPd−109(半減期13.7時間)に核変換されてしまう。しかしこのことは、このPd−109が、さらに安定核であるAg109に核崩壊するために許容される。
また、安定核種であるPd−105も(n,2n)反応するが、安定核種のPd−104に核変換されるので問題ない。
【0037】
図4(A)は、中性子の照射エネルギーに対するジルコニウム同位体(Zr)の中性子放出反応断面積を示すグラフを示している。
図4(B)は、モリブデンMo、ニオブNb、ジルコニウムZrの主要な同位体元素群を示す核図表である。
Zr同位体元素群は、一定期間の放置及び分離抽出工程(
図1;S11)の過程において、安定核種であるZr−90,91,92,94,96及び長寿命放射性核種であるZr−93(半減期1.5×10
6年)のみが残存し、その他の同位体は核崩壊によりほぼ消滅している。
このZr同位体元素群のうち消滅対象は、長寿命放射性核種のZr−93である。
【0038】
図4(A)に示すように、中性子の照射エネルギーを大きくしていくと、7MeVの近傍から中性子を奇数持つZr−91,93,95の(n,2n)反応断面積が増大し始め、各々は中性子を一つ減らしてZr−90,92,94にそれぞれ核変換される。
さらに中性子の照射エネルギーを大きくしていくと、8MeVの近傍から中性子を偶数持つZr−92,94,96の(n,2n)反応断面積が増大し始め、各々はZr−91,93,95に核変換されてしまう。
さらに中性子の照射エネルギーを大きくしていくと、15MeVを超えたところから(n,3n)反応断面積が増大し始める。
【0039】
図4(B)に示されるZr同位体元素群の核変換のなかで不都合な副次的な(n,2n)反応は、安定核種のZr−94が長寿命放射性核種のZr−93に核変換されることである。
そこで、Zr同位体元素群のうち長寿命放射性核種であるZr−93のみを、選択的に消滅させるために、中性子の照射エネルギーの値は、Zr−93の(n,2n)反応断面積が、Zr−94の(n,2n)反応断面積よりも10倍以上大きくなる範囲内、具体的には7.2MeV〜8.7MeVの範囲内に設定されることが望まれる。
【0040】
なお、この範囲に中性子の照射エネルギーが設定された場合、安定核種であるZr−96が、(n,2n)反応により短寿命放射性核種であるZr−95(半減期64.0日)に核変換されてしまう。しかし、このことは、Zr−95が、短寿命放射性核種であるNb−95(半減期35.0日)に核崩壊し、さらに安定核であるMo95に核崩壊するために許容される。
また、安定核種であるZr−91も(n,2n)反応するが、安定核種のZr−90に核変換されるので問題ない。
【0041】
図5(A)は、中性子の照射エネルギーに対するクリプトン同位体(Kr)の中性子放出反応断面積を示すグラフを示している。図
5(B)は、ルビジウム(Rb)、クリプトンKr、臭素Brの主要な同位体元素群を示す核図表である。
Kr同位体元素群は、一定期間の放置及び分離抽出工程(
図1;S11)の過程において、安定核種であるKr−78,80,82,83,84,86、長寿命放射性核種であるKr−81(半減期2.3×10
5年)及び中寿命放射性核種であるKr−85(半減期10.8年)のみが残存し、その他の同位体は核崩壊によりほぼ消滅している。
このKr同位体元素群のうち消滅対象は、中寿命放射性核種のKr−
85である。
なお、放射性廃棄物に含まれるKr同位体元素群のうちKr−81(半減期2.29×10
5年)は、存在量が微量であるために、検討から外す。
【0042】
図5(A)に示すように、中性子の照射エネルギーを大きくしていくと、7.5MeVを超えたところから中性子を奇数持つKr−85及びKr−83の(n,2n)反応断面積が増大し始め、各々は中性子を一つ減らしてKr−84及びKr−82にそれぞれ核変換される。
さらに中性子の照射エネルギーを大きくしていくと、9.8MeVを超えたところから中性子を偶数持つKr−86、Kr−84及びKr−82の(n,2n)反応断面積が増大し始め、各々はKr−85、Kr−83及びKr−81に核変換されてしまう。そして、このKr同位体の(n,2n)反応断面積は、14MeVを超えたあたりで一定値となる。
さらに中性子の照射エネルギーを大きくしていくと、18.5MeVを超えたところから(n,3n)反応断面積が増大し始める。
【0043】
図5(B)に示されるKr同位体元素群の核変換のなかで不都合な副次的な(n,2n)反応は、安定核種のKr−86が中寿命放射性核種のKr−85に核変換されることである。
そこで、Kr同位体元素群のうち中寿命放射性核種であるKr−85のみを、選択的に消滅させるために、中性子の照射エネルギーの値は、Kr−85の(n,2n)反応断面積がKr−86の(n,2n)反応断面積よりも10倍以上大きくなる範囲内、具体的には7.5MeV〜10MeVの範囲内に設定されることが望まれる。
なお、この範囲に中性子の照射エネルギーが設定された場合、安定核種であるKr−83も(n,2n)反応するが、安定核種のKr−82に核変換されるので問題ない。
【0044】
図6(A)は、中性子の照射エネルギーに対するサマリウム同位体(Sm)の中性子放出反応断面積を示すグラフを示している。図
6(B)は、ユーロピウム(Eu)、サマリウムSm、プロメチウム(Pm)の主要な同位体元素群を示す核図表である。
Sm同位体元素群は、一定期間の放置及び分離抽出工程(
図1;S11)の過程において、安定核種であるSm−150,152,154、準安定核種であるSm−148,149及び中寿命放射性核種であるSm−151(半減期90年)のみが残存し、その他の同位体は核崩壊によりほぼ消滅している。
このSm同位体元素群のうち消滅対象は、中寿命放射性核種のSm−151である。
なお、放射性廃棄物に含まれるSm同位体元素群のうちSm−146(半減期1.03×10
8年)及びSm−147(半減期1.06×10
11年)は、存在量が微量であるために、検討から外す。
【0045】
図6(A)に示すように、中性子の照射エネルギーを大きくしていくと、5.8MeVを超えたところから中性子を奇数持つSm−151及びSm−149の(n,2n)反応断面積が増大し始め、各々は中性子を一つ減らしてSm−150及びSm−148にそれぞれ核変換される。
さらに中性子の照射エネルギーを大きくしていくと、8MeVを超えたところから中性子を偶数持つSm−148、Sm−150、Sm−152及びSm−154の(n,2n)反応断面積が増大し始め、各々はSm−147、Sm−149、Sm−151及びSm−153に核変換されてしまう。そして、このSm同位体の(n,2n)反応断面積は、11MeVを超えたあたりで一定値となる。
さらに中性子の照射エネルギーを大きくしていくと、14.3MeVを超えたところから(n,3n)反応断面積が増大し始める。
【0046】
図6(B)に示されるSm同位体元素群の核変換のなかで不都合な副次的な(n,2n)反応は、安定核種のSm−152が中寿命放射性核種のSm−151に核変換されることである。
そこで、Sm同位体元素群のうち中寿命放射性核種であるSm−151のみを、選択的に消滅させるために、中性子の照射エネルギーの値は、Sm−151の(n,2n)反応断面積がSm−152の(n,2n)反応断面積よりも10倍以上大きくなる範囲内、具体的には5.8MeV〜8.3MeVの範囲内に設定されることが望まれる。
【0047】
なお、この範囲に中性子の照射エネルギーが設定された場合、準安定核種であるSm−148,149も(n,2n)反応するが、それぞれ同じ準安定核種のSm−147,148に核変換されるので問題ない。
同様に、安定核種であるSm−150も(n,2n)反応するが、準安定核種のSm−148に核変換されるので問題ない。
同様に、安定核種であるSm−154も(n,2n)反応するが、短寿命放射性核種であるSm−153に核変換されたのち短期間で安定核種のEu−153にβ
-崩壊するので問題ない。
【0048】
図7(A)は、中性子の照射エネルギーに対するセシウム同位体(Cs)の中性子放出反応断面積を示すグラフを示している。
図7(B)は、バリウムBa、セシウムCs、キセノンXeの主要な同位体元素群を示す核図表である。
Cs同位体元素群は、一定期間の放置及び分離抽出工程(
図1;S11)の過程において、安定核種であるCs−133、中寿命放射性核種であるCs−134(半減期2.07年)、長寿命放射性核種であるCs−135(半減期2.3×10
6年)及び中寿命放射性核種であるCs−137(半減期30.07年)のみが残存し、その他の同位体は核崩壊によりほぼ消滅している。
このCs同位体元素群のうち消滅対象は、長寿命放射性核種であるCs−135及び中寿命放射性核種であるCs−137である。
Csが、これまで説明したSe,Pd,Zrと異なる点は、長寿命放射性核種であるCs−135の中性子数が偶数個であるため、この長寿命放射性核種を(n,2n)反応させるのに必要なエネルギーが、中性子数が奇数個の同位体核種よりも、大きい点にある。
【0049】
図7(A)に示すように、中性子の照射エネルギーを大きくしていくと、7MeVの近傍からCsの(n,2n)反応断面積が増大し始め、Cs−133,134,135,137の各々は、中性子を一つ減らしてCs−132,133,134,136にそれぞれ核変換される。そして、Csの(n,2n)反応断面積は、11MeVを超えたあたりで一定値となる。
さらに中性子の照射エネルギーを大きくしていくと、16MeVを超えたところから(n,3n)反応断面積が増大し始める。
【0050】
図7(B)に示すように、Cs−133は(n,2n)反応で核変換し、短寿命放射性核種のCs−132(半減期6.48日)となり、このCs−132は核崩壊(β
+崩壊)して安定核種であるXe−132となる。
そして、Cs−134は(n,2n)反応で核変換して安定核種であるCs−133となる。Cs−135は(n,2n)反応で核変換し、中寿命放射性核種のCs−134(半減期2.07年)となり、このCs−134は核崩壊(β
-崩壊)して安定核種であるBa−134となる。Cs−137は(n,2n)反応で核変換し、短寿命放射性核種のCs−136(半減期13.2日)となり、このCs−136は核崩壊(β
-崩壊)して安定核種であるBa−136となる。
【0051】
Cs同位体元素群の核変換のなかで不都合な副次的な(n,xn)反応は、中寿命放射性核種のCs−137が(n,3n)反応して長寿命放射性核種のCs−135に核変換されることである。
そこで、Cs同位体元素群のうち長寿命放射性核種であるCs−135又は中寿命放射性核種であるCs−137を、選択的に消滅させるために、中性子の照射エネルギーの値は、Cs−137の(n,2n)反応断面積が、Cs−137の(n,3n)反応断面積よりも100倍以上大きくなる範囲内、具体的には8.5MeV〜16.2MeVの範囲内に設定されることが望まれる。
【0052】
なお、この範囲に中性子の照射エネルギーが設定された場合、Cs−137から(n,2n)反応により核変換されたCs−136は、さらに中性子が照射されると(n,2n)反応して長寿命放射性核種のCs−135に核変換されてしまうことが懸念される。
【0053】
そこで、Cs同位体元素群の処理について
図8に示すようなフローを検討する。
放射性廃棄物を所定期間放置して含まれている短寿命放射性核種を原子核崩壊させる(S21)。その後、放射性廃棄物からCs同位体元素群を分離抽出し(S22)、中性子を照射して(n,2n)反応を起こさせる(S23)。
この(S23)の工程において、Cs−137から核変換されたCs−136が、さらに核変換して長寿命放射性核種のCs−135が生成される場合がある。
【0054】
そこで、再び所定期間放置により、Cs−136等の短寿命放射性核種を、原子核崩壊により消滅させる(S24)。そして、この原子核崩壊により生成した、Cs以外の元素の安定同位体が、抽出される(S25)。
このCs以外の元素の安定同位体の抽出工程(S25)は、次の中性子照射工程(S23)で、不都合な副次反応を排除する目的の他に、有用な同位体元素を取得する目的もある。
例えば、Cs−133から、Cs−132を介し、複数の安定同位体の中からXe−132を、単離することができる。
【0055】
Cs−137が存在している限り、(n,2n)反応により核変換されたCs−136の一定割合が、長寿命放射性核種であるCs−135に核変換されてしまうことは避けられない(S26 Yes)。
そこで、(S23)〜(S26 Yes)のフローを繰り返すことにより、Cs−137を消滅させ、さらに長寿命放射性核種であるCs−135も消滅させることが可能になる(S26 No)。これにより、Cs同位体元素群の無害化が達成される(S27 END)。また、このフローの繰り返しにより、Cs−135が、Cs−133を経て有用元素であるXe−132に核変換されて抽出される。
【0056】
図9(A)は、中性子の照射エネルギーに対するストロンチウム同位体(Sr)の中性子放出反応断面積を示すグラフを示している。
図9(B)は、イットリウムY、ストロンチウムSr、ルビジウムRbの主要な同位体元素群を示す核図表である。
Sr同位体元素群は、一定期間の放置及び分離抽出工程(
図1;S11)の過程において、安定核種であるSr−84,86,87,88、中寿命放射性核種であるSr−90(半減期28.8年)のみが残存し、その他の同位体は核崩壊によりほぼ消滅している。
【0057】
図9(A)に示すように、中性子の照射エネルギーを大きくしていくと、6.8MeVの近傍からSr−89の(n,2n)反応断面積が増大し始め、続いて8.2MeVの近傍からSr−90の(n,2n)反応断面積が増大し始める。
これによりSr−89,90の各々は、中性子を一つ減らしてSr−88,89にそれぞれ核変換される。Sr−90から核変換したSr−89も、さらに(n,2n)反応を起こしてSr−88(安定核種)になる。
【0058】
図9(B)に示すように、Sr−90以外のSr同位体元素は、いずれも安定核種又は短寿命放射性核種である。このために、Sr同位体元素群の全体に(n,2n)反応させても、新たな長寿命及び中寿命の放射性核種を生成させることはない。
このために、Sr−90の消滅は、偶奇濃縮工程(S12)を経ることや、中性子照射エネルギーに偶奇選択性を利用する必要がない。
Sr同位体元素群のうち中寿命放射性核種であるSr−90を、消滅させるために、中性子の照射エネルギーの値は、具体的には8.2MeV以上に設定されればよい。
なお、12MeV以上照射してSr−86(安定核種)がSr−85(半減期64.8日)に核変換しても、このSr−85はβ
+崩壊してRb−85(安定核種)になるので問題はない。
【0059】
図10(A)は、中性子の照射エネルギーに対するスズ同位体(Sn)の中性子放出反応断面積を示すグラフを示している。
図10(B)は、テルルTe、アンチモンSb、スズSnの主要な同位体元素群を示す核図表である。
Sn同位体元素群は、一定期間の放置及び分離抽出工程(
図1;S11)の過程において、安定核種であるSn−112,114,115,116,117,118,119,120,122,124、長寿命放射性核種であるSn−126(半減期1×10
5年)のみが残存し、その他の同位体は核崩壊によりほぼ消滅している。
【0060】
図10(A)に示すように、中性子の照射エネルギーを大きくしていくと、6.8MeVの近傍からSn−119の(n,2n)反応断面積が増大し始め、続いて8.2MeVの近傍からSn−126の(n,2n)反応断面積が増大し始める。
【0061】
図
10(B)に示すように、Sn−126以外のSn同位体元素は、いずれも安定核種又は短命放射性核種である。このために、Sn同位体元素群の全体に(n,2n)反応させても、新たな長寿命及び中寿命の放射性核種を生成させることはない。
このために、Sn−
126の消滅は、偶奇濃縮工程(S12)を経ることや、中性子照射エネルギーに偶奇選択性を利用する必要がない。
Sn同位体元素群のうち長寿命放射性核種であるSn−126を、消滅させるために、中性子の照射エネルギーの値は、具体的には8.2MeV以上に設定されればよい。
なお、8.2MeV以上照射してSnの(安定核種)が核変換しても、さらにβ-崩壊又はβ+崩壊してその他の元素の安定核種になるので問題はない。
【0062】
(中性子ビーム発生装置)
同位体元素の群に(n,2n)反応を生じさせる中性子ビームは、加速器を利用して発生させた二次生成ビームが適用される。
この加速器において、陽子を、目的とする中性子エネルギーより若干高いエネルギーまで加速して、標的に照射し中性子を発生させる。あるいはこの加速器において、重陽子を、目的とする中性子エネルギーの2倍程度の全エネルギーをもつまで加速して、標的に照射し中性子を発生させる。
この標的の構造を工夫して、発生する中性子の強度およびプロファイル(収束の度合い)をコントロールすることにより、ビーム様の中性子束が出力される。
【0063】
(ミューオン原子核捕獲反応)
次に
図11に基づいて、同位体元素群に照射する高エネルギー粒子が、ミューオンμ
-である場合について説明する。なお、ミューオンには、正ミューオンμ
+と負ミューオンμ
-とがあるが、本発明が対象にするのは負ミューオンμ
-であるので、以降におけるミューオンの記載は全て負ミューオンを指すこととする。
元素Xの原子核にミューオンμ
-が捕獲されると、原子核を構成する陽子のうち一つがミューオンμ
-と結びついて中性子に変換され、ニュートリノνを放出する(反応式(1))。そして、陽子数の一つ少ない(Z−1)原子核の元素Yに核変換される。
反応式(2)〜(5)に示すように、この元素Yは励起状態を示し、単数又は複数の中性子nを放出する原子核反応を起こす。
【0064】
(μ
-,ν)反応 :μ
-+X(Z,A) →Y((Z−1),A)+ν (1)
(μ
-,nν)反応 :Y((Z−1),(A))→ n+Y((Z−1),(A−1)) (2)
(μ
-,2nν)反応:Y((Z−1),(A))→2n+Y((Z−1),(A−2)) (3)
(μ
-,3nν)反応:Y((Z−1),(A))→3n+Y((Z−1),(A−3)) (4)
(μ
-,4nν)反応:Y((Z−1),(A))→4n+Y((Z−1),(A−4)) (5)
これら反応式(1)〜(5)を
図11に示すように記号化して各々1〜5のように示す。
【0065】
ミューオン原子核捕獲反応は、元素Xに依存した所定の比率で、複数の反応が同時に発生する。実験例として、ヨウ素I−127では、(μ
-,ν)反応、(μ
-,nν)反応、(μ
-,2nν)反応、(μ
-,3nν)反応、(μ
-,4nν)反応、(μ
-,5nν)反応の発生比率は、それぞれ8%、52%、18%、14%、5%、2.5%であることが判っている。
【0066】
(ミューオンビーム発生装置)
同位体元素の群に(μ
-,xn ν)反応を生じさせるミューオンビームは、次のようにして得られる。すなわち、800MeV程度のエネルギーの陽子ビームを炭素等の標的に照射して負パイオンを生成させる。そして、この生成した負パイオン(寿命:2.6ナノ秒)を崩壊させることにより、負ミューオンビームが得られる。
【0067】
図12は、ミューオン原子核捕獲反応によるセレン同位体(Se)の遷移を説明する核図表である。
Se同位体元素群は、一定期間の放置及び分離抽出工程(
図1;S11)の過程において、安定核種であるSe−74,76,77,78,80,82及び長寿命放射性核種であるSe−79(半減期2.95×10
5年)のみが残存し、その他の同位体は核崩壊によりほぼ消滅している。
【0068】
このSe同位体元素群にミューオンμ
-を照射した際、Se−79に着目すると、
79Se(μ
-,ν)
79As、
79Se(μ
-,n ν)
78As、
79Se(μ
-,2n ν)
77As、
79Se(μ
-,3n ν)
76As、の核変換反応が起きる。
生成したAs−76、As−77、As−78、As−79は、短寿命放射性核種であるために、短期間のうちに核崩壊(β
-崩壊)して、それぞれSe−76、Se−77、Se−78、Se−79になる。
つまり、長寿命放射性核種であるSe−79は、ミューオン原子核捕獲反応による変換核種の一部がSe−79に逆戻りするが、その他はSe安定核種になる。
【0069】
残りのSe−74,76,77,78,80,82のうちSe−80,82についても、ミューオン照射による変換核種の一部が、長寿命放射性核種であるSe−79になる。
このように、Se同位体元素群にミューオンμ
-を照射した場合、変換核種がβ
-崩壊して逆戻りするために、一回の照射でSe−79を消滅させることはできないが減少させることはできる。
【0070】
そこで、偶奇濃縮工程(
図1;S12)を経由させて、Se同位体元素の群のうち中性子数が奇数であるSe−77,79を濃縮することを検討する。
Se−77(安定核種)からの変換核種のうち、As−77はβ
-崩壊によりSe−77に逆戻りし、As−76はβ
-崩壊によりSe−76(安定核種)となり、As−75は安定核種として存在し、As−74はβ
-崩壊によるSe−74(安定核種)及びβ
+崩壊によるGe−74(安定核種)になる。
Se−79のAs変換核種の一部からSe−79への逆戻りは避けられないが、Se−77のAs変換核種からSe−79への逆戻りは無いために、一回のミューオン照射でSe−79を効率的に減少させることができる。
【0071】
図13は、ミューオン原子核捕獲反応によるパラジウム同位体(Pd)の遷移を説明する核図表である。
Pd同位体元素群は、一定期間の放置及び分離抽出工程(
図1;S11)の過程において、安定核種であるPd−102,104,105,106,108,110及び長寿命放射性核種であるPd−107(半減期6.5×10
6年)のみが残存し、その他の同位体は核崩壊によりほぼ消滅している。
【0072】
このPd同位体元素群にミューオンμ
-を照射した際、Pd−107に着目すると、
107Pd(μ
-,ν)
107Rh、
107Pd(μ
-,n ν)
106Rh、
107Pd(μ
-,2n ν)
105Rh、
107Pd(μ
-,3n ν)
104Rh、の核変換反応が起きる。
生成したRh−104、Rh−105、Rh−106、Rh−107は、短寿命放射性核種であるために、短期間のうちに核崩壊(β
-崩壊)して、それぞれPd−104、Pd−105、Pd−106、Pd−107になる。
つまり、長寿命放射性核種であるPd−107は、ミューオン原子核捕獲反応による変換核種の一部がPd−107に逆戻りするが、その他はPd安定核種になる。
【0073】
残りのPd−102,104,105,106,108,110のうちPd−108,110についても、ミューオン照射による変換核種の一部が、長寿命放射性核種であるPd−107になる。
このように、Pd同位体元素群にミューオンμ
-を照射した場合、変換核種がβ
-崩壊して逆戻りするために、一回の照射でPd−107を消滅させることはできないが減少させることはできる。
【0074】
そこで、偶奇濃縮工程(
図1;S12)を経由させて、Pd同位体元素の群のうち中性子数が奇数であるPd−105,107を濃縮することを検討する。
Pd−105(安定核種)から核変換した核種のうち、Rh−105はβ
-崩壊によりPd−105に逆戻りし、Rh−104はβ
-崩壊によりPd−104(安定核種)及びβ
+崩壊によるRu−104(安定核種)となり、Rh−103は安定核種として存在し、Rh−102はβ
-崩壊によるPd−102(安定核種)及びβ
+崩壊によるRu−102(安定核種)になる。
Pd−107のRh変換核種の一部からPd−107への逆戻りは避けられないが、Pd−105のRh変換核種からPd−107への逆戻りは無いために、一回のミューオン照射でPd−107を効率的に減少させることができる。
【0075】
図14は、ミューオン原子核捕獲反応によるストロンチウム同位体(Sr)の遷移を説明する核図表である。
Sr同位体元素群は、一定期間の放置及び分離抽出工程(
図1;S11)の過程において、安定核種であるSr−84,86,87,88、中寿命放射性核種であるSr−90(半減期28.8年)のみが残存し、その他の同位体は核崩壊によりほぼ消滅している。
【0076】
このSr同位体元素群にミューオンμ
-を照射した際、Sr−90に着目すると、
90Sr(μ
-,ν)
90Rb、
90Sr(μ
-,n ν)
89Rb、
90Sr(μ
-,2n ν)
88Rb、
90Sr(μ
-,3n ν)
87Rb、の核変換反応が起きる。
生成したRb−87は準安定核種であり、Rb−88、Rb−89、Rb−90は、短寿命放射性核種であるために、短期間のうちに核崩壊(β
-崩壊)して、それぞれSr−88、Sr−89、Sr−90になる。Sr−89はさらにβ
-崩壊して安定核種であるY−89となる。
つまり、中寿命放射性核種であるSr−90は、ミューオン原子核捕獲反応による変換核種の一部がSr−90に逆戻りするが、その他はSr安定核種、Y安定核種又はRb準安定核種になる。
残りのSr−84,86,87,88についても、ミューオン照射により、最終的には安定核種又は準安定核種になる。
【0077】
図15は、ミューオン原子核捕獲反応によるジルコニウム同位体(Zr)の遷移を説明する核図表である。
Zr同位体元素群は、一定期間の放置及び分離抽出工程(
図1;S11)の過程において、安定核種であるZr−90,91,92,94,96及び長寿命放射性核種であるZr−93(半減期1.5×10
6年)のみが残存し、その他の同位体は核崩壊によりほぼ消滅している。
【0078】
このZr同位体元素群にミューオンμ
-を照射した際、Zr−93に着目すると、
93Zr(μ
-,ν)
93Y、
93Zr(μ
-,n ν)
92Y、
93Zr(μ
-,2n ν)
91Y、
93Zr(μ
-,3n ν)
90Y、の核変換反応が起きる。
生成したY−90、Y−91、Y−92、Y−93は、短寿命放射性核種であるために、短期間のうちに核崩壊(β
-崩壊)して、それぞれZr−90、Zr−91、Zr−92、Zr−93になる。
つまり、長寿命放射性核種であるZr−93は、ミューオン原子核捕獲反応による変換核種の一部がZr−93に逆戻りするが、その他はZr安定核種になる。
【0079】
残りのZr−90,91,92,94,96のうちZr−94,96についても、ミューオン照射による変換核種の一部が、長寿命放射性核種であるZr−93になる。
このように、Zr同位体元素群にミューオンμ
-を照射した場合、変換核種がβ
-崩壊して逆戻りするために、一回の照射でZr−93を消滅させることはできないが減少させることはできる。
【0080】
そこで、偶奇濃縮工程(
図1;S12)を経由させて、Zr同位体元素の群のうち中性子数が奇数であるZr−91,93を濃縮することを検討する。
Zr−91(安定核種)からの変換核種のうち、Y−90,91はβ
-崩壊によりZr−90,91(安定核種)となり、Y−89は安定核種として存在し、Y−88はβ
+崩壊によるSr−88(安定核種)になる。
Zr−93のY変換核種の一部からZr−93への逆戻りは避けられないが、Zr−91のAs変換核種からZr−93への逆戻りは無いために、一回のミューオン照射でZr−93を効率的に減少させることができる。
【0081】
図16は、ミューオン原子核捕獲反応によるセシウム同位体(Cs)の遷移を説明する核図表である。
Cs同位体元素群は、一定期間の放置及び分離抽出工程(
図1;S11)の過程において、安定核種であるCs−133、中寿命放射性核種であるCs−134(半減期2.07年)、長寿命放射性核種であるCs−135(半減期2.3×10
6年)及び中寿命放射性核種であるCs−137(半減期30.07年)のみが残存し、その他の同位体は核崩壊によりほぼ消滅している。
【0082】
このCs同位体元素群にミューオンμ
-を照射した際、Cs−137に着目すると、
137Cs(μ
-,ν)
137Xe、
137Cs(μ
-,n ν)
136Xe、
137Cs(μ
-,2n ν)
135Xe、
137Cs(μ
-,3n ν)
134Xe、の核変換反応が起きる。また、Cs−135に着目すると、
135Cs(μ
-,ν)
135Xe、
135Cs(μ
-,n ν)
134Xe、
135Cs(μ
-,2n ν)
133Xe、
135Cs(μ
-,3n ν)
132Xe、の核変換反応が起きる。
生成したXe−137、Xe−135は、短寿命放射性核種であるために、短期間のうちに核崩壊(β
-崩壊)して、それぞれCs−137、Cs−135になる。
つまり、長寿命放射性核種であるCs−137,135は、ミューオン原子核捕獲反応による変換核種の一部がCs−137,135に逆戻りするが、その他は最終的には安定核種になる。
【0083】
図17は、ミューオン原子核捕獲反応によるスズ同位体(Sn)の遷移を説明する核図表である。
Sn同位体元素群は、一定期間の放置及び分離抽出工程(
図1;S11)の過程において、安定核種であるSn−112,114,115,116,117,118,119,120,122,124、長寿命放射性核種であるSn−126(半減期1×10
5年)のみが残存し、その他の同位体は核崩壊によりほぼ消滅している。
【0084】
このSn同位体元素群にミューオンμ
-を照射した際、Sn−126に着目すると、
126Sn(μ
-,ν)
126In、
126Sn(μ
-,n ν)
125In、
126Sn(μ
-,2n ν)
124In、
126Sn(μ
-,3n ν)
123In、の核変換反応が起きる。
生成したIn−123,124,125,126は、短寿命放射性核種であるために、短期間のうちに核崩壊(β
-崩壊)して、それぞれSn−123,124,125,126になる。
つまり、長寿命放射性核種であるSn−126は、ミューオン原子核捕獲反応による変換核種の一部がSn−126に逆戻りするが、その他は最終的には安定核種になる。
残りのSn−112,114,115,116,117,118,119,120,122,124についても、ミューオン照射により、最終的には安定核種になる。
【0085】
図18は、ミューオン原子核捕獲反応によるサマリウム同位体(Sm)の遷移を説明する核図表である。
Sm同位体元素群は、一定期間の放置及び分離抽出工程(
図1;S11)の過程において、安定核種であるSm−150,152,154、準安定核種であるSm−147,148,149、長寿命放射性核種であるSm−146(半減期1×10
8年)及び中寿命放射性核種であるSm−151(半減期90年)のみが残存し、その他の同位体は核崩壊によりほぼ消滅している。
【0086】
このSm同位体元素群にミューオンμ
-を照射した際、Sm−151に着目すると、
151Sm(μ
-,ν)
151Pm、
151Sm(μ
-,n ν)
150Pm、
126Sm(μ
-,2n ν)
149Pm、
126Sm(μ
-,3n ν)
148Pm、の核変換反応が起きる。
生成したPm−148,149,150,151は、短寿命放射性核種であるために、短期間のうちに核崩壊(β
-崩壊)して、それぞれSm−148,149,150,151になる。
つまり、長寿命放射性核種であるSm−151は、ミューオン原子核捕獲反応による変換核種の一部がSm−151に逆戻りするが、その他は最終的には安定核種になる。
【0087】
残りのSm−146,147,148,149,150,152,154のうちSm−150,152についても、ミューオン照射による変換核種の一部が、中寿命放射性核種であるSm−151になる。
このように、Sm同位体元素群にミューオンμ
-を照射した場合、変換核種がβ
-崩壊して逆戻りするために、一回の照射でSm−151を消滅させることはできないが減少させることはできる。
【0088】
そこで、偶奇濃縮工程(
図1;S12)を経由させて、Sm同位体元素の群のうち中性子数が奇数であるSm−151,149,147を濃縮することを検討する。
Sm−151のPm変換核種の一部からSm−151への逆戻りは避けられないが、Sm−149のPm変換核種からSm−151への逆戻りは無いために、一回のミューオン照射でSm−151を効率的に減少させることができる。
また、Sm−147(準安定核)の変換核種Pm−147は、β
-崩壊してSm−147に逆戻りし、その他の変換核種Pm−144,145,146は、β
+崩壊してNdの安定核種又は準安定核種に変換される。
【0089】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の放射性廃棄物の処理方法によれば、同位体元素の群を分離抽出したうえで高エネルギー粒子を前記同位体元素の群に照射することにより、核分裂生成物の中か
ら放射性核種のみを選択的に
安定核種に核変換させることが可能となる。
この放射性廃棄物の処理方法によれば、同位体分離が不要であり、長寿命放射性核種
等から核変換された安定核種を資源として再利用することができる。
【0090】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。