特許第6106989号(P6106989)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6106989
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】マルチトラックレコーダ
(51)【国際特許分類】
   G11B 20/00 20060101AFI20170327BHJP
   G11B 20/10 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
   G11B20/00 G
   G11B20/10 311
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-185869(P2012-185869)
(22)【出願日】2012年8月24日
(65)【公開番号】特開2014-44762(P2014-44762A)
(43)【公開日】2014年3月13日
【審査請求日】2015年5月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003676
【氏名又は名称】ティアック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】名取 郁臣
【審査官】 梅本 達雄
(56)【参考文献】
【文献】 高山 博,Logic Pro8 for Macintosh 徹底操作ガイド,株式会社リットーミュージック,2008年 3月31日,第1版,pp.33,134,191-193
【文献】 2488neo Digital Portastudio 取扱説明書 (D01044501A),[online],2010年 9月14日,pp.57-58,[平成29年1月26日検索]、インターネット,URL,https://tascam.jp/downloads/tascam/4/2488neo_om_va_j.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 20/00 − 20/04
G11B 20/10 − 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のトラックに音声データを記録するマルチトラックレコーダであって、
複数のトラックのうち一以上のトラックを、モノラルとステレオのいずれかのトラックタイプに設定するトラックタイプ設定手段と、
操作の履歴を記憶するとともに、操作取消処理において指定された操作以降の操作を取り消す操作取消手段と、
を備え、前記操作取消手段は、
トラックタイプの変更設定操作および各トラックに記憶される音声データの削除または変更を伴う操作の履歴を記憶するとともに、トラックタイプの変更設定操作の内容および操作に伴い削除または変更される音声データを、各操作に関連付けて記憶する記憶手段と、
前記操作取消処理に応じて、各トラックのトラックタイプを前記指定された操作が行われる前のトラックタイプに変更するとともに、各トラックに記憶される音声データを、前記指定された操作が行われる前に各トラックに記憶されていた音声データに変更する変更手段と、
を備えることを特徴とするマルチトラックレコーダ。
【請求項2】
請求項1に記載のマルチトラックレコーダであって、
前記トラックタイプ設定手段は、トラックタイプの変更設定に伴い、対応するトラックに記憶されている音声データを削除し、
前記記憶手段は、トラックタイプの変更設定操作に関連付けて、前記トラックタイプの変更の内容と、当該トラックタイプの変更設定操作で削除される音声データと、を記憶する、
ことを特徴とするマルチトラックレコーダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のトラックに音声信号を記録するマルチトラックレコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数のトラックに音声信号を記録するマルチトラックレコーダが知られている。マルチトラックレコーダを用いることで、例えばエレキギターを使ってリズムギターパートをトラック1、リードギターパートをトラック2に記録し、内蔵マイクを使ってボーカル音声をトラック3に記録し、これらをミックスダウンしてステレオ信号を生成して記録する等が可能である。
【0003】
かかるマルチトラックレコーダでは、所望の音声信号を得るために、複数の音声信号を重ね合わせ、あるいは、繋ぎ合わせる編集作業を行ったり、一つのトラックに繰り返しレコーディングを行ったりすることが多い。こうした作業の過程では、当然ながら、トラックに記憶されている音声信号が、消去されたり、上書き編集されたりする。そこで、操作を失敗したときや、レコーディング操作が上手くいかなかったときなどは、これら操作を取り消し、操作前の状態に戻る、操作取消(UNDO)機能が従来から提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、トラックに記憶されたオーディオデータの編集が行われる毎に、編集後のトラックのデータを編集前のトラックのデータとは独立した新規なトラックとして記憶する技術が開示されている。また、特許文献2には、記録済みのソースファイル(トラックに記憶された音声データファイル)と、新たに記録されるソースファイルのファイル名と、に関連を持たせることにより、多数の編集途中のファイルの中から目的のファイルを見つけやすくする技術が開示されている。これらの技術によれば、操作を失敗したときや、レコーディング操作が上手くいかなかったときでも、所望の音声データを容易に復元することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−124022号公報
【特許文献2】特許第4122936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、マルチトラックレコーダとしては、できるだけ多くのトラックを備えて音声信号を記録できることが望ましい一方、携帯性を考慮して装置をコンパクト化する場合にはトラック数を限定せざるを得ない状況も生じる。このような場合、トラック数はある一定数、例えば4トラックに限定するとともに、そのうちのいくつかのトラックをモノラルに固定するのではなく、モノラルあるいはステレオのいずれにも設定可能としてユーザの利便性を高めることが考えられる。
【0007】
一つのトラックをモノラルあるいはステレオに切り替え可能とした場合、当該トラックのトラックタイプ(モノラルかステレオか)によって、当該トラックに関する処理、例えば、再生や、録音に関する処理も切り替わる。この処理の違いに対応するために、各トラックのトラックタイプと、記憶されている音声データのタイプは、常に一致していることが望まれる。かかる要望を満たすためには、操作取消(UNDO)機能により、音声データを復元する場合には、当該音声データのタイプに応じて、トラックのトラックタイプも変更される必要がある。しかし、従来、一つのトラックがステレオおよびモノラルに切り替え可能な場合を想定した操作取消機能はなかった。そのため、従来の操作取消機能をそのまま適用した場合、各トラックに記憶される音声データのタイプと、各トラックのトラックタイプとの整合性が取れないといった問題が生じた。
【0008】
そこで、本発明では、トラックのトラックタイプと記録される音声データのタイプの整合性を常に維持でき得るマルチトラックレコーダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のマルチトラックレコーダは、複数のトラックに音声データを記録するマルチトラックレコーダであって、複数のトラックのうち一以上のトラックを、モノラルとステレオのいずれかのトラックタイプに設定するトラックタイプ設定手段と、操作の履歴を記憶するとともに、操作取消処理において指定された操作以降の操作を取り消す操作取消手段と、を備え、前記操作取消手段は、トラックタイプの変更設定操作および各トラックに記憶される音声データの削除または変更を伴う操作の履歴を記憶するとともに、トラックタイプの変更設定操作の内容および操作に伴い削除または変更される音声データを、各操作に関連付けて記憶する記憶手段と、前記操作取消処理に応じて、各トラックのトラックタイプを前記指定された操作が行われる前のトラックタイプに変更するとともに、各トラックに記憶される音声データを、前記指定された操作が行われる前に各トラックに記憶されていた音声データに変更する変更手段と、を備える。
【0010】
好適な態様では、前記トラックタイプ設定手段は、トラックタイプの変更設定に伴い、対応するトラックに記憶されている音声データを削除し、前記記憶手段は、トラックタイプの変更設定操作に関連付けて、前記トラックタイプの変更の内容と、当該トラックタイプの変更設定操作で削除される音声データと、を記憶する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、操作取消(UNDO)処理の実行時に、各トラックに記憶される音声データだけでなく、トラックタイプも、前記指定された操作が行われる前の状態に変更するため、各トラックに記憶される音声データのタイプとトラックタイプとの整合性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態におけるマルチトラックレコーダの構成図である。
図2】実施形態におけるマルチトラックレコーダの平面図である。
図3】実施形態におけるマルチトラックレコーダの正面図である。
図4】実施形態におけるマルチトラックレコーダの背面図である
図5】トラックタイプの設定画面を示す説明図である。
図6】ヒストリの表示画面を示す説明図である。
図7】トラックタイプの変更設定の組み合わせパターンを示す表である。
図8】操作履歴の一例を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
【0014】
図1に、本実施形態におけるマルチトラックレコーダ1の構成ブロック図を示す。音声信号入力回路10は、複数の入力ポートを備え、複数の音源(ソース)からの音声信号を入力する。複数の音声信号を例示すると、ギター、ボーカル、ドラム等である。本実施形態では、音声信号入力回路10は、2個の内蔵マイク及び2個の入力ポートを備え、音声信号を入力する。内蔵マイクと入力ポートは相互に切替可能である。音声信号入力回路10から入力された音声信号は、バス16を介してDSP(デジタルシグナルプロセッサ)14に供給される。
【0015】
DSP14は、CPU32の制御の下で、音声信号入力回路10から供給された複数チャンネルの音声信号に対して、各種のデジタル処理、例えばエフェクト処理やイコライジング処理、ミキシング処理を施し、バス18を介してレコーダ34に記録する。レコーダ34の記録媒体は、CD−R/RW、DVD−R/RW等の光ディスクやハードディスク、フラッシュメモリ媒体等である。DSP14の処理には、操作子20の操作に応じて各音声信号のパン(PAN)や音量レベルを調整する処理も含まれる。
【0016】
操作子20は、マルチトラックレコーダ1の操作面に設けられる。操作子20は、各種のキースイッチや選択ボタン、メニューボタン、決定ボタン、パン(PAN)つまみ、レベルつまみ等から構成される。ユーザは、操作子20を操作することで、各音声信号を、複数トラックの少なくとも1つのトラックに割り当てる。操作子20の操作状態は検出回路22で検出される。検出回路22は、バス18を介して操作子20の操作状態検出信号をCPU32に供給する。
【0017】
CPU32は、マルチトラックレコーダの全体を統括制御する。CPU32は、フラッシュROM28に記憶されたプログラムに従い、ワーキングメモリとしてのRAM30を用いて各種処理を実行する。具体的には、検出回路22からの操作状態検出信号に基づいて、複数チャンネルの各音声信号を複数トラックの少なくとのいずれかのトラックに割り当てる。例えば、トラックがトラック1〜トラック4まで存在する場合に、チャンネルAをトラック1に割り当て、チャンネルBをトラック2に割り当て、チャンネルCをトラック4に割り当てる等である。本実施形態において、このような各チャンネルをトラックに割り当てた結果としての、各チャンネルと各トラックとの対応関係を「アサイン情報」と称する。また、CPU32は、各種の情報を表示回路26に供給する。表示回路26は、各種情報を表示部24に表示する。
【0018】
CPU32は、ユーザによる操作子20の操作に応じて各種メニュー画面や設定画面を表示すべく表示回路26に指令し、表示回路26は、CPU32からの情報に応じてメニュー画面や設定画面を表示部24に表示する。メニュー画面には、トラック1〜トラック4のそれぞれのトラックを、モノラルとするかステレオにするかのメニュー画面が含まれる。すなわち、本実施形態では、トラック1〜トラック4の少なくともいずれかは、モノラルにするかステレオにするかを選択可能に構成されており、ユーザは所望のトラックをモノラル、ステレオのいずれかに設定する。本実施形態におけるマルチトラックレコーダは、トラック1及びトラック2はモノラルに固定され、トラック3及びトラック4がモノラルあるいはステレオのいずれかに設定可能であるとする。設定画面には、あるトラックに記録された音声信号を別のトラックに複製する(クローンあるいはコピー)設定画面が含まれる。ユーザは、設定画面において操作子20を操作することで複製元のトラック及び複製先のトラックを選択する。
【0019】
また、CPU32は、各トラック毎に割り当てられた音声信号のレベルを棒グラフ形式(レベルメータ)で表示すべく表示回路26に指令し、表示回路26は、CPU32からの情報に応じてレベルメータ画像を表示部24に表示する。
【0020】
さらに、CPU32は、検出回路22からの操作状態検出信号に応じ、レコーダ34に記録された音声信号を読み出してDSP14に供給し、DSP14はバス及び音声信号出力回路12を介して音声信号を外部に出力する。音声出力回路12は、アナログ出力ポートやデジタル出力ポート等の各種出力ポートを有する。
【0021】
図2に、本実施形態におけるマルチトラックレコーダ1の平面図を示す。また、図3及び図4に、それぞれマルチトラックレコーダの正面図及び背面図を示す。
【0022】
マルチトラックレコーダ1の操作面には、各種操作子20と、表示部24が設けられる。操作子20として、インプットセッティングキー20a、アサインキー20b、入力チャンネル用レベルつまみ20c、マスターレベルつまみ20d、パン(PAN)つまみ20e、レベルつまみ20f、録音ファンクションキー20g、ホームキー20h、メニューキー20i、データホイール20j、停止キー20k、再生キー20m、録音キー20n、UN/REDOキー20pなどが設けられる。
【0023】
インプットセッティングキー20aは、入力ソースを選択するためのキーであり、ユーザはこのキーを操作することで入力ソースを内蔵マイクとするか、あるいは入力ポートとするかを切り替える。
【0024】
アサインキー20bは、トラック1〜トラック4の各トラックに入力音声信号をアサインするためのキーであり、ユーザはこのキーを操作することで各トラックに音声信号を割り当てて録音する。
【0025】
入力チャンネル用レベルつまみ20cは、各入力ソースのレベルを調整するためのつまみであり、ユーザはこのつまみを操作することで各入力ソースのレベルを調整する。例えば、入力ソースを内蔵マイクに設定した場合、このつまみを用いて内蔵マイクから入力される音声信号のレベルを調整する。
【0026】
マスターレベルつまみ20dは、ステレオ出力信号のモニタレベルを調整するためのつまみである。
【0027】
パン(PAN)つまみ20eは、トラック1〜トラック4の各トラックに設けられ、各トラックの音声信号のステレオミックスにおける定位(PAN)を調整するつまみである。
【0028】
レベルつまみ20fは、トラック1〜トラック4の各トラックに設けられ、各トラックの音声信号のレベルを調整する。
【0029】
録音ファンクションキー20gは、トラック1〜トラック4の各トラックに設けられ、ユーザはこのキーを操作することで該当トラックが録音待機状態に移行する。なお、録音待機状態において、再生キー20mと録音キー20nを操作することで、録音待機状態のトラックに音声信号が記録される。
【0030】
ホームキー20hは、表示部24にホーム画面を表示するためのキーである。ホーム画面は、マルチトラックレコーダ1の基本画面であり、マルチトラックレコーダ1の電源をオンした直後に表示される画面である。他の画面を表示中にホームキー20hを操作すると、表示部24にホーム画面が表示される。ホーム画面には、レコーダモータや電源状態、レコーダのトランスポート状態、レコーダのタイムカウンタ、トラック1〜トラック4の状態やレベルメータ、ステレオ出力のレベルメータ等が表示される。
【0031】
メニューキー20iは、表示部24にメニュー画面を表示するためのキーである。メニュー画面には、インフォメーション、トラック編集、データバックアップ、チューナ等が含まれる。トラック編集には、クローントラック、クリーンアウト、サイレンス、カット、オープン等が含まれる。クローントラックは、トラックを複製するメニューであり、クリーンアウトはトラックを削除するメニューであり、サイレンスは部分的に消去するメニューであり、カットは部分的に削除するメニューであり、オープンは無音を挿入するメニューである。
【0032】
データホイール20jは、メニュー操作において、各種パラメータの値を変化させる、あるいは項目を選択するためのホイールである。
【0033】
UN/REDOキー20pは、直前に行った操作の取り消し(UNDO)、および、UNDO操作の取り消し(REDO)を行うためのキーである。また、停止キー20kを押しながら、このUN/REDOキー20pを押すことで、表示部24に操作履歴を示すヒストリ画面が表示される。このヒストリ画面の中から所望の操作を選ぶことで、当該所望の操作以降の操作を取り消すマルチUNDOが行える。
【0034】
一方、図3の正面図に示すように、マルチトラックレコーダ1の正面には、左右に内蔵マイク36,38が設けられる。通常、内蔵マイク36、38は、ステレオ録音の際の左右のマイク、すなわち内蔵マイク36をLチャンネル用、内蔵マイク38をRチャンネル用として用いられるが、これに限定されるわけではなく、内蔵マイク36あるいは内蔵マイク38のいずれかのみを用いる、あるいは内蔵マイク36をRチャンネル用、内蔵マイク38をLチャンネル用に用いてもよい。内蔵マイク36,38から入力された音声信号のレベルは、入力チャンネル用レベルつまみ20cで調整される。
【0035】
また、図4の背面図に示すように、マルチトラックレコーダ1の背面には、入力ポート40,42が設けられる。入力ポート40,42から入力された音声信号のレベルも、同様に入力チャンネル用レベルつまみ20cで調整される。
【0036】
ユーザは、これらの操作子20を用いて、所望のチャンネル及びトラックを選択し、音声信号を所望のトラックに割り当てることができる。例えば、チャンネルAとして入力ポート40を選択してギター音声信号を入力し、チャンネルBとして入力ポート42を選択してドラム音声信号を入力し、アサインキー20bを操作して
チャンネルA(ギター音声信号)−トラック1
チャンネルB(ドラム)−トラック2
等とアサインする。アサイン情報は、RAM30に記憶される。また、ユーザは、これらの操作子20を用いて、トラック3及びトラック4に関して、モノラルとするかステレオにするかを切り替えて設定する。例えば、
トラック3−ステレオ
トラック4−モノラル
等である。具体的には、トラック3及びトラック4は、それぞれ2つのチャンネルから構成され、モノラルに設定された場合には2つのチャンネルのいずれか一方のみの有効とし、ステレオに設定された場合には2つのチャンネルのいずれも有効としてLチャンネル及びRチャンネルとする。従って、トラック3をステレオに設定した場合、トラック3にはLチャンネル用音声信号とRチャンネル用音声信号が記録されることになる。
【0037】
次に、本実施形態における、トラック3及びトラック4のトラックタイプの設定について具体的に説明する。
【0038】
図5に、ユーザがメニューキー20iとデータホイール20jを操作して、トラックタイプを選択した場合に表示部24に表示される画面例を示す。CPU32は、メニューキー20iとデータホイール20jの操作に応じ、トラック3とトラック4のタイプ、すなわちモノラルとするかステレオとするかの設定画面を表示部24に表示する。画面には、トラック3、トラック4それぞれにおいて、モノラルとステレオの選択肢が表示されており、ユーザはデータホイール20jを操作していずれかを選択する。図5には、ユーザがトラック3をステレオ、トラック4をモノラルに設定した場合を示す。
【0039】
本実施形態では、トラック3,4のトラックタイプを変更した場合、対応するトラックに記憶されていた音声データを削除している。例えば、トラック3のトラックタイプをモノラルからステレオに変更設定した場合、当該トラック3に記憶されていた音声データを削除する。これは、記録されている音声データのタイプと、トラックタイプとの整合性を保つためである。
【0040】
すなわち、トラックのトラックタイプを変更した場合、当然、当該トラックの録音、再生、複製の処理や、各種情報表示の形態などが変更される。例えば、ステレオタイプのトラックであれば、LおよびRの音声を互いに独立した音声信号として録音することができるが、当該トラックがモノラルに変更されれば、LまたはRのいずれか一方の音声信号しか録音できない。
【0041】
また、ステレオタイプのトラックに録音されている音声データを、モノラルタイプのトラックに複製した場合、LまたはRのいずれか一方の音声信号が欠落することになる。そのため、本実施形態のマルチトラックレコーダでは、トラックの複製に際しては、複製先トラックとして、複製元トラックと同じトラックタイプのトラックしか選べないようにしている(ただし、一つのステレオトラックと、予めペアになっている二つのモノラルトラックの組との間での複製は可能)。例えば、トラック3がステレオ、トラック4がモノラルの場合において、複製元トラックとしてトラック4が選択された場合、複製先トラックとしてはトラック1または2しか選べないようになっている。また、複製元トラックとしてトラック3が選択された場合、複製先トラックとしてはトラック1,2のペアしか選べず、トラック1単独、トラック2単独、トラック4単独は選べないようになっている。
【0042】
このように、トラックのトラックタイプに応じて、各種処理が変更される場合において、トラックタイプを変更したにも関わらず、音声データをそのまま残していると、各種処理と音声データとの整合性が保てなくなる。例えば、ステレオに設定されたトラック3に、ステレオの音声データSstを記憶した後、当該トラック3をモノラルに設定した際に、音声データSstを削除しない場合を考える。この場合、モノラルのトラック3にステレオの音声データSstが残ったままとなる。この状態でトラック3を再生すると、当該トラック3に記憶されている音声データSstはステレオであったとしても、モノラルの音声データとしての再生処理が実行され、LまたはRの音声信号が欠落した状態での再生になる。また、トラック3の音声データSstを他のトラックに複製しようとした場合、当該トラック3の複製先トラックは、トラック3の現在のトラックタイプと同じモノラルのトラックに限られる。しかし、実際にトラック3に記憶されている音声データSstは、ステレオであるため、かかる音声データを、一つのモノラルトラックにコピーするとLまたはRの音声が欠落するという不具合が生じる。かかる不具合を防止し、ユーザの混乱を避けるために、トラックタイプを切り替えた場合には、対応するトラックの音声データも削除している。
【0043】
次に、本実施形態でのUNDO機能について説明する。本実施形態のマルチトラックレコーダは、一連の操作の中で、指定した操作より前の状態に戻すUNDO機能(操作取消機能)を有している。UNDO機能は、直前の操作を取り消すシングルUNDOと、操作履歴の中から戻りたい操作時点を選ぶマルチUNDOと、に大別される。
【0044】
シングルUNDOは、操作の途中で、UN/REDOキー20pを押すことで実行できる。シングルUNDOを実行することで、直前の操作が取り消され、当該操作を行う前の状態に戻る。
【0045】
マルチUNDOは、停止キーを押しながらUN/REDOキー20pを押して、ヒストリ画面を呼び出せば実行できる。図6は、表示部24に表示されるヒストリ画面の一例を示す図である。ヒストリ画面では、操作の履歴が表示される。この表示例では、上に位置する操作ほど新しい操作であり、最上行の操作が直近に行った操作である。なお、図6において「RECORDING」は、トラックへの録音操作を、「TRACK TYPE」はトラックタイプの変更設定操作をそれぞれ示している。このヒストリ画面において、ユーザが所望の操作を一つ選択すれば、CPU32は、選択された操作以降の操作を取り消し、当該選択された操作を行う前の状態に戻す。
【0046】
ここで、このシングルUNDOおよびマルチUNDOのいずれの場合であっても、取り消すことができる操作は、記憶される音声データの削除または変更を伴う操作、および、トラックタイプの変更設定操作である。具体的には、音声データの削除または変更を伴う操作としては、例えば、各トラックへの録音、複数トラックの音声データをミックスして一つのステレオトラックとして記憶するミックスダウン録音、パソコンなどの外部機器からのWAVEデータの取り込み、トラックに記憶された音声データに対するトラック編集(無音の挿入、部分カット、部分消去、トラック複製、トラックのクリア)、および、トラックタイプの変更設定操作がUNDOできる操作となる。
【0047】
UNDO処理を可能にするために、CPU32は、トラックタイプの変更設定操作および各トラックに記憶される音声データの削除または変更を伴う操作の履歴を履歴リストとしてRAM30に記憶している。そして、CPU32は、トラック録音、ミックスダウン録音、WAVEデータの取り込み、トラック編集、トラックタイプの変更の操作が行われる度に、RAM30に記憶されている履歴リストに当該操作を追記する。また、CPU32は、各種操作に伴い削除または変更される音声データや、トラックタイプの変更設定操作の内容、および、操作に関連する情報を当該操作と関連付けて記憶する。さらに、CPU32は、UNDO処理により、操作が取り消された場合には、これら取り消された操作を履歴リストから削除する。
【0048】
UNDO処理のために、RAM30に記憶される各操作に関連するデータ・情報は次の通りである。トラック録音が行われる際、CPU32は、当該録音が行われるトラックの番号、当該録音前にトラックに録音されていた音声データ(上書き録音により消える音声データ)、当該音声データの録音時間を、当該トラック録音操作と関連付けてRAM30に記憶する。また、ミックスダウン録音が行われる際、CPU32は、ミックスされたステレオトラックのデータ履歴を、当該ミックスダウン記録操作と関連付けてRAM30に記憶する。さらに、WAVEデータの取り込みが行われる際、CPU32は、WAVEデータの取り込み先のトラックの番号および取り込んだデータをRAM30に記憶する。トラックの編集を行う際、CPU32は、当該編集が行われたトラックの番号、行った編集の種類、および、編集前のデータをRAM30に保存する。
【0049】
トラックタイプ変更設定が行われる際、CPU32は、トラックタイプ変更のパターン、および、トラックタイプの変更に伴って削除される音声データを、RAM30に記憶する。すなわち、本実施形態では、トラック3およびトラック4については、トラックタイプ(モノラルまたはステレオ)が変更可能となっている。この二つのトラックの変更パターンとしては、図7に示す8種類が考えられる。なお、図7において、MNはモノラル、STはステレオを意味している。CPU32は、トラックタイプ変更が行われた際には、図7に示す変更パターンのうち、いずれが実行されたかを記憶する。
【0050】
なお、各操作時点でのトラックタイプを把握できるのであれば、上述した変更パターン以外の形態の情報を記憶してもよい。例えば、図7の形態では、トラックタイプ変更設定前のトラックタイプと、変更設定後のトラックタイプの両方を記憶しているが、変更設定後のトラックタイプのみを記憶するようにしてもよい。また、トラックタイプ(ステレオまたはモノラル)そのものではなく、トラックタイプの変更が行われたか否か(No ChangeまたはChange)だけを記憶するようにしてもよい。この場合、マルチトラックレコーダの起動時のトラックタイプ設定を記憶しておけば、起動時からのChangeの回数を追うことにより、トラックタイプの変更設定時のトラックタイプを把握することができる。
【0051】
また、上述したように、本実施形態では、トラックタイプが変更されると、当該変更されたトラックに記憶されていた音声データが削除される。CPU32は、このトラックタイプの変更に伴い削除される音声データを、当該トラックタイプの変更操作と関連付けてRAM30に記憶しておく。
【0052】
UNDO処理により、トラックタイプの変更設定操作の取り消しが指示された場合、CPU32は、これら記憶されている情報に基づいて、音声データの復元、および、トラックタイプの変更を行う。ここで、トラックタイプの変更設定のUNDOにおいて、削除された音声データを復元するだけでなく、トラックタイプも変更設定前の状態に戻すのは、記憶される音声データと各トラックのトラックタイプの整合性を維持するためである。
【0053】
例えば、モノラルの音声データSmnを記録したトラック3をモノラルからステレオに変更するトラックタイプ変更設定操作を行ったとする。トラックタイプ変更設定操作に伴い、トラック3に記憶されたモノラルの音声データSmnは削除される。このトラックタイプ変更設定操作をUNDO処理により取り消すと、当然ながら、一度削除された音声データSmnは復元され、トラック3に、モノラルの音声データSmnが記録された状態に戻る。この場合において、トラック3のトラックタイプを変更前に戻さず、ステレオのままにしておくと、ステレオタイプのトラック3に、モノラルの音声データSmnが記録された状態となる。この場合、トラックのタイプと、記録されている音声データSmnのタイプが一致しないため、録音や再生、複製などにおいて、不具合を生じる。そのため、本実施形態では、トラックタイプの変更設定操作を操作履歴の一つとして記憶しておき、UNDO処理により取り消しが指示された場合には、削除された音声データを復元するだけでなく、トラックタイプも変更前の状態に戻している。
【0054】
次に、UNDOの流れの具体例を用いて説明する。図8は、ある操作履歴の一例を示す表である。この例においては、操作h0〜操作h4が順番に実行されたとする。操作h0では、トラック3をステレオからモノラル、トラック4をステレオからモノラルに変更するトラックタイプ変更設定操作が行われる。操作h1では、トラック3に、音声データSmn(モノラル)が録音される。操作h2では、トラック3をモノラルからステレオに変更する(トラック4は変更なし)トラックタイプ変更設定操作が行われる。操作h3では、トラック3に音声データSst(ステレオ)が録音される。操作h4では、トラック3をステレオからモノラルに変更(トラック4は変更なし)するトラックタイプ変更設定操作が行われる。
【0055】
操作h4が最新の操作であるとすると、トラック3は、直前にトラックタイプ変更が行われているため、音声データSstが削除された空の状態になっている。また、トラック3、4はいずれも、モノラルとなっている。
【0056】
かかる操作h0〜h4を行った後、ユーザがUN/REDOキー20pを押下してシングルUNDOを指示した場合、最新の操作h4が取り消され、操作h4の直前(操作h3の直後)の状態に戻る。また、停止キー20kを押しながらUN/REDOキー20pを押してヒストリ画面を呼び出し、当該ヒストリ画面において操作h4を選んでも操作h4が取り消され、操作h4の直前(操作h3の直後)の状態に戻る。
【0057】
この場合、操作h4のトラックタイプ変更設定操作に伴い削除された音声データSst(ステレオ)が、トラック3に記憶された状態に戻る。また、操作h4におけるトラックタイプ変更も取り消されるため、操作h4の前の状態、すなわち、トラック3がステレオ、トラック4がモノラルの状態に戻る。つまり、トラックタイプがステレオのトラック3に、ステレオタイプの音声データSstが記憶された状態になる。
【0058】
また、別の例として、ユーザが、ヒストリ画面において、操作h2を選んだとする。この場合、操作h2,h3,h4が取り消され、操作h2の直前(操作h1の直後)の状態に戻る。具体的には、操作h2のトラックタイプ変更設定操作に伴い削除された音声データSmn(モノラル)が、トラック3に記憶された状態に戻る。また、操作h4、操作h2におけるトラックタイプ変更も取り消されるため、操作h2の前の状態、すなわち、トラック3がモノラル、トラック4がモノラルの状態に戻る。つまり、トラックタイプがモノラルのトラック3に、モノラルの音声データSmnが記憶された状態になる。
【0059】
以上の説明から明らかな通り、本実施形態では、操作履歴の一つとして、トラックタイプの変更設定操作も記憶し、UNDO処理の際には、変更設定操作に伴い削除された音声データを復元するだけでなく、変更設定操作に伴い変更されたトラックタイプも、操作前の状態に戻している。そのため、本実施形態によれば、復元された音声データのタイプ(ステレオ/モノラル)と、当該音声が記録されるトラックのタイプ(ステレオ/モノラル)との整合性を常に維持することができる。そして、その結果、ユーザは、UNDO処理後、復元された音声データのタイプ(ステレオ/モノラル)に応じてトラックタイプの再設定等をしなくても、その後の操作を円滑に行うことができる。なお、本実施形態では、四つのトラックのうち、二つのトラック(トラック3,4)をモノラル/ステレオに変更可能としたが、これらトラックの数の組み合わせは適宜、変更されてもよい。
【0060】
また、本実施形態では、トラックタイプの変更設定操作、および、音声データの削除変更を伴う操作に加え、他の操作、例えば、アサイン設定操作もUNDO対象としてもよい。アサイン設定は、各トラックへの入力ソースとしてチャンネルA,Bのいずれを割り当てるかの設定である。ステレオのトラックには二つのチャンネルを割り当てることが出来るが、モノラルのトラックには一つのチャンネルしか割り当てられない。この「ステレオトラック−2チャンネル」、「モノラルトラック−1チャンネル」の組み合わせを維持するために、アサイン設定操作も、UNDO対象の操作として記憶し、取り消しが指示された場合には、アサイン設定操作前の状態に戻れるようにしてもよい。
【0061】
また、本実施形態では、トラックタイプの変更履歴を複数のトラック(トラック3とトラック4)のセットで記憶しているが、トラックごとに変更履歴を記憶するようにしてもよい。
【0062】
また、本実施形態では、トラック1〜トラック4を有するマルチトラックレコーダを例示したが、これに限定されるものではなく、5トラック以上を有するマルチトラックレコーダや、トラック数が3以下のマルチトラックレコーダにも同様に適用できる。
【符号の説明】
【0063】
1 マルチトラックレコーダ、10 音声信号入力回路、12 音声信号出力回路、14 DSP、16,18 バス、20 操作子、22 検出回路、24 表示部、26 表示回路、28 フラッシュROM、30 RAM、32 CPU、34 レコーダ。
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