(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6107179
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】風力発電システムのインバータ装置
(51)【国際特許分類】
H02P 9/00 20060101AFI20170327BHJP
【FI】
H02P9/00 F
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-16313(P2013-16313)
(22)【出願日】2013年1月31日
(65)【公開番号】特開2014-150597(P2014-150597A)
(43)【公開日】2014年8月21日
【審査請求日】2015年12月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100096459
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 剛
(72)【発明者】
【氏名】光田 純
【審査官】
森山 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−089399(JP,A)
【文献】
特開平11−235100(JP,A)
【文献】
特開2009−268267(JP,A)
【文献】
特開2007−290483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 9/00
F03D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
風を回転エネルギーに変換する風車と、
風車の回転エネルギーを電力エネルギーに変換する発電機と、
発電機の回転速度と風速により発電機に出力されるトルク指令を算出する風車コントローラと、
前記トルク指令から電流指令を演算し、電流指令に基づいて発電機の発電電力を制御して発電機にトルクを発生させ、前記発電機と系統との連系を行うインバータ装置と、
を備えた風力発電システムであって、
前記インバータ装置は、
速度検出値とトルク指令から電力指令値を演算し、発電機の出力電流検出値と出力電圧検出値から発電機から出力される実発電電力を演算し、前記電力指令値と前記実発電電力との差に基づいて補正トルクを演算し、この補正トルクをトルク指令に加算し、
所望の電力に対し実発電電力が越えた場合には、所望の電力と実発電電力との偏差を積分演算および比例演算し、前記積分演算して得た値と前記比例演算して得た値を足し合わせた値をリミットトルクとし、トルク指令に補正トルクを加算した値からリミットトルクを差し引くことを特徴とする風力発電システムのインバータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力発電機用に適応されるインバータ装置に係り、特に発電機電力を直流電力に変換する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は、従来の風車発電システムの構成を示す概略図である。風車コントローラ7は、風車1が受ける風速と風車1の回転速度に応じて風力発電システムの発電電力を決定し、これに応じて発電機2の必要トルクを演算する。このトルク値はインバータ装置3(インバータ制御部8)に送信される。
【0003】
インバータ装置3は、インバータ順変換機4と、インバータ逆変換機5と、インバータ制御部8と、を備える。そして、インバータ装置3は、風車コントローラ7より受信したトルク値を発電機2に発生させることにより風車コントローラ7の要求する電力を発電機2に発生させる。なお、インバータ逆変換機5への指令値はトルクで、インバータ順変換機部4への指令値は直流電圧と力率である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−29082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
風車コントローラ7は、現在の発電機回転速度と風速により、発電機2が出力するべきトルク量(トルク指令T
*)を演算する。
【0006】
インバータ装置3は、風車コントローラ7より受け取ったトルク指令T
*をインバータ制御部8に入力し、電流指令I
*を演算する。インバータ逆変換機5は電流指令I
*どおりの電流を出力し発電機2にトルクを発生させる。
【0007】
しかし、発電機2に発生する誘起電圧は温度に比例して減少することが多く、この現象により、インバータ装置3が発電機2に一定の電流を流した場合においても、発電機2の温度変化により発生するトルクが変化してしまう。
【0008】
このため、インバータ制御部8が風車コントローラ7より受信したトルク指令T
*を電流指令I
*に変換し、発電機2に出力させるだけでは、所望の電力と実発電電力との間に偏差が生じてしまう。
【0009】
図6に風力発電システムの風速−発電電力特性を示す。風力発電システムは実線で示した所望電力量どおりに発電を行うことが望ましいため、発電機2の影響により所望電力と実発電電力に差が生じることは望ましくないといえる。
【0010】
また、定格風速以上の風が吹いていた場合には、特に定格発電電力どおりに発電することが望まれる。
【0011】
以上示したようなことから、風力発電システムにおいて、発電機の状態によらず所望の発電電力を常に出力し続けることが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、風を回転エネルギーに変換する風車と、風車の回転エネルギーを電力エネルギーに変換する発電機と、発電機の回転速度と風速により発電機に出力されるトルク指令を算出する風車コントローラと、前記トルク指令から電流指令を演算し、電流指令に基づいて発電機の発電電力を制御して発電機にトルクを発生させ、前記発電機と系統との連系を行うインバータ装置と、を備えた風力発電システムであって、前記インバータ装置は、速度検出値とトルク指令から電力指令値を演算し、発電機の出力電流検出値と出力電圧検出値から発電機から出力される実発電電力を演算し、前記電力指令値と前記実発電電力との差に基づいて補正トルクを演算し、この補正トルクをトルク指令に加算することを特徴とする。
【0013】
また、その一態様として、所望の電力に対し実発電電力が越えた場合には、越えた量をリミットトルクとし、トルク指令に補正トルクを加算した値からリミットトルクを差し引くことを特長とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、風力発電システムにおいて、発電機の状態によらず所望の発電電力を常に出力し続けることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態における風車発電システムの構成を示す概略図である。
【
図2】実施形態におけるインバータ制御部を示すブロック図である。
【
図3】実施形態における発電電力補正量演算器を示すブロック図である。
【
図4】実施形態における発電電力リミット量演算器を示すブロック図である。
【
図5】従来における風車発電システムの構成を示す概略図である。
【
図6】風力発電システムの風速−発電電力特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態における風力発電システムのインバータ装置を図面に基づいて詳細に説明する。
【0017】
[実施形態]
図1は、本実施形態における風車発電システムの構成を示す概略図である。
図1に示すように、本実施形態における風車発電システムは、風を回転運動エネルギーに変換する風車(図示省略)と、風車の回転運動エネルギーを電力エネルギーに変換する発電機2と、発電機2の交流電力を直流電力に変換するインバータ逆変換機5と、前記直流電力を交流電力に変換するインバータ順変換機4と、インバータ(インバータ逆変換機5,インバータ順変換機4)の制御を行うインバータ制御部8と、風力発電システムの全体の制御を行う風車コントローラ7と、を備えている。
【0018】
なお、インバータ逆変換機部5、インバータ順変換機部4、インバータ制御部8を統合してインバータ装置3とする。インバータ装置3は発電機2の発電電力を制御すると共に、発電機2と系統6との連系を行う。
【0019】
また、風車コントローラ7は、発電機2の回転速度ω,風速に基づいてトルク指令T
*を演算するトルク指令演算器9を備え、演算されたトルク指令T
*はインバータ制御部8へ出力される。
【0020】
インバータ制御部8は、後述する
図2に示す制御ブロックでトルク指令T
*を補正する。この補正されたトルク指令T
*+Tc−Tlに基づいてインバータ電流指令演算器11により電流指令I
*を演算し、インバータ逆変換機5に出力する。インバータ逆変換機5では電流指令I
*どおりの電流を出力し、発電機2にトルクを発生させる。
【0021】
図2に、トルク指令T
*を補正する制御ブロックを示す。前記制御ブロックはインバータ制御部8内に備えられているものとする。この制御ブロックは、発電電力を所望の値に制御するものである。
図2に示すように、前記制御ブロックは、電力指令演算器14,発電電力演算器15,発電電力補正量演算器16,発電電力リミット量演算器17を備える。
【0022】
電力指令演算器14において、風車コントローラ7から受信したトルク指令値T
*と、速度検出値ωに基づいて、所望の電力量(電力指令値ωT
*)を演算する。また、発電電力演算器15において、発電機2とインバータ逆変換機5の間の電流検出値Iと電圧検出値Vに基づいて、実発電電力IVを演算する。そして、発電電力補正量演算器16において、この電力指令値ωT
*と実発電電力IVの2値から電力指令値ωT
*と実発電電力IVの差分をなくす補正トルクTcが決定される。
【0023】
発電電力補償演算器16は
図3に示すとおり、減算器、比例演算器20、積分演算器21、定数乗算器22と、を備える。発電電力補償演算器16は、まず、減算器において、電力指令値ωT
*から実発電電力IVを減算する。そして、この電力指令値ωT
*と実発電電力の差分ωT
*−IVを比例演算器20,積分演算器21に出力する。次に、比例演算器20で前記偏差ωT
*−IVを比例演算し、積分演算器21で前記偏差ωT
*−IVを積分演算し、この比例演算器20と積分演算器21の出力を足し合わせる。そして、この値に定数乗算器22で予め設定された定数を乗算して補正トルクTcとして出力する。
【0024】
この補正トルクTcをトルク指令T
*に加算することにより、実発電電力IVを電力指令値ωT
*どおり制御することができる。ここまでの制御方法を「発電電力一定制御」とする。
【0025】
また、
図2に示すように、定格電力値rPと実発電電力IVの差分rP―IVを演算し、この差分rP−IVが負であった場合には、定格電力値rP以上を発電していることとなり、実発電電力IVを低減する必要がある。このため、定格電力値rPと実発電電力IVを発電電力リミット量演算器17に入力し、発電電力リミットトルクTlを演算する。
【0026】
発電電力リミット量演算器17は、
図4に示すように、スイッチSW1,SW2,ゼロ出力器23,積分演算器24,比例演算器25を備える。そして、定格電力値rPと実発電電力IVの差分rP−IVを取り、この差分rP−IVが正(≧0)の場合はスイッチSW1,SW2を上側に切り換え、差分rP−IVが負(<0)の場合はスイッチSW1,SW2を下側に切り換える。偏差rP−IVが正(≧0)の場合は、実発電電力IVが定格電力値rPよりも小さいとして、ゼロ出力器23から0を出力し、リミットトルクTlとして0を出力する。
【0027】
一方、差分rP−IVが負(<0)の場合は、実発電電力IVが定格電力rPよりも大きい。そこで、積分演算器24で偏差rP−IVを積分演算し、比例演算器25で偏差rP−IVを比例演算し、この積分演算器24と比例演算器25の出力を足し合わせて発電電力リミットトルクTlとして出力する。
【0028】
この発電電力リミットトルクTlをトルク指令(T
*−Tc)から減算することにより、実発電電力IVが定格電力rPを超えないように制御することができる。本機能を「発電電力リミット機能」とする。
【0029】
前記「発電電力一定制御」において、発電電力保障演算器16内の定数乗算器に1以上の値を設定して、補正トルクTcを高めの値となるようにし、さらに、積極的に「発電電力リミット機能」を働かせることにより、定格風速以上の風が吹いている場合、確実に定格発電電力を出力することが可能となる。
【0030】
以上示したように、本実施形態における風力発電システムによれば、「発電電力一定制御」より、実発電電力IVを電力指令ωT
*どおりに制御するため、発電機の状態によらず所望の発電電力を常に出力し続けることが可能となる。
【0031】
また、「発電電力リミット機能」により、実発電電力IVが定格発電電力を上回らないように制御することが可能となる。
【0032】
さらに、「発電電力一定制御」と「発電リミット機能」を併用することにより、所望の電力を出力し続ける事、定格風速以上の時には確実に定格発電電力を出力することが可能となる。
【0033】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【0034】
なお、実施形態において、「発電電力リミット機能」として定格風速以上の時に定格発電電力を出力できるように、発電電力リミット量演算器17の入力を定格電力値rPとしたが、定格電力値rPの代わりに所望の電力値を入力してもよい。
【符号の説明】
【0035】
1…風車
2…発電機
3…インバータ装置
6…系統
7…風車コントローラ
T
*…トルク指令
I
*…電流指令
ω…速度検出値
ωT
*…電力指令値
I…出力電流検出値
V…出力電圧検出値
IV…実発電電力
Tc…補正トルク
Tl…リミットトルク