特許第6107188号(P6107188)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6107188防曇膜形成材料、防曇膜形成用塗布液、防曇性物品、及びそれらの製法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6107188
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】防曇膜形成材料、防曇膜形成用塗布液、防曇性物品、及びそれらの製法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/18 20060101AFI20170327BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20170327BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20170327BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20170327BHJP
   C08G 59/42 20060101ALI20170327BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20170327BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20170327BHJP
   B32B 27/38 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
   C09K3/18
   C09D133/00
   C09D163/00
   C09D7/12
   C08G59/42
   B05D5/00 G
   B05D7/24 302U
   B32B27/38
【請求項の数】17
【全頁数】44
(21)【出願番号】特願2013-20596(P2013-20596)
(22)【出願日】2013年2月5日
(65)【公開番号】特開2014-114430(P2014-114430A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2015年11月18日
(31)【優先権主張番号】特願2012-55465(P2012-55465)
(32)【優先日】2012年3月13日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-234409(P2012-234409)
(32)【優先日】2012年10月24日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-251340(P2012-251340)
(32)【優先日】2012年11月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108671
【弁理士】
【氏名又は名称】西 義之
(72)【発明者】
【氏名】瀧本 千晴
(72)【発明者】
【氏名】平野 敏裕
(72)【発明者】
【氏名】蘆田 徹
(72)【発明者】
【氏名】大西 希
【審査官】 吉田 邦久
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−041519(JP,A)
【文献】 特開平08−010697(JP,A)
【文献】 特開2008−007677(JP,A)
【文献】 特開2004−263008(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/18
B05D 5/00
B05D 7/24
B32B 27/38
C08G 59/42
C09D 7/12
C09D 133/00
C09D 163/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式[1]で表される化合物と、25℃の水に対する溶解率が40〜100質量%の多官能エポキシ化合物とを、四級アンモニウム塩又は四級ホスホニウム塩の存在下で反応させることによって得られる、重量平均分子量が100,000〜5,000,000防曇膜形成材料の製造方法
(式[1]で、R1及びR2は、水素基又はメチル基であり、R3は、水素基又は炭素数が1〜5のアルキル基であり、Xは、−C(=O)−NR4(ここで、R4は炭素数が1〜4のアルキル基)、アミノ基、スルホン酸基及び水酸基からなる群から選ばれる少なくとも1つの基、又は、アミド基、アミノ基、スルホン酸基及び水酸基からなる群から選ばれる少なくとも1つの基と脂肪族炭化水素基とから構成された1価の有機基であり、Yは、カルボキシル基、又は、−R5−C(=O)−OHで表される基であり、該R5は、2価の脂肪族炭化水素基、又は、エステル基、エーテル基、アミド基からなる群から選ばれる少なくとも1つの基と脂肪族炭化水素基とから構成された2価の有機基である。aとbはa:b=0.7〜2.5:1.0である数である。なお、式[1]中の繰り返し構造単位の順序は特に限定されない。)
【請求項2】
前記の一般式[1]で表される化合物が、下記一般式[2]で表される化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の防曇膜形成材料の製造方法
(式[2]で、X、a及びbは式[1]と同様であり、mは0〜2、nは0〜3、sは1〜4、tは1〜4の数である。なお、式[2]中の繰り返し構造単位の順序は特に限定されない。)
【請求項3】
前記一般式[1]で表される化合物の重量平均分子量が、10,000〜500,000であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の防曇膜形成材料の製造方法
【請求項4】
前記多官能エポキシ化合物が、脂肪族のグリシジルエーテル系ポリエポキシド、又は脂肪族のグリシジルエーテル系エポキシドであることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の防曇膜形成材料の製造方法
【請求項5】
前記多官能エポキシ化合物の1分子中の平均官能基数が、1.5〜6.5であることを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の防曇膜形成材料の製造方法
【請求項6】
前記一般式[1]で表される化合物のYがカルボキシル基の場合、カルボキシル基1モル量に対し、前記多官能エポキシ化合物のエポキシ基が1〜2モル量となるように反応して得られたものであることを特徴とする、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の防曇膜形成材料の製造方法
【請求項7】
少なくとも以下の工程を経て作製することを特徴とする、請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の方法によって製造された防曇膜形成材料と、溶媒とを含んでなる防曇膜形成用塗布液の調製方法。
溶媒中で、前記一般式[1]で表される化合物と、前記多官能エポキシ化合物とを、四級アンモニウム塩又は四級ホスホニウム塩の存在下で反応させる、防曇膜形成材料作製工程、
得られた防曇膜形成材料を含む溶液を濃縮すること又は該溶液に溶媒を添加することにより固形分濃度及び粘度を調整する操作、得られた防曇膜形成材料を含む溶液にさらに硬化剤を添加する操作、及び、得られた防曇膜形成材料を含む溶液にさらに微粒子を添加する操作からなる群から選ばれる少なくとも1つの操作を行う、塗布液の調製工程。
【請求項8】
基材とその表面に形成されたプライマー層、及び該プライマー層表面に形成された防曇膜を有する防曇性物品の作製方法であり、該防曇膜が請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の方法によって製造された防曇膜形成材料と、溶媒とを含んでなる防曇膜形成用塗布液を塗布し硬化して得られるものであることを特徴とする、防曇性物品の作製方法
【請求項9】
防曇性物品の防曇膜表面に対するJIS R 3212に準拠した耐摩耗性試験前後において、防曇性物品の該試験実施箇所のヘーズ値を測定し、それぞれのヘーズ値の差が4.0以下であることを特徴とする、請求項に記載の防曇性物品の作製方法
【請求項10】
100℃の熱に1000時間晒した後の防曇膜の吸水飽和時の単位面積の吸水量をBとし、晒す前の防曇膜の吸水飽和時の単位面積の吸水量をAとしたときに、(A−B)×100/Aで表される値である防曇性低下率が40%以下であることを特徴とする、請求項又は請求項に記載の防曇性物品の作製方法
【請求項11】
前記吸水量Aが0.2〜5mg/cmであることを特徴とする、請求項乃至請求項10のいずれかに記載の防曇性物品の作製方法
【請求項12】
少なくとも以下の工程を経て作製することを特徴とする、請求項乃至請求項11のいずれかに記載の防曇性物品の作製方法。
基材表面にシランカップリング剤からなるプライマー層を形成する、プライマー層形成工程、
前記防曇膜形成用塗布液を前記プライマー層上に塗布する、防曇膜形成用塗布液塗布工程、
前記塗布工程後の塗膜を硬化する、硬化工程。
【請求項13】
前記硬化工程が、80℃以下で加熱することにより前記塗布工程後の塗膜を硬化することであることを特徴とする、請求項12に記載の防曇性物品の作製方法。
【請求項14】
前記硬化工程後に防曇膜表面を洗浄する、膜洗浄工程をさらに有することを特徴とする、請求項12又は請求項13に記載の防曇性物品の作製方法。
【請求項15】
前記硬化工程の後、膜洗浄工程の前に防曇膜表面に、さらに密度が0.50〜0.85g/cmのオーバーコート層を形成することを特徴とする、請求項12乃至請求項14のいずれかに記載の防曇性物品の作製方法。
【請求項16】
前記防曇膜表面上に、さらに密度が0.50〜0.85g/cmのオーバーコート層を形成することを特徴とする、請求項乃至請求項11のいずれかに記載の防曇性物品の作製方法
【請求項17】
前記オーバーコート層が、重量平均分子量が2,000〜150,000のポリアクリル酸類と、25℃の水に対する溶解率が40〜100質量%の多官能エポキシ化合物との反応物からなることを特徴とする、請求項16に記載防曇性物品の作製方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用、建築用等の防曇窓ガラスや防曇鏡、レンズ、ディスプレー等の防曇性物品において、優れた、防曇性、耐薬品性(例えば、耐酸性や耐アルカリ性など)、耐熱性及び耐摩耗性を発現する防曇膜を形成するための防曇膜形成材料、防曇膜形成用塗布液、防曇性物品、及びそれらの製法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスやプラスチック等の透明基材は、基材を挟んで内面と外面の温湿度の差により、一方の表面が露点以下になった場合、又は、基材に対して急激な温湿度変化が起こった場合(沸騰水蒸気が基材に接触した場合や、低温部から高温多湿の環境に移った場合等)に雰囲気中の水分が水滴として付着し、基材表面は結露する。その結果、結露した水滴により光の散乱が起こる、いわゆる「曇り」が発生することで、視界が妨げられる。このような「曇り」により、一般的な窓ガラス、ショーケース用ガラス、自動車や航空機のフロントガラス、反射鏡、眼鏡、サングラス等では、安全性や視認性が著しく損なわれる。
【0003】
これらの基材に防曇性を付与する方法として、親水性や吸水性を持つ被膜を形成する方法がある。例えば特許文献1には、カルボキシル基含有不飽和単量体の50〜100重量%と、その他の共重合可能な親水性不飽和単量体の0〜50重量%とから構成される数平均分子量が5,000〜20,000なるカルボキシル基含有親水性重合体(A)と、分子内に3個以上のエポキシ基を含み、しかも室温で100重量部の水に対して10重量部を溶解した際に、その10重量部のうちで現実に溶解した重量部数を10倍した数値をもって規定する水溶解率が50以上である硬化剤(B)とを必須の成分として含んでなる、防曇性被覆用硬化性樹脂組成物が開示されており、その他の共重合可能な親水性不飽和単量体として、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート又はポリエチレン−プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、あるいはそれらのメチルエーテル化物などが例示されている。
【0004】
また、特許文献2には、(A)側鎖にアミド結合を有するアルキレン構造単位を50〜80重量%、側鎖に−C(=O)−O−X(Xは水酸基を有する有機基)を有するアルキレン構造単位を20〜50重量%をそれぞれ含有するコポリマー40〜70重量部、(B)側鎖に−C(=O)−O−Y(Yはエポキシ基を有する有機基)を有するアルキレン構造単位を少なくとも20重量%含有するポリマーもしくはコポリマー30〜60重量部の、上記(A)、(B)の合計100重量部を主成分とし、副成分としてエポキシ基を有する有機シラン化合物及び/又はメラミン骨格を有する化合物を前記(A)、(B)の合計100重量部当り0.3〜30重量部含み、さらに硬化触媒を加えてなる防曇性コーティング組成物が開示されており、側鎖に−C(=O)−O−X(Xは水酸基を有する有機基)を有するアルキレン構造単位を与えるビニル単量体として、ヒドロキシエチルアクリレート及びメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート及びメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート及びアクリレート等が例示されている。
【0005】
また、特許文献3には、吸水性高分子化合物と架橋剤を含み、対象物上で架橋させ被着させて、水分による対象物の曇りを防止する曇り止め剤が開示されており、吸水性高分子化合物として、カルボン酸又はその塩を含むアクリル系共重合体、一級アミノ基又はその塩を含むオレフィン系共重合体、二級アミノ基又はその塩を含むオレフィン系共重合体などが例示されており、架橋剤としてエポキシ架橋剤が例示されている。
【0006】
また、特許文献4には、基体と該基体表面に設けられた吸水性の架橋樹脂層とを有する防曇性物品であって、前記吸水性の架橋樹脂は、その飽和吸水量が45mg/cm以上の架橋樹脂であることを特徴とする防曇性物品が開示されており、前記架橋樹脂層が架橋性成分と硬化剤とを反応させることによって形成されたものであることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−129367号公報
【特許文献2】特開平6−41519号公報
【特許文献3】特開平7−207192号公報
【特許文献4】国際公開第2007/52710号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】X線反射率法入門 桜井健次編 講談社サイエンティフィック(2009年第2刷発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
防曇性物品は、長期間に亘り防曇性及び視認性が維持でき、かつ実使用に耐えうる程度の耐久性が望まれている。しかし、防曇性能を高めた防曇膜は、該十分な防曇性と、耐熱性、耐薬品性、及び耐摩耗性を併せ持たせることが極めて難しい。耐熱性に関しては、例えば、車両用の窓材として防曇性物品を用いる場合、夏場の直射日光に長時間晒された場合、該窓材及びその周囲は100℃近くにまで加熱される場合があるため、該防曇性物品には100℃程度の熱に長時間晒されても、外観上の不具合が生じず、防曇性がある程度維持されていることが求められる。特許文献1に記載の防曇性被覆用硬化性樹脂組成物より得られる塗膜は、100℃程度で加熱すると外観上の欠陥が発生する問題がある。特許文献2に記載の防曇性コーティング組成物より得られる被覆膜は、酸などの薬品に対する耐久性が十分でない場合がある。特許文献3に記載の曇り止め剤を表面に被覆した物品では、100℃程度で加熱すると防曇性が劣化する問題や、耐摩耗性が実使用上不十分であるという問題がある。特許文献4に記載の防曇性物品は、酸などの薬品に対する耐久性が不十分という問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、防曇性、耐熱性、耐薬品性、且つ耐摩耗性に優れる防曇性物品を得るための防曇膜形成材料、防曇膜形成用塗布液、防曇性物品、及びそれらの製法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、下記の一般式[1]で表される化合物と、25℃の水に対する溶解率が40〜100質量%の多官能エポキシ化合物とを、四級アンモニウム塩又は四級ホスホニウム塩の存在下で反応させることによって得られる防曇膜形成材料であり、重量平均分子量が100,000〜5,000,000であることを特徴とする、防曇膜形成材料である。
(式[1]で、R及びRは、水素基又はメチル基であり、Rは、水素基又は炭素数が1〜5のアルキル基であり、Xは、−C(=O)−NR(ここで、Rは炭素数が1〜4のアルキル基)、アミノ基、スルホン酸基及び水酸基からなる群から選ばれる少なくとも1つの基、又は、アミド基、アミノ基、スルホン酸基及び水酸基からなる群から選ばれる少なくとも1つの基と脂肪族炭化水素基とから構成された1価の有機基であり、Yは、カルボキシル基、又は、−R−C(=O)−OHで表される基であり、該Rは、2価の脂肪族炭化水素基、又は、エステル基、エーテル基、アミド基からなる群から選ばれる少なくとも1つの基と脂肪族炭化水素基とから構成された2価の有機基である。aとbはa:b=0.7〜2.5:1.0である数である。なお、式[1]中の繰り返し構造単位の順序は特に限定されない。)なお、a、bは得られる防曇膜形成材料の重量平均分子量が前記値となる数である。
【0012】
前記多官能エポキシ化合物の水に対する溶解率とは、25℃の水90質量部を溶媒とし、それに溶質として10質量部の前記多官能エポキシ化合物を加えて溶解を試みた場合に、溶質の総量のうち溶解した分の割合を質量%で表したものである。
【0013】
前記の一般式[1]で表される化合物は、下記一般式[2]で表される化合物であることが好ましい。
(式[2]で、X、a及びbは式[1]と同様であり、mは0〜2、nは0〜3、sは1〜4、tは1〜4の数である。なお、式[2]中の繰り返し構造単位の順序は特に限定されない。)
【0014】
また、前記一般式[1]で表される化合物の重量平均分子量は、10,000〜500,000であることが好ましい。
【0015】
また、前記多官能エポキシ化合物は、脂肪族のグリシジルエーテル系ポリエポキシド、又は脂肪族のグリシジルエーテル系エポキシドであることが好ましい。
【0016】
また、前記多官能エポキシ化合物の1分子中の平均官能基数は、1.5〜6.5であることが好ましい。
【0017】
また、前記防曇膜形成材料は、前記一般式[1]で表される化合物のYがカルボキシル基の場合、カルボキシル基1モル量に対し、前記多官能エポキシ化合物のエポキシ基が1〜2モル量となるように反応して得られたものであることが好ましい。
【0018】
また、本発明は、上記の防曇膜形成材料と、溶媒とを含んでなる防曇膜形成用塗布液である。
【0019】
前記防曇膜形成用塗布液には、さらに硬化剤が含まれることが好ましい。
【0020】
また、本発明は、少なくとも以下の工程を経て作製することを特徴とする、上記の防曇膜形成用塗布液の調製方法である。
溶媒中で、前記一般式[1]で表される化合物と、前記多官能エポキシ化合物とを、四級アンモニウム塩又は四級ホスホニウム塩の存在下で反応させる、防曇膜形成材料作製工程、
得られた防曇膜形成材料を含む溶液を濃縮すること又は該溶液に溶媒を添加することにより固形分濃度及び粘度を調整する操作、得られた防曇膜形成材料を含む溶液にさらに硬化剤を添加する操作、及び、得られた防曇膜形成材料を含む溶液にさらに微粒子を添加する操作からなる群から選ばれる少なくとも1つの操作を行う、塗布液の調製工程。
【0021】
また、本発明は、四級アンモニウム塩又は四級ホスホニウム塩の存在下で、25℃の水に対する溶解率が40〜100質量%の多官能エポキシ化合物と反応させることによって前記の防曇膜形成材料を作製するための、前記一般式[1]で表される化合物である。
【0022】
また、本発明は、四級アンモニウム塩又は四級ホスホニウム塩の存在下で、25℃の水に対する溶解率が40〜100質量%の多官能エポキシ化合物と反応させることによって前記の防曇膜形成材料を作製するための、前記一般式[2]で表される化合物である。
【0023】
また、本発明は、基材とその表面に形成されたプライマー層、及び該プライマー層表面に形成された防曇膜を有する防曇性物品であり、該防曇膜が上記の防曇膜形成用塗布液を塗布し硬化して得られるものであることを特徴とする、防曇性物品である。
【0024】
また、前記防曇性物品は、防曇性物品の防曇膜表面に対するJIS R 3212に準拠した耐摩耗性試験前後において、防曇性物品の該試験実施箇所のヘーズ値を測定し、それぞれのヘーズ値の差が4.0以下であることが好ましい。
【0025】
また、前記防曇性物品は、100℃の熱に1000時間晒した後の防曇膜の吸水飽和時の単位面積の吸水量をBとし、晒す前の防曇膜の吸水飽和時の単位面積の吸水量をAとしたときに、(A−B)×100/Aで表される値である防曇性低下率が40%以下であることが好ましい。
【0026】
また、前記防曇性物品は、前記吸水量Aが0.2〜5mg/cmであることが好ましい。
【0027】
また、本発明は、少なくとも以下の工程を経て作製することを特徴とする、上記の防曇性物品の作製方法である。
基材表面にシランカップリング剤からなるプライマー層を形成する、プライマー層形成工程、
前記防曇膜形成用塗布液を前記プライマー層上に塗布する、防曇膜形成用塗布液塗布工程、
前記塗布工程後の塗膜を硬化する、硬化工程。
【0028】
また、前記硬化工程は、80℃以下で加熱することにより前記塗布工程後の塗膜を硬化することであることが好ましい。
【0029】
また、前記硬化工程後に防曇膜表面を洗浄する、膜洗浄工程をさらに有することが好ましい。
【0030】
また、前記硬化工程の後、膜洗浄工程の前に防曇膜表面に、さらに密度が0.50〜0.85g/cmのオーバーコート層を形成することが好ましい。
【0031】
また、前記防曇性物品は、前記防曇膜表面上に、さらに密度が0.50〜0.85g/cmのオーバーコート層を有することが好ましい。
【0032】
また、前記オーバーコート層は、重量平均分子量が2,000〜150,000のポリアクリル酸類と、25℃の水に対する溶解率が40〜100質量%の多官能エポキシ化合物との反応物からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0033】
本発明により、防曇性、耐熱性、耐薬品性、且つ耐摩耗性に優れる防曇性物品を得るための防曇膜形成材料、防曇膜形成用塗布液、前記防曇性物品、及びそれらの製法を提供することができる。その結果、従来得ることが困難であった、長期間に亘り防曇性及び透明基材の視認性を維持でき、かつ実使用に耐えうる程度の耐久性を有する防曇性物品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0035】
1.防曇膜形成材料
(1)一般式[1]で表される化合物について
一般式[1]で表される化合物は、Xで表される基を有する繰り返し構造単位と、Yで表される基を有する繰り返し構造単位とからなる共重合体である(以降、一般式[1]で表される化合物を単に「共重合体」と記載する場合がある)。該共重合体は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよいし、交互共重合体であってもよい。
【0036】
前記の共重合体は、共重合可能な基を有するモノマー同士を共重合させて得られるものであってもよいし、共重合可能な基を有するオリゴマー同士を共重合させて得られるものであってもよいし、前記のモノマーとオリゴマーを共重合させて得られるものであってもよい。Xで表される基を有する繰り返し構造単位を形成するモノマーとしては、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジn−プロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジイソ−プロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジブチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリン、1−(メタ)アクリロイルピペリジン−2−オン、1−ビニル−2−ピロリドン、3−アクリロイル−2−オキサゾリジノン、N−アリルカルバミン酸t−ブチル、N−(2−ヒドロキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノブチル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノブチル(メタ)アクリルアミド、ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジプロピルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジプロピルアミノブチル(メタ)アクリルアミド、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジブチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジブチルアミノブチル(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド−t−ブチルスルホン酸、ビニルスルホン酸等が挙げられる。また、Yで表される基を有する繰り返し構造単位を形成するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、こはく酸モノ(2−アクリロイルオキシエチル)、β−カルボキシエチル(メタ)アクリレート、3−ブテン酸、4−ペンテン酸、trans−3−ペンテン酸、trans−2−ペンテン酸、5−ヘキセン酸、trans−3−ヘキセン酸、2−ヘプテン酸、3−ヘプテン酸、5−ヘプテン酸、6−ヘプテン酸、2−オクテン酸、trans−2−オクテン酸、7−オクテン酸、3−オクテン酸、3−アリルオキシプロピオン酸、N−チグロイルグリシン等が挙げられる。なお、共重合可能な基を有するオリゴマーを用いて前記共重合体を得る場合、該オリゴマーは前記の共重合可能な基を有するモノマーから作製されたものが好ましい。共重合体の合成は一般的な重合によって行われる。
【0037】
前記共重合体において、Xで表される基は、防曇膜を形成した際に該膜に吸水性を付与する基であり、防曇性発現に寄与する基である。耐熱性の観点から、Xで表される基は、−C(=O)−NR(ここで、Rは炭素数が1〜4のアルキル基)である基が好ましい。また、前記共重合体において、Yで表される基は、前記多官能エポキシ化合物のエポキシ基との間で架橋を形成する基であり、防曇膜を形成した際に該膜に優れた耐熱性、耐薬品性や耐摩耗性を付与する基である。相溶性と反応性の観点から、Yで表される基は、[-C(=O)-O-C2s-{O-C(=O)-C2t-}-C(=O)-OH(ここで、mは0〜2、nは0〜3、sは1〜4、tは1〜4の数)で表される基が好ましく、中でも、-C(=O)-OH、-C(=O)OCC(=O)-OH、-C(=O)OCOC(=O)CC(=O)-OHが好ましく、特に耐薬品性の観点から-C(=O)-OHが好ましい。
【0038】
前記共重合体において、Xで表される基を有する繰り返し構造単位と、Yで表される基を有する繰り返し構造単位の存在比率である、前記一般式[1]中のaとbは、a:b=0.7〜2.5:1.0である数である。bに対しaが0.7倍未満(すなわちa/b<0.7)の場合、十分な防曇性を有する膜や熱に対して十分な防曇性を維持できる膜が得られず、bに対しaが2.5倍超(すなわち2.5<a/b)の場合、架橋が少なくなるため、防曇膜を形成した際に耐酸性、耐アルカリ性、基材に対する密着性が低くなる。実用的な防曇性と耐酸性、耐アルカリ性、基材に対する密着性を両立させるため、a:b=1.0〜2.0:1.0がより好ましい。
【0039】
前記一般式[1]で表される化合物の重量平均分子量は、10,000〜500,000が好ましい。該重量平均分子量が、10,000未満であると、耐薬品性が弱くなる傾向があり好ましくない。また該重量平均分子量が、500,000超であると、防曇膜形成用塗布液の粘度が高くなり塗布作業等の作業性が悪くなる傾向があり好ましくない。前記重量平均分子量が30,000〜200,000であるとより好ましい。
【0040】
(2)多官能エポキシ化合物について
多官能エポキシ化合物は、1分子中の平均官能基数(1分子中に存在するエポキシ基の平均数)が1超の化合物である。該多官能エポキシ化合物中のエポキシ基は、前記一般式[1]で表される化合物のYで表される基との間で架橋を形成する基であり、該多官能エポキシ化合物は、防曇膜を形成した際に該膜に優れた耐熱性、耐薬品性や耐摩耗性を付与する成分である。なお、多官能エポキシ化合物の1分子中の平均官能基数が1.5〜6.5であると、前記共重合体と良好に反応し、防曇膜を形成した際に耐摩耗性が良好となるため好ましく、2〜4.1であるとさらに好ましい。一方、該平均官能基数が1.5未満になると防曇膜を形成した際に架橋が少なくなり防曇膜の耐摩耗性が弱くなる傾向がある。また、該平均官能基数が6.5超であると、防曇膜を形成した際に立体障害による未反応基が多くなり、防曇膜の耐摩耗性、耐薬品性が悪くなる傾向がある。
【0041】
多官能エポキシ化合物は、25℃の水に対する溶解率が40〜100質量%のものである。該溶解率が40質量%未満であると前記共重合体との相溶性、反応性が悪くなり、均一で透明な膜形成自体困難になる。前記の相溶性、反応性が良好であるため、該溶解率が80質量%以上である多官能エポキシ化合物がより好ましい。
【0042】
前記多官能エポキシ化合物としては、ソルビトールポリグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス株式会社製の商品名「デナコールEX−614」、「デナコールEX−614B」等)、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス株式会社製の商品名「デナコールEX−512」、「デナコールEX−521」等)、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス株式会社製の商品名「デナコールEX−421」、坂本薬品工業株式会社製の商品名「SR−4GL」等)、グリセロールポリグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス株式会社製の商品名「デナコールEX−313」、「デナコールEX−314」、坂本薬品工業株式会社製の商品名「SR−GLG」等)、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス株式会社製の商品名「デナコールEX−810」、「デナコールEX−811」、「デナコールEX−850」、「デナコールEX−851」、「デナコールEX−821」、「デナコールEX−830」、「デナコールEX−832」、「デナコールEX−841」、「デナコールEX−861」、坂本薬品工業株式会社製の商品名「SR−EGM」、「SR−8EG」、「SR−8EGS」)、(ポリ)プロピレングリコールジグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス株式会社製の商品名「デナコールEX−911」、「デナコールEX−941」、「デナコールEX−920」、坂本薬品工業株式会社製の商品名「SR−PG」)等が挙げられ、それらの中でも、前記共重合体と特に相溶性が良好な、グリセロールポリグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス株式会社製の商品名「デナコールEX−313」、「デナコールEX−314」、坂本薬品工業株式会社製の商品名「SR−GLG」等)、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス株式会社製の商品名「デナコールEX−512」、「デナコールEX−521」等)等の脂肪族のグリシジルエーテル系ポリエポキシド、又は脂肪族のグリシジルエーテル系エポキシドが好ましい。
【0043】
(3)防曇膜形成材料の作製について
本発明の防曇膜形成材料は、前記の一般式[1]で表される化合物と、前記の多官能エポキシ化合物とを、四級アンモニウム塩又は四級ホスホニウム塩の存在下で架橋反応させること(防曇膜形成材料作製工程)によって得られる。前記四級アンモニウム塩又は四級ホスホニウム塩は、前記の一般式[1]で表される化合物のカルボキシル基と、前記の多官能エポキシ化合物のエポキシ基との架橋反応を促進させるものであり、それ自身も防曇膜形成材料の一部となるものであってもよい。
【0044】
四級アンモニウム塩としては、トリエチルベンジルアンモニウムクロリド、トリメチルセチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムブロミド、トリメチルベンジルアンモニウムクロリド等が挙げられる。また、四級ホスホニウム塩としては、テトラブチルホスホニウムブロミド、ブチルトリフェニルホスホニウムブロミド、エチルトリフェニルホスホニウムブロミド、メチルトリフェニルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラパラメチルフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムチオシアネート、及びテトラブチルホスホニウムデカン酸塩等が挙げられる。それらの中でも、耐熱性、前記架橋反応促進効果が良好な、エチルトリフェニルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムブロミド等が好ましい。
【0045】
前記四級アンモニウム塩又は四級ホスホニウム塩は、前記多官能エポキシ化合物に対して0.1〜2.0質量%添加することが好ましい。前記添加量が0.1質量%未満の場合、前記架橋反応促進効果が小さい傾向があり、得られる防曇膜の耐熱性、耐酸性、耐アルカリ性が不十分となる場合がある。一方、前記添加量が2.0質量%を超えても架橋反応促進効果はあまり変化せず、コストの面から好ましくない。
【0046】
前記防曇膜形成材料は、前記一般式[1]で表される化合物のYがカルボキシル基の場合、カルボキシル基1モル量に対し、前記多官能エポキシ化合物のエポキシ基が1〜2モル量となるように架橋反応して得られたものであることが好ましい。前記カルボキシル基1モル量に対し、前記エポキシ基が1モル量未満であると、得られる防曇膜中に未反応のカルボキシル基が残存し、防曇膜の耐アルカリ性が低下する傾向があり好ましくない。また、前記カルボキシル基1モル量に対し、前記エポキシ基が2モル量超であると、エポキシ基同士の反応により形成された結合部位が多くなり得られる防曇膜の耐酸性が低下する傾向があり好ましくない。より好ましい防曇膜形成材料は、前記カルボキシル基1モル量に対し、前記エポキシ基が1〜1.7モル量となるように架橋反応して得られたものである。
【0047】
前記の防曇膜形成材料作製工程において、一般式[1]で表される化合物と、前記の多官能エポキシ化合物との、四級アンモニウム塩又は四級ホスホニウム塩の存在下での架橋反応は、溶媒中で行う。溶媒としては、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブタノール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、シクロヘキサノール、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。相溶性、安全性の観点からエチルアルコールが好ましい。また、複数の溶媒を用いて混合溶媒としてもよい。
【0048】
本発明の防曇膜形成材料の重量平均分子量は、100,000〜5,000,000である。該重量平均分子量が100,000未満の場合、防曇膜の耐摩耗性、耐酸性、耐アルカリ性が不十分となる。一方、該重量平均分子量が5,000,000超の場合、溶媒に完全には溶解させることができなくなり均一な防曇膜形成用塗布液を得ることができない。前記重量平均分子量が100,000〜2,000,000であるとより好ましい。
【0049】
上述のように、重量平均分子量が、100,000〜5,000,000の防曇膜形成材料が得られるのであれば、前記の一般式[1]で表される化合物と、前記の多官能エポキシ化合物とを、四級アンモニウム塩又は四級ホスホニウム塩の存在下で架橋反応させる際(防曇膜形成材料作製工程)の反応条件は特に限定されないが、該反応は50℃以上、溶媒の沸点以下で行われることが好ましく、密閉容器内で行う場合は、加圧状態となってもよく、その場合の反応温度の上限は溶媒の沸点+20℃であってもよい。また、上記架橋反応を安定的に進行させやすく、得られる防曇膜形成材料の重量平均分子量を制御しやすいことから、還流下で反応させることが好ましい。
【0050】
2.防曇膜形成用塗布液
本発明の防曇膜形成用塗布液は、前記防曇膜形成材料作製工程で得られた防曇膜形成材料を含む溶液を濃縮すること又は該溶液に溶媒を添加することにより固形分濃度及び粘度を調整する操作、得られた防曇膜形成材料を含む溶液にさらに硬化剤を添加する操作、及び、得られた防曇膜形成材料を含む溶液にさらに微粒子を添加する操作からなる群から選ばれる少なくとも1つの操作を行う、塗布液の調製工程を経て作製される。
【0051】
防曇膜形成用塗布液に含まれる溶媒は、前記防曇膜形成材料作製工程において用いた溶媒をそのまま用いたものであってもよいし、固形分濃度及び粘度を調整するために、さらに添加した溶媒であってもよい。該溶媒としては、前記防曇膜形成材料作製工程において用いた溶媒と同様の種類のものが挙げられる。
【0052】
前記調液工程で、固形分濃度及び粘度が調整された防曇膜形成用塗布液が得られる。防曇膜形成用塗布液の固形分濃度は20〜60質量%であることが好ましい。該固形分濃度範囲内であると、防曇膜を形成した際に、該防曇膜の膜厚を制御しやすい。また、防曇膜形成用塗布液の粘度は、例えばJIS Z 8803に準拠した測定方法において、25℃での粘度が20〜200mPa・sであることが好ましい。該粘度範囲内であると、後述する防曇膜形成用塗布液塗布工程の際に、塗膜のレベリング性が良好で、その結果、成膜性が良好である。なお、前記調液工程で行われることのある濃縮としては、加熱濃縮、脱気濃縮等の公知の方法が挙げられる。
【0053】
前記調液工程で、添加することのある硬化剤は、エポキシ基の反応を促進し、後述する硬化工程で塗膜の硬化を促進するものであり、それ自身も防曇膜の一部となるものであってもよい。該硬化剤としては、アミン化合物、イミダゾール化合物などが挙げられる。また、複数の硬化剤を添加してもよい。前記硬化剤の中でも、エポキシ基の反応性促進効果、硬化後の防曇膜の耐熱性、膜強度が良好となるため、ポリオキシアルキレントリアミン(例えば、三井化学ファイン株式会社製の商品名「T403」等)、ポリオキシアルキレンジアミン(例えば、三井化学ファイン株式会社製の商品名「D230」等)等が好ましい。
【0054】
また、本発明の防曇膜形成用塗布液には、本発明の目的を損なわない限りにおいて、公知の界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、赤外線吸収剤、難燃剤、加水分解防止剤、防黴剤、酸化物微粒子などの無機微粒子、有機物微粒子等の成分が含有されていてもよい。上記の成分は、元々、原料である、一般式[1]で表される化合物や、多官能エポキシ化合物や、四級アンモニウム塩又は四級ホスホニウム塩に含まれるものであってもよいし、防曇膜形成材料作製工程において添加されたものであってもよいし、調液工程において添加されたものであってもよいが、反応に影響を及ぼさないように調液工程において添加されたものであることが好ましい。
【0055】
また、特に、前記無機微粒子や有機物微粒子等の微粒子成分を含有させると、得られる防曇膜中に該微粒子成分が存在することにより、仮に、防曇膜表面の一部に付着した液体の汚染物質が、該膜中に吸収されて取り込まれた状態となったとしても、汚染物質が付着した部分の膜膨張が抑制されるため、付着しなかった部分との間で膜厚差が大きくなりにくいので、結果として視覚的なひずみを生じにくくなるため好ましい。上記微粒子は、液中に均一分散されたコロイド状のものが好ましく、例えば、日産化学社製の「メタノールシリカゾル」、「MA−ST−MS」、「IPA−ST」、「IPA−ST−MS」、「IPA−ST−L」、「IPA−ST−ZL」、「IPA−ST−UP」、「EG−ST」、「NPC−ST−30」、「MEK−ST」、「MEK−ST−MS」、「MIBK−ST」、「XBA−ST」、「PMA−ST」、「DMAC−ST」、「ST−20」、「ST−30」、「ST−40」、「ST−C」、「ST−N」、「ST−O」、「ST−S」、「ST−50」、「ST−20L」、「ST−OL」、「ST−XS」、「ST−XL」、「ST−YL」、「ST−ZL」、「QAS−40」、「LSS−35」、「LSS−45」、「ST−UP」、「ST−OUP」、「ST−AK」、ADEKA社製の「AT−20」、「AT−30」、「AT−40」、「AT−50」、「AT−20N」、「AT−20A」、「AT−30A」、「AT−20Q」、「AT−300」、「AT−300S」、扶桑化学工業製の「PL−1」、「PL−3」、「PL−70」、「PL−20」、「PL−1−PA」、「PL−1−MA」等が挙げられる。上記微粒子はBET法により、粒子径を測定することで得られる平均粒径が、5〜100nmであることが好ましい。5nm未満では膜膨張の低減効果が小さくなる傾向があるため好ましくない。100nm超では光の散乱中心として働き、膜のヘイズが増大する傾向があるため好ましくない。より好ましくは10〜80nmである。また、防曇膜中に含有させる微粒子は、防曇膜の固形分100質量部に対して固形分で50質量部以下となるように含有させることが好ましい。50質量部超であると得られる防曇膜の吸水量が低下する傾向があるため好ましくない。微粒子のより好ましい含有量は、防曇膜の固形分100質量部に対して固形分で3〜30質量部である。
【0056】
3.防曇性物品
本発明の防曇性物品は、基材とその表面に形成されたプライマー層、及び該プライマー層表面に形成された防曇膜を有する防曇性物品であり、少なくとも、基材表面にシランカップリング剤からなるプライマー層を形成する、プライマー層形成工程、前記防曇膜形成用塗布液を前記プライマー層上に塗布する、防曇膜形成用塗布液塗布工程、前記塗布工程後の塗膜を硬化する、硬化工程を経て得られたものである。
【0057】
前記基材としては、光透過性、光反射性又は光沢性を有し、曇りにより著しく視認性、外観、意匠性が損なわれるものが挙げられる。
【0058】
光透過性を有する代表的な基材としてはガラスが挙げられる。該ガラスは自動車用ならびに建築用、産業用ガラス等に通常用いられている板ガラスであり、フロート法、デュープレックス法、ロールアウト法等による板ガラスであって、製法は特に問わない。ガラス種としては、クリアをはじめグリーン、ブロンズ等の各種着色ガラスやUV、IRカットガラス、電磁遮蔽ガラス等の各種機能性ガラス、網入りガラス、低膨張ガラス、ゼロ膨張ガラス等防火ガラスに供し得るガラス、強化ガラスやそれに類するガラス、合わせガラスのほか複層ガラス等が挙げられる。また、上記板ガラス以外に、例えば、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルム、ポリカーボネート、アクリル等の樹脂板等を挙げることもできる。
【0059】
また、光反射性を有する代表的な基材としては、鏡、金属、金属メッキされた物品等が挙げられる。
【0060】
また、光沢性を有する代表的な基材としては、金属、金属メッキされた物品、セラミックス等が挙げられる。
【0061】
上記の基材には、平板、曲げ板等各種の成形体を使用できる。板厚は特に制限されないが、1.0mm以上10mm以下が好ましく、例えば車両用の窓材としては1.0mm以上5.0mm以下が好ましい。
【0062】
前記プライマー層を形成する化合物としては、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤が挙げられる。
【0063】
前記防曇膜形成用塗布液塗布工程で、前記プライマー層上に前記防曇膜形成用塗布液を塗布する方法としては、ディップコート、フローコート、スピンコート、ロールコート、スプレーコート、ノズルコート、スクリーン印刷、フレキソ印刷、手塗り法、インクジェット法等の公知の方法が挙げられる。
【0064】
前記硬化工程で塗膜を硬化する方法としては、熱硬化、光硬化等が挙げられる。熱硬化の場合、加熱温度は50〜200℃が好ましい。50℃未満では硬化速度が遅く、硬化に時間が掛かる傾向があるため好ましくない。一方、200℃超では前記防曇膜を形成する材料自体が劣化する場合があるため好ましくない。また、熱硬化の場合は、基材の耐熱温度未満の温度で硬化を行う必要がある。光硬化させる場合は、一般的なラジカル重合開始剤、もしくはカチオン性重合開始剤を前記塗布液に添加して用い、光照射の方法はとくに限定されず、高圧水銀灯やキセノンランプ等を用いることができる。
【0065】
前記硬化工程で加熱により塗膜を硬化する場合、50℃〜80℃で加熱することが更に好ましい。基材として車両用等の合わせガラスを用いる場合であっても、80℃以下であれば、該合わせガラスの中間膜が熱により変形や収縮することがない。
【0066】
また、前記硬化工程後に防曇膜表面を洗浄する、膜洗浄工程をさらに行っても良い。前記硬化工程後の防曇膜表面を洗浄することにより、防曇膜の形成に関与しなかった成分(防曇膜とは結合せずに該膜中に留まっていた原料、及び原料由来の成分)や、硬化工程後に防曇膜表面に付着した汚れを低減すると、後述する、該防曇膜の吸水飽和時の単位面積の吸水量、35℃水蒸気防曇性が向上するため好ましい。前記膜洗浄工程で用いる洗浄液としては、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブタノール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、シクロヘキサノール、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン等が挙げられる。洗浄性、安全性の観点から水が好ましい。また、複数の溶媒を用いた混合溶媒を前記洗浄液としてもよい。また、前記膜洗浄工程で防曇膜表面を洗浄する方法としては、超音波洗浄、スプレー洗浄、シャワー洗浄、ジェット洗浄、浸漬洗浄、バブリング洗浄、噴流洗浄、クイックダンプリンス、流水式洗浄、蒸気洗浄等が挙げられ、中でも、作業性が良好であるためシャワー洗浄、流水式洗浄または、浸漬洗浄等が好ましい。
【0067】
本発明の防曇性物品の防曇膜の厚さは5〜100μmであることが好ましい。5μm未満であると、前記防曇膜に十分な吸水性能が付与されない傾向があり、好ましくない。一方、100μmを超えると、防曇膜に光学的な歪が生じ易くなることや、生産性が低下することがあるため、好ましくない。
【0068】
本発明の防曇性物品の防曇膜表面に対するJIS R 3212に準拠した耐摩耗性試験前後において、防曇性物品の該試験実施箇所のヘーズ値を測定した際の、それぞれのヘーズ値の差は4.0以下であることが好ましい。該ヘーズ値の差が4.0以下であると防曇性物品の外観や視認性が確保できるため、防曇膜が実使用に耐えうる耐摩耗性を有しているといえる。より好ましくは該ヘーズ値の差が3.5以下である。
【0069】
本発明の防曇性物品を100℃の熱に1000時間晒した後の防曇性低下率は40%以下であることが好ましい。防曇性低下率とは、防曇性物品を100℃の熱に晒す前の防曇膜の吸水飽和時の単位面積の吸水量をAとし、100℃の熱に1000時間晒した後の防曇性物品の防曇膜の吸水飽和時の単位面積の吸水量をBとしたときに、(A−B)×100/Aで表される値(%)である。該防曇性低下率が40%超であると、防曇膜中の吸水性に寄与する部位の分解、又は未反応の親水性活性基の反応により、熱に晒す前と比べて防曇膜の構造が変化した可能性があり、防曇膜の品質を長期維持することが難しくなる。より好ましくは該防曇性低下率が20%以下である。
【0070】
本発明の防曇性物品の防曇膜の吸水飽和時の単位面積の吸水量(前記吸水量A)は0.2〜5mg/cmであることが好ましい。該吸水量が上記範囲内であると、防曇膜が十分な吸水性能を有するため、該防曇膜を有する防曇性物品が十分な防曇性を発揮しやすい。また、防曇膜が良好な耐摩耗性を有しやすい。より好ましくは該吸水量が0.2〜3mg/cmである。
【0071】
本発明の防曇性物品は、上記の防曇膜上にオーバーコート層を設けてもよい。オーバーコート層を設けることで、オレンジジュースやコーヒーなどの汚染物質が付着しても着色しにくくすることができ、また同時に耐摩耗性を向上させることもできる。防曇膜上のオーバーコート層としてWO2011/004873に記載がある。しかしながら、該オーバーコート層は、微粒子(シリカ微粒子)を主成分として含むことを特徴としており、また、シリカ骨格の無機材料から構成されるため密度が1.0g/cm以上と高い(なお、膜の密度の測定方法は後述する)。そのため、該オーバーコート層を本防曇膜に適用すると防曇性の低下や、得られる防曇性物品のヘーズが高くなり外観上に問題が生じる。よって前記のようなオーバーコート層は本発明の防曇膜には適用できない。しかしながら、微粒子を含まず密度が0.50〜0.85g/cmのオーバーコート層を防曇膜上に設けると、防曇性や外観を損なうことなく汚染物質に対する耐性を高めることができることを見出した。そのようなオーバーコート層としては一般的に用いられる樹脂、例えば、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、スルホアミド樹脂、ユリア樹脂、シアネート樹脂、ウレタン樹脂、ポリウレア、チオウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、オキセタン樹脂、アルキド樹脂、フタル酸樹脂、アリル樹脂、フェノール樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリアミド樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。防曇膜との密着性の観点からエポキシ樹脂がより好ましく、より好ましくは、重量平均分子量が2,000〜150,000のポリアクリル酸類と、25℃の水に対する溶解性が40〜100質量%である前述したような多官能エポキシ化合物との反応物が好ましい。また、オーバーコート層の膜厚は10nm〜1000nmであることが好ましく、15〜200nmであるとさらに好ましい。また、前記オーバーコート層は前記硬化工程の後、膜洗浄工程の前に防曇膜表面に形成することが好ましい。
【実施例】
【0072】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本実施例及び比較例で得られた防曇性物品(以下、「サンプル」と記載する場合がある)は、以下に示す方法により品質評価を行った。
【0073】
[防曇膜の膜厚]
触針式表面粗さ計(小坂研究所製、サーフコーダーET−4000A)を用いて、基材上に形成した防曇膜の膜厚を測定した。
【0074】
[耐摩耗性]
JIS R 3212に準じて、防曇膜面を上面として防曇性物品を回転台にのせ、摩耗輪に4.9Nの荷重をかけ、一定速度で100回転させる試験を行った後、試験を行った箇所のヘーズ値と試験を行う前の該箇所のヘーズ値との差を算出した。前記のヘーズ値の差が4.0以下であれば、防曇膜の実使用上の耐摩耗性の観点から良好であり、該ヘーズ値の差が小さいほど耐摩耗性がより優れているといえる。
【0075】
[35℃水蒸気防曇性]
35℃飽和水蒸気で満たされた槽の上部に、防曇膜面を前記槽に向けてサンプルを設置し、曇りが生じるまでの時間を測定した。該試験において、曇りが生じるまでの時間が30秒以上であれば、サンプルの防曇膜の防曇性は良好であり、該時間が長いほど防曇性がより優れているといえる。
【0076】
[耐熱性]
100℃で保持された恒温槽で1000時間サンプルを保持し、外観の不具合の有無を目視で確認し、不具合がなかったものを外観上合格とし(表中で○と表記)、不具合があったものを外観上不合格とした(表中で×と表記)。なお、外観上の不具合とは黄変や膜表面にブツブツなどの凹凸が発生することである。また、前記の防曇性低下率を算出した。該防曇性低下率が40%以下であれば、熱に対して防曇膜の品質を長期間維持しやすいため好ましく、該防曇性低下率が小さいほど耐熱性がより優れているといえる。
【0077】
[防曇膜の吸水飽和時の単位面積吸水量]
温度80℃の乾燥炉で2時間保持した後の防曇性物品の質量(a)を測定し、防曇膜に35℃飽和水蒸気を60分間接触させ、蒸気が暴露する全面に曇りを生じさせ、防曇膜を吸水飽和させた。その後、防曇膜表面の水滴を払拭した後に防曇性物品の質量(b)を測定した。「(b−a)/蒸気暴露面積」の計算式で得られた値を防曇膜の吸水飽和時の単位面積吸水量とした。尚、ここでの(a)値は、防曇膜が吸水していない状態のものに相当する。該単位面積の吸水量が0.2〜5mg/cmであれば、防曇性物品が十分な防曇性を発揮しやすく、防曇膜が良好な耐摩耗性を有しやすい。
【0078】
[耐酸性]
防曇膜面に3質量%HSO水溶液を23℃で24時間付着させ、膜の溶解や剥離がなかったものを表中で○と表記し、一部で剥離や外観不具合が生じたものを表中で△と表記し、全面に剥離や外観不具合や溶解が生じたものを表中で×と表記した。
【0079】
[耐アルカリ性]
防曇膜面に1質量%NaOH水溶液を23℃で24時間付着させ、膜の溶解や剥離がなかったものを表中で○と表記し、一部で剥離や外観不具合が生じたものを表中で△と表記し、全面に剥離や外観不具合や溶解が生じたものを表中で×と表記した。
【0080】
[密着性]
防曇性物品に対しクロスカット試験を行い、防曇膜に剥離が生じなかったものを表中で○と表記し、一部で剥離が生じたものを表中で△と表記し、全面で剥離が生じたものを表中で×と表記した。
【0081】
[耐汚染性(耐着色性)]
防曇膜面に市販のオレンジジュース(商品名:トロピカーナ100%ジュース、キリンビバレッジ(株)製)を80℃で24時間付着させた。付着前の物品と、付着後に表面を洗浄した後の物品との色差(ΔE)を測定した。色差の測定は、分光色差計(NF333、日本電色工業株式会社製)によって行った。なお、前記ΔEの値は小さいほど好ましい。
【0082】
[実施例1]
(基材の準備)
基材として、厚さ3mm、100mm四方のフロートガラスを使用した。該基材表面をセリア微粒子で研磨し、ブラッシング洗浄を行い乾燥した。
【0083】
(プライマー層の形成)
プライマー層を形成する化合物として3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(以降、「GPTMS」と記載する場合がある)を0.1g、エタノール(以降、「EtOH」と記載することがある)を50g混合した液に0.5N硝酸を0.1g加えて、プライマー液を調製した。該液をスピンコーティングにより前記基材表面に塗布し、100℃で30分焼成することで基材上にプライマー層を形成した。
【0084】
(防曇膜形成材料作製工程)
まず、前記一般式[1]で表される化合物を合成した。N,N−ジエチルアクリルアミド(以降、「DEAA」と記載する場合がある)とアクリル酸(以降、「AA」と記載する場合がある)を原料として用い、モル比でDEAA/AA=1.3/1.0の割合で、65℃で3時間反応させ、重量平均分子量が60,000の共重合体(前記一般式[1]で表される化合物)を得た。本実施例の前記共重合体において、前記一般式[1]のXで表される基は−C(=O)N(C基に相当し、Yで表される基はカルボキシル基に相当する。前記一般式[1]中のaとbは、−C(=O)N(C基を有する繰り返し構造単位とカルボキシル基を有する繰り返し構造単位の存在比率であり、原料として用いた−C(=O)N(C基を有するDEAAとカルボキシル基を有するAAのモル比によって算出することができ、a:b=1.3:1.0である。次いで、前記の共重合体0.52gに対し、多官能エポキシ化合物としてポリグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製の商品名「デナコールEX−421」、25℃の水に対する溶解率は88質量%、平均官能基数は3.0)を0.41g加え、四級ホスホニウム塩としてトリフェニルブチルホスホニウムブロミド(以降、「TPBPB」と記載することがある)を0.0052g加え、溶媒としてメタノール(以降、「MeOH」と記載することがある)を2.07g加えて、80℃のオイルバス浴をさせた密閉容器内で5時間リフラックス攪拌し、重量平均分子量が300,000の防曇膜形成材料を含む溶液を作製した。なお、前記多官能エポキシ化合物は、前記共重合体のカルボキシル基1モル量に対し、該多官能エポキシ化合物のエポキシ基が1.4モル量となるように添加された。
【0085】
(調液工程)
上記で作製した防曇膜形成材料を含む溶液に、さらに溶媒としてメタノールを加えて希釈し、防曇膜形成用塗布液を調液した。得られた防曇膜形成用塗布液の25℃での粘度は、JIS Z 8803に準拠した測定方法において、100mPa・sであった。
【0086】
(防曇膜形成用塗布液塗布工程〜硬化工程)
前記防曇膜形成用塗布液を、前記基材のプライマー層上にスピンコーティング法により塗布した。前記塗布液が塗布された基材を80℃に保持された電気炉に16時間入れ、硬化させることにより防曇膜を形成させて防曇性物品を得た。
【0087】
防曇膜形成用塗布液と防曇性物品の作製条件を表1に、得られた防曇性物品の品質評価結果を表2に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
[実施例2〜27]
実施例1で、防曇膜形成材料の作製に用いた一般式[1]で表される化合物(該化合物のX基、Y基、a:b比、重量平均分子量)、多官能エポキシ化合物、四級アンモニウム塩又は四級ホスホニウム塩、カルボキシル基1モル量に対するエポキシ基のモル量、防曇膜形成材料の重量平均分子量、防曇膜形成用塗布液の溶媒、硬化剤、防曇膜の硬化工程の温度、及び、防曇性物品のプライマー層を形成する化合物を変更し、それ以外は実施例1と同様の操作で防曇性物品を作製し評価を行った。防曇膜形成用塗布液と防曇性物品の作製条件を表1、3、5、7、9に、得られた防曇性物品の品質評価結果を表2、4、6、8、10にそれぞれ示す。
【0091】
なお、表中で、X基が「−C(=O)N(CH」で表される繰り返し構造は原料としてN,N−ジメチルアクリルアミドを用いて形成された構造であり、Y基が「−C(=O)OCCOOH」で表される繰り返し構造は原料としてβ−カルボキシエチルアクリレートを用いて形成された構造であり、Y基が「−C(=O)OCO(C=O)CCOOH」で表される繰り返し構造は原料としてこはく酸モノ(2−アクリロイルオキシエチル)を用いて形成された構造であり、「TPEPB」はトリフェニルエチルホスホニウムブロミドを意味し、「APTES」は3−アミノプロピルトリエトキシシランを意味する。また、「T403」は三井化学ファイン株式会社製のポリオキシアルキレントリアミン(商品名「T403」)を意味し、実施例12では、防曇膜形成用塗布液中の固形分の総量に対してT403が1質量%となるように、防曇膜形成用塗布液にT403を添加した。
【0092】
なお、実施例20は、防曇膜形成材料の重量平均分子量が大きく、該防曇膜形成材料を溶媒に溶解させるのに長時間を要した。実施例22は、前記一般式[1]で表される化合物の重量平均分子量が大きく、防曇膜形成用塗布液の粘度が高くなり、該塗布液を基材に塗布した際に塗膜をレベリングするのに他の実施例に比べ長時間を要した。また、実施例25は、前記一般式[1]で表される化合物の重量平均分子量が実施例22の場合よりもさらに大きく、防曇膜形成用塗布液の粘度がより高くなり、該塗布液を基材に塗布した際に塗膜をレベリングするのに実施例22に比べさらに長時間を要した。
【0093】
[比較例1]
前記の「一般式[1]で表される化合物」を用いなかった以外は実施例1と同様の操作で防曇性物品を作製し評価を行った。得られた防曇性物品の防曇膜は、耐摩耗性が不十分であった。また、耐酸性が悪く、該試験中に防曇膜が溶解した。防曇膜形成用塗布液と防曇性物品の作製条件を表1に、得られた防曇性物品の品質評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0094】
[比較例2]
前記の「多官能エポキシ化合物」を用いなかった以外は実施例1と同様の操作で防曇性物品を作製し評価を行った。得られた防曇性物品の防曇膜は、耐摩耗性試験で剥離したため耐摩耗性が不十分であった。また、35℃水蒸気防曇性、耐酸性、耐アルカリ性試験中に防曇膜が溶解した。防曇膜形成用塗布液と防曇性物品の作製条件を表1に、得られた防曇性物品の品質評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0095】
[比較例3]
前記の「四級アンモニウム塩又は四級ホスホニウム塩」を用いなかった以外は実施例1と同様の操作で防曇性物品を作製し評価を行った。得られた防曇性物品の防曇膜は、耐酸性、耐アルカリ性が劣るものであった。防曇膜形成用塗布液と防曇性物品の作製条件を表1に、得られた防曇性物品の品質評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0096】
[比較例4]
防曇膜形成材料の作製に用いた一般式[1]で表される化合物として、該化合物のa:b比が3:1の化合物を用いた以外は実施例1と同様の操作で防曇性物品を作製し評価を行った。得られた防曇性物品の防曇膜は、耐摩耗性、耐酸性、耐アルカリ性が劣るものであった。防曇膜形成用塗布液と防曇性物品の作製条件を表3に、得られた防曇性物品の品質評価結果を表4にそれぞれ示す。
【0097】
[比較例5]
防曇膜形成材料の作製に用いた一般式[1]で表される化合物として、該化合物のa:b比が0.5:1の化合物を用いた以外は実施例1と同様の操作で防曇性物品を作製し評価を行った。得られた防曇性物品の防曇膜は、耐アルカリ性が劣るものであった。また、耐熱性試験における防曇性低下率が大きかった。防曇膜形成用塗布液と防曇性物品の作製条件を表3に、得られた防曇性物品の品質評価結果を表4にそれぞれ示す。
【0098】
[比較例6]
多官能エポキシ化合物として、25℃の水に対する溶解率が40質量%未満で水に不溶なEX−622(ナガセケムテックス株式会社製ソルビトールポリグリシジルエーテル)を使用した以外は実施例1と同様の操作で防曇性物品を作製した。得られた防曇性物品の防曇膜は、白濁しており視認性のある防曇性物品を得ることができなかった。また、該白濁によりヘーズ値の変化や外観上の曇り具合を正確に評価できないため、該防曇膜の耐摩耗性、防曇性、耐熱性の評価ができなかった。また、耐酸性、耐アルカリ性が悪く、該試験中に防曇膜が溶解した。防曇膜形成用塗布液と防曇性物品の作製条件を表5に、得られ
た防曇性物品の品質評価結果を表6にそれぞれ示す。
【0099】
[比較例7]
重量平均分子量が85,000の防曇膜形成材料を用いた以外は実施例1と同様の操作で防曇性物品を作製した。得られた防曇性物品は、耐摩耗性、耐酸性、耐アルカリ性が劣るものであった。防曇膜形成用塗布液と防曇性物品の作製条件を表7に、得られた防曇性物品の品質評価結果を表8にそれぞれ示す。
【0100】
[比較例8]
重量平均分子量が7,000,000の防曇膜形成材料を用いた以外は実施例1と同様の操作で防曇性物品の作製を試みた。しかし、防曇膜形成材料の一部がメタノールに不溶であり、均一な防曇膜形成用塗布液を得ることができず、成膜することができなかった。
【0101】
【表3】
【0102】
【表4】
【0103】
【表5】
【0104】
【表6】
【0105】
【表7】
【0106】
【表8】
【0107】
【表9】
【0108】
【表10】
【0109】
[実施例28〜54、比較例9〜16]
硬化工程後に防曇膜表面を水で流水式洗浄すること以外は、それぞれ、実施例1〜27、比較例1〜8と同様の操作で防曇性物品を作製し評価を行った。防曇膜形成用塗布液と防曇性物品の作製条件を表11、13、15、17、19に、得られた防曇性物品の品質評価結果を表12、14、16、18、20にそれぞれ示す。上記の洗浄により、該防曇膜の吸水飽和時の単位面積の吸水量、35℃水蒸気防曇性が向上することが確認された。
【0110】
なお、実施例20と同様に、実施例47は、防曇膜形成材料の重量平均分子量が大きく、該防曇膜形成材料を溶媒に溶解させるのに長時間を要した。実施例22と同様に、実施例49は、前記一般式[1]で表される化合物の重量平均分子量が大きく、防曇膜形成用塗布液の粘度が高くなり、該塗布液を基材に塗布した際に塗膜をレベリングするのに他の実施例に比べ長時間を要した。また、実施例25と同様に、実施例52は、前記一般式[1]で表される化合物の重量平均分子量が実施例49の場合よりもさらに大きく、防曇膜形成用塗布液の粘度がより高くなり、該塗布液を基材に塗布した際に塗膜をレベリングするのに実施例49に比べさらに長時間を要した。比較例14では、得られた防曇性物品の防曇膜は、白濁しており視認性のある防曇性物品を得ることができなかった。該白濁によりヘーズ値の変化や外観上の曇り具合を正確に評価できないため、該防曇膜の耐摩耗性、防曇性、耐熱性の評価ができなかった。また、比較例16では、防曇膜形成材料の一部がメタノールに不溶であり、均一な防曇膜形成用塗布液を得ることができず、成膜することができなかった。
【0111】
[実施例55]
実施例1の調液工程において、防曇膜形成材料を含む溶液に、溶媒としてメタノールを加え、さらにコロイダルシリカ(日産化学社製、品番:IPA−ST−L、平均粒径:40nm)を加えて、防曇膜形成用塗布液を調液した。このとき、IPA−ST−Lは防曇膜の固形分100質量部に対して固形分で5質量部となるように添加した。上記以外は実施例1と同様の操作で防曇性物品を作製し評価を行った。得られた防曇性物品の特性(防曇膜の膜厚、耐摩耗性、35℃水蒸気防曇性、耐熱性、防曇膜の吸水飽和時の単位面積吸水量、耐酸性、耐アルカリ性、密着性)は表20に示すように実施例1と同等であり、該防曇性物品の防曇膜表面の一部に汚染物質としてJISL0848記載の人工汗液を接触させて吸収させた場合に、吸収させた部分と吸収させなかった部分とで外観上のひずみは、防曇膜に前記微粒子を含有させなかった場合(実施例1)に比べ、軽減されていることを確認した。
【0112】
[実施例56]
実施例28の調液工程において、防曇膜形成材料を含む溶液に、溶媒としてメタノールを加え、さらにコロイダルシリカ(日産化学社製、品番:IPA−ST−L、平均粒径:40nm)を加えて、防曇膜形成用塗布液を調液した。このとき、IPA−ST−Lは防曇膜の固形分100質量部に対して固形分で5質量部となるように添加した。上記以外は実施例28と同様の操作で防曇性物品を作製し評価を行った。得られた防曇性物品の特性(防曇膜の膜厚、耐摩耗性、35℃水蒸気防曇性、耐熱性、防曇膜の吸水飽和時の単位面積吸水量、耐酸性、耐アルカリ性、密着性)は表20に示すように実施例28と同等であり、該防曇性物品の防曇膜表面の一部に汚染物質としてJISL0848記載の人工汗液を接触させて吸収させた場合に、吸収させた部分と吸収させなかった部分とで外観上のひずみは、防曇膜に前記微粒子を含有させなかった場合(実施例28)に比べ、軽減されていることを確認した。
【0113】
[実施例57]
実施例1の調液工程において、防曇膜形成材料を含む溶液に、溶媒としてメタノールを加え、さらにコロイダルシリカ(日産化学社製、品番:IPA−ST−L、平均粒径:40nm)を加えて、防曇膜形成用塗布液を調液した。このとき、IPA−ST−Lは防曇膜の固形分100質量部に対して固形分で10質量部となるように添加した。上記以外は実施例1と同様の操作で防曇性物品を作製し評価を行った。得られた防曇性物品の特性(防曇膜の膜厚、耐摩耗性、35℃水蒸気防曇性、耐熱性、防曇膜の吸水飽和時の単位面積吸水量、耐酸性、耐アルカリ性、密着性)は表20に示すように実施例1と同等であり、該防曇性物品の防曇膜表面の一部に汚染物質としてJISL0848記載の人工汗液を接触させて吸収させた場合に、吸収させた部分と吸収させなかった部分とで外観上のひずみは、防曇膜に前記微粒子を含有させなかった場合(実施例1)に比べ、軽減されていることを確認した。
【0114】
[実施例58]
実施例28の調液工程において、防曇膜形成材料を含む溶液に、溶媒としてメタノールを加え、さらにコロイダルシリカ(日産化学社製、品番:IPA−ST−L、平均粒径:40nm)を加えて、防曇膜形成用塗布液を調液した。このとき、IPA−ST−Lは防曇膜の固形分100質量部に対して固形分で10質量部となるように添加した。上記以外は実施例28と同様の操作で防曇性物品を作製し評価を行った。得られた防曇性物品の特性(防曇膜の膜厚、耐摩耗性、35℃水蒸気防曇性、耐熱性、防曇膜の吸水飽和時の単位面積吸水量、耐酸性、耐アルカリ性、密着性)は表20に示すように実施例28と同等であり、該防曇性物品の防曇膜表面の一部に汚染物質としてJISL0848記載の人工汗液を接触させて吸収させた場合に、吸収させた部分と吸収させなかった部分とで外観上のひずみは、防曇膜に前記微粒子を含有させなかった場合(実施例28)に比べ、軽減されていることを確認した。
【0115】
[実施例59]
実施例1の調液工程において、防曇膜形成材料を含む溶液に、溶媒としてメタノールを加え、さらにコロイダルシリカ(日産化学社製、品番:IPA−ST−L、平均粒径:40nm)を加えて、防曇膜形成用塗布液を調液した。このとき、IPA−ST−Lは防曇膜の固形分100質量部に対して固形分で20質量部となるように添加した。上記以外は実施例1と同様の操作で防曇性物品を作製し評価を行った。得られた防曇性物品の特性(防曇膜の膜厚、耐摩耗性、35℃水蒸気防曇性、耐熱性、防曇膜の吸水飽和時の単位面積吸水量、耐酸性、耐アルカリ性、密着性)は表20に示すように実施例1と同等であり、該防曇性物品の防曇膜表面の一部に汚染物質としてJISL0848記載の人工汗液を接触させて吸収させた場合に、吸収させた部分と吸収させなかった部分とで外観上のひずみは、防曇膜に前記微粒子を含有させなかった場合(実施例1)に比べ、軽減されていることを確認した。
【0116】
[実施例60]
実施例28の調液工程において、防曇膜形成材料を含む溶液に、溶媒としてメタノールを加え、さらにコロイダルシリカ(日産化学社製、品番:IPA−ST−L、平均粒径:40nm)を加えて、防曇膜形成用塗布液を調液した。このとき、IPA−ST−Lは防曇膜の固形分100質量部に対して固形分で20質量部となるように添加した。上記以外は実施例28と同様の操作で防曇性物品を作製し評価を行った。得られた防曇性物品の特性(防曇膜の膜厚、耐摩耗性、35℃水蒸気防曇性、耐熱性、防曇膜の吸水飽和時の単位面積吸水量、耐酸性、耐アルカリ性、密着性)は表20に示すように実施例28と同等であり、該防曇性物品の防曇膜表面の一部に汚染物質としてJISL0848記載の人工汗液を接触させて吸収させた場合に、吸収させた部分と吸収させなかった部分とで外観上のひずみは、防曇膜に前記微粒子を含有させなかった場合(実施例28)に比べ、軽減されていることを確認した。
【0117】
[実施例61]
オーバーコート層として、重量平均分子量が25,000であるポリアクリル酸(AC−10LP、東亞合成株式会社製の商品名「ジュリマー」)(以降、「PAA25000」と記載する場合がある)と多官能エポキシモノマーとしてポリグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製の商品名「デナコールEX−512」、25℃の水に対する溶解率は100質量%)を原料として用い、0.06gのPAA25000をメタノール19.8gに溶かし、さらにEX−512を0.14g加え、オーバーコート層形成用塗布液を作製した。前記オーバーコート層形成用塗布液を、実施例1で作製した防曇膜上にスピンコーティング法により塗布した。前記塗布液が塗布された基材を80℃に保持された電気炉に1時間入れ、硬化させた後、実施例28と同様に防曇膜表面を水で流水式洗浄することにより防曇膜上にオーバーコート層を形成させて防曇性物品を得た。オーバーコート層の密度は、X線反射率法で臨界角を測定し、これを解析することで求められる。X線反射率法による密度測定については、非特許文献1に詳細に記載されており、本実施例ではXRD測定装置(Rigaku社製RINT−UltimaIII)に付随した汎用の解析プログラムにより導出した。その結果、オーバーコート層の密度は0.62g/cmであった。得られた防曇性物品の品質評価結果を表21に示す。
【0118】
[実施例62]
オーバーコート層として、重量平均分子量が5,000であるポリアクリル酸(AC−10P)(以降、「PAA5000」と記載する場合がある)と多官能エポキシモノマーとしてグリセロールポリグリシジルエーテル(デナコールEX−421、25℃の水に対する溶解率は88質量%)を原料として用い、0.03gのPAA5000をメタノール19.9gに溶かし、さらに、EX−421を0.07g加え、オーバーコート層形成用塗布液を作製した。前記オーバーコート層形成用塗布液を、実施例1で作製した防曇膜上にスピンコーティング法により塗布した。前記塗布液が塗布された基材を80℃に保持された電気炉に1時間入れ、硬化させた後、実施例28と同様に防曇膜表面を水で流水式洗浄することにより防曇膜上にオーバーコート層を形成させて防曇性物品を得た。オーバーコート層の密度は0.59g/cmであった。得られた防曇性物品の品質評価結果を表21に示す。
【0119】
[参考例1]
オーバーコート層として、オルガノシリカゾル(日産化学工業社製、品番:IPA−ST、一次粒径10−15nm、)3.31g、ジメチルジメトキシシラン(東京化成工業社製)0.34gをイソプロパノール20.20gに入れ、25℃で10分間攪拌した。この溶液を攪拌しながら、10質量%硝酸水溶液0.15gに徐々に滴下し、25℃で5時間攪拌した後、レベリング剤(BYK307、ビックケミージャパン社製)を0.03g添加して、オーバーコート層形成用塗布液を作製した。前記オーバーコート層形成用塗布液を、実施例1で作製した防曇膜上にスピンコーティング法により塗布した。前記塗布液が塗布された基材を、110℃の電気炉で30分間保持し硬化させた後、実施例28と同様に防曇膜表面を水で流水式洗浄することにより防曇膜上にオーバーコート層を形成させて防曇性物品を得た。オーバーコート層の密度は1.12g/cmであった。得られた防曇性物品の品質評価結果を表21に示す。得られた防曇性物品の防曇膜は、白濁しており視認性のある防曇性物品を得ることができなかった。また、該白濁によりヘーズ値の変化や外観上の曇り具合を正確に評価できないため、該防曇膜の耐摩耗性、防曇性、耐熱性の評価ができなかった。また、防曇膜の吸水飽和時の単位面積吸水量、耐酸性、耐アルカリ性、密着性、耐汚染性(耐着色性)についても評価を省略した。
【0120】
【表11】
【0121】
【表12】
【0122】
【表13】
【0123】
【表14】
【0124】
【表15】
【0125】
【表16】
【0126】
【表17】
【0127】
【表18】
【0128】
【表19】
【0129】
【表20】
【0130】
【表21】