特許第6107198号(P6107198)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6107198-クリーニングガス及びクリーニング方法 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6107198
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】クリーニングガス及びクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20170327BHJP
   C23C 16/44 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
   H01L21/205
   C23C16/44 J
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-26318(P2013-26318)
(22)【出願日】2013年2月14日
(65)【公開番号】特開2014-154865(P2014-154865A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2015年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108671
【弁理士】
【氏名又は名称】西 義之
(72)【発明者】
【氏名】大森 啓之
(72)【発明者】
【氏名】菊池 亜紀応
(72)【発明者】
【氏名】梅崎 智典
【審査官】 桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−523214(JP,A)
【文献】 特表2010−503977(JP,A)
【文献】 特開2001−267241(JP,A)
【文献】 特開2012−080035(JP,A)
【文献】 特開2012−054528(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/018900(WO,A1)
【文献】 米国特許第06581612(US,B1)
【文献】 特開2008−177209(JP,A)
【文献】 国際公開第2003/012843(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
C23C 16/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素単結晶を製造する装置の内壁又はその付属機器からなるグラファイト構造を有する炭素の基材に堆積した、炭化珪素を含有する堆積物を除去するための、クリーニングガスを用いたクリーニング方法において、
該クリーニングガスが、七フッ化ヨウ素の含有率が10〜100体積%の七フッ化ヨウ素単独又は七フッ化ヨウ素に、不活性ガス、酸素含有ガス、又はHFを加えたものであり、
該クリーニング方法が、該基材を150〜700℃に加熱しながら、該堆積物に該クリーニングガスを接触させることによって該堆積物を除去するものであることを特徴とするクリーニング方法。
【請求項2】
前記酸素含有ガスが、O、NO、又はNOであり、体積比において、七フッ化ヨウ素:酸素含有ガス=10:90〜90:10であることを特徴とする請求項1記載のクリーニング方法。
【請求項3】
前記HFは、体積比において、七フッ化ヨウ素:HF=100:1〜100:70であることを特徴とする請求項1記載のクリーニング方法。
【請求項4】
前記クリーニングガスを接触させる際、反応容器内の圧力を13.3kPa以下とすることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載のクリーニング方法。
【請求項5】
前記炭化珪素単結晶を製造する装置が、炭化珪素エピタキシャル膜形成装置であることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載のクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材に堆積した炭化珪素を含有する堆積物を除去するためのクリーニングガス及びクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、重要なセラミックス材料として多方面で使用されている。近年、炭化珪素のエピタキシャル成長技術が注目されており、特にその絶縁破壊電圧の高さや高温作動時における信頼性から、低消費電力のトランジスタなど用途が開発されている。
【0003】
このような用途に用いられる炭化珪素は、高純度な単結晶である必要がある。大型の炭化珪素単結晶の製造法としては、化学気相堆積法(Chemical Vapor Deposition法)を用いてプロパンガスとシランガスなどの化学反応により膜成長させる方法や、モノメチルシランをCVD法の原料として膜成長させる方法が知られている。
【0004】
これらのCVD法を用いて、高純度な炭化珪素(SiC)単結晶を作製するには、炭化珪素成膜時に、1500℃以上の非常に高い温度が必要である。そのため、反応容器の内壁やウエハを設置するサセプタなどの装置材質には、高耐熱性の材料が用いられ、主としてグラファイトを含む材質が用いられている(例えば、特許文献1)。
【0005】
また、CVD法による膜成長では、グラファイト製の反応容器の内壁やサセプタなど意図しない部位にも炭化珪素が付着し、堆積してしまう。それら意図しない部分に堆積した炭化珪素の微粒子は、時として剥離・脱落し、炭化珪素薄膜の成長表面に落下・付着し、結晶成長を阻害したり、欠陥を生じさせたりする原因となる。そのため、定期的に反応容器の内壁の堆積した炭化珪素を取り除かなければならない。その除去方法として、従来、炭化珪素が反応容器の内壁に堆積した場合には、工具を用いて剥離除去するか、容器を定期的に交換するといった方法が採用されていた。
【0006】
堆積した炭化珪素の削り取りや反応容器の交換などには極めて長い作業時間を要し、反応器を長期間にわたり大気開放する必要があることから、歩留まりの悪化など生産性にも影響を与える原因となっていた。そのため、装置を開放することなく、無機物質を効率よく除去するガスを用いて、装置内部に付着した炭化珪素を化学的に除去するクリーニング方法が検討されている。
【0007】
特許文献1、2には、サセプタに載置されるウエハ上にSiCエピタキシャル膜を形成する半導体製造装置が開示されており、サセプタに付着したSiC膜を除去するクリーニングガスとして、三フッ化塩素(ClF)を含むガスを用いることが記載されている。
【0008】
また、特許文献3には、三フッ化塩素ガスを炭化珪素の表面に接触させ、炭化珪素の表面をエッチングする方法が開示されている。
【特許文献1】特開2012−28385号公報
【特許文献2】特開2012−54528号公報
【特許文献3】特開2005−129724公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1〜3にて開示されている三フッ化塩素ガスは、プラズマ励起を必要とせず、加熱などの熱励起だけで効率よく炭化珪素を除去することができる優れたクリーニングガスである。しかしながら、成膜装置の反応容器等のクリーニングにおいて、三フッ化塩素は、腐食などの反応性が高いため、反応容器の材質が制限されるという問題点があり、通常、三フッ化塩素と顕著に反応しない材質が用いられる。
【0010】
三フッ化塩素はグラファイトと反応しやすいため、三フッ化塩素ガスを用いて、SiC成膜装置を構成するグラファイト製の反応容器やサセプタのクリーニングを行うと、除去目的物となる炭化珪素だけでなく、反応容器やサセプタを構成するグラファイトの表面まで除去されグラファイトに損傷を与えてしまう問題点があった。
【0011】
この問題点を改善するために、特許文献1、2には、グラファイト製の反応容器やサセプタとして、グラファイトの表面にCVD法によって炭化珪素(SiC)を被覆したものが用いられていた。この場合、グラファイトの表面に予め被覆された炭化珪素(緻密な多結晶)と成膜の際に堆積した炭化珪素(緻密でない多結晶)のエッチングレートを管理することによって、被覆された炭化珪素(緻密な多結晶)のエッチングを防ぐ方法がとられていた。
【0012】
しかしながら、特許文献1、2に記載の方法では、クリーニング処理の管理が煩雑になりやすく、グラファイト表面に被覆した炭化珪素(緻密な多結晶)のエッチングを完全に防ぐことは難しく、クリーニング処理を繰り返すうちに下地のグラファイトが露出してしまい、結局はグラファイトが損傷してしまうという問題点があった。
【0013】
このように、炭化珪素のエピタキシャル成長技術が注目される中、炭化珪素を成膜する際にサセプタや反応容器の内壁に堆積した炭化珪素のクリーニング方法において、使用するサセプタや反応容器の材質、クリーニングの効率、そしてクリーニング方法の管理のしやすさなど総合的な観点から、未だ十分なものがなく、さらなる改善が求められている。
【0014】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、グラファイトの材質を含んだ基材に堆積した炭化珪素を含有する堆積物のクリーニング処理において、グラファイトをエッチングし損傷を与えることなく、十分な炭化珪素のクリーニング速度で炭化珪素の除去を行うことができるクリーニングガス及びクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、七フッ化ヨウ素を含むガスを、グラファイト構造を有する炭素からなる基材に堆積した炭化珪素に接触させると、基材を構成するグラファイトをエッチングして顕著な損傷を与えることなく、グラファイトに対して炭化珪素を優先的に除去できることを見出し、本発明に至った。
【0016】
すなわち、本発明は、少なくとも一部がグラファイト構造を有する炭素からなる基材に堆積した炭化珪素を含有する堆積物を除去するための、七フッ化ヨウ素を含む、クリーニングガスである。
【0017】
また、本発明において、酸化性ガスとして、さらに、F、ClF、COF、O、O、NO、NO、NO及びNよりなる群より選ばれる少なくとも1種のガスを含むようにしてもよい。
【0018】
また、本発明において、不活性ガスとして、さらに、He、Ne、Ar、Xe、Kr及びNよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含むようにしてもよい。
【0019】
また、本発明において、基材が、1500℃以上の高温度で製造される炭化珪素単結晶を製造する装置の内壁又はその付属機器であることが好ましい。炭化珪素単結晶を製造する装置としては、炭化珪素単結晶を成膜する薄膜形成装置であり、薄膜形成装置が、炭化珪素エピタキシャル膜形成装置であることが特に好ましい。また、付属機器は、半導体ウエハを設置するためのサセプタであることが好ましい。
【0020】
また、本発明は、上述のクリーニングガスを用いて、基材を加熱しながら基材に堆積した炭化珪素を含有する堆積物を除去するクリーニング方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明のクリーニングガスによれば、基材を構成するグラファイトをエッチングして損傷を与えることなく、グラファイト構造を有する炭素からなる基材に堆積した炭化珪素を含有する堆積物を、十分なクリーニング速度で効率良く除去することができる。また、本発明のクリーニングガスを用いたクリーニング方法は、従来の方法に比べ優れた炭化珪素のクリーニング速度を有するので、クリーニング時間が短く、グラファイトへの影響を懸念せず、グラファイトに損傷を与える程度を大幅に軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施例及び比較例で用いたクリーニング装置の概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明のクリーニングガスは、七フッ化ヨウ素(以下、単にIFと呼ぶことがある)を含むものであり、少なくとも一部がグラファイト構造を有する炭素からなる基材に堆積した炭化珪素を含有する堆積物を対象とするものであり、前記基材に損傷を与えずに堆積物を除去することを特徴としている。
【0024】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明において使用する七フッ化ヨウ素(IF)は、工業的規模で製造されており購入して使用することができ、特に制限されるものではない。また、IFは、従来公知の製造方法で入手できる、例えば、本出願人の出願に係る特開2009−23896号で提唱した製造方法で製造入手することができる。
【0025】
本発明のクリーニングガスは、通常、七フッ化ヨウ素の含有率が、1〜100体積%、好ましくは10〜100体積%の範囲で使用される。七フッ化ヨウ素は、単独で使用することも可能であるが、適宜目的に応じて、種々の添加剤を加えることができる。例えば、クリーニング性能を調整するために、添加剤としては、酸化性ガスを加えることができる。また必要に応じ、不活性ガスなどを加えてもよい。酸化性ガスは、クリーニング速度を向上させるために添加される。不活性ガスは、使用するクリーニングガスのコストを低減させる、また、クリーニング速度を調整するために添加される。
【0026】
酸化性ガスとしては、O、O、CO、COCl、COF、NO、NO、NO、などの酸素含有ガス、F、NF、Cl、Br、I、YFn(Y=Cl、Br、I、1≦n≦5)などのハロゲンガスが例示される。これらのうち、O、NO、NO、COF、F、NF、Clが好ましく、特に、O、NO、NOはクリーニング速度の向上に効果的である(実施例参照)。
【0027】
酸化性ガスの添加量は、使用するクリーニング装置の性能、形状及びクリーニング条件に依存するが、通常、体積比において、七フッ化ヨウ素:酸化性ガス=10:90〜90:10、好ましくは、30:70〜70:30である。
【0028】
還元性ガスの添加量は、七フッ化ヨウ素:還元性ガス(体積比)=10:1〜1:5、好ましくは5:1〜1:1である。添加量が多すぎる場合には、クリーニングに働くFラジカルが著しく減量し、生産性が低下することがある。
【0029】
また、その他の添加ガスとして、本発明のクリーニングガスの効果を損なわない範囲、クリーニングガス組成物中において、1〜99体積%において、パーフルオロカーボン類など一般的にクリーニングガスとして使用されるガスを加えることもできる。例えば、CF、CHF、CH、CHF、C、C、CH、C、CH、C、C、C、C、C、CH、CClFH、C、C、C、C10等のガスを挙げることができる。
【0030】
また、クリーニング性能を向上させるために、ハロゲン化水素として、HF、HCl、HBrを加えることが好ましく、中でも特にHFが好ましい。HFを添加するとクリーニング性能が向上する現象の原因は特定できていないが、HFの作用により炭化珪素を含有する堆積物の科学的な結合が弱まりクリーニング速度が向上するものと推測される。
【0031】
フッ化水素(HF)の添加量は、体積比において、七フッ化ヨウ素:フッ化水素=100:1〜100:70、好ましくは100:40〜100:60である。
【0032】
なお、本発明のクリーニングガスは、適宜、上述の酸化性ガスと同にN、He、Ar、Ne、Kr等の不活性ガスを添加することも可能である。不活性ガスを添加する場合、適当な濃度に希釈して使用すればよく濃度は限定されるものではないが、通常、クリーニングガス組成中において、通常1〜99体積%、好ましくは5〜50体積%程度の含有率で使用される。
【0033】
次に、本発明のクリーニングガスを用いたクリーニング方法について説明する。
【0034】
本発明のクリーニングガスが対象とする堆積物は、少なくとも一部がグラファイト構造を有する炭素からなる基材の表面に付着している炭化珪素を含有する堆積物である。なお、本明細書において、別途定義しない限り、「堆積物」とは「不要な堆積物」を意味する。
【0035】
本発明の適用対象となる堆積物は、堆積物中の主成分として炭化珪素を含んでいれば特に限定されるものではなく、炭化珪素が単独成分としてなるものでもよい。具体的には、化学的気相堆積法(CVD法)、有機金属気相成長法(MOCVD法)、スパッタリング法、ゾルゲル法、蒸着法等の方法を用いて薄膜、厚膜、粉体、ウイスカ等を製造する際に、製造装置の内壁または半導体ウエハを設置するためのサセプタなどの冶具、配管等の付属装置に付随的に堆積した不要な堆積物である。
【0036】
また、炭化珪素の薄膜、厚膜等のみではなく六方晶SiCウエハなどの大型バルク結晶成長を行う製造装置の内壁またはその付属部品に付着した不要な堆積物にも適用可能である。例えば、特開2004−224663号公報に開示されたような、炭化珪素の原料を加熱昇華させて種結晶上に炭化珪素の結晶成長を行い大型バルク結晶成長させる昇華再結晶法(改良レリー法)を挙げることができる。
【0037】
本発明の基材は、少なくとも一部がグラファイト構造を有する炭素からなる基材であり、グラファイト単一成分またはグラファイトの表面を炭化珪素などの保護膜で被覆した1500℃以上の高温条件に耐えうる基材である。具体的には、上述の炭化珪素の製造装置を構成する物品であり、炭化珪素製造装置の内壁または半導体ウエハを設置するためのサセプタなどの冶具、配管等の付属装置を挙げることができる。この中でも、本発明のクリーニングガスは、不要な堆積物が堆積しやすい製造装置の内壁または半導体ウエハを設置するためのサセプタに対して好適である。
【0038】
本発明は、七フッ化ヨウ素を含むクリーニングガスを用いて、上述の基材を反応器の外部に設置されたヒーターで加熱しながら基材の表面に形成されている炭化珪素を含有する堆積物を除去するクリーニング方法である。クリーニングガスとして用いる七フッ化ヨウ素の熱分解によって生じたフッ素ラジカルが堆積物中の炭化珪素のケイ素(Si)成分と反応することによって、基材に堆積した不要な堆積物を除去される反応機構が考えられている。
【0039】
通常、IFなどの高次のフッ化ヨウ素化合物を加熱すると、下記式(1)のようにIFなどの低次のフッ化ヨウ素化合物とフッ素ラジカルが生成する。また、下記式(2)のように炭化珪素のクリーニングガスとして従来使用されてきたClFも加熱によって同様な反応が進行する。
【0040】
【化1】
【0041】
【化2】
【0042】
一般的に、クリーニングガスとSiCとの反応性は、使用するクリーニングガスの化学的性質、例えば、結合解離エネルギー、イオン性など種々の要素に起因すると考えられている。通常、結合解離エネルギーが重要な要素の一つと考えられており、結合解離エネルギーの低い化合物ほどSiCとの反応速度が速いと考えられており、ClFは、IFやIFなどのフッ化ヨウ素化合物に比べて結合解離エネルギーが低いため(下記の表1参照)、SiCとの反応性が高いと考えられる。
【0043】
なお、表1における各種データについて、Fに関しては、独立行政法人 日本学術振興会・フッ素化学第155委員会 編「フッ素化学入門2010」三共出版, 2010,p2であり、ClF3、IF7、IFに関しては、J. C. BAILAR JR., COMREHENSIVE INORGANIC CHEMISTRY, II, PERGAMON PRESS Ltd, 1973, p1491-p1496である。
【0044】
【表1】
【0045】
ところが、本発明者らが検討したところ、七フッ化ヨウ素は、結合解離エネルギーが比較的高いにも関わらず、150℃以上に加熱された状態ではClFに比べて炭化珪素との反応速度が早く、さらに、グラファイトに損傷を与えない特異な結果が得られた(後述の実施例等参照)。反応機講は定かではないが、七フッ化ヨウ素の加熱分解によって生じた低次のフッ化ヨウ素化合物(IF)はClFの場合に生じるClFに比べて分子のサイズが大きく、この反応生成物の分子の大きさがグラファイトの保護に影響を与えているものと推測される。また、炭化珪素との反応性に関しては、フッ素ラジカルのみではなくIFやIFなどのフッ化ヨウ素化合物自身が炭化珪素と反応していると推測される。
【0046】
クリーニングの反応条件に関しては、炭化珪素を含む堆積物が堆積した基材の温度は、特に制限されることはないが、通常、150〜700℃、好ましくは、300〜600℃の範囲で行われる。150℃より低い温度でクリーニングを行うとグラファイトの層間に熱分解しない七フッ化ヨウ素が侵入して化合物を形成し十分なクリーニング性能が得られない場合があるため好ましくない。700℃より高い温度の場合、エネルギーの無駄になり消費電力などランニングコストが高くなるため好ましくない。
【0047】
次に、圧力については、通常、減圧状態が好ましいが、大気圧下でもよく特に制限されるものではない。500℃を超えると13.3kPa(100Torr)以下にすることが好ましく、6.6kPa(50Torr)以下がより好ましい。13.3kPa(100Torr)を超えると腐食が起こり好ましくない。また、使用するクリーニングガスの流量は、クリーニング装置の反応器容量により適宜調整される。
【0048】
本発明のクリーニングガスによるクリーニングは、操作の簡便性、コストなどの観点から、熱分解法が用いられるが、その他の励起方法として光分解法、プラズマ法を用いてもよい。本発明のクリーニングガスは、加熱処理のみだけのプラズマレスで効率よく炭化珪素を除去することができるため、装置の内部をプラズマ雰囲気とするための装置の制約が少ないうえ装置の材質に対する負荷がない利点を有する。
【0049】
本発明のクリーニング方法の被処理装置として、CVD法により、半導体デバイス、コーティング工具などの薄膜を形成する炭化珪素製膜装置やウイスカ、粉末などを製造する炭化珪素製造装置に適用できる。また、炭化珪素の薄膜、厚膜等のみではなく六方晶SiCウエハなどの大型バルク結晶成長を行う製造装置の内壁またはその付属部品に付着した不要な堆積物にも適用可能である。これらのうち、製膜装置への適用が特に好ましく、特に、高温条件での製膜が行われる炭化珪素のエピタキシャル膜成長を行う製膜装置に使用するのがさらに好ましい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は係る実施例に限定されるものではない。
【0051】
図1に本発明の実施例及び比較例に使用したクリーニング装置の概略図を示す。図1に示すように、クリーニング装置は、反応容器として円筒形の反応管1(アルミナ製)を備えた外熱式横型反応炉を使用した。円筒形の反応管1には、クリーニングガスを供給するガス供給部2と希釈用ガス供給部3が接続されており、反応管1の下流には、ガスを反応管から排出する排気部4が設けられている。さらに、反応管1の外周部には外部ヒーターとして誘導加熱コイルが設置され、この誘導コイルによって反応管の内部を加熱することができる構成とした。なお、クリーニング試験は、試料5として単結晶炭化珪素基板およびグラファイト板を反応管の内部に設置して行った。
【0052】
図1の装置を用いて、本発明のクリーニングガスを用いて炭化珪素のクリーニング速度を測定しクリーニング試験を行った。また、各クリーニング試験と同時にグラファイトへの影響を調べるために、クリーニング試験前後におけるグラファイトの重量変化率を調べた。なお、グラファイトの重量変化率は、クリーニング前後のグラファイト板の重量を測定し、その変化量から算出した。実施例及び比較例におけるクリーニング条件とグラファイトの重量変化率の結果を表2に示した。なお、クリーニング速度については、下記の一般式(3)を用い試料の重量変化より算出した。
【0053】
【化3】
【0054】
[実施例1]
反応容器内にCVD法により作製された単結晶炭化珪素基板およびグラファイト板(いずれも幅0.5cm、長さ1cm、厚さ0.5mm)を試料のテストピースとして挿入し、反応容器の外部に設置されたヒーターを250℃まで加熱した状態で、ガス供給部1から七フッ化ヨウ素(IF)ガスをガス流量0.1L/minで供給しながら反応容器内の圧力を6.6kPa(50torr)にて1時間保持した。なお、グラファイト板はニラコ株式会社製(純度99.99%)のものを使用した。その結果、炭化珪素のクリーニング速度は10nm/min、グラファイトの重量変化率は1時間で0.02%であった。
【0055】
[実施例2]
反応容器の温度を300℃にした以外は、実施例1と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、炭化珪素のクリーニング速度は26nm/min、グラファイト板の重量変化は1時間で0.10%であった。
【0056】
[実施例3]
反応容器の温度を350℃にした以外は、実施例1と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、炭化珪素のクリーニング速度は56nm/min、グラファイト板の重量変化は1時間で0.48%であった。
【0057】
[実施例4]
反応容器の温度を400℃にした以外は、実施例1と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、炭化珪素のクリーニング速度は212nm/min、グラファイト板の重量変化は1時間で1.2%であった。
【0058】
[実施例5]
反応容器の温度を500℃にした以外は、実施例1と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、炭化珪素のクリーニング速度は710nm/min、グラファイト板の重量変化は1時間で2.2%であった。
【0059】
[実施例6]
反応容器内の圧力を101kPa(760Torr)にした以外は、実施例4と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、炭化珪素のクリーニング速度は526nm/min、グラファイト板の重量変化は1時間で3.0%であった。
【0060】
[実施例7]
組成が、七フッ化ヨウ素:10体積%、窒素(N):90体積%の混合ガスを用いて、圧力を66.7kPa(500torr)にした以外は、実施例4と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、炭化珪素のクリーニング速度は231nm/min、グラファイト板の重量変化は1時間で1.6%であった。
【0061】
[実施例8]
組成が、七フッ化ヨウ素:50体積%、フッ化水素(HF):50体積%の混合ガスを用いた以外は、実施例3と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、炭化珪素のクリーニング速度は66nm/min、グラファイト板の重量変化は1時間で0.36%であった。実施例8の結果より、フッ化水素を添加するとクリーニング速度が向上することが分かった。
【0062】
[実施例9]
組成が、七フッ化ヨウ素:25体積%、酸素(O):75体積%の混合ガスを用いた以外は、実施例3と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、炭化珪素のクリーニング速度は195nm/min、グラファイト板の重量変化は1時間で0.38%であった。実施例9の結果より、酸素を添加するとクリーニング速度が大幅に向上することが分かった。
【0063】
[実施例10]
組成が、七フッ化ヨウ素:50体積%、酸素(O):50体積%の混合ガスを用いた以外は、実施例3と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、炭化珪素のクリーニング速度は228nm/min、グラファイト板の重量変化は1時間で0.45%であった。
【0064】
[実施例11]
組成が、七フッ化ヨウ素:75体積%、酸素(O):25体積%の混合ガスを用いた以外は、実施例3と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、炭化珪素のクリーニング速度は179nm/min、グラファイト板の重量変化は1時間で0.45%であった。
【0065】
[実施例12]
温度を200℃にした以外は、実施例1と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、炭化珪素のクリーニング速度は他の実施例と比較して劣るものの、グラファイトの重量変化はほとんど認められなかった。
【0066】
[実施例13]
組成が、七フッ化ヨウ素:25体積%、二酸化窒素(NO):75体積%の混合ガスを用いた以外は、実施例3と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、炭化珪素のクリーニング速度は141nm/min、グラファイト板の重量変化は1時間で0.43%であった。
【0067】
[実施例14]
七フッ化ヨウ素:50体積%、二酸化窒素(NO):50体積%の組成の混合ガスを用いた以外は、実施例3と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、炭化珪素のクリーニング速度は151nm/min、グラファイト板の重量変化は1時間で0.46%であった。
【0068】
[実施例15]
組成が、七フッ化ヨウ素:75体積%、二酸化窒素(NO):25体積%の混合ガスを用いた以外は、実施例3と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、炭化珪素のクリーニング速度は157nm/min、グラファイト板の重量変化は1時間で0.43%であった。
【0069】
[実施例16]
組成が、七フッ化ヨウ素:25体積%、一酸化窒素(NO):75体積%の混合ガスを用いた以外は、実施例3と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、炭化珪素のクリーニング速度は89nm/min、グラファイト板の重量変化は1時間で0.07%であった。
【0070】
[実施例17]
組成が、七フッ化ヨウ素:50体積%、一酸化窒素(NO):50体積%の混合ガスを用いた以外は、実施例3と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、炭化珪素のクリーニング速度は879nm/min、グラファイト板の重量変化は1時間で0.42%であった。
【0071】
[実施例18]
組成が、七フッ化ヨウ素:75体積%、一酸化窒素(NO):25体積%の混合ガスを用いた以外は、実施例3と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、炭化珪素のクリーニング速度は1050nm/min、グラファイト板の重量変化は1時間で0.44%であった。
【0072】
[比較例1]
七フッ化ヨウ素ガスの代わりに、三フッ化塩素ガスを用いた以外は、実施例2と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、炭化珪素のクリーニング速度は7nm/minと七フッ化ヨウ素ガスと用いた場合に比べて遅く、グラファイトの重量変化は1時間で0.2%と七フッ化ヨウ素ガスと用いた場合に比べて大きかった。
【0073】
[比較例2]
七フッ化ヨウ素ガスの代わりに、三フッ化塩素ガスを用いた以外は、実施例3と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、炭化珪素のクリーニング速度は30nm/minと七フッ化ヨウ素ガスと用いた場合に比べて遅く、グラファイトの重量変化は1時間で2%と七フッ化ヨウ素ガスと用いた場合に比べて大きかった。
【0074】
[比較例3]
七フッ化ヨウ素ガスの代わりに、三フッ化塩素ガスを用いた以外は、実施例4と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、炭化珪素のクリーニング速度は93nm/minと七フッ化ヨウ素ガスと用いた場合に比べて遅く、グラファイトの重量変化は1時間で4%と七フッ化ヨウ素ガスと用いた場合に比べて大きかった。
【0075】
[比較例4]
七フッ化ヨウ素ガスの代わりに、フッ素ガスを用いた以外は、実施例2と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、炭化珪素のクリーニング速度は28nm/minと七フッ化ヨウ素ガスと同等であったが、グラファイトの重量変化は1時間で0.2%と七フッ化ヨウ素ガスと用いた場合に比べて大きかった。
【0076】
[比較例5]
七フッ化ヨウ素ガスの代わりに、フッ素ガスを用いた以外は、実施例3と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、炭化珪素のクリーニング速度は146nm/minと七フッ化ヨウ素ガス以上であったが、グラファイトの重量変化は1時間で4%と七フッ化ヨウ素ガスと用いた場合に比べて大きかった。
【0077】
[比較例6]
七フッ化ヨウ素ガスの代わりに、フッ素ガスを用いた以外は、実施例4と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、炭化珪素のクリーニング速度は毎分350nm/minと七フッ化ヨウ素ガス以上であったが、グラファイトの重量変化は1時間で8%と七フッ化ヨウ素ガスと用いた場合に比べて大きかった。
【0078】
実施例1〜18及び比較例1〜6の結果より、七フッ化ヨウ素(IF)は、他のフッ化ハロゲンガス(ClF)やフッ素ガスと比較して、良好なクリーニング性能を有し、かつ、グラファイトに顕著な損傷(エッチングされない)を与えることがないことが分かった。したがって、七フッ化ヨウ素(IF)は、グラファイトに大きな損傷を与えることなく、炭化珪素の堆積物を選択的に除去するための優れたクリーニングガスであることが分かった。
【0079】
【表2】
【符号の説明】
【0080】
1 反応管
2 クリーニングガス供給部
3 希釈用ガス供給部
4 排気部
5 試料
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、炭化珪素エピタキシャル膜成長や炭化珪素の大型バルク結晶などの炭化珪素製造装置の不要な堆積物を除去するのに有用である。
図1