特許第6107201号(P6107201)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6107201ハイブリッド車両のエンジン始動制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6107201
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両のエンジン始動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/08 20060101AFI20170327BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20170327BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20170327BHJP
   B60K 6/54 20071001ALI20170327BHJP
   B60K 6/24 20071001ALI20170327BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20170327BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20170327BHJP
   B60L 11/14 20060101ALI20170327BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
   B60W10/08 900
   B60W20/00 900
   B60K6/48ZHV
   B60K6/54
   B60K6/24
   B60W10/06 900
   F02D29/02 321B
   B60L11/14
   B60L15/20 J
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-27635(P2013-27635)
(22)【出願日】2013年2月15日
(65)【公開番号】特開2014-156174(P2014-156174A)
(43)【公開日】2014年8月28日
【審査請求日】2015年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100109830
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 淑弘
(74)【代理人】
【識別番号】100088683
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100095441
【弁理士】
【氏名又は名称】白根 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100119976
【弁理士】
【氏名又は名称】幸長 保次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(74)【代理人】
【識別番号】100158805
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 守三
(74)【代理人】
【識別番号】100172580
【弁理士】
【氏名又は名称】赤穂 隆雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100124394
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 立志
(74)【代理人】
【識別番号】100112807
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 貴志
(74)【代理人】
【識別番号】100111073
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 美保子
(74)【代理人】
【識別番号】100134290
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 将訓
(72)【発明者】
【氏名】平尾 俊一
(72)【発明者】
【氏名】宮本 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】山下 寛康
(72)【発明者】
【氏名】納谷 拓吾
【審査官】 増子 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−090307(JP,A)
【文献】 特開2004−225623(JP,A)
【文献】 特開2000−064874(JP,A)
【文献】 特開平09−203332(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0271057(US,A1)
【文献】 特許第3214427(JP,B2)
【文献】 特開2011−201415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 − 6/547
B60W 10/00 − 20/50
B60L 1/00 − 3/12
B60L 7/00 − 13/00
B60L 15/00 − 15/42
F02D 29/00 − 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用のエンジンとモータとを備えたハイブリッド車両の前記エンジンの始動制御装置であって、
前記エンジンの回転速度を検出する手段と、
前記エンジンと前記モータが停止しているか否かを判断する停車判定手段と、
前記エンジンの始動開始を判定する始動開始判定手段と、
前記エンジンと前記モータの双方が停止していると判断されかつ前記エンジンの始動開始が判定されると前記モータを指示トルクで回転させる手段と、
前記エンジンの回転速度の変化率を算出する手段と、
前記変化率を第1の閾値と比較し、該変化率が前記第1の閾値を越えたときに前記指示トルクに所定トルクを加算するトルク加算手段と、
前記エンジンの前記回転速度を第2の閾値と比較し、該回転速度が前記第2の閾値よりも大きくなると前記所定トルクの加算を終了する手段と、
を有し
前記第1の閾値が負の値であり、前記回転速度の前記変化率が負の値をとる減加速度のときで該変化率の絶対値が前記第1の閾値の絶対値よりも大きいときに前記所定トルクの加算を行うことを特徴とするハイブリッド車両のエンジン始動制御装置。
【請求項2】
前記始動開始判定手段は、該車両のスタートスイッチがオンされたとき前記エンジンの始動開始を検出することを特徴とする請求項に記載のハイブリッド車両のエンジン始動制御装置。
【請求項3】
前記エンジンがディーゼルエンジンであることを特徴とする請求項1または2に記載のハイブリッド車両のエンジン始動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、走行用のエンジンと電動モータとを備えたハイブリッド車両に適用されるエンジン始動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両の一例は、走行用のエンジン(内燃機関)と電動モータ(これ以降、単にモータと称する)とを有し、走行条件等に応じてモータのみによる走行と、エンジンを併用するハイブリッド走行あるいはエンジンのみの走行に切換えることができるように構成されている。例えば特許文献1のハイブリッド車両では、発進時にモータのみを使って走行し、車速がある程度高くなった時点で入力クラッチを接続することにより、走行に使用していたモータの出力トルクをエンジンに伝達している。
【0003】
特許文献2のハイブリッド車両では、モータによって車両が走行しているとき、回転する車輪から入力するトルクをエンジンに伝達することにより、エンジンを始動するためのアシストトルクとして利用するようにしている。これにより、スタータモータを使用することなくエンジンを始動できると説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3214427号公報
【特許文献2】特開2011−201415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のハイブリッド車両の場合、車両がモータによって走行しているときに、モータのトルクによってエンジンを始動させるように構成されており、車両が停車しているときにエンジンを始動するようにはなっていない。特許文献2のハイブリッド車両の場合も走行中にエンジンを始動する場合に適用され、車両が停止しているときには車輪の回転によるアシストトルクを得ることができない。
【0006】
しかしハイブリッド車両の使用状況によっては、車両が完全に停車した状態でエンジンを始動させる場合もあり得る。例えば、強制的にエンジンを始動させてハイブリッド車両に搭載されたバッテリを充電させたり、エンジン排気管に設けられた触媒を活性化させるために暖気したりする場合がある。エンジンはピストンの位置に応じて圧縮と膨張を繰返すため、例えば始動のためのクランキング時には、クランクシャフトが1回転する間に該クランクシャフトの回転速度が変化する。例えばピストンが下死点に向かう膨張行程では、クランクシャフトの回転速度が増加する。すなわち正の加速度となる。これに対しピストンが上死点に向かう圧縮工程では、クランクシャフトの回転速度が減少する。すなわち負の加速度(減加速度)となる。
【0007】
このため、クランキング時から回転が安定したアイドリング状態に至る低回転時に、エンジンの回転むらによって車体に大きな振動が伝わることがあり、この振動が不快に感じられたり、振動が音の発生源になったりする。特に車両が停止している状態でエンジンが始動すると、始動初期に車体に伝わる振動が走行中よりも大きく感じられてしまう。しかもディーゼルエンジンはガソリンエンジンと比較して圧縮比が高く、可動部のフリクションも大きいため一般に振動や音が大きい。
【0008】
従ってこの発明は、エンジンとモータを備えたハイブリッド車両において、車両が停止した状態でエンジンが始動する際の振動を抑制することができるエンジン始動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの実施形態は、走行用のエンジン(11)とモータ(12)とを備えたハイブリッド車両のエンジン始動制御装置であって、前記エンジン(11)の回転速度を検出する手段(31)と、前記エンジン(11)と前記モータ(12)が停止しているか否かを判断する停車判定手段(ST1)と、前記エンジン(11)の始動開始を判定する始動開始判定手段(ST2)と、前記エンジン(11)と前記モータ(12)の双方が停止していると判断されかつ前記エンジン(11)の始動開始が判定されると前記モータ(12)を指示トルクで回転させる手段(ST5)と、前記エンジン(11)の回転速度の変化率(ΔV)を算出する手段(ST6)と、前記変化率(ΔV)を第1の閾値(Sh1)と比較し、該変化率(ΔV)が前記第1の閾値(Sh1)を越えたときに前記指示トルクに所定トルクを加算するトルク加算手段(ST7,ST8)と、前記エンジン(11)の前記回転速度を第2の閾値(Sh2)と比較し、該回転速度が前記第2の閾値(Sh2)よりも大きくなると前記所定トルクの加算を終了する手段(ST9)とを有し、前記第1の閾値(Sh1)が負の値であり、前記回転速度の前記変化率(ΔV)が負の値をとる減加速度のときで該変化率(ΔV)の絶対値が前記第1の閾値(Sh1)の絶対値よりも大きいときに前記所定トルクの加算を行う
【0010】
1つの実施形態では、前記トルク加算手段(ST7,ST8)は、前記回転速度の変化率(ΔV)が前記第1の閾値(Sh1)よりも小さくなったときに前記所定トルクの加算を行う。また前記第1の閾値(Sh1)が負の値であり、前記変化率(ΔV)が負の値をとる減加速度のときに前記所定トルクの加算を行うようにしている。始動開始判定手段(ST2)の一例は、該車両のスタートスイッチ(30)がオンされたときエンジン(11)の始動開始を検出するようにしている。エンジン(11)の一例はディーゼルエンジンである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、走行用のエンジンとモータとを備えたハイブリッド車両において、停車時にエンジンを始動させる際に発生する振動を小さくすることができ、エンジンを滑らかに始動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施形態に係るエンジン始動制御装置を備えたハイブリッド車両の構成を模式的に示す図。
図2図1に示されたハイブリッド車両のエンジン回転速度の変化率とモータトルクとの関係を示すタイムチャート。
図3図1に示されたハイブリッド車両のエンジン始動制御装置の処理の流れを示すフローチャート。
図4】本発明の第2の実施形態に係るエンジン始動制御装置を備えたハイブリッド車両の構成を模式的に示す図。
図5図4に示されたハイブリッド車両のエンジン始動制御装置の処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の第1の実施形態に係るエンジン始動制御装置を備えたハイブリッド車両について、図1から図3を参照して説明する。
図1に示されたハイブリッド車両10は、走行用のエンジン11と走行用のモータ12とを備えている。モータ12は、駆動用バッテリから供給される電力によって回転する。エンジン11とモータ12との間にクラッチ13が配置されている。モータ12の出力軸14には、トランスミッション15と差動機16等を備えた動力伝達機構17が接続されている。出力軸14の回転は動力伝達機構17を介して車輪18に伝達される。エンジン11の一例はディーゼルエンジンである。
【0014】
クラッチ13は、車両10の運転状況に応じて制御部20によって制御される。クラッチ13が接続されると、エンジン11とモータ12とが直列に接続された状態となることにより、エンジン11が出力するトルクとモータ12が出力するトルクとによって、出力軸14が回転する。クラッチ13が切り離されると、モータ12の出力のみによって車輪18が回転する。クラッチ13の切り離しは、例えば油圧によって行なわれるが、油圧以外のアクチュエータが使用されてもよい。
【0015】
このハイブリッド車両10は、エンジン11とモータ12等を電子的に制御する制御部20を備えている。制御部20は、エンジン11を制御するエンジンコントロールユニット21と、モータ12を制御するモータコントロールユニット22と、エンジン始動制御装置としての機能も有するECU(Electrical Control Unit)23などを備えている。モータコントロールユニット22は、モータ12に与える指示トルク(モータ指示トルク)に基いて、モータ12に供給する電流を制御することにより、モータ12が発生する出力トルク(モータ実トルク)を変化させる。
【0016】
またこのハイブリッド車両10は、エンジン11を始動させる際にオン操作されるスタートスイッチ(メインキースイッチ)30と、エンジン11の回転速度(クランクシャフト11aの回転速度)を検出する手段として機能する回転速度センサ31と、クラッチ13が接続されているか否かを検出可能なセンサ32などを備えている。回転速度センサ31によって検出されたエンジン11の回転速度に関する情報は制御部20のECU23に入力される。以下に説明するように制御部20は、ハイブリッド車両10が停車しているときにエンジン11を滑らかに始動させるためのエンジン始動制御装置としての機能も担っている。
【0017】
制御部20のECU23には、回転速度センサ31から出力されるエンジン11の回転速度(この明細書ではエンジン回転速度と呼ぶ)の変化に基いて、回転速度の変化率Δv(回転方向の加速度)を算出するためのコンピュータプログラムが組込まれている。エンジン回転速度は計算の便宜上、1分間当りのクランクシャフト11aの回転数(rpm)に換算されてもよい。
【0018】
図2中の(A)(B)(C)は、それぞれ、時間軸(横軸)に対するモータトルクと、回転速度の変化率Δvと、エンジン回転速度の一例を模式的に示している。図2の(B)に示す変化率Δvは、図2の(C)に示されたエンジン回転速度の変化を示す曲線P1の微小時間ごとの接線の傾きθに相当する。
【0019】
制御部20は、回転速度の変化率Δvが減少しているか増加しているかを常時監視し、変化率Δvが第1の閾値Sh1よりも小さくなったときに、モータ12に供給する電流を一時的に増加させる。すなわち図2中の(A)に破線M1で示すモータ12の指示トルクに、所定トルクM1´を加算するトルク加算制御(アシスト制御)を行なうコンピュータプログラムが組込まれている。さらにこの制御部20は、エンジン回転速度(エンジン回転数)が第2の閾値Sh2を越えたときに、前記トルク加算制御を終了するコンピュータプログラムが組込まれている。
【0020】
以下に本実施形態の制御部20を備えたエンジン始動制御装置の処理の流れについて、図3のフローチャートを参照して説明する。
図3のステップST1において、エンジン11が停止しかつモータ12が停止しているか否かが判断される。例えばエンジンコントロールユニット21とモータコントロールユニット22の状態を示す信号を利用した停車判定手段によって、車両10が停車状態にあるか否かが判定される。ここでエンジン11とモータ12の双方が停止していれば(ステップST1で“YES”)、ステップST2に進む。エンジン11とモータ12の少なくとも一方が動いていれば(ステップST1で“NO”)、以下に説明するエンジン始動制御が行なわれることなく終了となる。
【0021】
ステップST2では、エンジン11の始動が開始されたか否かが判定される。例えばスタートスイッチ30がオンされたか否かが判断される。この実施形態の場合、スタートスイッチ30とステップST2が始動開始判定手段として機能する。エンジン11の始動が開始されたと判定された場合(ステップST2で“YES”)、ステップST3に進む。エンジン11の始動を開始しない場合(ステップST2で“NO”)、以下に説明するエンジン始動制御が行なわれることなく終了となる。
【0022】
ステップST3では、クラッチの作動を検出するセンサ32等によって、クラッチ13が接続されているか否かが判断される。クラッチ13が接続されていなければ(ステップST3で“NO”)、ステップST4に進み、クラッチ13が接続される。クラッチ13が接続されていれば(ステップST3で“YES”)、ステップST5に進む。
【0023】
ステップST5では、エンジン11を始動させるために、モータ指示トルク(図2中の(A)に破線M1で示す)に応じた電流がモータ12に供給される。この指示トルク(モータ)に基いて、モータ12が実トルク(図2中の(A)に実線M2で示す)で回転する。すなわちこのステップST5は、エンジンの始動が開始されたと判定されたときにモータ12を指示トルクに基いて回転させる手段として機能する。エンジン11に点火し、エンジン11が自力で回転するようになると、エンジン回転速度(エンジン回転数)が上昇する。
【0024】
ステップST6では、エンジン11の回転速度が回転速度センサ31によって検出され、微小時間ごとの回転速度センサ31の出力が制御部20に入力されることにより、回転速度の変化率Δvが算出される。すなわちステップST6は、回転速度の変化率Δvを算出する手段としての機能する。エンジン11はピストンの位置に応じて圧縮と膨張を繰返すため、例えばピストンが上死点に向かう圧縮工程ではクランクシャフト11aの回転方向の加速度が減少することにより、変化率Δvが減少する。逆にピストンが下死点に向かう膨張行程ではクランクシャフト11aの回転方向の加速度が増加するため、変化率Δvが増加する。
【0025】
ステップST7では、この変化率Δvが第1の閾値Sh1と比較される。回転速度の変化率Δvは、例えば図2の(C)に示すエンジン回転速度の変化を示す曲線P1の接線の傾きθに相当する。このため変化率Δvはエンジンの回転方向の加速度が増加するときにはプラス(正)の値をとり、回転方向の加速度が減少する(減加速度)のときにはマイナス(負)の値をとる。第1の閾値Sh1は負の値である。よって、変化率Δvが負の値(減加速度)のときに変化率Δvが第1の閾値Sh1よりも小さいということは、変化率Δvの絶対値が閾値Sh1の絶対値よりも大きいことを意味する。
【0026】
ステップST7において変化率Δvが第1の閾値Sh1よりも小さい場合(ステップST7で“YES”)、ステップST8に移る。変化率Δvが第1の閾値Sh1よりも小さくなければ(ステップST7で“NO”)、ステップST9に飛ぶ。
【0027】
ステップST8では、図2中の(A)に示されるように、モータ指示トルクに所定トルクM1´が加算される。すなわちステップST7,ST8は、トルク加算手段として機能し、トルク加算制御が実行される。所定トルクM1´の加算は、モータ12に供給する電流を指示トルクの電流よりも増加させることにより行なわれる。なお、回転数の変化率Δvが正の値から負の値に変化したとき(回転の加速度が正から負に転じたこと)が検出されたときに、前記所定トルクM1´の加算を行なうようにしてもよい。
【0028】
前記トルク加算制御により、エンジン11の回転速度が一時的に低下することによる回転のばらつき(波打ち)が抑制されるため、図2中の(C)に曲線P1で示すように、エンジン回転速度の変化の度合いが、トルク加算制御を行なわない場合のエンジン回転速度の変化(2点鎖線P2で示す)と比較して小さくなり、滑らかなエンジン始動を実現できる。
【0029】
ステップST9では、エンジン回転速度が第2の閾値Sh2と比較される。エンジン11の回転数がある程度高くなると、エンジン11の回転が安定し振動も小さくなるため、前記トルク加算制御を終了することができる。よって、エンジン回転数が第2の閾値Sh2を越えると(ステップST9で“YES”)、前述の所定トルクの加算制御が終了となる。すなわち回転が安定するエンジン回転速度(例えば500rpm)に達すると、モータ12に与える指示トルクがゼロとなり、始動のためのモータ実トルクがゼロとなる。エンジン回転数が第2の閾値Sh2を越えていなければ(ステップST9で“NO”)、ステップST5に戻り、ステップST5からステップST9までの一連の処理が繰返される。ステップST9は、回転速度が第2の閾値Sh2よりも大きくなったときに前記所定トルクの加算を終了する手段として機能する。
【0030】
以上説明したように第1の実施形態によれば、ハイブリッド車両10が完全に停車している状態でエンジン11を始動させる際に生じる回転むらによる振動が抑制され、車体に伝わる振動が小さくなるため乗り心地が良くなり、発生する音も小さくなる。特にディーゼルエンジンの場合は、ガソリンエンジンと比較して圧縮比が高く、可動部のフリクションも大きいため振動や音が大きくなりやすい。このため本実施形態のエンジン始動制御装置は、ディーゼルエンジンを搭載した車両の振動を抑制する上でガソリン車以上に有効である。
【0031】
図4は、第2の実施形態のハイブリッド車両10´の概略を示している。このハイブリッド車両10´は、エンジン11とモータ12との間にクラッチが存在していない点で、第1の実施形態のハイブリッド車両10と異なっているが、それ以外の構成は第1の実施形態のハイブリッド車両10と共通である。この第2の実施形態のハイブリッド車両10´は、エンジン11とモータ12とが常時直列に接続されているため、モータ12のトルクによって走行する際にはエンジン11が従動回転する。エンジン11のトルクのみによって走行する際にはモータ12が従動回転する。
【0032】
図5は、第2の実施形態のハイブリッド車両10´(図4に示す)のエンジン11を始動させる際のトルク加算制御を含むモータ制御の流れを示している。このハイブリッド車両10´は、エンジン11とモータ12との間にクラッチを有していないため、第1の実施形態のフローチャート(図3)に示されたクラッチに関するステップST3,ST4を有していない。それ以外の処理の流れは第1の実施形態のハイブリッド車両10と共通であるため、図3と共通のステップに同一符号を付して説明を省略する。
【0033】
なお本発明を実施するに当たり、ハイブリッド車両に搭載するエンジンやモータあるいは各種センサの構成や配置をはじめとして、エンジン始動制御装置の具体的な態様を種々に変更して実施できることは言うまでもない。例えば、車両が停止しているか否かを判定する停車判定手段として、駐車ブレーキの作動を検出するセンサからの信号を利用してもよい。また始動開始判定手段としては、前記実施形態で説明したスタートスイッチのオン操作を検出する以外に、例えばエンジン冷態時に触媒を活性温度に加熱させるために自動的にエンジンを始動させる際にECU等から出力される信号を検出してもよいし、アイドルストップ状態からエンジンを自動で始動させる場合にECU等から出力される信号を検出してもよい。またエンジン回転速度に関する値が1分間当りのクランクシャフトの回転数(エンジン回転数)に換算されてもよい。
【符号の説明】
【0034】
10,10´…ハイブリッド車両、11…エンジン、11a…クランクシャフト、12…モータ、13…クラッチ、20…制御部、23…ECU、30…スタートスイッチ、31…回転速度センサ、Δv…回転速度の変化率、Sh1…第1の閾値、Sh2…第2の閾値。
図1
図2
図3
図4
図5