【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第11回情報科学技術フォーラム 講演論文集DVD−ROM、第85,86頁 一般社団法人 電子情報通信学会
【文献】
力 規晃 ほか,帰納論理プログラミングを用いた化学反応からのルール抽出,FIT2011 第10回情報科学技術フォーラム 講演論文集 第1分冊,2011年 8月22日,pp.131-132
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
−−−システム構成例−−−
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本実施形態の実験支援システム100に係る構成図である。
図1に示す実験支援システム100は、化学反応実験における実験結果として目標性能を満たすデータが存在せず、しかも目標性能を満たすためパラメータが未知である場合に、目標性能を満たすパラメータの条件を予測可能とするコンピュータシステムである。
【0015】
こうした実験支援システム100のハードウェア構成は、以下の如くなっている。実験支援システム100は、ハードディスクドライブなどの適宜な不揮発性記憶装置で構成される記憶装置101、RAMなど揮発性記憶装置で構成されるメモリ103、記憶装置101に保持されるプログラム102をメモリ103に読み出すことなどを実行して装置自体の統括制御を行なうとともに各種演算及び制御処理を行なうCPUなどの演算装置104、ユーザからのキー入力や音声入力を受け付ける入力装置105、処理データの表示を行うディスプレイ等の出力装置106を備える。また、当然ながら、プログラム102には、帰納論理プログラミング機能110を実装するプログラムが含まれている。
【0016】
続いて、本実施形態の実験支援システム100が備える機能について説明する。上述したように、以下に説明する機能は、実験支援システム100が備えるプログラム102を実行することでなされる。
【0017】
本実施形態の実験支援システム100は、入力装置105から入力された、所定目標が未達成である既存の実験結果と該当実験結果における実験条件のパラメータとを含む既存データの集合とを記憶装置101に格納する機能を備えている。
また、実験支援システム100は、記憶装置101から上述した既存データの各集合を読み出し、当該読み出した既存データのすべての組み合わせ間で差分データを算定し、当該算定した差分データを各既存データに加えることで新たなデータを合成する機能を備えている。
【0018】
さらに、実験支援システム100は、上述のように合成した新たなデータのうち、実験結果が所定目標を満たす正例のデータと、所定目標を満たさない負例のデータと、新たなデータ各々におけるパラメータを表現する述語の集合とから、帰納論理プログラミングによって、正例を満たし負例を満たさないパラメータのルールを抽出し出力装置106に表示する機能を備えている。
【0019】
なお、本実施形態の実験支援システム100は、上述した新たなデータを合成する処理に際し、記憶装置101から既存データの各集合を読み出し、当該読み出した各既存データに所定ノイズを付与して、更に新たなデータを合成し、これを上述の負例のデータとして更に含め、帰納論理プログラミングによって、正例を満たし負例を満たさないパラメータのルールを抽出し出力装置106に表示する機能を備えているとしてもよい。
【0020】
−−−実験支援方法の概念−−−
ここで、本実施形態の実験支援方法の概念を説明すべく、実際の化学実験データ(表1)から、従来手法および本実施形態のそれぞれの考え方で帰納論理プログラミングを用い、パラメータの定性的な性質の抽出を試みた際の具体例を示しておく。化学実験データのうち、目標の性能を満たす実験データ(正例)を説明し、性能を満たさない実験データ(負例)は説明しないルールを、帰納論理プログラミングによって抽出することとした。
【表1】
この表1は、実際の化学実験データである96個の既存データから適宜抜粋したものをまとめた表であり、A、B、C、Dが反応物(すなわちパラメータ)、E、Fが生成物(すなわち実験結果)の各データを示している(各数値は対応成分の量を正規化したもの)。また、1レコードが1つの既存データに対応している。このような既存データの集合に対し、従来手法のまま帰納論理プログラミングを適用したとすれば、下に示すルールを抽出することができる。なお、正例となるデータは、E成分とF成分とが共に0.6以上、と指定した。
[Rule1][Poscover=6Negcover=0]
example(X):−b(X,0.25),d(X,0.8).
[Rule2][Poscover=4Negcover=0]
【0021】
上述の最初のルール“Rule 1”は、B成分が0.25でD成分が0.8であれば、目標の性能を満たすことを示し、次のルール“Rule 2”は、C成分が0.7でD成分が1で、かつB成分が0.25以下であれば、目標の性能を満たすことを示している。このように、正例の実験結果が存在する場合には、従来手法のままであっても、望ましい性能を得るパラメータの条件抽出が可能であり、実際に実験室で実現しうる適切なルールを得ることができる。
【0022】
一方、本実施形態の実験支援手法が前提とする「正例のない化学実験データ」に、上述した如き従来手法を適用しても、所望性能を得るためのパラメータの条件抽出はできない。そこで、化学実験データの近傍において、パラメータと性能目標との間に線形性を仮定し、本実施形態の実験支援方法を適用して仮想的に化学実験データを合成し、新たなデータを成すこととした。
【0023】
図2に、負例のみの化学実験データ(既存データ)から新たなデータを生成する際の合成例を示す。ここでは、化学実験データ群のうち各2つのデータ間での差分を算定し、ここで得た差分データ(b)を他の化学実験データ(a)に加え、新たなデータ(c)を合成している。こうして得られる新たなデータとしての仮想実験データ(この中には目標条件を満たすものもあれば、満たさないものもある)と、元の化学実験データ群とを合わせたうえで、帰納論理プログラミングを適用してルール抽出を行う。こうして得られたルールは、実験化学者が概ね妥当であると評価するものであった。
【0024】
−−−実験支援方法の処理例−−−
以下、本実施形態における実験支援方法の実際手順について、図に基づき説明する。以下で説明する実験支援方法に対応する各種の動作は、実験支援システム100がメモリ103に読み出して実行するプログラム102によって実現される。そして、このプログラム102は、以下に説明される各種の動作を行うためのコードから構成されている。
【0025】
図3は、本実施形態における実験支援方法の処理手順例1を示すフロー図である。ここではまず、実験支援システム100の演算装置104は、既に行った実験から得られた実験結果およびその際のパラメータを含む既存データ群を記憶装置101から読み出し、読み出した既存データ群に基づいて、既存データの全ての組み合わせ間で差分データを算定する処理を実行する(s100)。既に示した、
図2の差分データ(b)に関する算定手順の部分が、当該ステップs100に対応している。
【0026】
続いて実験支援システム100の演算装置104は、上述のステップs100で算定した差分データを、ステップs100で記憶装置101から読み出してある各既存データに加えることで新たなデータを合成する(s101)。ここで合成した新たなデータを、以降では合成データと称する。既に示した、
図2の新たなデータ(c)に関する算定手順の部分が、当該ステップs101に対応している。
【0027】
なお、実験支援システム100の演算装置104は、当該ステップs101において、上述の各既存データに所定ノイズを付与して、更に合成データを生成するとすれば好適である。このようにノイズを付与して合成データを生成することは、既存データと類似するデータらを処理対象から排除する意図がある。既存データに近似するデータでは、既存データと類似の結果が得られると考えられるが、帰納論理プログラミングでは、データの値がいくら近くとも異なってさえいれば、全く別のデータとして扱われる。そのため、実験支援システム100の処理負荷を徒に増大させるだけで無意味なデータ、すなわち、既存データに近い値のデータが生成されることを防ぐことは処理効率向上の効果につながる。
【0028】
上述のノイズの具体的な範囲については、予めパラメータごとに定義されているものとする。例えば、該当パラメータに関して存在する2つの値がほぼ同じ値とみなすことができる場合のその2値の差分は除外して、それ以外の2値の組み合わせの差分値で最小のものに着目し、この差分値の絶対値をノイズの絶対値の上限値にする。また、ノイズのステップ値については、該当パラメータにおける2値の組み合わせの差分の絶対値で最小のものを用いる。各パラメータで−上限値〜+上限値の区間でステップ値ずつ値をずらしてノイズを生成し、上述のノイズ付与の処理に用いる。
【0029】
ここで、
図3のフローの説明に戻る。次に、実験支援システム100の演算装置104は、上述のステップs101までで得ている合成データのうち、実験結果が所定目標を満たす正例のデータと、所定目標を満たさない負例のデータとを特定し、また、ここで特定した正負各例の合成データに関して述語論理形式で記載した各パラメータ値を記憶装置101に格納する(s102)。ここで演算装置104は、正例となる各合成データは記憶装置101に設けた正例ファイルに格納し、負例となる各合成データは記憶装置101に設けた負例ファイルに格納する。また、上述の述語論理形式で記載した各パラメータ値は、記憶装置101における背景知識ファイルに格納される。
【0030】
上述の正例ファイルの例としては、次のように、正例の各データを格納した形式のもののとなる。
example(no_0_0).
example(no_1_0).
example(no_2_0).
・・・
【0031】
また、上述の負例ファイルの例としては、次のように、負例の各データを格納した形式のものとなる。
example(no_34_0).
example(no_35_0).
example(no_36_0).
・・・
【0032】
同様に、上述の背景知識ファイルの例としては、次のように、各パラメータ値を格納した形式のものとなる。
a(no_0_0,a_51_0).
b(no_0_0,b_3_5).
c(no_0_0,c_20_5).
d(no_0_0,d_4_0).
e(no_0_0,e_7_0).
f(no_0_0,f_5_0).
g(no_0_0,g_0_0).
・・・
【0033】
続いて実験支援システム100の演算装置104は、上述の正例ファイル、負例ファイル、および背景知識ファイルを入力として、帰納論理プログラミング機能110に実行させ、正例を満たし負例を満たさないパラメータのルールを抽出し出力装置106に表示する(s103)。このステップs103によって得られたルールの例を下に示す。
[Rule1][Poscover=6Negcover=0]
example(X):−b(X,0.25),d(X,0.8).
ここで得られたルール“Rule 1”は、B成分が0.25でD成分が0.8であれば、目標の性能を満たすことを示している。
【0034】
なお、上述のステップs103における帰納論理プログラミング機能110を用いてルール抽出を行う処理については、実験支援システム100において、MaxSATの問題をMaxSATソルバで解くことで代用できる。以下、その場合の処理内容について説明する。
図4のフローに、帰納論理プログラミングの代わりにMaxSATを用いてルール抽出を行う手順を示す。ここで、実験支援システム100は、MaxSATソルバの機能を実装するプログラムと、関係する処理に必要なデータ類については記憶装置101にて予め保持しているものとする。
【0035】
この場合、実験支援システム100において、上述の既存データを用いてMaxSAT問題を生成し、このMaxSAT問題と、まだルールに含まれていない正例が成り立つとする正例変数をTrueとする仮説を、MaxSATソルバに与えて、解を得る(s200〜s202)。
【0036】
そして、MaxSATソルバで得られた解において、Trueとなるルールの上での値に対応した変数を得る。この場合、実験支援システム100は、MaxSAT問題の解でTrueであるp(x)の数をカウントして、そのカウントした値をルールに当てはまる正例の数とし、Trueであるp(x)の数が2以上の場合は、出力するルールを生成する(s203)。例えば、MaxSAT問題の解において、r(i(b)、j(0.25))=True、r(i(d)、j(0.8))=Trueであり、それ以外のr(i、j)がFalseのとき、
図8の2行目のルールが導かれる。
【0037】
こうして実験支援システム100は、仮説としてTrueとする正例変数を切り替えながらMaxSATソルバで解を得ることを繰り返すことで、帰納論理プログラミングを実行した際と同様の結果を得る。
【0038】
なお、上述のMaxSAT問題を生成する方法は以下の通りとなる。ここでは、5種類のハード節と1種類のソフト節からなるMaxSAT問題を生成する。そのうちハード節については下記の通りの考え方となる。
1.i番目のパラメータはルールの上で2つの値を同時に持たない.したがって、次の式(1)が成り立つ。
【数1】
この式が(1≦i≦l、1≦j(a)≦m(i)、1≦j(b)≦m(i)、j(a)≠j(b))を満たす全てのi、j(a)、j(b)の組み合わせについて成立する。ここで、r(i、j(a))はi番目のパラメータがj(a)番目の値となることを示す変数であり、r(i、j(b))はi番目のパラメータがj(b)番目の値となることを示す変数である。また、lはパラメータの総数であり、m(i)はi番目のパラメータが取りうる値の総数である。
【0039】
2.正例データのパラメータ値がルールで成立すれば、その正例を満たしたとする。したがって、次の式(2)、(3)が成り立つ。
【数2】
この式が(1≦x≦k(p))を満たす全てのxの組み合わせについて成立する。ここで、j(i、x)はx番目の正例でのi番目のパラメータが取る値がi番目のパラメータが取りうる値の中で何番目の値かを示し、1≦j(i、x)≦m(i)が成り立つ整数である。そして、r(i、j(i、x))はルールでi番目のパラメータがx番目の正例の値となったことを表わす。また、p(x)はx番目の正例をルールが満たすことを示す変数である。また、lはパラメータの総数であり、m(i)はi番目のパラメータが取りうる値の総数であり、k(p)は正例の総数である。
【0040】
【数3】
この式が(1≦x≦k(p)、1≦j(i、c)≦m(i)、j(i、c)≠j(i、x))を満たす全てのi、c、xの組み合わせについて成立する。ここで、j(i、x)はx番目の正例でのi番目のパラメータが取る値がi番目のパラメータが取りうる値の中で何番目の値かを示し、j(i、c)もi番目のパラメータが取りうる値の中で何番目の値かを示すが、j(i、x)は除き,1≦j(i、c)≦m(i)が成り立つ整数である。そして、r(i、j(i、c))はルールでi番目のパラメータがc番目の正例の値となったことを表わす。また、p(x)はx番目の正例をルールが満たすことを示す変数である。また、lはパラメータの総数であり、m(i)はi番目のパラメータが取りうる値の総数であり、k(p)は正例の総数である。
【0041】
3.i番目のパラメータが無条件であることf(i)で表す。f(i)には、次の式(4)、(5)が成り立つ。
【数4】
この式が(1≦i≦l)を満たす全てのiについて成立する。ここで、lはパラメータの総数である。
【数5】
この式が(1≦i≦l、1≦j(d)≦m(i))を満たす全てのi、j(d)について成立する。ここで、lはパラメータの総数であり、m(i)はi番目のパラメータが取りうる値の総数である。
【0042】
4.負例データのパラメータ値がルールで成立すれば、その負例を満たしたとする。した
がって、次の式(6)が成り立つ。
【数6】
この式が(1≦y≦k(n)、Q(i、y)はr(i、j(i、y))またはf(i)に置き換わる)を満たす全てのy、Q(i、y)の組み合わせについて成立する。ここで、j(i、y)はy番目の負例でのi番目のパラメータが取る値がi番目のパラメータが取りうる値の中で何番目の値かを示し、1≦j(i、y)≦m(i)が成り立つ整数である。そして、r(i、j(i、y))はルールでi番目のパラメータがy番目の負例の値となったことを表わす。また、f(i)はi番目のパラメータが無条件であることを示す変数である。また、n(y)はy番目の負例をルールが満たすことを示す変数である。また、lはパラメータの総数であり、m(i)はi番目のパラメータが取りうる値の総数であり、k(n)は負例の総数である。
【0043】
5.負例が成立することはできない.したがって、次の式(7)が成り立つ。
【数7】
この式が(1≦y≦k(n))を満たす全てのyについて成立する。ここでn(y)はy番目の負例をルールが満たすことを示す変数である。また、k(n)は負例の総数である。
【0044】
続いて、ソフト節については下記の通りの考え方となる。
次の式が、正例が成立することを表わす。
p(x)
この式が(1≦x≦k(p))を満たす全てのxについて存在する。ここでp(x)はx番目の正例をルールが満たすことを示す変数である。また、k(p)は正例の総数である。
【0045】
−−−具体的な適用結果−−−
次に、実際に実験を行ってデータを得、このデータに基づいて、本実施形態の実験支援システム100によりルール抽出を行ったパラメータを、以降の実験にて試した際の具体例について説明する。ここで説明する実験は、該当ポリエステル樹脂を含有する水系塗料が、水分散安定性に優れた特性を示し、かつ、その塗膜が優れた耐食性を示すべく、ポリエステル樹脂組成を検討した実験である。このようなポリエステル樹脂は、家電用プレコートメタル鋼板や自動車用塗装鋼板の塗料に求められる主剤樹脂で、有機溶剤レスによるVOC低減と、高度な加工時の耐食性を求められている。
目標性能に対応する評価、およびパラメータに対応する測定項目と、その処理手法に関しては、以下の考え方と手法に従った。なお、以降の記載で「部」とあるものは重量部を示すものとする。
【0046】
(1)還元粘度ηsp/c(dl/g)
充分乾燥したポリエステル樹脂0.10gをフェノール/テトラクロロエタン(重量比6/4)の混合溶媒25mlに溶解し、30℃で測定した。この還元粘度はポリエステルの分子量を表すメジャーの一つである。
【0047】
(2)ポリエステル樹脂の組成分析
400MHzのプロトンNMR(核磁気共鳴法)により分析した。
【0048】
(3)ポリエステル樹脂の合成例
ポリエステル樹脂(S1)の合成においては、撹拌機及び温度計・コンデンサーを具備した反応容器に、ジメチルテレフタレート100部及びジメチルイソフタレート100部、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物176部、エチレングリコール100部、触媒としてテトラブチルチタネート0.1部を仕込み、180〜230℃で生成するメタノールを系外に留去しながら、5時間エステル交換反応を実施した。ついで、系内を徐々に減圧雰囲気とし、0.3mmHg、255℃で重縮合反応を40分間行った。ついで、常圧、窒素雰囲気下で200℃まで冷却し、トリメリット酸無水物4部を添加し、徐々に220℃まで加熱しトリメリット酸を付加させて、ポリエステル樹脂(S1)を得た。
得られたポリエステル樹脂は、NMRなどの分析の結果、テレフタル酸/イソフタル酸//ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物/エチレングリコール//トリメリット酸(後付加)=50/50//55/45//2(モル比)であり、還元粘度0.43dl/gの淡黄色透明の樹脂であった。
【0049】
(4)ポリエステル樹脂(S2)〜(S13)の合成
ポリエステル樹脂(S1)の合成例と同様にして、組成が表2に示されるポリエステル樹脂(S2)〜(S13)を合成した。また、ポリエステル樹脂(S1)と同様に組成分析および樹脂特性の測定を行った。表2に以下に示す。
【表2】
【0050】
(5)水系塗料の作製
撹拌機及び温度計・コンデンサーを具備した4つ口フラスコに、ポリエステル樹脂を15部、テトラヒドロフラン85部を仕込み、45℃にて樹脂を撹拌・溶解した後、水135部と、必要によりカルボン酸基中和用のトリエチルアミンを所定量加える。蛇型冷却管をヴィグリュー分留管に切り替えた後、この溶液を100℃まで加熱し、所定量のテトラヒドロフランを系外へ排出する。以上により作製したポリエステル樹脂水分散体150部に対して、水分散体を冷却後、水分散コロイダルシリカ(日産化学(株)製「OUP−ST」鎖状コロイダルシリカ、粒径40〜300nm、固形分濃度10%)を45部、混合・分散して水系塗料を作製した。
【0051】
(6)塗装鋼板の作製及び深絞り加工
あらかじめ、脱脂剤のサーフクリーナー75Nの3%水溶液(日本ペイント(株)製)で脱脂し、2%H2SO4水溶液で酸洗した、亜鉛・ニッケルめっき鋼板(ZL材、亜鉛目付量30g/m2)に、クロム換算で40〜60mg/m2となるようにクロメート処理を施して塗装鋼板の基材とした。ついで、前述した水系塗料を、乾燥膜厚が1.5〜2μmになるようにバーコーターで塗布し、鋼板温度120℃で20秒間焼き付けて塗装鋼板を作製した。この鋼板を冷却後、深絞り機にて外径33mm、高さ28mmのカップ材となるよう円筒加工した。なお、塗膜厚は塗布乾燥前後の鋼板の重量変化とポリエステル樹脂及びシリカゲルの比重から算出した。
【0052】
以上、作製した水系塗料及び深絞り加工済塗装鋼板を以下の様に評価した。
(7)水分散安定性
水系塗料組成物を常温で一ヶ月から三ヶ月貯蔵後、目視判定した。判定基準は以下の通りである。
5:三ヶ月貯蔵において良好
4:一ヶ月貯蔵において良好、三ヶ月貯蔵において、少量の沈澱またはゲル状物が発生する。
3:一ヶ月貯蔵において少量の沈澱またはゲル状物が発生する。
2:一ヶ月貯蔵において分離、ゲル化。
1:作製初期において良好な水分散体が得られない。
【0053】
(8)加工後耐食性
深絞り加工済の塗装鋼板を塩水噴霧試験用のSST試験槽内に設置し、1500時間経過後の加工部の表面状態を観察した。判定基準は以下の通りである。
5:白錆無し。
4:白錆5%未満
3:白錆5%以上20%未満。
2:白錆20%以上50%未満、赤錆5%未満。
1:白錆50%以上、赤錆5%以上
【0054】
以上の判定基準に基づく評価結果を、上述の表2の最下段にて評価点合計として示している。性能目標は評価点合計9点以上であり、各サンプルとも目標未達であった。
【0055】
そこで、上述の実験結果(表2)に基づいて、本実施形態の実験支援方法における帰納論理プログラミングを適用して、正例を満たし負例を満たさないパラメータの20のルールを抽出した。その中から、作製上問題のある組成や、重複例を排除して、数多く正例を導き出したルールより、以下の表3に示す実験計画、(T1)〜(T3)を立て、実験を実施した所、目標評価点合計9点に到達した。
【表3】
【0056】
一方、上記ポリエステル樹脂(S1)〜(S13)の評価を実施した上で、上述の帰納論理プログラミングの結果を全く認知していない条件で、目標に到達すべく、これまでの知見等を鑑み、引き続き異なる組成実験を行った。ここでは、上記ポリエステル樹脂(S1)〜(S13)とは別に、ポリエステル樹脂(S14)〜(S28)を作製し、上述同様の評価を行った。その結果を表4に示す。評価点合計の最高点が7点から8点に上り、目標の評価点合計9点以上に近づいたが、それでも、目標に到達しなかった。
【表4】
【0057】
上述のポリエステル樹脂(S1)〜(S28)の計28件の実験例を元に、MaxSATソルバを組み合わせた帰納論理プログラミングにより、正例を導き出す7のルールを算出した。その中から、作製上問題のある組成や、重複例を排除して、数多く正例を導き出したルールより、下記の表5に示す実験計画、ポリエステル樹脂(T4)〜(T5)の実験計画を立て、実験を実施した所、目標評価点合計9点に対し、目標に到達する水準を示した。
【表5】
【0058】
従って、こうした本実施形態によれば、実験結果として目標性能を満たすデータが存在しない、かつ、目標性能を満たすためパラメータが未知である場合に、目標性能を満たすパラメータの条件が予測可能となる。
以上、本発明を実施するための最良の形態などについて具体的に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。