特許第6107242号(P6107242)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6107242
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/12 20060101AFI20170327BHJP
【FI】
   B60C11/12 A
   B60C11/12 C
【請求項の数】12
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-45871(P2013-45871)
(22)【出願日】2013年3月7日
(65)【公開番号】特開2014-172483(P2014-172483A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2016年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】古澤 浩史
【審査官】 鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−162247(JP,A)
【文献】 特開2012−25301(JP,A)
【文献】 特開2011−235739(JP,A)
【文献】 特開2005−41339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B60C 11/00−11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のブロックをトレッド面に備える空気入りタイヤであって、
1つの前記ブロックが、タイヤ幅方向にそれぞれ延在すると共にタイヤ周方向に所定間隔で配置された少なくとも3本の主サイプを備え、
前記主サイプが、三次元形状のサイプ壁面を有する第一サイプ部と、二次元形状のサイプ壁面を有すると共に相互に噛み合う凹凸部を前記サイプ壁面に有する第二サイプ部とを備え、
2本の前記主サイプのうち前記ブロックの中央部側にある前記主サイプの前記第一サイプ部のサイプ長さL1cと、前記ブロックの端部側にある前記主サイプの前記第一サイプ部のサイプ長さL1eとが、L1c<L1eの関係を有し、且つ、
前記ブロックの中央部側にある前記主サイプの前記第二サイプ部の前記凹凸部の平均深さ位置Hcと、前記ブロックの端部側にある前記主サイプの前記第二サイプ部の前記凹凸部の平均深さ位置Heとが、He<Hcの関係を有することを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
2本の前記主サイプのうち前記ブロックの中央部側にある前記主サイプの前記第二サイプ部のサイプ長さL2cと、前記ブロックの端部側にある前記主サイプの前記第二サイプ部のサイプ長さL2eとが、L2e<L2cの関係を有する請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記主サイプが、前記第二サイプ部にて前記ブロックのタイヤ幅方向のエッジ部に開口する請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
複数の前記主サイプのうち最も前記ブロックの端部側にある主サイプの前記第一サイプ部のサイプ長さL1と、前記主サイプの全長Laとが、0.70≦L1/Laの関係を有する請求項1〜3のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
複数の前記主サイプのうち最も前記ブロックの中央部側にある前記主サイプの前記第一サイプ部のサイプ長さL1と、前記主サイプの全長Laとが、L1/La≦0.40の関係を有する請求項1〜4のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
トレッド部の平面視にて、前記第一サイプ部が、複数のV字部を連ねて成るW字形状を有すると共に、前記V字部の頂部を前記ブロックの中央部から端部に向けて配置される請求項1〜のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記第二サイプ部が、トレッド部の平面視にて直線形状を有する請求項1〜のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記ブロックが、三次元形状のサイプ壁面を有すると共に最もタイヤ周方向外側にある前記主サイプよりもさらにタイヤ周方向外側に配置される補助サイプを備える請求項1〜のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記補助サイプが、少なくとも一方の端部にて前記ブロックの内部で終端する請求項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
前記主サイプが、前記第一サイプ部と、前記第一サイプ部の一方の端部に配置される前記第二サイプ部と、前記第一サイプ部の他方の端部に配置されると共に底上部を有する第三サイプ部とを備える請求項1〜のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項11】
スタッドレスタイヤに適用される請求項1〜10のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項12】
複数のブロックをトレッド面に備える空気入りタイヤであって、
1つの前記ブロックが、タイヤ幅方向にそれぞれ延在すると共にタイヤ周方向に所定間隔で配置された少なくとも3本の主サイプを備え、
前記主サイプが、三次元形状のサイプ壁面を有する第一サイプ部と、二次元形状のサイプ壁面を有すると共に相互に噛み合う凹凸部を前記サイプ壁面に有する第二サイプ部とを備え、
2本の前記主サイプのうち前記ブロックの中央部側にある前記主サイプの前記第一サイプ部のサイプ長さL1cと、前記ブロックの端部側にある前記主サイプの前記第一サイプ部のサイプ長さL1eとが、L1c<L1eの関係を有し、且つ、
前記主サイプが、前記第一サイプ部と、前記第一サイプ部の一方の端部に配置される前記第二サイプ部と、前記第一サイプ部の他方の端部に配置されると共に底上部を有する第三サイプ部とを備えることを特徴とする空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空気入りタイヤに関し、さらに詳しくは、雪上操縦安定性能を維持しつつ氷上制動性能を向上できる空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のスタッドレスタイヤは、ブロックの踏面に多数のサイプを配置することにより、氷表面の水膜除去作用を生じさせて、タイヤの氷上制動性能を向上させている。かかる構成を採用する従来の空気入りタイヤとして、特許文献1〜4に記載される技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−132809号公報
【特許文献2】特開2005−329793号公報
【特許文献3】特開2002−187412号公報
【特許文献4】特開2011−218830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、空気入りタイヤでは、タイヤの雪上操縦安定性能を維持するべき課題もある。
【0005】
そこで、この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、雪上操縦安定性能を維持しつつ氷上制動性能を向上できる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、この発明にかかる空気入りタイヤは、複数のブロックをトレッド面に備える空気入りタイヤであって、1つの前記ブロックが、タイヤ幅方向にそれぞれ延在すると共にタイヤ周方向に所定間隔で配置された少なくとも3本の主サイプを備え、前記主サイプが、三次元形状のサイプ壁面を有する第一サイプ部と、二次元形状のサイプ壁面を有すると共に相互に噛み合う凹凸部を前記サイプ壁面に有する第二サイプ部とを備え、且つ、2本の前記主サイプのうち前記ブロックの中央部側にある前記主サイプの前記第一サイプ部のサイプ長さL1cと、前記ブロックの端部側にある前記主サイプの前記第一サイプ部のサイプ長さL1eとが、L1c<L1eの関係を有し、且つ、前記ブロックの中央部側にある前記主サイプの前記第二サイプ部の前記凹凸部の平均深さ位置Hcと、前記ブロックの端部側にある前記主サイプの前記第二サイプ部の前記凹凸部の平均深さ位置Heとが、He<Hcの関係を有することを特徴とする。
また、この発明にかかる空気入りタイヤは、複数のブロックをトレッド面に備える空気入りタイヤであって、1つの前記ブロックが、タイヤ幅方向にそれぞれ延在すると共にタイヤ周方向に所定間隔で配置された少なくとも3本の主サイプを備え、前記主サイプが、三次元形状のサイプ壁面を有する第一サイプ部と、二次元形状のサイプ壁面を有すると共に相互に噛み合う凹凸部を前記サイプ壁面に有する第二サイプ部とを備え、2本の前記主サイプのうち前記ブロックの中央部側にある前記主サイプの前記第一サイプ部のサイプ長さL1cと、前記ブロックの端部側にある前記主サイプの前記第一サイプ部のサイプ長さL1eとが、L1c<L1eの関係を有し、且つ、前記主サイプが、前記第一サイプ部と、前記第一サイプ部の一方の端部に配置される前記第二サイプ部と、前記第一サイプ部の他方の端部に配置されると共に底上部を有する第三サイプ部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明にかかる空気入りタイヤでは、高い剛性を有するブロックの中央部側に、短く倒れ込み易い第一サイプ部を有する主サイプが配置され、低い剛性を有するブロックの端部側に、長く倒れ込み難い第一サイプ部を有する主サイプが配置される。これにより、ブロックの中央部と端部とで、タイヤ接地時におけるサイプの倒れ込み量が均一化されて、タイヤの雪上操縦安定性能が維持される利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤを示すタイヤ子午線方向の断面図である。
図2図2は、図1に記載した空気入りタイヤのトレッド面を示す平面図である。
図3図3は、図2に記載した空気入りタイヤのブロックを示す平面図である。
図4図4は、図3に記載したブロックの主サイプを示すA視断面図である。
図5図5は、図3に記載したブロックの主サイプを示すB視断面図である。
図6図6は、図4に記載した主サイプを示すC視断面図である。
図7図7は、図4に記載した主サイプを示すD視断面図である。
図8図8は、三次元形状のサイプ壁面を示す説明図である。
図9図9は、三次元形状のサイプ壁面を示す説明図である。
図10図10は、図3に記載したブロックの主サイプを示す説明図である。
図11図11は、図3に記載したブロックの主サイプを示す説明図である。
図12図12は、図11に記載した主サイプの変形例を示す説明図である。
図13図13は、図2に記載した空気入りタイヤのブロックを示す平面図である。
図14図14は、図13に記載したブロックの主サイプを示すE視断面図である。
図15図15は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤの性能試験の結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施の形態の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。また、この実施の形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【0010】
[空気入りタイヤ]
図1は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤを示すタイヤ子午線方向の断面図である。同図は、空気入りタイヤ1の一例として、乗用車用ラジアルタイヤを示している。なお、同図において、符号CLは、タイヤ赤道面である。また、タイヤ幅方向とは、タイヤ回転軸(図示省略)に平行な方向をいい、タイヤ径方向とは、タイヤ回転軸に垂直な方向をいう。
【0011】
この空気入りタイヤ1は、タイヤ回転軸を中心とする環状構造を有し、一対のビードコア11、11と、一対のビードフィラー12、12と、カーカス層13と、ベルト層14と、トレッドゴム15と、一対のサイドウォールゴム16、16と、一対のリムクッションゴム17、17とを備える(図1参照)。
【0012】
一対のビードコア11、11は、複数のビードワイヤを束ねて成る環状部材であり、左右のビード部のコアを構成する。一対のビードフィラー12、12は、一対のビードコア11、11のタイヤ径方向外周にそれぞれ配置されてビード部を補強する。
【0013】
カーカス層13は、左右のビードコア11、11間にトロイダル状に架け渡されてタイヤの骨格を構成する。また、カーカス層13の両端部は、ビードコア11およびビードフィラー12を包み込むようにタイヤ幅方向外側に巻き返されて係止される。また、カーカス層13は、スチールあるいは有機繊維材(例えば、アラミド、ナイロン、ポリエステル、レーヨンなど)から成る複数のカーカスコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で80[deg]以上95[deg]以下のカーカス角度(タイヤ周方向に対するカーカスコードの繊維方向の傾斜角)を有する。
【0014】
ベルト層14は、一対の交差ベルト141、142と、ベルトカバー143とを積層して成り、カーカス層13の外周に掛け廻されて配置される。一対の交差ベルト141、142は、スチールあるいは有機繊維材から成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で20[deg]以上40[deg]以下のベルト角度を有する。また、一対の交差ベルト141、142は、相互に異符号のベルト角度(タイヤ周方向に対するベルトコードの繊維方向の傾斜角)を有し、ベルトコードの繊維方向を相互に交差させて積層される(クロスプライ構造)。ベルトカバー143は、コートゴムで被覆されたスチールあるいは有機繊維材から成る複数のベルトコードを圧延加工して構成され、絶対値で45[deg]以上70[deg]以下のベルト角度を有する。また、ベルトカバー143は、交差ベルト141、142のタイヤ径方向外側に積層されて配置される。
【0015】
トレッドゴム15は、カーカス層13およびベルト層14のタイヤ径方向外周に配置されてタイヤのトレッド部を構成する。一対のサイドウォールゴム16、16は、カーカス層13のタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置されて左右のサイドウォール部を構成する。一対のリムクッションゴム17、17は、左右のビードコア11、11およびビードフィラー12、12のタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置されて、左右のビード部を構成する。
【0016】
[トレッドパターン]
図2は、図1に記載した空気入りタイヤのトレッド面を示す平面図である。同図は、スタッドレスタイヤのトレッドパターンを示している。なお、同図において、タイヤ周方向とは、タイヤ回転軸周りの方向をいう。また、符号Tは、タイヤ接地端である。
【0017】
この空気入りタイヤ1は、タイヤ周方向に延在する複数の周方向主溝21、22と、これらの周方向主溝21、22に区画された複数の陸部31〜33と、これらの陸部31〜33に配置された複数のラグ溝41、42とをトレッド部に備える(図2参照)。
【0018】
周方向主溝とは、3.5[mm]以上の溝幅を有する周方向溝をいう。また、ラグ溝とは、2.0[mm]以上の溝幅を有する横溝をいう。これらの溝幅は、トレッド踏面の溝開口部に形成された切欠部や面取部を除外して測定される。また、後述するサイプとは、陸部に形成された切り込みであり、1.0[mm]未満のサイプ幅を有する。
【0019】
例えば、図2の構成では、ストレート形状を有する4本の周方向主溝21、22がタイヤ赤道面CLを中心として左右対称に配置されている。また、これらの周方向主溝21、22により、1列のセンター陸部31と、左右一対のセカンド陸部32、32と、左右一対のショルダー陸部33、33とが区画されている。また、空気入りタイヤ1が、第一ラグ溝41および第二ラグ溝42を備えている。第一ラグ溝41は、タイヤ幅方向に連続的に延在してトレッド部を横断し、左右のトレッド端部に開口している。第二ラグ溝42は、いずれか一方のトレッド端部からタイヤ幅方向に連続的に延在してセカンド陸部32の内部で終端している。また、複数の第一ラグ溝41がタイヤ周方向に所定間隔で配置され、隣り合う第一ラグ溝41、41の間に、左右のトレッド端部にそれぞれ開口する左右一対の第二ラグ溝42、42が配置されている。このため、センター陸部31およびセカンド陸部32が、第一ラグ溝41のみによりタイヤ周方向に分断されて、長尺なブロックから成るブロック列となっている。また、ショルダー陸部33が、第一ラグ溝41および第二ラグ溝42によりタイヤ周方向に交互に分断されて、短尺なブロックから成るブロック列となっている。また、第一ラグ溝41および第二ラグ溝42がタイヤ周方向に部分的に傾斜することにより、全体として、タイヤ赤道面CL上の点を中心とした点対称なトレッドパターンが形成されている。
【0020】
なお、上記の構成に限らず、周方向主溝21、22がタイヤ赤道面CLを中心として非左右対称に配置されることにより、左右非対称なトレッドパターンが形成されても良い(図示省略)。また、周方向主溝21、22がジグザグ形状あるいは波状形状を有することにより、ブロック5がジグザグ形状あるいは波状形状のエッジ部を有しても良い(図示省略)。また、少なくとも1列の陸部31〜33がブロック列であれば良く、他の陸部がリブであっても良い(図示省略)。
【0021】
また、図2の構成では、空気入りタイヤ1が周方向主溝21、22およびラグ溝41、42を格子状に配置して成るトレッドパターンを備えている。しかし、これに限らず、空気入りタイヤ1が、複数の傾斜ラグ溝から成る網目状のトレッドパターンを備えても良い(図示省略)。
【0022】
[ブロックのサイプ構造]
近年のスタッドレスタイヤは、ブロックの踏面に多数のサイプを配置することにより、氷表面の水膜除去作用を生じさせて、タイヤの氷上制動性能を向上させている。また、近年のスタッドレスタイヤは、タイヤ周方向に長尺なブロックを採用することにより、雪上操縦安定性能を維持している。
【0023】
ここで、タイヤ周方向に長尺なブロックでは、ブロックの中央部と端部とが剛性差を有する。このため、高い剛性を有するブロックの中央部では、タイヤ接地時におけるサイプの倒れ込み量が小さく、低い剛性を有するブロックの端部では、タイヤ接地時におけるサイプの倒れ込み量が大きくなる。すると、ブロック全体におけるサイプの倒れ込み量が不均一となり、ブロックのエッジ効果が低下して、雪上操縦安定性能が低下するという課題がある。
【0024】
そこで、この空気入りタイヤ1では、雪上操縦安定性能を維持しつつ氷上制動性能を向上させるために、以下の構成を採用している。
【0025】
図3は、図2に記載した空気入りタイヤのブロックを示す平面図である。図4および図5は、図3に記載したブロックの主サイプを示すA視断面図(図4)およびB視断面図(図5)である。図6および図7は、図4に記載した主サイプを示すC視断面図(図6)およびD視断面図(図7)である。図8および図9は、三次元形状のサイプ壁面を示す説明図である。
【0026】
これらの図において、図3は、一例として、センター陸部31にある単体のブロック5を示している。また、同図では、円形の破線が、後述する第二サイプ部612における凹凸部の設置数比を示している。また、図4および図5は、ブロック5を主サイプ61に沿って切断したときの主サイプ61のサイプ壁面をそれぞれ示している。また、図6は、主サイプ61の第一サイプ部611の断面図を示し、図7は、主サイプ61の第二サイプ部612の断面図を示している。
【0027】
図3に示すように、この空気入りタイヤ1では、ブロック5が、複数の主サイプ61を備える。
【0028】
主サイプ61は、タイヤ幅方向に延在するサイプである。このとき、主サイプ61の延在方向とタイヤ回転軸とのなす角が45[deg]未満であれば、主サイプ61がタイヤ幅方向に延在しているといえる。また、少なくとも3本以上の主サイプ61が、タイヤ周方向に所定間隔をあけて配置される。このとき、隣り合う主サイプ61、61の間隔は、適宜設定できる。
【0029】
この主サイプ61は、第一サイプ部611と、第二サイプ部612とを備える。
【0030】
第一サイプ部611は、三次元形状のサイプ壁面を有する。三次元形状のサイプ壁面とは、図4および図6に示すように、サイプ長さ方向に垂直な断面視(図4のC断面視)にて、サイプ幅方向に屈曲した形状を有するサイプ壁面をいう。かかる三次元形状のサイプ壁面は、平面形状のサイプ壁面を有するサイプ部と比較して、タイヤ接地時におけるサイプ壁面の噛み合い力が強い。このため、ブロックの接地時にて倒れ込み難く、ブロックの剛性を補強する作用を有する。
【0031】
かかる三次元形状のサイプ壁面の具体例としては、例えば、以下のものが挙げられる(図8および図9参照)。
【0032】
図8の構成では、サイプ壁面が、三角錐と逆三角錐とをサイプ長さ方向に連結した構造を有する。言い換えると、サイプ壁面が、トレッド面側のジグザグ形状と底部側のジグザグ形状とを互いにタイヤ幅方向にピッチをずらせ、該トレッド面側と底部側とのジグザグ形状の相互間で互いに対向し合う凹凸を有する。また、サイプ壁面が、これらの凹凸において、タイヤ回転方向に見たときの凹凸で、トレッド面側の凸屈曲点と底部側の凹屈曲点との間、トレッド面側の凹屈曲点と底部側の凸屈曲点との間、トレッド面側の凸屈曲点と底部側の凸屈曲点とで互いに隣接し合う凸屈曲点同士の間をそれぞれ稜線で結ぶと共に、これら稜線間をタイヤ幅方向に順次平面で連結することにより形成される。また、一方のサイプ壁面が、凸状の三角錐と逆三角錐とを交互にタイヤ幅方向に並べた凹凸面を有し、他方のサイプ壁面が、凹状の三角錐と逆三角錐とを交互にタイヤ幅方向に並べた凹凸面を有する。そして、サイプ壁面が、少なくともサイプの両端最外側に配置した凹凸面をブロックの外側に向けている。なお、このようなサイプ壁面を有するサイプとして、例えば、特許第3894743号公報に記載される技術が知られている。
【0033】
また、図9の構成では、サイプ壁面が、ブロック形状を有する複数の角柱をサイプ深さ方向に対して傾斜させつつサイプ深さ方向およびサイプ長さ方向に連結した構造を有する。言い換えると、サイプ壁面が、トレッド面においてジグザグ形状を有する。また、サイプ壁面が、ブロックの内部ではタイヤ径方向の2箇所以上でタイヤ周方向に屈曲してタイヤ幅方向に連なる屈曲部を有し、また、該屈曲部においてタイヤ径方向に振幅を持ったジグザグ形状を有する。また、サイプ壁面が、タイヤ周方向の振幅を一定にする一方で、トレッド面の法線方向に対するタイヤ周方向への傾斜角度をトレッド面側の部位よりもサイプ底側の部位で小さくし、屈曲部のタイヤ径方向の振幅をトレッド面側の部位よりもサイプ底側の部位で大きくする。なお、このようなサイプ壁面を有するサイプとして、例えば、特許第4316452号公報に記載される技術が知られている。
【0034】
第二サイプ部612は、二次元形状のサイプ壁面を有し、また、相互に噛み合う凹凸部(図7の凹部6121および凸部6122)をサイプ壁面に有する。したがって、第二サイプ部612は、図4に示すように、二次元形状のサイプ壁面を基調として部分的に凹凸部を有する点で、一様な三次元形状のサイプ壁面を有する第一サイプ部611に対して相異する。
【0035】
二次元形状のサイプ壁面とは、図4および図7に示すように、サイプ長さ方向に垂直な断面視(図4のD断面視)にて直線形状を有するサイプ壁面をいう。かかる二次元形状のサイプ壁面は、図4に示すように、単一平面から成ることが好ましい。しかし、これに限らず、二次元形状のサイプ壁面は、サイプ長さ方向に垂直な断面視にて直線形状を有することを前提として、サイプ幅方向に屈折しても良い(図示省略)。したがって、二次元形状のサイプ壁面には、トレッド平面視にてジグザグ形状を有すると共に、サイプ深さ方向に一様な断面形状を有するサイプが含まれる。
【0036】
凹凸部は、図4および図7に示すように、一方の壁面に配置された凹部6121と、他方の壁面に配置された凸部6122とから成り、相互に対向して配置される。この凹凸部は、タイヤ接地時にて第二サイプ部612が塞がったときに、相互に噛み合うことにより、ブロック5の剛性を補強する作用を有する。かかる凹凸部は、例えば、半球形状、円錐台形状などを有し得る。
【0037】
例えば、図3の構成では、1本の主サイプ61が、1つの第一サイプ部611と、一対の第二サイプ部612、612とを有し、第一サイプ部611の両端部に第二サイプ部612、612をそれぞれ接続して構成されている。また、1つの第一サイプ部611と一対の第二サイプ部612、612とが直線的に接続されて、第一サイプ部611が構成されている。
【0038】
また、図3に示すように、主サイプ61が、タイヤ幅方向に延在してブロック5のタイヤ幅方向の左右のエッジ部に開口している。このため、1つの第一サイプ部611が、ブロック5のタイヤ幅方向の中央部に位置し、一対の第二サイプ部612、612が、ブロック5のタイヤ幅方向の左右のエッジ部にそれぞれ位置している。かかる構成では、サイプ壁面の噛み合い力が強く倒れ難い第一サイプ部611がブロック5の中央部に位置することにより、タイヤ接地時におけるブロック5の剛性が確保されて、タイヤの氷上制動性能が向上する。また、相対的にサイプ壁面の噛み合い力が弱く倒れ易い第二サイプ部612がブロック5のエッジ部に位置することにより、タイヤ接地時にてブロック5のエッジ部が立ち、トラクション性が向上して、タイヤの雪上操縦安定性能が向上する。
【0039】
また、図3に示すように、トレッド部の平面視にて、第一サイプ部611が、ジグザグ形状を有し、タイヤ周方向に振幅を有しつつタイヤ幅方向に延在している。また、図4および図6に示すように、第一サイプ部611が、サイプ幅方向に屈曲しつつサイプ長さ方向およびサイプ深さ方向に延在する壁面形状を有している。また、図6に示すように、第一サイプ部611の対向するサイプ壁面が、相互に位相を揃えて屈曲している。このため、タイヤ接地時にて主サイプ61が塞がったときに、対向するサイプ壁面が相互に噛み合う形状を有している。
【0040】
また、図3に示すように、トレッド部の平面視にて、第二サイプ部612が直線形状を有している。また、図4および図7に示すように、第二サイプ部612が、平面形状を有するサイプ壁面に、球面形状を有する複数組の凹部6121および凸部6122を配置して構成されている。また、図6に示すように、凹部6121および凸部6122が対向するサイプ壁面の同位置に配置されることにより、タイヤ接地時にて主サイプ61が塞がったときに、凹部6121と凸部6122とが相互に噛み合う構造を有している。
【0041】
このように、第一サイプ部611と第二サイプ部612とが相互に異なる壁面形状を有することにより、タイヤ接地時における第一サイプ部611のサイプ壁面の噛み合い力と、第二サイプ部612のサイプ壁面の噛み合い力との間に差が設けられている。
【0042】
また、図3の構成では、1つのブロック5が8本の主サイプ61を備え、これらの主サイプ61が、タイヤ周方向に所定間隔をあけつつ相互に長手方向を揃えてタイヤ幅方向に延在している。また、これらの主サイプ61が、ブロック5の中央部を中心としてタイヤ周方向に対称に配置されている。
【0043】
なお、ブロック5の中央部とは、狭義には、ブロック5の踏面の重心を意味するが、漠然とブロック5の重心を含む中央領域を指す場合にも用いる。ブロック5の端部とは、ブロック5の踏面のエッジ部を意味する。
【0044】
ここで、この空気入りタイヤ1では、同一ブロック5に配列された2本の主サイプ61c、61eのうち、よりブロック5の中央部側にある主サイプ61cの第一サイプ部611のサイプ長さL1c(図5参照)と、よりブロック5の端部側にある主サイプ61eの第一サイプ部611のサイプ長さL1e(図4参照)とが、L1c<L1eの関係を有する。
【0045】
サイプ長さとは、トレッド部の平面視におけるサイプの両端部を結ぶ線分の長さをいう。なお、図3のように、第一サイプ部611がジグザグ形状を有する構成では、サイプ部の長さが、ジグザグ形状の振れ幅の中心線の長さとして測定される。
【0046】
図3に示すように、ブロック5の剛性は、中央部側ほど高く、端部側ほど低い。これに対して、上記の構成では、ブロック5の中央部側に、短い第一サイプ部611を有する主サイプ61cが配置され(図5参照)、ブロック5の端部側に、長い第一サイプ部611を有する主サイプ61eが配置される(図4参照)。また、短い第一サイプ部611を有する主サイプ61cは、サイプ壁面の噛み合い力が弱いため倒れ込み易く、長い第一サイプ部611を有する主サイプ61eは、サイプ壁面の噛み合い力が強いため倒れ込み難い。このため、タイヤ接地時にて、ブロック5の中央部と端部とで、サイプの倒れ込み量が均一化される。これにより、ブロック5のエッジ効果が確保されて、タイヤの雪上操縦安定性能が維持される。
【0047】
また、この空気入りタイヤ1では、同一ブロック5に配列された2本の主サイプ61c、61eのうち、よりブロック5の中央部側にある主サイプ61cの第二サイプ部612のサイプ長さL2c(図5参照)と、よりブロック5の端部側にある主サイプ61eの第二サイプ部612のサイプ長さL2e(図4参照)とが、L2e<L2cの関係を有する。
【0048】
なお、図3のように、1本の主サイプ61が複数の第二サイプ部612を有する構成では、これらの第二サイプ部612のサイプ長さの総和が第二サイプ部612のサイプ長さL2c、L2eとして用いられる。例えば、図4および図5では、第二サイプ部612のサイプ長さL2c、L2eが、L2e=L2e_1+L2e_2、L2c=L2c_1+L2c_2となる。
【0049】
かかる構成では、ブロック5の中央部側に、長い第二サイプ部612を有する主サイプ61cが配置され(図5参照)、ブロック5の端部側に、短い第二サイプ部612を有する主サイプ61eが配置される(図4参照)。また、これらの第二サイプ部612は、三次元形状のサイプ壁面を有する第一サイプ部611と比較して、タイヤ接地時にて倒れ込み易い。したがって、長い第二サイプ部612を有する主サイプ61cが、高い剛性を有するブロック5の中央部側に配置されることにより、ブロック5のエッジ量が効果的に確保される。これにより、摩耗進行後におけるブロック5のエッジ量が第二サイプ部612により確保されて、タイヤの氷上制動性能が維持される。
【0050】
例えば、図3の構成では、ブロック5が矩形状を有し、主サイプ61がブロック5を幅方向に貫通するため、すべての主サイプ61が同一のサイプ長さLa(図4および図5参照)を有している。また、主サイプ61が、第一サイプ部611および第二サイプ部612のみから成り、主サイプ61の全長Laと、第一サイプ部611のサイプ長さL1と、第二サイプ部612のサイプ長さL2とがLa=L1+L2の関係を有している。このため、1本の主サイプ61では、第一サイプ部611のサイプ長さL1が長い(短い)ほど、第二サイプ部612のサイプ長さL1が短く(長く)なっている。
【0051】
また、ブロック5が8本の主サイプ61を備え、これらの主サイプ61が、ブロック5の中央部を境界とするタイヤ周方向の前後の領域に4本ずつ配置されている。また、各領域では、ブロック5の中央部から端部に向かうに連れて、主サイプ61における第一サイプ部611のサイプ長さL1が段階的に大きく、第二サイプ部612のサイプ長さL2が段階的に小さく設定されている。これにより、サイプの倒れ込み量がブロック全体で均一化され、また、摩耗進行後におけるブロック5のエッジ量が適正に確保されている。
【0052】
また、図3の構成では、ブロック5が、補助サイプ62を備える。
【0053】
補助サイプ62は、三次元形状のサイプ壁面を有するサイプであり、最もタイヤ周方向外側にある主サイプ61よりもタイヤ周方向外側に配置される。この補助サイプ62は、二次元形状のサイプ壁面および凹凸部から成る部分(主サイプ61の第二サイプ部612に相当する部分)を有さない。二次元形状のサイプ壁面および凹凸部を有するサイプは、主サイプ61に分類される。
【0054】
例えば、図3の構成では、ブロック5が、8本の主サイプ61と一対の補助サイプ62、62とを備え、これらのサイプ61、62が、一対の補助サイプ62、62をタイヤ周方向の最も外側にしてタイヤ周方向に所定間隔で配置されている。また、一対の補助サイプ62、62が、クローズド構造を有し、その両端部にてブロック5の内部で終端している。かかる構成では、一対の補助サイプ62により、ブロック5のエッジ成分が増加し、また、これらの補助サイプ62、62が三次元形状のサイプ壁面を有することにより、ブロック5のタイヤ周方向の両端部の剛性が適正に確保される。
【0055】
なお、この空気入りタイヤ1では、1つのブロック5に配置された複数の主サイプ61のうち、最もブロック5の端部側にある主サイプ61の第一サイプ部611のサイプ長さL1と、この主サイプ61の全長Laとが、0.70≦L1/Laの関係を有することが好ましい。これにより、ブロック5の端部における第一サイプ部611のサイプ長さL1が適正に確保される。
【0056】
なお、上記の主サイプ61における比L1/Laの上限は、主サイプ61が必ず第二サイプ部612を有することにより制約を受ける。
【0057】
また、この空気入りタイヤ1では、1つのブロック5に配置された複数の主サイプ61のうち最もブロック5の中央部側にある主サイプ61の第一サイプ部611のサイプ長さL1と、主サイプ61の全長Laとが、L1/La≦0.40の関係を有することが好ましい。これにより、ブロック5の中央部における第一サイプ部611のサイプ長さL1が適正に確保される。
【0058】
なお、上記の主サイプ61における比L1/Laの下限は、主サイプ61が必ず第一サイプ部611を有することにより制約を受ける。
【0059】
図10は、図3に記載したブロックの主サイプを示す説明図である。同図は、1つのブロック5に配置された2本の主サイプ61c、61eの第二サイプ部612を示している。また、同図では、円形の破線が、第二サイプ部612の凹凸部(図4の凹部6121および凸部6122)のサイプ深さ方向の位置を示している。
【0060】
図10に示すように、この空気入りタイヤ1では、1つのブロック5に配置された2本の主サイプ61c、61eのうち、ブロック5の中央部側にある主サイプ61cの第二サイプ部612の凹凸部の平均深さ位置Hcと、ブロック5の端部側にある主サイプ61eの第二サイプ部612の凹凸部の平均深さ位置Heとが、He<Hcの関係を有する。
【0061】
凹凸部の平均深さ位置Hc、Heは、ブロック5の踏面から第二サイプ部612の複数の凹凸部の噛み合い中心までの距離の平均値であり、各主サイプ61についてそれぞれ測定される。
【0062】
ブロック5の中央部側では、ブロック5の剛性が高いため、主サイプ61cが倒れ込み難い。そこで、ブロック5の中央部側にある主サイプ61cが第二サイプ部612の凹凸部を深い位置に有することにより、主サイプ61cの倒れ込み量が大きくなる。一方で、ブロック5の端部側では、ブロック5の剛性が低いため、主サイプ61eが倒れ込み易い。そこで、ブロック5の端部側にある主サイプ61cが第二サイプ部612の凹凸部を浅い位置に有することにより、主サイプ61cの倒れ込み量が抑制される。これにより、ブロック5全体における主サイプ61の倒れ込み量が均一化される。
【0063】
図11は、図3に記載したブロックの主サイプを示す説明図である。図12は、図11に記載した主サイプの変形例を示す説明図である。これらの図は、単体の主サイプ61の作用を示している。
【0064】
図11に示すように、第一サイプ部611は、複数のV字部を連ねて成るW字形状を有する。W字形状とは、第一サイプ部611の始点と終点とを結ぶ仮想線Lを引くときに、V字部が仮想線Lに対して一方に偏って配置された形状をいう。かかるW字形状の第一サイプ部611は、接地外力がV字部の頂部から仮想線Lに向かう方向に作用したときに、逆方向に接地外力が作用した場合と比較して、サイプの倒れ込み量が小さくなる。したがって、かかるW字形状の第一サイプ部611は、サイプの倒れ込み量に方向性を有する。
【0065】
例えば、図11の構成では、1つの主サイプ61が、1つの第一サイプ部611と、一対の第二サイプ部612、612と一列に接続して構成されている。また、トレッド部の平面視にて、第一サイプ部611がジグザグ形状を有し、第二サイプ部612が直線形状を有している。また、第一サイプ部611のすべてのV字部が、頂部の向きを一方向に揃えて配置され、また、仮想線L上に両端部を揃えて配置されている。
【0066】
また、図3に示すように、第一サイプ部611は、V字部の頂部をブロック5の中央部から端部に向けて配置される。すなわち、第一サイプ部611が、V字部の偏り方向を中央部から端部に向けて配置される。また、ブロック5のタイヤ周方向の中央部を境界とする前後の領域に配置された各第一サイプ部611が、V字部の頂部の向きを相互に異なる方向に向けて配置されている。かかる構成では、ブロック5の端部から中央部に向かって接地外力が作用したときに、第一サイプ部611の倒れ込み量が抑制される。これにより、車両発進時および車両制動時にてブロック5の端部が接地したときに、ブロック5の剛性が確保されて、タイヤの雪上操縦安定性能が維持される。
【0067】
なお、図11の構成では、上記のように、第一サイプ部611のすべてのV字部が、仮想線L上に端部を揃えて配置されている。このため、第一サイプ部611が、仮想線Lの片側にのみ配置されている。
【0068】
しかし、これに限らず、図12に示すように、第一サイプ部611のV字部が、仮想線Lに交差して配置されても良い。ただし、V字部が仮想線Lに対して一方に偏って配置されることにより、第一サイプ部611がサイプの倒れ込み量に方向性を有することを要する。
【0069】
図13は、図2に記載した空気入りタイヤのブロックを示す平面図である。図14は、図13に記載したブロックの主サイプを示すE視断面図である。これらの図において、図13は、ショルダー陸部33にある単体のブロック5を示している。また、図14は、ブロック5を主サイプ61に沿って切断したときの主サイプ61のサイプ壁面を示している。
【0070】
図3に示す構成では、ブロック5が、一対の周方向主溝21、21と、一対のラグ溝41、41とに区画されて成る矩形状を有している。また、1つのブロック5が、複数の主サイプ61を備え、これらの主サイプ61が、タイヤ幅方向にサイプ長さ方向を揃えつつタイヤ周方向に所定間隔で配置されて、ブロック5をタイヤ幅方向に貫通している。また、主サイプ61の第一サイプ部611が、ブロック5のタイヤ幅方向の中央部に配置され、左右一対の第二サイプ部612、612が、ブロック5のタイヤ幅方向の左右のエッジ部にそれぞれ開口している。このため、図4および図5に示すように、凹凸部(凹部6121および凸部6122)を有する第二サイプ部612が、ブロック5のタイヤ幅方向の左右のエッジ部にそれぞれ配置されている。
【0071】
これに対して、図13の構成では、ブロック5が、ショルダー陸部33にあり、最外周方向主溝22と、トレッド端(図示省略)と、一対のラグ溝41、42とに区画されて成る矩形状を有している。また、1つのブロック5が、複数の主サイプ61を備え、これらの主サイプ61が、タイヤ幅方向にサイプ長さ方向を揃えつつタイヤ周方向に所定間隔で配置されている。また、これらの主サイプ61が、一方の端部にて、ブロック5の最外周方向主溝22側のエッジ部に開口し、他方の端部にて、ブロック5の内部かつ接地端Tの近傍で終端している。このように、主サイプ61が、一方の端部のみでブロック5のエッジ部に開口するセミクローズド構造を有しても良い。
【0072】
また、図13の構成では、図14に示すように、主サイプ61が、第一サイプ部611と、第二サイプ部612と、二次元形状のサイプ壁面を有すると共に底上部を有する第三サイプ部613とを備えている。また、第一サイプ部611の左右の端部に、第二サイプ部612と第三サイプ部613とがそれぞれ接続されている。また、主サイプ61が、第二サイプ部612にて、ブロック5の最外周方向主溝22側のエッジ部に開口している。これにより、摩耗進行後におけるブロック5のエッジ量が確保されて、タイヤの雪上操縦安定性能が確保されている。
【0073】
また、主サイプ61が、第三サイプ部613にて、接地端Tの近傍で終端している。このとき、図14に示すように、第三サイプ部613の底上部により、主サイプ61のサイプ深さが段階的に浅くなっている。このように、主サイプ61が、一方の端部にのみ第二サイプ部612を備えても良い。また、主サイプ61が、一方の端部に、上記のような底上部を有する第三サイプ部613を備えても良い。かかる構成では、ショルダー陸部33におけるブロック5の剛性が高められて、タイヤの雪上操縦安定性能が維持される。
【0074】
なお、図13および図14の構成では、上記のように、第三サイプ部613を有する主サイプ61が、ショルダー陸部33のブロック5に配置されている。
【0075】
しかし、これに限らず、第三サイプ部613を有する主サイプ61が、センター陸部31やセカンド陸部32のブロック5に配置されても良い(図示省略)。かかる場合には、主サイプ61が、第二サイプ部612にて、ブロック5の一方のエッジ部に開口し、第三サイプ部613にて、ブロック5の他方のエッジ部に開口する。
【0076】
[効果]
以上説明したように、この空気入りタイヤ1は、複数のブロック5をトレッド面に備える(図2参照)。また、1つのブロック5が、タイヤ幅方向にそれぞれ延在すると共にタイヤ周方向に所定間隔で配置された少なくとも3本の主サイプ61を備える(図3参照)。また、主サイプ61が、三次元形状のサイプ壁面を有する第一サイプ部611と、二次元形状のサイプ壁面を有すると共に相互に噛み合う凹凸部をサイプ壁面に有する第二サイプ部612とを備える(図3図7参照)。また、2本の主サイプ61c、61eのうちブロック5の中央部側にある主サイプ61の第一サイプ部611のサイプ長さL1cと、ブロック5の端部側にある主サイプ61の第一サイプ部611のサイプ長さL1eとが、L1c<L1eの関係を有する(図4および図5参照)。
【0077】
かかる構成では、高い剛性を有するブロック5の中央部側に、短く倒れ込み易い第一サイプ部611を有する主サイプ61cが配置され(図5参照)、低い剛性を有するブロック5の端部側に、長く倒れ込み難い第一サイプ部611を有する主サイプ61eが配置される(図4参照)。これにより、ブロック5の中央部と端部とで、タイヤ接地時におけるサイプの倒れ込み量が均一化されて、タイヤの雪上操縦安定性能が維持される利点がある。
【0078】
また、この空気入りタイヤ1では、2本の主サイプ61c、61eのうちブロック5の中央部側にある主サイプ61cの第二サイプ部612のサイプ長さL2cと、ブロック5の端部側にある主サイプ61eの第二サイプ部612のサイプ長さL2eとが、L2e<L2cの関係を有する(図4および図5参照)。なお、上記のように、1本の主サイプ61が複数の第二サイプ部612を有する構成では、これらの第二サイプ部612のサイプ長さの総和が第二サイプ部612のサイプ長さL2c、L2eとして用いられる。
【0079】
かかる構成では、長い第二サイプ部612を有する主サイプ61cが、高い剛性を有するブロック5の中央部側に配置されることにより、ブロック5のエッジ量が効果的に確保される(図5参照)。これにより、摩耗進行後におけるブロック5のエッジ量が第二サイプ部612により確保されて、タイヤの雪上操縦安定性能が維持される利点がある。
【0080】
また、この空気入りタイヤ1では、主サイプ61が、第二サイプ部612にて、ブロック5のタイヤ幅方向のエッジ部に開口する(図3図5参照)。これにより、ブロック5のエッジ量が第二サイプ部612により効果的に増加して、タイヤの雪上操縦安定性能が維持される利点がある。
【0081】
また、この空気入りタイヤ1では、複数の主サイプ61のうち最もブロック5の端部側にある主サイプ61の第一サイプ部611のサイプ長さL1と、主サイプ61の全長Laとが、0.70≦L1/Laの関係を有する(図3参照)。これにより、ブロック5の端部における第一サイプ部611のサイプ長さL1が適正に確保されて、ブロック5の剛性が適正に確保される利点がある。
【0082】
また、この空気入りタイヤ1では、複数の主サイプ61のうち最もブロック5の中央部側にある主サイプ61の第一サイプ部611のサイプ長さL1と、主サイプ61の全長Laとが、L1/La≦0.40の関係を有する(図3参照)。これにより、ブロック5の中央部における第一サイプ部611のサイプ長さL1が適正に確保されて、タイヤ接地時におけるサイプの倒れ込み量が均一化される利点がある。
【0083】
また、この空気入りタイヤ1では、ブロック5の中央部側にある主サイプ61cの第二サイプ部612の凹凸部の平均深さ位置Hcと、ブロック5の端部側にある主サイプ61eの第二サイプ部612の凹凸部の平均深さ位置Heとが、He<Hcの関係を有する(図10参照)。かかる構成では、ブロック5の端部側にある主サイプ61cが第二サイプ部612の凹凸部を浅い位置に有することにより、主サイプ61cの倒れ込み量が抑制される。これにより、ブロック5全体におけるサイプの倒れ込み量が均一化される利点がある。
【0084】
また、この空気入りタイヤ1では、トレッド部の平面視にて、第一サイプ部611が、複数のV字部を連ねて成るW字形状を有すると共に、V字部の頂部をブロック5の中央部から端部に向けて配置される(図3参照)。かかる構成では、ブロック5の端部から中央部に向かって接地外力が作用したとき、第一サイプ部611の倒れ込み量が小さくなる。これにより、車両発進時および車両制動時にてブロック5の端部が接地したときに、ブロック5の剛性が確保されて、タイヤの雪上操縦安定性能が維持される利点がある。
【0085】
また、この空気入りタイヤ1では、第二サイプ部612が、トレッド部の平面視にて直線形状を有する(図3参照)。これにより、ブロック5の接地時にて第二サイプ部612が倒れ込み易くなり、ブロック5のエッジ量が適正に確保される利点がある。
【0086】
また、この空気入りタイヤ1では、ブロック5が、三次元形状のサイプ壁面を有すると共に最もタイヤ周方向外側にある主サイプ61eよりもさらにタイヤ周方向外側に配置される補助サイプ62を備える(図3参照)。これにより、ブロック5のエッジ成分が補助サイプ62により確保されて、タイヤの雪上操縦安定性能が維持される利点がある。
【0087】
また、この空気入りタイヤ1では、補助サイプ62が、少なくとも一方の端部にてブロック5の内部で終端する(図3参照)。これにより、ブロック5の端部の剛性が確保されて、タイヤの雪上操縦安定性能が維持される利点がある。
【0088】
また、この空気入りタイヤ1では、主サイプ61が、第一サイプ部611と、第一サイプ部611の一方の端部に配置される第二サイプ部612と、第一サイプ部611の他方の端部に配置されると共に底上部を有する第三サイプ部613とを備える(図13および図14参照)。これにより、ブロック5の剛性が第三サイプ部613により確保されて、タイヤの雪上操縦安定性能が維持される利点がある。
【0089】
[適用対象]
また、この空気入りタイヤ1は、スタッドレスタイヤに適用される。スタッドレスタイヤでは、雪上操縦安定性能および氷上制動性能に関する要求が厳しい。したがって、スタッドレスタイヤを適用対象とすることにより、上記の効果を顕著に得られる利点がある。
【実施例】
【0090】
図15は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤの性能試験の結果を示す図表である。
【0091】
この性能試験では、条件が異なる複数の空気入りタイヤについて、(1)雪上操縦安定性能および(2)氷上制動性能に関する評価が行われた(図15参照)。性能試験では、タイヤサイズ195/65R15の空気入りタイヤがリムサイズ15×6JJのリムに組み付けられ、この空気入りタイヤに210[kPa]の内圧およびJATMA規定の最大負荷能力が付与される。
【0092】
(1)雪上操縦安定性能にかかる評価では、空気入りタイヤを装着した試験車両が所定の氷雪路を走行し、テストドライバーがレーンチェンジ性能やコーナリング性能などに関して官能評価を行う。この評価は、従来例を基準(100)とした指数評価により行われ、その数値が大きいほど好ましい。
【0093】
(2)氷上制動性能に関する性能試験では、空気入りタイヤを装着した試験車両が凍結路を走行し、走行速度40[km/h]からの制動距離が測定されて評価が行われる。また、タイヤ新品時および50[%]摩耗時について、それぞれ性能試験が行われて評価が行われる。この評価は従来例を基準(100)とした指数評価により行われ、その数値が大きいほど好ましい。
【0094】
実施例1の空気入りタイヤ1は、図1図7図13および図14に記載した構成を有する。実施例2〜7の空気入りタイヤ1は、実施例1の空気入りタイヤ1の変形例である。
【0095】
従来例1の空気入りタイヤは、図2のトレッドパターンにおいて、各サイプが、いずれも三次元形状のサイプ壁面のみを有する。従来例2の空気入りタイヤは、図2のトレッドパターンにおいて、各サイプが、いずれも平面形状のサイプ壁面のみを有する。
【0096】
試験結果に示すように、実施例1〜7の空気入りタイヤ1では、タイヤの雪上操縦安定性能を維持しつつ氷上制動性能を向上できることが分かる。
【符号の説明】
【0097】
1:空気入りタイヤ、21、22:周方向主溝、31〜33:陸部、41、42:ラグ溝、5:ブロック、61、61c、61e:主サイプ、611:第一サイプ部、612:第二サイプ部、6121:凹部、6122:凸部、613:第三サイプ部、62:補助サイプ、11:ビードコア、12:ビードフィラー、13:カーカス層、14:ベルト層、141、142:交差ベルト、143:ベルトカバー、15:トレッドゴム、16:サイドウォールゴム、17:リムクッションゴム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15