(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、電動台車等の電気車においては低床化が求められており、この低床化を実現させるために輪軸を省いた各輪独立駆動台車が採用され始めている。前記各輪独立駆動台車は、それぞれの車輪(4輪ないし複数輪)に、電動機,インバータが設けられており、各車輪を独立して回転駆動制御するものである。各輪独立駆動台車は左右の車輪が輪軸で結ばれていないため、左右の車輪を別々に駆動することが可能である。
【0003】
図10は、一般的な各輪独立駆動台車の制御装置(各輪協調制御)の一例を示すブロック図である。
図10に示す各輪独立駆動台車の制御装置13は、車両速度(車両全体を代表する並進速度の推定値)Vsに対応して予め設定されたトルク指令パターンに従いトルク指令Tqを出力するトルク指令設定部14と、左右各車輪の回転角速度ωrL,ωrRに基づいて、各輪の回転角速度差を補正するための各輪協調制御トルクΔTqを算出する各速度差補正トルク演算部15と、前記トルク指令Tqに対して、各輪協調制御トルクΔTqを加算,減算することにより、左車輪,右車輪それぞれの最終トルク指令TqL,TqRを算出し、それぞれ左車輪駆動用電動機12L,右車輪駆動用電動機12Rに出力する左右車輪角速度差補正部16と、を備えたものである(詳しくは特許文献1参照)。
【0004】
図11は、各輪独立駆動台車の制御装置(各輪協調制御)の他例を示すブロック図である。なお、
図11では、前輪の制御についてのみ示しているが、後輪についても同様に制御される。
【0005】
回転角速度検出器(例えば、レゾルバ・エンコーダ等)21は、左右輪のモータ回転角速度ω
FL,ω
FRを入力し、左右輪の回転角速度検出値ω
FR_det,ω
FL_detを演算して各輪協調制御部22に出力する。
【0006】
この左右輪の回転角速度検出値ω
FR_det,ω
FL_detから、加算器22A,除算器22Bにより、左右輪の平均回転角速度ω
F_det*が算出される。
【0007】
この平均回転角速度ω
F_det*と回転角速度検出値ω
FR_det,ω
FL_detとの偏差はPID制御部22C,22CにおいてPID演算され、平均回転角速度ω
F_det*と各輪の回転角速度検出値ω
FR_det,ω
FL_detとの差を補正するための各輪協調制御トルクT
LR_FL,T
LR_FRとして出力される。この各輪協調制御トルクT
LR_FL,T
LR_FRと、車両の前後進速度を制御するノッチトルク指令T
notchと、が加算されて左右輪のトルク指令となる。
【0008】
図10に示した特許文献1の各輪協調制御は、左右輪の回転角速度ωrL,ωrRの差を零とする制御方法であるが、
図11に示す各輪協調制御は、左右輪の平均回転角速度ω
F_det*を目標値とし、その目標値と左右輪それぞれの回転角速度検出値ω
FR_det,ω
FL_detとの偏差を0にする方法である。
【0009】
次に、
図12に基づいて、各輪独立駆動台車の再粘着制御について説明する。
図12は、再粘着制御を用いた各輪独立駆動台車の制御装置20のブロック図である。なお、
図12は、
図11と同様に前輪の制御についてのみ示しているが、後輪についても同様に制御される。また、
図12に示す各輪独立駆動台車の制御装置20は各輪協調制御を行わないものとする。なお、
図11と同様の箇所については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0010】
前記制御装置20は、回転角速度検出値ω
FL_det,ω
FR_detに基づき、空転・滑走状態を検知し、空転・滑走検知フラグFlag_FL,Flag_FRを出力する空転・滑走検知部23と、トルク指令T
m_FL,T
m_FRおよび回転角速度検出値ω
FL_det,ω
FR_detから負荷トルク推定値T
obs_FL,T
obs_FRを推定する負荷トルク推定部24と、ノッチトルク指令T
notch,負荷トルク推定値T
obs_FL,T
obs_FR,空転・滑走検知フラグFlag_FL,Flag_FRに基づき、トルク指令T
m_FL,T
m_FRを算出する再粘着制御部25と、を備える。
【0011】
前記再粘着制御部25は、左右両車輪とも空転・滑走状態を検知していない(再粘着制御を行わない)場合、ノッチトルク指令T
notchをトルク指令T
m_FL,T
m_FRとして出力する。
【0012】
一方、左右車輪のうち少なくとも一方が空転・滑走状態の場合は、ノッチトルク指令T
notchを基準とし、負荷トルク推定値T
obs_FL,T
obs_FRを参考にして、トルク指令T
m_FL,T
m_FRを算出し、空転・滑走状態の車輪のトルクを引き下げる。ここで、ヨーイングトルクの発生を抑制するために、空転・滑走状態の車輪と共に、粘着状態の車輪も同時、かつ、同様にトルクが引き下げられ、空転・滑走状態の車輪と粘着状態の車輪のトルクは同一となる。
【0013】
ここで、各輪協調制御(
図11)と再粘着制御(
図12)とを組み合わせた各輪独立駆動台車の制御装置を
図13に基づき説明する。
【0014】
図12に示す再粘着制御では、再粘着制御部25へノッチトルク指令T
notchをそのまま出力していたが、
図13に示す制御装置30では、ノッチトルク指令T
notchに各輪協調制御トルクT
LR_FR,T
LR_FRを加算した値T
notch+T
LR_FR,T
notch+T
LR_FRを再粘着制御部25に出力することとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、各輪協調制御と再粘着制御とを組み合わせると、以下に示す問題が生ずる。以下、
図14の具体例に基づき、その問題点を説明する。
【0017】
図14は、ノッチトルク指令T
notch=0[%](惰行運転)であり、曲線通過中におけるノッチトルク指令,各輪協調制御トルク,再粘着制御トルクを示すグラフである。時刻0〜5秒間では、曲線通過中であり、左右輪の回転角速度が一致しないため、各輪協調制御トルクT
LR_FL,T
LR_FRが出力されている。
【0018】
ここで、左車輪の各輪協調制御トルクT
LR_FL=50[%],右車輪の各輪協調制御トルクT
LR_FR=−50[%]で走行している。左車輪と右車輪の各輪協調制御トルクはノッチトルク指令T
notchに対して正負逆に出力されているが、左車輪と右車輪のモータ駆動トルクの平均値はノッチトルク指令T
notchであるため、車両はノッチトルク指令T
notchどおりに進行することとなる。
【0019】
しかし、時刻5秒後に、各輪協調制御トルクT
LR_FL,T
LR_FRに起因して、左車輪にのみ空転が発生した場合、左車輪のモータ駆動トルクが引き下げられる。同時に、ヨーイングトルクの発生を抑制するため、空転状態の左車輪の対となる粘着状態の右車輪も同様にモータ駆動トルクが引き下げられ、同一のモータ駆動トルクとなる。そのため、再粘着制御時には、ノッチトルク指令T
notch=0[%]であるのにもかかわらず、左右車輪におけるトルク指令の平均値が0[%]にはならず(
図14では、25%)、予期せぬ加速をすることとなる。このノッチトルク指令T
notch以上の加速は脱線等の事故が起こる可能性があり、危険である。
【0020】
以上示したようなことから、再粘着制御と各輪協調制御とを組み合わせた各輪独立駆動台車の制御装置において、ノッチトルク指令以上に加速することを抑制することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、各車輪をそれぞれ独立して駆動制御する各輪独立駆動台車の制御装置であって、各車輪の回転角速度検出値に基づいて、各輪の回転角速度差を補正するための各輪協調制御トルクを算出する各輪協調制御部と、左右一対の車輪が共に空転・滑走していない場合は、ノッチトルク指令と各輪協調制御トルクを加算した値をトルク指令として出力し、左右一対の車輪のうち少なくとも一方の車輪が空転・滑走した場合は、ノッチトルク指令を引き下げた再粘着制御トルクをトルク指令として出力する再粘着制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0022】
また、本発明の別の態様は、各車輪をそれぞれ独立して駆動制御する各輪独立駆動台車の制御装置であって、各車輪の回転角速度検出値に基づいて、各輪の回転角速度差を補正するための各輪協調制御トルクを算出する各輪協調制御部と、左右一対の車輪が共に空転・滑走していない場合は、ノッチトルク指令と各輪協調制御トルクを加算した値をトルク指令として出力し、左右一対の車輪のうち少なくとも一方の車輪が空転・滑走した場合は、各輪協調制御トルクを引き下げた値とノッチトルク指令とを加算した再粘着制御トルクをトルク指令として出力し、前記再粘着制御トルクにより運転した際に、左右一対の車輪のうち少なくとも一方の車輪が空転・滑走した場合は、ノッチトルク指令を引き下げた再粘着制御トルクをトルク指令として出力する再粘着制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0023】
また、本発明の別の態様は、前記再粘着制御部は、前記ノッチトルク指令を引き下げる際、空転・滑走状態の車輪と共に、粘着状態の車輪のトルクも引き下げ、空転・滑走状態の車輪のトルクと粘着状態の車輪のトルクとを同一とすることを特徴とする。
【0024】
また、本発明の別の態様は、前記再粘着制御部は、前記ノッチトルク指令を引き下げる際、空転・滑走状態の車輪のトルクを引き下げ、粘着状態の車輪はノッチトルク指令を出力することを特徴とする。
【0025】
また、本発明の別の態様は、前記各輪協調制御トルクは、回転角速度検出値から、左右対の平均回転角速度を算出し、各車輪の回転角速度と前記平均回転との偏差を0とするための値とすることを特徴とする
また、本発明の別の態様は、前記各輪協調制御トルクは、回転角速度検出値から、左右対の車輪の回転角速度の偏差を算出し、この偏差を0とするための値とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、再粘着制御と各輪協調制御とを組み合わせた各輪独立駆動台車の制御装置において、ノッチトルク指令以上に加速することを抑制することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態1〜3における各輪独立駆動台車の制御装置を図面に基づいて詳細に説明する。
【0029】
[実施形態1]
図1に示す各輪独立駆動台車の制御装置40は、回転角速度検出器21と、各輪協調制御部22と、空転・滑走検知部23と、負荷トルク推定部24と、再粘着制御部25と、加算部26と、を備えている。本実施形態1における各輪独立駆動台車の制御装置40は、
図13に示す各輪独立駆動台車の制御装置と比較して、空転・滑走検知フラグFlag_FL,Flag_FRが各輪協調制御部22に入力されている点が異なっている。なお、
図1では前輪の制御についてのみ示しているが、後輪についても同様である。
【0030】
回転角速度検出器(例えば、レゾルバ・エンコーダ等)21は、左右輪のモータ回転角速度ω
FL,ω
FRを入力し、左右輪の回転角速度検出値ω
FL_det,ω
FR_detとして出力する。ここで、車軸取付の場合は、検出したモータの回転角速度ω
FL,ω
FRをそのまま左右輪の回転角速度検出値ω
FL_det,ω
FR_detとして出力、モータ取付の場合は、モータの回転角速度ω
FL,ω
FRからギア比を考慮して車輪回転角速度検出値ω
FL_det,ω
FR_detを算出する。
【0031】
空転・滑走検知部23は、左右輪の回転角速度検出値ω
FL_det,ω
FR_detに基づいて、各車輪の空転・滑走状態を検知し、空転・滑走検知フラグFlag_FL,Flag_FRを出力する。なお、空転・滑走検知フラグFlag_FL,Flag_FRは、粘着状態で「0」、空転・滑走状態で「1」を出力する論理信号である。空転・滑走を検知する方法としては、例えば、車両速度情報と、回転角速度検出値ω
FLに車輪ノミナル半径(車輪が左右中立位置にある場合の回転半径)rを乗じた車輪並進速度rω
FLと、の差を車両速度情報で除算してすべり率を算出し、このすべり率が所定の閾値以上、かつ、所定時間以上継続した場合、空転・滑走状態として検知する方法が挙げられる。
【0032】
負荷トルク推定部24は、トルク指令T
m_FL,T
m_FRおよび回転角速度検出値ω
FL_det,ω
FR_detから負荷トルク推定値T
obs_FL,T
obs_FRを推定する。負荷トルク推定値T
obs_FLを推定する方法としては、例えば、回転角速度検出値ω
FL_detに車輪+モータ回転子の慣性モーメントを乗算して擬似微分し、トルク指令T
m_FLから擬似微分した値を減算する方法が挙げられる。なお、負荷トルク推定値T
obs_FRも同様の方法で算出することが可能である。
【0033】
ここで、本実施形態1における各輪協調制御部22を
図2に基づき説明する。各輪協調制御部22は、加算器22Aと、除算器22Bと、PID制御部22C,22Cと、OR回路22Dと、空転信号一定時間保持部22Eと、を備える。
【0034】
車輪の回転角速度検出値ω
FL_ detとω
FR_detは、加算器22Aにおいて加算され、その加算された値は除算器22Bにより2で除算される。この除算器22Bの出力は、左右輪の平均回転角速度ω
F_det*となる。この平均回転角速度ω
F_det*と、回転角速度検出値ω
FL_ det,ω
FR_detとの偏差はそれぞれPID制御部22C,22CにおいてPID演算され、各輪の回転角速度差を補正するための各輪協調制御トルクT
LR_FL,T
LR_FRとして出力される。
【0035】
そして、本実施形態1における各輪協調制御部22は、空転・滑走検知フラグFlag_FL,Flag_FRを入力し、左右輪の空転・滑走検知フラグFlag_FL,Flag_FRのうち少なくとも一方が「1」となった場合、空転信号一定時間保持部22Eで空転・滑走検知フラグFlag_FL,Flag_FRを保持する。保持時間は後述する空転復帰時間x1と空転復帰時間x2とを合わせた時間以上とする。空転信号一定時間保持部22Eで空転・滑走検知フラグFlag_FL,Flag_FRが保持されている間は、PID制御部22C,22Cがリセット(PIゲインを0とし、積分器がリセット)され、各輪協調制御トルクT
LR_FL,T
LR_FRは0となる。
【0036】
加算部26は、ノッチトルク指令T
notchと各輪協調制御トルクT
LR_FL,T
LR_FRとをそれぞれ加算し、ノッチトルク指令T
notch+各輪協調制御トルクT
LR_FL,ノッチトルク指令T
notch+各輪協調制御トルクT
LR_FRとして、再粘着制御部25へ出力する。
【0037】
再粘着制御部25は、ノッチトルク指令T
notch+各輪協調制御トルクT
LR_FL,ノッチトルク指令T
notch+各輪協調制御トルクT
LR_FR,負荷トルク推定値T
obs_FL,T
obs_FR,空転・滑走検知フラグFlag_FL,Flag_FRに基づき、トルク指令T
m_FL,T
m_FRを算出する。
【0038】
次に、
図3のフローチャートに基づき、本実施形態1における各輪独立駆動台車の制御装置40の動作を説明する。
【0039】
(S1)再粘着制御部25において、ノッチトルク指令T
notch+各輪協調制御トルクT
LR_FL,ノッチトルク指令T
notch+各輪協調制御トルクT
LR_FR,負荷トルク推定値T
obs_FL,T
obs_FR,空転・滑走検知フラグFlag_FL,Flag_FRを読み込む。
【0040】
(S2)空転・滑走検知フラグFlag_FL,Flag_FRに基づいて、空転・滑走状態か否かを判定する。空転・滑走検知フラグFlag_FL,Flag_FRのうち少なくとも一方が「1」(空転・滑走状態)であればYESとしてS4へ移行し、空転・滑走検知フラグFlag_FL,Flag_FRの両方が「0」(粘着状態)であればNoとしてS3へ移行する。
【0041】
(S3)空転・滑走検知フラグFlag_FL,Flag_FRが両方とも「0」(粘着状態)の場合は、下記(1),(2)式を左右輪のトルク指令T
m_FL,T
m_FRとして出力する。
【0043】
すなわち、両車輪とも粘着状態の場合は、ノッチトルク指令T
notchに各輪協調制御トルクT
LR_FL,T
LR_FRを加算した値をトルク指令T
m_FL,T
m_FRとして出力する。
【0044】
(S4)空転・滑走検知フラグFlag_FL,Flag_FRのうち少なくとも一方が「1」の場合は、空転・滑走検知時における負荷トルク推定値T
obs_FL,T
obs_FRのうち絶対値の最小値(滑走時には最大値)を保持トルクT
Latchとして、次回の空転検知時まで保持する。
【0045】
(S5)下記(3),(4)式を、左右輪のトルク指令T
m_FL,T
m_FRとして出力する。なお、空転・滑走検知時には、各輪協調制御トルクT
LR_FL,T
LR_FRは0となる。また、下記(3),(4)式のT
re-adaheison_FL,T
re-adhesion_FRは、同一の保持トルクT
Latchに基づいて算出されるため、左右輪のトルク指令T
m_FL,T
m_FRは同一の値となる。
【0047】
上記S1〜S5は、各輪協調制御トルクT
LR_FL,T
LR_FRを考慮した処理である。
【0048】
次に、再粘着制御トルクT
re-adhesion_FL,T
re-adhesion_FRの一例について説明する。
図4は、ノッチトルク指令T
notch上昇中(加速トルク入力中)に空転状態を検知した場合の再粘着制御トルクT
re-adhensionの一例を示す図である。
【0049】
空転検知時には、負荷トルク推定値T
obs_FL,T
obs_FRの絶対値のうち最小値(滑走時には最大値)を保持トルクT
Latchとして、次回の空転検知時まで保持する。そして、空転検知時には、再粘着制御トルクT
re-adhensionを、負荷トルク推定値T
obsのy1[%]まで引き下げ空転復帰時間x1の間、保持する。この空転復帰時間x1経過後、再粘着制御トルクをy2[%]を目標値として引き上げ、その後、保持トルクT
Latchのy2[%]を空転復帰時間x2の間、保持する。ここで、空転復帰時間x1は、空転・滑走状態から再粘着状態へ復帰するための時間であり、空転復帰時間x2は推定される路面状態においてできる限り加減角速度を得るための時間である。すなわち、空転復帰時間x2は、空転復帰時間x1で粘着状態に復帰した後に、まだ路面状態がノッチトルク指令T
notch+各輪協調制御トルクT
LRを出力できるかわからない状態で、できる限りトルクを大きくして加減角速度を得るための時間である。空転復帰時間x2後は、ノッチトルク指令T
notch+各輪協調制御トルクT
LR_FL,T
LR_FRを目標値として再粘着制御トルクT
re-adhensionを引き上げていく。なお、前記空転復帰時間x1,x2およびy1[%],y2[%]は予め設定された値とする。
【0050】
図5は、惰行状態における実施形態1のノッチトルク指令,各輪協調制御トルク,再粘着制御トルクを示すグラフである。
図5に示すように、時刻0〜5秒の間は両車輪が 粘着状態であり、左車輪の各輪協調制御トルクT
LR_FL=50[%]、右車輪の各輪協調制御トルクT
LR_FR=−50[%]、ノッチトルク指令T
notch=0[%]で走行している。
【0051】
時刻5秒後に左車輪で空転が発生した際、各輪協調制御トルクT
LR_FL,T
LR_FRは0[%]に制御され、空転状態の車輪と共に粘着状態の車輪のトルクが引き下げられる。この時、空転状態の車輪と粘着状態の車輪は同一のトルクとなる。その結果、空転・滑走状態を抑制すると共にヨーイングトルクを引き下げるために、空転状態の車輪と粘着状態の車輪のトルクを引き下げて同一のトルクとしても、各輪協調制御トルクT
LR_FL,T
LR_FRの影響により、左右輪の平均値がノッチトルク指令T
notch以上のトルクとなることがなく、ノッチトルク指令T
notchでの走行が可能となる。さらに、空転状態の車輪と共に、粘着状態の車輪のトルクも引き下げるため、ヨーイングトルクを抑制することも可能となる。
【0052】
以上示したように、本実施形態1によれば、再粘着制御と左右輪協調制御とを組み合わせた各輪独立駆動台車の制御装置において、車輪に空転・滑走が発生したとしても、再粘着状態に復帰させることができると共に、ノッチトルク指令T
notch以上の加速となることを抑制することが可能となる。さらに、本実施形態1によれば、空転状態の車輪と共に、粘着状態の車輪も引き下げて同一のトルクとするため、ヨーイングトルクの発生が抑制される。
【0053】
[実施形態2]
本実施形態2における各輪独立駆動台車の制御装置を、
図6,
図7に基づいて説明する。なお、本実施形態2における各輪独立駆動台車の制御装置の構成は、実施形態1と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0054】
本実施形態2における各輪独立駆動台車の制御装置の動作を、
図6のフローチャートに基づいて説明する。
【0055】
(S11〜S13)実施形態1における処理ステップS1〜S3と同様である。
【0056】
(S14)各輪協調制御トルクT
LR_FL,T
LR_FRに対して再粘着制御(トルクを引き下げる制御)を行う。なお、この時は空転信号一定時間保持部22Eは動作せず、各輪協調制御部22から各輪協調制御トルクT
LR_FL,T
LR_FRが出力されるものとする。
【0057】
下記(5)式のT
L(re−adhesion),−T
R(re−adhesion)は各輪協調制御トルクT
LR_FL,T
LR_FRを再粘着制御した値である。下記(5)式に示すように、各輪協調制御トルクT
LR_FL,T
LR_FRを再粘着制御した値の絶対値は同一となる。
【0059】
各輪協調制御トルクT
LR_FL,T
LR_FRを再粘着制御した時のトルク指令
m_FL,T
m_FRを下記(6),(7)式に示す。
【0061】
前記(6),(7)式に示すように、各輪協調制御トルクT
LR_FL,T
LR_FRを再粘着制御した値T
L(re−adhesion),−T
R(re−adhesion)に、ノッチトルク指令T
notchが加算された値(再粘着制御トルク)がトルク指令T
m_FL,T
m_FRとして出力される。
【0062】
(S15)S14で算出されたトルク指令T
m_FL,T
m_FR(前記(6),(7)式)おいて運転した状態で、空転・滑走状態か否かを空転・滑走検知部23において判定する。空転・滑走状態と判定された場合は、YESとしてS16へ移行する。空転・滑走状態と判定されなかった場合はNoとしてS12へ移行する。
【0063】
(S16)S15で空転・滑走状態と判断された場合は、ノッチトルク指令T
notchにより空転・滑走状態となっているため、各輪協調制御トルクT
LR_FL,T
LR_FRを各輪 協調制御部22で0とし、再粘着制御(トルクを引き下げる制御)を行う。この再粘着制御は、実施形態1の処理ステップS4,S5と同様であり、左右輪のトルク指令T
m_FL,T
m_FRは同一となる。
【0064】
図7は、惰行状態における本実施形態2のノッチトルク指令,左右輪協調制御トルク,再粘着制御トルクを示すグラフである。
図7に示すように、時刻0〜5秒間の粘着状態では、従来技術(
図14)および実施形態1(
図5)と同様に、左車輪の各輪協調制御トルクT
LR_FL=50[%],右車輪の各輪協調制御トルクT
LR_FR=−50[%],ノッチトルク指令T
notch=0[%]として走行している。
【0065】
そして、時刻5秒後に左車輪で空転が発生すると、左車輪の各輪協調制御トルクT
LR_FLに対して再粘着制御が行われる。この時、右車輪の各輪協調制御トルクT
LR_FRも同様に再粘着制御が行われるが、左右輪の各輪協調制御トルクT
LR_FL,T
LR_FRの絶対値が同一であるため、加減速は生じない。
【0066】
その後、実施形態1と同様に、左右輪の各輪協調制御トルクT
LR_FL,T
LR_FR=0[%]とし、ノッチトルク指令T
notchを引き下げる再粘着制御を行う。
【0067】
以上示したように、本実施形態2では、各輪協調制御トルクT
LR_FL,T
LR_FRを空転・滑走状態の検知ですぐに0とするのではなく、まず、各輪協調制御トルクT
LR_FL,T
LR_FRを再粘着制御により引き下げるものである。そして各輪協調制御トルクT
LR_FL,T
LR_FRを再粘着制御しても、空転・滑走状態の場合は、各輪協調制御トルクT
LR_FL,T
LR_FRを0とし、ノッチトルク指令T
notchを引き下げるものである。これにより、空転・滑走検知時にも、ノッチトルク指令T
notchによる空転・滑走でない場合には、各輪協調制御の効果(スムーズな曲線通過等)を可能な限り残しつつ、空転・滑走状態を抑制することが可能である。
【0068】
その結果、本実施形態2における各輪独立駆動台車の制御装置は、実施形態1と同様の作用効果を奏すると共に、各輪協調制御の効果を可能な限り残すことが可能となる。
【0069】
[実施形態3]
本実施形態3における各輪独立駆動台車の制御装置について
図8,9に基づいて説明する。なお、本実施形態3における制御装置の構成は実施形態1の
図1と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0070】
本実施形態3における各輪独立駆動台車における制御装置の動作を、
図8のフローチャートに基づいて説明する。
【0071】
(S21〜S23)実施形態1における処理ステップS1〜S3と同様である。
【0072】
(S24)PID制御部22C,22Cをリセットし、各輪協調制御トルクT
LR_FL,T
LR_FRを0とする。そして、空転・滑走車輪のみ再粘着制御(トルクを引き下げる制御)を行う。
【0073】
実施形態3では、S24において空転・滑走時に空転・滑走状態の車輪にのみ再粘着制御を適用している。
【0074】
すなわち、粘着状態の車輪のトルク指令T
m_FL(または、T
m_FR)はノッチトルク指令T
notchを出力し、空転・滑走状態の車輪は再粘着制御トルクT
re-adhesionをトルク指令T
m_FL(または、T
m_FR)として出力する。その結果、左右車輪に対してトルクアンバランスが発生し、ヨーイングトルクが発生することとなる。
【0075】
しかし、左右のトルク差が問題とならない範囲では、ヨーイングトルクの抑制よりもノッチトルク指令T
notchの加減速性能を重視することが要求される場合がある。そのような場合には、粘着状態の車輪はノッチトルク指令T
notchを出力して、少しでもノッチトルク指令T
notchに近い加減速を行う。また、左右輪協調制御トルクT
LR_FL,T
LR_FR=0としているため、従来技術の問題点である予期せぬ加減速も生じない。(ただし、再粘着制御による加減速は生じる。)
図9は、本実施形態3における左右輪のトルク指令とノッチトルク指令の一例を示すグラフである。
図9に示すように、時刻0〜5秒までは、両車輪が粘着状態であり、左右輪のトルク平均値がノッチトルク指令T
notchであるため、ノッチトルク指令T
notch相当の加速が可能である。
【0076】
時刻5秒後に左車輪に空転が発生すると、まず、各輪協調制御トルクT
LR_FL,T
LR_FR=0に制御される。この時点で左右輪のトルク指令T
m_FL,T
m_FRがノッチトルク指令T
notch以上となることはない。そして、空転状態の左車輪に対して再粘着制御が行われ、トルクが引き下げられる。この時、左車輪のトルク指令T
m_FLはノッチトルク指令T
notch以下となる。一方、粘着状態の右車輪に対するトルク指令T
m_FRはノッチトルク指令T
notchを出力する。
【0077】
以上示したように、本実施形態3における各輪独立駆動台車の制御装置によれば、ノッチトルク指令T
notch以上に加速することを抑制することが可能となる。
【0078】
また、実施形態1,2などでは,ヨーイングトルク防止のため粘着状態の車輪も空転・滑走状態の車輪同様にトルクを絞っていたが,本実施形態3では空転車輪にのみ再粘着制御を行い、粘着状態の車輪に対してはノッチトルク指令を出力するため、加減速性能の向上を図ることが可能となる。
【0079】
再粘着制御は、
図4に示すような特定の方法についてのみ詳細に説明したが、トルクを引き下げる制御であれば、その他の方法でも適用可能である。
【0080】
また、実施形態1において、各輪協調制御部は、
図11に基づいた構成についてのみ説明したが、
図10に基づいた構成でも適用可能である。
【0081】
さらに、実施形態1において、車両速度情報と回転角速度からすべり率を算出する空転・滑走検知の方法を説明したが、空転・滑走を各輪で検知できる方法であれば、その他の方法(トルク指令と負荷トルク推定値に基づいて検出する方法、車輪回転角速度から演算した回転角速度に基づいて検出する方法等)で検出しても良い。