(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6107343
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】空気入りバイアスタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
B60C 9/07 20060101AFI20170327BHJP
B60C 9/06 20060101ALI20170327BHJP
B29D 30/44 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
B60C9/07
B60C9/06 E
B29D30/44
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-79638(P2013-79638)
(22)【出願日】2013年4月5日
(65)【公開番号】特開2014-201231(P2014-201231A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2016年4月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】内藤 充
【審査官】
増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】
特公昭47−020682(JP,B1)
【文献】
特開2010−000994(JP,A)
【文献】
特開2005−306155(JP,A)
【文献】
特開2010−000996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/07
B29D 30/44
B60C 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、前記トレッド部と前記サイドウォール部との間に位置する一対のバットレス部と、前記サイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、これら一対のビード部間にタイヤ周方向に対して傾斜する複数本のカーカスコードを含む複数層のカーカス層を装架した構造を有し、前記バットレス部における前記カーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度ABを前記トレッド部における前記カーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度ACよりも大きくし、前記バットレス部における前記カーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度ABを前記サイドウォール部における前記カーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度ASよりも大きくし、かつ前記トレッド部における前記カーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度ACが15°≦AC≦40°の範囲にある空気入りバイアスタイヤを製造する方法であって、
タイヤ周方向に対して傾斜する複数本のカーカスコードを含むシート状のカーカス部材の幅方向の中央部を把持する中央部把持手段と、前記カーカス部材の幅方向の両端部をそれぞれ把持する一対の端部把持手段と、前記カーカス部材の中央部と両端部との間の中間部を加熱する一対の加熱手段とを備えたカーカス加工装置を使用し、前記中央部把持手段及び前記端部把持手段で前記カーカス部材の中央部及び両端部を把持した状態で前記加熱手段により前記カーカス部材の中間部を加熱して軟化させ、前記端部把持手段を前記カーカス部材の長手方向に沿って前記中央部把持手段に対して相対的に移動させることで軟化させた中間部における前記カーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度を増大させ、このようにしてカーカスコードの傾斜角度が調整されたカーカス部材を含むグリーンタイヤを成形し、該グリーンタイヤを加硫することを特徴とする空気入りバイアスタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記空気入りバイアスタイヤにおいて、前記トレッド部における前記カーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度ACが25°≦AC≦35°の範囲にあり、前記バットレス部における前記カーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度ABが60°≦AB≦90°の範囲にあり、前記サイドウォール部における前記カーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度ASが35°≦AS≦60°の範囲にあり、かつAC≦AS<ABの関係を満足することを特徴とする請求項1に記載の空気入りバイアスタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記空気入りバイアスタイヤにおいて、前記カーカス層を前記ビード部に配置されたビードコアの廻りにタイヤ内側から外側へ巻き上げ、前記カーカス層の巻き上げ端末を前記ビードコア上に配置されたビードフィラーの頂点よりもトレッド部側に配置し、前記カーカス層の巻き上げ端末を前記バットレス部における前記カーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度ABが60°≦AB≦90°となる部位よりもビード部側に配置したことを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りバイアスタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記空気入りバイアスタイヤがレーシングカート用であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りバイアスタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーシングカート用として好適な空気入りバイアスタイヤ
の製造方法に関し、更に詳しくは、駆動性能及びコーナリング性能を同時に改善することを可能にした空気入りバイアスタイヤ
の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りバイアスタイヤは、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本のカーカスコードを含む複数層のカーカス層を一対のビード部間に装架したバイアス構造を有している(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
空気入りバイアスタイヤを製造する場合、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本のカーカスコードを含む複数層のカーカス部材を層間でカーカスコードが交差するように成形ドラムの周囲に巻き付け、これらカーカス部材を含む円筒状のグリーンタイヤを成形し、該グリーンタイヤを金型内でトロイダル形状に膨張させた状態で加硫を行う。そのため、空気入りバイアスタイヤにおいては、通常、カーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度がサイドウォール部側からトレッド部側に向かって徐々に小さくなっている。
【0004】
このようなバイアス構造を有する空気入りバイアスタイヤは、例えば、レーシングカート用タイヤとして好ましく使用されているが、近年、レーシングカートの車両性能の向上に伴い、それに装着される空気入りバイアスタイヤにはより高いレベルの性能が求められている。
【0005】
ここで、空気入りバイアスタイヤの駆動性能を高めるには周剛性を増大させることが必要であり、コーナリング性能を高めるためにはタイヤ幅方向のグリップ力に負けない横剛性を確保することが必要である。また、縦剛性を適度に下げて路面に対する追従性を確保することは駆動性能及びコーナリング性能の両性能を確保するために必要である。しかしながら、空気入りバイアスタイヤは、その製法上、カーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度がサイドウォール部側からトレッド部側に向かって徐々に小さくなるようなカーカスラインを有しているため、必要とされる周剛性と横剛性と縦剛性を同時に得ることが難しく、その結果、駆動性能とコーナリング性能とを同時に改善することができないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−196521号公報
【特許文献2】特開2010−994号公報
【特許文献3】特開2010−996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、駆動性能及びコーナリング性能を同時に改善することを可能にした空気入りバイアスタイヤ
の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の空気入りバイアスタイヤ
の製造方法は、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、前記トレッド部と前記サイドウォール部との間に位置する一対のバットレス部と、前記サイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、これら一対のビード部間にタイヤ周方向に対して傾斜する複数本のカーカスコードを含む複数層のカーカス層を装架した
構造を有し、前記バットレス部における前記カーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度ABを前記トレッド部における前記カーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度ACよりも大きくし、前記バットレス部における前記カーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度ABを前記サイドウォール部における前記カーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度ASよりも大きくし、かつ前記トレッド部における前記カーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度ACが15°≦AC≦40°の範囲にある
空気入りバイアスタイヤを製造する方法である。
【0009】
より具体的には、上記目的を達成するための本発明の空気入りバイアスタイヤの製造方法は、上記空気入りラジアルタイヤを製造する方法であって、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本のカーカスコードを含むシート状のカーカス部材の幅方向の中央部を把持する中央部把持手段と、前記カーカス部材の幅方向の両端部をそれぞれ把持する一対の端部把持手段と、前記カーカス部材の中央部と両端部との間の中間部を加熱する一対の加熱手段とを備えたカーカス加工装置を使用し、前記中央部把持手段及び前記端部把持手段で前記カーカス部材の中央部及び両端部を把持した状態で前記加熱手段により前記カーカス部材の中間部を加熱して軟化させ、前記端部把持手段を前記カーカス部材の長手方向に沿って前記中央部把持手段に対して相対的に移動させることで軟化させた中間部における前記カーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度を増大させ、このようにしてカーカスコードの傾斜角度が調整されたカーカス部材を含むグリーンタイヤを成形し、該グリーンタイヤを加硫することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、空気入りバイアスタイヤにおいて、トレッド部におけるカーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度ACを15°≦AC≦40°の範囲に設定する一方で、従来のカーカスラインとは異なって、バットレス部におけるカーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度をトレッド部におけるカーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度よりも大きくし、バットレス部におけるカーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度をサイドウォール部におけるカーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度よりも大きくすることにより、タイヤの横剛性及び周剛性を維持しつつバットレス部でのタイヤ変形を容易にしてタイヤの縦剛性を低下させることができる。その結果、駆動性能及びコーナリング性能を同時に改善することが可能になる。
【0011】
本発明において、トレッド部におけるカーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度ACが25°≦AC≦35°の範囲にあり、バットレス部におけるカーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度ABが60°≦AB≦90°の範囲にあり、サイドウォール部におけるカーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度ASが35°≦AS≦60°の範囲にあり、かつAC≦AS<ABの関係を満足することが好ましい。これにより、駆動性能及びコーナリング性能を効果的に改善することができる。
【0012】
カーカス層をビード部に配置されたビードコアの廻りにタイヤ内側から外側へ巻き上げ、カーカス層の巻き上げ端末をビードコア上に配置されたビードフィラーの頂点よりもトレッド部側に配置する場合、カーカス層の巻き上げ端末はバットレス部におけるカーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度ABが60°≦AB≦90°となる部位よりもビード部側に配置することが好ましい。これにより、カーカス層の巻き上げ構造に基づいて横剛性を十分に確保して良好なコーナリング性能を発揮することができ、しかもバットレス部におけるタイヤ変形が阻害されるのを回避して良好な駆動性能を確保することができる。
【0013】
本発明の空気入りラジアルタイヤは、特にレーシングカート用として好適である。レーシングカート用空気入りバイアスタイヤとは、国際カート委員会(FIA−CIK)の規定に適合する空気入りバイアスタイヤであって、リム径の呼びが5〜6インチの範囲にある空気入りバイアスタイヤを意味する。
【0014】
また、本発明の空気入りバイアスタイヤの製造方法によれば、シート状のカーカス部材の幅方向の中央部を把持する中央部把持手段と、カーカス部材の幅方向の両端部をそれぞれ把持する一対の端部把持手段と、カーカス部材の中央部と両端部との間の中間部を加熱する一対の加熱手段とを備えたカーカス加工装置を使用することにより、上述のように優れたタイヤ性能を有する空気入りラジアルタイヤの製造を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態からなるレーシングカート用空気入りバイアスタイヤを示す子午線半断面図である。
【
図2】
図1の空気入りバイアスタイヤにおけるカーカス層の要部を抽出して示す展開図である。
【
図3】本発明の空気入りバイアスタイヤの製造に使用されるカーカス加工装置を示す平面図である。
【
図4】本発明の空気入りバイアスタイヤの製造に使用されるカーカス加工装置を示す側面図である。
【
図5】本発明の空気入りバイアスタイヤの製造方法におけるカーカス加工工程を示し、(a)は加工前のカーカス部材を示す平面図であり、(b)は加工後のカーカス部材を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態からなるレーシングカート用空気入りバイアスタイヤを示し、
図2はそのカーカス層の要部を抽出して示すものである。
図1及び
図2ではタイヤ赤道面CLの片側のみを描写するが、この空気入りバイアスタイヤはタイヤ赤道面CLの両側にて対称的な構造を有するものである。
【0017】
図1に示すように、この空気入りバイアスタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部3と、トレッド部1とサイドウォール部3との間に位置する一対のバットレス部2と、サイドウォール部3のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部4とを備えている。バットレス部2はトレッド部1に隣接しつつ接地領域から外れた部位であり、バットレス部2とサイドウォール部3との境界はトレッド部1に配置されたキャップトレッドゴム層11のタイヤ幅方向の端部位置にて特定される。キャップトレッドゴム層11のタイヤ幅方向の端部位置は一般的にトレッドデザインの終端位置に相当する。
【0018】
一対のビード部4,4間には2層のカーカス層5が装架されている。これらカーカス層5は、タイヤ周方向Cに対して傾斜するように引き揃えられた複数本のカーカスコード5a(
図2参照)を含み、そのカーカスコード5aが層間で互いに交差するように配置されている。カーカスコード5aとしては、例えば、ナイロン繊維コードやポリエステル繊維コードに代表される有機繊維コードを使用することができる。これらカーカス層5は各ビード部4に配置されたビードコア6の廻りにタイヤ内側から外側に巻き上げられている。また、ビードコア6の外周上にはゴム組成物からなるビードフィラー7が配置され、このビードフィラー7がカーカス層5の本体部分と巻き上げ部分との間に挟み込まれている。
【0019】
上述したバイアス構造を有するレーシングカート用空気入りバイアスタイヤにおいて、バットレス部2におけるカーカスコード5aのタイヤ周方向に対する傾斜角度ABはトレッド部1におけるカーカスコード5aのタイヤ周方向に対する傾斜角度ACよりも大きくなるように設定され、かつ、バットレス部2におけるカーカスコード5aのタイヤ周方向に対する傾斜角度ABはサイドウォール部3におけるカーカスコード5aのタイヤ周方向に対する傾斜角度ASよりも大きくなるように設定されている。
【0020】
なお、トレッド部1における傾斜角度ACはタイヤ赤道面CLの位置で測定されるカーカスコード5aのタイヤ周方向に対する傾斜角度を意味し、バットレス部2における傾斜角度ABはキャップトレッドゴム層11のタイヤ幅方向の端部位置で測定されるカーカスコード5aのタイヤ周方向に対する傾斜角度を意味し、サイドウォール部3における傾斜角度ASはタイヤ最大幅位置で測定されるカーカスコード5aのタイヤ周方向に対する傾斜角度を意味し、これら傾斜角度AC,AB,ASはカーカス層5を同一平面上に展開した状態で上記各部位において測定することができる。
【0021】
上記レーシングカート用空気入りバイアスタイヤでは、従来のカーカスラインとは異なって、バットレス部2におけるカーカスコード5aのタイヤ周方向に対する傾斜角度ABをトレッド部1におけるカーカスコード5aのタイヤ周方向に対する傾斜角度ACよりも大きくし、バットレス部2におけるカーカスコード5aのタイヤ周方向に対する傾斜角度ABをサイドウォール部3におけるカーカスコード5aのタイヤ周方向に対する傾斜角度ASよりも大きくすることにより、タイヤの横剛性及び周剛性を維持しつつバットレス部2でのタイヤ変形を容易にしてタイヤの縦剛性を低下させることができる。その結果、駆動性能及びコーナリング性能を同時に改善することが可能になる。
【0022】
上記空気入りバイアスタイヤにおいて、トレッド部1におけるカーカスコード5aのタイヤ周方向に対する傾斜角度ACは15°≦AC≦40°の範囲にあることが必要であるが、より好ましくは、トレッド部1におけるカーカスコード5aのタイヤ周方向に対する傾斜角度ACは25°≦AC≦35°の範囲にあり、バットレス部2におけるカーカスコード5aのタイヤ周方向に対する傾斜角度ABは60°≦AB≦90°の範囲にあり、サイドウォール部3におけるカーカスコード5aのタイヤ周方向に対する傾斜角度ASは35°≦AS≦60°の範囲にあり、かつAC≦AS<ABの関係を満足すると良い。これにより、駆動性能及びコーナリング性能を効果的に改善することができる。
【0023】
ここで、トレッド部1における傾斜角度ACが25°よりも小さいとトレッド部1の横剛性がタイヤ幅方向のグリップ力に対して不足するためコーナリング性能が低下し、逆に35°よりも大きいとトレッド部1の周方向のグリップ力に抗する周剛性が不足するため駆動性能の改善効果が低下する。また、バットレス部2における傾斜角度ABが60°よりも小さいと縦剛性が必要以上に高くなるためコーナリング性能及び駆動性能の両性能の改善効果が低下し、逆に90°よりも大きくすることはカーカス部材の加工が困難である。更に、サイドウォール部3における傾斜角度ASには剛性を発現する適値がある。即ち、35°よりも小さいとサイドウォール部3の縦剛性が下がり走行姿勢の変化が過剰となるためコーナリング性能の低下を生じることになる。逆に60°よりも大きいとサイドウォール部3の横剛性が低下するためコーナリング性能の改善効果が低下する。
【0024】
上記空気入りバイアスタイヤにおいて、カーカス層5をビード部4に配置されたビードコア6の廻りにタイヤ内側から外側へ巻き上げ、カーカス層5の巻き上げ端末5eをビードコア6上に配置されたビードフィラー7の頂点よりもトレッド部1側に配置するにあたって、カーカス層5の巻き上げ端末5eはバットレス部2におけるカーカスコード5aのタイヤ周方向に対する傾斜角度ABが60°≦AB≦90°となる部位よりもビード部4側に配置すると良い。これにより、カーカス層5の巻き上げ構造に基づいてサイドウォール部3の周剛性及び横剛性を十分に確保できることから良好なコーナリング性能を発揮することができ、しかもバットレス部2における適度なタイヤ変形が確保できることから良好な駆動性能を発揮することができる。つまり、カーカス層5の巻き上げ構造を適正化することにより、コーナリング性能を十分に確保しながらバットレス部2の柔軟性を確保することができる。
【0025】
上述した実施形態では2層のカーカス層を備えたレーシングカート用空気入りバイアスタイヤの場合について説明したが、本発明の構成は3層以上のカーカス層を備えたレーシングカート用空気入りバイアスタイヤにも適用可能である。勿論、上記構成はレーシングカート以外の用途の空気入りバイアスタイヤに適用することもできる。
【0026】
次に、上述した空気入りバイアスタイヤの製造方法について説明する。
図3及び
図4は本発明の空気入りバイアスタイヤの製造に使用されるカーカス加工装置を示し、
図5は本発明の空気入りバイアスタイヤの製造方法におけるカーカス加工工程を示すものである。
【0027】
図3〜
図5に示すように、このカーカス加工装置は、シート状のカーカス部材50の幅方向の中央部51が載置される台座21aと、該台座21aの上面に向かって進退自在に配設された押圧部材21bと、シート状のカーカス部材50の幅方向の両端部52,53がそれぞれ載置される一対の台座22a,23aと、これら台座22a,23aの上面に向かってそれぞれ進退自在に配設された押圧部材22b,23bとを備えている。台座21aと押圧部材21bとが中央部把持手段21を構成し、台座22aと押圧部材22bとが1つの端部把持手段22を構成し、台座23aと押圧部材23bとが他の端部把持手段23を構成している。これら端部把持手段22,23はタイヤ周方向Cと一致するカーカス部材50の長手方向に沿って中央部把持手段21に対して相対的に移動自在に構成されている。また、中央部把持手段21の台座21aには、カーカス部材50の中央部51と両端部52,53との間の中間部54,55を加熱するための一対の加熱手段24,25が搭載されている。
【0028】
上述した空気入りバイアスタイヤを製造する場合、先ず、
図5(a)に示すように、タイヤ周方向Cに対して傾斜する複数本のカーカスコード5aを含むシート状のカーカス部材50を用意する。このカーカス部材50は空気入りラジアルタイヤにおいてカーカス層5を構成するものである。次に、
図3及び
図4に示すようなカーカス加工装置を用いてカーカス部材50を加工する。つまり、中央部把持手段21及び端部把持手段22,23でカーカス部材50の中央部51及び両端部52,52を把持した状態で加熱手段24,25によりカーカス部材50の中間部54,55を加熱して軟化させる。そして、端部把持手段22,23をカーカス部材50の長手方向に沿って中央部把持手段21に対して相対的に移動させることにより、軟化状態にある中間部54,55におけるカーカスコード5aのタイヤ周方向に対する傾斜角度を増大させ、
図5(b)に示すような形状を有するカーカス部材50を得る。ここで、必要であれば、カーカスコード5aの傾斜角度が調整されたカーカス部材50の中間部54,55を冷却し、形状保持性を高めるようにしても良い。
【0029】
次いで、このようにしてカーカスコード5aの傾斜角度が調整された複数層のカーカス部材50を層間でカーカスコード5aが交差するように成形ドラムの周囲に巻き付け、これらカーカス部材50を含む円筒状のグリーンタイヤを成形し、そのグリーンタイヤを金型内でトロイダル形状に膨張させた状態で加硫を行う。
【0030】
上述した空気入りバイアスタイヤの製造方法によれば、トレッド部1におけるカーカスコード5aのタイヤ周方向に対する傾斜角度AC、バットレス部2におけるカーカスコード5aのタイヤ周方向に対する傾斜角度AB、サイドウォール部3におけるカーカスコード5aのタイヤ周方向に対する傾斜角度ASを所望の範囲に設定することができる。その結果、上述のように優れたタイヤ性能を有する空気入りラジアルタイヤの製造を実現することができる。
【実施例】
【0031】
タイヤサイズ7.1×11.0−5であって、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本のカーカスコードを含む2層のカーカス層を一対のビード部間に装架したバイアス構造を有するレーシングカート用空気入りバイアスタイヤにおいて、トレッド部におけるカーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度AC、バットレス部におけるカーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度AB、サイドウォール部におけるカーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度ASを表1のように設定して従来例、比較例1,2及び実施例1〜7のタイヤを製作した。
【0032】
これら試験タイヤについて、下記の評価方法により、駆動性能及びコーナリング性能を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0033】
駆動性能:
各試験タイヤをリムサイズ210−5のホイールに組付け、空気圧を80kPaとしてKF−2用の車両に装着し、レーシングカート専用の周回路を走行する際の駆動性能についてテストドライバーによる官能評価を行った。評価結果は、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど駆動性能が優れていることを意味する。
【0034】
コーナリング性能:
各試験タイヤをリムサイズ210−5のホイールに組付け、空気圧を80kPaとしてKF−2用の車両に装着し、レーシングカート専用の周回路を走行する際のコーナリング性能についてテストドライバーによる官能評価を行った。評価結果は、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどコーナリング性能が優れていることを意味する。
【0035】
【表1】
【0036】
表1から判るように、実施例1〜5のタイヤは、従来例との対比において、駆動性能及びコーナリング性能がいずれも改善されていた。これに対して、比較例1のタイヤは、サイドウォール部におけるカーカスコードの傾斜角度ASをバットレス部におけるカーカスコードの傾斜角度ABと同様に大きくしているためコーナリング性能が低下していた。また、比較例2のタイヤは、トレッド部におけるカーカスコードの傾斜角度ACが大き過ぎるため駆動性能が低下していた。
【符号の説明】
【0037】
1 トレッド部
2 バットレス部
3 サイドウォール部
4 ビード部
5 カーカス層
5a カーカスコード
6 ビードコア
7 ビードフィラー
11 キャップトレッドゴム層