特許第6107820号(P6107820)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6107820-不織布 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6107820
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】不織布
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/435 20120101AFI20170327BHJP
   D04H 1/4258 20120101ALI20170327BHJP
   D04H 1/4391 20120101ALI20170327BHJP
   D01F 6/62 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
   D04H1/435
   D04H1/4258
   D04H1/4391
   D01F6/62 303F
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-515740(P2014-515740)
(86)(22)【出願日】2014年1月16日
(86)【国際出願番号】JP2014050632
(87)【国際公開番号】WO2014132690
(87)【国際公開日】20140904
【審査請求日】2016年12月1日
(31)【優先権主張番号】特願2013-35766(P2013-35766)
(32)【優先日】2013年2月26日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】笠原 輝彦
(72)【発明者】
【氏名】谷野宮 政浩
(72)【発明者】
【氏名】宮内 俊馬
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特表平10−506961(JP,A)
【文献】 特開2005−350777(JP,A)
【文献】 特開2009−079320(JP,A)
【文献】 特開2007−277739(JP,A)
【文献】 特許第4233580(JP,B2)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0181592(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00−6/96
9/00−9/04
D04H1/00−18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多葉扁平断面ポリエステル系繊維20〜80質量%とセルロース系繊維20〜80質量%からなる不織布であって、前記多葉扁平断面ポリエステル系繊維の横断面形状が円周上に6個以上の凸部を有する扁平形状であり、多葉扁平断面ポリエステル系繊維の横断面の最大長さをA、最大幅をB、最大凹凸部において隣り合う凸部の頂点間を結ぶ線の長さをC、そして前記凸部の頂点間を結ぶ線Cから凹部の底点に下ろした垂線の長さをDとするとき、下記式(1)の扁平度と下記式(2)の異形度を同時に満足することを特徴とする不織布。
・扁平度(A/B)=2.0〜3.0 ・・・ (1)
・異形度(C/D)=2.0〜5.0 ・・・ (2)
【請求項2】
多葉扁平断面ポリエステル系繊維の横断面の最大長さAを対称軸とし、対向する両凸部頂点間線分のうち、横断面最大幅Bを除いて最長となる長さをEとするとき、下記式(3)で定義される凸部比を満足することを特徴とする請求項1記載の不織布。
・凸部比(E/B)=0.6〜0.9 ・・・ (3)
【請求項3】
多葉扁平断面ポリエステル系繊維の単繊維繊度が2.0dtex以下であることを特徴とする請求項1または2記載の不織布。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の不織布からなるワイパー用不織布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた吸水性を有すると共に水や薬液等の保液性が高く、更に優れた嵩高性、柔軟性および肌触りが得られることから、肌の美容用あるいは清拭用に好適に使用される不織布に関するものである。本発明は、特に美容用に使用する場合においては美容液の保液性が高く、必要に応じて美容液を放出できる性能を有し、清拭時には肌を傷つけることなく高い拭き取り性を有しており、拭き取った汚れは不織布内に保持し、そして再汚染を防ぐことが可能なワイパー用に適した不織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、湿潤状態で使用される対人清拭用不織布として、様々な不織布が提案されてきた。例えば、ポリエステル系繊維およびポリオレフィン系繊維を不織布全体に40〜77質量%含有させることにより、湿潤時における嵩のへたり性を防止し、柔軟性に富む不織布が提案されている(特許文献1参照。)。しかしながら、この提案の不織布は、ポリオレフィン系繊維を使用することにより肌触り性は良好であるが、剛性がなく十分な嵩は得られないため保液性も悪く、更には清拭性においてもなお十分でないという課題がある。
【0003】
また、異型断面繊維とフィブリル化繊維を使用することにより、嵩高性、拭き取り性および実使用感に優れたワイパー用不織布が提案されている(特許文献2参照。)。しかしながら、異型断面の繊維であれば、型状問わず不織布の保液性や清拭性が良くなるものでもなく、またフィブリル化繊維は、繊維断面が鋭利である場合が多く、対人清拭用に使用した場合に肌を傷つける恐れがあるという課題があった。
【0004】
さらに、保液性と清拭性を兼ね備えた不織布として、空孔部を有した異型断面繊維を含む不織布が提案されている(特許文献3参照。)。この提案による不織布の場合、その断面形状により保液性はよくなるものの、空孔部が潰れるなど形状保持性が劣るため、保液性能としては十分でないという課題がある。
【0005】
また、主体繊維の単繊維断面形状の扁平度が2.0以下で、かつ120度未満の開口角を有する開口部を2個以上有することを特徴として、引張強度および防透性に優れた吸水物品用シート材が提案されている(特許文献4参照。)。しかしながら、この提案の不織布は、光の乱反射による防透性は良好であるが、扁平度が低いため不織布の柔軟性としては十分でないという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−84297号公報
【特許文献2】特開2010−81987号公報
【特許文献3】特開2009−79320号公報
【特許文献4】特開2012−197546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明の目的は、前記の従来技術や天然繊維およびセルロース系繊維のみではなし得なかった液体の高い吸保液力と放出力を持ち、更に適度な嵩高性と柔軟性を有し、肌触りから肌への刺激が少なく、拭き取り性が良好な対人向け清拭用や美容用等のワイパー用途に適する不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、扁平多葉断面ポリエステル系繊維とセルロース系繊維を併用することにより、肌を傷つけることなく拭き取り性を向上できること、さらに液体を含ませて使用する場合においては、吸液力と保液力を向上させると共に、使用時には液体を放出できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
すなわち本発明の不織布は、扁平多葉断面ポリエステル系繊維20〜80質量%とセルロース系繊維20〜80質量%を混綿してなる不織布であって、前記扁平多葉断面ポリエステル系繊維の横断面形状が6個以上の凸部を有する扁平形状であり、扁平多葉断面ポリエステル系繊維が、横断面の最大長さをA、最大幅をB、最大凹凸部において隣り合う凸部の頂点間を結ぶ線の長さをC、そして前記凸部の頂点間を結ぶ線から凹部の底点に下ろした垂線の長さをDとするとき、下記式(1)の扁平度と下記式(2)の異形度を同時に満足することを特徴とする不織布である。
・扁平度(A/B)=2.0〜3.0 ・・・ (1)
・異形度(C/D)=1.0〜5.0 ・・・ (2)
本発明の不織布の好ましい態様によれば、前記の多葉扁平断面ポリエステル系繊維の横断面の最大長さAを対称軸とし、対向する両凸部頂点間線分のうち、横断面最大幅Bを除いて最長となる長さをEとするとき、下記式(3)で定義される凸部比を満足することである。
・凸部比(E/B)=0.6〜0.9 ・・・ (3)
本発明の不織布の好ましい態様によれば、前記の扁平多葉断面ポリエステル系繊維の単繊維繊度は2.0dtex以下である。
【0010】
本発明の前記の不織布は、特にワイパー用不織布として好適に用いられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水や薬液等の液体の高い吸保液力と放出性を持ち、更に適度な嵩高性と柔軟性を兼ね備え、肌への刺激が少ないと同時に拭き取り性が良好で、特に対人向け清拭用や美容用等に適する不織布が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、繊維断面の円周上に複数(8個)の凸部を有する本発明の不織布が備える多葉偏平断面ポリエステル繊維の横断面形状を例示説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の不織布について詳細に説明する。
【0014】
本発明で用いられるセルロース系繊維は、麻、コットンおよびシルク等の天然繊維、ビスコースレーヨン、キュプラおよび溶剤防止セルロースなどの再生繊維、およびアセテート等の半合成繊維のうち、少なくとも1種類のセルロース系繊維から選択して選ばれる。それらの中でも、取り扱い性と汎用性の観点から、ビスコースレーヨンや溶剤紡糸セルロースなどの再生繊維が好ましく用いられる。
【0015】
本発明で用いられるセルロース系繊維は、任意の横断面形状が円周上に凹凸を有した扁平形状であることが好ましい。円周上の凹凸の数が多いほど吸液性が高く、更に毛細管作用により不織布一面に均一に液を拡散し水分斑が少なくなる。
【0016】
円周上の凸部の数は、5個以上が好ましく、より好ましくは8個以上である。また、凹凸部の形状は、肌触り性の観点から湾曲した形状であることが好ましい。
【0017】
また、セルロース系繊維の単繊維繊度は、1.0〜5dtexであることが好ましい。単繊維繊度は、さらに好ましくは1.2〜2.2dtexである。単繊維繊度が1.0dtex未満になると、カードのシリンダーに巻き付き易くなり、工程通過性が著しく低下することがある。その結果として、不織布の地合い斑が発生し易くなる。また、単繊維繊度が5dtexを超えると、特に対人に使用した場合においては、不織布の風合いが硬くなり、使用上好ましくない傾向を示す。また、単繊維が太くなることにより繊維間の空隙が大きくなりすぎるため、保液性が著しく低下する傾向がある。
【0018】
セルロース系繊維の繊維長は、ポリエステル系繊維等の他の構成繊維との交絡性が高く、液体の吸水性、保液性および放出性を保ち、また肌触りなどが均一な不織布を生産性良く得るという観点からは、30〜80mmであることが好ましい。繊維長は、さらに好ましくは35〜64mmである。セルロース系繊維の市販品としては、日本のダイワボウレーヨン社製のレーヨン等が挙げられる。
【0019】
本発明の不織布において、前記のセルロース系繊維の含有率は20〜80質量%である。セルロース系繊維の混合率(含有率)が20質量%より少なくなると、液体を含浸させる吸水性が弱くなるため、不織布内に水分をとどめておく力が弱くなり、使用時に不織布から液体が不必要に流れ落ちてしまう。更に、本発明の不織布において、セルロース系繊維特有のしなやかさも損なわれるため、使用時の肌触り感が悪くなる。また、セルロース系繊維の混合率が80質量%を超えると、含浸した液体を繊維内に保持してしまい、必要なときに十分な量の液体を速やかに放出することができない。更に、不織布の嵩高が損なわれるため、液の保液量が少なくなり、ボリュームのある手持ち感も損なわれる。セルロース系繊維の好ましい含有率は40〜60質量%である。
【0020】
本発明で用いられるポリエステル系繊維を構成するポリエステルは、テレフタル酸とエチレングリコールあるいはブチレングリコールの縮合反応によって生成される高分子重合体、およびセバシン酸、アジピン酸、トリメリット酸、イソフタル酸およびパラオキシ安息臭酸などとエチレングリコールやブチレングリコールとの縮合体、ならびに他のポリエステル類を含むポリエステル重合体などを意味する。
【0021】
本発明で用いられる扁平多葉断面ポリエステル系繊維は、横断面形状が6個以上の凸部を有する扁平形状の繊維である。
【0022】
本発明で用いられる扁平多葉断面ポリエステル系繊維は、その横断面形状が6個以上の凸部を有する扁平形状のポリエステル系繊維である。横断面形状の円周状に存在する凸部が6個未満では、隣接する繊維間で形成する空隙が少なくなり、吸水性や保液量が乏しくなる。また、横断面形状が扁平形状であることにより、繊維間に空隙を形成することが可能となり、優れた嵩高性を得ることができる。更には、不織布を構成する単繊維あたりの毛倒れ性が良くなることから、ソフトな風合いを得ることができる。
【0023】
図1に、本発明で用いられる扁平多葉断面ポリエステル繊維の単繊維横断面形状の一例を示す。図1では、繊維断面の円周上に複数(8個)の凸部を有する本発明の不織布が備える多葉偏平断面ポリエステル繊維の横断面形状を例示されている。
【0024】
本発明では、その横断面形状において、6個以上の凸部を有する扁平形状のポリエステル系繊維が用いられるが、好ましくは8個以上であり、より好ましくは10個以上である。また、凸部数の上限値は好ましくは12個である。また、凸部の形状は、肌触り性の観点から湾曲した形状であることが好ましい。
【0025】
本発明で用いられる扁平多葉断面ポリエステル系繊維は、その単繊維横断面における扁平多葉断面形状が、下記式(1)の扁平度と下記式(2)の異形度を同時に満足するポリエステル系繊維からなることである。
・扁平度(A/B)=2.0〜3.0 ・・・ (1)
・異形度(C/D)=1.0〜5.0 ・・・ (2)
ここで、上記Aは、上記の扁平多葉形の横断面の最長の線分の長さである。上記Bは、線分の長さAに垂直に交わる凸部の頂点間を結ぶ最大幅の線分の長さをいう。上記Cは、上記の扁平多葉形のなす最も大きな凹凸で、隣り合う凸部の頂点間を結ぶ線分の長さをいう。そして、上記Dは、上記の凸部間を結ぶ線から凹部の底点に下ろした垂線の長さをいう。
【0026】
すなわち、本発明の不織布の好ましい態様によれば、前記の混綿使用される扁平多葉断面ポリエステル系繊維は、横断面の最大長さをA、最大幅をB、最大凹凸部において隣り合う凸部の頂点間を結ぶ線の長さをC、そして、前記凸部の頂点間を結ぶ線から凹部の底点に下ろした垂線の長さをDとするとき、上記式(1)の扁平度と下記式(2)の異形度を同時に満足するポリエステル系繊維からなることである。
【0027】
本発明において、上記の扁平度(A/B)が2.0未満では、繊維の毛倒れ性が悪くなり、ソフトな風合いが得られなくなる。一方、扁平度(A/B)が3.0を超えると、ハリコシ感が小さく、ヘタリやすくなる。また、製糸性の悪化や異形度が悪化する傾向がある。扁平度(A/B)は、好ましくは2.0〜2.7であり、更に好ましくは2.0〜2.5である。
【0028】
また、異形度(C/D)は、前記の扁平多葉形において、凸部と凸部の間にある凹部の大きさを表しており、その値が大きいと凹部が小さく、その値が小さいと凹部は大きいことを意味している。異形度(C/D)が大きくなると凹部は浅く、繊維間で形成する空隙も小さくなるため吸保水性が低下し、更に汚れの掻き取り性も低下する傾向がある。従って、異形度(C/D)は5.0以下である。一方、異形度(C/D)があまりにも小さいと繊維断面の凹部が折れ曲がりやすくなり、扁平形状を保つことができなくなる傾向がある。更には、擦過により繊維損傷を受けやすくなるため、肌と摩擦した場合に肌が傷つく恐れがある。これらのことから、異形度(C/D)は1.0以上である。異形度(C/D)は、前述の点から1.0〜5.0の範囲である。更に、異形度(C/D)は、吸保水性と拭き取り性の点から2.0〜4.0がより好ましい態様である。
【0029】
本発明で用いられる扁平多葉断面ポリエステル系繊維の不織布における含有率は、20〜80質量%である。扁平多葉断面ポリエステル系繊維の混合率(含有率)が20質量%未満になると、不織布の嵩がなくなり、保液性が悪くなると共に、不織布の風合いも硬くなるため、肌触り感が悪くなる。また、扁平多葉断面ポリエステル系繊維の混合率(含有率)が80重量%を超えると、不織布の嵩高性はよくなるが、繊維間の空隙が大きくなりすぎるため、使用時に不織布から液体が流れ落ちてしまうという課題がある。扁平多葉断面ポリエステル系繊維の不織布における含有率は、好ましくは40〜60質量%である。
【0030】
本発明で用いられる扁平多葉断面ポリエステル系繊維は、横断面の最大長さAを対称軸とし、対向する両凸部頂点間線分のうち、横断面最大幅Bを除いて最長となる長さをEとするとき、下記式(3)で定義される凸部比を満足するポリエステル系繊維からなることである。
・凸部比(E/B)=0.6〜0.9 ・・・ (3)
凸部比(E/B)は、最大幅BおよびE、最大長さAの各凸部頂点を結ぶ線を描いた際に得られる略楕円形状の歪度合いを測る指標としての意味を持つ。凸部比があまりに小さい場合、凹部深さが減少するとともに、その横断面形状は限りなく扁平十字形に近似した形状となる。そのため、繊維間の空壁率が低下し、吸保水性が低下する。また、肌に触れた際、扁平十字形状に近しくなるために接触する凸部数が減少し、肌触り感とソフト性も低下する。従って、凸部比は0.6以上であることが好ましい。
【0031】
一方、凸部比があまりにも大きい場合、繊維同士の凹凸が嵌合した際に、凹部が完全に閉塞する部分が多くなることで空隙率が低下してしまい、吸保水性が低下する。また、肌に触れた際、その形状は扁平六角形に近しい形状となることで接触する凸部数が減少し、肌触り感・ソフト性が低下する。これらのことから、凸部比(E/B)は0.9以下であることが好ましい。凸部比(E/B)は、前述の点から0.6〜0.9であることが好ましい。さらに、凸部比(E/B)は、そのバランスの観点から、好ましくは0.6〜0.8であり、より好ましくは0.7〜0.8である。
【0032】
本発明で用いられる扁平多葉断面ポリエステル繊維の単繊維繊度は、2.0dtex以下であることが好ましい。単繊維繊度は、より好ましくは1.0〜2.0dtexであり、更に好ましくは1.2〜1.8dtexである。単繊維繊度が2dtexを超えると、ポリエステル繊維特有の剛性が強くなるため肌触り感の刺激も強くなり、ソフト風合いも損なわれることがある。更に、繊維間で形成する空隙が大きくなりすぎるため、保液量は高くなるが保液性が悪くなり、使用時に不織布から液体が流れ落ちる傾向がある。また、単繊維繊度が1.0dtexより細くなると、カード工程での工程通過性が悪くなり生産性が低下する傾向がある。
【0033】
また、扁平多葉断面ポリエステル繊維の繊維長は、不織布の繊維抜けの観点から30〜64mmであることが好ましい。繊維長は、更に好ましくは35〜51mmである。
【0034】
また、本発明の不織布は、別の繊維として熱融着繊維を含んでいてもよい。不織布に熱融着繊維を含有させることにより、熱融着繊維の熱融着により、清拭作業に使用する場合の重要な機能の1つである形態安定性を向上させることができる。熱融着繊維は、単一成分からなる熱融着繊維を使用しても良いが、熱処理により融着しない部分も含む2種類以上の樹脂成分からなるサイドバイサイド型や芯鞘型などの複合型熱性融着繊維を使用すると、融着しない部分により繊維強度が保たれるためより望ましい態様である。
【0035】
熱融着繊維を構成する成分としては、6ナイロンとポリエチレン、ポリプロピレンとポリエチレン、ポリプロピレンとエチレン−酢酸ビニル系共重合体、ポリエステルとポリプロピレン、ポリエステルとポリエチレン、6ナイロンと66ナイロン、および高密度ポリエステルと低密度ポリエステル等の組合せを例示することができる。熱融着繊維の好ましい混率は、不織布質量に対して5〜20質量%である。
【0036】
次に、本発明の不織布の製造方法について説明する。
【0037】
上記した扁平多葉断面ポリエステル系繊維とセルロース系繊維を、カードで繊維ウェブ化する。扁平多葉断面ポリエステル系繊維とセルロース系繊維の混合率(質量比)は、前述のとおり、扁平多葉断面ポリエステル系繊維/セルロース系繊維=20/80〜80/20であり、好ましくは扁平多葉断面ポリエステル系繊維/セルロース系繊維=30/70〜70/30である。
【0038】
カードで形成された繊維ウェブは、次に、フィードラチスによりスパンレース工程に送られ、高圧水流交絡処理されてシート状に加工される。スパンレース加工後の不織布は、コンベアで乾燥工程に送られ、前記の熱処理繊維を使用している場合には、熱接着繊維のみ溶融する温度で乾燥と同時に熱処理が施される。
【0039】
このようにして製造され得られた不織布は、優れた吸保水性とソフトな風合いを有
するため、本発明の目的とする対人向け清拭用や美容用の不織布として最適である。
【0040】
すなわち、このように製造された不織布から得られるシートは、優れた吸水性を有すると共に水や薬液等の保液性が高く、更に優れた嵩高性、柔軟性および肌触りが得られることから、肌を美容用あるいは清拭用に使用する不織布として最適である。美容用に使用する場合においては、美容液の保液性が高く、必要に応じて放出できる性能を有することができる。清拭用においては、肌を傷つけることなく高い拭き取り性を有し、拭き取った汚れは繊維表面の凹部に引っ掛かるため、不織布内に汚れを保持し、再汚染を防ぐことが可能な不織布であり、高い清拭効果を発揮する。
【0041】
最終用途の具体例としては、赤ちゃんのお尻拭き、ウェットティッシュ、クレンジングシート、およびフェイシャルシート等が挙げられる。
【実施例】
【0042】
次に、実施例によって本発明の不織布を詳しく説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。実施例中における各物性値は、次の方法により測定したものであり、測定回数3回についての平均値をとったものである。
【0043】
<不織布の厚さの試験方法>
目付50g/mの不織布を5枚重ねた厚さを、ノギスで測定する。
【0044】
[保液率の試験方法]
JIS L 1907 7.2(2010年版)の吸水率に準じて測定する。目付50g/mの不織布から試験片10cm角に切り出して、質量(A)を測定する。その試験片をイオン交換水の中に30秒間浸した。その後、試験片の一角をピンセットでつまんで液から取り出し、1分後の質量(B)を測定する。
保液率(C)は、下記式で算出される。
・保液率C(%)=(B−A)/A×100。
【0045】
<残存率(保液性)の試験方法>
JIS L 1907 7.2(2010年版)の吸水率に準じて測定する。目付50g/mの不織布から試験片10cm角に切り出して、質量(A)を測定する。その試験片をイオン交換水の中に30秒間浸した。その後、試験片の一角をピンセットでつまんで液から取り出し、5分後の質量(D)を測定する。
残存率(E)は、下記式で算出される。
・E(%)=(D−A)/A×100。
【0046】
<拭き取り性>
目付50g/mの不織布から試験片10cm角に切り出して4つ折りにして使用する。試験片に質量の3倍の水を含浸させる。5名の被験者の腕に口紅を塗布して、拭き取ることにより性能を比較した。評価内容は、次のとおりであり、○を合格とした。
○:拭き取り性良好
△:やや口紅が残る
×:ほとんど口紅が拭き取れない。
【0047】
<肌触り>
目付50g/mの不織布から試験片10cm角に切り出して4つ折りにして使用する。試験片に質量の3倍の水を含浸させる。5名の被験者の腕を拭いてもらい、次の基準に従って触感評価し、○を合格とした。
○:肌触りが良い
△:拭いた後の肌がやや違和感有り
×:拭いた後の肌がチクチクする。
【0048】
<手持ち感(風合い)>
目付50g/mの不織布から試験片10cm角に切り出して4つ折りにして使用する。試験片に質量の3倍の水を含浸させる。5名の被験者に試験片を握ってもらい、次の基準に従って触感評価し、○を合格とした。
○:風合いが柔らか
△:風合いがやや硬い
×:風合いが硬い。
【0049】
[実施例1]
扁平度が2.1、異形度が2.7、凸部比が0.8で横断面形状が8個の凸部を有する扁平多葉断面ポリエステル繊維(単繊維繊度:1.7dtex、繊維長:51mm)20質量%とレーヨン繊維(単繊維繊度:1.7dtex、繊維長:51mm)80質量%を均一に混綿した後、目付が60g/cmのカード繊維ウェブを常法により作製し、ウォータージェットの水圧が50kg/cm、速度が1m/分、ノズル形状:0.1mmφ、0.6mmピッチ、834ホール、500mm効き幅で両面加工によりシートを作製した後、更に120℃の温度で乾燥し、目付が50g/mの不織布を得た。不織布の繊維構成を表1に、評価結果を表2に示す。
【0050】
[実施例2]
扁平度が2.1、異形度が2.7、凸部比が0.8で横断面形状が8個の凸部を有する扁平多葉断面ポリエステル系繊維(単繊維繊度1.7dtex、繊維長51mm)50質量%とレーヨン繊維(単繊維繊度1.7dtex、繊維長51mm)50質量%を均一に混綿した後、目付が60g/cmのカード繊維ウェブを常法により作製し、ウォータージェットの水圧が50kg/cm、速度が1m/分、ノズル形状:0.1mmφ、0.6mmピッチ、834ホール、500mm効き幅で両面加工によりシートを作製した後、更に120℃の温度で乾燥し、目付が50g/mの不織布を得た。不織布の繊維構成を表1に、評価結果を表2に示す。
【0051】
[実施例3]
扁平度が2.1、異形度が2.7、凸部比が0.8で横断面形状が8個の凸部を有する扁平多葉断面ポリエステル繊維(単繊維繊度:1.7dtex、繊維長:51mm)80質量%とレーヨン繊維(単繊維繊度:1.7dtex、繊維長:51mm)20質量%を均一に混綿した後、目付60g/cmのカード繊維ウェブを常法により作製し、ウォータージェットの水圧50kg/cm、速度1m/分、ノズル形状:0.1mmφ、0.6mmピッチ、834ホール、500mm効き幅で両面加工によりシートを作製した後、更に120℃の温度で乾燥し、目付50g/mの不織布を得た。不織布の繊維構成を表1に、評価結果を表2に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
[比較例1]
扁平度が2.1、異形度が2.7、凸部比が0.8で横断面形状が8個の凸部を有する扁平多葉断面ポリエステル繊維(単繊維繊度:1.7dtex、繊維長:51mm)15質量%とレーヨン繊維(単繊維繊度:1.7dtex、繊維長:51mm)85質量%を均一に混綿した後、目付が60g/cmのカード繊維ウェブを常法により作製し、ウォータージェットの水圧が50kg/cm,速度が1m/分、ノズル形状:0.1mmφ、0.6mmピッチ、834ホール、500mm効き幅で両面加工によりシートを作製した後、更に120℃の温度で乾燥し、目付が50g/mの不織布を得た。不織布の繊維構成を表3に、評価結果を表4に示す。
【0055】
[比較例2]
扁平度が2.1、異形度が2.7、凸部比が0.8で横断面形状が8個の凸部を有する扁平多葉断面ポリエステル繊維(単繊維繊度:1.7dtex、繊維長:51mm)85質量%とレーヨン繊維(単繊維繊度:1.7dtex、繊維長:51mm)15質量%を均一に混綿した後、目付が60g/cmのカード繊維ウェブを常法により作製し、ウォータージェットの水圧が50kg/cm、速度1m/分、ノズル形状:0.1mmφ、0.6mmピッチ、834ホール、500mm効き幅で両面加工によりシートを作製した後、更に120℃の温度で乾燥し、目付が50g/mの不織布を得た。不織布の繊維構成を表3に、評価結果を表4に示す。
【0056】
[比較例3]
レーヨン繊維(単繊維繊度:1.7dtex、繊維長:51mm)100質量%で目付60g/cmのカード繊維ウェブを常法により作製し、ウォータージェットの水圧が50kg/cm,速度が1m/分、ノズル形状:0.1mmφ、0.6mmピッチ、834ホール、500mm効き幅で両面加工によりシートを作製した後、更に120℃の温度で乾燥し、目付が50g/mの不織布を得た。不織布の繊維構成を表3に、評価結果を表4に示す。
【0057】
[比較例4]
扁平度が1.0で横断面形状の円周上に6個の凸部を有する異形断面ポリエステル繊維(単繊維繊度:1.7dtex、繊維長:51mm、)80質量%とレーヨン繊維(単繊維繊度:1.7dtex、繊維長:51mm)20質量%を均一に混綿した後、目付が60g/cmのカード繊維ウェブを常法により作製し、ウォータージェットの水圧が50kg/cm、速度が1m/分、ノズル形状:0.1mmφ、0.6mmピッチ、834ホール、500mm効き幅で両面加工によりシートを作製した後、更に120℃の温度で乾燥し、目付が50g/mの不織布を得た。不織布の繊維構成を表3に、評価結果を表4に示す。
【0058】
[比較例5]
横断面形状の円周上に3個の凸部を有する異形断面(Y型)ポリエステル繊維(単繊維繊度:1.7dtex、繊維長:51mm)80質量%とレーヨン繊維(単繊維繊度:1.7dtex、繊維長:51mm)20質量%を均一に混綿した後、目付が60g/cmのカード繊維ウェブを常法により作製し、ウォータージェットの水圧が50kg/cm、速度が1m/分、ノズル形状:0.1mmφ、0.6mmピッチ、834ホール、500mm効き幅で両面加工によりシートを作製した後、更に120℃の温度で乾燥し、目付が50g/mの不織布を得た。不織布の繊維構成を表3に、評価結果を表4に示す。
【0059】
[比較例6]
横断面形状がC型を有する異形断面ポリエステル繊維(単繊維繊度:1.7dtex、繊維長:51mm)80質量%とレーヨン繊維(単繊維繊度:1.7dtex、繊維長:51mm)20質量%を均一に混綿した後、目付が60g/cmのカード繊維ウェブを常法により作製し、ウォータージェットの水圧が50kg/cm、速度が1m/分、ノズル形状:0.1mmφ、0.6mmピッチ、834ホール、500mm効き幅で両面加工によりシートを作製した後、更に120℃の温度で乾燥し、目付が50g/mの不織布を得た。不織布の繊維構成を表3に、評価結果を表4に示す。
【0060】
[比較例7]
丸形断面ポリエステル繊維(単繊維繊度:1.7dtex、繊維長:51mm)80質量%とレーヨン繊維(単繊維繊度:1.7dtex、繊維長:51mm)20質量%を均一に混綿した後、目付が60g/cmのカード繊維ウェブを常法により作製し、ウォータージェットの水圧が50kg/cm、速度が1m/分、ノズル形状:0.1mmφ、0.6mmピッチ、834ホール、500mm効き幅で両面加工によりシートを作製した後、更に120℃の温度で乾燥し、目付が50g/mの不織布を得た。不織布の繊維構成を表3に、評価結果を表4に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
【0063】
実施例1〜3が示すように、繊維構成が繊維横断面の円周上に8個の凸部を有する扁平断面ポリエステル繊維20〜80質量%とレーヨン20〜80質量%で作成された不織布は、保液率が高いため水や薬液等の液体を保液しやすく、かつ残存率も低いことから、保液した薬液を放出し有効に利用できることが確認された。また、拭き取り性や手持ち感(風合い)と、肌触りも良好であった。
【0064】
一方、比較例1で示されるように、セルロース系繊維の含有率が80質量%を超えると、肌触りは良好であるものの、不織布の嵩高性が損なわれるため、保液が低くなると共に、セルロース系繊維が繊維内に薬液を保持してしまうため、残存率が高く、薬液の放出性不良の原因となる。
【0065】
更に、比較例2で示されるように、扁平多葉断面ポリエステルの含有率が80質量%を超えると、セルロース系繊維のしなやかさが損なわれるため、肌触りが悪くなる。
【0066】
これに対し、比較例3〜7で示されるように、扁平でない他の異型断面ポリエステル繊維を使用すると、保液は高くなるが、残存率が著しく低くなっていることから、不織布内の液保持性が弱く、不織布使用時の液流れの原因となる。また、偏平でないことから風合いも硬く、肌触りも著しく悪くなる。
図1