(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6107832
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】Li−Ni複合酸化物粒子粉末及びその製造方法、並びに非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20170327BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20170327BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20170327BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/525
H01M4/505
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-542139(P2014-542139)
(86)(22)【出願日】2013年10月15日
(86)【国際出願番号】JP2013077951
(87)【国際公開番号】WO2014061653
(87)【国際公開日】20140424
【審査請求日】2016年7月1日
(31)【優先権主張番号】特願2012-230144(P2012-230144)
(32)【優先日】2012年10月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000166443
【氏名又は名称】戸田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097928
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 数彦
(72)【発明者】
【氏名】石▲崎▼ 和俊
(72)【発明者】
【氏名】菊谷 和彦
(72)【発明者】
【氏名】杉原 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】山時 照章
(72)【発明者】
【氏名】原田 貴光
(72)【発明者】
【氏名】西村 仁希
(72)【発明者】
【氏名】三島 祐司
(72)【発明者】
【氏名】貞村 英昭
【審査官】
浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−064944(JP,A)
【文献】
特表2009−515799(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/122448(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 53/00
H01M 4/525
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成がLixNi1−y−a−bCoyM1aM2bO2(1.00≦x≦1.10、0<y≦0.25、0<a≦0.25、0≦b≦0.10、M1はAl、Mnから選ばれる少なくとも一種の元素、M2はZr、Mgから選ばれる少なくとも一種の元素)であるLi−Ni複合酸化物であって、X線回折のリートベルト解析から得られるリチウムサイトのメタル席占有率(%)とリートベルト解析から得られる結晶子サイズ(nm)の積が700以上、1400以下であることを特徴とするLi−Ni複合酸化物粒子粉末。
【請求項2】
前記Li−Ni複合酸化物のリートベルト解析から得られるリチウムサイトのメタル席占有率が2%以上、7%以下である請求項1に記載のLi−Ni複合酸化物粒子粉末。
【請求項3】
前記Li−Ni複合酸化物のリートベルト解析から得られる結晶子サイズが500nm以下である請求項1又は2に記載のLi−Ni複合酸化物粒子粉末。
【請求項4】
平均粒子径が1〜20μmであり、BET比表面積が0.1〜1.6m2/gである請求項1〜3のいずれかに記載のLi−Ni複合酸化物粒子粉末。
【請求項5】
リチウム化合物の粉末とNi−Co水酸化物粒子粉末とを混合し、得られた混合物を焼成するLi−Ni複合酸化物粒子粉末の製造方法であって、前記Ni−Co水酸化物粒子粉末は、金属元素の硫酸塩水溶液と、アンモニア水溶液と、水酸化ナトリウム水溶液とを混合し、反応槽中のアンモニア濃度が1.4mol/l以下、かつ(反応槽中のアンモニア濃度)/(反応槽中の余剰の水酸基濃度)が6以上になるように制御して得られることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のLi−Ni複合酸化物粒子粉末の製造方法。
【請求項6】
リチウム化合物の粉末とNi−Co水酸化物粒子粉末とアルミニウムの化合物の粉末及び/又はジルコニウムの化合物の粉末を混合し、得られた混合物を焼成するLi−Ni複合酸化物粒子粉末の製造方法であって、前記Ni−Co水酸化物粒子粉末は、金属元素の硫酸塩水溶液と、アンモニア水溶液と、水酸化ナトリウム水溶液とを混合し、反応槽中のアンモニア濃度が1.4mol/l以下、かつ(反応槽中のアンモニア濃度)/(反応槽中の余剰の水酸基濃度)が6以上になるように制御して得られることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のLi−Ni複合酸化物粒子粉末の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載のLi−Ni複合酸化物粒子粉末からなる正極活物質を含有する正極を用いた非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池の正極活物質として用いた場合に、初期放電容量が高く、熱安定性に優れたLi−Ni複合酸化物粒子粉末とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、AV機器やパソコン等の電子機器のポータブル化、コードレス化が急速に進んでおり、これらの駆動用電源として小型、軽量で高エネルギー密度を有する二次電池への要求が高くなっている。また、近年地球環境への配慮から、電気自動車、ハイブリッド自動車の開発及び実用化がなされ、大型用途として保存特性の優れたリチウムイオン二次電池への要求が高くなっている。このような状況下において、充放電容量が大きく、保存特性が良いという長所を有するリチウムイオン二次電池が注目されている。
【0003】
従来、4V級の電圧をもつ高エネルギー型のリチウムイオン二次電池に有用な正極活物質としては、スピネル型構造のLiMn
2O
4、ジグザグ層状構造のLiMnO
2、層状岩塩型構造のLiCoO
2、LiNiO
2等が一般的に知られており、なかでもLiNiO
2を用いたリチウムイオン二次電池は高い充放電容量を有する電池として注目されてきた。しかし、この材料は、充電時の熱安定性及び充放電サイクル耐久性に劣る為、更なる特性改善が求められている。
【0004】
即ち、LiNiO
2はリチウムを引き抜いた際に、Ni
3+がNi
4+となりヤーンテラー歪を生じ、Liを0.45引き抜いた領域で六方晶から単斜晶へ、さらに引き抜くと単斜晶から六方晶と結晶構造が変化する。そのため、充放電反応を繰り返すことによって、結晶構造が不安定となり、サイクル特性が悪くなる、又酸素放出による電解液との反応などが起こり、電池の熱安定性及び保存特性が悪くなるといった特徴があった。この課題を解決する為に、LiNiO
2のNiの一部にCo、Al、Mn等を添加した材料の研究が行われてきたが、未だにこれらの課題を解決した材料は得られておらず、より結晶構造の安定したLi−Ni複合酸化物が求められている。
【0005】
またLi−Ni複合酸化物は、粉末を構成する一次粒子径が小さい為、充填密度の高いLi−Ni複合酸化物を得るにはそれらが密に凝集した二次粒子を形成するように物性を制御する必要がある。しかし、二次粒子が形成されたLi−Ni複合酸化物は、電極作成時のコンプレッションによって二次粒子破壊が発生して表面積が増加し、高温充電状態保存時に電解液との反応が促進され電極界面に形成した不導体膜によって二次電池としての抵抗が上昇するといった特徴がある。またLi−Ni複合酸化物は、Li−Co複合酸化物と比較して、低い温度から酸素放出を伴う分解反応が始まり、放出された酸素が電解液の燃焼を引き起こし、電池の温度が急激に上昇したり、電池が爆発したりする危険性がある。そこで、高温保存時の熱安定性を改善するためには、放電容量が低下しない程度に結晶子サイズ(一次粒子径)を効率的に大きくして、電解液との反応を抑える、あるいは結晶構造を安定化させる必要がある。
【0006】
即ち、非水電解質二次電池用の正極活物質として放電容量が高く、熱安定性に優れるLi−Ni複合酸化物が要求されている。
【0007】
従来、高容量化、結晶子サイズの制御、結晶構造の安定化、熱安定性などの諸特性改善のために、LiNiO
2粉末に対して種々の改良が行われている。例えば、充電によりLiが引き抜かれたLi−Ni複合酸化物において4価のNi量が60%以下となるように組成を制御し、熱安定性を改善する技術(特許文献1)、Li−Ni複合酸化物のNiの一部をCoとAl、Mnを含む金属種の中から選ばれた少なくとも1種の元素で置換し、焼成後に過剰なLiの除去をすることでサイクル特性や熱安定性、保存特性を改善する技術(特許文献2)、Li−Ni複合酸化物にB及びPの少なくとも1種の元素の酸化物を含有させ、結晶子サイズを制御し、熱安定性を改善する技術(特許文献3)、Li−Ni複合酸化物のNiの一部をCo及びAlで置換することで結晶構造を安定化させる技術(特許文献4)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−107845号公報
【特許文献2】特開2010−64944号公報
【特許文献3】特開2001−76724号公報
【特許文献4】特開2008−218122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非水電解質二次電池用の正極活物質として、放電容量が高く、熱安定性に優れるLi−Ni複合酸化物について、現在最も要求されているところであるが、未だ得られていない。
【0010】
即ち、特許文献1記載の技術は、充電により75%のLiが引き抜かれたLi−Ni複合酸化物において4価のNi量が60%以下となるように元のLi−Ni複合酸化物の組成を制御し、熱安定性を改善する技術である。しかし、4価のNi量が60%以下とするために、多くのNiをCo及びMnで置換しているため、高容量化を達成するには充電電圧を上げる必要があり、熱安定性を犠牲にしなければならない。従って、組成の制御だけでは、高容量化と熱安定性の両方を達成できるとは言い難く、熱安定性を改善したLi−Ni複合酸化物を得る方法として十分とは言い難い。
【0011】
また、特許文献2記載の技術は、Li−Ni複合酸化物のNiの一部をCoとAl、Mnを含む金属種の中から選ばれた少なくとも1種の元素で置換し、焼成後に過剰なLiの除去をすることでサイクル特性や熱安定性、保存特性を改善する技術である。しかし、Liの除去処理は容量低下を引き起こし、高い放電容量を持つLi−Ni複合酸化物を得る方法として十分とは言い難い。それに、水洗によりLiの除去処理を行うことでLi−Ni複合酸化物の比表面積が増大し、高温充電時に電解液との反応が促進されるため、熱安定性を改善したLi−Ni複合酸化物を得る方法として十分とは言い難い。
【0012】
また、特許文献3記載の技術は、Li−Ni複合酸化物にB及びPの少なくとも1種の元素の酸化物を含有させ、熱安定性を改善する技術であるが、B及びPのような充放電反応に関与しない元素の添加は結晶構造の乱れや容量低下を引き起こすため、高い放電容量を得る方法として十分とは言い難い。また、焼成温度が低いために結晶子サイズが小さく、発熱ピークが低い温度に位置しており、さらに、結晶子サイズが小さい場合、Li−Ni複合酸化物の比表面積が増大してしまい、高温充電時に電解液との反応が促進されるため、熱安定性を改善したLi−Ni複合酸化物を得る方法として十分とは言い難い。
【0013】
また、特許文献4記載の技術は、Li−Ni複合酸化物のNiの一部をCo及びAlで置換することで結晶構造を安定化させ、高容量化と高出力化を可能とする技術である。リートベルト解析による結晶中のLiサイトのLi席占有率を98.5%以上、メタルサイトのメタル席占有率を95%以上、98%以下とし、電池容量と出力特性の向上を目的としているが、熱安定性の改善を図ったものではない。
【0014】
そこで、本発明は、非水電解質二次電池の正極活物質として用いた場合に、放電容量が高く、熱安定性に優れるLi−Ni複合酸化物粒子粉末を得ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0016】
即ち、本発明は、組成がLi
xNi
1−y−a−bCo
yM1
aM2
bO
2(1.00≦x≦1.10、0<y≦0.25、0<a≦0.25、0≦b≦0.10、M1はAl、Mnから選ばれる少なくとも一種の元素、M2はZr、Mgから選ばれる少なくとも一種の元素)であるLi−Ni複合酸化物であって、X線回折のリートベルト解析から得られるリチウムサイトのメタル席占有率(%)とリートベルト解析から得られる結晶子サイズ(nm)の積が700以上、1400以下であることを特徴とするLi−Ni複合酸化物粒子粉末である(本発明1)。
【0017】
また、本発明は、前記Li−Ni複合酸化物のリートベルト解析から得られるリチウムサイトのメタル席占有率が2%以上、7%以下である本発明1に記載のLi−Ni複合酸化物粒子粉末である(本発明2)。
【0018】
また、本発明は、前記Li−Ni複合酸化物のリートベルト解析から得られる結晶子サイズが500nm以下である本発明1又は2に記載のLi−Ni複合酸化物粒子粉末である(本発明3)。
【0019】
また、本発明は、平均粒子径が1〜20μmであり、BET比表面積が0.1〜1.6m
2/gである本発明1〜3のいずれかに記載のLi−Ni複合酸化物粒子粉末である(本発明4)。
【0020】
また、本発明は、リチウム化合物の粉末とNi−Co水酸化物粒子粉末とを混合し、得られた混合物を焼成するLi−Ni複合酸化物粒子粉末の製造方法であって、前記Ni−Co水酸化物粒子粉末は、金属元素の硫酸塩水溶液と、アンモニア水溶液と、水酸化ナトリウム水溶液とを混合し、反応槽中のアンモニア濃度が1.4mol/l以下、かつ(反応槽中のアンモニア濃度)/(反応槽中の余剰の水酸基濃度)が6以上になるように制御して
得られることを特徴とする本発明1〜4のいずれかに記載のLi−Ni複合酸化物粒子粉末の製造方法である(本発明5)。
【0021】
また、本発明は、リチウム化合物の粉末とNi−Co水酸化物粒子粉末とアルミニウムの化合物の粉末及び/又はジルコニウムの化合物の粉末を混合し、得られた混合物を焼成するLi−Ni複合酸化物粒子粉末の製造方法であって、
前記Ni−Co水酸化物粒子粉末は、金属元素の硫酸塩水溶液と、アンモニア水溶液と、水酸化ナトリウム水溶液とを混合し、反応槽中のアンモニア濃度が1.4mol/l以下、かつ(反応槽中のアンモニア濃度)/(反応槽中の余剰の水酸基濃度)が6以上になるように制御して
得られることを特徴とする本発明1〜4のいずれかに記載のLi−Ni複合酸化物粒子粉末の製造方法である(本発明6)。
【0022】
また、本発明は、本発明1〜4のいずれかに記載のLi−Ni複合酸化物粒子粉末からなる正極活物質を含有する正極を用いた非水電解質二次電池である(本発明7)。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るLi−Ni複合酸化物粒子粉末は、リチウムサイトに混入するメタル席占有率を2%以上、7%以下に制御することで、リチウムの拡散パスを確保して高い充放電容量を得ることができ、結晶構造を安定化させるため、熱安定性も良好である。
【0024】
また、本発明に係るLi−Ni複合酸化物粒子粉末は、結晶子サイズが制御され、比表面積が小さいため、電解液との反応が抑制され、熱安定性が良好である。
【0025】
従って、本発明に係るLi−Ni複合酸化物粒子粉末は、高容量化と熱安定性の改善を同時に達成できるものであり、非水電解質二次電池用の正極活物質として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施例1で得られたLi−Ni複合酸化物粒子のSEM像である。
【
図2】比較例1で得られたLi−Ni複合酸化物粒子のSEM像である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0028】
先ず、本発明に係る非水電解質二次電池用Li−Ni複合酸化物粒子粉末について述べる。
【0029】
本発明に係るLi−Ni複合酸化物粒子粉末の組成は、Li
xNi
1−y−a−bCo
yM1
aM2
bO
2(1.00≦x≦1.10、0<y≦0.25、0<a≦0.25、0≦b≦0.10、M1はAl、Mnから選ばれる少なくとも一種の元素、M2はZr、Mgから選ばれる少なくとも一種の元素)である。
【0030】
xが1.00より小さい場合には、NiがLi相へ混入しやすく、リチウムサイトのメタル席占有率が大きくなり、高い電池容量のLi−Ni複合酸化物を得ることができない。また、xが1.10より大きい場合には、メタルサイトへのLiの混入が多くなり、そのためメタルサイトから叩き出されたNiがLi相へ混入し、リチウムサイトのメタル席占有率が大きくなる。xは好ましくは1.00≦x≦1.05、より好ましくは1.01≦x≦1.04である。
【0031】
yが0の場合には、Ni
3+がNi
4+となるヤーンテラー歪を抑制できず、初期充放電サイクルにおける充放電効率が低下する。また、yが0.25より大きい場合には、初期充放電容量の低下が著しくなり、また、金属コストの高いコバルト含有量が増える為、LiCoO
2よりも金属コストが安いというLi−Ni複合酸化物のメリットが少なくなる。yは好ましくは0.03≦y≦0.20、より好ましくは0.05≦y≦0.15である。
【0032】
aが0.25より大きい場合には、正極活物質の真密度が低下することから充填性の高い材料を得ることが困難となると共に、充放電容量が著しく低下し、充放電容量が高いというLi−Ni複合酸化物のメリットが少なくなる。aは好ましくは0.01≦a≦0.20、より好ましくは0.02≦a≦0.15である。
【0033】
bが0.10より大きい場合には、正極活物質の真密度が低下することから充填性の高い材料を得ることが困難となると共に、充放電容量が著しく低下し、充放電容量が高いというLi−Ni複合酸化物のメリットが少なくなる。bは好ましくは0.001≦b≦0.05、より好ましくは0.002≦b≦0.02である。
【0034】
本発明に係るLi−Ni複合酸化物の結晶構造は空間群R−3mに属し、主にリチウムが占有するリチウムサイト(3aサイト)、主にNi、Co、M1、M2が占有するメタルサイト(3bサイト)、主に酸素が占有する酸素サイト(6cサイト)が存在する。なお、空間群R−3mは正式には、R3mの3の上にバーのついた表記が正しいが、ここでは便宜上、R−3mと記す。
【0035】
本発明に係るLi−Ni複合酸化物の結晶構造はリートベルト解析によって解析した。Li−Ni複合酸化物粒子粉末のX線回折のピーク形状関数として、ガウス関数とローレンツ関数の重ね合わせで表わされる修正TCH擬voigt関数を用いた。
【0036】
結晶子サイズは、ガウス関数をほぼ装置依存関数とみなし、θを回折角とした時のローレンツ関数の半価幅の(cosθ)
−1の係数からシェラー式を用いて算出した。
【0037】
また、各サイトの席占有率は同解析によって算出することができる。リチウムサイトのメタル席占有率とは、リチウムサイトをNi、Co、M1、M2の原子が占める割合のことである。
【0038】
本発明に係るLi−Ni複合酸化物粒子粉末のX線回折のリートベルト解析から得られるリチウムサイトのメタル席占有率(%)とリートベルト解析から得られる結晶子サイズ(nm)の積は700以上、1400以下である。本発明では、リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの両方を制御することで、高容量化と熱安定性の改善を同時に達成できる。リチウムサイトのメタル席占有率(%)とリードベルト解析から得られる結晶子サイズ(nm)の積は、Li−Ni複合酸化物粒子粉末の結晶の脱Li過程における耐久性と関係があると考えられる。リチウムサイトのメタル席占有率は、Li−Ni複合酸化物粒子粉末のR−3m構造の完全性を表し、結晶子サイズはR−3m構造の大きさを意味するため、それらを同時に制御することで、Li−Ni複合酸化物粒子粉末の電気化学的な特性を制御することができる。リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積が700より小さい場合には、電解液との反応性が促進され、熱安定性が悪化するため好ましくない。リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積が1400より大きい場合には、リチウムイオンの拡散抵抗が高くなり、初期の放電容量が低下するため好ましくない。リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積は、好ましくは900以上、1300以下であり、より好ましくは1000以上、1200以下である。
【0039】
本発明に係るLi−Ni複合酸化物粒子粉末のX線回折のリートベルト解析から得られるリチウムサイトのメタル席占有率は2%以上、7%以下であることが好ましい。リチウムサイトのメタル席占有率が7%より大きい場合では、十分な充放電容量が得られない。より好ましくはリチウムサイトのメタル席占有率は2%以上、6%以下である。大きな充放電容量を得るためには、リチウムサイトのメタル席占有率は小さいほうが好ましいが、Coなどの異種元素を置換しているため、リチウムサイトのメタル席占有率を0%に近づけることは難しい。また、本発明においては、リチウムサイトのメタル席占有率が2%以上であっても十分な充放電容量を得ることができる。
【0040】
本発明に係るLi−Ni複合酸化物粒子粉末のX線回折のリートベルト解析から得られる結晶子サイズは500nm以下であることが好ましい。結晶子サイズが500nmより大きい場合には、リチウムイオンの拡散抵抗が高くなり、初期の放電容量が低下するため好ましくない。結晶子サイズの下限値は通常100nmである。結晶子サイズは、好ましくは100nm以上、450nm以下であり、より好ましくは200nm以上、400nm以下である。
【0041】
本発明に係るLi−Ni複合酸化物粒子粉末のBET比表面積は0.1〜1.6m
2/gであることが好ましい。BET比表面積値が0.1m
2/gより小さい場合には、工業的に生産することが困難となる。BET比表面積値が1.6m
2/gより大きい場合には充填密度の低下や電解液との反応性が増加するため好ましくない。BET比表面積値は、より好ましくは0.1〜1.0m
2/g、さらにより好ましくは0.15〜0.6m
2/gである。
【0042】
本発明に係るLi−Ni複合酸化物粒子粉末の平均粒子径は1〜20μmが好ましい。平均粒子径が1μmより小さい場合には、充填密度の低下や電解液との反応性が増加するため好ましくない。20μmを超える場合には、工業的に生産することが困難となる。より好ましくは3〜17μmである。
【0043】
本発明に係るLi−Ni複合酸化物粒子の粒子形状は、球状であり鋭角部が少ないことが好ましい。
【0044】
次に、本発明に係るLi−Ni複合酸化物粒子粉末の製造法について述べる。
【0045】
本発明に係るLi−Ni複合酸化物粒子粉末は、リチウム化合物の粉末とNi−Co水酸化物粒子粉末とを混合し、得られた混合物を焼成して得ることができる。
【0046】
また、本発明に係るLi−Ni複合酸化物粒子粉末は、リチウム化合物の粉末とNi−Co水酸化物粒子粉末とアルミニウムの化合物の粉末及び/又はジルコニウムの化合物の粉末とを混合し、得られた混合物を焼成して得ることができる。
【0047】
本発明において使用するリチウム化合物としては水酸化リチウムが好ましく、特に炭酸リチウムの含有率が5%未満であることが好ましい。炭酸リチウムの含有量が5%以上の場合には、生成したLi−Ni複合酸化物中に炭酸リチウムが残存して不純物となり、初期の充放電容量を低下させると共に充電時に炭酸リチウムが分解し、熱安定性低下の原因となる。
【0048】
また、用いるリチウム化合物の粉末は平均粒子径が50μm以下であることが好ましい。より好ましくは30μm以下である。リチウム化合物の粉末の平均粒子径が50μmを超える場合には、Ni−Co水酸化物粒子粉末とアルミニウムの化合物の粉末及び/又はジルコニウムの化合物の粉末との混合が不均一となり、結晶性の良いLi−Ni複合酸化物を得るのが困難となる。
【0049】
本発明におけるNi−Co水酸化物には、Ni−Co−Mn水酸化物、Ni−Co−Mn−Mg水酸化物を含む。
【0050】
本発明におけるNi−Co水酸化物粒子粉末は、平均粒子径が2〜30μm、BET比表面積が1〜20m
2/gであることが好ましい。
【0051】
本発明におけるNi−Co水酸化物粒子粉末は、0.1〜2.0mol/lの硫酸ニッケルと硫酸コバルト、硫酸マンガン、硫酸マグネシウム等の、金属元素の硫酸塩水溶液を金属元素が所定のモル比となるように混合した水溶液と、アンモニア水溶液と、水酸化ナトリウム水溶液を混合し、反応槽中のアンモニア濃度が1.4mol/l以下、かつ(反応槽中のアンモニア濃度)/(反応槽中の余剰の水酸基濃度)が6以上になるように、1.0〜15.0mol/lのアンモニア水溶液と0.1〜2.0mol/lの水酸化ナトリウム溶液を反応槽へ連続して供給し、反応槽からオーバーフローしたNi−Co水酸化物の懸濁液をオーバーフロー管に連結された濃縮槽で濃縮速度を調整しながら反応槽へ種循環し、反応槽と沈降槽中のNi−Co水酸化物の濃度が2〜10mol/lになるまで反応を行い、機械的衝突による粒子制御を行って得ることができる。
【0052】
反応槽中のアンモニア濃度は、1.4mol/l以下であることが好ましい。反応槽中のアンモニア濃度が1.4mol/lを超えると、Ni−Co水酸化物の一次粒子が大きくなり、焼成時のリチウム化合物との反応性が低下し、焼成時の結晶子サイズ制御が困難になる。
【0053】
Ni−Co水酸化物は、以下の式(1)に基づいて生成する。
Me
2+SO
4 + 2NaOH → Me
2+(OH)
2 + Na
2SO
4 (1)
この時の、Me
2+SO
4とNaOHのモル比は1:2が理論的な原料比率となるが、本発明における反応は、NaOHを理論的なモル比よりも、余剰に供給して行い、その時の余剰な水酸基濃度を制御することにより、目的とするNi−Co水酸化物を得た。
【0054】
反応槽中の余剰の水酸基濃度は、0.005mol/l以上、0.04mol/l以下であることが好ましい。反応槽中の余剰の水酸基濃度が、0.005mol/l未満になると、Ni−Co水酸化物の二次粒子内密度が低くなり、Ni−Co水酸化物の嵩密度が低くなる。反応槽中の余剰の水酸基濃度が、0.04mol/lを超えると、Ni−Co水酸化物の一次粒子サイズが大きくなり、焼成時のLi化合物との反応性が低下する。
【0055】
(反応槽中のアンモニア濃度)/(反応槽中の余剰の水酸基濃度)は6以上であることが好ましい。(反応槽中のアンモニア濃度)/(反応槽中の余剰の水酸基濃度)が6未満になると、Ni−Co水酸化物の一次粒子が大きくなり、焼成時のリチウム化合物との反応性が低下し、焼成時の結晶子サイズ制御が困難になる。
【0056】
更にNi−Co水酸化物粒子粉末は、反応の際に生成した共存可溶性塩を除去する為、フィルタープレス、若しくはバキュームフィルター、フィルターシックナー等を用いて、Ni−Co水酸化物のスラリー重量に対して1〜10倍の水を用いて水洗を行い、乾燥することによって得ることができる。
【0057】
本発明において使用するアルミニウムの化合物としては、好ましくはアルミニウムの水酸化物を用いることができる。
【0058】
アルミニウムの化合物の粉末の平均粒子径は好ましくは5μm以下であり、より好ましくは2μm以下である。また、アルミニウムの化合物の粉末の一次粒子径は1μm以下であることが好ましい。
【0059】
アルミニウムの化合物の添加量は、Ni−Co水酸化物に対して、元素換算によるモル比で2〜5%が好ましい。アルミニウムの化合物の添加量が2%よりも少ない場合は、熱安定性が低下し、5%を超えると放電容量が低下する。
【0060】
本発明において使用するジルコニウムの化合物としては、好ましくはジルコニウムの酸化物を用いることができる。
【0061】
ジルコニウムの化合物の粉末の平均粒子径は好ましくは5μm以下であり、より好ましくは2μm以下である。
【0062】
ジルコニウムの化合物の添加量は、Ni−Co水酸化物に対して、元素換算によるモル比で2%以下が好ましい。ジルコニウムの化合物の添加量が2%を超えると放電容量が低下する。
【0063】
リチウム化合物の粉末とNi−Co水酸化物粒子粉末とアルミニウムの化合物の粉末及び/又はジルコニウムの化合物の粉末との混合処理は、均一に混合することができれば乾式、湿式のどちらでもよい。
【0064】
リチウム化合物の粉末とNi−Co水酸化物粒子粉末とアルミニウムの化合物の粉末及び/又はジルコニウムの化合物の粉末の混合比は、モル比でLi/(Ni+Co+M1+M2)が1.00〜1.10であることが好ましい。
【0065】
焼成温度は、650℃〜950℃であることが好ましい。焼成温度が650℃未満の場合にはLiとNiの反応が十分に進まず、Li−Ni複合酸化物粒子の一次粒子の成長が不十分となり、焼成温度が950℃を超えると、Ni
3+が還元されてNi
2+となり、Li相へ混入し、リチウムサイトのメタル席占有率が大きくなる。より好ましい焼成温度は700℃〜900℃である。焼成時の雰囲気は酸化性ガス雰囲気が好ましく、より好ましくは雰囲気中の酸素濃度が70%以上である。焼成時間は5〜30時間が好ましい。
【0066】
次に、本発明に係るLi−Ni複合酸化物粒子粉末からなる正極活物質を含有する正極を用いた非水電解質二次電池について述べる。
【0067】
本発明に係るLi−Ni複合酸化物粒子粉末からなる正極活物質を含有する正極を用いた非水電解質二次電池は、前記正極、負極及び電解質から構成される。
【0068】
本発明に係るLi−Ni複合酸化物粒子粉末からなる正極活物質を含有する正極を製造する場合には、常法に従って、正極活物質に導電剤と結着剤とを添加混合した正極合材を集電体に塗布する。導電剤としてはアセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛等が好ましく、結着剤としてはポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等が好ましい。
【0069】
負極としては、リチウム金属、リチウム/アルミニウム合金、リチウム/スズ合金や、グラファイト、黒鉛等の負極活物質を含有する電極を用いることができる。
【0070】
電解質としては、六フッ化リン酸リチウム以外に、過塩素酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム等のリチウム塩の少なくとも1種類を溶媒に溶解して用いることができる。
【0071】
また、電解質の溶媒としては、炭酸エチレンと炭酸ジエチルの組み合わせ以外に、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル等のカーボネート類や、ジメトキシエタン等のエーテル類の少なくとも1種類を含む有機溶媒を用いることができる。
【0072】
本発明に係るLi−Ni複合酸化物粒子粉末からなる正極活物質を用いて製造した非水電解質二次電池は、初期放電容量が185〜210mAh/g程度であり、後述する評価法で測定した発熱速度が0.15W/g・s以下の優れた特性を示す。発熱速度は0.15W/g・s以下が好ましく、より好ましくは0W/g・sに近づけば近づけるほど良い。
【0073】
<作用>
非水電解質二次電池の高容量化と熱安定性を両立するには正極活物質を構成するLi−Ni複合酸化物粒子粉末において、リチウムサイトへのメタル席占有率と結晶子サイズの両方を制御することが重要である。そこで、本発明においては、Li−Ni複合酸化物粒子粉末のX線回折のリートベルト解析から得られるリチウムサイトのメタル席占有率(%)とリートベルト解析から得られる結晶子サイズ(nm)の積を700以上、1400以下とした。
【0074】
特に、リチウムサイトに混入するメタル席占有率を2%以上、7%以下に制御することによって、リチウムの拡散パスを確保して高い充放電容量を得ることができ、結晶構造を安定化させるため、熱安定性を改善することが可能になる。
【0075】
また、本発明に係るLi−Ni複合酸化物粒子粉末は、結晶子サイズが大きく、比表面積が小さいため、電解液との反応が抑制され、熱安定性を改善することが可能になる。
【実施例】
【0076】
本発明の代表的な実施の形態は次の通りである。
【0077】
本発明に係るNi−Co水酸化物を作製する際の反応槽中のアンモニア濃度は、水酸化物を含む反応スラリーの上澄み液を所定量採取し、上澄み液中のアンモニア成分を蒸留抽出処理し、その抽出液中のアンモニア濃度を0.5N塩酸溶液で滴定し、pHが5.2となる滴定量を終点とし、その滴定量から求めた。反応槽中の余剰の水酸基濃度は、水酸化物を含む反応スラリーの上澄み液を所定量採取し、そのまま、0.5N塩酸溶液で滴定し、pHが5.2となる滴定量を終点とし、その滴定量からアンモニアと余剰の水酸基濃度の和を求め、その値からアンモニア濃度を差し引いて求めた。
【0078】
本発明に係るLi−Ni複合酸化物粒子粉末の組成は、該粉末を酸で溶解し、プラズマ発光分光分析装置ICPS−7500[(株)島津製作所製]で測定して求めた。
【0079】
平均粒子径は、レーザー式粒度分布測定装置LMS−30[セイシン企業(株)製]を用いて測定した体積基準の平均粒子径である。リチウム化合物の平均粒子径は乾式レーザー法で、その他の粉体の平均粒子径は湿式レーザー法で測定した。
【0080】
アルミニウムの化合物の粉末の一次粒子径はエネルギー分散型X線分析装置付き走査電子顕微鏡SEM−EDX[(株)日立ハイテクノロジーズ製]を用いて観察したときの二次粒子を構成する一次粒子の大きさである。
【0081】
比表面積は、試料を窒素30%、ヘリウム70%の混合ガス下で250℃、15分間乾燥脱気した後、MONOSORB[ユアサアイオニックス(株)製]を用いてBET1点連続法により求めた比表面積である。
【0082】
リチウムサイトのメタル席占有率は、X線回折装置SmartLab[(株)リガク製]を用いて、Cu−Kα、45kV,200mAの条件において実施したX線回折のリートベルト解析から求めた。
【0083】
結晶子サイズは、X線回折装置SmartLab[(株)リガク製]を用いて、Cu−Kα、45kV,200mAの条件において実施したX線回折のリートベルト解析から求めた。
【0084】
Li−Ni複合酸化物粒子粉末からなる正極活物質を用いたコインセルによる初期充放電特性及び熱安定性の評価を行った。
【0085】
まず、正極活物質としてLi−Ni複合酸化物を90重量%、導電材としてアセチレンブラックを3重量%及びグラファイトKS−5を3重量%、バインダーとしてN−メチルピロリドンに溶解したポリフッ化ビニリデン4重量%とを混合した後、Al金属箔に塗布し150℃にて乾燥した。このシートを16mmφに打ち抜いた後、1t/cm
2で圧着し、電極厚みを50μmとした物を正極に用いた。負極は17mmφに打ち抜いた金属リチウムとし、電解液は1mol/lのLiPF
6を溶解したECとDMCを体積比で1:2に混合した溶液を用いてCR2032型コインセルを作製した。
【0086】
初期充放電特性は、Li−Ni複合酸化物粒子粉末からなる正極活物質を用いたコインセルの初期放電容量によって評価した。前記のコインセルを用い、室温で充電は4.3Vまで0.1Cにて行った後、放電を3.0Vまで0.1Cにて行い、その時の初期放電容量を測定した。
【0087】
熱安定性は、前記のコインセルを用い、初期の充放電を行った後、二回目の充電を4.25Vまで15時間で充電が完了するように行い、その状態でコインセルを分解して、取り出した正極をSUS耐圧セルに電解液共存下で密閉して示差熱分析を室温から400℃まで50℃/minの走査速度で測定を行い、発熱量を時間で微分することにより求めた発熱速度によって評価した。
【0088】
[実施例1]
2mol/lの硫酸ニッケルと硫酸コバルトをNi:Co=84:16になるように混合した水溶液の入った反応槽に6.0mol/lのアンモニア水溶液及び2mol/lの水酸化ナトリウム水溶液を供給した。反応槽は羽根型攪拌機で常に攪拌を行い、アンモニア水溶液と水酸化ナトリウム水溶液は常に、反応槽中のアンモニア濃度が0.4mol/l、反応槽中の余剰の水酸基濃度が0.01mol/lで、(反応槽中のアンモニア濃度)/(反応槽中の余剰の水酸基濃度)が40となるように供給し続けた。反応槽中に生成したNi−Co水酸化物はオーバーフローされ、オーバーフロー管に連結された濃縮槽で濃縮し、反応槽へ循環を行った。反応槽と沈降槽中のNi−Co水酸化物濃度が4mol/lになるまで40時間反応を行った。
【0089】
反応後、得られたNi−Co水酸化物の懸濁液を、フィルタープレスを用いてNi−Co水酸化物の重量に対して10倍の水により水洗を行った後、乾燥を行い、Ni:Co=84.2:15.8のNi−Co水酸化物粒子粉末を得た。
【0090】
得られたNi−Co水酸化物粒子粉末と、一次粒子径が0.5μmで平均粒子径1.5μmの水酸化アルミニウムの粉末と、予め粉砕機によって粒度調整を行った炭酸リチウム含有量が0.3wt%、平均粒子径10μmの水酸化リチウム・1水塩の粉末とをモル比でLi/(Ni+Co+Al)=1.01となるように混合した。この混合物を酸素雰囲気下、780℃にて10時間焼成し、解砕してLi−Ni複合酸化物粒子粉末を得た。
【0091】
得られたLi−Ni複合酸化物粒子粉末の化学組成はLi
1.01Ni
0.80Co
0.15Al
0.05O
2であり、平均粒子径は5.7μm、BET比表面積は0.36m
2/g、リチウムサイトのメタル席占有率は2.9%、結晶子サイズは334nmであり、リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積は968.6であった。このLi−Ni複合酸化物粒子のSEM写真を
図1に示す。また、このLi−Ni複合酸化物粒子粉末の放電容量は192mAh/gであり、4.25V充電状態における示差熱分析を行った結果、発熱速度は0.06W/g・sであった。
【0092】
[実施例2〜実施例6]
実施例1と同様に行ってNi−Co水酸化物粒子粉末を得た。得られたNi−Co水酸化物粒子粉末と、一次粒子径が0.5μmで平均粒子径1.5μmの水酸化アルミニウムの粉末と、予め粉砕機によって粒度調整を行った炭酸リチウム含有量が0.3wt%、平均粒子径10μmの水酸化リチウム・1水塩の粉末とをモル比でLi/(Ni+Co+Al)=1.00、1.02、1.03、1.05及び1.08になるように混合した以外は、実施例1と同様に行い、化学組成の異なるLi−Ni複合酸化物粒子粉末を得た。これらの材料の組成、平均粒子径及びBET比表面積を表1に、リチウムサイトのメタル席占有率、結晶子サイズ、リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積、初期放電容量及び発熱速度を表2に示す。
【0093】
[実施例7]
2mol/lの硫酸ニッケルと硫酸コバルト及び硫酸マンガンをNi:Co:Mn=80:10:10になるように混合した水溶液の入った反応槽に6.0mol/lアンモニア水溶液及び2mol/lの水酸化ナトリウム水溶液を供給した。反応槽は羽根型攪拌機で常に攪拌を行い、アンモニア水溶液と水酸化ナトリウム水溶液は常に、反応槽中のアンモニア濃度が0.4mol/l、反応槽中の余剰の水酸基濃度が0.01mol/lで、(反応槽中のアンモニア濃度)/(反応槽中の余剰の水酸基濃度)が40となるように供給し続けた。反応槽中に生成したNi−Co−Mn水酸化物はオーバーフローされ、オーバーフロー管に連結された濃縮槽で濃縮し、反応槽へ循環を行った。反応槽と沈降槽中のNi−Co−Mn水酸化物濃度が4mol/lになるまで40時間反応を行った。
【0094】
反応後、得られたNi−Co−Mn水酸化物の懸濁液を、フィルタープレスを用いてNi−Co−Mn水酸化物の重量に対して10倍の水により水洗を行った後、乾燥を行い、Ni:Co:Mn=80:10:10のNi−Co−Mn水酸化物粒子を得た。
【0095】
得られたNi−Co−Mn水酸化物粒子粉末と、予め粉砕機によって粒度調整を行った炭酸リチウム含有量が0.3wt%、平均粒子径10μmの水酸化リチウム・1水塩の粉末とをモル比でLi/(Ni+Co+Mn)=1.02となるように混合した。この混合物を酸素雰囲気下、820℃にて10時間焼成し、解砕してLi−Ni複合酸化物粒子粉末を得た。
【0096】
得られたLi−Ni複合酸化物粒子粉末の化学組成は、Li
1.02Ni
0.80Co
0.10Mn
0.10O
2であり、平均粒子径は12.5μm、BET比表面積は0.23m
2/g、リチウムサイトのメタル席占有率は4.7%、結晶子サイズは200nmであり、リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積は940.0であった。また、このLi−Ni複合酸化物粒子粉末の放電容量は206mAh/gであり、4.25V充電状態における示差熱分析を行った結果、発熱速度は0.12W/g・sであった。
【0097】
[実施例8〜実施例9]
実施例7と同様に行ってNi−Co−Mn水酸化物粒子を得た。得られたNi−Co−Mn水酸化物粒子粉末と、予め粉砕機によって粒度調整を行った炭酸リチウム含有量が0.3wt%、平均粒子径10μmの水酸化リチウム・1水塩の粉末とをモル比でLi/(Ni+Co+Mn)=1.04または1.08になるように混合した以外は、実施例7と同様に行い、Li−Ni複合酸化物粒子粉末を得た。この材料の組成、平均粒子径及びBET比表面積を表1に、リチウムサイトのメタル席占有率、結晶子サイズ、リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積、初期放電容量及び発熱速度を表2に示す。
【0098】
[実施例10]
2mol/lの硫酸ニッケルと硫酸コバルト及び硫酸マンガンをNi:Co:Mn=80:10:10になるように混合した水溶液の入った反応槽に6.0mol/lアンモニア水溶液及び2mol/lの水酸化ナトリウム水溶液供給した。反応槽は羽根型攪拌機で常に攪拌を行い、アンモニア水溶液と水酸化ナトリウム水溶液は常に、反応槽中のアンモニア濃度が0.4mol/l、反応槽中の余剰の水酸基濃度が0.02mol/lで、(反応槽中のアンモニア濃度)/(反応槽中の余剰の水酸基濃度)が20となるように供給し続けた。反応槽中に生成したNi−Co−Mn水酸化物はオーバーフローされ、オーバーフロー管に連結された濃縮槽で濃縮し、反応槽へ循環を行った。反応槽と沈降槽中のNi−Co−Mn水酸化物濃度が4mol/lになるまで40時間反応を行った。
【0099】
反応後、得られたNi−Co−Mn水酸化物粒子の懸濁液を、フィルタープレスを用いてNi−Co−Mn水酸化物の重量に対して10倍の水により水洗を行った後、乾燥を行い、Ni:Co:Mn=80:10:10のNi−Co含有水酸化物粒子粉末を得た。
【0100】
得られたNi−Co−Mn水酸化物粒子粉末と、予め粉砕機によって粒度調整を行った炭酸リチウム含有量が0.3wt%、平均粒子径10μmの水酸化リチウム・1水塩の粉末とをモル比でLi/(Ni+Co+Mn)=1.04になるように混合した。この混合物を酸素雰囲気下、820℃にて10時間焼成し、解砕し、Li−Ni複合酸化物粒子粉末を得た。この材料の組成、平均粒子径及びBET比表面積を表1に、リチウムサイトのメタル席占有率、結晶子サイズ、リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積、初期放電容量及び発熱速度を表2に示す。
【0101】
[実施例11]
2mol/lの硫酸ニッケルと硫酸コバルト及び硫酸マンガンをNi:Co:Mn=80:15:5になるように混合した水溶液の入った反応槽に、6.0mol/lアンモニア水溶液及び2mol/lの水酸化ナトリウム水溶液を供給した。反応槽は羽根型攪拌機で常に攪拌を行い、アンモニア水溶液と水酸化ナトリウム水溶液は常に、反応槽中のアンモニア濃度が0.4mol/l、反応槽中の余剰の水酸基濃度が0.06mol/lで、(反応槽中のアンモニア濃度)/(反応槽中の余剰の水酸基濃度)が6.7となるように供給し続けた。反応槽中に生成したNi−Co−Mn水酸化物はオーバーフローされ、オーバーフロー管に連結された濃縮槽で濃縮し、反応槽へ循環を行った。反応槽と沈降槽中のNi−Co−Mn水酸化物濃度が4mol/lになるまで40時間反応を行った。
【0102】
反応後、得られたNi−Co−Mn水酸化物粒子の懸濁液を、フィルタープレスを用いてNi−Co−Mn水酸化物の重量に対して10倍の水により水洗を行った後、乾燥を行い、Ni:Co:Mn=80:15:5のNi−Co含有水酸化物粒子粉末を得た。
【0103】
得られたNi−Co−Mn水酸化物粒子粉末と、予め粉砕機によって粒度調整を行った炭酸リチウム含有量が0.3wt%、平均粒子径10μmの水酸化リチウム・1水塩の粉末とをモル比でLi/(Ni+Co+Mn)=1.02になるように混合した。この混合物を酸素雰囲気下、780℃にて10時間焼成し、解砕し、Li−Ni複合酸化物粒子粉末を得た。この材料の組成、平均粒子径及びBET比表面積を表1に、リチウムサイトのメタル席占有率、結晶子サイズ、リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積、初期放電容量及び発熱速度を表2に示す。
【0104】
[実施例12]
組成をNi:Co:Mn=80:5:15になるように行った以外は、実施例7と同様に行ってNi−Co−Mn水酸化物粒子粉末を得た。得られたNi−Co−Mn水酸化物粒子粉末と、予め粉砕機によって粒度調整を行った炭酸リチウム含有量が0.3wt%、平均粒子径10μmの水酸化リチウム・1水塩の粉末とをモル比でLi/(Ni+Co+Mn)=1.02になるように混合した。この混合物を酸素雰囲気下、780℃にて10時間焼成し、解砕し、Li−Ni複合酸化物粒子粉末を得た。この材料の組成、平均粒子径及びBET比表面積を表1に、リチウムサイトのメタル席占有率、結晶子サイズ、リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積、初期放電容量及び発熱速度を表2に示す。
【0105】
[実施例13〜15]
組成をNi:Co:Mn=75:10:15になるように行った以外は、実施例7と同様に行ってNi−Co−Mn水酸化物粒子粉末を得た。得られたNi−Co−Mn水酸化物粒子粉末と、予め粉砕機によって粒度調整を行った炭酸リチウム含有量が0.3wt%、平均粒子径10μmの水酸化リチウム・1水塩の粉末とをモル比でLi/(Ni+Co+Mn)=1.02、1.04、1.08になるように混合した以外は、実施例12と同様に行い、Li−Ni複合酸化物粒子粉末を得た。この材料の組成、平均粒子径及びBET比表面積を表1に、リチウムサイトのメタル席占有率、結晶子サイズ、リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積、初期放電容量及び発熱速度を表2に示す。
【0106】
[実施例16]
2mol/lの硫酸ニッケルと硫酸コバルト及び硫酸マンガンをNi:Co:Mn=75:10:15になるように混合した水溶液の入った反応槽に6.0mol/lのアンモニア水溶液及び2mol/lの水酸化ナトリウム水溶液を供給した。反応槽は羽根型攪拌機で常に攪拌を行い、アンモニア水溶液と水酸化ナトリウム水溶液は常に、反応槽中のアンモニア濃度が1.2mol/l、反応槽中の余剰の水酸基濃度が0.04mol/lで、(反応槽中のアンモニア濃度)/(反応槽中の余剰の水酸基濃度)が30となるように供給し続けた。反応槽中に生成したNi−Co−Mn水酸化物はオーバーフローされ、オーバーフロー管に連結された濃縮槽で濃縮し、反応槽へ循環を行った。反応槽と沈降槽中のNi−Co水酸化物濃度が4mol/lになるまで40時間反応を行った。
【0107】
反応後、得られたNi−Co−Mn水酸化物粒子の懸濁液を、フィルタープレスを用いてNi−Co−Mn水酸化物の重量に対して10倍の水により水洗を行った後、乾燥を行い、Ni:Co:Mn=75:10:15のNi−Co−Mn含有水酸化物粒子粉末を得た。
【0108】
得られたNi−Co−Mn水酸化物粒子粉末と、予め粉砕機によって粒度調整を行った炭酸リチウム含有量が0.3wt%、平均粒子径10μmの水酸化リチウム・1水塩の粉末とをモル比でLi/(Ni+Co+Mn)=1.04になるように混合した。この混合物を酸素雰囲気下、780℃にて10時間焼成し、解砕し、Li−Ni複合酸化物粒子粉末を得た。この材料の組成、平均粒子径及びBET比表面積を表1に、リチウムサイトのメタル席占有率、結晶子サイズ、リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積、初期放電容量及び発熱速度を表2に示す。
【0109】
[実施例17]
Ni−Co−Mn水酸化物の組成をNi:Co:Mn=75:15:10になるように行った以外は、実施例12と同様に行い、Li−Ni複合酸化物粒子粉末を得た。この材料の組成、平均粒子径及びBET比表面積を表1に、リチウムサイトのメタル席占有率、結晶子サイズ、リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積、初期放電容量及び発熱速度を表2に示す。
【0110】
[実施例18]
Ni−Co−Mn水酸化物の組成をNi:Co:Mn=75:5:20になるように行った以外は、実施例12と同様に行い、Li−Ni複合酸化物粒子粉末を得た。この材料の組成、平均粒子径及びBET比表面積を表1に、リチウムサイトのメタル席占有率、結晶子サイズ、リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積、初期放電容量及び発熱速度を表2に示す。
【0111】
[実施例19]
Ni−Co−Mn水酸化物の組成をNi:Co:Mn=85:10:5になるように行った以外は、実施例12と同様に行い、Li−Ni複合酸化物粒子粉末を得た。この材料の組成、平均粒子径及びBET比表面積を表1に、リチウムサイトのメタル席占有率、結晶子サイズ、リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積、初期放電容量及び発熱速度を表2に示す。
【0112】
[実施例20]
Ni−Co−Mn水酸化物の組成をNi:Co:Mn=85:5:10になるように行った以外は、実施例12と同様に行い、Li−Ni複合酸化物粒子粉末を得た。この材料の組成、平均粒子径及びBET比表面積を表1に、リチウムサイトのメタル席占有率、結晶子サイズ、リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積、初期放電容量及び発熱速度を表2に示す。
【0113】
[実施例21]
組成をNi:Co:Mn=60:20:20になるように行った以外は、実施例7と同様に行ってNi−Co−Mn水酸化物粒子粉末を得た。得られたNi−Co−Mn水酸化物粒子粉末と、予め粉砕機によって粒度調整を行った炭酸リチウム含有量が0.3wt%、平均粒子径10μmの水酸化リチウム・1水塩の粉末とをモル比でLi/(Ni+Co+Mn)=1.04になるように混合した。この混合物を酸素雰囲気下、890℃にて3.33時間焼成し、解砕し、Li−Ni複合酸化物粒子粉末を得た。この材料の組成、平均粒子径及びBET比表面積を表1に、リチウムサイトのメタル席占有率、結晶子サイズ、リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積、初期放電容量及び発熱速度を表2に示す。
【0114】
[実施例22]
2mol/lの硫酸ニッケルと硫酸コバルト、硫酸マンガン及び硫酸マグネシウムをNi:Co:Mn:Mg=90.9:5.1:2:2になるように混合した水溶液の入った反応槽に6.0mol/lのアンモニア水溶液及び2mol/lの水酸化ナトリウム水溶液を供給した。反応槽は羽根型攪拌機で常に攪拌を行い、アンモニア水溶液と水酸化ナトリウム水溶液は常に、反応槽中のアンモニア濃度が0.4mol/l、反応槽中の余剰の水酸基濃度が0.01mol/lで、(反応槽中のアンモニア濃度)/(反応槽中の余剰の水酸基濃度)が40となるように供給し続けた。反応槽中に生成したNi−Co−Mn−Mg水酸化物はオーバーフローされ、オーバーフロー管に連結された濃縮槽で濃縮し、反応槽へ循環を行った。反応槽と沈降槽中のNi−Co−Mn−Mg水酸化物濃度が4mol/lになるまで40時間反応を行った。
【0115】
反応後、得られたNi−Co−Mn−Mg水酸化物粒子の懸濁液を、フィルタープレスを用いてNi−Co−Mn−Mg水酸化物の重量に対して10倍の水により水洗を行った後、乾燥を行い、Ni:Co:Mn:Mg=90.9:5.1:2:2のNi−Co−Mn−Mg水酸化物粒子粉末を得た。
【0116】
得られたNi−Co−Mn−Mg水酸化物粒子粉末と、一次粒子径が0.5μmで平均粒子径1.5μmの水酸化アルミニウムの粉末と、予め粉砕機によって粒度調整を行った炭酸リチウム含有量が0.3wt%、平均粒子径10μmの水酸化リチウム・1水塩の粉末とをモル比でLi/(Ni+Co+Mn+Mg+Al)=1.04になるように混合した。この混合物を酸素雰囲気下、750℃にて10時間焼成し、解砕し、Li−Ni複合酸化物粒子粉末を得た。この材料の組成はLi
1.04Ni
0.90Co
0.05Mn
0.02Mg
0.02Al
0.01O
2であった。平均粒子径及びBET比表面積を表1に、リチウムサイトのメタル席占有率、結晶子サイズ、リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積、初期放電容量及び発熱速度を表2に示す。
【0117】
[実施例23]
Ni−Co−Mn水酸化物粒子の組成をNi:Co:Mn=60:20:20になるように行った以外は、実施例7と同様に行ってNi−Co−Mn水酸化物粒子粉末を得た。得られたNi−Co−Mn水酸化物粒子粉末と平均粒子径が0.4μmの酸化ジルコニウムの粉末と、予め粉砕機によって粒度調整を行った炭酸リチウム含有量が0.3wt%、平均粒子径10μmの水酸化リチウム・1水塩の粉末とをモル比でLi/(Ni+Co+Mn+Zr)=1.04になるように混合した。この混合物を酸素雰囲気下、890℃にて3.33時間焼成し、解砕し、Li−Ni複合酸化物粒子粉末を得た。この材料の組成はLi
1.040Ni
0.600Co
0.200Mn
0.198Zr
0.002O
2であった。平均粒子径及びBET比表面積を表1に、リチウムサイトのメタル席占有率、結晶子サイズ、リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積、初期放電容量及び発熱速度を表2に示す。
【0118】
[比較例1]
実施例1と同様に行ってNi−Co水酸化物粒子を得た。得られたNi−Co水酸化物粒子粉末と、一次粒子径が0.5μmで平均粒子径1.5μmの水酸化アルミニウムの粉末と、予め粉砕機によって粒度調整を行った炭酸リチウム含有量が0.3wt%、平均粒子径10μmの水酸化リチウム・1水塩の粉末とをモル比でLi/(Ni+Co+Al)=0.98となるように混合した以外は、実施例1と同様に行い、化学組成の異なるLi−Ni複合酸化物粒子粉末を得た。これらの材料の組成、平均粒子径及びBET比表面積を表1に、リチウムサイトのメタル席占有率、結晶子サイズ、リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積、初期放電容量及び発熱速度を表2に示す。このLi−Ni複合酸化物粒子のSEM写真を
図2に示す。このようにxが1.00より小さい場合には、高い電池容量のLi−Ni複合酸化物を得ることができない。
【0119】
[比較例2]
実施例1と同様に行ってNi−Co水酸化物粒子を得た。得られたNi−Co水酸化物粒子粉末と、一次粒子径が0.5μmで平均粒子径1.5μmの水酸化アルミニウムの粉末と、予め粉砕機によって粒度調整を行った炭酸リチウム含有量が0.3wt%、平均粒子径10μmの水酸化リチウム・1水塩の粉末とをモル比でLi/(Ni+Co+Al)=1.12となるように混合した以外は、実施例1と同様に行い、化学組成の異なるLi−Ni複合酸化物粒子粉末を得た。これらの材料の組成、平均粒子径及びBET比表面積を表1に、リチウムサイトのメタル席占有率、結晶子サイズ、リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積、初期放電容量及び発熱速度を表2に示す。
【0120】
[比較例3]
2mol/lの硫酸ニッケルと硫酸コバルトをNi:Co=84:16になるように混合した水溶液の入った反応槽に6.0mol/lのアンモニア水溶液及び2mol/lの水酸化ナトリウム水溶液を供給した。反応槽は羽根型攪拌機で常に攪拌を行い、アンモニア水溶液と水酸化ナトリウム水溶液は常に、反応槽中のアンモニア濃度が1.6mol/l、反応槽中の余剰の水酸基濃度が0.1mol/lで、(反応槽中のアンモニア濃度)/(反応槽中の余剰の水酸基濃度)が16となるように供給し続けた以外は、実施例3と同様に行って、化学組成の異なるLi−Ni複合酸化物粒子粉末を得た。これらの材料の組成、平均粒子径及びBET比表面積を表1に、リチウムサイトのメタル席占有率、結晶子サイズ、リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積、初期放電容量及び発熱速度を表2に示す。
【0121】
[比較例4]
2mol/lの硫酸ニッケルと硫酸コバルトをNi:Co=84:16になるように混合した水溶液の入った反応槽に6.0mol/lのアンモニア水溶液及び2mol/lの水酸化ナトリウム水溶液を供給した。反応槽は羽根型攪拌機で常に攪拌を行い、アンモニア水溶液と水酸化ナトリウム水溶液は常に、反応槽中のアンモニア濃度が0.4mol/l、反応槽中の余剰の水酸基濃度が0.08mol/lで、(反応槽中のアンモニア濃度)/(反応槽中の余剰の水酸基濃度)が5となるように供給し続けた以外は、実施例3と同様に行って、化学組成の異なるLi−Ni複合酸化物粒子粉末を得た。これらの材料の組成、平均粒子径及びBET比表面積を表1に、リチウムサイトのメタル席占有率、結晶子サイズ、リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積、初期放電容量及び発熱速度を表2に示す。
【0122】
[比較例5〜6]
実施例7と同様に行ってNi−Co−Mn水酸化物粒子を得た。得られたNi−Co−Mn水酸化物粒子粉末と、予め粉砕機によって粒度調整を行った炭酸リチウム含有量が0.3wt%、平均粒子径10μmの水酸化リチウム・1水塩の粉末とをモル比でLi/(Ni+Co+Mn)=0.98または1.12となるように混合した以外は、実施例7と同様に行い、化学組成の異なるLi−Ni複合酸化物粒子粉末を得た。これらの材料の組成、平均粒子径及びBET比表面積を表1に、リチウムサイトのメタル席占有率、結晶子サイズ、リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積、初期放電容量及び発熱速度を表2に示す。
【0123】
[比較例7]
2mol/lの硫酸ニッケルと硫酸コバルト及び硫酸マンガンをNi:Co:Mn=80:10:10になるように混合した水溶液の入った反応槽に6.0mol/lのアンモニア水溶液及び2mol/lの水酸化ナトリウム水溶液を供給した。反応槽は羽根型攪拌機で常に攪拌を行い、アンモニア水溶液と水酸化ナトリウム水溶液は常に、反応槽中のアンモニア濃度が1.6mol/l、反応槽中の余剰の水酸基濃度が0.1mol/lで、(反応槽中のアンモニア濃度)/(反応槽中の余剰の水酸基濃度)が16となるように供給し続けた以外は、実施例7と同様に行って、化学組成の異なるLi−Ni複合酸化物粒子粉末を得た。これらの材料の組成、平均粒子径及びBET比表面積を表1に、リチウムサイトのメタル席占有率、結晶子サイズ、リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積、初期放電容量及び発熱速度を表2に示す。
【0124】
[比較例8]
2mol/lの硫酸ニッケルと硫酸コバルト及び硫酸マンガンをNi:Co:Mn=80:10:10になるように混合した水溶液の入った反応槽に6.0mol/lのアンモニア水溶液及び2mol/lの水酸化ナトリウム水溶液を供給した。反応槽は羽根型攪拌機で常に攪拌を行い、アンモニア水溶液と水酸化ナトリウム水溶液は常に、反応槽中のアンモニア濃度が0.4mol/l、反応槽中の余剰の水酸基濃度が0.08mol/lで、(反応槽中のアンモニア濃度)/(反応槽中の余剰の水酸基濃度)が5となるように供給し続けた以外は、実施例7と同様に行って、化学組成の異なるLi−Ni複合酸化物粒子粉末を得た。これらの材料の組成、平均粒子径及びBET比表面積を表1に、リチウムサイトのメタル席占有率、結晶子サイズ、リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積、初期放電容量及び発熱速度を表2に示す。
【0125】
[比較例9〜10]
実施例11と同様に行ってNi−Co−Mn水酸化物粒子を得た。得られたNi−Co−Mn水酸化物粒子粉末と、予め粉砕機によって粒度調整を行った炭酸リチウム含有量が0.3wt%、平均粒子径10μmの水酸化リチウム・1水塩の粉末とをモル比でLi/(Ni+Co+Mn)=0.98または1.12となるように混合した以外は、実施例11と同様に行い、化学組成の異なるLi−Ni複合酸化物粒子粉末を得た。これらの材料の組成、平均粒子径及びBET比表面積を表1に、リチウムサイトのメタル席占有率、結晶子サイズ、リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積、初期放電容量及び発熱速度を表2に示す。
【0126】
[比較例11〜12]
実施例13と同様に行ってNi−Co−Mn水酸化物粒子を得た。得られたNi−Co−Mn水酸化物粒子粉末と、予め粉砕機によって粒度調整を行った炭酸リチウム含有量が0.3wt%、平均粒子径10μmの水酸化リチウム・1水塩の粉末をモル比でLi/(Ni+Co+Mn)=0.98または1.12となるように混合した以外は、実施例13と同様に行い、化学組成の異なるLi−Ni複合酸化物粒子粉末を得た。これらの材料の組成、平均粒子径及びBET比表面積を表1に、リチウムサイトのメタル席占有率、結晶子サイズ、リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積、初期放電容量及び発熱速度を表2に示す。
【0127】
[比較例13]
2mol/lの硫酸ニッケルと硫酸コバルト及び硫酸マンガンをNi:Co:Mn=75:10:15になるように混合した水溶液の入った反応槽に6.0mol/lのアンモニア水溶液及び2mol/lの水酸化ナトリウム水溶液を供給した。反応槽は羽根型攪拌機で常に攪拌を行い、アンモニア水溶液と水酸化ナトリウム水溶液は常に、反応槽中のアンモニア濃度が1.6mol/l、反応槽中の余剰の水酸基濃度が0.1mol/lで、(反応槽中のアンモニア濃度)/(反応槽中の余剰の水酸基濃度)が16となるように供給し続けた以外は、実施例13と同様に行って、化学組成の異なるLi−Ni複合酸化物粒子粉末を得た。これらの材料の組成、平均粒子径及びBET比表面積を表1に、リチウムサイトのメタル席占有率、結晶子サイズ、リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積、初期放電容量及び発熱速度を表2に示す。
【0128】
[比較例14]
2mol/lの硫酸ニッケルと硫酸コバルト及び硫酸マンガンをNi:Co:Mn=75:10:15になるように混合した水溶液の入った反応槽に6.0mol/lのアンモニア水溶液及び2mol/lの水酸化ナトリウム水溶液を供給した。反応槽は羽根型攪拌機で常に攪拌を行い、アンモニア水溶液と水酸化ナトリウム水溶液は常に、反応槽中のアンモニア濃度が0.4mol/l、反応槽中の余剰の水酸基濃度が0.08mol/lで、(反応槽中のアンモニア濃度)/(反応槽中の余剰の水酸基濃度)が5となるように供給し続けた以外は、実施例13と同様に行って、化学組成の異なるLi−Ni複合酸化物粒子粉末を得た。これらの材料の組成、平均粒子径及びBET比表面積を表1に、リチウムサイトのメタル席占有率、結晶子サイズ、リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積、初期放電容量及び発熱速度を表2に示す。
【0129】
[比較例15]
実施例19と同様に行ってNi−Co−Mn水酸化物粒子を得た。得られたNi−Co−Mn水酸化物粒子粉末と、予め粉砕機によって粒度調整を行った炭酸リチウム含有量が0.3wt%、平均粒子径10μmの水酸化リチウム・1水塩の粉末とをモル比でLi/(Ni+Co+Mn)=1.12となるように混合した以外は、実施例19と同様に行い、化学組成の異なるLi−Ni複合酸化物粒子粉末を得た。これらの材料の組成、平均粒子径及びBET比表面積を表1に、リチウムサイトのメタル席占有率、結晶子サイズ、リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積、初期放電容量及び発熱速度を表2に示す。
【0130】
[比較例16]
実施例20と同様に行ってNi−Co−Mn水酸化物粒子を得た。得られたNi−Co−Mn水酸化物粒子粉末と、予め粉砕機によって粒度調整を行った炭酸リチウム含有量が0.3wt%、平均粒子径10μmの水酸化リチウム・1水塩の粉末とをモル比でLi/(Ni+Co+Mn)=1.12となるように混合した以外は、実施例20と同様に行い、化学組成の異なるLi−Ni複合酸化物粒子粉末を得た。これらの材料の組成、平均粒子径及びBET比表面積を表1に、リチウムサイトのメタル席占有率、結晶子サイズ、リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積、初期放電容量及び発熱速度を表2に示す。
【0131】
[比較例17]
組成をNi:Co:Mn=50:20:30になるように行った以外は実施例7と同様にしてNi−Co−Mn水酸化物粒子粉末を得た。得られたNi−Co−Mn水酸化物粒子粉末と炭酸リチウムの粉末とをモル比でLi/(Ni+Co+Mn)=1.02になるように混合した。この混合物を空気雰囲気下、950℃にて3.67時間焼成し、解砕し、Li−Ni複合酸化物粒子粉末を得た。この材料の組成、平均粒子径及びBET比表面積を表1に、リチウムサイトのメタル席占有率、結晶子サイズ、リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積、初期放電容量及び発熱速度を表2に示す。このようにaが0.25より大きい場合には、初期充放電容量が著しく低下する。
【0132】
[比較例18]
組成をNi:Co:Mn=33:33:33になるように行った以外は実施例7と同様に行ってNi−Co−Mn水酸化物粒子粉末を得た。得られたNi−Co−Mn水酸化物粒子粉末と炭酸リチウムの粉末とをモル比でLi/(Ni+Co+Mn)=1.02になるように混合した。この混合物を空気雰囲気下、930℃にて10時間焼成し、解砕し、Li−Ni複合酸化物粒子粉末を得た。この材料の組成、平均粒子径及びBET比表面積を表1に、リチウムサイトのメタル席占有率、結晶子サイズ、リチウムサイトのメタル席占有率と結晶子サイズの積、初期放電容量及び発熱速度を表2に示す。このようにyが0.25より大きい場合には、初期充放電容量が著しく低下する。
【0133】
【表1】
【0134】
【表2】
【0135】
実施例1〜23で得られたLi−Ni複合酸化物は、リチウムサイトに混入するメタル席占有率が2%以上、7%以下であり、結晶構造が安定化する。その結果、リチウムの拡散パスを確保して185mAh/g以上の高い放電容量を得ることができ、高容量化と熱安定性の改善を同時に達成できる優れた正極材料である。
【0136】
また、本発明に係るLi−Ni複合酸化物は、結晶子サイズが制御されており、比表面積が小さいため、粒子界面での電解液との反応を抑制することができ、熱安定性が改善された優れた正極材料である。
【0137】
更に、4.25V充電状態における示差熱分析で求めた発熱速度は0.15W/g・s以下であり、熱安定性が改善された優れた正極材料である。
【0138】
以上の結果から本発明に係るLi−Ni複合酸化物は初期放電容量が高く、熱安定性に優れた非水電解質二次電池用活物質として有効であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明に係るLi−Ni複合酸化物粒子粉末は、非水電解質二次電池の正極活物質として用いた場合に、初期放電容量が高く、熱安定性に優れた非水電解質二次電池を得ることができる。