(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面において、実質的に同一又は等価な構成要素又は部分には同一の参照符号を付している。
【0014】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る赤外線検出装置1の構成を示す図である。レンズ11は、観測対象となる物体から放射された赤外線を受熱部12の受熱面S
1に集光するためのレンズである。レンズ11の材料としては、赤外線に対する透過率が比較的高い例えばポリエチレンなどの樹脂材料により構成することができる。またレンズ11は、赤外線を透過させ、赤外線よりも波長の短い可視光を透過させないゲルマニウムレンズであってもよい。
【0015】
受熱部12は、受熱面S
1において赤外線を受光し、赤外線を吸収することによって温度変化を生じさせ且つその温度変化に応じて屈折率変化を生じさせる材料により構成される板状部材である。受熱部12は、その温度変化に対する屈折率変化の割合が比較的大きく且つ熱伝導率が比較的低い材料によって構成されることが好ましい。受熱部12の好適な材料として、例えばタンタル酸ニオブ酸カリウム結晶(KTN結晶)が挙げられる。KTN結晶は、47℃近傍で相転移を起こし、相転移に伴って極めて大きな屈折率変化をもたらす。また、受熱部12の他の例としては、ガラス等の透明な封止部材の中に液晶を封入したものが挙げられる。液晶は、常温付近に相転移温度を有しており、この相転移に伴って比較的大きな屈折率変化を生じる。
【0016】
観測用光源13は、受熱部12の受熱面S
1とは反対側の観測面(受光面)S
2に向けてプローブ光L
pを照射する光源である。観測用光源13から出射されるプローブ光L
pによって受熱部12が発熱しないように、プローブ光L
pは、受熱部12に対して透過性を有する波長帯であることが好ましい。また、プローブ光L
pは、受熱部12の観測面S
2に生じる明部と暗部とを含む明暗パターン(干渉縞)が明確に現れるように波長域が比較的狭い可視光であることが好ましく、単色光がより好ましい。観測用光源13は、例えば発光ダイオードまたは半導体レーザで構成することができる。
図1に示すように、観測用光源13は、プローブ光L
pが受熱部12の観測面S
2に対して斜め方向から入射するように配置されていてもよい。また、観測用光源13としてレーザ光源を用いる場合には、プローブ光L
pの径を拡大して受熱部12の観測面S
2全体にプローブ光L
pを照射するためにビームエキスパンダが、観測用光源13の前方に設けられていてもよい。
【0017】
レンズ14は、受熱部12で反射されたプローブ光L
pをイメージセンサ15の受光面に結像するためのレンズである。
【0018】
イメージセンサ15は、例えば、公知のCCDイメージセンサやCMOSイメージセンサ等の撮像素子であり、受熱部12で反射されたプローブ光L
pの反射光による像を撮像して画像データを生成する。イメージセンサ15は、例えば、シリコン基板上に形成された多数の受光素子(例えばフォトダイオード)を有し、この受光素子の並びで光電変換を行って熱画像の画像データを生成する。
【0019】
次に、本発明の第1の実施形態に係る赤外線検出装置1による赤外線検出の原理について説明する。
【0020】
観測対象物から発せられる赤外線は、レンズ11によって受熱部12の受熱面S
1上に結像される。受熱部12は、赤外線を吸収することにより内部温度が上昇する。受熱部12の温度変化量ΔTは、照射された赤外線のエネルギー量をQ、受熱部12の熱容量をC
Tとすると、
ΔT=Q/C
T ・・・(1)
と表すことができる。
【0021】
図2は、赤外線が照射された受熱部12に生じる温度分布の一例を示す図であり、受熱部12に生じる温度分布を受熱面S
1側から眺めた平面図である。
図2には、受熱部12の受熱面S
1において、照射された赤外線の強度分布に対応した同心円状の温度分布が形成された場合が例示されている。ここで、t
1〜t
5は、受熱部12の温度であり、t
1>t
2>t
3>t
4>t
5であるものとする。受熱部12は、温度変化に応じた屈折率変化を生じさせる。受熱部12の温度変化量ΔTに伴う屈折率変化量Δnは、受熱部12の屈折率の温度係数をδn/δTとすると、
Δn=(δn/δT)×ΔT ・・・(2)
と表わすことができる。すなわち、受熱面S
1に形成された温度分布に対応した同心円状の屈折率分布が形成される。ここで、受熱部12の温度t
1〜t
5に対応する屈折率をn
1〜n
5とする。
【0022】
観測用光源13は、このような屈折率分布が形成された受熱部12の観測面S
2に向けてプローブ光L
pを照射する。
図3は、プローブ光L
pが照射された受熱部12の断面図である。プローブ光L
pの一部は、受熱部12の観測面S
2で反射されてその進路を折り返す。観測面S
2での反射は、いわゆる固定端反射であり、反射光L
p1は、反射面である観測面S
2において入射光に対して位相がπずれる。観測面S
2で反射されなかったプローブ光L
pの一部は、受熱部12の内部を透過し、受熱面S
1で反射されてその進路を折り返す。かかる反射は、いわゆる自由端反射であり、反射光L
p2は、反射面である受熱面S
1において入射光に対する位相差を生じない。受熱部12のある点における反射光L
p1およびL
p2の光学的な経路長の差、すなわち光路長差Δlは、受熱部12の厚さをd、受熱部12の当該部分における屈折率をn
xとすると、
Δl=2n
xd ・・・(3)
と表すことができる。
【0023】
反射光L
p1およびL
p2の光路長差Δlが下記の式(4)を満たすとき、反射光L
p1とL
p2の位相が一致するため、これら2つの反射光は干渉によって強め合い、観測面S
2において明部が現れる。一方、反射光L
p1およびL
p2の光路長差Δlが下記の式(5)を満たすとき、反射光L
p1とL
p2の位相差がπとなるため、これら2つの反射光は干渉によって弱め合い、観測面S
2において暗部が現れる。ここで、式(4)および式(5)において、mは整数、λはプローブ光L
pの波長である。
【0024】
Δl=2n
xd=(m+1/2)λ ・・・(4)
Δl=2n
xd=mλ ・・・(5)
【0025】
すなわち、プローブ光L
pの反射光は、受熱部12の屈折率が式(4)を満たす部分において最も明るくなり、屈折率が式(5)を満たす部分において最も暗くなる。
【0026】
図4は、受熱部12の屈折率nと観測面S
2において観測されるプローブ光L
pの反射光の強度I
rとの関係を示す図である。
図4に示すように、反射光の強度I
rは、受熱部12の屈折率nの変化に応じて明部に対応する極大値と暗部に対応する極小値が交互に現れる。
【0027】
従って、受熱部12に、例えば、
図2に示すような同心円状の温度分布および屈折率分布が形成されている場合、受熱部12の観測面S
2には、かかる温度分布に対応して明部と暗部が交互に出現する同心円状の明暗パターン(干渉縞)が現れる。例えば、温度t
1、t
3、t
5にそれぞれ対応する屈折率n
1、n
3、n
5が式(4)で示される明条件を満たし、温度t
2、t
4にそれぞれ対応する屈折率n
2、n
4が式(5)で示される暗条件を満たすとき、受熱部12の温度t
1、t
3、t
5の部分が明るくなり、受熱部12の温度t
2、t
4の部分が暗くなる。
【0028】
このように、観測対象物から放射される赤外線が受熱部12に照射されることにより、受熱部12内には赤外線の強度分布に対応した屈折率分布が生じ、屈折率分布が生じた受熱部12にプローブ光L
pを照射することにより、屈折率分布が明暗パターン(干渉縞)となって現れて可視化される。換言すれば、受熱部12は、受熱面S
1における温度分布に対応するように受熱部12を透過するプローブ光L
pの光路長を変化させ、これによって明暗パターン(干渉縞)を生じさせる。
【0029】
受熱部12の観測面S
2に現れる明暗パターン(干渉縞)は、レンズ14を介してイメージセンサ15の受光面に結像される。イメージセンサ15は、画素を構成する複数の受光素子の各々によって受熱部12の観測面S
2に生じている明暗パターンを撮像して明暗パターンの画像データを生成する。この画像データを図示しない表示装置を用いて再生することにより、観測対象物の熱画像を観測することが可能となる。
【0030】
以上の説明から明らかなように、本発明の第1の実施形態に係る赤外線検出装置によれば、受熱部12に赤外線の強度分布に対応した屈折率分布が形成される。受熱部12にプローブ光L
pを照射することにより受熱部12内部の屈折率差に伴う光路長差に起因して明暗パターン(干渉縞)が現れる。このように受熱部12に照射される赤外線が明暗パターン(干渉縞)として可視化されるので、熱源および熱源の温度分布を検出することが可能となる。本発明の第1の実施形態に係る赤外線検出装置によれば、従来のサーモグラフィ装置に用いられている高価なマイクロボロメータや冷却装置等を用いることなく熱画像を形成することが可能となる。すなわち、比較的簡便な構成で赤外線を検出して熱画像を形成することができるので、従来のサーモグラフィ装置に対して大幅なコストダウンを実現することが可能となる。
【0031】
(変形例1)
図5は、上記した本発明の第1の実施形態に係る赤外線検出装置1の第1の変形例に係る赤外線検出装置1aの構成を示す図である。赤外線検出装置1aは、受熱部12の端部近傍に設けられた温度センサ16と、温度センサ16から出力される測温信号およびイメージセンサ15から出力される明暗パターン(干渉縞)の画像データに基づいて測定対象物の温度を推定する温度推定部17と、を更に有している。
【0032】
温度センサ16は、受熱部12の受熱面S
1の端部近傍の基準点Pの温度を検出し、検出した基準点Pの温度を示す測温信号を温度推定部17に供給する。
【0033】
温度推定部17は、受熱部12の観測面S
2に現れる明暗パターン(干渉縞)の互いに隣接する明線間または暗線間の温度差を記憶したメモリ(図示せず)を有している。なお、明暗パターン(干渉縞)の互いに隣接する明線間または暗線間の温度差Δtは、受熱部12を構成する材料の屈折率の温度係数δn/δTが既知であるならば式(4)および(5)から求めることが可能である。温度推定部17は、イメージセンサ15から供給される明暗パターン(干渉縞)の画像データを解析して基準点Pから受熱部12の所定の点(例えば干渉縞の中心点)Aまでの明線または暗線の数を数えることにより、点Aと基準点Pとの温度差を推定する。温度推定部17は、推定された点Aと点Pとの温度差と、温度センサ12から通知される基準点Pの温度とに基づいて点Aの温度を推定する。例えば、
図6に示すような明暗パターン(干渉縞)が受熱部12に現れており、明線間または暗線間の温度差Δtが例えば2℃であり、温度センサ16によって検出された基準点Pの温度が例えば34℃である場合には、温度推定部17は、受熱部12の点Aの温度が40℃であると推定する。温度推定部17は、実測等に基づいて求められた受熱部12の表面温度と、観測対象物の実際の温度との対応関係を記憶したメモリ(図示せず)を有しており、推定された受熱部12上の点Aの温度から観測対象物の温度を推定し、その結果を出力する。温度推定部17は、一点のみならず受熱部12の複数の点について、上記の要領で温度を推定してもよい。温度推定部17によって推定された観測対象物の温度は、例えば明暗パターン(干渉縞)の画像とともに表示することとしてもよい。
【0034】
このように、第1の変形例に係る赤外線検出装置1aによれば、明暗パターン(干渉縞)による赤外線の可視化のみならず、熱源の温度を推定することも可能となる。
【0035】
(変形例2)
図7は、上記した本発明の第1の実施形態に係る赤外線検出装置1の第2の変形例に係る赤外線検出装置1bの構成を示す図である。赤外線検出装置1bは、観測対象物を2つの異なる方向から同時に観測することにより、観測対象物である熱源までの距離を測定する。すなわち、赤外線検出装置1bは、熱源を検出するとともに、所謂ステレオカメラの原理に基づいて熱源までの距離を測定する機能を備えている。以下、赤外線検出装置1bが上記した赤外線検出装置1と異なる部分について説明する。
【0036】
レンズ板11Aは、単一の基板上に2つのレンズ部11aおよび11bが離間して設けられて構成されている。
【0037】
受熱部12aは、受熱面S
1が、レンズ板11Aと平行となるように配置された単一の板状部材によって構成され、観測対象物から放射される赤外線を2つレンズ部11aおよび11bの双方を介して受光する。すなわち、観測対象物から放射された赤外線は受熱面S
1上の互いに離間した2箇所に照射される。
【0038】
観測用光源13は、受熱部12aの観測面S
2に向けてプローブ光L
pを照射する。これにより上述の赤外線検出装置1の場合と同様、受熱部12aに生じた屈折率差に対応した光路長差に起因して観測面S
2の2箇所に明暗パターン(干渉縞)が現れる。
【0039】
受熱部12aの観測面S
2に現れる2つの明暗パターン(干渉縞)は、レンズ14を介してイメージセンサ15の受光面に結像される。
【0040】
距離測定部18は、イメージセンサ15から供給される2つの明暗パターン(干渉縞)の画像データに基づいて、観測対象物である熱源までの距離を算出する。
図8は、赤外線検出装置1bによる熱源までの距離の算出方法を示す図である。
【0041】
距離測定部18は、イメージセンサ15から供給される画像データから、2つの明暗パターン(干渉縞)の中心点c
1およびc
2の位置を特定する。次に、距離測定部18は、レンズ11aの中心から受熱部12aの受熱面S
1に下ろした垂線と受熱面S
1とが交わる点q
1と、明暗パターン(干渉縞)の中心点c
1と、の距離z
1を算出する。同様に、距離測定部18は、レンズ11bの中心から受熱部12aの受熱面S
1に下ろした垂線と受熱面S
1とが交わる点q
2と、明暗パターン(干渉縞)の中心点c
2と、の距離z
2を算出する。なお、点q
1およびq
2は予め特定されている点である。次に、距離測定部18は、距離z
1と距離z
2とを加算した値Z(=z
1+z
2)を得る。次に、距離測定部18は、既知の値であるレンズ11aとレンズ11bとの距離Bと、レンズ11aおよび11bと受熱面S
1との距離Fと、先に求めた値Zを用いて、下記の式(6)を計算することにより、熱源Hまでの距離Dを算出する。
【0043】
なお、算出された熱源Hまでの距離Dは、明暗パターン(干渉縞)の画像とともに表示画面上に表示することとしてもよい。
【0044】
このように、本変形例に係る赤外線検出装置1bによれば、赤外線検出のみならず熱源までの距離を測定することも可能である。また、本変形例に係る赤外線検出装置1bによれば、2つのレンズ11aおよび11bは単一の基板上に設けられるため、レンズ11aおよび11b間の位置合わせ(アライメント)が不要となる。更に、単一の受熱部12aを用いて2つの熱画像を形成するので、2つの熱画像の位置あわせも不要となる。すなわち、赤外線検出装置1bによれば、レンズ板11Aと受熱部12aとの位置合わせを行うのみで高精度な距離測定が可能である。従って、高精度なアライメントが必要とされる従来のステレオカメラと比較して容易且つ高精度な距離測定を実現することが可能となる。
【0045】
(第2の実施形態)
以下に、本発明の第2の実施形態に係る赤外線検出装置について説明する、本発明の第2の実施形態に係る赤外線検出装置は、受熱部の構成が、上記した本発明の第1の実施形態に係る受熱部12と異なる。以下において、本発明の第2の実施形態に係る受熱部の構成について詳述する。
【0046】
図9(a)は、本発明の第2の実施形態に係る受熱部12bの構成を示す断面図である。受熱部12bは、基板21と、基板21上に設けられた複数の支持体22と、支持体22によって支持された反射膜23と、を含んで構成されている。
【0047】
基板21は、観測用光源13から出射されるプローブ光L
pに対して透過性を有するガラスや樹脂などにより構成される。基板21の裏面は、イメージセンサ15によって撮像される観測面S
2とされる。
【0048】
複数の支持体22は、例えば円柱または角柱状の構造物であり基板21上にグリッド状に配列されている。複数の支持体22の各々は、反射膜23に接続されて基板21上において反射膜23を支持する。支持体22の材料として、線膨張係数の比較的高い材料、例えば銅や亜鉛などの金属またはエポキシ樹脂やシリコーン樹脂などの樹脂材料が好適である。なお、支持体22の形状および配列などは適宜変更することが可能である。
【0049】
反射膜23は、受熱面S
1において観測対象物から放射される赤外線を受光し、赤外線を吸収して温度変化を生じさせ且つ受熱面S
1と反対側に基板21を透過したプローブ光L
pを反射させる反射面S
2を有する膜状の部材である。反射膜23は、例えば基材となる樹脂材料に高反射材をコーティングして反射面S
3を形成することにより得ることができる。反射膜23と基板21との間には空隙部24が形成されている。
【0050】
受熱部12b以外の他の構成部分は、上記した第1の実施形態に係る赤外線検出装置1と同様であるので、それらの説明は省略する。
【0051】
次に、上記した構成を有する受熱部12bを備えた本発明の第2の実施形態に係る赤外線検出装置による赤外線検出の原理について説明する。観測対象物から発せられる赤外線は、レンズ11によって受熱部12bを構成する反射膜23の受熱面S
1上に結像される。反射膜23は、赤外線を吸収することにより温度が上昇する。反射膜23には、例えば、
図2に示すような、照射された赤外線の強度分布に対応した同心円状の温度分布(t
1>t
2>t
3>t
4>t
5)が形成される。
【0052】
赤外線照射によって反射膜23において発生した熱は、熱伝導によって支持体22に伝わる。支持体22の各々は、反射膜23の局所的な温度で加熱される。すなわち、支持体22の各々は、反射膜23の温度分布に応じて互いに異なる温度で加熱される。支持体22は、線膨張係数の比較的高い材料で構成されており、温度上昇に伴って高さ方向に膨張する。支持体22の各々は、加熱量応じた膨張量で膨張する。例えば、反射膜23に
図2に示すような同心円状の温度分布が形成されている場合(t
1>t
2>t
3>t
4>t
5)、反射膜23の中心部の直下に配置された支持体22の長さが最も長くなり、反射膜23の中心から遠ざかるにつれて長さが短くなる。熱膨張した支持体22は、反射膜23の反射面S
3を押し上げるので、反射膜23は、
図9(b)に示すように、中心部において上方に向けて屈曲するように変形する。すなわち、反射膜23は、基板21の上面から反射面S
3までの距離d
xが反射膜23の温度分布に対応するように変形する。
【0053】
観測用光源13は、このように変形した反射膜23に向けてプローブ光L
pを照射する。
図10は、反射膜23において変形が生じた受熱部12bにプローブ光L
pを照射したときの受熱部12bの断面図である。なお、
図10において支持体22は図示されていない。
【0054】
観測用光源13から出射されたプローブ光L
pの一部は、基板21の上面で反射されてその進路を折り返す。基板21の上面での反射は、いわゆる自由端反射であり、反射光L
p1は、反射面となる基板21の上面において入射光に対する位相差を生じない。基板21の上面で反射されなかったプローブ光L
pの一部は、反射膜23の反射面S
3で反射されてその進路を折り返す。かかる反射は、いわゆる固定端反射であり、反射光L
p2は、反射面S
3において入射光に対して位相差がπずれる。反射光L
p1およびL
p2の光路長差Δlは、任意の点における基板21上面と反射面S
3との距離をd
xとすると、
Δl=2d
x ・・・(7)
と表すことができる。
【0055】
反射光L
p1およびL
p2の光路長差Δlが下記の式(8)を満たすとき、反射光L
p1とL
p2の位相が一致するため、これら2つの反射光は干渉によって強め合い、観察面S
2において明部が現れる。一方、反射光L
p1およびL
p2の光路長差Δlが下記の式(9)を満たすとき、反射光L
p1とL
p2の位相差がπとなるため、これら2つの反射光は干渉によって弱め合い、観測面S
2において暗部が現れる。ここで、式(8)および式(9)において、mは整数、λはプローブ光L
pの波長である。
【0056】
Δl=2d
x=(m+1/2)λ ・・・(8)
Δl=2d
x=mλ ・・・(9)
【0057】
すなわち、プローブ光L
pの反射光は、基板21の上面から反射面S
3までの距離d
xが式(8)を満たす部分において最も明るくなり、距離d
xが式(9)を満たす部分において最も暗くなる。
【0058】
図11は、基板21の上面から反射膜23の反射面S
3までの距離d
xとプローブ光L
pの反射光の強度I
rとの関係を示す図である。
図11に示すように、基板21の上面から反射膜23の反射面S
3までの距離d
xの変化に応じて明部に対応する極大値と暗部に対応する極小値が交互に現れる。
【0059】
従って、受熱部12bに、例えば、
図2に示すような同心円状の温度分布が形成されている場合、観測面S
2にはかかる温度分布に対応して明部と暗部が交互に出現する同心円状の明暗パターン(干渉縞)が現れる。
【0060】
受熱部12bの観測面S
2に現れる明暗パターン(干渉縞)は、レンズ14によってイメージセンサ15の受光面に結像される。イメージセンサ15は、画素を構成する複数の受光素子の各々によって受熱部12bに生じている明暗パターン(干渉縞)を撮像して観測対象物の熱画像を構築して熱画像の画像データを生成する。この画像データを図示しない表示装置を用いて再生することにより、観測対象物の熱画像を観測することが可能となる。
【0061】
図12は、上記した受熱部の構成を改変した変形例に係る受熱部12cの構成を示す断面図である。受熱板12cは、バイメタル構造の反射膜23cを有する点が上述の受熱板12bと異なる。すなわち、反射膜23cは、比較的線膨張係数の高い金属(例えば亜鉛など)からなる第1の金属膜25と比較的線膨張係数の低い金属(例えばインバーなど)からなる第2の金属膜26とを積層して構成されている。このように反射膜23bをバイメタル構造とすることにより反射膜23c自体が温度変化に応じて変形するので、反射膜23cの温度変化に伴う変形量(すなわち反射面S
3の高さ方向の変位量)をより大きくすることができる。従って、受熱部12c内を透過するプローブ光L
pの光路長差を大きくすることができるので、赤外線の検出感度を高めることが可能となる。
【0062】
以上の説明から明らかなように、本発明の第2の実施形態に係る赤外線検出装置によれば、受熱部12b(12c)に赤外線を照射して温度変化を生じさせることにより反射膜23に受熱面S
1の温度分布に対応した変形が生じる。この状態で受熱部12b(12c)にプローブ光L
pを照射することにより反射膜23(23c)の変形に伴う光路長差に起因して明暗パターン(干渉縞)が現れる。すなわち、受熱部12b(12c)は、受熱面S
1における温度分布に対応するように受熱部12b(12c)を透過するプローブ光L
pの光路長を変化させ、これによって明暗パターン(干渉縞)を生じさせる。このように、受熱部12b(12c)に照射される赤外線が明暗パターン(干渉縞)として可視化されるので、熱源および熱源の温度分布を検出することが可能となる。本発明の第2の実施形態に係る赤外線検出装置によれば、従来のサーモグラフィ装置に用いられている高価なマイクロボロメータや冷却装置等を用いることなく熱画像を形成することが可能となる。すなわち、比較的簡便な構成で赤外線を検出して熱画像を形成することができるので、従来のサーモグラフィ装置に対して大幅なコストダウンを実現することが可能となる。
【0063】
なお、
図5に示される赤外線検出装置1aの温度センサ16および温度推定部17を第2の実施形態に係る赤外線検出装置と組み合わせて熱源の温度を推定することも可能である。また、
図7に示される赤外線検出装置1bの構成を第2の実施形態に係る赤外線検出装置に適用して熱源までの距離を測定することも可能である。
【0064】
(第3の実施形態)
以下に、本発明の第3の実施形態に係る赤外線検出装置について説明する、本発明の第3の実施形態に係る赤外線検出装置は、受熱部の構成が、上記した本発明の第1の実施形態に係る受熱部12と異なる。以下において、本発明の第3の実施形態に係る受熱部の構成について詳述する。
図13は、本発明の第3の実施形態に係る受熱部12dの構成を示す断面図である。
【0065】
基板層31は、観測用光源13から出射されるプローブ光L
pに対して透過性を有するガラスや樹脂などにより構成される。基板層31の上面には、プローブ光L
pの波長よりも短い周期で形成された凹凸構造からなる回折格子が形成されている。回折格子は、例えば、公知のフォトリソグラフィ技術、電子線リソグラフィ技術、ナノインプリント技術などの微細加工技術を用いて基板層31表面に数百nm周期で突起や穴などの構造物を形成することにより作製することができる。基板層31の下面は、イメージセンサ15によって撮像される観測面S
2とされる。
【0066】
中間層32は、基板層31の屈折率とは異なる材料によって構成される。中間層32の材料としては温度変化に対する屈折率変化の割合が比較的大きい液晶が好適である。中間層32は、基板層31の表面に形成された凹凸構造と密着するように基板層31上に積層される。これにより、中間層32と基板層31との界面において屈折率が互いに異なる材料がプローブ光L
pの波長よりも短い周期で並んだフォトニック結晶が構成される。なお、中間層32は、基板層31の屈折率と異なるガラスや樹脂などの固体材料により構成されていてもよい。
【0067】
吸熱板33は、中間層32上に設けられたガラスまたは樹脂などからなる板状部材である。吸熱板33の上面は、赤外線を吸収して温度上昇を生じさせる受熱面S
1となっている。なお、赤外線の吸収効率を高めるために、受熱面S
1に黒体スプレーなど用いて着色を施すこととしてもよい。また、吸収熱板33は、カーボンまたはカーボンブラックなどを用いて構成することとしてもよい。中間層32が液晶で構成される場合、吸熱板33は、液晶を封止する封止部材としても機能する。一方、中間層32が固体材料からなる場合、中間層32の表面を受熱面S
1とすることができ、この場合、吸熱板33を省略することができる。
【0068】
受熱部12d以外の他の構成部分は、上記した本発明の第1の実施形態に係る赤外線検出装置1と同様であるので、それらの説明は省略する。
【0069】
次に、上記した構成を有する受熱部12dを備えた本発明の第3の実施形態に係る赤外線検出装置による赤外線検出の原理について説明する。
【0070】
観測用光源13は、受熱部12dの観測面S
2に向けてプローブ光L
pを照射する。本実施形態に係る赤外線検出装置の各パラメータがブラッグの法則に基づく下記の式(10)を満たすとき、プローブ光L
pは、基板層31と中間層32との界面に形成された回折格子において回折され、観測面S
2において回折光を観測することができる。一方、式(10)の条件が満たされない場合には、回折格子において回折が生じないので、観測面S
2において回折光を観測することはできない。
【0072】
式(10)において、nは正の整数、λはプローブ光L
pの波長、cは回折格子の光学的な周期、θはプローブ光L
pの光線と回折格子形成面とのなす角である。なお、観測用光源13と受熱部12dとの距離を十分確保することによりプローブ光L
pは実質的に平行光とみなすことができる。θを厳密に一定に揃えるために、観測用光源13の前方にコリメータレンズを設けることとしてもよい。
【0073】
プローブ光L
pの照射角度(すなわちθ)は、例えば、常温下における回折格子の光学的周期cにおいて式(10)を満たすように設定される。すなわち、常温下において受熱部12dに赤外線が照射されない場合には、回折格子の全面において回折が起こり、プローブ光L
pの回折光が受熱部12dの観測面S
2の全面において観測される。
【0074】
レンズ11を介して受熱部12dの受熱面S
1に赤外線が照射されると吸熱板33は、赤外線を吸収することにより局所的に温度が上昇する。中間層32は、吸熱板33の局所的な温度で加熱される。中間層32は、加熱された部分において屈折率が局所的に変化する。屈折率が変化した部分においては、回折格子の光学的な周期cが変動することとなるので、当該部分においては式(10)を満たさなくなり、プローブ光L
pの回折は生じない。すなわち、受熱部12dの温度分布に対応したダークスポットが観測面S
2に現れる。
【0075】
図14は、θとλが一定である場合における回折格子の光学的周期cと回折光の強度I
dとの関係を示す図である。
図14に示すように、回折格子の光学的周期cがある一定の値をとる場合にのみ、高い強度の回折光が得られることが理解できる。すなわち、赤外線の照射によって中間層32の屈折率に局所的な変動が生じた場合には、当該部分において回折格子の光学的周期が変動して回折の条件を満たさなくなるので、赤外線が照射された部分をダークスポットとして検出することが可能となる。
【0076】
受熱部12dの観測面S
2に現れるダークスポット(明暗パターン)は、レンズ14を介してイメージセンサ15の受光面に結像される。イメージセンサ15は、画素を構成する複数の受光素子の各々によって受熱部12dの観測面S
2に現れるダークスポット(明暗パターン)を撮像して画像データを生成する。この画像データを図示しない表示装置を用いて再生することにより、観測対象物の熱画像を観測することが可能となる。
【0077】
以上の説明から明らかなように、本発明の第3の実施形態に係る赤外線検出装置によれば、赤外線の照射部において回折格子の光学的な周期に変動が生じて、赤外線の照射部がダークスポットとして現れるので、赤外線が可視化されて熱源および熱源の温度分布を検出することが可能となる。本発明の第3の実施形態に係る赤外線検出装置によれば、従来のサーモグラフィ装置に用いられている高価なマイクロボロメータや冷却装置等を用いることなく熱画像を形成することが可能となる。すなわち、比較的簡便な構成で赤外線を検出して熱画像を形成することができるので、従来のサーモグラフィ装置に対して大幅なコストダウンを実現することが可能となる。また、本発明の第3の実施形態に係る赤外線検出装置によれば、上記した第1および第2の実施形態に係る赤外線検出装置よりも高感度で赤外線を検出することが可能となる。また、液晶を用いて回折格子を形成することにより、わずかな温度変動でも回折格子の光学的周期を大きく変動させることができるので、赤外線の検出感度をより高めることができる。