特許第6108183号(P6108183)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6108183
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】視床下部を刺激するためのデバイス
(51)【国際特許分類】
   A61H 21/00 20060101AFI20170327BHJP
   A61H 23/04 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
   A61H21/00
   A61H23/04
【請求項の数】15
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2014-546550(P2014-546550)
(86)(22)【出願日】2012年12月14日
(65)【公表番号】特表2015-501708(P2015-501708A)
(43)【公表日】2015年1月19日
(86)【国際出願番号】EP2012075642
(87)【国際公開番号】WO2013087886
(87)【国際公開日】20130620
【審査請求日】2015年12月3日
(31)【優先権主張番号】61/576,848
(32)【優先日】2011年12月16日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】11194010.2
(32)【優先日】2011年12月16日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509315412
【氏名又は名称】コーデイト・メディカル・アクチエボラーグ
【氏名又は名称原語表記】Chordate Medical AB
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(72)【発明者】
【氏名】フレドリック・ジュウト
(72)【発明者】
【氏名】ヤン−エリック・ジュウト
【審査官】 増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−526621(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0243172(US,A1)
【文献】 国際公開第2011/109080(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 21/00
A61H 23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鼻腔の後部の組織に当接して、鼻腔の後部に振動を与えることにより視床下部を刺激するように配置された刺激部を備えた膨張可能な刺激部材と;
該刺激部材を膨張させるように配置された膨張部材とを備え、該膨張部材が、
少なくとも部分的に該刺激部材内に配置された、該刺激部材と流体連通するように配置された複数の開口部を備える管状構造であって、該管状構造が、管状構造の長手方向に実質的に垂直な第1の方向へ曲げ剛性を有し、該曲げ剛性が、第1の方向および管状構造の長手方向に実質的に垂直な第2の方向への曲げ剛性とは異なる該管状構造と;
該管状構造と流体連通して配置された、管状で該管状構造の直径の2〜4倍の直径を有する細長構造とを備え、
デバイスは、
鼻腔の前部の組織に当接するように配置され、該細長構造の一部と該刺激部材の一部とから形成される保持部と、
該膨張部材に接続され、該刺激部材を振動させるように配置された振動部材とをさらに備える、被験者の視床下部を刺激するためのデバイス。
【請求項2】
刺激部材は、鼻腔の後部の組織に、70〜120mbarの圧力で当接するように配置される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
刺激部材は、40〜100Hzの周波数の振動を鼻腔の後部に与えるように配置される、請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
膨張部材の管状構造は一端部に1つの開口部を有し、前記1つの開口部が刺激部材内に、刺激部材の内部と流体連通して自由に配置される、請求項1〜3のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項5】
複数の開口部は管状構造の長手方向に沿って分散される、請求項1〜4のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項6】
刺激部材を鼻腔に導入するための、鼻腔に対する刺激部材の好ましい角度方向を示す可視マークをさらに備える、請求項1〜5のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項7】
膨張部材は、刺激部材に流体を供給するためのような、刺激部材と流体連通するように配置された少なくとも1つのチャネルを備える、請求項1〜6のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項8】
刺激部材は、該刺激部材を被験者の鼻腔に導入可能な第1の状態と、該刺激部材が鼻腔の後部の組織に当接するようになる体積まで刺激部材が膨張した第2の状態とに配置可能である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のデバイスと;
視床下部の活動のレベルを反映する入力信号の時間サンプルを取得するように配置されたデータ収集モジュールと;
入力信号の少なくとも1つの前に取得された時間サンプルを記憶するように配置されたメモリ・モジュールと;
入力信号および前に取得された時間サンプルを処理するように配置された解析モジュールと;
デバイスの刺激部材により鼻腔の後部に与えられる振動の周波数を調節するように配置された周波数調整モジュール;
該刺激部材により鼻腔の後部に与えられる振動の振幅を調節するように配置された振幅調整モジュール;および
該刺激部材が鼻腔の後部の組織に当接する圧力を調節するように配置された圧力調整モジュールの少なくとも1つとを備える、被験者の鼻腔の後部に振動を与えることにより被験者の視床下部を刺激するためのシステム。
【請求項10】
解析モジュールは、視床下部の活動のレベルを反映する入力信号が第1の閾値に達したときに、鼻腔の後部の刺激を終了させるように配置される、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
解析モジュールは、視床下部の活動のレベルを反映する入力信号が第2の閾値に達したときに、第1の鼻腔内の刺激を終了させて、第2の鼻腔の後部の刺激を提案するように配置される、請求項9または10に記載のシステム。
【請求項12】
前記メモリ・モジュールは、入力信号の前に取得された時間サンプルの履歴、ならびに、履歴内の入力信号の前に取得された値のそれぞれに関連する印加周波数、印加振幅、および印加圧力の少なくとも1つを記憶するようにさらに配置される、請求項9〜11のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項13】
解析モジュールは、入力信号の前に取得された時間サンプルを入力信号の後で取得された値と比較し、入力信号および前に取得された時間サンプルの差が閾値許容範囲にある場合に、周波数調整モジュール、振幅調整モジュール、および圧力調整モジュールの少なくとも1つに、周波数、振幅、および圧力の少なくとも1つを調節するよう指示するようにさらに配置され、前記調節は、
ランダム調節と;
所望の活動レベル変化と周波数、振幅、および圧力の少なくとも1つとの相関を含む、予めプログラムされたルックアップ・テーブルから計算された調節と;
解析モジュールにより特定された相関を含むデータベースから計算された調節とから選択された方法を使用して行われる、請求項9〜12のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項14】
解析モジュールは、最大刺激期間に達したときに刺激を終了させるようにさらに配置される、請求項9〜13のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項15】
複数の幾何学的に異なる刺激部材をさらに備える、請求項9〜14のいずれか1項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の鼻腔の後部に振動を与えることにより、被験者の視床下部の活動を刺激するためのデバイスおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
視床下部は、視床下に位置し、種々の機能を有する複数の小核を含む脳の一部である。視床下部の最も重要な機能の1つは、下垂体(脳下垂体)を介して神経系と内分泌系とを連結させることである。視床下部は、しばしば視床下部放出ホルモンと呼ばれるある神経ホルモンを分泌することによって、ある代謝過程に影響を与え、この視床下部放出ホルモンは下垂体ホルモンの分泌を刺激または抑制する。また、視床下部は、卵巣、副甲状腺、および甲状腺等の他の腺を調整し、睡眠パターン、飲食、および発話をある程度制御する。さらに、視床下部は、体温、水分バランス、血糖、および脂質代謝の調整にも関与する。片頭痛、メニエール病、高血圧、群発頭痛、不整脈、ALS、過敏性腸症候群、睡眠障害、糖尿病、肥満、多発性硬化症、耳鳴り、アルツハイマー病、気分障害、不安障害、およびてんかん等の複数の疾患が、視床下部の機能障害に関連している。多くの場合、視床下部と当該疾患との関係は、十分にはわかっていない。加えて、前述した疾患の多くには、満足のいく治療法がない。
【0003】
たとえばメニエール病(MD)は、内耳に影響を及ぼす比較的まれな疾患である。この疾患は、一時的なめまい、変動する聴力低下、耳閉感(aural pressure)、および耳鳴りを特徴とする。MDは、深刻な聴力低下を最も多く引き起こす進行性疾患である。耳を保護する(otoprotective)介入治療は現在存在せず、急性期を過ぎた治療には、化学的処置または外科的に破壊的な(surgically destructive)処置が使用される。
【0004】
ホートン頭痛とも呼ばれる群発頭痛(CH)は、視床下部との関連が示唆され、良好な治療法のない疾患の別の例である。CHは、原発性頭痛疾患のうち最も深刻な疾患である。CHは、鼻閉、眼瞼下垂、流涙、および目の充血等の同側自律神経徴候を多くの場合に伴う、反復性の短時間の発作または片側眼窩周囲の激しい痛みを特徴とする。同側自律神経徴候は、自律神経機能障害の徴候であり、同側の流涙、目の充血、および鼻閉は副交感神経亢進の徴候であり、眼瞼下垂および瞳孔縮小の組合せは、交感神経機能低下の徴候である。新しい外科的治療法が試験されている。しかしながら、これらの治療は侵襲的で、重い合併症を引き起こすおそれがある。CHの病態生理は現在わかっていないが、視床下部および副交感神経系の関与が提示されている(非特許文献1参照)。
【0005】
視床下部の関与が示唆されている疾患のさらに別の例は、片頭痛である(非特許文献2参照)。片頭痛は、頭痛および感覚刺激に対する超感受性の発現を特徴とする、脳の複雑な多因子疾患である。片頭痛は原発性頭痛疾患の一種であり、前兆のない片頭痛と前兆のある片頭痛とに広く分類され得る。片頭痛の臨床的特徴は、副交感神経系の機能障害によって生じると考えられる。
【0006】
患者の全身的作用によって治療を行う複数の公知のデバイスがある。しかしながら、たとえば鼻腔で使用するデバイスは、多くの場合、鼻粘膜のうっ血を除去する等の局所的効果を達成することを目的としており、化学物質と組み合わせて使用されることが多くなり得る。鼻粘膜への局所的効果を達成するためのデバイスの一例が、特許文献1に開示されている。
【0007】
体腔内の機械振動によって身体機能に影響を与えるデバイスも公知である。特許文献2には、基幹脳の活動を増加させるためのシステムが開示されている。開示されたシステムは、第1および第2の振動印加デバイスを備え、第1の振動印加デバイスは、可聴範囲内の周波数成分を有する振動を生体の聴覚系に与える。第2の振動印加デバイスは、可聴範囲を超える超高周波数成分を有する振動を鼻腔等の聴覚系以外の領域に与える。
【0008】
特許文献3には、神経自律神経型(neuroautonomic form)の血管運動神経性鼻炎を治療する方法が開示される。より詳細には、方法は、下鼻甲介および中鼻甲介の前1/3の、50Hzの周波数での1.5〜2分間の振動マッサージを、手、顎、および鼻近くに位置する、ある生物活性点(BAP)の振動マッサージと組み合わせて行うことを含む。振動マッサージを行うために使用する機器は、ボールおよび先端を有する振動マッサージ機器として記載される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2008/138997
【特許文献2】米国特許出願第2008/0281238号
【特許文献3】RU2199303
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Leoux E他、Orphanet J of Rare Diseases;2008、3:20
【非特許文献2】Alstadhaug KB、Cephalalgia;2009、29:809
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、視床下部の機能障害に関連する疾患を治療するための新規な方法およびデバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様において、被験者の鼻腔の後部に振動を与えることにより、視床下部の活動を刺激するように配置された膨張可能な刺激部材と;刺激部材を膨張させるように配置された膨張部材であって、少なくとも部分的に刺激部材内に配置された、刺激部材と流体連通するように配置された複数の開口部を有する管状構造を備える膨張部材と;膨張部材に接続され、刺激部材を振動させるように配置された振動部材とを備える、被験者の視床下部を刺激するためのデバイスが提供される。
【0013】
第1の態様によるデバイスを用いた鼻腔の後部の振動刺激は、これにより、視床下部の活動に影響を与える。視床下部の活動は、異なる定性的および/または定量的方法によって直接または間接的に測定され得る。特に、たとえば血流、酸素消費、および代謝活動等の生理学的パラメータの変化は、視床下部の活動のレベルの変化に相関する。したがって、このような生理学的パラメータを、視床下部の活動のレベルとして使用することができる。視床下部の活動を機能的神経イメージング等により直接モニタできるようにするレベルもあり;異なる身体反応、たとえば瞳孔の大きさおよび心臓の活動等により間接的にモニタできるようにするレベルもある。
【0014】
第1の態様によるデバイスを用いて治療される患者の現在の健康状態に応じて、刺激は、視床下部の活動のレベルを多少異なって変更することができる。たとえば、視床下部の異常な活動に関連する病状を持つ患者を第1の態様によるデバイスを用いて治療する場合、刺激によって視床下部の活動が正常になり得る。この状況における正常化とは、視床下部の活動が周囲脳組織の活動に匹敵する状態を指すことができる。片頭痛発作中の片頭痛患者には、たとえば、視床下部における高い酸素消費が確認されている。第1の態様によるデバイスを用いた刺激により、患者の視床下部の酸素消費を低下させ;片頭痛発作を終わらせることにより、患者を正常かつ健康な状態に戻すことができる。
【0015】
第1の態様によるデバイスは、鼻腔の後部に振動を与えるように配置される。より詳細には、第1の態様のデバイスは、下鼻甲介、中鼻甲介および/または上鼻甲介の一部、たとえば下鼻甲介および中鼻甲介の後ろ2/3等の、鼻腔の骨構造に振動刺激を与えるように配置され得る。中鼻甲介および上鼻甲介は頭蓋底に付着しているため、中鼻甲介および上鼻甲介に与えられる振動が、視床下部に機械的に伝達され得る。
【0016】
第1の態様によるデバイスは、鼻腔の後部の振動刺激に特に適合される。膨張部材の管状構造は、刺激部材の内部と流体連通するための複数の開口部を備える。鼻腔の複雑な解剖学的構造のために刺激部材の長さに沿った場所に閉塞がある場合でも、これらの開口部により、刺激部材は、鼻腔の後部に位置するときに結果的に確実に膨張する。複数の開口部は、鼻腔の後部での刺激部材の正確な挿入および位置決めを容易にする可撓性を有する管状構造をさらに提供する。好ましくは、刺激部材が非膨張状態で鼻腔に導入される。
【0017】
一実施形態では、膨張部材が管状構造と流体連通して配置された細長構造をさらに備え、好ましくは、細長構造が刺激部材の実質的に外側に配置される。
【0018】
一実施形態では、刺激部材が鼻腔の後部の組織に当接するように配置される。したがって、刺激部材は、鼻腔の後部の組織に直接接触する。さらに、刺激部材は、鼻腔の後部の組織に、たとえば約70〜110mbar、約80〜110mbar、約90〜105mbar、およびたとえば約75〜100mbarのような約70〜120mbarの圧力で当接するように配置され得る。
【0019】
別の実施形態では、刺激部材が、40〜100Hzの周波数の振動を鼻腔の後部に与えるように配置され得る。したがって、振動刺激が、1つの選択された周波数、たとえば68Hz、または約50〜80Hz、約50〜75Hz、約50〜70Hz、約55〜75Hz、約60〜75Hz、および約60〜70Hz等の所定の周波数間隔内の複数の周波数で実行され得ることを理解されたい。
【0020】
一実施形態では、刺激部材が、視床下部に影響を与えるが鼻腔には影響を与えないように配置される。したがって、デバイスは、振動刺激を鼻腔の後部に与えて視床下部を選択的に刺激することができるが、たとえば、被験者の鼻腔の前部での振動刺激の影響が全く、または最小限しか確認することができない。このような選択的な視床下部刺激は、たとえば、頭蓋、たとえば中鼻甲介および/または上鼻甲介の一部に接続された骨構造に振動刺激を与えることによって達成され得る。
【0021】
一実施形態では、管状構造の長手方向に実質的に垂直な第1の方向への管状構造の曲げ剛性が、第1の方向および管状構造の長手方向に実質的に垂直な第2の方向への曲げ剛性とは異なる。したがって、管状構造は、矢状面における鼻腔の、時には不規則な形状に従うのに十分な弾性を有する。同時に、鼻への導入中に誤って横方向に曲がることが避けられる。
【0022】
一実施形態では、膨張部材の管状構造が一端部に1つの開口部を有し、前記1つの開口部が刺激部材内に、刺激部材の内部と流体連通して自由に配置される。端部開口部の自由配置によって、鼻腔内の敏感な組織を傷つけるおそれのある突出部分を避けることにより刺激部材の平滑表面の維持を容易にすることができる。
【0023】
一実施形態では、膨張部材の管状構造の前記端部から刺激部材内の内壁までの距離が、約1〜約10mmの範囲にある。この距離は、刺激部材が膨張するときに実質的に変化しないとされ得る。刺激部材が弾性である一部の例では、この距離が、以下で第2の状態とも呼ばれる膨張状態に刺激部材が配置されるときの、刺激部材の内壁までの距離を指すことができる。
【0024】
一実施形態では、複数の開口部が管状構造の長手方向に沿って分散される。複数の開口部は、たとえば、長手方向に沿って管状構造の対向側部に交互に配置され得、長手方向に垂直な管状構造の横断面が、両側の1つの開口部のみに交差する。管状構造の長手方向に沿って分散された開口部の数は、5等の4〜6とすることができる。楕円形切欠きであり得る複数の開口部は、約1〜約5mmの範囲の大きさを独立して有することができる。したがって、すべての開口部が同一の大きさまたは形状を有する必要はない。
【0025】
一実施形態では、膨張部材の管状構造が、約2〜約4mm等の約1〜約5mmの範囲の外径を有する。約5mm以下の直径により、鼻孔および鼻腔への導入ならびに鼻腔の後部での位置決めがさらに容易になり得る。
【0026】
一実施形態では、膨張部材の細長構造は管状で、膨張部材の管状構造の直径の2〜4倍の直径を有する。したがって、振動刺激中に主に鼻腔内に位置することになる膨張部材の部分である管状構造は、主に鼻腔の外側に位置することになる膨張部材の部分である細長構造よりも小さい直径を有する。
【0027】
一実施形態では、刺激部材内に配置される前記管状構造の部分の長さが、約40〜約60mmである。この管状構造の長さにより、鼻腔の後部への刺激部材の挿入および位置決めがさらに容易になり得る。
【0028】
一実施形態では、約5〜約15mmの長さを有する、膨張部材の細長構造の部分が、刺激部材内に配置される。この細長構造の部分は、管状構造の末端、好ましくは管状構造の端部を囲むことができる。細長構造のこの部分の周りに配置された刺激部材は、好ましくは、デバイスが使用されているときに、わずかにのみ膨張することができる。
【0029】
一実施形態では、デバイスは、刺激部材を鼻腔に導入するための、鼻腔に対する刺激部材の好ましい角度方向を示す可視マーク(visual marking)をさらに備える。このような可視マークにより、鼻腔への導入が容易になる。
【0030】
一実施形態では、刺激部材が、鼻腔の後部の組織に当接するように配置された刺激部と;鼻腔の前部の組織に当接するように配置された保持部とをさらに備え、刺激部が、鼻腔の後部に振動を与えることにより視床下部を刺激するように配置される。したがって、刺激部は、視床下部の刺激を達成するために鼻腔の後部に振動を与えるように配置され、保持部は、周囲組織に振動を与えることなく、振動刺激中に鼻腔内の固定位置で刺激部材を保持するように配置され得る。
【0031】
一実施形態では、保持部は、刺激部材内に配置された膨張部材の細長構造の部分を含む。したがって、保持部は、少なくとも細長構造の一部および刺激部材の一部を含むことができる。この細長構造の部分は、鼻孔等の鼻腔の外側部分で刺激部材の保持を有効にする大きさ、すなわち直径を有することができる。あるいは、少なくとも部分的に膨張した刺激部材と組み合わせた細長構造により、鼻孔等の鼻腔の外側部分での保持を有効にする。
【0032】
一実施形態では、膨張部材が、刺激部材に流体を供給するためのような、刺激部材と流体連通するように配置された少なくとも1つのチャネルを備える。膨張部材が管状構造および細長構造を備えた実施形態では、チャネルが2つの構造を互いに、かつ刺激部材の内部と流体接続する。
【0033】
一実施形態では、刺激部材が、刺激部材を被験者の鼻腔に導入可能な第1の状態と、刺激部材が鼻腔の後部の組織に当接するようになる体積まで刺激部材が膨張した第2の状態とに配置可能である。
【0034】
本発明の他のデバイス態様は、被験者の鼻腔の後部に振動を与えることにより視床下部の活動を刺激するように配置された刺激部材を備える、被験者の視床下部を刺激するためのデバイスを含む。
【0035】
さらなるデバイス態様は、被験者の鼻腔の後部に振動を与えることにより、視床下部の活動を刺激するように配置された膨張可能な刺激部材と、刺激部材を膨張させるように配置された膨張部材とを備え、膨張部材が、少なくとも部分的に刺激部材内に配置された、刺激部材と流体連通するように配置された少なくとも1つの開口部を有する管状構造と、管状構造と流体連通して配置された、管状で膨張部材の管状構造の2〜4倍の直径を有する細長構造とを備える、被験者の視床下部を刺激するためのデバイスを提供する。
【0036】
一実施形態では、デバイスが、刺激部材を振動させるように配置された振動部材をさらに備え、刺激部材が膨張可能であり、刺激部材を被験者の鼻腔に導入可能な第1の状態と、刺激部材が鼻腔の後部の組織に当接するような体積まで刺激部材が膨張した第2の状態とに配置可能である。第1の状態では、刺激部材が、人の鼻孔および鼻腔への導入を容易にするように、実質的に非膨張状態に配置される。第2の状態では、刺激部材が、鼻腔の後部の周囲組織に直接接触するような体積まで膨張される。膨張は、たとえば、刺激部材を第2の状態まで膨張させるように配置された膨張部材によって行われ得る。この膨張は、刺激部材に供給される流体によって達成され、したがってこのような流体を取り囲むように配置され得る。刺激部材は、鼻腔の後部で膨張すると、振動部材により振動される。振動は、たとえば流体を刺激部材の内外へ汲み出すことにより、組織に伝達され得る。
【0037】
一実施形態では、刺激部材が膨張可能であり、視床下部を刺激するためのデバイスが、刺激部材を膨張させるように構成された膨張部材をさらに備える。膨張部材は、好ましくは、流体を刺激部材に供給することにより前記膨張を達成するための少なくとも1つのチャネルを備える。刺激部材は、たとえば膨張部材を部分的に囲むように配置され、膨張部材が刺激部材内に少なくとも部分的に配置されるようにする。
【0038】
本発明の一態様に関して開示された実施形態は、必要に応じて、本発明の他の態様にも関連することを理解されたい。
【0039】
別の態様では、第1の態様等の本発明のデバイス態様によるデバイスと;視床下部の活動のレベルを反映する入力信号の時間サンプルを取得するように配置されたデータ収集モジュールと;入力信号の少なくとも1つの前に取得された時間サンプルを記憶するように配置されたメモリ・モジュールと;入力信号および前に取得された時間サンプルを処理するように配置された解析モジュールと;デバイスの刺激部材により鼻腔の後部に与えられる振動の周波数を調節するように配置された周波数調整モジュール;刺激部材により鼻腔の後部に与えられる振動の振幅を調節するように配置された振幅調整モジュール、および刺激部材が鼻腔の後部の組織に当接する圧力を調節するように配置された圧力調整モジュールの少なくとも1つとを備える、被験者の鼻腔の後部に振動を与えることにより被験者の視床下部を刺激するためのシステムが提供される。
【0040】
本発明の他の態様に関して開示された実施形態は、必要に応じて、本発明のシステム態様にも関連することを理解されたい。したがって、システムは、たとえば、デバイス態様において定義された個々の実施形態によるデバイスを備えることができる。
【0041】
時間サンプルは、特定の時点の少なくとも1つの測定値または記録値と理解すべきである。時間サンプルは、入力信号の値、刺激部材により与えられる振動の周波数、刺激部材により与えられる振動の振幅、および/または刺激部材が組織に当接する圧力、ならびに治療開始から経過した時間の1つまたはそれ以上を含むことができる。
【0042】
前述したシステム態様によるシステムにおいて、パラメータ振動周波数、振動振幅、および当接圧力の少なくとも1つが独立して調整され得る。振動周波数および圧力の例示的な範囲が、デバイス態様に関連して開示される。システムの調整モジュールは、手動で、または制御ユニットにより制御され得る。システムは、たとえば、周波数調整モジュール、振幅調整モジュール、および圧力調整モジュールから選択された、少なくとも2つの調整モジュールを備えることができる。別の例では、システムが、周波数調整モジュール、振幅調整モジュール、および圧力調整モジュールを備える。
【0043】
一実施形態では、解析モジュールが、視床下部の活動のレベルを反映する入力信号が第1の閾値に達したときに、鼻腔の後部の刺激を終了させるように配置される。したがって、解析モジュールは、入力信号を第1の閾値と比較して、第1の閾値を超えたときに、鼻腔内の刺激を終了させるよう命令を発する。これにより、閾値への到達は、視床下部の刺激の所望のレベルの達成を表し、刺激を終了させるべきであることを示す。第1の閾値は、絶対的または相対的に予め判定され、または計算され得る。たとえば、視床下部の活動の第1の閾値は、視床下部周囲の脳の部分の活動のレベルに対応するものとして、相対的または絶対的に定義され得る。
【0044】
しかしながら、一部の患者は、第2の鼻腔内に振動を与えることによる、さらなる視床下部の刺激を必要とする可能性がある。したがって、別の実施形態では、解析モジュールが、視床下部の活動のレベルが第2の閾値に達したときに、第1の鼻腔内での刺激を終了させて、第2の鼻腔の後部の刺激を提案するように配置される。第1の閾値と対照的に、第2の閾値は、刺激を第1の鼻腔内で終了させ第2の鼻腔内で継続すべきである、視床下部の活動のレベルを表す。したがって、第1の鼻腔内での刺激は、同一の鼻腔内における継続した刺激が患者にこれ以上利点を与えない飽和レベルに到達した可能性がある。このような場合、第2の閾値は、刺激を患者の第2の鼻腔内で継続すべきであることを示す。第1の閾値と同様に、第2の閾値は、視床下部の活動のレベルの変化率のあるレベルを反映することができる。
【0045】
一実施形態では、メモリ・モジュールが、入力信号の前に取得された時間サンプルの履歴、ならびに、履歴内の入力信号の前に取得された値のそれぞれに関連する印加周波数、印加振幅、および印加圧力の少なくとも1つを記憶するようにさらに配置される。前に取得された時間サンプルの履歴は、振動刺激中に連続して収集された複数の時間サンプルであってもよい。
【0046】
一実施形態では、解析モジュールが、前記履歴を処理し、入力信号の変化と周波数、振幅、および圧力の少なくとも1つとの相関を特定し、さらに前記相関を含むデータベースを作成するように、さらに配置される。処理は、入力信号のほぼ一定の値の期間の特定と、それに続く振動パラメータの1つまたはそれ以上の調節および入力信号の対応する変化を含み得る。このような事象から、振動パラメータおよび入力信号の相関が特定され得る。このような相関の一例は、圧力が上昇するときの入力信号の増加である。これらの相関を記憶する例示的な方法は、現在の入力信号値、入力信号の所望の変化(たとえば増加または減少)、および現在の振動パラメータを考慮して振動パラメータの必要な調節を調べることのできるデータベースにあるであろう。
【0047】
別の代替例は、たとえば、入力信号の2つの取得された個々の値または時間サンプルを比較することにあり得る。したがって、別の実施形態では、解析モジュールが、入力信号を入力信号の前に取得された値または時間サンプルと比較し、入力信号および前に取得された値もしくは時間サンプルの差が閾値許容範囲にある場合に、周波数調整モジュール、振幅調整モジュール、および圧力調整モジュールの少なくとも1つに、周波数、振幅、および圧力の少なくとも1つを調節するよう指示するように配置される。この閾値許容範囲は、ある刺激設定についての視床下部の活動のレベルを反映する入力信号の最小の必要な変化として定義され得る。理解できるように、視床下部の活動に対する特定の所望の効果に応じて、閾値許容範囲を多少異なって定義してもよい。閾値許容範囲は、たとえば、被験者の視床下部の刺激中に予め判定され、計算され、または導き出されてもよく、絶対的または相対的に表されてもよい。
【0048】
前もしくは後の値または時間サンプルは、たとえば、入力信号の2つの連続して取得された値であり得る。あるいは、前に取得された値は、たとえば、最後のn個(nは整数)のサンプルの平均として;前に取得されたすべての値の加重平均として、または前および後に取得された値の関数として定義され得る。(1つまたは複数の)前の値は、メモリ・モジュールに記憶される。
【0049】
前および後に取得された値の差が小さすぎる場合、または閾値許容範囲内にあるか、誤った符号を有する場合、周波数、振幅、および圧力の少なくとも1つが調節される。前記パラメータの調節は、たとえば、入力信号の差が所望通りになるまでランダムに、または予め定義された格子からの設定を適用することにより、もしくは発見的探索を適用することにより体系的に行うことができる。あるいは、前のパラメータ設定を、メモリ・モジュールの対応する取得値と、視床下部の活動の変化が最も多く特定され得る多次元パラメータ空間の方向と共に記憶することができる。続いて、特定された方向に沿った新しいパラメータ設定を試験することができる。一実施形態では、ランダム調節と;所望の活動レベル変化と周波数、振幅、および圧力の少なくとも1つとの相関を含む、予めプログラムされたルックアップ・テーブルから計算された調節と、解析モジュールにより特定された相関を含むデータベースから計算された調節とから選択された方法を使用して、調節を行うことができる。前記パラメータをこのような構造化された方法で調節することにより、視床下部の活動の所望のレベルの達成が簡単になり、最適化され得る。
【0050】
一実施形態では、解析モジュールは、入力信号が視床下部の活動の所望のレベルを反映する所望値に近付いているか否かを判定するようにさらに配置され、前記判定が、入力信号および所望値の差を、前に取得された値または時間サンプルおよび所望値の差と比較す
ることを含み、かつ目標レベルに近付いていないと判定された場合に、周波数調整モジュール、振幅調整モジュール、および圧力調整モジュールの少なくとも1つに、ランダム調節と;予め定義された格子からの設定を適用することにより計算された調節と、発見的探索を適用することにより計算された調節と、所望の活動レベル変化と周波数、振幅、および圧力の少なくとも1つとの相関を含むルックアップ・テーブルから計算された調節と;解析モジュールにより特定された相関を含むデータベースから計算された調節とから選択された方法を使用して、周波数、振幅、および圧力の少なくとも1つを調節するよう指示するように配置される。このように、治療を人の個人差に適合させることができる。1人の患者の所望の視床下部の活動を達成する振動パラメータは、別の患者に対して調節されなければならない場合がある。この手順を自動化すれば、振動刺激治療を行うスタッフの教育の必要性を減らすことができる。さらに、有効な振動刺激治療についてのさらなる知識が時間と共に蓄積されて、治療を継続的に改善することができる。
【0051】
一実施形態では、解析モジュールが、最大刺激期間に達したときに刺激を終了させるようにさらに配置される。最大刺激時間は、どの活動レベルが達成されているかに関係なく、その後で刺激が終了され最大期間として定義され得る。これは、予想通りに治療に反応せず特別な注意が必要な患者を検出する方法として見ることができる。システムは、医師の介入なしで患者の自動治療を良好に施すことができる。訓練を受けた看護師または同様のスタッフが、治療開始のための工程を行うことができる。しかしながら、特定の最大刺激期間内に所望の活動レベルを達成できない場合がある。このような場合には、自動治療セッションを終了させることができ、より高度な訓練を受けた医療専門家が、手動で制御された治療を継続するか、または他の行為を行うことができる。デバイス態様に関連して説明したように、視床下部の活動の異なる可能なレベルまたは推定値がある。システム態様の一実施形態では、視床下部の活動のレベルが、機能的神経イメージングにより取得される。これは、データ収集モジュールが受ける入力信号が、機能的神経イメージングにより測定された視床下部の活動をこうして反映することを意味する。より詳細には、視床下部の活動のレベルを反映する入力信号が、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)により測定された酸素消費、陽電子断層撮影法(PET)により測定された代謝活動、脳磁気図記録法(MEG)により測定された磁気信号、および脳波検査法(EEG)により測定された電気信号からなる群から選択され得る。このようなレベルおよびモニタ方法は、視床下部の活動の直接的なレベルの例である。新規の改良された方法およびデバイスが、機能的神経イメージングの分野において開発され、本発明の態様で使用可能となることが予想される。
【0052】
あるいは、視床下部の活動のレベルを反映する入力信号が、たとえば心拍数と;瞳孔の大きさと;体温、痛覚、および血圧とからなる群から選択されたレベル等の、視床下部の活動を反映する異なる身体反応に基づいていてもよい。このようなレベルは、一般に、視床下部の活動の間接的なレベルと考えられる。痛覚は、患者が経験する痛みの主観的または客観的な推定と理解すべきである。
【0053】
別の実施形態では、システムが、複数の幾何学的に異なる刺激部材を備える。複数の刺激部材は、たとえば、形状ならびに長さ、幅および/または直径が異なっていてもよい。刺激部材を複数の刺激部材から選択して使用することにより、鼻の解剖学的構造の差による刺激の差が減少する。システムが解析モジュールを備える実施形態では、このようなモジュールが、視床下部の刺激によって受ける反応を予想反応範囲と比較するようにさらに配置され得る。受ける反応が予想範囲に対応しない場合、解析モジュールは、それに応じて、たとえば、操作者に刺激部材を交換するよう促すことができる。
【0054】
他のシステム態様では、本発明の第1の態様により定義されたデバイスと;視床下部の活動のレベルを反映する入力信号を取得するように配置されたデータ収集モジュールと;第1の態様によるデバイスの刺激部材により鼻腔の後部に与えられる振動の周波数を調節するように配置された周波数調整モジュール;刺激部材により鼻腔の後部に与えられる振動の振幅を調節するように配置された振幅調整モジュール、および刺激部材が鼻腔の後部の組織に当接する圧力を調節するように配置された圧力調整モジュールの少なくとも1つとを備える、被験者の視床下部を刺激するためのシステムが提供される。
【0055】
一実施形態では、システムが、視床下部の活動のレベルを反映する入力信号を解析するように配置された解析モジュールをさらに備え、視床下部の活動のレベルの解析に基づく解析モジュールが、周波数調整モジュール、振幅調整モジュール、および圧力調整モジュールの少なくとも1つに、周波数、振幅、および圧力の少なくとも1つを調節するよう指示するように配置される。解析は、たとえば、所定の刺激期間後に、視床下部の活動のレベルを活動の目標レベルと比較すること、および活動の目標レベルが達成されない場合に前記パラメータの少なくとも1つを調節することを伴ってもよい。別の代替例は、たとえば、入力信号の2つの取得された個々の値を比較することにあってもよい。したがって、別の実施形態において、解析モジュールは、入力信号の前に取得された値を入力信号の後に取得された値と比較し、後に取得された値および前に取得された値の差が閾値許容範囲内にある場合に、調整モジュールに前述の通りに指示するように配置される。この閾値許容範囲は、ある刺激設定についての視床下部の活動のレベルを反映する入力信号の最小の必要な変化として定義され得る。理解できるように、視床下部の活動に対する特定の所望の効果に応じて、閾値許容範囲を多少異なって定義してもよい。閾値許容範囲は、たとえば、被験者の視床下部の刺激中に予め判定され、計算され、または導き出されてもよく、絶対的または相対的に表されてもよい。
【0056】
本発明のデバイスおよびシステム態様に関連して説明した実施形態および例は、必要に応じて、本発明の以下の方法態様に等しく関連するものであることを理解されたい。
【0057】
さらなる態様では、第1の態様によるデバイスの刺激部材を被験者の鼻腔に導入する工程と;鼻腔の後部の治療部位を選択する工程と;選択された治療部位の組織に当接するように刺激部材を配置する工程と;少なくとも1つの視床下部刺激周波数を選択する工程とを含む、被験者の視床下部の刺激を準備するための方法が提供される。理論上の推定および/または本発明による視床下部の刺激から前に収集されたデータに基づいて、刺激を準備する方法は、より効率的な視床下部の刺激を可能にするために、たとえば刺激部材の改良された位置決め、および視床下部への振動の伝達を行うことができる。これにより、治療期間を比較的短くすることができる。したがって、この方法により、被験者の治療法を準備し選択する。準備方法は、特定の患者についての第1の1回のみの治療、または第2のもしくはさらなる回の治療を準備することを目的とすることができる。方法が、特定の
患者についての第2のまたはさらなる回の治療を準備することに関する場合、視床下部の活動のレベル、および前回の治療中に使用され収集されたパラメータ等のデータが、第2のもしくはさらなる回の治療のパラメータの選択の基礎となり得る。
【0058】
鼻腔の後部の治療部位は、視床下部の振動刺激の効果を最大化するように選択され得る。治療部位の選択は、理論的なモデリング、特定の患者についての解剖学的詳細の知識、または特定の患者についての前回の治療の結果に基づくことができる。場合によって、骨構造のある部分、たとえば、鼻腔の後部の下鼻甲介および中鼻甲介の後ろ2/3等の下鼻甲介、中鼻甲介および/または上鼻甲介の一部が刺激部材に接触するように、治療部位が選択され得る。
【0059】
準備方法は、視床下部の刺激についての第1または第2の閾値を選択する工程をさらに含むことができる。第1および第2の閾値は、本発明のシステム態様において定義され、したがって、刺激を第1の(または第2の)鼻腔内で終了させ、場合によって第2の鼻腔内で継続させることのできる活動のレベルを表す。
【0060】
準備方法は、選択された治療部位の組織に、たとえば約70〜110mbar、約80〜110mbar、約90〜105mbar、たとえば約75〜100mbar等の約70〜120mbarの圧力で当接するように刺激部材を配置する工程をさらに含むことができる。さらに、視床下部刺激周波数を、40〜100Hzの範囲から選択することができる。すなわち、選択された周波数は、たとえば約50〜75Hz、約50〜70Hz、たとえば約60〜75Hz、および約60〜70Hz等の約50〜80Hzにあってもよい。
【0061】
さらなる方法態様では、被験者の鼻腔の後部に振動を与える工程を含む、被験者の視床下部を刺激するための方法が提供される。したがって、視床下部の活動は、刺激方法により影響され得る。加えて、かつ前述したように、複数の疾患は視床下部の機能障害を特徴とする。被験者の少なくとも第1の鼻腔の後部に視床下部刺激振動治療を行うことにより、方法はこうして、たとえば片頭痛、メニエール病、高血圧、群発頭痛、不整脈、ALS、過敏性腸症候群、睡眠障害、糖尿病、肥満、多発性硬化症、耳鳴り、アルツハイマー病、気分障害、不安障害、およびてんかん等の視床下部の機能障害を特徴とする疾患を持つ患者に対して代替療法を提供することができる。
【0062】
振動刺激は、約40〜100Hzの範囲から選択された少なくとも1つの周波数で振動を与える工程をさらに含むことができる。刺激方法は、約70〜120mbarの圧力を鼻腔の後部の組織に及ぼす工程をさらに含むことができる。振動周波数および圧力のさらなる例は、本発明のデバイス態様に関連して開示される通りである。
【0063】
方法は、視床下部の活動のレベルを反映する入力信号を取得する工程と;鼻腔の後部に与えられる振動の周波数;鼻腔の後部に与えられる振動の振幅;および鼻腔の後部の組織に及ぼされる圧力の少なくとも1つを調節する工程とをさらに含むことができる。
【0064】
一実施形態では、方法が、視床下部の活動のレベルを反映する入力信号を取得する工程と;鼻腔の後部に与えられる振動の周波数、鼻腔の後部に与えられる振動の振幅、および鼻腔の後部の組織に及ぼされる圧力の少なくとも1つと共に、前記入力信号の連続時間サンプルを記憶する工程とを含む。
【0065】
一実施形態では、方法が、視床下部の活動のレベルを反映する入力信号が第1の閾値に達したときに、鼻腔の後部内の振動刺激を終了させる工程をさらに含む。方法は、鼻腔が第1の鼻腔である場合に、視床下部の活動のレベルを反映する入力信号が第1の鼻腔内の刺激について第2の閾値に達したときに、被験者の第2の鼻腔の後部に振動を与える工程をさらに含むことができる。したがって、第2の閾値が達成されたときに、振動刺激が第1の鼻腔内で終了され、第2の鼻腔内で継続される。方法態様の第1および第2の閾値は、システム態様の第1および第2の閾値と同様に定義される。
【0066】
別の実施形態では、方法が、視床下部の活動のレベルを反映する入力信号を解析する工程と、周波数、振幅、および圧力の少なくとも1つを視床下部の活動のレベルの解析に基づいて調節する工程とを含む。一実施形態では、方法が、入力信号を入力信号の前に取得された値または時間サンプルと比較する工程と、後に取得された値および前に取得された値の差が閾値許容範囲内にある場合に周波数、振幅、および圧力の少なくとも1つを調節する工程とをさらに含む。前に取得された値、閾値許容範囲、および調節方法は、本発明のシステム態様に関連して定義された通りである。前記調節する工程は、たとえば、ランダム調節と;予め定義された格子からの設定を適用することにより計算された調節と;発見的探索を適用することにより計算された調節と;所望の活動レベル変化と周波数、振幅
、および圧力の少なくとも1つとの相関を含む予めプログラムされたルックアップ・テーブルから計算された調節と;記憶された時間サンプルの変化と周波数、振幅、および圧力の記憶された少なくとも1つの変化との相関を特定することにより計算された調節とから選択された方法を使用して実行され得る。
【0067】
一実施形態では、方法が、入力信号が視床下部の活動の所望のレベルを反映する所望値に近付いているか否かを判定する工程をさらに含み、前記判定する工程が、入力信号および所望値の差を前の時間サンプルおよび所望値の差と比較する工程を含み;かつ所望値に近付いていないと判定された場合に、ランダム調節と;予め定義された格子からの設定を適用することにより計算された調節と;発見的探索を適用することにより計算された調節と;所望の活動レベル変化と周波数、振幅、および圧力の少なくとも1つとの相関を含むルックアップ・テーブルから計算された調節と;ならびに記憶された時間サンプルの変化と周波数、振幅、および圧力の記憶された少なくとも1つの変化との相関を特定することにより計算された調節とから選択された方法を使用して周波数、振幅、および圧力の少なくとも1つを調節する工程を含む。
【0068】
一実施形態では、方法が、最大刺激時間に達したときに刺激を終了させる工程をさらに含む。
【0069】
一実施形態では、方法が、機能的神経イメージングにより、視床下部の活動のレベルを反映する入力信号を取得する工程をさらに含む。機能的神経イメージングにより取得可能な視床下部の活動のレベルの例は、本発明のデバイスおよびシステム態様に関連して定義される。機能的神経イメージング以外の方法により取得可能な視床下部の活動のレベルの例は、デバイスおよびシステム態様に関連して定義された異なる身体反応である。
【0070】
一実施形態では、方法が、鼻腔の後部の治療部位を選択する工程と、選択された治療部位に振動を与える工程とをさらに含む。
【0071】
一実施形態では、振動刺激が、a)鼻腔の後部の振動刺激のために配置された刺激部材を備えたデバイスを設ける工程と、b)好ましくは実質的に非膨張状態の刺激部材を、被験者の鼻腔の後部に導入する工程と、c)鼻腔の後部の周囲組織に圧力を及ぼすように刺激部材を膨張させる工程と、d)刺激部材を鼻腔の後部内で振動させる工程とを含む。振動デバイスの例は、本発明のデバイス態様に開示されたデバイスである。方法の一実施形態では、本発明のシステム態様で説明したシステムが使用される。
【0072】
結果として、本発明のデバイスおよびシステム態様の実施形態は、必要に応じて方法態様に関連する。
【0073】
a)で設けられるデバイスは、膨張可能な刺激部材と、刺激部材内に少なくとも部分的に配置される管状構造とを備えることができ、管状構造は、刺激部材と流体連通するように配置された複数の開口部を備える。
【0074】
方法は、刺激部材を実質的に非膨張状態にする工程と;刺激部材を鼻腔から取り外す工程と;被験者の第2の鼻腔内で前記工程b)〜d)を繰り返す工程とをさらに含むことができる。
【0075】
本発明のさらなる目的および特徴が、詳細な説明および特許請求の範囲から明らかになろう。
【0076】
ここで例示的な実施形態であり、同一の要素が同一の符号で示される図を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0077】
図1】人の(1つまたは複数の)鼻腔の側面図(A)および正面図(B)を示す概略図である。
図2-1】本発明のデバイス態様によるデバイスの例をそれぞれ示す概略図である。
図2-2】本発明のデバイス態様によるデバイスの例をそれぞれ示す概略図である。
図3】被験者の鼻腔内に位置決めされた本発明のデバイス態様によるデバイスの一例を示す、側面(A)および正面(B)から見た概略図である。
図4】本発明のシステム態様によるシステムの例を示す概略図である。
図5】本発明のシステム態様によるシステムの使用例を示す概略図である。
図6】本発明による、視床下部を刺激するための方法の一実施形態に含まれる工程を示すフローチャートである。
図7A】本発明のシステムおよび方法態様による治療手順の例を示すフローチャートである。
図7B】本発明のシステムおよび方法態様による治療手順の例を示すフローチャートである。
図7C】本発明のシステムおよび方法態様による治療手順の例を示すフローチャートである。
図7D】本発明のシステムおよび方法態様による治療手順の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0078】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について非限定的な例として説明する。
【0079】
図1Aおよび図1Bは、人の(1つまたは複数の)鼻腔の解剖学的構造を示す。図1Aは、人の鼻腔および鼻腔に対する視床下部の位置Aを概略的に示す側面図である。図1Bは正面から見た人の鼻腔を概略的に示す。
【0080】
図1Bの鼻腔の正面図に見られるように、鼻は、鼻中隔Iと呼ばれる軟骨の壁により互いに分離された2つの鼻腔を有する。前庭Eは鼻腔の最前部である。鼻腔の側部には、鼻甲介と呼ばれる3つの水平な突起がある。鼻甲介は、鼻腔の上室(upper chamber)を形成する複数の薄い渦巻状骨要素である。鼻甲介はこれら鼻腔の表面積を増加させることにより、空気が肺へ移動するときに空気を急速に温めて加湿させる。下鼻甲介Bは、最大の鼻甲介であり、鼻を通って吸入された空気の空気流方向、加湿、加熱、およびフィルタリングの大半を担う。下鼻甲介によって画成される開口領域は、下鼻道Fと呼ばれる。中鼻甲介Cは、より小さい。これらは、上顎洞および篩骨洞の開口部にわたって下方へ突出し、加圧された鼻の空気流に洞が直接接触しないように緩衝体として作用する。吸入された空気流の大部分は、下鼻甲介と中鼻甲介との間を進む。中鼻甲介Cにより画成された開口領域は、中鼻道Gと呼ばれる。上鼻甲介Dは、嗅球を保護する役割を果たすより小さい構造である。上鼻甲介は、篩板(鼻を脳から分離する多孔骨板)を貫通して鼻に入る神経軸索を完全に覆って保護する。上鼻甲介Dにより画成される開口領域は、上鼻道Hと呼ばれる。
【0081】
各下鼻甲介Bは、上顎骨から生じて鼻腔内へ水平に突出するため、一対の顔面骨(facial pair of bones)と考えられる。下鼻甲介の後部には中鼻甲介Cおよび上鼻甲介Dがあり、これらは頭骨の頭蓋部から生じる。したがって、これら2つを頭蓋骨の一部と考えることができる。
【0082】
本明細書で使用される鼻腔の前部という用語は、鼻孔から下鼻甲介および中鼻甲介の前1/3の鼻腔の部分と理解すべきである。本明細書で使用される鼻腔の後部という用語は、下鼻甲介および中鼻甲介の少なくとも後ろ2/3を含むものと理解すべきである。
【0083】
本発明によるデバイスの刺激部材と視床下部との伝達経路は完全には理解されていない。しかしながら、機械的受容器と呼ばれるある種の感覚受容器が関与していると考えられる。機械的受容器は、機械的影響の検出および伝達を担う。人体には4つの主な種類の機械的受容器、すなわち:パチーニ小体、マイスネル小体、メルケル小体、およびルフィニ小体がある。パチーニ小体(層板小体としても知られる)は、急速な振動(200〜300Hz)を検出する。一方、マイスネル小体(触覚小体としても知られる)は、テクスチャの変化(約50Hzの振動)を検出して急速に適合する。メルケル小体(メルケル神経終末としても知られる)は、持続する接触および圧力を検出して、ゆっくりと適合する。ルフィニ小体(ルフィニ末端器官、球状小体、およびルフィニ末端としても知られる)は、皮膚深部の緊張を検出する、ゆっくりと適合する受容器である。機械的受容器の大部分の研究は、皮膚上で行われている。受容器が鼻粘膜でどのように反応するか、または受容器がいつ頭蓋骨に付着されるかについてはあまり知られていない。
【0084】
所望の治療効果を得るために、本発明による振動刺激の周波数成分が機械的受容器の一部の反応に一致するように微調整され得ることが考えられる。周波数が変化したときに患者の反応に明らかな変化があり、これは体内の共鳴の励起と解釈することができる。したがって、鼻腔の後部内に振動を与えることにより、神経系が、視床下部に信号を伝達するように特定の周波数で励起され得る。中鼻甲介が頭蓋骨に付着されるため、脳内に接続する多数の受容器を振動刺激によって励起させることができる。
【0085】
図2Aを参照して、本発明のデバイス態様によるデバイスの特定の例について以下で説明する。被験者の視床下部を刺激するためのデバイス1は、膨張した第2の状態に配置された刺激部材2と、膨張部材3とを備える。刺激部材2は、膨張部材3を部分的に囲むように配置されて、膨張部材の端部が刺激部材内に位置するようにする。膨張部材の端部を、刺激部材内に自由に位置させることができる。自由に位置させるとは、この文脈では、刺激部材の内壁に固定することなく配置されるものと理解すべきである。
【0086】
膨張部材を、たとえば、刺激部材の内壁から距離をおいて自由に位置させることができる。デバイスが鼻腔に挿入されたときに、おそらくは比較的堅い膨張部材のために、患者が痛みを感じる場合があることが経験からわかっている。刺激部材を膨張させると、感じる痛覚が緩和される。これは、おそらく、刺激部材が膨張すると、膨張部材の端部から離れるように組織を穏やかに押すからである。膨張部材の端部と刺激部材の内壁との距離は、1〜10mmの範囲、または4〜6mmの範囲、または約5mmである。
【0087】
しかしながら、本発明の範囲内で代替構成が考えられる。刺激部材2は、たとえば、膨張部材3の端部(図示せず)に隣接して接続され、結果として膨張部材を実質的に囲まないように配置され得る。さらに別の例示的な構成では、刺激部材が、端部(図示せず)からある距離だけ離れた膨張部材3の周りのスリーブとして配置され得る。
【0088】
刺激部材を、接触するどの体内組織にも化学的または生物学的に影響を与えない材料から作製することができる。したがって、刺激部材は体内組織に対して局所的な影響を与えない。材料の非限定的な例は、プラスチック材料またはゴム材料である。場合によっては、刺激部材はラテックスから作製される。
【0089】
刺激部材は、鼻腔内への導入中および鼻腔内での位置決め時に、刺激部材と周囲組織との摩擦を最小限にする外面をさらに備えることができる。刺激部材は、たとえば、平滑な外面をもたらす材料から構成されるか、またはたとえばパラフィン溶液等の潤滑剤により被覆されていてもよい。さらに、刺激部材の材料は可撓性であり、刺激部材に弾性特性を与えることができる。結果として、刺激部材の大きさおよび体積は、内圧によって変化し得る。代替実施形態では、刺激部材が非弾性材料から構成される。このような実施形態では、刺激部材の大きさが、刺激部材を鼻腔へ導入可能な、デバイスの第1の状態で減少する。第2の状態では、刺激部材が組織表面に当接するように膨張する。さらに、刺激部材は、部分的に弾性特性を有することができ、これにより、刺激部材は、デバイスの第1の状態に戻るときに収縮し、かつ折り曲がる。このような場合には、刺激部材を、折り曲げ可能な薄い材料から作製することができる。
【0090】
刺激部材の1つの非限定的な例は、少なくとも部分的に膨張した状態で、デバイスと鼻腔の後部との間に接触面を確立するバルーンである。刺激部材の他の例は、袋、気泡および発泡デバイスを含む。
【0091】
たとえば図2Aに示す膨張部材3は、流体を刺激部材に供給するための少なくとも1つのチャネル4を備える。これにより、刺激部材は、膨張部材によって供給された流体を収容するためのチャンバを備える。チャンバ壁が、刺激部材の内面によって画成される。膨張部材を介して流体を刺激部材に供給することにより、刺激部材の体積および膨張の程度に影響を与える。流体を膨張部材から刺激部材に自由に通すことができるようにするために、膨張部材の端部は少なくとも1つの開口部を備える。たとえば図2Aに示すように、膨張部材3の端部が刺激部材2内に配置される場合、端部は、流体を刺激部材2に供給するための2つ以上の開口部を備えることができる。図2Dを参照して、膨張部材の端部が、流体を刺激部材に供給するための2つ以上の開口部を備える一実施形態について、以下にさらに詳細に説明する。人体に接触する膨張部材3および刺激部材2の部分は、一般的に、人体への流体の漏れを防止するための閉じたシステムを画成する。
【0092】
少なくとも1つのチャネルを備える膨張部材の例として、パイプ、管、導管、シリンダ、チューブ等が挙げられる。膨張部材は、たとえば、プラスチック、ゴム、または金属材料から作製されていてもよい。
【0093】
流体、たとえば気体または液体の供給は、膨張部材を介して外部装置によって制御され得る。このような外部装置は、前後移動によって、シリンダ内の流体の量を調整し、これにより、膨張部材内の流体の量を調整することのできる可動プランジャを有するシリンダを備えることができる。
【0094】
膨張部材は、好ましくは、操作者が刺激部材を正確に位置決めできるような寸法を有する。
【0095】
デバイスが刺激部材を振動させるように配置された振動部材を備える実施形態では、振動部材が、たとえば、制御ユニットから供給された印加電圧によって制御される振動発生器を備えることができる。このような例では、振動部材が刺激部材内に配置され得る。
【0096】
別の例では、振動部材が外部に配置される。このような外部振動源、たとえばトランスデューサが、刺激部材内に含まれる流体に振動を与えるように配置され得る。
【0097】
刺激部材内に含まれる流体を介して、鼻腔の後部にさらに振動を与えることができる。したがって、振動部材は流体に振動を与え、この流体は膨張部材を介して刺激部材に振動を伝達するための媒体として機能することができる。
【0098】
鼻腔の後部の振動刺激は、40〜100Hzの周波数で行うことができるが、他の周波数も予想される。鼻腔の後部に与えられる振動の振幅は、0.3mm〜約5mm等の約0.05mm〜約20mmの範囲内に含まれ得るが、他の振幅も予想される。視床下部のあるレベルの刺激に必要な振幅は、鼻腔の性質、および当該患者の敏感度によって決定されることを理解されたい。
【0099】
図2Bを参照して、本発明によるデバイスの特定の例について説明する。被験者の視床下部を刺激するためのデバイス1は、刺激部材2と、膨張部材3とを備える。刺激部材2は刺激部5を備え、刺激部5は、膨張した第2の状態で、鼻腔の後部の組織に当接して振動を与える。刺激部材の保持部6は、鼻腔の前部の組織に当接するように配置される。本発明によるデバイスのこの例では、刺激部材の刺激部を、第1の非膨張状態および第2の少なくとも部分的に膨張した状態に配置させることができるが、保持部は非膨張状態のままである。刺激部は可撓性材料から構成されていてもよいが、保持部は非弾性の、場合により強化材料または剛性材料から構成され得る。この場合、刺激部5および保持部6はいずれも、膨張部材3を少なくとも部分的に囲むように配置されて、膨張部材の端部が刺激部の内側に位置するようにする。
【0100】
図2Cには、刺激部および保持部を備えるデバイスの例が示される。デバイス1は、刺激部材2の刺激部5および保持部6を備える。保持部6は刺激部5内に延びる。保持部および端部の両方がチャネル4を含んで、流体が刺激部5に対して自由に流入および流出できるようにする。保持部6は、膨張部材のチャネル4内に部分的に配置される。したがって、保持部の寸法は、膨張部材3内および刺激部5内に嵌合するような寸法である。
【0101】
図2Dには、鼻腔の後部に振動を与えることにより視床下部の活動を刺激するためのデバイスの例が示される。デバイス1は、少なくとも部分的に膨張した状態で示される膨張可能な刺激部材2を備える。刺激部材2の内部23は、刺激部材を膨張させるように配置された膨張部材3に流体接続される。膨張部材3は、少なくとも部分的に刺激部材内に配置され得る管状構造24を備える。管状構造24は、刺激部材2の内部23に流体連通するように配置された複数の開口部25を備える。膨張部材3は、管状構造24を介して刺激部材の内部23に流体連通して配置された細長構造26をさらに備える。細長構造は、刺激部材2の実質的に外側に、または部分的に刺激部材2の内側に配置され得る。細長構造は、管状構造24の一部を囲むことができる。管状構造24の各端部は、刺激部材の内部23および細長構造26と流体連通するための開口部を備えることができる。チャネル4を通して流体連通が達成され得る。管状構造24は、刺激部材2の実質的に全長内で延びることができる。一実施形態では、管状構造は、管状構造の端部から刺激部材の内壁までの5mmの距離を残す。しかしながら、管状構造24の端部は、刺激部材の内壁から離れている。
【0102】
刺激部材に隣接して配置されるか、または刺激部材内に配置される細長構造の端部27は、デバイスが被験者の鼻腔に挿入されるときに保持部として機能することができる。このような細長構造26の端部27を、被験者の鼻孔に挿入することができる。
【0103】
管状構造は、鼻腔の、時には不規則な形状に挿入および位置決め可能なように十分に弾性である。これは、刺激部材が上下方向に曲がって前庭を通過しなければならないので、矢状面での移動のために特に重要である。同時に、管状構造は、鼻腔の後部への導入中に誤って曲がらないように、十分に剛性でなければならない。管状構造は、刺激部材への到達前に振動を減衰させ得る流れ抵抗を避けるために、十分な内径を有する。さらに、管状構造は、複数の開口部と組み合わせて適切な剛性を達成する壁厚さを有することができる。他の材料および機械的特性も、管状構造の剛性に影響を与え得る。
【0104】
刺激部材内に配置された管状構造の端部は、鼻腔に導入されたときにデバイスが詰まることを防止し、また患者の不快感を最小限にするように、丸くするか傾斜させることができる。
【0105】
複数の開口部を備える管状構造は、全長に沿った刺激部材の膨張を可能にすることができる。鼻腔の壁には個人差があり、通路が狭くなることがあるため、複数の開口部によって、流体が流入して刺激部材を全長に沿って膨張させることができるようになる。図2Dに示す実施形態では、開口部が管状構造の2つの側部に交互に配置されて、異方性剛性(anisotropic stiffness)が確実に十分なものになるようにする。
【0106】
開口部が管状構造の交互の側部に設けられる実施形態では、図2Eに示すように、デバイス1に可視マーク28を設けて、正確な角度方向への挿入を容易にし、確実にすることが有利となり得る。
【0107】
図3Aでは、デバイス1の刺激部材2が、鼻腔内に位置する少なくとも部分的に膨張した状態にある。膨張部材3は、刺激部材2内に部分的に位置し、かつ振動刺激中に鼻腔の外側に部分的に位置する。したがって、膨張部材3は、刺激に適した大きさおよび/または体積まで刺激部材2を膨張させる。このような膨張は、膨張部材に含まれる1つまたはそれ以上のチャネルを通して、流体を刺激部材に供給することによって達成され得る。刺激部材に供給される流体の体積は、次に刺激部材の内圧、および結果として周囲組織に及ぼされる圧力に影響する。鼻腔の後部に振動を与えることによる視床下部の刺激は、刺激部材が鼻腔の組織と十分に接触したときに開始される。
【0108】
刺激部材は、膨張状態で鼻の組織に当接したときに、たとえば、当該患者の鼻の解剖学的構造に応じて円形、楕円形、または小滴形であり得る。
【0109】
刺激部材または、必要に応じて、刺激部の寸法は、治療する患者の鼻腔の大きさおよび形状に明らかに適合され得る。鼻腔内に位置するときの刺激部材の長さは、白人成人について約3mm〜約100mm、たとえば40〜約60mmで変化し得る。一方、患者が新生児であるときには、鼻腔内に位置するときの刺激部材の長さは約3mm〜約20mmであり得る。鼻腔内に位置するときの刺激部材の実際の長さは、刺激部材の膨張の程度および鼻腔の大きさによって決まることを理解されたい。刺激部材の刺激部は、たとえば、鼻腔の後部に位置するときに25mmの長さを有することができる。
【0110】
鼻腔内に位置するときの刺激部材または、必要に応じて、刺激部の横幅は、たとえば、刺激部材または刺激部の膨張の程度および鼻腔の大きさによって、成人については約10〜約20mm等の約1mm〜約40mmで変化し得る。新生児の鼻腔に位置させるときには、刺激部材または刺激部は約1〜約3mm幅であり得る。治療する患者に応じて、刺激部材または刺激部の寸法は、前述した範囲を超えて変化し得ることを理解されたい。
【0111】
本発明のある態様では、複数の幾何学的に異なる刺激部材が設けられる。このような複数は、たとえば、刺激部材のそれぞれがたとえば他のものとは異なる長さおよび横幅である、異なる刺激部材一式として設けられていてもよい。複数の刺激部材は、たとえば前述した範囲内の異なる寸法および形状を有する2つ、3つ、4つ、5つまたはそれ以上の刺激部材を含むものとして定義され得る。刺激部材は、横方向に湾曲し屈曲した異なる形状を呈して、挿入および位置決めを容易にすることができる。
【0112】
滑らかで痛みのない鼻腔内への導入を可能にするために、刺激部材または刺激部の幅は、第1の状態に配置されたときに、治療する患者の鼻孔の幅を超えることはないとされ得る。新生児では、たとえば、刺激部材または刺激部は、第1の状態で、約1mm幅である。鼻腔内への刺激部材の導入をさらに容易にするために、鼻の解剖学的構造により良好に適合するためのわずかな曲げが、刺激部材に予め形成されていてもよい。
【0113】
本発明によるデバイスは、刺激部材内の圧力がある最大値を超えた場合に、たとえば刺激部材から流体を放出することにより圧力の一部を解放可能な安全弁を備えると便利であり得る。
【0114】
鼻腔内の挿入および位置決めをさらに容易にするために、刺激を実行する人を助けるためのスケールがデバイスに設けられていてもよい。たとえば、特定の患者の任意の解剖学的構造の予備知識と共に、鼻腔内にどこまでデバイスが挿入されたかを示すことのできるスケールを、膨張部材に設けることができる。あるいは、デバイスに、鼻孔よりも大きい止めを設けて、刺激部材が鼻腔内へ挿入されすぎることを防止してもよい。後者の例は図2Cに示され、ここでは、膨張部材3の外径を鼻孔よりも大きくすることができる。
【0115】
他の実施形態では、鼻腔内の刺激中にデバイスが意図せずに移動することを防止する固定手段が、デバイスに設けられる。固定手段は、ヘルメット、フェイシャル・マスク、またはヘッドバンドの形状で設けることができる。このような固定手段は、刺激中に患者が頭を動かしても、または何らかの他の妨害が生じても、刺激部材を鼻腔に対して定位置に維持する。
【0116】
刺激部材が、鼻腔の後部の組織に当接するように配置された刺激部と、鼻腔の前部の組織に当接するように配置された保持部とを備え、刺激部が視床下部を刺激するように配置された実施形態では、保持部が固定手段として機能することができる。
【0117】
図4および図5を参照し、本発明のシステム態様によるシステムの特定の例について以下で説明する。
【0118】
図4のシステムは、前述した刺激部材2と膨張部材3とを有するデバイス1を備える。空気等の流体が入口8を介してシステムに入る。圧力調整モジュール9、たとえば圧力ポンプでは、流体が、管10を介して周波数および振幅調整モジュール11に供給される前に加圧される。周波数および振幅調整モジュール、たとえば振動ポンプが、管12および膨張部材3を介してデバイス1に供給される加圧流体に、所望の周波数および振幅を有する振動を与える。システム圧力は、圧力計等の圧力センサ13によりモニタされる。あるいは、圧力センサを圧力調整モジュールまたは周波数および振幅調整モジュールに組み込むことができる。
【0119】
制御ユニット14は、ライン15を介して圧力調整モジュール9から、ライン16を介して周波数および振幅調整モジュール11から、かつライン17を介して圧力センサ9から入力を受ける。制御ユニットはさらに、ライン15を介して圧力調整モジュール9を制御し、ライン16を介して周波数および振幅調整モジュール11を制御する。制御ユニット14が調整モジュールおよびセンサのいずれか1つまたは全部から入力を受けるのではなく、調整モジュールへ指示を出力するのみである実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0120】
システム圧力が高くなりすぎた場合に、システムから流体を放出するように配置された安全弁18が、システムにさらに設けられる。
【0121】
制御ユニット14は、前述した調整モジュールおよびセンサからの入力を収集するように配置されたデータ収集モジュールをさらに備えることができる。データ収集モジュールは、視床下部の活動のレベルを反映する入力信号をさらに取得することができる。したがって、制御ユニット14は、機能的神経イメージング・デバイス等のモニタ・デバイス(20、図5)から入力信号を受けることができる。制御ユニットの一例は、たとえば入力信号を解析し、たとえば周波数、振幅、および圧力のいずれかをどのように調節するかを判定するためのソフトウェアを実行する適切な周辺入出力能力を含むマイクロプロセッサである。たとえばパーソナル・コンピュータ等の他の種類の制御ユニットを使用することも考えられる。
【0122】
解析モジュール(図示せず)が、制御ユニット内にさらに含まれていてもよい。このような解析モジュールは、システムの別個の部分から、必要に応じて、システムのデバイス、モジュール、および/またはセンサから収集されたデータの解析を行う。解析モジュールは、たとえば、入力信号の前に収集された値を入力信号の後に収集された値と比較した後、2つの値の差を閾値許容範囲と比較することができる。
【0123】
システムの他の例では、データ処理モジュール(図示せず)が制御ユニット内に含まれる。データ処理モジュールは、制御された入力信号およびたとえば閾値の計算を行う。視床下部の活動のレベルを反映する入力信号の導関数等の処理されたデータの解析に基づいて、解析モジュールが、システム内にあり得る調整モジュールのいずれか1つに、たとえば周波数、振幅および/または圧力を調節するよう指示するように配置される。レベルの導関数は、レベルの変化率を反映し、したがって、たとえば、レベルの変化を達成するために、いつ前記パラメータの調節を行うべきであるか、および加えて、いつレベルのこれ以上の変化が期待されなくなり、その結果刺激を終了すべきであるかを示すことができる。
【0124】
したがって、たとえば導関数がゼロに近いことによって表されるように、視床下部のレベルの第1の閾値に達したときに、解析モジュールは、周波数調整モジュール、振幅調整モジュール、および圧力調整モジュールに、周波数および/または振幅をゼロに調節し、大気圧を反映するように圧力を調節するよう指示するように配置され得る。
【0125】
第2の閾値をさらに判定することができる。この第2の閾値は、測定値およびその変化率の両方の関数として表すことができる。たとえば、変化率が十分に小さく、測定値が高いと考えられる場合、解析モジュールは、第2の鼻腔内での治療の継続を提案する。第2の閾値の一例は図7Aおよび図7Dのtolである。
【0126】
解析モジュールは、刺激時間に応じて刺激を終了させるようにさらに配置され得る。どの活動レベルが達成されたかに関係なく、その後に刺激を終了させる、最大刺激時間を定義することができる(たとえば図7のtmax参照)。最小刺激時間は、振動が与えられる最短の時間間隔として定義され得る(たとえば図7のtmin1)。刺激期間の開始時の不安定な読取値を無視することができるため、最小刺激時間を有することは有利であり得る。両方の鼻腔内の振動刺激を希望する場合、最小刺激時間は、鼻腔を切り替える前の第1の鼻腔における刺激時間(たとえば図7のtmin2)または各鼻腔についての最小刺激時間に対応する。
【0127】
別の例では、システムが、入力信号の少なくとも1つの前に取得された値を記憶するように配置されたメモリ・モジュール(図示せず、たとえば、制御ユニット内に組み込まれていてもよい)をさらに備える。メモリ・モジュールは、入力信号の前に取得された個々の値の履歴等の、入力信号の複数の前の個々の値を記憶するか、またはデータ収集モジュールが新しい信号を取得する毎に、しかし前記解析が行われた後に、入力信号の前の値を連続的に置き換えるように配置される。
【0128】
図5は、本発明による例示的なシステムを用いた患者の鼻腔における振動刺激を示す。デバイス1は患者の鼻腔内に位置する。刺激部材は、鼻腔の後部に当接するように第2の状態まで膨張する。圧力、振動周波数、および振幅の1つまたはそれ以上を調整するための調整モジュール19が、管12を介してデバイス1に接続される。鼻腔の後部に振動を与えるときに、視床下部の活動がモニタ・デバイス20によりモニタされる。モニタ・デバイス20は、たとえば視床下部の血流、酸素消費、および代謝活動等の、視床下部の活動に相関する直接的または間接的なレベルのリアルタイム・モニタを行うことができる。モニタ・デバイスの一例は、fMRI機器である。
【0129】
制御ユニット14は、モニタ・デバイスからライン21を介して、視床下部のレベルを反映する入力信号を受ける。制御ユニット14は、信号を取得するためのデータ収集モジュール(図示せず)を備える。解析モジュール(図示せず)およびデータ処理モジュール(図示せず)が、制御ユニット内にさらに設けられていてもよい。制御ユニット14は、ライン22を介して調整モジュールから振動パラメータについての情報を受ける。制御ユニットは、同一のライン22を介して、調整モジュール19を制御するための指示を出力することができる。このような指示は、モニタ・デバイスから取得された入力信号の解析に基づいており、圧力、振動周波数、または振幅のパラメータのいずれか1つを調節することを目的とする。ある場合には、視床下部の活動のレベルを反映する入力信号が閾値に達したときに、制御ユニットが、調整モジュールに、刺激を終了させて、場合により第2の鼻腔内で刺激を継続するように指示することができる。
【0130】
図6を参照して、鼻腔の後部の治療により視床下部を刺激するための方法について以下に例示する。
【0131】
刺激部材を備えるデバイスが設けられる。刺激部材は、鼻孔を介して患者の鼻腔の後部へ導入される。したがって、デバイスは、鼻孔の通過を容易にし、大きい機器を見せることによって患者を怯えさせる危険を最小限にするために、導入時に第1の実質的に非膨張状態にある。鼻腔の後部内に適切に位置すると、刺激部材は第2の状態に膨張して、図3に例示するように、刺激部材を鼻腔の後部の組織に密接に接触させる。刺激部材の体積を鼻腔の大きさに調節して、振動刺激の前に体内組織に十分に接触するようにしてもよいことを理解されたい。十分かつ/または密接な接触とは、第2の少なくとも部分的に膨張した状態にある刺激部材の使用可能な外面が組織の表面に実質的に当接するような接触を指す。
【0132】
続いて、刺激部材を振動させて視床下部を刺激する。場合によっては、必要に応じて、刺激部材が、刺激の開始時に比較的高い圧力で組織の表面に当接する。刺激の初期段階後、組織の表面に及ぼされる圧力を下げることができる。視床下部の活動のレベルが所望のように変化するのであれば、この比較的低い圧力を残りの刺激時間に使用してもよい。
【0133】
視床下部の活動に対する所望の効果が達成されると、刺激が適切に終了される。少なくとも部分的に膨張した刺激部材は、鼻孔を通って取り外される前に、実質的に非膨張の第1の状態に適切に戻される。刺激部材の収縮は、たとえば、膨張部材を通る流体を除去することにより、刺激部材内の流体圧力を減らすことによって達成され得る。刺激部材が、少なくとも部分的な非膨張状態まで適切に収縮されると、患者自身または補助スタッフにより、刺激部材を鼻から取り外すことができる。
【0134】
視床下部の刺激を、被験者の少なくとも第1の鼻腔内の少なくとも1つの刺激部材を用いて実行することができると考えられる。たとえば、第1の態様による1つのデバイスを、一方の鼻腔のみでの1回の刺激、または両方の鼻腔での連続した刺激のために使用してもよい。別の例では、第1の態様による2つのデバイスを、両方の鼻腔で同時に振動刺激を行うために使用してもよい。圧力および振動周波数は、両方の鼻腔での連続した、および/または同時の刺激について同一であっても異なっていてもよいことを理解されたい。位相差および/または振幅差のある2つの異なる振動周波数を、同時の刺激中に印加して、干渉効果を達成してもよい。
【0135】
刺激の前に、方法は、個々に異なる形状を有する刺激部材を備える複数のデバイスから、治療する被験者の鼻腔の後部に適した形状を有する刺激部材を備えるデバイスを選択する工程を含むことができる。前述したように、ある患者は、ある形状、長さ、および幅/直径を有する刺激部材を必要とし得る。
【0136】
加えて、当該患者に適した治療継続時間を、鼻腔内で刺激を開始する前に選択することができる。このような選択は、少なくとも全部で5分等の標準の刺激についての最小継続時間を選択することを含むことができる。あるいは、治療継続時間は、視床下部の活動のレベルが所定の要件を満たした後の治療期間として定義され得る。第1の閾値に達した後のように、刺激をさらに2〜5分継続することができる。他の治療法は、第1および/または第2の鼻腔内における治療の継続時間を選択することを含む。
【0137】
本明細書で開示された視床下部の刺激方法が、視床下部の機能障害に関連する疾患の治療を伴うときには、このような治療を適切に予防的または緊急に行うことができることを理解されたい。
【0138】
図7A図7Dを参照して、本発明のシステムおよび方法態様による刺激手順の特定の例について説明する。図7A図7Dは、どのように刺激が行われ制御され得るかの例を示す。
【0139】
図7Aを参照すると、刺激開始後に、視床下部の活動のレベル(a)を反映する入力信号が収集される。活動レベル(a)および所望の活動(a0)の差の絶対値、すなわち|a−a0|は、大きく、したがって第1の閾値(tol1)を超え、活動レベル(a)の計算された時間導関数(a’)の絶対値は、第2の閾値(tol2)と比較される。計算された時間導関数(a’)の絶対値が第2の閾値(tol2)を超えている場合、最大刺激時間に達していなければ、刺激を継続することができ、新しい活動レベルの収集によって次のサイクルが開始される。最大刺激時間(tmax)に達すると、現在の活動レベルに関わらず刺激が終了される。
【0140】
活動レベル(a)および所望の活動(a0)の差の絶対値が第1の閾値(tol1)を超えないときには、視床下部の活動は実際に所望のレベルに達している。刺激時間が最小刺激時間(tmin1)を超えれば、刺激を終了させることかできる。刺激時間が最小刺激時間(tmin1)を超えなければ、最小刺激時間に達するまで、刺激を同一のパラメータ・セットで継続する。
【0141】
計算された時間導関数(a’)の絶対値が第2の閾値(tol2)を超えなくなるとき、すなわち、レベルがあまり変化していないときには、刺激を継続することはできるが、パラメータ・セットが調節される。刺激時間が第2の最小刺激時間(tmin2)を超えなければ、周波数、振幅、および圧力等のパラメータの調節が行われる。第2の最小刺激時間(tmin2)に達した場合、第2の鼻腔内で刺激を継続すべきであり、クロックをリセットすべきである。
【0142】
図7Bは、どのように視床下部の刺激を体系的に行うかの別の例を示す。図7Aと同様に、視床下部の活動のレベル(a)を反映する入力信号が刺激開始後に収集される。活動レベル(a)および所望の活動(a0)の差の絶対値は、大きく、したがって第1の閾値(tol1)を超え、活動レベル(a)および所望の活動(a0)の差の同一の絶対値は、第2の閾値(tol2)と比較される。絶対値|a−a0|も第2の閾値(tol2)を超える場合、第3の比較が行われる。同一の絶対値が、前の活動(aprev)のレベルおよび活動(a0)の所望のレベルの差の絶対値に定数(C)を掛けた値(C*|aprev−a0|)と比較される。絶対値|a−a0|がC*|aprev−a0|未満である場合には、活動レベルが所望の方向に変化している。これは、現在の活動レベルが前のレベルよりも所望の活動に近いことを意味する。最大刺激時間(tmax)に達していなければ、サイクルをもう一度繰り返す。次のサイクルの開始前に、現在の活動レベルがaprevとして記憶される。一方、tmaxに到達すると、刺激が終了される。
【0143】
一方、活動レベル(a)が所望の活動(a0)に近いか同一である場合、すなわち、|a−a0|が第1の閾値未満であるときに、刺激が終了される。同様に、|a−a0|が第2の閾値未満である場合、刺激が第1の鼻腔内で終了され、第2の鼻腔内で継続される。これにより、同一の手法で新しいサイクルを開始することができ、クロックがリセットされる。
【0144】
一方、活動レベルおよび所望の活動の差の絶対値が、前の活動レベルとの対応する差、すなわちC*|aprev−a0|よりも大きい場合、視床下部の活動は所望通りに変化していない。定数Cは、本明細書に定義された閾値許容範囲の一例を構成する。これにより、パラメータ・セットは、次のサイクルの開始前に調節され、現在の活動レベルがaprevとして記憶され、刺激時間がtmaxと比較される。
【0145】
刺激手順のさらなる例が図7Cに示される。図7Aおよび図7Bと同様に、視床下部の活動のレベル(a)を反映する入力信号が、刺激開始後に収集される。活動レベル(a)および所望の活動(a0)の差の絶対値が第1の閾値(tol1)と比較され、絶対値がtol1を超えない場合、第1の最小刺激時間(tmin1)に達していれば、刺激が終了される。絶対値がtol1を超えていて、第2の最小刺激時間(tmin2)に達していない場合、新しいサイクルが開始される。しかしながら、第2の最小刺激時間に達している場合には、第1の鼻腔内の刺激が終了され、第2の鼻腔内で刺激が継続される。これは、クロックをリセットせずに行われる。今度は、所望の活動レベルまたは最大刺激時間(tmax
に達するまで刺激が継続される。
【0146】
図7Dでは、刺激手順の別の例が示される。視床下部の活動のレベル(a)を反映する入力信号が収集され、その時間導関数(a’)が計算される。図7Cの手順と同様に、活動レベル(a)および所望の活動(a0)の差の絶対値が第1の閾値(tol1)と比較され、絶対値がtol1を超えない場合、第1の最小刺激時間(tmin1)に達していれば、刺激が終了される。絶対値がtol1を超えている場合、活動レベル(a)の計算された時間導関数(a’)の絶対値が第2の閾値(tol2)と比較される。計算された時間導関数(a’)の絶対値が第2の閾値(tol2)を超えておらず、第2の最小刺激時間(tmin1)に達している場合、クロックをリセットしつつ、刺激が第1の鼻腔内で終了され、第2の鼻腔内で継続される。そうでなければ、絶対値|a−a0|が、前の活動(aprev)のレベルおよび活動(a0)の所望のレベルの差の絶対値に定数Cを掛けた値(C*|aprev−a0|)と比較される。絶対値|a−a0|がC*|aprev−a0|より大きい場合、活動レベルが誤った方向に変化しているため、刺激パラメータを調節すべきである。絶対値|a−a0|がC*|aprev−a0|より小さい場合には、活動レベルが所望の方向に変化しており、現在および前の活動レベルの時間導関数が比較される。定数Cは、本明細書で定義された閾値許容範囲の一例を構成する。|a’|がD*|aprev’|(Dは定数)より大きくないときには、活動レベルが十分な速さで変化していないため、刺激パラメータを調節すべきである。|a’|が|aprev’|より大きいときには、別の刺激サイクルを開始することができる。しかしながら、次のサイクルの開始前に、現在の活動レベルおよびその導関数が、前の活動レベルおよびその導関数に置き換わる。加えて、最大刺激時間に到達していない場合にのみ、別のサイクルを継続することができる。最大刺激時間に達した場合、刺激は終了される。
【0147】
臨床的結果
材料および方法
本発明によるデバイスおよび方法を用いてパイロット試験が行われた。試験は、視床下部の活動に関連する疾患を持つ患者の鼻腔内で実施された。
【0148】
刺激部材は、膨張した第2の状態において、直径約1.5cmおよび長さ5cmを有するバルーンであった。バルーンは長さ約15cmの管に接続された。管およびバルーンが互いに接続されて、最大長さ4cmの管の一端部がバルーン内に存在するようにして、鼻腔への導入を簡単にした。管は空気をバルーンに供給してバルーンを膨張させた。管の他端部は、三方コックを介して目盛付きシリンジ(20ml)、および閉じた空気システムに接続された別の管に接続された。閉じた空気システムは、モータによって間隔10〜100Hzの可変周波数で振動される可撓性膜に接続された。空気圧を、70〜120mbarの圧力間隔内で制御された方法で変化させることが可能であった。振動膜の振幅を、(任意の再現可能なユニットにおいて)制御された方法で変化させることが可能であった。使用前に、使い捨て手袋の指で構成された衛生保護カバーが、バルーンに設けられた。衛生保護カバーは、鼻腔へのそれぞれの導入前にパラフィン溶液に浸された。
【0149】
以下の一般的な方法がすべての治療に使用された:
【0150】
バルーンおよびその衛生保護カバーが非膨張状態にある第1の状態のデバイスが、鼻腔に導入された。鼻腔内で、バルーンが70〜120mbarの圧力まで膨張された。バルーンをこのように鼻腔内に配置して膨張させることにより、鼻腔の後部の組織との接触面が確立された。
【0151】
モータによる可撓性膜の制御された動きにより閉じたシステムの体積を変化させることによって、40〜100Hzの範囲の振動が達成された。
【0152】
その後、バルーンから空気が抜かれてバルーンが非膨張状態に移行された。バルーンが鼻腔から引き抜かれ、衛生保護カバーが取り外された。
【0153】
刺激が第2の鼻腔で同様に行われる場合は、第2の鼻腔への導入前に、パラフィン溶液に浸された新しい保護カバーが、バルーンに被せられた。上記の方法によって、第2の鼻腔内で刺激が行われた。
【0154】
患者および個人の種々の群の結果について以下で説明する。
【0155】
1人の片頭痛患者の視床下部刺激
血液酸素レベルに依存する機能的磁気共鳴画像(fMRI)を記録しながら、治療が行われた。患者は、視覚的アナログ・スケール(VAS)で、刺激前、刺激中、および刺激後の痛みを0〜10で評価した。0は痛みなしに対応し、10は最大の痛みに対応する。
【0156】
治療前、患者は嘔吐し、羞明および悪心があった。患者は、VASスケールで痛みのレベルを10と訴えた。痛みは頭部の右部分にあった。
【0157】
患者を水平位置で治療した。振動治療が、右の鼻腔内において85〜100mbarの圧力で開始された。周波数は68Hzに設定された。10分の治療後、痛みのレベルは6に下がり、悪心はなくなった。その時点で、バルーンを左の鼻腔に移動させ、治療がさらに8分継続された。この時点で、患者は痛みのレベルを2と訴えた。5分の休憩後に、治療が右の鼻腔内で再び開始された。約8分後、痛みのレベルは1まで下がり、治療が終了された。
【0158】
治療の6か月後、患者は、片頭痛発作が起こっていないと報告した。結果として、刺激の効果は長期間持続した。
【0159】
fMRIデータの解析により、視床下部の酸素消費が最初は異常に高かったが、治療中に、消費が周囲脳組織と同様のレベルまで低下したことがわかった。
【0160】
ALS患者の視床下部刺激
本発明による振動療法によって、2人のALS患者を治療した。
【0161】
治療は、68Hzの周波数で鼻腔に振動を与えることによって行われた。振動刺激は、各鼻腔について10〜12分の期間行われた。当接圧力は90〜100mbarであった。
【0162】
両患者が、症状が改善したと報告した。一方の患者は、前述した説明による複数の治療セッション後に、もう一度くしゃみをすることができるようになった。患者は、疾患のため、治療前に数か月間くしゃみをすることができなかった。他方の患者は、日中の筋肉収縮(線維束性攣縮)が減少したと報告した。治療の3週間後、患者は、前よりも多く歩くことができるようになり、脚のしびれ感が減少したとさらに報告した。ALSを治療する公知の方法、またはALSの進行を遅らせる公知の方法すらないため、これらの結果は注目に値する。
【0163】
1人のメニエール病患者の視床下部刺激
患者は、左耳に影響を及ぼすメニエール病を5年間患っていた。薬物治療は成功せず、苦痛は左耳が難聴と分類される程度に達していた。患者は破壊的手術を受けるように言われていた。
【0164】
第1の治療前に、左耳について平均値70dBを示す聴力図が記録された。
【0165】
第1の治療中、74Hzの周波数で、左鼻腔に約11分間振動が与えられ、次に略同じ期間、右鼻腔に振動が与えられた。右鼻腔の治療中に、周波数を68Hzに下げた。最終的に、左鼻腔は68Hzで約11分間治療された。圧力は90〜100mbarの範囲であった。
【0166】
第1の治療の数日後、患者の左側の聴力が平均値60dBに改善されたことを示す、別の聴力図測定が行われた。また、患者は、他の疾患、たとえば耳の詰まり感や耳鳴りが減少したと報告した。
【0167】
第1の治療の1週間後、第2の治療が行われた。右鼻腔に12分間振動が与えられ、次に左鼻腔を24分間治療した。鼻の組織に及ぼされた圧力は90〜100mbarの範囲であり、周波数は68Hzに設定された。圧力は治療の後の段階において手動で調節されて、患者の何らかの反応の変化を調べた。
【0168】
数日後に、患者の聴力を再び評価した。このとき、左耳の平均値は53dBであった。したがって、本発明によるデバイスを用いた振動刺激によって、患者の聴力が改善された。
【0169】
1人の心臓不整脈患者の視床下部刺激
最も多く見られる心臓不整脈、すなわち心房細動の1人の患者を、前記の一般的な説明によるデバイスおよび方法を用いて治療した。2年間心臓不整脈を患っているこの患者は、以前に薬物と、7回の電気ショック療法とにより治療を受けていた。どちらの治療法も成功しなかった。したがって、患者は、部分的に破壊的な処置であるアブレーションを受けるように言われていた。
【0170】
患者を振動刺激により、2週、6週、および15週おいて4回治療した。振動刺激は両方の鼻腔で行われた。組織に及ぼされる圧力は90〜100mbarの範囲であり、周波数は68Hzであった。振動刺激は、各鼻腔で10〜12分行われた。
【0171】
治療の間の最後の15週の区間に、患者は2年間で初めて身体運動をすることができた。これは、本発明による振動刺激方法が、心臓不整脈患者の健康状態を改善させ得ることを示す。
【0172】
結果
前記の説明により治療された患者は、68Hzの刺激周波数によく反応した。
【0173】
特定の周波数がどのような身体機能に対応するのかは明らかではない。1つの可能性は、任意の特定の周波数またはその高調波が、機械的受容器の固有周波数に対応することであろう。別の代替例は、機械的受容器が付着される骨構造の一部が、印加振動により励起される共鳴を有することである。さらに別の可能性は、視床下部自体または一部の周囲組織の、この特定の周波数での振動が、有利な効果を有することである。
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D