(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6108306
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】理美容椅子や医療椅子の背凭れ伸縮制御装置
(51)【国際特許分類】
A47C 1/06 20060101AFI20170327BHJP
【FI】
A47C1/06
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-79250(P2013-79250)
(22)【出願日】2013年4月5日
(65)【公開番号】特開2014-200476(P2014-200476A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2016年1月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108672
【氏名又は名称】タカラベルモント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082669
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 賢三
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100095061
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 恭介
(72)【発明者】
【氏名】村岡 孝志
(72)【発明者】
【氏名】中川 裕嗣
(72)【発明者】
【氏名】清水 陽介
【審査官】
大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭55−125151(JP,U)
【文献】
実開昭57−045348(JP,U)
【文献】
特開平10−260733(JP,A)
【文献】
特開2001−231652(JP,A)
【文献】
特開平03−114405(JP,A)
【文献】
特開2006−061522(JP,A)
【文献】
米国特許第06663176(US,B1)
【文献】
特開2005−177131(JP,A)
【文献】
特開2005−124798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 1/04−1/11
A61G 15/00−15/12
A47C 7/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
椅子の座部後方に起伏自在に取付けられた背凭れを伸縮可能に取付け、該背凭れに被施術者の肩の位置及び背中の円背曲率を検出するセンサを取付け、該センサにより検出した肩の位置及び背中の円背曲率に応じて背凭れの伸縮量を調節したことを特徴とする理美容椅子や医療椅子の背凭れ伸縮制御装置。
【請求項2】
収縮する背凭れの前面側に、被施術者の腰部に当接するランバーサポートを取付けたことを特徴とする請求項1記載の理美容椅子や医療椅子の背凭れ伸縮制御装置。
【請求項3】
肩の位置及び背中の円背曲率を検出すると共に背凭れに取付けられている前記センサと異なるセンサにより洗髪ボールの高さや位置を検出し、該洗髪ボールのネック受けに被施術者のネックが位置するように、前記椅子の高さ、背凭れの起伏角度、背凭れの伸縮量を調節したことを特徴とする請求項1記載の理美容椅子や医療椅子の背凭れ伸縮制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、理美容椅子や医療椅子に着座する被施術者の身長や背中が曲がっている円背(猫背ともいう)の状態を自動検出し、前記身長や円背に応じて背凭れを施術に合わせた適切な位置に設定するようにした理美容椅子や医療椅子の背凭れ伸縮制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来において理美容椅子における座部の高さと洗髪ボールの高さをセンサで検出し、洗髪ボールの設定高さにおけるセンサ検出値と、椅子座部の設定高さにおける検出値を演算し、同じ値になるように椅子座面を昇降移動させて洗髪位置を自動的に設定するという発明(特許文献1・特開平3−114405号公報)がある。
【0003】
この発明にあっては、背凭れの長さは固定であり、身長の高い被施術者は前方に座りなおす必要があり、あるいは背凭れが相当起きた状態で被施術者は首を合わせることが必要となり、首の屈曲が大きくなるため被施術者は前方に座りなおし、施術者は再度位置設定を行う。
【0004】
また、前記特許文献1に加えて椅子の前後方向も自動調節する機能を備えた考案(特許文献2・実開昭60−161905号公報)がある。この考案にあっては、前記した特許文献1のような身長の高い被施術者の場合でも椅子を前方に移動させることで前に座りなおすことなく、安楽な姿勢で施術を受けることができる。
【0005】
しかし、特許文献2の考案においても、背凭れの長さは固定であるため、椅子を前に移動させると背凭れと洗髪ボールとの間に隙間が生じ、その間は被施術者の背中を支持する部分がなくなるため安楽とはいえないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−114405号公報
【特許文献2】実開昭60−161905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来にあっては、被施術者の身長に応じた最適な位置調整を自動で行うことができず、調整を行うための施術者の手間が掛かり、また適切な位置でない状態になることがある。さらに洗髪ボールの高さに対して一定の椅子の高さにしながら、例えば円背の被施術者の場合には自動調整後に施術者が再度調整を行う必要があった。
【0008】
本発明は前記した課題を解決せんとするもので、その目的とするところは、理美容椅子や医療椅子に着座する被施術者の背の長さや背骨の曲がりによる円背の曲率を赤外線、光線、超音波を利用したセンサによって検出し、前記身長や円背に応じて背凭れを施術に合わせた適切な位置に設定し、また、別途設けたセンサよりの検出値を用いて洗髪ボールの位置を検出し、該検出した位置に被施術者の頭部が位置するように椅子の高さ、背凭れの長さを決定して洗髪が行えるようにした理美容椅子や医療椅子の背凭れ伸縮制御装置を提供せんとするにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の理美容椅子や医療用椅子の背凭れ伸縮制御装置は、前記した目的を達成せんとするもので、請求項1の手段は、椅子の座部後方に起伏自在に取付けられた背凭れを伸縮可能に取付け、該背凭れに被施術者の肩の位置及び背中の円背曲率を検出するセンサを取付け、該センサにより検出した肩の位置及び背中の円背曲率に応じて背凭れの伸縮量を調節したことを特徴とする。
【0010】
請求項2の手段は、前記した請求項1において、収縮する背凭れの前面側に、被施術者の腰部に当接するランバーサポートを取付けたことを特徴とする。
【0011】
請求項3の手段は、前記した請求項1において、前記センサにより検出した肩の位置及び背中の円背曲率を検出すると共に背凭れに取付けられている前記センサと異なるセンサにより洗髪ボールの高さや位置を検出し、該洗髪ボールのネック受けに被施術者のネックが位置するように、前記椅子の高さ、背凭れの起伏角度、背凭れの伸縮量を調節したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
前記したように、背凭れに取付けたセンサによって被施術者の肩の位置や背中の円背曲率を検出し、この検出に応じて背凭れの伸縮量を調節することで、被施術者は安楽な姿勢で施術を受けることができる。
【0013】
また、収縮する背凭れの前面側に、被施術者の腰部に当接するランバーサポートを取付けたことにより、背凭れの伸縮時において背中と背凭れに摩擦が生じ摩擦による音鳴り、引きずり(背ズレ)が起こり易いため、ランバーサポートを腰に当てて浮かすことにより背中前面でなく部分的に当たり、摩擦面積を減らすことで背ズレを防止でき、また、背凭れを伸ばした時にランバーサポートによって隙間を隠すことができる。
【0014】
さらに、被施術者の洗髪時には洗髪ボールの高さや位置をセンサによって検出することで、椅子の高さ、背凭れの起伏角度、背凭れの伸縮量が決定されて、被施術者のネックを洗髪ボールのネック受けに位置させることができ、従って、被施術者は安楽な姿勢で洗髪を受けることができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る理美容椅子や医療椅子の背凭れの長さを伸ばした状態の斜視図である。
【
図2】
図1の背凭れの長さを縮めた状態の斜視図である。
【
図4】背凭れの長さを伸ばした背面側から見た内部構造を示す斜視図である。
【
図5】
図4の背凭れの長さを縮めた状態の斜視図である。
【
図8】
図7のブロック回路による動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1〜
図6は理美容椅子(以下、椅子という)を示し、該椅子は理美容院に設置されている鏡(図示せず)と、前記椅子に着座した被施術者と対面する位置に設置されている。なお、前記鏡の下部には洗髪ボール(図示せず)が設置されている。
【0017】
11は前記椅子1における座部であり、該座部11の裏面側には油圧シリンダ(図示せず)が取付けられており、該油圧シリンダによって椅子1は上昇、下降する。12は座部11の両側に取付けられた肘掛けにして、該肘掛け12の側面には後述する被施術者の背の長さと背骨が曲がっている円背の曲率の検出を開始する時に施術者が操作するスイッチや、手動によって椅子の高さ、背凭れの起伏、背凭れの伸縮動作を行うためのスイッチ群12aが設けられている。なお、操作するためのスイッチはこの位置に限定されるものではなく、手や足で操作しやすい位置に配置しても良い。
【0018】
13は前記座部11の前方に回動自在に軸支されたレッグレストにして、該レッグレスト13の下部には座部11への乗り降り時に使用するステップ13aが取付けられている。14は座部11の後方に回動自在に軸支された背凭れである。
【0019】
また、背凭れ14の上部には凹部14aが形成されており、該凹部14aには上下動可能なヘッドレスト14bが取付けられている。さらに、背凭れ14は後に詳述する背凭れ昇降機構2によって背凭れ長さを伸縮可能とする(
図1、
図2参照)。
【0020】
15は前記した左右の肘掛け12の後方に取付けられたランバーサポートにして被施術者の腰部を支持する。なお、ランバーサポート15の作用効果として、背凭れ14の伸縮時において背中と背凭れに摩擦が生じ摩擦による音鳴り、引きずり(背ズレ)が起こり易いため、ランバーサポートを腰に当てて浮かすことにより背中全面でなく部分的に当たり、摩擦面積を減らすことで背ズレを防止でき、また、背凭れを伸ばした時にランバーサポートによって隙間を隠すことができる。
【0021】
次に、背凭れ昇降機構2を
図4〜
図6と共に説明する。
21は背凭れ基台にして、下部水平部材21aの左右両端には前記座部11の座部基台(図示せず)に取付けられた起立片11aに軸支される起立片21bが取付けられている。
【0022】
21cは図示しない背凭れの起伏を行うための油圧シリンダのラムが軸支されるラム軸支片にして、該ラム軸支片21cがシリンダによって回動されることで前記起立片21bを回動支点として背凭れ基台21が起伏動作する。また、背凭れ基台21の上面には背凭れ14を上下動させるための油圧シリンダ21dのシリンダ側が軸支されている。なお、油圧シリンダ21dのラム先端は、前記背凭れ基台21に対して上下動可能にガイドされたスライド部材22に軸支されている。
【0023】
前記下部水平部材21aの両端にはワイヤー21eの一端が取付けられている。また、前記中間スライド部材22には前記ワイヤー21eが巻回されるプーリー22aが回転自在に取付けられ、該プーリー22aに巻回されたワイヤー21eの先端は固定金具22bに接続されている。そして、固定金具22bは上方に前記した背凭れ14が取付けられている背凭れ取付基台23の下部水平部材23aに取付けられている。
【0024】
このように構成した背凭れ昇降機構2にあっては、油圧シリンダ21dに油が供給され、あるいは排出されるとスライド部材22が上下動するので、この上下動に伴ってワイヤー21eを介して背凭れ基台21に対して上下方向に移動可能に取付けられている背凭れ取付基台23が上下動する。スライド部材22、プーリー22a、ワイヤー21eを介して背凭れ取付基台23が上下動することで油圧シリンダ21dのラムの突出や収縮量より背凭れ取付基台23の移動量は大きくなる。
【0025】
前記スライド部材22には第1のリンク22cが軸支され、該第1のリンク22cの先端に第2のリンク22dが軸支され、該第2のリンク22dの先端は、前記背凭れ基台21より横方向に突出した基板21fの裏面側に取付けられたポテンショメータ(図示せず)の回転軸に接続されている。従って、スライド部材22の上下動によって第1、第2のリンク22c、22dを介してポテンショメータの抵抗値が変化することで、背凭れ取付基台23の上下動量を検出することが可能となる。
【0026】
なお、前記した背凭れ14の伸縮を検出する手段としてはポテンショメータを利用したが、光センサ等のセンサを使用して検出してもよい。また椅子の高さや背凭れの伏倒角度の検出も同様に検出する。
【0027】
前記背凭れ取付基台23の上部水平部材23bにはヘッドレスト14bを収納する凹部形状となっており、該凹部の両側には被施術者の背に向けて赤外線を照射するセンサ23cが取付けられている。
【0028】
そして、前記センサ23cは図に示すように背凭れ14とヘッドレスト14bとの隙間より被施術者の背中に向けて赤外線を照射する。なお、センサ23cと、光センサ、磁気センサ、超音波センサ等のように照射した光、磁気、電波の反射を拾い距離や位置を検出可能なセンサであれば良い。また、センサ23cの位置は、背の長さや円背状態を検出できる位置であれば、この位置に限定されない。
【0029】
次に、被施術者が椅子に着座し鏡と対面した状態において、施術(例えば毛髪のカット)を行った後に、洗髪を行うまでの動作を
図7のブロック回路図と
図8のフローチャートと共に説明する。
【0030】
図7のブロック回路図について説明するに、CPUの入力側には、椅子に着座した被施術者の背の長さや背中の円背の曲率を検出する検出センサ23cと、椅子の座部高さを検出するセンサ41、背凭れが伏倒した位置の角度検出センサ42、背凭れの伸縮を検出するセンサ43(前記したポテンショメータ)が接続されている。一方、CPUの出力側には、椅子1を上下動させるアクチュエータ51、背凭れを伸縮させるアクチュエータ21d、背凭れを起伏させるアクチュエータ52とが接続されている。なお、椅子の上下動、背凭れの起伏、背凭れの伸縮を行う手段は、油圧シリンダに限定されるものではなく、電動式モータ等のアクチュエータを含むものである。
【0031】
なお、CPUには前記アクチュエータを動作させる油圧ポンプや電磁弁等を制御するROMと、必要に応じて記憶させて動作を制御するRAMが接続されている。
【0032】
次に、前記したブロック回路図の動作を
図8のフローチャートと共に説明する。
鏡と対面状態となっている固定されている椅子1に被施術者を着座させた位置において、毛髪のカット等の施術を行う(ステップS1)。前記施術を終了し、椅子の回転ロックを解除すべく椅子1に設けられるスイッチで解除する(ステップS2)。
【0033】
次いで、椅子1を人手や自動的に180度回転させて、着座している被施術者の背中側が前記鏡の下方に設置されている洗髪ボール側へ回転させ(ステップS3)、その後に椅子1に設けられているスイッチでロックする(ステップS4)。
【0034】
次に、着座状態の被施術者の背の長さと円背の曲率を検出するための前記したセンサ23cを動作させるために施術者が、例えば、肘掛け12のスイッチ群12aから選択し、あるいは背凭れ14の背面側に設置されているスイッチを操作して開始する(ステップS5)。前記スイッチを操作すると背凭れ14が伸縮を開始してセンサ23cが被施術者の背中に沿って移動する(ステップS6)。
【0035】
このセンサ23cの移動を開始するとCPUは被施術者の背の長さを、また、その時の背中までの距離を測定することで、円背の曲率を検出したか否かの監視を行う(ステップS7)。この監視において背の長さ、円背の曲率を検出したと判断すると、背凭れ14の伸縮を停止する(ステップS8)。
【0036】
次いで、椅子1を洗髪ボールのネック受けに最適な状態となるよう、被施術者の頭を移動させるための制御を開始するためのスイッチを施術者が操作する(ステップS9)。
【0037】
前記スイッチを操作するとCPUは予め記憶されている洗髪ボールの位置や高さの位置に、被施術者のネックが洗髪ボールのネック受けに合致するように、前記センサ23cで検出した結果に応じて予め記憶されている最適ポジションとなるように椅子1の高さ、背凭れの起伏角度、背凭れの伸縮量となるように、センサ23c、41,42,43よりの検出結果を参照しながら椅子上下動用アクチュエータ51、背凭れ伸縮用アクチュエータ21d、背凭れ起伏用アクチュエータ52の動作を制御する(ステップS10)。
【0038】
CPUによってアクチュエータ51,21d,52を制御しながら、センサ23cによって検出した値と、椅子の高さ、背凭れの起伏角度、背凭れの伸縮量が一致したか否かの監視を行い(ステップS11)、一致したと判断すると最適ポジションで停止する(ステップS12)。この停止位置において洗髪を行い施術者による洗髪が終了したなら、施術位置に戻すためのスイッチを操作して初期状態に戻す(ステップS13)。
【0039】
前記した洗髪ボールは、任意の高さに備え付けられている。理美容院によっては洗髪ボール高さを変えて備え付ける場合がある。このような場合においても予め洗髪ボールの高さを記憶させることで、最適なポジションに被施術者を誘導することができる。
【0040】
また、洗髪ボールの高さや前後左右の位置を移動可能とする洗髪台がある。このような洗髪台を備えた理美容院の場合には、洗髪作業毎に洗髪ボールの高さを検知する必要がある。このような場合には、背凭れ14の背面側にセンサを取付け、背凭れ14を伏倒させながら洗髪ボールの高さを検出し、この高さ結果をRAMに記憶させ、この洗髪ボールの高さ情報に、背の長さと円背曲率の情報を加え、最適なポジションに座部の高さ、背凭れの起伏量および背凭れの伸縮量を制御することで、被施術者は安楽姿勢で洗髪を受けることができる。
【0041】
前記した実施例にあっては、理美容椅子について説明したが、医療椅子の場合にあっても、背凭れを下方に移動して被施術者の背中の聴診、視診、打診を容易に行うことができ、また、この状態において被施術者の腰部がランバーサポートで支持されているので、被施術者に負担を与えることがない。さらに、背もたれ14を倒してベッド状とした場合において、背凭れ14を伸縮して被施術者の身長に合わせたベッドとすることで、適切な施術ポジションとすることができる。
【符号の説明】
【0042】
1 椅子
11 座部
14 背凭れ
15 ランバーサポート
23c センサ