特許第6108347号(P6108347)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイテクトの特許一覧 ▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6108347-ステアリング装置 図000002
  • 特許6108347-ステアリング装置 図000003
  • 特許6108347-ステアリング装置 図000004
  • 特許6108347-ステアリング装置 図000005
  • 特許6108347-ステアリング装置 図000006
  • 特許6108347-ステアリング装置 図000007
  • 特許6108347-ステアリング装置 図000008
  • 特許6108347-ステアリング装置 図000009
  • 特許6108347-ステアリング装置 図000010
  • 特許6108347-ステアリング装置 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6108347
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/19 20060101AFI20170327BHJP
【FI】
   B62D1/19
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-148879(P2013-148879)
(22)【出願日】2013年7月17日
(65)【公開番号】特開2015-20510(P2015-20510A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2016年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(72)【発明者】
【氏名】田中 英治
(72)【発明者】
【氏名】今垣 進
(72)【発明者】
【氏名】田野 淳
(72)【発明者】
【氏名】川上 広司
(72)【発明者】
【氏名】今村 謙二
【審査官】 粟倉 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−121538(JP,A)
【文献】 特開2013−112147(JP,A)
【文献】 特開2008−018920(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側部材に固定された第1板を含む固定ブラケットと、
一端に操舵部材が連結されたステアリングシャフトを回転可能に支持する可動ジャケットと、
二次衝突時に前記可動ジャケットとともにコラム移動方向に移動するように可動ジャケットを支持し、前記第1板に対向する第2板を含む可動ブラケットと、
前記第1板に設けられてコラム移動方向に平行に延びる一対の第1孔としての長孔とそれぞれ対応する前記第2板の一対の第2孔を挿通して前記第1板および前記第2板を連結することで前記可動ブラケットを介して前記可動ジャケットを吊り下げる一対の吊り下げ軸を含み、二次衝突時に、各吊り下げ軸の長孔挿通部が、対応する長孔に沿って初期組み付け位置からコラム移動方向に移動する一対の吊り下げ機構と、を備え、
各長孔の内周は、コラム移動方向とは反対方向の端部に設けられる凹湾曲面部と、一対の長孔間の中央位置側の内縁部である第1内縁部と、第1内縁部と対向する第2内縁部と、を含み、
二次衝突時に、一方の吊り下げ軸が対応する一方の長孔の第1内縁部に当接するときに、他方の吊り下げ軸と対応する他方の長孔の第2内縁部との間に、隙間が設けられるように構成されているステアリング装置。
【請求項2】
請求項1において、各長孔の第1内縁部は、コラム移動方向と平行に直線状に延びる平坦面部と、前記凹湾曲面部の端部から接線方向に延びて対応する前記平坦面部に接続されるテーパ面部と、を含み、
前記一対の長孔のテーパ面部は、前記一対の長孔の平坦面部間の幅を狭めるように、互いに逆向きに傾斜し、
各テーパ面部がコラム移動方向に対してなすテーパ角度が、摩擦角と同等または同等以上とされているステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステアリング装置では、車両が他の車両にぶつかる一次衝突に続いて、運転者がステアリングホイールにぶつかる二次衝突が発生する。その二次衝突時の衝撃を吸収するために、ステアリングコラムの一部を車体から離脱させてコラム軸方向に移動させる構造が種々提案されている。
例えば、特許文献1では、車体側ブラケットの基板部に設けられた長孔からなる透孔に挿通された吊り下げボルトが、基板部の上下面に沿う一対の滑り板部を有するスライド素板に挿通されている。吊り下げボルトに固設された抑え部分と、コラム側ブラケットの上板部との間で、車体側ブラケットの基板部を、両滑り板部を介して挟持する事により、車体側ブラケットに対してコラム側ブラケットを結合し支持している。二次衝突時には、スライド素板が、吊り下げボルトとコラム軸方向に同行移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−148758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、二次衝突時に、平面視においてステアリングシャフトに対して斜め方向に荷重が入力される場合(荷重が左右方向の荷重成分を有する場合)、吊り下げボルトが長孔の内縁部と擦れ、当該内縁部から吊り下げボルトが受ける制動力に起因する回転モーメントの影響で、こじりを生ずるおそれがある。その場合、安定した衝撃吸収が行えないおそれがある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、安定した衝撃吸収が可能となるステアリング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、請求項1の発明は、車体側部材(13)に固定された第1板(30)を含む固定ブラケット(23)と、一端に操舵部材(2)が連結されたステアリングシャフト(3)を回転可能に支持する可動ジャケット(16)と、二次衝突時に前記可動ジャケットとともにコラム移動方向(X1)に移動するように可動ジャケットを支持し、前記第1板に対向する第2板(32)を含む可動ブラケット(24)と、前記第1板に設けられてコラム移動方向に平行に延びる一対の第1孔としての長孔(81,82)とそれぞれ対応する前記第2板の一対の第2孔(91,92)を挿通して前記第1板および前記第2板を連結することで前記可動ブラケットを介して前記可動ジャケットを吊り下げる一対の吊り下げ軸(251,252)を含み、二次衝突時に、各吊り下げ軸の長孔挿通部(53)が、対応する長孔に沿って初期組み付け位置からコラム移動方向に移動する一対の吊り下げ機構(T1,T2)と、を備え、各長孔の内周(81a,82a)は、コラム移動方向とは反対方向(X2)の端部に設けられる凹湾曲面部(101,201)と、一対の長孔間の中央位置(CP)側の内縁部である第1内縁部(102,202)と、第1内縁部と対向する第2内縁部(103,203)と、を含み、二次衝突時に、一方の吊り下げ軸が対応する一方の長孔の第1内縁部に当接するときに、他方の吊り下げ軸と対応する他方の長孔の第2内縁部との間に、隙間(SS)が設けられるように構成されているステアリング装置(1)を提供する。
【0007】
なお、括弧内の英数字は、後述する実施形態における対応構成要素等を表すが、このことは、むろん、本発明がそれらの実施形態に限定されるべきことを意味するものではない。以下、この項において同じ。
また、請求項2のように、各長孔の第1内縁部は、コラム移動方向と平行に直線状に延びる平坦面部(104,204)と、前記凹湾曲面部の一端部(101a,201a)から接線方向に延びて対応する前記平坦面部に接続されるテーパ面部(105,205)と、を含み、前記一対の長孔のテーパ面部は、前記一対の長孔の平坦面部間の幅を狭めるように、互いに逆向きに傾斜し、各テーパ面部がコラム移動方向に対してなすテーパ角度(θ1,θ2)が、摩擦角(β)と同等または同等以上(θ1≧β。θ2≧β)とされていてもよい。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明によれば、二次衝突時に、一方の吊り下げ軸の長孔挿通部が対応する長孔の第1内縁部を摺動するときに、他方の吊り下げ軸の長孔挿通部と対応する他方の長孔の第2内縁部との間に、隙間が設けられるので、こじり発生を抑制して、安定した衝撃吸収が可能となる。
請求項2の発明によれば、長孔の第1内縁部のテーパ面部のテーパ角度が摩擦角と同等または同等以上とされているので、二次衝突時の荷重入力の方向が、平面視においてコラム移動方向に対して斜め方向である場合にも、荷重入力の方向に対応する一方の吊り下げ軸の長孔挿通部が、対応する長孔の初期組み付け位置から第1内縁部のテーパー面部を介して平坦面部へスムーズに摺動する。その第1内縁部は、第2内縁部よりも、一対の長孔間の中央位置に近いので、当該第1内縁部から吊り下げ軸に作用する反力に起因する回転モーメントを小さくすることができる。その結果、こじり発生を一層抑制して一層安定した衝撃吸収が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態のステアリング装置の模式的側面図であり、ステアリング装置の概略構成を示している。
図2図1のステアリング装置の概略断面図であり、図1のII−II線に沿う断面を示している。
図3図1のステアリング装置の分解斜視図である。
図4図1のステアリング装置において、固定ブラケットと、両吊り下げ機構と、連結・離脱機構との一部破断概略平面図である。
図5図1のステアリング装置において、第1板と第2板との連結状態の断面図であり、樹脂ピンの軸線を含む前後方向の断面を示している。
図6図1のステアリング装置において、二次衝突時の第1板と第2板との断面図であり、樹脂ピンの剪断によって第2板が第1板の所定位置からコラム移動方向へ離脱した状態を示している。
図7図2のVII −VII 線に沿う断面図であり、第1板、両吊り下げボルトおよび連結・離脱機構の断面を示している。
図8図2のVIII−VIII線に沿う断面図であり、第2板、両吊り下げボルトおよび連結・離脱機構の断面を示している。
図9図7の一部を拡大して示す第1板の両長孔と両吊り下げボルトの模式図であり、吊り下げボルトが初期組み付け位置にある状態を示している。第1板と両吊り下げボルトの断面のハッチングを省略してある。
図10図1のステアリング装置において、二次衝突時の第1板の両長孔と両吊り下げボルトの模式図である。第1板と両吊り下げボルトの断面のハッチングを省略してある。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の好ましい実施形態の添付図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明の一実施形態のステアリング装置の概略構成を示す模式図である。図1を参照して、ステアリング装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2に連結されたステアリングシャフト3と、ステアリングシャフト3に自在継手4を介して連結された中間軸5と、中間軸5に自在継手6を介して連結されたピニオン軸7と、ピニオン軸7の端部近傍に設けられたピニオン7aに噛み合うラック8aを有する転舵軸としてのラック軸8とを備えている。
【0011】
ピニオン軸7およびラック軸8を含むラックアンドピニオン機構によって、操舵機構A1が構成されている。ラック軸8は、車体側部材9に固定されたハウジング10によって、車両の左右方向に沿う軸方向(紙面とは直交する方向)に移動可能に、支持されている。ラック軸8の各端部は、図示していないが、対応するタイロッドおよび対応するナックルアームを介して対応する転舵輪に連結されている。
【0012】
ステアリングシャフト3は、例えばスプライン結合を用いて、同行回転可能に且つ軸方向に相対移動可能に連結されたアッパーシャフト11およびロアーシャフト12を有している。ステアリングシャフト3は、車体側部材13,14に固定されたステアリングコラム15によって、図示しない軸受を介して回転可能に支持されている。
ステアリングコラム15は、軸方向に相対移動可能に嵌め合わされた筒状のアッパージャケット16(可動ジャケット)と、筒状のロアージャケット17と、ロアージャケット17の軸方向下端に連結されたハウジング18とを備えている。ハウジング18内には、操舵補助用の電動モータ19の動力を減速してロアーシャフト12に伝達する減速機構20が収容されている。減速機構20は、電動モータ19の回転軸(図示せず)と同行回転可能に連結された駆動ギヤ21と、駆動ギヤ21に噛み合いロアーシャフト12と同行回転する被動ギヤ22とを有している。
【0013】
ステアリングシャフト3とステアリングコラム15との他、後述する、固定ブラケット23と、チルトブラケット24と、吊り下げ機構T1,T2と、ロック機構29と、連結・離脱機構R1等とを含んでステアリング装置1が構成されている。
本実施形態では、ステアリング装置1が電動パワーステアリング装置に適用された例に則して説明するが、本発明をマニュアルステアリング装置に適用するようにしてもよい。また、本実施形態では、ステアリング装置1がチルト調節可能である場合に則して説明するが、本発明をチルト調整機能を持たないステアリング装置に適用するようにしてもよいし、チルト調整可能でテレスコピック調整可能なステアリング装置に適用してもよい。
【0014】
概略断面図である図2に示すように、ステアリング装置1は、固定ブラケット23によって、可動ブラケットとしてのチルトブラケット24を介してアッパージャケット16を吊り下げる一対の吊り下げ機構T1,T2を備えている。すなわち、図1および図2に示すように、車体側部材13に固定された固定ブラケット23に、可動ブラケットとしてのチルトブラケット24が、両吊り下げ機構T1,T2の吊り下げ軸としての吊り下げボルト251,252を介して吊り下げられている。一方、ステアリングコラム15のアッパージャケット16には、コラムブラケット26が固定されている。
【0015】
図1および図2に示すように、ステアリング装置1は、操作レバー27の操作に応じて、締付軸28によってチルトブラケット24を介して、チルト調整後のコラムブラケット26の位置(ひいてはアッパージャケット16および操舵部材2の位置)をロックしたりロックを解除したりするロック機構29を備えている。
図2図3に示すように、チルトブラケット24は、一対の側板41を備えており、図2に示すように、コラムブラケット26は、チルトブラケット24の一対の側板41にそれぞれ対向する一対の側板71と、一対の側板71の下端間を連結する連結板72とを備えた溝形をなしている。
【0016】
図2を参照して、締付軸28は、チルトブラケット24およびコラムブラケット26の側板41,71を貫通するボルトからなる。締付軸28に螺合するナット73を、操作レバー27の回転操作によって回転させることにより、締付軸28としてのボルトの頭部とナット73との間に、両側板41,71を締め付け、両側板41,71をロックする。これにより、チルト調整後の操舵部材2の位置をロックし、チルトロックを達成するようにしている。
【0017】
また、ステアリング装置1は、固定ブラケット23の第1板30とチルトブラケット24の第2板32とを連結し、二次衝突時に、第2板32を第1板30の所定位置(図5に示される位置)から図6に示すようにコラム移動方向X1へ離脱させる連結・離脱機構R1とを備えている。
図2および一部破断概略平面図である図4に示すように、連結・離脱機構R1は、コラム移動方向X1とは直交する方向Y1に関して、一対の吊り下げ機構T1,T2の間(すなわち固定ブラケット23の第1板30の後述する一対の第1孔としての長孔81,82の間)に配置されている。具体的には、連結・離脱機構R1は、コラム移動方向X1とは直交する方向Y1に関して、一対の長孔81,82の間(すなわち一対の吊り下げボルト251,252の間)の中央位置に配置されている。
【0018】
図1を参照して、固定ブラケット23は、二次衝突時のコラム移動方向X1(ステアリングシャフト3の軸方向に相当)に平行な第1板30を備えている。第1板30には、コラム移動方向X1に平行に延びる、吊り下げ機構T1,T2用の長孔81,82(第1孔)が形成されている。一方、チルトブラケット24(可動ブラケット)は、第1板30に対向する第2板32を備えている。第2板32には、各長孔81,82の一部と対向する、吊り下げ機構T1,T2用の丸孔91,92(第2孔)が形成されている。
【0019】
各吊り下げボルト251,252は、第1板30の対応する長孔81,82および第2板32の対応する丸孔91,92を挿通して、ナット34に螺合するボルトにより構成されている。ナット34と共同して第1板30と第2板32とを連結した吊り下げボルト251,252が、チルトブラケット24(可動ブラケット)およびコラムブラケット26を介してアッパージャケット16(可動ジャケット)を吊り下げている。また、各吊り下げボルト251,252は、二次衝突時に、対応する長孔81,82に沿って、チルトブラケット24(可動ブラケット)、コラムブラケット26およびアッパージャケット16と共に、コラム移動方向X1に移動可能である。
【0020】
車体側部材14に固定されたロアーブラケット35が、ピボット軸であるチルト中心軸36を支持している。チルト中心軸36は、ステアリングコラム15のハウジング18を介して、ロアージャケット17を、当該チルト中心軸36の回りに揺動可能に支持している。
図2および図3に示すように、各吊り下げ機構T1,T2は、対応する吊り下げボルト251,252と、例えば皿ばねからなる板ばね42と、ナット34等により構成されている。連結・離脱機構R1は、二次衝突時に剪断する樹脂ピン61と、樹脂ピン61の軸方向の一部に嵌合した円筒状のカラー62とで構成されている。カラー62は、樹脂ピン61を形成する樹脂よりも高硬度の材料(例えば、鉄、アルミニウム等の金属、高硬度の樹脂やセラミック等)で形成されている。
【0021】
図3を参照して、固定ブラケット23は、第1板30の一対の側縁からそれぞれ下向きに延設された一対の側板37と、一対の側板37からそれぞれ外側方へ延設された一対の取付板38とを備えている。固定ブラケット23は、例えば板金により形成されている。各取付板38に設けられたねじ挿通孔39(図3および図4参照)を挿通した固定ボルト40(図4参照)によって、各取付板38が、車体側部材13に固定されている。これにより、固定ブラケット23が車体側部材13に固定されている。
【0022】
図2図4を参照して、固定ブラケット23の第1板30において、一対の長孔81,82は、一対の吊り下げボルト251,252に対応して一対設けられている。一対の長孔81,82は、二次衝突時のコラム移動方向X1と平行に延び、また、コラム移動方向X1とは直交する方向Y1に離隔している。
図2図3に示すように、チルトブラケット24(可動ブラケット)は、例えば板金により形成されている。チルトブラケット24は、第2板32と、第2板32の一対の側縁から下向きに延設された一対の側板41とを備えており、溝形をなしている。第2板32と各側板41との連結部は、図2図3に示すように湾曲状に形成されていてもよい。
【0023】
チルトブラケット24の第2板32において、一対の丸孔91,92は、一対の吊り下げボルト251,252に対応して設けられている。各吊り下げボルト251,252は、例えば皿ばねからなる環状の板ばね42と、第1介在板43の対応する挿通孔44と、第1板30の対応する長孔81,82と、第2板32の対応する丸孔91,92とを順次に挿通して、ナット34にねじ込まれている。これにより、吊り下げボルト251,252がチルトブラケット24を吊り下げている。
【0024】
第1介在板43は、図3および図4に示すように、コラム移動方向X1とは直交する方向Y1に延びる長板からなり、図2に示すように、両板ばね42と第1板30の上面30aとの間に介在している。第1介在板43の少なくとも第1板30側の面が、例えばフッ素樹脂等の低摩擦材で構成されている。すなわち、第1介在板43全体が、低摩擦材で構成されていてもよいし、第1介在板43の第1板30側の面に、低摩擦材が被覆されていてもよい。
【0025】
第1板30と第2板32との間には、二次衝突時に第2板32が第1板30に対して、コラム移動方向X1に移動するときの摺動抵抗を低減させる働きをする第2介在板45と第3介在板46とが介在している。
第2介在板45は、第2板32のコラム移動方向X1側の端部である第1端部321に係止された溝形のユニット45Uを構成している。すなわち、ユニット45Uは、第2板32の上面32aおよび第1板30の下面30bに沿う第2介在板45と、第2介在板45と対向し且つ第2板32の下面32bに沿う対向板47と、第2介在板45と対向板47とを連結し且つ第2板32のコラム移動方向X1側の端縁に当接する連結板48とを備えている。
【0026】
第2介在板45の少なくとも第1板30側の面が、例えばフッ素樹脂等の低摩擦材で構成されている。すなわち、第2介在板45ないしユニット45Uが、低摩擦材で構成されていてもよいし、第2介在板45の第1板30側の面に、低摩擦材が被覆されていてもよい。
第3介在板46は、第1板30のコラム移動方向X1とは反対側の端部である第2端部302および第2板32のコラム移動方向X1とは反対側の端部である第2端部322に係止されたユニット46Uを構成している。すなわち、ユニット46Uは、第2板32の上面32aおよび第1板30の下面30bに沿う第3介在板46と、第3介在板46に対向し且つ第1板30の上面30aに沿う対向板49とを備えている。また、ユニット46Uは、第3介在板46と対向板49とを連結し且つ第1板30のコラム移動方向X1とは反対側の端縁に当接する連結板50と、第2板32の第2端部322に引っ掛け係止される例えば鉤形フック状の係止部51とを備えている。
【0027】
第3介在板46の少なくとも第2板32側の面が、例えばフッ素樹脂等の低摩擦材で構成されている。すなわち、第3介在板46ないしユニット46Uが、低摩擦材で構成されていてもよいし、第3介在板46の第2板32側の面に、低摩擦材が被覆されていてもよい。
図2および図3に示すように、各吊り下げボルト251,252は、頭部52と、頭部52に連なり頭部52より小径である長孔挿通部としての大径部53と、大径部53に連なり大径部53より小径の小径部54と、大径部53と小径部54との間に形成された段部55と、小径部54に設けられたねじ部56とを備えている。頭部52には、例えば六角孔形状の工具係合部57が設けられている。
【0028】
図2に示すように、大径部53(長孔挿通部)が、環状の板ばね42と、第1介在板43の挿通孔44と、第1板30の対応する長孔81,82とを挿通している。段部55は、第2板32の上面32aに当接し、上面32aによって受けられている。段部55とナット34との間で第2板32が挟持されて、吊り下げボルト251,252と第2板32とが固定されている。
【0029】
頭部52と段部55との間隔H1(大径部53の軸長に相当)は、第1板30と第2板32との間に介在する第2介在板45の板厚(ないし第3介在板46の板厚)と、第1板30の板厚と、第1板30の上面30aに沿う第1介在板43の板厚と、最圧縮時の板ばね42の板厚との合計よりも大きくされている。これにより、板ばね42が、第1介在板43を介して第1板30を第2板32側へ弾性的に付勢している。
【0030】
連結・離脱機構R1の樹脂ピン61は、例えば断面円形の頭部63と、頭部63よりも小径の円柱状部である軸部64とを備えている。円筒状のカラー62は、軸部64の外周に嵌合されている。カラー62の外径は、樹脂ピン61の頭部63の外径と等しくされている。カラー62の軸方向の第1端部621が、樹脂ピン61の頭部63に当接し、カラー62の軸方向の第2端部622が、第2板32の上面32aによって受けられている。これにより、樹脂ピン61およびカラー62が、第2板32の下方へ脱落することが防止されている。
【0031】
一方、第1介在板43が、樹脂ピン61の頭部63の上方を覆うように配置されることで、樹脂ピン61の上方への脱落が防止されている。また、第1介在板43には、樹脂ピン61の頭部63に対向して、頭部63の外径よりも小さい覗き孔65が形成されている。連結・離脱機構R1の組立後に、第1介在板43の覗き孔65を通して樹脂ピン61の頭部63を視認することにより、樹脂ピン61の組み付け忘れ等の作業不良を容易に判断することができる。
【0032】
樹脂ピン61の頭部63とカラー62の大部分とは、固定ブラケット23の第1板30の、連結・離脱機構R1用の第1孔66に挿通されている。カラー62の一部は、第1孔66から突出している。樹脂ピン61の軸部64のうち、カラー62から突出した一部641が、チルトブラケット24(可動ブラケット)の第2板32の、連結・離脱機構R1用の第2孔67に挿通されている。二次衝突時には、図5から図6に示すように、第1板30と第2板32との相対移動に伴って、樹脂ピン61の軸部64の一部641が残りの部分から分離するように剪断する。
【0033】
図2のVII −VII 線に沿う断面である図7に示すように、第1板30の連結・離脱機構R1用の第1孔66は、コラム移動方向X1とは直交する方向Y1に関して、一対の吊り下げ機構T1,T2用の長孔81,82間の中央位置に配置されている。すなわち、樹脂ピン61は、コラム移動方向X1とは直交する方向Y1に関して、一対の吊り下げボルト251,252間の中央位置に配置されている。各吊り下げボルト251,252の長孔挿通部としての大径部53が、それぞれ対応する長孔81,82を挿通している。
【0034】
また、第1板30の連結・離脱機構R1用の第1孔66は、コラム移動方向X1とは直交する方向Y1に長い横長孔に形成されている。これにより、コラム移動方向X1とは直交する方向Y1に関して、カラー62の外周と第1孔66の内周との間に隙間S1,S2が設けられている。
この隙間があるので、運搬時や組み付け時に、何らかの外力によって、第1板30と第2板32とが、コラム移動方向X1とは直交する方向Y1に、多少位置ずれを生じたとしても、樹脂ピン61が剪断することがない。
【0035】
図2のVIII−VIII線に沿う断面である図8に示すように、チルトブラケット24の第2板32の、連結・離脱機構R1用の第2孔67は、コラム移動方向X1とは直交する方向Y1に関して、一対の吊り下げ機構T1,T2用の一対の丸孔91,92間の中央位置に配置されている。第2孔67は、樹脂ピン61の軸部64の外径と同じか又は若干大きい内径を持つ円孔により形成されている。各丸孔91,92には、対応する吊り下げボルト251,252の小径部54が挿通されている。
【0036】
二次衝突時には、カラー62の第2端部622と第2板32との合わせ面のずれによって、樹脂ピン61の軸部64が剪断される。カラー62の第2端部622の内周縁で構成される剪断刃は、円弧状であり、第2板32の第2孔67の縁部で構成される剪断刃も、円弧状である。
次いで、図9は、第1板30一対の長孔(第1孔)81,82と、一対の長孔81,82に対する初期組み付け位置に配置された吊り下げボルト251,252の長孔挿通部としての大径部53との関係を示している。図9において、第1板30および吊り下げボルト251,252の断面のハッチングは省略されている。
【0037】
一方の長孔81の内周81aは、コラム移動方向X1とは反対方向X2の端部に設けられる凹湾曲面部101と、一対の長孔81,82間の中央位置CP(連結・離脱機構R1の樹脂ピン61の配置位置に相当)側の内縁部である第1内縁部102と、第1内縁部102と対向する第2内縁部103とを備えている。
初期組み付け位置にある吊り下げボルト251の大径部53(長孔挿通部)の外周の一部は、凹湾曲面部101の一部に沿うように配置されて、凹湾曲面部101によって受けられている。具体的には、凹湾曲面部101は、第1中心C21を有する第1円弧面部J1と、第1中心C21からコラム移動方向X1へオフセットされた第2中心C22を有し接続部Jaを介して第1円弧面部J1と接続された第2円弧面部J2とを備えている。第2中心C22に関する第2円弧面部J2の曲率半径Q22は、第1中心C21に関する第1円弧面部J1の曲率半径Q21よりも大きくされている(Q22>Q21)。
【0038】
凹湾曲面部101によって初期組み付け位置にある吊り下げボルト251の大径部(長孔挿通部)が受けられた状態で、吊り下げボルト251の大径部53(長孔挿通部)の中心C1は、第1円弧面部J1の第1中心C21と略一致する位置に配置されている。大径部53の曲率半径は、第1円弧面部J1の曲率半径Q21と等しいか若干小さく設定されている。
【0039】
第1内縁部102は、コラム移動方向X1に延びる平坦面部104と、凹湾曲面部101の一端部101a(第1円弧面部J1の端部に相当)から接線方向に延びて平坦面部104に交差状に接続されるテーパ面部105とを備えている。第2内縁部103は、凹湾曲面部101の他端部101b(第2円弧面部J2の端部に相当)から接線方向としてのコラム移動方向X1に延びる平坦面部により構成されている。
【0040】
一方の長孔81と他方の長孔82とは、左右対称の構造をなしている。すなわち、他方の長孔82の内周82aは、コラム移動方向X1とは反対方向X2の端部に設けられる凹湾曲面部201と、一対の長孔81,82間の中央位置CP側の内縁部である第1内縁部202と、第1内縁部202と対向する第2内縁部203とを備えている。
初期組み付け位置にある吊り下げボルト252の大径部53(長孔挿通部)の外周の一部は、凹湾曲面部201に沿うように配置されて、凹湾曲面部201によって受けられている。具体的には、凹湾曲面部201は、第1中心C41を有する第1円弧面部K1と、第1中心C41からコラム移動方向X1へオフセットされた第2中心C42を有し接続部Kaを介して第1円弧面部K1と接続された第2円弧面部K2とを備えている。第2中心C42に関する第2円弧面部K2の曲率半径Q42は、第1中心C41に関する第1円弧面部K1の曲率半径Q41よりも大きくされている(Q42>Q41)。
【0041】
凹湾曲面部201によって初期組み付け位置にある吊り下げボルト252の大径部(長孔挿通部)が受けられた状態で、吊り下げボルト252の大径部53(長孔挿通部)の中心C3は、第1円弧面部K1の第1中心C41と略一致する位置に配置されている。大径部53の曲率半径は、第1円弧面部K1の曲率半径Q41と等しいか若干小さく設定されている。
【0042】
第1内縁部202は、コラム移動方向X1に延びる平坦面部204と、凹湾曲面部201の一端部201a(第1円弧面部K1の端部に相当)から接線方向に延びて平坦面部204に交差状に接続されるテーパ面部205とを備えている。第2内縁部203は、凹湾曲面部201の他端部201b(第2円弧面部K2の端部に相当)から接線方向としてのコラム移動方向X1に延びる平坦面部により構成されている。
【0043】
一対の長孔82,82のテーパ面部105,205は、一対の長孔81,82の第1内縁部102,202間の間隔(具体的には平坦面部104,204間の間隔)を狭めるように、互いに逆向きに傾斜している。各長孔81,82のテーパ面部105,205がコラム移動方向X1に対してなすテーパ角度θ1,θ2が、摩擦角β(図示せず)と同等または同等以上(θ1≧β,θ2≧β)とされている。
【0044】
また、二次衝突時に、ステアリングシャフト3に対して、例えば平面視でコラム移動方向X1に対して斜め方向に荷重が入力されて、例えば図10に示すように、一方の吊り下げボルト251が、長孔81の初期組み付け位置である凹湾曲面部101から離脱して、第1内縁部102のテーパ面部105や平坦面部104に移動したときに、他方の吊り下げボルト252と他方の長孔82の第2内縁部203との間に、隙間SSが形成されるようになっている。
【0045】
本実施形態によれば、二次衝突時に、一方の吊り下げボルト(例えば吊り下げボルト251)の長孔挿通部53が対応する一方の長孔81の第1内縁部102を摺動するときに、図10に示すように、他方の吊り下げボルト(例えば吊り下げボルト252)の長孔挿通部53と対応する他方の長孔82の第2内縁部203との間に、隙間SSが設けられるので、こじり発生を抑制して、安定した衝撃吸収が可能となる。
【0046】
また、長孔81,82の内周81a,82aにおいて、両長孔81,82間の中央位置CP側の第1内縁部102,202のテーパ面部105,,205のテーパ角度θ1,θ2が摩擦角βと同等または同等以上(θ1≧β,θ2≧β)とされているので、二次衝突時の荷重入力の方向が、平面視において、コラム移動方向X1に対して斜め方向である場合[荷重がコラム移動方向X1とは直交する方向Y1(左右方向)の荷重成分を有する場合]にも、荷重入力の方向に対応する一方の吊り下げボルト(例えば吊り下げボルト251)の長孔挿通部53が、対応する長孔(例えば長孔81)の初期組み付け位置(例えば凹湾曲面部101に部分的に沿う位置)から、例えば第1内縁部102のテーパ面部105を介して平坦面部104へスムーズに摺動する(図10参照)。
【0047】
その第1内縁部102は、第2内縁部103よりも、一対の長孔81,82間の中央位置CPに近い。したがって、当該第1内縁部102から吊り下げボルト251に作用する反力に起因する回転モーメントは、仮に吊り下げボルト251が一対の長孔81,82間の中央位置CPから遠い側の第2内縁部103と当接する場合の回転モーメントと比較して、より小さい。その結果、こじり発生を一層抑制して、一層安定した衝撃吸収が可能となる。
【0048】
図示していないが、二次衝突時に、他方の吊り下げボルト252の長孔挿通部53が対応する他方の長孔82の第1内縁部202を摺動する場合には、一方の吊り下げボルト251の長孔挿通部53と対応する一方の長孔81の第2内縁部103との間に、隙間が設けられる。この場合にも、こじり発生を抑制して、安定した衝撃吸収が可能となる。
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内で種々の変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0049】
1…ステアリング装置、2…操舵部材、3…ステアリングシャフト、13…車体側部材、15…ステアリングコラム、16…アッパージャケット(可動ジャケット)、23…固定ブラケット、24…チルトブラケット(可動ブラケット)、251,252…吊り下げボルト(吊り下げ軸)、26…コラムブラケット、30…第1板、32…第2板、53…大径部(長孔挿通部)、81,82…長孔(第1孔)、91,92…丸孔(第2孔)、101,201…凹湾曲面部、101a,201a…一端部、101b,201b…他端部、102,202…第1内縁部、103,203…第2内縁部、104,204…平坦部、105,205…テーパ面部、CP…(一対の長孔間の)中央位置、C21,C41…第1中心、C22,C42…第2中心、J1,K1…第1円弧面部、J2,K2…第2円弧面部、SS…隙間、T1,T2…吊り下げ機構、R1…連結・離脱機構、θ1,θ2…テーパ角度、X1…コラム移動方向、X2…コラム移動方向とは反対方向、Y1…コラム移動方向とは直交する方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10